(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】利用不可能なGNSS測定値を再作成するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/07 20100101AFI20231102BHJP
G01S 19/32 20100101ALI20231102BHJP
G01S 19/12 20100101ALI20231102BHJP
【FI】
G01S19/07
G01S19/32
G01S19/12
(21)【出願番号】P 2021528385
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2019082099
(87)【国際公開番号】W WO2020104594
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-17
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520160716
【氏名又は名称】セプテントリオ・エヌ・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ・ビルドゥ,ビム
(72)【発明者】
【氏名】スリーバーゲン,ジャン-マリー
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-529010(JP,A)
【文献】特表2010-504523(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0279314(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0141510(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
G01C 21/26-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標搬送波周波数(f
k)で少なくとも1つのGNSSパラメータ推定値
【数1】
を生成することによって、GNSSシステムにおいて利用不可能な測定値を再作成するための方法であって、
1つ以上の利用可能
な擬似距離測定値(P
i)から、前記目標搬送波周波数(f
k)で
の擬似距離推定値
【数2】
を導出するステップ(1030)と、
前記1つ以上の利用可能
な擬似距離測定値(P
i)および1つ以上の利用可能な搬送波位相測定値(φ
i)から、前記目標搬送波周波数(f
k)での搬送波位相推定値
【数3】
を導出するステップ(1040)とを含み、
前
記擬似距離推定値
【数4】
および前記搬送波位相推定値
【数5】
は前記1つ以上の利用可能
な擬似距離測定値(P
i)および前記1つ以上の利用可能な搬送波位相測定値(φ
i)から導出されるものであり、前記1つ以上の利用可能
な擬似距離測定値(P
i)および前記1つ以上の利用可能な搬送波位相測定値(φ
i)は、前記目標搬送波周波数(f
k)とは異なるそれぞれの周波数(f
i)での測定値である、方法。
【請求項2】
前
記擬似距離推定値
【数6】
を導出するステップ(1030)は、前記目標
搬送波周波数(f
k)に対する対応する他の搬送波周波数(f
i)の比の関数である第1の補正項を、前記1つ以上
の擬似距離測定値(P
i)のうちの1つに加えるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の補正項は、対応する電離層遅延(I
i)に比例するとともに、前記比の二乗から1を差引いたものとして規定される係数である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記搬送波位相推定値
【数7】
を導出するステップ(1040)は、前記目標搬送波周波数(f
k)と、対応する他の搬送波周波数(f
i)との差の関数である第2の補正項を、前記1つ以上の搬送波位相測定値(φ
i)のうちの1つに加えるステップを含む、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の補正項は、
対応す
る擬似距離測定値(P
i)と、
前記目標搬送波周波数(f
k)と前記対応する他の搬送波周波数(f
i)との差と、
光の速度(c)の逆数と、
の積である項を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の補正項は、
対応する電離層遅延(I
i)と、
前記目標搬送波周波数(f
k)と前記対応する他の搬送波周波数(f
i)との差の二乗と、
目標搬送波周波数(f
k)と光の速度(c)との積の逆数と、
の積である項を含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記導出するステップ(1030;1040)は、いずれの先験的な衛星依存項にも依拠しない、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記目標搬送波周波数(f
k)は、他の搬送波周波数(f
i)から100MHz以内にある、
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記目標搬送波周波数(f
k)での信号とそれぞれの他の搬送波周波数(f
i)での信号との間の周波数間バイアスが衛星に依存しない、
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
