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特許7377694アンモニア改質型水素供給装置、及び、それを用いたアンモニア改質型水素供給方法
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  • 特許-アンモニア改質型水素供給装置、及び、それを用いたアンモニア改質型水素供給方法 図1
  • 特許-アンモニア改質型水素供給装置、及び、それを用いたアンモニア改質型水素供給方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】アンモニア改質型水素供給装置、及び、それを用いたアンモニア改質型水素供給方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/58 20060101AFI20231102BHJP
   B01J 29/24 20060101ALI20231102BHJP
   B01J 29/46 20060101ALI20231102BHJP
   B01J 29/74 20060101ALI20231102BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20231102BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20231102BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20231102BHJP
【FI】
C01B3/58
B01J29/24 M
B01J29/46 M
B01J29/74 M
B01J29/76 M
C01B3/04 B
H01M8/0606
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019226510
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021095300
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 満
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
(72)【発明者】
【氏名】濱口 豪
(72)【発明者】
【氏名】河内 浩康
(72)【発明者】
【氏名】森 研二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀明
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096616(JP,A)
【文献】特開2010-285595(JP,A)
【文献】特開2016-164109(JP,A)
【文献】特開2016-064407(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02796198(EP,A1)
【文献】N. N. SAZONOVA et al.,“Selective catalytic oxidation of ammonia to nitrogen”,Reaction Kinetics & Catalysis Letters,1996年01月,Vol. 57, No. 1,p.71-79,DOI: 10.1007/BF02076122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00 - 6/34
B01J 21/00 - 38/74
H01M 8/04 - 8/0668
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に水素を供給するためのアンモニア改質型水素供給装置であって、
原料としてのアンモニアを供給するための原料供給器と、
該原料供給器から供給されるアンモニアを改質することにより水素を含有する改質ガスを生成するためのアンモニア改質器と、
前記アンモニア改質器から供給される前記改質ガス中のアンモニアを酸化して窒素及び水を生成することにより前記改質ガスからアンモニアを除去するためのアンモニア選択酸化触媒を備える水素精製装置と、
前記水素精製装置に酸素を供給するための酸素供給器と、
を備えており、かつ、
前記アンモニア選択酸化触媒が、酸性多孔質担体と、該酸性多孔質担体に担持された、Cu及びRuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属とを備える触媒であることを特徴とするアンモニア改質型水素供給装置。
【請求項2】
前記酸性多孔質担体がゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア改質型水素供給装置。
【請求項3】
燃料電池に水素を供給するためのアンモニア改質型水素供給方法であって、
請求項1又は2に記載のアンモニア改質型水素供給装置を用いて、原料であるアンモニアを前記原料供給器から前記アンモニア改質器に供給して前記改質ガスを生成した後、前記改質ガスを前記アンモニア改質器から前記水素精製装置に供給しつつ、酸素を前記酸素供給器から前記水素精製装置に供給することにより、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめて、前記改質ガス中のアンモニアを酸化することにより水素を精製し、精製後の水素を燃料電池に供給することを特徴とするアンモニア改質型水素供給方法。
【請求項4】
前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際の接触ガスの温度が350℃~750℃であることを特徴とする請求項3に記載のアンモニア改質型水素供給方法。
【請求項5】
前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際の酸素とアンモニアの供給割合が容量比([酸素(O)]/[アンモニア(NH)])で0.75~20であることを特徴とする請求項3又は4に記載のアンモニア改質型水素供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア改質型水素供給装置、並びに、それを用いたアンモニア改質型水素供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染や地球温暖化を抑制できるクリーンエネルギーとして、水素を燃料とする燃料電池の利用が注目されている。そして、近年では、このような燃料電池に水素を供給するための装置や方法に関する様々な技術が研究されている。例えば、特開2019-53855号公報(特許文献1)には、アンモニアを改質して水素を含有する改質ガスを生成する改質器と、前記改質ガスに含まれるアンモニアを吸着するための吸着材を有する複数の吸着器とを備える装置が開示されており、かかる装置を用いて燃料電池に水素を供給すること等が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の装置においては、改質ガス中に残留するアンモニアの除去に吸着材を有する吸着器を複数利用していることから、装置の更なる小型化を図るといった観点からは必ずしも十分なものではなかった。
【0003】
なお、アンモニアを酸化分解して水素を生成するために用いる触媒としては、例えば、特開2016-164109号公報(特許文献2)に、Ru、Co、Rh、Ir及びNiからなる群より選択される1種以上の触媒金属と、前記触媒金属を担持しているゼオライト担体とを有するアンモニア酸化分解触媒が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載のアンモニア酸化分解触媒は、水素の存在しない環境下(無水素環境下)において、アンモニアを分解するために利用するものとして知られているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-53855号公報
【文献】特開2016-164109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アンモニアと水素を含む改質ガスからアンモニアを十分に高い除去率で除去することが可能であり、十分に高い水素精製能力を有しながら装置の小型化を十分に図ることが可能なアンモニア改質型水素供給装置、及び、その装置を用いたアンモニア改質型水素供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アンモニア改質型水素供給装置を、原料としてのアンモニアを供給するための原料供給器と、該原料供給器から供給されるアンモニアを改質することにより水素を含有する改質ガスを生成するためのアンモニア改質器と、前記アンモニア改質器から供給される改質ガス中のアンモニアを酸化するためのアンモニア選択酸化触媒を備える水素精製装置と、前記水素精製装置に酸素を供給するための酸素供給器とを備えるものとし、更に、前記アンモニア選択酸化触媒を酸性多孔質担体と、該酸性多孔質担体に担持された、Cu及びRuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属(触媒の金属活性点)とを備える触媒とすることにより、アンモニアと水素を含む改質ガスからアンモニアを十分に高い除去率で除去することが可能となり、十分に高い水素精製能力を有しながら装置の小型化を十分に図ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のアンモニア改質型水素供給装置は、
