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特許7377882化粧品配合物の保存のためのジアンヒドロヘキシトールの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】化粧品配合物の保存のためのジアンヒドロヘキシトールの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20231102BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q17/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021557511
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 EP2020058680
(87)【国際公開番号】W WO2020193744
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】1903292
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】メンティンク、レオン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルス、ダニエル
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0354296(US,A1)
【文献】特表2014-525916(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0011873(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61K 31/34
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所使用のための化粧品配合物又は皮膚用薬剤における、プロピオニバクテリウム・アクネス、癜風菌、結膜乾燥症菌又は表皮ブドウ球菌の増殖を制限又は防止するためのイソソルビドの使用であって、前記化粧品配合物又は前記皮膚用薬剤が、組成物の総重量に対して、2重量%~15重量%のイソソルビド含有量を有する、使用
【請求項2】
前記イソソルビドが、静菌剤又は/及び殺菌剤、及び/又は抗真菌剤であり、前記化粧品配合物又は前記皮膚用薬剤において、ヒト局所微生物叢に由来するプロピオニバクテリウム・アクネス、癜風菌、結膜乾燥症菌又は表皮ブドウ球菌の増殖を低減又は防止することを可能にすることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、化粧品の分野に関し、より具体的には、抗菌性及び/又は静菌性及び/又は殺菌性及び/又は抗真菌性の保存剤の分野に関し、好ましくは、化粧品配合物又は皮膚用薬剤中の細菌株及び/又は真菌株に作用する。好ましくは、ヒト皮膚微生物叢の微生物又は大気中に存在する微生物による汚染後の製剤の劣化の影響を低減又は排除するためのイソソルビドの使用が提案される。イソソルビドは、単独で、又はこの目的ですでに使用された他の保存剤と共に使用される。
【背景技術】
【0002】
Pilzらによる米国特許第9295626号では、イソソルビドモノエステル及び/又はジエステルベースの殺菌性化合物を使用することによって化粧品配合物、皮膚用薬剤及び医薬製剤を保存するための方法が開示される。本出願は、特に皮膚微生物叢に見られる、クロコウジカビ、カンジダ・アルビカンス及び黄色ブドウ球菌という菌株を含む、多くの菌株(列27、表2)に関して10%に等しいイソソルビドの最小発育阻止濃度を示す。
【0003】
Stoerらによる米国特許第999300号はまた、特にプロピオニバクテリウム・アクネスを含む多数の細菌株の増殖を阻止することにより、化粧品組成物を保存するための殺菌剤としてのイソソルビド誘導体、ここではエーテルの使用を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
技術的課題
