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  • 特許-積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20231102BHJP
   D04H 1/54 20120101ALI20231102BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B32B5/28 Z
D04H1/54
B32B27/12
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019146722
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021024252
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】愛甲 尚正
(72)【発明者】
【氏名】白武 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】竹内 政実
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-172121(JP,A)
【文献】特開2010-023275(JP,A)
【文献】特開2015-017184(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126432(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含有する層が繊維集合体層と溶融一体化している、積層体であって
前記熱可塑性樹脂を含有する層は、構成繊維が熱可塑性樹脂の繊維のみである不織布の層であり、
前記溶融一体化している部分に、セルロースナノファイバーが存在している、積層体(但し、セルロースナノファイバーを構成要素とするエレクトロスピニング法で形成された多孔性ウェッブを含むものを除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層間剥離が発生し難い積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業用途へ好適に使用できるよう、濾過性能や剛性など諸特性の向上を目的として、古くから不織布など繊維集合体に別の部材を積層一体化させることが行われてきた。
一例として、特開2009-843号公報(特許文献1)には、熱可塑性合成繊維を含有する面材と剛性繊維不織布である基材とが、熱圧着により積層一体化した複合吸音材が開示されている。また、熱可塑性合成繊維が接着剤的働きをすることで、面材と基材の熱接着性が向上されていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-843号公報(特許請求の範囲、0012など)
【0004】
本願出願人は、上述のような従来技術の知見を参照し「熱可塑性樹脂を含有する層(以降、層Aと称することがある)が繊維集合体層(以降、層Bと称することがある)と溶融一体化している、積層体」について検討した。
当該積層体においては、主として層A中に含有されている熱可塑性樹脂の溶融によって溶融一体化がなされており、溶融一体化している部分は、ほぼ層Aと層Bが接触している界面部分に存在している。つまり、層Aと層Bが接触している界面部分の接着力(溶融一体化による接着力)によって積層体が形成されている。
しかし、層Aおよび層Bの組み合わせ次第では、熱可塑性樹脂による接着剤的働きが十分に発揮されず、層Aと層Bが接触している界面部分の接着力が低くなり、層Aと層Bの間に層間剥離が発生し易いことがあった。そして、層間剥離が発生し易い積層体は、様々な産業用途へ使用することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱可塑性樹脂を含有する層が繊維集合体層と溶融一体化している積層体であって、層間剥離が発生し難い積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、「[1]熱可塑性樹脂を含有する層が繊維集合体層と溶融一体化している、積層体であって前記熱可塑性樹脂を含有する層は、構成繊維が熱可塑性樹脂の繊維のみである不織布の層であり、前記溶融一体化している部分に、セルロースナノファイバーが存在している、積層体(但し、セルロースナノファイバーを構成要素とするエレクトロスピニング法で形成された多孔性ウェッブを含むものを除く)。」である。
【発明の効果】
【0007】
本願出願人が検討を続けた結果、「熱可塑性樹脂を含有する層が繊維集合体層と溶融一体化している、積層体」において、当該溶融一体化している部分にセルロースナノファイバーが存在していることで、熱可塑性樹脂を含有する層と繊維集合体層の間に層間剥離が発生し難くなることを見出した。
