(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20231102BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20231102BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
F16F15/02 S
F16F7/12
E04H9/02 301
(21)【出願番号】P 2020053297
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】馮 徳民
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康人
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-021927(JP,U)
【文献】特開2001-065193(JP,A)
【文献】特開2008-138436(JP,A)
【文献】特開2000-073606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 7/12
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形領域、当該変形領域の一端部に設けられた第1保持領域、および当該変形領域の他端部に設けられた第2保持領域を含む第1板部であって、前記第1保持領域と前記第2保持領域とが前記変形領域よりも低い降伏せん断力を有する第1板部と、
前記第1板部の第1面側に配置される第2板部と、
前記第2板部を前記第1保持領域において前記第1板部に対して回転可能な状態で固定する第1固定部と、
前記第2板部を前記第2保持領域において前記第1板部に対して回転可能な状態で固定する第2固定部と、
を備える制振装置。
【請求項2】
前記第1板部の前記第1面側とは反対の第2面側に配置される第3板部をさらに備え、
前記第1固定部は、前記第1保持領域において、前記第2板部と前記第3板部とを前記第1板部に対して回転可能な状態で固定し、
前記第2固定部は、前記第2保持領域において、前記第2板部と前記第3板部とを前記第1板部に対して回転可能な状態で固定する、請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
複数の前記第2板部が、前記第1板部の前記第1面側に配置されている、請求項1または請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
変形領域、当該変形領域の一端部に設けられた第1保持領域、および当該変形領域の他端部に設けられた第2保持領域を含む第1板部であって、前記第1保持領域と前記第2保持領域とが前記変形領域よりも低い降伏せん断力を有する第1板部と、
前記第1板部の第1面側に配置され、一方向に延びるスリットを含む第2板部と、
前記第2板部を前記第1保持領域において前記第1板部に対して固定する第1固定部と、
前記第2板部を前記第2保持領域において前記第1板部に対して固定する第2固定部と、
を備える制振装置。
【請求項5】
前記第1板部の前記第1面側とは反対の第2面側に配置され、一方向に延びるスリットを含む第3板部をさらに備え、
前記第1固定部は、前記第1保持領域において、前記第2板部と前記第3板部とを前記第1板部に固定し、
前記第2固定部は、前記第2保持領域において、前記第2板部と前記第3板部とを前記第1板部に固定する、請求項4に記載の制振装置。
【請求項6】
前記スリットは、前記第1固定部と前記第2固定部とを結ぶ第1方向に沿って延びている、請求項4または請求項5に記載の制振装置。
【請求項7】
前記第1保持領域は、前記第1固定部が配置される第1領域、および前記第1領域に対して前記変形領域とは反対側において前記第1板部を建築物の構造体に固定可能なスプライスプレートに覆われる第2領域を含み、
前記第2保持領域は、前記第2固定部が配置される第3領域、および前記第3領域に対して前記変形領域とは反対側において前記第1板部を前記建築物の構造体に固定可能なスプライスプレートに覆われる第4領域を含む、請求項1から請求項6のいずれかに記載の制振装置。
【請求項8】
前記第1保持領域および前記第2保持領域は、前記変形領域よりも、前記第1固定部と
前記第2固定部とを結ぶ第1方向を法線とする面の断面積が大きい、請求項1から請求項7のいずれかに記載の制振装置。
【請求項9】
前記変形領域は、前記第1保持領域側において前記断面積が徐々に変化する領域を含む、請求項8に記載の制振装置。
【請求項10】
前記第2板部と前記第1板部との間に配置された補助板をさらに備える、請求項8または請求項9に記載の制振装置。
【請求項11】
前記第2板部は、前記第1板部とは反対側の面から突出するリブを含む、請求項1から請求項10のいずれかに記載の制振装置。
【請求項12】
前記リブは、前記第1固定部と前記第2固定部とを結ぶ第1方向と垂直な第2方向に延在して配置されている、請求項1
1に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の制振装置は、様々な手法により振動エネルギを吸収することによって振動を抑制する。例えば、特許文献1、2には、低降伏点鋼の板材(以下、低降伏点鋼板という場合がある)を用い、振動によって生じるせん断力がこの板材を塑性変形させることによって振動エネルギを吸収する制振装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許3397220号公報
