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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】イメージング装置及びイメージング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3581 20140101AFI20231102BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20231102BHJP
   G06T 7/33 20170101ALI20231102BHJP
   G06T 3/00 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G01N21/3581
G01N21/27 A
G06T7/33
G06T3/00 750
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022114195
(22)【出願日】2022-07-15
(62)【分割の表示】P 2020157181の分割
【原出願日】2014-08-01
(65)【公開番号】P2022140516
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一雄
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/061461(WO,A1)
【文献】特開2011-203016(JP,A)
【文献】特開2007-198802(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0153148(US,A1)
【文献】特表2013-535014(JP,A)
【文献】特表2013-536471(JP,A)
【文献】特開2008-224312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
G01N 21/84-G01N 21/958
G01N 22/00-G01N 22/04
G01N 23/00-G01N 23/2276
G06T 1/00-G06T 7/90
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波を対象物に照射する照射手段と、
前記対象物により反射又は透過された前記テラヘルツ波を検出し、前記対象物の第1の画像を取得する第1画像取得手段と、
前記テラヘルツ波とは異なる光を検出し、前記対象物の第2の画像を取得する第2画像取得手段と、
前記第2の画像から導かれる位置関係に基づいて、それぞれが前記対象物の異なる位置に対応する複数の前記第1の画像を合成することで合成画像を生成する合成手段と
を備えることを特徴とするイメージング装置。
【請求項2】
前記第2画像取得手段は、前記テラヘルツ波とは異なる光として可視光を検出し、前記第2の画像を取得することを特徴とする請求項1に記載のイメージング装置。
【請求項3】
前記第2画像取得手段は、前記対象物を覆うインデックス部の模様を含むものとして前記第2の画像を取得し、
前記合成手段は、前記第2の画像に含まれる前記インデックス部の模様に基づいて、複数の前記第1の画像を合成する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のイメージング装置。
【請求項4】
前記インデックス部は、前記テラヘルツ波の透過率が所定の閾値よりも高い材料を含んでいることを特徴とする請求項3に記載のイメージング装置。
【請求項5】
前記合成手段で合成された前記第1の画像及び前記第2の画像を、別々に又は互いの対応関係に応じて重ねて表示させる表示手段を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイメージング装置。
【請求項6】
イメージング装置により実行されるイメージング方法であって、
テラヘルツ波を対象物に照射する照射工程と、
前記対象物により反射又は透過された前記テラヘルツ波を検出し、前記対象物の第1の画像を取得する第1画像取得工程と、
前記テラヘルツ波とは異なる光を検出し、前記対象物の第2の画像を取得する第2画像取得工程と、
前記第2の画像から導かれる位置関係に基づいて、それぞれが前記対象物の異なる位置に対応する複数の前記第1の画像を合成することで合成画像を生成する合成工程と
