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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】防風性布帛
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/564 20060101AFI20231102BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20231102BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231102BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
D06M15/564
B32B27/12
B32B27/00 Z
D06M15/263
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019108575
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020200552
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】越田 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】平田 奨
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-256727(JP,A)
【文献】実開昭61-011798(JP,U)
【文献】特開2019-143278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
D04B1/00-1/28、21/00-21/20、
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
編物の片面のみに直接樹脂膜が積層されている布帛であって、
前記樹脂膜の100%モジュラスが2.5MPa以下であり、
前記樹脂膜は、ポリカーボネート系ポリウレタンによって構成されており、
前記樹脂膜の目付が24g/m 以下であり、
JIS L1096A法(フラジール形法)にて測定した通気度が0.05cm/cm・s以上5cm/cm・s以下であることを特徴とする防風性布帛。
【請求項2】
前記樹脂膜に可塑剤が含まれていない請求項1に記載の防風性布帛。
【請求項3】
JIS L1099A-1法(塩化カルシウム法)にて測定した透湿度が3000g/m・24hrs以上、およびJIS L1099B-1法(酢酸カリウム法)にて測定した透湿度が15000g/m・24hrs以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の防風性布帛。
【請求項4】
前記防風性布帛を経方向および緯方向のそれぞれに10回ずつ20%の伸長と解放とを繰り返す伸縮操作を施した後に測定した通気度が5cm/cm・s以下であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の防風性布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、カーディガン、セーター、ジャケット等の一般衣料、陸上競技、球技、自転車競技等のスポーツにおいてスポーツ選手等が着用する、シャツ、ワンピース、タイツ、ウォームアップスーツ、ユニフォーム、ウィンドブレーカー等のスポーツ用衣料、または、作業服等に好適なストレッチ性が高い編物を用いた布帛であって、特に、優れた防風性を有しつつ柔らかな風合いの布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
テキスタイルの素材としての編物は、布帛の平面的な動きをとらえてみた場合、3次元的なループ構造を形成しているために外力に対して大きく変形できる融通性を有し、ストレッチ性がきわめて大きな布帛であるといえる。しかし、それが故に、編物そのものについては、防風性と保温性が低いという欠点も有している。
【0003】
一方、布帛に用いられる糸の太さや密度、カバー率等を高めることで、布帛に防風性を与える技術も提案されている(例えば特許文献1)。しかし、布帛に用いられる糸を太くしたり、ゲージ数を多くしたり、度目詰めしたりする等によって防風性を高めた編物は、当然ながら目付や厚みが増し、軽量性やストレッチ性に劣るという欠点を有しており、衣料用の布帛としては用いづらいものであった。
【0004】
