(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/22 20060101AFI20231102BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20231102BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20231102BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B60C9/22 B
B60C9/00 J
B60C9/18 K
B60C9/18 N
B60C9/20 J
(21)【出願番号】P 2019230928
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有馬 正之
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/220888(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230773(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/220887(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230770(WO,A1)
【文献】特開2008-195264(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方のビード部から他方のビード部に跨るカーカスと、
前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に螺旋状に巻回されたベルトコードが樹脂材料で被覆されて構成されたスパイラルベルトと、
前記スパイラルベルトの径方向外側に配置されるトレッドと、
前記トレッドに形成され、タイヤ周方向に沿って形成される複数の周方向主溝と、
前記スパイラルベルトに沿って、
前記スパイラルベルトのベルト端からタイヤ幅方向最外側の前記周方向主溝にかけて
のみ配置され
、被覆材で被覆された複数本のスチールコードを含んで構成された複合材料で形成されている剪断抑制補強層と、
を有する空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記剪断抑制補強層は、前記スパイラルベルトの前記カーカス側に配置されている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記スチールコードは、タイヤ周方向に対して傾斜して延びている、
請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層を備えたベルトを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に装着する空気入りタイヤとして、カーカスのタイヤ径方向外側に樹脂層を含んで構成されたベルトを備えた空気入りタイヤがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤ赤道面付近、言い換えれば、タイヤ方向中央付近が比較的平坦で、タイヤ幅方向両端部分、言い換えればショルダー付近がタイヤ幅方向外側へ向かうに従ってタイヤ回転軸に近づくように比較的小さな曲率半径で湾曲しているベルトでは、ベルト端付近において、タイヤ周方向の湾曲の曲率と、タイヤ幅方向の湾曲の曲率とからなる二重曲率を有している。
【0005】
空気入りタイヤが走行に供されてトレッドが接地することで、接地側のベルトは、タイヤ側方から見て、周方向の湾曲が直線状に変形する。
また、タイヤ正面から見て、接地側のベルトは、幅方向両側の湾曲部分が、曲率が大きくなる方向に変形する、言い換えれば、略直線状に変形する。
このため、空気入りタイヤが走行に供されると、ベルトの幅方向端部付近は、周方向の変形と幅方向の変形とを受けて歪む。
【0006】
特許文献1の空気入りタイヤには、タイヤ周方向に対して傾斜して延在するスチールコードやアラミドコードなどの有機繊維コードからなる補強コードをタイヤ周方向に配列した2層構造の所謂交錯層のベルトが記載されており、また、樹脂層に補強コードを埋設した補強層をベルトに用いることが記載されている。
