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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】赤道反流を利用した水素生成プラント
(51)【国際特許分類】
   B63B 77/00 20200101AFI20231106BHJP
   B63B 25/00 20060101ALI20231106BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20231106BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231106BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231106BHJP
   B63B 35/00 20200101ALI20231106BHJP
【FI】
B63B77/00
B63B25/00 101Z
C01B3/00 B
C25B1/04
C25B9/00 A
B63B35/00 T
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020033976
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021079931
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019206731
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519408559
【氏名又は名称】一般社団法人赤道で水素を作る会
(74)【代理人】
【識別番号】100166132
【弁理士】
【氏名又は名称】木船 英雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 邦一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 峰男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-127890(JP,A)
【文献】特開平6-169783(JP,A)
【文献】特開2019-172595(JP,A)
【文献】特開2016-43719(JP,A)
【文献】特開2005-145218(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/022135(JP,A1)
【文献】特開2005-143403(JP,A)
【文献】特開2013-249531(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0148356(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0024047(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 77/00
B63B 25/00
C01B 3/00
C25B 1/04
C25B 9/00
B63B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤道反流海域の海面上を浮遊する浮体構造物に、太陽光発電設備と、当該太陽光発電設備で得られた電力を利用して海水又は雨水を電気分解して水素を生成する水分解設備と、当該水分解設備で生成した水素を貯蔵して輸送する水素貯蔵輸送設備と、海面付近の海水を冷却して取水する冷却水取入設備を備え、
前記冷却水取入設備は、海面に浮かぶベースフロートと、複数本の汲上げホースからなるホース群と、汲上げポンプとを有し、
前記ホース群は、その両端が前記ベースフロートに取りつけられ、その途中が深海まで垂下していると共に、前記ベースフロートから深海に至る部分は束ねられており、かつ深海部分は保持板によって各汲上げホース同士が離れていることを特徴とする赤道反流を利用した水素生成プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤道付近をゆっくりと流れる赤道反流を利用した水素生成プラントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料からの大量の二酸化炭素排出による地球温暖化、原子力の安全性への懸念などから従来の化石エネルギーや原子力エネルギーから、太陽光や風力、水力、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギーへの切り換えが急務となっている。これらの再生可能エネルギーは通常、電力として取り出され、家庭用や工場用の電力としてそのまま利用される他に、クリーンなエネルギーといわれる水素を製造するための電力として利用することが検討されている。
【0003】
例えば、以下の特許文献1では、再生可能エネルギーで発電された電力を用いて水を電気分解して水素を製造し、これを貯蔵して利用する水素エネルギー貯蔵システムが提案されている。また、以下の特許文献2では、再生可能エネルギーの余剰電力を蓄電し、その蓄電された電力を用いて水素を製造し、これを吸蔵合金タンクに貯蔵して利用する方法が提案されている。さらに、以下の特許文献3では、再生可能エネルギーを用いて水素を製造し、これを燃料電池車の燃料として利用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再公表特許WO2018-06993
【文献】特開2019-133803号公報
【文献】特開2020-8919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述したような再生可能エネルギーは、天候などの自然状況や地理的条件などに左右されることから不安定であり、需要に合わせた効率的な供給が難しいといった課題がある。また、太陽電池モジュール(ソーラーパネル)や風力発電機などを設置するには広大な土地が必要となるが、特に電力の需要が大きい大都市やその近辺地域では土地買収や住民補償などの諸問題があり、それを確保するのが難しい。
【0006】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その主たる目的は、再生可能エネルギーの1つである太陽光エネルギーを効率良く利用してこれを水素として安定的に生産・供給できる新規な赤道反流を利用した水素生成プラントを提供するものである。また、本発明の目的は、化石燃料を一切使用せずに、従って二酸化炭素を発生させないクリーンエネルギーを大量に生産できる新規な赤道反流を利用した水素生成プラントを提供するものである。また、生産した水素と化石燃料の消費で発生した二酸化炭素とを利用してメタンガスを生成できる水素生成プラントを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための第1の発明は、赤道反流海域の海面上を浮遊する浮体構造物に、太陽光発電設備と、当該太陽光発電設備で得られた電力を利用して海水又は雨水や蒸留水を電気分解して水素を生成する水分解設備と、当該水分解設備で生成した水素を貯蔵して輸送する水素貯蔵輸送設備とを備えたことを特徴とする赤道反流を利用した水素生成プラントである。
【0008】
ここで本発明でいう「赤道反流」とは赤道逆流ともいわれ、図20に示すように主に太平洋の北緯3度から10度の間を赤道とほぼ並行に西から東にむかってゆっくり(0.5~3knot/h(1knot=1.8km))と流れる帯状の海流をいう。そして、その「海域」とは、この赤道反流が流れる海域だけでなく、この海域を挟むようにしてその南北をそれぞれ反対方向(東から北)に流れる南赤道海流および北赤道海流の海域をも含む。
