(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/18 20060101AFI20231102BHJP
F16J 15/3272 20160101ALI20231102BHJP
【FI】
F16J15/18 C
F16J15/3272
(21)【出願番号】P 2021563763
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2020038799
(87)【国際公開番号】W WO2021117335
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2019222110
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】関 真利
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-175474(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221231(WO,A1)
【文献】国際公開第03/100301(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16-15/32
F16J 15/324-15/3296
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状の空間を封止して、流体圧力が変化するように構成されていて密封対象領域の流体圧力を保持して前記環状溝における低圧側の側壁面に対して摺動可能に接触する環状の密封装置であり、
前記側壁面に対して摺動する摺動部と、
前記軸に
面する内周部と、
前記摺動部において周方向に延びるように形成されている軸線方向に凹状の摺動部溝と、
前記摺動部溝から前記内周部まで延びるように形成されている前記軸線方向に凹状の導入溝と、
前記摺動部と前記内周部との接合部に設けられている前記軸線方向に凹状の内周溝と、
を備えていて、
前記内周溝は、周方向において隣り合う前記導入溝を繋ぐように設けられてい
て、
前記導入溝は、溝底の深さが、前記内周溝の底部の深さよりも深く形成されている密封装置。
【請求項2】
前記摺動部溝は、前記摺動部の径方向において前記側壁面と使用状態で接触可能な領域に設けられている、
請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記導入溝は、前記摺動部溝の周方向の端部の位置に設けられている、
請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記導入溝は、前記摺動部溝の周方向の中央の位置に設けられている、
請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項5】
前記摺動部溝は、径方向の幅が一定に形成されている、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項6】
前記内周溝は、内周側の面が使用状態において前記環状溝の周壁面に面し、摺動部側の面が使用状態において前記環状溝の側壁面に面している、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、自動車用の自動変速機(AT:Automatic Transmission)や無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)といった各種変速機の回転軸に用いられるシールリングとしての密封装置(以下、単に「密封装置」という。)が知られている。上記のような密封装置としては、側壁面に対して摺動する摺動部側に、径方向の幅が一定で周方向に伸びる第1溝と第1溝における周方向の中央の位置から内周面に至るまで伸び密封対象流体を第1溝内に導く第2溝とを有する動圧発生用溝が設けられているものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各種変速機の回転軸に用いられる密封装置は、環境問題への対応から、回転トルクを低減するためのさらなる改良が望まれていた。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転トルクを低減することができる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る密封装置は、軸の外周に設けられた環状溝に装着され、相対的に回転する前記軸とハウジングとの間の環状の空間を封止して、流体圧力が変化するように構成されていて密封対象領域の流体圧力を保持して前記環状溝における低圧側の側壁面に対して摺動可能に接触する環状の密封装置であり、前記側壁面に対して摺動する摺動部と、前記軸に接する内周部と、前記摺動部において周方向に延びるように形成されている軸線方向に凹状の摺動部溝と、前記摺動部溝から前記内周部まで延びるように形成されている前記軸線方向に凹状の導入溝と、前記摺動部と前記内周部との接合部に設けられている前記軸線方向に凹状の内周溝と、を備えている。
【0007】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記内周溝は、前記接合部において周方向に延びて環状に連通している。
【0008】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記摺動部溝は、前記摺動部の径方向において前記側壁面と使用状態で接触可能な領域に設けられている。
