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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/62 20060101AFI20231102BHJP
   B60N 2/64 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A47C7/62 Z
B60N2/64
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020050156
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021145983
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】勝部 健一
(72)【発明者】
【氏名】古閑 智貴
(72)【発明者】
【氏名】田中 大助
(72)【発明者】
【氏名】金 東鉉
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-063845(JP,U)
【文献】特開2017-209344(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185532(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/62
B60N 2/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座者の背部を支持するシートバックと、
前記シートバック内に設けられ、作動することで振動する振動装置と、
を備え、
前記シートバックのパッド材であるバックパッドには、シート後方側が開放され且つシート前方側が閉塞された凹部が形成されており、
前記振動装置は、前記凹部にシート後方側から嵌め込まれることで前記バックパッドに保持されており、
前記振動装置におけるシート上下方向の位置は、前記着座者のヒップポイントから前記着座者のトルソラインに沿ってシート上方側へ200mm~400mmの範囲内に設定されており、
前記バックパッドのシート後方側に設けられたスプリングマットの一部が前記凹部に対してシート前後方向に重なるように配置され、前記凹部からの前記振動装置の脱落が前記スプリングマットによって阻止されるシート。
【請求項2】
前記バックパッドのシート後方側で前記シートバック内に配索された配線が、前記凹部の開口部から前記凹部内に挿入され、前記振動装置に接続されている請求項1に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートバック内に振動装置が設けられたシートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載された刺激付与装置は、車両用シートに着脱可能に取り付け可能とされ、着座者の脇腹、 腰、腿などの体側を覆うように構成された本体と、該本体に設けられ、着座者に対して振動による警報を発する第一振動装置及び第二振動装置とを備えている。これらの第一振動装置及び第二振動装置は、刺激による覚醒効果の高い部位である広背筋腱部および中殿筋腱部に振動を加えるように配設されている。
【0003】
下記特許文献2に記載された座席装置は、車両の運転席等に用いられる座席と、該座席の背凭れ部(シートバック)に内蔵された左右一対の振動ユニットとを備えている。一対の振動ユニットは、車両が走行レーンを逸脱した際などに、着座者への注意喚起のために振動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-153969号公報
【文献】特開2017-214006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された先行技術では、着座者の体側に振動を加えるべく、第一振動装置及び第二振動装置が着座者の胴体の側方に配置される。このため、着座者の体型(胴体の横幅)によって、体側への振動の伝わり方に差が生じてしまう。また、第一振動装置及び第二振動装置が設けられた本体が、車両用シートの背凭れ部からシート前方に大きく突出する構造であるため、車両用シートの大型化や乗降性の悪化という問題が生じる。
【0006】
