(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法
(51)【国際特許分類】
G21K 5/04 20060101AFI20231102BHJP
G21K 5/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G21K5/04 E
G21K5/00 A
G21K5/04 C
(21)【出願番号】P 2020019243
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 龍太
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓人
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一郎
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-500437(JP,A)
【文献】特表2018-503101(JP,A)
【文献】特開2008-128972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/04
G21K 5/00
A61L 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ノズルの先端部に配置された透過窓から大気中に電子線を出射するノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法であって、
前記ノズル式電子線出射装置の内部で発生させる電子線の加速電流から、前記真空ノズルおよび透過窓に吸収された電子線の電流を減ずることで、大気中に出射された電子線の電流を算出する電流算出工程と、
大気中に出射された電子線をフォトダイオードに照射させる電子線照射工程と、
前記フォトダイオードからの出力電流を、前記電流算出工程で算出された電流で除することで、大気中に出射された電子線のエネルギーを推定するエネルギー推定工程と、
前記エネルギー推定工程で推定されたエネルギーが所定の状態にあれば、前記ノズル式電子線出射装置が交換時期にあることを決定する交換時期決定工程とを備えることを特徴とするノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法。
【請求項2】
電子線照射工程において、大気中に出射された電子線が、耐食性金属膜を透過してからフォトダイオードに照射されることを特徴とする請求項1に記載のノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法。
【請求項3】
電子線照射工程において、フォトダイオードが、不活性ガスまたは真空の雰囲気下にあることを特徴とする請求項1または2に記載のノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法。
【請求項4】
電子線照射工程において、大気中に出射された電子線が照射されるフォトダイオードの受光面が、真空ノズルの内部における横断面を包含する大きさであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法。
【請求項5】
ノズル式電子線出射装置が複数であり、各ノズル式電子線出射装置が、公転軸から一定距離の位置に配置されて、当該公転軸を中心に公転しながら電子線を出射するものであり、
電子線照射工程において、フォトダイオードが、各ノズル式電子線出射装置から大気中に出射された電子線が順次照射される位置に固定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノズル式電子線出射装置は、その真空ノズルの先端部に配置された透過窓から大気中に電子線を出射する機器である。この装置は、真空ノズルの先端部をワークの内部に挿入して電子線の照射が可能になることから、容器の内部を照射して滅菌するなどの用途に適する。容器などの滅菌対象物を電子線の照射により滅菌する設備では、通常、滅菌対象物が連続して搬送されながら、当該滅菌対象物に電子線が順次照射されるように構成されている。
【0003】
前記設備では、ノズル式電子線出射装置により電子線が照射された後の滅菌対象物を再び汚染しないよう、滅菌対象物を搬送する経路において、当該ノズル式電子線出射装置から下流側が無菌環境に維持されている。前記設備において、滅菌対象物に照射する電子線が不安定であるなど、滅菌対象物の滅菌が不十分であれば、汚染された状態の滅菌対象物がノズル式電子線出射装置から下流側(無菌環境の経路)まで搬送されることになる。そうなれば、前記無菌環境が破られるので、ノズル式電子線出射装置から下流側を再び無菌環境にする作業が必要になる。
