(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】リーダーを用いてパッシブRFIDチップの信号を処理する方法
(51)【国際特許分類】
G06K 7/10 20060101AFI20231102BHJP
H04B 5/02 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
G06K7/10 100
H04B5/02
(21)【出願番号】P 2022539457
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(86)【国際出願番号】 CZ2020050064
(87)【国際公開番号】W WO2021043348
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-04-28
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(73)【特許権者】
【識別番号】522082137
【氏名又は名称】ワイ ソフト コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カシーク、ブラディスラブ
(72)【発明者】
【氏名】スタネイエク、パヴェル
【審査官】田中 啓介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-174130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S7/00-7/42
G01S13/00-13/95
G06K1/00-7/14
G06K17/00-19/18
H04B1/00、1/30、1/59、1/72
H04B5/00-5/06
H04B11/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ(3)と、演算増幅器(4)と、AD変換器(5)と、第1のDA変換器(6)及びさらに第2のDA変換器(7)又は定電圧源とを備えるリーダー(2)を用いてパッシブRFIDチップ(1)の信号を処理する方法であって、前記アンテナ(3)のソース信号を送信するステップと、前記
パッシブRFIDチップ(1)によって前記アンテナ(3)の前記ソース信号を受信するステップと、前記
パッシブRFIDチップ(1)の信号を送信するステップと、前記アンテナ(3)によって前記
パッシブRFIDチップ(1)の信号を受信するステップとからなる方法であって、
受信された
パッシブRFIDチップ(1)の信号及び前記第1のDA変換器(6)の出力が前記演算増幅器(4)の反転入力に供給され、
前記第2のDA変換器(7)の出力又は前記定電圧源の出力が前記演算増幅器(4)の非反転入力に供給され、
前記第1のDA変換器(6)及び前記第2のDA変換器(7)又は前記定電圧源の電圧の値の第1のペアが選定され、前記値のペアは、前記演算増幅器(4)のウィンドウが前記受信された信号の正の半波を走査するように選定され、
前記第1のDA変換器(6)及び前記第2のDA変換器(7)又は前記定電圧源の電圧の値の第2のペアが選定され、前記値のペアは、前記演算増幅器(4)のウィンドウが前記受信された信号の負の半波を走査するように選定され、
前記
パッシブRFIDチップ(1)の転送された情報に対応するパルスが正及び負の半波において検出され、
最終信号が前記AD変換器(5)に供給され、
同じ波から検出されたパルスが減算される
ことを特徴とする、リーダー(2)を用いてパッシブRFIDチップ(1)の信号を処理する方法。
【請求項2】
前記第1のDA変換器(6)及び前記第2のDA変換器(7)又は前記定電圧源の電圧の前記値は、有用な信号の平均値が、前記AD変換器(5)による変換のために意図された領域の中心に来るように選定されることを特徴とする、請求項1に記載の、リーダー(2)を用いてパッシブRFIDチップ(1)の信号を処理する方法。
【請求項3】
デジタル的に処理された信号がキュー(13)に記憶されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の、リーダー(2)を用いてパッシブRFIDチップ(1)の信号を処理する方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の、パッシブRFIDチップ(1)の信号を処理する方法を実行するためのリーダー(2)であって、
