(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】ヒータユニット、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 3/14 20060101AFI20231102BHJP
H05B 3/03 20060101ALI20231102BHJP
H01C 7/02 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
H05B3/14 A
H05B3/03
H01C7/02
(21)【出願番号】P 2020136137
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 健太
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特公平04-004713(JP,B2)
【文献】特開2000-332183(JP,A)
【文献】特開2001-237360(JP,A)
【文献】特開平03-184830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/14
H05B 3/03
H01C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正温度係数セラミック素子と、
前記正温度係数セラミック素子の両主面に設けられた電極と、
前記電極に液晶ポリマーを介して接合された金属製の放熱板と、
を備え
、
前記電極は、AlSiビーズを含むアルミニウム電極である
ことを特徴とするヒータユニット。
【請求項2】
前記液晶ポリマーの熱膨張係数が、50~250℃で30×10
-6~140×10
-6/℃である
ことを特徴とする請求項1に記載のヒータユニット。
【請求項3】
正温度係数セラミック素子を準備する素子準備工程と、
前記正温度係数セラミック素子の両主面に
アルミニウム電極を形成する電極形成工程と、
前記
アルミニウム電極に金属製の放熱板を液晶ポリマーを介して接合する放熱板接合工程と、
を備え
、
前記電極形成工程において、AlSiビーズを含むアルミニウムペーストをスクリーン印刷することにより前記アルミニウム電極を形成する
ことを特徴とするヒータユニットの製造方法。
【請求項4】
前記液晶ポリマーの熱膨張係数が、50~250℃で30×10
-6~140×10
-6/℃である
ことを特徴とする請求項3に記載のヒータユニットの製造方法。
【請求項5】
前記放熱板接合工程において、ホットプレスまたは超音波溶着によって前記放熱板を前記電極に接合する
ことを特徴とする請求項4に記載のヒータユニットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正温度係数(Positive Temperature Coefficient, PTC)セラミック素子を発熱源に用いたヒータユニット、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定温ヒータや局所加熱ヒータとして、自己温度制御機能を有するPTCセラミック素子を発熱源に用いたヒータユニットが様々な分野で使用されている。その一例として、特許文献1には、板状を有するPTCセラミック素子と、PTCセラミック素子の両主面にスクリーン印刷により形成されたアルミニウム電極と、アルミニウム電極にシリコーン系接着剤を介して接合された放熱板とを備えたものが開示されている。
【0003】
PTCセラミック素子の熱膨張係数は、20~250℃で6.5×10-6~7.0×10-6/℃である。放熱板の熱膨張係数は、20~300℃で2.3×10-5~2.5×10-5/℃である。また、シリコーン系接着剤の熱膨張係数は、20~250℃で1.5×10-4~2.0×10-4/℃である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のヒータユニットは、溶融温度が比較的低いシリコーン系接着剤を介してPTCセラミック素子のアルミニウム電極と放熱板とが接合されているので、使用可能温度の上限(すなわち、耐熱性)が低いという問題があった。また、上記従来のヒータユニットは、硬化時間が比較的長いシリコーン系接着剤を介してアルミニウム電極と放熱板とが接合されているので、接合に長い時間がかかるという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも耐熱性に優れるとともに製造時間が短縮されたヒータユニット、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るヒータユニットは、正温度係数セラミック素子と、正温度係数セラミック素子の両主面に設けられた電極と、電極に液晶ポリマーを介して接合された金属製の放熱板とを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るヒータユニットの製造方法は、正温度係数セラミック素子を準備する素子準備工程と、正温度係数セラミック素子の両主面に電極を形成する電極形成工程と、電極に金属製の放熱板を液晶ポリマーを介して接合する放熱板接合工程とを備えたことを特徴とする。
【0009】
液晶ポリマーは、シリコーン系接着剤よりも硬化時間が短い。また、液晶ポリマーは、シリコーン系接着剤よりも融点が高い。このため、上記の構成によれば、従来よりも耐熱性に優れるとともに製造時間が短縮されたヒータユニットおよびその製造方法を提供することができる。
【0010】
上記ヒータユニットおよびその製造方法における液晶ポリマーの熱膨張係数は、50~250℃で30×10-6~140×10-6/℃であることが好ましい。
【0011】
上記ヒータユニットの製造方法は、放熱板接合工程において、ホットプレスまたは超音波溶着などの手法によって放熱板を電極に接合してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも耐熱性に優れるとともに製造時間が短縮されたヒータユニット、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るヒータユニットを示す図であって、(A)は平面図、(B)は(A)のA-A’線縦断面図である。
【
