(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】変性ポリオレフィン樹脂およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/32 20060101AFI20231102BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20231102BHJP
C08F 10/00 20060101ALI20231102BHJP
C08F 255/00 20060101ALI20231102BHJP
C08F 8/22 20060101ALI20231102BHJP
C09D 123/26 20060101ALI20231102BHJP
C09D 127/24 20060101ALI20231102BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20231102BHJP
C09D 151/06 20060101ALI20231102BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20231102BHJP
C09J 127/24 20060101ALI20231102BHJP
C09J 151/06 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C08F8/32
C08F8/46
C08F10/00
C08F255/00
C08F8/22
C09D123/26
C09D127/24
C09D5/00 D
C09D151/06
C09J123/26
C09J127/24
C09J151/06
(21)【出願番号】P 2020538446
(86)(22)【出願日】2019-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2019032692
(87)【国際公開番号】W WO2020040217
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018157030
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 仁美
(72)【発明者】
【氏名】神埜 勝
(72)【発明者】
【氏名】山本 咲
(72)【発明者】
【氏名】矢田 実
(72)【発明者】
【氏名】高本 直輔
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-165605(JP,A)
【文献】特開2006-225551(JP,A)
【文献】特表2001-518551(JP,A)
【文献】特許第4848011(JP,B2)
【文献】特開2009-079078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00、255/00、301/00
C09D 1/00-13/00、101/00-201/10
C09J 1/00-5/10、9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂(A)が変性成分により変性されており、
前記変性成分は、α,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる1種以上の化合物(B)と、炭化水素基を有するアミン化合物(C)と
、ラジカル重合性モノマーとを含
み、
前記アミン化合物(C)が有する炭化水素基が、炭素原子数6~22のアルキル基又はアルケニル基である、
変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項2】
前記変性ポリオレフィン樹脂が、前記化合物(B)および前記アミン化合物(C)に由来するイミド結合またはアミド結合を含む、請求項1に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項3】
前記アミン化合物(C)が有する炭化水素基が、炭素原子数
7~22のアルキル基又はアルケニル基である、請求項1または2に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項4】
前記アミン化合物(C)が、下記式(1)で表されるアミン化合物(C1)または下記式(2)で表されるアミン化合物(C2)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
H
2NR
11 (1)
HNR
21R
22 (2)
(式(1)中、R
11は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表し、式(2)中、R
21およびR
22は、それぞれ独立に、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表す。)
【請求項5】
前記アミン化合物(C)が、前記式(1)で表されるアミン化合物であり、前記式(1)中、R
11が、炭素原子数
7~22のアルキル基又はアルケニル基である、請求項4に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、エチレンから導かれる構成単位を含む重合体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項7】
ラジカル重合性モノマー
が、(メタ)アクリル化合物及び/又はビニル化合物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項8】
前記変性ポリオレフィン樹脂が、塩素化変性ポリオレフィン樹脂である、請求項1~7のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂を含むヒートシール剤、接着剤、プライマー、又は、塗料用若しくはインキ用バインダー。
【請求項10】
ポリオレフィン樹脂(A)を変性成分により変性して、変性ポリオレフィン樹脂を得る変性工程を含み、
前記変性成分は、α,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる1種以上の化合物(B)と、炭化水素基を有するアミン化合物(C)と
、ラジカル重合性モノマーとを含
み、
前記アミン化合物(C)が有する炭化水素基が、炭素原子数6~22のアルキル基又はアルケニル基である、
変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記変性工程が、前記ポリオレフィン樹脂(A)を、前記化合物(B)
及びラジカル重合性モノマーによりグラフト変性して、酸変性ポリオレフィン樹脂を得、次いで、前記酸変性ポリオレフィン樹脂と前記アミン化合物(C)とを反応させて、前記変性ポリオレフィン樹脂を得る工程である、請求項10に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項12】
前記変性ポリオレフィン樹脂が、前記化合物(B)および前記アミン化合物(C)に由来するイミド結合またはアミド結合を含む、請求項10または11に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項13】
前記アミン化合物(C)が有する炭化水素基が、炭素原子数