上記特許文献2に記載された先行技術では、一対の振動ユニットにおける背凭れ部内での配置については詳細に特定されていないが、当該配置によっては覚醒効果が十分に得られなくなるだけでなく、着座者に対して違和感や不快感を与えるなどの問題が生じる。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、着座者に対して違和感や不快感を与え難く、かつ振動による着座者の覚醒効果が高いシートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様のシートは、着座者の背部を支持するシートバックと、前記シートバック内に設けられ、作動することで振動する振動装置と、を備え、前記シートバックのパッド材であるバックパッドには、シート後方側が開放され且つシート前方側が閉塞された凹部が形成されており、前記振動装置は、前記凹部にシート後方側から嵌め込まれており、前記振動装置におけるシート上下方向の位置は、前記着座者のヒップポイントから前記着座者のトルソラインに沿ってシート上方側へ200mm~400mmの範囲内に設定されている。
【0009】
第1の態様のシートでは、着座者の背部を支持するシートバック内に、作動することで振動する振動装置が設けられている。この振動装置は、シートバックのパッド材であるバックパッドに形成された凹部に嵌め込まれている。この凹部は、シート後方側が開放され且つシート前方側が閉塞されている。これにより、シートバックの背凭れ面に背部が接する着座者が、振動装置や凹部の存在を感じないようにすることができる。しかも、振動装置におけるシート上下方向の位置は、着座者のヒップポイントから着座者のトルソラインに沿ってシート上方側へ200mm~400mmの範囲内に設定されている。これにより、着座者の体格によらず、着座者の循環器に対して振動刺激を加えることができるので、循環器の神経系を活性化することができる。以上のことから、本シートによれば、着座者に対して違和感や不快感を与え難く、かつ振動による着座者の覚醒効果が高くなる。
【0010】
第2の態様のシートは、第1の態様のシートにおいて、前記振動装置は、前記凹部に嵌め込まれることで前記バックパッドに保持されている。
【0011】
第2の態様のシートでは、バックパッドに形成された凹部に振動装置が嵌め込まれることで、振動装置がバックパッドに保持されている。これにより、振動装置をバックパッドに保持させるための特別な部材が不要になる。
【0012】
第3の態様のシートは、第1の態様又は第2の態様のシートにおいて、前記バックパッドのシート後方側で前記シートバック内に配索された配線が、前記凹部の開口部から前記凹部内に挿入され、前記振動装置に接続されている。
【0013】
第3の態様のシートでは、バックパッドのシート後方側で前記シートバック内に配索された配線は、シート後方側が開放された凹部の開口部から凹部内に挿入され、振動装置に接続されている。これにより、バックパッド前方側へ配線を貫通させる必要がなくなるので、配線の配索が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明に係るシートでは、着座者に対して違和感や不快感を与え難く、かつ振動による着座者の覚醒効果が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る車両用シートをシート前方側から見た斜視図であり、表皮材やパッド材を透視した状態を示す図である。
図2】実施形態に係る車両用シートをシート後方側から見た斜視図であり、シートバックの表皮材が剥がされた状態を示す図である。
図3】シートバックのパッド材であるバックパッドに対して振動装置が取り付けられる前の状態を示す斜視図である。
図4】実施形態に係る車両用シートに着座者が着座している状態を示す側面図であり、振動装置におけるシート上下方向の位置について説明するための図である。
図5】振動装置の作動を制御する制御装置の構成を示すブロック図である。
図6】制御装置に含まれるセンサの一例について説明するための図1に対応した斜視図である。
図7A】実施形態に係る振動装置の配置高さに関する官能評価の結果を示すグラフである。
図7B】比較例に係る振動装置の配置高さに関する官能評価の結果を示すグラフである。
図8A】実施形態に係る振動装置の振動時の快-不快に関する官能評価の結果を示すグラフである。
図8B】比較例に係る振動装置の振動時の快-不快に関する官能評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1図8Bを参照して本発明の一実施形態に係るシート(座席)としての車両用シート10について説明する。なお、各図においては、図面を見易くするために、一部の符号を省略している場合がある。また、各図中に適宜示される矢印FR、LH、UPは、車両用シート10の前方、左方、上方をそれぞれ示している。以下、単に前後左右上下の方向を用いて説明する場合、特に断りのない限り、車両用シート10に対する方向を示すものとする。
