(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】制振鋼板用表面処理組成物及び制振鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20231102BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231102BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20231102BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231102BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231102BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20231102BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20231102BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
C23C26/00 A
B32B15/08 D
B32B15/18
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/34
C08K7/06
F16F15/02 Q
(21)【出願番号】P 2022535085
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 KR2020014103
(87)【国際公開番号】W WO2021118036
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0164858
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジン-テ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジュン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヨン-ソン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ハ-ナ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ヤン-ホ
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0139722(US,A1)
【文献】特開2010-235887(JP,A)
【文献】特表2016-507404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00- 26/02
B32B 15/00- 15/20
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂及び平均アスペクト比(L/D)が100以上の無機ナノ粒子を含
み、前記無機ナノ粒子は、高分子樹脂100重量部を基準にして0.1~20重量部含まれる、制振鋼板用表面処理組成物。
【請求項2】
前記高分子樹脂は、エチレンビニルアセテート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルクロライド樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択された1種以上である、請求項1に記載の制振鋼板用表面処理組成物。
【請求項3】
前記無機ナノ粒子は、グラファイトナノファイバー、炭素ナノチューブ、ナノクレイ及びグラフェンからなる群から選択された1種以上である、請求項1に記載の制振鋼板用表面処理組成物。
【請求項4】
鋼板及び
前記鋼板の少なくとも一面に請求項1から
3のいずれか一項に記載の組成物を含有する制振層を含む制振鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振鋼板用表面処理組成物及び制振鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制振鋼板は外部騒音や振動を遮断する鋼板であって、冷蔵庫、洗濯機、空気清浄機のように騒音が多く発生する家電製品の外板、自動車騒音の主原因であるエンジンオイルパン、ダッシュパネルなどのような自動車部品、精密機器、建築資材など、様々な分野で使用される。
【0003】
制振鋼板は一般的に、2枚の鋼板の間に高分子樹脂を積層して製造される拘束型制振鋼板と、1枚の鋼板に高分子樹脂をコーティング又は積層した非拘束型制振鋼板とに分けられ、このような拘束型制振鋼板と非拘束型制振鋼板は、制振性能を実現する方法に差異がある。拘束型制振鋼板の場合は、鋼板の間に積層された高分子樹脂の剪断変形により(
図1(a))、非拘束型制振鋼板の場合は、鋼板にコーティングされた高分子樹脂の伸縮変形により(
図1(b))外部の騒音や振動エネルギーを熱エネルギーに変換する。
【0004】
