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特許7377669フルオロアルキルビニルエーテルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】フルオロアルキルビニルエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/14 20060101AFI20231102BHJP
   C07C 43/17 20060101ALI20231102BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231102BHJP
【FI】
C07C41/14
C07C43/17
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019186551
(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公開番号】P2021063012
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】東根 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小金 敬介
(72)【発明者】
【氏名】清野 淳弥
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第92/005135(WO,A1)
【文献】特開2016-169211(JP,A)
【文献】特開2013-018744(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005621(WO,A1)
【文献】特開2004-018378(JP,A)
【文献】特開2006-048857(JP,A)
【文献】J. Org. Chem.,1992年,Vol.57,pp.2950-2953
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素アルコールと、CH =CHO(R O) CH=CH (oは1~3の整数であり、R はアルキレン基またはシクロアルキレン基を表す)で表されるジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの少なくとも一方のエーテルとを反応させることによりフルオロアルキルビニルエーテルを得る工程を有する、フルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
【請求項2】
前記含フッ素アルコールは、C2m+1(CHOH(mは1~20の整数であり、nは2~8の整数である)で表される、請求項1に記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素アルコールは、6-(パーフルオロエチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロブチル)エタノール、3-(パーフルオロブチル)プロパノール、6-(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール、3-(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、2-(パーフルオロオクチル)エタノール、3-(パーフルオロオクチル)プロパノール、6-(パーフルオロオクチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロデシル)エタノール、6-(パーフルオロ-1-メチルエチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロ-3-メチルブチル)エタノール、2-(パーフルオロ-7-メチルオクチル)エタノール、および4,4,4-トリフルオロ-1-ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種のアルコールである、請求項1に記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
【請求項4】
前記ジビニルエーテルは、ジエチレングリコールジビニルエーテルおよびトリエチレングリコールジビニルエーテルからなる群から選択される、請求項1から3までの何れか1項に記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記トリビニルエーテルは、CHCHC(OCH=CH、またはCHCHC(ROCH=CH(Rは-(OCHCHで表され、pは1~20の整数である)で表される、請求項1からまでの何れか1項に記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
【請求項6】
前記ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの沸点は、前記含フッ素アルコールの沸点よりも高い、請求項1からまでの何れか1項に記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキルビニルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロアルキルビニルエーテルは、フッ素化ポリマーを得るための材料として用いられている。フッ素化ポリマーは熱安定性、化学的安定性、撥水性等の有用な性質を有するため様々な用途への使用が有望視されている。
【0003】
従来から、フルオロアルキルビニルエーテルの製造方法が検討されてきた。
非特許文献1(Makromol.Chem.、第193巻、第275頁、1992年)および特許文献1(国際公開第92/05135号)は、フルオロアルキルアルコールとアルキルビニルエーテルとを反応させることによりフルオロアルキルビニルエーテルを製造する方法を開示する。
非特許文献2(J.Fluorine Chem.、第44巻、第395頁、1989年)は、2-(パーフルオロヘキシル)エタノールとエチルビニルエーテルとを反応させることにより2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造する方法を開示する。
【0004】
特許文献2(特開2001-114718号公報)は、Pd触媒を用いてアルキルビニルエーテルと炭化水素系アルコールとの間でエーテル交換反応を行わせてビニルエーテルを生成させる反応を開示する。