【0004】
現状、出射する電子線の電流を一定にする電子線処理装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような電子線処理装置では、電子線を発生させるフィラメントが劣化および/または変形しても、前記電子線の電流を適切に測定してフィードバックすることで、電子線の電流を一定に維持することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載の電子線処理装置は、故障した状態においても電子線の電流を一定に維持できるものではない。また、前記電子線処理装置は、滅菌の精度に関係するパラメータである電子線のエネルギーまでを測定しないので、当該エネルギーが不十分(滅菌が不十分)になる程度の故障を事前に予測することができない。
【0007】
そこで、本発明は、ノズル式電子線出射装置の故障前における適切な交換時期を決定し得るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、第1の発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法は、真空ノズルの先端部に配置された透過窓から大気中に電子線を出射するノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法であって、
前記ノズル式電子線出射装置の内部で発生させる電子線の加速電流から、前記真空ノズルおよび透過窓に吸収された電子線の電流を減ずることで、大気中に出射された電子線の電流を算出する電流算出工程と、
大気中に出射された電子線をフォトダイオードに照射させる電子線照射工程と、
前記フォトダイオードからの出力電流を、前記電流算出工程で算出された電流で除することで、大気中に出射された電子線のエネルギーを推定するエネルギー推定工程と、
前記エネルギー推定工程で推定されたエネルギーが所定の状態にあれば、前記ノズル式電子線出射装置が交換時期にあることを決定する交換時期決定工程とを備える方法である。
【0009】
また、第2の発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法は、第1の発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法における電子線照射工程において、大気中に出射された電子線が、耐食性金属膜を透過してからフォトダイオードに照射される方法である。
【0010】
さらに、第3の発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法は、第1または第2の発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法における電子線照射工程において、フォトダイオードが、不活性ガスまたは真空の雰囲気下にある方法である。
【0011】
加えて、第4の発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法は、第1乃至第3のいずれかの発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法における電子線照射工程において、大気中に出射された電子線が照射されるフォトダイオードの受光面が、真空ノズルの内部における横断面を包含する大きさである方法である。
【0012】
また、第5の発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法は、第1乃至第4のいずれかの発明に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法において、ノズル式電子線出射装置が複数であり、各ノズル式電子線出射装置が、公転軸から一定距離の位置に配置されて、当該公転軸を中心に公転しながら電子線を出射するものであり、
電子線照射工程において、フォトダイオードが、各ノズル式電子線出射装置から大気中に出射された電子線が順次照射される位置に固定されている方法である。
【発明の効果】
【0013】
前記ノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法によると、大気中に出射された電子線のエネルギーを推定することにより、前記ノズル式電子線出射装置の故障前における適切な交換時期を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法の概略構成図である。
【
図2】同ノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法のフローチャートである。
