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特許7377919リニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法及びリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システム
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  • 特許-リニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法及びリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】リニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法及びリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/02 20190101AFI20231102BHJP
【FI】
G01M13/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022098653
(22)【出願日】2022-06-20
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】596016557
【氏名又は名称】上銀科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】蔡尚樺
(72)【発明者】
【氏名】林育新
(72)【発明者】
【氏名】林孟穎
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-041839(JP,A)
【文献】特開2001-356808(JP,A)
【文献】特開2020-148242(JP,A)
【文献】国際公開第2021/090842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニア伝動装置を駆動する駆動装置に電気的に接続して制御する制御装置により実行されるリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法であって、
前記リニア伝動装置は、所定の軸線方向に沿って延伸する回転軸と、前記回転軸に沿って移動可能に前記回転軸に配置されると共に、前記回転軸との間に循環通路が画成されている可動部と、前記循環通路内に配置される複数のローラーと、前記リニア伝動装置及び前記駆動装置に配置されるセンサーを有するセンサー手段と、を有するように構成されている上、前記循環通路は、前記ローラーが出入りできる出入口を有し、前記センサーは前記出入口の温度及び前記出入口における前記ローラーが出入りする加速度を感知するように構成され、
前記可動部は、前記回転軸により挿通される本体と、前記本体に配置された2つの循環部材とを有し、各前記循環部材は、いずれも前記回転軸と共に両者の間に1つの循環通路を画成し、
前記リニア伝動装置の稼働中において、前記センサー手段が前記リニア伝動装置から検知した、各前記ローラーと前記回転軸との間に生じる応力もしくは前記循環部材の各前記ローラーとの接触面が受ける応力と、前記可動部が前記軸線方向に沿って移動する距離であるストロークと、前記可動部の前記軸線方向に沿って前記回転軸に対して移動する速度もしくは前記回転軸が回転する速度と、前記リニア伝動装置から検知する前記出入口の温度と、前記出入口における前記ローラーが出入りする加速度と、の5種類の検知信号に基づいて、応力負荷調整パラメータと、ストローク調整パラメータと、速度調整パラメータと、温度調整パラメータと、加速度調整パラメータと、の5種類の調整パラメータを算出し、この5種類の調整パラメータにおいて、少なくとも2種類の調整パラメータは、対応する検知信号とは非一次関数関係であり、そしてこの5種類の調整パラメータから前記リニア伝動装置の残り寿命参考値を算出するリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法。
【請求項2】
前記残り寿命参考値を算出する際において、各前記検知信号及び各前記調整パラメータに基づいて、実働当量を算出してから、該実働当量に基づいて前記残り寿命参考値を算出することを特徴とする請求項に記載のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法。
【請求項3】
actを前記実働当量とし、Aを前記温度調整パラメータとし、Aを前記ストローク調整パラメータとし、Aを前記加速度調整パラメータとし、Aを前記応力負荷調整パラメータとし、Aを前記速度調整パラメータとし、且つ、Fiavgを区間平均負荷とし、Niavgを前記回転軸の区間平均回転速度とし、Navgを前記回転軸の周期平均回転速度とし、tを区間時間とし、tcycleを周期時間とし、nを1つの周期内にある区間の数とすると、
【数1】

の式により算出される実働当量Factを算出してから前記残り寿命参考値を算出することを特徴とする請求項に記載のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法。
