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特許7377880モータサイクルの動作の制御装置及び制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】モータサイクルの動作の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20231102BHJP
   B60W 30/16 20200101ALI20231102BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20231102BHJP
   B62J 27/00 20200101ALI20231102BHJP
   B62J 50/21 20200101ALI20231102BHJP
   B62J 45/00 20200101ALI20231102BHJP
【FI】
B60T7/12 C
B60W30/16
B60W50/14
B62J27/00
B62J50/21
B62J45/00
B60T7/12 F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021555899
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 IB2020060387
(87)【国際公開番号】W WO2021094877
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019206434
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】平栗 和彦
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519323(JP,A)
【文献】特許第4865095(JP,B1)
【文献】特開2019-021152(JP,A)
【文献】特開2017-167915(JP,A)
【文献】特開2018-167801(JP,A)
【文献】特開2017-114194(JP,A)
【文献】特開2010-108343(JP,A)
【文献】特開2018-072207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60W 30/16
B60W 50/14
B62J 27/00
B62J 50/21
B62J 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲環境検出装置(11)が搭載されたモータサイクル(100)の動作の制御装置(20)であって、
前記モータサイクル(100)の走行中に、前記周囲環境検出装置(11)の出力に基づいて、該モータサイクル(100)の周囲環境情報を取得する取得部(21)と、
前記取得部(21)で取得された前記周囲環境情報に基づいて、前記モータサイクル(100)にアダプティブクルーズ動作を実行させるアダプティブクルーズ動作実行部(22)と、
を備えており、
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)は、
前記アダプティブクルーズ動作において前記モータサイクル(100)に生じさせる減速度を、上限値以下に又は該上限値よりも低く制御し、
前記アダプティブクルーズ動作の実行中に、前記上限値に基づいて前記モータサイクル(100)に生じる衝突可能性を判定し、該衝突可能性が高いと判定された場合に、該モータサイクル(100)のライダーの触覚器に作用する警告動作を実行
前記警告動作は、前記モータサイクル(100)に前記上限値を超える減速度を瞬時的に生じさせる動作である、
制御装置。
【請求項2】
前記警告動作は、前記モータサイクル(100)に設けられている加振器(50)に振動を生じさせる動作である、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記警告動作は、前記ライダーの装着物に設けられている加振器(50)に振動を生じさせる動作である、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)は、前記警告動作を実行した後、前記ライダーによる前記アダプティブクルーズ動作の解除動作が実行されるまで、該アダプティブクルーズ動作を継続する、
請求項1~の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記解除動作は、前記ライダーが前記モータサイクル(100)の制動装置(30)を操作する動作である、
請求項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記解除動作は、前記ライダーが前記モータサイクル(100)の駆動装置(40)を操作する動作である、
