(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
F25B9/00 Z
F25B9/00 D
(21)【出願番号】P 2019215878
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「カルノー効率の60%に達する廃熱回生熱音響システム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真也
(72)【発明者】
【氏名】竹村 郁哉
(72)【発明者】
【氏名】千賀 麻利子
【審査官】五十嵐 公輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-194224(JP,A)
【文献】特開2019-190718(JP,A)
【文献】特開2010-261687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化現象を利用した
振動流型のヒートポンプであって、
熱エネルギーの供給によ
り振動流を発生・増幅させる少なくとも1つ以上の原動用の第1蓄熱器と、
前記第1蓄熱器に液体を供給する少なくとも1つ以上の原動用の第1液体供給部と、
前記液体が供給されて湿潤状態の前記第1蓄熱器にて発生・増幅された作動気体の
前記振動流が入力されてヒートポンプ効果を発生させる少なくとも1つ以上の第2蓄熱器と、を備
え、
前記第1液体供給部は、前記作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体に熱源からの熱が供給され、前記第1蓄熱器を加熱するように形成されている、
ヒートポンプ。
【請求項2】
前記第1液体供給部は、
前記作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体が
前記液柱の上端で前記第1蓄熱器に浸漬するように形成されている、
請求項
1に記載のヒートポンプ。
【請求項3】
相変化現象を利用した
振動流型のヒートポンプであって、
熱エネルギーの供給によ
り振動流を発生・増幅させる少なくとも1つ以上の原動用の第1蓄熱器と、
前記第1蓄熱器に液体を供給する少なくとも1つ以上の原動用の第1液体供給部と、
前記液体が供給されて湿潤状態の前記第1蓄熱器にて発生・増幅された作動気体の
前記振動流が入力されてヒートポンプ効果を発生させる少なくとも1つ以上の第2蓄熱器と、を備
え、
前記第1液体供給部は、貯留された前記液体から前記液体を吸い上げて前記第1蓄熱器に前記液体を供給する第1供給部材を備え、
前記第1供給部材は、毛細管現象を発生させる給水芯である、
ヒートポンプ。
【請求項4】
前記第1液体供給部は、前記
作動気体が封入された管路に前記液体を液柱状に貯留するように形成されている、
請求項
3に記載のヒートポンプ。
【請求項5】
相変化現象を利用した
振動流型のヒートポンプであって、
熱エネルギーの供給によ
り振動流を発生・増幅させる少なくとも1つ以上の原動用の第1蓄熱器と、
前記第1蓄熱器に液体を供給する少なくとも1つ以上の原動用の第1液体供給部と、
前記液体が供給されて湿潤状態の前記第1蓄熱器にて発生・増幅された作動気体の
前記振動流が入力されてヒートポンプ効果を発生させる少なくとも1つ以上の第2蓄熱器と、
前記第2蓄熱器に前記液体を供給して湿潤状態にする第2液体供給部と、を備
え、
前記第2液体供給部は、前記作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体から前記第2蓄熱器から発生する熱を取り出すように形成されている、
ヒートポンプ。
【請求項6】
前記第2液体供給部は、
前記作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体が
前記液柱の上端で前記第2蓄熱器に浸漬するように形成されている、
請求項
5に記載のヒートポンプ。
【請求項7】
前記第2液体供給部は、貯留された前記液体から前記液体を吸い上げて前記第2蓄熱器に前記液体を供給する第2供給部材を備える、
請求項
5に記載のヒートポンプ。
【請求項8】
少なくとも1つ以上の前記第1蓄熱器と、
前記第1蓄熱器に接続された少なくとも1つ以上の1液体供給部と、
少なくとも1つ以上の前記第2蓄熱器と、
前記第1蓄熱器と前記第2蓄熱器との間に接続された少なくとも1つ以上の前記液体が液柱状に貯留された液溜部と、を備える、
請求項
5から7のうちいずれか1項に記載のヒートポンプ。
【請求項9】
前記第1蓄熱器と、前記第1蓄熱器に接続された前記第2蓄熱器とを含む連続体を備え、
2個の前記連続体がループ状に接続されている、
請求項1から
8のうちいずれか1項に記載のヒートポンプ。
【請求項10】
連続して接続された3個の前記第1蓄熱器を含む連続体と、前記連続体に接続された1個の前記第2蓄熱器とがループ状に接続されている、
請求項1から
8のうちいずれか1項に記載のヒートポンプ。
【請求項11】
相変化現象を利用した振動流型のヒートポンプであって、
振動流が入力されてヒートポンプ効果を発生させる少なくとも1つ以上の第2蓄熱器と、
前記第2蓄熱器に液体を供給して湿潤状態にする第2液体供給部と、を備え、
前記第2液体供給部は、作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体から前記第2蓄熱器から発生する熱を取り出すように形成されている、
ヒートポンプ。
【請求項12】
前記第2液体供給部は、前記作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体が前記液柱の上端で前記第2蓄熱器に浸漬するように形成されている、
請求項11に記載のヒートポンプ。
【請求項13】
前記第2液体供給部は、貯留された前記液体から前記液体を吸い上げて前記第2蓄熱器に前記液体を供給する第2供給部材を備える、
請求項11に記載のヒートポンプ。
【請求項14】
前記振動流は、熱音響現象によって発生・増幅させる振動流である、請求項1から
13のうちいずれか1項に記載のヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相変化現象を利用した振動流型のヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
工場や車などの廃熱を再利用する技術が研究されている。廃熱の回生には、外燃機関を利用することが考えられる。外燃機関は、例えば、ランキンサイクルを用いる蒸気タービンや、スターリングサイクルを用いるスターリングエンジンが知られている。これらの外燃機関は、熱源から動力を取り出すように構成されている。
【0003】
