(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】素子チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20231106BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
H01L21/78 S
H01L21/78 B
H01L21/302 105A
(21)【出願番号】P 2020016182
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】置田 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】針貝 篤史
(72)【発明者】
【氏名】高崎 俊行
(72)【発明者】
【氏名】唐崎 秀彦
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-212765(JP,A)
【文献】特開平2-274711(JP,A)
【文献】特表2019-518328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する基板を用いて素子チップを製造する、素子チップの製造方法であって、
保護膜を形成するための原料液を用いて前記第1の面上に保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜の一部を除去することによって、前記第1の面の一部を露出させる開口を形成する開口形成工程と、
プラズマを用いて前記基板を前記開口からエッチングするエッチング工程と、を含み、
前記原料液は、少なくとも一部がコロイド粒子として分散しているポリマーを含み、
前記保護膜形成工程は、前記原料液がミストとなるように、前記第1の面に前記原料液を噴霧する噴霧工程を含み、
前記噴霧される前の前記原料液中における前記コロイド粒子の平均粒径Aと、前記ミストが前記第1の面に到達するときのメジアン径であって前記ミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径Bとは、20<B/Aの関係を満たす、素子チップの製造方法。
【請求項2】
前記開口形成工程において、レーザスクライビングによって前記保護膜の前記一部を除去する、請求項1に記載の素子チップの製造方法。
【請求項3】
前記原料液は水を含み、
前記ポリマーは、親水性を有する原子団を含有するポリマーである、請求項1または2に記載の素子チップの製造方法。
【請求項4】
前記平均粒径Aが100nm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の素子チップの製造方法。
【請求項5】
前記原料液の25℃における粘度が0.3~100mPa・sの範囲にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の素子チップの製造方法。
【請求項6】
前記基板は、前記第1の面に、凸部および凹部からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の素子チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子チップの製造方法に関し、特に、プラズマによるエッチングを用いた素子チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板をダイシングする方法として、基板にプラズマエッチングを施して個々のチップに分割するプラズマダイシングが注目されている。プラズマダイシングでは、プラズマエッチングを施す際に、エッチングしない部分を保護膜で保護する。基板のうち保護膜が形成されていない部分はプラズマエッチングされ、その結果、基板が個片化される。プラズマダイシングの技術については、従来から報告されている(たとえば特許文献1)。
【0003】
保護膜を形成する基板には、凹凸が形成されている場合がある。たとえば、基板には、素子チップに必要とされるバンプ(凸部)やトレンチ(凹部)が形成されている場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマダイシングにおいて、保護膜が均一に形成されていない場合には、素子チップに必要とされる部分がエッチングされてしまう場合がある。そのため、信頼性よく素子チップを製造するためには、保護膜をばらつきなく均一に形成する必要がある。一方、基板に凹凸が形成されている場合には、それらの凹凸をムラなく均一に保護膜でカバーすることは容易ではない。そのため、信頼性よく素子チップを製造するためには、凹凸が形成されている基板にも保護膜をばらつきなく均一に形成する技術が必要とされる。