を備えることを特徴とするイメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば対象物により反射又は透過されたテラヘルツ波を検出して撮像を行うイメージング装置及びイメージング方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波イメージングの研究開発が活発化しており、例えば非破壊検査等への応用に期待が寄せられている。これらの用途では、目視確認できない検査対象を撮像し、可視化するイメージングが有効な情報提示手法として用いられる。
【0003】
イメージングを行う場合には、検査対象又はテラヘルツ波を発信及び受信するヘッドを走査することが求められるが、検査対象自体を走査することができない場合も多く、ヘッド走査型の装置が検討されている。例えば特許文献1では、小型ヘッドを搭載した可動キャリッジをモータで駆動して自動走査を行うという技術が提案されている。また特許文献2では、回転又は揺動するミラー及びレンズを用いて小型ヘッドによる高速走査を実現しようとする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-508226号公報
【文献】特開2009-8658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように駆動装置を利用して自動走査を実現しようとすると、装置全体としての小型化が難しく、結果として設置箇所が限られてしまい、様々な現場に持ち込んでの撮像が困難となってしまう。
【0006】
また、特許文献2のような装置では、走査範囲と光学系の大きさがトレードオフである。このため、例えば広範囲を操作しようとすると、レンズ径の大型化等に起因してヘッドが大型化してしまい、逆にヘッドを小型化しようとすると、走査範囲が狭くなり、限られた場所しか検査できないという状況が発生してしまう。
【0007】
上述した問題点を解決する方法として、小型ヘッドを手動で走査することが考えられる。しかしながら、手動による走査においては、駆動機構等によるヘッド位置の特定ができない。このため、仮に小型ヘッドで広範囲を走査できたとしても、検出されたテラヘルツ波と走査位置との対応関係が特定できず、適切な画像が得られないという技術的問題点が生ずる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題には上記のようなものが一例として挙げられる。本発明は、手動走査のようにヘッド位置を機械的に特定することが難しい場合であっても、好適なイメージングを実現可能なイメージング装置及びイメージング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する第1のイメージング装置は、テラヘルツ波を対象物に照射する照射手段と、前記対象物により反射又は透過された前記テラヘルツ波を検出し、前記対象物の第1の画像を取得する第1画像取得手段と、前記テラヘルツ波とは異なる光を検出し、前記対象物の第2の画像を取得する第2画像取得手段と、前記第2の画像に基づいて、前記第2の画像に対応する複数の前記第1の画像を合成する合成手段とを備える。
【0010】
上記課題を解決する第2のイメージング装置は、可視光とは異なる電磁波を対象物に照射する照射手段と、前記対象物により反射又は透過された前記電磁波を検出することで、前記対象物の第1の画像を取得する第1画像取得手段と、可視光を検出することで、前記対象物の第2の画像を取得する第2画像取得手段と、前記第2の画像に基づいて、前記第2の画像に対応する複数の前記第1の画像を合成する合成手段とを備える。
【0011】
上記課題を解決する第1のイメージング方法は、テラヘルツ波を対象物に照射する照射工程と、前記対象物により反射又は透過された前記テラヘルツ波を検出し、前記対象物の第1の画像を取得する第1画像取得工程と、前記テラヘルツ波とは異なる光を検出し、前記対象物の第2の画像を取得する第2画像取得工程と、前記第2の画像に基づいて、前記第2の画像に対応する複数の前記第1の画像を合成する合成工程とを備える。
【0012】
上記課題を解決する第2のイメージング方法は、可視光とは異なる電磁波を対象物に照射する照射工程と、前記対象物により反射又は透過された前記電磁波を検出することで、前記対象物の第1の画像を取得する第1画像取得工程と、可視光を検出することで、前記対象物の第2の画像を取得する第2画像取得工程と、前記第2の画像に基づいて、前記第2の画像に対応する複数の前記第1の画像を合成する合成工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の全体構成を示す概略図である。
図2】第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の使用例を示す側面図である。