制振鋼板に関する従来技術としては、ポリエステル樹脂(特開昭51-93770号)、ポリアミド樹脂(特開昭56-159160号公報)、エチレン/α-オレフィンと架橋ポリオレフィン(特開昭59-152847号公報)を使用した技術が公知となっている。このような従来技術は、高分子樹脂の粘弾性効果を利用して制振性能を実現したものである。このような背景から、本発明の発明者らは制振性能を向上させようとし、本発明を導出するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、鋼板の制振性能を向上させることができる鋼板表面処理組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、高分子樹脂及び平均アスペクト比(L/D)が100以上の無機ナノ粒子を含む制振鋼板用表面処理組成物を提供することができる。
【0007】
本発明の一側面によると、鋼板及び上記鋼板の少なくとも一面に上記表面処理組成物を含有する制振層を含む制振鋼板を提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、制振鋼板の製造時に100以上の平均アスペクト比(L/D)を有する無機ナノ粒子を適用することにより、高分子樹脂の界面摩擦によって外部振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、外部振動や騒音を遮断可能な制振鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来の制振鋼板の外部振動エネルギーの遮断原理を示す図である。
図1(a)は拘束型制振鋼板、
図1(b)は非拘束型制振鋼板である。
【
図2】従来の制振鋼板に外力が加わったときに、鋼板に振動又はクラックが発生したことを示す図である。
【
図3】本発明による制振鋼板に外力が加わったときに、無機ナノ粒子が高分子樹脂の界面に摩擦を発生させることを示す図である。
【
図4】本発明による拘束型制振鋼板と非拘束型制振鋼板に外力が加わったときに、無機ナノ粒子が高分子樹脂の界面に摩擦を発生させることを示す図である。
【
図5】(a)は鋼板、(b)は従来の制振鋼板、(c)は本発明による制振鋼板の制振性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明は、高分子樹脂と無機ナノ粒子とを含む制振鋼板の表面処理用組成物に関するものである。本発明によると、高分子樹脂の粘弾性効果だけでなく、高いアスペクト比(aspect ratio、L/D)を有する無機ナノ粒子の界面摩擦(slip)効果を活用して鋼板の制振性能を実現することができる。
【0012】
制振鋼板は、2枚の鋼板の間にフィルム状に成形された高分子樹脂を積層して製造される拘束型制振鋼板と、1枚の鋼板に高分子樹脂をコーティング又は積層した非拘束型制振鋼板とに分けられる。制振鋼板に適用される高分子樹脂は、粘弾性効果を有するものであって、剪断変形又は伸縮変形により振動エネルギーを熱エネルギーに変換する。このような高分子樹脂としては、エチレンビニルアセテート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルクロライド樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択された1種以上の樹脂を使用することができる。
【0013】
一方、制振鋼板の製造時に上記高分子粒子を単独で使用する場合、鋼板に振動、騒音のような外力が加わると、高分子樹脂の脆い特性(brittle)により制振層に振動が発生し、さらにクラック(crack)が発生する可能性がある(
図2)。
【0014】
しかし、
図3のように、高分子樹脂と高い平均アスペクト比(L/D)を有する無機ナノ粒子を混合した組成物を使用して制振鋼板を製造する場合には、鋼板に外力が加わっても容易にクラックが発生しない。これは、高分子樹脂に無機ナノ粒子を混合することによりハードニング(hardening)効果が発生し、高分子樹脂の強度、硬度など、機械的物性を向上させるためである。すなわち、下記式(1)によって高い平均アスペクト比(L/D)を有する無機ナノ粒子は、高分子樹脂のソフト(soft)領域の強度を向上させ、ブリトル(brittle)領域をさらに硬くして高分子樹脂の機械的物性を補うことができる。
【0015】
σc=σf+Vfθ+α[1-(1/D)/{2(L/D)}]+σm(1-Vf) 式(1)
σc:複合材料(Composite)の機械的物性
σf:無機ナノ粒子の機械的物性
σm:高分子樹脂の機械的物性
Vf:無機ナノ粒子の体積分率
θ:無機ナノ粒子の配向係数
α:無機ナノ粒子の強度因子定数
L/D:平均アスペクト比
【0016】
さらに、高いアスペクト比(L/D)を有する無機ナノ粒子は、高分子樹脂との接触面積を増加させ、これにより高分子樹脂の界面との摩擦力も増加させることができる。すなわち、
図4のように高分子樹脂の界面で発生した摩擦(slip)により外部振動エネルギーを熱エネルギーに変換することで、向上した制振性能を実現することができる。
【0017】
