(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20231106BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
B25B23/14 630G
B25F5/00 C
B25F5/00 B
B25F5/00 G
(21)【出願番号】P 2019186370
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 孝太
(72)【発明者】
【氏名】無類井 格
(72)【発明者】
【氏名】辻本 直生
(72)【発明者】
【氏名】百枝 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 暁斗
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-104541(JP,A)
【文献】特開2011-016210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14
B25F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの押付力を感知する感圧センサと、
前記感圧センサを支持する支持部と、
先端工具を保持し、電動機の動力によって前記支持部に対して相対的に回転する出力軸と、
前記感圧センサからの、前記押付力に応じた出力に基づいて、前記出力軸の回転を制御する制御部と、
を備え
、
前記支持部は、貫通孔を有し、
前記出力軸は、前記貫通孔を通って前記支持部よりも前方に突出している、
電動工具。
【請求項2】
前記制御部は、前記感圧センサからの前記出力の大きさに応じて、前記出力軸の回転速度を調整する、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記感圧センサは、前記押付力を、前記先端工具の先端の側から前記出力軸に向かう方向で受けるように前記支持部に支持される、
請求項1又は請求項2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記感圧センサと対向するように配置され、前記感圧センサと接触することで前記押付力を前記感圧センサに伝達する伝達部を更に備え、
前記出力軸は、前記支持部と前記伝達部の両方に対して相対的に回転する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記感圧センサを複数備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項6】
前記制御部は、複数の前記感圧センサからの前記出力のうち少なくとも1つの出力値が閾値を超えた場合に、前記出力軸の回転を開始させる、
請求項5に記載の電動工具。
【請求項7】
前記制御部は、複数の前記感圧センサからの前記出力の全ての出力値が閾値を超えた場合に、前記出力軸の回転を開始させる、
請求項5に記載の電動工具。
【請求項8】
複数の前記感圧センサは、前記出力軸の周方向に沿って並んで配置される、
請求項5~7のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項9】
前記感圧センサは、シート状である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の電動工具。
【請求項10】
前記感圧センサは、前記出力軸の径方向に沿って見て、当該電動工具の先端から前記電動機までの間に配置される、
請求項1~9のいずれか1項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、電動工具に関する。より詳細には、本開示は、先端工具を保持して電動機の動力によって回転する出力軸を備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トリガー又はスイッチを設けなくても回転速度をコントロールすることができる速度制御付回転工具が記載されている。この速度制御付回転工具では、出力軸内のビット取付穴の奥に圧電素子が配置される。ビット取付穴に嵌入されるビットの後端部が圧電素子の前面に押し付けられる。その結果、圧電素子の抵抗値が変化する。この抵抗値を押付力検出部にて検出して、モータの回転数を制御する。これによりビットを押し付ける圧力の加減でビットの回転速度を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電動工具では、圧電素子(感圧センサ)は、出力軸内に配置されており、出力軸と一体となって回転することで、圧電素子が傷付く可能性がある。すなわち、回転制御に関する信頼性が低下する可能性がある。
【0005】
本開示は上記事由に鑑みてなされ、回転制御に関する信頼性の低下の抑制を図ることができる、電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様の電動工具は、感圧センサと、支持部と、出力軸と、制御部と、を備える。前記感圧センサは、外部からの押付力を感知する。前記支持部は、前記感圧センサを支持する。前記出力軸は、先端工具を保持し、電動機の動力によって前記支持部に対して相対的に回転する。前記制御部は、前記感圧センサからの、前記押付力に応じた出力に基づいて、前記出力軸の回転を制御する。前記支持部は、貫通孔を有する。前記出力軸は、前記貫通孔を通って前記支持部よりも前方に突出している。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、回転制御に関する信頼性の低下の抑制を図ることができる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電動工具の上から見た外観斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る電動工具の下から見た外観斜視図である。
【
図3】
図3は、同上の電動工具の概略ブロック図である。
【
図4】
図4は、同上の電動工具の出力軸及びその周辺における要部断面図である。
【
図5】
図5は、同上の電動工具における、先端カバーが取り外された状態の正面図である。
【
図6】
図6Aは、同上の電動工具の要部分解斜視図である。
図6Bは、同上の電動工具の要部分解斜視図である。
【
図7】
図7Aは、同上の電動工具の要部分解斜視図である。