【0006】
このような状況において、本発明の目的の1つは、信頼性よく素子チップを製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、第1の面と前記第1の面とは反対側の第2の面とを有する基板を用いて素子チップを製造する、素子チップの製造方法に関する。当該製造方法は、保護膜を形成するための原料液を用いて前記第1の面上に保護膜を形成する保護膜形成工程と、前記保護膜の一部を除去することによって、前記第1の面の一部を露出させる開口を形成する開口形成工程と、プラズマを用いて前記基板を前記開口からエッチングするエッチング工程と、を含み、前記原料液は、少なくとも一部がコロイド粒子として分散しているポリマーを含み、前記保護膜形成工程は、前記原料液がミストとなるように、前記第1の面に前記原料液を噴霧する噴霧工程を含み、前記噴霧される前の前記原料液中における前記コロイド粒子の平均粒径Aと、前記ミストが前記第1の面に到達するときのメジアン径であって前記ミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径Bとは、20<B/Aの関係を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、信頼性よく素子チップを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図2】噴霧装置の一例を模式的に示す上面図である。
【
図3】プラズマエッチング装置100の一例の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。
【0011】
(素子チップの製造方法)
本発明の一実施形態に係る素子チップの製造方法について、以下に説明する。当該製造方法は、第1の面と第1の面とは反対側の第2の面とを有する基板を用いて素子チップを製造する方法である。この製造方法は、保護膜形成工程、開口形成工程およびエッチング工程を含む。それらの工程について、以下に説明する。なお、本実施形態の製造方法は、保護膜形成工程の前に、他の工程を含んでもよい。たとえば、本実施形態の製造方法は、保護膜形成工程の前に、第1の面および第1の面とは反対側の第2の面を有する基板を準備する基板準備工程を含んでもよい。
【0012】
(保護膜形成工程)
保護膜形成工程は、保護膜を形成するための原料液を用いて基板の第1の面上に保護膜を形成する工程である。原料液は、少なくとも一部がコロイド粒子として分散しているポリマーを含む。以下では、このポリマー(たとえば樹脂または高分子)を「ポリマー(P)」と称する場合がある。保護膜形成工程は、原料液のミストを基板の第1の面に噴霧する噴霧工程を含む。
【0013】
噴霧される前の原料液中におけるコロイド粒子の平均粒径A(nm)と、上記ミストが第1の面に到達するときのメジアン径であってミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径B(nm)とは、20<B/Aの関係を満たす。以下では、ミストが第1の面に到達するときのメジアン径であってミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径Bを、「ミストのメジアン径B」または単に「メジアン径B」と称する場合がある。ここで、体積基準のメジアン径は、体積基準の粒度分布において累積体積が50%になる径(D50)である。
【0014】
なお、この明細書において、ミストとは、液体からなる多数の粒子の集合体を意味する。メジアン系Bは、一般的にミストと呼ばれるものを構成する粒子の体積基準のメジアン径よりも小さくてもよいし大きくてもよい。
【0015】
噴霧工程によって、原料液中の固形成分(少なくともポリマー(P)を含む)が第1の面上に堆積する。原料液中の液体成分が除去されることによって、原料液中の固形成分からなる保護膜が第1の面上に形成される。形成された保護膜は、ポリマー(P)を含む。通常、保護膜の組成は、原料液に含まれる固形成分の組成と同じである。
【0016】