そこで、従来、編物に樹脂膜を付与した布帛が提案されている(例えば特許文献2)。特許文献2には、伸縮性を有する伸縮性生地に合成樹脂をコーティング加工することで防風性皮膜を形成した構成の防風伸縮性生地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-57219号公報
【文献】特開平7-331513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、編物に樹脂膜が付与された従来の布帛では、樹脂膜が編物のストレッチ性を阻害しており、運動に追随して伸縮を繰り返す衣料用の布帛として用いることが難しい。しかも、付与する樹脂量を多くして、樹脂膜が伸縮しても防風性を損なわないようにすると、布帛の風合いが硬くなり、運動の際に着用する衣服に対する違和感が強くなる。一方、布帛の風合いの柔らかさを維持するために付与する樹脂量を少なくすると、十分な防風性が得られなくなる。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、編物に樹脂膜が付与された布帛であっても、優れた防風性を有しつつ柔らかな風合いの防風性布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる防風性布帛は、編物の片面に直接樹脂膜が積層されている布帛であって、前記樹脂膜の100%モジュラスが2.5MPa以下である。
【0009】
上記防風性布帛において、JIS L1096A法(フラジール形法)にて測定した通気度が5cm/cm・s以下であるとよい。
【0010】
上記防風性布帛において、JIS L1099A-1法(塩化カルシウム法)にて測定した透湿度が3000g/m・24hrs以上、およびJIS L1099B-1法(酢酸カリウム法)にて測定した透湿度が15000g/m・24hrs以上であるとよい。
【0011】
上記防風性布帛において、前記樹脂膜を構成する樹脂が、ポリウレタンおよびアクリル樹脂のいずれかの単独、または、ポリウレタンおよびアクリル樹脂の混合物であるとよい。
【0012】
上記防風性布帛において、防風性布帛を経方向および緯方向のそれぞれに10回ずつ20%の伸長と解放とを繰り返す伸縮操作を施した後に測定した通気度が5cm/cm・s以下であるとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる防風性布帛は、編物に樹脂膜が付与された布帛でありながら、樹脂膜の100%モジュラスが2.5MPa以下という比較的柔らかい樹脂膜が編物の片面に積層されているため、一般的な糸の太さやゲージ数であり、度目詰めを行わない編物であっても優れた防風性を有しており、高密度品と比較して運動を阻害しない柔らかな風合いを兼ね備えている。したがって、本発明にかかる防風性布帛を用いて衣服等を製造することで、ストレッチ性が高く保温性にも優れた繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態にかかる防風性布帛について説明を行う。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態における構成要素のうち独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0015】
(実施の形態)
本発明にかかる防風性布帛は、編物の片面に直接樹脂膜が積層されている布帛であって、樹脂膜の100%モジュラスが2.5MPa以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明にかかる防風性布帛では、伸縮性の高いベース布帛として編物を用いている。本実施の形態において、編物とは、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、アクリル、レーヨン、アセテート、ポリ乳酸、大豆タンパク、絹、羊毛、綿、麻などの化学繊維、または、天然繊維等のいかなる繊維素材からなるものであってよい。つまり、編物を構成する糸は、これらのいかなる繊維素材によって構成されていてもよい。また、編物を構成する糸は、これらの繊維素材が混繊、混紡または交編等がなされたものであってもよい。
【0017】
編物を構成する糸は、モノフィラメントおよびマルチフィラメントのいずれであってもよいが、防風性の観点では、マルチフィラメントを用いるとよい。さらに、編物を構成する糸としてマルチフィラメントを用いることで、樹脂膜を形成するために樹脂溶液を編物の表面に塗布する工程において、樹脂溶液を塗布した面とは反対側の面(裏面)にまで樹脂溶液が含浸することを抑制できるので、防風性布帛の外観品位が低下したり風合いが硬化したりすることを抑制することができる。