図3】第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置における撮像方法を示す斜視図である。
図4】テラヘルツ波画像及び可視光画像の合成方法を示す概念図である。
図5】第2実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の使用例を示す側面図である。
図6】インデックス部の構成を示す平面図である。
図7】インデックス部を利用した画像の合成方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1>
本実施形態に係るテラヘルツ波撮像装置は、テラヘルツ波を対象物に照射する照射手段と、前記対象物により反射又は透過された前記テラヘルツ波を検出し、第1の画像を取得する第1画像取得手段と、前記対象物により反射又は透過された前記テラヘルツ波とは異なる光を検出し、第2の画像を取得する第2画像取得手段と、前記第2の画像に基づいて、前記第2の画像に対応する複数の前記第1の画像を合成する合成手段とを備える。
【0015】
本実施形態のテラヘルツ波撮像装置によれば、その動作時には、照射手段から対象物(即ち、撮像対象)に向けてテラヘルツ波が照射される。テラヘルツ波とは、1テラヘルツ(1THz=1012Hz)前後の周波数領域(つまり、テラヘルツ領域)に属する電磁波である。照射手段は、例えば光伝導アンテナ(PCA:Photo Conductive Antenna)や共鳴トンネルダイオード(RTD:Resonant Tunneling Diode)等として構成される発生素子を含んで構成されている。
【0016】
照射されたテラヘルツ波は、対象物において反射又は透過され、第1画像取得手段により検出される。第1画像取得手段は、例えば光伝導アンテナや共鳴トンネルダイオードとして構成される検出素子を含んでいる。更に、第1画像取得手段は、検出したテラヘルツ波に応じた信号に各種処理を施して、第1の画像を取得する。即ち、「第1の画像」はテラヘルツ波を利用して撮像される画像である。なお、第1の画像は、対象物に対する走査位置(即ち、撮像位置)を変えて複数取得される。
【0017】
他方で、第2画像取得手段では、対象物により反射又は透過されたテラヘルツ波とは異なる光が検出され、第2の画像が取得される。ここで、「テラヘルツ波とは異なる光」とは、対象物の撮像に利用可能な光であり、撮像においてテラヘルツ波とは異なる特性(具体的には、後述する合成を実現可能な特性)を有する光である。また、「第2の画像」はテラヘルツ波とは異なる光を利用して撮像される画像であり、第1の画像と対応する画像として取得される。なお、第2の画像取得手段の一例としては、CCD(Charge Coupled Device)カメラや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ、レーザースキャナ等があげられる。
【0018】
テラヘルツ波を利用して取得される複数の第1の画像は、合成手段により合成されることで、対象物の広範囲を示す画像とされる。しかしながら、第1の画像は、テラヘルツ波を利用した撮像画像の特性上、画像自体から対象物のどの部分を撮像したものであるかを判別することが難しい。よって、例えば手動走査で第1の画像を取得する場合のように走査位置が機械的に特定できない場合には、複数の第1の画像の互いの位置関係が特定できず、結果として、複数の画像を適切に合成することが困難となってしまう。
【0019】
しかるに本実施形態では、複数の第1の画像の合成が、第2の画像に基づいて行われる。ここで特に、第2の画像は、テラヘルツ波とは異なる光(例えば、可視光)により取得される画像であるため、テララヘルツ波を利用した第1の画像とは異なり、画像の位置関係を容易に特定できる。従って、第2の画像から導かれる位置関係を利用すれば、対応する第1の画像の位置関係を特定することができ、合成が適切に行える。なお、ここでの「対応する」とは、同時に或いは極めて近いタイミングで取得された第1の画像と第2の画像との関係を表しており、典型的には、第1の画像及び第2の画像は対応するペアの画像として夫々取得される。ただし、対応する第1の画像及び第2の画像は、必ずしも対象物の同じ位置を撮像したものでなくともよく、第1の画像と第2の画像との相対的な位置関係が明確になっている必要もない。合成された第2の画像全体における夫々の第2の画像の位置関係を、対応する(ペアとなる)夫々の第1の画像の位置関係に適用することで第1の画像の合成ができるのである。
【0020】
以上説明したように、本実施形態に係るテラヘルツ波撮像装置によれば、テラヘルツ波とは異なる光を利用して取得された第2の画像を利用することにより、テラヘルツ波を利用して取得される第1の画像を適切に合成できる。従って、テラヘルツ波を利用した撮像を極めて好適に行える。