その他の外燃機関として、振動流(音波)と熱のエネルギー変換を行う蓄熱器を備えた熱音響エンジンが知られている。ここでは、振動流型外燃機関のひとつとして、熱音響エンジンを例にして説明する。熱音響エンジンは、振動流(音波)の圧縮膨張がピストンの役割を担うことにより、可動部品を持たずに熱エネルギーを利用することができる。熱音響エンジンの構造は、単数から無数の狭い流路等を備える多孔質体(蓄熱器)と、外部との吸放熱を行う一対の吸放熱部を有する熱交換器と、熱交換器の上流側と下流側に接続された作動気体が流れる管路とを備えている。この蓄熱器に臨界条件を超える所定の温度勾配(温度差)を流路軸方向に沿って与えると、振動流(音波)の発生・増幅が行われる。
【0004】
熱音響エンジンでは、蓄熱器内部において熱と仕事のエネルギー変換が行われており、熱エネルギーから仕事を音波(音響パワー)として取り出すことができる。特に、進行波音波を用いる進行波型熱音響エンジンを用いると、熱力学的なサイクルがスターリングサイクルに類似したエネルギー変換が行われるので、熱効率を高められる可能性がある。そのため、進行波型熱音響エンジンは可動部品を持たない、廃熱回生が可能な熱機関として注目されている。
【0005】
熱音響エンジンで生成した仕事を出力として取り出す方法として、リニアモータなどの発電機を用いて発電し、入力された音波を電気的エネルギーに変換することが考えられる。非特許文献1には、熱音響エンジンを利用して「発電」を行う熱音響発電機が記載されている。
【0006】
その他の方法として、蓄熱器内の流体を音波入力などによって強制振動させるとヒートポンプ効果により流線方向に沿って蓄熱器の両端に温度差が生じるので、常温(雰囲気温度)より高温又は低温の熱を取り出すことができる。このように蓄熱器には、振動流(音波)をエネルギー源とするヒートポンプ効果を有し、「冷却」や「昇温」に利用できる。例えば、非特許文献2には、熱音響エンジンで発生・増幅した振動流(音波)によって「冷却」を行う熱音響冷却機が記載されている。
【0007】
これらの熱音響冷却機や熱音響発電機は熱音響デバイスと呼ばれる。熱音響デバイスの「原動機」として用いられる熱音響エンジンは外燃機関であることから、廃熱回生デバイスとして現在研究開発が進められている。なお、以下、常温熱交換機、蓄熱器、高温熱交換器で構成されるものを「原動機」、常温熱交換機、蓄熱器、低温熱交換器で構成されるものを「冷却機」とする。廃熱の利用可能温度域を広げるために熱音響デバイスは、常温との温度差が低い温度で動作されることが望ましい。
【0008】
熱音響エンジンを低い温度差で動作させるために原動機を多段化する方法が知られている。Biwaらは、原動機の数を1から5個まで変更した際の臨界温度差の調査を行い、5個の際に最も臨界温度差が低下したことを報告した(非特許文献3)。Hasegawaらは、3つの原動機で動作する熱音響冷却機の開発を行い、各原動機温度が270℃の時に冷却機温度が-107.4℃での動作を報告した(非特許文献4)。
【0009】
一方で、熱音響エンジンの低い温度差での動作へのアプローチとして、濡れた蓄熱器を用いることで液体の蒸発と凝縮(相変化現象)を利用した熱音響エンジンの提案が行われている。Raspetらは、熱音響現象が記述可能な支配方程式を濡れた蓄熱器が対象となるように拡張を行った(非特許文献5)。この計算結果から濡れた蓄熱器を用いた際の熱音響エンジンの臨界温度差は、乾いた蓄熱器を用いた場合に比べて低下することが報告され、その後上田らの研究グループによって実験的検証も行われている(非特許文献6)。これまで、濡れた蓄熱器を用いた熱音響エンジン、装置内部に液柱を有する熱音響冷却機(非特許文献7)の構築は行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】S. Backhaus, E. Tward, M. Petach, “Traveling-wave thermoacoustic electric generator”, Appl. Phys. Lett., 85, (2004) 1085-1087
【文献】T. Yazaki, T. Biwa, A. Tominaga, “A pistonless Stirling cooler”, Appl. Phys. Lett., 80 (2002) 157-159
【文献】T. Biwa, D. Hasegawa, T. Yazaki, “Low temperature differential thermoacoustic Stirling engine”, Appl. Phys. Lett. 97 (2010) 034102.
【文献】E. M. Sharify, S. Hasegawa, “Traveling-wave thermoacoustic refrigerator driven by a multistage traveling-wave thermoacoustic engine”, Appl. Therm. Eng., 113 (2017), pp.791-795
【文献】R. Raspet, W. V. Slaton, C. J. Hickey and R. A. Hiller, “Theory of inert gas-condensing vapor thermoacoustics: Propagation equation,” J. Acoust. Soc. Am. 112(4), (2002) pp. 1414-1422
【文献】K. Tsuda and Y. Ueda,” Critical temperature of traveling- and standing-wave thermoacoustic engines using a wet regenerator”, Appl. Energy 196(2017), pp. 62-67.
【文献】S. Langdo-Arms, M. Gshwendtner, M. Neumaier, “A novel solar-powered liquid piston Stirling refrigerator”, Appl. Energy 229(2018), pp. 603-613.
【文献】未利用熱エネルギー革新的技術研究組合技術開発センター,“産業分野の排熱実態調査 報告書”,2019年3月
【文献】Gedeon D. “DC gas flows in Stirling and pulse-tube cryocoolers” Cryocoolers 9 (1997), pp. 385-392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した熱音響デバイスは廃熱回生デバイスとして研究開発が進められているが、現状での原動機は、200℃以上の入熱温度帯で動作するものが多い。一方で、NEDOの調査によると未利用の排ガスの温度域は200℃以下が多く、また未利用廃熱のニーズも200℃以下が多いという報告が上がっている(非特許文献8)。そのことから、より低い温度域での原動機の動作が求められる。
【0012】