【0018】
また、編物を構成する糸の太さは、一般的に衣料に用いられている15~170dtexであることが好ましく、20~100dtexがより好ましい。糸の太さが15dtex未満であると、樹脂溶液の塗布時に樹脂溶液が含浸して外観品位の低下や風合いの硬化を招くおそれがある。一方、糸の太さが170dtexを超えると、風合いが硬化してしまうおそれがある。
【0019】
本実施の形態において、編物は、経編および緯編(横編または丸編)のいずれであってもよい。経編としては、シングルデンビー編、シングルコード編またはシングルアトラス編等が挙げられ、また、ダブル編みやこれらの変化組織であってもよい。緯編としては、平編、ゴム編、パール編または両面編等が挙げられ、また、これらの変化組織であってもよい。
【0020】
また、編物は、2.54cmあたりの編機ゲージ数が20~100であることが好ましく、25~60がより好ましい。2.54cmあたりのゲージ数が20未満であると、樹脂溶液の塗布時に樹脂溶液が含浸して外観品位の低下や風合いの硬化を招くおそれがある。また、2.54cmあたりのゲージ数が100を超えると、一般的な編機とは異なる特殊な装置が必要になる場合があり、かつ風合いが硬化してしまうおそれがある。
【0021】
また、防風性布帛の密度(仕上げ密度)は、ウエル30~80、コース30~80であることが好ましい。上記の編物を用いれば、密度がウエル30~80、コース30~80の範囲に収まりやすく、また、生産が容易であり品質が安定する。
【0022】
本実施の形態にかかる防風性布帛については、度目詰めや仕上げのセットの際に密度を高める必要はないが、より高い防風性を得るためにこれらの加工を実施することを否定するものではない。つまり、本実施の形態にかかる防風性布帛において、度目詰めを行ったり仕上げのセットの際に密度を高めたりしてもよい。
【0023】
また、本実施の形態における編物は、染色加工、捺染加工、撥水加工、制電加工、吸水加工、SR加工、抗菌防臭加工、制菌加工、消臭加工、紫外線遮蔽加工、防炎加工、カレンダー加工等が施されたものであってもよい。樹脂溶液の含浸抑制の観点では、編物には撥水加工および/またはカレンダー加工が施されているとよい。
【0024】
本実施の形態において、編物に積層される樹脂膜を構成する樹脂は、樹脂膜の100%モジュラスが2.5MPa以下であれば、特に限定さるものではない。具体的には、樹脂膜を構成する樹脂としては、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル、シリコーンまたは塩化ビニル等が挙げられる。この場合、これらの樹脂を単独で用いてもよいし、これらの樹脂の中の2種類以上を混合して用いてもよい。また、樹脂に可塑剤を添加して100%モジュラスを2.5MPa以下に調節することもできるが、可塑剤を添加して100%モジュラスを調節した場合、塑性変形(降伏)しやすくなるため、キックバック性(伸長回復性)を低下させるおそれがある。したがって、繰り返しの伸縮に耐えうるとの観点から、可塑剤を添加せずとも樹脂膜の100%モジュラスが2.5MPa以下となるような樹脂を用いることが好ましい。さらに、本実施の形態における防風性布帛は、衣服等として用いたときの実着時の樹脂膜と身体等との擦れによる樹脂膜の剥離や欠損に対して耐性があることが好ましい。以上の観点から、樹脂膜を構成する樹脂としては、ポリウレタンおよびアクリル樹脂のいずれかの単独、または、ポリウレタンおよびアクリル樹脂の混合物を用いることが好ましい。また、樹脂膜を構成する樹脂としてポリウレタンを用いる場合、さらに耐久性が高いポリカーボネート系ポリウレタンを用いることが好ましい。
【0025】
本実施の形態にかかる防風性布帛に用いられる樹脂膜は、100%モジュラスが2.5MPa以下であり、1.8MPa以下であることがより好ましい。樹脂膜の100%モジュラスが2.5MPa以下であれば、編物と樹脂膜との一体感が強まり、衣服として用いた場合の着用時の違和感を大きく低減させることができる。一方、樹脂膜の100%モジュラスが低すぎると、製膜後の樹脂膜にべとつき感が発生してしまうおそれがあるため、樹脂膜の100%モジュラスは0.3MPa以上であることが好ましい。
【0026】
なお、樹脂膜の100%モジュラスは、樹脂単独で製膜したサンプルを用い、JIS L1096A法(ストリップ法)に準じて測定することができる。
【0027】
また、編物に樹脂溶液を塗付する際に樹脂溶液の粘度を調節するため、樹脂膜を構成する樹脂としては、加熱して流動するもの、溶媒に溶解するもの、分散媒に分散するもの等を用いるとよい。
【0028】