【0017】
(構成)
図1図4に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、当該車両用シート10に着座した着座者P(図4参照)の臀部D及び大腿部Fを支持するシートクッション12と、着座者Pの背部Bを支持するシートバック34と、着座者Pの頭部Hを支持するヘッドレスト54(図4では図示省略)とを備えている。さらに、この車両用シート10は、シートバック34内に配設され、作動することで振動する一対の振動装置74L、74Rを備えている。
【0018】
図4に示される着座者Pは、一例として、Hybrid-3のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)のダミー人形であり、正規の着座姿勢で車両用シート10に着座しているものとする。なお、図4において破線で示されるP1は、一例として、Hybrid-3のAM95(米国人成人男性の95パーセンタイル)の胴体を示しており、図4において二点鎖線で示されるP2は、一例として、Hybrid-3のAF05(米国人成人女性の5パーセンタイル)の胴体を示している。また、本実施形態においては、車両用シート10の前後左右上下の方向は、当該車両用シート10が搭載される車両の前後左右上下の方向と一致するものとする。以下、先ずシートクッション12及びシートバック34の全体構成の概略について説明し、その後に本実施形態の要部について説明する。
【0019】
(シートクッションの全体構成)
図1及び図2に示されるように、シートクッション12は、フレーム(骨格)であるクッションフレーム14と、クッションフレーム14に支持されたパッド材である図示しないクッションパッドと、クッションパッドを覆った表皮材であるクッション表皮32と、左右一対のサイドフィニッシャー33とを有している。クッションフレーム14は、シートクッション12の左右の側部において前後方向に延在した左右一対のサイドフレーム16と、左右のサイドフレーム16の前部における上端部間に架け渡されたフロントフレーム18と、左右のサイドフレーム16の後端部間に架け渡されたリヤフレーム20とを備えている。
【0020】
左右のサイドフレーム16は、例えば板金によって長尺状に形成されており、長手方向が前後方向に沿い且つ厚さ方向が左右方向に沿う姿勢で配置されている。これらのサイドフレーム16は、リフタ機構22及びスライド機構24を介して車体の床部に連結されている。スライド機構24は、図示しない車両の床部に対する車両用シート10の前後方向の位置を調節するためのものであり、左右のスライドレール26を含んで構成されている。リフタ機構22は、車両の床部に対するシートクッション12の上下方向の位置を調節するためのものである。
【0021】
フロントフレーム18は、例えば板金によって略矩形状に形成され、厚さ方向が上下方向に沿う姿勢で配置されており、左右方向の両端部が左右のサイドフレーム16の前部に溶接等の手段で固定されている。リヤフレーム20は、金属製のパイプによって形成され、軸線方向が左右方向に沿う姿勢で配置されており、左右方向の両端部が左右のサイドフレーム16の後端部に回転可能に連結されている。このリヤフレーム20は、リフタ機構22の一部を構成しており、リフタ機構22の作動時に軸線回りに回転される構成になっている。
【0022】
リヤフレーム20とフロントフレーム18との間には、複数(ここでは4つ)のクッションバネ28が架け渡されている。これらのクッションバネ28は、所謂Sバネであり、左右方向に並んで配置されている。これらのクッションバネ28は、図示しない各前端部がフロントフレーム18に係止されており、各後端部28Rがリヤフレーム20に係止されている。また、各クッションバネ28の後端部28Rは、連結部材30によって左右方向に連結されている。この連結部材30は、例えば樹脂材料によって長尺板状に形成されたものであり、爪嵌合、ビス止め等の手段で各クッションバネ28に固定されている。この連結部材30は、着座者Pからの荷重を複数のクッションバネ28に分散する機能を有している。
【0023】
