(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】コモンモードノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20231106BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20231106BHJP
H03H 7/09 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
H01F27/00 R
H01F17/00 B
H03H7/09 A
(21)【出願番号】P 2019028981
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】大森 吉晴
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224791(JP,A)
【文献】特開2016-157917(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066405(WO,A1)
【文献】特開2017-117908(JP,A)
【文献】特開2004-095860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-19/08、27/00、27/28、37/00
H03H 7/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁体層と、前記複数の絶縁体層を上下方向に積層することによって設けられた積層体と、前記複数の絶縁体層に設けられた互いに独立するスパイラル状の第1のコイル、第2のコイル、第3のコイルとを備え、
前記第1のコイルは第1のコイル導体と第2のコイル導体で構成し、前記第2のコイルは第3のコイル導体と第4のコイル導体で構成し、前記第3のコイルは第5のコイル導体と第6のコイル導体で構成し、
前記第1のコイル導体、前記第3のコイル導体、前記第5のコイル導体とを含む第1の積層部と、前記第2のコイル導体、前記第4のコイル導体、前記第6のコイル導体とを含み、かつ前記第1の積層部に積層方向で上方に積層された第2の積層部とを構成し、
前記第2の積層部において、下から前記第2のコイル導体、前記第4のコイル導体、前記第6のコイル導体の順に積層し、前記第4のコイル導体を
前記第2のコイル導体および第6のコイル導体と積層方向に直交する方向にずれて配置し、
前記第1の積層部において、前記第1のコイル導体、前記第3のコイル導体、前記第5のコイル導体のうち最上部に前記第3のコイル導体が配置されているとともに、
下から前記第1のコイル導体、前記第5のコイル導体、前記第3のコイル導体の順に積層し、前記第3のコイル導体を前記第1のコイル導体および第5のコイル導体と積層方向に直交する方向にずれて配置するように構成したコモンモードノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器に使用される小形で薄型のコモンモードノイズフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モバイル機器においてメインICとディスプレイやカメラを接続するデジタルデータ伝送規格としてmipi(Mobile Industry Processor Interface)D-PHY規格が採用されており、2本の伝送ラインを用いた差動信号で伝送する方式が用いられている。
【0003】
近年、カメラの解像度が飛躍的に高まり、更に高速な伝送方式として、3本の伝送線を用いて、送信側から各伝送線に異なる電圧を送り、受信側で各2線間の差分をとることで、3通りの差動信号を出力する方式がmipiのC-PHY規格として制定され実用化されている。
【0004】
従来のC-PHY規格に使用されるコモンモードノイズフィルタは、
図9、
図10に示すように、複数の絶縁体層1と、3つの独立した第1~第3のコイル2~4を有し、第1~第3のコイル2~4はそれぞれ、コイル導体2a、2b、コイル導体3a、3b、コイル導体4a、4b同士を電気的に接続することによって形成されていた。
【0005】
また、第1のコイル2を構成するコイル導体2a、第2のコイル3を構成するコイル導体3a、第3のコイル4を構成するコイル導体4a、第1のコイル2を構成するコイル導体2b、第2のコイル3を構成するコイル導体3b、第3のコイル4を構成するコイル導体4bの順に積層していた。
【0006】
このような構成において、コモンモードノイズが入力された場合には、第1~第3のコイル2~4で発生する磁束が互いに強め合い、インダクタンスとして動作することによってノイズを抑制していた。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した従来のコモンモードノイズフィルタにおいては、第1のコイル2、第2のコイル3、第3のコイル4は、おおよそ均等な距離になるように配置、つまり、その断面は三角形の頂点に位置している。またコモンモードノイズの除去能力を向上させるためコモンモードインピーダンスを大きくするため、第1のコイル2、第2のコイル3、第3のコイル4は、コイル導体2a、コイル導体3a、コイル導体4aがお互いに磁気結合する部分と、コイル導体2b、コイル導体3b、コイル導体4bが磁気結合される部分の2段構造になっている。
