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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20231106BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231106BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20231106BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231106BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231106BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231106BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/134
H01M4/66 A
H01M10/0568
H01M10/0569
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020534134
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2019026869
(87)【国際公開番号】W WO2020026705
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018142299
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 朋宏
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0244093(US,A1)
【文献】特開2001-243957(JP,A)
【文献】国際公開第2018/056615(WO,A1)
【文献】特表2014-520370(JP,A)
【文献】特開2017-199678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-0587
H01M4/00-84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、リチウムイオン伝導性の非水電解質と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、を備え、
前記正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備え、
前記正極活物質は、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物を含み、
前記正極および前記負極が有する単位面積当たりのリチウムの合計量MLiと、前記正極が有する単位面積当たりの遷移金属量MTMとのモル比:MLi/MTMは、1.1以下であり、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に積層された複数の絶縁性の多孔質膜(ただし、セラミックス、有機粒子、無機粒子および有無機粒子の1種以上を合計で70質量%以上含む場合を除く)と、を備え、
前記複数の絶縁性の多孔質膜が、互いに接触し、
前記複数の絶縁性の多孔質膜は、第1多孔質膜と、前記第1多孔質膜と前記負極集電体との間に配置された第2多孔質膜と、を備え、
前記第1多孔質膜の貫通孔を第1貫通孔、前記第2多孔質膜の貫通孔を第2貫通孔としたとき、前記第2貫通孔の平均径は、前記第1貫通孔の平均径より小さく、
前記第1多孔質膜の厚さは、前記第2多孔質膜の厚さ以上であり、
前記第1多孔質膜の厚さは、前記第2多孔質膜の厚さに対して1.1倍以上であり、
充電時、前記負極集電体の表面と前記第1多孔質膜との間にリチウム金属が析出する、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記第1多孔質膜の厚さは0.1μm以上、2μm以下であり、
前記第2多孔質膜の厚さは0.1μm以上、1μm以下である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記複数の絶縁性の多孔質膜は、いずれも前記正極合剤層に対向する対向領域を有し、
前記複数の絶縁性の多孔質膜の少なくとも一つは、前記正極合剤層に対向しない非対向領域を有し、
前記非対向領域の少なくとも一部は、充電状態において、前記負極集電体に接触している、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記複数の絶縁性の多孔質膜の少なくとも一つは、フッ化ビニリデン由来のユニットを有する高分子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記複数の絶縁性の多孔質膜の少なくとも一つは、リチウム塩および常温溶融塩の少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記非水電解質は、フルオロエチレンカーボネートおよびビニレンカーボネートの少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記非水電解質は、リチウムイオンとアニオンとを含み、
前記アニオンは、イミド類のアニオンおよびホウ素を含むオキサレート類のアニオンの少なくとも一種を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記イミド類のアニオンは、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンおよびビストリフルオロメチルスルホニルイミドアニオンの少なくとも一方である、請求項7に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