ソース信号を送信し、前記パッシブRFIDチップ(1)の信号を検出するように適応されたアンテナ(3)と、前記アンテナ(3)に電気的に接続され、前記アンテナ(3)を励起するように適応された制御ユニット(10)と、第1のDA変換器(6)及びさらに第2のDA変換器(7)又は定電圧源と、同期ユニット(11)と、AD変換器(5)と、演算増幅器(4)とを備え、
前記同期ユニット(11)が、前記第1のDA変換器(6)及びさらに前記第2のDA変換器(7)又は前記定電圧源と、前記制御ユニット(10)と、前記AD変換器(5)と電気的に接続され、前記同期ユニット(11)が直接及び/又は間接的に電気的に接続されているすべての構成要素を時間同期させるように適応され、前記アンテナ(3)及び前記第1のDA変換器(6)の出力が、前記演算増幅器(4)の反転入力に供給され、前記第2のDA変換器(7)又は前記定電圧源の出力が、前記演算増幅器(4)の非反転入力に供給され、前記演算増幅器(4)の出力が、前記AD変換器(5)の入力に供給され、前記演算増幅器(4)が、加算演算増幅器として接続されていることを特徴とする、パッシブRFIDチップ(1)の信号を処理する方法を実行するためのリーダー(2)。
【請求項5】
前記演算増幅器(4)の前記出力が、レールツーレール・タイプであることを特徴とする、請求項4に記載の、パッシブRFIDチップ(1)の信号のリーダー(2)。
【請求項6】
前記制御ユニット(10)が、プッシュプルMOSFETタイプのトランジスタを備えることを特徴とする、請求項4又は5に記載の、パッシブRFIDチップ(1)の信号のリーダー(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用な信号を増幅し、LF RFID非接触カードの読取りの品質を改善するために、低周波数(LF:low frequency)の領域、最も一般的には周波数125kHzにおいて動作するパッシブRFIDチップの信号を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFID(無線周波数識別:radio-frequency identification)としても知られている、無線信号の送信、受信、及び処理に基づくデータの非接触転送の方法は、今日ますます多く使用されている。たとえば、出席簿のための識別カードにおいて、製造中のデバイス中の構成要素の識別のために、又はプリンタ若しくはコピー機などのデバイスのための非接触認証のために適用可能なこの技術は、集積アンテナと、それ自体の信号を生成するための集積回路とを用いた、リーダーといわゆるタグ(カード、チップ)との間の信号転送を使用する。本解決策は、パッシブRFIDチップ、すなわち、リーダーからの電磁エネルギーによって給電される、エネルギー源をもたないチップ又はカードの信号を処理する方法に関する。簡略化された構成では、チップ・アンテナは、リーダー・アンテナによって送信された信号を受信し、受信されたエネルギーを使用して、それの内部集積回路に電力を供給し、内部集積回路は、それ自体の信号を生成し始め、それ自体の信号をアンテナによってリーダーに送り返す。実際には、しかしながら、特に信号の強度の点で、非接触カードを読み取ることに問題がある。信号を追加の外部構成要素によって増幅する方法があるが、このプロセスは、かなりのコスト並びにより高いバイアスがかかることを意味する。したがって、信号を増幅するための異なる機構を使用する解決策を提供することが望ましい。
【0003】
信号を処理するときに正及び負の信号値を使用する解決策が最新技術において知られている。特許文献1は、正の半周期信号と負の半周期信号との同時復調を可能にする正の分岐と負の分岐とを備え、復調プロセスがこれらの個々の分岐において実行される、振幅変調信号の復調器、いわゆるASK復調器を開示している。しかしながら、この文書は、加算増幅器として機能的に接続された演算増幅器による信号シフトを開示していない。開示された解決策の大きな欠点は、特に、振幅変調された信号だけを処理することに限定されることであり、RFID技術の分野では、周波数(FSK)又は位相(PSK)変調された信号により動作するデバイスもある。
【0004】
特許文献2は、自動変換器範囲制御を特徴とするアナログデジタル変換器(ADC:analogue-digital converter)をさらに開示している。AD変換器自体に加えて、開示された解決策は、検出された信号ピーク振幅に基づいて基準電位を与えるために使用されるピーク検出器と、信号がAD変換器の範囲内にあるように、基準電位を考慮に入れながら信号の直接レベルのシフトを保証する回路とを含む。特定の例示的な実施例では、信号シフトは、演算増幅器を使用せずに、入力アナログ信号の半分の値と基準電位の半分の値との和によって保証される。そのようなシフトされた信号はAD変換器によってさらに処理され、変換器範囲の自動制御は、新しいピークの検出ごとに新しい値を取る基準電位によって保証される。さらに、この文書は、RFID技術の分野におけるそのような解決策の潜在的使用を開示していない。