【0008】
この理由は完全に明らかになっていないが、積層体における溶融一体化している部分において
・繊維径が細いことにより比表面積が大きいセルロースナノファイバーが、繊維集合体層の構成繊維、および/または、熱可塑性樹脂を含有する層に絡み付き、楔のように前述2層を固定する役目を担うため、
・セルロースナノファイバー自体が、溶融一体化している部分の骨格材となり、溶融一体化している部分の剛性を向上させる役割を担うため、
熱可塑性樹脂を含有する層と繊維集合体層の溶融一体化状態が強化されており、層間剥離が発生し難いと考えられる。
そのため、本願発明によって様々な産業用途へ好適に使用できる、積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明にかかる積層体の、模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。
なお、本発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行った。また、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、少数第一位までが求める値である場合、測定によって少数第二位まで値を求め、得られた少数第二位の値を四捨五入することで少数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。
【0011】
本発明にかかる積層体について、その模式断面図である図1を用いて説明する。
本発明の積層体(10)は、砂地模様を付した熱可塑性樹脂を含有する層(A、以降、層Aと称することがある)と、斜線を引いた繊維集合体層(B、以降、層Bと称することがある)を備えている。そして、層Aと層Bは溶融一体化して積層体(10)を形成している。
そして、本発明では、積層体(10)における層Aと層Bが溶融一体化している部分(C)に、セルロースナノファイバーが存在していることを特徴とする。なお、図1ではセルロースナノファイバーの図示を省略している。
また、図1では積層体における層Aと層Bが溶融一体化している態様について、層Aに含有されている熱可塑性樹脂が溶融し層Bの空隙中に入り込み固着した状態を図示している。そして、溶融一体化している部分(C)を、層Aと層Bの重なり合う部分(破線で挟まれた部分)として図示している。
【0012】
本発明でいう熱可塑性樹脂は層Aを構成する役割を担うと共に、繊維集合体層との溶融一体化を担う。
熱可塑性樹脂の種類は適宜選択できるが、ポリエステル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等)、更には、共重合ポリエステル、共重合ポリプロピレン、共重合ポリエチレン(例えば、エチレン―エチレン酢酸ビニル共重合体等)、ポリグリコール酸やポリ乳酸、ポリラクチド/ポリグリコリド共重合体やポリジオキサノンといった生体適合性樹脂など、公知の熱可塑性樹脂を採用できる。
なお、これらの熱可塑性樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また熱可塑性樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また熱可塑性樹脂の立体構造や結晶性はいかなるものでも、特に限定されるものではない。そして、多成分の熱可塑性樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0013】
更に、熱可塑性樹脂に、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤などの添加剤を配合してもよい。
【0014】
本発明でいう熱可塑性樹脂を含有する層(層A)は、積層体を構成する役割を担う。
層Aの種類は適宜選択できるが、一例として、フィルム(多孔フィルムあるいは無孔フィルム)や布帛(例えば、繊維ウエブや不織布、あるいは、織物や編み物など)の層であることができる。特に、布帛(特に、不織布)の層であると、柔軟かつソフトな風合を有し伸度に優れた積層体を提供でき好ましい。
なお、各素材の諸構成や諸物性は、積層体に求められる諸物性により適宜調整できる。なお、層Aが層Bと同様に繊維集合体である場合、層Aの諸構成や諸物性は後述する層Bについての説明で述べるうちから選択できる。
【0015】
層A中に含有されている熱可塑性樹脂の態様は適宜選択できるが、上述した部材(例えば、布帛など)を構成する主成分として熱可塑性樹脂が含まれている態様であっても、上述した部材(例えば、布帛など)の空隙中や表面に熱可塑性樹脂が含まれている態様であってもよい。特に、上述した部材(例えば、布帛など)を構成する主成分として熱可塑性樹脂が含まれてなる層Aであると、層Aと層Bとの溶融一体化状態がより強化された積層体を提供できる傾向があり好ましい。