原料液中の液体成分は、噴霧されてから基板の第1の面に到達するまでの間、および/または、第1の面に堆積した後に、除去される。噴霧工程によって基板の第1の面に形成された膜が、開口形成工程(たとえばレーザスクライビング)に好適ではない量の液体成分を含む場合には、噴霧工程の後に、形成された膜中の液体成分を除去する乾燥工程を行ってもよい。すなわち、保護膜形成工程は、噴霧工程と、乾燥工程とを含んでもよい。液体成分の除去の方法に限定はなく、自然乾燥で行ってもよい。あるいは、乾燥処理、減圧処理、および加熱処理などの処理のうちの少なくとも1つを実施することによって、液体成分を除去してもよい。
【0017】
(基板)
基板は、製造される素子チップに応じて選択される。基板は、第1の面(第1の主面)と、第1の面とは反対側の第2の面(第2の主面)とを有する。基板は、通常、複数の素子領域と、素子領域を画定する分割領域(エッチング領域)とを含む。分割領域は、プラズマエッチング(プラズマを用いたエッチング)によってエッチングされる領域である。素子領域は、素子チップに必要な構成要素の少なくとも一部を含む。
【0018】
基板は、素子チップの製造に用いられる基板であって且つプラズマエッチング可能な基板である限り特に限定はない。基板の材料の例には、シリコンウエハのような半導体基板、フレキシブルプリント基板のような樹脂基板、セラミックス基板などが含まれる。基板の材料が半導体基板である場合、基板は、半導体層と回路層とを含んでもよい。基板は、公知の半導体プロセスを用いて半導体基板を加工して回路層を形成することによって作製されてもよい。半導体基板を構成する半導体の例には、シリコン(Si)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)などが含まれる。
【0019】
回路層は、半導体回路、電子部品素子、微小電気機械システム(MEMS)などを含んでもよいし、それらの前駆体を含んでもよい。回路層は、絶縁膜、金属材料、樹脂層(例えばポリイミド層)、レジスト層、電極パッド、およびバンプなどを含んでもよい。回路層は、多層回路層として、配線用の金属材料からなる膜と絶縁膜との積層体を含んでもよい。
【0020】
基板の大きさは特に限定されない。基板の周縁部から他の周縁部までの最大距離(基板が円形の場合は直径)は、50mm~450mmの範囲にあってもよい。基板の平面形状の例には、円形、矩形、およびその他の形状が含まれる。基板の厚さは、20μm~1000μmの範囲(たとえば100μm~300μmの範囲)にあってもよい。
【0021】
基板は、第1の面に、凸部および凹部からなる群より選ばれる少なくとも1つを有してもよい。たとえば、基板の第1の面には、バンプ、電極、TEG、トレンチなどが形成されていてもよい。
【0022】
素子チップの平面形状の例には、矩形および六角形などが含まれる。分割領域の形状および幅は、素子チップの形状に応じて選択される。分割領域は、1つ以上の直線状の領域、1つ以上の曲線状の領域、およびそれらを組み合わせた領域で構成されてもよい。典型的な一例では、分割領域は、格子状の形状を有する。
【0023】
分割領域は、通常、複数本の線状の領域で構成される。それらの線状の領域の幅は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。それらの幅は、例えば、10μm以上300μm以下であってもよい。
【0024】
本実施形態の製造方法の実施を容易にするために、基板の第2の面は、ダイアタッチフィルム(DAF)などに貼り付けられていてもよい。ダイアタッチフィルムには、公知のものを用いてもよい。
【0025】
(原料液)
原料液は、少なくとも一部がコロイド粒子として分散しているポリマー(P)を含む。ポリマー(P)の一部は、コロイドを形成せずに原料液に溶解していてもよい。原料液に含まれるポリマー(P)は、1種類のポリマーで構成されてもよいし、複数種のポリマーで構成されてもよい。
【0026】
ポリマー(P)は保護膜の主要な成分である。原料液に含まれる固形成分に占めるポリマー(P)の割合は、30~100質量%であってもよい。原料液は、ポリマー(P)以外の固形成分を含んでもよい。典型的な一例では、原料液中のコロイド粒子は、ポリマー(P)のみによって形成される。
【0027】
