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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】介達牽引具
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/042 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
A61F5/042 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019053338
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020151242
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】高平 尚伸
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-131450(JP,A)
【文献】実開昭55-016157(JP,U)
【文献】登録実用新案第3147055(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0014256(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体としてコイルバネを有する牽引力発生部と、
前記弾性体と接続され、ヒト踝部に係止可能に構成された係止部と、
を備え、
前記係止部を1つのみ有し、
前記係止部は、踝を覆うことが可能に構成され、複数に分割された保持部材と、前記保持部材が一体となって前記踝を覆った状態を保つテープと、を有する、
介達牽引具。
【請求項2】
前記牽引力発生部は、前記弾性体の伸展により発生した牽引力の値を表示する表示部を有する、
請求項1に記載の介達牽引具。
【請求項3】
前記係止部と前記弾性体とが接続部材により接続され、
前記接続部材は、長さが調節可能に構成されている、
請求項1または2に記載の介達牽引具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介達牽引具に関する。
【背景技術】
【0002】
骨折や脱臼等の整復における患肢の安静や固定等を目的として、介達牽引が行われている。特許文献1に記載の介達牽引用装着具は、患肢に巻かれる本体を備えている。本体は、患肢に巻かれることにより患肢の皮膚に摩擦係合する。その後、装着具と接続された錘が吊るされることにより介達牽引が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-176826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の介達牽引用装着具は、固定圧を均一化できる構成を備えるものの、患肢への係合が皮膚との摩擦により行われる点や、錘を吊り下げて行う点については一般的な介達牽引と変わりない。そのため、固定部の循環障害、神経障害等の合併症を完全に防ぐことは困難である。さらに、介達牽引にあたり櫓等の設置および撤去に多大な労力を要する点は解決できない。
【0005】
上記事情を踏まえ、本発明は、皮膚へのダメージや合併症のリスクを低減しつつ、介達牽引を簡便に行える介達牽引具および介達牽引方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、弾性体としてコイルバネを有する牽引力発生部と、弾性体と接続され、ヒト踝部に係止可能に構成された係止部とを備える介達牽引具である。
この介達牽引具は、係止部を1つのみ有する。
係止部は、踝を覆うことが可能に構成され、複数に分割された保持部材と、保持部材が一体となって踝を覆った状態を保つテープとを有する。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、皮膚へのダメージや合併症のリスクを低減しつつ、介達牽引を簡便に行える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一実施形態に係る介達牽引具の正面図である。
図2】同介達牽引具の使用時の一過程を示す図である。
図3】本発明の第二実施形態に係る介達牽引具の接続部材を示す図である。
図4】同接続部材のボックス内部を示す図である。
図5】本発明の介達牽引具における係止部の変形例を示す図である。
図6】同係止部の他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一実施形態について、図1および図2を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る介達牽引具1の全体構成を示す図である。介達牽引具1は、図1に示すように、牽引力発生部10と、牽引力発生部10に取り付けられた係止部30とを備えている。
【0010】