【0009】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導入溝は、前記摺動部溝の周方向の端部の位置に設けられている。
【0010】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記導入溝は、前記摺動部溝の周方向の中央の位置に設けられている。
【0011】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記摺動部溝は、径方向の幅が一定に形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る密封装置によれば、回転トルクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る密封装置の概略構成を示すための正面図である。
【
図2】
図1に示す密封装置を外周面側から見た図である。
【
図4】
図3に示す密封装置の摺動部の拡大斜視図である。
【
図5】
図1に示す密封装置の使用状態における軸線に沿う断面における断面斜視図である。
【
図6】
図4に示す密封装置の摺動部溝の断面A-Aにおける断面図である。
【
図7】
図4に示す密封装置の導入溝の断面B-Bにおける断面図である。
【
図8】
図1に示す密封装置の使用状態における軸線に沿う断面における断面図である。
【
図9】参考例に係る密封装置の軸線に沿う断面における断面斜視図である。
【
図10】本発明の実施の形態に係る密封装置の摺動部の変形例を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る密封装置1の概略構成を示すための正面図である。
図2は、密封装置1を外周面側から見た図である。
図3は、密封装置1の背面図である。
図4は、密封装置1の摺動部の拡大斜視図である。
図5は、密封装置1の使用状態における軸線xに沿う断面における断面斜視図である。
【0016】
以下、説明の便宜上、
図1乃至
図5に示すように、軸線x方向において矢印a方向(軸線方向において一方の側)を高圧側とし、軸線x方向において矢印b方向(軸線方向において他方の側)を低圧側とする。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向、つまり、矢印c方向を外周側とし、軸線xに近づく方向、つまり、矢印d方向を内周側とする。本実施の形態において、
図1に示すように密封装置1を軸線x方向において一方側から他方側に向かって見る方向を正面とし、図
3に示すように密封装置1を軸線x方向において他方側から一方側に向かって見る方向を背面とする。
【0017】
図1乃至
図5に示すように、本実施の形態に係る密封装置1は、例えば、自動車用のATやCVTなどの変速機において、流体圧力(本実施の形態では油圧)を保持させるために、相対的に回転する軸200とハウジング300(
図8参照)との間の環状隙間を封止する用途に用いられるシールリングである。また、以下の説明において、「高圧側」とは、密封装置1の両側に差圧が生じた際に高圧となる側を意味し、「低圧側」とは、密封装置1の両側に差圧が生じた際に低圧となる側を意味する。密封装置1は、
図5中左側の領域の流体圧力が変化するように構成されており、密封装置1は
図5中左側のシール対象領域の流体圧力を保持する役割を担っている。なお、自動車のエンジンが停止した状態においては、シール対象領域の流体圧力は低く、無負荷の状態となっており、エンジンをかけるとシール対象領域の流体圧力は高くなる。また、
図5においては、
図5中左側の流体圧力が右側の流体圧力よりも高くなった状態を示している。以下、
図8において左側である一方側を高圧側、
右側である他方側を低圧側とする。
【0018】
本発明の実施の形態に係る密封装置1は、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、相対的に回転する軸200とハウジング300との間の環状の空間Sを封止して、流体圧力が変化するように構成されていて密封対象領域の流体圧力を保持して環状溝210における側壁面211,212のうち、低圧側にある側壁面に対して摺動可能に接触する環状の密封装置である。密封装置1は、側壁面211,212に対して摺動する摺動部20と、軸200に接する内周部30と、摺動部20において周方向に延びるように形成されている軸線x方向に凹状の摺動部溝21と、摺動部溝21から内周部30まで延びるように形成されている軸線x方向に凹状の導入溝22と、摺動部20と内周部30との接合部に設けられている軸線x方向に凹状の内周溝40と、を備えている。以下、密封装置1について具体的に説明する。
【0019】
図1乃至
図3に示すように、密封装置1は、全体が環状に形成されている。密封装置1は、円盤部10と、摺動部20と、内周部30と、外周面50と、合口部110と、を備える。密封装置1は、外周面50の周長がハウジング300の軸孔の内周面の周長よりも短く構成されており、締め代を持たないように構成されている。従って、流体圧力が作用していない状態においては、密封装置1の外周面50は、ハウジング300の内周面から離れた状態となり得る。
【0020】
円盤部10は、
図1に示す正面側及び
図3に示す背面側において、軸線x方向を中心とした円盤状に形成されている。円盤部10は、軸線x方向に垂直な方向である径方向及び周方向において平坦または略平坦状に形成されている。円盤部10は、軸線x方向において、軸200に形成されている環状溝210の側壁面211,212(