【0007】
近年では、タイヤ周方向に螺旋状に巻回した補強コードをゴム層に埋設したスパイラルベルトがある。
このスパイラルベルトにおいて、補強コードを樹脂層に埋設することが考えられるが、スパイラルベルトは、補強コードがタイヤ周方向に延びているため、補強コードと補強コードとの間の樹脂において、上記の歪みが長期に渡って繰り返し作用する懸念がある。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、ベルトの樹脂に生じる歪みを抑制できる空気入りタイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様に係る空気入りタイヤは、一方のビード部から他方のビード部に跨るカーカスと、前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ周方向に螺旋状に巻回されたベルトコードが樹脂材料で被覆されて構成されたスパイラルベルトと、前記スパイラルベルトの径方向外側に配置されるトレッドと、前記トレッドに形成され、タイヤ周方向に沿って形成される複数の周方向主溝と、前記スパイラルベルトに沿って、少なくとも前記スパイラルベルトのベルト端からタイヤ幅方向最外側の前記周方向主溝にかけて配置される剪断抑制補強層と、を有する。
【0010】
第1の態様に係る空気入りタイヤでは、剪断抑制補強層が、少なくともスパイラルベルトのベルト端からタイヤ幅方向最外側の周方向主溝にかけてスパイラルベルトに沿って配置されているので、少なくともスパイラルベルトのベルト端からタイヤ幅方向最外側の周方向主溝に至る部分に生ずる剪断歪みを剪断抑制補強層で抑制することができる。
【0011】
第2の態様に係る空気入りタイヤは、第1の態様に係る空気入りタイヤにおいて、前記剪断抑制補強層は、前記スパイラルベルトの前記カーカス側に配置されている。
【0012】
空気入りタイヤが走行に供され路面との接地によりスパイラルベルトが変形したとき、タイヤの踏み込み部分では、スパイラルベルトの内周部分の径と外周部分との径差によって、スパイラルベルトの内周部分に引張り力が作用する。
剪断抑制補強層をスパイラルベルトのカーカス側、言い換えれば、スパイラルベルトの内周側に剪断抑制補強層を配置することで、スパイラルベルトの内周部分がタイヤ周方向に伸びることを抑制でき、これにより、タイヤ周方向の剪断歪みを抑制することができる。
【0013】
第3の態様に係る空気入りタイヤは、第1の態様または第2の態様に係る空気入りタイヤにおいて、前記剪断抑制補強層は、複数本のコードと前記コードを被覆する被覆材とを含んで構成された複合材料で形成されている。
【0014】
剪断抑制補強層を、複数本のコードと被覆材とを含んで構成された複合材料とすることで、複合材料としない場合に比較して、スパイラルベルトの剪断歪みを抑制する効果を高めることができる。
【0015】
第4の態様に係る空気入りタイヤは、第3の態様に係る空気入りタイヤにおいて、前記コードは、タイヤ周方向に対して傾斜して延びている。
【0016】
複合材料のコードが、タイヤ周方向に対して傾斜して延びているので、言い換えれば、ベルトコードに対して交錯して延びているので、タイヤ周方向に対して平行、またはタイヤ周方向に対して直角な方向、言い換えればタイヤ幅方向に延びている場合に比較して、スパイラルベルトに生ずるタイヤ周方向の剪断歪みを抑制する効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明の空気入りタイヤによれば、ベルトの樹脂に生じる歪みを抑制することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤを示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
【
図2】(A)は、樹脂で形成した剪断抑制補強層を示す断面図であり、(B)は複合材料で形成した剪断抑制補強層を示す断面図であり、(C)は剪断抑制補強層を模式的に示す平面図である。
【
図3】トレッドの接地部分のスパイラルベルトで生ずる歪みを説明する説明図である。
【
図4】他の実施形態に係る空気入りタイヤを示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至