【0009】
この南赤道海流および北赤道海流の上空はそれぞれ赤道とほぼ並行に北東貿易風および南東貿易風が吹いており、これらの貿易風によって東から西に向かう海流が発生すると考えられているが、その間の赤道反流が流れる海域は赤道無風帯と呼ばれ、1年を通して殆ど強い風が吹くことはない。これは、重力の影響を受けるほどの大きな渦流は、北半球では水でも空気でも反時計回りとなり、南半球では時計回りとなることからその間に位置する赤道付近では渦流が発生せず、その結果、その海域は上昇気流とその上昇によって低圧となったところに南北からゆっくりと流れ込む大気の流れのみとなるからである。
【0010】
このように赤道反流の海域は大気の渦流が発生しないため、海水温度が高くとも熱帯低気圧や台風が発生しない。また、上昇気流により生じた積乱雲によりスコールなどの降雨は見られるが、それも短時間であり日中を通してほぼ晴天である。このため、日照時間は大陸上の広大な砂漠に匹敵し、また、太陽の見かけの軌道は赤道を挟んだ南北22.6°の南北回帰線の範囲で移動するため、大量の直射日光が年間を通して安定的に得られる。
【0011】
また、前記のように赤道反流が流れる海域では貿易風のような強い風が吹くことがないから、その海流の速度も平均で0.5~3knot/h(1knot=1.8km)と遅く、しかも、その速度は赤道に近づくほど低下する。このため、その速度を0.5knot/hとし、赤道反流の距離を10,000kmで計算すると、赤道反流の西端から東端に至るまでの時間は10,000時間以上(1年以上)いう長時間を要する。また、この海域は強い風が吹くことがないから、その海面には大きな波(荒波)やうねりが発生しない。
【0012】
従って、本発明はこのように強い風や荒波が発生しない穏やかな海域であって、かつ大量の直射日光が安定的に得られる赤道反流の海面上に巨大な浮体構造物(メガフロート)を構築してこれを浮遊させ、この浮体構造物に、太陽光発電設備と、この太陽光発電設備で得られた電力を利用して海水又は雨水や蒸留水を電気分解して水素を生成する水素生成設備と、この水素生成設備で生成した水素を貯蔵して輸送する水素貯蔵輸送設備とを備えることによって再生可能エネルギーの1つである太陽光エネルギーを効率良く利用してこれを水素として安定的に生産し、大都市などの需要地に輸送して供給することができる。
【0013】
また、この海域(東西約10,000km、南北約400km)はその多くが公海または排他的経済水域・接続水域であるため、国際法上の公海自由の原則により人工島や巨大な浮体構造物を設置(浮遊)することについて特別な許可は必要としない(国連海洋法条約第86条第1項)。また、この海域には島嶼がないため、巨大な浮体構造物であってもその移動の邪魔になることもない。しかも、この海域は海の砂漠ともいわれ、大陸の沿岸に比べるとミネラルや栄養素が乏しくてプランクトンやそれを食す海洋生物が殆ど棲息していない。そのため、この浮体構造物を、例えば縦横それぞれの長さ数km~数百kmといった巨大なものにして海中に差し込む太陽光を一時的に遮ったとしても生態系に及ぼす悪影響は殆どない。
【0014】
第2の発明は、赤道反流海域の海面上を浮遊する浮体構造物に、太陽光発電設備と、当該太陽光発電設備で得られた電力を利用して海水又は雨水を電気分解して水素を生成する水分解設備と、当該水分解設備で生成した水素と二酸化炭素を反応させてメタンを生成するメタン生成設備とを備えたことを特徴とする赤道反流を利用した水素生成プラントである。
【0015】
火力発電所や製鉄所などは、化石燃料を燃焼させた熱エネルギーによって稼働する設備であるが、同時に二酸化炭素を大量に生産する工場でもある。そのために長年排出されてきた二酸化炭素は地球の植物や植物性プランクトンによる炭酸同化作用で吸収出来るものではなく、今や地球の環境を脅かすほど深刻な影響を及ぼしている。地球の生物が築き上げた二酸化炭素ガスの循環システムでは同化できないほど大量の二酸化炭素が人類の欲望によって排出されている以上、人工的な二酸化炭素の循環システムあるいは安全な貯蔵システムを作ることは急務である。
【0016】
そこで、本発明では、水分解設備で生成された水素と、火力発電所や製鉄所などで発生した二酸化炭素とを反応させてメタンを生成するものであり、これによって大気中に放出される二酸化炭素を削減して地球温暖化を防止できるだけでなく、これをメタン(燃料)として再利用することが可能となる。
【0017】
また、第3の発明は、前記浮体構造物に、当該浮体構造物の位置を検出する位置検出部と、当該位置検出部で検出された位置情報から前記浮体構造物が前記赤道反流海域内に留まるようにその位置を移動する浮体移動部とからなる位置制御設備を備えたことを特徴とする赤道反流を利用した水素生成プラントである。
【0018】
前述したようにこの赤道反流は、赤道に沿って約10,000kmの距離を西から東にむかってゆっくりと流れる海流であることから、仮にその海域の西端に前記浮体構造物を浮かべると、この浮体構造物はその海域を漂流して約1年後には東端に達する。東端に達した海流は図20に示すようにメキシコ沖でその後、南北に分かれ、その北側の海流は、北米の西海岸を南下してくるカリフォルニア海流(寒流)と合流して北赤道海流側に流れる。他方、南側の海流は、南米の西海岸を北上してくるペルー海流(寒流)と合流して南赤道海流側に流れる。
【0019】
このため、この赤道反流に乗って漂流しながらその海域の東端に達した浮体構造物は、その後、北赤道海流か南赤道海流のいずれかの方向へ流され、その海流に乗ってこんどは東から西に向かって漂流する。これら北赤道海流および南赤道海流の一部は、西に向かって流れている途中でそのまま赤道反流と合流するため、その浮体構造物の位置が赤道反流近くであれば、浮体構造物はそのままその一部の海流に乗って赤道反流側に移動することになるが、そうでない場合は、そのまま漂流して北赤道海流または南赤道海流の西端にまで達する。
【0020】
北赤道海流の西端は、フィリピン沖で南北に分かれ、南側に流れた海流は再び赤道反流となるが、北側に流れた海流はその後、黒潮となって日本の沖を北上する。一方、南赤道海流の西端は、ニューギニア沖で同じく南北に分かれ、北側に流れた海流は北赤道海流と合流して再び赤道反流となるが、南側に流れた海流はオーストラリア沖を南下して南極海流と合流する。従って、この浮体構造物の漂流を単に海流の流れに任せただけでは、最悪の場合、黒潮に乗って北上したり、南下してしまうおそれがある。そこで、第2の発明は、この浮体構造物に、この浮体構造物の位置を検出する位置検出部と、この位置検出部で検出された位置情報から浮体構造物が前記赤道反流海域内に留まるようにその位置を移動する浮体移動部とを備えたものである。
【0021】
すなわち、GPS(Global Positioning System)などの位置検出部によってこの浮体構造物の位置を常時または定期的に検出し、この浮体構造物が赤道反流海域から外れそうになったときは位置制御部が作動して各浮体に付属する多数の方向舵(舵板またはステアボード)により位置制御してその海域内に留まるように浮体構造物の位置を調整することになる。これによって、浮体構造物は赤道反流海域から外れることなくその海域内を永遠に循環しながら漂流するため、年間を通じて常時最適な環境で効率的な発電を行うことができる。また、台風による強風や荒波に晒されて浮体構造やその設備が破損してしまうような事態も回避できる。
【0022】
