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特許7378037インクジェットヘッドおよびインクジェット塗布装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】インクジェットヘッドおよびインクジェット塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20231106BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20231106BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20231106BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
B41J2/14 301
B05C5/00 101
B05C11/10
B41J2/14 607
B41J2/14 605
B41J2/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019202965
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021074946
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深田 和岐
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-177922(JP,A)
【文献】特開平09-300635(JP,A)
【文献】特開2019-181935(JP,A)
【文献】特開2017-065248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B05C 5/00
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体材料を吐出するノズル穴と、
前記ノズル穴に連通する圧力室と、
前記圧力室内の液体材料に当接して往復振動するダイアフラムと、
前記ダイアフラムを介して前記圧力室に圧力を加える第1アクチュエータと、
隣り合う前記圧力室の間に配置される圧力壁と、
前記ダイアフラムを介して前記圧力壁を支える第2アクチュエータと、
前記圧力室に前記液体材料を供給する供給流路と、
前記圧力室から前記液体材料を回収する回収流路と、を有し、
前記ダイアフラムは、
前記第1アクチュエータに当接する第1凸部と、
前記第2アクチュエータに当接する第2凸部と、を有し、
前記ノズル穴が配列された方向において、前記第1凸部の長さは、前記第2凸部の長さよりも長く、
前記圧力室の位置に対応する前記ダイアフラムのうち、前記圧力室の中央よりも前記回収流路側に位置する前記ダイアフラムの剛性は、前記圧力室の中央よりも前記供給流路側に位置する前記ダイアフラムの剛性よりも低い、
インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記ノズル穴が配列された方向において、前記第1凸部の長さは、前記第1アクチュエータの長さよりも長い、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記ノズル穴が配列された方向において、前記第1アクチュエータの長さは、前記第2アクチュエータの長さよりも長い、
請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ノズル穴は、前記圧力室の中央を基準として、前記供給流路側よりも前記回収流路に近い位置に配置される、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記第1アクチュエータは、圧電素子である、
請求項1からのいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載のインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに前記液体材料を供給するとともに、前記インクジェットヘッドから前記液体材料を回収する液体循環部と、
前記インクジェットヘッドのアクチュエータを駆動する電気信号を生成し、前記インクジェットヘッドにおける前記液体材料の吐出動作を制御する制御部と、
前記インクジェットヘッドと、前記液体材料が塗布される対象物とを相対移動させる搬送部と、を有する、
