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特許7377636硬化性組成物およびその製造方法、眼鏡レンズ、眼鏡ならびに眼鏡レンズの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】硬化性組成物およびその製造方法、眼鏡レンズ、眼鏡ならびに眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/26 20060101AFI20231102BHJP
   C08G 59/30 20060101ALI20231102BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20231102BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20231102BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20231102BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C08G77/26
C08G59/30
C09D183/08
C07F7/18 P
G02C7/00
G02B5/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019120665
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021006600
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】関口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 匡人
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-021390(JP,A)
【文献】特開平08-245944(JP,A)
【文献】特開2000-160130(JP,A)
【文献】特開2013-190542(JP,A)
【文献】米国特許第06072018(US,A)
【文献】特開平09-265059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00- 77/62
C08G 59/00- 59/72
C09D 1/00- 10/00
C09D 101/00-201/10
C09D 183/08
C07F 7/18
G02C 7/00
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を含み、
前記有機ケイ素化合物は、下記一般式(A)で表されるベンゾトリアゾール系化合物と下記一般式(C)で表されるイソシアネート基含有化合物とのウレタン化反応により得られた有機ケイ素化合物である、硬化性組成物。
【化1】
(一般式(A)中、R 10 は1価の置換基を表し、該1価の置換基は脂肪族炭化水素基であり、m1は0または1であり、n1は1~3の範囲の整数である。)
【化2】
(一般式(C)中、R 1 は2価の連結基を表し、R 2 、R 3 およびR 4 は、それぞれ独立にアルコキシ基またはアルキル基を表し、ただしR 2 、R 3 およびR 4 のうちの1つ以上はアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
コーティング組成物である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
眼鏡レンズ用コーティング組成物である、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性組成物を硬化させた硬化層を有する眼鏡レンズ。
【請求項5】
請求項に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性組成物の製造方法であって、
下記一般式(A)で表されるベンゾトリアゾール系化合物と下記一般式(C)で表されるイソシアネート基含有化合物とをウレタン化反応させることにより前記有機ケイ素化合物を得ること、および、
得られた有機ケイ素化合物を一種以上の他の成分と混合することにより硬化性組成物を調製すること、
を含む、硬化性組成物の製造方法。
【化3】
(一般式(A)中、R 10 は1価の置換基を表し、該1価の置換基は脂肪族炭化水素基であり、m1は0または1であり、n1は1~3の範囲の整数である。)
【化4】
(一般式(C)中、R 1 は2価の連結基を表し、R 2 、R 3 およびR 4 は、それぞれ独立にアルコキシ基またはアルキル基を表し、ただしR 2 、R 3 およびR 4 のうちの1つ以上はアルコキシ基を表す。)
【請求項7】
前記他の成分は、前記有機ケイ素化合物とは異なる有機ケイ素化合物を含む、請求項に記載の硬化性組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の硬化性組成物をレンズ基材上に塗布して塗布層を形成すること、および、
前記塗布層に硬化処理を施して硬化層を形成すること、
を含む、眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物およびその製造方法、眼鏡レンズ、眼鏡ならびに眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、通常、レンズ基材の上に一層以上の機能性層が形成された構成を有する。例えば、特許文献1には、紫外線吸収剤を含むハードコート層をレンズ基材(特許文献1におけるレンズ基板)の上に有する眼鏡レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-265059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズ基材の上に位置する層に紫外線吸収剤を含有させることにより、この層に紫外線吸収性を付与することができる。眼鏡レンズが紫外線吸収性を有する層を含むことは、眼鏡レンズが屋外等で紫外線に晒されて劣化することを抑制するうえで望ましい。更に、紫外線吸収剤を含む層の耐候性を向上させることができれば、眼鏡レンズの劣化を更に抑制することが可能となるため、より一層望ましい。