【0021】
<2>
本実施形態に係るテラヘルツ波撮像装置の一態様では、前記第2画像取得手段は、前記対象物により反射された可視光を検出し、前記第2の画像を取得する。
【0022】
この態様によれば、第2の画像が可視光画像として取得されるため、例えば対象物の表面の形状や模様等を利用して好適に画像の位置関係を特定できる。従って、このような第2の画像を利用すれば、テラヘルツ波を利用して取得される第1の画像を適切に合成できる。
【0023】
<3>
本実施形態に係るテラヘルツ波撮像装置の他の態様では、前記第2画像取得手段は、前記対象物を覆うインデックス部の模様を含むものとして前記第2の画像を取得し、前記合成手段は、前記第2の画像に含まれる前記インデックス部の模様に基づいて、複数の前記第1の画像を合成する。
【0024】
この態様によれば、対象物を覆うようにインデックス部が配置された状態で撮像が行われる。インデックス部は、例えばシート状或いは板状の部材として構成されており、その表面にテラヘルツ波とは異なる光を利用して撮像可能な所定の模様を有している。よって、第2の画像には、インデックス部の模様が含まれることになる。
【0025】
第2の画像は、例えば上述したように可視光画像であるため、対象物の表面の形状や模様等を利用して好適に画像の位置関係を特定できる。しかしながら、対象物の表面に特徴がない場合(例えば、真っ白な壁等である場合)には、位置関係を特定することが難しい。
【0026】
しかるに本態様では、第2の画像にはインデックス部の模様が含まれるため、模様を利用して位置関係を好適に特定できる。従って、第2の画像を利用しても、第1の画像の位置関係を特定できないという不都合を確実に回避できる。
【0027】
<4>
上述の如くインデックス部の模様を利用する態様では、前記インデックス部は、前記テラヘルツ波の透過率が所定の閾値よりも高い材料を含んでいてもよい。
【0028】
この場合、インデックス部を配置したことに起因して、対象物におけるテラヘルツ波の反射又は透過が阻害されてしまうことを防止できる。なお、「所定の閾値」は、第1の画像を十分な品質で取得できる程度の値として、事前のシミュレーション等により決定すればよい。テラヘルツ波の透過率が高い材料としては、フッ素系樹脂や超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。
【0029】
<5>
本実施形態に係るテラヘルツ波撮像装置の他の態様では、前記合成手段で合成された前記第1の画像及び前記第の2画像を、別々に又は互いの対応関係に応じて重ねて表示させる表示手段を備える。
【0030】
この態様によれば、表示手段を利用して、テラヘルツ波を利用した画像である第1の画像と、テラヘルツ波とは異なる光を利用した画像(例えば、可視光画像)である第2の画像とを別々に表示できる。即ち、第1の画像だけを表示させたり、第2の画像だけを表示させたりできる。
【0031】
また本態様では特に、第1の画像と第2の画像とを対応関係に応じて重ねて表示させることもできる。具体的には、対象物の内部構造を示す第1の画像と、対象物の表面形状を示す第2の画像とを、互いの位置関係を合わせた状態で重畳して表示できる。このような表示方法によれば、例えば対象物の内部構造をより直感的に理解することができる等、実践上極めて有益である。
【0032】
<6>
本実施形態に係るテラヘルツ波撮像方法は、テラヘルツ波を対象物に照射する照射工程と、前記対象物により反射又は透過された前記テラヘルツ波を検出し、第1の画像を取得する第1画像取得工程と、前記対象物により反射又は透過された前記テラヘルツ波とは異なる光を検出し、第2の画像を取得する第2画像取得工程と、前記第2の画像に基づいて、前記第2の画像に対応する複数の前記第1の画像を合成する合成工程とを備える。
【0033】
本実施形態に係るテラヘルツ波撮像方法によれば、上述したテラヘルツ波撮像装置と同様に、テラヘルツ波とは異なる光を利用して取得された第2の画像を利用することにより、テラヘルツ波を利用して取得される第1の画像を適切に合成できる。従って、テラヘルツ波を利用した撮像を極めて好適に行える。
【0034】
なお、本実施形態に係るテラヘルツ波撮像方法においても、上述した本実施形態に係るテラヘルツ波撮像装置における各種態様と同様の各種態様を採ることが可能である。
【0035】
本実施形態に係るテラヘルツ波撮像装置及びテラヘルツ波撮像方法の作用及び他の利得については、以下に示す実施例において、より詳細に説明する。
【実施例
【0036】
以下では、図面を参照して本発明の実施例について詳細に説明する。
【0037】
