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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】血液脳関門透過性ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20231106BHJP
   C07K 7/64 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20231106BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 38/40 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20231106BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20231106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20231106BHJP
   C07K 14/75 20060101ALN20231106BHJP
   C07K 14/79 20060101ALN20231106BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07K7/64
A61K38/08
A61P25/00
A61K38/40
A61K38/36
A61K47/42
A61K9/127
A61K9/14
A61K9/107
A61K9/50
A61K47/40
A61K47/64
A61K45/00
A61K49/00
C07K14/75
C07K14/79
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020531313
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2019027907
(87)【国際公開番号】W WO2020017496
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2018134042
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018169209
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】大槻 純男
(72)【発明者】
【氏名】山口 駿介
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/148213(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/105595(WO,A1)
【文献】特開平06-228199(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186140(WO,A1)
【文献】Journal of Controlled Release,2017年,Vol.262,pp.232-238
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
(i)SLSHSPQ(配列番号1)からなる配列含む血液脳関門透過性ペプチド。
【請求項2】
少なくとも一つの非天然アミノ酸を含む請求項1に記載の血液脳関門透過性ペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドが環状ペプチドである請求項1または2に記載の血液脳関門透過性ペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドが下記の(a)~(f)のいずれかである、請求項1に記載の血液脳関門透過性ペプチド、
(a)アミノ酸配列:SLSHSPQ(配列番号1)からなるペプチド、
(b)SLSHSPQ(配列番号1)のアミノ酸配列のC末端および/またはN末端に1~5個の任意のアミノ酸を有するペプチド、
(c)アミノ酸配列:CSLSHSPQC(配列番号2)からなるペプチドであって、該配列中のシステイン残基同士がジスルフィド結合しているペプチド、
(d)CSLSHSPQC(配列番号2)で示されるアミノ酸配列のC末端および/またはN末端に1~10個の任意のアミノ酸を有するペプチドであって、該配列中のシステイン残基同士がジスルフィド結合しているペプチド、
(e)下記式(1):
【化1】
(ここで、AAaおよびAAdは、それぞれ独立に1~10個の任意のアミノ酸を表し、AAbおよびAAcは、それぞれ独立に1~5個のアミノ酸を表す)のアミノ酸配列で表されるペプチド、または、
(f)SLSHSPQ(配列番号1)のアミノ酸配列のC末端およびN末端に1~15個の任意のアミノ酸を有するペプチドであって、該配列の両端に存在する任意のアミノ酸同士が架橋されているペプチド
【請求項5】
少なくとも一つの非天然アミノ酸を含む請求項4に記載の血液脳関門透過性ペプチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のペプチドを含む脳内送達用キャリア。
【請求項7】
前記脳内送達用キャリアが、請求項1~5のいずれかに記載のペプチドと、リポソーム、ナノキャリア、エキソソーム、ファージ、ポリロタキサン、シクロデキストリン、マイクロカプセル、およびミセルからなる群より選ばれる薬物送達用キャリア分子とからなる、請求項6に記載の脳内送達用キャリア。
【請求項8】
トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質とともに使用されることを特徴とする請求項6または7に記載の脳内伝達用キャリア。
【請求項9】
さらに、トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質を含む請求項6または7に記載の脳内伝達用キャリア。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一つに記載の脳内送達用キャリアと脳内に送達される薬物とからなる組成物。
【請求項11】
前記薬物が、脳内で薬理学的作用を示す分子または脳内イメージング分子である請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記脳内で薬理学的作用を示す分子が、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、または核酸である請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
脳疾患の予防および/または治療用の医薬組成物であって、請求項10~12のいずれか一つに記載の組成物および薬理学的に許容され得る添加剤とからなる医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか一つに記載のペプチド、および該ペプチドとともに血液脳関門を透過する分子からなる複合体。
【請求項15】
トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質とともに使用されることを特徴とする請求項14に記載の複合体。
【請求項16】
さらに、トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質を含む請求項14に記載の複合体。
【請求項17】
前記分子が、脳内で薬理学的作用を示す分子または脳内イメージング分子である請求項14~16のいずれか一つに記載の複合体。
【請求項18】
前記分子が、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、または核酸である請求項14~16のいずれか一つに記載の複合体。
【請求項19】
脳疾患の予防および/または治療用の医薬組成物であって、請求項14~18のいずれか一つに記載の複合体および薬理学的に許容され得る添加剤とからなる医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~5のいずれかに記載のペプチドおよび該ペプチドの存在下で血液脳関門を透過する少なくとも一つの分子との混合物、および薬理学的に許容され得る添加剤とからなる組成物。
【請求項21】
前記混合物がさらに、トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質を含む請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記分子が、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、核酸、リポソーム、ナノキャリア、エキソソーム、ファージ、ポリロタキサンおよび脳内イメージング分子からなる群より選ばれる1またはそれ以上の分子である請求項20または21に記載の組成物。
【請求項23】
請求項20~22のいずれか一つに記載の組成物からなる脳疾患の予防および/または治療用の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門(Blood-Brain Barrier:BBB)透過性のペプチドに関する。本発明はまた、該ペプチドを含む脳内送達用キャリア分子または複合体に関し、さらには、該ペプチドを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経疾患治療薬の効果を最大限に得るためには、薬物を効率的に脳へ送達する必要がある。しかし、血液中に投与または拡散された水溶性薬物やタンパク質は、脳内にほとんど移行しないことが知られている。これは、BBBが、血液と脳の組織液とを隔てる物理的および動的障壁として機能し、脳内への物質の受動拡散を厳密に制限しているためである。そのため、血液中に投与した目的物質を脳内に送達するには、BBBを効率的に透過するキャリア分子の開発が必須である。