【0005】
本発明の一態様は、優れた耐候性を有する層を含む眼鏡レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を含む硬化性組成物、
に関する。
【0007】
上記硬化性組成物は、例えば、眼鏡レンズのレンズ基材上に硬化層を形成するために用いることができる。こうして形成される硬化層は、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を含み、優れた耐候性を示すことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、優れた耐候性を有する硬化層を含む眼鏡レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[硬化性組成物およびその製造方法]
以下、上記硬化性組成物およびその製造方法について更に詳細に説明する。
【0010】
<有機ケイ素化合物>
上記硬化性組成物は、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を含む。上記有機ケイ素化合物は、紫外線吸収性部位を含むため紫外線吸収剤として機能することができ、かつシランカップリング性部位を含むため硬化性成分として機能することができる。硬化性成分とは、硬化性組成物の硬化に寄与し得る成分をいうものとする。上記有機ケイ素化合物は、紫外線吸収性部位がシランカップリング性部位とウレタン結合により連結された構造を有することにより、そのような構造を有さない紫外線吸収剤より優れた耐候性を示すことができる。更に、上記有機ケイ素化合物を含む硬化層は、この層と隣接する部分に対して優れた密着性を示すこともできる。また、上記有機ケイ素化合物を含む硬化層は、優れた紫外線吸収性を示すこともできる。
以下、上記有機ケイ素化合物について、更に詳細に説明する。
【0011】
(紫外線吸収性部位)
本発明および本明細書において、紫外線吸収性とは、少なくとも300nm~380nmの波長域の光に対して吸収性を示す性質をいうものとする。そのような性質を示す紫外線吸収性部位としては、紫外線吸収性を示す化合物として一般に知られている化合物の構造を有する部位を挙げることができる。具体例としては、ベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、ベンゾエート骨格、シアノアクリレート骨格、インドール骨格、ヒンダードアミン骨格、アゾメチン骨格、サリシレート骨格、アントラセン骨格、アクリロニトリル骨格、ナフタルイミド骨格、アジン骨格等の一種または二種以上を有する部位を挙げることができる。例えば、一態様では、上記有機ケイ素化合物が有する紫外線吸収性部位は、ベンゾトリアゾール骨格含有部位であることができる。ベンゾトリアゾール骨格は、2H-ベンゾトリアゾール骨格であってもよく、その異性体の骨格である1H-ベンゾトリアゾール骨格であってもよい。また、他の一態様では、上記有機ケイ素化合物が有する紫外線吸収性部位は、ベンゾフェノン骨格含有部位であることができる。上記紫外線吸収性部位は、有機ケイ素化合物に1分子あたり少なくとも1つ含まれればよい。
【0012】
(シランカップリング性部位)
本発明および本明細書において、シランカップリング性部位とは、シランカップリング反応し得る基を含む部位をいうものとする。そのようなシランカップリング性部位としては、シランカップリング剤として一般に知られている化合物が有する構造を含む部位を挙げることができる。一般に、シランカップリング剤は、Z-SiR3で表される化合物であることができ、Zは置換基を表し、1分子あたり3つ含まれるRは同一または異なる基であって、そのうちの1つ、2つまたは3つはアルコキシ基を表すことができる。Rとしてアルコキシ基以外の基が含まれる場合、かかる基はアルキル基等の置換基であることができる。上記シランカップリング性部位は、有機ケイ素化合物の1分子あたり少なくとも1つ含まれればよい。
【0013】
(紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とを連結する結合)
上記有機ケイ素化合物は、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された構造を有する。一態様では、ウレタン結合は、上記有機ケイ素化合物を含む硬化層が、この硬化層と隣接する部分に対して優れた密着性を示すことに寄与し得ると推察される。
【0014】
(有機ケイ素化合物の具体的態様)
上記硬化性組成物に含まれる有機ケイ素化合物は、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結されたものであればよく、各種構造を有することができる。上記有機ケイ素化合物の具体的態様としては、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0015】
【化1】
(一般式(1)中、Xは紫外線吸収性部位を表し、Lはウレタン結合を表し、R1は2価の連結基を表し、R2、R3およびR4は、それぞれ独立にアルコキシ基またはアルキル基を表し、ただしR2、R3およびR4のうちの1つ以上はアルコキシ基を表す。)
【0016】
一般式(1)中、Xは、紫外線吸収性部位を表し、その詳細は先に記載した通りである。
【0017】
一般式(1)中、Lは、ウレタン結合を表す。
【0018】
一般式(1)で表される化合物は、紫外線吸収性部位Xが、ウレタン結合Lを介して、-R1-SiR234(シランカップリング性部位)と連結している。ウレタン結合Lとケイ素原子Siとを連結するR1は、2価の連結基を表す。2価の連結基としては、アルキレン基、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合等の各種2価の連結基の一種または二種以上の組み合わせを挙げることができる。上記アルキレン基の炭素数は、1以上であることができ、2以上、または3以上であることもできる。また、上記アルキレン基の炭素数は、例えば10以下であることができ、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下または4以下であることもできる。上記アルキレン基は、直鎖状アルキレン基または分岐状アルキレン基であることができる。また、上記アルキレン基は、無置換アルキレン基であることができ、置換アルキレン基であることができる。置換アルキレン基の場合、置換アルキレン基が有する置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基、スルホン酸基の塩等を挙げることができる。また、本発明および本明細書において、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、特記しない限り、置換基の炭素数を含まない炭素数を意味するものとする。