インクジェット塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェットヘッドおよびインクジェット塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、入力信号に応じて、任意のタイミングで必要な量の液体材料を吐出し、その液体材料を対象物上に塗布することができる液体吐出ヘッドとして知られる。特に圧電(ピエゾ)方式のインクジェットヘッドは、幅広い種類の液体材料を、高精度に制御しながら塗布することができることから、現在、積極的に開発が行われている。
【0003】
一般的に、圧電方式のインクジェットヘッドは、液体材料の供給流路と、その供給流路と連通し、ノズル穴を有する圧力室と、圧力室内に充填された液体材料にダイアフラムを介して圧力を加える圧電素子と、を有する。
【0004】
圧電方式のインクジェットヘッドでは、圧電素子に駆動電圧が印加されると、圧電素子およびダイアフラムに機械的な歪みが生じ、圧力室内の液体材料に圧力が加えられる。これにより、ノズル穴から液体材料が吐出される。
【0005】
上述した圧電方式のインクジェットヘッドおよびそれを備えたインクジェット塗布装置は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0006】
以下、従来のインクジェットヘッドおよびインクジェット塗布装置の構成について説明する。
【0007】
図1A図1Bは、従来のインクジェット塗布装置100の構成を示す模式図である。図1Aは、インクジェット塗布装置100によって、基板106に塗布領域104が形成される前の様子を示している。図1Bは、インクジェット塗布装置100によって、基板106に塗布領域104が形成された後の様子を示している。
【0008】
図1A図1Bに示すように、インクジェット塗布装置100は、架台101と、架台101の上に設置された基板搬送ステージ102と、基板搬送ステージ102に対向するインクジェットヘッド105と、を有する。インクジェットヘッド105は、基板搬送ステージ102を跨ぐガントリ103に設置されている。
【0009】
図2A図2Bは、従来のインクジェットヘッドの構成を示す模式図である。図2Aは、圧力室210が加圧されていないときのインクジェットヘッドの断面を模式的に示している。図2Bは、圧力室210が加圧されたときのインクジェットヘッドの断面を模式的に示している。
【0010】
図2A図2Bに示すように、インクジェットヘッドは、液体材料を吐出する複数のノズル穴200と、ノズル穴200に連通する圧力室210と、圧力室210を隔てる圧力壁211と、圧力室210の一部をなすダイアフラム212と、ダイアフラム212を振動させる第1アクチュエータ230と、圧力壁211を支える第2アクチュエータ240と、第1アクチュエータ230に駆動電圧を印加する共通電極220および個別電極221と、共通電極220および個別電極221がそれぞれ接続される駆動回路222と、を有する。
【0011】
図3は、従来のインクジェットヘッドをノズル穴の軸方向に沿って見たときの模式図である。
【0012】
図3に示すように、インクジェットヘッドは、方向Xに沿って配置される液体材料共通供給流路316および液体材料共通回収流路317と、液体材料共通供給流路316と液体材料共通回収流路317との間に配置される複数の圧力室210と、圧力室210のそれぞれと外部とを連通するノズル穴200と、圧力室210のそれぞれを隔てる圧力壁211と、圧力室210と液体材料共通供給流路316とを連通する液体材料供給流路318と、圧力室210と液体材料共通回収流路317とを連通する液体材料回収流路319と、を有している。方向Xは、ノズル穴200が配列する方向である。方向Yは、方向Xおよびノズル穴200の軸に直交する方向(換言すれば、ノズル穴200の配列方向Xに直交する方向)を示している。
【0013】
このように構成された従来のインクジェットヘッドは、以下のように動作する。
【0014】
共通電極220と個別電極221との間に電圧が印加されると、第1アクチュエータ230が図2Aに示す状態から図2Bに示す状態に変形する。第1アクチュエータ230の変形により、ダイアフラム212が往復振動する。これにより、圧力室210の容積が小さくなり、圧力室210内の液体材料に圧力が加えられる。その圧力により、液体材料は、ノズル穴200から吐出される。
【0015】
次に、インクジェット塗布装置100の塗布動作について、以下に説明する。