【請求項4】
前記検知信号に基づいて算出される最大応力値をPmaxとし、aを負荷係數とし、且つ、Pmax>2.0Gpaである際、
【数2】

の式で前記応力負荷調整パラメータAを算出し、また、
max≦2.0Gpaである際、Aを1とすることを特徴とする請求項に記載のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法。
【請求項5】
前記検知信号に対応する温度が80℃~200℃の範囲内にある際、
Tを温度とし、at1、at2、at3、at4をそれぞれ必要に応じて設定された温度係数として、
【数3】

の式で前記温度調整パラメータAを算出し、また、前記範囲外にある場合は、Aを1とすることを特徴とする請求項に記載のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法。
【請求項6】
2つの潤滑油消耗係数をそれぞれaとbとし、Fmaxを許容最大負荷とし、Fopを前記検知信号により取得した実際最大負荷とし、前記回転軸の外径と回転速度の積をDNとして、DNMAXを許容最大DN値とし、DNopを前記検知信号により取得した実際最大DN値とし、
【数4】

の式で潤滑油消耗パラメータfを算出することを特徴とする請求項1に記載のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法。
【請求項7】
リニア伝動装置及び前記リニア伝動装置を駆動する駆動装置に電気的に接続するリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムであって、
前記リニア伝動装置は、所定の軸線方向に沿って延伸する回転軸と、前記回転軸に沿って移動可能に前記回転軸に配置されると共に、前記回転軸との間に循環通路が画成されている可動部と、前記循環通路内に配置される複数のローラーと、前記リニア伝動装置及び前記駆動装置に配置されるセンサーを有するセンサー手段と、を有するように構成されている上、前記循環通路は、前記ローラーが出入りできる出入口を有し、前記センサーは前記出入口の温度及び前記出入口における前記ローラーが出入りする加速度を感知するように構成され、
前記可動部は、前記回転軸により挿通される本体と、前記本体に配置された2つの循環部材とを有し、各前記循環部材は、いずれも前記回転軸と共に両者の間に1つの循環通路を画成し、
前記リニア伝動装置の稼働中において、前記センサー手段が前記リニア伝動装置から検知した、各前記ローラーと前記回転軸との間に生じる応力もしくは前記循環部材の各前記ローラーとの接触面が受ける応力と、前記可動部が前記軸線方向に沿って移動する距離であるストロークと、前記可動部の前記軸線方向に沿って前記回転軸に対して移動する速度もしくは前記回転軸が回転する速度と、前記リニア伝動装置から検知する前記出入口の温度と、前記出入口における前記ローラーが出入りする加速度と、の5種類の検知信号に基づいて、応力負荷調整パラメータと、ストローク調整パラメータと、速度調整パラメータと、温度調整パラメータと、加速度調整パラメータと、の5種類の調整パラメータを算出し、この5種類の調整パラメータにおいて、少なくとも2種類の調整パラメータは、対応する検知信号とは非一次関数関係であり、そしてこの5種類の調整パラメータから前記リニア伝動装置の残り寿命参考値を算出することを特徴とするリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システム。
【請求項8】
前記リニア伝動装置における前記センサーと前記出入口との前記軸線方向における距離は、前記ローラーの直径の3倍を超えないことを特徴とする請求項に記載のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法及びリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リニア伝動装置は長時間の稼働を経ると、ビーズの循環通路の出入口の箇所において金属疲労による摩耗が発生するので、部品の取り換えなどのメンテナンス作業が必要である。
【0003】
現在、このような作業は、定期的なメンテナンスにより行われており、場合によっては、累計稼働時間によってメンテナンスや部品の取り換えの要否を判断するようになっている。しかし、リニア伝動装置が用いられる加工機械は、ワークが異なり得るものであり、稼働時に受ける負荷なども当然異なるので、同じ累計稼働時間で一律にメンテナンスや部品取り替えの要否を判断することは適切とは言えない。
【0004】
