(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】水素燃料エンジンの排気浄化システム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20231102BHJP
F01N 3/18 20060101ALI20231102BHJP
F01N 3/22 20060101ALI20231102BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20231102BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
F01N3/08 H
F01N3/18 B
F01N3/22 301
F02D43/00 301E
F02D43/00 301T
B01D53/94 222
(21)【出願番号】P 2020108031
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武並 進
(72)【発明者】
【氏名】竹本 翔一
(72)【発明者】
【氏名】松井 良彦
(72)【発明者】
【氏名】藤野 友基
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167852(JP,A)
【文献】特開2013-96346(JP,A)
【文献】特開2010-180792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/18
F01N 3/22
F02D 43/00
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(2)の排気管(3)に構成され、
前記排気管内に配置され、窒素酸化物を還元する性質を有するとともに、前記水素燃料エンジンから前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成する性質を有する第1触媒(31)と、
前記排気管内における、前記第1触媒よりも排気ガス(G)の流れの下流側の位置に配置され、前記第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いて窒素酸化物を還元する性質を有する第2触媒(32)と、
前記水素燃料エンジンにおける、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整する空燃比制御部(51)、及び前記第2触媒における窒素酸化物の還元性能低下度を推定する性能低下推定部(56)を有するエンジン制御装置(5)と、を備え、
前記空燃比制御部は、
前記空燃比を、前記水素と前記燃焼用空気中の酸素とが過不足なく燃焼する理論空燃比又は前記理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いて前記第1触媒において生成されたアンモニアを前記第2触媒に吸着する水素リッチ制御と、
前記性能低下推定部による還元性能低下度が許容低下度以上になっていることを条件に前記水素リッチ制御から切り換えられ、前記空燃比を、前記理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、前記第1触媒を通過する窒素酸化物を前記第2触媒に吸着されたアンモニアによって還元する水素リーン制御と、を交互に繰り返し行うよう構成されている、水素燃料エンジンの排気浄化システム(1)。
【請求項2】
前記性能低下推定部は、前記水素リッチ制御を開始してからの経過時間、前記水素リッチ制御を行うときの前記空燃比、前記第2触媒から流出する窒素酸化物の濃度もしくは流出推定量、及び前記第1触媒から流出する窒素酸化物の濃度もしくは流出推定量のうちの少なくとも1つを用いて前記還元性能低下度を推定する、請求項1に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項3】
前記性能低下推定部は、前記水素リッチ制御を開始してからの経過時間、前記水素リッチ制御を行うときの前記空燃比、前記第2触媒から流出する窒素酸化物の濃度もしくは流出推定量、及び前記第1触媒から流出する窒素酸化物の濃度もしくは流出推定量のうちの少なくとも1つと、前記第2触媒に吸着されたアンモニアの吸着推定量とを用いて前記還元性能低下度を推定する、請求項1に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項4】
前記エンジン制御装置は、前記排気管内の前記第2触媒に酸素を供給して、前記第2触媒の還元性能を回復させるための酸素供給部(57)をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項5】
前記水素燃料エンジンは、複数の気筒(21)を有するレシプロエンジンであり、
前記酸素供給部は、前記水素リーン制御を行うとき、又は前記水素リーン制御を行うときであって前記性能低下推定部による前記還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったときに、複数の前記気筒における少なくとも1つの気筒の燃焼を停止することにより、当該燃焼が停止された気筒から前記排気管に燃焼用空気(A)を供給するよう構成されている、請求項4に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項6】
前記酸素供給部は、前記排気管内における、前記第2触媒よりも前記排気ガスの流れの上流側の位置に配置された、前記第2触媒に空気を供給する空気供給装置(6)を用いて構成されており、
前記酸素供給部は、前記水素リーン制御を行うとき、又は前記水素リーン制御を行うときであって前記性能低下推定部による前記還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったときに、前記空気供給装置を用いて前記第2触媒に空気(K)を供給するよう構成されている、請求項4に記載の水素燃料エンジンの排気浄化システム。
【請求項7】
水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(2)の排気管(3)に構成され、
前記排気管内に配置され、窒素酸化物を還元する性質を有するとともに、前記水素燃料エンジンから前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成する性質を有する第1触媒(31)と、
前記排気管内における、前記第1触媒よりも排気ガス(G)の流れの下流側の位置に配置され、前記第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いて窒素酸化物を還元する性質を有する第2触媒(32)と、
前記水素燃料エンジンにおける、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整する空燃比制御部(51)、前記第2触媒における窒素酸化物の還元性能低下度を推定する性能低下推定部(56)、及び前記排気管内の前記第2触媒に酸素を供給して、前記第2触媒の還元性能を回復させるための酸素供給部(57)を有するエンジン制御装置(5)と、を備え、
前記空燃比制御部は、
前記空燃比を、前記水素と前記燃焼用空気中の酸素とが過不足なく燃焼する理論空燃比又は前記理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いて前記第1触媒において生成されたアンモニアを前記第2触媒に吸着する水素リッチ制御と、
前記空燃比を、前記理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、前記第1触媒を通過する窒素酸化物を前記第2触媒に吸着されたアンモニアによって還元する水素リーン制御と、を交互に繰り返し行うよう構成されており、
前記酸素供給部は、前記水素リーン制御を行うときであって前記性能低下推定部による前記還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったときに、前記第2触媒に酸素を供給するよう構成されている、水素燃料エンジンの排気浄化システム(1)。
【請求項8】
水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(2)の排気管(3)に構成され、
前記排気管内に配置され、窒素酸化物を還元する性質を有するとともに、前記水素燃料エンジンから前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成する性質を有する第1触媒(31)と、
前記排気管内における、前記第1触媒よりも排気ガス(G)の流れの下流側の位置に配置され、前記第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いて窒素酸化物を還元する性質を有する第2触媒(32)と、
前記水素燃料エンジンにおける、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整する空燃比制御部(51)、及び前記排気管内の前記第2触媒に酸素を供給して、前記第2触媒の還元性能を回復させるための酸素供給部(57)を有するエンジン制御装置(5)と、を備え、
前記空燃比制御部は、
前記空燃比を、前記水素と前記燃焼用空気中の酸素とが過不足なく燃焼する理論空燃比又は前記理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いて前記第1触媒において生成されたアンモニアを前記第2触媒に吸着する水素リッチ制御と、
前記空燃比を、前記理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、前記第1触媒を通過する窒素酸化物を前記第2触媒に吸着されたアンモニアによって還元する水素リーン制御と、を交互に繰り返し行うよう構成されており、
前記酸素供給部は、前記水素リーン制御を複数回行うときの少なくともいずれかの前記水素リーン制御において、前記第2触媒に酸素を供給するよう構成されている、水素燃料エンジンの排気浄化システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素燃料エンジンの排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料として用いる水素燃料エンジンにおいては、炭化水素を燃料として用いるガソリンエンジンと同様の構造を有するエンジンが利用される。ただし、水素燃料エンジンにおいては、燃料に水素が用いられることにより、水素の燃焼後に生じる排気ガスは、ガソリンエンジンの場合と異なる。また、水素燃料エンジンから排気される排気ガスには、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)が含まれない一方、窒素酸化物(NOx)が含まれる。