正極と、負極と、リチウムイオン伝導性の非水電解質と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、を備え、
前記正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備え、
前記正極活物質は、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物を含み、
前記正極および前記負極が有する単位面積当たりのリチウムの合計量MLiと、前記正極が有する単位面積当たりの遷移金属量MTMとのモル比:MLi/MTMは、1.1以下であり、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に積層された複数の絶縁性の多孔質膜(ただし、セラミックス、有機粒子、無機粒子および有無機粒子の1種以上を合計で70質量%以上含む場合を除く)と、を備え、
前記複数の多孔質膜の境界には界面が存在し、
前記複数の絶縁性の多孔質膜は、絶縁性材料で構成され
前記絶縁性材料は、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂およびエポキシ樹脂から選択され、
前記複数の多孔質膜が、互いに接触し、
充電時、前記負極集電体の表面と前記第1多孔質膜との間にリチウム金属が析出する、リチウム二次電池。
【請求項10】
正極と、負極と、リチウムイオン伝導性の非水電解質と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、を備え、
前記正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備え、
前記正極活物質は、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物を含み、
前記正極および前記負極が有する単位面積当たりのリチウムの合計量MLiと、前記正極が有する単位面積当たりの遷移金属量MTMとのモル比:MLi/MTMは、1.1以下であり、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に積層された複数の絶縁性の多孔質膜と、を備え、
前記複数の絶縁性の多孔質膜は、前記負極集電体の少なくとも一方の主面に、前記多孔質膜の原料液を塗布した後、乾燥する工程を、少なくとも2回繰り返すことにより形成され、
前記原料液は、絶縁性材料と、前記絶縁性材料を溶解する溶媒と、を含み、
前記原料液中の前記絶縁性材料の濃度は、3質量%以上35質量%以下であり、
前記絶縁性材料は、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂およびエポキシ樹脂から選択され、
充電時、前記負極集電体の表面と前記第1多孔質膜との間にリチウム金属が析出する、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、パソコンおよびスマートフォン等のICT用、車載用、ならびに蓄電用等の用途に用いられている。このような用途において、非水電解質二次電池には、さらなる高容量化が求められる。高容量の非水電解質二次電池としては、リチウムイオン電池が知られている。リチウムイオン電池の高容量化は、負極活物質として、例えば、黒鉛とケイ素化合物等の合金活物質とを併用することにより達成され得る。しかし、リチウムイオン電池の高容量化は限界に達しつつある。
【0003】
リチウムイオン電池を超える高容量の非水電解質二次電池としては、リチウム二次電池(リチウム金属二次電池)が有望である。リチウム二次電池では、充電時に、負極にリチウム金属が析出し、このリチウム金属が放電時に非水電解質中に溶解する。リチウム二次電池では、充電時、負極にリチウム金属がデンドライト状に析出する場合がある。さらには、デンドライトの生成に伴って負極の比表面積が増大して、副反応が増加する場合がある。そのため、放電容量およびサイクル特性が低下し易い。
【0004】
特許文献1では、デンドライトの成長を抑制するために、リチウムを含んでなる負極に、リチウムイオン伝導性の高分子材料を含む保護膜を設けることを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/030230号
【発明の概要】
【0006】
特許文献1の方法では、充電時、リチウム金属は保護膜とセパレータとの間に析出する場合がある。また、上記のような保護膜は、充放電サイクルが多くなると劣化し易くなるため、リチウムは保護膜を突き破るようにデンドライト状に析出する場合もある。
【0007】
上記に鑑み、本発明の一側面は、正極と、負極と、リチウムイオン伝導性の非水電解質と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、を備え、前記正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備え、前記正極活物質は、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物を含み、前記正極および前記負極が有する単位面積当たりのリチウムの合計量MLiと、前記正極が有する単位面積当たりの遷移金属量MTMとのモル比:MLi/MTMは、1.1以下であり、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に積層された複数の絶縁性の多孔質膜と、を備える、リチウム二次電池に関する。
【0008】