7~22のアルキル基またはアルケニル基である、請求項10~12のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項14】
前記アミン化合物(C)が、下記式(1)で表されるアミン化合物(C1)または下記式(2)で表されるアミン化合物(C2)である、請求項10~13のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
H
2NR
11 (1)
HNR
21R
22 (2)
(式(1)中、R
11は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表し、式(2)中、R
21およびR
22は、それぞれ独立に、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表す。)
【請求項15】
前記アミン化合物(C)が、前記式(1)で表されるアミン化合物であり、前記式(1)中、R
11が、炭素原子数
7~22のアルキル基又はアルケニル基である、請求項14に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項16】
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、エチレンから導かれる構成単位を含む重合体である、請求項10~15のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項17】
さらに、前記変性工程で得られた前記変性ポリオレフィン樹脂を、塩素により塩素化して、塩素化変性ポリオレフィン樹脂を得る塩素化工程を含む、請求項10~16のいずれか1項に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリオレフィン樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリオレフィン樹脂に対して、以下の(A-1)がグラフト重合されおよび/または以下の(A-2)で塩素化され、かつ、(B)がグラフト重合されてなる変性ポリオレフィン樹脂が記載されている。
(A-1)不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体および無水物、ならびに一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる一種以上の極性付与剤。
CH2=CR1COOR2・・・(I)
(式(I)中、R1=HまたはCH3、R2=CnH2n+1、n=1~18の整数)
(A-2)塩素
(B)片末端に不飽和結合を有する主鎖末端の割合が90%以上である、エチレン単位が80~100モル%であり炭素原子数3~10のα-オレフィン単位が0~20モル%であるエチレンα-オレフィン共重合体。
【0003】
特許文献1には、上記変性ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンからなるポリオレフィン基材、すなわち非極性基材との付着性に優れると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の変性ポリオレフィン樹脂を非極性基材に塗工するために、該変性ポリオレフィン樹脂の溶液を調製することがある。しかしながら、特許文献1の変性ポリオレフィン樹脂は、液状が悪い(たとえば、溶剤への溶解性が悪く、溶液が白濁している)。
【0006】
そこで、本発明は、非極性基材との付着性に優れるとともに、溶液を調製する際、溶剤への溶解性に優れる変性ポリオレフィン樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリオレフィン樹脂が、特定の変性成分により変性されている変性ポリオレフィン樹脂により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1] ポリオレフィン樹脂(A)が変性成分により変性されている変性ポリオレフィン樹脂であって、上記変性成分は、α,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる1種以上の化合物(B)と、炭化水素基を有するアミン化合物(C)とを含む、変性ポリオレフィン樹脂。
[2] 上記変性ポリオレフィン樹脂が、上記化合物(B)および上記アミン化合物(C)に由来するイミド結合またはアミド結合を含む、[1]に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[3] 上記アミン化合物(C)が有する炭化水素基が、炭素原子数6~22のアルキル基又はアルケニル基である、[1]または[2]に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[4] 上記アミン化合物(C)が、下記式(1)で表されるアミン化合物(C1)または下記式(2)で表されるアミン化合物(C2)である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂。
H2NR11 (1)
HNR21R22 (2)
(式(1)中、R11は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表し、式(2)中、R21およびR22は、それぞれ独立に、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表す。)
[5] 上記アミン化合物(C)が、上記式(1)で表されるアミン化合物であり、上記式(1)中、R11が、炭素原子数6~22のアルキル基又はアルケニル基である、[4]に記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[6] 上記ポリオレフィン樹脂(A)が、エチレンから導かれる構成単位を含む重合体である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[7] 上記変性成分が、さらに、ラジカル重合性モノマーを含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[8] 上記変性ポリオレフィン樹脂が、塩素化変性ポリオレフィン樹脂である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂。
[9] [1]~[8]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂を含むヒートシール剤、接着剤、プライマー、又は、塗料用若しくはインキ用バインダー。
[10] ポリオレフィン樹脂(A)を変性成分により変性して、変性ポリオレフィン樹脂を得る変性工程を含み、上記変性成分は、α,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる1種以上の化合物(B)と、炭化水素基を有するアミン化合物(C)とを含む、変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