【
図3】同ノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法の好ましい形態を示す概略構成図である。
【
図4】同ノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法の好ましい形態を示す概略構成図である。
【
図5】本発明の実施例に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法の概略構成図である。
【
図6】同ノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法の好ましい形態を示す概略斜視図である。
【
図7】同ノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法の好ましい形態における固定テーブルの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係るノズル式電子線出射装置の交換時期決定方法について、図面に基づき説明する。
【0016】
図1に示すように、前記ノズル式電子線出射装置20は、真空の内部で電子線E1を案内する真空ノズル1と、この真空ノズル1の先端部に配置されて前記電子線E1を大気中に出射する透過窓2とを有する。前記交換時期決定方法は、概略的に、前記ノズル式電子線出射装置20の故障前における適切な交換時期を決定する方法である。
【0017】
前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法は、当該ノズル式電子線出射装置20の内部で発生させる電子線E1の加速電流(I1)から、前記真空ノズル1および透過窓2に吸収された電子線E1の電流(I3)を減ずることで、大気中に出射された電子線E2の電流(I2)を算出する電流算出工程を備える。前記ノズル式電子線出射装置20の内部で発生させた電子線E1は、前記真空ノズル1に案内されて透過窓2から出射する際、前記真空ノズル1および透過窓2に一部が吸収される。この吸収された電子線E1の電流(I3)(以下、吸収電流と称する)は、長期に亘って電子線E1を透過させることで透過窓2に堆積していく異物(酸化被膜など)の量、および、前記真空ノズル1の内部で電子線E1が地磁気などの影響を受けることにより変動する。この変動は、前記ノズル式電子線出射装置20を公転させるなど動かして使用することにより、当該ノズル式電子線出射装置20に対する地磁気の相対的な方向が変化するので、顕著になる。このため、前記加速電流(I1)が一定でも、前記吸収電流(I3)が一定でない(変動する)ので、大気中に出射される電子線E2の電流(I2)も一定ではない。しかしながら、前記電流算出工程により、前記加速電流(I1)から吸収電流(I3)を減ずることで、大気中に出射された電子線E2の電流(I2)が適切に算出される(I2=I1-I3)。
【0018】
前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法は、さらに、大気中に出射された電子線E2をフォトダイオード6に照射させる電子線照射工程を備える。前記電子線E2が照射されたフォトダイオード6は、入射した電子線E2における電子の電離作用によって、当該電子のエネルギーに依存した電子と正孔との対を生成する。これにより、生成された電子はフォトダイオード6のN層に流れるとともに、生成された正孔はフォトダイオード6のP層に流れることで、フォトダイオード6は出力電流(IP)を生じさせる。
【0019】
前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法は、さらに、前記フォトダイオード6からの出力電流(IP)を、前記電流算出工程で算出された電流(I2)で除することで、大気中に出射された電子線E2のエネルギーを推定するエネルギー推定工程を備える。前記フォトダイオード6からの出力電流(IP)を前記電流算出工程で算出された電流(I2)で除して算出される値(IP/I2)は、厳密にはゲイン(利得)であって、エネルギーではない。しかしながら、前記算出されるゲインは、前記エネルギーに相関した値である。このため、前記ゲインを算出する工程は、厳密にはエネルギーを算出する工程ではないが、前記エネルギーに相関した値を算出する工程なので、本実施の形態ではエネルギーを推定する工程、つまりエネルギー推定工程と称する。
【0020】