第4の発明は、前記水素貯蔵輸送設備は、有機ケミカルハイドライド法によって水素を貯蔵することを特徴とする赤道反流を利用した水素生成プラントである。前記のように本発明の水素生成プラントによれば、太陽光エネルギーを効率良く利用してこれを水素として安定的に生産することができる一方、生産した水素の需要地である大都市などは、太平洋上を漂流する浮体構築物からは数千km~数万kmもの遠距離にあることから、生産した水素を需要地まで長距離に亘って効率良く輸送する必要がある。しかし、水素ガスは天然ガスのようには簡単に液化し難い上に、浮体構築物自体が常時移動していることからパイプラインでの輸送も不可能である。
【0023】
そこで、本発明では生産した水素の貯蔵輸送に有機ケミカルハイドライド法を用いたものである。この有機ケミカルハイドライド法(OCH法:Organic Chemical Hydride Method)とは、トルエンなどの芳香族の水素化反応によって水素を固定し、メチルシクロヘキサン(MCH)などの飽和環状化合物に転換を行い、常温・常圧の液体状態で貯蔵輸送を行った後、脱水素反応で水素を取り出して利用する方法である(特開2007-269522号など)。
【0024】
この有機ケミカルハイドライド法の詳細は後述するが、この技術を用いることによって水素は約1/500の体積のメチルシクロヘキサンとして固定されるため、タンカーなどの輸送船を用いて洋上から需要地まで効率良く輸送することができる。また、この有機ケミカルハイドライド法は貯蔵輸送条件が常温・常圧であることから潜在的な危険性が少ない方法である上に、長期貯蔵にロスを伴わないことから、大量貯蔵/長距離輸送に適しており、水素の国家備蓄も可能な技術である。
【0025】
第5の発明は、前記水素貯蔵輸送設備は、前記有機ケミカルハイドライド法によって水素を貯蔵した溶媒を多数のコンテナに個別封入し、コンテナ単位で輸送することを特徴とする赤道反流を利用した水素生成プラントである。このような構成によれば、LNG船のような専用の液体輸送船舶を用いることなく、通常のコンテナ船でも容易に輸送できる上に、コンテナ単位で輸送することにより陸上で小分けする(充填をし直す)必要がなくなり、荷揚げ後に直ぐに陸上輸送ができるため、経済的である。
【0026】
第6の発明は、海水を蒸発させて得られる蒸留水を生成する蒸留水生成設備を備え、前記水分解設備は前記蒸留水生成設備で生成した蒸留水に電解質を加えたものを用いることを特徴とする赤道反流を利用した水素生成プラントである。このような構成によれば、海水をそのまま利用する場合に比べて、濃縮水などの発生がなくなり、より自然に対する影響を抑えることができる。また、汲み上げた海水をそのまま電気分解すると塩素ガスその他の不純物が微量が発生し、これが水素ガスと混ざってしまう可能性があるが、適度な添加物を加えて通電性を持たせた蒸留水であれば不純物がないため、高純度の水素ガスが安定的に得られる。
【0027】
第7の発明は、海面付近の海水を冷却して取水する冷却水取入設備を備え、当該冷却水取入設備は、海面に浮かぶベースフロートと、複数本の汲上げホースからるホース群と、汲上げポンプとを有し、前記ホース群は、その両端が前記ベースフロートに取りつけられ、その途中が深海まで垂下していると共に、前記ベースフロートから深海に至る部分は束ねられており、かつ深海部分は保持板によって各汲上げホース同士が離れるように保持されていることを特徴とする赤道反流を利用した水素生成プラントである。
【0028】
このような構成によれば、海面近くで取水した高温の海水を深海の低温によって冷却して汲み上げることができるため、この冷却水を太陽光発電モジュールの冷却や建物の冷房などに活用することができる。しかも、ホース群の海水取入口と排出口の高さが海面付近でほぼ同じ高さとなっていて高低差(水頭圧差)が殆ど生じないため、深海の海水を直接汲み上げる場合に比べて動力が極端に少なくなる。これによって、小型の汲上げポンプでも簡単に汲み上げることが可能となり、設備投資や消費電力を低く抑えることができる。また、このホース群は、ベースフロートから深海に至る部分は束ねられており、かつ深海部分は保持板によって各汲上げホース同士が離れている構造となっているため、効率的な熱交換(冷却)が行えると共に汲み上げ時の熱放散を防止できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、再生可能エネルギーの1つである太陽光エネルギーを効率良く利用してこれを水素として安定的に生産し、大都市などの需要地に輸送して供給することができる。また、年間を通じて常時最適な環境で効率的な発電を行うことができる上に、台風による強風や荒波に晒されて浮体構造やその設備が破損してしまうような事態も回避できる。また、浮体構造物は赤道反流海域から外れることなくその海域内を永遠に循環するため、年間を通じて常時最適な環境で効率的な発電を行うことができる。さらに生産した水素の貯蔵輸送に有機ケミカルハイドライド法を用いることから輸送船を用いて需要地まで効率良く輸送して利用することができる。また、大気中に放出される二酸化炭素を削減して地球温暖化を防止できるだけでなく、これをメタン(燃料)として再利用できるなどといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る赤道反流を利用した水素生成プラント100の概要を示す説明図である。
図2】本発明に係る赤道反流を利用した水素生成プラント100の実施の一形態を示す説明図である。
図3】浮体ユニット111の構成を示す縦断面図である。
図4】太陽光発電設備120を示す構成図である。
図5】水分解設備130の一例を示す構成図である。
図6】水分解設備130の設置例を示す側面図である。
図7】蒸留水生成設備160の前段部分を示す平面図である。
図8】蒸留水生成設備160の後段部分を示す平面図である。
図9】蒸留水生成設備160の蒸発通路163の構造を示す縦断面図である。
図10】冷却水取入設備170の構成を示す説明図である。
図11】(A)は図9中A-A線断面図、(B)は図9中B-B線断面図である。
図12】水素貯蔵輸送設備140の一例を示す説明図である。
図13】有機ケミカルハイドライド法による化学反応式を示す図である。
図14】有機ケミカルハイドライド法による化学反応式の他の例を示す図である。
図15】水素貯蔵部141における水素貯蔵工程を示す説明図である。
図16】コンテナCを一時的に係留するためのコンテナプールCPを示す平面図である。
図17】位置制御設備150の一例を示す説明図である。
図18】メタン生成設備180の一例を示す説明図である。
図19】二酸化炭素回収設備190の一例を示す説明図である。
図20】太平洋の海流を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る赤道反流を利用した水素生成プラント100の全体の概要を示す説明図である。図示するようにこの水素生成プラント100は、浮体構造物110に、太陽光発電設備120と、水分解設備130と、水素貯蔵輸送設備140と、位置制御設備150とを主に備えたものであり、図18に示すような太平洋上の赤道反流海域をゆっくりと漂流しながら水素エネルギーを生成・供給するようになっている。以下、各設備の構成および作用(機能)などを説明する。
【0032】
(浮体構造物110)
浮体構造物110は、図2に示すように一辺が数十m~数百mの大きさの矩形状をしたタイル様の浮体ユニット111を縦横に多数連続して繋ぎ合わせたものであり、その一辺の大きさは少なくとも数km~数百kmといった巨大なものとなっている。この浮体ユニット111は、図3に示すようにデッキプレート114とボトムプレート115を複数の支柱117で連結すると共に、そのボトムプレート115の下面(喫水線下)にタンク116を備えた構造となっており、このタンク116の浮力によって十分な浮力を確保した構造となっている。