【0016】
基板搬送ステージ102は、図1Aに示す状態から図1Bに示す状態へ移動する。このとき、基板搬送ステージ102上に載置された基板106に向けて、インクジェットヘッド105から液体材料が吐出される。これにより、基板106の所定の塗布領域104に液体材料が塗布される。
【0017】
基板搬送ステージ102の速度は、例えば、10~1000mm/sである。また、液体材料の吐出周波数は、100~50,000Hzである。インクジェット塗布装置100は、基板搬送ステージ102の位置を検出し、液体材料の吐出タイミングを制御することで、任意の塗布パターンを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2012-232290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
インクジェット方式には、任意の塗布パターンをオンデマンド印刷できるという利点がある。そのため、近年、インクジェット方式は、民生用途の写真印刷用プリンタだけでなく、様々な分野の産業用途に応用展開されることが期待されている。
【0020】
特に、機能性粒子を含む高粘度液体材料をインクジェット方式で塗布したいという要求が高まっている。高粘度液体材料としては、例えば、はんだペースト、銀ペースト、捺印ペースト、蛍光体ペースト、接着剤等が挙げられる。なお、従来、高粘度液体材料は、例えば、スクリーン印刷などのマスク印刷や、シングルノズルディスペンサなどにより塗布されていた。
【0021】
特許文献1に開示されているような従来のインクジェットヘッドでは、高粘度液体材料を吐出するためには、圧力室内の圧力を大きく高めなければならない。そのため、圧力室に連通する出入口流路の圧力損失を大きくしたり、アクチュエータ(例えば、図2A図2Bに示す第1アクチュエータ230)の変位量を大きくしたりする必要がある。
【0022】
しかしながら、圧力損失を大きくすると、圧力室への材料供給が遅延するという問題が生じる。また、アクチュエータの変位量を大きくすると、静電容量が大きくなり、電気的な駆動応答性が低下するという問題が生じる。
【0023】
よって、従来のインクジェットヘッドでは、高粘度液体材料を高速かつ安定的に塗布することができないという問題があり、改善の余地が残されていた。
【0024】
本開示の一態様の目的は、高粘度液体材料を高速かつ安定的に塗布することができるインクジェットヘッドおよびインクジェット塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本開示の一態様に係るインクジェットヘッドは、液体材料を吐出するノズル穴と、前記ノズル穴に連通する圧力室と、前記圧力室内の液体材料に当接して往復振動するダイアフラムと、前記ダイアフラムを介して前記圧力室に圧力を加える第1アクチュエータと、隣り合う前記圧力室の間に配置される圧力壁と、前記ダイアフラムを介して前記圧力壁を支える第2アクチュエータと、前記圧力室に前記液体材料を供給する供給流路と、前記圧力室から前記液体材料を回収する回収流路と、を有し、前記ダイアフラムは、前記第1アクチュエータに当接する第1凸部と、前記第2アクチュエータに当接する第2凸部と、を有し、前記ノズル穴が配列された方向において、前記第1凸部の長さは、前記第2凸部の長さよりも長く、前記圧力室の位置に対応する前記ダイアフラムのうち、前記圧力室の中央よりも前記回収流路側に位置する前記ダイアフラムの剛性は、前記圧力室の中央よりも前記供給流路の側に位置する前記ダイアフラムの剛性よりも低い
【0026】
本開示の一態様に係るインクジェット塗布装置は、本開示の一態様に係るインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに前記液体材料を供給するとともに、前記インクジェットヘッドから前記液体材料を回収する液体循環部と、前記インクジェットヘッドのアクチュエータを駆動する電気信号を生成し、前記インクジェットヘッドにおける前記液体材料の吐出動作を制御する制御部と、前記インクジェットヘッドと、前記液体材料が塗布される対象物とを相対移動させる搬送部と、を有する。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、高粘度液体材料を高速かつ安定的に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】従来のインクジェット塗布装置において基板に塗布領域が形成される前の様子を示す模式図