【0005】
RFIDリーダーにおいて使用するための信号シフトの原理は、特許文献3にも公開されており、これは、信号のある部分のみがリーダーによってさらに処理されるように信号をストリッピングするための回路を含む解決策を開示している。この回路は、好ましくは、たとえばピークの周りの信号をストリッピングするために使用され得る。しかしながら、本発明とは対照的に、信号をシフトするために演算増幅器が使用されず、解決策の目的も異なる。上述の特許出願では、信号シフトは、可読情報を含む比較的小さい電圧偏差を増幅するために使用され、AD変換器のための入力信号の処理のためには使用されない。
【0006】
現在、AD変換器が入力信号の振幅よりも小さい範囲を有するときも、信号をこの変換器によってさらに処理することを可能にする、信号をシフトするために特殊な接続において演算増幅器を利用する解決策が知られている。しかしながら、開示された解決策は、AD変換器処理のための信号シフト機構自体は別として、有用な信号を増幅し、LF RFID非接触カードの読取りの品質を改善するために、AD変換器出力値のいかなる組合せも使用しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2008/80758号
【文献】欧州特許第0545254号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1538546号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の欠点は、リーダーによってパッシブRFIDチップの信号を処理する方法によって少なくとも部分的に解消されるが、それの本質は、リーダーは、アンテナと、演算増幅器と、AD変換器と、第1のDA変換器と、さらに第2のDA変換器又は定電圧源とを備えることと、この方法は、アンテナのソース信号を転送するステップと、RFIDチップによってアンテナのソース信号を受信するステップと、RFIDチップ信号を転送するステップと、アンテナによってRFIDチップ信号を受信するステップとからなり、受信されたRFIDチップ信号及び第1のDA変換器の出力が演算増幅器の反転入力に供給され、第2のDA変換器の出力又は定電圧源の出力が演算増幅器の非反転入力に供給されることとに基づく。
【0009】
RFIDチップの信号を処理する標準の方法と比較した本解決策の利点は、特に、有用な信号を正の半周期と負の半周期の両方において使用することである。この信号をAD変換器によってさらに処理するために、信号を加算増幅器として機能的に接続された演算増幅器によってシフトする。AD変換器が正のピーク又は負のピークの有用な信号を処理するような形で信号をシフトするために、好適に設定された電圧比値DAC1が第1のDA変換器において使用され、第1のDA変換器の出力は演算増幅器の反転入力に供給され、DAC2電圧が第2のDA変換器又は定電圧源において使用され、第2のDA変換器又は定電圧源の出力は演算増幅器の非反転入力に供給される。較正は、第1のDA変換器と第2のDA変換器又は定電圧源との電圧の値Pos1とPos2との第1のペアであって、値Pos1及びPos2は、演算増幅器のウィンドウが受信された信号の正の半波を走査するような形で選定される、第1のペアと、第1のDA変換器と第2のDA変換器又は定電圧源との電圧の値Neg1とNeg2との第2のペアであって、値Neg1及びNeg2は、演算増幅器のウィンドウが受信された信号の負の半波を走査するような形で選定される、第2のペアとを見つけるのを助ける。
【0010】
AD変換器によって信号を変換した後に、バッファを処理するとき、2つの連続するピークの振幅が減算され、そのことは、コストがかかる追加の外部構成要素を使用しなくても、より強い信号を取得するのを助けることができ、そのような解決策は、リーダー感度の向上につながり、それのおかげで、LF RFIDカードからの弱い信号を処理することも可能である。好ましい実施例では、AD変換器の出力における個々の信号は、減算の前に一時的にバッファに記憶され、最後のデジタル的に処理された信号は、データ・オーバーフローを防ぐために、その後、データ構造(キュー)に記憶される。
【0011】
