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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】接合構造体及び接合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20231102BHJP
   B32B 3/04 20060101ALI20231102BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20231102BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
B32B5/28 Z
B32B3/04
B32B3/30
B29C65/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020003164
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021109389
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-10-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業総合開発機構、次世代構造部材創製・加工技術開発/「次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発(第二期)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝俣 司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直昭
(72)【発明者】
【氏名】加茂 宗太
(72)【発明者】
【氏名】岡 功介
(72)【発明者】
【氏名】大橋 一輝
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/043346(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-63/48、65/00-65/82
C08J 5/04-5/10、5/24
B29B 11/16、15/08-15/14
B64C 1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材と補強材とを接着剤を介して接合することで形成される補強部を有する接合構造体において、
前記複合材は、繊維シートを複数積層して形成される板部と、前記板部に対して前記繊維シートをさらに積層して形成される隆起部と、を含み、前記板部と前記隆起部とは、その表面が単一の前記繊維シートにより被覆されており、
前記補強部は、前記隆起部と、前記隆起部に接着剤を介して接着される前記補強材と、を含み、
前記補強材は、前記隆起部と前記補強材との第2境界から上り斜面となる第2傾斜面を有し、前記第2傾斜面が単一の前記繊維シートにより被覆されており、
前記板部と前記隆起部との第1境界と、前記隆起部と前記補強材との前記第2境界とは、積層される前記繊維シートの積層界面の面内方向において、異なる位置となっている接合構造体。
【請求項2】
前記隆起部は、前記補強材が前記複合材に接着される被接着面の全面に設けられる請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
前記隆起部は、前記補強材が前記複合材に接着される被接着面の縁部に設けられる請求項1に記載の接合構造体。
【請求項4】
前記隆起部は、前記第1境界から前記第2境界へ向かって上り斜面となる第1傾斜面を有し、
前記補強材は、前記第2境界から上り斜面となる前記第2傾斜面を有し、
前記隆起部と前記補強材とは、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とが連なる面となるように接着されている請求項1から3のいずれか1項に記載の接合構造体。
【請求項5】
前記隆起部の厚さは、前記隆起部に接着される前記補強材の部位の厚さ以下となっている請求項1からのいずれか1項に記載の接合構造体。
【請求項6】
繊維シートを複数積層して形成される板部と、前記板部に対して前記繊維シートをさらに積層して形成される隆起部と、を含み、前記板部と前記隆起部との表面が単一の前記繊維シートで被覆された複合材を成形するステップと、
前記複合材の前記隆起部に接合される補強材を成形するステップと、
前記複合材の前記隆起部と前記補強材とを接着剤を介して接合して接合構造体を形成するステップと、を備え、
前記補強材は、前記隆起部と前記補強材との第2境界から上り斜面となる第2傾斜面を有し、前記第2傾斜面が単一の前記繊維シートにより被覆されており、