【0003】
水素燃料エンジンに関するものではないが、特許文献1の内燃機関の制御装置においては、NOxを吸蔵する吸蔵還元型触媒と、アンモニアを吸蔵する選択還元型触媒とを排気管に配置して、排気管から大気へのNOx及びアンモニアの放出量を抑制する工夫がなされている。吸蔵還元型触媒は、内燃機関の空燃比を理論空燃比よりも燃料リーン側にしたときの排気ガスに含まれるNOxを吸蔵し、内燃機関の空燃比を燃料リッチ側にしたときに、吸蔵したNOxを放出して、このNOxをアンモニアに還元する。一方、選択還元型触媒は、排気ガスに含まれるアンモニアを吸蔵するとともに、吸蔵したアンモニアによってNOxを還元する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の内燃機関の制御装置は、ディーゼルエンジンに用いられるものであり、水素燃料エンジンに用いられるものではない。ディーゼルエンジン等の炭化水素を燃料として用いるエンジンの場合には、排気ガスに水素が含まれることはない。
【0006】
一方、水素燃料エンジンにおいては、窒素酸化物の排出量を減らすためには、水素燃料エンジンの空燃比を理論空燃比(ストイキ)よりも燃料リッチ側にして、燃焼運転することが考えられる。ただし、この場合には、排気ガスに含まれる水素の量が増加することになる。よって、水素燃料エンジンにおいて、排気ガスに含まれる水素を利用して、窒素酸化物の大気への放出を効果的に抑制するためには、排気管に配置される触媒の用い方に工夫が必要である。また、この場合には、触媒の性能低下を回復するための工夫も必要であることが判明した。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、触媒の性能低下を回復しつつ、排気ガスに含まれる水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる水素燃料エンジンの排気浄化システムを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様は、
水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(2)の排気管(3)に構成され、
前記排気管内に配置され、窒素酸化物を還元する性質を有するとともに、前記水素燃料エンジンから前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成する性質を有する第1触媒(31)と、
前記排気管内における、前記第1触媒よりも排気ガス(G)の流れの下流側の位置に配置され、前記第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いて窒素酸化物を還元する性質を有する第2触媒(32)と、
前記水素燃料エンジンにおける、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整する空燃比制御部(51)、及び前記第2触媒における窒素酸化物の還元性能低下度を推定する性能低下推定部(56)を有するエンジン制御装置(5)と、を備え、
前記空燃比制御部は、
前記空燃比を、前記水素と前記燃焼用空気中の酸素とが過不足なく燃焼する理論空燃比又は前記理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いて前記第1触媒において生成されたアンモニアを前記第2触媒に吸着する水素リッチ制御と、
前記性能低下推定部による還元性能低下度が前記許容低下度以上になっていることを条件に前記水素リッチ制御から切り換えられ、前記空燃比を、前記理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、前記第1触媒を通過する窒素酸化物を前記第2触媒に吸着されたアンモニアによって還元する水素リーン制御と、を交互に繰り返し行うよう構成されている、水素燃料エンジンの排気浄化システム(1)にある。
【0009】
本発明の第2態様は、
水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(2)の排気管(3)に構成され、
前記排気管内に配置され、窒素酸化物を還元する性質を有するとともに、前記水素燃料エンジンから前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成する性質を有する第1触媒(31)と、
前記排気管内における、前記第1触媒よりも排気ガス(G)の流れの下流側の位置に配置され、前記第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いて窒素酸化物を還元する性質を有する第2触媒(32)と、
前記水素燃料エンジンにおける、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整する空燃比制御部(51)、前記第2触媒における窒素酸化物の還元性能低下度を推定する性能低下推定部(56)、及び前記排気管内の前記第2触媒に酸素を供給して、前記第2触媒の還元性能を回復させるための酸素供給部(57)を有するエンジン制御装置(5)と、を備え、
前記空燃比制御部は、
前記空燃比を、前記水素と前記燃焼用空気中の酸素とが過不足なく燃焼する理論空燃比又は前記理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いて前記第1触媒において生成されたアンモニアを前記第2触媒に吸着する水素リッチ制御と、
前記空燃比を、前記理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、前記第1触媒を通過する窒素酸化物を前記第2触媒に吸着されたアンモニアによって還元する水素リーン制御と、を交互に繰り返し行うよう構成されており、
前記酸素供給部は、前記水素リーン制御を行うときであって前記性能低下推定部による前記還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったときに、前記第2触媒に酸素を供給するよう構成されている、水素燃料エンジンの排気浄化システム(1)にある。
【0010】
本発明の第3態様は、
水素を燃料として用いる水素燃料エンジン(2)の排気管(3)に構成され、
前記排気管内に配置され、窒素酸化物を還元する性質を有するとともに、前記水素燃料エンジンから前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いてアンモニアを生成する性質を有する第1触媒(31)と、
前記排気管内における、前記第1触媒よりも排気ガス(G)の流れの下流側の位置に配置され、前記第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いて窒素酸化物を還元する性質を有する第2触媒(32)と、
前記水素燃料エンジンにおける、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整する空燃比制御部(51)、及び前記排気管内の前記第2触媒に酸素を供給して、前記第2触媒の還元性能を回復させるための酸素供給部(57)を有するエンジン制御装置(5)と、を備え、
前記空燃比制御部は、
前記空燃比を、前記水素と前記燃焼用空気中の酸素とが過不足なく燃焼する理論空燃比又は前記理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、前記排気管に排気される水素及び窒素酸化物を用いて前記第1触媒において生成されたアンモニアを前記第2触媒に吸着する水素リッチ制御と、
前記空燃比を、前記理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、前記第1触媒を通過する窒素酸化物を前記第2触媒に吸着されたアンモニアによって還元する水素リーン制御と、を交互に繰り返し行うよう構成されており、
前記酸素供給部は、前記水素リーン制御を複数回行うときの少なくともいずれかの前記水素リーン制御において、前記第2触媒に酸素を供給するよう構成されている、水素燃料エンジンの排気浄化システム(1)にある。
【発明の効果】
【0011】
(第1態様の水素燃料エンジンの排気浄化システム)
前記第1態様の水素燃料エンジンの排気浄化システムにおいては、水素燃料エンジンから排気される水素を利用して、窒素酸化物(以下、NOxという。)を効果的に浄化する工夫をしている。具体的には、水素燃料エンジンから排気ガスが排気される排気管に、NOxを還元する性質を有する第1触媒と、アンモニアを吸着する性質を有する第2触媒とを配置している。
【0012】
そして、第1触媒においては、NOxが分解されて還元されるときに生じる窒素を、水素との反応に用いて、アンモニアを生成することができる。また、第2触媒においては、第1触媒から流れ込むアンモニアを吸着し、このアンモニアを、第1触媒から流れ込むNOxを還元するために用いることができる。
【0013】
そのため、空燃比制御部によって水素リッチ制御と水素リーン制御とを繰り返し行い、水素燃料エンジンから排気管へ、水素が多く排気されるタイミングとNOxが多く排気されるタイミングとを適切にコントロールすることにより、水素を利用して、第2触媒から大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる。
【0014】
また、発明者の研究開発により、水素リッチ制御を継続して行うときには、第2触媒における触媒成分の劣化が生じ、第2触媒における窒素酸化物の還元性能が低下することが判明した。そこで、エンジン制御装置に、第2触媒における窒素酸化物の還元性能低下度を推定する性能低下推定部を設け、空燃比制御部は、性能低下推定部による還元性能低下度が許容低下度以上になっていることを条件として、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換えるようにしている。これにより、第2触媒における触媒成分に劣化が生じたと推定されるときには、この触媒成分における劣化を回復させ、第2触媒における窒素酸化物の還元性能を回復させることができる。
【0015】
前記第1態様の水素燃料エンジンの排気浄化システムによれば、第2触媒の性能低下を回復しつつ、排気ガスに含まれる水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる。
【0016】
(第2態様の水素燃料エンジンの排気浄化システム)
前記第2態様の水素燃料エンジンの排気浄化システムにおいては、性能低下推定部による第2触媒の還元性能低下度が、酸素供給部によって第2触媒へ酸素を供給するか否かの判定のために用いられる。そして、空燃比制御部による水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えは、所定時間の経過等の別の尺度に基づいて行われる。