燃料電池に水素を供給するためのアンモニア改質型水素供給装置であって、
原料としてのアンモニアを供給するための原料供給器と、
該原料供給器から供給されるアンモニアを改質することにより水素を含有する改質ガスを生成するためのアンモニア改質器と、
前記アンモニア改質器から供給される前記改質ガス中のアンモニアを酸化して窒素及び水を生成することにより前記改質ガスからアンモニアを除去するためのアンモニア選択酸化触媒を備える水素精製装置と、
前記水素精製装置に酸素を供給するための酸素供給器と、
を備えており、かつ、
前記アンモニア選択酸化触媒が、酸性多孔質担体と、該酸性多孔質担体に担持された、Cu及びRuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属とを備える触媒であることを特徴とするものである。
【0008】
上記本発明のアンモニア改質型水素供給装置においては、前記酸性多孔質担体がゼオライトであることが好ましい。
【0009】
また、本発明のアンモニア改質型水素供給方法は、
燃料電池に水素を供給するためのアンモニア改質型水素供給方法であって、
上記本発明のアンモニア改質型水素供給装置を用いて、原料であるアンモニアを前記原料供給器から前記アンモニア改質器に供給して前記改質ガスを生成した後、前記改質ガスを前記アンモニア改質器から前記水素精製装置に供給しつつ、酸素を前記酸素供給器から前記水素精製装置に供給することにより、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめて、前記改質ガス中のアンモニアを酸化することにより水素を精製し、精製後の水素を燃料電池に供給することを特徴とする方法である。
【0010】
また、上記本発明のアンモニア改質型水素供給方法においては、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際の接触ガスの温度が350℃~750℃であることが好ましい。
【0011】
さらに、上記本発明のアンモニア改質型水素供給方法においては、前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際の酸素とアンモニアの供給割合が容量比([酸素(O)]/[アンモニア(NH)])で0.75~20であることが好ましい。
【0012】
なお、本発明によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、上記特許文献1に記載のように、改質器においてアンモニアを改質することにより改質ガスを生成した場合、得られる改質ガスは、基本的に、容量比において過剰の水素と、改質されずに残留した微量のアンモニア(NH)とを含むものとなると考えられる。そして、このような改質ガスが生成された場合に、上記特許文献1に記載のように、吸着材を利用してアンモニアを除去する場合、基本的に多量の吸着材を使用することが必要となる。なお、一般的に、吸着材は嵩高いものであり、また、その使用量は吸着すべき物質(アンモニア)の量に比例する。また、一般的な吸着材は、水が共存する条件下では、水とアンモニアとを競争的に吸着するといった特性を有する。そのため、水が共存する条件下においてアンモニアを十分に吸着させるためには更に多量の吸着材を利用することが必要となる。また、吸着材を利用してアンモニアを除去する場合においては、吸着材へのアンモニアの吸着が飽和した場合に吸着材の再生又は交換が必要になる。なお、上記特許文献1においては再生などの観点から複数の吸着器を利用している。このような吸着材の一般的な特性等を考慮すると、上記特許文献1に記載のような従来の装置において、吸着材を利用してアンモニアの除去率を十分に高い水準に維持しつつ、装置の更なる小型化を図ることには限界があるものと考えられる。そして、アンモニア改質型水素供給装置の分野においては、更なる小型化が可能な装置の出現が望まれている。
【0013】
一方、アンモニアを分解して水素を生成するために用いる触媒としては上記特許文献2に記載のような触媒など、様々な触媒が知られている。しかしながら、このような特許文献2に記載のような従来の触媒は、基本的に、無水素環境下においてアンモニアを分解するために利用するものとして認識されているに過ぎない。実際に、上記特許文献2においては、アンモニアと水素と酸素の存在する環境下において、アンモニアを酸化するといった技術的な思想は何ら記載も示唆もなされていない。このように、上記特許文献2に記載のような触媒は、そもそも、上記特許文献1に記載の改質器において利用されるような、アンモニアを改質するための改質触媒として知られているに過ぎない。
【0014】
これに対して、本発明においては、アンモニアの吸着器を利用せずに、アンモニア選択酸化触媒を備える水素精製装置を利用し、かつ、かかるアンモニア選択酸化触媒として、酸性多孔質担体と、該酸性多孔質担体に担持された、Cu及びRuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属(触媒の金属活性点)とを備える触媒を用いること等により、装置の小型化を図ることを可能としつつ、改質ガスから十分に高い水準でアンモニアを除去できることを見出した。すなわち、本発明者らは前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、上述のような本発明にかかる触媒(酸性多孔質担体と、該酸性多孔質担体に担持された、Cu及びRuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属(触媒の金属活性点)とを備える触媒)が、アンモニアと水素と酸素の存在する環境下において、アンモニアを十分に酸化(選択的に酸化)することが可能な特性を有することを見出し、これを改質ガス中のアンモニアを除去するために利用した場合に、装置の小型化を図りながら改質ガスから十分に高い除去率でアンモニアを除去することが可能となり、これにより水素を十分に精製することが可能となって、外部に精製された水素を供給することが可能となることを見出した。
【0015】
ここで、一般に、アンモニアと水素と酸素が存在する環境下において、貴金属等の触媒活性点を有する酸化触媒を利用すると、下記反応式1及び2:
(反応式1) 4NH+3O→2N+6H
(反応式2) 2H+O→2H
に記載の反応が起こり得るものと考えられる。このような反応を考慮して、アンモニアと水素と酸素とを含むガスを前記酸化触媒に接触せしめた場合について検討すると、一般的には、水素がアンモニアと同等に活性化された場合、水素の方が発火点が低く、最小発火エネルギーも小さいため、反応式1に示す反応(目的とする反応)よりも、反応式2に示す反応(副反応:酸素と水素との反応)が優先的に進行するものと考えられる。実際に、パラジウム(Pd)や白金(Pt)のような貴金属を活性点とする従来の酸化触媒を用いた場合、アンモニアと水素と酸素とを含むガスを接触させても、反応式1に示す反応は進行しない(後述の比較例1及び2参照)。このように、アンモニアと水素と酸素とを含むガスを、貴金属等の触媒活性点を有する従来の酸化触媒に接触せしめた場合、通常は、反応式2に記載の反応に酸素が消費されて酸素の量が不足し、目的とする反応式1に記載のような反応が十分に進行しないものと考えられる。なお、アンモニアに対して過剰に水素を含むような改質ガスと、酸素との混合ガスを酸化触媒に接触せしめた場合について考慮すると、より反応が進行し易い物質であると考えられる水素の触媒への接触確率がより高くなることが明らかであり、かかる観点からも、反応式2に記載の反応が優先的に進行するものと考えられる。このような観点から、従来は、水素を含む改質ガスからアンモニアを除去して精製するために、貴金属を備える酸化触媒を利用してアンモニアを酸化して除去することなど何ら提案されていなかったものと推察される。なお、アンモニアを十分に酸化するために、反応系に酸素を過剰に導入した場合についても検討すると、その導入量に比例して、より多くの副反応(反応式2)が起こって水素が浪費されてしまうことから、結果的に水素の供給量が低下してしまうことは明白と考えられ、かかる観点からも、アンモニアと水素と酸素とを含むガスからアンモニアを除去するために酸化触媒を利用することなど従来は提案されていなかったものと推察される。
【0016】