この他、リニア伝動装置(ねじ装置)の故障状況を検出する従来技術として、例えば特許文献1に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許出願公開2020-008112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、リニア伝動装置の残り使用寿命参考値をより正確に算出できるリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法及びリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムを提供することにより、リニア伝動装置のメンテナンスや部品の取り換えのタイミングを正確的に算出することで、応用コストの節約を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、リニア伝動装置を駆動する駆動装置に電気的に接続して制御する制御装置により実行されるリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法であって、前記リニア伝動装置及び前記駆動装置に配置されるセンサー手段が検知した複数種類の検知信号に基づいて、少なくとも4種類の調整パラメータを算出する上、該少なくとも4種類の調整パラメータ及び前記検知信号から前記リニア伝動装置の使用寿命参考値を算出するリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、リニア伝動装置(20)及び前記リニア伝動装置(20)を駆動する駆動装置(24)に電気的に接続するリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムであって、前記リニア伝動装置に配置されるセンサー(31)を有するセンサー手段と、前記センサー手段に電気的に接続し、前記センサー手段から受信した複数の検知信号に基づいて、少なくとも4種類の調整パラメータを算出する上、該少なくとも4種類の調整パラメータ及び前記検知信号から前記リニア伝動装置の使用寿命参考値を算出する制御手段(4)と、を備えることを特徴とするリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムをも提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成により、本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法及びリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムは、センサー手段から受信した複数の検知信号に基づいて、リニア伝動装置の使用寿命参考値を算出することができるので、各リニア伝動装置の実際の稼働状況に応じて、リニア伝動装置のメンテナンスや部品の取り換えのタイミングをより正確的に計算し、メンテナンスが適時に行えるようになると共に、稼働中の故障発生率を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムの構成が示されるブロック図である。
図2】本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムが適用されるリニア伝動装置20の構成が示される一部分解斜視説明図である。
図3】本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムが適用されるリニア伝動装置20の構成が示される一部断面説明図である。
図4】本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法が示されるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下は図面を参照して本発明について詳しく説明する。
【0012】
図1図3に示されるように、本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムは、リニア装置2が有するリニア伝動装置20に用いられるものであり、そして本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムは、センサー手段3と、制御手段4とを備え、また、この実施形態では、出力手段5をも備えている。
【0013】
リニア装置2は、リニア伝動装置20と、該リニア伝動装置20の駆動に用いられる駆動装置24とを有する。そして該リニア伝動装置20は、所定の軸線方向Lに沿って延伸する回転軸21と、回転軸21に沿って移動可能に該回転軸21に配置されると共に、回転軸21との間に循環通路223が画成されている可動部22と、循環通路223内に配置される複数のローラー23とを有するように構成されている。図示のように、この実施形態において、リニア伝動装置20はボールねじであり、回転軸21は外表面にねじ山が形成されるボルトであり、可動部22は該回転軸21に沿って移動できるナットであり、そして回転軸21と可動部22との間には、前記ねじ山が形成されることにより循環通路223が画成され、該循環通路223の中に複数のボール状のローラー23が配置されている。無論、上記はこの実施形態の構成にすぎず、リニアレールに沿って動力を伝動する装置であれば、本発明を適用することができる。
【0014】