ヒトの皮膚は、皮膚微生物叢を構成する常在細菌叢によってコロニー形成される。この細菌叢は多くの場合非病原性であるが、特定の異常な状況では病原性になる可能性がある。第1の異常な状況は、汚染された環境との接触による、病原性の外部微生物による皮膚微生物叢の汚染である。第2の異常な状況は、皮膚微生物叢を構成する微生物間の相互作用の不均衡の出現である。この状況のため、ある微生物が増殖し、他の微生物に悪影響を及ぼす。そのような増殖は、皮膚の広い領域にわたって全身性になり、又は、例えば、水が豊富であるか暖かい皮膚の領域に、又は、例えば、毛若しくは毛髪の根元の腺に位置するトリグリセリドなどの微生物のための栄養が蓄積されているため、顔又は頭皮に限局性になる。これらの異常な状況はまた、皮膚又は個人の健康に対する潜在的に有害な結果とは別に、美容的性質、特に視覚的、触覚的、又は嗅覚的障害を引き起こす。これらの障害は、個人の快適さ又はイメージに悪影響を及ぼし、したがって社会生活を混乱又は悪化させる可能性がある。
【0005】
化粧品配合物又は皮膚用薬剤は、一般的に、人体に適用するために、通常は機械的作用によって製品が排出される穴を有する気密容器に無菌的に包装される。この排出操作は、化粧品又は皮膚用製品を大気又は人体、特に局所的なヒト微生物叢、主に皮膚微生物叢と体系的に接触させる。この接触は、細菌、酵母、真菌などの非常に多様な性質の微生物による化粧品配合物又は皮膚用薬剤の汚染を誘発し得る。これらの微生物は、化粧品配合物又は皮膚用薬剤中の栄養有機物質と水に行きつくため、制御されない方法でそこで増殖し得る。これらの微生物は潜在的に病原性であり、それらの増殖により、より少ない程度で、化粧品配合物又は皮膚用薬剤が不活性になる、又はその使用が不快になるように変性させるため、特に、悪臭の発生又はテクスチャー若しくは感覚プロファイルの変化のため、このような微生物の増殖は避けるべきである。
【0006】
現在、天然由来の製品を手に入れる消費者のニーズが高まっている。本発明による使用は、ジアンヒドロヘキシトールは、例えば、穀物ベースのデンプンから生成される天然由来の分子由来であるため、このニーズに対処し、少なくともジアンヒドロヘキシトールの使用を提案する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
予想外にも、非誘導ジアンヒドロヘキシトール、好ましくはイソソルビドが、化粧品配合物又は皮膚用薬剤の汚染及び物理化学的分解を引き起こす微生物株に抗菌性、及び/又は殺菌性及び/又は静菌性、及び/又は抗真菌性の効果を有することを発見したことは出願者の功績である。
【0008】
本発明は、より具体的には、ヒト皮膚微生物叢の微生物の増殖を制限又は防止するための局所使用のための化粧品配合物又は皮膚用薬剤における少なくとも1つのジアンヒドロヘキシトールの使用を活用する。
【0009】
化粧品配合物又は皮膚用薬剤の保存剤として、単独で、又は別の既知の保存剤に加えて、イソソルビドを使用することも提案される。
【0010】
化粧品配合物の保存におけるジアンヒドロヘキシトールの使用
【0011】
本発明は、ヒト皮膚微生物叢の微生物又は大気中に存在する微生物の増殖を制限又は防止するための局所使用のための化粧品配合物又は皮膚用薬剤における少なくとも1つのジアンヒドロヘキシトールの使用に関する。
【0012】
好ましくは、微生物は細菌及び真菌から選択され、好ましくは、微生物は化粧品剤の不活性化、及び/又は悪臭の発生、及び/又は化粧品配合物若しくは皮膚用薬剤のテクスチャーの変化の原因である。
【0013】
好ましい実施形態によれば、ジアンヒドロヘキシトールは、イソソルビド、イソマンニド、イソイジド、好ましくはイソソルビドから選択される。
【0014】
更に、化粧品配合物又は皮膚用薬剤での使用は、組成物の総重量に対して、0.1重量%~50重量%、好ましくは0.5重量%~25重量%、より好ましくは1重量%~25重量%、更により好ましくは2重量%~15重量%、最も好ましくは5重量%~9重量%のジアンヒドロヘキシトール含有量で行われる。
【0015】