【0017】
水素リーン制御を行うだけでは第2触媒へ十分な酸素を供給できない場合に、酸素供給部を用いることが有効である。本態様においては、酸素供給部を用いることによって、第2触媒に生じる還元性能の低下を、より効果的に回復させることができる。また、本態様においては、水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えとは別に、性能低下推定部による第2触媒への酸素の供給の必要性を判定することができる。そのため、第2触媒へ酸素を供給するタイミングをより適切に設定できる場合がある。
【0018】
第2態様の水素燃料エンジンの排気浄化システムによっても、第2触媒の性能低下を回復しつつ、排気ガスに含まれる水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる。
【0019】
(第3態様の水素燃料エンジンの排気浄化システム)
前記第3態様の水素燃料エンジンの排気浄化システムにおいては、性能低下推定部を用いずに、酸素供給部から第2触媒へ酸素を供給するタイミングを決定する。また、空燃比制御部による水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えは、所定時間の経過等の別の尺度に基づいて行われる。
【0020】
本態様においては、第2触媒の還元性能が低下したか否かを判定せずに、水素リーン制御を複数回行うときの少なくともいずれかの水素リーン制御において、第2触媒に酸素を供給する。そのため、エンジン制御装置の構成を簡単にすることができる。また、水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えとは別に、定期的なタイミングで第2触媒へ酸素を供給して、第2触媒の還元性能の低下を回復させることができる。
【0021】
第3態様の水素燃料エンジンの排気浄化システムによっても、第2触媒の性能低下を回復しつつ、排気ガスに含まれる水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる。
【0022】
なお、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態1にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態1にかかる、水素燃料エンジンにおける空燃比が理論空燃比にあるときの、第1触媒の温度と、第1触媒から流出するアンモニアの濃度との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施形態1にかかる、水素リッチ制御を開始してからの経過時間及び空燃比と第2触媒の還元性能低下度との関係を模式的に示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施形態1にかかる、排気浄化システムの制御方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態1にかかる、(a)水素燃料エンジンにおける空燃比の変化、(b)第2触媒におけるアンモニアの吸着推定量の変化、(c)第2触媒における還元性能低下度の変化を模式的に示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施形態1にかかる、第1触媒の温度が400℃である場合について、水素燃料エンジンにおける空燃比と、第1触媒の、排気ガスの流れの下流側におけるアンモニア、NOx及びN
2Oの各濃度との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施形態2にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態2にかかる、排気浄化システムの制御方法を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施形態3にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
【
図10】
図10は、実施形態3にかかる、排気浄化システムの制御方法を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、実施形態4にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
【
図12】
図12は、実施形態4にかかる、排気浄化システムの制御方法を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、実施形態4にかかる、(a)水素燃料エンジンにおける空燃比の変化、(b)第2触媒におけるアンモニアの吸着推定量の変化、(c)第2触媒へ酸素を供給するタイミング、(d)第2触媒における還元性能低下度の変化を模式的に示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施形態5にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
【
図15】
図15は、実施形態6にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
【
図16】
図16は、実施形態6にかかる、排気浄化システムの制御方法を示すフローチャートである。
【
図17】
図17は、実施形態7にかかる、排気浄化システムの構成を示す説明図である。
【
図18】
図18は、実施形態7にかかる、(a)水素燃料エンジンにおける空燃比の変化、(b)第2触媒におけるアンモニアの吸着推定量の変化、(c)第2触媒へ酸素を供給するタイミング、(d)第2触媒における還元性能低下度の変化を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
前述した水素燃料エンジンの排気浄化システムにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1は、
図1に示すように、水素を燃料として用いる水素燃料エンジン2の排気管3に構成されている。排気浄化システム1は、排気管3内に配置された第1触媒31と、排気管3内における、第1触媒31よりも排気ガスGの流れの下流側の位置に配置された第2触媒32とを備える。第1触媒31は、窒素酸化物(以下、NOxという。)を還元する性質を有するとともに、水素燃料エンジン2から排気管3に排気される水素(H
2)及びNOxを用いてアンモニア(NH
3)を生成する性質を有する。第2触媒32は、第1触媒31から流れ込むアンモニアを吸着する性質を有するとともに、アンモニアを用いてNOxを還元する性質を有する。
【0025】
また、排気浄化システム1は、空燃比制御部51及び性能低下推定部56を有するエンジン制御装置5を備える。空燃比制御部51は、水素燃料エンジン2における、水素の質量に対する燃焼用空気の質量の比である空燃比を調整するよう構成されている。性能低下推定部56は、第2触媒32におけるNOxの還元性能低下度を推定するよう構成されている。
【0026】
空燃比制御部51は、水素燃料エンジン2における空燃比を、理論空燃比又は理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にして、水素燃料エンジン2の燃焼運転を行う水素リッチ制御と、水素燃料エンジン2における空燃比を、理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にして、水素燃料エンジン2の燃焼運転を行う水素リーン制御とを、繰り返し行うよう構成されている。ここで、理論空燃比とは、燃料としての水素と燃焼用空気中の酸素とが過不足なく完全燃焼する空燃比のことをいう。
【0027】
水素燃料エンジン2の燃焼運転が行われる通常時には、空燃比制御部51による水素リッチ制御が行われる。水素リッチ制御が行われるときには、排気管3に排気される水素及びNOxが用いられて第1触媒31においてアンモニアが生成され、このアンモニアが第2触媒32に吸着される。
【0028】
水素リッチ制御が行われるときに、性能低下推定部56による還元性能低下度が許容低下度以上になったことを条件にして、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換わり、空燃比制御部51による水素リーン制御が行われる。水素リーン制御が行われるときには、第1触媒31を通過するNOxが、第2触媒32に吸着されたアンモニアによって還元される。このとき、第2触媒32に吸着されたアンモニアが減少する。
【0029】
以下に、本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1について詳説する。
(排気浄化システム1)
図1に示すように、排気浄化システム1は、水素燃料エンジン2から排気される排気ガスGに含まれるNOxの浄化を、2種類の触媒31,32を用いた極めて簡単な構成によって行うものである。水素燃料エンジン2は、自動車に搭載されており、水素自動車を構成する。排気浄化システム1は、水素自動車の水素燃料エンジン2から排気される排気ガスGを浄化する。
【0030】
(水素燃料エンジン2)
本形態の水素燃料エンジン2は、複数の気筒21を有するレシプロエンジン等の内燃機関を構成する。レシプロエンジンは、水素を燃料として燃焼させたときの熱エネルギーをピストンの往復運動に変換するとともに、往復運動を回転運動に変換して力学的エネルギーを取り出すものである。水素燃料エンジン2の燃焼室には、水素と燃焼用空気との混合気が吸気管から吸気され、燃焼室において混合気が圧縮され、燃焼膨張した後に、燃焼後の排気ガスGが排気管3に排気される。なお、燃焼室には、燃焼用空気が吸気され、水素は燃焼室において直接噴射されてもよい。
【0031】
水素燃料エンジン2においては、燃料としての水素の質量Fに対する燃焼用空気の質量Aの比を示す空燃比(A/F)が制御される。水素燃料エンジン2における空燃比が、理論空燃比に比べて水素の比率が高い水素リッチ側の空燃比にあるときには、排気ガスG中には水素がより多く含まれる。水素燃料エンジン2における空燃比が、理論空燃比に比べて燃焼用空気の比率が高い水素リーン側の空燃比にあるときには、排気ガスG中にはNOxがより多く含まれる。
【0032】
(第1触媒31)
図1に示すように、本形態の第1触媒31は、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を浄化可能な三元触媒によって構成されている。三元触媒は、セラミックス等からなる、ハニカム構造等の多孔質の触媒担体に、プラチナ、パラジウム、ロジウム等の触媒が担持されたものである。三元触媒においては、NOxが窒素に還元され、炭化水素が水と二酸化炭素に酸化され、一酸化炭素が二酸化炭素に酸化される。