<第1実施例>
初めに、図1を参照しながら、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の構成及び基本的動作について説明する。ここに図1は、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の全体構成を示す概略図である。
【0038】
図1において、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置は、テラヘルツ波を測定対象物である検査対象500に照射すると共に、検査対象500において反射されたテラヘルツ波を検出するものとして構成されている。即ち、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置は、所謂反射型の装置として構成されている。なお、テラヘルツ波撮像装置は、検査対象において透過されたテラヘルツ波を検出する透過型の装置として構成されてもよい。
【0039】
第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置は、テラヘルツ波撮像ヘッド部100と、制御・信号処理部200とを備えて構成されている。第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の動作時には、テラヘルツ波撮像ヘッド部100によって、テラヘルツ波の照射及び検出が行われる。テラヘルツ波の検出結果は、制御・信号処理部200によって処理され、検査対象500の内部構造を示す画像として出力される。
【0040】
より具体的には、テラヘルツ波は、テラヘルツ波撮像ヘッド部100のテラヘルツ波発信部110で発生される。テラヘルツ波発信部110は、例えば共鳴トンネルダイオードや光伝導アンテナとして構成されるテラヘルツ波発生素子111、半球状のシリコンレンズ112及びコリメートレンズ113を含んで構成されている。テラヘルツ波発生素子111で発生されたテラヘルツ波は、シリコンレンズ112によって効率よく取り出され、コリメートレンズによりテラヘルツ波ビームとして発信される。
【0041】
発信されたテラヘルツ波ビームは、例えばプリズムとして構成されるビームスプリッタ120を透過してビームスキャナ130へと導かれる。ビームスキャナ130は、例えばガルバノスキャナやポリゴンミラー等の可動ミラーを揺動または回転する機構を駆動することにより、テラヘルツ波ビームを走査する。これらの機構を使えばビームを線状に走査することができる。また同様の機構を2つ組み合わせれば2次元のビーム走査が可能となる。
【0042】
ビームスキャナ130により走査されたテラヘルツ波ビームは対物レンズ140によって絞られ、検査対象500に向けて照射される。照射されたテラヘルツ波ビームは検査対象500により反射され、反射したテラヘルツ波ビームは再び対物レンズ140、ビームスキャナ130を経由してビームスプリッタ120に導かれる。検査対象500で反射され戻ってきたテラヘルツ波ビームは、ビームスプリッタ120により反射されてテラヘルツ波受信部150に導かれる。
【0043】
テラヘルツ波受信部150は、集光レンズ151、半球状のシリコンレンズ152、及び共鳴トンネルダイオードや光伝導アンテナとして構成されるテラヘルツ波検出素子153を含んで構成されている。テラヘルツ波受信部150では、集光レンズ151により絞られたテラヘルツ波ビームが半球状のシリコンレンズ152により効率よくテラヘルツ波検出素子153に集められ、テラヘルツ波の強度に応じた電流が検出される。検出された電流は、I-V変換器160で電圧に変換され、検出信号として制御・信号処理部200に出力される。
【0044】
テラヘルツ波発生素子111及びテラヘルツ波検出素子153は、バイアス生成部210で生成されるバイアス電圧によってバイアスされており、バイアス電圧に応じて発信または受信するテラヘルツ波が変化する。なお、テラヘルツ波発生素子111及びテラヘルツ波検出素子153が光伝導アンテナの場合は、さらに光を作用させる必要があり、超短パルスレーザー光を照射することによって非常に広帯域のテラヘルツ波の送受信を行うことができる。
【0045】
テラヘルツ波発生素子111及びテラヘルツ波検出素子153で発信・受信されるテラヘルツ波は、一般的に微弱であるため、その検出にはロックイン検出が用いられる。ロックイン検出の際、テラヘルツ波発信部110では、テラヘルツ波発生素子111のバイアス電圧として変調された参照信号が用いられる。ロックイン検出部220では、バイアス生成部210により変調されたテラヘルツ波による検出信号と、バイアス生成部210から出力された参照信号とを用いて同期検波をする。そして、テラヘルツ波の検出信号の参照信号とで異なる周波数のノイズ成分が除去される。一方、テラヘルツ波検出素子153のバイアス電圧として、テラヘルツ波発生素子111の特性において検出感度が高くなるような直流電圧が印加される。