前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法は、さらに、前記エネルギー推定工程で推定されたエネルギーが所定の状態にあれば、前記ノズル式電子線出射装置20が交換時期にあることを決定する交換時期決定工程を備える。この交換時期決定工程では、前記エネルギー推定工程で推定されたエネルギー、厳密には算出されたゲインに基づき、前記ノズル式電子線出射装置20の故障前における交換時期を判断する。この判断の基準は、特に限定されないが、例えば、算出されたゲインが、前記ノズル式電子線出射装置20の初期状態におけるゲインからN%(Nは例えば20~40)減少した状態などである。特に、前記交換時期決定工程は、前記エネルギー推定工程で推定されたエネルギーが所定の状態にあり、且つ、前記電流算出工程で算出された電流(I2)が他の所定の状態にあれば、前記ノズル式電子線出射装置20が交換時期にあることを決定する工程であることが好ましい。前記ノズル式電子線出射装置20が交換時期にあることを決定するのに、前記電流(I2)が他の所定の状態にあることも考慮することで、前記ノズル式電子線出射装置20の故障前における一層適切な交換時期を決定することができるからである。
【0021】
以下、前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法の使用について、
図2に基づき説明する。
【0022】
図2に示すように、電流算出工程(STEP1)として、前記ノズル式電子線出射装置20の内部で発生させる電子線E2の加速電流(I1)と、前記真空ノズル1および透過窓2に吸収された電子線E1の電流(I3)である吸収電流(I3)とを測定する。そして、前記電流算出工程(STEP1)として、前記加速電流(I1)から吸収電流(I3)を減ずることで、大気中に出射された電子線E2の電流(I2)を算出する(I2=I1-I3)。
【0023】
一方で、電子線照射工程(STEP2)として、大気中に出射された電子線E2をフォトダイオード6に照射させる。なお、前記電流算出工程(STEP1)と電子線照射工程(STEP2)とは、
図2に示すように同時期であってもよく、経時的に一方が先で他方が後の関係であってもよい。
【0024】
次に、エネルギー推定工程(STEP3)として、前記フォトダイオード6からの出力電流(IP)を測定する。そして、前記エネルギー推定工程(STEP3)として、前記出力電流(IP)から電流算出工程(STEP1)で算出された電流(I2)を除することで、大気中に出射された電子線E2のエネルギーを推定(ゲインを算出)する(IP/I2)。
【0025】
次に、交換時期決定工程(STEP4)として、前記エネルギー推定工程(STEP3)で推定されたエネルギー(算出されたゲイン)が所定の状態にあれば、前記ノズル式電子線出射装置20が交換時期であることを決定する。
【0026】
このように、前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法によると、大気中に出射された電子線E2のエネルギーを推定することにより、前記ノズル式電子線出射装置20の故障前における適切な交換時期を決定することができる。
【0027】
ところで、前記実施の形態に係る電子線照射工程は、
図3に示す工程でもよい。すなわち、
図3に示すように、前記電子線照射工程において、大気中に出射された電子線E2は、耐食性金属膜64を透過してからフォトダイオード6に照射されることが好ましい。大気中に出射された電子線E2が、前記フォトダイオード6に直接照射されず、前記耐食性金属膜64を透過してからフォトダイオード6に照射されることで、適切に減衰された電子線E2がフォトダイオード6に照射される。これにより、前記フォトダイオード6からの出力電流(IP)が適切になるので、前記エネルギー推定工程で推定される電子線E2のエネルギー(算出されるゲイン)が一層適切になり、結果として、前記ノズル式電子線出射装置20の故障前における一層適切な交換時期を決定することができる。なお、前記耐食性金属膜64は、イオン化傾向がマグネシウムよりも小さい金属で構成されて電子線E2を透過させる膜であれば、特に限定されない。ここで、電子線E2を透過させる膜とは、例えば、チタン、シリコンまたはベリリウムなどの密度が小さい金属である。
【0028】
前記電子線照射工程において、前記フォトダイオード6は、不活性ガスまたは真空の雰囲気下にあることが好ましい。前記フォトダイオード6が不活性ガスまたは真空の雰囲気下にあるようにするには、例えば、
図3に示すように、内部が不活性ガスまたは真空にされた気密の筐体62にフォトダイオード6を収める。この筐体62は、前記電子線E2を通過させる通過孔63が形成され、この通過孔63を覆うように耐食性金属膜64が張られている。大気中に出射された電子線E2は腐食性ガスであるオゾンを生成するが、精密機器であるフォトダイオード6が不活性ガスまたは真空の雰囲気下にあることで、前記フォトダイオード6の腐食が防止される。これにより、フォトダイオード6からの出力電流(IP)が適切になるので、前記エネルギー推定工程で推定される電子線E2のエネルギー(算出されるゲイン)が一層適切になり、結果として、前記ノズル式電子線出射装置20の故障前における一層適切な交換時期を決定することができる。