[11] 上記変性工程が、上記ポリオレフィン樹脂(A)を、上記化合物(B)によりグラフト変性して、酸変性ポリオレフィン樹脂を得、次いで、上記酸変性ポリオレフィン樹脂と上記アミン化合物(C)とを反応させて、上記変性ポリオレフィン樹脂を得る工程である、[10]に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
[12] 上記変性ポリオレフィン樹脂が、上記化合物(B)および上記アミン化合物(C)に由来するイミド結合またはアミド結合を含む、[10]または[11]に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
[13] 上記アミン化合物(C)が有する炭化水素基が、炭素原子数6~22のアルキル基又はアルケニル基である、[10]~[12]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
[14] 上記アミン化合物(C)が、下記式(1)で表されるアミン化合物(C1)または下記式(2)で表されるアミン化合物(C2)である、[10]~[13]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
H2NR11 (1)
HNR21R22 (2)
(式(1)中、R11は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表し、式(2)中、R21およびR22は、それぞれ独立に、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表す。)
[15] 上記アミン化合物(C)が、上記式(1)で表されるアミン化合物であり、上記式(1)中、R11が、炭素原子数6~22のアルキル基又はアルケニル基である、[14]に記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
[16] 上記ポリオレフィン樹脂(A)が、エチレンから導かれる構成単位を含む重合体である、[10]~[15]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
[17] さらに、上記変性工程で得られた上記変性ポリオレフィン樹脂を、塩素により塩素化して、塩素化変性ポリオレフィン樹脂を得る塩素化工程を含む、[10]~[16]のいずれか1つに記載の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、非極性基材に対し優れた付着性を示すことができるとともに、溶液を調製する際、溶剤に対し優れた溶解性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<変性ポリオレフィン樹脂>
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂(A)が変性成分により変性されている変性樹脂である。変性成分は、特定の化合物(B)および特定のアミン化合物(C)を含む。これにより、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、非極性基材に対し優れた付着性を示し得るとともに、溶液を調製する際、溶剤へ良好な溶解性を示すことができるので、透明性に優れる溶液が得られる。
【0011】
上記非極性基材としては、たとえば、ポリオレフィン樹脂からなる基材(ポリオレフィン基材)が挙げられる。ポリオレフィン基材は、通常、難付着性基材として知られており、同種基材同士の接着および異種基材との接着や、塗装が困難であることが多い。一般に、ポリエチレン基材は、付着性および接着性により乏しい。本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン基材との付着性にも優れる。
【0012】
ポリオレフィン樹脂(A)としては、ポリエチレン基材との付着性をより向上させる観点から、エチレンから導かれる構成単位を含む重合体が好適である。エチレンから導かれる構成単位を含む重合体としては、エチレン単独重合体、エチレンと炭素原子数3~10のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンが挙げられ、プロピレンおよび1-ブテンが好ましく、プロピレンがより好ましい。α-オレフィンは、1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。上記共重合体において、炭素原子数4~10のα-オレフィンから導かれる構成単位は、共重合体の構成単位中20質量%以下であることが好ましい。エチレンと炭素原子数3~10のα-オレフィンとの共重合体としては、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレンとプロピレンと1-ブテンとの共重合体が好適である。エチレンと炭素原子数3~10のα-オレフィンとの共重合体は、エチレンから導かれる構成単位およびα-オレフィンから導かれる構成単位の合計100重量%において、エチレンから導かれる構成単位を2~30重量%の量で含むことが好ましく、より好ましくは5~25重量%であり、さらに好ましくは7~20重量%であり、さらにより好ましくは8~15重量%を含むことである。α-オレフィンから導かれる構成単位は70~98重量%の量で含むことが好ましく、より好ましくは75~95重量%であり、さらに好ましくは80~93重量%であり、さらにより好ましくは85~92重量%である。
【0013】
ポリオレフィン樹脂(A)としては、プロピレン単独重合体、プロピレンと炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体を用いてもよい。これらを用いた場合、非極性基材との付着性に優れる変性ポリオレフィン樹脂を得ることができる。上記共重合体において、炭素原子数4~10のα-オレフィンから導かれる構成単位は、共重合体の構成単位中20質量%以下であることが好ましい。プロピレンと炭素原子数4~10のα-オレフィンとの共重合体としては、プロピレンと1-ブテンとの共重合体が好適である。
【0014】
ポリオレフィン樹脂(A)は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリオレフィン樹脂(A)が共重合体であるときは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂(A)は、炭素原子数4以上のα-オレフィンから導かれる構成単位を含まないことが好ましい。
【0015】
ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、特に限定されない。しかし、変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、15,000~300,000であることが好ましく、30,000~300,000であることがより好ましく、100,000~300,000であることがさらに好ましく、200,000~300,000であることが特に好ましい。このため、ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が300,000より大きい場合は、得られる変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が上記範囲となるように、熱またはラジカルの存在下で減成することが好ましい。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(標準物質:ポリスチレン)によって測定された値である。たとえば、GPCは、下記の条件で行うことができる。