本発明のリチウム二次電池によれば、リチウムがデンドライト状に析出することが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態にかかる電池組立直後における負極を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる充電状態における負極を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るリチウム二次電池を模式的に示す縦断面図である。
図4A】実施例1で作製された負極の断面の充電後におけるSEM画像(倍率2500倍)を示す図である。
図4B図4AのSEM画像の一部を拡大して示す拡大図である。
図5】比較例1で作製された負極の断面の充電後におけるSEM画像(倍率2500倍)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態にかかるリチウム二次電池は、正極と、負極と、リチウムイオン伝導性の非水電解質と、正極と負極との間に配置されるセパレータと、を備える。正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備える。正極活物質は、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物を含む。負極は、負極集電体と、負極集電体上に積層された複数の絶縁性の多孔質膜と、を備える。
【0011】
ここで、正極および負極が有する単位面積当たりのリチウムの合計量MLiと、正極が有する単位面積当たりの遷移金属量MTMとのモル比:MLi/MTMは、1.1以下である。つまり、負極は、組立直後において実質的に放電可能なリチウム金属を有さない。言い換えれば、負極は、負極集電体を備える一方、負極活物質層を備えなくてよい。これにより、電池の体積エネルギー密度が高まる。なお、完全放電状態においても、モル比:MLi/MTMは、1.1以下である。
【0012】
リチウム二次電池の完全放電状態とは、電池の定格容量をCとするとき、0.05×C以下の充電状態(SOC:State of Charge)となるまで放電させた状態をいう。例えば0.05Cの定電流で下限電圧まで放電した状態をいう。下限電圧は、例えば2.5V~3.0Vである。
【0013】
リチウム二次電池では、負極集電体の表面に、充電によりリチウム金属が析出する。より具体的には、非水電解質に含まれるリチウムイオンが、充電により、負極集電体上で電子を受け取ってリチウム金属になり、負極集電体の表面に析出する。本実施形態にかかる負極によれば、リチウム金属の析出位置を、負極集電体の表面と多孔質膜との間に制御することができる。そのため、デンドライトが抑制される。これにより、リチウム金属の析出による負極の膨張も抑制され易くなる。
【0014】
リチウム金属の析出位置が制御される理由は定かではないが、以下のように推測される。負極が備える複数の多孔質膜は、互いに接触するように形成されている。これら多孔質膜はいずれも、それぞれの主面を貫通する貫通孔を備える。そのため、非水電解質に含まれるリチウムイオンは、各多孔質膜が備える貫通孔を通って負極集電体の表面に到達し、電子を受け取る。ただし、本実施形態では、多孔質膜が少なくとも2層あるため、それぞれの多孔質膜が有する貫通孔の位置は、多くの場合でずれており、すべての多孔質膜を同時に貫通する貫通孔はほとんどない。そのため、負極集電体から電子を受け取って生じたリチウム金属は、仮に負極集電体側に配置された多孔質膜(例えば、後述する第2多孔質膜)の貫通孔に入り込んだとしても、セパレータ側に配置された多孔質膜(例えば、後述する第1多孔質膜、さらには第3多孔質膜)の貫通孔にまで入り込むことはできない。よって、リチウム金属が、最外にある多孔質膜のセパレータに対向する表面に析出することが抑制される。
【0015】
さらに、各多孔質膜は絶縁性である。そのため、負極集電体の表面にまで到達したリチウムイオンのみが電子を受け取り、リチウム金属はそこで析出する。よって、リチウム金属が、負極集電体側に配置された多孔質膜の貫通孔の内部に析出することも抑制される。その結果、リチウム金属の析出位置は、負極集電体の表面と負極集電体側に配置された多孔質膜との間に制御される。
【0016】
加えて、多孔質膜が複数あることにより、リチウムイオンの移動距離が長くなって、負極集電体の面方向に拡散され易くなる。そのため、リチウム金属の析出位置の集中が緩和されて、分散してバルク状に析出し易くなる。
【0017】
通常、負極は正極よりも大きく、負極集電体の主面の一部は正極合剤層に対向しない。リチウム金属は、負極集電体の正極合剤層に対向する部分に析出し易い。そのため、各多孔質膜は、正極合剤層に対向する領域(対向領域)を有してもよい。
【0018】
少なくとも1層の多孔質膜は、デンドライトの抑制効果を向上させる観点から、対向領域に加えて、正極合剤層に対向しない非対向領域を有してもよい。少なくとも1層の多孔質膜は、負極集電体の正極に対向する主面全体に形成されてもよい。
【0019】
少なくとも1層の多孔質膜が対向領域および非対向領域を有する場合、充電状態であっても、いずれかの多孔質膜の非対向領域と負極集電体との接触は維持される。そのため、負極集電体側に配置された多孔質膜の対向領域と負極集電体との間の離間距離が制限され、リチウム金属は適度に押圧されながら析出することになる。押圧されることにより、デンドライト成長が抑制される理由は定かではないが、次のように推測される。リチウム金属が析出する際、リチウム金属の成長は、負極集電体の厚み(Z軸)方向については規制される一方、負極集電体の面(XY面)方向については何ら規制されない。そのため、リチウム金属が、XY面方向およびZ軸方向に3次元的に自由に成長できる場合と比較して、リチウムイオンもZ軸方向に拡散し難くなって、さらに、デンドライトの成長が抑制される傾向が強まる。また、物理的にもZ軸方向へのリチウム金属の成長は妨げられる。
【0020】