GNSSを用いて位置を判定するための方法であって、
第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップ(1010)と、
第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するステップ(1020)と、
前記第1のセットに存在するが前記第2のセットには存在しない少なくとも1つの目標周波数帯域について、
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の導出するステップ(1030;1040)を適用することによって、異なる周波数帯域で受信された少なくとも1つの補正信号からシミュレート済み補正信号を計算するステップと、
前記目標周波数帯域で受信された前記追跡信号および対応する前記シミュレート済み補正信号に基づいて、位置パラメータを計算するステップ(1050)とを含む、方法。
【請求項11】
GNSSを用いて位置を判定するための方法であって、
第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップ(1010)と、
第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するステップ(1020)と、
前記第2のセットに存在するが前記第1のセットには存在しない少なくとも1つの目標周波数帯域について、
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の導出するステップ(1030;1040)を適用することによって、異なる周波数帯域で受信された少なくとも1つの追跡信号からシミュレート済み追跡測定値を計算するステップと、
前記シミュレート済み追跡測定値および前記目標周波数帯域で受信された対応する前記補正信号に基づいて、位置パラメータを計算するステップ(1050)とを含む、方法。
【請求項12】
GNSSシステムのジャミングに対抗するための方法であって、
第1のセットのジャミングされていない周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップと、
少なくとも1つのジャミングされている周波数帯域について、請求項1から9のいずれか1項に記載の導出するステップ(1030;1040)を適用することによって、前記セットのジャミングされていない周波数帯域における1つ以上の受信済み追跡信号からシミュレート済み追跡測定値を計算するステップとを含む、方法。
【請求項13】
コード手段を備えるコンピュータプログラムプロダクトであって、前記コード手段は、実行されると、
請求項1~請求項12のいずれか1項に記載の方法のステップをプロセッサに実行させるように構成されている、コンピュータプログラムプロダクト。
【請求項14】
GNSSを用いて位置を判定するためのシステムであって、
第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星から追跡信号を受信するように構成された第1の受信手段(110)と、
第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するように構成された第2の受信手段(120)と、
前記追跡信号および前記補正信号に対して請求項10に記載の方法を実行するように構成された処理手段(130)とを備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite Systems:GNS
S)に関し、特に、衛星信号と基地局信号との組合わせに基づいて位置パラメータを判定するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
全地球航法衛星システム(GNSS)は、地球の表面上またはその付近の任意のユーザに位置、速度および時間を提供するために広く用いられている。GNSSは、特に、「測位信号」とも称される専用のナビゲーション信号を送信する複数のナビゲーション衛星(GNSS衛星)の配列を備える。米国によって開発された全地球測位システム(Global Positioning System:GPS)が最もよく知られている。他のシステムには、欧州のガリ
レオシステム、ロシアのGLONASS、および中国のBeiDouシステムがある。
【0003】
大多数のGNSS衛星は、さまざまな周波数帯域で複数の測位信号を送信する。GNSS受信機では、まず、アナログフロントエンド回路においてさまざまな周波数帯域が増幅されてベースバンドにダウンコンバートされるとともに、さまざまな衛星から信号が取得されて、専用の追跡チャネルで追跡される。受信機は、各衛星の各追跡信号ごとに、いわゆる擬似距離測定値および搬送波位相測定値を計算する。これらの測定値は、受信機クロックと衛星クロックとのオフセットによって、かつ、複数の誤差原因(大気の影響、衛星の偏り、マルチパスなど)によって偏りはあるものの、衛星までの距離を表している。搬送波位相は、擬似距離よりも正確であるが、搬送波波長の整数の不定性によって影響を受ける。
【0004】
