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特許7377788金属部材接合構造及び金属部材接合部品の製造方法
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  • 特許-金属部材接合構造及び金属部材接合部品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】金属部材接合構造及び金属部材接合部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20231102BHJP
【FI】
B23K20/12 330
B23K20/12 364
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020213338
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099533
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000204033
【氏名又は名称】太平洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】内藤 実成
(72)【発明者】
【氏名】服部 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】佐野 元紀
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-219886(JP,A)
【文献】特開2017-189784(JP,A)
【文献】特開2015-205339(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0106123(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の第1の金属部材(20,20V)が第2の金属部材(30)に閉ループ状の摩擦攪拌接合部(40)で接続されている金属部材接合構造において、
前記第1の金属部材(20,20V)には、摩擦攪拌接合に伴う前記第1の金属部材(20,20V)の歪みを吸収する切り込み(21)、貫通孔(21)、又は曲げ部(22)を含んだ歪み吸収部が形成されている金属部材接合構造。
【請求項2】
前記歪み吸収部(21,22)は、前記第1の金属部材(20,20V)のうち前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するためのプローブ(52)の通過痕である摩擦攪拌痕(40A)の終端部(F)の近傍に配置されている請求項1に記載の金属部材接合構造。
【請求項3】
板状の第1の金属部材(20,20V)を第2の金属部材(30)に閉ループ状の摩擦攪拌接合部(40)で接続して、前記第1及び第2の金属部材(20,20V,30)を含んだ金属部材接合部品(10,10V)を製造する製造方法において、
前記第1の金属部材(20,20V)に、摩擦攪拌接合に伴う歪みを吸収するための切り込み(21)、貫通孔(21)、又は曲げ部(22)を含んだ歪み吸収部を予め形成しておいて、前記摩擦攪拌接合を行う金属部材接合部品(10,10V)の製造方法。
【請求項4】
前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)を前記第1の金属部材(20,20V)から離脱させる位置(F)の近傍に、前記歪み吸収部(21,22)を予め形成しておく請求項3に記載の金属部材接合部品(10,10V)の製造方法。
【請求項5】
前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)の通過痕である摩擦攪拌痕(40A)と重なる位置に、前記歪み吸収部(21)を予め形成しておく請求項3又は4に記載の金属部材接合部品(10)の製造方法。
【請求項6】
前記歪み吸収部(21)として、前記第1の金属部材(20)に、前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)の直径の1/2以上の大きさの貫通孔(21)を予め形成しておく請求項3から5のうち何れか1の請求項に記載の金属部材接合部品(10)の製造方法。
【請求項7】
前記歪み吸収部(21)は、前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)の通過痕である摩擦攪拌痕(40A)と交差する方向に長い長孔又はスリットである請求項3から6のうち何れか1の請求項に記載の金属部材接合部品(10)の製造方法。
【請求項8】