【0003】
水溶性薬物やタンパク質などの脳内に移行しない物質を脳内送達させるためのキャリア分子が報告されている。これまでに、BBBを介した薬物の脳内送達に向け、医薬品のBBB透過率を改善するために、BBBに発現するトランスフェリン受容体に対するモノクローナル抗体(JCR株式会社のJ-Brain Cargo(登録商標))、インスリン受容体に対するモノクローナル抗体やBBB透過型抗体であるFC5、細胞膜透過ペプチドの1種であるTatやRVG-9Rペプチド、RDPペプチドまたはAngiopepといったBBB透過キャリアを用いたDrug Delivery System(DDS)開発が行われてきた(非特許文献1~6)。しかし、既存のBBB透過キャリアを用いたDDSの多くは、透過させる物質の大きさに制限があるという問題がある。また、抗体を利用したDDSは免疫原性を有することも問題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Coloma MJ, et al., Pharm Res. 2000 (3):266-74
【文献】Abulrob A., et al., J Neurochem. 2005 95(4):1201-14
【文献】Schwarze S.R., et al.,Science,1999,285,1569-1572
【文献】Fu A., et al., Pharm. Res,2012,29,1562-1569
【文献】Demeula M., et al., J Pharmacol Exp Ther. 2008; 324(3):1064-72
【文献】Kumar P., et al., Nature, 2007 448(7149):39-43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、血液脳関門(BBB)透過性の新規なペプチドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のアミノ酸配列を含む比較的短いペプチドがBBB透過性であることを見出し、本発明を完成した。
本発明は以下を含むものである。
[1]以下のアミノ酸配列:
(i)SLSHSPQ(配列番号1)からなる配列、または
(ii)上記配列番号1に記載のアミノ酸配列において、Pが、A,I,L,V,M,F,W,Y,S,T,N,Q,HおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸(好ましくは、A,I,L,V,M,S,T,N,QおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸、より好ましくは、A,I,L,V,S,TおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸)に置換された配列、
を含む血液脳関門透過性ペプチド。
[2]少なくとも一つの非天然アミノ酸を含む上記[1]に記載の血液脳関門透過性ペプチド。
[3]前記ペプチドが環状ペプチドである上記[1]または[2]に記載の血液脳関門透過性ペプチド。
[4]前記ペプチドが下記の(a)~(f)のいずれかである、上記[1]に記載の血液脳関門透過性ペプチド、
(a)アミノ酸配列:SLSHSPQ(配列番号1)からなるペプチド、
(b)SLSHSPQ(配列番号1)のアミノ酸配列のC末端および/またはN末端に1~5個の任意のアミノ酸を有するペプチド、
(c)アミノ酸配列:CSLSHSPQC(配列番号2)からなるペプチドであって、該配列中のシステイン残基同士がジスルフィド結合しているペプチド、
(d)CSLSHSPQC(配列番号2)で示されるアミノ酸配列のC末端および/またはN末端に1~10個の任意のアミノ酸を有するペプチドであって、該配列中のシステイン残基同士がジスルフィド結合しているペプチド、
(e)下記式(1):
【0007】
【化1】
(ここで、AAaおよびAAdは、それぞれ独立に1~10個の任意のアミノ酸を表し、AAbおよびAAcは、それぞれ独立に1~5個のアミノ酸を表す)のアミノ酸配列で表されるペプチド、または、
(f)SLSHSPQ(配列番号1)のアミノ酸配列のC末端およびN末端に1~15個の任意のアミノ酸を有するペプチドであって、該配列の両端に存在する任意のアミノ酸同士が架橋されているペプチド。
(g)上記(a)~(f)のいずれかに記載のペプチドにおいて、アミノ酸配列SLSHSPQにおけるPが、A,I,L,V,M,F,W,Y,S,T,N,Q,HおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸(好ましくは、A,I,L,V,M,S,T,N,QおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸、より好ましくは、A,I,L,V,S,TおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸)に置換された配列であるペプチド。
[5]少なくとも一つの非天然アミノ酸を含む上記[4]に記載の血液脳関門透過性ペプチド。
[6]上記[1]~[5]のいずれか一つに記載のペプチドを含む脳内送達用キャリア。
[7]前記脳内送達キャリアが、上記[1]~[5]のいずれかに記載のペプチドと、リポソーム、ナノキャリア、エクソソーム、ファージ、ポリロタキサン、シクロデキストリン、マイクロカプセル、およびミセルからなる群より選ばれる薬物送達用キャリア分子とからなる、上記[6]に記載の脳内送達用キャリア。
[8]トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質とともに使用されることを特徴とする上記[6]または[7]に記載の脳内伝達用キャリア。
[9]さらに、トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質を含む上記[6]または[7]に記載の脳内伝達用キャリア。
[10]上記[6]~[9]のいずれか一つに記載の脳内送達用キャリアと脳内に送達される薬物とからなる組成物。
[11]前記薬物が、脳内で薬理学的作用を示す分子または脳内イメージング分子である上記[10]に記載の組成物。
[12]前記脳内で薬理学的作用を示す分子が、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、または核酸である上記[11]に記載の組成物。
[13]脳疾患の予防および/または治療用の医薬組成物であって、上記[10]~[12]のいずれか一つに記載の組成物および薬理学的に許容され得る添加剤とからなる医薬組成物。
[14]上記[1]~[5]のいずれか一つに記載のペプチド、および該ペプチドとともに血液脳関門を透過する分子からなる複合体。
[15]トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質とともに使用されることを特徴とする上記[14]に記載の複合体。
[16]さらに、トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質を含む上記[14]に記載の複合体。
[17]前記分子が、脳内で薬理学的作用を示す分子または脳内イメージング分子である上記[14]~[16]のいずれか一つに記載の複合体。
[18]前記分子が、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、または核酸である上記[14]~[16]のいずれか一つに記載の複合体。
[19]脳疾患の予防および/または治療用の医薬組成物であって、上記[14]~[18]のいずれか一つに記載の複合体および薬理学的に許容され得る添加剤とからなる医薬組成物。
[20]上記[1]~[5]のいずれかに記載のペプチドおよび該ペプチドの存在下で血液脳関門を透過する少なくとも一つの分子との混合物、および薬理学的に許容され得る添加剤とからなる組成物。
[21]前記混合物がさらに、トランスフェリン、フィブリノーゲン、およびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質を含む上記[20]に記載の組成物。
[22]前記分子が、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、核酸、リポソーム、ナノキャリア、エクソソーム、ファージ、ポリロタキサンおよび脳内イメージング分子からなる群より選ばれる1またはそれ以上の分子である上記[20]または[21]に記載の組成物。
[23]上記[20]~[22]のいずれか一つに組成物からなる脳疾患の予防および/または治療用の医薬組成物。
[24]脳疾患の予防および/または治療が必要な対象に、上記[13]、[19]または[23]に記載の医薬組成物を、予防および/または治療有効量を投与することを含む脳疾患の予防および/または治療方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、血液脳関門 (BBB)を透過する新規なBBB透過性ペプチドが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】phageにディスプレイされる環状アミノ酸構造をphageとともに示した図である。
図2】phageにランダムにディスプレイされた環状アミノ酸を用いて、hCMEC/D3細胞を用いBBB透過性ペプチドをスクリーニングする工程の概要を示している。
図3】hCMEC/D3細胞透過実験によるphageライブラリーのスクリーニングにおいて、1回目、2回目、3回目におけるphageの透過量を測定した結果である。