【0033】
水素燃料エンジン2においては、水素を燃料としているために、排気ガスG中に炭化水素及び一酸化炭素は含まれない。一方、排気ガスG中には、水素(及びNOx)が含まれる。第1触媒31においては、排気ガスG中の水素及びNOxが流入し、NOxが窒素に分解されるときに、水素と窒素との反応によりアンモニアが生成される。また、水素と酸素との反応により、水が生成される。
【0034】
図2は、水素燃料エンジン2における空燃比が理論空燃比にあるときに、第1触媒31において生成されるアンモニアの濃度、換言すれば、第1触媒31の、排気ガスGの流れの下流側に流出するアンモニアの量を示す。
図2に示すように、第1触媒31におけるアンモニアの生成量は、第1触媒31の温度に依存し、第1触媒31の温度が200℃付近にあるときに最大となる。そして、第1触媒31の温度が200℃を超えて高くなるほど、第1触媒31におけるアンモニアの生成量が少なくなる。
【0035】
第1触媒31は、複数個が排気管3内に配置されていてもよい。また、第1触媒31は、第2触媒32に対する排気管3内の上流側と下流側とに分かれて配置されていてもよい。
【0036】
(第2触媒32)
図1に示すように、本形態の第2触媒32は、アンモニアによってNOxを還元する選択還元触媒によって構成されている。選択還元触媒は、セラミックス、酸化チタン等の多孔質の触媒担体に、Cuゼオライト、Feゼオライト等の触媒成分が担持されたものである。この触媒成分には、還元剤としてアンモニアが吸着される。選択還元触媒においては、アンモニアを還元剤としてNOxが窒素と水に転換される。
【0037】
第1触媒31において生成されたアンモニアは、第2触媒32へ流入し、第2触媒32に吸着される。そして、第2触媒32に吸着されたアンモニアは、NOxを還元するために用いられる。
【0038】
第2触媒32におけるCuゼオライトは、Cuイオンがイオン交換によって担持されたゼオライトであり、アンモニアを用いてNOxを還元する際に、2価の銅イオンCu2+が1価の銅イオンCu+になる。Cuゼオライトに規定量以上の酸素が供給される状態においては、2価の銅イオンが維持される。
【0039】
水素リーン制御が行われるときには、排気ガスGに酸素が含まれることにより、2価の銅イオンが維持されやすい。しかし、水素リッチ制御が行われるときには、Cuゼオライトに酸素が供給されなくなり、2価の銅イオンが減少して1価の銅イオンが増加する。そして、水素リッチ制御が継続されると、第2触媒32によるNOxの還元性能が低下する。
【0040】
そこで、本形態の排気浄化システム1においては、水素リッチ制御を水素リーン制御に定期的に切り換えることにより、第2触媒32に排気ガスGに含まれる酸素を供給して、第2触媒32の還元性能を回復させる。
【0041】
(空燃比センサ43)
図1に示すように、排気管3には、排気管3を流れる排気ガスGに含まれる酸素又は水素の量を電流によって検出して水素燃料エンジン2における空燃比を求める空燃比センサ43が配置されている。本形態の空燃比センサ43は、排気管3における、第1触媒31よりも排気ガスGの流れの上流側の位置に配置されている。空燃比制御部51は、空燃比センサ43による空燃比が目標空燃比になるよう、水素と燃焼用空気との比率を調整するよう構成されている。
【0042】
(エンジン制御装置5)
図1に示すように、排気浄化システム1は、水素燃料エンジン2における燃焼動作を制御するエンジン制御装置5を備える。エンジン制御装置5は、エンジンコントロールユニット(ECU)とも呼ばれ、水素自動車に搭載されたものである。エンジン制御装置5は、空燃比を調整するために、水素燃料エンジン2の燃焼室に吸気する燃焼用空気の質量と、水素噴射装置から噴射される水素の質量との少なくとも一方を適宜調整する。燃焼室には、水素が直接噴射されてもよく、水素と燃焼用空気との混合気が供給されてもよい。
【0043】
(空燃比制御部51)
図1に示すように、エンジン制御装置5は、水素燃料エンジン2における空燃比を調整する空燃比制御部51を有する。空燃比制御部51は、水素リッチ制御と水素リーン制御とを交互に繰り返し行うよう構成されている。この構成により、還元剤供給装置等の特別な装置を用いることなく、第1触媒31において生成されるアンモニアを、第2触媒32において、NOxを浄化するために有効に活用することができる。
【0044】
空燃比制御部51は、水素リッチ制御を行うときには、水素燃料エンジン2における空燃比を、理論空燃比又は理論空燃比よりも水素リッチ側の空燃比にする。そして、水素リッチ制御が行われるときには、第1触媒31においてNOxが還元されるとともに、水素燃料エンジン2から排気管3に排気される水素及びNOxが用いられてアンモニアが生成され、かつ第2触媒32において、第1触媒31から流出するアンモニアが吸着される。
【0045】
水素燃料エンジン2における空燃比が水素リッチ側になるほど、排気ガスGに含まれるNOxが減少する一方、排気ガスGに含まれる水素の量が増加し、第1触媒31において水素を用いて生成されるアンモニアの量が増加する。そのため、空燃比制御部51は、第1触媒31におけるアンモニアの生成量を増加させる場合には、水素燃料エンジン2における空燃比をより水素リッチ側にする。一方、第1触媒31におけるアンモニアの生成量を減少させる場合には、水素燃料エンジン2における空燃比をより水素リーン側にする。
【0046】
空燃比制御部51が水素リーン制御を行うときには、水素燃料エンジン2における空燃比を、理論空燃比よりも水素リーン側の空燃比にする。そして、水素リーン制御が行われるときには、第1触媒31においてNOxが浄化(還元)されるとともに、第1触媒31において浄化されなかったNOxが第1触媒31を通過する。次いで、第1触媒31を通過して第2触媒32に流入するNOxは、第2触媒32に吸着されたアンモニアによって浄化(還元)される。第2触媒32に吸着されたアンモニアは、NOxとの反応に用いられて減少する。
【0047】
水素燃料エンジン2における空燃比が水素リーン側になるほど、第1触媒31におけるアンモニアの生成量が減少する一方、排気ガスGに含まれるNOxの量が増加する。そして、水素リーン側になるほど、第1触媒31においてNOxを浄化しきれず、第1触媒31から第2触媒32へNOxが流出する量が増加する。
【0048】
空燃比制御部51によって水素リッチ制御が行われるときには、水素燃料エンジン2から排気管3に排気される排気ガスGに含まれるNOxの量はそれほど多くなく、このNOxの多くは、第1触媒31において分解されて浄化される。また、第1触媒31から第2触媒32に流入して、第2触媒32に吸着されるアンモニアの量は、時間の経過とともに徐々に増加し、いずれは飽和状態になる。そして、本形態の空燃比制御部51は、第2触媒32におけるアンモニアの吸着量が飽和状態になる前に、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換える。
【0049】
(性能低下推定部56)
図1に示すように、本形態の性能低下推定部56は、第2触媒32におけるNOxの還元性能低下度を推定するために、水素リッチ制御を開始してからの経過時間、及び水素リッチ制御を行うときの水素燃料エンジン2の空燃比(理論空燃比から水素リッチ側へのシフトの度合)を利用する。水素リッチ制御が長い時間行われることによって、第2触媒32に酸素が供給されず、第2触媒32におけるNOxの還元性能が低下する。
【0050】
図3に示すように、水素リッチ制御を開始してからの経過時間及び空燃比と、第2触媒32におけるNOxの還元性能低下度との関係は、関係マップMとしてエンジン制御装置5に記憶されている。関係マップMは、空燃比をパラメータとして経過時間と還元性能低下度との関係として作成することができる。また、関係マップMは、排気浄化システム1の試運転等を行う際に、実験データを取得して作成される。
【0051】
水素リッチ制御を開始してからの経過時間が長くなるほど還元性能低下度は増加する。また、水素燃料エンジン2の空燃比が、より小さくなるほど(より水素リッチ側になるほど)、還元性能低下度は増加する。これらの関係に基づいて、関係マップMは作成される。
【0052】
排気浄化システム1を運転する際に、水素リッチ制御を開始してからの経過時間及び空燃比の履歴は、エンジン制御装置5に記憶される。そして、性能低下推定部56は、経過時間及び空燃比の履歴を関係マップMに照合し、関係マップMより還元性能低下度を求めることができる。
【0053】
(空燃比制御部51による制御)
本形態の空燃比制御部51は、性能低下推定部56による還元性能低下度を監視し、還元性能低下度に応じて水素リッチ制御と水素リーン制御とを切り換えて実行するよう構成されている。本形態においては、性能低下推定部56による還元性能低下度が規定の許容低下度未満であるときには、空燃比制御部51による水素リッチ制御が行われる。また、性能低下推定部56による還元性能低下度が許容低下度以上であるときには、空燃比制御部51による水素リーン制御が行われる。
【0054】
許容低下度は、第2触媒32によるNOxの還元性能が、例えば、初期の還元性能の50%以上低下したときとして定めることができる。本形態の許容低下度は、水素リーン制御が行われるごとに0(ゼロ)にリセットされる。後述する実施形態4,5における許容低下度は、第2触媒32に空気(酸素)が供給されるごとに0にリセットされる。性能低下推定部56を用いることにより、第2触媒32の還元性能が不十分になる前に、第2触媒32の還元性能を回復させることができる。
【0055】
(排気浄化システム1の制御方法)
次に、排気浄化システム1の制御方法について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
本形態の排気浄化システム1は、エンジン制御装置5の空燃比制御部51による水素燃料エンジン2の燃焼運転が行われる際に利用される。空燃比制御部51は、まず、水素燃料エンジン2における目標空燃比を水素リッチ側の空燃比にして、水素リッチ制御を開始する(ステップS101)。水素リッチ制御が行われるとき、水素燃料エンジン2から排気管3の第1触媒31に排気される排気ガスGには、NOxがあまり含まれない一方、水素が多く含まれる。そして、第1触媒31においては、水素を用いてアンモニアが生成され、生成されたアンモニアは第2触媒32に流入して第2触媒32に吸着される。また、水素リッチ制御が行われるときには、排気ガスGに酸素が含まれず、第2触媒32に酸素が供給されないことにより、第2触媒32のNOxの還元性能が低下していく。
【0056】