前記接合構造体を形成するステップでは、前記板部と前記隆起部との第1境界に対して、前記隆起部と前記補強材との前記第2境界を、積層される前記繊維シートの積層界面の面内方向において、異なる位置とする接合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、補強部を有する接合構造体及び接合構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、補強部を有する接合構造体として、外板にストリンガを貼り付けた航空機翼が知られている(例えば、特許文献1参照)。外板は、平板形状に形成されており、ストリンガは、平板形状の外板表面から突出させて接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-65553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示すような接合構造体には、荷重が与えられる。この荷重により、形状が変化する外板とストリンガとの境界部分に応力が集中する。これにより、外板とストリンガとが引き剥がされる方向に大きな応力(ピール応力)が加わってしまう。このため、外板とストリンガとの境界部分は、大きなピール応力に耐え得る構造とする必要があり、境界部分における重量増加を招いてしまう。
【0005】
そこで、本開示は、接合強度の向上を図ることができる接合構造体及び接合構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の接合構造体は、複合材と補強材とを接着剤を介して接合することで形成される補強部を有する接合構造体において、前記複合材は、繊維シートを複数積層して形成される板部と、前記板部に対して前記繊維シートをさらに積層して形成される隆起部と、を含み、前記板部と前記隆起部とは、その表面が単一の前記繊維シートにより被覆されており、前記補強部は、前記隆起部と、前記隆起部に接着剤を介して接着される前記補強材と、を含み、前記板部と前記隆起部との第1境界と、前記隆起部と前記補強材との第2境界とは、積層される前記繊維シートの積層界面の面内方向において、異なる位置となっている。
【0007】
本開示の接合構造体の製造方法は、繊維シートを複数積層して形成される板部と、前記板部に対して前記繊維シートをさらに積層して形成される隆起部と、を含み、前記板部と前記隆起部との表面が単一の前記繊維シートで被覆された複合材を成形するステップと、前記複合材の前記隆起部に接合される補強材を成形するステップと、前記複合材の前記隆起部と前記補強材とを接着剤を介して接合して接合構造体を形成するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、補強部における接合強度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態1に係る接合構造体を模式的に表した斜視図である。
図2図2は、実施形態1に係る接合構造体を模式的に表した断面図である。
図3図3は、実施形態1に係る接合構造体の積層構造を表した断面図である。
図4図4は、実施形態1に係る接合構造体の製造方法に関するフローチャートである。
図5図5は、従来の接合構造体と実施形態1の接合構造体とのピール応力を比較した図である。
図6図6は、従来の接合構造体と実施形態1の接合構造体との接合強度の性能を示す図である。
図7図7は、パッドアップ部の厚さと引き剥がし易さとの関係を示すグラフである。
図8図8は、実施形態2に係る接合構造体の積層構造を表した断面図である。
図9図9は、実施形態3に係る接合構造体を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0011】
[実施形態1]
実施形態1に係る接合構造体1は、例えば、接着剤を用いて航空機の部品同士を接合したものとなっている。また、接合構造体1は、複合材同士を接合しており、複合材としては、繊維シートSを積層して硬化させた積層体となっている。
【0012】
図1は、実施形態1に係る接合構造体を模式的に表した斜視図である。図2は、実施形態1に係る接合構造体を模式的に表した断面図である。図3は、実施形態1に係る接合構造体の積層構造を表した断面図である。
【0013】
(接合構造体)
図1に示すように、接合構造体1は、例えば、外板5と、補強材としてのストリンガ6と、を備えており、外板5とストリンガ6とを接合したものとなっている。つまり、接合構造体1は、ストリンガ6により補強された外板5となっている。なお、接合構造体1は、外板5とストリンガ6とを接合したものに、特に限定されない。接合構造体1は、複合材同士を接合したものであって、補強された複合材であれば、いずれの構成であってもよい。また、接合構造体1において、ストリンガ6等の補強材に用いられる材料は、複合材であってもよいし、金属材料であってもよく、特に限定されない。