このように、触媒反応に関する従来の知見から、これまでアンモニアを改質して生成される、水素を含む改質ガスを酸素とともに特定の触媒に接触せしめて、改質ガス中のアンモニア(改質されずに残った原料の残存成分)を酸化して除去するといった技術は特に報告されていなかった。しかしながら、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、様々な触媒がある中で、上記特定の種類のアンモニア選択酸化触媒を利用した場合には、アンモニアと水素と酸素が存在する環境下において、例え微量のアンモニアに対しても上記反応式1に記載の反応を十分に引き起すことが可能となり、これによりアンモニアを酸化、除去して水素を効率よく精製することが可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。このように、本発明においては、上記特定のアンモニア選択酸化触媒を水素精製装置に利用することで、改質ガスから十分な除去率でアンモニアを除去して水素を精製することを可能としている。また、本発明においては、嵩高い吸着材を多量に利用することなく、前記アンモニア選択酸化触媒の利用によってアンモニアを十分に除去することを可能とするため、アンモニア改質型水素供給装置内において水素精製装置の小型化を十分に図ることが可能となり、これにより従来のアンモニア改質型の水素供給装置と比較して、装置の更なる小型化を図ることをも可能とする。そのため、本発明のアンモニア改質型水素供給装置は、特に小型化が要求されるような用途(例えば自動車に搭載するような用途)に、より好適に利用することが可能であるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アンモニアと水素を含む改質ガスからアンモニアを十分に高い除去率で除去することが可能であり、十分に高い水素精製能力を有しながら装置の小型化を十分に図ることが可能なアンモニア改質型水素供給装置、及び、その装置を用いたアンモニア改質型水素供給方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のアンモニア改質型水素供給装置の好適な一実施形態を示す模式図である。
図2】実施例で利用した固定床流通型反応装置に設置する、触媒を充填した反応管の状態を模式的に示す模式図である。
図3】実施例において行ったアンモニアの除去性能の評価試験において、モデルガスの流通を開始した後の加熱処理における加熱温度と時間(分)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。また、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、本発明のアンモニア改質型水素供給装置は、原料としてのアンモニアを供給するための原料供給器と、該原料供給器から供給されるアンモニアを改質することにより水素を含有する改質ガスを生成するためのアンモニア改質器と、前記アンモニア改質器から供給される改質ガス中のアンモニアを酸化するためのアンモニア選択酸化触媒を備える水素精製装置と、前記水素精製装置に酸素を供給するための酸素供給器とを備えており、かつ、前記アンモニア選択酸化触媒が、酸性多孔質担体と、該酸性多孔質担体に担持された、Cu及びRuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属とを備える触媒であることを特徴とするものである。また、本発明のアンモニア改質型水素供給方法は、上記本発明のアンモニア改質型水素供給装置を用いて、原料であるアンモニアを前記原料供給器から前記アンモニア改質器に供給して前記改質ガスを生成した後、前記改質ガスを前記アンモニア改質器から前記水素精製装置に供給しつつ、酸素を前記酸素供給器から前記水素精製装置に供給することにより、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめて、前記改質ガス中のアンモニアを酸化することにより水素を精製し、精製後の水素を供給することを特徴とする方法である。
【0020】
図1は、本発明のアンモニア改質型水素供給装置の好適な一実施形態を示す模式図である。図1に示すアンモニア改質型水素供給装置1は、原料供給器10と、アンモニア改質器11と、水素精製装置12と、酸素供給器13と、ガス管14a~14eとを備えている。このような装置1においては、アンモニア改質器11に対して原料供給器10からアンモニア(原料)の供給が可能となるように、原料供給器10とアンモニア改質器11とがガス管14aを介して接続されている。また、アンモニア改質器11に対して酸素供給器13から酸素の供給が可能となるように、アンモニア改質器11と酸素供給器13はガス管14bを介して接続されている。さらに、このような装置1においては、水素精製装置12に対してアンモニア改質器11から改質ガスの供給が可能なるように、アンモニア改質器11と水素精製装置12とがガス管14cを介して接続されている。また、水素精製装置12に対して酸素供給器13から酸素の供給が可能となるように、水素精製装置12と酸素供給器13はガス管14dを介して接続されている。また、水素精製装置12には、精製後の水素をガス管14eを介して外部に供給できるように、ガス管14eが接続されている。なお、図1のガス管14a~14e中に記載された矢印はいずれも、そのガス管の中を流れるガスの方向(ガスの流通する方向)を概念的に示すものである。
【0021】
原料供給器10は、原料としてのアンモニアをアンモニア改質器11に対して供給することが可能なものであればよく、その設計等は特に制限されず、公知のものを適宜利用できる。このような原料供給器10としては、例えば、アンモニアを貯蔵するタンク(貯蔵容器)を備えるものであってもよい。このような原料供給器10が備えるタンクとしては、特に制限されるものではないが、装置の小型化を図る観点や、より大量のアンモニアの供給を行うことが可能となるといった観点から、アンモニアを液体状態で貯蔵することが可能なタンクを好適に利用できる。このようなアンモニアを液体状態で貯蔵することが可能なタンクとしては、例えば、常温(20℃~25℃程度)且つ数気圧(8.6気圧~10気圧程度)で液体状態のアンモニアを貯蔵することが可能なものを好適に利用できる。なお、このようなアンモニアを液体状態で貯蔵することが可能なタンクを利用する場合には、該タンクに対してアンモニアをより容易に補充することが可能となる。
【0022】
また、原料供給器10が、アンモニアを液体状態で貯蔵することが可能なタンクを備える場合、原料供給器10からアンモニア改質器11に対して気体状態のアンモニアを供給することが可能となるように、原料供給器10は、該タンクとともに、そのタンクに接続された気化器を更に備えることが好ましい。このような気化器は、液体状態のアンモニアを気化することが可能なものであればよく、特に制限されるものではないが、例えば、液体状態のアンモニアを加熱することにより気化することを可能な構成のもの等、公知の気化器を適宜利用できる。また、このようなタンクと気化器とを利用する場合、原料供給器10としては、例えば、液体状態のアンモニアを前記タンクから前記気化器内に導入するためのポンプにより、アンモニアを液体状態で貯蔵するタンクと前記気化器とを接続した構成のものを好適に利用できる。このような原料供給器10により、気体状態のアンモニアをガス管14aを介して、アンモニア改質器11に供給することが可能となる。
【0023】
アンモニア改質器11は、原料供給器10の下流側に設けられ、原料供給器10とはガス管14aを介して接続されている。また、アンモニア改質器11は、酸素供給器13ともガス管14bを介して接続されている。そのため、本実施形態の装置1においては、アンモニア改質器11に対して原料供給器10からアンモニア(気体)を供給することが可能であるとともに、アンモニア改質器11に対して酸素供給器13から酸素(気体)を供給することも可能である。
【0024】
このようなアンモニア改質器11の構成は特に制限されず、公知の構成のものを適宜利用でき、例えば、公知のアンモニア改質触媒を備えるものを好適に利用できる。このように、アンモニア改質触媒を用いて原料供給器10から供給されるアンモニアを分解する場合、かかる分解反応により、水素(H)を含有する改質ガスを効率よく生成することが可能である。なお、このようなアンモニア改質器11としては、公知の容器に公知のアンモニア改質触媒を収容したもの等を適宜利用できる。
【0025】
また、アンモニア改質器11が前記アンモニア改質触媒を備える場合、かかるアンモニア改質器11としては、アンモニアと酸素との化学反応によりアンモニアを酸化させて熱を発生させるためのアンモニア燃焼触媒を備える燃焼部(酸化部)と;該燃焼部で発生した熱を利用してアンモニアを分解して水素及び窒素を生成するためのアンモニア改質触媒を備える改質部(分解部)と;を備えるものを好適に利用できる。このような燃焼部と改質部とを備えるアンモニア改質器11によれば、該燃焼部において、原料供給器10より供給されるアンモニアの一部と酸素供給器13から供給される酸素とをアンモニア燃焼触媒に接触せしめることによりアンモニアを酸化して熱を発生させることが可能となり、その酸化反応により発生した熱を前記改質部でのアンモニア(原料供給器10より供給されるアンモニアのうち燃焼部により燃焼されなかった残部)の分解反応に利用することが可能となるため(アンモニア改質触媒にアンモニアを接触せしめることで生じせしめる分解反応に、前記燃焼部で生じた熱を利用することが可能となるため)、アンモニアを改質して水素をより効率よく生成することが可能となる。すなわち、前記燃焼部において一部のアンモニアを酸化させ、改質部において、残りのアンモニアを水素化する。このように、前記燃焼部と前記改質部とを備える構成のアンモニア改質器11によれば、いわゆるオートサーマル改質(ATR)方式により、アンモニアを改質することが可能となる(このような改質器11は熱交換方式の改質器であるともいえる)。