次いで、性能低下推定部56は、水素リッチ制御を開始してからの経過時間(リッチ経過時間)を計測するとともに、水素燃料エンジン2における空燃比の履歴を記憶する(ステップS102)。次いで、性能低下推定部56は、経過時間及び空燃比の履歴を関係マップMに照合し、関係マップMに基づいて還元性能低下度を決定する(ステップS103)。次いで、性能低下推定部56は、関係マップMに基づいて決定された還元性能低下度が規定の許容低下度以上になったか否かを判定する(ステップS104)。空燃比制御部51は、還元性能低下度が許容低下度以上になるまでは水素リッチ制御を実行する。
【0057】
次いで、還元性能低下度が許容低下度以上になったときには、空燃比制御部51は、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換え、水素燃料エンジン2における目標空燃比を水素リーン側の一定の空燃比にして、水素リーン制御を実行する(ステップS105)。水素リーン制御が行われるとき、水素燃料エンジン2から排気管3の第1触媒31に排気される排気ガスGには、水素がほとんど含まれない一方、NOxが多く含まれる。排気ガスGに含まれるNOxは、第1触媒31において一部が浄化されるものの、第1触媒31における浄化能力を超えた量のNOxが第1触媒31から第2触媒32へ流出する。そして、第2触媒32においては、第2触媒32に吸着されたアンモニアを還元剤として、第1触媒31から流入するNOxが浄化(還元)される。また、水素リーン制御が行われるときには、排気ガスGに酸素が含まれ、第2触媒32に酸素が供給されることにより、第2触媒32のNOxの還元性能が回復する。
【0058】
また、性能低下推定部56は、水素リーン制御が行われるときに、水素リッチ制御を開始してからの経過時間、及び還元性能低下度をゼロにリセットする。また、空燃比制御部51は、水素リーン制御に切り換わった時からの時間の経過を測定し、この時間の経過(リーン経過時間)が規定の切換時間になるまで水素リーン制御を実行する(ステップS106)。規定の切換時間が経過したときには、空燃比制御部51は、水素リーン制御を水素リッチ制御に切り換える(ステップS101)。
【0059】
その後、空燃比制御部51によって水素リッチ制御と水素リーン制御とが繰り返される。また、排気浄化システム1における水素リッチ制御及び水素リーン制御は、水素燃料エンジン2の燃焼停止等の適宜条件を受けて停止される。
【0060】
(還元性能低下度の変化)
図5(a)には、水素燃料エンジン2における空燃比が、水素リッチ側と水素リーン側とに交互に切り換わる状態を示す。また、
図5(b)には、第2触媒32におけるアンモニアの吸着推定量が、水素リッチ制御が行われるときに増加し、水素リーン制御が行われるときに減少する状態を示す。また、
図5(c)には、第2触媒32における還元性能低下度が、水素リッチ制御が行われるときに増加し、水素リーン制御が行われるときに減少する状態を示す。
【0061】
(NOxとアンモニアの関係)
図6においては、水素燃料エンジン2における空燃比が変化したときに、第1触媒31から流出するアンモニア、NOx及びN
2O(亜酸化窒素)の各濃度[ppm]がどれだけ変化するかを示す。各濃度は、排気管3における、第1触媒31と第2触媒32との間の位置における値として示す。アンモニアの濃度は、第1触媒31において生成されるアンモニアの量を示し、NOxの濃度及びN
2Oの濃度は、第1触媒31において浄化されずに第1触媒31を通過するNOxの量及びN
2Oの量を示す。なお、水素燃料エンジン2から排気管3には2000[ppm]の濃度のNOxが排出される場合を想定した。
【0062】
空燃比が水素リッチ側になるほど第1触媒31において生成されるアンモニアの量は増加する。一方、空燃比が水素リーン側になるほど第1触媒31から流出するNOxの量及びN2Oの量は増加する。つまり、第1触媒31において生成されるアンモニアの量と、第1触媒31から流出するNOxの量及びN2Oの量とはトレードオフの関係にある。
【0063】
(作用効果)
本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1においては、水素燃料エンジン2から排気される水素を利用して、NOxを効果的に浄化する工夫をしている。具体的には、水素燃料エンジン2から排気ガスGが排気される排気管3に、NOxを還元する性質を有する第1触媒31と、アンモニアを吸着する性質を有する第2触媒32とを配置している。
【0064】
そして、水素リッチ制御が行われるときに、第1触媒31においては、NOxが分解されて還元されるときに生じる窒素を、水素との反応に用いて、アンモニアを生成することができる。また、第2触媒32においては、水素リッチ制御が行われるときに、第1触媒31から流れ込むアンモニアを吸着し、水素リーン制御が行われるときに、吸着されたアンモニアを、第1触媒31から流れ込むNOxを還元するために用いることができる。
【0065】
そのため、エンジン制御装置5の空燃比制御部51によって、水素燃料エンジン2から排気管3へ、水素が排気されるタイミングとNOxが排気されるタイミングとを適切にコントロールすることにより、水素を利用して、大気へのNOxの放出量を効果的に抑制することができる。
【0066】
また、排気浄化システム1においては、第1触媒31及び第2触媒32以外に、還元剤を生成する装置等を用いる必要がない。そして、エンジン制御装置5の空燃比制御部51による水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えにより、NOx及びアンモニアを浄化して、これらが大気に放出されないようにすることができる。
【0067】
また、水素リッチ制御を継続して行うときには、第2触媒32における触媒成分の劣化が生じ、第2触媒32におけるNOxの還元性能が低下する。そこで、エンジン制御装置5に、第2触媒32におけるNOxの還元性能低下度を推定する性能低下推定部56を設け、空燃比制御部51は、性能低下推定部56による還元性能低下度が許容低下度以上になったときには、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換えるようにしている。これにより、第2触媒32における触媒成分に劣化が生じたと推定されるときには、この触媒成分の劣化を回復させ、第2触媒32におけるNOxの還元性能を回復させることができる。
【0068】
それ故、本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1によれば、第2触媒32の性能低下を回復しつつ、排気ガスGに含まれる水素を利用して、大気へNOx及びアンモニアが放出されないようにすることができる。
【0069】
<実施形態2>
本形態の排気浄化システム1においては、
図7に示すように、性能低下推定部56は、第2触媒32から流出するNOxの濃度に基づいて第2触媒32の還元性能低下度を推定する。本形態の性能低下推定部56は、排気管3における、第2触媒32よりも排気ガスGの流れの下流側の位置に配置された下流側NOxセンサ45を用いる。
【0070】
第2触媒32の還元性能が低下したときには、第2触媒32において還元できなくなったNOxが、第2触媒32から排気管3に流出すると考えられる。この場合には、下流側NOxセンサ45によってNOxの流出が検出される。性能低下推定部56は、下流側NOxセンサ45によるNOxの濃度を検出し、この濃度が所定濃度以上になったときには、第2触媒32に還元性能の低下が生じていると判定することができる。この所定濃度は、下流側NOxセンサ45の検出誤差範囲よりも高い濃度として設定すればよい。
【0071】
(排気浄化システム1の制御方法)
次に、本形態の排気浄化システム1の制御方法について、
図8のフローチャートを参照して説明する。
本形態の排気浄化システム1においても、実施形態1のステップS101と同様にステップS201が実行される。次いで、性能低下推定部56は、下流側NOxセンサ45によるNOxの濃度を検出する(ステップS202)。次いで、性能低下推定部56は、NOxの濃度が所定濃度以上になったか否かを判定する(ステップS203)。空燃比制御部51は、NOxの濃度が所定濃度以上になるまでは水素リッチ制御を実行する。下流側NOxセンサ45によってNOxが検出されるときには、第2触媒32に酸素が供給されないことによって、第2触媒32の還元性能が低下していることが推定される。
【0072】
次いで、NOxの濃度が所定濃度以上になったときには、性能低下推定部56が、還元性能低下度が許容低下度以上になったと検知し、空燃比制御部51は、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換え、水素燃料エンジン2における目標空燃比を水素リーン側の一定の空燃比にして、水素リーン制御を実行する(ステップS204)。水素リーン制御が行われるときには、第2触媒32のNOxの還元性能が回復する。
【0073】
また、空燃比制御部51は、水素リーン制御に切り換わった時からの時間の経過を測定し、この時間の経過(リーン経過時間)が規定の切換時間になるまで水素リーン制御を実行する(ステップS205)。規定の切換時間が経過したときには、空燃比制御部51は、水素リーン制御を水素リッチ制御に切り換える(ステップS201)。
【0074】
その後、空燃比制御部51によって水素リッチ制御と水素リーン制御とが繰り返される。また、排気浄化システム1における水素リッチ制御及び水素リーン制御は、水素燃料エンジン2の燃焼停止等の適宜条件を受けて停止される。
【0075】
なお、性能低下推定部56は、下流側NOxセンサ45によるNOxの濃度と、排気管3を流れる排気ガスGの流量とに基づいて、第2触媒32から流出するNOxの流出推定量を求めてもよい。そして、この流出推定量が所定量以上になったときに、性能低下推定部56は、第2触媒32の還元性能低下度が許容低下度以上になったと検知してもよい。排気管3を流れる排気ガスGの流量は、水素燃料エンジン2の吸気管における燃焼用空気の流量、及び水素燃料エンジン2の燃料噴射装置からの水素の噴射量に基づいて推定することができる。
【0076】
(作用効果)
本形態の排気浄化システム1においては、排気管3における第2触媒32の下流側に配置された下流側NOxセンサ45によって、第2触媒32における還元性能低下度をより直接的に推定することができる。
【0077】
本形態の排気浄化システム1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0078】
<実施形態3>
本形態の排気浄化システム1においては、
図9に示すように、性能低下推定部56は、水素リッチ制御を開始してからの経過時間及び水素リッチ制御を行うときの空燃比の他に、第1触媒31から流出するNOxの流出推定量及び第2触媒32に吸着されたアンモニアの吸着推定量も用いて還元性能低下度を推定する。本形態のエンジン制御装置5は、性能低下推定部56を構成するために、アンモニア検知部52、NOx(窒素酸化物)検知部、第1温度検知部54及び第2温度検知部55を有する。
【0079】