【0014】
外板5は、複数の繊維シートSが積層された積層体である。外板5は、例えば、繊維シートSとしてのプリプレグを複数積層して熱硬化させた複合材である。図2及び図3に示すように、外板5は、板部8と、パッドアップ部(隆起部)10と、を有している。外板5は、複数の繊維シートSが積層されることで、板部8とパッドアップ部10とが一体に成形されている。
【0015】
板部8は、外板5の主体となる部位である。板部8は、一方の面(図1の下側の面)が外表面となっており、他方の面(図1の上側の面)が内表面となっている。図1に示す板部8は、例えば、平板形状となっている。なお、板部8は、コンターを有しない(湾曲しない)平板であってもよいし、コンターを有する(湾曲する)平板であってもよい。
【0016】
パッドアップ部10は、板部8の内面に対して、盛り上がって形成される部位である。パッドアップ部10は、接合構造体1の補強部9の一部を構成する部位となっている。また、パッドアップ部10は、ストリンガ6が接着される部位となっており、ストリンガ6が接着される被接着面の全面に設けられている。パッドアップ部10は、例えば、縁部(面内方向の一方側)から中央部に向かって高さが高くなり、中央部において平坦となる断面台形形状となっている。具体的に、図2及び図3に示すように、パッドアップ部10は、縁部に形成される第1傾斜面21と、第1傾斜面21に連なる平坦面22とを有している。ここで、板部8とパッドアップ部10との境界を第1境界とし、パッドアップ部10とパッドアップ部10に接合されるストリンガ6との境界を第2境界とする。第1傾斜面21は、第1境界から第2境界へ向かって板厚が厚くなる上り斜面となる傾斜面である。平坦面22は、第2境界から繊維シートSの積層界面と平行な面内方向に広がる面である。
【0017】
図3を参照し、外板5の積層構造について説明する。ここで、積層界面と平行な方向を面内方向とし、積層界面に直交する方向を板厚方向とする。外板5において、板部8は、板厚方向における板厚が一定となっているため、板部8における繊維シートの積層数は、一定となっている。一方、外板5は、パッドアップ部10と板部8とが一体となっていることから、外板5の板厚方向における板厚が第1境界から第2境界へ向かって厚くなるため、パッドアップ部10における繊維シートSの積層数は、第1境界から第2境界へ向かって増えていく。このとき、板部8とパッドアップ部10とは、その内表面が単一の繊維シートSaにより被覆されている。つまり、外板5の内表面は、繊維シートSaにより被覆されていることから、外板5は、内層の繊維シートSの端部が露出しない積層構造となっている。
【0018】
ストリンガ6は、外板5と同様に、複数の繊維シートSが積層された積層体である。接合構造体1の補強部9の一部を構成する部材となっている。ストリンガ6は、例えば、繊維シートSとしてのプリプレグを複数積層して熱硬化させた複合材である。図1に示すように、ストリンガ6は、例えば、2つのフランジ部と、2つのフランジ部の間に設けられるウェブ部とを有し、2つのフランジ部とウェブ部とにより断面H形状に形成されている。図2及び図3に示すように、ストリンガ6は、2つのフランジ部のうち、一方のフランジ部25がパッドアップ部10に接合されている。なお、ストリンガ6は、断面H形状に特に限定されず、断面C形状、断面T形状、断面L形状または断面J形状であってもよい。
【0019】
一方のフランジ部25は、パッドアップ部10の平坦面22に対向する底面28と、第2境界から上り斜面となる第2傾斜面29と、を有している。第2傾斜面29は、縁部となる第2境界から中央部へ向かって板厚が厚くなる上り斜面となる傾斜面である。底面28は、第2境界から繊維シートSの積層界面と平行な面内方向に広がる面である。
【0020】
図3を参照し、ストリンガ6の一方のフランジ部25における積層構造について説明する。フランジ部25は、板厚方向における板厚が第2境界から中央部へ向かって厚くなるため、フランジ部25における繊維シートSの積層数は、第2境界から中央部へ向かって増えていく。このとき、フランジ部25は、外板5と同様に、第2傾斜面29が単一の繊維シートSbにより被覆されている。つまり、フランジ部25の第2傾斜面29は、繊維シートSbにより被覆されていることから、内層の繊維シートSの端部が露出しない積層構造となっている。
【0021】