【0016】
層Aの目付や厚さなどの諸物性は適宜調整できる。目付は8~300g/mであることができ、10~200g/mであることができ、15~100g/mであることができる。また、厚さは0.01~30mmであることができ、0.02~1mmであることができ、0.05~0.5mmであることができる。なお、本発明において、目付とは測定対象物の最も広い面積を有する面(主面)における1mあたりの質量をいい、厚さとは主面と垂直方向へ20g/cmの圧縮荷重をかけた時の該垂直方向の長さをいう。
【0017】
本発明でいう繊維集合体層(層B)は、積層体を構成する役割を担う。
繊維集合体層とは、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などのシート状の布帛の層である。本発明の積層体は、繊維集合体(特に、不織布)を含んでいるため、柔軟かつソフトな風合を有し伸度に優れた積層体を提供でき好ましい。
【0018】
繊維集合体の構成繊維は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機樹脂を用いて構成できる。
【0019】
なお、これらの有機樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の有機樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。また、顔料を練り込み調製された繊維や、染色された繊維などの原着繊維であってもよい。
【0020】
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0021】
構成繊維は、一種類の有機樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の有機樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の有機樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0022】
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0023】
繊維集合体が構成繊維として熱融着性繊維を含んでいる場合には、層Aと層Bとの溶融一体化状態がより強化された積層体を提供できる傾向があり好ましい。特に、繊維集合体の構成繊維が熱融着性繊維のみであるのが好ましい。
このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良いし、上述した複合繊維のような態様の一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。熱融着性繊維において熱融着性を発揮する成分として、例えば、低融点ポリオレフィン系樹脂や低融点ポリエステル系樹脂を含む熱融着性繊維などを適宜選択して使用できる。
【0024】
繊維集合体が捲縮性繊維を含んでいる場合には、伸縮性に優れる積層体を提供でき好ましい。このような捲縮性繊維として、例えば、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現した捲縮性繊維やクリンプを有する繊維などを使用できる。また、繊維集合体が加熱することで捲縮を発現する潜在捲縮性繊維を含んでいてもよい。
【0025】
繊維集合体が繊維ウェブや不織布である場合、例えば、上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製できる。
【0026】
調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウェブを加熱処理へ供するなどしてバインダあるいは接着繊維によって構成繊維同士を接着一体化あるいは溶融一体化させる方法などを挙げることができる。
【0027】
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている有機樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0028】
使用可能なバインダの種類は適宜選択するが、例えば、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体(スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、アクリル系樹脂などを使用できる。
繊維集合体がバインダを含んでいる場合、バインダが熱可塑性樹脂を含んでいる場合には、層Aと層Bとの溶融一体化状態がより強化された積層体を提供できる傾向があり好ましい。特に、バインダを構成する樹脂が熱可塑性樹脂のみであるのが好ましい。
【0029】