【0019】
一般式(1)中、R2、R3およびR4は、それぞれ独立にアルコキシ基またはアルキル基を表し、ただしR2、R3およびR4のうちの1つ以上はアルコキシ基を表す。R2、R3およびR4がすべてアルコキシ基であってもよく、R2、R3およびR4のうちのいずれか1つまたは2つがアルコキシ基であり他がアルキル基であってもよい。複数のアルコキシ基は、同一のアルコキシ基であってもよく、異なるアルコキシ基であってもよい。アルコキシ基の炭素数は、1以上であり、2以上であることもできる、また、アルコキシ基の炭素数は、例えば5以下、4以下または3以下であることができる。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基等を挙げることができる。また、R2、R3およびR4のうちのいずれか1つがアルキル基である場合、かかるアルキル基は、炭素数が1以上であり、2以上または3以上であることもできる、また、かかるアルキル基の炭素数は、例えば8以下、7以下、6以下、5以下または4以下であることができる。
【0020】
(有機ケイ素化合物の合成方法)
上記有機ケイ素化合物は、紫外線吸収性部位を有する化合物とシランカップリング性部位を有する化合物とをウレタン化反応させることによって合成することができる。例えば、紫外線吸収性部位を有する化合物とシランカップリング性部位を有する化合物の一方の化合物としてヒドロキシ基含有化合物を使用し、他方の化合物としてイソシアネート基含有化合物を使用することにより、ヒドロキシ基とイソシアネート基との反応によってウレタン結合を形成することができる。化合物の入手の容易性の観点からは、紫外線吸収性部位を有する化合物としてヒドロキシ基含有化合物を使用し、シランカップリング性部位を有する化合物としてイソシアネート基を含有する化合物を使用することが好ましい。これら化合物のウレタン化反応により得られる有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1-1)で表される化合物を挙げることができる。
【0021】
【化2】
【0022】
一般式(1-1)中のX、R1、R2、R3およびR4については、それぞれ一般式(1)について先に説明した通りである。
【0023】
また、紫外線吸収性部位を有する化合物としてイソシアネート基含有化合物を使用し、シランカップリング性部位を有する化合物としてヒドロキシ基を含有する化合物を使用することも可能である。これら化合物のウレタン化反応により得られる有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1-2)で表される化合物を挙げることができる。
【0024】
【化3】
【0025】
一般式(1-2)中のX、R1、R2、R3およびR4については、それぞれ一般式(1)について先に説明した通りである。
【0026】
ヒドロキシ基含有化合物は、1分子あたり、1つ以上のヒドロキシ基を有し、2つ以上有することが好ましく、2~4つのヒドロキシ基を有することがより好ましい。イソシアネート基含有化合物は、1分子当たり、1つ以上のイソシアネート基を有し、1つまたは2つのイソシアネート基を有することが好ましく、1分子あたりのイソシアネート基の数は1つであることがより好ましい。上記有機ケイ素化合物を得るために使用されるヒドロキシ基含有化合物およびイソシアネート基含有化合物は、市販品として入手することができ、公知の方法で合成することもできる。ヒドロキシ基含有化合物が1分子あたり2つ以上のヒドロキシ基を有する場合、この化合物に含まれる一部のヒドロキシ基がイソシアネート基とウレタン結合を形成し、残りのヒドロキシ基は未反応の状態でヒドロキシ基として反応生成物である有機ケイ素化合物に含まれる場合もあり、この化合物に含まれるすべてのヒドロキシ基がイソシアネート基とウレタン結合を形成する場合もある。また、前者の場合の構造の化合物と後者の場合の構造の化合物が、紫外線吸収性部位を有する化合物とシランカップリング性部位を有する化合物とのウレタン化反応後の反応生成物に含まれる場合もある。この点は、イソシアネート基含有化合物が1分子あたり2つ以上のイソシアネート基を有する場合についても同様である。
【0027】
例えば、紫外線吸収性部位を有するヒドロキシ基含有化合物としては、下記一般式(A)で表されるベンゾトリアゾール系化合物を挙げることができる。
【0028】
【化4】
【0029】
一般式(A)中、R10は1価の置換基を表し、m1は0または1であり、n1は1~3の範囲の整数である。
10で表される1価の置換基としては、例えば脂肪族炭化水素基を挙げることができる。この脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば1~3の範囲であることができる。
上記脂肪族炭化水素基としては、例えばアルキル基を挙げることができ、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。このアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
m1は、好ましくは0である。
n1は、好ましくは2または3であり、より好ましくは2である。
【0030】
紫外線吸収性部位を有するヒドロキシ基含有化合物としては、下記一般式(B)で表されるベンゾフェノン系化合物を挙げることもできる。
【0031】
【化5】
【0032】
一般式(B)中、R11およびR12は、それぞれ独立に1価の置換基を挙げることができ、m2およびm3は、それぞれ独立に0または1であり、n2およびn3は、それぞれ独立に0~3の範囲の整数であり、ただしn2+n3は1以上の整数である。
11またはR12で表される1価の置換基としては、脂肪族炭化水素基を挙げることができる。この脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば1~3の範囲であることができる。