図7Bは、同上の電動工具における支持部の正面図である。
【
図8】
図8は、同上の電動工具の規制領域を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)概要
以下の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0010】
本実施形態に係る電動工具1は、
図1~
図3に示すように、例えば工場又は建築現場等で使用される工具である。ここでは一例として、電動工具1は、
図3に示すように、作業対象100(ボルト又はねじ等の締結部材)を締め付けるために使用される電動ドライバー(回転工具)であることを想定する。ただし、電動工具1の種類は、特に限定されず、例えばインパクトドライバー(回転打撃工具)でもよい。
【0011】
本実施形態に係る電動工具1は、
図4に示すように、感圧センサ80と、支持部112と、出力軸3と、制御部4(
図3参照)とを備えている。感圧センサ80は、外部からの押付力を感知する。押付力は、例えば、
図3に示すように、先端工具2の先端の側から出力軸3に向かう押付方向D1に沿った力である。
【0012】
支持部112は、感圧センサ80を支持する。出力軸3は、先端工具2(
図3参照)を保持し、電動機5の動力によって支持部112に対して相対的に回転する。制御部4は、感圧センサ80からの、押付力に応じた出力に基づいて、出力軸3の回転を制御する。
【0013】
この構成によれば、出力軸3は、電動機5の動力によって、感圧センサ80を支持する支持部112に対して相対的に回転する。そのため、例えば感圧センサ80が出力軸3と一体となって回転する場合に比べて、感圧センサ80が傷付きにくくなる。そのため、回転制御に関する信頼性の低下の抑制を図ることができる。
【0014】
(2)詳細
(2.1)全体構成
以下、本実施形態に係る電動工具1の全体構成について、
図1~
図8を参照しながら詳しく説明する。なお、以下では、電動工具1を利用して作業対象100を締め付ける作業を行う者を単に「ユーザ」と呼ぶことがある。
【0015】
また以下の電動工具1の説明においては、
図1におけるX軸に沿った方向を左右方向とし、X軸の正の向きを右側と規定する。またY軸に沿った方向を前後方向とし、Y軸の正の向きを前側と規定する。さらにZ軸に沿った方向を上下方向とし、Z軸の正の向きを上側と規定する。ただし、これらの方向は一例であり、電動工具1の使用時の方向を限定する趣旨ではない。また、
図1中の各方向を示す矢印は説明のために表記しているに過ぎず、実体を伴わない。
【0016】
電動工具1は、
図3に示すように、駆動ブロックA1と、クラッチ機構E1と、先端工具2と、制御部4と、チャック7と、検知部8と、器体9とを備えている。また電動工具1は、
図1に示すように、電源部6(
図3参照)と、一対のスイッチ16(
図1では右側のスイッチ16のみ図示)と、ロックボタン17と、変速ボタン18とを更に備えている。また電動工具1は、第1光源部101(
図4~
図7A参照)と、第2光源部102(
図2参照)と、ライトボタン103(
図2参照)とを更に備えている。また電動工具1は、支持ブロック11(
図4参照)と、インバータ回路部13(
図3参照)と、クラッチハンドル14(
図4~
図6B参照)とを更に備えている。
【0017】
駆動ブロックA1は、
図3に示すように、電動機5と変速部12とを有している。駆動ブロックA1は、電動機5の回転動力を調整して所望のトルクを出力する。すなわち、電動工具1は、先端工具2(ビット)を電動機5の回転動力で駆動する。以下では一例として、作業対象100を締め付ける(又は緩める)作業に電動工具1を利用することを想定するが、電動工具1は、例えば穴開け作業に利用されてもよい。
【0018】
電動機5は、先端工具2を駆動する駆動源である。電動機5は、回転動力を出力する回転軸を有している。電動機5は、電源部6から電力供給を受けて動力を出力軸3に付与する。電動機5は、例えばブラシレスモータである。駆動ブロックA1は、電動機5の回転を先端工具2に伝達して先端工具2を駆動する。
【0019】
ここでは先端工具2は、作業対象100を締め付ける(又は緩める)ためのドライバビットであるが、特に限定されなくて、例えばドリルビットでもよい。また作業対象100は、例えば、ねじ、ボルト、ビス、又はナットでもよい。
図3では、作業対象100として、木ねじを図示している。
【0020】
変速部12は、出力軸3と、複数のギアと、出力軸3及び複数のギア等を収容するギアケース120(
図4参照)とを有している。変速部12は、変速ボタン18の操作に応じて、ギア比を変更可能な機構(減速機構)を有している。変速部12は、電動機5の回転動力を減速するように構成される。
【0021】
出力軸3は、先端工具2を保持する。出力軸3は、複数のギアを介して、電動機5の回転軸に連結されている。出力軸3は、電動機5から伝達された動力(駆動力)によって回転する。出力軸3は、先端工具2を保持した状態で、電動機5の動力によって先端工具2と一体となって回転する。出力軸3は、その前面において後方に凹んだビット取付穴30を有している。チャック7は、出力軸3に固定されている。複数種類の先端工具2のうち用途に応じた先端工具2が、ビット取付穴30に嵌め込まれて、チャック7により出力軸3に固定(装着)される。先端工具2は、出力軸3に直接的に装着されてもよい。
【0022】
クラッチ機構E1は、ギアケース120内に設けられている。クラッチハンドル14(ダイヤルリング)は、チャック7の後ろ側において、器体9の本体部91に対して回転可能に保持される。またクラッチハンドル14は、支持ブロック11を介して、ギアケース120に連結されている。ユーザは、指でクラッチハンドル14を回すことで、トルク(作業対象100を締め付ける強さ)を複数段階で調整できる。詳細な説明は省略するが、クラッチ機構E1は、複数の球体、球体をそれぞれ押し込む複数の圧縮ばね、変速部12の内ギア(リングギア)の前側に形成された複数の突起等から構成される。そして、支持ブロック11が後退することで、ギアケース120内に配置される圧縮ばねが球体を押す力が高められる。そして、設定以上のねじ締めトルクが付加されると、内ギアの前側の複数の突起が球体に引っ掛かり、内ギアの回転が規制されて、それに連動して出力軸3の回転が規制される。このように、クラッチ機構E1は、変速部12の回転出力に対して、設定以上のねじ締めトルクが付加された時点で、動力経路を機械的に遮断するように構成される。そのため、作業対象100を締め付け過ぎたり、作業対象100等が潰れたりする可能性が低減される。