牽引力発生部10は、円筒状の本体11と、本体11内に配置されたコイルバネ(弾性体)12とを備えている。本体11には、フック13が設けられ、ベッドの柵に掛けられるようになっている。コイルバネ12の第一の端部(不図示)は本体11の内面に固定され、第二の端部12bには係止部30が取り付けられている。コイルバネ12には、指標14が取り付けられている。指標14は、コイルバネ12が伸縮すると、本体11に設けられた目盛り(表示部)15のスリット15aに沿って移動する。使用者は目盛り15および指標をみることにより、コイルバネ12が発生している張力を知ることができる。
【0011】
係止部30は、ベルト31と、ベルト31とコイルバネ12との間に配置される接続部材35とを備えている。ベルト31は、面ファスナー32を有し、面ファスナー32を接合することにより環状とすることができる。さらに、面ファスナー32の接合位置を変更することにより、環状形状の径を一定範囲内で任意の値に変更できる。接続部材35は、ベルト31の2か所に固定され、一つに束ねられた状態でコイルバネ12の第二の端部12bに接続されている。
接続部材35は、介達牽引で想定される最大牽引力を作用させても大きく伸展しない材料で形成され、最大牽引力では実質的に伸展しない材料で形成されることが好ましい。接続部材35の材料としては、金属、樹脂、木材、紐等を例示できる。
【0012】
以上のように構成された本実施形態の介達牽引具1の使用時の動作について説明する。
使用者は、ベルト31を患肢の足首に巻き、ベルト31が踝から抜けない程度に環状形状の径を調節して面ファスナー32で固定する。次に、牽引力発生部10のフック13を患者が横たわるベッドの柵に掛ける。そして、指標14および目盛り15を見ながら、コイルバネ12に生じる張力が所望の値となるように、患者のベッド上の位置を変更しつつベルト31と本体11との距離を調節する。
本実施形態における「使用者」は、看護師、理学療法士等のパラメディカル(メディカルスタッフ)、医師、および患者自身を含む。
【0013】
その後、患者が調節した距離を維持しつつ安静を保つことにより、図2に示すように介達牽引を実行できる。したがって、従来の介達牽引と異なり錘は必要なく、櫓やフレーム等の大掛かりな構造物の設置も必要ない。
【0014】
介達牽引中は、コイルバネ12が伸展されて生じる張力が牽引力として患肢に作用し、患肢が牽引される。コイルバネ12の伸展量を調節することで、牽引力の大きさを一定の範囲内で容易に増減できる。
ベルト31は、ヒトにおいて足首の径寸法より足長(踵から足指先までの最大長さ)の寸法が大きいことにより、環状径を適切に設定することで患者の踝部に機械的に係止される。したがって、ベルト31を患肢の皮膚と摩擦係合させるために患肢の皮膚を過度に圧迫する必要がない。その結果、皮膚へのダメージや合併症のリスクを一般的な介達牽引に比べて大きく低減できる。
【0015】
以上説明したように、本実施形態の介達牽引具1によれば、患肢の皮膚を過度に圧迫せずに介達牽引を行うことができ、皮膚へのダメージや腓骨神経麻痺等の、介達牽引に伴う合併症のリスクを低減できる。また、ベッドの柵等を利用して簡便に設置および撤去できるため、狭い病室や在宅患者等にも適用しやすい。さらに、ベッドの柵に牽引力発生部を取り付けた場合は、介達牽引を行いながら病室を変更することも可能になる。
【0016】
さらに、患者自身で係止部30の着脱を容易に行えるため、入院患者が入浴、排泄、リハビリテーション等でベッドを一時的に離れる場合に、看護師や医師等を呼んで着脱を依頼する必要がない。さらに、用を済ませて戻った後に再度係止部30を装着する際も、目盛り15と指標14を見ながら患肢と牽引力発生部10との位置関係を調節することにより、取り外し前の牽引状態を容易に再現することができる。
【0017】
従来、介達牽引には1種類の錘しか使用されておらず、患肢に作用させる牽引力は画一的であった。介達牽引具1においては、牽引力発生部の弾性体により牽引力が生じるため、弾性体の伸展度合いを変えることで、一定範囲内で牽引力を変更できる。したがって、患者個々の状態に合わせた適切な牽引力で介達牽引を行うことができる。
【0018】
従来の介達牽引では、錘に生じる重力が滑車等との摩擦で減衰し、患肢に作用する牽引力が想定よりも低くなる場合があった。介達牽引具1においては、牽引力発生部10と係止部30とが直接接続されているため、牽引力発生部10で発生した牽引力はほとんど減衰せずに係止部30が装着された患肢に作用する。したがって、患肢に作用させる牽引力の制御が容易である。
介達牽引具1を使用する際は、患肢をブラウン架台に載せて、患肢に作用する摩擦を低減してもよい。このようにすると、患肢に作用させる牽引力の制御をより精密に行える。
【0019】
本発明の第二実施形態について、図3および4を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】