上記炭化水素基としては、例えばアルキル基を挙げることができ、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。このアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
m2およびm3は、好ましくは0である。
n2およびn3は、それぞれ独立に、好ましくは2または3であり、より好ましくは2である。
【0033】
また、シランカップリング性部位を有するイソシアネート基含有化合物としては、下記一般式(C)で表される有機ケイ素化合物を挙げることができる。
【0034】
【化6】
【0035】
一般式(C)中、R1、R2、R3およびR4については、それぞれ一般式(1)について先に説明した通りである。
【0036】
一態様では、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物は、一般式(A)で表される化合物と一般式(C)で表される化合物との反応生成物であることができる。また、一態様では、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物は、一般式(B)で表される化合物と一般式(C)で表される化合物との反応生成物であることができる。
【0037】
紫外線吸収性部位を有する化合物とシランカップリング性部位を有する化合物とのウレタン化反応は、例えば、触媒の存在下で行うことができる。ウレタン化反応のための触媒としては、例えば、ジブチル錫ジアセテ-ト、ジブチル錫ジラウレ-ト、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド、モノメチル錫トリクロライド、トリメチル錫クロライド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫フロライド、ジメチル錫ジブロマイド等の有機錫系化合物、第三級アミン(例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N.N-ジシクロヘキシルメチルアミン等の第三級アルキルアミン)等の公知の触媒を挙げることができる。また、反応温度、反応時間、反応溶剤の有無、溶剤を使用する場合の溶剤の種類等の反応条件については、ウレタン化反応に関する公知技術を適用することができる。
【0038】
上記硬化性組成物は、この組成物から形成される硬化層の紫外線吸収性向上の観点から、硬化性組成物に含まれる有効分の合計量(100質量%)に対して、上記有機ケイ素化合物を、例えば、5.0質量%以上含むことが好ましく、6.0質量%以上含むことがより好ましく、7.0質量%以上含むことが更に好ましく、8.0質量%以上含むことが一層好ましく、8.6質量%以上含むことがより一層好ましい。また、上記有機ケイ素化合物の含有量は、上記硬化性組成物に含まれる有効分の合計量に対して、例えば、30.0質量%以下、28.0質量%以下または26.0質量%以下であることができ、24.7質量%未満であることが好ましい。ここで有効分とは、溶剤以外の成分をいうものとする。
【0039】
<他の成分>
上記硬化性組成物は、上記有機ケイ素化合物を少なくとも含み、一種以上の他の成分を含むことができる。他の成分としては、例えば、上記有機ケイ素化合物以外の有機ケイ素化合物を挙げることができる。そのような有機ケイ素化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物を挙げることができる。かかる有機ケイ素化合物は、イソシアネート基およびヒドロキシ基の一方または両方を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0040】
【化7】
(一般式(2)式中、R21は、置換または無置換の炭素数1~20の1価の炭化水素基を表し、R22およびR23は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基を表し、aは1~3の範囲の整数であり、bは0~3の範囲の整数であり、ただし(a+b)は3以下の整数である。)
【0041】
21が置換基を有する場合、置換基としては、各種置換基を挙げることができ、一例として、エポキシ基含有置換基を挙げることができる。エポキシ基含有置換基としては、例えば、エポキシ基、グリシジルオキシ基が挙げられる。
21の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10以下である。なお、R21の炭素数とは、R21が置換基を有する場合には置換基の炭素数も含むR21部の総炭素数を意味する。
【0042】
22またはR23で表されるアルキル基は、好ましくは炭素数1~8の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基である。その具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、へキシル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が挙げられる。
22またはR23で表されるアリール基は、好ましくは炭素数6~10のアリール基である。その具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基等が挙げられる。
22またはR23で表されるアラルキル基は、好ましくは炭素数7~10のアラルキル基である。その具体例としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
22またはR23で表されるアシル基は、好ましくは炭素数2~10のアシル基である。その具体例としては、例えば、アセチル基等が挙げられる。
上記の中でも、R22およびR23は、それぞれ独立にメチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0043】
一般式(2)中、aは、1~3の範囲の整数であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。
bは、0~3の範囲の整数であり、好ましくは0または1であり、より好ましくは0である。