【0023】
電源部6は、電動機5の駆動に用いられる直流電源である。電源部6は、1又は複数の二次電池を有している。電源部6は、いわゆる電池パックであり、器体9の後端部(把持部92の後端部)に取外し可能に装着される。電源部6は、制御部4及びインバータ回路部13等の動作電源として利用される。
【0024】
インバータ回路部13は、電動機5を駆動するための回路である。インバータ回路部13は、電源部6からの電圧を電動機5用の駆動電圧に変換するように構成される。具体的には、インバータ回路部13は、PWM(Pulse Width Modulation)インバータとPWM変換器とを利用して実現できる。PWM変換器は、駆動電圧(U相電圧、V相電圧、W相電圧)の目標値に従って、パルス幅変調されたPWM信号を生成する。PWMインバータは、3相分のハーフブリッジ回路とドライバとを備える。PWMインバータでは、ドライバがPWM信号に従って各ハーフブリッジ回路におけるスイッチング素子をオン/オフすることにより、目標値に従った駆動電圧が電動機5に与えられる。これによって、電動機5には、駆動電圧に応じた駆動電流が供給される。制御部4は、インバータ回路部13と共に用いられ、フィードバック制御により電動機5の動作を制御する。なお、制御部4の詳細については後述する。
【0025】
ここで電動工具1は、電動機5の回転を制御するための操作を受け付ける操作部としてトリガボリュームTR1を備えている。ただし、本実施形態のトリガボリュームTR1は、出力軸3、検知部8、及び支持ブロック11の一部(後述の伝達部111と支持部112)によって構成されている。トリガボリュームTR1は、先端工具2の先端の側からの押付力を受けると、その押付力の大きさに応じて、出力軸3の回転速度、つまり電動機5の回転速度を調整可能である。したがって、トリガボリュームTR1への操作によって電動機5の回転速度が制御されて、先端工具2の回転速度が制御される。
【0026】
また電動工具1は、電動機5の回転角を測定するモータ回転測定部15(
図3参照)を更に備えている。モータ回転測定部15は、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを含む。
【0027】
器体9は、
図1及び
図2に示すように、先端カバー90と、本体部91と、把持部92とを有している。
【0028】
先端カバー90は、後面が開放された筒状となっている。先端カバー90は、クラッチハンドル14全体を覆い隠すように、本体部91に対して着脱可能に装着される。また先端カバー90は、その前面において、内部空間に連通する挿通孔93を有しており、本体部91に取り付けられた状態で、出力軸3の先端部及びチャック7が挿通孔93から外側に突出する。先端カバー90は、クラッチハンドル14を設定された位置で保持するように構成される。言い換えると、先端カバー90が本体部91に装着されることで、先端カバー90の内側面がクラッチハンドル14の外側面に接触し、作業中に意図せずクラッチハンドル14が回ってしまう可能性を低減する。
【0029】
本体部91は、全体として前後方向に沿ってロッド状に延びている。本体部91は、中空であり、駆動ブロックA1、クラッチ機構E1、検知部8、及び支持ブロック11等を収容するための収容スペースを内部に有している。
【0030】
また本体部91は、第1光源部101から放射された光を外部へ出射するための第1窓孔911を有している。第1窓孔911は、本体部91の前端面に配置されて、丸形の開口を有する。
【0031】
また本体部91は、第2光源部102から放射された光を外部へ出射するための第2窓孔912を有している。第2窓孔912は、本体部91の下端面に配置されて、矩形の開口を有する。
【0032】
第1光源部101は、例えば、砲弾型のLED(Light Emitting Diode)を光源として有し、第1窓孔911から光を出射する。第2光源部102は、例えばチップ型のLEDを光源として有している。第2光源部102は、第2窓孔912に嵌め込まれる透光部材104を更に有し、透光部材104を介して光を外部に出射する。
【0033】
本体部91は、その前端部にクラッチハンドル14が装着されるように構成される。また本体部91は、一対のスイッチ16、ロックボタン17、変速ボタン18、及びライトボタン103を露出した状態で保持するように構成される。
【0034】
把持部92は、ユーザが作業時に手で把持し易いように構成される。把持部92は、ロッド状に延びている。把持部92は、
図1に示すように、真っ直ぐ前後方向に沿って延びている第1の位置と、前後方向に対して略90度の角度を成すように下方へ屈曲された第2の位置(
図1の二点鎖線参照)との間で、回転可能となるように本体部91に保持されている。要するに、電動工具1は、把持部92が第1の位置にあるとき、ストレート型の外観となり、把持部92を第1の位置から第2の位置に回転させることでピストル型の外観へと変形できる。ユーザは、作業環境又は好みに応じて、ストレート型又はピストル型を選択して電動工具1を使用できる。
【0035】
把持部92は、中空であり、制御部4、インバータ回路部13及びモータ回転測定部15等を収容するための収容スペースを内部に有している。また把持部92は、その後端部において、電源部6が着脱可能に装着されるための電源取付口を有している。電源部6が電源取付口に装着されることで、制御部4及びインバータ回路部13と電気的に接続される。なお、電源部6が装着された時点で、制御部4は待機状態となる。
【0036】
一対のスイッチ16は、把持部92に近い本体部91の後端部における左右の両側面にそれぞれ設けられている。各スイッチ16は、出力軸3の回転を稼働/停止するためのスイッチである。各スイッチ16の中央部160が中央に位置していれば、電動工具1は出力軸3の回転を停止状態で維持する。各スイッチ16の中央部160が前方又は後方に押し込まれると、電動工具1は出力軸3の回転を開始する。特に各スイッチ16は、前方に押し込むか後方に押し込むかによって先端工具2を正転させるか、又は先端工具2を逆転させるかを選択できる。
【0037】
電動工具1は、例えば、右側面のスイッチ16が前方に押し込まれると正転を実行し、後方に押し込まれると逆転を実行する。一方、電動工具1は、例えば、左側面のスイッチ16が前方に押し込まれると逆転を実行し、後方に押し込まれると正転を実行する。ユーザは、電動工具1をピストル型で使用するか、ストレート型で使用するかに応じて、把持部92の握り方を変えて、親指で、右側面のスイッチ16を操作したり左側面のスイッチ16を操作したりすることができる。