前記歪み吸収部(21)の前記長手方向の一端は、前記第1の金属部材(20)の側面に開放している請求項7に記載の金属部材接合部品(10)の製造方法。
【請求項9】
前記歪み吸収部(22)として、前記第1の金属部材(20)のうち前記プローブ(52)が側方を通過する位置に、前記第2の金属部材(30)から離れる方向に突出する曲げ部(22)を予め形成しておく請求項3又は4に記載の金属部材接合部品(10V)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、第1の金属部材が第2の金属部材に摩擦攪拌接合部で接続されている金属部材接合構造及び金属部材接合部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の金属部材接合構造として、閉ループ状の摩擦攪拌接合部で接続されているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-040102(段落[0008]、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の金属部材接合構造では、摩擦攪拌接合に伴う第1の金属部材の歪みにより、第1と第2の金属部材の接合不良が生じることがあり、そのような接合不良の発生を抑える技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、板状の第1の金属部材(20,20V)が第2の金属部材(30)に閉ループ状の摩擦攪拌接合部(40)で接続されている金属部材接合構造において、前記第1の金属部材(20,20V)には、摩擦攪拌接合に伴う前記第1の金属部材(20,20V)の歪みを吸収する切り込み(21)、貫通孔(21)、又は曲げ部(22)を含んだ歪み吸収部が形成されている金属部材接合構造である。
【0006】
請求項2の発明は、前記歪み吸収部(21,22)は、前記第1の金属部材(20,20V)のうち前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するためのプローブ(52)の通過痕である摩擦攪拌痕(40A)の終端部(F)の近傍に配置されている請求項1に記載の金属部材接合構造である。
【0007】
請求項3の発明は、板状の第1の金属部材(20,20V)を第2の金属部材(30)に閉ループ状の摩擦攪拌接合部(40)で接続して、前記第1及び第2の金属部材(20,20V,30)を含んだ金属部材接合部品(10,10V)を製造する製造方法において、前記第1の金属部材(20,20V)に、摩擦攪拌接合に伴う歪みを吸収するための切り込み(21)、貫通孔(21)、又は曲げ部(22)を含んだ歪み吸収部を予め形成しておいて、前記摩擦攪拌接合を行う金属部材接合部品(10,10V)の製造方法である。
【0008】
請求項4の発明は、前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)を前記第1の金属部材(20,20V)から離脱させる位置(F)の近傍に、前記歪み吸収部(21,22)を予め形成しておく請求項3に記載の金属部材接合部品(10,10V)の製造方法である。
【0009】
請求項5の発明は、前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)の通過痕である摩擦攪拌痕(40A)と重なる位置に、前記歪み吸収部(21)を予め形成しておく請求項3又は4に記載の金属部材接合部品(10)の製造方法である。
【0010】
請求項6の発明は、前記歪み吸収部として、前記第1の金属部材(20)に、前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)の直径の1/2以上の大きさの貫通孔(21)を予め形成しておく請求項3から5のうち何れか1の請求項に記載の金属部材接合部品(10)の製造方法である。
【0011】
請求項7の発明は、前記歪み吸収部は、前記摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)の通過痕である摩擦攪拌痕(40A)と交差する方向に長い長孔又はスリットである請求項3から6のうち何れか1の請求項に記載の金属部材接合部品(10)の製造方法である。
【0012】
請求項8の発明は、前記歪み吸収部(21)の前記長手方向の一端は、前記第1の金属部材(20)の側面に開放している請求項7に記載の金属部材接合部品(10)の製造方法である。
【0013】