RFIDチップ信号の大きさを大きくする効果は、すべてのタイプの信号変調(ASK、FSK、及びPSK、すなわち、振幅、周波数、及び位相)について観測され、このプロセスによって、PSKカードにおいて別の欠点が除去される。標準のPSKカード信号送信では、カードのどちら側がリーダー上に配置されているかに基づいて、個々の半波の異なる変調が行われ、異なるカード側からの異なる読取り距離につながる。RFIDチップ信号処理の本方法は、好ましくは、たとえば、プリンタ又はコピー機など、デバイスのための非接触認証のために使用され得る。
【0012】
パッシブRFIDチップの信号を処理する上述の方法のためのリーダーは、少なくとも、ソース信号を送信することと、パッシブRFIDチップ信号を検出することとを行うように適応されたアンテナと、アンテナに電気的に接続され、アンテナを励起するように適応された制御ユニットと、第1のDA変換器と、第2のDA変換器又は定電圧源と、同期ユニットと、AD変換器と、演算増幅器とを備える。同期ユニットは、第1のDA変換器と、さらに第2のDA変換器又は定電圧源と、制御ユニットと、AD変換器とに電気的に接続され、同期ユニットは、同期ユニットが直接及び/又は間接的にそれと電気的に接続されているすべての構成要素を時間同期させるように適応される。アンテナ及び第1のDA変換器の出力は演算増幅器の反転入力に供給される。第2のDA変換器又は定電圧源の出力は、次いで、演算増幅器の非反転入力に供給される。演算増幅器の出力は、その後、AD変換器の入力に供給され、演算増幅器は加算演算増幅器として接続されている。
【0013】
演算増幅器が動作範囲外でも定義された挙動を呈するために、演算増幅器の入力はレールツーレール・タイプでなければならない。好ましい実施例では、演算増幅器の出力もレールツーレール・タイプである。好ましい実施例における制御ユニットはプッシュプルMOSFETタイプのトランジスタを含む。
【0014】
添付の図面を参照しながら説明する例示的な実施例において本発明の概要をさらに示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】パッシブRFIDチップの信号を処理する方法を実行するためのリーダーの接続の概略図を示す図である。
【
図2】共振アンテナ回路とMCUユニット中に組み込まれた個々の構成要素とへの加算演算増幅器の接続の概略図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照しながら、例示的な実施例によって本発明についてさらに説明する。
【0017】
アンテナ3と、演算増幅器4と、AD変換器5と、第1のDA変換器6と、第2のDA変換器7又は定電圧源とを備えるリーダー2によってパッシブRFIDチップ1の信号を処理する方法は、アンテナ3のソース信号を送信するステップと、RFIDチップ1によってアンテナ3のソース信号を受信するステップと、RFIDチップ1信号を送信するステップと、アンテナ3によってRFIDチップ1信号を受信するステップとからなり、受信されたRFIDチップ1信号及び第1のDA変換器6の出力が演算増幅器4の反転入力に供給され、第2のDA変換器7の出力又は定電圧源の出力が演算増幅器4の非反転入力に供給される。
【0018】
リーダー2によるRFIDチップ1の信号の処理の前に、アンテナ3の同調と、次いで、さらにリーダー2の位相較正と、演算増幅器4の反転入力及び非反転入力に個々に接続された第1のDA変換器6及び第2のDA変換器7又は定電圧源の出力における電圧値の較正とを含む3つの較正手順が行われる。アンテナ3の同調は、いくつかの外部同調コンデンサによって実行され、アンテナ3が、必要とされる周波数125kHzにおいて信号の最高振幅を示すような形で実行される。アンテナ3における電圧は、電圧をAD変換器5の範囲に変換するためのキャパシタ分割器によって測定され、AD変換器5の2次入力が測定のために使用される。
【0019】
正及び負の半波において、RFIDチップ1の転送された情報に対応するパルスが検出されるので、リーダー2の較正は、主に、ちょうど所与の極値における、すなわち、正及び負の信号ピークにおけるAD変換器5による信号の処理のために必要である、同期ユニット11の位相に対するAD変換器5の入力信号の位相の正しい決定にある。
【0020】