図1B】従来のインクジェット塗布装置において基板に塗布領域が形成された後の様子を示す模式図
図2A】従来のインクジェットヘッドにおいて圧力室が加圧されていないときのインクジェットヘッドの断面を示す模式図
図2B】従来のインクジェットヘッドにおいて圧力室が加圧されたときのインクジェットヘッドの断面を示す模式図
図3】従来のインクジェットヘッドをノズル穴の軸方向に沿って見たときの模式図
図4A】本開示の実施の形態に係るインクジェットヘッドにおけるノズル穴の配列方向の断面を示す模式図
図4B】本開示の実施の形態に係るインクジェットヘッドにおけるノズル穴の配列方向に直交する方向の断面を示す模式図
図5】従来のインクジェットヘッドおよび本実施の形態のインクジェットヘッドそれぞれにおける、ノズル穴配列方向の断面図と、ダイアフラム変位挙動とを示す図
図6A】本開示の変形例に係る第1凸部の形状の一例を示す模式図
図6B】本開示の変形例に係る第1凸部の形状の一例を示す模式図
図6C】本開示の変形例に係る第1凸部の形状の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において共通する構成要素については同一の符号を付し、それらの説明は適宜省略する。
【0030】
<インクジェットヘッドの構成>
本実施の形態のインクジェットヘッドの構成について、図4A図4Bを用いて説明する。
【0031】
なお、本実施の形態のインクジェットヘッドをノズル穴の軸方向に沿って見たときの構成は、図3に示した従来のインクジェットヘッドの構成と同様である。すなわち、本実施の形態のインクジェットヘッドは、ノズル穴200の配列方向Xに沿って配置される液体材料共通供給流路316および液体材料共通回収流路317と、液体材料共通供給流路316と液体材料共通回収流路317との間に配置される複数の圧力室210と、圧力室210のそれぞれと外部とを連通するノズル穴200と、圧力室210のそれぞれを隔てる圧力壁211と、圧力室210と液体材料共通供給流路316とを連通する液体材料供給流路318と、圧力室210と液体材料共通回収流路317とを連通する液体材料回収流路319と、を有する。
【0032】
図4Aは、図3中のA-A線の断面(ノズル穴200の配列方向Xの断面)を示している。図4Bは、図3中のB-B線の断面(ノズル穴200の配列方向Xに直交する方向Yの断面)を示している。
【0033】
図4A図4Bに示すように、本実施の形態のインクジェットヘッドは、図3に示した構成要素のほか、圧力室210の一部をなすダイアフラム212、ダイアフラム212を振動させる第1アクチュエータ230と、圧力壁211を支える第2アクチュエータ240と、ノズル穴200が設けられたノズルプレート401と、を有する。さらに、図示は省略するが、本実施の形態のインクジェットヘッドは、第1アクチュエータ230に駆動電圧を印加する共通電極および個別電極と、共通電極および個別電極がそれぞれ接続される駆動回路と、を有する。
【0034】
図4A図4Bに示すように、圧力室210は、ノズルプレート401と、圧力壁211と、ダイアフラム212とにより構成されている。また、図4Bに示すように、圧力室210には、液体材料共通供給流路316と連通する液体材料供給流路318が接続され、かつ、液体材料共通回収流路317と連通する液体材料回収流路319が接続されている。
【0035】
圧力壁211の一端は、ノズルプレート401に固定され、圧力壁211の他端は、ダイアフラム212に固定されている。ダイアフラム212の上方において、圧力室210に対応する位置には第1アクチュエータ230が配置されており、圧力壁211に対応する位置には、第2アクチュエータ240が配置されている。
【0036】
以下、図4A図4Bに示した各構成要素の特徴について説明する。
【0037】
<第1アクチュエータ230および第2アクチュエータ240>
第1アクチュエータ230は、ダイアフラム212を往復振動させるための駆動源として用いられる。第1アクチュエータ230としては、例えば、圧電素子、静電アクチュエータ、または磁歪アクチュエータなどを用いることができる。
【0038】
例えば、粘度が0.01Pa・sec以上であり、50Pa・sec以下である高粘度液体材料の吐出を行う場合では、圧力室210内の液体材料に対し、より高い圧力を印加する必要がある。そのため、第1アクチュエータ230は、圧力室210内の圧力に押し負けることなく、より大きく、短時間で変位しなければならない。なお、図4A図4Bに示す矢印Aは、第1アクチュエータ230が変位する方向を示している。