高精度GNSS測位は、典型的には、2つ以上の周波数帯域からの擬似距離測定値および搬送波位相測定値に依拠するとともに、差動モードで動作することを必要とする。たとえば、リアルタイムキネマティックモード(Real-Time Kinematic mode:RTK)では、ローバーGNSS受信機は、既知の座標を用いて、基地局に対するその位置を計算する。この目的のために、基地局は、その位置ならびにその擬似距離測定値および搬送波位相測定値をローバに送信する。ローバーは、基地局データを利用して、それ自体の測定値に影響を及ぼす誤差の大部分を補償することができる。多周波RTKモードでの相対測位精度は、センチメートルレベルまたはさらにはミリメートルレベルである。
【0005】
精密単独測位(Precise Point Positioning)では、衛星クロックならびに軌道の誤差
および偏りがGNSS受信機のネットワークによって計算されて、補正値がローバに送信される。ローバは、これらを用いてそれ自体の測定値を補正する。
【0006】
現在の最先端技術では、特定セットの周波数帯域を追跡するローバーは、当該セットの周波数帯域に適用可能な測定値または補正値を受信しなければならない。基地局がデータを送信する周波数帯域のセットが、ローバによって追跡される周波数帯域のセットと一致しない場合、共通の周波数帯域しか補正されず、精度の低下につながることとなる。
【0007】
基地局データがGNSS受信機によって追跡されるすべての周波数帯域のために利用できない場合、より優れた精度を得るGNSS受信機が必要となる。
【0008】
米国特許出願公開番号US2005/203702A1は、二重周波数ナビゲーションが依拠する2つの周波数のうちの1つが利用できない短期間の間にバックアップ二重周波数ナビゲーションを実行するための方法を開示している。当該方法は、保持された周波数についての搬送波位相測定値と、電離層屈折作用のモデルとを用いて、利用不可能な周波数上でのコードおよび搬送波位相測定値を合成することを含む。電離層屈折作用のモデルは、両方の周波数についての測定値が利用可能である場合に更新されるものである。当該出願の方法は、通常動作中に両方の周波数で測定値にアクセスできるシステムにおいてのみ用いることができる。なぜなら、当該方法は、これら周波数のうちの1つが利用できない短い期間中に推定することに依拠しているからである。したがって、上記公報の方法は、受信機が一般に上記周波数のうちの1つしか追跡しない場合には採用することができない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
概要
本発明の一局面に従うと、目標搬送波周波数(fk)で少なくとも1つのGNSSパラメータ推定値
【0010】
【0011】
を生成することによって、GNSSシステムにおいて利用不可能な測定値を再作成するための方法が提供される。当該方法は、それぞれの他の搬送波周波数(fi)での1つ以上の利用可能な擬似距離測定値(Pi)から、当該目標搬送波周波数(fk)での擬似距離推定値
【0012】
【0013】
を導出するステップと、それぞれの他の搬送波周波数(fi)での当該1つ以上の利用可能な擬似距離測定値(Pi)および1つ以上の利用可能な搬送波位相測定値(φi)から、当該目標搬送波周波数(fk)での搬送波位相推定値
【0014】
【0015】
を導出するステップとを含む。
本発明は、特に、衛星での信号生成に関していくつかの条件が満たされた場合、1つ以上の他の周波数帯域上で得られた測定値から所与の周波数帯域に関する擬似距離および搬送波位相を導出することができるという発明者らの見識に基づいている。当該1つ以上の「他の周波数帯域」は、所与の目標周波数帯域とは異なる。本発明の方法では、目標周波数帯域内の以前の測定値にアクセスする必要はない。
【0016】
本発明に従った方法の利点は、基地受信機およびローバー受信機が同じセットの信号を追跡しない場合に差動動作を有効にする点である。本発明に従った方法のさらなる利点は、何らかの理由で(一時的に)ジャミングされているかまたは利用できない周波数帯域に関する測定値を入手し続けることを可能にする点である。
【0017】
本発明に従った方法の一実施形態においては、当該擬似距離推定値
【0018】
【0019】
を導出するステップ(1030)は、当該目標周波数(fk)に対する対応する他の搬送波周波数(fi)の比の関数である第1の補正項を、当該1つ以上の擬似距離測定値(Pi)のうちの1つに加えるステップを含む。
【0020】
本実施形態は、目標擬似距離(Pk)と利用可能な擬似距離(Pi)との差を、許容可能な近似度にまで、比
【0021】
【0022】
の衛星非依存関数として表現することができるという見識に基づいている。
特定の実施形態では、第1の補正項は、対応する電離層遅延(Ii)に比例するとともに、比の二乗から1を差引いたものとして規定される係数である。
【0023】
発明者らは、目標擬似距離(Pk)と利用可能な擬似距離(Pi)との差を、許容可能な近似度にまで、積
【0024】
【0025】
として表現することができることを見出した。この場合、Iiは適用可能な電離層遅延である。
【0026】
本発明に従った方法の一実施形態では、当該搬送波位相推定値
【0027】
【0028】
を導出するステップは、当該目標搬送波周波数(fk)と対応する他の搬送波周波数(fi)との差の関数である第2の補正項を、当該1つ以上の搬送波位相測定値(φi)のうちの1つに加えるステップを含む。
【0029】
本実施形態は、目標搬送波位相(φk)と利用可能な搬送波位相(φi)との差を、許容可能な近似度にまで、差fi-fkの衛星非依存関数として表現することができるという見識に基づいている。
【0030】
特定の実施形態では、当該第2の補正項は、対応する擬似距離測定値(Pi)と、当該目標搬送波周波数(fk)と当該対応する他の搬送波周波数(fi)との差と、光の速度(c)の逆数と、の積である項を含む。