なお、このような燃焼部に利用するアンモニア燃焼触媒としては、アンモニアを酸化する際に利用可能な公知の触媒を適宜利用でき、例えば、担体と、該担体に担持された貴金属からなる触媒金属(金属活性点)とを備えるものを好適に利用できる。また、改質部に利用するアンモニア改質触媒としては、アンモニアを改質して水素と窒素に分解することが可能な公知のアンモニア改質触媒を適宜利用でき、特に制限されないが、担体と、該担体に担持された貴金属からなる触媒金属(金属活性点)とを備えるものを好適に利用できる。このようなアンモニア燃焼触媒及びアンモニア改質触媒に利用する担体としては特に制限されず、公知の担体を適宜利用でき、例えば、アルミナやゼオライト等を適宜利用してもよい。また、前記アンモニア燃焼触媒の触媒金属としては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Ptを利用でき、中でも、低温活性がより高いものとなるといった観点から、V、Mn、Fe、Co、Ni、Pt、Cu、Ruがより好ましい。また、前記アンモニア改質触媒の触媒金属としては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Ptを利用でき、中でも、低温活性がより高いものとなるといった観点から、Ru、Fe、Co、Ni、Mo、Rh、Reがより好ましい。なお、前記アンモニア燃焼触媒及び前記アンモニア改質触媒としては、同一の構成のものを利用してもよく、あるいは、異なる構成のものを利用してもよい。さらに、前記アンモニア燃焼触媒及び前記アンモニア改質触媒を調製するための方法も特に制限されず、公知の方法を適宜利用できる。また、前記アンモニア燃焼触媒及び前記アンモニア改質触媒の形態は特に制限されず、目的の設計に応じて、その形態を適宜変更して利用でき、例えば、ペレット状として利用したり、各種形状の基材(例えばハニカムモノリス状の基材等)に触媒を担持した形態等としてもよい。
【0026】
また、このようなアンモニア改質器11としては、例えば、上流側に前記燃焼部を有し、かつ、下流側に前記改質部を有する形態のものとしたり、改質器11内において仕切り板等を適宜利用して前記燃焼部と前記改質部とを仕切って、前記燃焼部には酸素とアンモニアとが流通しかつ前記改質部にはアンモニアのみが流通するような構造体として、仕切り板を介して燃焼部の熱を改質部に伝導せしめる形態のものとする等、各種の形態にして利用してもよい。なお、このようなアンモニア改質器11の構成(形態)は特に制限されず、公知の構成(例えば特開2019-53855号公報に開示されている改質器の構成(ガス管の接続方法なども含む)等)を適宜利用してもよい。また、改質器11の構成は上述のものに制限されるものではなく、例えば、別途、アンモニアを分解するための熱を発生させるヒータ等を有していてもよい。さらに、ガス管内を流通する改質ガスが適切な温度となるように、水素精製装置12は、公知の熱交換器等を別途備えるものとして利用してもよい。このように、目的とする設計に応じて、水素精製装置12は、加熱手段(ヒーター等)や冷却手段等を適宜備えるものとしてもよい。
【0027】
水素精製装置12は、アンモニア改質器11の下流側に設けられており、アンモニア改質器11とはガス管14cを介して接続されている。また、水素精製装置12は、酸素供給器13ともガス管14dを介して接続されている。そのため、本実施形態の装置1においては、アンモニア改質器11から水素精製装置12に対してアンモニア改質器11により生成された改質ガスを供給することが可能であるとともに、酸素供給器13から水素精製装置12に対して酸素を供給することも可能である。
【0028】
このような水素精製装置12は、前記アンモニア選択酸化触媒を備えるものである。このような水素精製装置12は、前記アンモニア選択酸化触媒を備えるものであればよく、その構成は特に制限されるものではない。そのため、水素精製装置12としては、触媒種を前記アンモニア選択酸化触媒とする以外は、公知の構成の触媒反応装置(固定床流通式反応装置、流動床式反応装置等)と同様の形態のものを適宜利用してもよい。また、このような水素精製装置12は、その設計に応じて、アンモニア選択酸化触媒を収容するための容器を備えるものとしてもよい。なお、このような容器としては特に制限されず、公知の容器を適宜利用できる。
【0029】
また、このような水素精製装置12が備えるアンモニア選択酸化触媒は、酸性多孔質担体と、該酸性多孔質担体に担持された、Cu及びRuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属(触媒の金属活性点)とを備える触媒である。このような酸性多孔質担体としては、ゼオライト(なお、ゼオライトの種類は特に制限されず、A型、フェリエライト型、MCM-22型、ZSM-5型、モルデナイト(MOR)型、L型、Y型、X型、β型(ベータ型)等のいずれの種類のものであってもよい)、リン酸化合物、SiO-Al、WO-ZrO、MOFを好適に利用できる。また、このような酸性多孔質担体の中でも、酸性度や細孔径の制御がより容易であるという観点からは、ゼオライトがより好ましく、β型ゼオライト、ZSM-5型ゼオライトが更に好ましく、β型ゼオライトが特に好ましい。このような酸性多孔質担体は、公知の方法で適宜製造して利用してもよいし、市販品がある場合には市販品を利用してもよい。
【0030】
また、前記アンモニア選択酸化触媒中の触媒金属(金属活性点)は、銅(Cu)及びルテニウム(Ru)よりなる群から選択される少なくとも1種からなる。このように、触媒金属(金属活性点)がCu及び/又はRuからなる触媒によれば、金属活性点が水素を活性化し難いものとなるため、アンモニアを酸化する反応を十分に選択的に引き起すことが可能となり、水素とアンモニアが共存する場合においても、アンモニアを十分に酸化して除去することが可能となる。なお、触媒金属(金属活性点)がCu及び/又はRu以外の金属からなるものである場合には、アンモニアを十分に選択的に酸化することができない。例えば、Cu及びRu以外の貴金属(PtやPd等)を触媒金属(触媒の金属活性点)に利用した場合には、水素とアンモニアと酸素とが共存するガスを接触させると、水素と酸素との反応(上記反応式2に記載の反応)が優先的に引き起こされてしまい、水素の酸化に酸素が消費されてしまうとともに、これにより水素を十分に精製(改質ガスからアンモニアを除去)することが困難となる。
【0031】
このような触媒活性点を形成する触媒金属(Cu及び/又はRu)は、原料価格や資源量の観点からはCuがより好ましく、また、反応活性の観点からはRuがより好ましい。
【0032】
また、前記アンモニア選択酸化触媒中の触媒金属を形成するCu及びRuの担持量(Cu及びRuの合計量)は、特に制限されるものではないが、前記アンモニア選択酸化触媒の総量に対して0.05~10質量%(より好ましくは0.1~7質量%)であることが好ましい。なお、触媒金属がCuからなる場合、前記アンモニア選択酸化触媒の総量に対するCuの担持量は2~8質量%であることが更に好ましく、3~7質量%であることが特に好ましい。さらに、触媒金属がRuからなる場合、前記アンモニア選択酸化触媒の総量に対するRuの担持量は0.05~1質量%であることが更に好ましく、0.1~0.5質量%であることが特に好ましい。このような触媒金属の担持量が前記下限未満ではNH除去性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると反応に関与しない部分が生じて無駄になる傾向にある。
【0033】
このようなアンモニア選択酸化触媒の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用でき、例えば、担体に金属を担持することが可能な公知の方法を適宜採用して、酸性多孔質担体にCu及びRuからなる群から選択される少なくとも1種の金属を担持することにより、アンモニア選択酸化触媒を製造する方法を採用してもよい。また、このようなアンモニア選択酸化触媒の製造方法としては、例えば、Cu及びRuからなる群から選択される少なくとも1種の金属の塩(硝酸塩、塩化物、酢酸塩等)又は該金属の錯体を水、アルコール等の溶媒に溶解した溶液に、前記酸性多孔質担体を浸漬し、溶媒を除去した後に焼成する方法等を好適に利用できる。なお、前記アンモニア選択酸化触媒の形態は特に制限されず、目的の設計に応じて、その形態を適宜変更して利用でき、例えば、ペレット状としたり、各種形状の基材(例えばハニカムモノリス状の基材等)に触媒を担持した形態としてもよい。なお、水素精製装置12には、ガス管内を流通するガスが適切な温度となるように、公知の熱交換器等を適宜備えていてもよい。また、水素精製装置12は、触媒活性の高い状態を維持して反応の進行をより効率よく行わせるために、該装置内のアンモニア選択酸化触媒自体の温度やアンモニア選択酸化触媒に接触させるガスの温度等を適宜制御できるように、加熱手段や冷却手段等を適宜備えていてもよい。
【0034】