(アンモニア検知部52)
図9に示すように、本形態のエンジン制御装置5は、第2触媒32に吸着されたアンモニアの量を吸着推定量として推定するアンモニア検知部52を有する。第2触媒32におけるアンモニアの吸着推定量は、第1触媒31から第2触媒32に流入するアンモニアの量に依存する。そして、アンモニア検知部52は、第1温度検知部54による第1触媒31の温度及びこの温度の変化の履歴、水素リッチ制御が行われた時間、水素燃料エンジン2における空燃比の値もしくは履歴(理論空燃比から水素リッチ側へのシフトの度合)等に基づいて吸着推定量を推定する。また、アンモニア検知部52は、主に第1触媒31の温度の変化の履歴等に基づいてアンモニアの吸着推定量を推定してもよい。
【0080】
(NOx検知部53)
図9に示すように、本形態のエンジン制御装置5は、第1触媒31から流出する(第1触媒31を通過する)NOxの量をNOxの流出推定量として推定するNOx検知部53を有する。NOx検知部53は、排気管3における、第1触媒31と第2触媒32との間の位置に配置された上流側NOxセンサ44を利用して、第1触媒31から流出するNOxの流出推定量を推定する。
【0081】
また、図示は省略するが、エンジン制御装置5は、排気管3を流れる排気ガスGの流量を推定する流量推定部を有する。流量推定部は、水素燃料エンジン2の吸気管における燃焼用空気の流量、及び燃料噴射装置からの水素の噴射量に基づいて、排気ガスGの流量を推定する。また、流量推定部は、排気管3を流れる排気ガスGの流量を測定する流量計を用いて、排気ガスGの流量を検知してもよい。NOx検知部53によるNOxの流出推定量は、上流側NOxセンサ44によるNOxの濃度及び排気ガスGの流量の時間的変化に基づいて求められる。
【0082】
NOx検知部53は、上流側NOxセンサ44を利用せずに、水素燃料エンジン2における空燃比の変化、及び第1触媒31におけるNOxの還元能力の変化を利用して、NOxの流出推定量を推定することもできる。また、NOx検知部53は、空燃比が水素リーン側になるほどNOxが多く発生して第1触媒31から流出するNOxが多くなることを指標にし、推定されるNOxの流出量を積算して、NOxの流出推定量を求めることもできる。
【0083】
(第1温度検知部54)
図9に示すように、エンジン制御装置5は、第1触媒31の温度を推定又は測定する第1温度検知部54を有する。本形態の第1温度検知部54は、排気管3における、第1触媒31の上流側の位置に配置された第1温度センサ41によって測定された温度から、第1触媒31の温度を推定するよう構成されている。第1温度検知部54によって第1触媒31の温度を検知することにより、第1触媒31において生成されたアンモニアの量を推定することができる。第1温度検知部54は、第1触媒31の温度を測定する第1温度センサ41を用いて構成してもよい。
【0084】
(第2温度検知部55)
図9に示すように、エンジン制御装置5は、第2触媒32の温度を推定又は測定する第2温度検知部55を有する。本形態の第2温度検知部55は、排気管3における、第2触媒32の上流側の位置に配置された第2温度センサ42によって測定された温度から、第2触媒32の温度を推定するよう構成されている。第2温度検知部55によって第2触媒32の温度を検知することにより、第2触媒32の温度が、アンモニアを還元剤としてNOxを浄化(還元)する触媒活性温度になっていることを条件にして、空燃比制御部51による水素リッチ制御から水素リーン制御への切り換えを可能にしてもよい。第2温度検知部55は、第2触媒32の温度を測定する第2温度センサ42を用いて構成してもよい。触媒活性温度は、第2触媒32に吸着されたアンモニアによるNOxの還元が可能となる温度として定められる。触媒活性温度は、例えば200℃以上とすることができる。
【0085】
(性能低下推定部56)
本形態の空燃比制御部51も、通常は水素リッチ制御を行う。水素リーン制御が行われる時間の長さは、水素リッチ制御が行われる時間の長さに比べて短い。水素リッチ制御を行う時間が長くなると、アンモニア検知部52によるアンモニアの吸着推定量が増加する。そして、アンモニアの吸着推定量が増加するほど、第2触媒32における還元性能が低下すると考えられる。また、排気ガスGにおけるNOxは、水素リッチ制御を行うときにも発生する。水素リッチ制御を開始してからの経過時間が長くなり、第2触媒32における還元性能が低下するときには、第1触媒31から流出するNOxの流出推定量が増加すると考えられる。
【0086】
本形態の性能低下推定部56は、アンモニアの吸着推定量及びNOxの流出推定量も加味して総合的に、第2触媒32の還元性能低下度を推定する。本形態のエンジン制御装置5における関係マップは、水素リッチ制御を開始してからの経過時間、空燃比の履歴、アンモニアの吸着推定量及びNOxの流出推定量と、還元性能低下度との関係を実験的に求めることによって作成される。
【0087】
(排気浄化システム1の制御方法)
次に、本形態の排気浄化システム1の制御方法について、
図10のフローチャートを参照して説明する。
本形態の排気浄化システム1においても、実施形態1のステップS101と同様にステップS301が実行される。次いで、空燃比制御部51は、第2温度検知部55によって第2触媒32の温度を検知する(ステップS302)。そして、空燃比制御部51は、第2温度検知部55による第2触媒32の温度が触媒活性温度以上であるか否かを判定する(ステップS303)。第2温度検知部55による第2触媒32の温度が触媒活性温度未満である場合には、この温度が触媒活性温度以上になるまで待機する。
【0088】
次いで、第2温度検知部55による第2触媒32の温度が触媒活性温度以上である場合には(ステップS303)、アンモニア検知部52は、第1温度検知部54によって第1触媒31の温度を検知する(ステップS304)。そして、アンモニア検知部52は、第1温度検知部54による第1触媒31の温度、水素リッチ制御が行われた時間、水素燃料エンジン2の空燃比の履歴等に基づいて、第2触媒32におけるアンモニアの吸着推定量を推定する(ステップS305)。
【0089】
また、NOx検知部53は、上流側NOxセンサ44による第1触媒31の下流側のNOxの濃度、及び排気ガスGの流量に基づいて、水素リッチ制御を開始してからの第1触媒31から流出するNOxの流出推定量を推定する(ステップS305)。また、性能低下推定部56は、水素リッチ制御を開始してからの経過時間(リッチ経過時間)を計測するとともに、水素燃料エンジン2における空燃比の履歴を記憶する(ステップS305)。
【0090】
次いで、性能低下推定部56は、経過時間、空燃比の履歴、アンモニアの吸着推定量及びNOxの流出推定量を関係マップに照合し、関係マップに基づいて還元性能低下度を決定する(ステップS306)。次いで、性能低下推定部56は、関係マップに基づいて決定された還元性能低下度が規定の許容低下度以上になったか否かを判定する(ステップS307)。空燃比制御部51は、還元性能低下度が許容低下度以上になるまで水素リッチ制御を実行する。
【0091】
次いで、還元性能低下度が許容低下度以上になったときには、空燃比制御部51は、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換えて、水素リーン制御を実行する(ステップS308)。水素リーン制御が行われるときには、第2触媒32のNOxの還元性能が回復する。
【0092】
次いで、NOx検知部53は、上流側NOxセンサ44による第1触媒31の下流側のNOxの濃度、及び排気ガスGの流量に基づいて、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換わった時点からの、第1触媒31におけるNOxの流出推定量を推定する(ステップS309)。そして、空燃比制御部51は、NOx検知部53によるNOxの流出推定量が規定の目標流出量になったか否かを判定する(ステップS310)。流出推定量が目標流出量になるまでは水素リーン制御が継続される。そして、流出推定量が目標流出量になったときには、空燃比制御部51は、水素リーン制御を水素リッチ制御に切り換える(ステップS301)。
【0093】
その後、空燃比制御部51によって水素リッチ制御と水素リーン制御とが繰り返される。また、排気浄化システム1における水素リッチ制御及び水素リーン制御は、水素燃料エンジン2の燃焼停止等の適宜条件を受けて停止される。
【0094】
(作用効果)
本形態の排気浄化システム1においては、性能低下推定部56がアンモニアの吸着推定量及びNOxの流出推定量も加味して第2触媒32の還元性能低下度を推定することにより、還元性能低下度をより的確に推定できる場合がある。
【0095】
本形態の排気浄化システム1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0096】
なお、性能低下推定部56は、水素リッチ制御を開始してからの経過時間、水素リッチ制御を行うときの空燃比、第2触媒32から流出するNOxの濃度もしくは流出推定量、第1触媒31から流出するNOxの濃度もしくは流出推定量、及び第2触媒32に吸着されたアンモニアの吸着推定量のうちのいずれか1つ、複数又はすべてを、適宜組み合わせて還元性能低下度を推定してもよい。
【0097】
<実施形態4>
本形態の排気浄化システム1においては、
図11に示すように、第2触媒32の還元性能が低下したと推定される場合に、水素リーン制御を行うだけでなく、酸素供給部57によって第2触媒32へ酸素を供給する。本形態のエンジン制御装置5は、排気管3内の第2触媒32に酸素を供給して、第2触媒32の還元性能を回復させるための酸素供給部57を備える。
【0098】
(酸素供給部57)
本形態の酸素供給部57は、水素リーン制御を行うときであって性能低下推定部56による還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったときに、水素燃料エンジン2を構成する複数の気筒21における1つの気筒21の燃焼を停止することにより、当該燃焼が停止された気筒21(燃焼停止気筒21という。)から排気管3に燃焼用空気Aを供給するよう構成されている。本形態の酸素供給部57は、エンジン制御装置5内に構築されている。1つの気筒21の燃焼を停止したときには、水素燃料エンジン2は、残りの気筒21の燃焼によって運転が継続される。
【0099】
気筒21における燃焼の停止は、燃焼停止気筒21へ燃料としての水素が供給されないようにして行う。この水素の供給の停止は、各気筒21に対して設けられた水素噴射装置のうちの、燃焼を停止したい水素噴射装置の水素の噴射を停止させることによって行うことができる。水素の供給が停止された燃焼停止気筒21へは、吸気管から燃焼用空気Aのみが流入する状態が形成される。そして、燃焼停止気筒21に流入した燃焼用空気Aが排気管3へ排気されることにより、排気管3内の第2触媒32に酸素を含む燃焼用空気Aが供給される。なお、燃焼が停止されていない残りの気筒21からは、水素と燃焼用空気Aとが燃焼を行った後の燃焼ガスが排気管3へ排気ガスGとして排気される。