一般式(2)中、R21が複数存在する場合、その複数のR21は、同一でも異なっていてもよい。この点は、R22およびR23についても同様である。
【0044】
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-エチル-3-{[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタンが挙げられる。これらの中でも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0045】
上記硬化性組成物が、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物以外の有機ケイ素化合物を含む場合、その含有量は、特に限定されるものではなく、任意の範囲であることができる。
【0046】
また、上記硬化性組成物は、2官能以上の多官能エポキシ化合物を含有していてもよく、含有しなくてもよい。多官能エポキシ化合物は、有機ケイ素化合物ではないことが好ましい。
多官能エポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レソルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エチレン-ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレン-ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノールポリエチレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ラウリルアルコールポリエチレンオキサイド付加物のグリシジルエーテル、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。上記硬化性組成物に有機ケイ素化合物ではない多官能エポキシ化合物が含まれる場合、その含有量は、上記硬化性組成物の有効分の合計量に対して、好ましくは1~30質量%の範囲であり、より好ましくは3~20質量%の範囲であり、更に好ましくは5~10質量%の範囲である。
【0047】
上記硬化性組成物は、一種以上の硬化触媒を含むことができる。硬化触媒としては、公知の触媒を使用することができ、例えば、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)等が挙げられる。硬化触媒の含有量は、上記硬化性組成物の有効分の合計量に対して、好ましくは0.1~20質量%の範囲であり、より好ましくは0.5~10質量%の範囲であり、更に好ましくは1~5質量%の範囲である。
【0048】
上記硬化性組成物は、溶剤を含まなくてもよく、組成物の塗布性向上等のために一種以上の溶剤を含んでもよい。溶剤としては、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アセタール系溶剤、アルコール系溶剤および非極性溶剤からなる群から選ばれる一種以上の有機溶剤が好ましく、具体例としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。上記硬化性組成物が溶剤を含む場合、硬化性組成物における有効分の合計量は、溶剤を含む硬化性組成物の全成分の合計量(100質量%)に対して、好ましくは1~70質量%の範囲であり、より好ましくは5~50質量%の範囲であり、更に好ましくは10~40質量%である。
【0049】
上記硬化性組成物は、この組成物から形成される硬化層の屈折率調整等のために一種以上のフィラーを含むことができる。フィラーとしては、無機酸化物を挙げることができ、具体例としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステン等が挙げられる。上記硬化性組成物中、無機酸化物の含有量は、硬化性組成物の有効分の合計量に対して、好ましくは10~80質量%の範囲であり、より好ましくは20~70質量%の範囲であり、更に好ましくは30~60質量%の範囲である。硬化性組成物を調製する際、無機酸化物は、無機酸化物粒子等の無機酸化物ゾルとして添加してもよい。また、無機酸化物粒子は、有機処理剤等によって表面処理されていてもよい。無機酸化物粒子の平均粒径は、好ましくは1~100nmの範囲であり、より好ましくは5~50nmの範囲であり、更に好ましくは8~30nmの範囲である。ここで、無機酸化物粒子の平均粒径は、BET(Brunauer-Emmett-Teller equation)法による比表面積データから算出される値である。
【0050】
上記硬化性組成物は、上記成分に加えて一種以上の添加剤を含んでもよく、含まなくてもよい。添加剤としては、レベリング剤、フッ素化合物、染料、顔料、フォトクロミック剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定剤等の公知の添加剤の一種以上を挙げることができる。添加剤は、添加する目的に応じて任意の量で使用することができる。
【0051】
<硬化性組成物の製造方法>
上記硬化性組成物は、紫外線吸収性部位を有するヒドロキシ基含有化合物とシランカップリング性部位を有するイソシアネート基含有化合物とをウレタン化反応させることにより上記有機ケイ素化合物を得ること、および、得られた有機ケイ素化合物を一種以上の他の成分と混合することにより硬化性組成物を調製すること、を含む製造方法によって製造することができる。
【0052】
紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を得るための工程については、先に記載した通りである。一態様では、この工程により得られた反応物(例えば液状の反応物(反応液))に、硬化性組成物を調製するための各種成分を、任意の順序で、または同時に、添加して撹拌し混合することによって、上記硬化性組成物を調製することができる。また、他の一態様では、上記有機ケイ素化合物を得るための工程の後に反応物を精製工程に付し、上記有機ケイ素化合物を単離するか、または高純度化する工程を行った後、上記有機ケイ素化合物を硬化性組成物を調製するための各種成分と、任意の順序で、または同時に、添加して撹拌し混合することによって、上記硬化性組成物を調製することもできる。前者の態様は、工程数が少ないため、製造上、好ましい。