図4】インビトロヒトBBBモデルを用いて、BBB透過性ペプチドを提示したphageの透過量を測定した結果である。データは、平均±SEM(n=3)を示す。*p<0.05,**p<0.01。
図5】インビトロのサルBBBモデルおよびラットBBBモデルを用いて、BBB透過性ペプチドを提示したphageの透過量を測定した結果である。データは、平均±SEM(n=3)を示す。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001。
図6】FAM標識した本発明のペプチドSLSHSPQのhCMEC/D3細胞への取りこみを確認した結果である。phageの存在がFAM標識(緑色)で、核の存在がDAPI(青色)で確認できる。それぞれのカラムは、別々の観察地点の結果を表しており、上段は重ね図、中段は青発色の図、下段は緑発色の図である。バーは、10μmである。
図7】本発明のペプチドSLSHSPQのhCMEC/D3細胞の密着結合への影響を確認した結果である。データは、平均±SEM(n=3)を示す。
図8】本発明のペプチドSLSHSPQの細胞毒性を確認した結果である。
図9】本発明のペプチドSLSHSPQのマウスでの脳内移行量を測定した結果である。データは、平均±SEM(n=5~6)を示す。**p<0.01。
図10】本発明のペプチドSLSHSPQを提示するphageのマウスでの脳内移行を免疫染色によって確認した結果である。phageの存在はFITC(緑色)により、血管の存在はレクチン(赤色)により、核の存在はDAPI(青色)により確認できる。上段左図は重ね図、上段右図は青発色の図、下段左図は赤発色の図、下段右図は緑発色の図である。バーは、10μmである。
図11】hCMEC/D3細胞を用いて、本発明のペプチドSLSHSPQを提示するphageのBBB透過性に対する各種リガンド(ビトロネクチン、フィブリノーゲン、RGDペプチド、トランスフェリン)の影響を確認した結果である。データは、平均±SEM(n=3)を示す。
図12】hCMEC/D3細胞を用いて、本発明のペプチドSLSHSPQを提示するphageのBBB透過性に対するモネンシンの影響を確認した結果である。データは、平均±SEM(n=3)を示す。*p<0.05,**p<0.01。
図13】本発明のSLS-phageのhCMEC/D3細胞への取りこみを確認した結果である。phageの存在が(赤色)で、核の存在がDAPI(青色)で確認できる。上段は重ね図、中段は青発色の図、下段は赤発色の図である。バーは、10μmである。
図14】SLS-phageの細胞内への取り込みに対する、温度(4℃)、SLSペプチド、ethyl-isopropyl amiloride (EIPA) の影響を確認した結果である。
図15】インビトロBBBモデルを用いて、本発明のSLS-リポソームのBBB透過性を測定した結果である。15Aはヒトモデル、15Bはサルモデル、15Cはラットモデルである。平均±SEMを示す。*p<0.05,**p<0.01、***p<0.001。
図16】本発明のSLS-リポソームのhCMEC/D3細胞への取りこみを確認した結果である。***p<0.001。
図17】本発明のSLS-リポソームのマウスでの脳内移行量を測定した結果である。それぞれについて2例の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法および材料とともに説明する。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
本明細書中で、「X~Y」という表現を用いた場合は、下限としてXを上限としてYを含む意味で、或いは上限としてXを下限としてYを含む意味で用いる。
本明細書中でアミノ酸を示す場合は、1文字表記である、A(アラニン)、R(アルギニン)、N(アスパラギン)、D(アスパラギン酸)、C(システイン)、Q(グルタミン)、E(グルタミン酸)、G(グリシン)、H(ヒスチジン)、I(イソロイシン)、L(ロイシン)、K(リジン)、M(メチオニン)、F(フェニルアラニン)、P(プロリン)、S(セリン)、T(トレオニン)、W(トリプトファン)、Y(チロシン)、V(バリン)で表す。
【0011】
(1)BBB透過性ペプチド
本発明のBBB透過性ペプチド(以下、単に本発明のペプチドという場合がある)は、アミノ酸配列:SLSHSPQ(配列番号1)またはその類似する配列を有することを特徴とする。類似する配列とは、配列番号1に示される配列SLSHSPQにおいて、Pが、A,I,L,V,M,F,W,Y,S,T,N,Q,HおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸、好ましくは、A,I,L,V,M,S,T,N,QおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸、より好ましくは、A,I,L,V,S,TおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸に置換された配列を意味し、本明細書では、単に、配列番号1の類似配列という場合がある。本発明のペプチドは、全てが天然のL体のアミノ酸から構成されるものに限定されず、L体またはD体のいずれのアミノ酸から構成されてもよく、また、L体およびD体のアミノ酸が混合したもので構成されてもよい。本発明のペプチドにおいては、天然に存在するアミノ酸である立体配置がL体であるアミノ酸の他に、天然のアミノ酸の構造を一部改変した誘導体など非天然のアミノ酸も使用されうる。非天然アミノ酸としては、特に制限されず、公知の任意のアミノ酸を用いることができる。例えば、立体配置がD体のアミノ酸やN-メチルアミノ酸は、蛋白分解酵素による分解を受けにくいことから本発明のペプチドに有効に使用されうる。よって、本発明のペプチドは、そのアミノ酸配列のうち、少なくとも一部がD体やN-メチルアミノ酸などの非天然型アミノ酸から構成されるのが好ましい。
【0012】
本発明のBBB透過性ペプチドは、アミノ酸配列:SLSHSPQ(配列番号1)または配列番号1の類似配列を有することを特徴とし、該配列の逆鎖ペプチドを含む意味であり、例えば、アミノ酸配列SLSHSPQを含むペプチドとは、(N末端)-SLSHSPQ-(C末端)の順にその配列を含むペプチドと、(N末端)-QPSHSLS-(C末端)の順にその配列を含むペプチドのいずれをも含む意味である。アミノ酸配列:CSLSHSPQC(配列番号2)やその他の配列についても同様である。
【0013】
本発明のBBB透過性ペプチドは、アミノ酸配列:SLSHSPQ(配列番号1)または配列番号1の類似配列を含むペプチドであり、これに限定されないが、例えば、以下の(a)~(f)で示されるペプチドを含む。
(a)アミノ酸配列:SLSHSPQ(配列番号1)からなるペプチド、
(b)SLSHSPQ(配列番号1)のアミノ酸配列のC末端および/またはN末端に1~5個の任意のアミノ酸を有するペプチド、
(c)アミノ酸配列:CSLSHSPQC(配列番号2)からなるペプチドであって、前記配列中のシステイン残基同士がジスルフィド結合しているペプチド、
(d)CSLSHSPQC(配列番号2)で示されるアミノ酸配列のC末端および/またはN末端に1~10個の任意のアミノ酸を有するペプチドであって、前記配列中のシステイン残基同士がジスルフィド結合しているペプチド、または
(e)下記式(1):
【0014】
【化2】
(ここで、AAaおよびAAdは、それぞれ独立に1~10個の任意のアミノ酸を表し、AAbおよびAAcは、それぞれ独立に1~5個の任意のアミノ酸を表す)のアミノ酸配列で表されるペプチド、または、
(f)SLSHSPQ(配列番号1)のアミノ酸配列のC末端およびN末端に1~15個の任意のアミノ酸を有するペプチドであって、該配列の両端に存在する任意のアミノ酸同士が架橋されているペプチド。
(g)上記(a)~(f)のいずれかに記載のペプチドにおいて、アミノ酸配列SLSHSPQにおけるPが、A,I,L,V,M,F,W,Y,S,T,N,Q,HおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸、好ましくは、A,I,L,V,M,S,T,N,QおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸、より好ましくは、A,I,L,V,S,TおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸に置換された配列であるペプチド。
【0015】
上記(b)で表される本発明のペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列のC末端および/またはN末端にそれぞれ、1~5個の、好ましくは1~3個の、さらに好ましくは1~2個の任意のアミノ酸を有するペプチドである。C末端またはN末端に付加されるアミノ酸の種類は特に制限なく、任意のアミノ酸が付加される。付加されるアミノ酸のそれぞれは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸のいずれでもよく、またそれらの任意の修飾アミノ酸でもよい。
【0016】
上記(d)で表される本発明のペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を環内に含み該配列の両端のシステイン残基がジスルフィド結合を形成している環状のペプチドにおいて、C末端および/またはN末端のシステイン残基に、さらに、1~10個、好ましくは1~7個、より好ましくは1~5個の任意のアミノ酸を有する環状のペプチドである。C末端またはN末端のシステインに付加されるアミノ酸の種類は特に制限なく、任意のアミノ酸が付加される。付加されるアミノ酸のそれぞれは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸のいずれでもよく、またそれらの任意の修飾アミノ酸でもよい。