図1は、本実施形態にかかる電池組立直後における負極を模式的に示す断面図である。図2は、本実施形態にかかる充電状態における負極を模式的に示す断面図である。図2では、上記非対向領域が、負極集電体21の両端部に配置されている。図示例では、負極の展開された状態が示されている。また、貫通孔は省略されている。
【0021】
負極20は、負極集電体21と、セパレータ側に配置される第1多孔質膜22Aと、第1多孔質膜22Aと負極集電体21との間に配置される第2多孔質膜22Bと、を備える。図1に示すように、第1多孔質膜22Aと第2多孔質膜22Bとは接触しており、第2多孔質膜22Bと負極集電体21とは接触している。
【0022】
リチウム二次電池が充電されると、図2に示すように、リチウム金属(Li)は、負極集電体21と第2多孔質膜22Bとの間に析出する。ただし、負極集電体21と第2多孔質膜22Bの非対向領域との接触は維持される。そのため、上記の通り、負極集電体21と第2多孔質膜22Bの対向領域との間の離間距離が制限され、リチウム金属Liは適度に押圧されながら析出する。なお、充電状態であっても、第1多孔質膜22Aと第2多孔質膜22Bとの接触は維持される。
【0023】
以下、リチウム二次電池の構成について、具体的に説明する。
【0024】
(負極)
負極は、充電時にリチウム金属が析出する電極である。負極集電体の表面に析出したリチウム金属は、放電により非水電解質中にリチウムイオンとして溶解する。析出するリチウム金属は非水電解質中のリチウムイオンに由来する。非水電解質に含まれるリチウムイオンは、非水電解質に添加したリチウム塩に由来するものであってもよく、充電により正極活物質から供給されるものであってもよく、これらの双方であってもよい。また、多孔質膜の製造に用いられる原料(後述参照)由来のリチウム塩であってもよい。
【0025】
負極は、負極集電体と、複数の多孔質膜と、を備える。多孔質膜は、いずれも絶縁性であり、セパレータ側の主面から負極集電体側の主面に貫通する少なくとも1つの貫通孔を備える。多孔質膜は、負極集電体の少なくとも一方の主面に配置される。各多孔質膜の境界には、界面が確認できる一方、これらを分離することは困難である。ただし、多孔質膜とセパレータとは分離可能である。
【0026】
多孔質膜を構成する絶縁性材料は特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(VdF-HFP)、フッ化ビニリデンと三フッ化エチレンとの共重合体(VdF-TrFE)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも、非水電解質に対する膨潤性の観点から、保護膜は、フッ化ビニリデン由来のユニット(-CH-CF-)を有するフッ素樹脂を含むことが好ましい。このような絶縁性材料としては、PVdF、VdF-HFP、VdF-TrFE等が挙げられる。
【0027】
貫通孔の直径は、リチウムイオンが通過できる程度であれば特に限定されない。貫通孔の平均径は、例えば、100nm以上、1000nm以下の範囲にあってもよく、200nm以上、800nm以下の範囲にあってもよい。セパレータ側に配置される多孔質膜(第1多孔質膜)の貫通孔(第1貫通孔)と負極集電体側に配置される多孔質膜(第2多孔質膜)の貫通孔(第2貫通孔)との大きさの関係も特に限定されないが、リチウム金属の析出位置が制御され易くなる点で、第2貫通孔の平均径は、第1貫通孔の平均径より小さくてもよい。
【0028】
貫通孔の平均径は、多孔質膜の主面をその法線方向からみたとき、2mm四方の領域に含まれる貫通孔の平均値である。貫通孔の平均径は、負極の厚み方向の断面から算出してもよい。例えば、貫通孔の平均径は、負極の厚み方向における長さ10mmの断面から、任意の10個の貫通孔を選出し、これらの幅の平均値として求められる。貫通孔の幅は、負極の厚み方向に垂直な方向の長さである。貫通孔の幅の測定には走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてもよい。
【0029】
多孔質膜の厚さは特に限定されない。ただし、高容量化の観点から、多孔質膜全体の厚さは過度に大きくないことが望ましい。一方で、多孔質膜は、充放電に伴う負極の膨張および収縮に耐えるだけの厚さを備えることが望ましい。多孔質膜全体の厚さは、例えば、0.1μm以上、5μm以下であってもよく、0.5μm以上、2.5μm以下であってもよい。多孔質膜全体の厚さは、負極集電体の一方の主面側にある第1多孔質膜および第2多孔質膜、さらには後述する第3多孔質膜の厚さの合計である。
【0030】
第1多孔質膜の厚さ(第1厚さ)は、第2多孔質膜の厚さ(第2厚さ)以上であってもよい。この場合、負極の膨張および収縮が繰り返されても、セパレータ側に配置される第1多孔質膜は損傷し難くなる。そのため、リチウム金属が第1多孔質膜中に入り込んで、デンドライト状に析出することが抑制される。第1厚さは、第2厚さに対して1.1倍以上であってもよく、1.3倍以上であってもよく、1.5倍以上であってもよい。
【0031】
第1厚さは、例えば、0.1μm以上、2μm以下であってもよく、0.5μm以上、1μm以下であってもよい。第2厚さは、例えば、0.1μm以上、1μm以下であってもよく、0.1μm以上、0.7μm以下であってもよい。
【0032】
多孔質膜の厚さは、負極の上記断面における任意の5点の厚さの平均値として求められる。多孔質膜の厚さは、負極の厚み方向における多孔質膜の長さである。
【0033】
第1多孔質膜と第2多孔質膜との間に、絶縁性の第3多孔質膜が配置されてもよい。第3多孔質膜も同様に、セパレータ側の主面から負極集電体側の主面に貫通する少なくとも1つの貫通孔を備える。
【0034】
第3多孔質膜は、2以上の層を有してもよい。第3多孔質膜は、例えば、上記絶縁性材料により形成される。第3多孔質膜の厚さ(第3厚さ)は特に限定されない。第3厚さは、多孔質膜全体の厚さが、例えば上記の範囲になるように、適宜設定されればよい。