【0053】
以上説明した硬化性組成物は、被覆層(硬化層)を形成するためのコーティング組成物として用いることができる。好ましくは、上記硬化性組成物は、各種光学物品用のコーティング組成物として用いることができる。光学物品としては、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ等の各種レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることができる。これら光学物品用の基材上に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって硬化層を形成することができる。こうして形成される硬化層は、ハードコート層として、光学物品の耐久性向上等に寄与することができる。また、上記硬化層は、優れた紫外線吸収性を示すことができる。より好ましくは、上記硬化性組成物は、眼鏡レンズ用コーティング組成物であることができる。
【0054】
[眼鏡レンズおよびその製造方法]
本発明の一態様は、上記硬化性組成物を硬化させた硬化層を有する眼鏡レンズに関する。上記眼鏡レンズは、上記硬化性組成物をレンズ基材上に塗布して塗布層を形成すること、および、上記塗布層に硬化処理を施して硬化層を形成すること、を含む製造方法によって製造することができる。こうして、レンズ基材と上記硬化層とを有する眼鏡レンズを得ることができる。
【0055】
上記硬化層の厚さは、例えば眼鏡レンズに通常設けられるハードコート層の厚さと同様の厚さとすることができ、例えば、0.5~50μmの範囲であることが好ましく、5~20μmの範囲であることがより好ましく、1~5μmの範囲であることが更に好ましい。
【0056】
上記眼鏡レンズに含まれるレンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.50~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、屈折率neをいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。レンズ基材の厚さおよび直径は、特に限定されるものではない。例えば、レンズ基材の厚さは0.5~30mm程度であることができ、レンズ基材の直径は50~100mm程度であることができる。
【0057】
上記眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。上記硬化層は、レンズ基材の物体側表面上および眼球側表面上の一方または両方に設けることができる。レンズ基材表面は、硬化性組成物の塗布前に、酸、アルカリ、有機溶剤等による化学処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、洗浄液による洗浄処理等の一種以上の前処理に付すこともできる。また、レンズ基材と上記硬化層との間に一層以上の他の層が含まれてもよく、含まれなくてもよい。上記の他の層としては、後述の各種機能性層の一層以上を挙げることができる。
【0058】
上記硬化性組成物の塗布は、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法によって行うことができる。硬化処理は、加熱および/または光照射であることができる。硬化処理条件は、上記組成物に含まれる各種成分の種類および上記組成物の組成に応じて決定すればよい。例えば、加熱による硬化処理(熱硬化)について、加熱温度は、好ましくは60~180℃、より好ましくは70~150℃、更に好ましくは80~130℃である。上記加熱温度は、加熱を行う雰囲気温度である。熱硬化中、加熱温度は変化させてもよく、変化させなくてもよい。加熱時間は、好ましくは30分間~5時間であり、より好ましくは40分間~4時間であり、更に好ましくは45分間~3時間である。
【0059】
上記眼鏡レンズは、上記硬化層に加えて一層以上の機能性層を有してもよく、有さなくてもよい。機能性層としては、反射防止層、フォトクロミック層、偏光層、プライマー層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の眼鏡レンズの機能性層として公知の層を挙げることができる。
【0060】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例
【0061】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の室温は、20~25℃の範囲である。特記しない限り、以下に記載の各種操作および評価は、大気中、室温下で行った。また、以下に記載の温度は、特記しない限り、反応液の液温である。
【0062】
[実施例1]
(1)硬化性組成物の調製
容器(以下、「容器1」と記載する。)に、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(紫外線吸収剤)およびジブチル錫ジアセテ-ト(触媒)、(3-イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン(イソシアネート基含有シランカップリング剤)を添加し、80℃で3時間撹拌した。
【0063】
【化8】
【0064】
【化9】
【0065】
上記で得られた反応物の一部を採取してFT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)分析を行い得られたFT-IRスペクトルでは、上記イソシアネート基含有シランカップリング剤をFT-IR分析して得られたFT-IRスペクトルで確認された波数2160~2330cm-1付近のイソシアネートのピークは見られず、他方で波数1670~1750cm-1付近にウレタンのピークが確認された。この結果から、上記紫外線吸収剤に含まれるヒドロキシ基と上記シランカップリング剤に含まれるイソシアネート基とのウレタン化反応が進行し、イソシアネート基の全量がウレタン化反応に供されてウレタン結合が形成されたことが確認された。
【0066】
上記反応物を含む容器1に、容器内の反応物を室温で撹拌しながら、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを添加し、その後、メタノール(溶剤)を添加した。