【0029】
前記電子線照射工程において、
図3に示すように、大気中に出射された電子線E2が照射されるフォトダイオード6の受光面61が、前記真空ノズル1の内部における横断面A1を包含する大きさAPである。大気中に出射された電子線E2は、その電子群が大気中の分子と衝突することで広がる傾向にあるが、前記フォトダイオード6の受光面61が大きい(A1≦AP)ことにより、当該フォトダイオード6に適切に照射される。これにより、前記フォトダイオード6からの出力電流(IP)が適切になるので、前記エネルギー推定工程で推定される電子線E2のエネルギー(算出されるゲイン)が一層適切になり、結果として、前記ノズル式電子線出射装置20の故障前における一層適切な交換時期を決定することができる。
【0030】
前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法は、
図4に示す工程でもよい。すなわち、
図4に示すように、前記ノズル式電子線出射装置20が複数21~25であり、各ノズル式電子線出射装置21~25は、公転軸Rから一定距離の位置に配置されて、当該公転軸Rを中心に公転しながら電子線E2を出射するものある。また、前記電子線照射工程において、前記フォトダイオード6が、各ノズル式電子線出射装置21~25から大気中に出射された電子線E2が順次照射される位置に固定されている。これにより、各ノズル式電子線出射装置20は公転しながらフォトダイオード6に電子線E2を順次照射するので、複数の(公転する全ての)ノズル式電子線出射装置21~25の故障前における適切な交換時期を決定することができる。また、前記フォトダイオード6が1つで足りるので、前記フォトダイオード6が固定されていない範囲を本来の用途(例えば、電子線E2の照射による滅菌対象物の滅菌など)にすることで、本来の用途に使用しながらノズル式電子線出射装置20の故障前における適切な交換時期を決定することができる。
【実施例】
【0031】
以下、前記実施の形態をより具体的に示した実施例に係るノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法について、
図5~
図7に基づき説明する。本実施例では、前記実施の形態とは異なる構成に着目して説明するとともに、前記実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0032】
図5に示すように、本実施例に係るノズル式電子線出射装置20は、前記真空ノズル1に気密に接続された真空チャンバ4と、この真空チャンバ4の内部に配置された電子線発生器5と、この電子線発生器5に電圧(例えば、150kV以下)を印加する電源8とを有する。また、前記ノズル式電子線出射装置20は、前記真空ノズル1および真空チャンバ4の内部を高真空にするイオンポンプ3(高真空ポンプ3であればよい)と、このイオンポンプ3を真空チャンバ4に接続するL字管7と、このL字管7を真空チャンバ4に固定するフランジ9とを有する。さらに、前記ノズル式電子線出射装置20は、回転軸Rを中心に回転するターンテーブル91の上面に、前記フランジ9を介して、前記真空ノズル1の先端部を下方に向けて配置されている。すなわち、前記ノズル式電子線出射装置20は、前記回転軸Rを中心に公転しながら電子線E2を下方に出射するように構成されている。
【0033】
本実施例に係るノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法に必要な構成部材として、大気中に出射された電子線E2が照射される位置に、前記受光面61を上にしたフォトダイオード6と、このフォトダイオード6を収めた気密の筐体62とを備える。この筐体62は、前記電子線E2を通過させる通過孔63が形成され、この通過孔63を覆うようにアルミニウム箔64(耐食性金属膜64の一例)が張られている。前記通過孔63および受光面61は、それぞれ、前記真空ノズル1の内部における横断面(前記受光面61に平行な面)を包含する大きさである。前記筐体62の内部は、図示しない真空ポンプにより真空の雰囲気にされ、または、不活性ガスで置換されて不活性ガスの雰囲気にされている。
【0034】
また、前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法に必要な構成部材として、前記電流算出工程を行う電流算出部10と、前記エネルギー推定工程を行うエネルギー推定部30と、前記交換時期決定工程を行う交換時期決定部40とを備える。