【0031】
特定の実施形態では、当該第2の補正項は、対応する電離層遅延(Ii)と、当該目標搬送波周波数(fk)と当該対応する他の搬送波周波数(fi)との差の二乗と、目標搬送波周波数(fk)と光の速度(c)との積の逆数と、の積である項を含む。
【0032】
発明者らは、目標搬送波位相(φk)と利用可能な搬送波位相(φi)との差を、許容可能な近似度にまで、
【0033】
【0034】
として表現することができることを見出した。
本発明に従った方法の一実施形態では、導出するステップは、いずれの先験的な衛星依存項にも依拠しない。
【0035】
本実施形態の一利点は、導出が、利用可能な帯域で(すなわち、周波数fiで)衛星によって送信される(複数の)信号からは得られない任意の衛星依存項に依拠していないので、関与する衛星についての先験的知識が不要である点である。
【0036】
本発明に従った方法の一実施形態では、当該目標搬送波周波数(fk)は、他の搬送波周波数(fi)から100MHz以内にある。
【0037】
発明者らは、本発明の変換式に関して、たとえば、信号がAltBOC変調の一部である場合と同様に、Pi項およびIi項の係数が特に小さいので、送信元周波数fiと目標周波数fkとが互いに近い場合に特に興味深いものであることを見出した。
【0038】
本発明に従った方法の一実施形態では、目標搬送波周波数(fk)での信号とそれぞれの他の搬送波周波数(fi)での信号との間の周波数間バイアスは衛星に依存しない。
【0039】
本実施形態の利点は、別々の衛星の送信元追跡信号/目標追跡信号の間で適用できることである。
【0040】
本発明の一局面に従うと、GNSSを用いて位置を判定するための方法が提供される。当該方法は、第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップと、第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するステップと、当該第1のセットに存在するが当該第2のセットには存在しない少なくとも1つの目標周波数帯域について、上述の導出するステップを適用することによって、異なる周波数帯域で受信された少なくとも1つの補正信号からシミュレート済み補正信号を計算するステップと、当該目標周波数帯域で受信された当該追跡信号および当該対応するシミュレート済み補正信号に基づいて位置パラメータを計算するステップとを含む。
【0041】
本発明の一局面に従うと、GNSSを用いて位置を判定するための方法が提供される。当該方法は、第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップと、第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するステップと、当該第2のセットに存在するが当該第1のセットには存在しない少なくとも1つの目標周波数帯域について、前述の請求項のいずれか1項に記載の導出するステップを適用することによって、異なる周波数帯域で受信された少なくとも1つの追跡信号からシミュレート済み追跡測定値を計算するステップと、当該シミュレート済み追跡測定値および当該目標周波数帯域で受信された当該対応する補正信号に基づいて、位置パラメータを計算するステップとを含む。
【0042】
本発明の一局面に従うと、GNSSシステムのジャミングに対抗するための方法が提供される。当該方法は、第1のセットのジャミングされていない周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップと、少なくとも1つのジャミングされている周波数帯域について、上述の導出するステップを適用することによって、当該セットのジャミングされていない周波数帯域における1つ以上の受信済み追跡信号からシミュレート済み追跡測定値を計算するステップとを含む。
【0043】
本発明の一局面に従うと、コード手段を備えるコンピュータプログラムプロダクトが提供される。当該コード手段は、実行されると、プロセッサに上述の方法のステップを実行させるように構成されている。
【0044】
本発明の一局面に従うと、GNSSを用いて位置を判定するためのシステムが提供される。当該システムは、第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星から追跡信号を受信するように構成された第1の受信手段と、第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するように構成された第2の受信手段と、当該追跡信号および当該補正信号に対して上述の方法を実行するように構成された処理手段とを備える。
【0045】
本発明に従ったコンピュータプログラムプロダクトおよびGNSS受信機についての実施形態の技術的効果および利点は、本発明に従った方法についての対応する実施形態の技術的効果および利点に必要な変更を加えたものに対応している。
【0046】
図面の簡単な説明
次に、本発明の実施形態についてのこれらおよび他の技術的特徴および利点を、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】基地局(ガリレオ(Galileo)E1およびガリレオE5a)によって追跡される周波数とローバー(ガリレオE1およびガリレオE5b)によって追跡される周波数との間の不一致を示す図である。
【
図2】ローバーによって計算された測定値に対する基地から受信した測定値のアライメントを概略的に示す図である。
【