【0033】
そして、このデッキプレート114の上に次述する太陽光発電設備120の太陽電池モジュール121が敷き詰められるように設置されていると共に、タンク116内に後述する水分解設備130などの諸設備が設けられている。また、このタンク116の下面には、後述する位置制御設備150の方向舵(舵板:ステアボード)155が複数設けられている。なお、このタンク116内とデッキプレート114との間は図示しない階段が設けられており、その間を作業員が行き来できるるようになっている。また、この浮体ユニット111は、海面上に浮かぶものであればこの構造に限定されるものでなく、木材や竹材などのような自然に還る材料、例えば耐久性が高くかつ浮力の大きい孟宗竹(耐用年数20年)を筏のように組み合わせたものであっても良い。
【0034】
また、図2に示すようにこれら各浮体ユニット111の上面には、太陽光発電設備120の太陽電池モジュール(ソーラーパネル)121が縦横に敷き詰めるように設けられているが、これら各浮体ユニット111の一部は、輸送船などの船着き場となる浮桟橋112やこのプラント100を運営・管理する作業員などが宿泊する宿泊施設や管理棟などを設置する多目的用地などとして利用される。また、この浮桟橋112の近くには後述する水素貯蔵輸送設備140などを設置する設備エリア113が設けられている。
【0035】
また、前述したように赤道反流海域は、大きな波やうねりが発生しないことから、この浮体ユニット111の高さとしては、多少の波が立ってもその表面に設置された太陽電池モジュール(ソーラーパネル)に海水が被らない高さであれば良い。具体的には、これを海面に浮かべたときに上面のデッキプレートの位置が海面から約2m程度となる高さであれば十分である。そして、浮体ユニット111を多数縦横に繋ぎ合わせ、その縦横の長さを、仮に約200km×約50kmとすると、この浮体構造物110の総面積は約1万kmにも達する巨大なものとなる。ただし、これは全体を1つに繋ぎ合わせた場合のことであって、実際には赤道反流を南北に横切る船舶との折り合いをつけるために、60km×20km程度の大きさのものを一定の間隔をあけて多数漂流させることになる。なお、この赤道反流海域周辺の総面積は少なくとも400万km(約1万km×約400km)以上と広大であり、その総面積に占める浮体構造物110の割合は僅か0.25%にしか過ぎない。
【0036】
(太陽光発電設備120)
太陽光発電設備120は、従来のものと同様、図4に示すように多数の太陽電池モジュール(ソーラーパネル)121と、それらを電気的に接続する接続箱122と、発電された電力を制御するパワーコンディショナー(PC)123と、蓄電池124などから構成されている。そして、太陽電池モジュール121で発電された電力をパワーコンディショナー123を介して水分解設備130や水素貯蔵輸送設備140、位置制御設備150などに供給する。そして、その一部の電力は蓄電池124に一時的に貯められて夜間の照明や作業員の生活空間などに活用される。
【0037】
パワーコンディショナー123は、太陽が照り続けている昼間であれば、太陽電池モジュール121で発電された電力をそのまま水分解設備130や水素貯蔵輸送設備140、位置制御設備150などに供給するが、発電がされない夜間には蓄電池124に貯められた電力に切り替えてこれを供給することもできる。これによって、水分解設備130や水素貯蔵輸送設備140などは常時電力の供給を受けることができるため、24時間連続して稼働することも可能となっている。
【0038】
また、前述したようにこの赤道反流海域は、ほぼ晴天状態でありかつ低緯度であって日出から日没に亘って強い直射日光を受けることができることから、太陽光発電には最適な環境であり、最高効率での発電を行うことができる。その発電量は同じソーラーパネルを用いた場合、日本のような高緯度の地域では最高でも約3.90kWh/日(平均)であるのに対し、この赤道反流海域では7.00kWh/日以上(平均)となり、1.5倍以上の発電量を得ることが可能となる。また、日本の年間の日照時間は1,500~2,200時間程度であるのに対し、この赤道反流海域は年間3000時間に達し、その総発電量は日本に設置した場合の2倍以上に達する。
【0039】
(水分解設備130)
水分解設備130は、図5に示すように取水部132と、電気分解部133と、これらを制御する制御部131とから主に構成されており、制御部131によって制御される取水部132のポンプなどで汲み上げた海水、あるいは浮体構造物110上に降り注いだ雨水などを集水して電気分解部133に送り、電気分解部133が従来公知の技術によってその原料となる水を分解して水素(ガス)と酸素(ガス)を生成する(2HO→2H+O)。なお、この電気分解に用いる電力は前述したように太陽光発電設備120で発電された電力のみである。
【0040】
そして、この電気分解部133で生成した水素は、すべて水素貯蔵輸送設備140に送り、酸素はそのまま大気放出する。大気放出された酸素は大気中に拡散されるか、上昇気流に乗ってオゾン層に達し、有害な紫外線を吸収するオゾンの原料となることが期待される。また、原料となる海水中には、塩化ナトリウムや塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム、その他の成分が含まれているため、水分(HO)が分解されて減少するにつれてこれらが濃縮されて濃縮水となる。
【0041】
この濃縮水中の塩化ナトリウムなどの濃度が一定以上を超えると電気分解効率が低下するため、一定時間以上電気分解処理したならば、その濃縮水を海中に放出して電気分解部133の分解槽内の水をすべて入れ替える必要がある。なお、この濃縮水をそのまま海中に放出したとしても局所的に塩分濃度が上がって海洋生物や環境などに悪影響を与えるおそれは低い。すなわち、前述したようにこの赤道反流海域はもともと海洋生物の棲息数が少ないうえに、この海域の平均深度は4000m以上と深いため、放出された濃縮水はその重量によって海底低くまで沈み込む過程で海水と混ざり合って十分に希釈されるからである。また、この浮体構造物110は、一箇所に留まることなく常に移動していることから、濃縮水の放出位置も一箇所ではなく散らばり、局所的に海水成分の濃度が大きく変化することはない。
【0042】
図6はこの水分解設備130の取り付け状態の一例を示したものである。図示するように海面上に浮かぶ浮体ユニット111の下面(水面下)には、耐食性に優れた材料からなるタンク116が設けられており、このタンク116内に、前述した取水部132や電気分解部133、制御部131などが設置されている。そして、このタンク116には、取水管135と、排水管136と、水素管137と、酸素管138と、図示しない電源(信号)ケーブルなどが接続されており、取水管135から海水などを取り込んでこれを電気分解して水素と酸素を生成し、水素は水素管137から取り出すと共に、酸素は酸素管138から大気中に放出し、濃縮水などは排水管136から海中に排出するようになっている。また、この取水管135には分岐管134およびバルブV1、V2が設けられており、このバルブV1、V2を操作することで海水に代えて雨水や次述する蒸留水を取り込むことができるようになっている。
【0043】
図7および図8は、この水分解設備130で海水に代えて蒸留水を用いたときの蒸留水を生成するための蒸留水生成設備160の一例を示したものである。この蒸留水生成設備160は、太陽電池モジュール121が取り付けられた浮体ユニット111上に縦横に張り巡らされた海水通路161(図7:前段部分)と、ベースフロートBF上に設けられた蒸発通路163と凝縮器164(図8:後段部分)などから構成されている。そして、この蒸留水生成設備160は、後述する冷却水取入設備170から取り入れた低温(約16℃)の海水をこの前段部分の海水通路161に流し、それを通過する間に太陽電池モジュール121や浮体ユニット111を冷却すると共に、浮体ユニット111上に注ぐ太陽光の熱によって暖められる。