AD変換器5が正の又は負のピークの有用な信号を処理するような形で信号をシフトするために、電圧比の好適に設定された値DAC1が第1のDA変換器6において使用され、第1のDA変換器6の出力は演算増幅器4の反転入力に供給され、DAC2電圧が第2のDA変換器7又は定電圧源において使用され、第2のDA変換器7又は定電圧源の出力は演算増幅器4の非反転入力に供給される。演算増幅器4は加算増幅器として接続され、好ましい実施例では、演算増幅器4の出力はレールツーレール・タイプである。演算増幅器4の入力は、動作範囲外でもそれの定義された挙動を保証するためにレールツーレール・タイプでなければならない。較正プロセスの第3のステップは、電圧DAC1及びDAC2の最適値を見つけることにあり、詳細には、電圧DAC1及びDAC2を表す値Pos1及びPos2は、演算増幅器4のウィンドウが受信された信号の正の半波を走査するときに選定され、電圧DAC1及びDAC2を表す値Neg1及びNeg2は、演算増幅器4のウィンドウが受信された信号の負の半波を走査するときに選定される。したがって、本解決策のさらなるプロセスにおいて使用される電圧DAC1と電圧DAC2との比の変化はこれらの値の両方の変化によって保証され、それにより、これらの値の一方が一定のままである構成におけるよりも広い範囲内での信号シフトが可能になる。
【0021】
Pos1、Pos2、Neg1及びNeg2の最適値を探索することは、二分探索(binary search)を使用した電圧DAC1及びDAC2の漸進的変化によって実行される。このアルゴリズムは、探索された値の候補を、配置された一連の要素の中央値と比較し、探索された値がそれの中に現れることができない間隔の半分を決定する原理に基づく。較正は、最適値Pos1及びPos2、又はNeg1及びNeg2が同時に決定されるような形で実行され、動作の順序は本解決策のさらなる機能にとって決定的ではない。しかしながら、較正出力はすべての4つの探索された最適値を含まなければならない。もちろん、最適値の一方が正の半波を処理するための演算増幅器4の読取りウィンドウの設定に対応し、他方が、負の半波を処理するための演算増幅器4の読取りウィンドウの設定に対応する、最適値、すなわち、たとえば、Pos1及びNeg2、又はPos2及びNeg1を決定することは不可能である。好ましい実施例では、値Pos1、Pos2、Neg1、及びNeg2は、有用な信号の平均値が、AD変換器5による変換のために意図された領域の中心に来るように選定される。
【0022】
上述の較正手順の各々を実行した後に、RFIDチップ1信号の処理を実行することが可能である。第1のDA変換器6及びさらに第2のDA変換器7又は定電圧源は、DMA(直接メモリ・アクセス:Direct Memory Access)によって制御され、所与の瞬間において、演算増幅器4の読取りウィンドウが、受信された信号の正又は負の半波を走査することが望まれるかどうかに応じて、所要の瞬間における第1のチャネル8において、電圧DAC1がPos1又はNeg1値に設定されるように構成される。第2のチャネルDMA9において、電圧DAC2はPos2値又はNeg2値に同時に設定され、演算増幅器4の読取りウィンドウの正しいシフトのために、実行された較正に従って、Pos1及びPos2、又はNeg1及びNeg2の値のペアのみが個々のチャネルDMA8、9において同時に設定されることが必要である。
【0023】
RFIDチップ1の転送された情報に対応するパルスは正及び負の半波において検出されるので、チャネルDMA8、9の両方は、さらに、正及び負のピークがAD変換器5によって交互に処理されるように、特定の最大値の位置への演算増幅器4の読取りウィンドウのシフトのための電圧DAC1及びDAC2の規則的な変化を保証する循環連続モードに構成される。各チャネルDMA8、9は、規則的な間隔で交互に印加される2つの電圧値のみを含み、電圧DAC1に対応する第1のチャネルDMA8の場合、これらの電圧値は値Pos1及びNeg1であり、電圧DAC2に対応する第2のチャネルDMA9の場合、これらの電圧値は値Pos2及びNeg2である。電圧DAC1と電圧DAC2との比の変化は、好ましくは、これらの値の両方の変化によって保証され、それにより、これらの値の一方が一定のままである構成におけるよりも広い範囲内で信号をシフトすることが可能になる。
【0024】
AD変換器5は、入力信号の正及び負のピークを連続的に交互に処理するように構成され、それの出力が演算増幅器4の反転入力及び非反転入力に個々に接続された、第1のDA変換器6と、さらに第2のDA変換器7又は定電圧源と、アンテナ3を励起するための制御ユニット10とのAD変換器5の同期は、同期ユニット11によって実行される。好ましい実施例における制御ユニット10は、たとえば、プッシュプル出力回路をもつMOSFETトランジスタである。別の例示的な実施例では、アンテナ3は論理回路ゲートによって励起され得る。
【0025】
AD変換器5によって信号を変換した後に、単一の波に対応する2つの連続するピークの振幅が減算され、個々の信号は減算の前に一時的にバッファ12に記憶される。最後のデジタル的に処理された信号は、データ・オーバーフローを防ぐために、その後、データ構造に、特にキュー13に記憶される。
【0026】