図3】基地から受信した測定値に対するローバからの測定値のアライメントを概略的に示す図である。
【
図4】本発明に従った方法の一実施形態のフローチャートを示す図である。
【
図5】本発明に従ったシステムの一実施形態を概略的に示す図である。
【
図6】真のGPS L5搬送波位相と、GPS L2搬送波位相から導出されるGPS L5搬送波位相との間のバイアスの値を示す図である。
【
図7】真のガリレオE5a搬送波位相とガリレオE5b搬送波位相から導出されるガリレオE5a搬送波位相との間のバイアスの値を示す図である。
【
図8】電離層寄与を無視することの影響を説明する値を示す図である。
【
図9】真のE5
a擬似距離と、E5
b擬似距離から推定されるE5
a擬似距離との差を説明する値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
発明の詳細な説明
上述したように、大多数のGNSS衛星は、さまざまな周波数帯域で複数の測位信号を送信する。たとえば、最新世代のGPS衛星は、L1搬送波、L2搬送波およびL5搬送波について、それぞれ1575.42MHz、1227.6MHzおよび1176.45MHzで送信する。ガリレオ衛星は、E1搬送波、E5a搬送波、E5b搬送波、およびE6搬送波について、それぞれ1575.42MHz、1176.45MHz、1207.14MHz、および1278.75MHzで送信する。この場合、E5aおよびE5bは単一の広帯域AltBOC変調として送信される。
【0049】
費用、サイズまたは電力消費を最適化するために、多くのGNSS受信機は、所与の衛星によって送信される周波数帯域をすべて追跡するわけではない。
【0050】
たとえば、ガリレオ受信機は、ガリレオE1信号およびガリレオE5b信号のみを追跡するように設計されてもよい。このような受信機は、E1およびE5bについての搬送波位相および擬似距離のみを生成することとなるだろう。
【0051】
周波数帯域iおよびjを追跡するローバは、周波数帯域iおよびjに適用可能な測定値または補正値を受信しなければならない。たとえば、RTKローバは、ガリレオE1信号およびガリレオE5b信号を追跡している場合にはE1信号およびE5b信号に関する基地局データを受信しなければならない。基地局が代わりにE1およびE5aに関するデータを送信している場合、E1測定値のみが使用可能となり、ローバーは、より低精度の単一周波数でのソリューションに戻らなければならなくなるだろう。これを
図1に示す。
【0052】
本発明の実施形態の一目的は、この問題を少なくとも部分的に克服することである。発明者らは、衛星における信号生成時にいくつかの条件が満たされた場合、1つ以上の他の周波数帯域に関して得られた測定値から所与の周波数帯域に関する擬似距離および搬送波位相を導出できることを見出した。
【0053】
たとえば、本発明に従った受信機の一実施形態は、
図2に示されるように、E5a帯域からの基地局測定値をE5b帯域からの測定値に変換することができるだろう。図示した実施形態では、本発明の核心は、基地局が受信したE5a測定値からE5b測定値をエミュレートすることで二重周波数PVTを計算することを可能にする「E5aからE5bを導出する」ブロックによって表わされる。
【0054】
図3に示される別の例示的な実施形態では、ローバからのE5b測定値はE5aに変換される。
【0055】
物理的には、1つ以上の他の周波数帯域に関して得られた測定値から所与の周波数帯域に関する擬似距離および搬送波位相を導出できるということは、所与の衛星の別々の周波数帯域に関して得られた測定値間に強い相関関係が存在するという事実に関係している。別々の周波数帯域での測定値間の差をもたらす主な原因は、分散媒体である電離層、ならびに受信機および衛星の周波数間バイアスであることが知られている。
【0056】
電離層は、しばしば、予測可能もしくは測定可能であるか、または場合によっては無視されてもよい。受信機バイアスは、受信機ハードウェアにおける遅延および位相シフトによってもたらされる。これらはすべての衛星に共通であり、このため、測位誤差に寄与しない。したがって、異なる周波数帯域における測定値間の相関関係を利用するという観点から、衛星の周波数間バイアスは、観察された偏差に対して最も厄介な寄与となる。
【0057】
当技術分野において主流となっている見知によれば、衛星の周波数間バイアス(すなわち、衛星ハードウェアにおける遅延および位相シフト)は、衛星に依存するものであり、場合によっては時間とともに変動可能であり、各周波数帯域に特有のものであると考えらられている。衛星の周波数間バイアスが存在しているということは、ローバが追跡しているものと同じ周波数帯域から測定値または補正値を受信する必要があることの主な理由となる。
【0058】
しかしながら、発明者らは、一般的な見解とは逆に、衛星の周波数間バイアスが常に衛星に依存するわけではないことを見出した。たとえば、ガリレオE5a信号とガリレオE5b信号とガリレオE5-AltBOC信号との間の周波数間バイアスは、驚くべきことに、本質的に衛星に依存していない。このことは、これらの信号が単一の広帯域変調として送信されるとともに衛星において決定論的にデジタル方式で生成されるという事実に起因する。
【0059】
本発明の実施形態はこの特性を利用している。したがって、信号iおよび信号kの周波数間バイアスが衛星に依存しないようにこれらの信号iおよび信号kが衛星によって送信される場合、信号iからの測定値のみが利用可能であっても、信号kからの測定値がどのようなものになるかを予測することができる。本発明は、ローバーが基地局またはネットワークから利用可能な信号と同じ信号を追跡していない場合に、ローバーからの測定値を基地局またはネットワークから受信された測定値に合わせるのに特に有用である。