【0039】
そこで、図4Aに示すように、第1アクチュエータ230のX方向の長さを、圧力壁211を支える第2アクチュエータ240のX方向の長さよりも長くする。これにより、第1アクチュエータ230は、高粘度液体材料をノズル穴200から吐出するために必要な圧力に押し負けることなく、変位することが可能となる。
【0040】
しかしながら、第1アクチュエータ230のX方向の長さを長くしたり、第1アクチュエータ230の変位を大きくしたりすると、電気的な駆動負荷が大きくなる。その結果、第1アクチュエータ230を短時間で変位させることが困難になる。
【0041】
一方、第2アクチュエータ240のX方向の長さを短くすると、圧力壁211の変形を抑えることが困難になる。
【0042】
したがって、第2アクチュエータ240のX方向の長さに対する、第1アクチュエータ230のX方向の長さの割合(以下、X方向長さ割合という)は、1.1~5.0の範囲内であることが好ましい。
【0043】
X方向長さ割合が1.1より小さい場合、第1アクチュエータ230の発生力が不足し、高粘度液体材料をノズル穴200から吐出するために必要な圧力を得ることが困難となる。一方、X方向長さ割合が5.0より大きい場合、圧力壁211の変形によって圧力室210内の圧力が低下し、高粘度液体材料をノズル穴200から吐出するために必要な圧力を得ることが困難となる。
【0044】
<ダイアフラム212>
ダイアフラム212は、圧力室210の一部をなし、圧力室210内の高粘度液体材料に当接する。ダイアフラム212は、第1アクチュエータ230の往復振動エネルギを高粘度液体材料の吐出に必要な機械エネルギに変換する機能を有する。ダイアフラム212がノズル穴200近傍で往復振動することによって、ノズル穴200近傍の高粘度液体材料に圧力が印加される。これにより、ノズル穴200から高粘度液体材料が吐出される。
【0045】
ダイアフラム212を構成する材料としては、例えば、ステンレス、ニッケル、コバルト、パラジウム、アルミニウム、チタンなどを含む金属、または、シリコン、セラミック、ガラス、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PI(ポリイミド)などの樹脂を用いることができる。ただし、ダイアフラム212が、高粘度液体材料の吐出に必要な圧力で破損したり、高粘度液体材料に侵食されたり、高粘度液体材料に溶出したりするおそれがない材料および構造を選ぶ必要がある。
【0046】
また、高粘度液体材料を高精度に塗布するためには、制御入力信号に対する応答性を高くし、ダイアフラム212を高速駆動させることが重要である。よって、ダイアフラム212の材料としては、剛性の低い素材(例えば、弾性率が2~200GPaの範囲内である素材)を用いることが好ましい。また、ダイアフラム212の厚みは、3~100μmの範囲内とすることが好ましい。
【0047】
次に、従来のインクジェットヘッドのダイアフラム変位挙動と本実施の形態のインクジェットヘッドのダイアフラム変位挙動について、図5を用いて説明する。
【0048】
図5は、従来のインクジェットヘッドおよび本実施の形態のインクジェットヘッドそれぞれのノズル穴配列方向の断面図およびダイアフラム変位挙動を示す図である。
【0049】
従来のインクジェットヘッドにおいて、例えば、粘度が0.01Pa・sec以上であり、50Pa・sec以下である高粘度液体材料を吐出するとする。その場合、図5に示すように、ダイアフラム212における圧力壁211、第2アクチュエータ240、第1アクチュエータ230のいずれにも支えられない部分aは、圧力室210内の圧力によって変形してしまい、吐出性能が著しく低下することがある。
【0050】
そのため、ダイアフラム212が、高速変形を促す低剛性部と、圧力室210内の圧力による変形を抑制する高剛性部とを備えるように、ダイアフラム212の素材や構造を設計することが好ましい。中でも、ダイアフラム212に凹凸構造を設けることは製造上容易であるため、特に好ましい。
【0051】
そこで、本実施の形態のインクジェットヘッドでは、図5に示すように、ダイアフラム212に、第1凸部501a、第2凸部501b、および凹部502を設けた。
【0052】
第1凸部501aは、第1アクチュエータ230に当接する。第2凸部501bは、第2アクチュエータ240に当接する。
【0053】