また、バインダは上述した樹脂以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、加熱を受け発泡する粒子、無機粒子、酸化防止剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0030】
繊維集合体に含まれるバインダの目付は適宜選択する。具体的にバインダの目付は2g/m以上であることができる。また、バインダの目付は50g/m以下であることができ、30g/m以下であることができ、20g/m以下であることができる。
【0031】
繊維集合体が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、織物や編物を調製できる。
【0032】
なお、繊維ウェブ以外にも不織布あるいは織物や編物など繊維集合体を、上述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供しても良い。
【0033】
繊維集合体の構成繊維の繊度は特に限定するものではないが、0.6dtex以上であることができ、1.5dtex以上であることができ、2dtex以上であることができる。他方、上限値も適宜選択できるものであるが、100dtex以下であるのが現実的であり、50dtex以下であるのが現実的であり、30dtex以下であるのが現実的である。
また、繊維集合体の構成繊維の繊維長も特に限定するものではないが、3mm以上であることができ、10mm以上であることができ、30mm以上であることができ、40mm以上であることができ、50mm以上であることができ、60mm以上であることができ、連続長を有していてもよい。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0034】
繊維集合体の、例えば、厚さ、目付などの諸構成は、特に限定されるべきものではなく適宜調整する。
繊維集合体の目付は8~300g/mであることができ、10~200g/mであることができ、15~100g/mであることができる。また、厚さは0.01~30mmであることができ、0.02~1mmであることができ、0.05~0.5mmであることができる。
【0035】
本発明の積層体では、層Aと層Bとが溶融一体化している。ここでいう溶融一体化とは、層Aに含有されている熱可塑性樹脂が溶融した後、層Bの表面に固着した状態および/または層Bの空隙中に入り込み固着した状態を意味する。なお、層Bにも熱可塑性樹脂が含有されている場合には、加えて、層Bに含有されている熱可塑性樹脂が溶融した後、層Aの表面に固着した状態および/または層Aの空隙中に入り込み固着した状態、更には、層Aに含有されている熱可塑性樹脂と層Bに含有されている熱可塑性樹脂が混ざり合い固着した状態となっていても良い。
【0036】
本発明では積層体における、層Aと層Bとが溶融一体化している部分にセルロースナノファイバーが存在していることを特徴としており、本構成を満足する積層体では、層Aと層Bの間に層間剥離が発生するのを防止できる。特に、層Aと層Bがともに繊維集合体であるなど、層Aと層Bの接触する部分が少ない(換言すれば、層Aと層Bとが溶融一体化できる部分が少ない)積層体においても、層Aと層Bの間に層間剥離が発生するのを防止できる。
【0037】
この理由は完全に明らかになっていないが、積層体における溶融一体化している部分において
・繊維径が細いことにより比表面積が大きいセルロースナノファイバーが、繊維集合体層の構成繊維、および/または、熱可塑性樹脂を含有する層に絡み付き、楔のように前述2層を固定する役目を担うため、
・セルロースナノファイバー自体が溶融一体化している部分の骨格材となり、溶融一体化している部分の剛性を向上させる役割を担うため、
熱可塑性樹脂を含有する層と繊維集合体層の溶融一体化状態が強化されており、層間剥離が発生し難いと考えられる。
【0038】
セルロースナノファイバーとは、植物細胞壁の基本骨格などを構成するセルロースのミクロフィブリル、又はこれを構成する繊維のことであり、市販されているセルロースナノファイバーや従来公知のセルロースナノファイバーを使用できる。
シングルセルロースナノファイバー以外にも、それが数本のゆるやかな束となって細胞壁中での基本単位として存在するセルロースミクロフィブリル束、クロフィブリル束がさらに数十~数百nmの束となりクモの巣状のネットワークを形成しているミクロフィブリル化セルロースなどであってもよい。
また、TEMPO触媒酸化法や硫酸エステル化法により化学処理し調製したセルロースナノファイバー、酵素による加水分解を用いて調製したセルロースナノファイバー、ヨウ素を用いて調製したセルロースナノファイバー、強酸で処理して得られる針状のセルロースナノエレメント(セルロースナノクリスタル)、バクテリアセルロースなどであってもよい。