酸素供給器13は、ガス管14b及び14dを介して、アンモニア改質器11及び水素精製装置12にそれぞれ接続されている。このような酸素供給器13は、必要量の酸素をアンモニア改質器11及び水素精製装置12にそれぞれ供給することが可能なものを適宜利用できる。なお、酸素供給器13は、酸素を含有するガス(例えば空気)を供給することで、必要量の酸素をアンモニア改質器11及び水素精製装置12に供給できるものであってもよく、更には、必要量の酸素を単独でアンモニア改質器11及び水素精製装置12に供給できるものであってもよい。このように、酸素供給器13は、結果的に酸素を供給することが可能なものであればよく、特に制限されず、公知の装置を適宜利用でき、例えば、コンプレッサ、エアーポンプ、ボンベ、吸気口から空気を取り込むことが可能な構造を有しかつガス管(酸素ガスを供給するためのガス管)にガスを供給(送風等)することが可能な手段(ファン等)を備えたもの(筐体)等であってもよい。
【0035】
また、ガス管14a~14eとしては、該管の中にガスを流通させることが可能なものであればよく、特に制限されず、装置のサイズや設計に応じて、公知のものを適宜利用できる。なお、ガス管14a~14e内にガスを効率よく流通させるために、ガス管14a~14eや、その他の構成要素(前述のアンモニア改質器11や水素精製装置12等)にファン、インジェクタ、弁等といったガス等の流量を調整することが可能な手段を適宜設けてもよい。また、ガスの温度が所望の温度となるように、ガス管14a~14eや、その他の構成要素(前述のアンモニア改質器11や水素精製装置12等)が、公知の熱交換器や、公知の加熱手段や冷却手段等を適宜備えていてもよく、利用する触媒の種類や用途等に応じて、その設計を適宜変更することができる。また、反応に利用する酸素の使用量やガスの温度等を制御するために、各ガス管内や、アンモニア改質器11の改質ガスの排出口の近傍(ガス管14Cとアンモニア改質器11との接続部近傍)、水素精製装置12の改質ガスの流入口の近傍(ガス管14Cと水素精製装置12との接続部近傍)等の適切な部位に、ガス中の成分(例えばアンモニア)の濃度を測定するためのセンサや、ガスの温度を測定するためのセンサ等の、公知の各種センサを適宜設置してもよく、これらのセンサからの情報に応じて、酸素供給器13や加熱手段等の運転状況等を制御して酸素の供給量やガスの温度等を適宜制御してもよい。なお、装置1を自動車に搭載する場合には、例えば、自動車のエンジンの駆動状態を制御するための、いわゆるエンジンコントロールユニット(ECU)のコンピュータを利用して、各種センサから得られるデータ等に基づいて、装置1が備える各種構成部分(酸素供給器13や、場合により備える加熱手段等)の運転状況等を適宜制御することにより、ガスの供給量(流量)やガスの温度等を適宜制御してもよい。
【0036】
以下、図1に示す実施形態のアンモニア改質型水素供給装置を用いて水素を供給する方法(本発明のアンモニア改質型水素供給方法の好適な一実施形態)について説明する。
【0037】
このようなアンモニア改質型水素供給方法においては、先ず、原料であるアンモニアを原料供給器10からアンモニア改質器11に供給する。このような原料供給器10からアンモニア改質器11にアンモニアを供給する方法は、原料供給器10の構成によっても異なるものであり、特に制限されるものではないが、例えば、原料供給器10として、前述のアンモニアを貯蔵するタンク(貯蔵容器)と気化器とを備える形態のものを利用する場合、該タンクから気化器に導入された液体状態のアンモニアを気化器により気化(ガス化)し、生成された気体状のアンモニアをガス管14aに導入せしめることで、原料供給器10からアンモニア改質器11に気体状のアンモニアを供給する方法を採用することができる。
【0038】
また、このような方法においては、上述のようにしてアンモニア(原料)をアンモニア改質器11に供給した後、該改質器11においてアンモニア改質反応を進行せしめる。このような反応により、アンモニア改質器11において改質ガスを生成することが可能となる。なお、このようなアンモニア改質器11においては、公知の改質器と同様に、公知のアンモニアの改質反応を利用して改質ガスを生成すればよく、その改質器の構造に応じて、反応が逐次進行するように適切な条件を適宜採用して改質ガスを生成すればよい。このように、改質ガスの生成方法自体は特に制限されず、公知の方法を適宜利用できる。なお、このような改質ガスは、改質器11において生じるアンモニアの改質反応の反応形態によっても組成が異なるものとなるが、水素と窒素と水とアンモニア(反応せずに残ったアンモニア)とを含み得る。例えば、このような改質ガスの生成に関して、上流側に前記燃焼部を有し、かつ、該燃焼部において燃焼後のガスが下流側の改質部に接触するような構成のアンモニア改質器11を利用した場合について検討すると、先ず、アンモニア改質器11に対してガス管14aを介してアンモニアを導入するとともにガス管14bを介して酸素を導入すると、上流側の前記燃焼部において、酸素とアンモニアが前記アンモニア燃焼触媒に接触して、上記反応式1に記載の反応(酸素とアンモニアの反応)が生じ、上流側において窒素(N)と水(HO)が生成されるとともに熱が発生し、その発生した熱を利用して下流側の改質部のアンモニア改質触媒を活性化することが可能となることから、下流側においてアンモンニアの分解反応(窒素と水素の生じる反応)を効率よく引き起こすことが可能となって改質ガスを生成することができる。そして、このような反応を利用した場合には、得られる改質ガスには、上流側で生じた窒素及び水と、下流側で生じた窒素及び水素とが含まれ得るとともに、更には反応せずに残留した原料ガス(アンモニア)が含まれ得る。なお、このような燃焼部と改質部とを備える形態のアンモニア改質器11を用いる場合、改質器11に供給するアンモニアと酸素の比率は特に制限されず、燃焼部と改質部の種類や性能等に応じて適宜設定すればよい。なお、このような酸素の供給方法は特に制限されず、酸素供給器13から空気を供給することにより、結果的に酸素を供給してもよい。また、アンモニア改質器11として、前記改質部と、前記改質部に熱を供給するためのヒータとを備える形態のものを利用する場合においては、ヒータからの熱を利用できるため、前記燃焼部における反応(アンモニアの燃焼反応)を必ずしも利用する必要はなく、この場合には改質器11には酸素を特に供給しなくてもよい。そして、このようにヒータの熱を利用してアンモニアの燃焼反応を利用しない場合には、生成される改質ガスには、水素と窒素とアンモニアが含まれ得ることとなる。このように、装置の構成に応じてアンモニア改質器11への酸素の供給の要否を適宜変更することができ、結果として生成される改質ガスの組成が異なるものとなり得る。
【0039】
なお、前述のようなアンモニアから改質ガスを生成する工程は、アンモニア改質器11として、アンモニアの改質が可能な公知の手段(公知の改質器)を利用して、アンモニアから改質ガスを生成する公知の方法を適宜応用することができ、アンモニアや酸素の使用量や利用する触媒の温度等は、公知の条件を適宜採用できる。なお、用いた改質器11において分解可能な理論量(触媒の量等との関係で理論的に分解可能となる量:予め触媒とガスの量との関係をマッピングする等して算出してもよい)で、アンモニアを利用した場合、改質器11においては、生成される改質ガスの組成を、容量比で過剰の水素と微量のアンモニア(反応せずに残留してしまうアンモニア)とが含まれた状態とすることも可能である。
【0040】
また、このようなアンモニア改質型水素供給方法においては、前述のように、改質ガスを生成した後、該改質ガスをガス管14cを介してアンモニア改質器11から水素精製装置12に供給しつつ、酸素供給器13からガス管14dを介して酸素を水素精製装置12に供給することにより、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめて、前記改質ガス中のアンモニアを酸化する。
【0041】
このように、本発明においては、改質ガスを生成した後、水素精製装置12が備える前記アンモニア選択酸化触媒により、アンモニアを酸化する。このような酸化に利用する酸素を酸素供給器13から供給する方法は特に制限されず、酸素供給器13から空気を供給することにより、結果的に酸素を供給してもよい。なお、前記酸性多孔質担体と、該酸性多孔質担体に担持された、Cu及びRuよりなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属とを備える、本発明にかかるアンモニア選択酸化触媒により、アンモニアを十分に酸化(選択的に酸化)することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは、以下のように推察する。すなわち、先ず、アンモニア選択酸化触媒に酸素と改質ガスを接触せしめると、アンモニア選択酸化触媒中の酸性多孔質担体によりアンモニアの吸着と、それによる担体上でのアンモニアの濃縮が起こり、その後、触媒金属により、吸着されたアンモニアと酸素を反応させることが可能となる。なお、改質ガス中の水素は担体に吸着され難く、また、アンモニア選択酸化触媒と接触しても金属上でH-H結合の解離が起こり難いため、水素と酸素により水が生じる反応(上記反応式2に記載の反応)よりも、優先的に、アンモニアと酸素の反応を引き起すことが可能となるものと推察される。そのため、前記アンモニア選択酸化触媒によれば、アンモニアを十分に選択的に酸化せしめることが可能となり、改質ガスから十分にアンモニアを酸化除去して、十分に精製された水素(ガス)を生成することが可能となるものと本発明者らは推察する。
【0042】