【0010】
しかし、この場合、コイル導体2bとコイル導体4bが積層方向で重なり、さらに、こ
のコイル導体2bとコイル導体4aも積層方向で重なっているため、第1のコイル2と第3のコイル4との間の浮遊容量が大きくなり、これにより、高周波領域において、第1のコイル2と第3のコイル4の出力される信号から差分をとる差動信号が、他の2通り、つまり第1のコイル2と第2のコイル3および第2のコイル3と第3のコイル4から出力される差動信号に比べて劣化し、3通りの差動信号の出力特性にばらつきが生じるという課題を有していた。
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、mipiのC-PHY規格の3線式の信号線路に用いられる3つのコイル間の浮遊容量を高周波領域まで略均等にすることによって、3線間から2つの差動信号を3通り取り出す際に、3通りの差動信号の出力特性のばらつきを低減することができるコモンモードノイズフィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様に係るコモンモードノイズフィルタは、複数の絶縁体層と、前記複数の絶縁体層を上下方向に積層することによって設けられた積層体と、前記複数の絶縁体層に設けられた互いに独立するスパイラル状の第1のコイル、第2のコイル、第3のコイルとを備え、前記第1のコイルは第1のコイル導体と第2のコイル導体で構成し、前記第2のコイルは第3のコイル導体と第4のコイル導体で構成し、前記第3のコイルは第5のコイル導体と第6のコイル導体で構成し、前記第1のコイル導体、前記第3のコイル導体、前記第5のコイル導体とを含む第1の積層部と、前記第2のコイル導体、前記第4のコイル導体、前記第6のコイル導体とを含み、かつ前記第1の積層部に積層方向で上方に積層された第2の積層部とを構成し、前記第2の積層部において、下から前記第2のコイル導体、前記第4のコイル導体、前記第6のコイル導体の順に積層し、前記第4のコイル導体を前記第2、第6のコイル導体と積層方向に直交する方向にずれて配置し、前記第1の積層部において、前記第1のコイル導体、前記第3のコイル導体、前記第5のコイル導体のうち最上部に前記第3のコイル導体または前記第1のコイル導体が配置されている。
【0013】
第2の態様に係るコモンモードノイズフィルタは、第1の態様において、前記第1の積層部において中央部に位置するコイル導体を他の2つの前記コイル導体と積層方向に直交する方向にずれて配置されている。
【0014】
第3の態様に係るコモンモードノイズフィルタは、第1の態様において、前記第1の積層部において、下から前記第5のコイル導体、前記第1のコイル導体、前記第3のコイル導体の順に積層されている。
【0015】
第4の態様に係るコモンモードノイズフィルタは、第3の態様において、前記第1のコイル導体が前記第3、第5のコイル導体と積層方向に直交する方向にずれて配置されている。
【0016】
第5の態様に係るコモンモードノイズフィルタは、第1の態様において、前記第1の積層部において、下から前記第5のコイル導体、前記第3のコイル導体、前記第1のコイル導体の順に積層されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のコモンモードノイズフィルタは、第1のコイルを構成する第2のコイル導体と第3のコイルを構成する第5のコイル導体とが積層方向で離れて配置されているため、第1のコイルと第3のコイルの間の浮遊容量が大きくなるのを防ぐことができるため、高周波領域において3通りの差動信号の出力特性のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の実施の形態1におけるコモンモードノイズフィルタの分解斜視図
【
図3】比較例としての従来のコモンモードノイズフィルタのコモンモード減衰周波数特性を示す図
【
図4】同コモンモードノイズフィルタの差動信号損失周波数特性を示す図
【
図5】本発明の実施の形態1におけるコモンモードノイズフィルタのコモンモード減衰周波数特性を示す図
【
図6】同コモンモードノイズフィルタの差動信号損失周波数特性を示す図
【
図7】本開示の実施の形態2におけるコモンモードノイズフィルタの断面図
【
図8】同コモンモードノイズフィルタの差動信号損失周波数特性を示す図
【
図9】従来のコモンモードノイズフィルタの分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態1)
図1は本開示の実施の形態1におけるコモンモードノイズフィルタの分解斜視図、
図2は同コモンモードノイズフィルタの断面図である。
【0020】