本発明による使用の一実施形態によれば、ジアンヒドロヘキシトールは、抗菌剤及び/又は殺菌剤、及び/又は静菌剤、及び/又は抗真菌剤であり、化粧品配合物又は皮膚用薬剤において、ヒト局所微生物叢に由来する細菌及び/又は真菌株の増殖を低減又は防止し得る。
【0016】
好ましくは、細菌株はプロピオニバクテリウム属から選択され、好ましくは、細菌株はプロピオニバクテリウム・アクネスであり、及び/又は細菌株は、コリネバクテリウム属から選択され、好ましくは、細菌株は結膜乾燥症菌であり、及び/又は細菌株はブドウ球菌属から選択され、好ましくは、細菌株は表皮ブドウ球菌であり、及び真菌株はマラセジア属から選択され、好ましくは真菌株は癜風菌である。
【0017】
本発明による使用の変形例によれば、ジアンヒドロヘキシトールは、酸、安息香酸若しくはソルビン酸若しくはプロピオン酸のアルカリ塩などの化粧品配合物又は皮膚用薬剤で一般的に使用される他の殺生物剤又はフェノキシエタノールやクロルフェネシンなどの他の殺生物剤と組み合わせて使用される。
【0018】
ジアンヒドロヘキシトール
【0019】
課題となっている水溶液は、1つのジアンヒドロヘキシトールのみを含む又はそれらのうちいくつかを含むことができる。これらのジアンヒドロヘキシトール(1,4-3,6-ジアンヒドロヘキシトール)は、イソソルビド(1,4-3,6-ジアンヒドロソルビトール)、イソマンニド(1,4-3,6-ジアンヒドロマンニトール)、イソイジド(1,4-3,6-ジアンヒドロイジトール)、及びそれらの製品の少なくとも2つの混合物である。好ましくは、水溶液は、イソソルビドであるジアンヒドロヘキシトールを1つのみ含む。
【0020】
これに関して、出願人は、ジアンヒドロヘキシトールが一般的に水の存在下で合成される(又はそれらの合成中に水が生成される)ことを示し、この反応媒体中でのジアンヒドロヘキシトールの回収は、本発明によって使用し得るジアンヒドロヘキシトールの水溶液の形態で組成物を直ちに提供する。ジアンヒドロヘキシトール溶液は、特に、上記の特許出願、欧州特許第1287000号及び国際公開第03/043959号に記載される方法に従って得ることができる。ジアンヒドロヘキシトールの調製中に使用した水の全部又は一部を保持するか、又は水を加えるだけで水溶液に戻る固体の生成物を得るように、全部の水を除去するか選択され得、それは、本発明に従って使用できるジアンヒドロヘキシトールの水溶液を調製するための別の可能性である。
【0021】
出願人は、用語「1,4-3,6-ジアンヒドロヘキシトール」が、1,4-3,6-ジアンヒドロヘキシトールの誘導体、特に1,4-3,6-ジアンヒドロヘキシトールエーテル又はエステルを含まないことを指定する。
【0022】
化粧品配合物又は皮膚用薬剤
【0023】
「化粧品配合物又は皮膚用薬剤」とは、本出願人は、ヒト又は動物の皮膚と接触して配置されることを意図した任意の組成物を意味する。
【0024】
本発明による化粧品配合物又は皮膚用薬剤は、活性保存剤として、特に抗菌性及び/又は抗真菌性の、好ましくはイソソルビド、イソマンニド、イソイジドから選択される少なくとも1つのジアンヒドロヘキシトールを含み、好ましくはイソソルビドである。
【0025】
好ましい実施形態によれば、本発明による化粧品配合物又は皮膚用薬剤は、0.1重量%~50重量%、好ましくは0.5重量%~25%重量%、より好ましくは1%重量%~25%重量%、更により好ましくは2%重量%~15%重量%、最も好ましくは5%重量%~9%重量%のジアンヒドロヘキシトールを含む。
【0026】
非常に好ましい実施形態によれば、化粧品配合物又は皮膚用薬剤は、唯一の抗菌剤及び/又は殺菌剤、及び/又は静菌剤、及び/又は抗真菌剤として、好ましくは、イソソルビド、イソマンニド、及びイソイジドから選択される少なくとも1つのジアンヒドロヘキシトールを含有し、好ましくはイソソルビドである。
【0027】
本発明による化粧品配合物又は皮膚用薬剤により、微生物分解による化粧品剤の不活化を低減若しくは排除すること、及び/又は悪臭の発生、又は化粧品配合物又は皮膚用薬剤のテクスチャーの変化を低減若しくは排除することが可能となる。
【0028】
化粧品配合物は、スキン製品、ヘア製品、仕上げ用化粧品、又は衛生製品にすることができる。