ポリマー(P)に含まれるポリマーは、親水性を示す原子団(たとえば官能基)を有するポリマーであってもよく、親水性基を有するポリマーであってもよい。親水性を示す原子団の例には、カルボキシル基、水酸基、カルボニル基、アミノ基、エステル結合、およびその他の公知の親水性を示す原子団が含まれる。一例では、ポリマー(P)は、カルボキシル基および水酸基などの親水性基を有するポリマーである。ポリマー(P)の例には、親水性を有するポリエステル系ポリマー(ポリエステルを含む)が含まれる。親水性を有するポリエステル系ポリマーの例には、親水性基を含むモノマを共重合したポリエステル系ポリマーが含まれる。ポリマー(P)の具体的な例には、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリアクリルアミド、水溶性ポリエステル、ポリスチレンスルホン酸リチウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、およびそれらを基本骨格とする誘導体などがあげられる。
【0028】
原料液を構成する液体成分(溶媒、分散媒)を、以下では「液体(S)」と称する場合がある。液体(S)には、水性液体を用いてもよい。水性液体は、水を含む液体である。水性液体中の水の割合は、10~100質量%の範囲、20~100質量%の範囲、30~100質量%の範囲、50~100質量%の範囲、または80~100質量%の範囲にあってもよい。これらの範囲において、下限を下回らない範囲で、上限を、90質量%、70質量%、50質量%、40質量%、または30質量%としてもよい。
【0029】
液体(S)は、水と非水溶媒との混合液であってもよい。そのような非水溶媒の例には、アセトン、プロピルアルコール(たとえばイソプロピルアルコール)、メチルエチルケトン(MEK)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ブタノン、トルエンなどが含まれる。液体(S)中の非水溶媒の割合を高くすることによって、噴霧時に溶媒の一部の揮発が進み、噴霧粒径を小さくすることが可能であり、成膜の品質(均質性)を改善することが可能となる。
【0030】
本実施形態の製造方法の好ましい一例では、原料液は水を含み、ポリマーは、親水性を有する原子団を含有するポリマーである。
【0031】
親水性を有するポリマー(P)を水性液体に溶解させた場合でも、一部のポリマー(P)は溶解せずに、原料液がコロイド状態となる場合があることを本発明者らは新たに見出した。また、本発明者らは、そのような原料液をミスト化して噴霧すると、特定の条件下では均一な保護膜の形成が難しいことを見出した。本発明は、それらの新たな知見に基づくものである。ただし、本発明は、親水性を有するポリマー(P)を水性液体に溶解させる場合に限定されない。
【0032】
原料液中のコロイド粒子の平均粒径Aは、「ISO規格22412:2017の粒度分析-動的光散乱」に基づく分析において、キュムラント法による解析によって得られる平均粒径(キュムラント径)である。
【0033】
原料液中のコロイド粒子の平均粒径Aは、通常、小さい方が好ましいと考えられるが、ポリマー(P)の種類および液体(S)の種類によっては平均粒径Aが大きくなる場合もある。コロイド粒子の平均粒径Aは、5000nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。平均粒径Aを100nm以下とすることによって、原料液の安定性が高くなる。コロイド粒子の平均粒径Aの下限に特に限定はないが、1nm以上(たとえば10nm以上)であってもよい。
【0034】
コロイド粒子の平均粒径Aは、たとえば、液体(S)の種類や液体(S)の組成によって制御できる。
【0035】
コロイド粒子の平均粒径Aに対する、ミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径Bの比B/Aの値は、上述したように、20より大きくすることが好ましく、160より大きくしてもよい。ただし、実施例で説明するように、比B/Aの値を12以上とすることによって、保護膜の厚さのばらつきを大きく低減できる。
【0036】
原料液の25℃における粘度は、0.3~100mPa・sの範囲(たとえば10~20mPa・sの範囲)にあってもよい。原料液の粘度をこの範囲とすることによって、噴霧が安定化して、ミストに通常よりもサイズの大きい異常粒子が含まれにくくなり、ミストを構成する粒子のサイズのばらつきが小さくなる。その結果、基板に到達した後の個々の粒子の流動性や乾燥に要する時間の均一性が高まり、平滑な表面を備える保護膜を形成しやすくなる。
【0037】
(噴霧方法)
原料液のミストを噴霧する方法に特に限定はなく、公知の技術を用いてもよい。たとえば、エアスプレー方式、超音波スプレー方式、静電スプレー方式を用いてもよい。
【0038】