【0035】
前記電流算出部10は、前記ノズル式電子線出射装置20の内部で発生させる電子線E1の加速電流(I1)から、前記真空ノズル1および透過窓2に吸収された電子線Eの電流(I3)である吸収電流(I3)を減ずることで、大気中に出射された電子線E2の電流(I2)を算出する。ここで、前記電子線発生器5で発生させる電子線E1の加速電流(I1)は、前記電子線発生器5に電圧を印加する電源8の負荷から測定される。このため、前記電流算出部10は、測定された加速電流(I1)が入力されるために、前記電源8に電気的に接続されている。また、前記電流算出部10は、測定された吸収電流(I3)が入力されるために、前記真空ノズル1(真空チャンバ4でもよい)に電気的に接続されている。なお、前記吸収電流(I3)に前記イオンポンプ3からの影響を及ぼさないようにすることが可能であるから、前記イオンポンプ3の有無に関らず、前記吸収電流(I3)に基づいてノズル式電子線出射装置20の交換時期を決定しても、適切な交換時期が決定される。
【0036】
前記エネルギー推定部30は、前記フォトダイオード6からの出力電流(IP)を、前記電流算出部10で算出された電流(I2)で除することで、大気中に出射された電子線E2のエネルギーを推定(ゲインを算出)する。また、前記エネルギー推定部30は、前記フォトダイオード6からの出力電流(IP)が入力されるために、前記フォトダイオード6に電気的に接続されている。さらに、前記エネルギー推定部30は、前記電流算出部10および交換時期決定部40とともに1つのコンピュータに格納されるなど、前記電流算出部10および交換時期決定部40に電気的に接続されている。
【0037】
前記交換時期決定部40は、前記エネルギー推定部30で推定されたエネルギーが所定の状態にあり、且つ、前記電流算出部10で算出された電流(I2)が他の所定の状態にあれば、前記ノズル式電子線出射装置20が交換時期にあることを決定する。
【0038】
図6に示すように、前記ノズル式電子線出射装置20は、複数21~25(
図6では一例として5つ)であり、いずれも前記ターンテーブル91の回転軸Rから一定距離だけ離れて配置されている。前記ターンテーブル91の下には、固定テーブル81が配置されている。すなわち、
図7に示すように、当該固定テーブル81に照射されるノズル式電子線出射装置21~25からの電子線E2の軌跡は、前記回転軸Rを中心とした半径が前記一定距離の円(正確には円環)になる。この電子線E2の軌跡である円(円環)のうち、滅菌対象物であるペットボトルBが搬送される経路を含む範囲が滅菌エリア82であり、この滅菌エリア82以外の任意の範囲が電子線E2のエネルギーを推定するエネルギー推定エリア86である。前記滅菌エリア82では、ペットボトルBが、公転しているノズル式電子線出射装置20の直下方に位置する速度で、連続して円経路に搬送される。前記滅菌エリア82で搬送されているペットボトルBは、口部から電子線E2が照射されることで、内部が滅菌される。一方で、前記エネルギー推定エリア86では、公転しているノズル式電子線出射装置20が前記筐体62の直上方を通り過ぎる際、当該ノズル式電子線出射装置20から出射された電子線E2が、前記アルミニウム箔64を透過してから、前記筐体62の通過孔63を通過してフォトダイオード6を照射する。
【0039】
以下、前記ノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法の使用について説明する。
【0040】
図6に示すように、ターンテーブル91の回転軸Rを中心とした回転により、ターンテーブル91の上面に配置された複数のノズル式電子線出射装置21~25が公転しながら電子線E2を出射する。前記滅菌エリア82では、ペットボトルBが、ノズル式電子線出射装置20の公転と同期して、当該ノズル式電子線出射装置20の直下方に位置する速度で搬送される。前記滅菌エリア82のペットボトルBは、直上方のノズル式電子線出射装置20が出射した電子線E2の照射により滅菌される。一方で、前記エネルギー推定エリア86では、固定テーブル81に固定された筐体62の直上方を、前記公転によりノズル式電子線出射装置20が通り過ぎる。この際、前記ノズル式電子線出射装置21から出射された電子線E2が、アルミニウム箔64を透過してから、前記筐体62の通過孔63を通過して、前記筐体62の内部にあるフォトダイオード6を照射する。
【0041】
次に、前記筐体62の内部にあるフォトダイオード6に電子線E2を照射している1つのノズル式電子線出射装置21(20)に着目して、
図5に基づき説明する。
【0042】