【0044】
これによって温度が上がった海水は温水(約40℃)となって図8に示す蒸発通路163を流れる間に太陽光の熱によってさらに温められてその一部が蒸発して水蒸気となる。そして、図9に示すようにこの蒸発通路163内で発生した水蒸気は、蒸発通路163の上面に一定の間隔で接続された複数のダクト165を通過して凝縮器164に流れ、ここで冷却されて凝縮して液体(蒸留水)となって水分解設備130に供給される。その後、この蒸留水を水分解設備130で用いる場合には適量の電解質、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)や硫酸(HSO)、炭酸ナトリウム(NaCO)などを添加することで効率的に電気分解に寄与することができる。なお、この凝縮器164に流す冷却水としては、次述する冷却水取入設備170で取り入れた冷却水を用いることができる。また、水蒸気が蒸発して塩分濃度などが高まった海水はそのまま海洋に放流される。
【0045】
図10はこの冷却水取入設備170の一例を示したものであり、海面上に浮かぶベースフロートBFと、複数本の汲上げホースからなるホース群171と、汲上げポンプ173とから主に構成されている。このホース群171は、図11に示すように複数本の可撓性ホースHからなっており、その一端の海水取入口a1および他端の海水排出口a2がベースフロートBFに取りつけられていると共に、その途中が深海まで垂下している状態となっている。そして、ここでいう深海とは、赤道反流が発生する表層流よりも低い深海流が流れる深さをいう。具体的には、赤道反流が発生する表層流は水深100~200mであるため、それよりも深い領域をいう。この深海流の海水温は約16℃であり、赤道反流の海面近くの海水温の約30℃に比べてかなり低い温度となっている。
【0046】
また、このホース群171の垂下している部分のうち赤道反流域、すなわち水深100~200mのほぼ垂直部分は単に海水を下降方向または上昇方向に流すための輸水部Yとなっており、この輸水部Yでは図11(A)に示すように各複数本の可撓性ホースHが互いに密着するように束ねられた状態となっている。一方、ホース群171の垂下している下端の折り返し部分は、海水取入口a1から取り込んだ雨水や冷却水などをその深海流の低温の海水によって冷却するための熱交換部Nとなっている。
【0047】
そして、この熱交換部Nには、錘を兼用した金属製または錘を備えたプラスチック製の保持板172が少なくとも1つ以上設けられている。この保持板172には、図11(B)に示すように貫通穴Sが所定の間隔を隔てて多数開口しており、各貫通穴Sにそれぞれ可撓性ホースHが貫通することによって各可撓性ホースHが互いに所定の距離で離れた状態で保持されるようになっている。従って、汲上げポンプ173を駆動すると、浮体ユニット111やベースフロートBF上に降った雨水や前述したように蒸留水生成設備160で水蒸気を冷却した後の冷却水などの比較的高温(約30℃)の水が海水取入口a1からホース群171に取り入れられた後そのまま下降して熱交換部Nに達したときに、周囲の低温の深海流に熱を奪われて冷却される。この熱交換部Nは、各可撓性ホースHが離れた状態となっていて深海流との接触面積は大きくなっていることから効率的な熱交換(冷却)が行われる。
【0048】
その後、この熱交換部Nで温度が下がった雨水などは、輸水部Yを上昇してベースフロートBFに達し、海水排出口a2から連続的に排出されることで前述したような太陽電池モジュール121など冷却水や蒸留水の原料として活用される。この輸水部Yは前述したように束ねられていて周囲の海水と各可撓性ホースHとの接触面積が小さくなっているため、熱交換部Nで温度が下がった海水が輸水部Yを上昇するときに周囲の海水温によって暖められることが殆ど無く、低温のまま汲み上げられることになる。
【0049】
なお、深海流の海水をそのまま汲み上げてこれを冷却水として利用することも考えられるが、海水中に含まれる塩分などによって配管などが腐食してしまい、定期的なメンテナンスや交換作業が必要となり、運用コストが増加する。そのため、深海流の海水をそのまま冷却水として使用するのではなく、雨水や冷却水などのような真水を使用することで設備の腐食などを回避して運用コストの増大を回避することができる。また、このホース群171を構成する可撓性ホースHの数を増やしたり、その口径を小さくすればベルヌーイの定理によって海水の上昇速度があがるため、上昇時の水温の上昇をより小さく抑えることができる。
【0050】
(水素貯蔵輸送設備140)
水素貯蔵輸送設備140は、図12に示すように浮体構造物110側に設けられた水素貯蔵部141と、この浮体構造物110から遠く離れた地域(需要地)にある水素回収部142と、この水素回収部142と水素貯蔵部141との間を往復する輸送船143とからなっている。そして、洋上の水素貯蔵部141で図13(A)に示すように有機ケミカルハイドライド法を用いた水素貯蔵法によって水素ガス(H)を溶媒となる液体のトルエン(C)と反応させてメチルシクロヘキサン(C14)として取り込む(水素化(水素貯蔵))。その後、このメチルシクロヘキサンを輸送船143に積み込んで需要地まで海上輸送した後、図13(B)に示すように需要地の水素回収部142がこのメチルシクロヘキサンに取り込まれた水素を取り出して回収する(脱水素(水素発生))。
【0051】
このように水素ガスを有機ケミカルハイドライド法によって液体のトルエンと反応させて取り込むことにより、水素は約1/500の体積のメチルシクロヘキサンとして固定されるため、輸送船143を用いて洋上から需要地まで効率良く輸送することができる。そのため、例えば最大5万mのメチルシクロヘキサンを積める輸送船を用いれば、2500万m相当の大量の水素ガスを一度に輸送することができる。また、前述したように、この有機ケミカルハイドライド法は貯蔵輸送条件が常温・常圧であることから潜在的な危険性も少ない。また、水素ガスの体積当たりの燃焼エネルギーは30%程度なので2500万mの水素ガスは750万mの天然ガスに匹敵する。
【0052】
そして、この水素回収部142で回収された水素は、水素ガスを用いた発電所や自動車などの燃料として需要地で利用される。燃料となる水素は、酸素と結合することで燃焼されて無害な水となるため、化石燃料のような二酸化炭素や有害な窒素酸化物などを発生しないクリーンなエネルギーとして活用される。一方、水素が取り出された溶媒であるトルエンは再び輸送船143で洋上の浮体構造物110に海上輸送され、ここで次々と生産される水素を取り込む溶媒として何度も再利用される。
【0053】
なお、このトルエンに代えて図14に示すようにナフタレン(C10)を溶媒として用いても良い。ナフタレンを溶媒として用いた場合は、同図(A)に示すように水素を取り込んでデカリン(C1018)となり、これを需要地まで輸送する。そして、需要地において同図(B)に示すように脱水素反応によってデカリンから水素が取り出され(C10+5H←→C1018)、その後はナフタレンとなって同様に何度も再使用される。
【0054】