エアスプレー方式では、原料液をノズル(液体を噴霧してミストにするためのノズル)から噴出させることによって、原料液をミストにしてもよい。具体的には、原料液とガス(たとえば空気)とを一緒にノズルから噴出させることによって、原料液をミストにして噴霧してもよい。
【0039】
ミストは、原料液の粒子によって構成される。ミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径Bは、レーザ回折法で測定することができる。
【0040】
メジアン径Bは、2~100μmの範囲(たとえば5~40μmの範囲)にあってもよい。なお、メジアン径Bの値が大きくなりすぎると、保護膜のばらつきが大きくなる場合がある。そのため、メジアン径Bを、30μm以下(たとえば20μm以下)としてもよい。
【0041】
メジアン径Bは、原料液をミストにする条件、原料液の粘度および表面張力などによって制御できる。さらに、2流体ノズルを用いるエアスプレー方式の場合には、エア流速によってもメジアン径Bを制御できる。また、超音波スプレー方式の場合には、超音波ノズルに印加される超音波の周波数や出力などによっても、メジアン径Bを制御できる。たとえば、超音波ノズルでは、超音波の周波数や出力など大きくすることによって、噴霧粒径を小さくすることができる。また、2流体ノズルでは、エア流速を上げることによって、粒子を微量化することが可能である。いずれにせよ、流体を衝突させ破砕する力を制御することによって、噴霧粒径を容易に制御することができる。さらに、原料液の粘度が大きくなるとメジアン径Bが大きくなり、原料液の表面張力が大きくなると噴霧粒径が大きくなる。
【0042】
ノズル径に特に限定はなく、原料液の粘度や、目標とするメジアン径Bなどを考慮して選択すればよい。
【0043】
エアスプレー方式の場合、(ノズルに供給される原料液の流量FL):(ノズルに供給されるガスの流量FG)の体積比を、原料液:ガス=1000~50000の範囲(たとえば1000~20000の範囲)としてもよい。
【0044】
原料液を噴霧する雰囲気に特に限定はない。原料液を噴霧する雰囲気は、室温の大気雰囲気であってもよいし、乾燥雰囲気、減圧雰囲気、および高温雰囲気から選ばれる少なくとも1つの雰囲気であってもよい。
【0045】
保護膜は、エッチング工程において素子領域を保護するために必要な厚さを有する。エッチング工程では保護膜もエッチングされるが、それを考慮して保護膜の厚さを決定すればよい。好ましい一例では、保護膜の厚さは、エッチング工程の終了時に素子領域の全体を保護膜が覆っているように選択される。保護膜の厚さは、保護膜形成工程において第1の面に噴霧される原料液の量を変化させることによって制御できる。また、保護膜の厚さは、原料液中の固形成分の濃度を変化させることによっても制御できる。一例の保護膜の厚さは、0.5~70μmの範囲にある。
【0046】
(開口形成工程)
開口形成工程は、保護膜の一部を除去することによって、第1の面の一部を露出させる開口を形成する工程である。開口は、分割領域に形成される。具体的には、開口は、分割領域に存在する保護膜を除去することによって形成される。保護膜の除去の方法に限定はなく、公知の方法および公知の条件で行ってもよい。たとえば、開口形成工程において、レーザスクライビングによって保護膜の上記一部を除去してもよい。レーザスクライビングでは、レーザ光を保護膜に照射することによって、レーザ光を照射した部分の保護膜を除去する。
【0047】
レーザスクライビングの条件は特に限定されず、保護膜に応じて選択すればよい。レーザ光のパルス幅は、500ナノ秒以下(たとえば200ナノ秒以下)としてもよい。レーザ光の波長は、紫外線域(波長200~400nm)の波長であってもよい。
【0048】
(エッチング工程)
エッチング工程は、プラズマを用いて基板を上記開口からエッチングする工程である。エッチング工程は、プラズマを用いて基板を上記開口から基板の第2の面に到達するまでエッチングすることによって基板を個片化する工程(個片化工程)であってもよい。この場合のエッチング工程では、基板の第1の面の側から、基板の第2の面に到達するまで、分割領域のエッチングが行われる。その結果、基板が個片化される。
【0049】