【文献】特開2001-234974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
いずれの制振装置においても低降伏点鋼板とこれを保持するための構造体とを含むが、低降伏点鋼板における振動エネルギの吸収をさらに効率的に行うための保持構造の開発が望まれている。
【0005】
本発明の目的の一つは、振動エネルギを効率的に吸収するための板材の保持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、変形領域、当該変形領域の一端部に設けられた第1保持領域、および当該変形領域の他端部に設けられた第2保持領域を含む第1板部であって、前記第1保持領域と前記第2保持領域とが前記変形領域よりも低い降伏せん断力を有する第1板部と、前記第1板部の第1面側に配置される第2板部と、前記第2板部を前記第1保持領域において前記第1板部に対して回転可能な状態で固定する第1固定部と、前記第2板部を前記第2保持領域において前記第1板部に対して回転可能な状態で固定する第2固定部と、を備える制振装置が提供される。
【0007】
前記第1板部の前記第1面側とは反対の第2面側に配置される第3板部をさらに備え、前記第1固定部は、前記第1保持領域において、前記第2板部と前記第3板部とを前記第1板部に対して回転可能な状態で固定し、前記第2固定部は、前記第2保持領域において、前記第2板部と前記第3板部とを前記第1板部に対して回転可能な状態で固定してもよい。
【0008】
複数の前記第2板部が、前記第1板部の前記第1面側に配置されてもよい。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、変形領域、当該変形領域の一端部に設けられた第1保持領域、および当該変形領域の他端部に設けられた第2保持領域を含む第1板部であって、前記第1保持領域と前記第2保持領域とが前記変形領域よりも低い降伏せん断力を有する第1板部と、前記第1板部の第1面側に配置され、一方向に延びるスリットを含む第2板部と、前記第2板部を前記第1保持領域において前記第1板部に対して固定する第1固定部と、前記第2板部を前記第2保持領域において前記第1板部に対して固定する第2固定部と、を備える制振装置が提供される。
【0010】
前記第1板部の前記第1面側とは反対の第2面側に配置され、一方向に延びるスリットを含む第3板部をさらに備え、前記第1固定部は、前記第1保持領域において、前記第2板部と前記第3板部とを前記第1板部に固定し、前記第2固定部は、前記第2保持領域において、前記第2板部と前記第3板部とを前記第1板部に固定してもよい。
【0011】
前記スリットは、前記第1固定部と前記第2固定部とを結ぶ第1方向に沿って延びていてもよい。
【0012】
前記第1保持領域は、前記第1固定部が配置される第1領域、および前記第1領域に対して前記変形領域とは反対側において前記第1板部を建築物の構造体に固定可能なスプライスプレートに覆われる第2領域を含み、前記第2保持領域は、前記第2固定部が配置される第3領域、および前記第3領域に対して前記変形領域とは反対側において前記第1板部を前記建築物の構造体に固定可能なスプライスプレートに覆われる第4領域を含んでもよい。
【0013】
前記第1保持領域および前記第2保持領域は、前記変形領域よりも、前記第1固定部と前記第2固定部とを結ぶ第1方向を法線とする面の断面積が大きくてもよい。
【0014】
前記変形領域は、前記第1保持領域側において前記断面積が徐々に変化してもよい。
【0015】
前記第2板部と前記第1板部との間に配置された補助板をさらに備えてもよい。
【0016】
前記第2板部は、前記第1板部とは反対側の面から突出するリブを含んでもよい。
【0017】
前記リブは、前記第1固定部と前記第2固定部とを結ぶ第1方向と垂直な第2方向に延在して配置されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、振動エネルギを効率的に吸収するための板材の保持構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態における制振装置の配置例を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図3】
図2におけるA1-A2切断線での断面を説明するための模式図である。
【
図4】本発明の第1実施形態における制振装置の動きを示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図6】本発明の第3実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図7】本発明の第4実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図8】本発明の第5実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図9】本発明の第6実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図10】
図9におけるB1-B2切断線での断面を説明するための模式図である。
【
図11】本発明の第7実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図12】本発明の第8実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図13】
図12におけるC1-C2切断線での断面を説明するための模式図である。
【
図14】本発明の第8実施形態における制振装置の動きを示す図である。
【