請求項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)は、前記衝突可能性が高いと判定された後、前記ライダーによる前記アダプティブクルーズ動作の解除動作が実行される前に、前記アダプティブクルーズ動作を強制終了する、
請求項1~の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)は、前記上限値と、前記アダプティブクルーズ動作における前記モータサイクル(100)の速度制御での追従対象車両の走行情報と、に基づいて、該追従対象車両に対する前記モータサイクル(100)の衝突の可能性である前記衝突可能性を判定する、
請求項1~の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項9】
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)は、前記走行情報を前記周囲環境情報に基づいて取得する、
請求項に記載の制御装置。
【請求項10】
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)は、前記走行情報を前記追従対象車両に搭載された通信装置(200)の出力に基づいて取得する、
請求項又はに記載の制御装置。
【請求項11】
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)は、前記走行情報を道路設備に設けられた通信装置(200)の出力に基づいて取得する、
請求項10の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項12】
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)は、前記上限値と、前記モータサイクル(100)の走行経路上に有る障害物の情報と、に基づいて、前記モータサイクル(100)の衝突の可能性である前記衝突可能性を判定する、
請求項1~の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項13】
周囲環境検出装置(11)が搭載されたモータサイクル(100)の動作の制御方法であって、
制御装置(20)の取得部(21)が、前記モータサイクル(100)の走行中に、前記周囲環境検出装置(11)の出力に基づいて、該モータサイクル(100)の周囲環境情報を取得する取得ステップ(S101)と、
前記制御装置(20)のアダプティブクルーズ動作実行部(22)が、前記取得ステップ(S101)で取得された前記周囲環境情報に基づいて、前記モータサイクル(100)にアダプティブクルーズ動作を実行させるアダプティブクルーズ動作実行ステップ(S102~S106)と、
を含み、
前記アダプティブクルーズ動作実行ステップ(S102~S106)において、
前記アダプティブクルーズ動作実行部(22)が、
前記アダプティブクルーズ動作において前記モータサイクル(100)に生じさせる減速度を、上限値以下に又は該上限値よりも低く制御し、
前記アダプティブクルーズ動作の実行中に、前記上限値に基づいて前記モータサイクル(100)に生じる衝突可能性を判定し、該衝突可能性が高いと判定された場合に、該モータサイクル(100)のライダーの触覚器に作用する警告動作を実行
前記警告動作は、前記モータサイクル(100)に前記上限値を超える減速度を瞬時的に生じさせる動作である、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲環境検出装置が搭載されたモータサイクルの動作の制御装置と、周囲環境検出装置が搭載されたモータサイクルの動作の制御方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
モータサイクル(自動二輪車又は自動三輪車)にアダプティブクルーズ動作を実行させる技術が公知である。アダプティブクルーズ動作は、モータサイクルを、モータサイクルから前走車までの距離、そのモータサイクルの動き、及びライダーの指示に応じて走行させる動作である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/172870号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータサイクルでアダプティブクルーズ動作が実行される場合では、他の車両(例えば4輪を有する乗用車、トラック等)で安全性に問題の生じない加減速度を生じさせたとしても、走行時の車体挙動が他の車両と比較して不安定になり易いことに起因して、速度変化に不意をつかれたライダーがモータサイクルを転倒させる状況が生じかねない。そのため、モータサイクルでアダプティブクルーズ動作が実行される場合では、その動作中にモータサイクルに生じる減速度を低く制限する必要がある。そして、その制限値を超える減速度が必要となる局面では、アダプティブクルーズ動作が解除されてライダーが自らモータサイクルを操縦することが望ましい。しかしながら、そのような局面下で、アダプティブクルーズ動作を実行中のモータサイクルのライダーに自らの操縦を確実に促せる手法がまだ確立されていない。