特許文献3(国際公開第2012/035942号)は、2-ハロゲノエチルビニルエーテルを用いたフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第92/05135号
【文献】特開2001-114718号公報
【文献】国際公開第2012/035942号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Makromol.Chem.、第193巻、第275頁、1992年
【文献】J.Fluorine Chem.、第44巻、第395頁、1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来よりも使用する原料の量が少なく、簡易な工程で高収率のフルオロアルキルビニルエーテルを製造することが可能な方法が望まれていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、使用する原料の量が少なく簡易な工程で高収率のフルオロアルキルビニルエーテルを製造するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の各態様は、以下のとおりである。
[1]含フッ素アルコールと、ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの少なくとも一方のエーテルとを反応させることによりフルオロアルキルビニルエーテルを得る工程を有する、フルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
[2]前記含フッ素アルコールは、C2m+1(CHOH(mは1~20の整数であり、nは2~8の整数である)で表される、上記[1]に記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
[3]前記含フッ素アルコールは、6-(パーフルオロエチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロブチル)エタノール、3-(パーフルオロブチル)プロパノール、6-(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール、3-(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、2-(パーフルオロオクチル)エタノール、3-(パーフルオロオクチル)プロパノール、6-(パーフルオロオクチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロデシル)エタノール、6-(パーフルオロ-1-メチルエチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロ-3-メチルブチル)エタノール、2-(パーフルオロ-7-メチルオクチル)エタノール、および4,4,4-トリフルオロ-1-ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種のアルコールである、上記[1]に記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
[4]前記ジビニルエーテルは、CH=CHO(RO)CH=CH(oは1~3の整数であり、Rはアルキレン基またはシクロアルキレン基を表す)で表される、上記[1]から[3]までの何れか1つに記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
[5]前記ジビニルエーテルは、ジエチレングリコールジビニルエーテルおよびトリエチレングリコールジビニルエーテルからなる群から選択される、上記[4]に記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
[6]前記トリビニルエーテルは、CHCHC(OCH=CH、またはCHCHC(ROCH=CH(Rは-(OCHCHで表され、pは1~20の整数である)で表される、上記[1]から[5]までの何れか1つに記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
[7]前記ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの沸点は、前記含フッ素アルコールの沸点よりも高い、上記[1]から[6]までの何れか1つに記載のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
使用する原料の量が少なく、簡易な工程で高収率のフルオロアルキルビニルエーテルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法では、含フッ素アルコールと、ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの少なくとも一方のエーテルとを反応させることによりフルオロアルキルビニルエーテルを得る工程を有する。本発明の製造方法では、含フッ素アルコールと、ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの少なくとも一方のエーテルとを一段階の工程で反応させることができる。また、例えば原料としてモノビニルエーテルを使用した場合と比べてジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの使用量を少なくすることができる。従って、ビニルエーテルの回収や保存時の取り扱いを容易にすることができる。また、一段階の工程で反応が進むため簡易な工程で、高収率のフルオロアルキルビニルエーテルを得ることができる。特許文献3(国際公開第2012/035942号)等の従来の方法と比べて副生成物の毒性が低く引火性も低いため、安全性の高いフルオロアルキルビニルエーテルの製造方法とすることができる。また、使用する原料に応じて製造するフルオロアルキルビニルエーテルの構造を制御することができる。フルオロアルキルビニルエーテルは、そのアルキル基を構成する炭素原子の一部にフッ素原子が結合したフルオロアルキルビニルエーテルであっても良いし、アルキル基を構成する炭素原子の全部にフッ素原子が結合したパーフルオロアルキルビニルエーテルであっても良い。本発明の方法により製造するフルオロアルキルビニルエーテルの種類は特に限定されないが例えば、C2m+1(CHOCH=CH(mは1~20の整数であり、nは2~8の整数である)で表すことができる。