図15】本発明の第9実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図16】
図15におけるD1-D2切断線での断面を説明するための模式図である。
【
図17】本発明の第10実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図18】本発明の第11実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
【
図19】
図18におけるE1-E2切断線での断面を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0021】
<第1実施形態>
[概要]
図1は、本発明の第1実施形態における制振装置の配置例を示す図である。第1実施形態における制振装置1は、振動エネルギを効率的に吸収するための低降伏点鋼板10(第1板部)の保持構造を含み、建築物の構造体を構成する上下に分かれた間柱90u、90bの間に配置される。この例では、間柱90uは、H形鋼であり、ウェブ95uおよびウェブ95uの両端に接続されたフランジ92u、94uを含む。間柱90bは、H形鋼であり、ウェブ95bおよびウェブ95bの両端に接続されたフランジ92b、94bを含む。間柱90u、90bは、その長手方向が鉛直方向に沿うように配置されている。低降伏点鋼板10は、振動エネルギを吸収するためのダンパとなる板材の一例であって以下に説明するようにウェブ95よりも低い降伏せん断力を有する板材であれば、合金や鉄鋼など様々な構造および材質に変更可能である。
【0022】
以下、説明の便宜上、空間上の方向としてx、y、z軸を以下の通り定義する。x軸方向(第1方向)は、ウェブ95の面内方向のうち、間柱90u、90bの長手方向、すなわちフランジ92u、94u、92b、94bが延在する方向に対応し、この例では鉛直方向である。y軸方向(第2方向)は、ウェブ95u、95bの面内方向のうちx方向に垂直な方向に対応する。z軸方向(第3方向)は、x軸方向とy軸方向とに垂直な方向、すなわちウェブ95u、95bの法線方向に対応する。なお、x軸方向、y軸方向およいz軸方向のいずれも、その軸方向に沿った方向を意味し、正方向(図示における矢印の向き)を示すのでは無く、正方向および負方向の双方を示すものとする。すなわち、x軸方向といえば、
図1における上下方向を意味する。
【0023】
制振装置1は、低降伏点鋼板10および拘束部20を含む。低降伏点鋼板10は、x軸方向およびy軸方向に拡がる面を含む板状の部材であり、ウェブ95uとウェブ95bとの間において、ウェブ95u、95bから離隔して配置されている。上部固定部70は、低降伏点鋼板10の上端部とウェブ95uとに接続されている。下部固定部75は、低降伏点鋼板10の下端部とウェブ95bとに接続されている。上部固定部70と下部固定部75との双方によって、ウェブ95u、95bに対する低降伏点鋼板10の位置が固定されている。これによって、低降伏点鋼板10はウェブ95u、95bに保持されている。
【0024】
拘束部20は、2枚の板材によって低降伏点鋼板10を挟むことで、低降伏点鋼板10のz軸方向の変形を制限するように、第1固定部40および第2固定部50によって低降伏点鋼板10に固定されている。このとき、第1固定部40は、拘束部20を低降伏点鋼板10に対してxy面内において回転可能な状態で固定している。第2固定部50は、拘束部20を低降伏点鋼板10に対してxy面内において回転可能な状態で固定している。言い換えると、低降伏点鋼板10は、低降伏点鋼板10の座屈(z軸方向への変形)を制限された状態であって、かつ、面内方向(xy面内方向)の変形を妨げない状態で、拘束部20に挟まれている。
【0025】
地震等により建築物が振動すると、間柱90u、90bを介して制振装置1に振動が伝達される。制振装置1における低降伏点鋼板10がせん断力によってxy面内方向において塑性変形することで、振動エネルギが吸収される。このとき、拘束部20によって、低降伏点鋼板10のz軸方向の変形が制限される。このようにして建築物の振動が抑制される。続いて、制振装置1の詳細構造について説明する。
【0026】
[制振装置の構成]
図2は、本発明の第1実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
図3は、
図2におけるA1-A2切断線での断面を説明するための模式図である。上述したように、制振装置1は、ウェブ95u、95bから離隔して配置された低降伏点鋼板10を含む。
【0027】
低降伏点鋼板10は、ウェブ95u、95bに対して、より低い降伏せん断力を有する鋼板である。低降伏点鋼板10は、x軸方向の両端部の領域として上部保持領域10u(第1保持領域)および下部保持領域10b(第2保持領域)を含み、上部保持領域10uと下部保持領域10bとの間に配置された変形領域10mを含む。すなわち、変形領域10mの一端部に上部保持領域10uが設けられ、他端部に下部保持領域10bが設けられている。上部保持領域10uおよび下部保持領域10bは、いずれも四角形の領域でありy軸方向に長手を有する。変形領域10mは、四角形の領域でありx軸方向とy軸方向の長さが概ね等しい正方形に近いが、x軸方向およびy軸方向のいずれか一方に長手を有してもよい。この例では、y軸方向に関し、上部保持領域10uおよび下部保持領域10bは、変形領域10mよりも長い。そのため、上部保持領域10uおよび下部保持領域10bは、変形領域10mよりも降伏せん断力が高くなっている。
【0028】