【0035】
負極は、リチウム金属と反応しない金属材料で構成される負極集電体を備える。
【0036】
負極集電体を構成する金属材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびこれらの金属元素を含む合金などが挙げられる。合金としては、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好ましい。金属材料としては、導電性の点で、銅および/または銅合金が好ましい。負極集電体中の銅の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であってもよい。金属材料の形態は、例えば、箔状である。負極集電体の厚みは特に限定されず、例えば、5μm~20μmである。
【0037】
[多孔質膜の製造方法]
多孔質膜は、負極集電体の少なくとも一方の主面に、多孔質膜の原料液を塗布することにより形成される。負極は、例えば、負極集電体を準備する第1工程と、負極集電体の少なくとも一方の主面に、第2多孔質膜の原料液(第2原料液)を塗布した後、乾燥し、第2多孔質膜を形成する第2工程と、負極集電体の第2多孔質膜が形成された主面に第1多孔質膜の原料液(第1原料液)を塗布した後、乾燥し、第1多孔質膜を形成する第3工程と、を備える方法により製造される。
【0038】
第3多孔質膜を形成する場合、第2工程の後、第3工程の前に、第2多孔質膜の表面に、第3多孔質膜の原料液(第3原料液)を塗布した後、乾燥し、第3多孔質膜を形成する第4工程が行われる。この場合、第3工程において、第1原料液は、第2多孔質膜および第3多孔質膜を介して、負極集電体の主面に塗布される。
【0039】
各原料液は、例えば、上記の絶縁性材料および溶媒を含む。溶媒として、使用される絶縁性材料と高い相溶性を有する良溶媒と、使用される絶縁性材料と低い相溶性を有する貧溶媒とを用いてもよい。あるいは、使用される絶縁性材料と高い相溶性を有する良溶媒とともに、リチウム塩および常温溶融塩(以下、単に塩と総称する場合がある。)の少なくとも一種を用いてもよい。
【0040】
良溶媒および貧溶媒を用いる場合、塗膜中で、絶縁性材料および良溶媒を含む領域と、貧溶媒を含む領域とが分離する。分離により、貧溶媒を含む領域は、絶縁性材料を含む領域の間に介在するように配置される。次いで、乾燥して溶媒を除去することにより、絶縁性材料を含む領域の間に、貫通孔、さらには非貫通孔が形成される。例えば、溶媒の種類および良溶媒と貧溶媒との質量割合によって、得られる多孔質膜の孔径および多孔度等は制御される。
【0041】
良溶媒および塩を用いる場合、塗膜中で、絶縁性材料、良溶媒および塩を含み、絶縁性材料の濃度の高い領域と、絶縁性材料および良溶媒を含み、絶縁性材料の濃度のより低い領域とが分離する。次いで、乾燥して溶媒を除去することにより、絶縁性材料の濃度のより低い領域に対応するように、貫通孔、さらには非貫通孔が形成される。このとき、塩は、多孔質膜中に残存する。例えば、塩の種類および濃度によって、得られる多孔質膜の孔径および多孔度等は制御される。
【0042】
良溶媒および貧溶媒は、用いられる絶縁性材料に応じて適宜選択すればよい。良溶媒および貧溶媒を併用する場合、孔が形成され易くなる点で、良溶媒と貧溶媒とは、沸点が例えば10℃以上異なっていてもよい。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0043】
リチウム塩としては、例えば、リチウム二次電池の非水電解質に利用される公知のものが使用できる。具体的には、リチウム塩のアニオンとして、BF 、ClO 、PF 、CFSO 、CFCO 、オキサレート類のアニオン、常温溶融塩のアニオンとして後述されるイミド類のアニオンなどが挙げられる。オキサレート類のアニオンは、ホウ素および/またはリンを含有してもよい。オキサレート類のアニオンは、オキサレート錯体のアニオンであってもよい。オキサレート類のアニオンとしては、ジフルオロオキサレートボレート(BF(C)、ビスオキサレートボレート(B(C )、B(CN)(C、PF(C、PF(C 等が挙げられる。リチウム塩は、単独または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0044】
常温溶融塩は、常温(20℃~40℃)で液体の塩であり、イオン液体とも称される。
【0045】
常温溶融塩は、孔が形成されやすい点で、有機オニウムカチオンとイミド類のアニオンとの塩であってもよい。常温溶融塩は、単独または二種以上を組み合わせて使用できる。
【0046】
有機オニウムカチオンとしては、脂肪族アミン、脂環族アミンや芳香族アミンに由来するカチオン(例えば、第4級アンモニウムカチオン等)の他、窒素含有へテロ環を有する有機オニウムカチオン(つまり、環状アミンに由来するカチオン)等の窒素含有オニウムカチオン;イオウ含有オニウムカチオン;リン含有オニウムカチオン(例えば、第4級ホスホニウムカチオン等)などが例示できる。有機オニウムカチオンは、水酸基(-OH)またはシラノール基(-Si-OH)等の官能基を有していてもよく、シラノール等由来の二価基(例えば、-SiO-)を有していてもよい。
【0047】
なかでも、耐熱性の観点から、窒素含有へテロ環を有するカチオンが好ましい。窒素含有ヘテロ環骨格としては、ピロリジン、イミダゾリン、イミダゾール、ピリジン、ピペリジン等が例示できる。具体的には、例えば、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムカチオン(N-methyl-N-propylpiperidinium cation)、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウムカチオン(N,N,N-trimethyl-N-propylammonium cation)、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムカチオン(1-methyl-1-propylpyrrolidinium cation)が挙げられる。