原動機の動作温度を低下させるには装置の大型化、作動気体の加圧、装置内に複数の原動機を設置することなどが上げられる。いずれの方法も部品の大型化、耐圧設計、部品点数の増加などに起因して製作コストが上昇するという問題がある。また、開発時に作動気体を加圧した装置を試作する場合、大気圧実験に比べて容易でなくなるという問題がある。
【0013】
熱音響冷却機などのヒートポンプや熱音響発電機は、原動機に与えられる温度差に依存する音響パワー増幅率が性能に寄与する。そのため、熱音響冷却機においては、より低い温度で冷却機を動作させるように原動機の温度差を増加させるか、装置内の原動機の数を増やす必要がある。熱音響発電機において、発電量を増加させたいときも同様に装置内の原動機の数を増やす必要がある。原動機の温度差を大きくすることは利用可能な廃熱の温度域が減少する問題がある。また、原動機の数を増やす場合、装置の複雑化や装置コストが上昇するという問題がある。
【0014】
その他の熱音響デバイスの課題として次のようなものがある。熱音響デバイスの原動機及び冷却機には外部との吸放熱のために熱交換器が用いられる。熱交換器の大きさは、装置全体に対して一般的に小さいことが多い。そのため、実際の廃熱回生を考えた時、廃熱の入力先や冷却機などの出力の取り出し口が限られる。
【0015】
一方で、近年は、熱音響エンジンの動作温度を低下させるために、液体の蒸発と凝縮(相変化現象)を利用する濡れた蓄熱器を用いた熱音響エンジンの開発が行われている。濡れた蓄熱器を用いた熱音響エンジンの動作温度は、液体の蒸発と凝縮(相変化現象)を利用することで従来の熱音響エンジンよりも低下することが確認されている。しかしながら、濡れた蓄熱器を用いた場合、動作を続けると蓄熱器が乾くという問題がある。動作中に蓄熱器を濡らし続けられるように安定した液体の供給方法は未だ確立されていない。
【0016】
濡れた蓄熱器を用いて生じる相変化現象を利用することにより動作する熱音響エンジンの実証は行われている。また、装置内部に液体を充填し、気柱部分と液柱部分を有する熱音響冷却機は構築されている。ただし、この熱音響冷却機の原動機では乾いた蓄熱器を用いており蒸発と凝縮の相変化現象は利用していない。
【0017】
ここまで、分かりやすいように、熱音響エンジンを例示して、液体蒸発と凝縮(相変化現象)を利用する濡れた蓄熱器を用いたエネルギー変換装置の課題を説明したが、熱音響エンジンに限らず、振動流を用いたエネルギー変換装置において、上述した内容と同様の課題がある。
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、動作温度が低くても動作が可能な相変化現象を利用した振動流型のヒートポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様は、相変化現象を利用した振動流型のヒートポンプであって、熱エネルギーの供給により振動流の発生・増幅させる少なくとも1つ以上の原動用の第1蓄熱器と、前記第1蓄熱器に液体を供給する少なくとも1つ以上の原動用の第1液体供給部と、前記液体が供給されて湿潤状態の前記第1蓄熱器にて発生・増幅された作動気体の前記振動流が入力されてヒートポンプ効果を発生させる少なくとも1つ以上の作動用の第2蓄熱器と、を備え、前記第1液体供給部は、前記作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体に熱源からの熱が供給され、前記第1蓄熱器を加熱するように形成されている、ヒートポンプである。
また、本発明の別の一態様は、相変化現象を利用した振動流型のヒートポンプであって、熱エネルギーの供給により振動流を発生・増幅させる少なくとも1つ以上の原動用の第1蓄熱器と、前記第1蓄熱器に液体を供給する少なくとも1つ以上の原動用の第1液体供給部と、前記液体が供給されて湿潤状態の前記第1蓄熱器にて発生・増幅された作動気体の前記振動流が入力されてヒートポンプ効果を発生させる少なくとも1つ以上の第2蓄熱器と、を備え、前記第1液体供給部は、貯留された前記液体から前記液体を吸い上げて前記第1蓄熱器に前記液体を供給する第1供給部材を備え、前記第1供給部材は、毛細管現象を発生させる給水芯である、ヒートポンプである。
また、本発明の別の一態様は、相変化現象を利用した振動流型のヒートポンプであって、熱エネルギーの供給により振動流を発生・増幅させる少なくとも1つ以上の原動用の第1蓄熱器と、前記第1蓄熱器に液体を供給する少なくとも1つ以上の原動用の第1液体供給部と、前記液体が供給されて湿潤状態の前記第1蓄熱器にて発生・増幅された作動気体の前記振動流が入力されてヒートポンプ効果を発生させる少なくとも1つ以上の第2蓄熱器と、前記第2蓄熱器に前記液体を供給して湿潤状態にする第2液体供給部と、を備え、前記第2液体供給部は、前記作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体から前記第2蓄熱器から発生する熱を取り出すように形成されている、ヒートポンプである。
また、本発明の別の一態様は、相変化現象を利用した振動流型のヒートポンプであって、振動流が入力されてヒートポンプ効果を発生させる少なくとも1つ以上の第2蓄熱器と、前記第2蓄熱器に液体を供給して湿潤状態にする第2液体供給部と、を備え、前記第2液体供給部は、作動気体が封入された管路に液柱状に貯留された前記液体から前記第2蓄熱器から発生する熱を取り出すように形成されている、ヒートポンプである。
【0020】
本発明によれば、振動流を利用した原動用の第1蓄熱器を第1液体供給部から供給された液体で湿潤状態にすることで、第1蓄熱器の作動温度を低下させ、熱源の温度が低くても第1蓄熱器を動作させ、振動流を利用しヒートポンプ効果を発生させる第2蓄熱器から所望の熱エネルギーを取り出すことができる。
【0021】
本発明はまた、前記第1液体供給部は、前記作動気体が進行する管路に前記液体を液柱状に貯留するように形成されていてもよい。
【0022】
本発明によれば、液体が貯留された第1液体供給部から第1蓄熱器に液体を供給することができる。
【0023】
本発明はまた、前記第1液体供給部は、貯留された前記液体が前記第1蓄熱器に浸漬するように形成されていてもよい。
【0024】
本発明によれば、第1蓄熱器が第1液体供給部に貯留された液体に浸漬されているため、第1蓄熱器を安定して湿潤状態に保つことができる。
【0025】
本発明はまた、前記第1液体供給部は、貯留された前記液体から前記液体を吸い上げて前記第1蓄熱器に前記液体を供給する第1供給部材を備えるように構成されていてもよい。
【0026】
本発明によれば、第1供給部材が貯留された液体から液体を吸い上げて第1蓄熱器に液体を供給するため、第1蓄熱器を安定して湿潤状態に保つことができる。
【0027】
本発明はまた、前記第1液体供給部は、前記作動気体が進行する管路に液柱状に貯留された前記液体に熱源からの熱が供給され、前記第1蓄熱器を加熱するように形成されていてもよい。