ここで、本明細書内で示す降伏せん断力について簡単に説明する。y軸方向への降伏せん断力は、x軸方向を法線方向とする面(y軸およびz軸を含む面)の断面積Aに比例する。また、この断面積Aとせん断応力度(降伏点)τとの積が降伏せん断力Qとなる。したがって、せん断応力度τが変化しない状況では、断面積Aが小さいほど、降伏せん断力Qが小さくなる。低降伏点鋼板10におけるy軸方向の長さをDとし、z軸方向の長さ(厚さに相当)をtとすると、Aは、Dとtの積で表される。
【0029】
この例では、変形領域10mの断面積A1は、後述する高力ボルト74が貫通する領域を考慮しても上部保持領域10uの断面積A2よりも小さい。下部保持領域10bについても上部保持領域10uと同様である。したがって、変形領域10mは、上部保持領域10uおよび下部保持領域10bよりも、低い降伏せん断力を有する。
【0030】
上部保持領域10uは、上側の第1接続領域101u(第2領域)と下側の第2接続領域102u(第1領域)とを含む。第1接続領域101uと上部保持領域10uの上方向に位置するウェブ95uとが、上部固定部70を介して接続されている。上部固定部70は、スプライスプレート71、72および高力ボルト73、74を含む。上部保持領域10uおよびウェブ95uは、スプライスプレート71とスプライスプレート72とに挟まれることでこれらに覆われている。変形領域10mよりも先に降伏しないように、スプライスプレート71、72は、変形領域10mよりも高い降伏せん断力を有する。高力ボルト73は、スプライスプレート71、72およびウェブ95uを貫通してこれらの構成を互いに固定する。高力ボルト74は、スプライスプレート71、72および上部保持領域10uを貫通してこれらの構成を互いに固定する。上部保持領域10uは、変形領域10mよりも高い降伏せん断力を有するため、変形領域10mより降伏しにくく、上部固定部70により安定した固定が可能になる。なお、スプライスプレート71、72は、y軸方向に関して上部保持領域10uの一部を覆っているが、全体を覆っていてもよい。
【0031】
下部保持領域10bは、下側の第1接続領域101b(第4領域)と上側の第2接続領域102b(第3領域)とを含む。第1接続領域101bと下部保持領域10bの下方向に位置するウェブ95bとが、下部固定部75を介して接続されている。下部固定部75は、スプライスプレート76、77および高力ボルト78、79を含む。下部保持領域10bおよびウェブ95bは、スプライスプレート76とスプライスプレート77とに挟まれることでこれらに覆われている。変形領域10mよりも先に降伏しないように、スプライスプレート76、77は、少なくとも変形領域10mよりも高い降伏せん断力を有する。高力ボルト78は、スプライスプレート76、77およびウェブ95bを貫通してこれらの構成を互いに固定する。高力ボルト79は、スプライスプレート76、77および下部保持領域10bを貫通してこれらの構成を互いに固定する。下部保持領域10bは、変形領域10mよりも高い降伏せん断力を有するため、変形領域10mより降伏しにくく、下部固定部75により安定した固定が可能になる。なお、スプライスプレート76、77は、y軸方向に関して下部保持領域10bの一部を覆っているが、全体を覆っていてもよい。
【0032】
拘束部20は、第1拘束板21(第2板部)および第2拘束板22(第3板部)を含む。第1拘束板21および第2拘束板22は、いずれも四角形の鋼板である。第1拘束板21および第2拘束板22が、低降伏点鋼板10における変形領域10mよりも面外変形に対する剛性が高いことが好ましい。第1拘束板21と第2拘束板22とは、第1固定部40および第2固定部50によって低降伏点鋼板10に固定されている。このとき、第1拘束板21および第2拘束板22は、第1固定部40によって低降伏点鋼板10に回転可能な状態で固定されている。また、第1拘束板21および第2拘束板22は、第2固定部50によって低降伏点鋼板10に回転可能な状態で固定されている。
【0033】
第1固定部40は、ボルト等の固定具45を有する。固定具45は、第1拘束板21、第2拘束板22およびこれらに挟まれた上部保持領域10u(より詳細には、第2接続領域102u)を貫通して、これらの構成を互いにxy面内で回転可能な状態で固定する。この回転の中心は、固定具45の位置に対応する。第2固定部50は、ボルト等の固定具55を有する。固定具55は、第1拘束板21、第2拘束板22およびこれらに挟まれた下部保持領域10b(より詳細には、第2接続領域102b)を貫通して、これらの構成を互いにxy面内で回転可能な状態で固定する。この回転の中心は、固定具55の位置に対応する。
【0034】
[制振装置の動き]
続いて、間柱90u、90bに振動が伝達されたときの制振装置1の動きについて説明する。
【0035】
図4は、本発明の第1実施形態における制振装置の動きを示す図である。
図5に示す例では、間柱90u、90bにおいてy軸方向の振動が生じた場合の制振装置1の動きを示している。
図5に示すように、間柱90u、90bがy軸方向に振動すると、低降伏点鋼板10において面内での塑性変形を生じ、これにより振動エネルギが吸収される。
【0036】
低降伏点鋼板10は、x軸方向の両端が固定される一方、y軸方向の両端は固定されていない。そのため、低降伏点鋼板10は、y軸方向の振動によるせん断力を効率的に塑性変形に用いることができる。塑性変形は、上部保持領域10uおよび下部保持領域10bよりも変形領域10mにおいて生じる。一方、変形領域10mは、拘束部20によってz軸方向の移動が抑制されているため、変形領域10mが面内で塑性変形をすることに対して影響をほとんど与えない。このように、低降伏点鋼板10は、面外方向への変形(座屈)が抑制された状態で、せん断力を効率的に塑性変形に用いて振動エネルギを吸収することができる。
【0037】