図2】本発明に係るヒータユニットの製造方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の実施例および比較例に係るヒータユニットの熱伝導性を評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るヒータユニット、およびその製造方法について説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るヒータユニット1は、板状のPTCセラミック素子2と、その両主面に形成された電極3a,3bと、電極3a,3bのそれぞれに接合された金属製の放熱板4a,4bとを備えている。
【0016】
また、
図2に示すように、本発明に係るヒータユニット1の製造方法は、PTCセラミック素子2を準備する素子準備工程S1と、準備したPTCセラミック素子2の両主面に電極3a,3bを形成する電極形成工程S2と、形成した電極3a,3bのそれぞれに金属製の放熱板4a,4bを接合する放熱板接合工程S3とを備えている。
【0017】
PTCセラミック素子2は、キュリー温度が250℃で、寸法が25mm(縦)×13mm(横)×2mm(厚み)である。電極3a,3bは、平均粒径約50μmのAlSiビーズを含むアルミニウムペーストをスクリーン印刷することにより形成したもので、寸法が24mm(縦)×12mm(横)×0.07mm(厚み)である。また、放熱板4a,4bは、アルミニウム板からなり、寸法が50mm(縦)×15mm(横)×0.2mm(厚み)である。
【0018】
上記の構成は、以下に示す実施例および比較例に共通している。
【0019】
[実施例]
本発明の実施例では、放熱板接合工程S3において、JX液晶株式会社製の液晶ポリマー「ザイダー G-330」を介して放熱板4a,4bを電極3a,3bに接合した。
【0020】
より詳しくは、本実施例では、以下の手順(1)~(5)により放熱板4aを電極3aに接合した。放熱板4bと電極3bの接合も同様である。
(1)330℃に加熱したホットプレート上に放熱板4aを載置する。
(2)放熱板4a上にシート状の液晶ポリマーを載置し、溶融させる。
(3)電極3a,3bが形成されたPTCセラミック素子2を、電極3aを下方に向けた状態で溶融した液晶ポリマー上に載置する。
(4)PTCセラミック素子2を所定の圧力で放熱板4aに押し付け、液晶ポリマーを放熱板4a-電極3a間に行き渡らせる。
(5)PTCセラミック素子2および放熱板4aをホットプレートから降ろして冷却し、液晶ポリマーを硬化させる。
【0021】
なお、「ザイダー G-330」は、パラヒドロキシ安息香酸、ビフェノールおよびテレフタル酸等から作られるタイプの液晶ポリマーである。
【0022】
[比較例]
一方、本発明の比較例では、放熱板接合工程S3において、Momentive社製のシリコーン系接着剤「TSE3260」を介して放熱板4a,4bを電極3a,3bに接合した。
【0023】
[特性評価試験]
上記のようにして製造した実施例および比較例に係るヒータユニット1について、熱伝導性を評価するための第1試験と、電気伝導性を評価するための第2試験とを行った。
【0024】
第1試験では、放熱板4a-放熱板4b間に商用交流電圧(AC100V)を印加することによりPTCセラミック素子2を昇温させたときの放熱板4aの表面温度の変化(昇温特性)を熱電対で測定し、放熱板4aの表面温度が安定するまでの時間(以下、「必要昇温時間」という)を算出した。表1および
図3に示す通り、液晶ポリマーによって接合を行った実施例に係るヒータユニット1、およびシリコーン系接着剤によって接合を行った比較例に係るヒータユニット1は、いずれも必要昇温時間が7秒であった。このことは、液晶ポリマーを使用しても、シリコーン系接着剤を使用した場合と同等の熱伝導性が得られることを示している。
【表1】
【0025】
第2試験では、放熱板4a,4bを接合させる前に測定した電極3a,3b間の抵抗(電極間抵抗)を基準とした、放熱板4a,4bを接合させた後に測定した放熱板4a,4b間の抵抗(放熱板間抵抗)の変化率を算出した。表2に示す通り、液晶ポリマーによって接合を行った実施例における変化率と、シリコーン系接着剤によって接合を行った比較例における変化率との間に有意な差は認められなかった。なお、実施例において変化率がマイナスとなったのは、放熱板接合工程S3の手順(3),(4)においてPTCセラミック素子2の温度が上昇し、これによりPTCセラミック素子2の還元が起きたためだと考えられる。
【表2】
【0026】
このように、本発明の実施例に係るヒータユニット1は、比較例に係るヒータユニット1と同等の熱伝導性および電気伝導性を有している。また、シリコーン系接着剤の推奨硬化時間が1時間程度であるのに対し、液晶ポリマーは3分程度で硬化するので、本発明によれば、製造時間を大幅に短縮することができる。また、液晶ポリマーの融点は320℃以上であり、シリコーン系接着剤の融点は200℃程度であり、液晶ポリマーの方が融点が高いので、本発明によれば、耐熱性に優れたヒータユニット1を得ることができる。さらに、液晶ポリマーの熱膨張係数(線膨張係数)は50~250℃で73×10-6~131×10-6/℃であり、液晶ポリマーの方が熱膨張係数が小さいので、本発明によれば、温度サイクルに強いヒータユニット1を得ることができる。
【0027】
[変形例]
以上、本発明に係るヒータユニット、およびその製造方法の実施例について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
例えば、PTCセラミック素子2、電極3a,3bおよび放熱板4a,4bの寸法は、任意に変更することができる。
【0029】
また、電極3a,3bの材料は、ビーズを含まないアルミニウムであってもよいし、亜鉛を含むアルミニウム合金であってもよい。
【0030】
また、放熱板4a,4bの材料は、アルミニウム以外の他の金属材料(例えば、ステンレス)であってもよい。
【0031】
また、放熱板接合工程S3において、ホットプレスまたは超音波溶着によって放熱板4a,4bを電極3a,3bに接合してもよい。
【0032】
また、放熱板接合工程S3において、別の液晶ポリマーを使用してもよい。ただし、熱サイクルの観点から、液晶ポリマーの熱膨張係数は、50~250℃で30×10-6~140×10-6/℃であることが好ましい。
【符号の説明】
【0033】
1 ヒータユニット
2 PTCセラミック素子
3a,3b 電極
4a,4b 放熱板