【0038】
なお、本実施形態の電動工具1は、上述の通り、先端工具2の回転速度を制御するための操作を受け付けるトリガボリュームTR1を備えている。そのため、スイッチ16は、省略されてもよい。すなわち、スイッチ16は、電動工具1にとって必須の構成要素ではない。一方、トリガボリュームTR1による回転速度制御に加えて、各スイッチ16の押し込み量によっても回転速度が制御されてもよい。
【0039】
ロックボタン17は、一対のスイッチ16の変位を機械的に規制(ロック)するためのボタンである。ロックボタン17が後方に押し込まれている時(
図1に示す状態)、一対のスイッチ16はロックされた状態となり、ユーザが意図せずにスイッチ16が押されて出力軸3の回転が開始される可能性を低減する。ロックボタン17が前方に押し込まれることで、ロック状態が解除される。なお、スイッチ16は、省略されてもよいため、スイッチ16が省略された場合には、ロックボタン17も省略されてもよい。
【0040】
変速ボタン18は、変速部12のギア比を変更して出力軸3の回転速度を高速又は低速に切り替えるためのボタンである。変速ボタン18が後方に押し込まれている時(
図1に示す状態)、変速部12は低速状態となり、変速ボタン18が前方に押し込まれることで変速部12は高速状態に切り替わる。
【0041】
ライトボタン103は、第1光源部101及び第2光源部102を点灯するためのボタンである。詳細な説明は省略するが、電動工具1は、ライトボタン103への操作に応じて、これらの光源を点灯するための点灯回路を更に備える。例えば、ライトボタン103が押し操作される度に、第1光源部101のみ点灯、第2光源部102のみ点灯、両方を点灯、及び、両方を消灯が順に切り替わる。ユーザは、第1光源部101及び第2光源部102のいずれか一方又は両方を点灯させることで、暗い作業環境でも作業性の低下を抑えることができる。
【0042】
検知部8は、
図4及び
図7Aに示すように、押付力を検知する1又は複数(図示例では1つ)の感圧センサ80を有している。感圧センサ80は、シート状である。感圧センサ80は、例えば圧電素子により実現される。感圧センサ80に力(押付力)が加えられると、押付力に応じて抵抗値が変化し、その抵抗値が電圧に変換される。言い換えると、電動工具1は、押付力を検知する感圧センサ80を更に備える。感圧センサ80は、圧電素子に限定されず、例えば、押付力に応じて抵抗体が変形することに伴う電気抵抗の変化を測定するためのひずみゲージにより実現されてもよい。
【0043】
検知部8は、制御部4と電気的に接続される。制御部4は、検知部8から押付力の検知結果に対応する出力値を取得する。そして、制御部4は、感圧センサ80からの出力の大きさ(出力値)に応じて、出力軸3の回転速度を調整する。
【0044】
出力軸3の軸方向に対する感圧センサ80の配置位置は、特に限定されないが、感圧センサ80は、
図3に示すように、出力軸3の径方向に沿って見て、電動工具1の先端(ここでは出力軸3の先端)から電動機5までの間に配置されることが好ましい。この場合、電動工具1が大型化してしまう可能性を低減できる。なお、感圧センサ80は、電動工具1の先端から駆動ブロックA1までの間に配置されることがより好ましい。
【0045】
支持ブロック11は、検知部8を支持するための部位である。また支持ブロック11は、ユーザの指でクラッチハンドル14が回された場合、クラッチハンドル14の回転と一体となって後方へ回転し、調整力をクラッチ機構E1に伝達してトルク(作業対象100を締め付ける強さ)に関する設定を行う。支持ブロック11の詳細な説明は後述する。
【0046】
(2.2)支持ブロック
支持ブロック11は、検知部8を支持するように構成される。支持ブロック11は、チャック7よりも後ろ側において、クラッチハンドル14に覆われるように配置される。支持ブロック11は、ギアケース120に取り付けられ、クラッチハンドル14によって位置決めされる。
【0047】
支持ブロック11は、全体として、軸方向(前後方向に相当)に貫通した貫通孔11Aを有する略円筒形状である。出力軸3は、この貫通孔11Aを通って支持ブロック11よりも前方に突出している。支持ブロック11は、
図4、
図6B及び
図7Aに示すように、本体部110と伝達部111と支持部112とを有している。伝達部111、支持部112、及び本体部110は、この順番でチャック7の側から後方に向かって、同心軸上に並んで配置される。
【0048】
本体部110は、
図4に示すように、軸方向(前後方向に相当)に貫通した貫通孔110Aを有する略円筒形状の部位である。貫通孔110Aは、支持ブロック11の貫通孔11Aの一部を構成する。本体部110は、その前端にフランジ1101を有している。また本体部110は、ねじ状の突起1102を有した内周面を有しており、ギアケース120の外周面に形成されているねじ溝1201に螺合されることで、ギアケース120に取り付けられている。本体部110は、伝達部111と支持部112とを所定の位置で保持する。
【0049】
さらに本体部110は、ユーザの指でクラッチハンドル14が回された場合、クラッチハンドル14の回転に応じて、支持ブロック11全体が回り、その調整力をクラッチ機構E1に伝達するように構成される。本体部110は、外周面から外方に突出する3つの凸部1103(
図7A参照)を有している。3つの凸部1103は、本体部110の軸方向に沿って見て、周方向に沿って略等間隔で並ぶ。3つの凸部1103は、クラッチハンドル14の内周面において外方に凹んだ3つの溝部140(
図5参照)にそれぞれ嵌入している。各溝部140は、クラッチハンドル14の前端から後端にわたって形成されている。したがって、クラッチハンドル14が回転した場合に、本体部110は、クラッチハンドル14と共に、貫通孔110Aを通る出力軸3に対して相対的に回転する。
【0050】
支持部112は、扁平なリング形の板状となっている。支持部112は、
図4及び
図7Bに示すように、軸方向(前後方向に相当)に貫通した貫通孔112Aを有している。貫通孔112Aは、支持ブロック11の貫通孔11Aの一部を構成する。支持部112は、