より詳細には、この例では拘束部20は、上部保持領域10uおよび下部保持領域10bのそれぞれに対して面内で回転可能な状態で固定されている。したがって、間柱90u、90bの振動により第1固定部40と第2固定部50との位置関係に歪みが生じたとしても、拘束部20は、変形領域10mの塑性変形とはほぼ独立した状態で位置関係の歪みに対応して回転して追従する。その結果、拘束部20は、第1固定部40および第2固定部50に大きな負荷を発生させずに、低降伏点鋼板10の面外方向への変形(座屈)を抑制する。
【0038】
<第2実施形態~第5実施形態>
第1実施形態における低降伏点鋼板10、拘束部20(第1拘束板21、第2拘束板22)は、いずれも四角形の鋼板であったが、四角形に限られない。以下、第2実施形態から第5実施形態として、様々な形状について例示する。
【0039】
図5は、本発明の第2実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。第2実施形態における制振装置1Aは、低降伏点鋼板10とは異なる形状を有する低降伏点鋼板10Aを含む。低降伏点鋼板10Aにおける変形領域10mは、上部保持領域10uとの境界部分および下部保持領域10bとの境界部分において、x軸方向に移動するに伴い徐々にy軸方向の長さが変化する領域10cを有する。言い換えると、領域10cにおける断面積A(x軸方向を法線方向とする面の断面積)は、上述した上部保持領域10uの断面積A2から変形領域10mの断面積A1まで徐々に小さくなり、変形領域10mは、上部保持領域10u側において、断面積(第1方向を法線とする面の断面積)が徐々に変化する領域を有するともいえる。下部保持領域10bの断面積と断面積A1との関係も同様である。このようにすると、低降伏点鋼板10Aにおいて、低降伏点鋼板10よりも応力集中をする領域を低減することができる。
【0040】
図6は、本発明の第3実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。第3実施形態における制振装置1Bは、第1実施形態における低降伏点鋼板10とは異なる形状を有する低降伏点鋼板10Bを含む。低降伏点鋼板10Bにおける変形領域10mBは、上部保持領域10uおよび下部保持領域10bの双方からx軸方向の中央部分に向けて、徐々にy軸方向の長さが短くなり中央部分でy軸方向の長さが極小になる形状を有する。言い換えると、変形領域10mBの断面積A1は、上部保持領域10uの断面積A2からx軸方向の中央部分に向けて徐々に小さくなり、変形領域10mBは、上部保持領域10u側において、断面積(第1方向を法線とする面の断面積)が徐々に変化する領域を有するともいえる。下部保持領域10bの断面積と断面積A1との関係も同様である。変形領域10mBは、この例では、y軸方向の両端の縁部形状CB1、CB2として曲線形状(例えば円弧形状)を有している。このようにすると、低降伏点鋼板10Bにおいて、低降伏点鋼板10よりも応力集中をする領域を低減することができる。また、x軸方向の中央部分は、他の部分よりもy軸方向の長さが短いことによって降伏せん断力が小さくなるため、変形しやすい領域となる。したがって、この例のように、変形領域10mBのうち少なくともx軸方向の中央部分において拘束板が配置されていることにより、変形領域10mBの面外方向への変形(座屈)を効率的に抑制することができる。
【0041】
図7は、本発明の第4実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。第4実施形態における制振装置1Cは、第1実施形態における低降伏点鋼板10とは異なる形状を有する低降伏点鋼板10Cを含む。低降伏点鋼板10Cにおける変形領域10mCは、上部保持領域10uおよび下部保持領域10bの双方からx軸方向の中央部分に向けて、徐々にy軸方向の長さが短くなり中央部分でy軸方向の長さが極小になる形状を有する。言い換えると、変形領域10mCの断面積A1は、上部保持領域10uの断面積A2からx軸方向の中央部分に向けて徐々に小さくなり、変形領域10mCは、上部保持領域10u側において、断面積(第1方向を法線とする面の断面積)が徐々に変化する領域を有するともいえる。下部保持領域10bの断面積と断面積A1との関係も同様である。変形領域10mCは、この例では、y軸方向の両端の縁部形状CC1、CC2として2つの直線を組み合わせた形状を有している。このようにすると、低降伏点鋼板10Cにおいて、低降伏点鋼板10よりも応力集中をする領域を低減することができる。また、x軸方向の中央部分は、他の部分よりもy軸方向の長さが短いことによって降伏せん断力が小さくなるため、変形しやすい領域となる。したがって、この例のように、変形領域10mCのうち少なくともx軸方向の中央部分において拘束板が配置されていることにより、変形領域10mCの面外方向への変形(座屈)を効率的に抑制することができる。
【0042】
図8は、本発明の第5実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。第5実施形態における制振装置1Dは、第3実施形態における拘束部20とは異なる形状を有する拘束部20Dを含む。拘束部20Dにおける第1拘束板21Dは、x軸方向両端からx軸方向の中央部分に向けて、徐々にy軸方向の長さが長くなり中央部分でy軸方向の長さが極大になる形状を有する。第1拘束板21Dは、この例では、変形領域10mBを覆う部分におけるy軸方向の縁部形状CD1として曲線形状(例えば円弧形状)を有している。第1拘束板21Dに対応する第2拘束板22D(図示せず)についても、第1拘束板21Dと同じ形状を有する。
【0043】