プラズマエッチングの条件は、基板の材質などに応じて設定すればよい。プラズマエッチングは、公知の方法および公知の条件で行ってもよい。基板が主にシリコンからなる場合、エッチング工程は、いわゆるボッシュプロセスと呼ばれる工程を含んでもよい。ボッシュプロセスでは、エッチング工程と保護工程とを含むサイクルを繰り返すことによって、基板が厚さ方向にエッチングされる。エッチング工程では、六フッ化硫黄(SF6)などを用いたシリコンの等方性エッチングによって基板に凹部を形成する。保護工程では、フロロカーボン系のガス(C4F8など)を用いて、凹部の側壁を保護する膜を当該側壁に形成する。
【0050】
以上のようにして基板がエッチングされる。なお、本実施形態の製造方法は、必要に応じて、保護膜形成工程、開口形成工程、およびエッチング工程以外の工程(たとえばそれら以外の公知の工程)を含んでもよい。たとえば、エッチング工程の後に、残存した保護膜を除去するアッシング工程を行ってもよい。アッシング工程は、エッチング工程を行った装置を用いて、エッチング工程に続けて行うことが可能である。アッシング工程に特に限定はなく、公知の条件で行うことができる。
【0051】
なお、1つの観点では、本実施形態の素子チップの製造方法は、基板をプラズマエッチングする方法、または、プラズマエッチングによって基板を分割(ダイシング)する方法として利用できる。
【0052】
以下では、本実施形態の製造方法の一例について、図面を参照して具体的に説明する。以下で説明する製造方法の一例は、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項は、上述した実施形態に適用できる。以下の一例では、基板がバンプを有する場合について説明する。なお、本実施形態は以下で説明する一例に限定されない。
【0053】
(実施形態1)
実施形態1の製造方法では、まず、基板を準備する。用いられる基板1の一部の断面図を、
図1(a)に示す。基板1は、半導体層1aと、半導体層1aに積層された回路層1bと、回路層1b上に形成されたバンプ1cとを含む。この一例では、回路層1bが存在する側が第1の面1sであり、第1の面1sの反対側が第2の面1tである。基板1は、素子領域EAと分割領域DAとを含む。
【0054】
なお、基板1の取り扱いを容易にするために、第2の面1tは、ダイボンディングフィルムなどの保持部材に貼り付けられていてもよい。さらに、その保持部材は、搬送用のフレームなどに固定されていてもよい。
【0055】
次に、
図1(b)に示すように、保護膜を形成するための原料液を用いて第1の面1s上に保護膜2を形成する(保護膜形成工程)。保護膜2は、原料液を第1の面1sに噴霧することによって形成される(噴霧工程)。原料液を噴霧することによって、ミストとなった原料液が第1の面1sに向かって放出される。その結果、原料液および/または原料液中の固形成分が第1の面1sに堆積される。原料液中の固形成分によって、保護膜2が形成される。上述したように、噴霧工程は、噴霧される前の原料液中におけるコロイド粒子の平均粒径Aと、ミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径Bとが、20<B/Aの関係を満たすように行われる。
【0056】
噴霧装置の一例の上面を、
図2に示す。
図2の噴霧装置200は、原料液を噴霧するためのノズル201と、ノズル201に接続されたチューブ202と、ノズル201を縦横方向に移動させるためのレール(横方向レール203および縦方向レール204)と、ノズル201を移動させるための駆動装置(図示せず)を含む。ノズル201には、チューブ202を介して原料液が供給される。ノズル201は、縦横に移動しながら、基板1の第1の面1sに向けて原料液とガスとを一緒に噴出する。ノズル201から噴出された原料液はミストとなり、そのミストが第1の面1sに噴霧される。
【0057】
なお、原料液の噴霧によって第1の面1sに形成された膜が、開口形成工程(たとえばレーザスクライビング工程)に好適ではない量の液体成分を含む場合には、上述したように、乾燥工程を行うことが好ましい。
【0058】
次に、
図1(c)に示すように、保護膜2の一部を除去することによって、第1の面1sの一部を露出させる開口2aを形成する(開口形成工程)。開口2aは、分割領域DAに形成される。開口2aによって、分割領域DAにある第1の面1sが露出される。開口2aは、上述した方法(たとえばレーザスクライビング)で形成できる。
【0059】
次に、
図1(d)に示すように、プラズマを用いて基板1を開口2aからエッチングする(エッチング工程)。プラズマエッチング(プラズマを用いたエッチング)は、上述した条件で行うことができる。