図1による本発明の例示的な実施例では、リーダー2は、パッシブRFIDチップ1の信号を処理する方法を実行するために、ソース信号を送信することと、パッシブRFIDチップ1の信号を検出することとを行うように適応されたアンテナ3と、アンテナ3に電気的に接続され、アンテナ3を励起するように適応された制御ユニット10と、第1のDA変換器6と、さらに第2のDA変換器7又は定電圧源と、同期ユニット11と、AD変換器5と、加算増幅器として接続された演算増幅器4とを備える。同期ユニット11は、第1のDA変換器6と、さらに第2のDA変換器7又は定電圧源と、制御ユニット10と、AD変換器5と電気的に接続され、同期ユニットが直接及び/又は間接的にそれと電気的に接続されているすべての構成要素を時間同期させるように適応され、アンテナ3及び第1のDA変換器6の出力は演算増幅器4の反転入力に供給され、第2のDA変換器7又は定電圧源の出力は演算増幅器4の非反転入力に供給され、演算増幅器4の出力はAD変換器5の入力に供給される。
【0027】
図1に示された、パッシブRFIDチップ1の信号を処理する方法を実行するためのリーダー2の接続の方式はまた、上述の構成要素に加えて、第1のDA変換器6と、さらに第2のDA変換器7又は定電圧源と、第1のDA変換器6と、さらに第2のDA変換器7又は定電圧源とを制御するための値Pos1、Pos2、Neg1及びNeg2を較正するように構成された対応するDMAチャネル8、9と、AD変換器5と、同期ユニット11が直接及び/又は間接的にそれと電気的に接続されているすべての構成要素の時間同期のための同期ユニット11と、さらに、それの減算の前のAD変換器5の出力データの一時的な記憶のためのバッファ12と、データ・オーバーフローを防ぐために、最後のデジタル的に処理された信号がそれに記憶されるキュー13とが組み込まれたMCU(マイクロコントローラ・ユニット:Microcontroller Unit)ユニット14を含む。
【0028】
MCUユニット14に加えて、制御ユニット10、アンテナ3、演算増幅器4、並びに演算増幅器4の出力に接続された適応部材が接続されている。アンテナ3の共振回路と、MCUユニット14中に組み込まれた個々の構成要素とへの加算演算増幅器4の接続を
図2に示す。
図2による本発明の例示的な実施例では、無線周波数電磁界は、同期ユニット11から制御される制御ユニット10によってアンテナ3によって励起される。
【0029】
アンテナ3の共振回路は、理想的には1~4nFの値の範囲内の容量Cresをもつコンデンサと、理想的には600~650μHの値の範囲内のインダクタンスLantをもつコイルとを備え、許容できるインダクタンスは、この例示的な実施例では、少なくとも400μHであり、実際には1620μH以下が適用可能である。容量Cresの最適値はアンテナ3のインダクタンスに依存し、容量Cresの最適値は、アンテナ3の共振周波数が125kHzになるような形で上述の間隔から選定される。共振回路の他の特性は、アンテナ3における電圧、及びアンテナ3の品質の要因である。アンテナ3における最適電圧値は、この例示的な実施例では約60Vであるが、このアンテナ3の構成における技術の大部分については、40Vの電圧で十分である。電圧の増加はアンテナ3の品質の要因の増加につながり得、それの最適値は約値4であるが、10の値でもまったく十分である。
【0030】
RFIDチップ1の受信された信号は、その後、理想的には80~120kΩの範囲内の抵抗R1をもつ抵抗器に供給され、デバイスの信頼できる機能も、この例示的な実施例では20~200kΩの値のより広い範囲内で保証され、信号は、さらに、演算増幅器4の反転入力に供給され、第1のDA変換器6の出力も、理想的には2~10kΩの値の範囲内の抵抗R2をもつ抵抗器を介して演算増幅器4の反転入力に供給されるとともに、第2のDA変換器7又は定電圧源の出力は演算増幅器4の非反転入力に供給される。演算増幅器4は加算増幅器の機能接続において接続され、演算増幅器4の反転入力を演算増幅器4の出力と相互接続するフィードバック分岐において、理想的には抵抗R1と同じ抵抗値の抵抗RFを含む。抵抗R2の最小値は、実際には、第1のDA変換器6の負荷容量によって決定され、抵抗R1及び抵抗RFの最小値は、演算増幅器4の保護ダイオードによる最大電流についての制限によって与えられる。抵抗R1及び抵抗RFの値は、最後の信号シフトがアンテナ3における電圧に対応するように、抵抗R2の選定された値に関して決定される。演算増幅器4の出力は、MCUユニット14中に組み込まれたAD変換器5の入力に供給される。
【0031】