樹脂を溶解または分散させる溶媒または分散媒としては、水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イソプロピルアルコール(IPA)、イソブチルアルコール(IBA)等が挙げられ、これらを単独、または複数種配合して用いてもよい。
【0029】
また、樹脂膜を構成する樹脂には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、可塑剤以外にも各種添加剤が添加されていてもよい。樹脂に添加する添加剤としては、例えば、イソシアネート系、オキサゾリン系、エポキシ系、カルボジイミド系などの架橋剤、多孔質シリカ、活性炭などの移行昇華防止剤、ポリオキシアルキレングリコール等の透湿性付与剤、顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、柔軟剤、浸透剤、撥水剤、乳化剤、増粘剤等が挙げられる。
【0030】
本実施の形態にかかる防風性布帛は、JIS L1096A法(フラジール形法)にて測定した通気度が5cm/cm・s以下であることが好ましく、3cm/cm・s以下であることがより好ましい。防風性の観点では、通気度は低い方が好ましいが、必要以上に通気度を下げると、編物に積層する樹脂膜の単位面積当たりの重量(樹脂目付)が大きくなり風合いが硬くなるおそれがあるため、防風性布帛の通気度は0.05cm/cm・s以上であることが好ましい。
【0031】
さらに、防風性布帛を衣服等として用いたときの実着時の繰り返しの伸縮に耐えうるとの観点では、防風性布帛を経方向および緯方向のそれぞれに10回ずつ20%の伸長と解放とを繰り返する伸縮操作を施した後に測定した通気度が5cm/cm・s以下であることが好ましく、3cm/cm・s以下であることがより好ましい。
【0032】
また、本実施の形態にかかる防風性布帛は、衣服内の蒸れを抑える観点から、JIS L1099A-1法(塩化カルシウム法)にて測定した透湿度が3000g/m・24hrs以上、およびJIS L1099B-1法(酢酸カリウム法)にて測定した透湿度が15000g/m・24hrs以上であることが好ましい。さらに、防風性布帛は、JIS L1099A-1法による透湿度が4000g/m・24hrs以上、およびJIS L1099B-1法による透湿度が25000g/m・24hrs以上であることがより好ましい。一方、透湿度が高すぎると汗の蒸発が早すぎて体が冷えてしまうので、JIS L1099A-1法による透湿度が20000g/m・24hrs以下、およびJIS L1099B-1法による透湿度が100000g/m・24hrs以下であることが好ましい。
【0033】
このように構成される本実施の形態にかかる防風性布帛は、伸縮性の高い布帛である編物を用いており、樹脂膜の100%モジュラスが2.5MPa以下という比較的柔らかい樹脂膜が編物の片面に積層されているため、一般的な糸の太さやゲージ数であり、度目詰めを行わない編物であっても優れた防風性を有しており、高密度品と比較して運動を阻害しない柔らかな風合いを兼ね備えている。
【0034】
以上、本実施の形態にかかる防風性布帛によれば、編物に樹脂膜が付与された布帛であっても、優れた防風性を有しつつ柔らかな風合いの防風性布帛を実現することができる。
【0035】
したがって、本実施の形態にかかる防風性布帛を用いて衣服等を製造すれば、ストレッチ性が高く保温性にも優れた衣料として、カーディガン、セーター、ジャケット等の一般衣料、陸上競技、球技、自転車競技等のスポーツにおいてスポーツ選手等が着用する、シャツ、ワンピース、タイツ、ウォームアップスーツ、ユニフォーム、ウィンドブレーカー等のスポーツ用衣料、または、作業服等を製造することができる。
【0036】
次に、本実施の形態にかかる防風性布帛の製造方法について説明する。なお、本実施の形態にかかる防風性布帛は、以下に説明する製造方法で得られるものに限定されるものではない。
【0037】
まず、防風性布帛の基材となる編物を準備する。編物には、上記のものが用いられ、必要に応じて、湯洗い、精練、リラックス、熱セット等の加工を行ってもよい。これらの加工は公知の方法で行うことができる。なお、上記以外の他の性能を付与するために、特殊な条件にてこれらの加工を行ってもよい。
【0038】
また、編物には、必要に応じて、染色加工、捺染加工、撥水加工、制電加工、吸水加工、SR加工、抗菌防臭加工、制菌加工、消臭加工、紫外線遮蔽加工、防炎加工、カレンダー加工等を行ってもよい。特に、樹脂溶液の含浸抑制の観点から、編物に撥水加工および/またはカレンダー加工を施すとよい。
【0039】
例えば、編物に撥水加工を施す場合、フッ素系、シリコーン系またはパラフィン系等の撥水剤を、パディング法やスプレー法等で編物に付与した後、40~140℃にて10~600秒程度乾燥し、必要に応じて130~200℃にて5~300秒程度の熱処理を行う。