【0046】
ビームスキャナ130は、スキャナ駆動部230による駆動信号に基づいて駆動制御され、検査対象500に照射されるテラヘルツ波ビームを走査する。画像処理部240は、その走査範囲によって決まるテラヘルツ波照射エリアにおいて、スキャナ駆動部230で制御される走査位置と受信される検出信号からなるテラヘルツ波画像ユニットを取得する。なお、走査を行わない場合、ビームスキャナ130は照射位置を決める単なるミラーとして作用する。この場合、照射エリアはビームスポットに相当し、テラヘルツ波画像ユニットは検出信号そのものである。
【0047】
一方、可視光撮像器170は、例えばCCDカメラ、CMOSセンサ、レーザースキャナとして構成されており、その視野内の検査対象500の表面の画像を可視光画像ユニットとして取得する。ここで、可視光撮像器170がテラヘルツ波撮像ヘッド100に対して設置される位置によって、可視光画像ユニットとテラヘルツ波画像ユニットには一定の位置関係が成立している。可視光画像ユニットとテラヘルツ波画像ユニットは、ほぼ同時に撮像され、画像ユニットセットとして、画像処理部240のメモリに蓄えられる。画像処理部240では、メモリに蓄えたそれぞれの可視光画像ユニットを比較し、同一パターンを重ね合わせながら合成画像を生成していく。画像処理部240が行う画像の合成処理については、後に詳述する。
【0048】
次に、図2を参照しながら、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の使用方法について説明する。ここに図2は、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の使用例を示す側面図である。
【0049】
図2において、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置では、テラヘルツ波撮像ヘッド部100が、比較的小型のハンディタイプのヘッド部として構成されている。なお、制御・信号処理部200は、テラヘルツ波撮像ヘッド100とは別体として構成された本体部300に内蔵されている。
【0050】
第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の使用時には、検査対象表面501に沿って、テラヘルツ波撮像ヘッド100を手動で走査すればよい。この際、テラヘルツ波撮像ヘッド100に設けられた作動距離保持部180により、テラヘルツ波ビームの光路長に対応する作動距離が一定に保たれる。また、作動距離は、作動距離調整部190により調整可能とされている。具体的には、作動距離調整部190は、作動距離方向の長さを調整可能な部材として構成されている。
【0051】
作動距離を調整する場合、取得されるテラヘルツ波画像と可視光画像との大きさや位置関係が変化することになる。このため、作動距離調整部190によって作動距離が調整された場合、調整された作動距離に応じて、テラヘルツ波画像と可視光画像との大きさや位置関係を再設定することになる。或いは、可視光画像の視野倍率を変更可能な手段を用いて視野倍率を調整することになる。逆に言えば、作動距離に応じてテラヘルツ波画像と可視光画像の関係を適正に設定することによって、作動距離調整が可能である。
【0052】
なお、テラヘルツ波撮像装置では、目視で不可能な内部構造の情報を得ることができるが、イメージング用途で実用可能な構成において扱うことのできるテラヘルツ波は微弱であるため、テラヘルツ波をある程度集束して検査対象500に照射する必要がある。したがって、作動距離は限定され、検査対象500の深さ方向(即ち、光軸方向)の視野はテラヘルツ波の焦点位置付近の狭い範囲に限られる。従って、ほぼ一定の作動距離を保ちつつ作動距離調整を行うことができるということは、検査したいものが存在する位置によって検査対象500に対する深さ方向の視野を変えても、イメージングの画像品質を保つことができるという極めて有益な効果を有する。
【0053】
次に、図3及び図4を参照しながら、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置によって取得された画像の合成処理について説明する。ここに図3は、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置における撮像方法を示す斜視図である。また図4は、テラヘルツ波画像及び可視光画像の合成方法を示す概念図である。