図5参照)に面する。
【0021】
摺動部20は、
図1に示す正面側及び
図3に示す背面側の円盤部10に形成されている。円盤部10は、軸線x方向に垂直な方向である径方向及び周方向において、摺動部20の摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40が設けられている部分を除いて平坦または略平坦状に形成されている。摺動部20は、軸線x方向において、例えば、軸200に形成されている環状溝210の側壁面211,212(
図5参照)に面する。摺動部20は、上述のように摺動部溝21と導入溝22
とを有している。
【0022】
図3に示すように、摺動部溝21は、摺動部20における摺動面側の側面のうち合口部110付近を除く全周に亘って、例えば等間隔に複数設けられている。
【0023】
図4に示すように、摺動部溝21は、軸200に設けられた環状溝210における使用状態において低圧側となる側壁面211,212に対して密封装置1が摺動した際に動圧を発生させるために設けられている。摺動部溝21は、例えば、径方向の幅が一定で周方向Rに延びるように円弧状または略円弧状に形成されている。
【0024】
図5に示すように、摺動部溝21は、使用状態において、環状溝210における使用状態において低圧側となる側壁面211,212、例えば、
図5においては側壁面211と接触可能な領域に設けられている。つまり、摺動部溝21は、摺動部20の径方向において側壁面211に対して摺動する摺動領域内に収まるように、摺動部20の内周部30寄りの位置に設けられている。摺動部溝21は、軸線x方向において他方側から一方側に向かって深さを有する凹溝状に形成されている。摺動部溝21の溝の深さについて、例えば、径方向に対しては深さが一定となるように構成されている。
【0025】
図6は、密封装置1の摺動部溝21の断面A-Aにおける断面図である。
図6に示すように、摺動部溝21の溝の深さについて、周方向に対しては、例えば、摺動部溝21の溝底が、周方向の中央にあたる中央部202に比べて両端側の端部201の方が浅くなるように構成されている。このため、摺動部溝21の摺動部20に対する溝底の角度は、中央部202から両端側の端部201に向かって所定の角度αを有するように形成されている。
【0026】
図7は、密封装置1の導入溝22の断面B-Bにおける断面図である。
図4、
図5、及び
図7に示すように、導入溝22は、例えば、摺動部溝21における周方向の中央の位置に設けられている。導入溝22は、摺動部溝21から内周側に向かって内周部30に至るまで延びるように、つまり、摺動部溝21と内周部30とを貫通するように形成されている。導入溝22は、密封対象流体を軸200の環状溝210から摺動部溝21内に導く。導入溝22は、軸線x方向において他方側から一方側に向かって深さを有する凹溝状に形成されている。導入溝22の溝底の深さは、例えば、内周溝40や摺動部溝21の底部の深さよりも深く形成されている。導入溝22は、溝底が、例えば、内周部30に面する内周底部221から外周側の外周底部222に向かって階段状の段部223を経て浅くなるように構成されている。なお、導入溝22の溝底の深さは、上述の例には限定されない。
【0027】
内周部30は、円筒状に形成されていて内周方向において環状溝210の周壁面213に面する。内周部30は、摺動部20と内周部30との接合部に、つまり、内周部30の軸線x方向一方の側(矢印a方向)及び他方の側(矢印b方向)の端部に、軸線x方向に凹状の内周溝40が設けられている。
【0028】
内周溝40は、接合部において周方向に延びるように、環状に連通している溝である。内周溝40は、内周側の面が使用状態において軸200の環状溝210の周壁面213に面し、摺動部20側の面が使用状態において環状溝210の側壁面211,212に面している。内周溝40は、径方向外周側において導入溝22と接続している。つまり、内周溝40は、導入溝22を介して摺動部溝21と連通している。内周溝40は、径方向外周側の端部が摺動部溝21の内周側の端部またその付近まで延びている。
【0029】
外周面50は、円筒状に形成されていて外周方向においてハウジング300に面する。
【0030】
合口部110は、密封装置1における周方向の1箇所に設けられている。合口部110は、外周面50側、円盤部10側及び摺動部20のいずれから見ても階段状に切断されている。このように階段状に形成されていることにより、合口部110は、熱膨張収縮により密封装置1の周長が変化しても安定したシール性能を維持する特性を有する。
【0031】
密封装置1は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂材により構成されている。
【0032】
次に、上述の密封装置1の使用状態について説明する。
図8は、密封装置1の使用状態における軸線xに沿う断面における断面図である。
【0033】
図8に示すように、密封装置1は、軸200の外周に設けられた環状溝210に装着され、相対的に回転する軸200とハウジング300(ハウジング300における軸200が挿通される軸孔の内周面)との間の環状の空間Sを封止する。これにより、密封装置1は、油圧が変化するように構成されたシール対象領域の流体圧力(油圧P)を保持する。ここで、密封装置1は、
図8においては、
図5と同様に、
図8中左側の流体圧力が右側の流体圧力よりも高くなった状態を示している。具体的には、