この縁部形状CD1は、この例では、概ね変形領域10mBの縁部形状CB1とx軸に対して対称な形状を有しているが、違う形状であってもよい。上述したように、変形領域10mBは、x軸方向の中央部分において変形しやすい。したがって、
図8に示すように縁部形状CD1と縁部形状CB1とが、x軸方向の中央部分で短い距離を有することで、変形領域10mが面外方向(z軸方向)に変形(座屈)することを効率的に抑制することができる。
【0044】
なお、この縁部形状CD1、CD2は、この形状に限らず、様々な形状が取り得る。例えば、第1拘束板21Dは、第4実施形態における変形領域10mCの外縁形状CC1のように、y軸方向の縁部形状として2つの直線を組み合わせた形状を有していてもよい。ここで、後述の第6実施形態で説明するリブを設ける場合、他の部分より幅が長い領域、特に、第1拘束板21Dの幅が急激に大きくなるような領域において、x軸方向に沿ったリブを配置するとより効果的である。この例では、第1拘束板21Dのx軸方向の中央部分においてx軸方向に沿ったリブを配置するとより効果的である。
【0045】
<第6実施形態>
第1実施形態における拘束部20は、補剛構造を有することにより、低降伏点鋼板10における変形領域10mの面外方向への移動をさらに効率的に抑制してもよい。補剛構造としては様々な構造が取り得るが、第6実施形態では補剛構造としてリブを用いた例について説明する。
【0046】
図9は、本発明の第6実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
図10は、
図11におけるB1-B2切断線での断面を説明するための模式図である。第6実施形態における制振装置1Eは、第1実施形態における拘束部20に補剛構造が設けられた拘束部20Eを含む。
【0047】
拘束部20Eは、第1拘束板21、第2拘束板22、第1リブ25および第2リブ26を含む。第1リブ25は、第1拘束板21のうち変形領域10mとは反対側の面から突出した板状部材である。第1リブ25は、第1拘束板21に対して略垂直な面を有し、z軸方向に沿って見た場合にy軸方向に長手を有する。この例では、2つの第1リブ25が第1拘束板21に対して設けられている。第1拘束板21に対して1つの第1リブ25だけが設けられていてもよいし、さらに多くの第1リブ25が設けられていてもよい。また、第1リブ25の形状は、z軸方向に沿って見た場合にy軸方向に沿って長手を有する場合に限らず、他の方向に沿って長手を有してもよいし、途中で曲がった形状を有してもよい。すなわち、第1リブ25は、平面を有する板状に限らず、曲面を有する板状であってもよい。さらに、第1リブ25は、格子形状のように複数の方向の面が交差する構造を組み合わせた構造を有してもよい。第2拘束板22と第2リブ26との関係についても、第1拘束板21と第1リブ25との関係と同様であるため、その関係の説明を省略する。
【0048】
このように、リブ等の補剛部材を用いることにより、第1拘束板21および第2拘束板22の剛性が大きくなるため、低降伏点鋼板10の変形領域10mの面外方向への変形(座屈)をより強固に抑制することができる。
【0049】
<第7実施形態>
第1実施形態では、1つの低降伏点鋼板10に対して1つの拘束部20が設けられていたが、複数の拘束部が設けられてもよい。第7実施形態では、1つの低降伏点鋼板10に対して2つの拘束部20aF、20bFが設けられた制振装置1Fについて説明する。
【0050】
図11は、本発明の第7実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。第7実施形態における制振装置1Fは、拘束部20aFおよび拘束部20bFを含む。拘束部20aFおよび拘束部20bFのいずれも、第1実施形態における拘束部20と同様に第1拘束板21と第2拘束板22との組に相当する構成を有し、それぞれy軸方向の長さが短くなっている点で異なっている。
【0051】
すなわち、拘束部20aFにおける第1拘束板21aF(および図示しない第2拘束板22aF)は、第1固定部40aF(固定具45aF)によって低降伏点鋼板10(上部保持領域10u)に対して回転可能な状態で固定されている。拘束部20bFにおける第1拘束板21bF(および図示しない第2拘束板22bF)は、第1固定部40bF(固定具45bF)によって低降伏点鋼板10(上部保持領域10u)に対して回転可能な状態で固定されている。拘束部20bFにおける第1拘束板21bF(および図示しない第2拘束板22bF)は、第1固定部40bF(固定具45bF)によって低降伏点鋼板10(上部保持領域10u)に対して回転可能な状態で固定されている。拘束部20bFにおける第1拘束板21bF(および図示しない第2拘束板22bF)は、第1固定部40bF(固定具45bF)によって低降伏点鋼板10(下部保持領域10b)に対して回転可能な状態で固定されている。
【0052】
一方、拘束部20は、変形領域10mのy軸方向の中央部分(1/2の部分)に配置されていたが、拘束部20aFおよび拘束部20bFは、変形領域10mにおけるy軸方向の1/4の部分および3/4の部分に配置されている。なお、拘束部20aFおよび拘束部20bFは、このような配置に限られず、変形領域10mをy軸方向に均等に分けるように配置されてもよい。例えば、拘束部20aFおよび拘束部20bFが互いにy軸方向の中央部分に近づくことで、変形領域10mの中央部分における面外方向への変形抑制(座屈抑制)効果を高めるようにしてもよい。
【0053】
<第8実施形態>
第1実施形態では、拘束部20は、低降伏点鋼板10に対して回転可能な状態で固定されていたが、板状部材の構造を異ならせることで低降伏点鋼板10に対して回転可能ではない状態で固定されていてもよい。第8実施形態では、両持ち構造かつ回転可能でない状態で低降伏点鋼板10に固定されていてもよい拘束部の構造について説明する。