図15は、この水素貯蔵部141における水素貯蔵工程の一例を示したものである。図示するように、この水素貯蔵部141は、設備エリア113に設けられるコンテナCと、このコンテナCを海面上に浮かばせるコンテナフロートCFと、前述した各水分解設備130で生成された水素を集めて供給するための作業用ベースフロートWBFと、この作業用ベースフロートWBF上に設けられた供給ポンプ144と、コンテナC内に水素ガスを供給する水素供給バルブHVと、このコンテナCを加熱する加熱機器146とから主に構成されている。コンテナC内には、水素供給バルブHVと脱着されるノズル145が設けられると共に、トルエンやナフタレンなどの溶媒Lが封入されている。そして、図示するように水素管137端部の水素供給バルブHVとノズル145とを連結し、生成した水素をコンテナC内に供給(充填)してノズル145から噴出させる。これによってコンテナC内で前述した水素化反応が起こり、その溶媒L中に順次水素が貯蔵されることになる。
【0055】
この水素化反応は約5気圧、200~300℃で最も効率が良くなることから、供給ポンプ144で水素ガスを加圧すると共に、水素充填中に加熱機器146によってコンテナC全体を加熱する必要がある。この加熱機器146は、太陽光を集光する集光レンズや鏡などから構成されているため、加熱に要するエネルギーは特に必要とならない。また、水素ガス充填の際に溶媒Lが攪拌されるため、太陽光の位置などによってコンテナCの加熱位置が変化したとしてもコンテナC全体に均一に熱が伝わる。なお、このコンテナCのサイズとしては、特に限定されないが、例えば縦横長2m×2m×20m程度の発電所や都市ガス向けの巨大サイズや、小規模発電向けや中小工場向けの2m×2m×10mの中サイズ、末端のガスステーションなどのそのまま設置できる2m×2m×4mの小サイズのものを用いることができる。
【0056】
図16は、このコンテナCを一時的に係留するためのコンテナプールCPの一例を示したものである。このコンテナプールCPは、海面に浮かぶ複数の作業用ベースフロートWBFを鎖などによって枠状に連結したものであり、その枠内に複数(数百から千個程度)のコンテナC(コンテナフロートCF)が浮遊して一時的に係留されるようになっている。そして、このコンテナプールCPを構成する作業用ベースフロートWBF同士の間隔は、コンテナCおよびこれを曳航する船が十分に通過できる程度の大きさ例えば5~10m程度となっており、それぞれ水路(キャナル)が形成されている。
【0057】
そして、図示するようにコンテナプールCP内の水素を貯蔵したコンテナCは、曳航船によってコンテナプールCPから水路を通って外海へ曳航されて浮桟橋112の仮置き場に置かれた後、順次あるいは直接輸送船143に積み込まれて輸送されることになる。一方、輸送船143で輸送されてきた溶媒LのみのコンテナCは、浮桟橋112に荷下ろしされた後、コンテナフロートCFに載せられて同じく曳航船によってコンテナプールCP内に曳航された後、順次いずれかの作業用ベースフロートWBFに連結されて水素貯蔵処理が行われることになる。
【0058】
なお、この曳航船や輸送船143の動力としては、この水素を燃料としたエンジンを用いれば、曳航や海上輸送に際しても一切化石燃料を消費することがなくなる。また、この浮体構造物110あるいは水素貯蔵部141などには、浮体構造物110の現在位置を輸送船143や需要地などに知らせるための衛星通信設備などが備わっていることはいうまでもない。また、この水素ガスの運搬は、液化水素運搬船を用いても良い。水分解設備130で生産された水素をそのまま-253℃まで冷却して液化すれば、体積は1/800に圧縮されて溶媒も不要となる。ただし、現時点においては技術的な困難が多く実用化には至っていないが、最近になって水素ガスを動力源とし9000Nm、893Kg、トルエン換算2000mの液化水素の運搬を実用化した液化水素タンカーの造船計画が中国で発表されている(http://www.escn.com.cn/news/show-710054.html)。
【0059】
(位置制御設備150)
位置制御設備150は、図17に示すように浮体構造物110の位置を検出する位置検出部151と、浮体移動部152とからなっており、この位置検出部151で検出された位置情報から浮体構造物110が赤道反流海域内に留まるようにその位置を移動制御している。すなわち、位置検出部151はGPS(Global Positioning System)アンテナやその信号を取り出すGPSユニットから構成されており、赤道反流海域の洋上を漂流する浮体構造物110の位置を衛星信号を受信して高精度で検出し、その位置情報を常時あるいは定期的または随時に浮体移動部152に入力している。
【0060】
また、浮体移動部152は、操舵装置154と、前述したように各浮体ユニット111のタンク116底面に設けられた方向舵(舵板:ステアボード)155と、これらを電子制御するコントロールユニット153などから構成されている。コントロールユニット153には、赤道反流海域を含む領域の地図データや海流に関するデータなどが記憶されており、位置検出部151から入力される位置情報からその浮体構造物110がどの位置にあるのかを高精度で検出し、その浮体構造物110が赤道反流海域から外れたときあるいは外れそうになったときは、操舵装置154を制御してその浮体構造物110が赤道反流海域内に留まるようにその位置を制御する。
【0061】
すなわち、一般に海に浮かぶ構造物を動かすためにはエンジンやモーターによって駆動するスクリューなどを備えてその推進力を利用することが考えられる。しかし、本発明のような数十~数百kmにも及ぶ巨大な浮体構造物110の流れる方向を変えるには膨大な動力を要する上に、エンジンを駆動するために化石燃料を使用したり、発電された電力を用いてモータを駆動する方式では、本願発明の目的に反してしまう。前述したように浮体構造物110の流れる方向を変えるのは赤道反流の東西端での折り返し地点だけであり、赤道海流の外縁から離れて浮遊している以上、そこから逸脱しまうことはない。
【0062】
その一方で、赤道反流や南赤道海流は、両者の接触面では流速が低下するため、浮体構造物110が両端に辿りつく前に内側に流されてしまう可能性も否定できない。そのために何らかの操舵設備が必要となり、折り返し地点で旋回する必要はなく先端部と後端部が入れ代わるスイッチバックのような運動が可能な方向舵155を用いるのが最適である。そして、この方向舵155による操舵能力は微調整程度で良い。たとえば折返し点の500km手前から徐々に浮体構造物位置を北または南に35kmほど横に移動させれば充分であってsin0.070は4°でしかない。この程度であれば、浮体ユニット111の後部(海流圧がかかる部分)に多数の方向舵155を取り付け、これを操舵装置154およびコントロールユニット153で一斉に舵角度を変え、水の抵抗を操作するだけで方向の調整は容易にできる。
【0063】
このように本発明の水素生成プラント100によれば、再生可能エネルギーの1つである太陽光エネルギーを効率良く利用してこれを水素として安定的に生産し、大都市などの需要地に輸送して供給することができる。また、年間を通じて常時最適な環境で効率的な発電を行うことができる上に、台風による強風や荒波に晒されて浮体構造物110やその設備が破損してしまうようなこともない。これにより、化石燃料の大量消費による地球温暖化などを防止でき、将来懸念される人類のエネルギー危機を回避できる。
【0064】
また、浮体構造物110は赤道反流海域から外れることなくその海域内を永遠に循環するため、年間を通じて常時最適な環境で効率的な発電を行うことができる。さらに生産した水素ガスの貯蔵輸送に有機ケミカルハイドライド法を用いることから輸送船143を用いて需要地まで効率良く輸送して利用することができる。また、前述したように本発明の水素生成プラント100は、赤道反流の東端でその海流に乗ってその向きを自然に変えるようになるが、赤道反流の東端海域(エクアドル本土より西約900km)には、大小多くの島と岩礁からなるガラパゴス諸島(南緯1°36′西経89°16′)があるため、より正確には、そのガラパゴス諸島の西約200海里あたりで向きを変えるように制御することが望ましい。また、赤道反流の西端にはキリバス共和国キンチマチ島(北緯1°56′西経157°28′)があることから、その東約200海里あたりで折り返すように制御することが望ましい。