【0048】
イミド類のアニオンとしては、N(SO2m+1)(SO2n+1(mおよびnは、それぞれ独立して0以上の整数である。)等が挙げられる。mおよびnは、それぞれ、0~3であってもよく、0、1または2であってもよい。イミド類のアニオンは、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドアニオン(N(SOCF 、TFSI)、ビスパーフルオロエチルスルホニルイミドアニオン(N(SO )、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(N(SOF) )であってもよい。特に、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、TFSIであってもよい。
【0049】
原料液中の塩の濃度は特に限定されず、形成する多孔質膜の孔径および多孔度等を考慮して適宜設定すればよい。例えば、塩の濃度は0.5質量%~30質量%であってもよく、1質量%~10質量%であってもよい。
【0050】
原料液中の絶縁性材料の濃度も特に限定されず、形成する多孔質膜の厚さ等を考慮して適宜設定すればよい。絶縁性材料の濃度は、例えば、3質量%~35質量%であってもよく、5質量%~15質量%であってもよい。
【0051】
[正極]
正極は、正極活物質を含む正極合剤層と、正極集電体と、を備える。正極合剤層は、正極活物質、結着剤および導電剤などを含む正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0052】
正極活物質として、リチウムおよび遷移金属を含む複合酸化物が用いられる。複合酸化物に含まれるリチウムと遷移金属とのモル比:リチウム/遷移金属は、例えば、0.9~1.1である。
【0053】
このような正極活物質としては、層状岩塩型の複合酸化物が挙げられる。具体的には、正極活物質として、例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-b2、LiaCob1-bc、LiaNib1-bc、LiMPO4、(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも一種である。)が挙げられる。ここで、0<a≦1.1、0≦b≦0.9、2≦c≦2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0054】
なかでも、ニッケル元素を含む層状岩塩型の複合酸化物が好ましい。このような複合酸化物は、LiNi1-x(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.1であり、0.3≦x≦1である。)で表される。高容量化の観点から、0.85≦x≦1を満たすことがより好ましい。さらに、結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物(NCA):LiNiCoAl2(0<a≦1.1、0.85≦x<1、0<y<0.15、0<z≦0.1、x+y+z=1)がさらに好ましい。NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.8Co0.18Al0.02、LiNi0.9Co0.05Al0.05等が挙げられる。
【0055】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、PTFE、PVdFなどのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂などのポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体などのアクリル樹脂;PAN、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)などのゴム状材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;フェニレン誘導体などの有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、チタンなどが例示できる。
【0058】
[非水電解質]
非水電解質としては、リチウムイオン伝導性を有するものが使用される。このような非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウムイオンおよびアニオンとを含んでいる。非水電解質は、液状であってもよいし、ゲル状であってもよい。
【0059】
液状の非水電解質は、リチウム塩を非水溶媒に溶解させることにより調製される。リチウム塩が非水溶媒中に溶解することにより、リチウムイオンおよびアニオンが生成するが、非水電解質には、解離していないリチウム塩が含まれていてもよい。
【0060】
ゲル状の非水電解質は、液状の非水電解質と、マトリックスポリマーとを含む。マトリックスポリマーとしては、例えば、非水溶媒を吸収してゲル化するポリマー材料が使用される。このようなポリマー材料としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、および/またはポリエーテル樹脂等が挙げられる。
【0061】
リチウム塩としては、リチウム二次電池の非水電解質に利用される公知のものが使用できる。具体的には、多孔質膜の形成に使用されるリチウム塩として例示された化合物が挙げられる。非水電解質は、これらのリチウム塩を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0062】