図3を用いて、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ10について説明する。
図1では、標準リム19に取り付けた空気入りタイヤ10の空気充填前(内圧=大気圧)の自然状態の形状を示している。
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ10は、例えば、乗用車に用いられる所謂ラジアル空気入りタイヤであり、ビードコア12が埋設された一対のビード部20を備え、一方のビード部20と他方のビード部20との間に、1枚のカーカスプライ14からなるカーカス16が跨っている。
【0020】
カーカスプライ14は、空気入りタイヤ10のラジアル方向に延びる複数本のコード(図示せず)をコーティングゴム(図示せず)で被覆して形成されている。即ち、本実施形態の空気入りタイヤ10は、所謂ラジアル空気入りタイヤである。カーカスプライ14のコードの材料は、例えば、PETであるが、従来公知の他の材料であっても良い。
【0021】
カーカスプライ14は、タイヤ幅方向の端部分がビードコア12をタイヤ径方向外側に折り返されている。カーカスプライ14は、一方のビードコア12から他方のビードコア12に跨る部分が本体部14Aと呼ばれ、ビードコア12から折り返されている部分が折り返し部14Bと呼ばれる。
【0022】
本実施形態の空気入りタイヤ10におけるカーカスプライ14の本体部14Aの断面形状は、従来一般の空気入りタイヤと同様の断面形状であり、タイヤ赤道面CL付近は半径が略一定で平坦な形状であり、ショルダー付近において半径が漸減している。
【0023】
カーカスプライ14の本体部14Aと折返し部14Bとの間には、ビードコア12からタイヤ径方向外側に向けて厚さが漸減するビードフィラー18が配置されている。なお、本実施形態の空気入りタイヤ10において、ビードフィラー18のタイヤ径方向外側端18Aからタイヤ径方向内側の部分がビード部20とされている。
【0024】
カーカス16の空気入りタイヤ内側には、ゴムからなるインナーライナー22が配置されている。一方、カーカス16のタイヤ幅方向外側には、ビード部20、及びサイド部24の外面を形成するサイドゴム層24Aが配置されている。
【0025】
本実施形態では、ビードコア12、カーカス16、ビードフィラー18、インナーライナー22、及びサイドゴム層24Aによってタイヤケース25が構成されている。タイヤケース25は、言い換えれば、空気入りタイヤ10の骨格を成す空気入りタイヤ骨格部材のことである。
【0026】
(スパイラルベルト)
カーカス16のクラウン部の外側、言い換えればカーカス16のタイヤ径方向外側には、カーカス16の外周部を拘束してタガ効果を得るためのスパイラルベルト26が配置されている。本実施形態のスパイラルベルト26は、回転軸に沿った断面で見たときに、ほぼ全体が平坦に形成されている、言い換えれば、タイヤ幅方向中央部分がタイヤ回転軸に平行な直線状に形成されているが、タイヤ幅方向両端部分は、タイヤ幅方向中央部分よりも曲率半径は小さく、タイヤ径方向内側へ湾曲している。
【0027】
本実施形態のスパイラルベルト26は、複数本(本実施形態では2本)のベルトコード30を樹脂材料32で被覆した樹脂被覆コード34を螺旋状に巻回することで形成されている。したがって、ベルトコード30は、タイヤ周方向に対して略平行(厳密には、タイヤ周方向に数度程度傾斜)とされている。また、スパイラルベルト26を平面視すると、ベルトコード30は互いに平行に配置されている。
【0028】
ベルトコード30は、カーカスプライ14のコードよりも太く、かつ、強力(引張強度)が大きいものを用いることが好ましい。スパイラルベルト26のベルトコード30は、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)で構成することができる。本実施形態のベルトコード30は、スチールコードである。ベルトコード30としては、例えば、直径が0.225mmの“1×5”のスチールコードを用いることができるが、従来公知の他の構造のスチールコードを用いることもできる。
【0029】