測定機器:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:TSKgel(東ソー株式会社製)
【0016】
化合物(B)は、α,β-不飽和カルボン酸およびその酸無水物から選ばれる1種以上である。このように、化合物(B)は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。α,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、アコニット酸、ナジック酸が挙げられる。酸無水物としては、例えば、環状構造(好ましくは、-CO-O-CO-基を含む環状構造)を有する酸無水物が挙げられ、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、及び無水アコニット酸が好ましく、無水マレイン酸、無水イタコン酸がより好ましい。これらのうちで、非極性基材との付着性を向上させる観点から、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸が好適であり、無水マレイン酸がより好適である。
【0017】
アミン化合物(C)は、炭化水素基を有する。炭化水素基は、飽和炭化水素基および不飽和炭化水素基のいずれでもよく、直鎖状、分岐状および環状のいずれでもよい。炭化水素基としては、たとえば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられ、アルキル基およびアルケニル基が好ましい。炭化水素基は、必要に応じてヘテロ原子(例、酸素原子等の、炭素原子および水素原子以外の原子)を含む置換基を有していてもよい。炭化水素基の炭素原子数は、通常6以上または7以上であり、8以上が好ましく、12以上がより好ましい。上限は、22以下が好ましい。炭素原子数は、6~22、7~22、8~22または12~22が好ましい。炭素原子数が上記範囲にあると、上述した付着性および溶解性をバランスよく向上できる。また、変性ポリオレフィン樹脂を塗工する際、タックを小さくできる。
【0018】
アミン化合物(C)は、少なくとも1つ炭化水素基を有していればよく、2以上の炭化水素基を有していてもよい。
【0019】
アミン化合物(C)は、1または2以上の窒素原子を有する化合物であり、通常は1つの窒素原子を有する。アミン化合物(C)としては、例えば、一般式(1)で表されるアミン化合物(C1)および一般式(2)で表されるアミン化合物(C2)である。アミン化合物(C1)は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。アミン化合物(C2)についても同様である。アミン化合物(C1)1種以上と、アミン化合物(C2)1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
一般式(1)を以下に示す。
H2NR11 (1)
式(1)中、R11は、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表す。
【0021】
直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基は、通常は、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、直鎖状のアルキル基が好適である。直鎖状のアルキル基の炭素原子数は、通常6以上または7以上であり、8以上が好ましく、12以上がより好ましい。上限は、22以下が好ましい。炭素原子数は、6~22、7~22、8~22または12~22であることが好ましい。炭素原子数が上記範囲にあると、上述した付着性および溶解性をバランスよく向上できる。変性ポリオレフィン樹脂を塗工する際、タックを小さくできる。炭素原子数が6よりも小さすぎると、得られる変性ポリオレフィン樹脂と非極性基材との付着性が低下する場合があり、またタックが大きくなる場合がある。また、炭素原子数が22よりも大きすぎると、変性ポリオレフィン樹脂を溶液とする場合、溶解性が低下する場合がある。
【0022】
直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基は、二重結合または三重結合を1つ有していてもよく、二重結合または三重結合を2つ以上有していてもよい。直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基としては、たとえば、直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基が挙げられ、直鎖状のアルケニル基が好適である。直鎖状のアルケニル基の炭素原子数は、8以上が好ましく、12以上がより好ましい。上限は、22以下が好ましい。炭素原子数は、6~22、7~22、8~22または12~22であることが好ましい。炭素原子数が上記範囲にあると、上述した付着性および溶解性をバランスよく向上できる。変性ポリオレフィン樹脂を塗工する際、タックを小さくできる。炭素原子数が6よりも小さすぎると、得られる変性ポリオレフィン樹脂と非極性基材との付着性が低下する場合があり、タックが大きくなる場合がある。炭素原子数が22よりも大きすぎると、変性ポリオレフィン樹脂を溶液とする場合、溶解性が低下する場合がある。
【0023】
一般式(2)を以下に示す。
HNR21R22 (2)
式(2)中、R21およびR22は、それぞれ独立に、直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基、または直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基を表す。直鎖状もしくは分岐状の飽和炭化水素基および直鎖状もしくは分岐状の不飽和炭化水素基について、好ましい範囲およびその理由は、アミン化合物(C1)での説明と同様である。
【0024】
これらのうちで、ポリオレフィン樹脂(A)に対する変性のしやすさから、アミン化合物(C1)が好適であり、アミン化合物(C1)において、式(1)中、R11が、炭素原子数8~22のアルキル基がより好適であり、ドデシルアミン、ステアリルアミン、カプリルアミン、オレイルアミンがさらに好適である。これにより、上述した付着性、溶解性およびタック性をバランスよく向上できる。
【0025】
変性ポリオレフィン樹脂は、通常、化合物(B)およびアミン化合物(C)に由来するイミド結合またはアミド結合を含む。いいかえると、変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂(A)に、化合物(B)由来の構造がグラフトされている(グラフト変性)。さらに、この化合物(B)由来の構造を介して、アミン化合物(C)由来の構造が付加されている(付加変性)。したがって、変性ポリオレフィン樹脂は、アミン化合物(C)由来の炭化水素基(R11、R21またはR22)が付加されている。変性ポリオレフィン樹脂では、この炭化水素基が導入されているため、上述した付着性に優れると考えられる。
【0026】