クッションパッドは、例えばウレタンフォーム等の発泡体によって構成されており、クッションフレーム14に対して上方側から取り付けられている。このクッションパッドは、クッションフレーム14及び複数のクッションバネ28によって下方側から支持されると共に、後端部が上記の連結部材28によっても下方側から支持されている。このクッションパッドに被せられたクッション表皮32は、例えば布、皮革、合成皮革、PVC等からなる複数の布片が縫製されて袋状に形成されている。また、シートクッション12の左右両側部に設けられた左右のサイドフィニッシャー33は、例えば樹脂材料によって成形されたものであり、爪嵌合、ビス止め等の手段でクッションフレーム14に固定されている。
【0024】
(シートバックの全体構成)
図1図3に示されるように、シートバック34は、フレーム(骨格)であるバックフレーム36と、バックフレームに支持されたパッド材であるバックパッド68(図2及び図3参照)と、バックパッド68を覆った表皮材であるバック表皮66とを含んで構成されている。バックフレーム36は、シートバック34の左右の側部において上下方向(シートバック34の高さ方向)に延在した左右一対のサイドフレーム38と、左右のサイドフレーム38の上端部間に架け渡されたアッパフレーム40(図示省略)と、アッパフレーム40の背面側に固定されたアッパバックパネル42と、左右のサイドフレーム38の下端部の背面側に固定されたロアバックパネル44とを備えている。
【0025】
左右のサイドフレーム38は、例えば板金によって長尺状に形成されており、長手方向が上下方向に沿い且つ厚さ方向が左右方向に沿う姿勢で配置されている。左右のサイドフレーム16の下端部は、クッションフレーム14が有する左右のサイドフレーム16の後端部に、リクライニング機構46を介して連結されている。リクライニング機構46は、シートクッション12に対するシートバック34のリクライニング角度を調節するためのものである。このリクライニング機構46は、シートバック34の下端部において左右方向に延在するリクライニングロッド48を含んで構成されている。このリクライニングロッド48は、左右方向を軸線方向とする円筒状をなしており、左右のサイドフレーム38の下端部間に架け渡されている。
【0026】
アッパフレーム40は、例えば金属製のパイプが略逆U字状に曲げ加工されて形成されたものであり、左右方向に延在する横延部40Aと、横延部40Aの左右方向両端部から下方側へ延びる左右一対の脚部40Bとを有している。左右の脚部40Bは、左右のサイドフレーム38の上端部に溶接等の手段で固定されており、横延部40Aの左右方向中間部には、左右一対のヘッドレストサポートブラケット50が固定されている。これらのヘッドレストサポートブラケット50には、ヘッドレスト54のフレームを構成するヘッドレストフレーム56がヘッドレストサポート52を介して取り付けられている。
【0027】
アッパバックパネル42は、例えば板金によって長尺状に形成されており、長手方向が左右方向に沿い且つ厚さ方向が前後方向に沿う姿勢で配置され、長手方向両端部が溶接等の手段で左右の脚部40Bの背面側に固定されている。ロアバックパネル44は、例えば板金によって長尺状に形成されており、長手方向が左右方向に沿い且つ厚さ方向が前後方向に沿う姿勢で配置され、長手方向両端部が溶接等の手段で左右のサイドフレーム16の下端部の背面側に固定されている。
【0028】
ロアバックパネル44に対するシート前方斜め上方側には、ランバーサポート57の一部であるランバーサポートプレート58が配置されている。このランバーサポートプレート58は、例えば板金によって長尺矩形状に形成されており、長手方向が左右方向に沿い且つ厚さ方向が前後方向に沿う姿勢で配置されている。このランバーサポートプレート58は、例えば図示しないトーションバーを介して左右のサイドフレーム38に支持されており、上記のトーションバーが手動又は電動で回転されることにより、前後方向に変位する。このランバーサポートプレート58は、バックパッド68及びバック表皮66を介して着座者Pの腰部Wをシート後方側から支持する構成になっている。このランバーサポートプレート58の下方側でロアバックパネル44の下端部に対する前方側には、前述したリクライニングロッド48が配置されている。
【0029】
また、上記のランバーサポートプレート58とアッパバックパネル42との間には、スプリングマット60が架け渡されている。このスプリングマット60は、本発明における「スプリング」に相当する。このスプリングマット60は、フラットマットとも称されるものであり、左右のサイドフレーム38の間に配置されている。このスプリングマット60は、アッパバックパネル42とランバーサポートプレート58との間に架け渡された左右一対のサイドワイヤ62と、左右のサイドワイヤ62間に架け渡された複数のメインワイヤ64とを有している。なお、本発明における「スプリング」は、所謂Sバネであってもよい。