図8においては、密封装置1が取り付けられている不図示のエンジンが始動していることで、密封装置1を介して差圧が生じている状態を示している。エンジンが始動し、差圧が生じた状態においては、密封装置1は、環状溝210の低圧側にあたる側壁面、例えば、
図8においては側壁面211及びハウジング300の軸孔の内周面に対して密着した状態となっている。また、この状態において、密封装置1は、内周部30が環状溝210の周壁面213から浮き上がっている。また、この状態において、ハウジング300の内周面と軸200の外周面との間には、はみ出し隙間D2が生じている。
【0034】
図8に示すように、密封装置1は、使用状態において、相対的に回転する軸200とハウジング300との間の環状の空間Sを封止する。このようにすることで、密封装置1は、油圧Pが変化するように構成されたシール対象領域(高圧側の領域)の油圧Pを保持することができる。ここで、密封装置1の摺動部20は、軸200とハウジング300が相対的に回転した場合に、環状溝210の低圧側の側壁面211との間で摺動する。このとき、密封装置1において、密封対象流体が、密封装置1の摺動部20に設けられている摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40から摺動部20に流出する際に動圧が発生する。密封装置1が環状溝210に対して、
図3において時計回り方向に回転する場合には、摺動部溝21における反時計回り方向側の端部201から摺動部20に密封対象流体が流出する。また、密封装置1が環状溝210に対して、
図3において反時計回り方向に回転する場合には、摺動部溝21における時計回り方向側の端部201から摺動部分に密封対象流体が流出する。
【0035】
以上説明した密封装置1によれば、上述のように摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40内に密封対象流体が導かれる。そのため、摺動部20において、摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40が設けられている範囲、例えば、
図8に示す内周部30からの高さH2の範囲においては、高圧側から密封装置1に対して作用する流体圧力と低圧側からに対して作用する流体圧力が相殺される。これにより、密封装置1は、流体圧力(高圧側から低圧側への流体圧力)の受圧面積を、摺動部20において、摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40が設けられている領域(内周部30からの高さH2よりも内周側の領域)に相当する部分だけ減らすことができる。
【0036】
また、密封装置1によれば、環状溝210における低圧側の側壁面211,212に対して摺動部20が摺動する際に摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40から摺動部分に密封対象流体が流出する際に動圧が発生する。これにより、密封装置1に対して側壁面211,212から離れる方向の力が発生する。
【0037】
以上のように、密封装置1によれば、摺動部20に摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40が設けられていることにより受圧面積が減ることにより、回転トルクを効果的に低減させることができる。このように、密封装置1によれば、回転トルク(摺動トルク)の低減を実現できることにより、摺動による発熱を抑制することができ、高速高圧の環境条件下においても密封装置1を好適に用いることができる。また、密封装置1によれば、これに伴い、軸200の材料としてアルミニウムなどの軟質材を用いることもできる。
【0038】
また、密封装置1によれば、摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40により摺動部20に対して密封対象流体を導入することができるため、側壁面211,212に対してより効率よく流体の膜(油膜)を形成することができる。つまり、密封装置1によれば、回転トルクを効果的に低減させることができる。
【0039】
また、密封装置1によれば、摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40が、使用状態において軸200の環状溝210の側壁面211,212に対して摺動する摺動領域内に設けられている。すなわち、摺動部溝21、導入溝22、及び内周溝40は、摺動部20の高さH1に対して、はみ出し隙間D2の領域に該当しない高さH2よりも下側の位置に設けられているので、密封対象流体の漏れを抑制することができる。
【0040】
また、密封装置1によれば、
図6に示したように、摺動部溝21の溝底が周方向の中央の中央部202に比べて両端側の端部201の方が浅くなるように構成すれば、楔効果により、上記の動圧を効果的に発生させることができる。特に、摺動部溝21の溝底が、中央部202から両側の端部201に向かって徐々に浅くなる構成を採用した場合には、密封装置1における摺動部20が経時的に摩耗が進んでしまっても、楔効果を安定的に発揮させることができる。
【0041】
図9は、参考例に係る密封装置1Aの軸線xに沿う断面における断面斜視図である。参考例に係る密封装置1Aは、摺動部20Aの内周側の端部と内周部30との接合部に内周溝40が設けられていない点が、先に説明した密封装置1と相違している。
【0042】
図9に示すように、参考例に係る密封装置1Aは、摺動部20Aの内周側の端部と内周部30との接合部に内周溝40が設けられていない。このため、密封装置1Aは、軸200の環状溝210の側壁面211,212、例えば、