【0054】
図12は、本発明の第8実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
図13は、
図12におけるC1-C2切断線での断面を説明するための模式図である。第8実施形態における制振装置1Gは、拘束部20Gを含む。拘束部20Gは、第1固定部40Gおよび第2固定部50Gによって、低降伏点鋼板10に固定されている。
【0055】
拘束部20Gは、第1拘束板21Gおよび第2拘束板22Gを含む。第1拘束板21Gは、x軸方向に長手を有する複数のスリット28Gが形成されている。第2拘束板22Gは、x軸方向に長手を有する複数のスリット29Gが形成されている。第1拘束板21Gおよび第2拘束板22Gは、スリットが形成されることにより、狭い幅でx軸方向に長手を有する複数の板状部材を端部でつないだ構造を有している。
【0056】
第1固定部40Gは、高力ボルト等の固定具45Gを有する。固定具45Gは、第1拘束板21G、第2拘束板22Gおよびこれらに挟まれた低降伏点鋼板10の上部保持領域10uを貫通して、これらの構成を互いに固定する。第2固定部50Gは、高力ボルト等の固定具55Gを有する。固定具55Gは、第1拘束板21G、第2拘束板22Gおよびこれらに挟まれた低降伏点鋼板10の下部保持領域10bを貫通して、これらの構成を互いに固定する。
【0057】
続いて、間柱90u、90bに振動が伝達されたときの制振装置1Gの動きについて説明する。
【0058】
図14は、本発明の第8実施形態における制振装置の動きを示す図である。
図14は、第1実施形態において説明した
図4に対応する。上述したように、第1拘束板21Gおよび第2拘束板22Gは、スリット28G、29Gによって幅の狭い複数の板状部材を接続した構造を有している。この幅の狭い板状部材は、その両端部分(スリットの両端部分)の近傍において、xy面内で変形しやすい構造を有している。したがって、間柱90u、90bの振動により第1固定部40Gと第2固定部50Gとの位置関係に歪みが生じたとしても、
図14に示すように拘束部20Gにおけるスリット両端近傍においてxy面内での変形をすることで、拘束部20Gは、第1固定部40Gおよび第2固定部50Gに大きな負荷を発生させずに、低降伏点鋼板10の面外方向への変形(座屈)を抑制する機能を維持する。
【0059】
<第9実施形態>
第1実施形態においては、y軸方向に関し、上部保持領域10uおよび下部保持領域10bは、変形領域10mよりも長くすることによって強度を高めていたが、厚さ(z軸方向の長さ)を厚くすることによって降伏せん断力を高めてもよい。
【0060】
図15は、本発明の第9実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
図16は、
図15におけるD1-D2切断線での断面を説明するための模式図である。第9実施形態における制振装置1Hは、低降伏点鋼板10Hを含む。低降伏点鋼板10Hは、上部保持領域10uH、下部保持領域10bHおよび変形領域10mHを含む。上部保持領域10uHおよび下部保持領域10bHは、変形領域10mHと比べて、y軸方向の長さが同じである。一方、上部保持領域10uHおよび下部保持領域10bHは、変形領域10mHと比べて厚くなっている。これによって、上部保持領域10uHおよび下部保持領域10bHは、変形領域10mHと比べて降伏せん断力が高くなっている。
【0061】
この例では、上部保持領域10uHおよび下部保持領域10bHはウェブ95u、95bとほぼ同じ厚さであるため、低降伏点鋼板10Hをウェブ95u、95bに固定する方法は、第1実施形態と同じく上部固定部70および下部固定部75によって実現される。一方、変形領域10mHは上部保持領域10uHおよび下部保持領域10bHよりも薄いため、拘束部20Hでは、例えば、第1拘束板21と変形領域10mHとの間に、第1拘束板21に固定された補助板23が配置されている。第2拘束板22と変形領域10mHとの間にも、第2拘束板22に固定された補助板24が配置されている。この例では、拘束板と拘束板に固定された補助板とは別体に形成された鋼板であるが、一体に形成された鋼板であってもよい。
【0062】
なお、上部保持領域10uHおよび下部保持領域10bHに対する変形領域10mHの位置が、z軸方向における中央部分である例を
図16に示したが、中央部分でなく一方に偏った位置であってもよい。この場合には変形領域10mHの両面に配置される補助板の厚さが異なっていてもよいし、一方の補助板が設けられていなくてもよい。また、上部保持領域10uH(下部保持領域10bH)から変形領域10mHまでの間において、徐々に薄くなる領域が配置されてもよく、言い換えると、変形領域10mHは、上部保持領域10uH(下部保持領域10bH)側において、断面積(第1方向を法線とする面の断面積)が徐々に変化する領域を有してもよい。
【0063】
<第10実施形態>
第1実施形態における拘束部20において、x軸方向の縁部形状が直線でなくてもよい。第10実施形態では、x軸方向の縁部形状が直線ではない例について説明する。
【0064】
図17は、本発明の第10実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。第10実施形態における制振装置1Jは、第1実施形態における拘束部20とは異なる形状を有する拘束部20Jを含む。拘束部20Jにおける第1拘束板21Jは、y軸方向両端からy軸方向の中央部分に向けて、徐々にx軸方向の長さが長くなり中央部分でx軸方向の長さが極大になる形状を有する。この例では、拘束部20Jは、x軸方向の縁部形状CJa、CJbとして曲線形状(例えば円弧形状)を有している。第1拘束板21Jは、第1拘束板21Jに対応する第2拘束板22J(図示せず)についても、第1拘束板21Jと同じ形状を有する。