請求項9の発明は、前記歪み吸収部(22)として、前記第1の金属部材(20)のうち前記プローブ(52)が側方を通過する位置に、前記第2の金属部材(30)から離れる方向に突出する曲げ部(22)を予め形成しておく請求項3又は4に記載の金属部材接合部品(10V)の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1及び3の金属部材接合構造及び金属部材接合部品(10,10V)の製造方法では、第1の金属部材(20,20V)に、切り込み(21)、貫通孔(21)、又は曲げ部(22)を含んだ歪み吸収部が形成されて、摩擦攪拌接合に伴う第1の金属部材(20,20V)の歪みが吸収され、第1の金属部材(20,20V)と第2の金属部材(30)の接合不良の発生が抑えられる。
【0015】
ここで、歪み吸収部を、切り込み(21)や貫通孔(21)とした場合、摩擦攪拌接合部(40)を形成するプローブ(52)の通過痕である摩擦攪拌痕(40A)と重なる位置に配置すれば(請求項5の発明)、摩擦攪拌接合による歪みを効果的に吸収することができる。また、切り込み(21)や貫通孔(21)の開口の大きさは、プローブ(52)の直径の1/2以上の大きさが好ましい(請求項6の発明)。
【0016】
また、切り込み(21)及び貫通孔(21)は、摩擦攪拌接合時の塑性流動や発生するバリによって塞がれる。ここで、切り込み(21)及び貫通孔(21)は、摩擦攪拌痕(40A)と交差する方向に長い長孔又はスリットとすれば(請求項7の発明)、摩擦攪拌接合による歪みの吸収効率が良くなる。
【0017】
さらに、これら長孔(21)又はスリット(21)は、第1の金属部材(20)の側面に開放する構成が好ましい(請求項8の発明)。これにより、第1の金属部材(21)の歪みを摩擦攪拌接合部(40)の外側に逃がしやすくなる。
【0018】
また、請求項9の金属部材接合部品(10,10V)の製造方法のように、歪み吸収部(22)を、第1の金属部材(20)のうちプローブ(52)が側方を通過する位置に、第2の金属部材(30)から離れる方向に突出して形成される曲げ部(22)として予め形成しておくことで、第2の金属部材(30)からの第1の金属部材(20V)の浮きを曲げ部(22)を介して、摩擦攪拌接合部(40)の外側に逃がすことができる。
【0019】
また、本開示の摩擦攪拌接合部(40)は、閉ループ状に形成されるため、摩擦攪拌接合に伴う第1の金属部材(20,20V)の歪みは、摩擦攪拌接合の終了間際が最も大きくなる。これに対して、請求項2の金属部材接合構造、及び請求項4の金属部材接合部品(10,10V)の製造方法によれば、歪み吸収部(21,22)が、摩擦攪拌痕(40A)の終端部(F)の近傍に配置されているので、第1の金属部材(21,22)の歪みを効果的に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る金属部材接合部品の斜視図
図2】蓋体と箱体との接合部分の拡大断面図
図3】接合前の蓋体と箱体の斜視図
図4】金属部材接合部品の製造工程を示す上面図
図5】(A)接合前の金属部材接合部品と摩擦攪拌接合用ツールとの拡大断面図、(B)接合時の金属部材接合部品の拡大断面図
図6】接合途中の金属部材接合部品の拡大斜視図
図7】切欠部を備えない蓋体の図1のA-A切断面における拡大断面図
図8図1のA-A切断面における(A)金属部材接合部品の拡大断面図、(B)切欠部に歪みが吸収されるときの金属部材接合部品の拡大断面図、(C)切欠部に歪みが吸収されたあとの金属部材接合部品の拡大断面図
図9】第2実施形態に係る接合途中の金属部材接合部品の拡大斜視図
図10図9のC-C切断面における(A)金属部材接合部品の拡大断面図、(B)曲げ部が歪みと一体化するときの金属部材接合部品の拡大断面図、(C)摩擦攪拌接合が終了したときの金属部材接合部品の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、図1図8を参照して、本開示の金属部材接合部品10に係る第1実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る金属部材接合部品10は、例えば、自動車に搭載される部品を収容する容器であって、蓋体20が箱体30に摩擦攪拌接合にて接合されてなる。なお、蓋体20が特許請求の範囲の「第1の金属部材」に相当し、箱体30が特許請求の範囲の「第2の金属部材」に相当する。
【0022】
図1に示すように、金属部材接合部品10には、蓋体20の外縁に沿って、摩擦攪拌接合ライン40(「以下、「接合ライン40」という」が閉ループ状に形成されている。接合ライン40は、図2に示すように、箱体30と蓋体20が上下に重ねられた部分に形成され、蓋体20の上面20Jから箱体30まで達している。なお、接合ライン40が特許請求の範囲の「摩擦攪拌接合部」に相当する。
【0023】