【0030】
バックパッド68は、例えばウレタンフォーム等の発泡体によって構成されており、バックフレーム36に対して上方側から取り付けられている。このバックパッド68は、バックフレーム36、ランバーサポートプレート58及びスプリングマット60によって後方側から支持されている。このバックパッド68は、下方側かつ後方側が開放された略袋状をなしており、ランバーサポートプレート58及びスプリングマット60を後方側に露出させた開口70(図2参照)を有している。このバックパッド68に被せられたバック表皮66(図2では図示省略)は、例えば布、皮革、合成皮革、PVC等からなる複数の布片が縫製されて袋状に形成されている。このバック表皮66によって、上記の開口70を含むバックパッド68の全体が覆われている。
【0031】
(本実施形態の要部)
本実施形態では、上記バックパッド68の背面(後方側を向く面)の上下方向中間部には、後方側が開放され且つ前方側が閉塞された一対の凹部72L、72Rがシート左右方向に並んで形成されている。上記バックパッド68は、一対の凹部72L、72Rが形成されている以外は、既存のものと同様とされている。これら一対の凹部72L、72Rは、シートバック34の左右方向中央を介して左右対称に配置されている。これら一対の凹部72L、72Rは、一例として、シート前後方向視で円形状をなしている。これら一対の凹部72L、72Rは、一対の振動装置74L、74Rに対応している。
【0032】
一対の振動装置74L、74Rは、例えばボイスコイルモータ、偏芯モータ等であり、通電により作動することで振動するように構成されている。一対の振動装置74L、74Rは、一例として、軸線方向の寸法が短い円柱状に形成されており、一対の凹部72L、72Rに対して後方側から嵌め込まれている。一対の振動装置74L、74Rは、振動方向がシート前後方向に沿う姿勢で配置されている。
【0033】
上記一対の振動装置74L、74Rは、一対の凹部72L、72Rに対して嵌め込まれることでバックパッド68に保持されている。具体的には、例えば一対の凹部72L、72Rの開口部には、一対の凹部72L、72Rの内径を縮小した図示しない段部が形成されており、それらの段部が各振動装置74L、74Rの外周部に対して後方側から引っ掛かることで、一対の凹部72L、72Rからの各振動装置74L、74Rの脱落が防止されている。その他の例では、振動装置を嵌め込んだ凹部の開口部に不織布をふた状に接着することで振動装置が凹部に保持される。
【0034】
また、図2に示されるように、スプリングマット60の一部(全体の中のある部分)は、一対の凹部72L、72Rに対してシート前後方向に重なるように配置されており、上記の一部が各振動装置74L、74Rに対してシート後方側から対向して配置されている。これにより、一対の凹部72L、72Rからの各振動装置74L、74Rの脱落がスプリングマット60によって阻止されるように構成されている。
【0035】
上記一対の振動装置74L、74Rには、図2及び図3に示されるように、配線76L、76Rがそれぞれ接続されている。これら一対の配線76L、76Rは、バックパッド68のシート後方側でシートバック34内に配索されており、一対の凹部72L、72Rの開口部から各凹部72L、72R内に挿入され、各振動装置74L、74Rにそれぞれ接続されている。
【0036】
上記一対の振動装置74L、74Rにおけるシート上下方向の位置(以下、「配置高さ」と称する場合がある)は、図4において符号R1が付された範囲内に設定されている。この図4において、符号R2が付された範囲は、着座者PのヒップポイントHPから着座者PのトルソラインTLに沿ってシート上方側へ200mmまでの範囲であり、符号R1が付された範囲は、ヒップポイントHPからトルソラインTLに沿ってシート上方側へ200mm~400mmの範囲である。
【0037】
つまり、一対の振動装置74L、74Rの配置高さは、ヒップポイントHPからトルソラインTLに沿ってシート上方側へ200mm~400mmの範囲内に設定されている。この配置高さは、図4に示されるAF05、AM50、AM95の各循環器(胸椎)が位置する高さと同等である。また、この配置高さは、AF05、AM50、AM95の背部が常に十分な面積で接触する高さとされている。よって、着座者Pの体格差によらず、循環器の神経系に振動刺激を加えることができ、体内循環を促進することができるように一対の振動装置74L、74Rが配置されている。