更に、高圧ホモジナイザー法,マイクロフリュイダイザー法,水中カウンターコリジョン法,グラインダー磨砕法,凍結粉砕法,超音波解繊法,高速撹拌法,ビーズミル法などを用いて調製されたセルロースナノファイバーであってもよい。
【0039】
層Aと層Bとが溶融一体化している部分にセルロースナノファイバーが存在しているとは、
・層Aに含有されている熱可塑性樹脂と層Bとが接触している界面にセルロースナノファイバーが存在していること、
および/または、
・層Bも熱可塑性樹脂を含有している場合には、層Aおよび層Bに含有されている熱可塑性樹脂同士が混ざり合っているその中に、セルロースナノファイバーが存在していること、
を意味する。なお、本発明の構成を満足するこのような積層体は、セルロースナノファイバーを層Aと層Bの間に介在させた状態で、層Aと層Bとを溶融一体化することで調製できる。
【0040】
積層体において、層Aと層Bとが溶融一体化している部分にセルロースナノファイバーが存在しているか否かは、積層体の厚さ方向(積層体の主面と垂直をなす方向)の断面を光学式顕微鏡や電子顕微鏡などの分析装置を用いることで判断できる。あるいは、積層体から層Aあるいは層Bを剥離し、その剥離面を光学式顕微鏡や電子顕微鏡などの分析装置を用いることで判断できる。更には、積層体の製造工程を確認することによって判断できる。判断をし易くするため、カヤステインQ(日本化薬(株)製)などの色素で着色してもよい。
【0041】
また、層Aと層Bとが溶融一体化している部分を採取し、溶媒を用いて当該部分からセルロースナノファイバーを除去した際に重量変化が発生したか否かを確認することで、あるいは、溶媒を用いて当該部分からセルロースナノファイバー以外(層Aと層Bの構成成分)を除去した後に、セルロースナノファイバーが残存しているか否かを確認することで、層Aと層Bとが溶融一体化している部分にセルロースナノファイバーが存在しているか否かを確認してもよい。
【0042】
なお、積層体に含まれている全てのセルロースナノファイバーは、必ずしも、層Aと層Bの間に層間剥離が発生するのを防止するのに寄与しているとはいえない。つまり、層Aと層Bとが溶融一体化している部分以外の部分に含まれているセルロースナノファイバーは、層Aと層Bとの溶融一体化状態の強化には実質的に寄与していない。
そのため、層Aと層Bの間に層間剥離が発生するのを防止するのに寄与するセルロースナノファイバーの量は、積層体に含まれているセルロースナノファイバーの量(目付で表現可能であり、単位はg/m)を、セルロースナノファイバーが存在している部分の厚さ(単位:mm)で割り算出した値(以降、空間密度と称する、単位:g/m/mm)によって、つまり、層Aと層Bの界面に存在するセルロースナノファイバーの量を見積もることによって、より正しく評価できると考えられる。
【0043】
なお、積層体におけるセルロースナノファイバーの空間密度は、以下の算出方法1により求めることができる。判断をし易くするため、カヤステインQ(日本化薬(株)製)などの色素で着色してもよい。
(空間密度の算出方法1)
(1)積層体から、「セルロースナノファイバーが存在しており層Aと層Bとが溶融一体化している部分」以外の部分を除去した。
(2)工程(1)によって調製した当該部分から、薄膜状の試料を採取した。このとき、積層体における厚さ方向が試料における厚さ方向と平行をなすと共に、積層体における主面の広がる方向が試料における主面の広がる方向と平行をなすようにして、薄膜状の試料を採取した。
(3)採取した試料の厚さ(単位:mm)を測定した。
(4)溶媒を用いて試料からセルロースナノファイバーを除去した際に発生した重量変化の量、あるいは、溶媒を用いて試料からセルロースナノファイバー以外(層Aと層Bの構成成分)を除去した後に、残存しているセルロースナノファイバーの量を求めた。そして、求めた値と試料における主面の面積(単位:m)から、採取した試料に含まれるセルロースナノファイバーの量(単位:g/m)を算出した。
(4)試料の厚さ(単位:mm)と、試料に含まれるセルロースナノファイバーの量(単位:g/m)から空間密度(単位:g/m/mm)を算出した。
【0044】
なお、上述した空間密度の算出方法1によって、空間密度を算出するのが困難であった場合には、以下の算出方法2により求めることができる。判断をし易くするため、カヤステインQ(日本化薬(株)製)などの色素で着色してもよい。
(空間密度の算出方法2)
(1)層Aを構成する材料に含まれるセルロースナノファイバーの量(単位:g/m)と、層Aを構成する材料におけるセルロースナノファイバーが含まれている部分の厚さを測定し、両測定値から空間密度Aを算出した。
なお、層Aを構成する材料(例えば、通液性を有さないフィルムなど)の主面にセルロースナノファイバーが堆積している場合には、堆積しているセルロースナノファイバーの厚さが、層Aを構成する材料におけるセルロースナノファイバーが含まれている部分の厚さとなる。