【0017】
上記(e)で表される本発明のペプチドは、下記式:
【0018】
【化3】
で表される環状のペプチドである。
ここで、AAaおよびAAdは、それぞれ独立に、1~10個、好ましくは1~7個、より好ましくは1~5個の任意のアミノ酸を表し、AAbおよびAAcは、それぞれ独立に、1~5個の、好ましくは1~3個の、より好ましくは1~2個の任意のアミノ酸を表す。上記式において、AAa~AAdで表されるそれぞれのアミノ酸は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸のいずれでもよく、またそれらの任意の修飾アミノ酸でもよい。
【0019】
上記(f)で表される本発明のペプチドは、SLSHSPQ(配列番号1)のアミノ酸配列のC末端およびN末端に1~15個、好ましくは3~15個、さらに好ましくは5~15個、よりさらに好ましくは5~10個の任意のアミノ酸を有するペプチドであって、該配列の両端に存在する任意のアミノ酸同士が架橋されているペプチド、つまり、配列番号1のアミノ酸配列を環内に有する環状ペプチドである。C末端またはN末端に付加されるアミノ酸の種類は特に制限なく、任意のアミノ酸が付加される。付加されるアミノ酸のそれぞれは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸のいずれでもよく、またそれらの任意の修飾アミノ酸でもよい。また、架橋を形成するアミノ酸の位置は制限がなく、全長ペプチドの末端同士の場合、一方が全長ペプチドの末端である場合、いずれも全長ペプチドの末端でない場合のいずれもよい。
架橋を形成するための環化は、アミノ酸合成技術の分野において用いられている公知の技術を制限なく用いることができる。代表的な環化の例としては、ジスルフィド結合(SS結合)、アミド結合、チオエーテル結合、オレフィン結合、ラクタム環を介した架橋をあげることができる。なお、ジスルフィド結合(SS結合)の場合は、上記(c)~(d)の態様を含む。これに限定されないが、具体的な例としては、二つのペニシラミン残基をジスルフィド架橋で連結することにより環化するもの(Mosberg ら、P.N.A.S. US, 80:5871, 1983)、リジンとアスパラギン酸との間にアミド結合を形成することにより環化するもの(Flora ら、Bioorg. Med. Chem. Lett. 15 (2005) 1065-1068)、または予めチオエーテル結合を導入した架橋部位を含むアミノ酸誘導体をペプチド結合に導入し、縮合反応で環化するもの(Melinら 米国特許第6,143,722号)、およびオレフィンメタセシス反応を用いて主鎖に導入した(S)-α-2'-ペンテニル)アラニン同士を架橋させて環化するもの(Schafmeisterら、J. Am. Chem. Soc., 122, 5891-5892, 2000)をあげることができる。また、架橋を構成するアミノ酸の間に任意のスペーサーを導入することもできる。スペーサーは、これに限定されないが、例えば、任意の長さのポリエチレングリコールをあげることができる。その他、上記のアミノ酸以外にも、架橋を形成するための特別な構造のアミノ酸を、アンカー部分を構成するアミノ酸の位置に導入し、架橋を形成する技術が報告されているが、それらも本発明のペプチドの合成において用いることができる。
【0020】
上記(g)で表される本発明のペプチドは、上記(a)~(f)で表されるいずれか一つのペプチドにおいて、配列番号1に示される配列SLSHSPQにおけるPが、A,I,L,V,M,F,W,Y,S,T,N,Q,HおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸、好ましくは、A,I,L,V,M,S,T,N,QおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸、より好ましくは、A,I,L,V,S,TおよびGからなる群より選ばれるアミノ酸に置換されたペプチドである。
【0021】
本発明のBBB透過性ペプチドは、アミノ酸配列:SLSHSPQ(配列番号1)または配列番号1の類似配列を有することを特徴とし、直鎖状であっても環状であってもよいが、上記配列を環内に有する環状ペプチドであることが好ましい。
本明細書において「環状ペプチド」という場合は、ペプチドのN末端とC末端が連結されて環状を形成している場合、ペプチドのN末端またはC末端の一方とペプチド鎖の任意の場所のアミノ酸残基が連結されて環状を形成している場合、または、ペプチド鎖の任意の2箇所のアミノ酸残基が連結されて環状を形成している場合のいずれも含む意味であり、また、環を形成する連結様式は、アミノ酸残基同士が直接結合する場合、架橋を構成するリンカーを間に含む場合のいずれも含まれる。
環状ペプチドを形成する方法は、様々な方法が報告されており、それらの方法を適宜使用し、環状を有する本発明のBBB透過性ペプチドを作製することができる。それらの報告は、修飾アミノ酸を含むアミノ酸残基同士を直接結合する方法、リンカーを介して2つのアミノ酸残基を架橋する方法を含む。本発明のペプチドにおいて、環を形成する場合の環の種類や環の形成様式は特に制限がなく、目的に応じて、任意の種類や様式を選択できる。例えば、ある態様においては、システイン残基同士のジスルフィド結合が簡便であり好ましいが、別の態様においは、血中での分解耐性を望む場合は、他の結合様式、例えば、オレフィン結合による環化を選択することもできる。
【0022】
本発明のペプチドにおいて、ペプチドの両端のアミノ酸残基同士、またはペプチド鎖の任意の位置、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列の両側(隣接する場合、あるいは、1または複数のアミノ酸残基を間に有する場合のいずれも含む)に位置する何れかのアミノ酸残基同士が架橋を形成する場合における架橋の手段としては、これに限定されないが、例えば、ジスルフィド結合(SS結合)、アミド結合、チオエーテル結合、およびオレフィン結合を介した架橋をあげることができる。これに限定されないが、例えば、二つのペニシラミン残基をジスルフィド架橋で連結することにより環化するもの(Mosberg ら、P.N.A.S. US, 80:5871, 1983)、リジンとアスパラギン酸との間にアミド結合を形成することにより環化するもの(Flora ら、Bioorg. Med. Chem. Lett. 15 (2005) 1065-1068)、または、予めチオエーテル結合を導入した架橋部位を含むアミノ酸誘導体をペプチドに導入し、縮合反応で環化するもの(Melinら 米国特許第6,143,722号)、オレフィンメタセシス反応を用いてペプチド鎖に導入した(S)-α-(2'-ペンテニル)アラニン同士を架橋させて環化するもの(Schafmeisterら、J. Am. Chem. Soc., 122, 5891-5892, 2000)をあげることができる。その他、架橋のアンカーとなるアミノ酸残基部分に特殊な構造を有する、WO2012/121057に開示の架橋を用いることもできる。
【0023】
環状ペプチドである本発明のペプチドは、これに限定されないが、例えば以下のものを例示できる。
上記(a)で表される本発明のペプチドは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有し、そのC末端およびN末端が、直接、或いは任意のスペーサーを介して、結合し環を形成してもよい。
上記(b)で表される本発明のペプチドは、そのC末端およびN末端が、直接、或いは任意のスペーサーを介して、結合し環を形成してもよく、また、ペプチド鎖の任意の位置のアミノ酸残基同士が、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列を環内に含むようにして、架橋を形成して環を形成してもよい。
上記(c)~(e)で表される本発明のペプチドは、システイン残基間のジスルフィド結合により環を形成している。
【0024】
本発明のペプチドにおいて、スペーサーを用いて環を形成する場合は、ペプチドのアミノ酸残基間の架橋に使用できるスペーサーであれば特に制限なく使用することができる。これに限定されないが、上記の他に、例えば、炭素数1~12のアルキレン鎖、または-O-、-NH-または-S-結合を1以上含んでいる炭素数1~30のアルキレン鎖をあげることができる。
【0025】
本発明のBBB透過性ペプチドには、そのペプチドの薬理学的に許容される任意の塩も含まれる。これに限定されないが、例えば、塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩、サリチル酸塩、フタル酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメチルスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩などの有機酸塩、アンモニウム塩などの無機塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、カルボン酸塩などの酸性基の塩、メチルアミン、エチルアミン、シクロヘキシルアミンなどの低級アルキルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの置換低級アルキルアミンなどの有機塩基との塩、などをあげることができる。
【0026】