【0038】
また、一対の振動装置74L、74Rにおけるシート前後方向の位置は、シートバック34の背凭れ面(前面)から10mm~40mmの範囲内に設定されている。また、一対の振動装置74L、74Rの振動の周波数は、例えば30Hz~300Hzの範囲内に設定されている。
【0039】
上記一対の振動装置74L、74Rは、配線76L、76Rを介して図5に示される制御装置78に電気的に接続されている。制御装置78は、CPU(Central Processing Unit)78A、ROM(Read Only Memory)78B、RAM(Random Access Memory)78C、ストレージ78D、及び入出力I/F(Inter Face)78Eを含んで構成されている。CPU78A、ROM78B、RAM78C、ストレージ78D及び入出力I/F78Eは、バス78Fを介して相互に通信可能に接続されている。
【0040】
CPU78Aは、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU78Aは、ROM78Bからプログラムを読み出し、RAM78Cを作業領域としてプログラムを実行する。本実施形態では、ROM78Bに各種プログラム及び各種データが記憶されている。ストレージ78Dは、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを記憶している。
【0041】
入出力I/F78Eには、振動装置74L、74Rの他、センサ80が電気的に接続されている。このセンサ80は、例えば、車両の車線逸脱の有無や周辺車両などを検出する車外カメラ、着座者Pの状態(例えば覚醒度)を検出する着座者センサ等であり、このセンサ80の検出結果に基づいて制御装置78が一対の振動装置74L、74Rの作動を制御する構成になっている。上記の着座者センサは、例えば着座者Pを撮像する車内カメラ、着座者Pの生体情報(例えば心拍数)を検出する生体情報センサ等である。図6には、一例として、生体情報センサである電波式心拍数センサ80A、80Bがシートバック34の下端部及びシートクッション12の後端部に配設された構成が図示されている。これらの電波式心拍数センサ80A、80Bは、着座者Pの腰部W及び臀部Dに向けて発する電波の反射波から、着座者Pの脈動や呼吸に伴う体表面変位を検出する非接触式のバイタルセンサとされている。なお、これらのセンサ80A、80Bのうちの一方が省略された構成にしてもよい。
【0042】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0043】
上記構成の車両用シート10では、着座者Pの背部Bを支持するシートバック34内に、作動することで振動する一対の振動装置74L、74Rが設けられている。これら一対の振動装置74L、74Rは、シートバック34のパッド材であるバックパッド68に形成された一対の凹部72L、72Rに嵌め込まれている。これら一対の凹部72L、72Rは、シート左右方向に並んで形成されており、シート後方側が開放され且つシート前方側が閉塞されている。これにより、シートバック34の背凭れ面に背部Bが接する着座者Pが、各振動装置74L、74Rや各凹部72L、72Rの存在を感じないようにすることができる。
【0044】
しかも、一対の振動装置74L、74Rにおけるシート上下方向の位置は、着座者PのヒップポイントHPから着座者PのトルソラインTLに沿って上方側へ200mm~400mmの範囲内に設定されている。これにより、着座者Pの体格によらず、着座者Pの循環器に対して振動刺激を加えることができるので、循環器の神経系を活性化することができる。以上のことから、本車両用シート10によれば、着座者Pに対して違和感や不快感を与え難く、かつ振動による着座者Pの覚醒効果が高くなる。
【0045】
また、この車両用シート10では、既存のバックパッド68に形成された一対の凹部72L、72Rに一対の振動装置74L、74Rが嵌め込まれているので、一対の振動装置74L、74Rをシートバック34に取り付けるため設置部位を確保する必要がなく、シートバック34の形状変更が不要になる。その結果、既存の車両用シートと同等の乗降性を確保することができる。しかも、バックフレーム36等に直接又はブラケットを介して一対の振動装置74L、74Rを取り付ける場合、共振や異音の発生が懸念されるが、本実施形態ではそのような懸念が生じることがない。さらに、一対の凹部72L、72Rに一対の振動装置74L、74Rが嵌め込まれることで、一対の振動装置74L、74Rがバックパッド68に保持されているので、一対の振動装置74L、74Rをバックパッド68に保持させるための特別な部材が不要になる。