本発明の方法により製造するフルオロアルキルビニルエーテルとしては具体的に2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテル、2-(パーフルオロブチル)エチルビニルエーテル、2-(パーフルオロオクチル)エチルビニルエーテル等を挙げることができる。
【0011】
特に、一実施形態において、ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルに対して過剰量の含フッ素アルコールを用いた場合には、反応の特性上、効率的に高い収率で反応を行うことができる。また、原料中において、(含フッ素アルコール中の水酸基の数)が、(ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテル中のビニルエーテル基の数)を超える条件下(原料中のビニルエーテル基に対する水酸基の当量比が1を超える条件下)に設定することで、高い収率でフルオロアルキルビニルエーテルを得ることができる。従って、過剰量のビニルエーテルを使用する必要がないため、フルオロアルキルビニルエーテルの生成反応の終了後に、残留したビニルエーテルの回収工程を必要とせず、工程を簡略化することができる。
【0012】
特に、一実施形態においてジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルとして、含フッ素アルコールよりも高い沸点を有するものを用いることで、フルオロアルキルビニルエーテルの生成反応終了後に存在する物質の中でフルオロアルキルビニルエーテルの沸点が低くなる。これは、フルオロアルキルビニルエーテルの生成反応終了後に副生成物として生成する多価アルコールの沸点が相対的に高いためである。この結果、単蒸留によりフルオロアルキルビニルエーテルを単離することが可能となり、ろ過や水洗などの追加の工程が不要となる。従って、フルオロアルキルビニルエーテルの製造工程の更なる簡略化が可能となる。
【0013】
含フッ素アルコールは分子中にフッ素原子を含むアルコールであり、C2m+1(CHOH(mは1~20の整数であり、nは2~8の整数である)で表されるアルコールであることが好ましく、mは2~20であることが好ましく、2であることがより好ましい。また、含フッ素アルコールは、6-(パーフルオロエチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロブチル)エタノール、3-(パーフルオロブチル)プロパノール、6-(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール、3-(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、2-(パーフルオロオクチル)エタノール、3-(パーフルオロオクチル)プロパノール、6-(パーフルオロオクチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロデシル)エタノール、6-(パーフルオロ-1-メチルエチル)ヘキサノール、2-(パーフルオロ-3-メチルブチル)エタノール、2-(パーフルオロ-7-メチルオクチル)エタノール、および4,4,4-トリフルオロ-1-ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種のアルコールであることがさらに好ましい。このような含フッ素アルコールを用いることにより効率的にフルオロアルキルビニルエーテルを生成させる反応を行わせることができる。
【0014】
原料であるエーテルは、CH=CHOで表される構造を分子中に2つ、または3つ、有する物質であり、ジビニルエーテル、トリビニルエーテル、またはジビニルエーテルとトリビニルエーテルの組合せを用いることができる。ジビニルエーテルは単独で、または複数種を用いることができ、トリビニルエーテルは単独で、または複数種を用いることができる。ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの大気圧における沸点は、含フッ素アルコールの大気圧における沸点よりも高いことが好ましい。ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの沸点が含フッ素アルコールの沸点よりも高いことによりフルオロアルキルビニルエーテルの生成反応終了後に存在する物質の中でフルオロアルキルビニルエーテルの沸点が低くなる。この結果、単蒸留によりフルオロアルキルビニルエーテルを単離することが可能となり、ろ過や水洗などの追加の工程が不要となる。より具体的には、ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルの大気圧における沸点は、含フッ素アルコールの大気圧における沸点よりも20℃以上、高いことが好ましく、20~40℃、高いことがより好ましい。
【0015】
各々の含フッ素アルコールおよびジビニルエーテルの特定の圧力(mmHg)における沸点を以下に示す。
6-(パーフルオロエチル)ヘキサノール:沸点65℃(14mmHg)
2-(パーフルオロブチル)エタノール:沸点140~143℃(760mmHg)
3-(パーフルオロブチル)プロパノール:沸点73~75℃(22mmHg)
6-(パーフルオロブチル)ヘキサノール:沸点58~60℃(3mmHg)
2-(パーフルオロヘキシル)エタノール:沸点75~80℃(14mmHg)
3-(パーフルオロヘキシル)プロパノール:沸点80℃(10mmHg)
6-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール:沸点103~105℃(6mmHg)
2-(パーフルオロオクチル)エタノール:沸点112~114℃(10mmHg)
3-(パーフルオロオクチル)プロパノール:沸点106~108℃(10mmHg)
6-(パーフルオロオクチル)ヘキサノール:沸点130℃(1mmHg)
2-(パーフルオロデシル)エタノール:沸点145℃(10mmHg)
6-(パーフルオロ-1-メチルエチル)ヘキサノール:沸点89~90℃ (3mmHg)
2-(パーフルオロ-3-メチルブチル)エタノール:沸点80~82℃ (36mmHg)
2-(パーフルオロ-7-メチルオクチル)エタノール:沸点100℃(7mmHg)
4,4,4-トリフルオロ-1-ブタノール:沸点125℃(760mmHg)
ジエチレングリコールジビニルエーテル:沸点198.7℃(760mmHg)
トリエチレングリコールジビニルエーテル:沸点110℃(1.3kPa)。
【0016】