通常、化合物(B)として不飽和カルボン酸の酸無水物を用いた場合は、その酸無水物基部分でアミン化合物(C)と反応して、イミド結合を生成する。通常、化合物(B)として不飽和カルボン酸を用いた場合は、そのカルボキシ基部分でアミン化合物(C)と反応して、アミド結合を生成する。グラフトされた化合物(B)由来の構造のすべてが、アミン化合物(C)と反応してイミド結合またはアミド結合をしていなくてもよい。すなわち、グラフトされた化合物(B)由来の構造の少なくとも一部が、アミン化合物(C)と反応してイミド結合またはアミド結合を形成していればよい。
【0027】
これらのうちで、変性ポリオレフィン樹脂に炭化水素基が好ましい量で導入できるため、化合物(B)として不飽和カルボン酸の酸無水物と、アミン化合物(C1)とを組み合わせて用いることが好ましい。この組み合わせによれば、上述した付着性および溶解性をよりバランスよく向上できる。
【0028】
変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、15,000~300,000であることが好ましく、30,000~150,000であることがより好ましく、30,000~100,000であることがさらに好ましく、50,000~100,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が上記範囲にあると、上述した付着性および溶解性をバランスよく向上できる。
【0029】
変性ポリオレフィン樹脂中の化合物(B)の導入量(グラフト重量)は、変性ポリオレフィン樹脂を100重量%とした場合に、たとえば0.1~20重量%である。変性ポリオレフィン樹脂中のアミン化合物(C)の変性重量(付加重量)は、変性ポリオレフィン樹脂を100重量%とした場合に、たとえば0.1~30重量%である。化合物(B)のグラフト重量は、アルカリ滴定法により求めることができる。化合物(B)およびアミン化合物(C)の変性重量が上記範囲にあると、上述した付着性および溶解性をバランスよく向上できる。
【0030】
変性ポリオレフィン樹脂は、さらに、ラジカル重合性モノマーでグラフト変性されていてもよい。すなわち、変性成分は、化合物(B)およびアミン化合物(C)とともに、ラジカル重合性モノマーを含んでいてもよい。
【0031】
ラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル化合物、ビニル化合物が挙げられる。(メタ)アクリル化合物とは、分子中に(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基および/またはメタアクリロイル基を意味する。)を少なくとも1個含む化合物である。ラジカル重合性モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-メチレン-ビス(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、n-ブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等が挙げられる。中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが好ましく、中でもこれらのメタアクリレートがより好ましい。これらは単独、あるいは2種以上を混合して使用することができ、その混合割合を自由に設定することができる。
【0032】
(メタ)アクリル化合物としては、下記一般式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上の化合物を、20重量%以上含むものが好ましい。上記(メタ)アクリル化合物を用いると、変性ポリオレフィン樹脂の分子量分布を狭くすることができ、変性ポリプロピレン樹脂の溶剤溶解性や他樹脂との相溶性をより向上させることができる。
CH2=CR1COOR2 (I)
式(I)中、R1=HまたはCH3、R2=CnH2n+1、n=1~18の整数である。nは、8~18の整数であることが好ましい。
【0033】
ラジカル重合性モノマーの変性ポリオレフィン樹脂中のグラフト重量は、0.1~30重量%が好ましく、より好ましくは、0.5~20重量%である。0.1重量%よりもグラフト重量が少ないと、変性ポリオレフィン樹脂の溶解性ならびに他樹脂との相溶性および接着性が低下する場合がある。30重量%より多いと、反応性が高いために超高分子量体を形成して溶剤溶解性が悪化して好ましくない場合、またはポリオレフィン骨格にグラフトしないホモポリマーおよびコポリマーの生成量が増加して好ましくない場合がある。極性付与剤として塩素を用いない場合、非塩素化変性ポリオレフィン樹脂中での、ラジカル重合性モノマーの導入量(グラフト重量)は、0.5~30重量%が好ましく、より好ましくは1~20重量%である。(メタ)アクリル酸エステルのグラフト重量は、1H-NMRにより求めることができる。
【0034】
ところで、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂は、熱可塑性の汎用樹脂であり、安価で成形性、耐薬品性、耐候性、耐水性、電気特性等多くの優れた性質を有する。このため、従来、シート、フィルム、成形物等として、幅広い分野で使用されている。しかし、これらポリオレフィン樹脂からなる基材(ポリオレフィン基材)は、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、金属等の極性基材とは異なり、極性が低く、かつ結晶性であるため、難付着性基材として知られている。したがって、同種および異種基材同士の接着および塗装が困難であるという欠点を有する。
【0035】
この欠点を改善するために、薬剤による化学的処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の処理により、ポリオレフィン基材表面に極性基を導入する種々の手法が試みられてきている。しかし、これらの手法は、特殊な装置が必要であること、経時的に効果が低減すること等の欠点を有する。
【0036】
易接着処理として多く使用されているコロナ放電処理は、処理対象(プラスチック基材)の表面に対して、比較的(プラズマ処理よりも)深く表面処理される。このため、薄いフィルム(例、厚さ15μm以下または8μm未満のフィルム)にコロナ放電処理を行うと穴が開きやすい。したがって、このような薄いフィルムにはコロナ放電処理を実質使用できないといった実情がある。
【0037】
これに対して、基材に対し接着性を有する前処理剤を予め基材表面に塗工する方法が考案されている。たとえば、国際公開第2005/082963号パンフレットには、不飽和カルボン酸およびアクリル誘導体によるグラフト変性によってポリオレフィンに極性基を付与することが記載されている。これをコーティング剤として用いて、ポリプロピレン基材との親和性を高め、接着性の向上を図る方法が見出されている。これらの方法は、ポリプロピレン基材等の各種極性基材への塗装および接着を可能にしたが、より非極性で接着性の乏しいポリエチレン基材には、実用上必要な接着効果がない。
【0038】
ポリエチレンは、製法およびそれに伴う密度の違いから、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等に大別分類される。これらの基材への接着が困難である理由としては、たとえば、ポリエチレンが非極性かつ低表面エネルギーであること、および高結晶性であることが挙げられる。