【0028】
本発明によれば、第1蓄熱器に熱交換器で熱を入力する場合に比して、第1液体供給部において液柱状に貯留された部分を加熱することで、第1蓄熱器の熱エネルギーの入力範囲を拡大すると共に、加熱用の熱交換器を省略して装置構成を簡略化できる。
【0029】
本発明はまた、前記第2蓄熱器に液体を供給して湿潤状態にする作動用の第2液体供給部を備えていてもよい。
【0030】
本発明によれば、第2液体供給部が貯留された液体から液体を吸い上げて第2蓄熱器に液体を供給するため、第2蓄熱器を安定して湿潤状態に保つことができる。
【0031】
本発明はまた、前記第2液体供給部は、前記作動気体が進行する管路に前記液体を液柱状に貯留するように形成されていてもよい。
【0032】
本発明によれば、液体が貯留された第2液体供給部から第2蓄熱器に液体を供給することができる。
【0033】
本発明はまた、前記第2液体供給部は、貯留された前記液体が前記第2蓄熱器に浸漬するように形成されていてもよい。
【0034】
本発明によれば、第2蓄熱器が第2液体供給部に貯留された液体に浸漬されているため、第2蓄熱器を安定して湿潤状態に保つことができる。
【0035】
本発明はまた、前記第2液体供給部は、貯留された前記液体から前記液体を吸い上げて前記第2蓄熱器に前記液体を供給する第2供給部材を備えるように構成されていてもよい。
【0036】
本発明によれば、第2供給部材が貯留された液体から液体を吸い上げて第2蓄熱器に液体を供給するため、第2蓄熱器を安定して湿潤状態に保つことができる。
【0037】
本発明はまた、前記第2液体供給部は、前記作動気体が進行する管路に液柱状に貯留された前記液体から前記第2蓄熱器から発生する熱を取り出すように形成されていてもよい。
【0038】
本発明によれば、第2蓄熱器に熱交換器で熱を出力する場合に比して、第2液体供給部において液柱状に貯留された部分から熱交換することで、第2蓄熱器の熱エネルギーの出力範囲を拡大すると共に、出力用の熱交換器を省略して装置構成を簡略化できる。
【0039】
本発明はまた、少なくとも1つ以上の前記第1蓄熱器と、前記第1蓄熱器に接続された少なくとも1つ以上の1液体供給部と、少なくとも1つ以上の前記第2蓄熱器と、前記第1蓄熱器と前記第2蓄熱器との間に接続された少なくとも1つ以上の前記液体が液柱状に貯留された液溜部と、を備えるように構成されていてもよい。
【0040】
本発明によれば、複数の第1蓄熱器により音響パワーを生成・増幅し、1つ以上の第2蓄熱器から出力される熱エネルギーを増加できる。
【0041】
本発明はまた、前記第1蓄熱器と、前記第1蓄熱器に接続された前記第2蓄熱器とを含む連続体を備え、2個の前記連続体がループ状に接続されていてもよい。
【0042】
本発明によれば、2つの第1蓄熱器により音響パワーを生成・増幅し、2つの第2蓄熱器からそれぞれ熱エネルギーを出力することができる。
【0043】
本発明はまた、連続して接続された3個の前記第1蓄熱器を含む連続体と、前記連続体に接続された1個の前記第2蓄熱器とがループ状に接続されていてもよい。
【0044】
本発明によれば、3つの第1蓄熱器により音響パワーを生成・増幅し、1つの第2蓄熱器から、出力される熱エネルギーを増加できる。
【0045】
本発明はまた、前記振動流は、熱音響現象によって発生・増幅させる振動流であってもよい。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、動作温度が低くても熱エネルギーを取り出すことができる相変化現象を利用した振動流型のヒートポンプを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明の実施形態に係る原動用の熱音響デバイスの構成を示す図である。
【
図2】原動用の熱音響デバイスの他の構成を示す図である。
【
図3】作動用の熱音響デバイスの構成を示す図である。
【
図4】作動用の熱音響デバイスの他の構成を示す図である。
【
図5】高温熱源のヒートポンプの構成を示す図である。
【
図6】低温熱源のヒートポンプの構成を示す図である。
【
図11】計算例に用いたヒートポンプの構成を示す図である。
【
図12】計算例に用いたパラメータを示す図である。
【
図13】ヒートポンプの性能の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るヒートポンプの実施形態について説明する。また、相変化現象を利用する振動流型のヒートポンプの1例として上記の熱音響デバイスを例示して、説明する。ヒートポンプは、濡れた蓄熱器による熱音響現象を利用して音響負荷から仕事を取り出す冷却機・昇温機などに用いられる熱変換を行う装置である。先ずヒートポンプに適用される原動用の熱音響デバイスについて説明する。原動用の熱音響デバイスは、熱エネルギーの供給により、振動流の発生・増幅を行う。
【0049】
図1に示されるように、原動用の熱音響デバイス1は、内部に作動気体が封入された管路Pと、管路P内に設けられた蓄熱器10(第1蓄熱器)と、蓄熱器10の一端部10Aに設けられた第1熱交換器20と、蓄熱器10の他端部10Bに設けられた第2熱交換器30と、蓄熱器10に液体を供給する液体供給部40(第1液体供給部)と、を備える。
【0050】
管路Pは、例えば、円管状に形成された導波管である。管路Pは、管軸方向に振動流が伝搬するように形成されている。なお、管路の形状は管状であればよく、例えば、四角状や三角状でもよい。熱音響デバイス1において管路Pは、例えば、U状に形成されている。管路Pは、2つの直線部P1と、2つの直線部P1を接続する湾曲部P2とを有している。直線部P1には、蓄熱器10が設けられている。一対の直線部P1の下部と湾曲部P2の内部には、液体が液柱の状態で貯留されて液体供給部40が形成されている。液体供給部40の上下方向、水平方向の長さは熱エネルギーの入力方法に応じて任意に設定される。
【0051】
管路P内に封入される作動気体は、窒素、ヘリウム、アルゴン、ヘリウムとアルゴンとの混合気体からなる不活性気体及び空気等の振動流を伝達できる気体である。作動気体は、振動流を伝達できればよく、これらの気体に限定されずに他の気体が用いられてもよい。
【0052】
また、管路P内の全てが液体で満たされており、第一熱交換器、蓄熱器、第二熱交換器のみに作動気体が封入されていてよい。装置内における気体と液体の割合は限定されず、すべてに液体が封入されていてもよい。
【0053】
蓄熱器10は、作動気体の流線方向に沿って上流側の一端部10Aと下流側の他端部10Bとの間に温度差が生じると、振動流の発生・増幅を行う。蓄熱器10の一端部10Aには、第1熱交換器20が設けられている。蓄熱器10の他端部10Bには、第2熱交換器30が設けられている。
【0054】