図5において、長さL1は、第1凸部501aのX方向の長さである。長さL2は、第2凸部501bのX方向の長さである。本実施の形態のインクジェットヘッドでは、図5に示すように、長さL1を、長さL2よりも長くした。また、長さL1を、第1アクチュエータ230のX方向の長さL3よりも長くした。また、長さL3を、第2アクチュエータ240のX方向の長さL4よりも長くした。
【0054】
このような構成により、ダイアフラム212の凹部502の変形による圧力室210内の圧力低下を抑制することができ(図5の「ダイアフラム変位挙動」参照)、高粘度液体材料をノズル穴200から吐出するために必要な圧力を得ることが可能となる。
【0055】
なお、凹部502の厚みに対する第1凸部501aまたは第2凸部501bの厚みの割合は、2倍以上であることが好ましい。
【0056】
また、図4Bにおいて、圧力室210の位置に対応するダイアフラム212のうち、圧力室210の中央よりも液体材料回収流路319側に位置するダイアフラム212の剛性を、圧力室210の中央よりも液体材料供給流路318の側に位置するダイアフラム212の剛性よりも低くすることが好ましい。これによって、液体材料回収流路319の側のダイアフラム212の変位をより大きくすることができ、ノズル穴200近傍の圧力室210の圧力を高めることができる。
【0057】
<ノズル穴200>
ノズルプレート401を構成する材料としては、例えば、超硬合金、ステンレス、ニッケル、コバルト、パラジウム、アルミニウム、チタンなどを含む金属、または、シリコン、セラミック、ガラス、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PI(ポリイミド)などの樹脂を用いることができる。ただし、ノズルプレート401が、高粘度液体材料が吐出される際に含有粒子材料との磨耗で劣化したり、高粘度液体材料の吐出に必要な圧力で破損したり、高粘度液体材料に侵食されたり、高粘度液体材料に溶出したりするおそれがない材料および構造を選ぶ必要がある。
【0058】
ノズル穴200のサイズ(例えば、直径などの代表寸法)は、吐出液滴サイズや含有粒子サイズに応じて、設計される。例えば、ノズル穴200のサイズは、0.01mm以上、0.15mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0059】
ノズル穴200の形状としては、例えば、円形、四角形、三角形、星形など、任意の形状でよい。
【0060】
ノズル穴の長さは、液体材料の粘度やチキソ性、表面張力、ノズル面との接触角などの物性に応じて、設計される。例えば、ノズル長さは、0.01mm以上、0.5mm以下の範囲内であることが好ましい。なお、ここでいうノズル穴の長さとは、図4A図4Bにおける上下方向の長さである。
【0061】
図4A図4Bでは、ノズル穴200の断面形状がテーパ形状である場合を図示しているが、ノズル穴200の断面形状は、例えば、ストレート形状、漏斗形状、階段形状であってもよい。
【0062】
図4Bにおいて、ノズル穴200は、圧力室210の中央を基準として、液体材料供給流路318側よりも液体材料回収流路319側に近い位置に設けることが好ましい。これにより、供給または回収される高粘度液体材料の流れに伴って、圧力室210内に印加される高粘度液体材料の圧力上昇分を効率的に吐出エネルギに変換することが可能となる。よって、高粘度液体材料をより高精度に吐出させることが可能となる。
【0063】
<圧力室210>
圧力室210は、液体材料供給流路318から供給された高粘度液体材料を蓄える機能、高粘度液体材料の一部をノズル穴200から吐出させる機能、および、高粘度液体材料の一部を液体材料回収流路319へ排出する機能を有する。さらに、圧力室210は、ダイアフラム212の機械エネルギを、高粘度液体を吐出させるエネルギに変換する機能も有する。
【0064】
圧力壁211を構成する材料としては、例えば、ステンレス、ニッケル、コバルト、パラジウム、アルミニウム、チタンなどを含む金属、または、シリコン、セラミック、ガラス、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PI(ポリイミド)などの樹脂を用いることができる。ただし、圧力壁211が、高粘度液体材料の吐出に必要な圧力で破損したり、高粘度液体材料に侵食されたり、高粘度液体材料に溶出したりするおそれがない材料および構造を選ぶ必要がある。
【0065】
<液体材料供給流路318および液体材料回収流路319>