【0005】
本発明は、上述の課題を背景としてなされたものであり、モータサイクルにおけるアダプティブクルーズ動作の安全性を向上することができる制御装置及び制御方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る制御装置は、周囲環境検出装置が搭載されたモータサイクルの動作の制御装置であって、前記モータサイクルの走行中に、前記周囲環境検出装置の出力に基づいて、該モータサイクルの周囲環境情報を取得する取得部と、前記取得部で取得された前記周囲環境情報に基づいて、前記モータサイクルにアダプティブクルーズ動作を実行させるアダプティブクルーズ動作実行部と、を備えており、前記アダプティブクルーズ動作実行部は、前記アダプティブクルーズ動作において前記モータサイクルに生じさせる減速度を、上限値以下に又は該上限値よりも低く制御し、前記アダプティブクルーズ動作の実行中に、前記上限値に基づいて前記モータサイクルに生じる衝突可能性を判定し、該衝突可能性が高いと判定された場合に、該モータサイクルのライダーの触覚器に作用する警告動作を実行する。
【0007】
本発明に係る制御方法は、周囲環境検出装置が搭載されたモータサイクルの動作の制御方法であって、制御装置の取得部が、前記モータサイクルの走行中に、前記周囲環境検出装置の出力に基づいて、該モータサイクルの周囲環境情報を取得する取得ステップと、前記制御装置のアダプティブクルーズ動作実行部が、前記取得ステップで取得された前記周囲環境情報に基づいて、前記モータサイクルにアダプティブクルーズ動作を実行させるアダプティブクルーズ動作実行ステップと、を含み、前記アダプティブクルーズ動作実行ステップにおいて、前記アダプティブクルーズ動作実行部が、前記アダプティブクルーズ動作において前記モータサイクルに生じさせる減速度を、上限値以下に又は該上限値よりも低く制御し、前記アダプティブクルーズ動作の実行中に、前記上限値に基づいて前記モータサイクルに生じる衝突可能性を判定し、該衝突可能性が高いと判定された場合に、該モータサイクルのライダーの触覚器に作用する警告動作を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る制御装置及び制御方法では、アダプティブクルーズ動作実行部が、アダプティブクルーズ動作においてモータサイクルに生じさせる減速度を、上限値以下に又は上限値よりも低く制御し、アダプティブクルーズ動作の実行中に、その上限値に基づいてモータサイクルに生じる衝突可能性を判定し、衝突可能性が高いと判定された場合に、モータサイクルのライダーの触覚器に作用する警告動作を実行する。モータサイクルでは、そのライダーの搭乗姿勢に起因して、ライダーがモータサイクルに設けられている表示器を視認する頻度が少なくなる場合がある。また、アダプティブクルーズ動作は、高速域で実行される可能性が高く、そのような状況下では、ライダーの搭乗空間が車体で囲まれていないことに起因して、風切り音等の大きなノイズが音による警告を聞き取りにくくする。それに対して、本発明に係る制御装置及び制御方法では、上限値を超える減速度が必要となる局面において、触覚器に作用する警告によってライダーに自らの操縦を高い確実性で促すことが可能であるため、モータサイクルにおけるアダプティブクルーズ動作の安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1に係るライダー支援システムの、モータサイクルへの搭載状態を示す図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るライダー支援システムの、システム構成を説明するための図である。
図3】本発明の実施の形態1に係るライダー支援システムの、制御装置における制御フローの一例を示す図である。
図4】本発明の実施の形態2に係るライダー支援システムの、システム構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る制御装置及び制御方法について、図面を用いて説明する。
【0011】