蓄熱器10は、第1熱交換器20及び第2熱交換器30を用いて両端に管路Pの軸線方向に沿って温度勾配が生じる。蓄熱器10は、管路Pの軸線方向に沿って両端部の間に温度勾配(温度差)が形成されると振動流の発生・増幅が行われる。
【0055】
蓄熱器10は、例えば、単数から複数の小径の流路12が形成されている。流路12は、蓄熱器10において作動気体の流線方向に沿って開口するように単数から無数に設けられている。蓄熱器10は、例えば、セラミックスで形成されたハニカム構造体や、多数のステンレス鋼メッシュ薄板が積層された構造体により多数の流路12が形成される。ガラスパイプなどの細かい流路を形成し振動流が通過できる材料であればよく、これらに限定されない。また、流路12は発泡金属やスチールウールなどで形成される形状のほか、金属粉を充填したり凸凹のあるフィルムを丸めたり、異なる流路径(流路幅)・流路形状・厚さを持つ薄板等を組み合わせたりすることで形成されてもよい。
【0056】
流路12は、例えば、円管形状、平行平板形状、多角形形状、ピンアレイ形状に形成されている。流路は、異なる流路径(流路幅)・流路形状・厚さを持つ薄板等を組合せてランダムに形成されてもよく、異なる流路径(流路幅)・流路形状・厚さを持つ薄板等の所定の組み合わせにより形成されたパターンを繰り返して形成されてもよい。蓄熱器10に温度勾配を生じさせるため、熱源からの熱エネルギーが入力される。
【0057】
熱源は、雰囲気温度としての常温に対して温度差を有する熱エネルギーを供給するものである。ここで、常温とは、例えば、大気、海水、河川水、湖水、地熱等の周囲の環境により安定的に得られる温度である。常温は、雰囲気温度の他に熱源と温度差を生じさせるように安定的に熱エネルギーを供給できる他の熱源から生じる温度であってもよい。熱源は、例えば、廃熱として捨てられる熱エネルギーを利用する。熱源は、常温に対して高温の熱エネルギーを与えるものであってもよいし、常温に対して低温の熱エネルギーを与えるものであってもよい。熱エネルギーは、第1熱交換器20又は第2熱交換器30のいずれか一方に入力される。
【0058】
第1熱交換器20は、蓄熱器10の一端部10Aにおいて熱媒体を介して熱交換を行うよう形成されている。第1熱交換器20は、蓄熱器10の一端部10Aに常温に対して温度差を有する熱媒体を介して熱交換するものであってもよいし、常温の熱媒体を介して熱交換するものであってもよい。
【0059】
第2熱交換器30は、蓄熱器10の他端部10Bにおいて熱交換を行うよう形成されている。第2熱交換器30は、蓄熱器10の他端部10Bに常温に対して温度差を有する熱媒体を介して熱交換するものであってもよいし、常温の熱媒体を介して熱交換するものであってもよい。
【0060】
液体供給部40は、蓄熱器10に液体を供給し、蓄熱器10を定常的に湿潤状態にするように形成されている。上述したように、蓄熱器10を濡らすと液体の蒸発及び凝縮(相変化現象)により動作温度が従来の熱音響エンジンの動作温度よりも低下する。液体は、取り扱い、入手の容易さを考慮して水が用いられることが考えられる。
【0061】
ただし、液体の種類は水に限定されず、水の他にエタノール、R134aなどの水よりも沸点が低い液体が用いられてもよい。これにより水の沸点よりも低い温度域で相変化現象を利用することが可能となる。また、熱音響デバイス1の高出力化を目的とし、管路P内の平均圧力を加圧させた場合において熱源温度よりも沸点が上昇する可能性がある。そこで、水よりも沸点が低い液体を利用することで熱源温度よりも低い温度域で相変化現象を利用することが可能となる。エタノールや冷媒(R134a)の他に、蓄熱器10において蒸発と凝縮を行う相変化現象が生じるのであれば他の液体が用いられてもよい。この他、液体は、低温の熱エネルギーを入力するように水よりも凝固点が低い液体が用いられてもよい。
【0062】
液体供給部40は、例えば、管路Pそのもので構成されていてもよいし、管路Pの一部を加工することにより形成されていてもよい。この他、別途作製した液体供給部40と管路Pを接続して形成してもよい。液体供給部40は、一対の直線部P1の一部と湾曲部P2とから構成されるU状に形成されている。液体供給部40は、液体をU状の液柱の状態に貯留する。液体供給部40は、例えば、液体の液面が蓄熱器10の一端部10A側より上方となり、蓄熱器10を液体中に浸漬するように形成されている。蓄熱器10は、例えば、セラミック等により表面が粗に形成されているため、供給された液体が表面に浸透する。液体供給部40は、熱源からの熱エネルギーを入力し、第1熱交換器20又は一端部10A側への熱エネルギーの入力に用いられてもよい。
【0063】
図2に示されるように、液体供給部40は、例えば、液体の液面が蓄熱器10の一端部10A側より下方となり液体を吸い上げて蓄熱器10に供給するように形成された供給部材45(第1供給部材)を備えていてもよい。液体供給部40において液体が気化し、液面が蓄熱器10より下方となり、蓄熱器10に液体が供給されなくなる可能性がある。
【0064】
そこで、液面が蓄熱器10より下方であっても蓄熱器10に液体を供給できるように供給部材45は、液体を下方から上方に吸い上げるように柱状に形成されている。供給部材45は、例えば、綿、布等の毛細管現象を発生する部材により形成されている給水芯である。供給部材45は、下方が液体内に浸漬され、上方が蓄熱器10の一端部10A側に当接するように取り付けられている。
【0065】
蓄熱器10は、例えば、セラミック等により表面が粗に形成されているため、供給部材45から供給された液体が表面に浸透する。供給部材45により、動力を用いることなく液体を下方から上方に吸い上げ、液面より上方に配置された蓄熱器10に液体を供給し、蓄熱器10を湿潤状態に保つことができる。
【0066】
次に、原動用の熱音響デバイス1への熱エネルギーの入力について説明する。
【0067】
蓄熱器10の一端部10A側には、例えば、第1熱交換器20により常温の熱エネルギーを供給する。第1熱交換器20には、例えば、常温の空気や液体等の熱媒体を循環させる。その一方で蓄熱器10の他端部10B側には、例えば、第2熱交換器30により高温の熱エネルギーを供給する。第2熱交換器30には、例えば、高温の気体や液体等の熱媒体を循環させる。
【0068】
この場合、常温側となる蓄熱器10の一端部10A側から高温側となる蓄熱器10の他端部10B側にかけて温度勾配が生成され振動流の発生・増幅が行われる。
【0069】
他の熱エネルギーの入力方法として、蓄熱器10の一端部10A側には、例えば、第1熱交換器20により高温の熱エネルギーを供給する。第1熱交換器20には、例えば、高温の気体や液体等の熱媒体を循環させる。その一方で蓄熱器10の他端部10B側には、例えば、第2熱交換器30により常温の熱エネルギーを供給する。第2熱交換器30には、例えば、常温の気体や液体等の熱媒体を循環させる。
【0070】
この場合、高温側となる蓄熱器10の一端部10A側から常温側となる蓄熱器10の他端部10B側にかけて温度勾配が生成され振動流の発生・増幅が行われる。