該可動部22は、ナット上に形成されて回転軸21により挿通される中央孔が形成される本体221と、本体221の前記中央孔内に配置された2つの循環部材222とを有する。各循環部材222は、いずれも前記回転軸21に形成された前記ねじ山に対応し、それぞれ前記回転軸21と共に両者の間に1つの循環通路223を画成する。これにより、ボール状に形成された各ローラー23は、可動部22の回転軸21に対する軸線方向Lに沿った移動に応じて、回転軸21と該可動部22との間、すなわち循環通路223の中で循環的に転がることができる。
【0015】
図3に示されるように、左側の循環通路223は、左側にローラー23が出入りできる出入口224を有する。本発明のセンサー手段3が有するセンサー31(後述)はこの出入口224を基準点として配置されるが、これは説明の都合上によるものにすぎず、センサー31(後述)が配置される基準点としての出入口としては、図中に示されるこの出入口224に限られるものではない。また、1つの可動部22が有する循環部材222の数についても、特に限定されず、1つ以上であれば、必要に応じて設定することができる。
【0016】
駆動装置24は、回転軸21を回転駆動することにより可動部22の軸線方向Lに沿った移動を駆動するのに用いられるものであり、駆動回路241とモータ242とを有する。リニア装置2の細かい構成に関しては、本発明に関連する技術分野において通常の知識を有するものであれば推知できるものなので、詳しい説明は省略する。
【0017】
センサー手段3は、リニア伝動装置20と駆動装置24からそれらの稼働に関連する複数の検知信号を取得するよう、リニア伝動装置20と駆動装置24とに配置される複数のセンサーを有する。図3に示されるように、センサー手段3が有する複数のセンサーにおける1つのセンサー31は、可動部22の本体221の外表面に形成されるセンサースロット225に、固定ねじにより配置固定されている。特に、センサー31が有する感知端部311は、本体221内に嵌め込まれるように配置されるので、これにより正確な感知情報を得ることができる。図示のように、センサー31が配置される位置は出入口224に対応している。具体的に説明すると、センサー31をできるだけ出入口224の近くに配置するため、この実施形態ではその配置位置の条件を、センサー31と出入口224との軸線方向Lにおける所定の距離Dが、ボール状に形成されたローラー23の直径の3倍を超えないように設定されている。
【0018】
即ち、センサー31と出入口224は基本的には、軸線方向Lと平行する仮想線に沿う、もしくは隣接するように配置されている上、可動部22のセンサースロット225と出入口224との回転軸21の延伸方向における距離が、所定の距離Dとなる。そしてこの所定の距離Dは、センサースロット225と出入口224とのそれぞれの中心点の位置を基準として算出される。また、この所定の距離Dに関しては、具体的には必要に応じて、ローラー23の直径の3倍、もしくは回転軸21が有するねじ山のリードの3倍を超えない数値に設定される。このようにセンサー31を出入口224に隣接する場所に配置することにより、センサー31は出入口224の温度や出入口224における加速度(インパクト)をより正確的に感知することができる。センサー31としては、例えば温度センサーチップ及び/または加速度計を有するように構成されることができる。図3では、より見やすいように、本体221とセンサー31と、制御手段4(後述)と接続するためのケーブル9とは、いずれも鎖線で描かれている。
【0019】
センサー手段3が有するセンサー31以外のセンサーに関しては、例えば応力、ストローク、速度などを感知し、対応する検知信号を出力する。具体的に説明すると、この応力とは、例えばリニア伝動装置20の稼働中において、各ローラー23と回転軸21との間に生じる応力、もしくは循環部材222の各ローラー23との接触面が受ける応力などが挙げられる。この応力に対応するセンサーとしては、例えば圧電素子、位置センサー、ストレインゲージなどを用いる力センサーを挙げられる。
【0020】
上記ストロークとは、例えば可動部22の回転軸21に対して軸線Lに沿って移動できる距離が挙げられる。上記速度とは、例えば可動部22の回転軸21に対して軸線Lに沿って移動する速度、もしくは回転軸21が回転する速度が挙げられ、これらを感知するセンサーとしては具体的には例えば光学定規、ロータリエンコーダ、ホールセンサーなどを用いることができる。そして例えばモータ242の回転数を検知して、そこから可動部22の相対移動距離や速度、あるいは回転軸21の回転速度を求めることができる。
【0021】
制御手段4はリニア装置2とセンサー手段3と出力手段5とに信号的に接続し、リニア装置2の稼働を制御すると共に、センサー手段3からの検知信号に基づいて少なくとも4種類の調整パラメータを算出してから、これら調整パラメータ及び検知信号からリニア伝動装置20の残り使用寿命参考値を算出する。ちなみに、該少なくとも4種類の調整パラメータにおいて、少なくとも2種類の調整パラメータは、対応する検知信号とは非一次関数関係である。
【0022】
この実施形態において、出力手段5はディスプレイであり、制御手段4の制御を受けて制御手段4により算出される残り使用寿命参考値を表示し、ユーザーはこの残り使用寿命参考値を利用してメンテナンスや部品の取り換えのタイミングを決定できる。
【0023】