なお、「モータサイクル」との用語は、ライダーが跨って搭乗する鞍乗型車両のうちの自動二輪車又は自動三輪車を意味する。モータサイクルには、エンジンを推進源とする自動二輪車又は自動三輪車、モータを推進源とする自動二輪車又は自動三輪車等が含まれ、例えば、オートバイ、スクーター、電動スクーター等が含まれる。また、以下では、モータサイクルが自動二輪車である場合を説明しているが、モータサイクルが自動三輪車であってもよい。
【0012】
また、以下で説明する構成及び動作等は一例であり、本発明に係る制御装置及び制御方法は、そのような構成及び動作等である場合に限定されない。また、以下では、同一の又は類似する説明を適宜簡略化又は省略している。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付すことを省略しているか、又は、同一の符号を付している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
【0013】
実施の形態1.
以下に、実施の形態1に係るライダー支援システムを説明する。
【0014】
<ライダー支援システムの構成>
実施の形態1に係るライダー支援システムの構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係るライダー支援システムの、モータサイクルへの搭載状態を示す図である。図2は、本発明の実施の形態1に係るライダー支援システムの、システム構成を説明するための図である。
【0015】
図1及び図2に示されるように、ライダー支援システム1は、モータサイクル100に搭載される。ライダー支援システム1は、少なくとも、モータサイクル100の前方の周囲環境を検出する周囲環境検出装置11と、モータサイクル100の走行状態を検出する走行状態検出装置12と、ライダーによって操作される入力装置13と、制御装置(ECU)20と、を含む。
【0016】
周囲環境検出装置11は、モータサイクル100の前方を監視して、モータサイクル100の前方の各種情報を検出する。具体的には、周囲環境検出装置11は、アダプティブクルーズ動作におけるモータサイクル100の速度制御での追従対象車両を特定する。また、周囲環境検出装置11は、モータサイクル100から追従対象車両までの距離を検出する。周囲環境検出装置11が、モータサイクル100から追従対象車両までの距離に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。
【0017】
ここで、モータサイクル100の前方を複数の前走車が走行している場合、周囲環境検出装置11は、モータサイクル100の走行車線と同一の車線においてモータサイクル100から最も近い位置を走行する車両を、モータサイクル100の速度制御での追従対象車両として選択する。この際、モータサイクル100の走行車線と同一の車線においてモータサイクル100から最も近い位置を走行する車両のみならず、モータサイクル100の複数台前を走行する車両、モータサイクル100の走行車線に隣接する車線を走行する車両等の挙動が、アダプティブクルーズ動作に加味されてもよい。
【0018】
周囲環境検出装置11としては、例えば、モータサイクル100の前方を撮像するカメラ及びモータサイクル100から前方の対象物までの距離を検出可能なレーダーが用いられる。その場合、例えば、カメラにより撮像される画像を用いて白線やガードレール等を認識し、これらの認識結果及びレーダーの検出結果を利用することによって、モータサイクル100から追従対象車両までの距離を検出することができる。周囲環境検出装置11は、例えば、車体の前部に設けられる。なお、周囲環境検出装置11の構成は、上記の例に限定されない。例えば、追従対象車両を特定してモータサイクル100からその追従対象車両までの距離を検出する機能が、レーダーのみによって実現されてもよく、また、ステレオカメラによって実現されてもよい。
【0019】
走行状態検出装置12は、例えば、前輪回転速度センサ、後輪回転速度センサ等を含む。前輪回転速度センサ及び後輪回転速度センサは、車輪の回転速度を検出し、検出結果を出力する。前輪回転速度センサ及び後輪回転速度センサが、車輪の回転速度に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。
【0020】
また、走行状態検出装置12は、例えば、制動力計測装置、駆動力計測装置等を含む。制動力計測装置は、例えば、ライダーによる制動装置30の操作量(代表的には、ブレーキレバー、ブレーキペダル等の操作量)、制動装置30に生じている実際の制動力等の検出結果を出力する。制動力計測装置が、ライダーによる制動装置30の操作量及び制動装置30に生じている実際の制動力に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。また、駆動力計測装置は、例えば、ライダーによる駆動装置40の操作量(代表的には、スロットルグリップ等の操作量)、駆動装置40に生じている実際の駆動力等の検出結果を出力する。駆動力計測装置が、ライダーによる駆動装置40の操作量及び駆動装置40に生じている実際の駆動力に実質的に換算可能な他の物理量を検出するものであってもよい。