図1(d)に示すように、第2の面1tに到達するまでプラズマエッチングを行うことによって、基板1を複数のチップ1xに個片化できる。個片化されたチップ1xは、そのまま素子チップとして用いてもよいし、必要な加工を行って素子チップとしてしてもよい。
【0060】
(プラズマエッチング装置)
プラズマエッチングで用いられる装置の一例を、
図3に模式的に示す。
図3のプラズマエッチング装置100は、真空チャンバ103と、その内側の処理空間に配置されたステージ111とを備える。真空チャンバ103には、ガス導入口103aおよび排気口103bが設けられている。ガス導入口103aには、プロセスガス源112およびアッシングガス源113が接続されている。排気口103bには、真空チャンバ103内のガスを排気して減圧する真空ポンプを含む減圧機構114が接続されている。
【0061】
ステージ111には、搬送キャリア10(フレーム11および保持テープ12)に保持された基板1が載置される。ステージ111の外周には昇降機構123Aにより昇降駆動される複数の支持部122が配置されている。真空チャンバ103内に搬入された搬送キャリア10は、支持部122に受け渡され、ステージ111上に搭載される。
【0062】
ステージ111の上方には、カバー124が配置されている。カバー124は、少なくとも搬送キャリア10のフレーム11を覆うとともに基板1を露出させる窓部124Wを有する。カバー124は複数の昇降ロッド121と連結しており、昇降機構123Bにより昇降される。真空チャンバ103の上部は、誘電体部材108により閉鎖されている。誘電体部材108の上方には、上部電極としてアンテナ109が配置されている。アンテナ109は、第1高周波電源110Aに接続されている。
【0063】
ステージ111は、上方から順に配置された電極層115、金属層116および基台117を備える。これらは外周部118で取り囲まれている。外周部118の上面には保護用の外周リング129が配置されている。電極層115の内部には、静電吸着用の電極部(ESC電極)119と、第2高周波電源110Bに接続された高周波電極部120とが配置されている。ESC電極119は直流電源126と接続されている。高周波電極部120に高周波電力を印加することによって、バイアス電圧を印加しながらエッチング工程を行うことができる。金属層116内には、ステージ111を冷却するための冷媒流路127が形成されている。冷媒循環装置125によって、冷媒流路127内を冷媒が循環する。
【0064】
制御装置128は、プラズマエッチング装置100の動作を制御する。具体的には、制御装置128は、第1高周波電源110A、第2高周波電源110B、プロセスガス源112、アッシングガス源113、減圧機構114、冷媒循環装置125、昇降機構123A、昇降機構123B、および静電吸着機構などの制御を、必要に応じて行う。
【0065】
エッチング装置100を用いてプラズマエッチングを行う一例について説明する。まず、ステージ111上に、搬送キャリア10に保持された基板1を置く。ここで、ESC電極119に電力を供給すると、保持テープ12がステージ111に密着する。次に、真空チャンバ103内を所定の圧力にした状態で、真空チャンバ103内にプロセスガス源112からプロセスガスを導入する。
【0066】
次に、アンテナ109に第1高周波電源110Aから電力を供給することによって、プラズマを生成させる。このプラズマによって、基板1の分割領域DAがエッチングされる。エッチング工程によって分割された基板1は、エッチング装置100から取り出される。このようにして、エッチング工程が行われる。なお、上述したように、エッチング工程に引き続いてアッシング工程を行ってもよい。
【実施例】
【0067】
以下では、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。この実施例では、噴霧される前の原料液中におけるコロイド粒子の平均粒径Aと、噴霧工程で生成されるミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径Bとの比B/Aの値を変化させた。そして、比B/Aと、形成される保護膜の膜厚のばらつきとの関係を評価した。
【0068】
(実施例1)
実施例1では、ポリマー(P)として、3種類のものを用いた。それらを、ポリマー(P1)、ポリマー(P2)、およびポリマー(P3)と称する。これらの3種類のポリマーは、いずれも、親水性を有するポリエステル樹脂である。これらの高分子を含む5種類の原料液(サンプルA1~A5)を調製した。溶媒には、水とアセトンとを含む溶媒、または、水とイソプロピルアルコール(IPA)とを含む溶媒を用いた。