本開示の実施の形態1におけるコモンモードノイズフィルタは、
図1、
図2に示すように、積層方向に積層された第1~第7の絶縁体層11a~11gと、第1~第7の絶縁体層11a~11gに形成された第1のコイル12、第2のコイル13、第3のコイル14とを備えている。
【0021】
また、第1のコイル12は第1のコイル導体12aと第2のコイル導体12bとで構成され、第2のコイル13は第3のコイル導体13aと第4のコイル導体13bで構成され、第3のコイル14は第5のコイル導体14aと第6のコイル導体14bで構成されている。
【0022】
さらに、第1のコイル導体12a、第3のコイル導体13a、第5のコイル導体14aを含む第1の積層部15と、第2のコイル導体12b、第4のコイル導体13b、第6のコイル導体14bを含み、かつ第1の積層部15に積層方向で上方に積層された第2の積層部16とを設けている。
【0023】
そして、第1の積層部15において、下から第1のコイル導体12a、第5のコイル導体14a、第3のコイル導体13aの順に積層し、第2の積層部16において、下から第2のコイル導体12b、第4のコイル導体13b、第6のコイル導体14bの順に積層し、かつ第4のコイル導体13bを第2、第6のコイル導体12b、14bと積層方向に直交する方向にずれて配置している。
【0024】
上記構成において、第1~第7の絶縁体層11a~11gは、下から順に積層され、同じ厚みのシート状に形成されたCu-Znフェライト、ガラスセラミック等の非磁性材料から構成されている。
【0025】
なお、第1の絶縁体層11aの下面、第7の絶縁体層11gの上面に磁性体部を配置してもよい。前記磁性体部は、シート状に構成されたNi-Cu-Znフェライト等の磁性材料からなる複数の磁性体層で構成される。
【0026】
また、第1~第7絶縁体層11a~11gの枚数は、
図1に記載の枚数に限定されない。さらに、磁性体部を、磁性体層と他の非磁性体層とを交互に積層したものとしてもよい
。
【0027】
そして、第1~第7の絶縁体層11a~11gを上下方向に積層することによって積層体17が設けられる。
【0028】
前記第1のコイル12は、下方の第1のコイル導体12aと上方の第2のコイル導体12bとを、第2~第4の絶縁体層11b~11dに形成された第1のビア電極18aを介して電気的に接続して構成される。
【0029】
前記第2のコイル13は、下方の第3のコイル導体13aと上方の第4のコイル導体13bとを、第4、第5の絶縁体層11d、11eに形成された第2のビア電極18bを介して電気的に接続して構成される。
【0030】
前記第3のコイル14は、下方の第5のコイル導体14aと上方の第6のコイル導体14bとを、第3~第6の絶縁体層11c~11fに形成された第3のビア電極18cを介して電気的に接続して構成される。
【0031】
これらの各コイル導体は、それぞれ各絶縁体層の上面に銀等の導電材料を渦巻状にめっきまたは印刷することにより設けられたものである。
【0032】
また、これらの各コイル導体の形状は、長辺と短辺を連続させて渦巻き状に1ターン以上に形成したもので、その内形と外形の輪郭が概ね矩形状をしており、配線等に用いる部分を除いた主要部である渦巻き状部分の導体幅、導体間ピッチ、導体厚み寸法などの導体パターンが同じになるように形成されている。
【0033】
なお、各コイル導体の形状において、矩形状に限定されるものではなく、内形と外形の輪郭が円形、長円形、楕円形などの形状のものでもよい。
【0034】
そして、第1のコイル導体12aは第1の絶縁体層11aの上面に形成され、第5のコイル導体14aは第2の絶縁体層11bの上面に形成され、第3のコイル導体13aは第3の絶縁体層11cの上面に形成される。第1~第3の絶縁体層11a~11cと第1のコイル導体12a、第5のコイル導体14a、第3のコイル導体13aとで第1の積層部15が構成される。
【0035】
第1の積層部15において、下から第1のコイル導体12a、第5のコイル導体14a、第3のコイル導体13aの順に積層されている。
【0036】
また、第2のコイル導体12bは第4の絶縁体層11dの上面に形成され、第4のコイル導体13bは第5の絶縁体層11eの上面に形成され、第6のコイル導体14bは第6の絶縁体層11fの上面に形成される。第4~第6の絶縁体層11d~11fと第2のコイル導体12b、第4のコイル導体13b、第6のコイル導体14bで第2の積層部16が構成される。
【0037】
第2の積層部16において、下から第2のコイル導体12b、第4のコイル導体13b、第6のコイル導体14bの順に積層されている。
【0038】
したがって、第1の積層部15では、下から第1のコイル12、第3のコイル14、第2のコイル13の順に積層され、第2の積層部16では、下から第1のコイル12、第2のコイル13、第3のコイル14の順に積層され、第1の積層部15と第2の積層部16は、第2のコイル13と第3のコイル14の配置箇所が入れ替わっている。
【0039】