図9においては側壁面211が周壁面213から外周側に向かって開くように形成されている場合に、摺動部20Aの内周側の端部が側壁面211に接触する。また、何らかの理由で軸200が傾いた場合にも、摺動部20Aの内周側の端部が側壁面211に接触する。このような場合において、密封装置1Aは、摺動部20
Aと側壁面211との間に生じる隙間D3が大きくなってしまい、密封性の改善が望まれていた。
【0043】
一方、密封装置1は、摺動部20の内周側の端部に内周溝40が設けられている。このことにより、密封装置1は、
図5に示したように、軸200の環状溝210の側壁面211が周壁面213から外周側に向かって開くように形成されている場合に、この内周溝40の付近で側壁面211と接触可能である。このため、密封装置1によれば、摺動部20と側壁面211との間に生じる隙間D1を縮小することができるため、密封性の改善を図ることができる。
【0044】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1によれば、回転トルクの低減を図ることができる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【0046】
図10は、本発明の実施の形態に係る密封装置1Bの摺動部20Bの変形例を示す拡大斜視図である。
図10に示すように、本発明において、密封装置1の摺動部20Bに設けられている摺動部溝
の導入溝22Bは、上述のように摺動部溝
の周方向の中央部に設けられているものに限定されず、例えば、摺動部溝
の周方向の端部202Bに設けられていてもよい。この場合において、摺動部溝
の溝底は、端部202Bから端部201Bに向かって徐々に浅くなるように形成されていてもよい。
【0047】
また、密封装置1において、摺動部溝21の形状は、上述した形状に限定されず、各種の構成を採用し得る。例えば、密封装置1において、摺動部20に設けられている摺動部溝21の溝底が、周方向の中央から平面状に両側に向かって徐々に浅くなるように構成されていてもよい。また、密封装置1において、摺動部溝21の溝底が、周方向の中央から曲面状に両側に向かって徐々に浅くなるように構成されていてもよい。また、密封装置1において、摺動部溝21の溝底が、周方向の中央から階段状に両側に向かって浅くなるように構成されていてもよい。また、密封装置1において、摺動部溝21の溝底が、周方向の中央から階段状に両側に向かって浅くなり、かつ段差部分が傾斜面で構成されていてもよい。このように、密封装置1は、摺動部溝21の溝底が、周方向の中央に比べて両端側の方が浅くなるように構成することで、楔効果により動圧をより効果的に発生させることができる。
【0048】
また、密封装置1,1Bは、円盤部10の両側に摺動部溝21、導入溝22,22B、及び内周溝40を設けている。このように、円盤部10の両側に摺動部20が設けられていることにより、密封装置1,1Bは、他方の側の円盤部10に面する環状溝210の側壁面211に加えて、一方の側の円盤部10に面する側壁面212及びハウジング300の軸孔の内周面に対して密着した状態となる場合、つまり、低圧側と高圧側とが状況により一方の側と他方の側とで変わりうる場合においても、流体圧力の受圧面積を減らすことができるなど、上述した作用効果を奏することができる。
【0049】
また、密封装置1は、断面が矩形の環状部材に対して、上記の合口部110と複数の摺動部溝21が形成された構成には限定されず、必ずしも、断面が矩形の環状部材を素材として、合口部110及び複数の摺動部溝21を形成する加工を施すことを意味するものではない。勿論、断面が矩形の環状部材を成形した後に、これらを切削加工により得ることもできる。ただし、例えば、あらかじめ合口部110を有したものを成形した後に、複数の摺動部溝21を切削加工により得てもよいし、製法は特に限定されるものではない。
【0050】
また、合口部110の形状は、上述の形状に限定されず、例えば、ストレートカットやバイアスカットやステップカットなどを採用してもよい。なお、密封装置1の材料として、低弾性の材料(PTFEなど) を採用した場合には、合口部110を設けずに、エンドレスとしてもよい。
【0051】
また、以上説明した密封装置1,1Bにおける方向は、あくまで説明の便宜上のものである。このため、例えば、密封装置1,1Bにおいて、軸線x方向において矢印a方向(軸線方向において一方の側)を低圧側とし、軸線x方向において矢印b方向(軸線方向において他方の側)を高圧側となってもよい。
【0052】
さらに、以上説明した密封装置1,1Bでは、一方の側及び他方の側の双方に面する円盤部10に摺動部20,20Bを設け、この摺動部20,20Bに、摺動部溝21、導入溝22,22B、及び内周溝40が設けられているが、本発明において、摺動部20,20Bは、一方の側または他方の側のいずれか1つの円盤部10に設けられているものであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1,1A,1B…密封装置、10…円盤部、20,20A,20B…摺動部、21…摺動部溝、22,22B…導入溝、30…内周部、40…内周溝、50…外周面、110…合口部、200…軸、201,201B…端部、202,202B…端部、210…環状溝、211,212…側壁面、213…周壁面、221…内周底部、222…外周底部、223…段部、300…ハウジング、D1,D3…隙間、D2…はみ出し隙間、H1,H2…高さ