【0054】
図3に示すように、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置では、テラヘルツ波を利用してテラヘルツ波画像ユニットが取得されるのに加えて、可視光画像撮像器170によって可視光画像ユニットが取得される。なお、一般的に可視光画像の撮像範囲の方がテラヘルツ波の走査範囲より広いため、図に示す例では、テラヘルツ波画像ユニットより、可視光画像ユニットの方が大きくなっている。ただし、テラヘルツ波画像ユニットと可視光画像ユニットとの大小関係は特に限定されるものではなく、テラヘルツ波画像ユニットの方が、可視光画像ユニットより大きくなっていても構わない。
【0055】
図4に示すように、テラヘルツ波画像と可視光画像とは、対応する1組の画像として取得されている。そして特に、複数のテラヘルツ波画像を合成してテラヘルツ波合成画像を得る場合には、対応する可視光画像が利用される。具体的には、可視光画像又は複数の可視光画像を合成した可視光合成画像から取得できる位置関係を利用して、テラヘルツ波画像の合成が行われる。
【0056】
ここで、テラヘルツ波画像は、その特性上、画像自体から位置検出を行うことが困難である。一方で、可視光画像は、画像処理ツール等が充実しており、画像自体から位置検出を行って合成を行うことが可能である。よって、可視光画像から得られた位置情報を、対応するテラヘルツ波画像に適用すれば、位置情報を有しないテラヘルツ波画像を好適に合成することが可能である。
【0057】
特に、本実施例のように手動でヘッドを走査する場合には、例えば駆動機構を利用した自動走査とは異なり撮像位置に関する情報を取得できない。即ち、駆動機構の駆動量等を利用して機械的に撮像位置を検出することができない。従って、手動走査を行う場合には、上述したように可視光画像を利用して位置情報を取得する方法は極めて有効である。
【0058】
以上のようにして得られたテラヘルツ波合成画像は、イメージ表示部250(図1参照)によって検査対象500の内部状態を示すイメージング画像として表示される。一方、可視光合成画像は、検査対象500の表面状態を示すイメージング画像として参照される。
【0059】
なお、目視できない検査対象500内部のイメージングにおいては、その位置関係等の基準として目視イメージが用いられる場合がある。ここで、可視光合成画像は目視イメージそのものであり、テラヘルツ波合成画像と重ねあわせて表示したり、交互に表示したりすることによって、目視イメージと合わせて検査イメージの確認ができる。
【0060】
以上説明したように、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置によれば、テラヘルツ波とは異なる可視光を利用して取得された可視光画像を利用することにより、テラヘルツ波を利用して取得されるテラヘルツ波画像を適切に合成できる。従って、テラヘルツ波を利用した撮像を極めて好適に行える。
【0061】
<第2実施例>
次に、第2実施例に係るテラヘルツ波撮像装置について説明する。なお、第2実施例は、上述した第1実施例と比べて一部の構成が異なるのみであり、その他の点については概ね同様である。このため、以下では既に説明した第1実施例と異なる部分について詳細に説明し、他の重複する部分については適宜説明を省略するものとする。
【0062】
先ず、図5を参照しながら、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の構成について説明する。ここに図5は、第2実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の使用例を示す側面図である。
【0063】
図5において、第2実施例に係るテラヘルツ波撮像装置の使用時には、検査対象表面501に沿ってインデックス部400が配置される。即ち、インデックス部400は、テラヘルツ波撮像ヘッド部100と検査対象500との間に配置される。インデックス部400は、例えばシート状またはボード状の被覆体であり、テラヘルツ波の透過率が高い材料から構成されている。これにより、インデックス部400の存在がテラヘルツ波によるイメージングに影響することを防止できる。
【0064】
次に、図6及び図7を参照しながら、インデックス部400の構成及びインデックス部400を利用した合成方法について説明する。ここに図6は、インデックス部の構成を示す平面図である。また図7は、インデックス部を利用した画像の合成方法を示す概念図である。
【0065】