そして、第1の積層部15の最上部は第3のコイル導体13aで、第2の積層部16の最下部は第2のコイル導体12bであり、第2のコイル導体12bは第3のコイル導体13aと積層方向で隣接する。
【0040】
上記構成によって、3つの独立した第1のコイル12、第2のコイル13、第3のコイル14が設けられ、第1のコイル12と第2のコイル13、第2のコイル13と第3のコイル14、第3のコイル14と第1のコイル12がそれぞれ互いに磁気結合する構成となっている。
【0041】
さらに、第1の積層部15において、第3のコイル導体13aを第1、第5のコイル導体12a、14aと積層方向に直交する方向にずれて配置し、第2の積層部16においても上述したように、第4のコイル導体13bを第2、第6のコイル導体12b、14bと積層方向に直交する方向にずれて配置している。
【0042】
すなわち、第2のコイル13を構成する第3、第4のコイル導体13a、13bを他のコイル導体と積層方向と直交する方向にずらして配置している。換言すれば、第2のコイル13を構成する第3、第4のコイル導体13a、13bの巻き軸が他のコイル導体の巻き軸と、積層方向と直交する方向にずれている。
【0043】
このように、ずれて配置すれば、各コイル導体間を概ね同じ間隔に配置することができるため、第2の積層部16において、各コイル導体間の磁気結合のバランスを良くすることができる。
【0044】
さらに、第2の積層部16において、第2のコイル導体12b、第4のコイル導体13b、第6のコイル導体14bそれぞれの巻軸を結んだ線が正三角形に相似した形状とすれば、各コイル導体間を略同じ間隔に配置することができるため、各コイル導体間の磁気結合のバランスをよくすることができ、さらに、各コイル間の磁気結合の強さを概ね同じにすることができる。
【0045】
このとき、
図2に示すように、積層方向の断面で見たときに、各コイル導体の内周から外周に向かう同じ巻き数部分において、内周から同じターン数の部分の第2のコイル導体12bと第6のコイル導体14bとを結んだ破線Laと、第2のコイル導体12bと第4のコイル導体13bとを結んだ破線Lbと、第4のコイル導体13bと第6のコイル導体14bとを結んだ破線Lcとにより形成される三角形の形状が、正三角形に相似した形状(または巻軸を結んだ線が正三角形に相似した形状)となっている。
【0046】
そして、第1のコイル導体12aと第2のコイル導体12bとが、第3のコイル導体13aと第4のコイル導体13bとが、第5のコイル導体14aと第6のコイル導体14bとが、それぞれ積層方向から見たときに主要部である渦巻き状部分が重なるようにして配置している。
【0047】
このようにすることにより、互いに隣に積層された各コイル導体間の距離を調整することにより、磁気結合を調整できるため、第1のコイル12と第2のコイル13、第2のコイル13と第3のコイル14、第3のコイル14と第1のコイル12の磁気結合のバランスをよくすることができる。
【0048】
上記した構成により、積層体17が形成される。また、この積層体17の両端面には、第1~第6のコイル導体12a、12b、13a、13b、14a、14bの端部と接続する6つの外部電極(図示せず)が設けられている。
【0049】
なお、第1の積層部15において、第1のコイル導体12aを最上部に配置してもよい。第1の積層部15の中央部に位置するコイル導体を第1の積層部15の他のコイル導体と積層方向に直交する方向にずれて配置してもよい。
【0050】
また、第1の積層部15において、下から第5のコイル導体14a、第3のコイル導体13a、第1のコイル導体12aの順に積層してもよい。この構成により、第1のコイル12を構成する第1のコイル導体12aと第2のコイル導体12bを隣接させることができるため、この間の浮遊容量を減らすことができる。
【0051】
本開示の実施の形態1におけるコモンモードノイズフィルタは、第1のコイル12を構成する第2のコイル導体12bと第3のコイル14を構成する第5のコイル導体14aとが積層方向で離れて配置されているため、この間の浮遊容量が大きくなるのを防ぐことができる。
【0052】
すなわち、第1の積層部15において、最上部は第3のコイル導体13aまたは第1のコイル導体12aとなっているため、第5のコイル導体14aは最上部に位置せず、これにより、第2の積層部16で一つの第3のコイル14(第6のコイル導体14b)と積層方向に重なる第2のコイル導体12bは、積層方向で重なるもう一つの第3のコイル14(第5のコイル導体14a)との距離が離れるため、第1のコイル12と第3のコイル14との間の浮遊容量が小さくなる、つまり、大きくなっていた浮遊容量を低減できる。
【0053】
これにより、第1のコイル12、第2のコイル13、第3のコイル14の3つのコイルの各々の間に発生する浮遊容量を高周波領域まで略均等にすることができるため、高周波領域において、第1のコイル12と第3のコイル14の出力される信号から差分をとる差動信号は、他の2通り、つまり第1のコイル12と第2のコイル13および第2のコイル13と第3のコイル14から出力される差動信号と略等しくすることができ、これにより、3線間から2つの差動信号を3通り取り出す際に、3通りの差動信号の出力特性のばらつきを低減することができる。