【0100】
本形態の空燃比制御部51は、通常は水素リッチ制御を行うよう構成されている。そして、水素リッチ制御を行うことにより、排気ガスGに含まれるNOxの量を減らし、NOxが大気に放出されないようにする。また、空燃比制御部51は、性能低下推定部56による還元性能低下度が許容低下度以上になったときには、空燃比制御部51による水素リーン制御を行うよう構成されている。また、空燃比制御部51は、NOx検知部53によるNOxの流出推定量が規定の流出推定量になったときに、水素リーン制御を水素リッチ制御に切り換えるよう構成されている。
【0101】
本形態の性能低下推定部56は、実施形態1~3に示した種々の構成によって還元性能低下度を推定することができる。本形態の性能低下推定部56は、還元性能低下度が許容低下度になったか否か、及び還元性能低下度が、許容低下度よりも低下の度合が大きい酸素供給低下度になったか否かの2段階で、第2触媒32の還元性能低下度を判定する。空燃比制御部51は、性能低下推定部56の還元性能低下度が許容低下度になったときには、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換えるよう構成されている。また、空燃比制御部51は、性能低下推定部56の還元性能低下度が酸素供給低下度になったときには、水素リーン制御を行う際に、酸素供給部57から第2触媒32へ酸素を供給するよう構成されている。
【0102】
このような構成により、水素リーン制御が複数回行われるときの少なくともいずれかの水素リーン制御において、酸素供給部57によって第2触媒32へ酸素が供給される。換言すれば、空燃比制御部51によって複数回繰り返し水素リーン制御が行われるときの、第2触媒32の還元性能の低下が推定されたいずれかの水素リーン制御において、酸素供給部57によって第2触媒32へ酸素が供給される。酸素供給部57による第2触媒32への酸素の供給は、水素リーン制御が複数回行われるごとに行われることがある。水素リーン制御が行われるときには、常に酸素供給部57による第2触媒32への酸素の供給が行われる訳ではない。
【0103】
なお、酸素供給部57による第2触媒32への酸素の供給は、水素リーン制御が行われるごとに行われてもよい。この構成は、実施形態1~3に示した水素リーン制御を行うときに、複数の気筒21のうちのいずれかの気筒21の燃焼を停止させて、第2触媒32へ燃焼用空気Aに含まれる酸素を供給することによって実現される。
【0104】
(排気浄化システム1の制御方法)
次に、本形態の排気浄化システム1の制御方法について、
図12のフローチャートを参照して説明する。
本形態の排気浄化システム1においても、実施形態3のステップS301~S303と同様にステップS401~S403が実行される。次いで、第2温度検知部55による第2触媒32の温度が触媒活性温度以上である場合には(ステップS403)、性能低下推定部56は、水素リッチ制御を開始してからの経過時間(リッチ経過時間)を計測するとともに、水素燃料エンジン2における空燃比の履歴を記憶する(ステップS404)。
【0105】
次いで、性能低下推定部56は、経過時間及び空燃比の履歴を関係マップMに照合し、関係マップMに基づいて還元性能低下度を決定する(ステップS405)。次いで、性能低下推定部56は、関係マップMに基づいて決定された還元性能低下度が規定の許容低下度以上になったか否かを判定する(ステップS406)。空燃比制御部51は、還元性能低下度が許容低下度以上になるまでは水素リッチ制御を実行する。
【0106】
次いで、還元性能低下度が許容低下度以上になったときには、空燃比制御部51は、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換え、水素リーン制御を実行する(ステップS407)。水素リーン制御が行われるときには、性能低下推定部56は、下流側NOxセンサ45によるNOxの濃度を検出する(ステップS408)。次いで、性能低下推定部56は、NOxの濃度が所定濃度以上になったか否かを判定する(ステップS409)。次いで、NOxの濃度が所定濃度以上になったときには、性能低下推定部56が、還元性能低下度が、許容低下度よりも還元性能の低下の度合が大きい酸素供給低下度以上になったと検知する。そして、酸素供給部57は、水素燃料エンジン2における複数の気筒21のうちの1つの気筒21の燃焼を停止させる(ステップS410)。
【0107】
このとき、排気管3には、1つの燃焼停止気筒21から排気される燃焼用空気Aが供給され、第2触媒32に燃焼用空気Aに含まれる酸素が供給される。そして、第2触媒32の還元性能が回復する。一方、NOxの濃度が所定濃度未満であるときには(ステップS409)、酸素供給部57による第2触媒32への酸素の供給は行われない。
【0108】
次いで、NOx検知部53は、上流側NOxセンサ44による第1触媒31の下流側のNOxの濃度、及び排気ガスGの流量に基づいて、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換わった時点からの、第1触媒31におけるNOxの流出推定量を推定する(ステップS411)。そして、空燃比制御部51は、NOx検知部53によるNOxの流出推定量が規定の目標流出量になったか否かを判定する(ステップS412)。流出推定量が目標流出量になるまでは水素リーン制御が継続される。そして、流出推定量が目標流出量になったときには、空燃比制御部51は、水素リーン制御を水素リッチ制御に切り換える(ステップS401)。
【0109】
その後、空燃比制御部51によって水素リッチ制御と水素リーン制御とが繰り返される。また、排気浄化システム1における水素リッチ制御及び水素リーン制御は、水素燃料エンジン2の燃焼停止等の適宜条件を受けて停止される。
【0110】
なお、性能低下推定部56は、実施形態1,3に示した構成を有していてもよい。また、性能低下推定部56による還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったか否かの判定は、水素リッチ制御が実行される際に行われてもよい。
【0111】
(還元性能低下度の変化)
図13(a)には、水素燃料エンジン2における空燃比が、水素リッチ側と水素リーン側とに交互に切り換わる状態を示す。また、
図13(b)には、第2触媒32におけるアンモニアの吸着推定量が、水素リッチ制御が行われるときに増加し、水素リーン制御が行われるときに減少する状態を示す。また、
図13(c)には、水素リーン制御を行うときに、性能低下推定部56による還元性能低下度が酸素供給低下度以上になっているときには、酸素供給部57によって第2触媒32へ酸素を供給する状態を示す。
【0112】
また、
図13(d)には、水素リッチ制御、水素リーン制御及び酸素供給部57による酸素の供給の各場面における第2触媒32の還元性能低下度の変化の仕方を示す。本形態の還元性能低下度は、水素リッチ制御が行われるときに悪化し、還元性能低下度が許容低下度以上になったときに水素リーン制御が行われる。このとき、還元性能低下度は、酸素の供給が必要な酸素供給低下度にはなっておらず、水素リーン制御が行われるときに、ある程度まで回復する。還元性能低下度は、次の水素リッチ制御が行われるときに再び悪化し、酸素供給低下度以上になる。そして、次の水素リーン制御が行われるときに酸素供給部57から第2触媒32に酸素が供給されることにより、還元性能低下度はほぼ完全に回復する。
【0113】
なお、
図13(a)~(d)における、水素リッチ制御、水素リーン制御及び酸素の供給を行う時間の長さは模式的に示す。実際の時間の長さは、第1触媒31においてアンモニアが生成される時間、第2触媒32においてアンモニアが消費される時間等によって適宜異なる。また、酸素供給部57によって酸素を供給する時間の長さは、極めて短くてもよいと考えられる。
【0114】
(作用効果)
水素リーン制御が行われるときには、排気ガスGに含まれる酸素によって、第2触媒32の還元性能の低下を十分に回復できることがある。しかし、水素リーン制御を行う時間を短くしたい場合、あるいは水素リーン制御を行うだけでは第2触媒32へ十分に酸素を供給できない場合等には、酸素供給部57によって強制的に第2触媒32へ酸素を供給することが有効である。酸素供給部57による酸素の供給により、第2触媒32に生じた還元性能の低下(劣化)を迅速かつ効果的に回復させることができる。
【0115】
本形態の酸素供給部57は、水素燃料エンジン2における気筒21の燃焼運転を変更することによって実現することができる。そのため、特別な装置を設けることなく、第2触媒32に酸素を供給することができる。
【0116】
本形態の排気浄化システム1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1~3の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1~3に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1~3の構成要素と同様である。
【0117】
<実施形態5>
本形態の排気浄化システム1においても、
図14に示すように、第2触媒32の還元性能が低下したと推定される場合に、水素リーン制御を行うだけでなく、酸素供給部57によって第2触媒32へ酸素を供給する。本形態の酸素供給部57は、排気管3内における、第2触媒32よりも排気ガスGの流れの上流側の位置に配置された空気供給装置6を用いて構成されている。空気供給装置6は、水素リーン制御を行うときであって性能低下推定部56による還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったときに、第2触媒32に空気Kを供給するよう構成されている。
【0118】
(空気供給装置6)
図14に示すように、空気供給装置6は、空気Kを圧縮する圧縮機61と、圧縮機61によって圧縮された空気Kを排気管3内に導入するノズル62とを有する。空気Kは、例えば、20℃±15℃の大気とすることができる。ノズル62は、排気管3内における、第2触媒32よりも排気ガスGの流れの上流側の位置であって、第1触媒31よりも排気ガスGの流れの下流側の位置に配置されている。そして、ノズル62によって、排気管3における、第1触媒31と第2触媒32との間の位置に空気Kが供給される。
【0119】
また、空気供給装置6は、空燃比制御部51による水素リーン制御を行うときを条件として、排気管3内の第2触媒32に空気Kを供給するよう構成されている。アンモニアが存在する状態の排気管3に酸素が供給されると、アンモニアと酸素が反応してNOxが生成されるおそれがある。そのため、水素の反応によるアンモニアが排気管3に流出しない状態が形成される水素リーン制御において、排気管3に空気Kが供給されることにより、不要なNOxの発生を抑えることができる。