(2)層Bを構成する繊維集合体に含まれるセルロースナノファイバーの量(単位:g/m)と、層Bを構成する繊維集合体におけるセルロースナノファイバーが含まれている部分の厚さを測定し、両測定値から空間密度Bを算出した。
(3)層Aのみにセルロースナノファイバーが含まれていた場合、当該層Aとセルロースナノファイバーを含んでいない層Bを用いて調製された積層体における空間密度の値は、空間密度Aであるとした。また、層Bのみにセルロースナノファイバーが含まれていた場合、当該層Bとセルロースナノファイバーを含んでいない層Aを用いて調製された積層体における空間密度の値は、空間密度Bであるとした。一方、層Aと層B共にセルロースナノファイバーが含まれていた場合には、空間密度Aと空間密度Bの合計値を当該積層体の空間密度とした。
【0045】
積層体におけるセルロースナノファイバーの空間密度は、積層体に求められる物性によって適宜調製するが、層Aと層Bの間に層間剥離が発生するのをより効果的に防止できるよう、0g/m/mmより多く1.0g/m/mm未満であるのが好ましく、0.0670g/m/mm以上0.5470g/m/mm未満であるのがより好ましい。特に、0.1420g/m/mm以上0.3234g/m/mm以下の範囲であると、積層体における層間剥離の発生し難さを特異的に倍増でき、より効果的に層間剥離が発生し難い積層体を提供でき好ましい。
【0046】
積層体の目付や厚さなどの諸物性は適宜調整でき、例えば、目付は16~600g/mであることができ、30~400g/mであることができ、60~200g/mであることができる。また、厚さは0.02~60mmであることができ、0.1~10.1mmであることができ、0.3~1.1mmであることができる。
【0047】
なお、層Aがフィルム由来の層である場合には、通気や通液を防止する機能を発揮する積層体を実現でき、層Aが繊維集合体由来の層である場合には、通気性や通液性を有する積層体を実現できる。
【0048】
積層体はそのまま様々な産業に使用できるが、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程や、リライアントプレス処理などの厚さや表面の平滑性といった諸物性を調整する工程などの、各種二次工程へ供してから熱成型工程へ供してもよく、また、他の部材(別の繊維集合体、フィルムなど)と積層一体化して様々な産業に使用してもよい。
【0049】
次に、本発明の積層体の製造方法について説明する。なお、上述した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
本発明にかかる積層体の製造方法は適宜選択できるが、一例として、
(1)熱可塑性樹脂層を構成可能な、熱可塑性樹脂を含有するシート状材料を用意する工程、
(2)繊維集合体を用意する工程、
(3)セルロースナノファイバー分散液を用意する工程、
(4)熱可塑性樹脂を含有するシート状材料および/または繊維集合体の一方の主面へセルロースナノファイバー分散液を付与する工程、
(5)セルロースナノファイバー分散液を付与した主面を間に介して、繊維集合体と熱可塑性樹脂を含有するシート状の材料を積層する工程、
(6)熱を作用させることで、熱可塑性樹脂を含有するシート状材料に含有されている熱可塑性樹脂を溶融させる工程、
(7)冷却することで溶融した熱可塑性樹脂を固化させて、熱可塑性樹脂を含有する層が繊維集合体層と溶融一体化していると共に、溶融一体化している部分に、セルロースナノファイバーが存在している積層体を調製する工程、
を備える、積層体の製造方法を挙げることができる。
【0050】
工程(1)について説明する。
熱可塑性樹脂層を構成可能な、熱可塑性樹脂を含有するシート状材料として、例えば、熱可塑性樹脂の繊維からなる繊維集合体や熱可塑性樹脂フィルムなどの、シート状材料を用意する。
【0051】
工程(2)について説明する。
繊維集合体として、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの、シート状の布帛を用意する。なお、繊維集合体における構成繊維の繊度や繊維長、繊維集合体の厚さや目付は上述した数値のものを採用できる。
【0052】
工程(3)について説明する。
分散媒の種類は適宜選択できる。具体例として、水、セルロースナノファイバーを分散可能なアルコールなど各種有機溶媒、および、それらの混合物を採用可能である。また、セルロースナノファイバー分散液におけるセルロースナノファイバーの濃度は、好適に付与できるよう適宜調整する。
また、セルロースナノファイバー分散液中に添加剤やバインダ(特に、熱可塑性樹脂バインダ)を溶解あるいは分散させ含有させていてもよい。
【0053】
工程(4)について説明する。