図7Aに示すように、その前面において後方に窪んだ3つの位置決め溝1120を有している。各位置決め溝1120は、支持部112を正面から見て、軸の中心に向かって膨らむような略半円形状となっている。3つの位置決め溝1120は、周方向に沿って略等間隔に並んでいる。各位置決め溝1120は、検知部8の感圧センサ80が収められて位置決めするための部位である。検知部8のリード部位81は、器体9の本体部91内に向かって導出されて、電線を介して、制御部4と電気的に接続される。なお、図示例では、リード部位81の途中から図示を省略している。
【0051】
本実施形態では、感圧センサ80の数が一例として1つであるため、1つの感圧センサ80が、3つの位置決め溝1120のうちの1つ(下側の位置決め溝1120)内に配置される。感圧センサ80は、位置決め溝1120に対して接着剤等で固定されてもよい。
【0052】
感圧センサ80の数が2つ又は3つであれば、残りの位置決め溝1120にそれぞれ配置されてもよい。言い換えると、感圧センサ80の数は、特に限定されず、電動工具1は、感圧センサ80を複数備えてもよい(
図7B参照)。感圧センサ80の数に合わせて、位置決め溝1120の数も1つ又は2つでもよいし、4つ以上でもよい。電動工具1が感圧センサ80を複数備える場合、
図7Bに示すように、複数の感圧センサ80は、出力軸3の周方向に沿って並んで配置されてもよい。特に複数の感圧センサ80は、略等間隔で周方向に沿って並んでいてもよい。
【0053】
あるいは、検知部8は、1つのリング状のシートユニットとして構成されてもよい。そして、複数の感圧センサ80が、シートユニットにおいて出力軸3の周囲を囲むように配置されてもよい。この場合、位置決め溝1120は、リング状のシートユニットが位置決めされるように、1つのリング状の溝として形成されてもよいし、位置決め溝1120自体を省略してもよい。
【0054】
また支持部112は、本体部110の3つの凸部1103と同様に、外縁から外方に突出する3つの凸部1121を有している。3つの凸部1121は、支持部112の軸方向に沿って見て、周方向に沿って略等間隔で並ぶ。3つの凸部1121は、クラッチハンドル14の3つの溝部140にそれぞれ嵌入している。したがって、ユーザの指でクラッチハンドル14が回された場合、支持部112は、クラッチハンドル14と共に、貫通孔112Aを通る出力軸3に対して相対的に回転する。
【0055】
伝達部111は、扁平なリング形の板状となっている。伝達部111は、例えば支持部112と略同形で略同寸法である。伝達部111は、
図4に示すように、軸方向(前後方向に相当)に貫通した貫通孔111Aを有している。貫通孔111Aは、支持ブロック11の貫通孔11Aの一部を構成する。また伝達部111は、外縁から外方に突出する3つの凸部1111を有している。3つの凸部1111は、伝達部111の軸方向に沿って見て、周方向に沿って略等間隔で並ぶ。3つの凸部1111は、クラッチハンドル14の3つの溝部140にそれぞれ嵌入している。
【0056】
ここで伝達部111は、支持部112の前面と対向するように配置される。言い換えると、伝達部111は、感圧センサ80と対向するように配置され、感圧センサ80と接触することで押付力を感圧センサ80に伝達するように構成される。そして、出力軸3は、支持部112と伝達部111の両方に対して相対的に回転する。伝達部111は、
図7Aに示すように、その背面において、3つの円形状に突出した接触部113を有している。3つの接触部113は、支持部112の3つの位置決め溝1120とそれぞれ対向するように配置される。
【0057】
なお、伝達部111は、その貫通孔111Aの周面に内方に突出する一対の位置決め部1112(
図7A参照:図示例では一方のみ図示)を有している。一対の位置決め部1112は、伝達部111を正面から見て、互いに対向するように配置される。一対の位置決め部1112は、出力軸3を挟み込むように出力軸3の側面に接触している。そのため、伝達部111が、安定的な位置を達成する。特に、一対の位置決め部1112が出力軸3の側面にある段部に当たるため、ユーザの指でクラッチハンドル14が回された場合に、伝達部111が後退することが抑制される。言い換えると、支持ブロック11は、その全体がクラッチハンドル14と共に回転する一方で、支持ブロック11のうち本体部110及び支持部112は、ギアケース120に対して、送りねじのように回転しながら後退し、調整力をクラッチ機構E1に伝達する。一方、伝達部111は、後退せずに留まる。
【0058】
先端工具2が、押付方向D1の押付力を受けると、先端工具2と一体となって出力軸3及びチャック7が後退する。この時チャック7の後端部が、伝達部111に接触して押し込むことで、伝達部111が先端工具2の先端の側から押付力を受けることになる。その結果、伝達部111の接触部113は、接触部113と対向する位置決め溝1120内に配置された感圧センサ80の表面に接触して押し込むことになる。
【0059】
押し込み過程の中でトリガボリュームTR1が操作を受け付けて出力軸3及びチャック7が回転を開始しても、伝達部111は、3つの凸部1111が3つの溝部140にそれぞれ嵌入しているため回転しない。支持部112及び本体部110も同様に、出力軸3及びチャック7が回転を開始しても回転しない。要するに、感圧センサ80は、出力軸3が回転を開始しても、出力軸3の回転に伴って回転することがない2つの部材(支持部112及び伝達部111)の間に介在するように配置されている。そのため、出力軸3の回転に伴って感圧センサ80の表面が擦れて傷付いてしまう可能性を低減できる。その結果、回転制御に関する信頼性の低下を抑制できる。
【0060】
なお、感圧センサ80と対向する接触部113は、押付力を受けていない状態において、感圧センサ80と軽く接触していてもよいし、離間していてもよい。
【0061】
このように本実施形態の感圧センサ80は、押付力を、先端工具2の先端の側から出力軸3に向かう方向(押付方向D1)で受けるように支持部112に支持される。なお、本開示では一例として、「押付力を押付方向D1で受ける」構造として、感圧センサ80は、その表面が、出力軸3の軸方向(Y軸方向)に対して略直交するように支持される。しかし、感圧センサ80の表面が、出力軸3の軸方向に対して略直交することは、必須ではない。押付力について、感圧センサ80の表面に直交する方向の第1成分力と、その表面に平行な方向の第2成分力を比較した場合に、第1成分力の方が支配的になるように支持されていれば、感圧センサ80は、傾斜していてもよい。具体的には、感圧センサ80は、その表面が、X-Z平面に対して45度以下で傾斜するように支持されてもよい。