本発明のBBB透過性ペプチドには、そのペプチドの誘導体も含まれる。誘導体とは、本発明のペプチドの官能基を公知の方法により修飾、付加、変異、置換、削除などにより改変したものをいう。例えば、本発明のペプチドのN末端、C末端、またはアミノ酸の側鎖が保護基やその他の置換基などによって修飾されているものがあげられる。誘導体としては、これに限定されないが、例えば、アセチル化、アミド化、アクリル化、アニリド化、アルデヒド化、カルバミル化、グアニジル化、グリコシル化、サクシニル化、スルフォン化、ダンシル化、ニトロ化、パルミトイル化、マレイル化、ビオチン化、ベンジルオキシカルボニル化、ホルミル化、ミリスチル化、リン酸化、モノメチル化、ジメチル化、トリメチル化、アセトアセチル化、トリフルオロアセチル化、トリニトロフェニル化、ポリエチレングリコール化、標識化(例えば、PET用放射性核種、蛍光色素など)されたものなどが挙げられる。末端がフリーの場合は、N末端のアセチル化、C末端のアミド化は、末端からポリペプチドを分解するエキソペプチダーゼに対する抵抗性が付与されるため好ましい。
【0027】
本発明のペプチドは、公知の遺伝子工学的手法や化学合成法などによって作製できる。これに限定されないが、本発明のペプチドは、化学合成法、例えば、公知のペプチド合成方法に従って作製することができる。また、材料として、天然アミノ酸に加えて非天然アミノ酸を用いることにより、少なくともペプチドの一部が非天然アミノ酸からなる本発明のBBB透過性ペプチドを作製できる。例として、一部がD体やN-メチル化されたアミノ酸からなるペプチドをあげることができる。ペプチドの合成方法としては、例えば、固相合成法、液相合成法等があげられ、合成反応後は、ペプチド合成分野において通常用いられる精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶等の技術を組み合わせて用いることにより、本発明のペプチドを単離・精製できる。
【0028】
(2)目的分子
本発明のBBB透過性ペプチドは、BBB透過性を有しており、他の分子(本明細書中では、「目的分子」という場合がある)とともに用いることにより、目的分子のBBB透過を助け、目的分子の脳内への移行を可能とする。目的分子としては、これに限定されないが、例えば、その分子そのものが脳内において生理活性を有する物質(以下、単に生理活性物質という場合がある)または脳内において機能を発揮する物質(以下、これらをあわせて脳内活性物質という場合がある)である分子、または、脳内活性物質を含むまたは保持できる薬物送達に用いることができる分子(本明細書では、薬物送達用キャリア分子または単にキャリア分子ともいう)をあげることができる。後者の場合、本発明のBBB透過ペプチドを用いることにより、キャリア分子とともにそれに含まれるまたは保持された脳内活性物質がBBBを透過でき、脳内へと移行される。また、本発明のBBB透過性ペプチドは、従来のBBB透過性ペプチドに比べ、より大きな目的分子を透過(脳内へ移行)させることができる。
【0029】
目的分子のBBB透過を実現する際における、目的分子と本発明のペプチドの両者の状態は、特に制限されない。例えば、目的分子を本発明のペプチドが存在する条件下におくことにより、目的分子のBBB透過を実現することができる。また、目的分子と本発明のペプチドの複合体を形成させることにより、目的分子が本発明のペプチドとともにBBBを透過することができる。これにより、本発明のペプチドとともに目的分子を脳内に移行させることが可能となる。
【0030】
本発明のペプチドと目的分子との複合体における、結合の様式は特に限定されず、目的分子の脳内への送達を達成できる程度に結合していれば良く、共有結合、非共有結合のいずれの様式も含むものであるが、血液中にて安定に結合を維持できる結合様式が好ましい。本発明のペプチドと目的分子の結合(例えば、共有結合や非共有結合)は、公知の方法により行うことができ、用いる本発明のペプチドと目的分子の種類に応じて、適宜方法を選択できる。例えば、目的分子を本発明のペプチドに、ジスルフィド結合、アミド結合、チオール結合またはオレフィン結合などでアミノ酸の架橋に用いられる結合様式を用いて結合させてもよく、静電的に結合させてもよく、または、ビオチン・アビジン相互作用を用いて結合させてもよい。
【0031】
本発明のペプチドと目的分子との結合は、場合によりスペーサーを介して結合してもよい。用いることができるスペーサーは、結合様式や結合する分子の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、共有結合を用いて本発明のペプチドを他の分子に結合させる場合は、これに限定されないが、炭素数1~12のアルキレン鎖、または-O-、-NH-または-S-結合を1以上含んでいる炭素数1~30のアルキレン鎖、ポリエチレングルコール等をあげることができる。
【0032】
本発明のペプチドを薬物送達用キャリア分子に付加する場合の結合の様式は特に限定されず、キャリア分子が脳内活性物質を保持することを妨げず、かつ、キャリア分子の脳内への移行を達成できる程度に結合していれば良い。例えば、結合様式は、共有結合、非共有結合のいずれの様式も含むものであるが、血液中にて安定に結合を維持できる結合様式が好ましい。本発明のペプチドとキャリア分子の結合(例えば、共有結合や非共有結合)は、公知の方法により行うことができ、用いる本発明のペプチドとキャリア分子の種類に応じて、適宜方法を選択できる。
【0033】
以下、本発明のペプチドとともに用いることができる、または、本発明のペプチドと複合体を形成できる目的分子(脳内活性物質やキャリア分子)について記載するが、本発明のペプチドとの関係で、BBBの透過および/または脳内への送達を目的として用いることができる目的分子は以下に限定されるものではない。
【0034】
上記生理活性物質としては、これに限定されないが、例えば、低分子化合物、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質や核酸、をあげることができる。
【0035】
上記低分子化合物は、これに限定されないが、脳や中枢神経に関連する種々の疾患の治療および/または予防のために用いられる医薬品に有効成分として含まれている化合物、例えば、中枢神経疾患治療剤の有効成分、または脳の疾患の治療および/または予防のために用いられる化合物、例えば、脳内の炎症を抑えるための抗炎症作用を有する化合物、抗がん作用を示す化合物、脳内感染症治療のための抗菌薬や抗ウィルス薬の有効成分である化合物などをあげることができる。
公知の方法を用いて、これらの低分子化合物と本発明のペプチドからなる複合体を形成させることができる。例えば、これに限定されないが、低分子化合物および/または本発明のペプチドを化学的に修飾し、場合によりスペーサーを介して、両者を結合されればよい。目的分子である低分子化合物と本発明のペプチドからなる複合体も、本発明に含まれる。
【0036】
上記タンパク質は、これに限定されないが、脳内で生理活性を有するタンパク質分子をあげることができ、疾患の治療および/または予防のために用いられるタンパク質等をあげることができる。例えば、酵素、抗体、転写因子、あるいはそれらを構成する特定の部分をあげることができる。
公知の方法を用いて、これらのタンパク質と本発明のペプチドからなる複合体を形成させることができる。例えば、これに限定されないが、タンパク質および/または本発明のペプチドを化学的に修飾し、場合によりスペーサーを介して、両者を結合されればよい。或いは、非共有結合的に、例えば、静電的にタンパク質と本発明のペプチドを結合させてもよい。さらには、遺伝子工学的手法を用いて、目的分子であるタンパク質のアミノ酸配列と本発明のペプチドのアミノ酸配列をともに有する融合タンパク質(好ましくは、本発明のペプチドの配列をN末端またはC末端に有する融合タンパク質)として複合体を作製することもできる。また、目的分子であるタンパク質の配列と本発明のペプチドの配列の間に任意の配列を入れることも可能である。目的分子であるタンパク質と本発明のペプチドからなる複合体も、本発明に含まれる。
【0037】
上記ペプチド(ポリペプチドやオリゴペプチド)は、例えば、生理活性ペプチドをあげることができ、脳や中枢神経に関連する疾患の治療および/または予防のために用いられるペプチド等をあげることができる。具体的には、これに限定されないが、脳内アミロイドベータペプチド分解に関わる酵素発現を調節するソマトスタチン、脳内神経細胞機能を制御するインスリン、またはその他の脳や中枢神経の機能に関連するペプチド、およびそれらの誘導体をあげることができる。
公知の方法を用いて、これらのペプチドと本発明のペプチドからなる複合体を形成させることができる。例えば、これに限定されないが、以下の方法をあげることができる。目的分子であるペプチドおよび本発明のペプチドの両者を含む(場合により間に任意のアミノ酸配列を含む)配列のペプチドを、ペプチド合成の技術を用いて合成することができる。目的分子であるペプチドおよび/または本発明のペプチドを化学的に修飾し、場合によりスペーサーを介して、両者を結合させればよい。或いは、非共有結合的に、両者を結合させてもよい。さらには、遺伝子工学的手法を用いて、目的分子であるペプチドのアミノ酸配列と本発明のペプチドのアミノ酸配列をともに有する融合ペプチド(好ましくは、本発明のペプチドの配列をN末端またはC末端に有する融合ペプチド)として複合体を作製することもでき、また、目的分子であるペプチドの配列と本発明のペプチドの配列の間に任意の配列を入れることも可能である。目的分子であるペプチドと本発明のペプチドからなる複合体も、本発明に含まれる。
【0038】
上記核酸としては、脳や中枢神経に関連する疾患の治療および/または予防のために用いられる核酸をあげることができる。これに限定されないが、例えば、遺伝子ノックダウン法によるまたはRNA干渉を用いた各種疾患の治療のための核酸、例えば、アンチセンス核酸(DNAやRNA)、ヘテロ2本鎖核酸、siRNAやshRNAをあげることができる。具体的には、これに限定されないが、筋萎縮性側索硬化症に対する遺伝子治療をあげることができる。