リチウム金属がデンドライト状に析出するのをさらに抑制する観点から、非水電解質は、イミド類のアニオンおよびホウ素を含むオキサレート類のアニオンの少なくとも一種を含んでもよい。特に、ホウ素を含むオキサレート類のアニオンが好ましい。ホウ素を含むオキサレート類のアニオンは、他のアニオンと組み合わせて用いられてもよい。他のアニオンは、PF 、および/またはイミド類のアニオンであってもよい。
【0063】
非水電解質中のリチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/L以上、3.5mol/L以下であってもよい。リチウム塩の濃度は、解離したリチウム塩の濃度と未解離のリチウム塩の濃度との合計である。非水電解質中のアニオンの濃度を、0.5mol/L以上3.5mol/L以下としてもよい。
【0064】
非水溶媒としては、例えば、エステル、エーテル、ニトリル、アミド、またはこれらのハロゲン置換体が挙げられる。非水電解質は、これらの非水溶媒を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。ハロゲン置換体としては、フッ化物などが挙げられる。
【0065】
エステルとしては、例えば、炭酸エステル、カルボン酸エステルなどが挙げられる。環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート等が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、フルオロプロピオン酸メチル等が挙げられる。
【0066】
エーテルとしては、環状エーテル、および鎖状エーテルが挙げられる。環状エーテルとしては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0067】
ニトリルとしては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられる。アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0068】
なかでも、充放電効率の観点から、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートが好ましい。これらの非水溶媒を用いると、デンドライトが生成し易くなる場合がある。しかし、本実施形態によれば、リチウム金属は多孔質膜で押圧されながら、負極集電体の表面と第2多孔質膜との間に析出するため、デンドライトは抑制される。
【0069】
[セパレータ]
正極と負極との間には、セパレータを介在させる。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布などを用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0070】
[リチウム二次電池]
図3は、本発明の一実施形態に係る円筒型のリチウム二次電池の一例の縦断面図である。
【0071】
リチウム二次電池100は、捲回式電極群40と、図示しない非水電解質とを含む捲回型電池である。捲回式電極群40は、帯状の正極10、帯状の負極20およびセパレータ30を含む。正極10には正極リード13が接続され、負極20には負極リード23が接続されている。
【0072】
正極リード13は、長さ方向の一端部が正極10に接続されており、他端部が封口板90に接続されている。封口板90は、正極端子15を備えている。負極リード23は、一端が負極20に接続され、他端が負極端子になる電池ケース70の底部に接続されている。電池ケース70は、有底円筒型の電池缶であり、長手方向の一端が開口し、他端の底部が負極端子となる。電池ケース(電池缶)70は、金属製であり、例えば鉄で形成されている。鉄製の電池ケース70の内面には、通常、ニッケルめっきが施されている。捲回式電極群40の上下には、それぞれ樹脂製の上部絶縁リング80および下部絶縁リング60が配置されている。
【0073】
図示例では、巻回型の電極群を備える円筒形のリチウム二次電池について説明したが、この場合に限らず、本実施形態は適用できる。リチウム二次電池の形状は、その用途等に応じて、円筒形の他に、コイン型、角型、シート型、扁平型等の各種形状から適宜選択することができる。電極群の形態も特に限定されず、積層型であってもよい。
【0074】
また、リチウム二次電池の負極以外の構成については、公知のものを特に制限なく利用できる。
【0075】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
(1)正極の作製
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02)と、アセチレンブラックと、PVdFとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、NMPを添加した後、混合機(プライミクス社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、Al箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、Al箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0077】
(2)負極の作製
電解銅箔(厚み10μm)を所定の電極サイズに切断した。PVdF(濃度8質量%)、LiTFSI(濃度1質量%)、NMPを含む原料液を準備した。
【0078】
電解銅箔の両方の主面に上記原料液を塗布した後、熱風乾燥して、第2厚さ0.5μmの第2多孔質膜を形成した。両方の第2多孔質膜の表面に、同様に上記原料液をそれぞれ塗布した後、熱風乾燥して、第1厚さ0.5μmの第1多孔質膜を形成した。