【0021】
入力装置13は、ライダーによる走行モードの選択操作を受け付ける。ここで、モータサイクル100では、後述されるように、制御装置20によってアダプティブクルーズ動作が実行可能である。アダプティブクルーズ動作は、モータサイクル100の加減速度をライダーによる加減速操作によらずに自動で制御するクルーズ動作の一例に相当し、モータサイクル100を、モータサイクル100から前走車(つまり追従対象車両)までの距離、モータサイクル100の動き、及びライダーの指示に応じて走行させる制御である。ライダーは、入力装置13を用いて、走行モードとして、アダプティブクルーズ動作が実行される走行モードを選択することができる。また、ライダーは、入力装置13を用いて、アダプティブクルーズ動作でのモータサイクル100の設定速度を入力することができる。入力装置13としては、例えば、レバー、ボタン又はタッチパネル等が用いられる。入力装置13は、例えば、ハンドルに設けられる。
【0022】
制御装置20は、モータサイクル100の動作を制御する。例えば、制御装置20の一部又は全ては、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されている。また、例えば、制御装置20の一部又は全ては、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。制御装置20は、例えば、1つであってもよく、また、複数に分かれていてもよい。
【0023】
制御装置20は、取得部21と、アダプティブクルーズ動作実行部22と、を備える。
【0024】
取得部21は、モータサイクル100に搭載されている各装置から出力される情報を取得し、アダプティブクルーズ動作実行部22へ出力する。具体的には、取得部21は、周囲環境検出装置11から出力される情報に基づいて周囲環境情報を取得し、走行状態検出装置12から出力される情報に基づいてモータサイクル100の走行状態情報を取得し、入力装置13から出力される情報に基づいてライダー設定情報を取得する。走行状態情報には、例えば、モータサイクル100の速度、加減速度、位置、進行方向等の情報が含まれる。
【0025】
アダプティブクルーズ動作実行部22は、モータサイクル100に搭載されている各装置(制動装置30、駆動装置40等)の動作を制御することによって、モータサイクル100に生じさせる制動力及び駆動力を制御する。それにより、アダプティブクルーズ動作実行部22は、モータサイクル100の加減速度(つまり速度)を制御して、アダプティブクルーズ動作を実行する。具体的には、アダプティブクルーズ動作実行部22は、取得部21で、アダプティブクルーズ動作が実行される走行モードをライダーが選択していることを示すライダー設定情報が取得される場合に、周囲環境情報及び走行状態情報に基づいてアダプティブクルーズ動作を実行する。なお、アダプティブクルーズ動作実行部22は、アダプティブクルーズ動作の実行中にライダーによる操作(例えば、制動装置30の操作、駆動装置40の操作等)が行われた場合、アダプティブクルーズ動作を解除する。
【0026】
アダプティブクルーズ動作では、モータサイクル100の加減速度は、基本的には、モータサイクル100から追従対象車両までの距離が目標距離に近づくように制御される。目標距離は、モータサイクル100から追従対象車両までの距離としてライダーの安全性を確保し得る値に設定される。なお、前走車が認識されない場合には、モータサイクル100の加減速度は、モータサイクル100の速度がライダーにより設定された設定速度になるように制御される。また、前走車が認識される場合であっても、モータサイクル100の加減速度は、モータサイクル100の速度がライダーにより設定された設定速度以下になるように制御される。
【0027】
具体的には、アダプティブクルーズ動作の実行中に、アダプティブクルーズ動作実行部22は、モータサイクル100から追従対象車両までの距離と目標距離との比較結果及びモータサイクル100と追従対象車両との相対速度に基づいて、モータサイクル100から追従対象車両までの距離が目標距離に近づくような目標加減速度を算出し、モータサイクル100の加減速度を目標加減速度に制御する。
【0028】