【0060】
図4は、本発明に従った方法の一実施形態についてのフローチャートを提供する。当該方法は、それぞれの他の搬送波周波数(f
i)での1つ以上の利用可能
な擬似距離測定値(P
i)および搬送波位相測定値(φ
i)から、目標搬送波周波数(f
k)での少なくとも1つのGNSSパラメータ推定値
【0061】
【0062】
を導出する方法を提供する。
当該方法は、特に、目標周波数(fk)に対する対応する他の搬送波周波数(fi)の比の関数である第1の補正項を1つ以上の擬似距離測定値(Pi)のうちの1つに加えることによって、目標搬送波周波数(fk)での擬似距離推定値
【0063】
【0064】
を導出するステップ1030を含み得る。
当該方法は、特に、目標搬送波周波数(fk)と対応する他の搬送波周波数(fi)との差の関数である第2の補正項を、1つ以上の搬送波位相測定値(φi)のうちの1つに加えることによって、目標搬送波周波数(fk)での搬送波位相推定値
【0065】
【0066】
を導出するステップ1040を含み得る。
上述の少なくとも1つのGNSSパラメータ推定値を導出するステップは、GNSSを用いて位置を判定するための方法において用いることができる。
【0067】
図2に概略的に示されるとともに
図4においてさらに詳述されるシナリオでは、そのような方法は、第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップ1010と、第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するステップ1020と、当該第1のセットに存在するが当該第2のセットには存在しない少なくとも1つの目標周波数帯域について、上述の導出するステップ1030;1040を適用することによって、異なる周波数帯域で受信された少なくとも1つの補正信号からシミュレート済み補正信号を計算するステップと、当該目標周波数帯域で受信された当該追跡信号および当該対応するシミュレート済み補正信号に基づいて、位置パラメータを計算するステップ1050とを含み得る。
【0068】
図3に概略的に示される(
図4には示されない)シナリオでは、そのような方法は、第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップ1010と、第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するステップ1020と、当該第2のセットに存在するが当該第1のセットには存在しない少なくとも1つの目標周波数帯域について、上述の導出するステップ1030;1040を適用することによって、異なる周波数帯域で受信された少なくとも1つの補正信号からシミュレート済み追跡測定値を計算するステップと、当該シミュレート済み追跡測定値および当該目標周波数帯域で受信された当該対応する補正信号に基づいて位置パラメータを計算するステップ1050とを含み得る。
【0069】
上述の少なくとも1つのGNSSパラメータ推定値を導出するステップは、GNSSシステムにおけるジャミングに対抗するための方法において用いることができる。当該用途では、一実施形態は、1セットのジャミングされていない周波数帯域でGNSS衛星からそれぞれの追跡信号を受信するステップと、少なくとも1つのジャミングされている周波数帯域について、上述の導出するステップ1030;1040を適用することによって、当該1セットのジャミングされていない周波数帯域における1つ以上の受信済み追跡信号からシミュレート済み追跡測定値を計算するステップとを含み得る。
【0070】
図5は、本発明に従ったシステムの一実施形態を概略的に示す。当該システムは特にGNSS受信機であり得る。
【0071】
GNSSを用いて位置を判定するための例示のシステムは、第1のセットの周波数帯域でGNSS衛星から追跡信号を受信するように構成された第1の受信手段110と、第2のセットの周波数帯域で基地局からそれぞれの補正信号を受信するように構成された第2の受信手段120と、当該追跡信号および当該補正信号に対して上述の方法を実行するように構成された処理手段130とを備える。
【0072】
代替的なGNSSシステムは、上述のように、ジャミングに対抗するための方法を実行するように構成され得る。この場合、処理手段130は、ジャミングされていない周波数帯域に関して受信された上記追跡信号に対して上述の方法を実行するように構成される。
【0073】
本発明に従ったシステムの処理手段に起因する機能は、適切なソフトウェア、構成可能なハードウェア構成要素(たとえばFPGA)、専用のハードウェア構成要素(たとえばASIC)、またはそれらの任意の組合せを含むプログラム可能なハードウェア構成要素(たとえば、汎用プロセッサ、DSP等)によって実行され得る。同じ構成要素(複数の構成要素)が他の機能を提供してもよい。
【0074】
本発明はまた、コード手段を備えるコンピュータプログラムプロダクトに関する。当該コード手段は、実行されると、本発明に従った方法のステップをプロセッサに実行させるように構成されている。当該コンピュータプログラムプロダクトは、コンピュータ可読媒体(たとえば、光学メモリ、磁気メモリもしくは半導体ベースのメモリ)に格納されたソフトウェアまたはダウンロード可能なソフトウェアアプリケーションを含み得るがこれらに限定されない。