【0071】
蓄熱器10の一端部10A側には、液体供給部40に液柱状に貯留された液体を熱源により加熱することにより高温の熱エネルギーを供給し、蓄熱器10の一端部10A側を加熱してもよい。この場合、第1熱交換器20は省略されてもよい。一般的に熱音響デバイスの熱交換器は装置容積に対して小さく形成され、外部熱源を用いた入力箇所が制限されるという問題がある。廃熱を熱源とした設計を行うと、熱交換器は、熱源からの伝熱面積を確保する必要があることから、流路開口率が低くなるという問題もある。これに比して液体供給部40の液柱を加熱することで、第1熱交換器20よりも大きな範囲の入熱区間を設定できる。その一方で蓄熱器10の他端部10B側には、例えば、第2熱交換器30により常温の熱エネルギーを供給する。この場合、高温側となる蓄熱器10の一端部10A側から常温側となる蓄熱器10の他端部10B側にかけて温度勾配が生成され振動流の発生・増幅が行われる。
【0072】
この他、液体供給部40が第1熱交換器20の役割を果たしてもよい。蓄熱器10の一端部10A側には、液体供給部40に液柱状に貯留された液体を熱源により常温の熱エネルギーを供給してもよい。この場合、第1熱交換器20は省略されてもよい。
【0073】
他の熱エネルギーの入力方法として、蓄熱器10の一端部10A側には、例えば、第1熱交換器20により低温の熱エネルギーを供給する。第1熱交換器20には、例えば、低温の気体や液体等の熱媒を循環させる。蓄熱器10の一端部10A側には、液体供給部40に貯留された液体を熱源により冷却することにより低温の熱エネルギーを供給してもよい。この場合、第1熱交換器20は省略されてもよい。その一方で蓄熱器10の他端部10B側には、例えば、第2熱交換器30により常温の熱エネルギーを供給する。第2熱交換器30には、例えば、常温の気体や液体等の熱媒を循環させる。この場合、低温側となる蓄熱器10の一端部10A側から常温側となる蓄熱器10の他端部10B側にかけて温度勾配が生成され振動流の発生・増幅が行われる。
【0074】
上記方法により、蓄熱器10の一端部10Aと他端部10Bとの間に温度勾配(温度差)を生じさせると、作動気体の振動流の発生・増幅が行われ、管路P内を伝搬する。管路P内を伝搬する振動流からは、エネルギー(仕事)を取り出すことができる。エネルギーの取り出しは、例えば、管路Pに熱音響デバイス1と異なる他の蓄熱器を有する作動用の熱音響デバイスを用いることができる。作動用の熱音響デバイスによれば、入力された振動流のエネルギーを熱エネルギーに変換(ヒートポンプ効果)して取り出すことができる。
【0075】
この時、作動用の熱音響デバイスの蓄熱器において原動用の熱音響デバイス1における気体の流線方向に沿って反対方向の温度勾配を生じさせるようにヒートポンプ効果を行うため、熱音響現象を利用して入力された振動流から熱エネルギーを取り出すことができる。
【0076】
以下、作動用の熱音響デバイスについて説明する。上記の原動用の熱音響デバイス1と同一の構成については同一の名称を用い、重複する説明は適宜省略する。
【0077】
図3に示されるように、渇いた状態の作動用の熱音響デバイス2は、管路Pと、管路P内に設けられた蓄熱器50(第2蓄熱器)と、蓄熱器50の一端部50Aに設けられた第3熱交換器60と、蓄熱器50の他端部50Bに設けられた第4熱交換器70とを備える。第3熱交換器60及び第4熱交換器70には、下方に湾曲した管路Pが接続されている。
【0078】
蓄熱器50は、例えば、一端部50A側又は他端部50B側のいずれかの端部側から原動用の熱音響デバイス1から生じた振動流が入力される。
【0079】
第3熱交換器60は、蓄熱器50の一端部50Aにおいて熱交換を行うよう形成されている。第3熱交換器60は、蓄熱器50の一端部50Aを冷却又は加温するものである。第3熱交換器60は、熱媒体を循環させ、一端部50Aにおいて熱交換を行う。
【0080】
第4熱交換器70は、蓄熱器50の他端部50Bにおいて熱交換を行うよう形成されている。第4熱交換器70は、例えば、蓄熱器50の他端部50Bを冷却又は加温するものである。第4熱交換器70は、熱媒体を循環させ、他端部50Bにおいて熱交換を行う。
【0081】
例えば、蓄熱器50の一端部50A側に原動用の熱音響デバイス1からエネルギー変換により生じた振動流が入力された場合、ヒートポンプ効果が発生し蓄熱器の流路軸方向に温度差が生じる。この時、第3熱交換器60により一端部50A側を常温の熱媒体と熱交換すると、温度差が一端部50A側を基準に生じ、他端部50B側において吸熱反応が生じる。この時、第4熱交換器70により熱交換を行うと低温の熱エネルギーを取り出すことができる。この反応により、冷却機、クーラー等を構成できる。
【0082】
蓄熱器50の一端部50A側に原動用の熱音響デバイス1から生じた振動流が入力された場合、ヒートポンプ効果によって蓄熱器の流路軸方向に温度差が生じる。この時、第4熱交換器70により他端部50B側を常温の熱媒体と熱交換すると、温度差が一端部50B側を基準に生じ、一端部50A側においては第3熱交換器60により高温の熱エネルギーを取り出すことができる。
【0083】
この反応により、昇温機等を構成できる。上記振動流の入力は、蓄熱器50の他端部50B側からでもよい。即ち振動流の入力は、熱音響デバイス1から生じる振動流の方向に応じて適宜変更される。また、蓄熱器の「昇温」、「冷却」方向もまた、振動流の入力方向に応じて適宜変更される。蓄熱器50の一端部50A側は、原動用の熱音響デバイス1と同様に液体が供給されるように構成されていてもよい。
【0084】
図4に示されるように、作動用の熱音響デバイス2は、蓄熱器50を濡れた状態にして構成されていてもよい。作動用の熱音響デバイス2は、蓄熱器50の一端部50A側に液体を供給する作動用の液体供給部80(第2液体供給部)を備える。装置構成は、原動用の熱音響デバイス1と同様である。熱音響デバイス2は、両端のうち、いずれかの端部に生じた熱から熱エネルギーを取り出すよう構成されている。この時、一端部50A側を液体供給部80により濡らすことにより、熱音響デバイス2の動作温度を低下できる。蓄熱器50には、上記と同様に液体供給部80から供給部材(第2供給部材:不図示)を用いて液体が供給されてもよい。
【0085】
この時、液体供給部80に貯留した液体によって熱エネルギーを出力することもできる。これにより、熱音響デバイス2は、蓄熱器50で生じた仕事の取り出し口の出力範囲を拡大でき、熱エネルギーを取り出し易くなるよう構成されている。原動用の熱音響デバイス1と作動用の熱音響デバイス2を組み合わせて、ヒートポンプを構成できる。
【0086】