ベルトコード30を被覆する樹脂材料32には、サイドゴム層24Aを構成するゴム材料、及び後述するトレッド36を構成するトレッドゴム層36Aを構成するゴム材料よりも引張弾性率の高い樹脂材料を用いることができる。ベルトコード30を被覆する樹脂材料32としては、弾性を有する熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー(TPE)、及び熱硬化性樹脂等を用いることができる。走行時の弾性と製造時の成形性を考慮すると、熱可塑性エラストマーを用いることが望ましい。
【0030】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)等が挙げられる。
【0031】
また、熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。さらに、熱可塑性樹脂材料としては、例えば、ISO75-2又はASTM D648に規定されている荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)が78°C以上、JIS K7113に規定される引張降伏強さが10MPa以上、同じくJIS K7113に規定される引張破壊伸びが50%以上、JIS K7206に規定されるビカット軟化温度(A法)が130°C以上であるものを用いることができる。
【0032】
ベルトコード30を被覆する樹脂材料32の引張弾性率(JIS K7113:1995に規定される)は、100MPa以上が好ましい。また、ベルトコード30を被覆する樹脂材料32の引張弾性率の上限は、1000MPa以下とすることが好ましい。なお、ベルトコード30を被覆する樹脂材料32の引張弾性率は、200~700MPaの範囲内が特に好ましい。
【0033】
本実施形態のスパイラルベルト26の厚さは、ベルトコード30の直径寸法よりも大きくすることが好ましい、言い換えれば、ベルトコード30が完全に樹脂材料32に埋設されていることが好ましい。スパイラルベルト26の厚さは、空気入りタイヤ10が乗用車用の場合、具体的には、0.70mm以上とすることが好ましい。
【0034】
(トレッド)
スパイラルベルト26のタイヤ径方向外側には、トレッド36を構成するゴム等の弾性材料からなるトレッドゴム層36Aが配置されている。なお、トレッドゴム層36Aは、トレッド36の接地端36Eを超えてサイド部24に向けて延びており、ショルダー部(バットレス部とも呼ぶ)38の外面も形成している。
【0035】
なお、接地端36Eとは、以下に説明する接地幅TWの端部をいう。トレッド36の接地幅TWとは、空気入りタイヤ10をJATMA YEAR BOOK(2019年度版、日本自動車空気入りタイヤ協会規格)に規定されている標準リムに装着し、JATMA YEAR BOOKでの適用サイズ・プライレーティングにおける最大負荷能力(内圧-負荷能力対応表の太字荷重)に対応する空気圧(最大空気圧)の100%の内圧を充填し、静止した状態で水平な平板に対して回転軸が平行となるように配置し、最大の負荷能力に対応する質量を加えたときのものである。なお、使用地又は製造地において、TRA規格、ETRTO規格が適用される場合は各々の規格に従う。
【0036】
なお、本実施形態のショルダー部38は、一例として、接地端36Eと空気入りタイヤ10の断面高さSHの77%位置との間の領域をいう。
【0037】
トレッドゴム層36Aに用いるゴム材料は、従来一般公知のものが用いられる。トレッド36には、タイヤ周方向に沿って延びる周方向主溝40A、40Bが形成されている。なお、トレッド36のパターンには、従来一般公知のものを用いることができ、横溝(図示せず)等が形成されていてもよい。
【0038】
タイヤ軸方向に沿って計測するスパイラルベルト26の幅BWは、タイヤ軸方向に沿って計測するトレッド36の接地幅TWに対して75%以上とすることが好ましい。なお、スパイラルベルト26の幅BWの上限は、接地幅TWに対して110%とすることが好ましい。
【0039】
トレッド36には、接地端36Eのタイヤ幅方向内側に、周方向に延びる周方向主溝40A、40Bが形成されている。
【0040】
なお、スパイラルベルト26のベルト端26Eは、必要に応じて有機繊維コード等を含むレイヤーで覆ってもよい。
【0041】
(剪断抑制補強層)