【0039】
これに対して、特許文献1には、極性付与剤、ならびに片末端不飽和結合を有するエチレンおよび炭素原子数3~10のα-オレフィンの共重合体で変性されたポリオレフィン樹脂が記載されている。この変性ポリオレフィン樹脂について、表面処理されていない各種ポリエチレンとの接着性を有すること、低温の処理で十分な接着力を発現することが見出されている。さらに、タックの少ない変性ポリオレフィン樹脂接着剤として有用であることが示されている。しかし、塗工する際に溶液としたときの液状が悪く、白濁する。このため、液状が良好で透明性に優れる変性ポリオレフィン樹脂が求められる。
【0040】
これに対して、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン(例、LDPE、LLDPE、HDPE)等の非極性樹脂を含む組成物の基材に対して優れた接着力を有し、かつ溶液としたときの液状が良好で透明性に優れる。さらに、コロナ処理等の表面処理を行っていない基材に対しても、優れた接着力を有する。
【0041】
本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、塩素化ポリオレフィン樹脂でもよい。塩素化ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂(A)が上述した変性成分により変性され、さらに塩素化されている樹脂である。塩素化変性ポリオレフィン樹脂も、上述した付着性、溶解性および透明性を発揮し得る。このため、ヒートシール剤、接着剤、プライマー、または塗料用もしくはインキ用バインダーとして好適である。
【0042】
<変性ポリオレフィン樹脂の製造方法>
本発明の変性ポリオレフィン樹脂の製造方法としては、ポリオレフィン樹脂(A)を変性成分により変性して変性ポリオレフィン樹脂が得られる限り、特に限定されない。たとえば、変性ポリオレフィン樹脂の製造方法は、ポリオレフィン樹脂(A)を変性成分により変性して、変性ポリオレフィン樹脂を得る変性工程を含む。
【0043】
より具体的には、変性工程では、まず、ポリオレフィン樹脂(A)を、化合物(B)によりグラフト変性して、酸変性ポリオレフィン樹脂を得る。グラフト重合反応の際には、ラジカル発生剤を用いてもよい。酸変性ポリオレフィン樹脂を得る方法としては、トルエン等の溶剤に化合物(B)を加熱溶解し、ラジカル発生剤を添加する溶液法;バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等の機器に、化合物(B)およびラジカル発生剤を添加し混練する溶融混練法が挙げられる。ここで、化合物(B)は一括添加しても、逐次添加してもよい。
【0044】
グラフト重合反応の際には、化合物(B)は、化合物(B)を好ましい量でグラフトする観点から、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、0.1~20質量部の量で用いることが好ましい。
【0045】
ラジカル発生剤は、公知のものより適宜選択できるが、有機過酸化物系化合物が好ましい。有機過酸化物系化合物としては、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが挙げられる。これらのうちで、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0046】
ラジカル発生剤の添加量は、使用する化合物(B)100質量%に対し、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。1質量%以上であるとグラフト効率を保つことができる。添加量の上限は、好ましくは200質量%以下であり、より好ましくは100質量%以下である。200質量%以下であると経済的に反応を行い得る。
【0047】
酸変性ポリオレフィン樹脂の酸価は、通常0.5mgKOH/g以上であり、5mgKOH/g以上が好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましい。上限は、通常115mgKOH/g以下であり、85mgKOH/g以下が好ましく、60mgKOH/g以下がより好ましく、40mgKOH/g以下、30mgKOH/g以下が特に好ましい。
【0048】
酸変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、通常15,000以上であり、20,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、500,000以上が特に好ましい。上限は、通常300,000以下であり、150,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましい。
【0049】
酸変性ポリオレフィン樹脂を得る際、ポリオレフィン樹脂(A)にグラフト重合しない化合物(B)、すなわち未反応物は、たとえば貧溶媒で抽出して除去してもよい。このようにして、酸変性ポリオレフィン樹脂が得られる。
【0050】
次いで、酸変性ポリオレフィン樹脂とアミン化合物(C)とを反応(付加反応)させて、変性ポリオレフィン樹脂を得る。変性ポリオレフィン樹脂を得る方法としては、トルエン、キシレン等の溶剤に、酸変性ポリオレフィン樹脂およびアミン化合物(C)を加熱溶解して反応させる溶液法;バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等の機器に、酸変性ポリオレフィン樹脂およびアミン化合物(C)を添加し混練して、必要に応じて加熱して反応させる溶融混練法が挙げられる。ここで、アミン化合物(C)は一括添加しても、逐次添加してもよい。
【0051】
アミン化合物(C)の付加反応の際には、アミン化合物(C)は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.1~30質量部の量で用いることが好ましい。このようにして、上述した変性ポリオレフィン樹脂が得られる。
【0052】
変性ポリオレフィン樹脂が、さらに、ラジカル重合性モノマーでグラフト変性されていている場合は、以下のように製造することができる。たとえば、変性工程では、まず、ポリオレフィン樹脂(A)を、化合物(B)およびラジカル重合性モノマーによりグラフト変性して、酸変性ポリオレフィン樹脂を得る。グラフト重合反応の際には、上述のようにラジカル発生剤を用いてもよい。次いで、酸変性ポリオレフィン樹脂とアミン化合物(C)とを反応(付加反応)させて、変性ポリオレフィン樹脂を得る。
【0053】
ここで、ラジカル重合性モノマーとして(メタ)アクリル化合物を用いる場合は、(メタ)アクリル化合物中、式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上の化合物を、20重量%以上の量で用いることが好ましい。ラジカル重合性モノマーは、変性ポリオレフィン樹脂中のグラフト重量が上述した範囲となるような量で用いることが好ましい。
【0054】