外板5のパッドアップ部10の平坦面22と、ストリンガ6のフランジ部25の底面28とは、接着剤により接着される被接着面となっている。外板5とストリンガ6とは、接着剤7を介してパッドアップ部10の平坦面22とフランジ部25の底面28とが接着されることで、接合構造体1となる。また、第1傾斜面21と第2傾斜面29とは、面内方向に対して交差する面外方向の傾斜角度が同じ角度となっており、段差のない連なる面となっている。なお、第1傾斜面21と第2傾斜面29とは、傾斜角度が異なる角度であってもよく、同じ角度であることに特に限定されない。
【0022】
上記のような接合構造体1は、接合されたパッドアップ部10とストリンガ6とが補強部9として機能する。そして、接合構造体1は、板部8と補強部9(のパッドアップ部10)との第1境界と、パッドアップ部10とストリンガ6のフランジ部25との第2境界とが、面内方向において異なる位置となっている。
【0023】
(接合構造体の製造方法)
次に、図4を参照して、接合構造体1の製造方法について説明する。図4は、実施形態1に係る接合構造体の製造方法に関するフローチャートである。接合構造体1の製造方法では、板部8とパッドアップ部10とが一体となった外板5を成形し、成形した外板5を配置する(ステップS1)。続いて、パッドアップ部10に接合されるストリンガ6を成形し、成形したストリンガ6を配置する(ステップS2)。そして、外板5のパッドアップ部10とストリンガ6との間に接着シート等の接着剤7を配置して(ステップS2)、接着剤7を硬化させることで、外板5とストリンガ6とが接合された接合構造体を形成する(ステップS3)。
【0024】
(従来の接合構造体と実施形態1の接合構造体との比較)
次に、図5を参照して、従来の接合構造体と実施形態1の接合構造体1とに与えられるピール応力について比較する。図5は、従来の接合構造体と実施形態1の接合構造体とのピール応力を比較した図である。図5は、その横軸が、面内方向における位置となっており、その縦軸が、表層(内表面の最外層)に与えられるピール応力となっている。
【0025】
従来の接合構造体は、外板5とストリンガ6とを備え、外板5が実施形態1の板部8に相当する構成となっており、ストリンガ6が実施形態1の補強部9に相当する構成となっている。つまり、従来の接合構造体は、外板5に対して、補強部9に相当する別体となるストリンガ6が接合されたものとなっている。これに対して、実施形態1の接合構造体1は、補強部9の一部を構成するパッドアップ部10を有する外板5に対して、補強部9の一部を構成するストリンガ6が接合されたものとなっている。
【0026】
従来の接合構造体は、外板5(板部8)と補強部9との境界である第1境界と、外板5とストリンガ6との境界である第2境界とが、面内方向において同じ位置となっている。これに対して、実施形態1の接合構造体1は、板部8と補強部9(のパッドアップ部10)との第1境界と、パッドアップ部10とストリンガ6のフランジ部25との第2境界とが、面内方向において異なる位置となっている。
【0027】
図5に示すように、接合構造体1には、外板5(板部8)と補強部9との第1境界にピール応力が集中する。なお、ピール応力は、面外方向における引張応力である。このため、従来の接合構造体は、第1境界と第2境界とが同じ位置であることから、外板5とストリンガ6との接着界面に大きなピール応力が与えられる。一方で、実施形態1の接合構造体1は、第1境界と第2境界とが異なる位置であることから、外板5とストリンガ6との接着界面に与えられるピール応力を従来に比して低減させることができる。
【0028】
図6は、従来の接合構造体と実施形態1の接合構造体との接合強度の性能を示す図である。図6の縦軸は、従来の接合構造体及び実施形態1の接合構造体1の初期破壊荷重である。接着界面のピール応力が高いと、接着界面に破壊が発生しやすい為に接合強度が低下し、接合構造体1の初期破壊荷重が小さい値となる。つまり、初期破壊荷重が大きいほど、接合強度の性能が高いものとなっている。図6に示すように、実施形態1の接合構造体1は、従来の接合構造体に比して、約3倍の初期破壊荷重となっており、接合強度の性能向上が確認された。
【0029】
(接合構造体のパッドアップ部の板厚)
次に、図7を参照して、実施形態1の接合構造体1におけるパッドアップ部10の板厚について説明する。図7は、パッドアップ部の板厚と引き剥がし易さとの関係を示すグラフである。図3に示すように、パッドアップ部10の板厚を、Tとし、フランジ部25の板厚を、Tとする。この場合、接着部分における総板厚は、板厚T+板厚Tとなり、総板厚に対するパッドアップ部10の板厚の割合であるパッド厚比PRは、PR=T/(T+T)となる。図7は、その縦軸が、接着部のき裂先端の応力拡大係数となっており、引き剥がし易さに関するパラメータとなっている。応力拡大係数が大きいほど、き裂が進展しやすい為に引き剥がし易く、応力拡大係数が小さいほど、き裂が進展しにくい為に引き剥がし難いものとなる。また、図7は、その横軸が、パッド厚比PRとなっている。