また、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際においては、触媒の種類等に応じて反応がより効率よく進行するように、接触ガス(前記改質ガス及び前記酸素の混合ガス)の温度を制御することが好ましい。そして、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際において、接触ガスの温度は350℃~750℃(より好ましくは400℃~700℃)であることがより好ましい。このようなアンモニア選択酸化触媒への接触ガスの温度が前記下限未満では金属の活性を高度なものとすることが困難であり、アンモニアの除去能力が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとアンモニアの担体への吸着が阻害され、却ってアンモニアの除去性能が低下する傾向にある。
【0043】
また、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際においては、前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際の酸素とアンモニア(改質ガス中のアンモニア)の供給割合が容量比([酸素(O)]/[アンモニア(NH)])で0.75~20(より好ましくは0.75~10)であることが好ましい。このような容量比が前記下限未満では、酸素不足になり、アンモニアが酸化されずに残留する傾向にあり、他方、前記上限を超えると余剰の酸素が水素と反応し、改質器で精製した水素を浪費してしまう傾向にある。なお、このような容量比の接触ガス(混合ガス)を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる方法としては、特に制限されず、例えば、装置1においてアンモニアガスの濃度を測定可能なセンサ等を適宜利用して、該センサにより水素精製装置12に対して供給される改質ガス中のアンモニアの濃度を確認して、必要量の酸素が酸素供給器13から供給されるように、酸素供給器13の運転を制御する方法等を適宜採用できる。
【0044】
なお、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめる際において、接触ガス(前記改質ガス及び前記酸素の混合ガス)の流量は特に制限されず、触媒の種類に応じて、適宜設定すればよい。
【0045】
このようにして、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめて、前記改質ガス中のアンモニアを酸化することで水素を精製するが、このようにして精製した後に得られる水素を含むガス(以下、便宜上、場合により単に「精製ガス」と称する)としては、アンモニアの含有量が0.1ppm以下のガスとなっていることが好ましい。このような精製ガス中のアンモニアの濃度が前記上限を超えると、例えば、PEM型(固体高分子型)燃料電池に精製ガス(水素)を供給する場合において、PEM型燃料電池を劣化させてしまう傾向にある。なお、精製ガス中のアンモニアの含有量が0.1ppm以下となるように、用途や装置1自体の全体のサイズ等を考慮して、前記アンモニア選択酸化触媒の種類やその使用量、前記アンモニア選択酸化触媒へのガスの供給量や温度等の関係を予め考慮して、装置1を適宜設計して利用することが好ましい。
【0046】
このようにして、前記改質ガス及び前記酸素を前記アンモニア選択酸化触媒に接触せしめることにより水素を精製した後においては、ガス管14eを介して外部に精製後の水素を供給すること(アンモニアが十分に除去された水素を含む精製ガスを供給すること)が可能となる。なお、このような精製後の水素の供給先としては、特に制限されるものではないがPEM型燃料電池を好適なものとして挙げることができる。
【0047】
以上、本発明のアンモニア改質型水素供給装置及びアンモニア改質型水素供給方法の好適な実施形態について図1を参照しながら説明したが、本発明のアンモニア改質型水素供給装置及びアンモニア改質型水素供給方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図1に示す実施形態のアンモニア改質型水素供給装置1においては、酸素供給器13がアンモニア改質器11に接続されているが、本発明のアンモニア改質型水素供給装置においては水素精製装置12に酸素を供給することが可能となるように、酸素供給器と水素精製装置12との関係が構成されていればよく、ガス管の配管等は特に制限されるものではない。また、図1に示す実施形態のアンモニア改質型水素供給装置1においては、1つの酸素供給器13を利用しているが、本発明においては、酸素供給器13の数は特に制限されず、例えば、2つの酸素供給器13を利用して、アンモニア改質器11と、水素精製装置12とに、それぞれ別々の酸素供給器13を接続してもよい。また、図1に示す実施形態のアンモニア改質型水素供給装置1においては、原料供給装置10とアンモニア改質器11とが直線状の一本のガス管14aにより接続されているが、原料供給装置10とアンモニア改質器11とは、原料供給器10からアンモニア改質器11にアンモニアが供給されるように構成されていればよく、その供給に利用するガス管の形状や数などは特に制限されず、例えば、これらを複数本のガス管により接続したり、途中から枝分かれしたガス管により接続してもよい。なお、アンモニア改質器11が前記燃焼部と前記改質部とを備える場合に、例えば、原料供給装置10とアンモニア改質器11とを途中から枝分かれしたガス管により接続することにより、各部に供給されるアンモニアの量を調整する等してもよい。このように、本発明のアンモニア改質型水素供給装置及びアンモニア改質型水素供給方法は上記実施形態に限定されるものではなく、その用途や目的とするサイズ等に応じて、その設計等を適宜変更してもよい。
【実施例
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
〈触媒Aの調製工程〉
先ず、β型のゼオライト(β-ゼオライト:東ソー株式会社製の商品名「HSZ-931HOA」)を準備し、そのβ-ゼオライト20gを、銅の酢酸塩(Cu(CHCOO)・HO)を0.63g含有する水溶液200mL中に浸した。その後、前記水溶液から水を蒸発させた後、得られた固形分を大気中、300℃で3時間加熱した後、更に、水素と窒素の混合ガス(容量比:H/N=5/95)雰囲気下、500℃で5時間加熱することにより焼成し、β-ゼオライトからなる担体と、該担体に担持されたCu(担持量:1.0質量%)とを備える触媒Aを得た。次いで、得られた触媒Aを圧粉成型し、破砕、整粒することで、直径0.5~1.0mmのペレット状の触媒A[担体:β-ゼオライト、触媒金属:Cu(担持量:1.0質量%)]を得た。
【0050】
〈アンモニアの除去性能の評価試験〉
先ず、固定床流通型反応装置(ベスト測器株式会社製の商品名「CATA-5000-6」)を用い、該装置の石英製の反応管(円筒状の反応管)内に、上述のようにして得られたぺレット状の触媒A(2.0g)を充填し、石英グラスウール(以下、単に「グラスウール」と称する)を用いて反応管の中央部に固定(設置)した。すなわち、図2に模式的に示すように、2つのグラスウール102で挟んで、前記触媒A(2.0g)からなる層(触媒101)を反応管100の中央部に設けることにより、円筒状の反応管100内に触媒A(触媒101)を固定(設置)した。なお、図2に示す矢印は、反応管100に導入されるガスが流れる方向(気流の方向)を概念的に示すものである。また、円筒状の反応管100は、直径(内径)が16mmの石英からなる反応管であり、触媒101はペレット状の触媒A(2.0g)を厚さが20mm(触媒容積:4.0mL)の触媒層となるように設置して形成したものであり、上流側のグラスウール102及び下流側のグラスウール102はいずれも厚さが4mm(容積:1.0mL)となるようにして利用した。次いで、このようにして中央部に2.0gの触媒A(触媒101)を設置した後の円筒状の反応管100を、装置内の加熱炉で加熱できるように固定床流通型反応装置内に設置した。そして、該装置を利用して、触媒A(触媒101)を備える円筒状の反応管100内に、下記表1に記載の組成のモデルガス(アンモニア改質器により改質された改質ガスに対して酸素を加えた混合ガスに模したガス:なお、利用する固定床流通型反応装置においては高濃度の水素を含むガスの測定は困難であるため、不活性ガスであるNによって希釈した表1に示すような組成のガスをモデルガスとしている)を10L/分の流量で流した。
【0051】
【表1】
【0052】
そして、このようなモデルガス(以下、場合により「入ガス」と称する)の流通を開始した後、反応管100(触媒床)内の触媒A(触媒101)に対して、固定床流通型反応装置の加熱炉を利用して加熱したモデルガスを流すことで加熱前処理を施した。ここで、前記加熱前処理(以下、便宜上、場合により、単に「第一の加熱処理」と称する)は、触媒A(触媒101)に対して流通させるモデルガス(入ガス)の温度を測定下限温度(Tlow)から測定上限温度(Thigh)まで昇温速度:40℃/分の条件で昇温して、測定上限温度(Thigh)で5分間保持した後、降温速度:-20℃/分の条件で降温して、測定下限温度(Tlow)で10分間保持することにより、触媒A(触媒101)を加熱する処理とした。