【0065】
なお、トルエン1kgがメチルシクロヘキサンに変化することで増加する水素の質量は49.5gとされているので、5万tのトルエンには250tの水素が添加されることになるが、この数字は燃焼ベースで約83tのLNG相当するに過ぎず、この非効率が今までMCHによる大量輸送というアイディアを妨げてきた。たとえば、東京電力などで使用しているLNGタンカーは一度に6~7万t輸送できるので、コスト的にまったく太刀打ちできないように見える。
【0066】
しかし、運んだLNGで水素ガスを生成する場合、LNG100から作れる水素ガスはエネルギーベースでは70になってしまう。現在は派生する二酸化炭素の量は石炭を燃やして発電するのに比べればまだマシだということで、その問題は野放しにされているが、この二酸化炭素を回収するとなると莫大な費用がかかることになる。また、LNGは購入しなければならないが、赤道反流上で生成される水素ガスの生産コストは初期投資を除けばほぼゼロであり、その後のランニングコストも全体のコストに影響するほどではない。
【0067】
輸送そのもののコストにおいてもLNGは液化して冷却状態を保ちながら輸送する必要があり、専用タンカーの建造費や安全対策を考慮すると、そのコストは一般の貨物船(コンテナキャリア)で運べるメチルシクロヘキサンに比べて大きく見劣りする。また、コンテナ船であればLNGのような受入れ設備が不要であるから、いわゆる「瀬取り」ができる。すなわち、沿岸の適当な海域で海上に浮くコンテナCを一部放出し、小型コンテナキャリアに移しかえて、宅配便の配達のように沿岸の一般的な港湾に運ぶことができるから、陸上輸送コストを大幅に削減したり、沿岸近くの中小都市や離島に小型発電所を作ることができる。
【0068】
以上のような事情を考えれば、コンテナキャリアを多数シャトルさせることは決して荒唐無稽な着想ではない。現時点ではたしかに多数の船舶が重油で動けば、二酸化炭素問題が発生するが、これまで水素動力船が開発されていないのは技術的な問題よりも、コスト的な問題が大きく建造する理由がなかったことによる。水素ガスの価格も無視できないが専用船を作れば水素冷却と船への注入設備を持った母港が必要になり、航路も限定されてしまう。LNGを改質して作った水素ガスを燃料にするより、LNGをそのまま燃料にしてしまった方が有利であることは自明であるし、すでにLNGを燃料とする船が就航している。
【0069】
また、浮体構造物110を構成する各浮体ユニット111やベースフロートBFの随所に避雷針を兼ねるポールを立て、そのポールに衝突防止用ビーコンや遠方から目視できるような船旗、アドバルーン、LED照明などを取り付ければ、近くをとおる船舶や大型タンカーなどにその存在を確実に知らせることができる。なお、濃霧の発生や台風による視界不良が殆ど発生しない赤道反流域では、これで充分通用する。
【0070】
また、数十個の浮体ユニット111にそれぞれ独立した発電・電解・貯蔵・充填・域内移動運搬・作業員生活空間の設備を備え、これらの機能を統合してコントロールしても良い。例えば、水素ガス輸送船の効率的な配船・本国との連絡などを行う場合は、その統合指揮部署だけは船舶に設置し、浮体構造物110と伴走させるようにしても良い。そして、この指揮機能をもつ船舶には、浮体構造物110にはないヘリコプター基地、病院設備、学術観測設備なども備えても良い。
【0071】
(メタン生成設備180)
また、前述した水素貯蔵輸送設備140と共に、あるいはこの水素貯蔵輸送設備140に代えて図18に示すようなメタン生成設備180を備えることもできる。このメタン生成設備180は、タンク状のメタン生成部181と、同じくタンク状のメタン液化部182とから主に構成されており、前述した水分解設備130で得られた水素(H)と二酸化炭素(CO)とを高温高圧下で化学反応させてメタン(CH)と水(HO)を生成するようにしたものである
【0072】
すなわち、図示するようにこのメタン生成部181には、圧縮機183、184をそれぞれ備えた供給ラインL1、L2が備えられており、一方の炭酸ガス取入ラインL1から二酸化炭素(CO)が加圧されて供給されると共に、他方の水素供給ラインL1から水素(H)が加圧されて供給されるようになっている。そして、このメタン生成部181内にはヒーター185と図示しないニッケル触媒が備えられており、加圧供給された水素(H)と二酸化炭素(CO)と高温(400℃)下でサバティエ反応させてメタン(CH)と水(HO)を生成するようになっている(4H+CO=CH+2HO)。
【0073】
このメタン生成部181とメタン液化部182は、その途中が海中深くにまで延びる冷却ラインL3で連結されており、メタン生成部181で生成されたメタンはこの冷却ラインL3を介して30℃程度まで冷却された後、メタン液化部182に送られるようになっている。そして、このメタン液化部182には図示しない冷凍機が備えられており、導入されたメタンガスをその沸点(-161.6℃)以下の-180℃程度まで冷却して液化した後、液化メタンラインL4を介して図示しないタンカーへ送り、液化メタンとして陸地に輸送するようにしたものである。
【0074】
このメタン生成設備180で使用する二酸化炭素は、前述した水素の輸送地(陸地)にある発電所、製鉄所、セメント製造工場、アンモニア製造工場などの設備で必然的に発生する大量かつ高濃度の二酸化炭素を使用することができる。具体的には、化石燃料を使用する発電所などの設備から回収された二酸化炭素ガスは常圧下-78.6℃で昇華(ドライアイス化)させ、それをタンカーの液化天然ガス貯蔵室に格納し冷却状態を保持しながら赤道反流上にある本発明の水素生成プラント100まで運ぶ。
【0075】
ドライアイスの重量は1.56ton/mであり、液化メタンガス415kg/mより遥かに重く、積載ボリュームはメタンガスの1/4程度にしかならないのでドライアイス注入時に断熱膨張して微粉末状になり体積が増しても容易に充填できる。水素生成プラント100では積みおろしたドライアイスをそのまま冷却保存し、必要な量を気体化してこのメタン生成設備180に導入する。
【0076】
タンカーの貯蔵室にはドライアイスを噴出させるためのノズルを設置し、外部より直接噴出させて注入する。タンカーの冷却機はドライアイスが安定するようにマイナス78℃で調節できるように調整する。このタンカーは帰路にはメタン生成設備180で生成された液化メタンガスを運んでくるので、採掘現場から液化天然ガスを運ぶタンカーのように片道が空荷にして無駄になることはない。液化メタンを充填するスペースは極低温に耐える設計になっているので、ドライアイスが充填スペースの内壁を傷つけることは物理的にも化学的にもない。
【0077】
また、メタン生成部181での反応に必要な高温(400℃)は、電気ヒーター185の他に陽光反射集光装置で熱する溶融塩や水素バーナーを用いることで容易に得ることができると共に、反応に必要な圧力はソーラーパネルで発電された電気で駆動する圧縮機183、184によって容易に得ることができる。なお、二酸化炭素は陸上からの輸送費がかかってしまうが、メタンガスと二酸化炭素の両方を運べるタンカーを造れば空荷で運航する部分が減るのでコストは大幅に節減できる。
【0078】