酸変性ポリオレフィン樹脂の変性成分としての化合物(B)が-CO-O-CO-基を含む環状構造を有する酸無水物を含む場合、酸変性ポリオレフィン樹脂は環状構造に由来する構造を含む。酸変性ポリオレフィン樹脂中の環状構造に由来する構造は、閉環構造(環状構造を維持)を取る場合とまたは空気中の水分などの影響で開環構造となる場合とがあり、通常は両構造が混在している。本明細書において、酸変性ポリオレフィン樹脂が有する環状構造に由来する構造(閉環構造と開環構造の合計)に占める閉環状態の比率(%)を、閉環率と言う。酸変性ポリオレフィン樹脂とアミン化合物(C)との反応開始時における閉環率は、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。閉環率が高いことにより、反応をより効率的に進行させることができ、付着性および溶解性のより良好な変性ポリオレフィン樹脂を得ることができる。閉環率の上限は100%以下であればよく、特に限定されない。閉環率の調整は、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂の脱水反応によることができる。脱水反応は、加熱処理によればよく、その際の加熱温度は100℃以上が好ましい。加熱処理は、必要に応じて窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0055】
閉環率は、閉環しているα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピーク及び開環しているα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピークを赤外吸光スペクトルにより測定し、各測定値から以下の式により算出できる:
(式)
閉環率R(%)={B/(A+B)}×100
A:開環しているα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピーク高さ
B:閉環しているα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピーク高さ
【0056】
塩素化変性ポリオレフィン樹脂の製造方法としては、たとえば、上述した変性工程とともに、さらに塩素化工程を含む方法が挙げられる。塩素化工程は、上述した変性工程で得られた変性ポリオレフィン樹脂(非塩素化変性ポリオレフィン樹脂)を、塩素により塩素化して、塩素化変性ポリオレフィン樹脂を得る工程である。塩素化は、従来公知の方法で行うことができる。塩素化を行わない非塩素化変性ポリオレフィン樹脂は、塩素に由来する成分の残存が好ましくない物質の接着に好適である。塩素化工程を行う時期は特に限定されず、上述した変性工程に先立って実施してもよいし、変性工程の途中で実施してもよいし、変性工程の後に実施してもよい。
【0057】
<変性ポリオレフィン樹脂の用途>
本発明のヒートシール剤、接着剤、プライマー、または塗料用もしくはインキ用バインダーは、上述した変性ポリオレフィン樹脂を含む。本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、必要に応じて他の成分と組み合わせて、変性ポリオレフィン樹脂組成物として用いてもよい。変性ポリオレフィン樹脂または変性ポリオレフィン樹脂組成物は、上述した優れた付着性、溶解性および透明性により、ヒートシール剤、接着剤、プライマー、塗料用バインダー、インキ用バインダー等のバインダーとして好適である。
【0058】
他の成分としては、硬化剤、溶媒、分散媒、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、無機充填剤が挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリアミン化合物、ポリオール化合物、これらの化合物が有する官能基が保護基で保護された硬化剤が挙げられる。硬化剤を配合する場合は、目的に応じて有機スズ化合物、第三級アミン化合物等の触媒を併用してもよい。
【0060】
溶媒または分散媒としては、たとえば、芳香族炭化水素(例、トルエン、キシレン)、エステル(例、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル)、脂肪族または脂環式炭化水素(例、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ノナン、デカン)、アルコール(例、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール)、グリコールエーテル(例、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル)が挙げられる。
【0061】
さらに、変性ポリオレフィン樹脂組成物は、所望の効果を阻害しない範囲で、接着剤に用いられる他の成分(例、ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等の公知の接着剤)、ヒートシール剤に用いられる他の成分、プライマーに用いられる他の成分、バインダーに用いられる他の成分が配合されていてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
ポリオレフィン樹脂(A)として、プロピレン成分89重量%、エチレン成分11重量%で、重量平均分子量が260,000であるオレフィン共重合体を用いた。このオレフィン共重合体100重量%に対し、無水マレイン酸4重量%と2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン1.5重量%とを用い、これらを二軸押出機に供給し、210℃で溶融混練して反応させた。これにより、酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)を得た。得られた酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)の重量平均分子量、酸価は、それぞれ98,000、24.3mgKOH/gであった。
撹拌機、冷却管、および滴下ロートを取りつけた四つ口フラスコ中で、酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)100重量部とキシレン100重量部とをあわせ、窒素気流下にて140℃で加熱撹拌した。樹脂が完全に溶解し、かつ無水マレイン酸の閉環率が80%以上となるまで加熱を行った。そののち、ステアリルアミンを8重量部添加し、2時間反応させた。得られた反応溶液をバット上にブローし、乾燥させ、変性ポリオレフィン樹脂(A)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、78,000であった。
【0064】
閉環率Rの測定は、以下の方法によった。
先ず、変性ポリオレフィン樹脂を有機溶剤に溶解して溶液を得た。次に、KBr板に該溶液を塗布、乾燥して薄膜を形成し、FT-IR(例、「FT/IR-4100」、日本分光社製)にて、400~4000cm-1の赤外吸光スペクトルを観測した。解析は、付属ソフトウェア(例、「Spectro Manager」、日本分光社)によって行った。
波数1700~1750cm-1に現れるピークを、開環しているα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピークに帰属し、ピーク高さをAとした。波数1750~1820cm-1に現れるピークを、閉環しているα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピークに帰属し、ピーク高さをBとした。そして、閉環率R(%)を(B/(A+B)×100)の式から算出した。