ジビニルエーテルは、CH=CHO(RO)CH=CH(oは1~3の整数であり、Rはアルキレン基またはシクロアルキレン基を表す)で表されるエーテルであることが好ましく、oは1~3であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。また、ジビニルエーテルは、ジエチレングリコールジビニルエーテルおよびトリエチレングリコールジビニルエーテルからなる群から選択されるエーテルであることがより好ましい。
含フッ素アルコールC2m+1(CHOH(mは1~20の整数であり、nは2~8の整数である)と、ジビニルエーテルは、CH=CHO(RO)CH=CH(oは1~3の整数であり、Rはアルキレン基またはシクロアルキレン基を表す)との反応は、下記(1)で表すことができる。
2C2m+1(CHOH + CH=CHO(RO)CH=CH
→ 2C2m+1(CHOCH=CH + (OH)(RO)o-1(OH)(1)
(式中、mは1~20の整数であり、nは2~8の整数であり、oは1~3の整数であり、Rはアルキレン基またはシクロアルキレン基を表す)。
【0017】
トリビニルエーテルは、CHCHC(OCH=CH、またはCHCHC(ROCH=CH(Rは-(OCHCHを表し、pは1~20の整数である)で表されるエーテルであることが好ましく、pは1~2であることが好ましく、2であることがより好ましい。トリビニルエーテルとしては、トリメチロールプロパントリビニルエーテルが好ましい。
含フッ素アルコールC2m+1(CHOH(mは1~20の整数であり、nは2~8の整数である)と、トリビニルエーテル CHCHC(OCH=CH、またはCHCHC(ROCH=CH(Rは-(OCHCHを表し、pは1~20の整数である)との反応は、下記(2)および(3)で表すことができる。
3C2m+1(CHOH + CHCHC(OCH=CH
→ 3C2m+1(CHOCH=CH + CHCHC(OH)
(2)
(mは1~20の整数であり、nは2~8の整数である)。
3C2m+1(CHOH + CHCHC(ROCH=CH
→ 3C2m+1(CHOCH=CH + CHCHC(ROH) (3)
(mは1~20の整数であり、nは2~8の整数であり、Rは-(OCHCHを表し、pは1~20の整数である)。
【0018】
原料である含フッ素アルコールと、ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルとの組合せは、製造するフルオロアルキルビニルエーテルの種類に応じて適宜、選択できるが例えば、ジエチレングリコールジビニルエーテルと2-(パーフルオロヘキシル)エタノールを選択することができる。この場合、フルオロアルキルビニルエーテルとして、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造することができる。原料の使用比は所望のフルオロアルキルビニルエーテルに応じて適宜、設定できるが、モル当量で、ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルに対して、含フッ素アルコールが過剰量であることが好ましい。より具体的には、ジビニルエーテル:含フッ素アルコールは1:3.0~1:5.0が好ましく、1:4.0~1:5.0がより好ましい。トリビニルエーテル:含フッ素アルコールは1:4.5~1:7.5が好ましく、1:6.0~1:7.5がさらに好ましい。また、当量比で(ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテルに由来するビニルエーテル基):(含フッ素アルコールに由来する水酸基)が1:3.5~1:10であることが好ましい。原料の使用比が上記範囲内であることによって、未反応の原料の量を低減させることができる。
【0019】
フルオロアルキルビニルエーテルを製造するための反応は、溶媒を用いない無溶媒下で行っても良く、溶媒の存在下で行っても良い。溶媒の存在下でフルオロアルキルビニルエーテルを製造する場合に使用する溶媒としては例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のフルオロアルキルビニルエーテルと親和性が高いエーテル系溶媒を挙げることができる。
【0020】
フルオロアルキルビニルエーテルを生成する反応を効率的に進めるために触媒を用いることが好ましい。触媒としてはPd(パラジウム)触媒を挙げることができる。Pd(パラジウム)触媒としては例えば、(2,2’-ビピリジル)酢酸パラジウム、(1,10-フェナントロリン)酢酸パラジウム、ビス(トリフェニルホスフィノ)酢酸パラジウムを挙げることができる。好ましくは、Pd触媒として、(2,2’-ビピリジル)酢酸パラジウム、(1,10-フェナントロリン)酢酸パラジウムを用いるのが良い。触媒の使用量は原料の種類に応じて適宜、設定できるが例えば、含フッ素アルコールに対するPd触媒のモル比が0.005以上であることが好ましく、0.005~0.025であることがより好ましい。
【0021】
フルオロアルキルビニルエーテルを生成する反応温度は、使用する原料の種類に応じて適宜、設定できるが、40~60℃であることが好ましい。この反応温度であることによってフルオロアルキルビニルエーテルの生成速度を高めることができると共に、触媒を使用する場合には触媒の失活を抑制することができる。
【0022】
また、生成したフルオロアルキルビニルエーテルが反応系内で重合することを抑制するため、原料にさらにアルカリ金属水酸化物を添加しても良い。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等を挙げることができる。アルカリ金属水酸化物の使用量は、原料の種類に応じて適宜、設定できるが例えば、ジビニルエーテルおよびトリビニルエーテル100質量部に対して、アルカリ金属水酸化物を0.01~5質量部、添加することが好ましく、0.05~1質量部、添加することがより好ましい。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0024】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
100mlのナス形フラスコに、ジエチレングリコールジビニルエーテル21.7g(137mmol)、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール(沸点;174.1℃)5.00g(13.7mmol)、酢酸パラジウム30.8mg(0.137mmol)、1,10-フェナントロリン一水和物24.8mg(0.125mmol)を加え、45℃で96時間、撹拌を行うことにより、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造した。ガスクロマトグラフィーを用いて分析を行ったところ、2-(パーフルオロヘキシル)エタノールを基準とした収率は79.6%であった。