【0075】
ここで、或る搬送波周波数でのGNSS測定値(擬似距離、搬送波位相、ドップラー、およびCN0)が、1つ以上の他の搬送波周波数で得られた測定値からどのように推測され得るかについて、より詳細に説明する。
【0076】
所与のGNSS衛星に関する2つの搬送波周波数fiおよびfkでの擬似距離測定値および搬送波位相測定値は、以下のように表すことができる。
【0077】
【0078】
これらの式においては、Piはメートル単位の周波数iでの擬似距離であり、φiは搬送波サイクル単位の周波数iでの搬送波位相であり、ρは衛星-受信機間の距離(および本発明に関連しない追加のクロック誤差項)であり、Niは整数位相不定性であり、Iiはメートル単位の周波数fiでの電離層における遅延であり、δPi
は擬似距離バイアスであり、δφiは搬送波位相バイアスであり、cは光の速度である。
【0079】
電離層遅延Iiは、典型的には数メートルのオーダであり、極端な電離層作用を受けた状態では最大で200mにまで達し得る。
【0080】
擬似距離バイアスδPiは、衛星依存バイアスと受信機依存バイアスとの和である。両方のバイアスは典型的にはメートルレベルである。衛星依存バイアスは、通常、衛星によって送信されるビゲーションメッセージに含まれる情報を用いて補償することができる。補償後、残りの衛星バイアスは数デシメートルにまで低減される。受信機バイアスは、すべての衛星に共通であり、典型的には位置計算の際に相殺される。このため、本記載ではそれ以上の懸念はない。
【0081】
搬送波位相バイアスδφiは、衛星依存バイアスと受信機依存バイアスとの和である。整数部分が整数不定性Niに吸収されるので、δφiの分数部分だけが関連している。受信機依存バイアスは、典型的には、位置計算の際に相殺されるので、本発明には関連していないが、衛星依存位相バイアスは、補償されない場合、位置アルゴリズムに直接影響を及ぼす。
【0082】
式(1)を配列し直すことにより、φkおよびPkを以下のように表すことができる。
【0083】
【0084】
この場合、Nki=Nk-Ni、δφki=δφk-δφi、および、δPki=δPk-δPiである。
【0085】
式(2)および式(3)は、周波数fiでの搬送波位相および擬似距離ならびに電離層遅延から、周波数fkでの搬送波位相および擬似距離を導出できることを示唆している。
【0086】
ここで、fkでの搬送波位相は、以下の式を用いて、周波数fiでの擬似距離および搬送波位相から計算され得る。
【0087】
【0088】
ここで、
【0089】
【0090】
は、導出された搬送波位相測定値である。電離層遅延Iiを得るためのいくつかの方法を以下に説明する。
【0091】
(4)と(2)とを組合わせることにより、周波数fkでの真の搬送波位相測定値と周波数fkでの導出された測定値との差が以下の通りであることが分かるだろう。
【0092】
【0093】
この場合、
【0094】
【0095】
である。
真の搬送波位相測定値と導出された搬送波位相測定値との差は、整数不定性項N
kiとバイアス項B
k,iとの和である。搬送波位相測定値が常に未知の整数不定性で定義され
るので、不定性項は無関係であるが、バイアス項B
k,iはそのとおりではない。B
k,iは、任意の整数部分が整数不定性N
kiに吸収されるので、0から1までの値である。B
k,iは、多くの場合、衛星に依存するかまたは時間に応じて変動可能である。
図6は、
一例として、(4)を用いてGPS L5測定値がGPS L2測定値(B
L5,L2)
から導出される場合に対応するB
k,i項を示す。
【0096】
図6は、1日間にわたって観察される、中緯度位置からのすべてのGPS衛星についてのB
L5,L2値を示す。各トレース線は衛星の通過に対応する。B
L5,L2がすべての衛星に対して異なっており、衛星の通過に関して一定ではないことが分かるだろう。
【0097】
この衛星依存性により、衛星依存の影響が補償されない限り、(4)を用いて搬送波位相測定値を導出することが非実用的となる。
【0098】
しかしながら、いくつかのGNSS信号の場合、Bk,iは衛星に依存していないよう
に見える。これは、たとえば、周波数fiの信号および周波数fkの信号が衛星によって広帯域変調として送信される場合に該当する。その場合、導出された搬送波位相は、整数サイクル分および衛星非依存バイアス分だけ真の搬送波位相から異なっているに過ぎない。衛星非依存バイアスは、受信器バイアスとは区別できないので、測位アルゴリズムにおいては不適切である。
【0099】
衛星によって広帯域変調で送信される信号の例として、1176.45MHzではE5aガリレオ信号および1207.14MHzではE5bガリレオ信号がある。一例として、中緯度位置から丸一日の間にわたって観察されるすべてのガリレオ衛星についてのB
E5a,E5b項が
図7にグラフ化されている。
【0100】
図6と比較すると、
図7は、E5b搬送波位相からのE5a搬送波位相の予測可能性が、GPS L2からのGPS L5の予測可能性よりもはるかに優れていることを示している。グローバルオフセット(
図7では約0.63サイクル)が存在しているが、そのようなオフセットは搬送波位相測定に固有のものであり、測位アルゴリズムには関係がない。
【0101】
周波数fiおよび周波数fkが互いに近い(たとえば、信号がAltBOC変調の一部である場合と同様に、分離<100MHzである)場合、式(4)は特に興味深いものとなる。これは、この場合、Pi項およびIi項の係数が小さいからである。
【0102】