スパイラルベルト26のカーカス16側、本実施形態では、スパイラルベルト26とカーカス16との間に剪断抑制補強層48が設けられている。剪断抑制補強層48は、スパイラルベルト26のタイヤ周方向の剪断歪みを抑制する補強層であって、ベルト補強層と言い換えることができる。また、剪断抑制補強層48は、スパイラルベルト26の面内剛性を高めることができる。
剪断抑制補強層48は、少なくともスパイラルベルト26のベルト端26Eからタイヤ幅方向最外側の周方向主溝40B(ショルダー側の溝端部)に至る領域に配置される。言い換えれば、剪断抑制補強層48は、スパイラルベルト26のショルダー側であって、湾曲の曲率半径が小さく、二重曲率を有した部位に配置される。
なお、剪断抑制補強層48は、周方向主溝40Bを超えてタイヤ赤道面CL側へ設けられていてもよく、他方のベルト端26E(
図1では図示せず)まで配置されていてもよい。
【0042】
剪断抑制補強層48は、一例として、
図2(A)に示すように、弾性を有するゴムまたは樹脂等の弾性材料48Aのみで形成されていてもよく、
図2(B)に示すように、被覆材の一例としての弾性材料48Aと、弾性材料48Aの補強を行うコード48Bとを含んで構成された複合材料であってもよい。また、図示を省略するが、弾性材料48Aに補強用の充填材を混入させたものであってもよい。弾性材料48Aに混入する充填材としては、樹脂の補強に用いる公知の充填材を用いることができる。
【0043】
剪断抑制補強層48に用いる弾性材料48Aに樹脂を用いる場合、該樹脂としては、ベルトコード30を被覆した樹脂材料32と同種の樹脂を用いることができ、樹脂材料32と異種の樹脂を用いることもできる。弾性材料48Aに用いる樹脂としては、一例として、ベルトコード30を被覆した樹脂材料32よりも引張弾性率の高い樹脂を用いることができる。また、弾性材料34Aにゴムを用いる場合、該ゴムは、ベルトコード30を被覆した樹脂材料32よりも引張弾性率の高いゴムを用いることができる。弾性材料48Aに樹脂を用いた場合、ベルトコード30を被覆した樹脂材料32と融着することもできる。
【0044】
剪断抑制補強層48に用いるコード48Bとしては、スチールコードを用いることが好ましい。スチールコードを用いる場合、スパイラルベルト26に用いるベルトコード30よりも曲げ剛性の低いもの、言い換えれば、スパイラルベルト26に用いるベルトコード30よりも細いものを用いることができる。
【0045】
図2(C)に示すように、剪断抑制補強層48のコード48Bは、タイヤ周方向(図面矢印A方向)に対して傾斜して延びていることが好ましい。言い換えれば、コード48Bは、タイヤ周方向に沿って延びておらず、また、タイヤ周方向と直交するタイヤ幅方向に沿って延びていないことが好ましい。なお、タイヤ周方向に対するコード48Bの傾斜角度θは、必要に応じて適宜選択される。コード48Bの傾斜角度θは、30°~60°の範囲内に設定することが好ましい。
【0046】
また、タイヤ周方向に対するコード48Bの傾斜方向は特に問わない。即ち、剪断抑制補強層48をタイヤ径方向外側から平面視したときに、コード48Bは、右上がりに傾斜していてもよく、左上がりに傾斜していてもよい。
【0047】
(作用、効果)
次に、本実施形態の空気入りタイヤ10の作用、効果を説明する。
図3は、トレッド36の接地部分(走行時に
図1に示す路面Gと接する部分)36Cのスパイラルベルト26で生ずる歪みを説明する説明図である。なお、
図3では、接地部分36Cをタイヤ外側(路面側)から平面視しており、タイヤ回転方向は矢印Rで示す方向、車両の進行方向は矢印Fで示す方向である。
【0048】
本実施形態のスパイラルベルト26は、ショルダー部38付近、言い換えればベルト端26E付近において、タイヤ周方向に湾曲していると共に、タイヤ周方向に交差するタイヤ幅方向にも湾曲しており、二重曲率を有している。
【0049】
空気入りタイヤ10が走行に供されると、スパイラルベルト26の湾曲した部分が接地により直線状に変形されること、及び直線状から湾曲状に変形されることで、接地部分のスパイラルベルト26には、
図3に示すように、ベルト端付近の踏み込み側、及び蹴り出し側に、タイヤ周方向の引張り力が作用する部分Tと、タイヤ周方向の圧縮力が作用する部分Cとが生じる。
このようなタイヤ周方向の引張り力、及び圧縮力がスパイラルベルト26に作用すると、ベルト内にタイヤ周方向の剪断歪みが生ずる。