【0062】
(2.3)制御部
制御部4は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部4の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0063】
制御部4は、例えば、モータ回転測定部15で測定された電動機5の回転角に基づいて時間微分して、電動機5の角速度(回転軸の角速度)を算出する。また制御部4は、インバータ回路部13をPWM制御することにより、電動機5に供給される電力を制御する。特に制御部4は、検知部8の検知結果に応じて、駆動電圧の目標値を決定し、電動機5の角速度を調整するように、インバータ回路部13を制御する。インバータ回路部13は、制御部4の制御下で、電動機5のコイルに流す駆動電流を増加又は減少することで、電動機5の永久磁石の磁束を調整し、電動機5の回転数(回転軸の回転数)を制御する。
【0064】
ここで本実施形態の制御部4は、先端工具2の先端の側から出力軸3に向かう押付方向D1の押付力に応じて、出力軸3の回転を制御するように構成される。そして、電動工具1は、押付力が所定値以下の状態では出力軸3の回転が規制される規制領域R0(
図8参照)を動作領域の一部として有している。なお、
図8の横軸は、押付力[N](ニュートン)である。
【0065】
つまり、例えば、ユーザが、チャック7を介して出力軸3に取り付けられた先端工具2の先端を作業対象100に当てて、さらに先端工具2の先端で作業対象100を押すように力を込める。すると、先端工具2の先端は、作業対象100から抗力を受け、それが押付方向D1の「押付力」として発生する。要するに、ユーザは、トリガボリュームTR1へのプッシュ操作を実行することで、電動工具1は、出力軸3の回転を開始する。ただし、本実施形態では、規制領域R0が存在するため、トリガボリュームTR1がプッシュされても、その押付力が所定値を超えない限り、出力軸3の回転は開始されない。以下、規制領域R0についてさらに具体的に説明する。
【0066】
(2.4)規制領域
制御部4は、上述の通り、検知部8から押付力の検知結果に対応する出力値を取得する。出力値は、例えば、感圧センサ80への押付力に応じて変化する電圧(値)である。制御部4は、出力値(電圧値)を含む検知信号を検知部8から受信する。上記「所定値」は、出力値(電圧値)と対応する。
【0067】
そして、制御部4は、出力値が閾値以下であると判定すると、出力軸3の回転を規制する。特に、制御部4は、出力値が閾値以下であると判定すると、電動機5から出力軸3への動力の伝達を機構的に遮断して、出力軸3の回転を規制する。ここで言う「機構的に遮断」とは、電気的な機構による遮断でもよいし、機械的な機構による遮断でもよいし、あるいはその両方によるものでもよい。ここでは一例として、電動工具1は、電気的な機構及び機械的な機構の両方により、動力の伝達を遮断する構成を有している。
【0068】
具体的には、電動工具1は、
図3に示すように、遮断機構B1とロック機構C1とを更に備える。
【0069】
遮断機構B1は、規制領域R0において、出力軸3の回転を電気的な遮断により規制するように構成される。例えば、遮断機構B1は、電動機5と電源部6との間における電路に挿入される接点部P1(
図3参照)を含む。接点部P1は、その接点の閉極又は開極によって当該電路を通電状態又は非通電状態に切り替える。接点部P1は、例えば半導体スイッチにより実現される。接点部P1は、例えば常時開極しており、制御部4は、出力値が閾値(以下「第1閾値」と呼ぶことがある)以下であると判定すると、開極状態を維持する。つまり、非通電状態が維持されて、電動機5の回転が規制され、その結果、出力軸3の回転が規制される。
【0070】
ここでは一例として、接点部P1は、電源部6からの電力供給を受けて電動機5用の駆動電圧を生成するインバータ回路部13内に配置される。接点部P1が開極した状態である場合、駆動電圧は、電動機5へは付与されず、接点部P1が閉極することで、駆動電圧が電動機5へ付与される。接点部P1は、インバータ回路部13に配置されることに限定されない。ただし、接点部P1は、
図3に示すように、電源部6から電動機5までの電路のいずれかに配置されていることが望ましい。
【0071】
制御部4は、出力値が第1閾値を超えたと判定すると、接点部P1を制御して、非通電状態から通電状態に切り替える。つまり、遮断機構B1による電動機5の回転規制が解除され、その結果、出力軸3の回転規制も解除される。
【0072】
ロック機構C1は、規制領域R0において、出力軸3の回転を機械的なロックにより規制するように構成される。ロック機構C1は、
図3に示すように、例えばクラッチ機構E1に相当してもよい。すなわち、出力軸3が回転を開始していない状態では、クラッチ機構E1の複数の球体が内ギアの前側の複数の突起に引っ掛かっている状態が維持されるため、出力軸3の回転が機械的にロックされている。言い換えると、出力値が第1閾値以下である規制領域R0では、出力軸3の回転は、機械的にロックされている。
【0073】
ただし、ロック機構C1は、クラッチ機構E1とは別に設けられてもよい。例えば、ロック機構C1は、制御部4の制御下で、クラッチ機構E1の圧縮ばねが球体を押し込む力を増加するように駆動される駆動部を有してもよい。制御部4は、出力値が閾値(第1閾値と同じでもよいし、異なってもよい)以下であると判定すると、変速部12の内ギアが回転しないように、駆動電流を流して駆動部を駆動させて、クラッチ機構E1の圧縮ばねを押し込んで、球体を押す力を高めてもよい。制御部4は、出力値が閾値を超えたと判定すると、駆動部の駆動を解除してもよい。
【0074】
ところで本実施形態の規制領域R0は、
図8に示すように、少なくとも第1領域R1と第2領域R2とを含んでもよい。第1領域R1は、出力軸3の回転が、「機械的なロック」又は「電気的な遮断」の少なくとも一方により規制されて、回転不可状態となる領域である。第2領域R2は、回転不可状態が解除されて、かつ電動機5の動力がゼロに維持される領域である。
【0075】
図8の例では、押付力N1は、例えば5[N]であり、押付力N2は、例えば10[N]である。上記の「所定値」は、押付力N2に相当する。例えば、押付力が、ゼロ、押付力N1、及び押付力N2の時の、検知部8から入力される電圧の電圧値は、それぞれ、概ね1.5[V]、2[V]、及び2.5[V]である。これらの数値は、単なる一例であって特に限定されるものではない。ここでは、押付力N1が、第1閾値に対応し、押付力N2は、第1閾値よりも高い第2閾値に対応することを想定する。