上記容器とは別の容器(以下、「容器2」と記載する。)に、シリカゾル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、水およびトリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)をこの順で順次添加した後、室温で3時間撹拌を行った。撹拌を継続しながら、この容器2に、容器1中の反応液を添加した。その後、撹拌を継続しながら、容器2にレベリング剤を添加した後、約5℃で144時間撹拌を行い、次いで室温で48時間撹拌を行った。
こうして、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を含む硬化性組成物が調製された。硬化性組成物調製時の上記の各種成分の使用量(単位:質量%)を表1に示す。
【0067】
(2)眼鏡レンズの作製
眼鏡用レンズ基材(S-4.00D、屈折率1.67、直径75mm、肉厚1.0mm、ポリチオウレタン樹脂)を、濃度10質量%の水酸化ナトリウム水溶液(液温45℃)にて10分間浸漬処理した後に純水にて洗浄し、乾燥させた。
その後、上記硬化性組成物をディップコート法により上記レンズ基材の凸面(物体側表面)および凹面(眼球側表面)に塗布して塗布層を形成した後、炉内雰囲気温度80℃の熱処理炉内で20分間加熱し、その後、炉内雰囲気温度を110℃に昇温して更に2時間加熱することにより、塗布層を熱硬化させた。
こうして、厚さ3.1μmの硬化層を物体側と眼球側にそれぞれ有する眼鏡レンズを作製した。
【0068】
[実施例2~5]
硬化性組成物調製時の各種成分の使用量を表1に示すように変更した点以外、実施例1と同様にして硬化性組成物を調製した。実施例2~5についても、実施例1と同様にFT-IR分析を行い、イソシアネートのピークの消失およびウレタンのピークの存在を確認した。
調製された硬化性組成物を用いて、実施例1と同様に両面に硬化層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0069】
[比較例1~3]
(3-イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン(イソシアネート基含有シランカップリング剤)を使用せず、硬化性組成物調製時の上記成分の使用量を表1に示すように変更した点以外、実施例1と同様にして硬化性組成物を調製した。
調製された硬化性組成物を用いて、実施例1と同様に両面に硬化層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0070】
[実施例6]
紫外線吸収剤として2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンを使用し、硬化性組成物調製時に各種化合物を表2に示す量で使用した点以外、実施例1と同様にして硬化性組成物を調製した。実施例6についても、実施例1と同様にFT-IR分析を行い、イソシアネートのピークの消失およびウレタンのピークの存在を確認した。
調製された硬化性組成物を用いて、実施例1と同様に両面に硬化層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0071】
【化10】
【0072】
[比較例4]
(3-イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン(イソシアネート基含有シランカップリング剤)を使用せず、紫外線吸収剤として2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノンを使用し、硬化性組成物調製時の上記成分の使用量を表2に示すように変更した点以外、実施例1と同様にして硬化性組成物を調製した。
調製された硬化性組成物を用いて、実施例1と同様に両面に硬化層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
上記表中の各種成分は、以下の通りである。
シリカゾル:酸化ケイ素の濃度:30質量%、分散媒:プロピレングリコールモノメチルエーテル
Si-1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
Si-2:(3-イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン
Al(acac)3:トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)
Sn cat.:ジブチル錫ジアセテート
UV-1:2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール
UV-2:2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
MeOH:メタノール
【0076】
[評価方法]
【0077】
<耐候性の評価>
QUV紫外線蛍光管式促進耐候試験機(Q-Lab社製)において、温度45℃相対湿度90%の高温高湿度環境下、実施例および比較例の各眼鏡レンズの物体側表面に向けて0.77W/m2の条件で紫外線を断続的に照射した。表3(表3-1、表3-2)に示す日数が経過した段階で眼鏡レンズを試験機から一旦取り出して物体側の硬化層表面を目視観察し、以下の基準でクラック発生に関する評価を行った。目視観察後、眼鏡レンズを再び試験機に配置して紫外線照射を継続した。
(評価基準)
5:クラックなし
4:硬化層の表面の外周部に軽度のクラック
3:硬化層の表面の外周部に4より重度のクラック
2:硬化層の表面の外周部にクラック、中央部にも部分的にクラック
1:硬化層の表面の全面に軽度のクラック
0:硬化層の表面の全面に1より重度のクラック
【0078】
【表3-1】
【0079】
【表3-2】
【0080】
表3に示す結果から、実施例の眼鏡レンズは、比較例の眼鏡レンズと比べて、クラックの発生が抑制されていること(即ち耐候性に優れること)が確認できる。尚、上記の耐候性評価中、比較例の眼鏡レンズの物体側の硬化層表面を目視で観察したところ、析出物が確認された。この析出物は、紫外線吸収剤が析出したものと推察している。これに対し、上記の耐候性評価後の実施例の眼鏡レンズには、そのような析出物は見られなかった。
【0081】
<密着性の評価1>