【0053】
そして、このような加熱前処理(第一の加熱処理)後、前記モデルガスを同一の条件(10L/分)で流し続けながら、反応管100(触媒床)内の触媒A(触媒101)に対して、測定下限温度(Tlow)から測定上限温度(Thigh)まで昇温速度:10℃/分の条件でモデルガス(入ガス)の温度を昇温(加熱)する加熱処理(以下、便宜上、単に「第二の加熱処理」と称する)を施した。なお、第一の加熱処理と第二の加熱処理はともに、前述のようなモデルガス気流下(流量:10L/分)において行い、これらの処理は連続的に行った。ここで、モデルガスの流通を開始した後の触媒Aに対する加熱シークエンス(加熱処理の手順:加熱温度と時間との関係を示すグラフ)を図3に示す。なお、図3に示す温度(Tlow、Thigh等)はいずれもモデルガスの温度である。
【0054】
そして、前記固定床流通型反応装置を利用して、前記加熱前処理(第一の加熱処理)及び前記第二の加熱処理を施しながら、触媒A(触媒101)に接触した後に、反応管の出口から排出されるガス(以下、場合により、単に「出ガス」と称する)に含まれる成分(NH、H、O、窒素酸化物)の濃度を分析(測定)した。そして、このような分析結果の中から、特に、前記第二の加熱処理中の出ガスに含まれるNHの濃度のデータを利用して、触媒に接触する前の入ガス(モデルガス)中のNHの量と、出ガス中のNHの量との対比により、触媒AのNH除去率(NH浄化率)を求めた。なお、このような測定に際しては、測定下限温度(Tlow)は150℃に設定し、測定上限温度(Thigh)は650℃に設定した。また、NH除去率(単位:%)は下記式(A):
[NH除去率(%)]={(XNH3-YNH3)/XNH3}×100 (A)
[上記式(A)中、XNH3は入ガス(モデルガス)中のNHの量(体積分率)を示し、YNH3は出ガス中のNHの量(体積分率)を示す。そのため、式(A)中の(XNH3-YNH3)の値は、触媒の接触により除去されたNHの量(体積分率)となる。]
により算出した。そして、NH除去率の最大値と、NH除去率が最大となる時の加熱温度(入ガスの温度:T)と、NH除去率が10%になった時の加熱温度(入ガスの温度:T10)とを求めた。得られた結果を表2に示す。なお、加熱処理時の測定下限温度(Tlow)及び測定上限温度(Thigh)も併せて表2に示す。
【0055】
(実施例2~5及び比較例1~2)
各実施例及び各比較例ごとに触媒の種類を変更して、触媒Aを利用する代わりに後述のようにして調製した触媒B~Gのうちのいずれかの触媒(実施例2:触媒B、実施例3:触媒C、実施例4:触媒D、実施例5:触媒E、比較例1:触媒F、比較例2:触媒G)を使用量2.0gの条件で利用し、かつ、測定下限温度(Tlow)及び測定上限温度(Thigh)を表2に記載の温度に変更した以外は、実施例1で採用している「アンモニアの除去性能の評価試験」と同様にして、各触媒について、NH除去率の最大値と、NH除去率が最大となる時の加熱温度(T)と、NH除去率が10%になった時の加熱温度(入ガスの温度:T10)とを求めた。得られた結果を表2に示す。なお、比較例1及び2で利用した触媒に関しては、測定下限温度(Tlow)及び測定上限温度(Thigh)の間の温度域においてNHの浄化率が常に0(%)であった。また、実施例2~5で利用した触媒B~E(いずれもペレット状として利用)及び比較例1~2で利用した比較用の触媒F~G(いずれもペレット状として利用)は、それぞれ以下のようにして製造した。
【0056】
〈触媒Bの調製工程〉
水溶液中の銅の酢酸塩(Cu(CHCOO)・HO)の量を0.63gから2.1gに変更する以外は、実施例1で採用する触媒Aの調製工程と同様の工程を採用して、β-ゼオライトからなる担体と、該担体に担持されたCuとを備える触媒B(ペレット状:Cuの担持量が3.3質量%の触媒)を得た。
【0057】
〈触媒Cの調製工程〉
β-ゼオライトの代わりにZSM-5型のゼオライト(東ソー株式会社製の商品名「HSZ-822HOA」)を20g用いた以外は、前述の触媒Bの調製工程と同様の工程を採用して、ZSM-5型のゼオライトからなる担体と、該担体に担持されたCuとを備える触媒C(ペレット状:Cuの担持量が3.3質量%の触媒)を得た。
【0058】
〈触媒Dの調製工程〉
β-ゼオライトの代わりに、モルデナイト(MOR)型のゼオライト(東ソー株式会社製の商品名「HSZ-660HOA」)を20g用いた以外は、前述の触媒Bの調製工程と同様の工程を採用して、MORからなる担体と、該担体に担持されたCuとを備える触媒D(ペレット状:Cuの担持量が3.3質量%の触媒)を得た。
【0059】
〈触媒Eの調製工程〉
銅の酢酸塩(Cu(CHCOO)・HO)を0.63g含有する水溶液を用いる代わりにルテニウムを3.9質量%含有する水溶液を0.81g用いた以外は、実施例1で採用する触媒Aの調製工程と同様の工程を採用して、β-ゼオライトからなる担体と、該担体に担持されたRuとを備える触媒E(ペレット状:Ruの担持量が0.15質量%の触媒)を得た。
【0060】
〈触媒Fの調製工程〉
銅の酢酸塩(Cu(CHCOO)・HO)を0.63g含有する水溶液を用いる代わりにパラジウムを2.0質量%含有する水溶液を1.1g用いた以外は、実施例1と同様にして、β-ゼオライトからなる担体と、該担体に担持されたPdとを備える、比較用の触媒F(ペレット状:Pdの担持量が0.22質量%の触媒)を得た。
【0061】
〈触媒Gの調製工程〉
銅の酢酸塩(Cu(CHCOO)・HO)を0.63g含有する水溶液を用いる代わりに白金を2.0質量%含有する水溶液を1.1g用いた以外は、実施例1と同様にして、β-ゼオライトからなる担体と、該担体に担持されたPtとを備える、比較用の触媒G(ペレット状:Ptの担持量が0.22質量%の触媒)を得た。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示す結果からも明らかなように、触媒金属がCu又はRuである触媒を利用した場合(実施例1~5)においてはいずれも、モデルガス中のアンモニアが27.2%以上の割合で除去されていることが確認された。このような結果から、触媒金属がCu又はRuである触媒(実施例1~5)を利用することで、アンモニアに対して過剰の水素を含む改質ガスの中からアンモニアを十分に除去して精製したガス(水素)を供給することが可能となることが分かった。
【0064】
一方、触媒金属がPd又はPtである比較用の触媒を利用した場合(比較例1~2)においては、前述のように、測定下限温度(Tlow)及び測定上限温度(Thigh)の間の温度域においてNHの浄化率が常に0(%)であり、T及びT10の該当データは測定できなかった。このような結果から、触媒金属がPd又はPtである比較用の触媒を利用した場合(比較例1~2)には、水素とアンモニアと酸素とを含む混合ガスを接触させた場合にアンモニアを酸化して除去することができないことが分かった。
【0065】
このような結果に関して、本発明者らは以下のように考察している。すなわち、先ず、水素とアンモニアと酸素とを含む混合ガスを触媒に接触させた場合に生じ得る反応としては、上記反応式1(4NH+3O→2N+6HO)に記載の反応、及び、上記反応式2(2H+O→2HO)に記載の反応が考えられる。ここで、アンモニアよりも水素の方が発火温度が低く最小発火エネルギーも小さいことから、一般的に、上記反応のうち、前記反応式2に記載の反応が反応式1よりも容易に引き起される傾向にあることは明らかである。そのため、水素とアンモニアと酸素とを含む混合ガスを触媒に接触させて混合ガス中の成分の酸化を試みる場合には、一般的には、反応式2に記載の反応が優先的に生じ、反応式2に記載の反応に、より多くの酸素が消費されることとなるものと考えられる。特に、アンモニアに対して過剰の水素を含むような混合ガスを接触させた場合においては、触媒金属に対する接触確率がアンモニアよりも水素の方がはるかに高くなることから、基本的に、ほぼ全ての酸素が反応式2(2H+O→2HO)に記載の反応に消費されるものと考えられる。そのため、比較例1~2においては、測定下限温度(Tlow)からモデルガス中の酸素が全て水素の酸化(反応式2に記載の反応)に利用されてしまい、測定下限温度(Tlow)及び測定上限温度(Thigh)の間の温度域においてNHの浄化率が常に0(%)になったものと考えられる。これに対して、触媒金属がCu又はRuである触媒を利用した場合(実施例1~5)においては、その結果(表2に示す結果)から、アンモニアに対して過剰の水素を含むような混合ガスを接触させた場合においても、アンモニアを除去する反応式1に記載の反応が生じていることが分かる。なお、前記モデルガスが表1に示すようにアンモニアに対して過剰の水素を含む混合ガスであることを考慮すれば、表2に示す結果から、触媒金属がCu又はRuである触媒(実施例1~5)は、そもそも接触確率の低いアンモニアを十分に酸化して除去できるものであることが明らかであり、アンモニアを十分に選択的に酸化することが可能なものであると考えられる。このように、触媒金属がCu又はRuである触媒がアンモニアを十分に選択的に酸化することが可能なものであることから、実施例1~5においては、アンモニアを十分に酸化して除去することが可能となったものと本発明者らは推察する。
【0066】