図3には、摩擦攪拌接合にて接合される前の蓋体20と箱体30が示されている。箱体30は、例えば、アルミニウムのダイカスト品であって、直方体状をなし、上壁31の中央に、長方形状の開口部32が形成されている。
【0024】
蓋体20は、例えば、アルミニウムで構成され、長方形の板状をなしている。蓋体20は、箱体30の上壁31の外形より一回り小さく、開口部32より一回り大きくなっていて、開口部32を閉塞する。また、蓋体20には、長手方向の一端に開放し、長手方向に延びた切欠部21が形成されている。切欠部21については、後で詳説する。
【0025】
本実施形態では、箱体30及び蓋体20は、アルミニウム製であるが、これに限られず、銅、チタン、マグネシウム、アルミニウム合金、銅合金、チタン合金、マグネシウ合金等、その他摩擦攪拌可能な金属で構成されていてもよい。
【0026】
金属部材接合部品10の製造方法は、以下の通りである。先ずは、蓋体20と箱体30とを用意する。蓋体20には、予め、上述の切欠部21を形成しておく。そして、箱体30の上壁31に蓋体20を重ねて、クランプで仮固定する。そして、図4に示すように、蓋体20の上面20J上のルートR1上を始端部Sから終端部Fまで反時計回りに後述する摩擦攪拌接合用ツール50を移動させて、蓋体20を箱体30に接合する。このとき、ルートR1上に、切欠部21の開口縁のうち開放端と対向する部分を配置し、始端部S及び終端部Fは、切欠部21の近傍に配置する。即ち、接合の終了間際に、摩擦攪拌接合用ツール50が切欠部21上を通過するように設定する。なお、終端部Fは、摩擦攪拌接合用ツール50がルートR1上を一周して、再び始端部Sを通過した始端部Sの近傍となる位置に配置される。
【0027】
具体的には、摩擦攪拌接合用ツール50は、図5(A)に示すように、 略円柱体のショルダー51と、ショルダー51よりも小径の略円柱体のプローブ52と、を有する。摩擦攪拌接合用ツール50は、図示しない摩擦攪拌接合装置に装備されて使用され、プローブ52の中心をルートR1上に合わせて蓋体20の上面20Jに回転させながら圧入する。プローブ52は、その接触部に発生する摩擦熱によって、蓋体20及び箱体30の一部を軟化、塑性流動させ、接合ライン40を形成する(図5(B)、図6参照)。また、蓋体20の上面20JのルートR1には、摩擦攪拌接合用ツール50が通過した痕として摩擦攪拌痕40Aが残されている。
【0028】
ところで、摩擦攪拌接合時に、蓋体20上を摩擦攪拌接合用ツール50が移動するに伴って、蓋体20のうち移動方向前方に皺が寄ったり、膨張して歪んでしまうことがある。この皺や歪みは、接合と共に移動方向前方に一緒に移動していく。そして、摩擦攪拌接合用ツール50が終端部F近傍(即ち始端部S近傍)にきたとき、図7に示すように、蓋体20の皺や歪みが大きくなって、蓋体20が箱体30の上壁31から浮いてしまうことがある。
【0029】
これに対して、本実施形態では、終端部Fの手前となる位置(即ち、始端部S近傍)に切欠部21が形成されているので(図8(A)参照)、図8(B)から図8(C)の変化に示すように、大きくなった蓋体20の皺や歪みが切欠部21の内側に吸収される。しかも、切欠部21は、蓋体20の側面に開放しているので、皺や歪みをルートR1の外側へ逃がしやすくなっている。
【0030】
さらに、切欠部21は、摩擦攪拌接合用ツール50の移動方向よりも移動方向と交差する方向に長い形状となっているので、切欠部21のうち接合ライン40が形成される部分の開口を皺や歪みで埋めやすい。しかも、皺や歪みで吸収しきれない部分は、摩擦攪拌接合による塑性流動や、発生するバリによって塞ぐことができる。これにより、蓋体20と箱体30の上壁31との接合ライン40に接合不良が発生することを抑えることができる。切欠部21が、特許請求の範囲の「歪み吸収部」に相当する。
【0031】
切欠部21の幅は、蓋体20の材料や厚み、そして、プローブ52の径や摩擦攪拌接合用ツール50の出力量に応じて、発生する皺や歪みの吸収量等を考慮し、切欠部21が閉塞されるように適宜設定される。本実施形態では、切欠部21の幅は、プローブ52の直径の1/2以上、直径以下となっている。なお、本実施形態の切欠部21の開口は、接合ライン40上及び接合ライン40の内側が閉塞されればよく、切欠部21のうち接合ライン40の外側に配置される開口部分は摩擦攪拌接合によって埋められなくてもよい。
【0032】
さらに、本実施形態では、切欠部21は、その開口縁のうち切欠部21の開放端と対向する部分がルートR1上に配置されているので、摩擦攪拌接合後に、蓋体20のうち接合ライン40の内側が開口する虞がなく、箱体30内部の気密性及び水密性を確保することができる。
【0033】