実施例2~4および比較例1の各眼鏡レンズの物体側表面上に、真空蒸着法により、1層目の酸化ケイ素層を形成し、2層目~7層目として酸化ジルコニウム層と酸化ケイ素層とを交互に積層して反射防止層(多層反射防止膜)を形成した。
その後、JIS K5600―5―6(ISO 2409:1992)に基づいて各眼鏡レンズの物体側表面上にマス目を10個×10個(合計100個)作り、セロファン粘着テープを用い剥離試験を2回行った後、マス目全体で剥離が見られないマス目を「剥離なし」と評価し、マス目の全体または一部が剥離したマス目を「剥離あり」と評価し、剥離なしのマス目数を数えた。評価結果を表4に示す。
本剥離試験で剥離が生じたマス目では、レンズ基材と硬化層との間で剥離が生じていた。これは、密着性の評価1のための眼鏡レンズの作製工程では、後述する密着性の評価2のための眼鏡レンズの作製方法とは異なり、レンズ基材と硬化層との間にプライマー層を形成しなかったためである。したがって、剥離なしマス目数が多いほど、レンズ基材と硬化層との間の密着性が高いと判断できる。
【0082】
【表4】
【0083】
<密着性の評価2>
硬化性組成物を塗布する前のレンズ基材にディップコート法によりプライマー液を塗布し、炉内温度80℃の加熱炉において20分間加熱処理を施し、レンズ基材の両面にプライマー層を形成した点以外、実施例1~5および比較例1の各眼鏡レンズの作製方法と同様に眼鏡レンズを作製した。こうして作製した各眼鏡レンズの物体側表面上に、上記の密着性評価1のための眼鏡レンズの作製方法と同様の方法で反射防止層を形成した。
その後、JIS K5600―5―6(ISO 2409:1992)に基づいて各眼鏡レンズの物体側表面上にマス目を10個×10個(合計100個)作り、セロファン粘着テープを用い剥離試験を2回行った後、以下の評価基準で密着性を評価した。本剥離試験で剥離が生じたマス目では、硬化層と反射防止層との間で剥離が生じていた。評価結果を表5に示す。
A:マス目剥離なし
B:ごくわずかに部分的な剥離が見られるマス目あり(Cより軽度の剥離)
C:わずかに部分的な剥離が見られるマス目あり(Dより軽度の剥離)
D:部分的な剥離が見られるマス目あり
E:すべてのマス目が剥離
【0084】
【表5】
【0085】
表4、表5に示す結果から、実施例の眼鏡レンズは、比較例の眼鏡レンズと比べて、硬化層が、隣接する部分(レンズ基材または反射防止層)との密着性に優れることが確認できる。この点に関して、本発明者らは、実施例の眼鏡レンズの硬化層に含まれる有機ケイ素化合物がウレタン結合を有することが、密着性向上に寄与していると推察している。ただし、この推察は本発明を限定するものではない。
【0086】
<紫外線吸収性の評価>
下記表6に示す実施例および比較例の各眼鏡レンズについて、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製U-4100)を用いて波長280nm~780nmの領域における透過率測定を行った。
上記測定結果から、波長300nm~380nmの領域における平均透過率を算出した。
【0087】
【表6】
【0088】
上記方法により求められる波長300nm~380nmの領域における平均透過率の値が低い眼鏡レンズほど、紫外線吸収性に優れるということができる。
表6中、硬化性組成物調製時の紫外線吸収剤の使用量が同じ実施例と比較例とを対比すると、紫外線吸収剤の紫外線吸収性部位をウレタン結合によってシランカップリング剤と連結させた実施例の平均透過率の値は、対比対象の比較例の値より低い。
以上の結果から、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を含む硬化層は、眼鏡レンズに優れた紫外線吸収性を付与できることが確認された。
【0089】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0090】
一態様によれば、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を含む硬化性組成物が提供される。
【0091】
上記硬化性組成物を用いて形成される硬化層は、紫外線吸収性部位とシランカップリング性部位とがウレタン結合により連結された有機ケイ素化合物を含み、優れた耐候性を示すことができる。かかる硬化層を設けることは、眼鏡レンズ等の各種光学物品の劣化を抑制することに寄与し得る。一態様では、上記硬化層は、レンズ基材等のこの層と隣接する部分との密着性に優れる硬化層であることもできる。また、一態様では、上記硬化層を有する眼鏡レンズは、優れた紫外線吸収性を示すこともできる。
【0092】
一態様では、上記紫外線吸収性部位は、ベンゾトリアゾール骨格含有部位であることができる。
【0093】
一態様では、上記紫外線吸収性部位は、ベンゾフェノン骨格含有部位であることができる。
【0094】
一態様では、上記有機ケイ素化合物は、先に示した一般式(1)により表される化合物であることができる。
【0095】
一態様では、上記硬化性組成物は、コーティング組成物であることができる。
【0096】
一態様では、上記硬化性組成物は、眼鏡レンズ用コーティング組成物であることができる。
【0097】
一態様によれば、上記硬化性組成物を硬化させた硬化層を有する眼鏡レンズが提供される。
【0098】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0099】
一態様によれば、上記硬化性組成物の製造方法であって、紫外線吸収性部位を有するヒドロキシ基含有化合物とシランカップリング性部位を有するイソシアネート基含有化合物とをウレタン化反応させることにより上記有機ケイ素化合物を得ること、および、得られた有機ケイ素化合物を一種以上の他の成分と混合することにより硬化性組成物を調製すること、を含む硬化性組成物の製造方法が提供される。
【0100】
一態様では、上記の他の成分は、上記有機ケイ素化合物とは異なる有機ケイ素化合物を含むことができる。
【0101】
一態様によれば、上記硬化性組成物をレンズ基材上に塗布して塗布層を形成すること、および、上記塗布層に硬化処理を施して硬化層を形成すること、を含む眼鏡レンズの製造方法が提供される。
【0102】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の一態様は、眼鏡レンズ等の各種光学物品の製造分野において有用である。