【0026】
(実施例2)
100mlのナス形フラスコに、ジエチレングリコールジビニルエーテル10.9g(68.7mmol)、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール5.00g(13.7mmol)、酢酸パラジウム30.8mg(0.137mmol)、1,10-フェナントロリン一水和物24.8mg(0.125mmol)を加え、45℃で72時間、撹拌を行うことにより、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造した。ガスクロマトグラフィーを用いて分析を行ったところ、2-(パーフルオロヘキシル)エタノールを基準とした収率は75.4%であった。
【0027】
(実施例3)
500mlの四口フラスコに、ジエチレングリコールジビニルエーテル45.0g(284mmol)、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール516g(1.35mol)、酢酸パラジウム637mg(2.84mmol)、1,10-フェナントロリン一水和物511mg(2.578mmol)を加え、45℃で96時間、撹拌を行うことにより、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造した。ガスクロマトグラフィーを用いて分析を行ったところ、ジエチレングリコールジビニルエーテルを基準とした収率は98.2%であった。
【0028】
(比較例1)
500mlの四口フラスコに、エチルビニルエーテル20.7g(283mmol)、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール516g(1.35mol)、酢酸パラジウム642mg(2.86mmol)、1,10-フェナントロリン一水和物512mg(2.583mmol)を加え、40℃で72時間、撹拌を行うことにより、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造した。ガスクロマトグラフィーを用いて分析を行ったところ、エチルビニルエーテルを基準とした収率は35.6%であった。
【0029】
(実施例4)
20Lのセバラブルフラスコに、ジエチレングリコールジビニルエーテル2.0kg(12.6mol)、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール15.9kg(43.7mol)、酢酸パラジウム28.2g(0.137mol)、1,10-フェナントロリン一水和物23.0g(116mmol)を加え、55℃で22時間、撹拌を行うことにより、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造した。この後、減圧条件下で留出させることにより、9.6kgの2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを精製した。ガスクロマトグラフィーを用いて分析を行ったところ、得られた2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルの純度は80.5%であり、ジエチレングリコールジビニルエーテルを基準とした収率は77.5%であった。
【0030】
(実施例5)
20Lのセバラブルフラスコに、ジエチレングリコールジビニルエーテル2.0kg(12.6mol)、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール18.3kg(50.3mol)、酢酸パラジウム28.2g(0.137mol)、1,10-フェナントロリン一水和物23.0g(116mmol)を加え、55℃で22時間、撹拌を行うことにより、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造した。この後、減圧条件下で留出させることにより、11.0kgの2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを精製した。ガスクロマトグラフィーを用いて分析を行ったところ、得られた2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルの純度は77.2%であり、ジエチレングリコールジビニルエーテルを基準とした収率は86.0%であった。
【0031】
(実施例6)
20Lのセバラブルフラスコに、ジエチレングリコールジビニルエーテル2.0kg(12.6mol)、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール23.0kg(63.1mol)、酢酸パラジウム28.2g(0.137mol)、1,10-フェナントロリン一水和物23.0g(116mmol)を加え、55℃で22時間、撹拌を行うことにより、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを製造した。この後、減圧条件下で留出させることにより、12.6kgの2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルを精製した。ガスクロマトグラフィーを用いて分析を行ったところ、得られた2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルの純度は69.2%であり、ジエチレングリコールジビニルエーテルを基準とした収率は88.0%であった。
【0032】
上記実施例1~6の収率は75%以上であり、比較例1の収率35.6%であることから、本発明の製造方法を用いることによりフルオロアルキルビニルエーテルの収率が大幅に向上したことが分かる。また、実施例1~6では、原料である2-(パーフルオロヘキシル)エタノールとジエチレングリコールジビニルエーテルのモル比が、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール:ジエチレングリコールジビニルエーテル=1:10(実施例1)、1:5(実施例2)、4.8:1(実施例3)、3.5:1(実施例4)、4:1(実施例5)、5:1(実施例6)となっている。従って、モル量で、ジエチレングリコールジビニルエーテルよりも過剰量の2-(パーフルオロヘキシル)エタノールを用いることで高い収率が得られる傾向があることが分かる。