また、実施例1で利用した触媒と実施例2で利用した触媒とにおいては触媒金属(Cu)の担持量のみが異なっていることを考慮すると、これらの対比から、触媒金属がCuである場合、Cuの担持量が3.3質量%である場合(実施例2)に、Cuの担持量が1.0質量%である場合(実施例1)と対比してアンモニアの除去性能がより高度なものとなることが分かった。なお、第二の加熱処理中の測定下限温度(Tlow)から測定上限温度(Thigh)に加熱するまでの間の測定データから、アンモニアの除去率が10%以上となる温度(十分に高度なアンモニア浄化活性を示す温度)の下限値(T10の値)は、Cuの担持量が3.3質量%である場合(実施例2)には408℃となり、Cuの担持量が1.0質量%である場合(実施例1)には510℃となることも分かった。このような結果から、Cuの担持量が3.3質量%である場合(実施例2)には、Cuの担持量が1.0質量%である場合(実施例1)と対比して、より低温からアンモニアを十分に酸化して浄化する性能(触媒活性)を発揮できることも分かった。
【0067】
また、実施例2~4で利用した触媒が担体の種類のみが異なることを考慮して、こららを対比すると、担体としてβ-ゼオライトを利用した場合(実施例2)に、他の種類のゼオライトを利用した場合(実施例3及び4)よりも、アンモニアの除去率がより高いものとなることが確認でき、担体としてはβ-ゼオライトがより好適に利用可能なものであることが分かった(なお、表2からも明らかなように、実施例3及び実施例4ではアンモニアの除去率の最大値がそれぞれ81.2%、60.4%となっているのに対して、実施例2ではアンモニアの除去率の最大値が83.9%に達している)。
【0068】
さらに、実施例2で利用した触媒と実施例5で利用した触媒とにおいて触媒金属の種類が異なることを考慮して、これらを対比すると、触媒金属としてRuを利用した触媒(実施例5)では、触媒金属としてCuを利用した触媒(実施例2)よりも、触媒金属の担持量が少なくてもアンモニアの除去性能がより高度なものとなることが分かった(なお、表2からも明らかなように、実施例5ではアンモニアの除去率の最大値が92.9%に達している)。なお、第二の加熱処理における測定下限温度(Tlow)から測定上限温度(Thigh)に加熱するまでの間の測定データから、アンモニアの除去率が10%以上となる温度(十分に高度なアンモニア浄化活性を示す温度)の下限値(T10の値)は、触媒金属としてRuを利用した触媒(実施例5)では349℃となり、触媒金属としてCuを利用した触媒(実施例2)では408℃となっていたことから、触媒金属としてRuを利用した場合には、更に低温から、アンモニアを酸化して浄化する性能(触媒活性)をより十分に発揮できることも分かった。
【0069】
(計算例1~4:材料の使用量や体積に関する試算例)
水素を燃料とする燃料電池を積載する自動車を想定するとともに、その燃料電池に水素を供給するための装置として、アンモニアを原料として供給する供給器と;アンモニア改質器(アンモニアを改質して水素ガスを発生させる手段)と;吸着材を充填した吸着器(吸着型水素精製装置)及び触媒(アンモニア選択酸化触媒)を充填した触媒充填型の水素精製装置のうちのいずれかの水素精製装置と;を備えるものを利用する場合を想定(なお、前記触媒充填型の水素精製装置を利用する場合には、触媒反応に酸素を利用するため、酸素の供給器を更に備えるものと想定)して、前記アンモニア改質器で生成された改質ガス中に残存するアンモニア(原料の残留物)を、前記水素精製装置を用いて除去して精製ガスを得る場合に、精製後のガス(精製ガス)中のアンモニアの濃度を0.1ppm以下にするために必要となる材料(吸着材又は触媒)の使用量(g)及び体積(L)を計算(シミュレーション)することにより、必要となる水素精製装置の体格(推論値)を検討した。なお、このような計算に際しては、アンモニア改質器としてアンモニア(原料)の99.9モル%を水素と窒素に改質可能なものを利用したものと想定した(アンモニア改質器のアンモニアの改質効率が99.9モル%であるものと想定した)。また、このような計算に必要な他の事項(自動車の性能等)は、以下のように想定して計算を行った。
【0070】
〈自動車の性能等〉
・燃費(燃料(H)1kgあたりの走行距離):100km/kg-Hと想定
・年間走行距離:1万kmと想定
・車両寿命:10年と想定
・1日あたりの燃料(H)の使用量:270g(前記想定燃費より算出)
・改質される原料(アンモニア)の1日あたりの使用量:1.5kg(前記想定燃費と前記改質器の改質効率より算出)。
【0071】
〈吸着型水素精製装置(吸着器)に充填する吸着材の性能等〉
・吸着材の種類:ゼオライトを利用したものと想定
・吸着材の吸着能力:吸着材の総量に対して3質量%までアンモニアを吸着可能と想定(上記吸着材における一般的なアンモニアの飽和吸着量を採用)
・吸着材の充填密度:0.6g/mLと想定(上記吸着材の種類から一般的な充填密度を採用)。
【0072】
〈触媒充填型の水素精製装置に充填する触媒の性能等〉
・触媒の種類:β-ゼオライトに触媒金属(Cu又はRu)を担持したアンモニア選択酸化触媒を利用したものと想定
・触媒の浄化性能:選択酸化反応により出ガス(接触後のガス)中のアンモニア濃度を0.1ppmにすることを達成できるものと想定(なお、触媒1gあたり1日で0.12gのアンモニアを除去できるものと想定した)
・触媒の密度:0.6g/mLと想定(上記吸着材と同じ値を採用)。
【0073】
また、このような計算に際しては、前記吸着材を10年間交換や再生をせずに利用する吸着器(固定型吸着器に吸着材を充填した場合)を吸着型水素精製装置として利用したものと想定した場合の計算結果を計算例1とする。また、前記吸着材を交換可能なカートリッジ型の吸着器に充填して月1回交換するものと想定し、かかるカートリッジ型の吸着器を吸着型水素精製装置として利用したものと想定した場合の計算結果を計算例2とする。更に、前記吸着材を充填した吸着器を2つ利用して自動車において毎日1回吸着器を再生しながら吸着器を利用する場合(車上再生型吸着器:毎日1回再生しながら2つの吸着器を交互に利用する場合)を想定し、2つの吸着器を吸着型水素精製装置として利用したものと想定した場合の計算結果を計算例3とする。そして、アンモニア選択酸化触媒を充填した触媒充填型の水素精製装置を利用したものと想定した場合の計算結果を計算例4とする。このような計算結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示す計算結果からも明らかなように、10年間交換や再生をせずに利用するようなタイプの固定型の吸着器(吸着型水素精製装置:計算例1)では、計算上、必要となる吸着材の量が18750kgとなり、かつ、その体積が31250Lとなることから、水素精製装置の体格を小さくすることができず、水素精製装置の小型化を図ることは困難であることが分かる。また、交換可能なカートリッジに吸着材を充填するようなタイプの吸着器(吸着型水素精製装置:計算例2)を利用して月1回の割合で交換する場合においても、計算上、必要となる吸着材の量が156kgとなり、かつ、その体積が260Lとなることから、やはり水素精製装置の小型化を図ることは困難であることが分かる。他方、前記吸着材を充填した吸着器を2つ利用して、自動車において毎日1回吸着器を再生しながら吸着器を利用する場合(車上再生型吸着器からなる吸着型水素精製装置:計算例3)には、計算上、必要となる吸着材の量が2.6kgとなり、かつ、その体積が4.3Lとなることから、計算例1~2の場合と比較すれば、はるかに小型化を図れるものと認識でき、自動車に積載することも可能であると考えられる。これに対して、吸着材ではなく、アンモニア選択酸化触媒をアンモニアの浄化のために利用するタイプの水素精製装置(前記触媒充填型の水素精製装置)の場合(計算例4)には、計算上、必要となる触媒の量が1.3kgとなり、かつ、その体積が2.1Lとなることから、水素精製装置の体積を更に小さくすることが可能であることが分かり、これにより計算例1~3に記載した装置よりも更に小型化を図れ、自動車の積載等により好適な小型のサイズとすることも可能であることが分かる。このような結果から、アンモニア選択酸化触媒をアンモニアの浄化のために利用した場合には、吸着材を利用した場合と対比して、例えば、車載を前提とする場合に、材料の使用量に対する水素精製能力(アンモニアの除去性能)を十分に向上することができ、装置の小型化の点において優れたものとなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、アンモニアと水素を含む改質ガスからアンモニアを十分に高い除去率で除去することが可能であり、十分に高い水素精製能力を有しながら装置の小型化を十分に図ることが可能なアンモニア改質型水素供給装置、及び、その装置を用いたアンモニア改質型水素供給方法を提供することが可能となる。したがって、本発明のアンモニア改質型水素供給装置は、装置の小型化を十分に図ることが可能であることから、例えば、自動車に積載する燃料電池に水素を供給するための装置等として特に有用である。
【符号の説明】
【0077】
1…アンモニア改質型水素供給装置、10…原料供給器、11…アンモニア改質器、12…水素精製装置、13…酸素供給器、14a~14e…ガス管、100…反応管、101…触媒、102…グラスウール。
図1
図2
図3