【0120】
本形態の性能低下推定部56も、実施形態1~3に示した種々の構成によって還元性能低下度を推定することができる。そして、空燃比制御部51によって複数回繰り返し水素リーン制御が行われるときの、第2触媒32の還元性能の低下が推定されたいずれかの水素リーン制御において、空気供給装置6から第2触媒32へ酸素が供給される。
【0121】
なお、空気供給装置6による第2触媒32への酸素の供給は、水素リーン制御が行われるごとに行われてもよい。この構成は、実施形態1~3に示した水素リーン制御を行うときに、常に空気供給装置6から排気管3へ空気Kを供給することによって実現される。
【0122】
(作用効果)
本形態においては、空気供給装置6を用いることにより、第2触媒32の還元性能の低下を回復するために必要な酸素を、迅速に第2触媒32に供給することができる。また、空気供給装置6を用いることにより、第2触媒32に酸素を供給するために水素燃料エンジン2の気筒21を停止する制御が不要になる。
【0123】
本形態の排気浄化システム1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1~4の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1~4に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1~4の構成要素と同様である。
【0124】
<実施形態6>
本形態の排気浄化システム1においては、
図15に示すように、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換えられる条件が実施形態1~5の場合と異なる。本形態の空燃比制御部51は、アンモニア検知部52による第2触媒32におけるアンモニアの吸着推定量が吸着上限容量以上になったときに水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換えるよう構成されている。また、第2触媒32の還元性能が低下したと推定される場合には、水素リーン制御を行うだけでなく、酸素供給部57によって第2触媒32へ酸素を供給する。
【0125】
本形態の性能低下推定部56は、還元性能低下度が許容低下度以上になったか否かの判定は行わない一方、還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったか否かの判定を行う。そして、空燃比制御部51による水素リッチ制御から水素リーン制御への切り換えは、性能低下推定部56の判定とは関係なく行われる。性能低下推定部56による判定は、酸素供給部57から第2触媒32へ酸素を供給するか否かを判断するときに行われる。
【0126】
(排気浄化システム1の制御方法)
次に、本形態の排気浄化システム1の制御方法について、
図16のフローチャートを参照して説明する。
本形態の排気浄化システム1においても、実施形態3のステップS301~S303と同様にステップS601~S603が実行される。次いで、第2温度検知部55による第2触媒32の温度が触媒活性温度以上である場合には(ステップS603)、性能低下推定部56は、酸素供給のための経過時間を計測するとともに、水素燃料エンジン2における空燃比の履歴を記憶する(ステップS604)。
【0127】
また、アンモニア検知部52は、第1温度検知部54によって第1触媒31の温度を検知する(ステップS605)。そして、アンモニア検知部52は、第1温度検知部54による第1触媒31の温度、水素リッチ制御が行われた時間、水素燃料エンジン2の空燃比の履歴等に基づいて、第2触媒32におけるアンモニアの吸着推定量を推定する(ステップS606)。
【0128】
次いで、空燃比制御部51は、吸着推定量が吸着上限容量以上になったか否かを判定する(S607)。空燃比制御部51は、吸着推定量が吸着上限容量以上になるまで水素リッチ制御を実行する。次いで、吸着推定量が吸着上限容量以上になったときには、空燃比制御部51は、水素リッチ制御を水素リーン制御に切り換え、水素リーン制御を実行する(ステップS608)。
【0129】
水素リーン制御が行われるときには、性能低下推定部56は、水素リッチ制御において記憶したリッチ経過時間及び空燃比の履歴を関係マップに照合し、関係マップに基づいて還元性能低下度を決定する(ステップS609)。次いで、性能低下推定部56は、関係マップに基づいて決定された還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったか否かを判定する(ステップS610)。
【0130】
次いで、還元性能低下度が酸素供給低下度以上になったときには、酸素供給部57によって第2触媒32に酸素が供給される(ステップS611)。このとき、第2触媒32の還元性能が回復する。また、酸素供給部57によって酸素が供給されたときには、酸素供給のための経過時間、及び還元性能低下度をゼロにリセットする。一方、還元性能低下度が酸素供給低下度未満であるときには、酸素供給部57による第2触媒32への酸素の供給は行われない。
【0131】
次いで、NOx検知部53は、上流側NOxセンサ44による第1触媒31の下流側のNOxの濃度、及び排気ガスGの流量に基づいて、水素リッチ制御から水素リーン制御に切り換わった時点からの、第1触媒31におけるNOxの流出推定量を推定する(ステップS612)。そして、空燃比制御部51は、NOx検知部53によるNOxの流出推定量が規定の目標流出量になったか否かを判定する(ステップS613)。流出推定量が目標流出量になるまでは水素リーン制御が継続される。そして、流出推定量が目標流出量になったときには、空燃比制御部51は、水素リーン制御を水素リッチ制御に切り換える(ステップS601)。
【0132】
その後、空燃比制御部51によって水素リッチ制御と水素リーン制御とが繰り返される。また、排気浄化システム1における水素リッチ制御及び水素リーン制御は、水素燃料エンジン2の燃焼停止等の適宜条件を受けて停止される。
【0133】
(作用効果)
本形態の水素燃料エンジンの排気浄化システムにおいては、性能低下推定部56による第2触媒の還元性能低下度が、酸素供給部57によって第2触媒32へ酸素を供給するか否かの判定のために用いられる。そして、空燃比制御部51による水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えは、別の判定に基づいて行われる。
【0134】
また、本形態においては、水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えとは別に、性能低下推定部56による第2触媒32への酸素の供給の必要性を判定することができる。そのため、第2触媒へ酸素を供給するタイミングをより適切に設定できる場合がある。
【0135】
本形態の排気浄化システム1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1~5の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1~5に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1~5の構成要素と同様である。
【0136】
<実施形態7>
本形態の排気浄化システム1においては、
図17に示すように、エンジン制御装置5が性能低下推定部56を有しておらず、酸素供給部57を有している。本形態の空燃比制御部51は、水素リッチ制御と水素リーン制御とを規定の時間間隔で切り換えるよう構成されている。換言すれば、本形態においては、水素リッチ制御と水素リーン制御とが定期的に切り換わる。
【0137】
水素リッチ制御を行う時間の長さと、水素リーン制御を行う時間の長さとは、実験データ等に基づいて適宜設定することができる。本形態においては、第2触媒32におけるアンモニアの吸着速度、及び第2触媒32におけるアンモニアの消費速度等を実験的に求め、これらの速度に応じて、水素リッチ制御を行う時間の長さ及び水素リーン制御を行う時間の長さを決定することができる。
【0138】
(還元性能低下度の変化)
図18(a)には、水素燃料エンジン2における空燃比が、水素リッチ側と水素リーン側とに交互に切り換わる状態を示す。また、
図18(b)には、第2触媒32におけるアンモニアの吸着推定量が、水素リッチ制御が行われるときに増加し、水素リーン制御が行われるときに減少する状態を示す。また、
図18(c)には、所定回数目の水素リーン制御を行うときに、酸素供給部57によって第2触媒32へ酸素を供給する状態を示す。
【0139】
また、
図18(d)には、水素リッチ制御、水素リーン制御及び酸素供給部57による酸素の供給の各場面における第2触媒32の還元性能低下度の変化の仕方を示す。酸素供給部57による第2触媒32への酸素の供給は、水素リーン制御が複数回繰り返し行われるときの所定回数目に相当する水素リーン制御において行われる。換言すれば、水素リーン制御が行われる数回目おきに、酸素供給部57による第2触媒32への酸素の供給が行われる。
【0140】
(作用効果)
本形態の水素燃料エンジン2の排気浄化システム1においては、性能低下推定部56が用いられずに、酸素供給部57から第2触媒32へ酸素を供給するタイミングが決定される。また、空燃比制御部51による水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えは、定期的に行われる。
【0141】
本形態においては、第2触媒32の還元性能が低下したか否かを判定せずに、実験データ等の解析を行った結果に基づいて、水素リーン制御において第2触媒32に酸素が供給されるタイミングが決定される。そのため、エンジン制御装置5の構成を簡単にすることができる。また、水素リッチ制御と水素リーン制御との切り換えとは別に、定期的なタイミングで第2触媒32へ酸素を供給して、第2触媒32の還元性能の低下を回復させることができる。
【0142】
本形態の排気浄化システム1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1~6の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1~6に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1~6の構成要素と同様である。
【0143】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0144】
1 排気浄化システム
2 水素燃料エンジン
3 排気管
31 第1触媒
32 第2触媒
5 エンジン制御装置
51 空燃比制御部
56 性能低下推定部