【0030】
図7に示すように、パッドアップ部10の板厚の割合が大きくなるほど、応力拡大係数は小さくなる。一方で、パッドアップ部10の板厚の割合の変化に伴う応力拡大係数の変化、すなわち、応力拡大係数の感度は、パッドアップ部10の板厚の割合が小さい場合に大きく、パッドアップ部10の板厚の割合が大きい場合に小さいものとなる。具体的に、実施形態1では、パッド厚比PRが50%となっており、パッド厚比PR(=50%)を境界とすると、パッド厚比PRが0%から50%の範囲における応力拡大係数の変化D1は、パッド厚比PRが50%から100%の範囲における応力拡大係数の変化D2に比して、大きなものとなっている。以上から、パッドアップ部10の板厚は、フランジ部25の板厚以下とすることで、パッドアップ部10の少ない板厚の変化によって、引き剥がし難い構成に効率よくできることが確認された。
【0031】
以上のように、実施形態1によれば、第1境界と第2境界とを、面内方向において異なる位置にできることから、外板5とストリンガ6との接着界面に付与されるピール応力を低減でき、これにより、外板5とストリンガ6との接合強度の向上を図ることができる。
【0032】
また、実施形態1によれば、パッドアップ部10は、ストリンガ6が接着される被接着面の全面に設けられていることから、被接着面となるパッドアップ部10の平坦面及びフランジ部25の底面28を、簡易な形状とすることができる。
【0033】
また、実施形態1によれば、第1傾斜面21と第2傾斜面29とを、段差のない連なる面にできることから、第2境界における形状変化を抑制できるため、ピール応力の集中を緩和することができる。
【0034】
また、実施形態1によれば、パッドアップ部10の板厚Tを、フランジ部25の板厚T以下にすることで、パッドアップ部10の少ない板厚の変化によって、引き剥がし難い構成に効率よくできる。
【0035】
また、実施形態1によれば、外板5とストリンガ6との接合強度が高い接合構造体1を簡単に製造することができる。
【0036】
[実施形態2]
次に、図8を参照して、実施形態2に係る接合構造体1について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。図8は、実施形態2に係る接合構造体の積層構造を表した断面図である。
【0037】
実施形態2の接合構造体1は、実施形態1の接合構造体1のフランジ部25を、パッドアップ部10の平坦面22の一部が露出するように接着したものとなっている。具体的に、フランジ部25は、面内方向において、パッドアップ部10の第1傾斜面21と平坦面22との交差部分から離れるようにオフセットされて、パッドアップ部10に接着される。このため、パッドアップ部10とフランジ部25とは、段差が形成される階段状となっている。
【0038】
以上のように、実施形態2によれば、パッドアップ部10の平坦面22に対して、フランジ部25の位置を、オフセットした状態で接着できることから、パッドアップ部10とフランジ部25との位置合わせを容易にすることができ、接着作業の効率化を図ることができる。また、パッドアップ部10の平坦面22に対して、フランジ部25の位置を、オフセットできることから、接合構造体1の組立公差を吸収(許容)することが可能となる。
【0039】
[実施形態3]
次に、図9を参照して、実施形態3に係る接合構造体30について説明する。なお、実施形態3では、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び2と異なる部分について説明し、実施形態1及び2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。図9は、実施形態3に係る接合構造体を模式的に表した断面図である。
【0040】
実施形態3の接合構造体30は、実施形態1の接合構造体1のパッドアップ部10を、ストリンガ6が接着される被接着面の縁部に形成したものとなっている。具体的に、接合構造体30のパッドアップ部31は、接着されるフランジ部25の先端側の部位にのみ設けられている。このため、パッドアップ部31の内側の領域は、パッドアップ部31が一体に設けられていない板部8となっている。パッドアップ部31は、例えば、縁部から中央部に向かって、高さが高くなった後、平坦となり、さらに高さが低くなる断面台形形状となっている。具体的に、図9に示すように、パッドアップ部31は、縁部(面内方向の一方側/図9の左側)に形成される第1傾斜面21と、第1傾斜面21に連なる平坦面22と、面内方向の他方側(図9の右側)に形成されると共に平坦面22に連なる第3傾斜面33と、を有している。なお、第1傾斜面21及び平坦面22は、実施形態1とほぼ同様であるため、説明を省略する。第3傾斜面33は、平坦面22から面内方向の他方側へ向かって板厚が薄くなる下り斜面となる傾斜面である。