図5に示すように、前記電子線発生器5で発生させている電子線E1の加速電流(I1)は、前記電源8の負荷から測定されて、前記電流算出部10に入力される。一方で、前記吸収電流(I3)は、前記真空ノズル1から電流算出部10に入力される。前記電流算出部10では、電流算出工程として、前記加速電流(I1)から吸収電流(I3)を減ずることで、大気中に出射された電子線E2の電流(I2)が算出される(I2=I1-I3)。
【0043】
一方で、前記筐体62では、電子線照射工程として、大気中に出射された電子線E2が、前記アルミニウム箔64を透過してから、前記筐体62の通過孔63を通過して、不活性ガスまたは真空の雰囲気下にあるフォトダイオード6に照射される。前記電子線E2が照射されたフォトダイオード6は、出力電流(IP)を生じさせる。
【0044】
次に、前記エネルギー推定部30では、エネルギー推定工程として、フォトダイオード6からの出力電流(IP)を、前記電流算出部10で算出された電流(I2)で除することで、大気中に出射された電子線E2のエネルギーが推定(ゲインが算出)される(IP/I2)。
【0045】
次に、前記交換時期決定部40では、交換時期決定工程として、前記エネルギー推定部30で推定されたエネルギー(算出されたゲイン)が所定の状態にあり、且つ、前記電流算出部10で算出された電流(I2)が他の所定の状態にあれば、前記ノズル式電子線出射装置20が交換時期にあると決定される。
【0046】
このように、本実施例に係るノズル式電子線出射装置20の交換時期決定方法によると、当該ノズル式電子線出射装置20がイオンポンプ3など電流を発生させる機器に接続されていても、前記実施の形態で説明した効果を奏する。
【0047】
ところで、前記実施の形態および実施例では、前記耐食性金属膜64の冷却について説明しなかったが、前記耐食性金属膜64に空冷のための気体を吹き付ける空冷機器が設けられてもよい。前記耐食性金属膜64は、電子線E2を透過させ続けることで発熱するが、前記空冷機器で冷却されることにより、適切な性能を発揮することで電子線E2が適切に減衰する。これにより、フォトダイオード6からの出力電流(IP)が適切になるので、エネルギー推定工程で推定される電子線E2のエネルギー(算出されるゲイン)が一層適切になり、結果として、ノズル式電子線出射装置20の故障前における一層適切な交換時期を決定することができる。
【0048】
また、前記実施の形態および実施例では、前記ノズル式電子線出射装置20の電気的な絶縁について説明しなかったが、前記加速電流(I1)および吸収電流(I3)が適切に測定されるためにも、前記ノズル式電子線出射装置20は地面に対して絶縁材などにより電気的に絶縁されている。
【0049】
さらに、前記実施例では、前記フォトダイオード6からの出力電流(IP)の測定について詳細に説明しなかったが、当該出力電流(IP)の測定に、積分型のADC(積分型のA/Dコンバータ)を介するようにしてもよい。前記積分型のADCは、公転するノズル式電子線出射装置20が極めて短い時間でフォトダイオード6の直上方を通り過ぎても、すなわち、前記電子線E2のフォトダイオード6に照射される時間が極めて短くても、前記フォトダイオード6からの信号を適切に処理する。具体的に説明すると、積分型のADCは、フォトダイオード6からの信号から描かれるパルス状のグラフ(一方の軸が時間、他方の軸がフォトダイオード6からの信号)の積分である面積に基づいて、当該信号を処理するものである。
【0050】
加えて、前記実施例では、前記吸収電流(I3)の測定について詳細に説明しなかったが、前記真空ノズル1(または真空チャンバ4)に電流計が電気的に接続され、当該電流計が吸収電流(I3)を測定するようにしてもよい。または、前記真空ノズル1(または真空チャンバ4)に電源8が電気的に接続され、当該電源8が吸収電流(I3)を測定するようにしてもよい。
【0051】
また、前記実施の形態および実施例では、前記吸収電流(I3)として、前記真空ノズル1および透過窓2に吸収された電子線E1の電流について説明したが、前記真空ノズル1または透過窓2に吸収された電子線E1の電流でもよい。
【0052】
また、前記実施の形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。前記実施の形態で説明した構成のうち「課題を解決するための手段」での第1の発明として記載した構成以外については、任意の構成であり、適宜削除および変更することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 真空ノズル
2 透過窓
6 フォトダイオード
E1 電子線(真空ノズルの内部)
E2 電子線(大気中)
I1 加速電流
I2 大気中に出射された電子線の電流
I3 吸収電流
IP フォトダイオードからの出力電流
20 ノズル式電子線出射装置