【0050】
ベルト端26Eからタイヤ幅方向最外側の周方向主溝40Bまでの範囲は、スパイラルベルト26が二重曲率を有している部分であり、走行時、スパイラルベルト26の中でもタイヤ周方向の剪断歪みが特に生じ易い部分である。
【0051】
本実施形態の空気入りタイヤ10では、スパイラルベルト26の剪断歪みが生じ易い部分に剪断抑制補強層48が配置されているため、スパイラルベルト26に生ずる剪断歪みを効果的に抑制することができる。
【0052】
したがって、ベルト端26Eからタイヤ幅方向最外側の周方向主溝40Bにかけて配置されているスパイラルベルト26の樹脂材料32において、タイヤ周方向の剪断歪みに起因するタイヤ周方向に沿って延びる亀裂の発生を効果的に抑制することができる。
【0053】
なお、スパイラルベルト26の内周面と外周面との間には径差があるため、空気入りタイヤ10が走行に供され、路面との接地により踏み込み側でスパイラルベルト26が湾曲状から直線状に変形すると、スパイラルベルト26のタイヤ径方向内側部分では引張り力が作用する。
【0054】
本実施形態の空気入りタイヤ10では、スパイラルベルト26のタイヤ径方向内側に配置された剪断抑制補強層48のコード48Bを引張りに対して延び難いスチールコードとしているため、スパイラルベルト26に作用する引張り力を受け止め、スパイラルベルト26の変形を効果的に抑制することができる。なお、スチールコードは、引張り力のみならず、圧縮力も効果的に受け止めることができるため、スパイラルベルト26の剪断歪みを抑制するための剪断抑制補強層48のコード48Bとして好適である。
【0055】
剪断抑制補強層48を、弾性材料48Aとコード48Bとを含んで構成された複合材料とすることで、複合材料としない場合、言い換えれば樹脂単体またはゴム単体である場合に比較して、スパイラルベルト26の剪断歪みを抑制する効果を高めることができる。
【0056】
本実施形態の空気入りタイヤ10では、コード48Bが、タイヤ周方向に対して傾斜して延びている、言い換えれば、ベルトコード30に対して交錯して延びているので、タイヤ周方向に対して平行、またはタイヤ周方向に対して直角な方向、言い換えればタイヤ幅方向に延びている場合に比較して、スパイラルベルト26に生ずるタイヤ周方向の剪断歪みを抑制する効果を高めることができる。なお、タイヤ周方向に対するコード48Bの傾斜角度θは、スパイラルベルト26のタイヤ周方向の剪断歪みを抑制するように、適宜選択される。
【0057】
なお、コード48Bは、必要に応じてタイヤ周方向に対して傾斜させればよく、タイヤ周方向の剪断歪みを抑制できれば、タイヤ周方向に対して傾斜していなくてもよい、言い換えれば、コード48Bはタイヤ周方向に平行であってもよく、タイヤ幅方向に対して平行であってもよい。また、コード48Bは、必要に応じて設ければよく、タイヤ周方向の剪断歪みを抑制できれば剪断抑制補強層48は弾性材料48Aのみで構成されていてもよい。
【0058】
[その他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0059】
上記実施形態では、剪断抑制補強層48に用いるコード48Bをスチールコードとした例を上げたが、コード48Bは有機繊維コードであってもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、剪断抑制補強層48がスパイラルベルト26のカーカス16側のみに設けられていたが、
図4に示すように、剪断抑制補強層48はスパイラルベルト26のカーカス16側とトレッド側との両方に設けられていてもよく、図示は省略するが、剪断抑制補強層48はスパイラルベルト26のトレッド側のみに設けられていてもよい。
【0061】
上記実施形態では、本発明を乗用車用のタイヤに適用した例を説明したが、本発明は、例えば、バス、トラック用タイヤ、重荷重用タイヤ等、乗用車以外の他の種類のタイヤにも適用できる。
【符号の説明】
【0062】
10…空気入りタイヤ、16…カーカス、20…ビード部、26…スパイラルベルト、26A…ベルト端、30…ベルトコード、32…樹脂材料、36…トレッド、40B…タイヤ幅方向最外側の周方向主溝、48…剪断抑制補強層、48A…弾性材料、48B…コード