【0076】
なお、電動工具1は、動作領域として、出力軸3の回転規制が解除される解除領域R3を更に有している。押付力が、押付力N2を超えると、規制領域R0から解除領域R3に切り替わる。
【0077】
本実施形態では、制御部4は、第1領域R1において、接点部P1が開極した状態を維持する。言い換えると、第1領域R1では、電動機5と電源部6との間における接点部P1が開極されることで、「電気的な遮断」が達成される。
【0078】
制御部4は、押付力が押付力N1を越えると、つまり出力値が第1閾値を超えると、接点部P1を閉極して、第1領域R1から第2領域R2に切り替える。またロック機構C1が上記の駆動部を有している場合には、制御部4は、押付力が押付力N1を越えると、駆動部の駆動を解除する。その結果、第2領域R2では、回転不可状態が解除される。
【0079】
ただし、制御部4は、第2領域R2において、たとえ押付力が押付力N1を越えても、押付力N2を超えるまでは、つまり出力値が第2閾値を超えるまでは、電動機5へ駆動電圧を付与しないようにインバータ回路部13を制御する。言い換えれば、第2領域R2においても、電動機5から出力軸3への動力の伝達の遮断は、継続されている。第2領域R2は、インバータ回路部13にとって待機状態となる領域となる。第2領域R2が存在することで、押付力が押付力N2を超えた時に、インバータ回路部13は、速やかに電動機5の回転駆動を開始できる。また第1領域R1では、電動機5への電路が遮断されるため、電動機5への電路が遮断されていない場合に比べて、電源部6の自然放電による消耗を抑制できる。
【0080】
制御部4は、自身のメモリ(又は制御部4の外部の記憶部でもよい)内に、複数の出力値(電圧値)と複数の回転数とがそれぞれ対応付けされた関係情報を記憶している。本実施形態では、0~50[N]の範囲における押付力に対応した複数の電圧値に関する関係情報を含む。言い換えると、制御部4は、一例として、0~50[N]の押付力の範囲を制御対象とするが、特に限定されない。
【0081】
そして、制御部4は、出力値が第2閾値を超えたと判定すると、それ以降は、電動機5の回転軸の回転数が、出力値に対応する回転数に設定されるようにインバータ回路部13を制御する。その結果、例えば、出力値が増加するほど、出力軸3の回転速度が増加するように制御される。
【0082】
このように本実施形態の電動工具1は、規制領域R0を有しているため、先端工具2を押し付ける力が生じても、直ちに先端工具2の回転が開始される可能性を低減できる。したがって、利便性の向上を図ることができる。なお、上記の所定値(
図8の例では押付力N2)は、電動工具1の重量(自重)よりも大きく設定されていることが好ましい。この場合、ユーザが意図せず出力軸3の回転が開始される可能性を低減できる。
【0083】
また電動工具1は、規制領域R0を有しているため、ユーザは、その規制領域R0において、手締めにより作業対象100を締め付けたり緩めたりすることができる。言い換えれば、電動工具1は、電動工具1を把持するユーザが自身の手首を回して電動工具1を回すことで作業できる手動モード(手締めモード)を有していると言える。一方、ユーザは、トリガボリュームTR1へのプッシュ操作を実行することで、特に押付力が所定値を超えるほど押し込むことで、手動モードから電動(回転速度制御)モードへ容易に切り替えることができる。
【0084】
さらに単に規制領域R0が存在するだけでなく、規制領域R0に、第1領域R1と第2領域R2とが設けられていることで、ユーザが意図せず出力軸3の回転が開始される可能性を更に低減できる。また例えば第1領域R1を、手締めが可能な領域として利用でき、第2領域R2を待機領域として利用できる。ユーザは、第2領域R2の存在を意識することで、より作業性が向上され得る。特に、第2領域R2が存在することで、ユーザが第1領域R1において手締めによる作業の最中に、意図せず押付力が掛かってしまい、出力軸3の回転が開始される可能性を低減できる。
【0085】
なお、電動工具1は、第1領域R1から第2領域R2に切り替わったこと、及び、規制領域R0から解除領域R3に切り替わったことを、ユーザに通知する通知手段を更に備えてもよい。通知手段は、トリガボリュームTR1に設けられて、切替時に例えばカチッといった感触を付与する機構(例えばばね部材)によって実現されてもよい。あるいは、通知手段は、器体9に設けられて、切替に応じて発光状態が変化する(光色の変化、又は連続点灯から点滅点灯への変化等)表示灯によって実現されてもよい。
【0086】
また本実施形態では、感圧センサ80により押付力の検知を行なっているため、電動工具1の大型化を抑制しつつ、利便性の向上を図ることができる。そして、制御部4が、出力値と閾値とを比較して判定して、出力軸3の回転を規制するため、出力軸3の回転に関して、より信頼性の高い規制を行うことができる。また感圧センサ80により押付力の検知を行っているため、プッシュ操作の際におけるストローク量を抑制できる。
【0087】
ところで、本実施形態の電動工具1は、
図3に示すように、操作部10(
図1及び
図2では不図示)を更に備えている。操作部10は、操作入力を受け付けて、動作領域を、規制領域R0又は解除領域R3に切り替えるように構成される。操作部10は、例えば押しボタンスイッチにより実現されてもよい。制御部4は、検知部8で検知される出力値に関する閾値との判定とは無関係に、操作部10への操作状態(オン状態又はオフ状態)に応じて、規制領域R0又は解除領域R3に切り替える。したがって、利便性が更に向上される。操作部10への操作によって規制領域R0に切り替わった状態では、たとえトリガボリュームTR1へのプッシュ操作が行われても、ロック機構C1により出力軸3の回転は規制されることが好ましい。
【0088】
(3)変形例
上記実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、上記実施形態に係る電動工具1の制御部4と同様の機能は、この制御方法、コンピュータプログラム、又はコンピュータプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。
【0089】
以下、上記実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。以下では、上記実施形態を「基本例」と呼ぶこともある。