本発明の例示的な実施例では、演算増幅器4は、少なくとも4V/μsのスルー・レート(slew rate)と、少なくとも8MHzの値をもつ広帯域とを有する。しかしながら、本発明は演算増幅器4のこれらのパラメータ値のみの使用に限定されない。
【0032】
本発明による、パッシブRFIDチップ1の信号を処理するデバイス及び方法の例示的な使用は以下の通りである。信号を処理するためのリーダー2は多機能プリンタの一部である。プリンタのユーザは、RFIDチップ1のリーダー2上にRFIDチップ1をもつカードを配置する。リーダー2は、このカード上に保存された情報を読み取る。情報は、たとえば、ユーザの識別番号、ユーザの作業位置、認証、所与のユーザのための印刷ジョブの利用可能性などを含み得る。本発明による信号処理の方法を使用することは、特に位相変調された信号を送信するRFIDチップ1を使用したときに、データのより信頼性の高い、より正確な読取りを達成するのを助ける。本発明の例示的な実施例では、
図2の回路中の電気部品のパラメータ値はL
ant=630μHとして与えられ、コンデンサ容量C
resの値は1.89~3.16nFの間隔で選定され、抵抗R
1及び抵抗R
2の値は、その場合、100kΩ及び4.7kΩの値を取り、抵抗R
Fの値は抵抗R
1の値と同等であるべきである。抵抗R
1の抵抗の値は、その場合、演算増幅器4の入力の保護ダイオードに対して選定されなければならない。抵抗R
2の抵抗の値は、その場合、第1のDA変換器6の負荷容量に対して、その負荷容量のデータシートに基づいて選定されなければならない。演算増幅器4の増幅の値は、その場合、これらの抵抗器の抵抗の値から取得される。しかしながら、本発明はこれらの値の使用に限定されず、これらの値は例示的なものにすぎない。本発明の例示的な実施例では、6層プリント回路からの平面アンテナ3がアンテナ3として選定される。同じプリント回路は、低周波(LF:low frequency)アンテナ3と高周波(HF:high frequency)アンテナ3とを同時に備える。この実施例の利点はそれの簡単な製造にある。さらに、このタイプのアンテナ3は手作業による組立てが不要であるので、生産の複雑さが低減され、デバイスの信頼性が高くなる。アンテナ3のインダクタンスの特定の最適値は、したがって、構造パラメータ又はデバイスの寸法によって与えられる。一般に、デバイスの信頼性は、インダクタンスLが高くなるとともに高くなる。アンテナ3の品質の係数Qは、例示的な実施例では、10、随意には4になるように選定される。しかしながら、パラメータQの特定の値は内部インダクタンスの値とアンテナ3の直列抵抗とに依存する。本発明の他の潜在的な実施例に限定されない、上述のパラメータをもつ例示的な実施例では、アンテナ3は40Vの共振における電圧に対して選定される。コンデンサ容量C
resの値は、その場合、回路の共振周波数が125kHzになるように選定される。
【0033】
上述のことに基づいて、最適パラメータの設定が以下の通りであることは明らかである。内部インダクタンスLのある値をもつアンテナ3が選定される。アンテナ3に共振コンデンサが割り当てられ、共振コンデンサの容量の値は、アンテナ3における最小電圧及び対応するQに対して共振周波数が125kHzになるように選定される。R2の値は第1のDA変換器6の負荷容量によって決定される。値R1及び値RFは、その場合、演算増幅器4の保護ダイオードを通る最大電流によって与えられる。
【0034】
別の例示的な実施例では、第1のDA変換器6又は第2のDA変換器7若しくは定電圧源は、ローパス・フィルタとして設計されたフィルタをもつPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)チャネルに置き換えられ得る。しかしながら、フィルタをPWM出力に配置することは、信号を減速させ、望ましくないバイアスをもたらし、また、この例示的な実施例では、正及び負の半波の信号を同時に処理すること(いわゆるツー・ピーク・サンプリング)は極めて困難である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によるデバイスは、たとえば、出席簿のための識別カードにおける、製造中のデバイス中の構成要素の識別のための、又はプリンタ若しくはコピー機など、デバイスのための非接触認証のための、LF RFIDチップからのデータ転送の品質を改善するために使用され得る。
【符号の説明】
【0036】
1 RFIDチップ
2 リーダー
3 アンテナ
4 演算増幅器
5 AD変換器
6 第1のDA変換器
7 第2のDA変換器
8 第1のチャネルDMA
9 第2のチャネルDMA
10 制御ユニット
11 同期ユニット
12 バッファ
13 キュー
14 MCU