本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法は上記制御手段4により実行されてリニア伝動装置20の残り使用寿命参考値を算出するものである。即ち、図4に示されるように、リニア装置2に配置されるセンサー手段3からフィードバックされた複数の検知信号、例えばリニア伝動装置20から検知した応力と、リニア伝動装置20における可動部22が移動可能なストロークと、可動部22が移動する速度と、リニア伝動装置20から検知した温度と、可動部22の軸線方向Lにおける加速度と、の5種類の検知信号を受信するステップ61と、
受信した検知信号を複数の周期(cycle)に分割する上、各周期(cycle)をそれぞれ複数の区間(period)に分割するステップ62と、
前記5種類の検知信号から選ばれる少なくとも4種類を選択して、少なくとも4種類の調整パラメータ及び実働当量Factを算出するステップ63と、
算出した実働当量Factと予めに用意された理論上稼働当量Fbasic及びシステム安全パラメータAgeneralに基づいて、寿命消耗当量Xを算出するステップ64と、
算出した寿命消耗当量Xと累計稼働周期数CYと理論上寿命値Lbasicとに基づいて、残り寿命参考値Lleftを算出して出力手段5に表示させるステップ65、とを含む。
【0024】
ステップ61において、センサー手段3からフィードバックされた複数の検知信号とは、例えば応力(負荷)、ストローク、速度、温度、そして加速度(インパクト)に関連し、それぞれ負荷調整パラメータと、ストローク調整パラメータと、速度調整パラメータと、温度調整パラメータと、インパクト調整パラメータに対応しており、ユーザーは需要に応じてこの5種類の検知信号から4種類の検知信号を選択して、対応する調整パラメータを算出できる。
【0025】
ここで、制御手段4は以下の式で残り寿命参考値Lleftを算出する。この実施形態において、残り寿命参考値Lleftは残余使用寿命の全寿命の中に占めるパーセンテージ(%)であり、即ち、例えば残り寿命参考値Lleftが80%である場合は、残余使用寿命が80%あることを意味するが、実際では、消耗した寿命の参考値を算出することも可能である。即ち、消耗した寿命の参考値が20%である場合は、残余使用寿命は80%あることを意味する。
【0026】
【数1】
【0027】
【数2】
【0028】
ここで、CYは累計の稼働周期数であり、Lactは実際の寿命値であり、即ち、実際の条件に基づいて算出したリニア伝動装置20の使用寿命である。例えば、計算によれば、実際の条件において稼働可能な周期(cycle)の数を指す。Lbasicは理論上寿命値であり、つまり、理論上の条件(もしくは基本的条件)におけるリニア伝動装置20の使用寿命である。例えば、理論上の条件において、稼働可能な周期の数を指す。Xは寿命消耗当量であり、即ち理論上寿命値Lbasicと実際寿命値Lactとの比の値を指す。従って、この1/Lact=1/Lbasic×Xの値は即ち実際の条件において、各周期ごとに消耗した寿命の比率である。Factは実働当量であり、Fbasicはリニア伝動装置20のスペックに基づいて算出した理論上稼働当量である。Ageneralはシステム安全パラメータであり、即ち、リニア伝動装置20のスペックに基づいて、レベル1(スムーズ)、レベル2(ノーマル)、レベル3(強インパクト)の3つのレベルごとに、1.1、1.3、2に設定されている。
【0029】
続いて、図2図3に示されるリニア伝動装置20を例として上記式1と式2について説明する。リニア伝動装置20の理論上寿命値Lbasicと、実際寿命値Lactとは、それぞれ以下の式3と式4とにより算出される。
【0030】
【数3】
【0031】
【数4】
【0032】
ここで、Leadは回転軸21が有するねじ山のリードであり、Caはリニア伝動装置20のスペックに基づいて算出したリニア伝動装置20の定格負荷であり、Strokebasicは理論ストロークであり、Strokeactは実際のストロークである。通常、StrokebasicとStrokeactとはほぼ一致なので、寿命消耗当量Xを式2に近づけることができる。
【0033】
残り寿命参考値Lleftの計算に戻り、制御手段4は、以下の式5で実働当量Factを算出する。以下では同じく図2及び図3に示されるリニア伝動装置20を例として説明する。
【0034】
【数5】
【0035】
ここで、Aは温度調整パラメータであり、Aはストローク調整パラメータであり、Aはインパクト調整パラメータであり、Aは負荷調整パラメータであり、Aは速度調整パラメータであり、tcycleは周期時間であり、nは1つの周期における区間の数であり、tは区間時間である。ここでの1つの周期(cycle)とは、1つの反復繰り返し作業プロセスにおいて費やした時間であり、このプロセスの必要時間を計算の都合もしくは実際の作業の都合に基づいて、複数(n個)の区間(period)に振り分ける。各区間はいずれも1つ以上のサブプロセスを含む。Fiavgは区間平均負荷であり、Niavgは回転軸21の区間平均回転速度であり、Navgは回転軸21の周期平均回転速度である。
【0036】