【0090】
本開示における電動工具1の制御部4は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における制御部4としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。ここでいうコンピュータシステムは、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを有するマイクロコントローラを含む。したがって、マイクロコントローラについても、半導体集積回路又は大規模集積回路を含む1ないし複数の電子回路で構成される。
【0091】
また、制御部4における複数の機能が、1つのハウジング内に集約されていることは必須の構成ではない。制御部4の構成要素は、複数のハウジングに分散して設けられていてもよい。反対に、制御部4における複数の機能が、基本例のように、1つのハウジング内に集約されてもよい。さらに、制御部4の少なくとも一部の機能、例えば、制御部4の一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0092】
基本例では、規制領域R0は、第1領域R1と第2領域R2との2つの領域を含んでいる。しかし、規制領域R0は、3つ以上の領域を含くみ、更に細かく段階分けされた回転規制の制御が行われてもよい。また基本例の第2領域R2は、省略されてもよく、その場合、押付力N2が、第1閾値に相当してもよい。
【0093】
基本例では、支持ブロック11は、検知部8を支持する機能とクラッチ機構E1への調整力を伝達する機能とを兼ねている。しかし、支持ブロック11は、クラッチ機構E1への調整力を伝達する部材とは別に設けられてもよい。
【0094】
基本例では、感圧センサ80の数は、
図7Aに示すように、1つであり、また
図7Bに示すように、複数でもよい点を説明した。ここで、電動工具1が複数の感圧センサ80を備える構成では、制御部4は、複数の感圧センサ80からの出力のうち少なくとも1つの出力値が閾値を超えた場合に、出力軸3の回転を開始させてもよい。この場合、例えば作業面に対して出力軸3を斜めにした状態で電動工具1を使用せざるを得ないような作業環境下でも、出力軸3の回転を開始させることができる。
【0095】
あるいは、電動工具1が複数の感圧センサ80を備える構成では、制御部4は、複数の感圧センサ80からの出力の全ての出力値が閾値を超えた場合に、出力軸3の回転を開始させてもよい。この場合、例えばユーザが意図しない状態で出力軸3の回転が開始する可能性を低減できる。
【0096】
(4)まとめ
以上説明したように、第1の態様に係る電動工具(1)は、感圧センサ(80)と、支持部(112)と、出力軸(3)と、制御部(4)と、を備える。感圧センサ(80)は、外部からの押付力を感知する。支持部(112)は、感圧センサ(80)を支持する。出力軸(3)は、先端工具(2)を保持し、電動機(5)の動力によって支持部(112)に対して相対的に回転する。制御部(4)は、感圧センサ(80)からの、押付力に応じた出力に基づいて、出力軸(3)の回転を制御する。第1の態様によれば、回転制御に関する信頼性の低下の抑制を図ることができる。
【0097】
第2の態様に係る電動工具(1)に関して、第1の態様において、制御部(4)は、感圧センサ(80)からの出力の大きさに応じて、出力軸(3)の回転速度を調整する。第2の態様によれば、回転速度に関する信頼性の低下の抑制を図ることができる。
【0098】
第3の態様に係る電動工具(1)に関して、第1の態様又は第2の態様において、感圧センサ(80)は、押付力を、先端工具(2)の先端の側から出力軸(3)に向かう方向で受けるように支持部(112)に支持される。第3の態様によれば、押付力の検知に関する信頼性の向上を図ることができる。
【0099】
第4の態様に係る電動工具(1)は、第1の態様~第3の態様のいずれか1つにおいて、感圧センサ(80)と対向するように配置され、感圧センサ(80)と接触することで押付力を感圧センサ(80)に伝達する伝達部(111)を更に備える。出力軸(3)は、支持部(112)と伝達部(111)の両方に対して相対的に回転する。第4の態様によれば、更に回転制御に関する信頼性の低下を抑制できる。
【0100】
第5の態様に係る電動工具(1)は、第1の態様~第4の態様のいずれか1つにおいて、 感圧センサ(80)を複数備える。第5の態様によれば、押付力の検知に関する信頼性の向上を図ることができる。
【0101】
第6の態様に係る電動工具(1)に関して、第5の態様において、制御部(4)は、複数の感圧センサ(80)からの出力のうち少なくとも1つの出力値が閾値を超えた場合に、出力軸(3)の回転を開始させる。第6の態様によれば、例えば作業面に対して斜めに電動工具(1)を使用せざるをえないような作業環境下でも、出力軸(3)の回転を開始させることができる。
【0102】
第7の態様に係る電動工具(1)に関して、第5の態様において、制御部(4)は、複数の感圧センサ(80)からの出力の全ての出力値が閾値を超えた場合に、出力軸(3)の回転を開始させる。第7の態様によれば、例えばユーザが意図しない状態で出力軸(3)の回転が開始する可能性を低減できる。
【0103】
第8の態様に係る電動工具(1)に関して、第5の態様~第7の態様のいずれか1つにおいて、複数の感圧センサ(80)は、出力軸(3)の周方向に沿って並んで配置される。第8の態様によれば、更に押付力の検知に関する信頼性を向上できる。
【0104】
第9の態様に係る電動工具(1)に関して、第1の態様~第8の態様のいずれか1つにおいて、感圧センサ(80)は、シート状である。第9の態様によれば、電動工具(1)が大型化してしまう可能性を低減できる。また、押し込みに関するストロークを抑えることができる。
【0105】
第10の態様に係る電動工具(1)に関して、第1の態様~第9の態様のいずれか1つにおいて、感圧センサ(80)は、出力軸(3)の径方向に沿って見て、電動工具(1)の先端から電動機(5)までの間に配置される。第10の態様によれば、電動工具(1)が大型化してしまう可能性を低減できる。
【0106】
第2~第10の態様に係る構成については、電動工具(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0107】
1 電動工具
2 先端工具
3 出力軸
4 制御部
5 電動機
80 感圧センサ
111 伝達部
112 支持部