【0040】
また、編物にカレンダー加工を施す場合、カレンダー加工は、公知の方法で行えばよく、特に限定されるものではないが、一例として、室温~200℃、圧力(線圧)100~350kgf/cm程度にてカレンダー加工を行うとよい。
【0041】
次に、編物の片面に樹脂膜を形成する。具体的には、編物の片面に樹脂または樹脂組成物を塗布することによって編物の片面に直接樹脂膜を積層する。一例として、編物の片面に樹脂溶液を塗布することによって編物の片面に樹脂膜を積層できるが、これに限らない。
【0042】
一般的に、布帛に樹脂膜を形成する方法としては、樹脂液中に布帛をパディングして樹脂含浸させる方法や、あらかじめ作製しておいた樹脂膜を接着剤を介して布帛に積層するラミネート法等が挙げられるが、樹脂溶液を布帛に含浸する方法を用いると布帛の厚み方向全域に樹脂が存在することとなり、付与する樹脂量が多くなるとともに布帛の風合いを硬化させてしまう。また、ラミネート法では、樹脂膜を布帛に固着させる接着剤が、その期待する役割が故に布帛の風合いを硬化させてしまう。
【0043】
一方、本実施の形態では、樹脂または樹脂組成物を塗布した面とは反対側の面(裏面)にまで樹脂または樹脂組成物が含浸しないように編物の片面に樹脂膜を形成している。このように、編物の片面に直接樹脂膜を積層することで、防風性を担う比較的柔らかい樹脂そのものが編物に固着するので、風合いの柔らかい布帛を得ることができる。
【0044】
編物の片面に直接樹脂膜を積層する具体的な方法としては、樹脂または樹脂組成物をコーティングするコーティング法が好適に用いられる。コーティング法としては、公知のコーティング法を用いることができ、ナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、リバースコーターまたは押し出しコーター等が用いられる。これらのコーティング法を用いて、反応して硬化する液状モノマーや、加熱溶融、または溶媒もしくは分散媒を適宜用いるなどで流動性を与えた前記の樹脂または樹脂組成物を編物の片面に塗布することにより、樹脂を編物に付与する。
【0045】
編物の片面に樹脂または樹脂組成物を塗布した後、加熱または活性エネルギー線の照射による樹脂の硬化や、冷却による固化、乾燥による溶媒または分散媒の除去等を行うことで、樹脂膜を編物の片面に製膜する。
【0046】
溶媒または分散媒を用いた場合は、その溶媒または分散媒、使用した樹脂や添加剤にもよるが、例えば、編物の片面に樹脂溶液を塗布した後、40~140℃にて10~600秒程度乾燥し、必要に応じて130~200℃にて5~300秒程度の熱処理を行う。これにより、編物の片面に樹脂膜を形成することができる。なお、乾燥を省略し、上記の熱処理条件にて、乾燥と熱処理とを同時に行ってもよい。
【0047】
なお、編物の片面に直接樹脂膜を積層する工程では、樹脂溶液を塗布した面とは反対側の面(裏面)にまで樹脂溶液が含浸しないように編物の片面に樹脂膜を形成している。
【0048】
その後、必要に応じて、染色加工、捺染加工、撥水加工、制電加工、吸水加工、SR加工、抗菌防臭加工、制菌加工、消臭加工、紫外線遮蔽加工、防炎加工、カレンダー加工、仕上げセットを公知の方法で行ってもよい。
【0049】
以上により、本実施の形態にかかる防風性布帛を製造することができる。つまり、編物に樹脂膜が付与された布帛であっても、優れた防風性を有しつつ柔らかな風合いの防風性布帛を製造することができる。
【実施例
【0050】
以下、本実施の形態における防風性布帛を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載される「部」は質量部のことである。また、各実施例および比較例における各種物性等は、以下の方法にて測定した。
【0051】
[樹脂膜の100%モジュラス]
樹脂膜を均一な厚みで製膜した後、幅25mm×長さ200mmのサイズに切り出し、試験片として用いた。操作は、JIS L1096(2010)A法(ストリップ法)に準じ、つかみ間隔:100mm、引張速度:150mm/minで試験片を引っ張り、100%伸長時の引張強さを読み取った。さらに、得られた引張強さを試験片の幅と厚みで割ることにより、Pa単位に換算した。
【0052】
[通気度]
JIS L1096(2010)A法(フラジール形法)に準じて測定した。また、初期の試験体と下記の伸縮操作を行った試験体のそれぞれについて測定した。
【0053】
[透湿度]
塩化カルシウム法 JIS L1099(2012)A-1法に準じて測定した。
【0054】
酢酸カリウム法 JIS L1099(2012)B-1法に準じて測定した。