【0065】
[実施例2]
ステアリルアミンを8重量部用いる代わりに、ラウリルアミンを5重量部用いた他は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂(A)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、73,000であった。
【0066】
[実施例3]
ステアリルアミンを8重量部用いる代わりに、オレイルアミンを8重量部用いた他は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂(A)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、73,000であった。
【0067】
[実施例4]
ステアリルアミンを8重量部用いる代わりに、カプリルアミンを4重量部用いた他は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂(A)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、76,000であった。
【0068】
[実施例5]
ポリオレフィン樹脂(A)として、プロピレン成分80重量%、ブテン成分20重量%で、重量平均分子量が300,000であるオレフィン共重合体を用いた。このオレフィン共重合体100重量%に対し、無水マレイン酸4重量%とジ-tert-ブチルパーオキサイド3重量%とを用い、これらを二軸押出機に供給し、210℃で溶融混練して反応させた。これにより、酸変性ポリオレフィン樹脂(A2)を得た。得られた酸変性ポリオレフィン樹脂(A2)の重量平均分子量、酸価は、それぞれ74,000、17.8mgKOH/gであった。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A2)を用いた他は、実施例1と同様にして変性ポリオレフィン樹脂(A)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、73,000であった。
【0069】
[実施例6]
ポリオレフィン樹脂(A)として、プロピレン成分88重量%、エチレン成分12重量%で、重量平均分子量が49,000であるオレフィン共重合体を用いた。このオレフィン共重合体114重量%に対し、無水マレイン酸4重量%、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン1.5重量%、およびラウリルメタクリレート3重量%を用い、これらを二軸押出機に供給し、170℃で溶融混練して反応させた。これにより、酸変性ポリオレフィン樹脂(A3)を得た。得られた酸変性ポリオレフィン樹脂(A3)の重量平均分子量、酸価は、それぞれ72,000、19.3mgKOH/gであった。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A3)を用いた他は、実施例1と同様にして変性ポリオレフィン樹脂(A)を得た。得られた変性ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、60,000であった。
【0070】
[比較例1]
実施例1と同様にして、酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)を得た。酸変性ポリオレフィン樹脂(A1)とアミン化合物(C)との反応は行わなかった。
【0071】
[比較例2]
実施例6と同様にして、酸変性ポリオレフィン樹脂(A3)を得た。酸変性ポリオレフィン樹脂(A3)とアミン化合物(C)との反応は行わなかった。
【0072】
[比較例3]
プロピレン成分97モル%、エチレン成分3モル%で、重量平均分子量が80,000、Tm=72℃)であるオレフィン共重合体100重量部、無水マレイン酸5重量部、ラウリルメタクリレート3重量部、ポリエチレン(重量平均分子量2,000、片末端不飽和結合を有する主鎖末端97%、エチレン単位100モル%、Mw/Mn1.5)40重量部、およびジ-t-ブチルパーオキサイド1.5重量部を、170℃に設定した二軸押出機を用いて混練反応した。押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去した。得られた変性ポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が66,000であった。
【0073】
<評価方法>
実施例1~6、比較例1~3で得られた変性ポリオレフィン樹脂について、下記の方法にしたがって評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0074】
(付着試験)
まず、トルエンに固形分15%となるように変性ポリオレフィン樹脂を溶解した溶液を調製した。次に、表面処理が施されていないアルミニウムフィルムに、♯16のマイヤーバーを用いて、上記溶液を塗工し、23℃、湿度50%の環境下で24時間乾燥した。乾燥後、樹脂塗布面に表面処理が施されていないポリエチレンフィルム(直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)または高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム)を重ね合わせ、No.276ヒートシールテスタ(安田精機製作所)を用い、圧力2.0kgf/cm2、10sの条件でヒートシールを行った。各試験片を15mm幅となるように切断し、引張試験機を用いて100mm/minで引き剥がし、その剥離強度を測定した。3回試験を行って、その平均値を剥離強度とし、以下の評価基準に従い評価を行った。剥離はすべて変性ポリオレフィン樹脂層とポリエチレンフィルムとの間で起こった。
【0075】
・評価基準
A:剥離強度が200gf/15mm以上
B:剥離強度が150gf/15mm以上200gf/15mm未満
C:剥離強度が100gf/15mm以上150gf/15mm未満
D:剥離強度が100gf/15mm未満
【0076】
(タック試験)
まず、トルエンに固形分15%となるように変性ポリオレフィン樹脂を溶解した溶液を調製した。次に、表面処理が施されていないポリエチレンフィルムに、#10のマイヤーバーを用いて、上記溶液を塗工し、23℃、湿度50%の環境下で24時間乾燥した。乾燥後、塗布面が重なるようにフィルムを折り曲げ、指で軽く押さえた後で引きはがし、そのはがれやすさからタック性を評価した。
【0077】
・評価基準
A:指を離した直後にフィルムが乖離し、タックは認められない
B:指を離した後、数秒後までにフィルムが乖離する
C:指を離した後、10秒以上経過してもフィルムが乖離しない
【0078】
(溶液外観)
まず、トルエンに固形分15%となるように変性ポリオレフィン樹脂を溶解した溶液を調製した。次に、上記溶液を225mL瓶に入れ、21℃の恒温室に静置し、一週間経過後の溶液外観を目視で確認した。溶解性の評価として、試料の入った瓶を横方向から観察し、反対側にある文字が見えるか見えないかで確認を行った。
【0079】
・評価基準
A:横から見た際に、反対側にある文字がはっきりと見える(クリア)
B:文字が見えない(濁)
【0080】