【0065】
このように、固定具45からy軸方向に離れるほど、縁部形状CJaとスプライスプレート71との距離が大きくなり、固定具55からy軸方向に離れるほど、縁部形状CJbとスプライスプレート76との距離が大きくなる。これによって、固定具45と固定具55との位置関係がずれて第1拘束板21Jが回転した場合であっても、第1拘束板21Jがスプライスプレート71、76に対して接触しにくい構成が実現される。これによって、固定具45とスプライスプレート71との距離および固定具55とスプライスプレート76との距離を小さくすることができる。なお、縁部形状CJa、CJbが円弧形状を含む場合、この円弧の曲率半径が固定具45と固定具55との距離より小さいことが望ましい。
【0066】
<第11実施形態>
第1実施形態における低降伏点鋼板10の変形領域10mは概ね均一な厚さを有していたが、一部の領域において厚さが異なっていてもよい。第11実施形態では、変形領域の中央部分に窪みを有する例について説明する。
【0067】
図18は、本発明の第11実施形態における制振装置の構造を説明するための図である。
図19は、
図18におけるE1-E2切断線での断面を説明するための模式図である。第11実施形態における制振装置1Kは、低降伏点鋼板10とは異なる表面形状を有する低降伏点鋼板10Kを含む。低降伏点鋼板10Kにおける変形領域10mKは、中央部分において、窪み領域10Khを有する。窪み領域10Khは、
図18に示すようにz軸方向に沿って見た場合に円形であり、
図19に示すようにx軸方向に沿って見た場合に中央部分ほど深くなるように形成されている。この例では、窪み領域10Khの表面は、球面の一部の形状を有している。したがって、変形領域10mKは、窪み領域10Khの中央部分において最も薄くなっている。このようにすると、変形領域10mKの中央部分において降伏せん断力を低くすることができる。
【0068】
なお、変形領域10mKにおいて、複数の窪み領域10Khが配置されてもよい。また、窪み領域10Khの形状は、
図18、
図19に示す形状に限らず、様々に変更可能である。また、変形領域10mKのうち窪み領域10Khが形成されることによって薄くなる領域がz軸方向における中央部分である例を
図19に示したが、中央部分でなく一方に偏った位置であってもよい。その結果、窪み領域10Khは、変形領域10mKのいずれかの面にのみ配置されてもよい。
【0069】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、上述した各実施形態は、互いに組み合わせたり、置換したりして適用することが可能である。また、上述した各実施形態では、以下の通り変形して実施することも可能である。なお、以下の記載では、第1実施形態を基準に変形した例を示しているが、その他の実施形態を基準としても変形が可能である。
【0070】
(1)第1実施形態において、低降伏点鋼板10、第1拘束板21、第2拘束板22、スプライスプレート71、72、76、77、ウェブ95u、95bのそれぞれに対する板厚の大小関係が、
図3において一例として示されているが、各構成間の板厚の大小関係は、図示した例とは異なる関係であってもよい。
【0071】
(2)第1実施形態において、制振装置1は、ウェブに対してフランジが結合されたH形鋼に接続されていたが、ウェブおよびフランジに相当する少なくとも2枚の鋼板が角度を持って形成されている鋼材、例えば、I形鋼、T形鋼、Z形鋼、溝形鋼、山形鋼など、他の形状の鋼材に配置されていてもよい。
【0072】
(3)第1実施形態において摩擦接合のための高力ボルトを用いた鋼材間の固定は、支圧接合など別の接合方法による固定であってもよい。
【0073】
(4)第1実施形態において第2拘束板22が存在しなくてもよい。すなわち、低降伏点鋼板10に対して一面側のみに拘束板が配置されていてもよい。このように、低降伏点鋼板10の一面側のみに拘束板が配置されていたとしても、低降伏点鋼板10の面外方向の変位を抑制することができる。第1実施形態のように低降伏点鋼板10の両面に拘束板が配置されている場合には、低降伏点鋼板10の面外方向の変位をより強く抑制することができるが、本変形例によれば、使用する鋼材の量を削減することができる。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1J,1K…制振装置、10,10A,10B,10C,10H…低降伏点鋼板、10m,10mB,10mC,10mH,10mK…変形領域、10u,10uH…上部保持領域、10b,10bH…下部保持領域、10c…領域、10Kh…窪み領域、20,20aF,20bF,20D,20E,20G,20H,20J…拘束部、21,21aF,21bF,21D,21G,21J…第1拘束板、22,22aF,22bF,22D,22G,22J…第2拘束板、23,24…補助板、25…第1リブ、26…第2リブ、28G,29G…スリット、40,40aF,40bF,40G…第1固定部、45,45aF,45bF,45G…固定具、50,50G…第2固定部、55,55G…固定具、70…上部固定部、71,72,76,77…スプライスプレート、73,74,78,79…高力ボルト、75…下部固定部、90,90b,90u…間柱、92b,92u,94b,94u…フランジ、95b,95u…ウェブ、101b,101u…第1接続領域、102b,102u…第2接続領域