【0079】
得られた負極の厚み方向の断面をSEMで観察し、第1多孔質膜に、平均径800nmの複数の第1貫通孔が形成されていることを確認した。同様に、第2多孔質膜に、平均径800nmの複数の第2貫通孔が形成されていることを確認した。
【0080】
(3)非水電解質の調製
FECとEMCとDMCとを、FEC:EMC:DMC=20:5:75の容積比で混合した。得られた混合溶媒に、リチウムジフルオロオキサレートボレートを0.3mol/L、LiPFを1.0mol/Lとなるようにそれぞれ溶解させて、非水電解質を調製した。
【0081】
(4)電池の作製
上記で得られた正極に、Al製のタブを取り付けた。上記で得られた負極に、Ni製のタブを取り付けた。不活性ガス雰囲気中で、正極と負極とをポリエチレン薄膜(セパレータ)を介して渦巻状に捲回し、捲回型の電極体を作製した。得られた電極体を、Al層を備えるラミネートシートで形成される袋状の外装体に収容し、上記非水電解質を注入した後、外装体を封止してリチウム二次電池T1を作製した。
【0082】
[実施例2]
負極の作製(2)において、第1多孔質膜の第1厚さを1μmにしたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池T2を作製した。
【0083】
[実施例3]
負極の作製(2)において、第2多孔質膜と第1多孔質膜との間に、2つの層からなる第3多孔質膜(第3厚さ:1μm=0.5μm×2)を形成したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池T3を作製した。
【0084】
[比較例1]
負極の作製(2)において、同じ原料液を用いて、厚さ2μmの多孔質膜を1層形成したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池R1を作製した。
【0085】
得られた負極の厚み方向の断面をSEMで観察し、形成された多孔質膜に、平均径800nmの複数の貫通孔が形成されていることを確認した。
【0086】
[比較例2]
負極の作製(2)において、LiTFSIを含まない原料液を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池R2を作製した。
【0087】
得られた負極の厚み方向の断面をSEMで観察したところ、形成された2層の膜は、いずれも貫通孔を有していない無孔質膜であった。
【0088】
[評価]
得られた電池T1~T3、R1、R2について、充放電試験を行った。
【0089】
充放電試験では、25℃の恒温槽内において、以下の条件で電池の充電を行った後、20分間休止して、以下の条件で放電を行った。この充電および放電を1サイクルとし、50サイクルの充放電試験を行った。
(充電)20mAの電流で電池電圧が4.1Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.1Vの電圧で電流値が2mAになるまで定電圧充電を行った。
(放電)20mAの電流で電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0090】
(a)リチウム金属の析出位置および(b)負極の損傷
50サイクルの充放電を行った後、電池を解体して負極を取り出した。この負極を厚み方向に切断して、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。評価結果を表1に示す。図4Aに、電池T1から取り出された負極の断面のSEM画像(倍率2500倍)を示す。図4Bに、図4AのSEM画像の一部を拡大して示す。なお、図4Bでは、便宜的に、第1多孔質膜22Aと第2多孔質膜22Bとの界面を破線で示している。図4Aおよび図4Bによれば、リチウム金属(Li)は、負極集電体21と第2多孔質膜22Bとの間に析出している。図5に、電池R1から取り出された負極の断面のSEM画像(倍率2500倍)を示す。図5によれば、リチウム金属(Li)は、多孔質膜22の負極集電体21に対向しない主面(図示されないセパレータ側の主面)に析出している。
【0091】
(c)容量維持率
50サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で割った値を容量維持率(%)とした。評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示すように、電池T1~T3はいずれも、リチウム金属の析出位置が負極集電体と第2多孔質膜との間に制御されており、容量維持率も高い。一方、電池R1、R2では、多孔質膜あるいは無孔質膜が損傷しており、各膜とセパレータとの間にリチウム金属が析出していた。さらに、析出したリチウム金属の一部はデンドライト状になっていた。また、容量維持率は電池T1~T3より低い。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のリチウム二次電池は、放電容量およびサイクル特性に優れるため、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末のような電子機器、ハイブリッド、プラグインハイブリッドを含む電気自動車、太陽電池と組み合わせた家庭用蓄電池などに用いることができる。
【符号の説明】
【0095】
10 正極
13 正極リード
15 正極端子
20 負極
21 負極集電体
22A 第1多孔質膜
22B 第2多孔質膜
23 負極リード
30 セパレータ
40 捲回式電極群
60 下部絶縁リング
70 電池ケース
80 上部絶縁リング
90 封口板
100 リチウム二次電池
22 多孔質膜
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5