【0029】
スキンケア製品の中から、本発明による化粧品配合物は、デイクリーム、サンクリーム、アフターサンクリーム、日焼け剤、マスクから選択され得る。ヘアケア製品の中で、本発明による化粧品配合物は、シャンプー、コンディショナー(クリーム、マスク、ローション)、スタイリング製品(スプレー、ジェル、ワックス)、着色製品から好ましくは選択される。仕上げ用化粧品配合物の中で、本発明による化粧品は、ファンデーション、アイシャドウから好ましくは選択される。衛生製品の中で、本発明による化粧品配合物は、好ましくは、洗浄ジェル、シャワージェル、クレンジング又はメイク落とし、水性アルコール溶液又はジェル、石鹸、デオドラント、制汗剤、及びボディースプレーから選択される。
【実施例
【0030】
微生物株に対するイソソルビドの効果のインビトロ測定
【0031】
サンプルは滅菌条件下で調製され、マイクロプレート(2mlウェル)に以下の濃度で沈着される。2つの分析制御が実行される。
- 0.5%のPhenonip(登録商標)に対応するポジティブコントロール、
- 0.85%の生理食塩水からなるネガティブコントロール。
【0032】
サンプルと制御は、cfu/mlで表される1ミリリットルあたり約1.43x105~4.15×105のコロニー形成単位の割合で、表皮ブドウ球菌、結膜乾燥症菌、プロピオニバクテリウム・アクネスの3つの細菌株、及び約1.50×104cfu/ml~3.80×104cfu/mlの割合で、癜風菌という真菌株で汚染される。汚染後、微生物の均一な分布を確保するために、サンプルを吸引と排出のサイクルによって注意深く混合する。全体を22℃で28日間インキュベートする。
【0033】
微生物群を、各微生物株について24時間、7日、14日、21日、及び28日に採取及び計数する。汚染されたサンプルを収集し、次に、0.85%塩化ナトリウムを含む生理食塩水である培地、及び2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTCで表される)であるデヒドロゲナーゼ活性指示試薬の存在下で、マイクロタイタープレートに段階希釈で沈着させる。結果は、テストされた微生物株について、28日間の研究にわたる微生物群の変化と共に次のページに示される。
【0034】
各回で収集されたサンプル中の微生物群の測定は、1つのサンプル収集に対して以下のマイクロタイター法に従って実行される。マイクロタイタープレートの250μLの容量を有する96ウェルで、収集したサンプル20μLを、1.5%のTween80(Sigma ref.P1754)とTTC(Sigma ref.T8877)を含む180μLのリージンブロス(Difco ref.268110)に分散させることにより、10倍に希釈する。マイクロプレートを32.5℃で48時間インキュベートし、微生物の増殖を無色から赤/ピンクへの色の変化によって監視する。増殖を示す最大逆数希釈は、各時間における各微生物の対数を決定することを可能にする。
【0035】
各収集時間に行われた微生物群の測定値は、コロニー形成単位/mlとして表される。
【0036】
【表1】
【0037】
24時間後、コロニー形成株は観察されず、イソソルビドにより、接種材料全体を殺すことが可能になる。イソソルビドは、プロピオニバクテリウム・アクネス株の殺菌剤である。
【0038】
【表2】
【0039】
24時間後、コロニー形成株は観察されず、イソソルビドにより、接種材料全体を殺すことが可能になる。イソソルビドは、癜風菌株の殺菌剤である。
【0040】
【表3】
【0041】
24時間後、コロニー形成株の数は、テストした3つの投与量で少なくとも3log10低減する。7日間後、コロニー形成株はなくなり、イソソルビドは、結膜乾燥症菌株の中程度の殺菌剤である。
【0042】
【表4】
【0043】
24時間後、コロニー形成株の数は、テストした3つの投与量で少なくとも2log10低減する。7日間後、コロニー形成株はなくなり、イソソルビドは、表皮ブドウ球菌株の弱い殺菌剤である。
【0044】
本発明は、例としてのみ与えられた上記の例に限定されず、求められる保護の文脈で、当業者が考えることができるすべての代替案を包含する。