図3に、本実施形態の介達牽引具に係る接続部材135を示す。接続部材135は、コイルバネ12と接続される第一部材136と、第一部材136が固定されたボックス140と、ボックス140に取り付けられた第二部材150とを備えている。
【0021】
図4に、ボックス140の内部を示す。ボックス140には、柱状の軸部材141が、自身の軸線まわりに回転可能に取り付けられている。軸部材141の第一端部141aは、ボックス140外に突出しており、第一端部141aにハンドル142が取り付けられている。
【0022】
軸部材141には、ギア143が同心状に固定されている。ギア143は、ボックス140の内面付近に位置している。ギア143の歯には、ストッパ144が係合している。ストッパ144は、ギア143の回転方向のうち一方への回転のみ許容し、他方への回転を規制する形状を有する。ボックス140に設けられたボタン145を押すと、ストッパ144とギア143との係合が解除され、ギア143が両方向に回転できる。
第二部材150の端部150aは、軸部材141に固定されている。
【0023】
本実施形態に係る接続部材135は上記の構成を備えるため、使用者がハンドル142を操作して第二部材150を軸部材141に巻き付けることにより、接続部材135の全長が短くなる。第二部材150の巻取り状態は、ストッパ144とギア143との係合により保持される。ボタン145を押すと、巻き取られた第二部材150を繰り出せる。
【0024】
使用者は、上記操作により、接続部材135の全長を、一定範囲内で調節できる。したがって、患肢に作用する牽引力の設定を、ベッド上における患者の位置変更と接続部材135の長さの変更とを適宜組み合わせて行うことができる。その結果、牽引力調整のための患者の移動量を少なくしたり、なくしたりできる。
【0025】
本実施形態では、第二部材を手動で軸部材に巻き取る例を説明したが、第二部材は、モーター等で巻き取られてもよい。
本実施形態の第二部材150は、軸部材141に巻き取られるため、可撓性を有することが必要であるが、第一部材136は、可撓性を有しても有さなくてもいずれでもよい。
【0026】
接続部材が可撓性を有さない場合でも、全長を調節可能に構成することは可能である。例えば、複数の筒状部材を入れ子構造にしたテレスコピック構造とし、筒状部材の相対位置関係をネジ止め等により一時的に固定可能とすればよい。
【0027】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0028】
本発明において係止部の構成は様々に変更できる。
図5に変形例の係止部30Aを示す。係止部30Aは、接続部材231と、リング232とで構成されている。接続部材231の両端部がコイルバネ12に接続されており、接続部材は係止部30Aで折り返されている。使用者は、接続部材231の輪の中に踝を通してリング232で締めこむことにより、図5に示すように、患肢Plの踝部を係止部30Aに係止できる。
係止部30Aは、患肢に対して非常に簡便に着脱できる。
【0029】
図6に示す変形例の係止部30Bは、ベルト31に代えて、踝を覆う保持部材235を備えている。図示を省略するが、保持部材235は2つに分割されている。使用者は、保持部材235内に患肢の踝部を位置させてから分割された保持部材をテープ236等で一体にすることで、踝部を係止部30Aに係止できる。保持部材は、ポリウレタンや樹脂等で形成できるほか、一般的なギプスの材料である、グラスファイバーや石膏などで形成してもよい。保持部材235の内面に凹凸を形成して、患肢との接触面積を減少させてもよい。
係止部30Bは、踝部を固定しつつ介達牽引を行いたい場合に適している。
【0030】
本発明の係止部は、一般的な介達牽引よりも皮膚を圧迫しにくいが、牽引力が作用する部位においては患肢の皮膚を押圧する。したがって、係止部のうち、少なくとも使用時に患肢の皮膚と接触する部位を幅広にしたり太くしたりすると、生じる押圧が分散できるため好ましい。
【0031】
表示部は、上述した目盛りを備える構成に代えて、牽引力の数値を表示するディスプレイであってもよい。この場合は、弾性体に生じる張力を検出するロードセルやセンサ等を備えた構成とすればよい。さらに、簡単なロジック回路、マイコン、ソフトウェア等を組み合わせて、設定した牽引力と実際の牽引力との差が所定値以上となったときに、表示や音声で使用者に知らせるように、介達牽引具を構成してもよい。
【0032】
牽引力発生部は、壁や柱等の、ベッド以外の場所に固定されてもよい。固定態様も、上述したフックを掛ける態様には限られず、接着やネジ止めなど、各種の方法を使用できる。
弾性体も、上述したコイルバネには限られず、硬質ゴム等の他の弾性体を使用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 介達牽引具
10 牽引力発生部
12 コイルバネ(弾性体)
15 目盛り(表示部)
30、30A、30B 係止部
35、135 接続部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6