【0069】
サンプルA1~A5の原料液について、原料液中のコロイド粒子の平均粒径Aを測定した。具体的には、「ISO規格22412:2017の粒度分析-動的光散乱」に基づく分析において、キュムラント法による解析によって得られた平均粒径(キュムラント径)を、コロイド粒子の平均粒径Aとした。粒度分析の装置には、マルバーン・パナリティカル社製のゼータサイザーナノZSを用いた。また、大塚電子製のNano SAQLAおよびFPAR-100を用いて追加確認を行った。
【0070】
サンプルA1~A5の原料液を、室温(約25℃)、大気雰囲気中で超音波スプレー用のノズルから噴出させてミストとし、基板上に堆積させた(噴霧工程)。その後、基板上に堆積させた原料液の液体成分を自然揮発によって除去することによって、保護膜を形成した。原料液のミストは、超音波スプレー用のノズルに原料液と空気とを供給し、両者を一緒にノズルから噴出させることによって形成した。このとき、ノズルに供給する原料液の流量は1mL/分とし、空気の流量は13L/分とした。また、ノズルの開口部から基板までの距離は、80mmとした。
【0071】
また、上記と同様の条件でサンプルA1~A5の原料液を噴霧してミストを形成し、そのミストを構成する粒子の体積基準のメジアン径Bを求めた。メジアン径Bは、マルバーン・パナリティカル社製のスプレーテックを使用して測定した。メジアン径Bは、ノズルの開口部から80mmの位置(ノズルの開口部から基板までの距離と同じ位置)にレーザ光を入射させて回折法で測定した。
【0072】
次に、上記工程で形成された保護膜の膜厚のばらつきを評価した。具体的には、フィルメトリックス社製の光干渉法膜厚測定システムF20NIRを使用し、ウェハー内25点を測定して膜厚のバラツキを測定した。
【0073】
サンプルA1~A5の原料液、および、それらを用いて形成された保護膜のばらつきについて、表1に示す。表1の割合Rは、原料液中の液体成分の主要な有機溶媒が、その液体成分に占める割合を示す。また、表1の比B/Aの値は、平均粒径Aおよびメジアン径Bの単位をともに「nm」としたときの比である。
【0074】
【0075】
表1に示した、比B/Aと膜厚ばらつきとの関係を、
図4のグラフに示す。表1および
図4に示すように、比B/Aの値が2.4~20の範囲で、膜厚のばらつきが急激に低下している。特に、比B/Aの値が2.4~約12の範囲で、膜厚のばらつきが急激に低下している。信頼性よく素子チップを製造するには、膜厚ばらつきを10%以下とすることが好ましい。
図4のグラフに示されるように、比B/Aの値を20より大きくとすることによって、膜厚ばらつきを10%以下とすることができる。また、より信頼性よく素子チップを製造するには、膜厚ばらつきを約5%以下とすることが好ましい。そのため、比B/Aの値を160以上とすることが好ましい。
【0076】
(実施例2)
実施例2では、
図1(a)に示したようなバンプを有する基板に実施例1と同様の方法で原料液を噴霧し、それによって、バンプを覆う保護膜を形成した。保護膜の原料液には、実施例1で用いたサンプルA1の原料液と類似の原料液(サンプルB1)、および、サンプルA4の原料液と類似の原料液(サンプルB2)を用いた。それらの原料液について実施例1と同様に測定した結果を、表2に示す。
【0077】
【0078】
形成されたそれぞれの保護膜について、SEM画像を撮影した。それらの画像を、
図5Aおよび
図5Bに示す。
図5Aは、サンプルB1の原料液を用いて形成された保護膜の画像を示す。
図5Bは、サンプルB2の原料液を用いて形成された保護膜の画像を示す。比B/Aの値が約2であるサンプルB1の原料液を用いた場合、バンプ周辺で均一な保護膜が形成されず、膜厚のばらつきが大きかった。このことは、たとえば、凹部を有する基板を用いる場合に、凹部には保護膜が薄い部分が形成されやすいことを示唆している。一方、比B/Aの値が400以上であるサンプルB2の原料液を用いた場合、
図5Bに示すように、バンプ周辺でも均一な保護膜が形成された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、素子チップの製造方法に利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 基板
1a 半導体層
1b 回路層
1c バンプ
1s 第1の面
1t 第2の面
2 保護膜
2a 開口
200 噴霧装置
201 ノズル
EA 素子領域
DA 分割領域