例えば、モータサイクル100から追従対象車両までの距離が目標距離より長い場合、アダプティブクルーズ動作実行部22は、モータサイクル100から追従対象車両までの距離と目標距離との差に応じた加速度を目標加減速度として算出する。一方、モータサイクル100から追従対象車両までの距離が目標距離より短い場合、アダプティブクルーズ動作実行部22は、モータサイクル100から追従対象車両までの距離と目標距離との差に応じた減速度を目標加減速度として算出する。また、アダプティブクルーズ動作実行部22は、追従対象車両が特定されている状況下で、設定速度に基づく目標加減速度が目標距離に基づく目標加減速度よりも小さい場合に、モータサイクル100の加減速度を設定速度に基づく目標加減速度に制御する。
【0029】
ここで、アダプティブクルーズ動作実行部22は、アダプティブクルーズ動作においてモータサイクル100に生じさせる減速度を、上限値以下に又は上限値よりも低く制御する。その上限値は、ライダーに不意となる状態でモータサイクル100にその値の減速度が生じたとしても、そのライダーによってモータサイクル100が安全に走行し得る程度の値に設定される。その上限値は、走行状態情報に応じて可変であってもよく、また、ライダーによって可変であってもよく、また、固定値であってもよい。そして、アダプティブクルーズ動作実行部22は、その上限値に基づいて、モータサイクル100に生じる衝突可能性の程度を判定する。
【0030】
具体的には、アダプティブクルーズ動作実行部22は、その上限値と、取得部21で周囲環境検出装置11の出力に基づいて取得される、追従対象車両の走行情報と、に基づいて、その追従対象車両に対するモータサイクル100の衝突可能性を判定する。走行情報には、例えば、追従対象車両の速度、加減速度、位置、進行方向等の情報が含まれる。例えば、アダプティブクルーズ動作実行部22は、モータサイクル100が上限値となる減速度で基準時間走行した場合の速度とその間の進行距離と、追従対象車両が現時点での加減速度で基準時間走行した場合の速度とその間の進行距離と、に基づいて、基準時間後にモータサイクル100が追従対象車両に衝突するか否かを判定する。その基準時間は、アダプティブクルーズ動作が解除されてライダーが自らのモータサイクル100の操縦によって衝突の回避動作を完了するまでに要する時間よりも長く設定されるとよい。アダプティブクルーズ動作実行部22が、基準時間後におけるモータサイクル100から追従対象車両までの距離が基準距離以下に又は基準距離よりも低くなる状態を、衝突可能性が高いと判定してもよい。その基準距離は、追従対象車両に生じ得る減速度の上限値、ライダーの運転技量の不足、路面状況の悪化等を加味して設定されるとよい。
【0031】
また、具体的には、アダプティブクルーズ動作実行部22は、その上限値と、取得部21で周囲環境検出装置11の出力に基づいて取得される、モータサイクル100の走行経路上に有る障害物の情報と、に基づいて、モータサイクル100の衝突可能性を判定する。障害物には、モータサイクル100の走行車線に進入する車両、道路設備、落下物、人間等の動物が含まれる。例えば、アダプティブクルーズ動作実行部22は、モータサイクル100が上限値となる減速度で基準時間走行した場合の速度とその間の進行距離と、障害物の位置と、に基づいて、基準時間後にモータサイクル100がその障害物に衝突するか否かを判定する。その基準時間は、アダプティブクルーズ動作が解除されてライダーが自らのモータサイクル100の操縦によって衝突の回避動作を完了するまでに要する時間よりも長く設定されるとよい。アダプティブクルーズ動作実行部22が、基準時間後におけるモータサイクル100から障害物までの距離が基準距離以下に又は基準距離よりも低くなる状態を、衝突可能性が高いと判定してもよい。その基準距離は、ライダーの運転技量の不足、路面状況の悪化等を加味して設定されるとよい。
【0032】
アダプティブクルーズ動作実行部22は、モータサイクル100に生じる衝突可能性が高いと判定すると、モータサイクル100のライダーの触覚器に作用する警告動作を実行する。アダプティブクルーズ動作実行部22は、警告動作の後、ライダーによってアダプティブクルーズ動作が解除されるまでアダプティブクルーズ動作を継続してもよく、また、アダプティブクルーズ動作がライダーによって解除されるよりも前に、アダプティブクルーズ動作を強制終了してもよい。その強制終了は、警告動作の後に行われてもよく、また、警告動作と同時に行われてもよく、また、警告動作の前に行われてもよい。
【0033】
具体的には、アダプティブクルーズ動作実行部22は、警告動作として、アダプティブクルーズ動作における減速度の上限値を超える減速度をモータサイクル100に瞬時的に生じさせる。その減速度が、制動装置30に瞬時的に制動力を生じさせることで実現されてもよく、また、制動装置30に生じている制動力を瞬時的に増加させることで実現されてもよく、また、駆動装置40に生じている駆動力を瞬時的に低下させることで実現されてもよい。また、その瞬時的な減速度が、1回のみ生じてもよく、また、複数回繰り返し生じてもよい。瞬時的な減速においては、ライダーが車体の挙動変化を体感できる程度の減速度と期間が設定されるとよい。