図5に示されるように、ヒートポンプ100は、冷却機として構成されている。ヒートポンプ100は、原動用の熱音響デバイス1と作動用の熱音響デバイス2とを備える。熱音響デバイス2は、濡らされていない。熱音響デバイス1と熱音響デバイス2とは、管路Pによりループ状に接続されている。熱音響デバイス1と熱音響デバイス2との間には、U状に形成された液溜部3が設けられている。液溜部3には、液体がU状の液柱状に貯留される。
【0087】
液溜部3によれば、副次的に「ゲデオン流」を抑止できる。ゲデオン流とは、ループ形状の熱音響デバイス内に発生する循環質量流である(非特許文献9)。ゲデオン流は、蓄熱器や熱交換器の熱を運び去ることから、原動機においては熱効率を低下させ、冷却機と昇温機においてはヒートポンプ性能を低下させる。従来、ゲデオン流は、ゴム膜などの設置で抑止していた。ヒートポンプ100によれば、管路Pの流路の途中に設けられた液溜部3や液体供給部40によりゲデオン流を抑止できる。
【0088】
原動用の熱音響デバイス1には、高温の廃熱等の熱源から熱エネルギーが供給される。蓄熱器10の他端部10B側は、例えば、第2熱交換器30により熱源から高温に熱交換される。第2熱交換器30には、例えば、熱源により熱せられた高温の気体や液体等の熱媒体を循環させる。蓄熱器10の一端部10A側は、例えば、第1熱交換器20により常温と熱交換される。第1熱交換器20には、例えば、常温の空気や液体等の熱媒体を循環させる。そうすると、他端部10B側が高温で且つ、一端部10A側が常温となるように蓄熱器10に温度勾配が生じ、振動流の発生・増幅が行われる。
【0089】
振動流のエネルギーは、管路Pを進行し、液溜部3に伝搬し、液溜部3から作動用の熱音響デバイス2に入力される。振動流は、蓄熱器50においてヒートポンプ効果を行い、蓄熱器の流路軸方向に温度差を生じさせる。この時、第3熱交換器60により常温と熱交換を行うと、蓄熱器50における温度勾配は他端部50A側を基準に生じ、一端部50B側の温度は常温より低温となる。
【0090】
この時、第4熱交換器70により熱交換を行うと、常温より低温の熱エネルギーを取り出すことができる。ヒートポンプ効果に利用されず、他端部50B側から出力された振動流のエネルギーは、液体供給部40に伝搬し、熱音響デバイス1に入力される。その後、上記サイクルが繰り返される。従って、ヒートポンプ100によれば、高温の廃熱等を使って動作装置を用いない冷却機を構成できる。これは1例であり、原動機、昇温機、冷却機の数、組み合わせは自由でありこれに限らない。
【0091】
図6に示されるように、ヒートポンプ110は、昇温機として構成されていてもよい。ヒートポンプ110は、原動用の熱音響デバイス1と作動用の熱音響デバイス2とを備える。熱音響デバイス2は、濡らされていない。
【0092】
原動用の熱音響デバイス1には、低温の熱源から熱エネルギーが供給される。蓄熱器10の一端部10A側は、例えば、第1熱交換器20により熱源から低温に熱交換される。蓄熱器10の一端部10A側は、液体供給部40の液体を冷却してもよい。第1熱交換器20には、例えば、熱源により冷却された低温の気体や液体等の熱媒体を循環させる。蓄熱器10の他端部10B側は、例えば、第2熱交換器30により常温と熱交換される。第2熱交換器30には、例えば、常温の空気や液体等の熱媒体を循環させる。そうすると、他端部10B側が常温で且つ、一端部10A側が低温となるように蓄熱器10に温度勾配が生じ、振動流の発生・増幅が行われる。
【0093】
振動流のエネルギーは、管路Pを進行し、液溜部3に伝搬し、液溜部3から作動用の熱音響デバイス2に入力される。振動流は、蓄熱器50においてヒートポンプ効果を行い、蓄熱器の流路軸方向に温度差を生じさせる。この時、第4熱交換器70により常温と熱交換を行うと、蓄熱器50における温度勾配は他端部50B側を基準に生じ、一端部50A側の温度は常温より高温となる。
【0094】
この時、一端部50A側から常温より高温の熱エネルギーを取り出すことができる。ヒートポンプ効果に利用されず、他端部50B側から出力された振動流のエネルギーは、液体供給部40に伝搬し、熱音響デバイス1に入力される。その後、上記サイクルが繰り返される。従って、ヒートポンプ110によれば、低温の廃熱を使って動作装置を用いない昇温機を構成できる。また、原動用の熱音響デバイスで生じさせる温度勾配は低温-常温の組み合わせに限らず、高温-常温、低温-高温の組み合わせで温度勾配を生じさせても良い。
【0095】
上記ヒートポンプ100,110において原動用の熱音響デバイス1は、液体供給部40において供給部材45が用いられてもよい。ヒートポンプ100,110において作動用の熱音響デバイス2は、液体供給部80及び供給部材(不図示)が用いられてもよい。
【0096】
図7に示されるように、ヒートポンプ120は、熱音響デバイス1,2において、液体供給部40,80が用いられてもよい。ヒートポンプ120は、液体供給部40を備える熱音響デバイス1と液体供給部80を備える熱音響デバイス2とが管路Pによりループ状に接続されている。ヒートポンプ120は、熱音響デバイス1において、液体供給部40の液体に熱源からの熱エネルギーが供給されてもよい。ヒートポンプ120は、熱音響デバイス2において、液体供給部80の液体から低温の熱エネルギーが取り出されてもよい。
【0097】
図8に示されるように、ヒートポンプ130は、ループ状に形成された管路P3,P4を接続するものであってもよい。原動用の熱音響デバイス1を備えるループ状の管路P3と、作動用の熱音響デバイス2を備えるループ状の管路P4とを備える。管路P3は、蓄熱器10から生じた振動流が周回して蓄熱器10に入力されるようにループ状に形成されている。管路P4は、蓄熱器50から生じた振動流が周回して蓄熱器50に入力されるようにループ状に形成されている。管路P3と管路P4とは、枝管P5により接続されている。
【0098】
枝管P5は、例えば、逆U状に形成されている。枝管P5は、管路P3の液体供給部40の底部から分岐して接続されている。枝管P5は、管路P4の液体供給部80の底部から分岐して接続されている。ヒートポンプ130は、例えば、熱音響デバイス1において、液体供給部40の液体に熱源からの熱エネルギーが供給される。ヒートポンプ130は、例えば、熱音響デバイス2において、液体供給部80の液体から低温の熱エネルギーが取り出される。
【0099】
図9に示されるように、ヒートポンプ140は、1つ以上の原動用の熱音響デバイス1が用いられていてもよい。ヒートポンプ140は、例えば、熱音響デバイス1が3個連続して管路Pを介して連結されている。3個の熱音響デバイス1により構成された連続体の下流側には、液溜部3を介して作動用の熱音響デバイス2が接続されている。熱音響デバイス2は、3個の熱音響デバイス1の上流側に接続されている。これにより、ヒートポンプ140は、ループ状に形成されている。ヒートポンプ140によれば、複数の蓄熱器10により振動流のパワーを増幅し、作動用の熱音響デバイス2から発生する熱を増大できる。
【0100】