このようにメタン生成設備180を備えれば、水分解設備130で生成された水素と、陸地の既存の火力発電所や製鉄所などで発生した二酸化炭素とを反応させてメタンを生成させれば、大気中に放出される二酸化炭素を大幅に削減して地球温暖化を防止できるだけでなく、これをメタン(燃料)として再利用することが可能となる。このように生成されたメタンガスはカーボンニュートラルであり、そのメタンガスを化石燃料による発電や都市ガスの燃料に置き換えることで二酸化炭素の排出を削減させ社会の要請に応えることができる。
【0079】
なお、このサバティエ反応を利用した炭酸ガス循環システム、すなわち自然エネルギーによる電力による水素ガスを調達し、併せて余剰の排熱の一部をサバティエ反応に利用するシステムを構築すれば発電所や製鉄所などの近隣で稼動させることもできる。COを産業廃棄物と捉え、そこに廃棄コストがかかることを受容すれば、この排出されたCOをクリーンな水素と反応させてメタンガスを作り燃料として再利用する循環システムは、炭酸ガス排出削減の一つの手段となり得る。
【0080】
また、このメタン生成設備180でメタンの原料となる二酸化炭素としては、図19に示すような二酸化炭素回収設備190を使用して本発明の水素生成プラント100が浮遊する海域の大気中から回収したものを用いることができる。図示するようにこの二酸化炭素回収設備190は、温度の低い海面下に位置するタンク状の炭酸ガス吸収部191と、同じくタンク状の炭酸ガス回収部192とから主に構成されており、本発明の水素生成プラント100が浮遊する海域の大気中からわずかな二酸化炭素を回収してこれをメタン生成設備180で利用するようにしたものである。
【0081】
すなわち、地球上の大気のなかに占める二酸化炭素は0.04%であり、これをこの二酸化炭素回収設備190で90%程度まで濃縮してメタン生成設備180に供給するものである。この炭酸ガス吸収部191には、大量の大気を取り入れるべく送風機196を備えた大口径(約2m)のパイプからなる大気取入ラインL1が設けられていると共に、その内部には海水または真水が貯留されている。さらに、この大気取入ラインL1には水素バーナー部193が設けれている。そのため、送風機196によって大気取入ラインL1を通過する空気は、燃焼バーナー部193で水素を燃料とするバーナーの燃焼によって酸素が消費されてその二酸化炭素はその濃度が0.05%まで上昇した状態で炭酸ガス吸収部191内に送り込まれ、その底部にある無数の穴が空いたノズル194から細かな泡となって海水または真水中に放出される。
【0082】
炭酸ガス吸収部191内に放出された大気は、海水または真水と接触することで含まれている二酸化炭素が海水または真水中に溶け込み、炭酸水を生成する(HO+CO=HCO)。一方、海水または真水に溶け込み難いその他のガス(N、O、Arなど)はそのまま水面上に出て水面に一定の気圧を与えることで二酸化炭素の溶解度を増加させた後、排ガスラインL4から大気中に放出される。
【0083】
その後、炭酸ガス吸収部191で生成された炭酸水は、連結ラインL2を介して炭酸ガス回収部192に順に流れる。この炭酸ガス回収部192の底部には電気ヒーター195が設けられており、流れ込んだ炭酸水を約60℃まで温めるようになっている。これによって、温められた炭酸水中の二酸化炭素がガスとなって気相中に分離されて水面上に溜まりその濃度が約90%程度まで濃縮されるため、その後は炭酸ガス供給ラインL3からメタン生成設備180に順次供給されることになる。
【0084】
なお、この高濃度の二酸化炭素中には、少量の窒素や酸素、アルゴンなどが含まれているが、これらのガスはサバティエ反応に影響しない。そして、最初に吸入する大気中のCOは0.04%とされているので、4kgのCOを獲得するには10tonの空気を取り込めばよい。大気の重さはおおむね1mあたり1kgなので1000mで1tonになる。したがって、この方法で4tonのCOを得るには1万ton、1千万mの大気が必要になる。いま、断面積が4.0m(口径2m強)のパイプに流速10m/secの空気を流すと40m/sec(2400m/min 144000m/h)の流量になるので、このようなパイプを10本作れば一日あたり約11tonのCOを取り出すことができる。
【0085】
同様の計算で1日3000ton(年間100万ton)のCOを回収するのには、上記パイプを300本作ればよい。COを運搬する費用はゼロであり、構造としては酸素を除去するための炭酸ガス吸収部191と、炭酸ガス回収部192を60℃に保つヒーター195だけの極めて単純なものである。もちろん広大な敷地を必要とするが、一面に敷き詰めたソーラーパネルの下に莫大な未利用空間のある本発明の水素生成プラント100にあっては大きな障害にはなり得ない。
【0086】
この構成では、前述したドライアイスのような純度の高い二酸化炭素を得られ難いが、もしサバティエ反応器に残余の窒素やアルゴンが混入しても水素ガスと反応しないので生産効率が若干落ちるだけだと推測される。空気を送り込むパイプは可燃物を扱うわけではないので一般に使う対塩性プラスチック製のものに水圧で萎まないように所々にリングをつけたものでよい。個々のパイプラインの長さは最長で300m程度である。
【0087】
また、このようにメタンとして輸送するためには、大型船の接舷受入れ設備が必要となるが、LNGタンカーなどは陸上の装置からパイプによってガスを注入や排出をするために、バルブは船体上部に取り付けられており、船によって取り付け口の高さも違う。港湾の中とは違って海面に「うねり」のあることもあるので、浮島には接舷用のフロートを作り、本発明の水素生成プラント100側のガスパイプが船体の注入バルブに届くように高さを調節する必要がある。
【0088】
また、メタノール、エタノール、アンモニア、ギ酸、尿素など社会の基幹になる素材産業でありながら、大量の化石燃料や化石燃料由来の水素を使い、二酸化炭素を排出せざるを得ないために物流の便のよい陸地での操業が難しくなっている。本発明は赤道反流上の恵まれた気候条件や地理的条件に加え、初期投資を軽減できる下記のインフラを用意して、これらを資源として利用する企業に敷地を提供できるものである。
【符号の説明】
【0089】
100…水素生成プラント
110…浮体構造物
111…浮体ユニット
112…浮桟橋
113…設備エリア
114…デッキプレート
115…ボトムプレート
116…タンク
117…支柱
120…太陽光発電設備
121…太陽電池モジュール
122…接続箱
123…パワーコンディショナー
124…蓄電池
130…水分解設備
131…制御部
132…取水部
133…電気分解部
134…分岐管
135…取水管
136…排水管
137…水素管
138…酸素管
140…水素貯蔵輸送設備
141…水素貯蔵部
142…水素回収部
143…輸送船
144…供給ポンプ
145…ノズル
146…加熱機器
150…位置制御設備
151…位置検出部
152…浮体移動部
153…コントロールユニット
154…操舵装置
155…方向舵(舵板:ステアボード)
160…蒸留水生成設備
161…海水通路
163…蒸発通路
164…凝縮器
165…ダクト
170…冷却水取入設備
171…ホース群
172…保持板
173…汲上げポンプ
180…メタン生成設備
181…メタン生成部
182…メタン液化部
183、184…圧縮機
185…ヒーター
190…二酸化炭素回収設備
191…炭酸ガス吸収部
192…炭酸ガス回収部
193…水素バーナー部
194…ノズル
195…ヒーター
196…送風機
C…コンテナ
BF…ベースフロート
CF…コンテナフロート
CP…コンテナプール
H…可撓性ホース
HV…水素供給バルブ
L…溶媒
N…熱交換部
S…貫通穴
V1、V2…バルブ
Y…輸水部
WBE…作業用ベースフロート
a1…海水取入口
a2…海水排出口
図1
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