【0046】
さらに、この車両用シート10では、シートバック34が有するスプリングマット60によって、バックパッド68がシート後方側から弾性的に支持されており、当該スプリングマット60の一部が、上記一対の振動装置74L、74Rに対してシート後方側から対向して配置されている。これにより、一対の振動装置74L、74Rが一対の凹部72L、72Rから不用意に脱落することを、特別な部材を設けずに防止することができる。
【0047】
また、この車両用シート10では、一対の配線76L、76Rがバックパッド68のシート後方側でシートバック34内に配索されている。これら一対の配線76L、76Rは、シート後方側が開放された一対の凹部72L、72Rの開口部から各凹部72L、72R内に挿入され、一対の振動装置74L、74Rにそれぞれ接続されている。これにより、バックパッド68に対して一対の配線76L、76Rを貫通させる必要がなくなるので、各配線76L、76Rの配索が容易になる。
【0048】
(官能評価について)
次に、本願の発明者が行った官能評価について説明する。この官能評価では、一対の振動装置74L、74Rの配置高さを本実施形態の範囲内に設定した場合(本実施形態)と、範囲外に設定した場合(比較例)とについて、配置高さの適切さの評価と、振動時の快-不快との評価とを行った。
【0049】
本発明の範囲内に設定した場合では、一対の振動装置74L、74Rの中央部が、ヒップポイントHPからトルソラインTLに沿って上方側へ340mmの高さに位置するように一対の振動装置74L、74Rを配置した。また、本発明の範囲外に設定した場合では、一対の振動装置74L、74Rの中央部が、ヒップポイントHPからトルソラインTLに沿って上方側へ430mmの高さに位置するように一対の振動装置74L、74Rを配置した。
【0050】
また、この官能評価では、振動の周波数と鳴動間隔等により違いが表れる可能性を考慮し、2通りの振動パターンで評価を行った。具体的には、振動の周波数を50Hz~100Hzに設定し、鳴動間隔を0.5秒に設定した振動パターン1と、振動の周波数を100Hz~200Hzに設定し、鳴動間隔を1秒に設定した振動パターン2とで評価を行った。
【0051】
図7A及び図7Bには、配置高さの適切さの評価結果がグラフにて示されている。図7A及び図7Bに示されるように、配置高さが本実施形態の範囲内である場合、「3:適切」の回答が多くみられたが、配置高さが本実施形態の範囲外である場合、「4:やや高い」~「5:高い」の回答が多くみられた。
【0052】
図8A及び図8Bには、振動時の快-不快の評価結果がグラフにて示されている。図8A及び図8Bに示されるように、配置高さが本実施形態の範囲内である場合、「1:不快」や「2:やや不快」の回答が少なく、「3:どちらでもない」や「4:やや快適」の回答が多くみられたが、配置高さが本実施形態の範囲外である場合、「1:不快」、「2:やや不快」及び「3:どちらでもない」の回答が多くみられた。
【0053】
上記の官能評価により、一対の振動装置74L、74Rの配置高さを本実施形態の範囲内に設定された場合、範囲外に設定された場合に比べて、着座者Pに対して違和感や不快感を与え難いことが確認された。
【0054】
なお、上記実施形態は、シートバック34内に一対(2つ)の振動装置74L、74Rが設けられた構成にしたが、1つ又は3つ以上の振動装置がシートバック内に設けられる構成にしてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、車両用シート10に対して本発明が適用された場合について説明したが、これに限るものではない。本発明は、例えば、車両以外の乗り物用のシートや、車両等の乗り物を遠隔操作するための遠隔操作装置に設けられるシート等に対しても適用可能である。
【0056】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
10 車両用シート
34 シートバック
60 スプリングマット(スプリング)
68 バックパッド
72L、72R 凹部
74L、74R 振動装置
76L、76R 配線
P 乗員
HP ヒップポイント
TL トルソライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B