また、摩擦攪拌接合前の蓋体20に既に歪みがある場合がある。このような場合、蓋体20を箱体30に重ねてクランプで仮固定したときに、始端部S周辺が蓋体20の上壁31から浮いてしまい、摩擦攪拌接合を行うと、蓋体20と箱体の上壁31との接合不良が発生することがある。これに対しても、蓋体20に、予め始端部S近傍(終端部Fの手前)に切欠部21を設けておけば、蓋体20の浮きを切欠部21に逃がして摩擦攪拌接合を始めることができるので、蓋体20と箱体30との接合不良が発生することを抑えることができる。
【0034】
[第2実施形態]
以下、本開示の第2実施形態を図9及び図10を参照して説明する。上記第1実施形態では、摩擦攪拌接合前の蓋体20に切欠部21を備えていたが、本実施形態の蓋体20Vには、切欠部21の代わりに、曲げ部22が丘状に突出形成されている。
【0035】
曲げ部22は、上記第1実施形態の切欠部21と同様に、ルートR1上の終端部Fの手前となる位置(即ち、始端部S近傍)に配置されているが、ルートR1上には重ねられていない(図9図10(A)参照)。曲げ部22は、ルートR1の外側方に配置され、蓋体20Vの側面は、箱体30の上壁31との間で、開口面22Kを形成する。上記した以外の本実施形態の金属部材接合部品10Vの構成は、第1実施形態の金属部材接合部品10と同じである。
【0036】
本実施形態では、摩擦攪拌接合用ツール50が移動して終端部F近傍(即ち始端部S近傍)にきたとき、図10(B)に示すように、蓋体20Vの皺や歪みが曲げ部22と一体化する。そして、摩擦攪拌接合用ツール50がさらに移動したときに、蓋体20の皺や歪みを、開口面22K、即ち、移動方向の側方に逃がすことができる(図10(C)参照)。これにより、蓋体20Vと箱体30の上壁31との接合ライン40に接合不良が発生することを抑えることができる。
【0037】
[他の実施形態]
(1)上記実施形態では、切欠部21は、その開口縁のうち切欠部21の開放端と対向する部分がルートR1上に配置されていたが、ルートR1を横切り、その開口縁のうち切欠部21の開放端と対向する部分がルートR1の内側に配置されていてもよい。
【0038】
(2)切欠部21は、ルートR1方向の幅が、開放端に向かうに従って、幅広になっていてもよい。
【0039】
(3)上記実施形態の切欠部21は、蓋体20の側面に開放しない貫通孔(例えば、スリットや長孔)であってもよい。
【0040】
(4)上記実施形態では、切欠部21又は曲げ部22は、ルートR1の短辺側に配置されていたが、ルートR1の長辺側に配置されていてもよい。
【0041】
(5)上記実施形態では、切欠部21又は曲げ部22を、蓋体20,20Vのうち、摩擦攪拌接合部のルートR1の終端部Fの近傍に1つ配置された構成であったが、ルートR1に沿って切欠部21又は曲げ部22を複数備えた構成であってもよい。
【0042】
(6)上記実施形態では、摩擦攪拌接合が開始される始端部Sで、プローブ52の蓋体20の上面20Jの移動を開始させ、摩擦攪拌接合が完了する終端部Fでプローブ52を上面20Jから離脱させて、プローブ52は、接合ライン40が形成されるルートR1上のみを移動する構成であったが、プローブ52が蓋体20の上面20Jの移動を開始する開始位置や、プローブ52が上面20Jから離脱する離脱位置を、始端部S又は終端部Fとは異なる位置に設定し、例えば、閉ループ状のルートR1の外側方又は内側方に延長して配置してもよい。このとき、プローブ50の摩擦攪拌痕40Aは、ルートR1上の接合ライン40だけでなく、開始位置と始端部Sと結ぶライン又は離脱位置と終端部Fとを結ぶライン上にも形成される。
【0043】
このとき、切欠部21や曲げ部22は、プローブ52が上面20Jから離脱する離脱位置である摩擦攪拌痕40Aの終端部の近傍に設けられていてもよい。
【0044】
(7)上記実施形態では、摩擦攪拌接合用ツール50を、ルート1上の始端部Sから終端部Fまで反時計回りに移動させて蓋体20と箱体30との接合を行っていたが、時計回りに移動させて接合を行ってもよい。
【0045】
なお、本明細書及び図面には、特許請求の範囲に含まれる技術の具体例が開示されているが、特許請求の範囲に記載の技術は、これら具体例に限定されるものではなく、具体例を様々に変形、変更したものも含み、また、具体例から一部を単独で取り出したものも含む。
【符号の説明】
【0046】
10 金属部材接合部品
10V 金属部材接合部品
20 蓋体(第1の金属部材)
20V 蓋体(第1の金属部材)
21 切欠部(歪み吸収部)
22 曲げ部(歪み吸収部)
30 箱体(第2の金属部材)
40 接合ライン(摩擦攪拌接合部)
40A 摩擦攪拌痕
S 始端部
F 終端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10