図6に示すように、インデックス部400の表面には、テラヘルツ波撮像ヘッド部100の位置によってユニークな可視光画像が得られるようなパターンが描かれている。なお、図に示す例では格子状にA1~G8が並ぶパターンが描かれているが、可視光画像における位置情報の検出に利用できるようなパターン(即ち、撮像位置に対してユニークなパターン)であれば特に限定されるものではない。
【0066】
図7において、インデックス部400を配置すると、取得される複数の可視光画像には、インデックス部400に描かれたパターンが撮像位置に応じて映り込む。このため、異なる位置で撮像された可視光画像には、異なるパターンが映り込む。これにより、可視光画像から位置情報を検出する処理の精度、速度、安定度を向上できる。従って、可視光画像を利用したテラヘルツ波画像の合成を、より好適に行うことが可能となる。
【0067】
一般に、テラヘルツ波を利用した非破壊検査は、検査対象500の内部の状態を知りたい場合に行われるため、検査対象500の表面に関する情報が必要ない場合も多い。例えば、塗膜下の金属の状態(錆や剥がれ)を知りたい場合などは、均一な塗膜表面の情報はあまり役に立たない。
【0068】
逆に、本実施例のように可視光画像を頼りに位置検出を行う場合、均一な塗膜表面ではテラヘルツ波撮像ヘッド部100の位置による可視光画像ユニットの違いが分かり難く、画像合成等の処理が難しいという状況が発生し得る。このような場合であっても、インデックス部400を用いることで、テラヘルツ波撮像ヘッド部100の位置に応じて得られる可視光画像が夫々ユニークなパターンとなる。従って、可視光画像を利用した位置検出を確実に行うことができる。
【0069】
なお、インデックス部400に描かれているパターンを検査対象500に直接描く方法も考えられるが、例えば意匠性が求められる工業製品や装飾性の高い構造物の検査においては、直接検査対象500の表面に描画を行うことができない。このような場合であっても、インデックス部400を用いれば、テラヘルツ波撮像ヘッド部100が検査対象500に直接触れないようにする、或いはインデックス部400を検査対象500から少し浮かせて用いることによって検査対象500を保護することができる。
【0070】
更に、検査対象500の表面が凸凹している場合などは、テラヘルツ波撮像ヘッド部100を走査するときに、テラヘルツ波撮像ヘッド部100が検査対象500に引っ掛かる、或いはテラヘルツ波撮像ヘッド部100の姿勢が暴れることによって、装置や画質にダメージが及ぶことがある。また、テラヘルツ波撮像ヘッド部100を浮かして手動走査すると、テラヘルツ波撮像ヘッド部100の姿勢が定まらずテラヘルツ波が検査対象500に斜めに照射されたり、作動距離が定まらず検出されるテラヘルツ波の強度が変動したり、可視光画像の視野が変動したりして、画像の劣化を招く。このような状況に対しても、インデックス部400を利用して、その表面にテラヘルツ波撮像ヘッド部100を沿わせることにより安定して走査を行うことができ、安定した画質でイメージングを行うことができる。
【0071】
なお、インデックス部400は比較的安価に作成することが可能で、重ねたり、畳んだり、広げたりすることもでき、現場に持ち運びやすい。また、インデックス部400の周縁部において共通のインデックスパターンを適用することによって、容易にワークエリアの拡大を図ることもできる。
【0072】
以上説明したように、第2実施例に係るテラヘルツ波撮像装置によれば、検査対象500から適切な可視光画像が得られない状況であっても、インデックス部400を利用することで、確実に可視光画像を利用した位置検出が行える。よって、第1実施例に係るテラヘルツ波撮像装置1と同様に、テラヘルツ波を利用して取得されるテラヘルツ波画像を適切に合成できる。
【0073】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うイメージング装置及びイメージング方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
100 テラヘルツ波撮像ヘッド部
110 テラヘルツ波発信部
111 テラヘルツ波発生素子
112 シリコンレンズ
113 コリメートレンズ
120 ビームスプリッタ
130 ビームスキャナ
140 対物レンズ
150 テラヘルツ波受信部
151 集光レンズ
152 シリコンレンズ
153 テラヘルツ波検出素子
160 I-V変換器
170 可視光撮像器
180 作動距離保持部
190 作動距離調整部
200 制御・信号処理部
210 バイアス生成部
220 ロックイン検出部
230 スキャナ駆動部
240 画像処理部
250 イメージ表示部
300 本体部
400 インデックス部
500 検査対象
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7