式5においては、実際の需要により、5種類の調整パラメータから少なくとも4種類の調整パラメータを選択して計算する上、算出した数値を式5に代入し、且つ、式1、式2、式5で寿命参考値Lleftを算出する。ちなみに、各式において選択しなかった調整パラメータに関しては、1を代入して計算する。
【0037】
以下では各調整パラメータの算出方法について説明する。
【0038】
まず、負荷調整パラメータAと、ストローク調整パラメータAと、温度調整パラメータAと、インパクト調整パラメータAとは、いずれも対応する検知信号とは非一次関数関係である。即ち、通常、分析に用いられるデータの数が少ない場合、2つのデータを用いて仮想線を算出して計測しなかったデータを推定するが、この場合、調整パラメータと検知信号とは一次関数関係になり、推定したデータも用いるために計算の精度は落ちる。一方、本発明では少なくとも2種類の調整パラメータを、以下の非一次関数関係で推定することにより、より高い推定正確性を有する。
【0039】
即ち、負荷調整パラメータAについては、Pmax>2.0Gpa(ギガパスカル)の条件が成立する際、以下の式6で算出するが、該条件が成立しない場合では、Aを1とする(A=1)。
【0040】
【数6】
【0041】
ここで、Pmaxとは1つの周期において、検知信号に基づいて算出した回転軸21の最大応力であり、aは実験により取得した負荷係數であり、例えば、0.125に設定することができる。
【0042】
また、ストローク調整パラメータAについては、θ<TUの条件が成立する際、以下の式7で算出するが、該条件が成立しない場合では、Aを1とする(A=1)。ここで、θとは1つの稼働周期において回転軸21が回転する回数であり、TU(turns unit)は1つの循環部材222が跨ぐねじ山の突起した箇所の数を指し、通常は2~5に設定されている。
【0043】
【数7】
【0044】
速度調整パラメータAについては、DNop>DNMAXの条件が成立する際、以下の式8で算出するが、該条件が成立しない場合では、Aを1とする(A=1)。ここで、DN値はリニア伝動装置20の回転軸21の外径と回転速度の積であり、DNMAXは許容最大DN値であり、DNopは1つの周期において、検知信号により取得した実際の最大DN値であり、aは速度係數であり、通常は1.5~2の範囲内に設定されている。ωMAXは回転軸21の許容最大回転速度であり、ωopは1つの周期において、検知信号により取得した実際の最大回転速度である。
【0045】
【数8】
【0046】
温度調整パラメータAについては、検知信号による温度(出入口224に対応する箇所から検知した温度)が80℃~200℃の範囲内にあるという条件が成立する際、以下の式9で算出するが、該条件が成立しない場合では、Aを1とする(A=1)。ここで、Tは温度であり、at1、at2、at3、at4はそれぞれ必要に応じて設定された温度係数であり、例えばat1=-1×10-7、at2=3×10-5、at3=-0.004、at4=1.1に設定することができる。
【0047】
【数9】
【0048】
インパクト調整パラメータAについては、A>15G(重力加速度)の条件が成立する際、インパクト調整パラメータAを0とする(A=0)が、該条件が成立しない場合では、Aを1とする(A=1)。ここで、Aはセンサー31により感知された加速度の数値である。
【0049】
なお、上記ステップ64、65においては、まず式4に基づいて実際寿命値Lactを算出してから、累計の稼働周期数CY及び実際寿命値Lactに基づいて、残り寿命参考値Lleft(式1)を算出することもできる。
【0050】
以下は実例を参照して本発明について説明する。
【0051】
以下の表1におけるボールねじのスペックに基づいて計算すると、以下の表2~表4に記載される各実験条件に対応する各パラメータ、即ち、ストローク調整パラメータAと、温度調整パラメータAと、インパクト調整パラメータAと、負荷調整パラメータAと、速度調整パラメータAと、実働当量Factと、寿命消耗当量Xと、寿命消耗比率1/Lactとが算出される。
【0052】
表2~表4からわかるように、表3と表4に記載の数値を表2(通常条件)に記載のと比較すると、表3が対応する高負荷稼働の際では、寿命消耗当量Xは大きく増えるので、寿命消耗比率1/Lactもこれに対応して増えるようになる。即ち、各稼働周期において消耗した寿命は、理論上よりも消耗したこととなる。一方、表4が対応する低負荷稼働の際では、寿命消耗当量Xは減るので、寿命消耗比率1/Lactもこれに対応して減るようになる。即ち、各稼働周期において消耗した寿命は、理論上ほど消耗しないことになる。
【0053】
【表1】
【0054】
ここで、TU数(Turn No.)は基礎TU数(Turns unit)がいくつあるかを示す数であり、図2に示される例において、TU数は2、即ち、2セットのボール状のローラー23を有することを意味する。
【0055】
ωは時点tiでの回転速度であり、表2の記載を例とすると、段階1と段階2との負荷も回転速度も異なる段階で1つの周期を構成するので、この周期における実際の最大の回転速度ωopは750rpmである。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