熱可塑性樹脂を含有するシート状材料および/または繊維集合体の一方の主面へセルロースナノファイバー分散液を付与する方法は適宜選択できるが、当該主面にそのまま、あるいは泡立てた状態で、スプレーや含浸ロールなどを用いてセルロースナノファイバー分散液を散布あるいは塗布する方法、セルロースナノファイバー分散液に当該主面を浸漬する方法、セルロースナノファイバー分散液へ熱可塑性樹脂を含有するシート状材料および/または繊維集合体を含浸する方法などを採用できる。なお、セルロースナノファイバー分散液へ繊維集合体を含浸する方法を採用すると、積層体を構成する繊維集合体層の内部空隙中に、全体的にセルロースナノファイバーが均一的に分布し存在してなる積層体を調製できる。
また、セルロースナノファイバー分散液が付与された熱可塑性樹脂を含有するシート状材料および/または繊維集合体を次の工程へ供しても、後述する熱を作用させる方法を用いて分散媒を除去してから次の工程へ供してもよい。
【0054】
工程(5)について説明する。
本工程において、繊維集合体と熱可塑性樹脂を含有するシート状材料を積層する方法として、ただ主面同士を重ね合わせて積層する方法を採用するのが好ましいが、本発明の構成を満足するのであれば、必要に応じて、間にバインダや接着不織布などの溶融一体化を補助する材料を介在させ積層してもよい。
【0055】
工程(6)について説明する。
熱を作用させる方法は適宜選択できるが、例えば、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、カレンダー、ヒートローラー、ヒートプレス機などの加熱機へ供し加熱する、室温雰囲気下や減圧雰囲気下に静置するなどして、熱可塑性樹脂を含有するシート状の材料に含有されている熱可塑性樹脂を溶融できる。このとき、カレンダー、ヒートローラー、ヒートプレス機などの加熱と共に加圧できる加熱機を用いることで、溶融した熱可塑性樹脂を繊維集合体の内部深くまで浸透させることができ、より層Aと層Bの間に層間剥離が発生するのを防止でき好ましい。
なお、加熱温度の下限は熱可塑性樹脂を溶融できるよう調整する。また、繊維集合体や熱可塑性樹脂を含有するシート状材料の形状や機能などが意図せず低下することがないよう、加熱温度の上限を調整する。
熱可塑性樹脂を含有するシート状材料および/または繊維集合体に分散媒が残っている場合には、本工程で熱を作用させることで分散媒を除去してもよい。
【0056】
工程(7)について説明する。
冷却して複合体を調製する方法は適宜選択でき、一例として、室温雰囲気下で放冷する方法を採用できる。
【0057】
上述のようにして積層体を調製できる。このようにして調製した積層体はそのまま様々な産業に使用できるが、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなどして加工する工程や、リライアントプレス処理などの厚さや表面の平滑性といった諸物性を調整する工程などの、各種二次工程へ供してから熱成型工程へ供してもよい。また、他の部材(別の繊維集合体、フィルムなど)と積層一体化して様々な産業に使用してもよい。
【実施例
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
(熱可塑性樹脂を含有するシート状材料の調製)
ポリプロピレン樹脂の繊維で構成された不織布(目付:50g/m、厚さ:0.55mm)を調製した。
このようにして調製した不織布から、長方形の試料A(短辺:3cm、長辺:8cm)を採取した。
【0060】
(繊維集合体の調製)
ポリエステル繊維を100%用いて、カード機により開繊して繊維ウェブを形成した後、水流絡合処理を行うことでスパンレース不織布(目付:50g/m、厚さ:0.45mm)を調製した。
このようにして調製したスパンレース不織布から、長方形の試料B(短辺:3cm、長辺:8cm)を採取した。
【0061】
(セルロースナノファイバー分散液)
市販のセルロースナノファイバーを用いて、セルロースナノファイバー分散液(分散媒:水)を調製した。このとき、セルロースナノファイバーの分散濃度を各々変え、複数種類のセルロースナノファイバー分散液を調製した。
【0062】
(比較例1)
水中に試料Bを含浸し、取り出した後に加熱装置(加熱温度:80℃)へ供することで試料B中に含まれる水を除去した。
その後、試料Bの一方の主面と、試料Aの一方の主面をただ重ね合わせた。このとき、試料Aと試料Bの生産方向が平行を成すようにした。
そして、重ね合わされた試料Aならびに試料Bの長辺方向における、一方の端部からもう一方の端部に向かう1cmのところから、長方形の範囲(前記長辺方向と平行をなす短辺の長さ1cm、前記長辺方向と垂直をなす長辺の長さ3cm)に対し、試料Aの主面側から試料Bの主面側に向かいインパルス式ヒートシーラーを作用させることで加熱処理を施して、当該長方形の範囲において試料Aに含有されているポリプロピレン樹脂を溶解させ、溶融一体化している部分を形成した。
その後、放冷することで溶融したポリプロピレン樹脂を固化させて、試料A由来の熱可塑性樹脂を含有する層が、試料B由来の繊維集合体層と溶融一体化してなる積層体を調製した。