たとえば、fiがE5b周波数であり、fkがE5a周波数である場合、(4)は以下のとおりである。
【0103】
【0104】
これは、E5b測定値および電離層遅延からE5a搬送波位相を推定する際に、E5b擬似距離における任意の誤差に対する結果の感度が小さくなる(係数0.1024分だけ減衰される)とともに、電離層遅延に対する感度がさらに小さくなる(係数0.00267)だろうことを示している。これは、電離層遅延を高い精度で認識しておく必要がないことを意味する。一例として、(7)では、IE5bに関する10メートルの誤差は、ほとんどの用途では無視できる
【0105】
【0106】
の0.0267サイクルの誤差にしか寄与しないだろう。
電離層遅延Iiは、いくつかの方法で推定することができる。これは、たとえば、以下の周知の式を用いて、2つの周波数fiおよびfj(fjは、典型的にはfkとは異なる)での2つの擬似距離の差から得ることができる。
【0107】
【0108】
(8)では、PiおよびPjは周波数fiおよび周波数fjでの擬似距離であり、BGD()は、衛星によって送信される任意の補正項である。たとえば、E5bガリレオ周波数およびE1ガリレオ周波数からの測定値を有する受信機は、E5b(Pi)およびE1(Pj)に関する擬似距離を用いて電離層遅延IE5bを推定し得るとともに、さらに、(7)を用いてE5a搬送波位相を推定し得る。
【0109】
(8)を用いてIiを判定することができる精度は数メートルのレベルであり、これは、低い倍率を考慮すると十分過ぎるほどである。Pi擬似距離とPj擬似距離との間の任意の受信機バイアス作用は、導出された位相のグローバルオフセットに寄与し得るものであって、関連性がない。
【0110】
本発明に適した精度レベルでIi遅延を得るための他の方法は、電離層マップ、たとえばSBAS衛星によって送信されるマップを用いること、または、GPS衛星によって送信されるKlobucharモデルなどのモデルを適用すること、を含む。
【0111】
本発明の一変形例では、周波数fkでの搬送波位相は、周波数fiでの搬送波位相から、かつ、周波数fiおよび周波数fjでの擬似距離から、(8)および(4)を用いて得られる。
【0112】
擬似距離は、任意には、ノイズを減らすために周知の方法で搬送波平滑化され得る。
電離層に対する感度が低いので、(4)において完全にI
i項を無視することさえも可能である。たとえば、
図8は、E5b搬送波位相からE5a搬送波位相を導出する場合の、中緯度局に関する丸一日にわたる導出済み搬送波位相に対するI
i項の寄与を示す。当該寄与は、電離層作用の増大に応じて午後に1ビット増加させるが、常に数百サイクルのレベルのままで保たれているので、差し支えなく無視することができる。
【0113】
本発明の別の変形例では、導出された搬送波位相測定値は、単一の他の周波数のコードおよび搬送波位相の測定値からのみ、好ましくは近接周波数分離で、計算される。この場合、Iiは(4)においてゼロに設定される。
【0114】
なお、上記導出が受信側の位相ワインドアップ(phase wind-up)の影響に明確に対処
していないことに留意されたい。位相ワインドアップがすべての衛星に同じように影響を及ぼす共通のバイアスであるので、測位アルゴリズムには不適切である。
【0115】
(3)から開始すると、周波数fiでの擬似距離からの、周波数fkでの擬似距離についての好適な推定量は以下のとおりとなる。
【0116】
【0117】
ここで、fkでの真の擬似距離測定値と(9)を用いて導出された測定値との差は以下のとおりである。
【0118】
【0119】
バイアス項δP
k,iは、衛星依存成分および衛星非依存成分を有する。ここでは衛星
依存成分だけが関連している。これは、衛星が送信するグループ遅延情報を用いて正確に補償することができる。代替的には、ガリレオE5a、ガリレオE5bおよびガリレオE5-AltBOCなどの広帯域変調として送信される信号の場合、δP
k,iについては
衛星からの非依存性が大きいので、このδP
k,iは無視しても差し支えない。δP
k,iが衛星に依存していないという事実を
図9に示す。グレーの色調ごとに異なる衛星に対応している。顕著な衛星依存オフセットは見られない。
【0120】
式(9)は、周波数fiおよび周波数fkが互いに近い(たとえば、ガリレオAltBOC信号の場合と同様に、分離<100MHzである)場合に特に興味深いものとなる。というのも、この場合、Ii項の係数が小さいからである。たとえば、fiがE5b周波数に対応しており、fkがE5a周波数である場合、(9)は以下のとおりである。
【0121】
【0122】
搬送波位相の場合と同様に、式(11)は、電離層依存項が結果に対して限られた作用しか及ぼさないことを示している。
【0123】
本発明に従った受信機では、周波数fkでの擬似距離は(9)を用いて計算されてもよく、Ii値は(8)によって計算されてもよい。
【0124】
いくつかのGNSS受信機はまた、さまざまな周波数でドップラーを計算する。周波数fiでのドップラーから周波数fkでのドップラーを推量することは当技術分野では周知である。これは以下の式を用いて行うことができる。
【0125】
【0126】
C/N0値に関しては、通常、CN0が周波数に依存していないと想定しても差し支えないだろう。このため、以下のとおりとなる。
【0127】
C/N0k=C/N0i
特定の実施形態を参照して本発明を上述してきたが、これは、本発明を限定するためではなく明確にするためになされたものであり、その範囲は添付の特許請求の範囲によって特定される。