【0041】
以上のように、実施形態3によれば、パッドアップ部31を、被接着面の縁部にのみ形成することで、接着面積を大きくすることができるため、外板5とストリンガ6との接合強度を高めることができる。また、ピール応力を低減しつつ、ストリンガ6のフランジ部25の厚さも確保することが可能となる。
【0042】
各実施形態に記載の接合構造体1,30及び接合構造体1,30の製造方法は、例えば、以下のように把握される。
【0043】
第1の態様に係る接合構造体1,30は、複合材(外板5)と補強材(ストリンガ6)とを接着剤7を介して接合することで形成される補強部9を有する接合構造体1,30において、前記複合材は、繊維シートSを複数積層して形成される板部8と、前記板部8に対して前記繊維シートSをさらに積層して形成される隆起部(パッドアップ部10)と、を含み、前記板部8と前記隆起部とは、その表面が単一の前記繊維シートSaにより被覆されており、前記補強部9は、前記隆起部と、前記隆起部に接着剤7を介して接着される前記補強材と、を含み、前記板部8と前記隆起部との第1境界と、前記隆起部と前記補強材との第2境界とは、積層される前記繊維シートSの積層界面の面内方向において、異なる位置となっている。
【0044】
この構成によれば、第1境界と第2境界とを、面内方向において異なる位置にできることから、複合材と補強材との接着界面に付与されるピール応力を低減でき、これにより、複合材と補強材との接合強度の向上を図ることができる。
【0045】
第2の態様として、前記隆起部は、前記補強材が前記複合材に接着される被接着面の全面に設けられる。
【0046】
この構成によれば、隆起部は、補強材が接着される被接着面の全面に設けられていることから、隆起部及び補強材の被接着面を、簡易な形状とすることができる。
【0047】
第3の態様として、前記隆起部は、前記補強材が前記複合材に接着される被接着面の縁部に設けられる。
【0048】
この構成によれば、隆起部を、被接着面の縁部にのみ形成することで、接着面積を大きくすることができるため、複合材と補強材との接合強度を高めることができる。
【0049】
第4の態様として、前記隆起部は、前記第1境界から前記第2境界へ向かって上り斜面となる第1傾斜面21を有し、前記補強材は、前記第2境界から上り斜面となる第2傾斜面29を有し、前記隆起部と前記補強材とは、前記第1傾斜面21と前記第2傾斜面29とが連なる面となるように接着されている。
【0050】
この構成によれば、第1傾斜面21と第2傾斜面29とを、段差のない連なる面にできることから、第2境界における形状変化を抑制できるため、ピール応力の集中を緩和することができる。
【0051】
第5の態様として、前記隆起部は、前記第1境界から前記第2境界へ向かって上り斜面となる第1傾斜面21と、前記第2境界から前記繊維シートの積層界面と平行な面内方向に広がる平坦面22と、を有し、前記補強材は、前記隆起部の前記平坦面22を一部露出させて、前記平坦面22に接着されている。
【0052】
この構成によれば、隆起部に対して、補強材の位置を、オフセットした状態で接着できることから、隆起部と補強材との位置合わせを容易にすることができ、接着作業の効率化を図ることができる。
【0053】
第6の態様として、前記隆起部の厚さ(板厚T)は、前記隆起部に接着される前記補強材の部位の厚さ(板厚T)以下となっている。
【0054】
この構成によれば、隆起部の厚さを、補強材の部位の厚さ以下にすることで、隆起部の少ない板厚の変化によって、引き剥がし難い構成に効率よくできる。
【0055】
第7の態様に係る接合構造体1,30の製造方法は、繊維シートSを複数積層して形成される板部8と、前記板部8に対して前記繊維シートSをさらに積層して形成される隆起部と、を含み、前記板部8と前記隆起部との表面が単一の前記繊維シートSaで被覆された複合材を成形するステップと、前記複合材の前記隆起部に接合される補強材を成形するステップと、前記複合材の前記隆起部と前記補強材とを接着剤7を介して接合して接合構造体1,30を形成するステップと、を備える。
【0056】
この構成によれば、複合材と補強材との接合強度が高い接合構造体1を簡単に製造することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 接合構造体
5 外板
6 ストリンガ
7 接着剤
8 板部
9 補強部
10 パッドアップ部
21 第1傾斜面
22 平坦面
25 フランジ部
28 底面
29 第2傾斜面
30 接合構造体
31 パッドアップ部
33 第3傾斜面
S,Sa,Sb 繊維シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9