液体材料供給流路318は、圧力室210内に高粘度液体材料を供給する機能を有する。液体材料回収流路319は、圧力室210内の高粘度液体材料を回収する機能を有する。
【0066】
液体材料供給流路318および液体材料回収流路319を構成する材料は、圧力室210やノズルプレート401を構成する材料と同じ材料を用いることができる。
【0067】
液体材料供給流路318および液体材料回収流路319それぞれの流路断面積は、0.005mm以上、1mm以下であることが好ましい。液体材料供給流路318および液体材料回収流路319それぞれの流路断面の形状は、例えば、円形状または矩形状など、任意の形状でよい。
【0068】
<液体材料共通供給流路316および液体材料共通回収流路317>
液体材料共通供給流路316は、各液体材料供給流路318に高粘度液体材料を供給する機能を有する。液体材料共通回収流路317は、各液体材料回収流路319から高粘度液体材料を回収する機能を有する。
【0069】
液体材料共通供給流路316および液体材料共通回収流路317は、高粘度液体材料を貯留する液体材料貯留タンク(図示略)と接続されている。液体材料貯留タンクに貯留された高粘度液体材料は、液体材料共通供給流路316へ流入した後、各液体材料供給流路318を経て各圧力室210へ流入する。また、各圧力室210内に流入した高粘度液体材料の一部(吐出されなかった高粘度液体材料)は、各圧力室210から各液体材料回収流路319を経て液体材料共通回収流路317へ流入し、液体材料共通回収流路317から液体材料貯留タンクへ流入する。
【0070】
液体材料共通供給流路316および液体材料共通回収流路317を構成する材料は、圧力室210やノズルプレート401を構成する材料と同じ材料を用いることができる。
【0071】
液体材料共通供給流路316および液体材料共通回収流路317それぞれの流路断面積は、0.1mm以上、30mm以下であることが好ましい。液体材料共通供給流路316および液体材料共通回収流路317それぞれの流路断面の形状は、例えば、円形状または矩形状など、任意の形状でよい。
【0072】
<塗布動作>
次に、本実施の形態のインクジェットヘッドによる高粘度液体材料の塗布動作について、以下に説明する。
【0073】
図示しない共通電極と個別電極との間に電圧が印加されると、第1アクチュエータ230が変位する。この第1アクチュエータ230の変位に伴って、ダイアフラム212がノズル穴200近傍で往復振動する。これによって、圧力室210の容積が小さくなり、ノズル穴200近傍の高粘度液体材料に圧力が印加される。その結果、ノズル穴200から高粘度液体材料が吐出される。
【0074】
液体材料貯留タンク(図示略)に印加された圧力や、液体材料送液ポンプ(図示略)の吸引および吐出時の圧力に応じて、液体材料共通供給流路316と液体材料共通回収流路317との圧力差が制御される。これにより、各圧力室210への高粘度液体材料の供給および各圧力室210からの高粘度液体材料の回収が実現される。
【0075】
上記圧力差が大きいほど高粘度液体材料の供給速度および回収速度は速くなる。しかしながら、液体材料共通供給流路316および液体材料共通回収流路317における圧力勾配が大きくなると、各ノズル穴200の背圧のばらつきが大きくなり、ノズル穴200内の液面が不均一になってしまうことがある。そのため、上記圧力差は、100kPa程度以下であることが好ましい。
【0076】
ただし、上記圧力差が100kPa以下であっても、ノズル穴200から高粘度液体材料が染み出た状態になると、気液界面のメニスカス面が不安定となり、安定した吐出が実現できなくなる場合がある。そのため、高粘度液体材料と吐出条件とに応じて、圧力差を設定することが不可欠である。
【0077】
ダイアフラム212がノズル穴200に近づくように動作する(図4A図4Bにおける下方向に動作する)際に、ノズル穴200近傍の高粘度液体材料の圧力が上昇し、ノズル穴200から高粘度液体材料の液滴が吐出される。ダイアフラム212の下方向への動作速度が速いほどノズル穴200近傍の高粘度液体材料の圧力を急速に上昇させることができる。よって、ノズル穴200から先頭で(最初に)飛び出す高粘度液体材料の吐出速度を上昇させることができる。
【0078】
また、ノズル穴200から高粘度液体材料が吐出された後、ダイアフラム212を図4A図4Bにおける上方向に速く動作させることによって、次に吐出される高粘度液体材料の吐出速度を低下させることができる。これにより、吐出された高粘度液体材料の液滴の糸曳きを短くすることが可能となり、微量な液滴をより精度良く安定して吐出させることができる。