図10に示されるように、ヒートポンプ150は、2個の熱音響デバイス1と2個の熱音響デバイス2とを備える。ヒートポンプ150は、例えば、熱音響デバイス1の下流側に熱音響デバイス2が液溜部3を介して接続され、熱音響デバイス2の下流側に他の熱音響デバイス1が接続されている。他の熱音響デバイス1の下流側には、他の熱音響デバイス2が接続されている。
【0101】
他の熱音響デバイス2の下流側には、熱音響デバイス1の上流側が接続されている。ヒートポンプ150において、熱音響デバイス1と熱音響デバイス2とが交互になるようにループ状に接続されている。ヒートポンプ150は、熱音響デバイス1と、熱音響デバイス1に接続された熱音響デバイス2とを含む連続体を含み、2個の連続体がループ状に接続されている。ヒートポンプ150によれば、熱源の入力部分と作動用の熱音響デバイス2から発生する熱の取り出し部分とを熱交換器に比して拡大するように形成できる。
【0102】
上述したように、ヒートポンプは、様々な装置構成により設計され得る。上記のヒートポンプは、液柱及び濡れた蓄熱器を用いるのであれば、他の装置構成が用いられてもよい。また、上述したヒートポンプは、設計要素として用いられる以下のパラメータに関わらず適用できる。
・作動気体の種類、平均圧力
・蓄熱器を濡らす液体の種類
・蓄熱器の流路径、長さ、材質
・管路の大きさ、長さ、形状(円管,矩形管)
・液体供給部の数と形状
・原動機、冷却機の設計諸元
・原動機、冷却機位置での断面積拡大の有無。
・原動機、冷却機の相対位置
・管路断面積の拡大の有無
・熱音響デバイス内における原動機の数
・熱音響デバイス内における冷却機など仕事の取り出し口の数
【0103】
次に、湿潤状態の蓄熱器を用いたヒートポンプの設計例と、その性能を示す計算例を示す。以下の説明では、熱音響冷却機を対象に、濡れた蓄熱器を用いた際の熱音響現象を記述可能な支配方程式を用いた計算結果を示す。なお、この計算は、上述したように液柱によって供給された液体により濡れた蓄熱器を用いる原動用の熱音響デバイスにも適応可能である。
【0104】
図11に示されるように、計算対象となるヒートポンプは、連続して接続された2個の原動用の熱音響デバイス1と、2個の原動用の熱音響デバイスの下流側に接続された冷却機として作動する作動用の熱音響デバイス2とを備える。作動用の熱音響デバイス2の下流側は、2個の原動用の熱音響デバイスの上流側に接続され、管路Pのループが形成されている。各デバイスの間には、U状に形成された液溜部3が接続されている。
【0105】
2個の原動用の熱音響デバイスは、液溜部3から離間して渇いた状態のものが記載されている。2個の原動用の熱音響デバイスは、比較計算を行う場合、上述した濡れた状態の原動用の熱音響デバイス1を用いることができる(
図9参照)。
【0106】
図12には、計算に用いたパラメータが示されている。計算例において、作動用の冷却機の蓄熱器は渇いた状態のものが用いられているが蓄熱器が濡れた状態であることや、仕事の取出側が液柱部に浸漬していても良く、この限りではない。
【0107】
図13には、原動機蓄熱器高温端面温度に対する冷却機蓄熱器低温端面温度の計算結果が示されている。図において、横軸に原動機蓄熱器高温端面温度が示されており、縦軸に冷却機蓄熱器低温端面温度が示されている。計算において、原動用の濡れた状態の蓄熱器を有するヒートポンプと、原動用の渇いた状態の蓄熱器を有するヒートポンプを比較した。濡れた蓄熱器を用いたヒートポンプは、原動機蓄熱器高温端面温度が65℃程度で冷却機蓄熱器低温端面温度が27℃程度となり、原動機蓄熱器高温端面温度が70℃程度で冷却機蓄熱器低温端面温度が10℃程度まで冷却される結果となった。これに対し、乾いた蓄熱器を用いたヒートポンプは、原動機蓄熱器高温端面温度が160℃で冷却機蓄熱器低温端面温度が27℃程度となり、原動機蓄熱器高温端面温度が190℃で冷却機蓄熱器低温端面温度が9℃程度まで冷却される結果となった。
【0108】
以上の結果から、濡れた蓄熱器を用いたヒートポンプは、所望の冷却機温度を得るために、乾いた蓄熱器を用いたヒートポンプに比して低い温度により動作できる。
【0109】
上述したように熱音響現象を利用したヒートポンプによれば、冷却機、昇温機などを構成して所望のエネルギーを取り出す場合、乾いた蓄熱器を用いたヒートポンプに比して低い原動機温度で作動させることができる。従って、ヒートポンプによれば、従来、活用が困難であった温度域の廃熱を利用して所望のエネルギーを取り出すことができる。ヒートポンプによれば、従来、低温で作動するように複数の熱音響デバイスを連結して音響のパワーを増幅して所望のエネルギーを取り出すように構成されていたのに比して、濡れた状態の蓄熱器を1個用いて所望のエネルギーを取り出すことができ、装置構成を簡略化できる。
【0110】
また、ヒートポンプによれば、濡れた蓄熱器を用いた状態で原動機温度を高く設定すると、乾いた蓄熱器を用いたヒートポンプに比して冷却機から出力される温度を低くすると共に、昇温機から出力される温度を高くすることができ、出力を向上できる。ヒートポンプによれば、従来よりも高い出力での廃熱回生を行える。ヒートポンプによれば、動作するための原動機の温度を低くでき、廃熱温度が低いような領域、場所においても利用が可能である。
【0111】
ヒートポンプによれば、液体供給部40により蓄熱器10を湿潤状態に保つことができ、安定して稼働できる。ヒートポンプによれば、液体供給部40の液柱に熱源からの熱エネルギーを入力することで、熱エネルギーの入力範囲を拡大できる。ヒートポンプによれば、液体供給部40の液柱が任意の長さに設定されるため、蓄熱器の端部に設けられる高温用の熱交換器よりも大きな範囲の入熱区間を設定できる。ヒートポンプによれば、液体供給部40の液柱に熱エネルギーを入力することで、高温用の熱交換器を省略でき、装置構成を簡略化できる。
【0112】
ヒートポンプによれば、副次的に上記のゲデオン流を抑止できる。ヒートポンプによれば、従来、ゴム膜などの設置でゲデオン流を抑止していたのに比して、装置内部に設けられた液柱によりゲデオン流を抑止できる。
【0113】
以上のように、熱音響現象を例に説明を行ったが、本発明は、熱音響現象に基づいた熱音響機関に限定されず、流体の振動流を利用する蓄熱器を備えるスターリングエンジン、パルス管冷凍機、GM冷凍機、スターリングクーラー、ヒートパイプ、熱音響機関等のエネルギー変換装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0114】
1、2 熱音響デバイス、3 液溜部、10 蓄熱器、10A 一端部、10B 他端部、12 流路、20 第1熱交換器、30 第2熱交換器、40 液体供給部、45 供給部材、50 蓄熱器、50A 一端部、50B 他端部、60 第3熱交換器、70 第4熱交換器、80 液体供給部、100、110、120、130、140、150 ヒートポンプ、P 管路、P1 直線部、P2 湾曲部、P3、P4 管路、P5 枝管