公知の方法を用いて、これらの核酸と本発明のペプチドからなる複合体を形成させることができる。例えば、これに限定されないが、核酸および/または本発明のペプチドを化学的に修飾し、場合によりスペーサーを介して、両者を結合されればよい。或いは、非共有結合的に、例えば、静電的に核酸と本発明のペプチドを結合させてもよい。目的分子である核酸と本発明のペプチドからなる複合体も、本発明に含まれる。
【0039】
上記の生理活性物質として好ましく使用できる薬剤は、これに限定されないが、例えば、抗パーキンソン病薬、抗認知症薬、向精神薬をあげることができる。本発明のBBB透過性ペプチドは、BBBを透過しないまたは透過性が低い分子の透過を促進するものであるので、脳内への吸収促進に基づいてより有効な薬効を示す分子を含む複合体は本発明の対象の範囲である。
【0040】
上記脳内において機能を発揮する物質とは、脳内において生理活性以外の機能を発揮する分子である。例えば、脳内においてマーカーとなるような分子、脳またの脳内の標的をイメージングのために用いることができる分子(本明細書では、脳内イメージング分子という)をあげることができる。これに限定されないが、蛍光色素、量子ドット、ナノ磁性体、ナノゴールド、細胞内分子可視化試薬、PETで検出できる標識分子、等の生体内で標的を可視化できる化合物などをあげることができる。
公知の方法を用いて、これらの物質と本発明のペプチドからなる複合体を形成させることができる。目的分子であるこれらの物質と本発明のペプチドからなる複合体も、本発明に含まれる。
【0041】
上記キャリア分子としては、これに限定されないが、例えば、リポソーム、ナノキャリア、シクロデキストリン、ポリロタキサン、エクソソームおよびその誘導体、ミセルまたはマイクロカプセルをあげることができる。脳内活性物質をこのようなキャリア分子に組み込むための手法は公知であり、それらの公知の方法を本発明においても用いることができる。また、各キャリア分子についても、種々のものがその製法や入手経路も含めて公知であり、それらを用いることができる。
【0042】
本発明のペプチドをこれらのキャリア分子に付加することにより、キャリア分子のBBB透過性を促進することができる。例えば、本発明のペプチドを、キャリア分子と共有的または非共有的に結合させ、本発明のペプチドを付加したキャリア分子(以下、本発明の脳内送達用キャリアという場合がある)を作製できる。その後、本発明の脳内送達用キャリアを脳内に移行させたい分子である脳内活性物質と一緒にすることにより、脳内活性物質の脳内移行を達成することができる。また例えば、本発明のペプチドを、脳内活性物質を含むキャリア分子(例えば、リポソーム、ナノキャリア、エクソソーム、ファージ、ポリロタキサン)と共有的または非共有的に結合させればよい。ペプチドとキャリア分子との結合(例えば、共有結合や非共有結合的相互作用)は、公知の方法により行うことができ、用いるキャリア分子の種類に応じて、適宜、方法を選択できる。例えば、リポソームとの場合は本発明のペプチドのC末端に脂肪酸を付加させることでリポソーム膜に挿入させることができる(WO2013/140643号公報参照)。リポソーム膜へのペプチドの挿入は、脳内活性物質をリポソームに封入する前でも或いは封入した後でもよい。また、公知の方法を用いて、脳内活性物質を封入できるリポソームやシクロデキストリンの表面に本発明のペプチドを結合させて提示させることもできる。リポソームへの脳内活性物質の封入の方法は、種々報告があり、本発明においてもそれらの方法を適宜変更し用いることができる。これに限定されないが、例えば、本発明のペプチドを挿入したリポソーム原料と活性物質を用いてthin film hydration methodによりリポソームナノ粒子を製造することができる(例えば、Ind J Clin Biochem 32(2):230-234参照)。これらの本発明のペプチドを付加したキャリア分子、および、脳内活性物質を含んだまたは保持した本発明のペプチドを付加したキャリア分子も、本発明に含まれる。
【0043】
また、phageもキャリア分子として使用でき、phageに本発明のペプチドとともに目的分子を提示させることにより、本発明のペプチドと目的分子とを共存させることができる。例えば、これに限定されないが、本発明のペプチドに加え、抗体等をphageに提示させることにより、本発明のペプチドと抗体等をphage上に共存させることができる。
【0044】
上記のようにして、本発明のペプチドが付加されたキャリア分子(例えば、リポソーム、ナノキャリア、シクロデキストリン、ポリロタキサン、エクソソームおよびその誘導体、ファージ、ミセルまたはマイクロカプセル)からなる脳内送達用キャリアが提供され、該脳内送達用キャリアを用いた、汎用性の高いBBB透過性ドラッグデリバリーシステム(脳内送達DDS)の構築が可能である。
よって、本発明のBBB透過性ペプチドおよび本発明のBBB透過性ペプチドが付加された薬物送達用キャリア分子は、BBBを透過しないまたはBBB透過性が低い分子を脳内に送達させるための、脳内送達用キャリアでもある。
【0045】
本発明のBBB透過性ペプチド、または本発明のBBB透過性ペプチドと目的分子(脳内活性物質や薬物送達用キャリア分子)を含む複合体はさらに、トランスフェリン、フィブリノーゲンおよびRGD配列を含むペプチドからなる群より選ばれる物質と組み合わせて用いることにより、BBB透過性を増強させることができる。
よって、本発明はまた、本発明のBBB透過性ペプチド、目的分子(脳内活性物質や薬物送達用キャリア分子)、および、トランスフェリン、フィブリノーゲンまたはRGD配列を含むペプチドから選ばれる物質、を含む組成物でもある。好ましくは、本発明のBBB透過性ペプチド、目的分子(脳内活性物質や薬物送達用キャリア分子)、およびトランスフェリンを含む組成物である。
さらに本発明はまた、本発明のBBB透過性ペプチド、目的分子(脳内活性物質や薬物送達用キャリア分子)、および、トランスフェリン、フィブリノーゲンまたはRGD配列を含むペプチドから選ばれる物質、を含む複合体でもある。好ましくは、本発明のBBB透過性ペプチド、目的分子(脳内活性物質や薬物送達用キャリア分子)、およびトランスフェリンを含む複合体である。
【0046】
トランスフェリンは、血液中の鉄イオンを輸送する糖タンパク質である。本発明で用いることができるトランスフェリンは、その由来は特に制限がないが、好ましくはヒト由来のものである。
フィブリノーゲンは、肝臓で産生される凝固因子であり血栓の骨格となるフィブリンの前駆体である。本発明で用いることができるフィブリノーゲンは、その由来は特に制限がないが、好ましくはヒト由来のものである。
上記RGD配列を含むペプチドは、例えば、RGD配列を含む100アミノ酸配列以下の、好ましくは50アミノ酸配列以下の、さらに好ましくは20アミノ酸配列以下の、よりさらに好ましくは10アミノ酸配列以下のペプチドである。RGDモチーフは、多くの細胞接着性タンパク質に共通の細胞接着活性配列である。
【0047】
本発明のBBB透過性ペプチド、薬物送達用キャリア分子およびトランスフェリンを含む複合体は、これに限定されないが、例えば、リポソーム、ナノキャリア、シクロデキストリン、ポリロタキサン、エクソソームおよびその誘導体、ファージ、ミセルまたはマイクロカプセルの表面にトランスフェリンと本発明のBBB透過ペプチドが結合した複合体をあげることができ、脳内活性物質を脳内に送達するための脳内伝達用キャリアでもある。好ましくは、表面にトランスフェリンおよび本発明のBBB透過ペプチドが結合したリポソームである。トランスフェリンをリポソームの表面に結合する方法は、公知であり、それを本発明において用いることができる。或いは、トランスフェリンが表面に結合したリポソームは市販もされている。リポソームの表面に本発明のBBB透過ペプチドを結合する方法は上記した通りである。リボソーム上に結合したトランスフェリンと本発明のBBB透過ペプチドの割合は、特に制限なく、適宜調整して用いられる。
【0048】
本発明のBBB透過性ペプチド、薬物送達用キャリア分子およびRGD配列を含むペプチドを含む複合体は、これに限定されないが、例えば、リポソーム、ナノキャリア、シクロデキストリン、ポリロタキサン、エクソソームおよびその誘導体、ファージ、ミセルまたはマイクロカプセルの表面にRGD配列を含むペプチドと本発明のBBB透過ペプチドが結合した複合体をあげることができ、脳内活性物質を脳内に送達するための脳内伝達用キャリアでもある。好ましくは、表面にRGD配列を有するペプチドおよび本発明のBBB透過ペプチドが結合したリポソームである。RGD配列を含むペプチドをリポソームの表面に結合する方法は、公知であり、それを本発明において用いることができる。リポソームの表面に本発明のBBB透過ペプチドを結合する方法は上記した通りである。リボソーム上に結合したRGD配列を含むペプチドと本発明のBBB透過ペプチドの割合は、特に制限なく、適宜調整して用いられる。
【0049】
本発明のBBB透過性ペプチドがBBB透過性を示す対象となり得る動物は、BBBを有する動物であれば特に限定されないが、好ましくは哺乳動物であり、例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ウサギなどが挙げられる。好ましくは、ヒトである。
【0050】
配列番号1で示される配列を含む本発明のBBB透過性ペプチドは、7アミノ酸配列部分においてプロリンを含み環状構造を取りやすくなっている。そのため、BBBの透過性が優れていると考えられる。
【0051】
また、本発明のBBB透過性ペプチドは、M13ファージという非常に大きな分子のBBBの透過を可能とする。従って、本発明のBBB透過性ペプチドは、大きな目的分子を脳内へ送達するのに優れている。