上記のような制振性能を実現するために、平均アスペクト比(L/D)が100以上の無機ナノ粒子を使用することができ、無機ナノ粒子の種類は特に限定されないが、好ましくは、グラファイトナノファイバー、炭素ナノチューブ、ナノクレイ及びグラフェンからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0018】
本発明の表面処理組成物において、無機ナノ粒子は、高分子樹脂100重量部に対して0.1~20重量部含まれてもよい。無機ナノ粒子の含量が0.1重量部に達していないと、本発明で実現しようとする制振性能が発現し難く、20重量部を超えると、組成物の粘度が高くなって制振層が形成され難くなる可能性がある。
【0019】
また、上記組成物は、鋼板の表面処理のために一般的に使用される添加剤をさらに含むことができ、例えば、濡れ剤、消泡剤、架橋剤、酸化防止剤などをさらに含むことができる。
【0020】
次に、上記制振鋼板の表面処理用組成物を使用して形成された制振層を有する制振鋼板について説明する。上記制振層は、鋼板の少なくとも一面に、フィルム状に成形した後に積層するか、あるいは液状の組成物を塗布することにより形成することができる。また、上記制振層は、鋼板と鋼板との間にフィルム状に成形した後に積層するか、又は液状の組成物を塗布することにより形成することができる。
【0021】
フィルム状に成形された制振層の場合、高分子樹脂を融点以上に加熱して溶かした後、無機ナノ粒子を均一に混合し(melt brand方式)、混合物をフィルム状に成形したものである。混合条件は、高分子樹脂の融点に応じて適宜調節することができ、フィルムの厚さは25~200μmであることが好ましい。フィルム状に成形された制振層の製造時に、好ましい高分子樹脂としては、エチレンビニルアセテート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などが挙げられる。
【0022】
一方、高分子樹脂が液状である場合、適正量の無機ナノ粒子を均一に混合した後、厚さが1~200μmとなるように塗布して制振層を形成する。この場合、好ましくは、ポリエステル樹脂、ポリビニルクロライド樹脂、エポキシ樹脂などを使用することができる。
【0023】
本発明における鋼板としては特に限定されず、冷延鋼板、熱延鋼板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等が使用されてもよく、一般的に金属板の厚さは約0.2~1.2mmであってもよい。
【0024】
本発明のように、高分子樹脂と平均アスペクト比(L/D)が100以上の無機ナノ粒子を制振鋼板に適用する場合、高分子樹脂の粘弾性と無機ナノ粒子の摩擦(slip)により振動エネルギーを熱エネルギーに変換することにより、制振性能を確保することができる(
図4)。
【実施例】
【0025】
実施例
以下では、本発明の実施例について詳細に説明する。下記の実施例は、本発明を理解するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0026】
1.制振層形成用コーティング液及びフィルムの製造
(1)実施例1
ポリエステル樹脂100gに平均アスペクト比(L/D)が100であり、トリメチルステアリルアンモニウム(Trimethyl stearyl ammonium)で表面が改質されたナノクレイ(Aldrich社)10gを投入した後、高速攪拌機で3000rpmの速度で均一に分散させてコーティング液を製造した。上記製造されたコーティング液を使用して100μm厚さのフィルムを形成した。
【0027】
(2)実施例2
ポリエステル樹脂100gに、平均アスペクト比(L/D)が500の炭素ナノチューブ1gを投入した後、高速攪拌機で3000rpmの速度で均一に分散させてコーティング液を製造した。上記製造されたコーティング液を使用して100μm厚さのフィルムを形成した。
【0028】
(3)比較例1
ポリエステル樹脂を使用して100μm厚さのフィルムを形成した。
【0029】
(4)比較例2
ポリエステル樹脂100gに、平均アスペクト比(L/D)が1のカーボンブラック10gを投入した後、高速攪拌機で3000rpmの速度で均一に分散させてコーティング液を製造した。上記製造されたコーティング液を使用して100μm厚さのフィルムを形成した。
【0030】
2.制振性能の評価
実施例及び比較例で製造されたフィルムにDynamic mechanical analyzer(DMA)を用いて常温で10hzの周波数で0.1%の変形ごとに減衰エネルギー(Loss Modulus)を測定した。
【0031】
【0032】
実施例1、2のように平均アスペクト比が100以上の無機ナノ粒子を使用して製造されたフィルムの場合、変形率による減衰エネルギー値が大きく、変形率が高くなるほど減衰エネルギー値も急激に大きくなることが分かる。これは、フィルムに外力が加わっても、高分子樹脂の粘弾性特性及び高分子樹脂の界面で発生する摩擦によって振動エネルギーが熱エネルギーに変換されたことを意味するものである。すなわち、上記減衰エネルギーの測定結果から、本発明による高分子樹脂と平均アスペクト比が100以上の無機ナノ粒子を含むコーティング液組成物を、制振性能に優れた制振鋼板の製造に適用できることが分かる。