【0079】
<ダイアフラム212の変形例>
第1アクチュエータ230に当接するダイアフラム212の第1凸部501aの変形例について、図6A図6Cを用いて、以下に説明する。図6A図6Cは、本変形例に係るインクジェットヘッドにおけるノズル穴の配列方向の断面を示すとともに、第1凸部501aの形状の各例を示す模式図である。
【0080】
図6Aに示すように、第1凸部501aを3段構造としてもよい。なお、段数は、3段以上であってもよい。
【0081】
また、図6Bに示すように、第1凸部501aを、下方向から上方向に向かうにつれ、X方向の長さが徐々に短くなるテーパ形状としてもよい。
【0082】
また、図6Cに示すように、テーパ形状の第1凸部501aにおいて、その外周面を滑らかな曲線形状としてもよい。
【0083】
本変形例によれば、第1アクチュエータ230の変位時に作用するダイアフラム212の最大主応力を低減できる。その結果、ダイアフラム212の繰り返し往復振動による疲労破壊を抑制することができる。なお、ダイアフラム212の疲労破壊は、インクジェットヘッドの信頼性不良の主要因の1つである。
【0084】
<インクジェット塗布装置>
上述した本実施の形態のインクジェットヘッドは、インクジェット塗布装置に備えられる。本実施の形態のインクジェット塗布装置は、上述した本実施の形態のインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドに高粘度液体を供給するとともに、インクジェットヘッドから高粘度液体材料を回収する液体循環部と、インクジェットヘッドのアクチュエータを駆動する電気信号を生成し、インクジェットヘッドにおける高粘度液体材料の吐出動作を制御する制御部と、インクジェットヘッドと、高粘度液体材料が塗布される対象物とを相対移動させる搬送部と、を備える。
【0085】
以上説明したように、本実施の形態のインクジェットヘッドは、液体材料を吐出するノズル穴200と、ノズル穴200に連通する圧力室210と、圧力室210内の液体材料に当接して往復振動するダイアフラム212と、ダイアフラム212を介して圧力室210に圧力を加える第1アクチュエータ230と、隣り合う圧力室210の間に配置される圧力壁211と、ダイアフラム212を介して圧力壁211を支える第2アクチュエータ240と、を有し、ダイアフラム212は、第1アクチュエータ230に当接する第1凸部501aと、第2アクチュエータ240に当接する第2凸部501bと、を有し、ノズル穴210が配列された方向(X方向)において、第1凸部501aの長さL1は、第2凸部501bの長さL2よりも長いことを特徴とする。
【0086】
よって、本実施の形態のインクジェットヘッドおよびそれを備えたインクジェット塗布装置は、機能性粒子が含まれる高粘度液体材料の塗布を高速かつ安定的に制御することができる。よって、例えば、長期連続駆動が不可欠となる電子デバイスの製造などの産業用途で用いることが可能となる。
【0087】
なお、本開示は、上記実施の形態の説明に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示のインクジェットヘッドおよびインクジェット塗布装置は、機能性粒子が含まれる高粘度液体材料の塗布を高速かつ安定的に制御することができ、高粘度液体材料を、必要な箇所に最適な量を任意のパターンで高速かつ非接触で塗布することが可能である。そのため、例えば、凹凸面や曲面などの立体構造物への3D塗布や、多品種少量の電子デバイス製造における生産性向上などの目的で、任意パターン塗布するためのインクジェットヘッドおよびそれを具備するインクジェット塗布装置として広く用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
100 インクジェット塗布装置
101 架台
102 基板搬送ステージ
103 ガントリ
104 塗布領域
105 インクジェットヘッド
106 基板
200 ノズル穴
210 圧力室
211 圧力壁
212 ダイアフラム
220 共通電極
221 個別電極
222 駆動回路
230 第1アクチュエータ
240 第2アクチュエータ
316 液体材料共通供給流路
317 液体材料共通回収流路
318 液体材料供給流路
319 液体材料回収流路
401 ノズルプレート
501a 第1凸部
501b 第2凸部
502 凹部
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C