本発明のBBB透過ペプチドと目的分子(脳内活性物質や薬物送達用キャリア分子)を含む複合体は医薬として利用が可能である。本発明の複合体を含む医薬品は、公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。例えば、そのまま液剤としてまたは適当な剤型の医薬組成物として、ヒトを含む哺乳動物に対して非経口的または経口的に投与することができる。非経口的投与方法としては、例えば、注射剤又は貼付剤(経皮投与)が例示できる。本発明の複合体を含む医薬組成物は、好ましくは非経口的に投与される。
【0052】
本発明の複合体を含む医薬組成物は、目的分子および本発明のBBB透過性ペプチドの効果を損なわない範囲で任意の成分を適宜配合できる。任意成分としては、これに限定されないが、例えば、架橋剤、溶解剤、乳化剤、保湿剤、清涼化剤、無機粉体、酸化防止剤、防腐剤、着色剤、香味剤、pH調整剤、安定化剤をあげることができる。
【0053】
本発明の複合体のヒトに対する投与量は、含まれている活性物質の種類、投与対象の年齢、体重、状態、性別、投与方法、その他の条件に応じて適宜決定される。例えば、活性物質の量として、投与量は、1日あたり、約0.01mg/kg~約10mg/kgがあげられる。
【実施例
【0054】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)BBB透過ペプチドのスクリーニング
BBBを効率的に透過するペプチドの同定を目的としてペプチドのスクリーニングを行った。ペプチドのスクリーニングは、7アミノ酸がランダムに提示されるphageライブラリー(1x109種類)とヒトBBBモデル細胞であるhCMEC/D3細胞を用いた。
(1)phageライブラリーの作製
Ph.D.-C7C Phage Display Peptide Library Kit(New England BioLabs社)を購入し、phageライブラリーを取得した。phageにジスルフィド結合を形成したシステインに挟まれた7アミノ酸を持つ環状ペプチドがランダムに提示される。phageにディスプレイされる環状ペプチド構造を図1に示す。
【0055】
(2)透過ペプチドのスクリーニング
hCMEC/D3細胞を用いた透過実験は、以下のようにして行った。概要を図2に示す。トランスウエルにhCMEC/D3細胞を1.0×105 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で4~6日間培養した。細胞のluminal側にphage library(1.0×1011pfu)を添加し、abluminal側へ透過したphageの力価をプラークカウント法によって測定した。abluminal側へ透過したphageを回収し、ER2738を用いて増殖させ、2回目のスクリーニングに用いた。hCMEC/D3細胞透過実験によるphage libraryスクリーニングを3回繰り返した。それぞれの回における、badal側へのphageの透過の結果を図3に示す。3回目にabluminal側へ透過したphageのプラークからphage DNAのシークエンス解析を行うことで、hCMEC/D3細胞を透過する環状ペプチドのアミノ酸配列を決定した。
その結果、3回目にabluminal側に透過したphage群から、178クローン(1分までにhCMEC/D3細胞を透過したphage群から89クローン、3分~5分までにhCMEC/D3細胞を透過したphage群から89クローン)を同定した。この内、同じ配列を示したものが、それぞれ2クローン同定された。それらのペプチドについて、hCMEC/D3細胞の透過性を確認したところ、アミノ酸配列:SLSHSPQ(配列番号1)をもつ環状ペプチドを提示したphageが顕著な透過性を示すことが確認できたので、そのペプチドを提示するphage(以下、SLS-phageともいう)を以下の実験に使用した。
【0056】
(実施例2)インビトロBBBモデルにおける透過量
インビトロのBBBモデルを用いて、SLS-phageの時間依存的な透過量を以下のようにして確認した。トランスウエルにhCMEC/D3細胞を1.0×105 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で4~6日間培養した。細胞のluminal側にphage(1.0×1011pfu)を添加し、abluminal側へ透過したphageの力価を定量PCR法によって測定した。コントロールとして、ペプチド非提示phageを用いた。結果を図4に示す。環状ペプチドSLSHSPQを提示するphage(SLS-phage)は1分後からhCMEC/D3細胞を透過し、30分後までの透過量はペプチド非提示phageと比較して3.5倍高かった。
さらに、サルおよびラット型のインビトロBBB透過モデルを用いて、透過量を測定した。サルおよびラットのインビトロBBBキットはファーマコセル(株)から購入したものを用い、透過実験はhCMEC/D3細胞の場合と同様にして行った。結果を図5に示す。SLS-phageは、アストロサイトおよびペリサイトと共培養したインビトロサル由来およびラット由来BBBもそれぞれ7.6倍および28倍で透過した。
このことより、本発明のBBB透過性ペプチドは、種を超えて脳毛細血管内皮細胞を経細胞的に透過することが示された。
【0057】
(実施例3)本発明のBBB透過ペプチドの細胞への取り込み
本発明のBBB透過ペプチドのhCMEC/D3細胞への取り込みを以下のように確認した。
FAM標識した、SLSHSPQ配列を有する合成環状ペプチドを株式会社スクラムに依頼し、調製した。CSLSHSPQCを含む ACSLSHSPQCGGGSの配列のペプチドを化学合成し、その後、システイン残基間でジスルフィド結合を形成させることにより環状ペプチドを形成させた。次いで、C末端にリジン残基を付加しさらにFAMを結合させることにより、FAM標識環状ペプチドを調製した。
8well スライドグラスにhCMEC/D3細胞を2.5×104 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で48時間培養した。細胞にFAM標識した合成環状ペプチドSLSHSPQ(10μM)を添加し、37℃ホットプレート上で10,30,60分間インキュベートした。Cold PBS 500μLで3回洗浄し、4% PFAで10分間固定した。VECTASHIELD(登録商標) Mounting Medium with DAPIを滴下後に、カバーガラスをのせて封入し、共焦点顕微鏡でFAMおよびDAPIを観察した。結果を図6に示す。FAM標識ペプチドが細胞内に取り込まれていることが確認できた。これより、合成環状ペプチドSLSHSPQは、細胞内に内在化することが確認できた。
【0058】
(実施例4)本発明のBBB透過性ペプチドの密着結合に与える影響
SLSHSPQ配列を有する本発明のBBB透過性ペプチドが密着結合に与える影響を以下のようにして検討した。トランスウエルにhCMEC/D3細胞を1.0×105 ccells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で4~6日間培養した。細胞に実施例3で調製した標識前の合成環状ペプチドSLSHSPQ(0~100μM)を添加し、37℃にてCO2インキュベーター内でインキュベートした。48時間後まで経時的にTEERを測定することで密着結合への影響を評価した。図7に示すように、環状ペプチドSLSHSPQは、細胞の密着結合を低下させなかった。
【0059】
(実施例5)本発明のBBB透過性ペプチドの細胞毒性
SLSHSPQ配列を有する本発明のBBB透過性ペプチドの細胞増殖に与える影響を以下のようにして検討した。96well plateにhCMEC/D3細胞を1×104 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で48時間培養した。細胞に合成環状ペプチドSLSHSPQ(0~100μM)を添加し、37℃にてCO2インキュベーター内でインキュベートした。24、48時間後の細胞生存率をcell counting kit-8を用いて算出した。図8に示ように、合成環状ペプチドSLSHSPQは細胞に対して細胞毒性を示さなかった。
【0060】
(実施例6)本発明のBBB透過性ペプチドの脳内移行
SLSHSPQ配列を有する本発明のBBB透過性ペプチドの脳内移行を以下のようにして検討した。SLS-phageおよびペプチド非提示のcontrol Phage(それぞれ、1.0×1011pfu)をICRマウス(雄、7~10週齢)の経静脈へ投与し、1時間後に採血およびPBS灌流を行った。血液は4℃、8000rpmで5分間遠心し、血漿を分離した。摘出した脳をビーズ式ホモジナイザーで4000rpm, 30 秒×4回ホモジネートし、4℃、20000g、30分遠心後に上清を回収した。血漿および脳ホモジネート上清の力価をプラークカウント法によって算出した。結果を図9に示す。インビボマウス静脈内投与1時間後のSLS-phageの脳/血漿比をcontrol phageと比較すると12倍高かった。
以上の結果より、本発明のBBB透過性ペプチドは、脳毛細血管内皮細胞を経細胞的に透過することによってBBB透過能を示すことが示された。
【0061】
(実施例7)大脳皮質への移行の確認
実施例6と同様にしてphageをマウスに経静脈投与し、摘出した脳を切片にした。マウス脳切片を免疫染色し、SLS-phageの存在を確認したとこと、SLS-phageの脳実質移行が確認できた。結果を図10に示す。
【0062】
(実施例8)各種リガンドによるBBB透過阻害
hCMEC/D3細胞を用い、本発明のペプチドSLSHSPQを提示するphageのBBB透過性に対する各種リガンド(ビトロネクチン、フィブリノーゲン、RGDペプチド、トランスフェリン)の影響を確認した。