【0034】
また、具体的には、アダプティブクルーズ動作実行部22は、警告動作として、モータサイクル100に設けられている加振器50に振動を生じさせる。加振器50は、例えば、モータサイクル100のハンドル、モータサイクル100の胴体のうちのライダーの体が接触する部分等に設けられているとよい。加振器50は、ヘルメット110等のライダーの装着物に設けられていてもよい。そのような場合であっても、無線通信等により、アダプティブクルーズ動作実行部22による加振器50の制御が可能である。
【0035】
なお、アダプティブクルーズ動作実行部22は、それらの警告動作に併せて、モータサイクル100又はライダーの装着物に設けられている表示器60に指令を出力して、ライダーの視覚に作用する警告動作を実行してもよく、また、モータサイクル100又はライダーの装着物に設けられているスピーカー70に指令を出力して、ライダーの聴覚に作用する警告動作を実行してもよい。加振器50、表示器60、及び、スピーカー70の全て又は一部が一体的に設けられていてもよく、また、別体的に設けられていてもよい。
【0036】
<ライダー支援システムの動作>
実施の形態1に係るライダー支援システムの動作について説明する。
図3は、本発明の実施の形態1に係るライダー支援システムの、制御装置における制御フローの一例を示す図である。
【0037】
制御装置20は、入力装置13においてアダプティブクルーズ動作が有効にされた後に、図3に示される制御フローを実行する。
【0038】
(取得ステップ)
ステップS101において、取得部21は、周囲環境検出装置11から出力される情報に基づいて周囲環境情報を取得し、走行状態検出装置12から出力される情報に基づいてモータサイクル100の走行状態情報を取得し、入力装置13から出力される情報に基づいてライダー設定情報を取得する。
【0039】
(アダプティブクルーズ動作実行ステップ)
ステップS102において、アダプティブクルーズ動作実行部22は、ステップS101で取得された周囲環境情報、ライダー設定情報、及び走行状態情報に基づいて、モータサイクル100に搭載されている各装置(制動装置30、駆動装置40等)の動作を制御することによって、モータサイクル100にアダプティブクルーズ動作を実行させる。
【0040】
ステップS103において、アダプティブクルーズ動作実行部22は、アダプティブクルーズ動作においてモータサイクル100に生じる減速度の上限値に基づいて、モータサイクル100に生じる衝突可能性を判定する。衝突可能性が高いと判定される場合には、ステップS106に進み、そうではない場合には、ステップS104に進む。
【0041】
ステップS104において、アダプティブクルーズ動作実行部22は、ライダーによるアダプティブクルーズ動作の解除動作の有無を判定する。解除動作が有る場合には、ステップS105に進み、アダプティブクルーズ動作実行部22がアダプティブクルーズ動作を終了して、制御フローが終了される。解除動作が無い場合には、再びステップS101が実行される。
【0042】
ステップS106において、アダプティブクルーズ動作実行部22が、モータサイクル100のライダーの触覚器に作用する警告動作を実行すると、アダプティブクルーズ動作の解除によって制御フローが終了される。
【0043】
<ライダー支援システムの効果>
実施の形態1に係るライダー支援システムの効果について説明する。
【0044】
ライダー支援システム1では、アダプティブクルーズ動作実行部22が、アダプティブクルーズ動作においてモータサイクル100に生じさせる減速度を、上限値以下に又は上限値よりも低く制御し、アダプティブクルーズ動作の実行中に、その上限値に基づいてモータサイクル100に生じる衝突可能性を判定し、衝突可能性が高いと判定された場合に、モータサイクル100のライダーの触覚器に作用する警告動作を実行する。モータサイクル100では、そのライダーの搭乗姿勢に起因して、ライダーがモータサイクル100に設けられている表示器60を視認する頻度が少なくなる場合がある。また、アダプティブクルーズ動作は、高速域で実行される可能性が高く、そのような状況下では、ライダーの搭乗空間が車体で囲まれていないことに起因して、風切り音等の大きなノイズが音による警告を聞き取りにくくする。それに対して、ライダー支援システム1では、上限値を超える減速度が必要となる局面において、触覚器に作用する警告によってライダーに自らの操縦を高い確実性で促すことが可能であるため、モータサイクル100におけるアダプティブクルーズ動作の安全性が向上する。
【0045】