【0055】
なお、接水面は樹脂膜面とし、いずれの透湿度も24時間当りの透湿量に換算した。
【0056】
[伸縮操作]
布帛を20cm×20cmに切り出したものを試験体とした。この試験体の経方向の2辺をクリップにて、つかみ間隔15cmで把持し、18cm(20%)まで伸長させた後、除荷した。前記伸長と除荷の操作を10回繰り返した後、クリップでの把持を緯方向の2辺に変え、さらに前記伸長と除荷との操作を10回繰り返した。得られた試験体の通気度を上記の方法で測定した。
【0057】
[風合い]
布帛を15cm×15cmに切り出したものを試験体とした。この試験体を試験者に片手で揉ませ、以下の3つの評価基準で触感を評価させた。
【0058】
◎:編物と樹脂膜に一体感があり違和感がなく非常にソフト
○:編物と樹脂膜に一体感があり違和感がなくソフト
×:編物と樹脂膜に一体感がなく違和感がありハード
【0059】
(実施例1)
ポリエステル繊維を用いた編物(スムース、40ゲージ/2.54cm、22dtex/24フィラメント)を分散染料で青色に染色し、熱セットを行った。次に、パディング法にてアサヒガードAG710(旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤)5質量%水溶液を編物に付与し、120℃にて30秒乾燥し、続いて150℃にて30秒熱処理を行うことで、撥水処理した編物を得た。
【0060】
次に、この撥水処理した編物の片面に、コーティング法により下記樹脂組成物をナイフコーターを用いて塗布した。続いて、150℃で90秒熱処理し、防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0061】
(樹脂組成物)
エラストジル LR3003/50 A材 50部
エラストジル LR3003/50 B材 50部
(シリコーン樹脂、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)
【0062】
(実施例2)
樹脂組成物として下記のものを用いた以外は実施例1と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0063】
(樹脂組成物)
クリスボン 5116ELD 100部
(ポリエステル系ポリウレタン、DIC株式会社製)
MEK 20部
コロネート HL 1部
(イソシアネート系架橋剤、東ソー株式会社製)
【0064】
(実施例3)
樹脂組成物として下記のものを用いた以外は実施例1と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0065】
(樹脂組成物)
ハイドラン WLS-210 100部
(ポリカーボネート系ポリウレタン、DIC株式会社製)
デュラネート WB40-100 1部
(イソシアネート系架橋剤、旭化成株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
【0066】
(実施例4)
樹脂組成物として下記のものを用いた以外は実施例1と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0067】
(樹脂組成物)
スーパーフレックス 460 100部
(ポリカーボネート系ポリウレタン、第一工業製薬株式会社製)
デュラネート WB40-100 1部
(イソシアネート系架橋剤、旭化成株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
【0068】
(実施例5)
積層した樹脂膜の目付を変更した以外は実施例4と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0069】
(実施例6)
樹脂組成物として下記のものを用いた以外は実施例1と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0070】
(樹脂組成物)
スーパーフレックス 460 100部
(ポリカーボネート系ポリウレタン、第一工業製薬株式会社製)
ニューポール 80-4000 2部
(ポリオキシアルキレングリコール系透湿性付与剤、三洋化成工業株式会社製)
デュラネート WB40-100 1部
(イソシアネート系架橋剤、旭化成株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
【0071】
(実施例7)
ポリエステル繊維を用いた編物(スムース、40ゲージ/2.54cm、33dtex/36フィラメント)を使用した以外は実施例6と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0072】