トランスウエルにhCMEC/D3細胞を1.0×105cell/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で4~6日間培養した。細胞のluminal側にペプチドSLSHSPQを提示するphage(1.0×1011pfu)を添加し、abluminal側へ透過したphageの力価を定量PCR法によって測定した。コントロールとして、ペプチド非提示phageを用いた。+vitronectin群は20μg/mLとなるようにhuman vitronectin(R&D Systems, Inc.)を添加した。+fibrinogen群は50μg/mLとなるようにhuman fibrinogen(Wako)を添加した。+RGD群は100μMとなるようにRGDペプチド(SIGMA)を添加した。+holo-Tf(トランスフェリン)群は100μMとなるようにholo-Tf(SIGMA)を添加した。その後、abluminal側へ透過したphageの力価を定量PCRによって測定した。結果を図11に示す。
VitronectinによってSLS-phageの透過が阻害された。一方で、fibrinogenおよびRGDはSLS-phageの透過を阻害しなかった。従って、SLS-phageがhCMEC/D3細胞に発現するfibrinogenおよびRGDが認識しないintegrinを介して透過している可能性が示唆された。
Holo-transferrinによってSLS-phageの透過が促進された。Transferrinはエクソソームの分泌を促進する作用がある。また、integrinはエクソソーム分泌を介して細胞から細胞へと輸送されることが報告されている。従って、SLS-phageはエクソソームとしてhCMEC/D3細胞から分泌されることで透過している可能性がある。fibrinogenおよびRGDは、SLSHSPQが結合しないintegrinのサブタイプに結合することで、多胞体におけるエクソソーム合成を促進し、その結果、SLS-phageの細胞外への分泌が亢進し、透過量が増大した可能性がある
【0063】
(実施例9)細胞透過機構の検討
トランスウエルにhCMEC/D3細胞を1.0×105cell/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で4~6日間培養した。luminal側およびabluminal側の培地をモネンシン含有培地に置換し、さらに18時間培養した。細胞のluminal側にプチドSLSHSPQを提示するphage(1.0×1011pfu)を添加し、abluminal側へ透過したphageの力価を定量PCR法によって測定した。結果を図12に示す。モネンシン濃度依存的にSLS-phageのhCMEC/D3細胞透過量が増大した。従って、SLS-phageはエクソソームを介してhCMEC/D3細胞内からabluminal側へと分泌されていることが示唆された。
【0064】
(実施例10)BBB透過性ペプチドと結合した巨大分子の細胞内への取り込み
hCMEC/D3細胞を用い、本発明のペプチドSLSHSPQを提示するphage(SLS-phage)の細胞内への取り込みを確認した。
8well スライドグラスにhCMEC/D3細胞を2.5×104 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で48時間培養した。培養した細胞にSLS-phage(1.0×104 pfu)を添加し、37℃ホットプレート上で10分間インキュベートした。Cold PBS 500μLで3回洗浄し、4% PFAで10分間固定した。その後、0.1% triton-X100/PBS 100 μLで10分間処理し、1% BSA/PBS 250 μL加え、室温で1時間ブロッキング後、1% Anti-m13+fd bacteriphage coat proteins antibody/Can Get Signal immunostain B 100 μLを添加し、4℃で一昼夜インキュベーションした。PBS-T 500 μLで3回洗浄し、0.1% Goat Anti-Rabbit IgG H and L(Alexa Fluor 568)(abcam、ab175695)/Can Get Signal immunostain B 100 μLを添加し、室温で1 時間インキュベーションした。再度、PBS-T 500 μLで3回洗浄し、VECTASHIELD(登録商標) Mounting Medium with DAPIを滴下後に、カバーガラスをのせて封入し、共焦点顕微鏡でSLS-phageおよびDAPIを観察した。結果を図13に示す。SLS-phageが細胞内に取り込まれていることが確認できた。これより、本発明のペプチドを持つ非常に大きな分子であるM13phage(SLS-phage)は、細胞内に内在化することが確認できた。
【0065】
次いで、SLS-phageの細胞内への内在化機構を検討した。上記と同様にして培養した細胞にSLS-phageを添加し、以下のように条件を変更して培養を行い、細胞内への取り込みを確認した。温度による影響は37℃または4℃で培養して検討した。
また、SLS-phageに加え、さらに、SLSペプチド(10 μM)、またはマクロピノサイトーシス阻害剤であるEIPA(100μM、CYAMANから購入)を添加し、37℃で培養して検討した。SLS-phageの取り込み阻害の結果を図14に示す。SLS-phageの細胞内内在化にはマクロピノサイトーシスが関与していることが判った。
【0066】
(実施例11)SLS-リポソームのインビトロBBBモデルでの透過
薄膜水和法によって、組成:COATSOME NC-50/Cholesterol/DIO (210 nmol : 90 nmol : 5 nmol)からなる蛍光標識リポソームを合成し、ステアリル化SLSペプチド(ACSLSHSPQ-stearic acid、スクラムから購入)を混合することにより、SLS-ペプチドが結合したリポソームを調製した。
トランスウエルにhCMEC/D3細胞を1.0×105 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で4~6日間培養した。細胞のluminal側にSLS-リポソーム(50 nmol)を添加し、abluminal側へ透過したSLS-リポソームの量を蛍光プレートリーダーよって測定した。コントロールとして、SLSペプチドを結合していないリポソームを用いた。結果を図15Aに示す。SLSペプチドを結合させたリポソームはコントロールに比べて有意に透過が促進していた。なお、コントロールでも透過が観察されたのは、細胞の密着結合の程度が低いためその間隙から透過したと考えられる。
さらに、サルおよびラット型のインビトロBBB透過モデルを用いて、SLS-リポソームの透過量を測定した。サルおよびラットのインビトロBBBキットはファーマコセル(株)から購入したものを用い、透過実験はhCMEC/D3細胞の場合と同様にして行った。結果を図15B及びCに示す。SLS-リポソームは、アストロサイトおよびペリサイトと共培養したインビトロサル由来およびラット由来BBBもそれぞれ有意に透過が促進していた。
【0067】
(実施例12)SLS-リポソームの細胞内への取り込み
hCMEC/D3細胞を用い、実施例11で調製した蛍光標識SLS-リポソームの細胞内への取り込みを確認した。
24well プレートにhCMEC/D3細胞を5.0×104 cells/wellずつ播種し、37℃にてCO2インキュベーター内で48時間培養した。培養した細胞にSLS-リポソームまたはコントロールとしてSLSが結合していないリポソームを添加し(添加量:30 nmol)、37℃ホットプレート上で5、10、30分間インキュベートした。その後、hCMEC/D3細胞内に取り込まれたリポソームを1% triton-X100/PBSで抽出し、蛍光プレートリーダーで測定した。結果を図16に示す。SLSペプチドをリポソームに結合させることで、BBBを構成する細胞へのリポソームの取り込みが顕著に促進されることが判った。
【0068】
(実施例13)SLS-リポソームの脳への移行
SLS-リポソームの脳内移行を以下のようにして検討した。実施例11で調製したSLS-リポソームおよびSLSが結合されていないリポソーム(それぞれ、50 nmol)をICRマウス(雄、7~10週齢)の経静脈へ投与し、55分後に採血、60分後にPBS灌流を行い、脳を摘出した。血液は4℃、8000rpmで5分間遠心し、血漿を分離した。摘出した脳をビーズ式ホモジナイザーで4000rpm, 30 秒×4回ホモジネートし、4℃、20000g、30分遠心後に上清を回収した。血漿および脳ホモジネート上清中の蛍光量を測定した。結果を図17に示す。脳内からはSLSリポソームが検出されたが、対照としたリポソームは検出されなかった。また、血漿中のSLS-リポソームと対照リポソームの濃度は同程度であった。このことは、SLSペプチドが、リポソーム等のナノキャリの脳移行性を促進していることを示している。
【0069】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のBBB透過性ペプチドは、高分子医薬品にも適用できるものであり、透過性ペプチドとして有用である。本発明のBBB透過性ペプチドはさらには、低分子医薬品のみならず高分子医薬品やリポソームの脳内への送達に適用可能であり、脳や中枢神経に関連する疾患の予防や治療のためのキャリア分子として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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