なお、本発明のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法は、更に、以下の式10を用いて、潤滑油消耗当量X及び潤滑油消耗寿命参考値Loilを算出する上、算出した滑油消耗当量X及び潤滑油消耗寿命参考値Loilを出力手段5に表示させることができる。ここで潤滑油消耗当量Xとは、理論上潤滑周期と実際の實際潤滑周期の比の値である。
【0060】
ユーザーは算出した潤滑油消耗寿命参考値Loilを参考して潤滑油注入手段を起動して潤滑油を補充するか否かを決定することができ、あるいは制御手段4に潤滑油注入手段を起動するタイミングを判断させるように構成することも可能である。
【0061】
【数10】
【0062】
ここで、fは潤滑油の消耗量に関連する潤滑油消耗パラメータであり、a、bはいずれも必要に応じて設定された潤滑油消耗係數である。例えばa=0.8、b=0.2に設定することができる。Fmaxは許容最大負荷であり、Fopは1つの周期において、検知信号から得られた実際最大負荷である。
【0063】
式10に基づいて潤滑油消耗当量Xを算出してから、理論上潤滑周期CYoil-basicと累計の稼働周期数CYに基づいて、以下の式11で現在の潤滑油消耗寿命参考値Loilを算出することができる。ここで、(1/CYoil-basic×X)とは、実際の条件において、各周期で消耗された潤滑油の比率である。
【0064】
【数11】
【0065】
上記残り寿命参考値Lleftと同じように、この式11により算出されたのは、残余潤滑油寿命の全潤滑油寿命の中に占めるパーセンテージ(%)であるが、実際では、消耗した潤滑油寿命の参考値を算出することも可能である。
【0066】
上記構成によると、本発明のこの実施例のリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法及びリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムは、以下の効果が得られる。
【0067】
まず、リニア装置2に配置されるセンサー手段3からフィードバックされて来た複数の検知信号に基づいて、少なくとも4種類の調整パラメータを算出し、それから該少なくとも4種類の調整パラメータ及び前記検知信号から前記リニア伝動装置の残り寿命参考値を算出する。ここで、該少なくとも4種類の調整パラメータにおいて、少なくとも2種類の調整パラメータは、対応する検知信号とは非一次関数関係である。これによって、従来よりも正確な残り寿命参考値を推定することができるので、リニア伝動装置のメンテナンスや部品の取り換えのタイミングをより正確的に計算し、メンテナンスが適時に行えるようになると共に、稼働中の故障発生率を抑えることができる。
【0068】
そして、検知信号に基づいて潤滑油に関連する潤滑油消耗パラメータを算出してから、現在の潤滑油消耗寿命参考値を算出できるので、従来より正確なタイミングで潤滑油を補充することができるようになり、該リニア装置を用いる機械の加工品質を高めることができる上、該リニア装置の使用寿命自体を延長することも期待できる。
【0069】
さらに、センサー31を出入口224に対応する箇所に配置することで、より正確な検知結果を得られることができるので、より正確な残り寿命参考値を算出することに繋がる。
【0070】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、最も広い解釈の精神および範囲内に含まれる様々な構成として、全ての修飾および均等な構成を包含するものとする。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上記構成により、本発明はリニア伝動装置の残り寿命参考値をより正確に算出できるリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法及びリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得システムを提供することにより、リニア伝動装置のメンテナンスや部品の取り換えのタイミングを正確的に算出することで、応用コストの節約を図ることができる。
【符号の説明】
【0072】
2 リニア装置
20 リニア伝動装置
21 回転軸
22 可動部
221 本体
222 循環部材
223 循環通路
224 出入口
225 センサースロット
23 ローラー
24 駆動装置
241 駆動回路
242 モータ
3 センサー手段
31 センサー
4 制御手段
5 出力手段
【要約】
【課題】リニア伝動装置のメンテナンスや部品の取り換えのタイミングを正確的に算出する。
【解決手段】リニア伝動装置を駆動する駆動装置に電気的に接続して制御する制御装置により実行されるリニア伝動装置用のメンテナンス情報取得方法であって、前記リニア伝動装置及び前記駆動装置に配置されるセンサー手段から、該センサー手段が検知した複数種類の検知信号に基づいて、少なくとも4種類の調整パラメータを算出する上、該少なくとも4種類の調整パラメータ及び前記検知信号から前記リニア伝動装置の使用寿命参考値を算出する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4