なお、調製した比較例1では溶融一体化している部分にセルロースナノファイバーは存在していないものであった。
【0063】
(実施例1~6)
分散液中に試料Bを含浸し、取り出した後に加熱装置(加熱温度:80℃)へ供することで試料B中に含まれる分散媒(水)を除去した。このようにして、試料Bの内部空隙中へ、均一的にセルロースナノファイバーを分布させた。
その後、セルロースナノファイバを備えた試料Bの一方の主面と、試料Aの一方の主面をただ重ね合わせた。このとき、試料Aと試料Bの生産方向が平行を成すようにした。
そして、重ね合わされた試料Aならびに試料Bの長辺方向における、一方の端部からもう一方の端部に向かう1cmのところから、長方形の範囲(前記長辺方向と平行をなす短辺の長さ1cm、前記長辺方向と垂直をなす長辺の長さ3cm)に対し、試料Aの主面側から試料Bの主面側に向かいインパルス式ヒートシーラーを作用させることで加熱処理を施して、当該長方形の範囲において試料Aに含有されているポリプロピレン樹脂を溶解させ、溶融一体化している部分を形成した。
その後、放冷することで溶融したポリプロピレン樹脂を固化させて、試料A由来の熱可塑性樹脂を含有する層が、試料B由来の繊維集合体層と溶融一体化してなる積層体を調製した。
なお、調製した各実施例の積層体では溶融一体化している部分にセルロースナノファイバーが存在しているものであった。
【0064】
上述のようにして調製した各積層体について、物性を評価し表1にまとめた。
(層間剥離の評価方法)
積層体における溶融一体化している部分と反対側に存在する、溶融一体化されていない試料A由来の部分と試料B由来の部分を離すようにして、積層体を広げた。そして、広げた積層体を定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン(登録商法)、チャック間隔:100mm、引張り速度:200mm/min.)へ供し、広げた積層体の長辺方向において、溶融一体化している部分から5cm離れた一方の端部部分(試料A由来の未溶着側の端部部分)をチャックに挟み固定した。更に、広げた積層体の長辺方向において、溶融一体化している部分から5cm離れたもう一方の端部部分(試料B由来の未溶着側の端部部分)を他方のチャックに挟み固定した。
その後、広げた積層体が試料Aと試料Bに分離するまで長辺方向へ引張り、分離するまでに測定された最大荷重(単位:N/30mm)を確認した。本評価結果においては、確認された最大荷重の値が高いほど、層間剥離が発生し難い積層体であることを意味する。
また、比較例1の積層体で確認された最大荷重の値に占める、各実施例の積層体で確認された最大荷重の値の百分率を算出することで、向上率(単位:%)を算出した。本評価結果において、算出された向上率の値が100%を超え高いほど、セルロースナノファイバーの存在による層間剥離のし難さが、より効果的に向上している積層体であることを意味する。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1~6と比較例1を比較した結果から、実施例1~6で調製した積層体はいずれも、比較例1の積層体よりも高い最大荷重を示す積層体であった。このことから、溶融一体化している部分にセルロースナノファイバーが存在することによって、層間剥離が発生し難い積層体を提供できることが判明した。
また、実施例1~6を比較した結果から、空間密度が異なることで向上率が変化することが判明した。特に、実施例2~5と、実施例1および実施例6を比較した結果から、空間密度が0.1420以上0.3234以下の範囲であるときに、積層体における層間剥離の発生し難さを特異的に倍増(200.0%以上の値)でき、より効果的に層間剥離が発生し難い積層体を提供できることが判明した。
【0067】
本発明にかかる積層体は層間剥離が発生し難い。そのため、本願発明によって様々な産業用途へ好適に使用できる、積層体を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の積層体は、自動車のピラーガーニッシュ、ドア、インストルメントパネル、ステアリングホイール、シフトレバー、コンソールボックス、トノカバー、ラゲッジフロア、ラゲッジサイドなど、インジェクション成形によって成形される内装部品の表面を装飾できる表面材に関する。様々な産業用途(例えば、液体濾材や気体濾材、貼付薬用基材などの医療用材料、マスク、フェイシャルマスク、アンギオ、ドリップキーパー、建材、吸音材や緩衝材、内装材や外装材の表面材、清掃などに使用可能なワイピング材、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータ、プリプレグ用基材、各種分離膜用の基材など)に使用できる。
【符号の説明】
【0069】
10:積層体
A:熱可塑性樹脂を含有する層
B:繊維集合体層
C:溶融一体化している部分
図1