好ましくは、警告動作は、モータサイクル100に、アダプティブクルーズ動作においてモータサイクル100に生じさせる減速度の上限値を超える減速度を瞬時的に生じさせる動作である。そのように構成されることで、既存の制動装置30又は駆動装置40の制御を流用して、ライダー支援システム1を簡素化することができるとともに、ライダーによる操縦が開始される前の段階でモータサイクル100に減速を生じさせて、制動距離を短縮することができるため、モータサイクル100におけるアダプティブクルーズ動作の安全性が、更に向上する。
【0046】
好ましくは、警告動作は、モータサイクル100に設けられている加振器50又はライダーの装着物に設けられている加振器50に振動を生じさせる動作である。そのように構成されることで、触覚器に作用する警告によってライダーに自らの操縦を促すことを、車体の挙動に影響を及ぼすことなく実現できるため、安全性が向上する。
【0047】
好ましくは、アダプティブクルーズ動作実行部22は、警告動作を実行した後、ライダーによるアダプティブクルーズ動作の解除動作が実行されるまで、アダプティブクルーズ動作を継続する。そのように構成されることで、アダプティブクルーズ動作がライダーの意に反して解除されて、ライダーが混乱することが抑制される。
【0048】
好ましくは、アダプティブクルーズ動作実行部22は、衝突可能性が高いと判定された後、ライダーによるアダプティブクルーズ動作の解除動作が実行される前に、アダプティブクルーズ動作を強制終了する。そのように構成されることで、例えば、アダプティブクルーズ動作が高速域で実行されている状況下で、アダプティブクルーズ動作の強制終了によって、駆動装置40の駆動力が大きく低下する場合等のような、アダプティブクルーズ動作の強制終了によって、モータサイクル100にアダプティブクルーズ動作における減速度の上限値よりも大きい減速度を生じさせることが期待できる場合において、ライダーの回避動作を事前に簡単化することが可能となって、安全性が向上する。
【0049】
実施の形態2.
以下に、実施の形態2に係るライダー支援システムについて説明する。なお、以下では、実施の形態1に係るライダー支援システムと異なる部分のみ説明する。
【0050】
<ライダー支援システムの構成及び動作>
実施の形態2に係るライダー支援システムの構成及び動作について説明する。
図4は、本発明の実施の形態2に係るライダー支援システムの、システム構成を説明するための図である。
【0051】
図4に示されるように、アダプティブクルーズ動作の実行中において、取得部21は、追従対象車両の走行情報又は障害物の情報を、周囲環境検出装置11の出力ではなく、追従対象車両又は道路設備に設けられている通信装置200の出力に基づいて取得する。取得部21は、追従対象車両の走行情報又は障害物の情報を、通信装置200から直接取得してもよく、また、サーバ等の他の外部機器を介して取得してもよい。
【0052】
アダプティブクルーズ動作実行部22は、図3に示される制御フローのステップS103において、アダプティブクルーズ動作においてモータサイクル100に生じさせる減速度の上限値と、取得部21で通信装置200の出力に基づいて取得される、追従対象車両の走行情報と、に基づいて、その追従対象車両に対するモータサイクル100の衝突可能性を判定する。また、アダプティブクルーズ動作実行部22は、図3に示される制御フローのステップS103において、アダプティブクルーズ動作においてモータサイクル100に生じさせる減速度の上限値と、取得部21で通信装置200の出力に基づいて取得される、モータサイクル100の走行経路上に有る障害物の情報と、に基づいて、モータサイクル100の衝突可能性を判定する。
【0053】
つまり、実施の形態2に係るライダー支援システムでは、モータサイクル100の衝突可能性の判定において、追従対象車両の走行情報又は障害物の情報が、周囲環境検出装置11の出力ではなく、追従対象車両又は道路設備に設けられている通信装置200の出力に基づいて取得される。そのような構成であっても、実施の形態1に係るライダー支援システムと同様の動作によって、同様の効果を得ることができる。
【0054】
以上、実施の形態1及び実施の形態2について説明したが、本発明は各実施の形態の説明に限定されない。例えば、各実施の形態の一部のみが実施されてもよく、また、各実施の形態の全て又は一部が組み合わされてもよい。また、例えば、図3に示される制御フローにおいて、各ステップの順序が入れ替えられてもよい。また、図3に示される制御フローに、他のステップが加えられてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 ライダー支援システム、11 周囲環境検出装置、12 走行状態検出装置、13 入力装置、20 制御装置、21 取得部、22 アダプティブクルーズ動作実行部、30 制動装置、40 駆動装置、50 加振器、60 表示器、70 スピーカー、100 モータサイクル、110 ヘルメット、200 通信装置。
図1
図2
図3
図4