【0054】
図9、
図10に示す従来の構成において、
図3にコモンモードノイズの減衰周波数特性、
図4に差動信号の損失周波数特性を示す。
【0055】
図3、
図4において、矢印が示すグラフが第1のコイル2と第3のコイル4の間の特性になる。
【0056】
この従来の構成においては、第1のコイル2と第3のコイル4の間に発生する浮遊容量が、他のコイル間の浮遊容量より大きくなるため、
図3に示すコモンモードノイズの減衰周波数特性では高周波領域において第1のコイル2と第3のコイル4の間の特性だけが自己共振点が下がり大きく共振している。一方、
図4に示す差動信号の損失周波数特性においては、第1のコイル2と第3のコイル4の間の差動損失がけが大きくなっていることがわかる。
【0057】
また、本実施の形態1の構成において、
図5にコモンモードノイズの減衰周波数特性、
図6に差動信号の損失周波数特性を示す。
【0058】
図5、
図6から明らかなように、コモンモードノイズの自己共振周波数でのピークが全ての場合で略等しく、高周波領域での差動信号の損失についても3通りの差動出力特性のばらつきが小さくなっている。
【0059】
(実施の形態2)
図7は本開示の実施の形態2におけるコモンモードノイズフィルタの断面図である。なお、この本実施の形態2においては、上記した実施の形態1と同様の構成を有するものについては、同一符号を付しており、その説明は省略する。
【0060】
本開示の実施の形態2が上記した実施の形態1と相違する点は、
図7に示すように、第1の積層部15において、第1のコイル導体12aと第5のコイル導体14aとの配置を入れ替え、下から第5のコイル導体14a、第1のコイル導体12a、第3のコイル導体13aの順に積層した点である。
【0061】
この構成により、第1のコイル12を構成する第2のコイル導体12bと第3のコイル14を構成する第5のコイル導体14aとを積層方向でより離れて配置することができるため、この間の浮遊容量が大きくなるのを防ぐことができ、これにより、3線間から2つの差動信号を3通り取り出す際に、3通りの差動信号の出力特性のばらつきをさらに低減することができる。
【0062】
また、第1のコイル導体12aを第3、第5のコイル導体13a、14aと積層方向に直交する方向にずれて配置すれば、各コイル導体間を概ね同じ間隔に配置することができるため、第2の積層部16だけでなく第1の積層部15においても、各コイル導体間の磁気結合のバランスをよくすることができ、この結果、3線間から2つの差動信号を3通り取り出す出力の損失特性が良くなる。
【0063】
このとき、さらに、第1の積層部15においても、第1のコイル導体12a、第3のコイル導体13a、第5のコイル導体14aそれぞれの巻軸を結んだ線が正三角形に相似した形状とすれば、各コイル導体間を略同じ間隔に配置することができるため、さらに各コイル導体間の磁気結合のバランスをよくすることができる。
【0064】
図8は、本開示の実施の形態2におけるコモンモードノイズフィルタの差動信号の損失周波数特性を示している。本開示の実施の形態1の
図6に示される差動信号の損失周波数特性に比べて、3通りの差動出力のばらつきも少ないことに加えて、高周波での損失特性が良化していることが分かる。
【0065】
なお、上記実施の形態1、2では、第1~第6のコイル導体12a、12b、13a、13b、14a、14bをそれぞれ異なる絶縁体層に形成したが、第1の積層部15を構成する第1、第3、第5のコイル導体12a、13a、14aのうち2つのコイル導体を同一絶縁体層上に設けてもよく、第2の積層部16を構成する第2、第4、第6のコイル導体12b、13b、14bのうち2つのコイル導体を同一絶縁体層上に設けてもよい。
【0066】
また、1つの第1の積層部15と、1つの第2の積層部16を上下に積層する構成としたが、第1、第2の積層部15、16をそれぞれ2つ以上設けて互いに積層し、各コイルを構成するコイル導体同士を接続する構成(図示していない)としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係るコモンモードノイズフィルタは、お互いに磁気結合する3つのコイル間で発生する浮遊容量をおおよそ均等になるようにすることによって、高周波領域において、3線間から2つの差動信号を3通り取り出す際に、3通りの差動信号の出力特性のばらつきを低減することができるという効果を有するものであり、特にデジタル機器やAV機器、情報通信端末等に使用される小形で薄型のコモンモードノイズフィルタ等において有用となるものである。
【符号の説明】
【0068】
11a~11g 第1の絶縁体層~第7の絶縁体層
12 第1のコイル
12a 第1のコイル導体
12b 第2のコイル導体
13 第2のコイル
13a 第3のコイル導体
13b 第4のコイル導体
14 第3のコイル
14a 第5のコイル導体
14b 第6のコイル導体
15 第1の積層部
16 第2の積層部
17 積層体