(実施例8)
樹脂組成物として下記のものを用いた以外は実施例1と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0073】
(樹脂組成物)
ニューコート FH-251HN 100部
(アクリル酸エステル系樹脂、新中村化学工業株式会社製)
デュラネート WB40-100 1部
(イソシアネート系架橋剤、旭化成株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
【0074】
(実施例9)
樹脂組成物として下記のものを用いた以外は実施例1と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0075】
(樹脂組成物)
ボンコート HY-364 100部
(ポリウレタンとアクリル樹脂の混合物、DIC株式会社製)
デュラネート WB40-100 1部
(イソシアネート系架橋剤、旭化成株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
【0076】
(比較例1)
編物に樹脂組成物を塗布しないこと以外は実施例1と同様の方法で布帛を得た。得られた布帛の性能を表1に記した。
【0077】
(比較例2)
樹脂組成物として下記のものを用いた以外は実施例1と同様の方法で防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた布帛の性能を表1に記した。
【0078】
(樹脂組成物)
クリスボン S-121 100部
(ポリカーボネート系ポリウレタン、DIC株式会社製)
MEK 20部
コロネート HL 1部
(イソシアネート系架橋剤、東ソー株式会社製)
【0079】
(比較例3)
離型紙上に下記の樹脂組成物をバーコーターを用いて塗布し、120℃で120秒乾燥し、樹脂膜を製膜した。
【0080】
(樹脂組成物)
ハイドラン WLS-210 100部
(ポリカーボネート系ポリウレタン、DIC株式会社製)
ネオステッカー N 1.5部
(増粘剤、日華化学株式会社製)
【0081】
次に、このように作製した樹脂膜上に下記の接着剤組成物をグラビアコーターを用いて転写し、90℃で90秒乾燥し、樹脂膜上に格子状に接着剤を転写した。
【0082】
(接着剤組成物)
クリスボン 4070 100部
(ポリウレタン接着剤、DIC株式会社製)
トルエン 50部
コロネート L 12部
(イソシアネート系架橋剤、東ソー株式会社製)
N-メチルジエタノールアミン 0.2部
【0083】
次に、樹脂膜に形成された接着剤を介してこの樹脂膜と実施例1で用いた編物とを貼り合せ、ニップロールを用いて100℃で熱圧着した。その後、70℃で24時間エージングしてから離型紙を剥離することで、防風性布帛を得た。用いた樹脂膜と得られた防風性布帛の性能を表1に記した。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、樹脂膜の100%モジュラスが3.5MPaである樹脂を編物にコーティングした比較例2の防風性布帛は、編物と樹脂膜との一体感がなく違和感があり、硬い風合いであった。
【0086】
これとは対照的に、樹脂膜の100%モジュラスがいずれも2.5MPa以下である樹脂を編物にコーティングした実施例1~9の全ての防風性布帛は、編物と樹脂膜とに一体感があって違和感がなく柔らかな風合いであった。特に、樹脂膜の目付が比較例2と同等かそれ以上の実施例1~実施例4においてでさえも、編物と樹脂膜とに一体感があって違和感がなく柔らかな風合いの防風性布帛を得ることができた。
【0087】
さらに、比較例3の防風性布帛は、樹脂膜の100%モジュラスが2.4MPaであり、かつ樹脂膜の目付が実施例1~8の防風性布帛の目付以下であっても、ラミネート法を用いて樹脂膜を編物に積層したことにより、編物と樹脂膜との一体感がなく違和感があり、硬い風合いであった。
【0088】
以上の結果より、編物の片面に100%モジュラスが2.5MPa以下の樹脂膜を直接積層することにより、優れた防風性を有しつつ柔らかな風合いの防風性布帛を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明にかかる防風性布帛は、衣服等に用いることができる。特に、本発明にかかる防風性布帛は、優れた防風性を有しており、高密度品と比較して運動を阻害しない柔らかな風合いを兼ね備えているので、カーディガン、セーター、ジャケット等の一般衣料、スポーツ選手等が着用する、シャツ、ワンピース、タイツ、ウォームアップスーツ、ユニフォーム、ウィンドブレーカー等のスポーツ用衣料、または、作業服等に適している。