(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】放射能評価方法、放射能評価プログラム及び放射能評価装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/167 20060101AFI20231106BHJP
G01T 1/00 20060101ALN20231106BHJP
【FI】
G01T1/167 C
G01T1/167 D
G01T1/00 D
(21)【出願番号】P 2020057662
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】川越 慎司
(72)【発明者】
【氏名】東浦 則和
(72)【発明者】
【氏名】水井 宏之
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-045466(JP,A)
【文献】特開2007-225507(JP,A)
【文献】特開2008-111794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0091614(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00 - 1/16
G01T 1/167 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の作業環境に設置された放射線測定装置を用いた測定作業により測定されたBG計数率(C
BG)及びグロス計数率(C
G)に基づいて、測定対象物の放射能特性を評価する放射能評価方法であって、
前記グロス計数率(C
G)が測定される前の第1のBG計数率(C
BG1)と、前記グロス計数率(C
G)が測定された後の第2のBG計数率(C
BG2)との差分であるBG計数率変動量(ΔC
BG)を算定するBG変動量算定工程(S4)と、
前記第1のBG計数率(C
BG1)及び前記第2のBG計数率(C
BG2)の測定に含まれる複数の誤差要因に起因する複数のBG誤差を重畳することにより、前記BG計数率変動量(ΔC
BG)の誤差(σ
ΔCBG)を算定するBG変動誤差算定工程(S5)と、
前記BG計数率変動量(ΔC
BG)の誤差(σ
ΔCBG)に基づいて、前記BG計数率変動量(ΔC
BG)として許容されるBG計数率許容変動量(ΔC
BGL)を算定し、当該BG計数率許容変動量(ΔC
BGL)を用いて前記BG計数率変動量(ΔC
BG)を評価することにより、
前記グロス計数率(C
G
)の測定と、当該グロス計数率(C
G
)が測定される前の前記第1のBG計数率(C
BG1
)の測定と、当該グロス計数率(C
G
)が測定された後の前記第2のBG計数率(C
BG2
)の測定とを含む前記測定作業の有効性を判定する有効性判定工程(S6)とを含む、
ことを特徴とする放射能評価方法。
【請求項2】
前記複数のBG誤差は、少なくとも、
前記作業環境における雰囲気放射線量の変動に起因する誤差を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射能評価方法。
【請求項3】
前記BG変動誤差算定工程は、
下記の(5)式により前記BG計数率変動量(ΔC
BG)の誤差(σ
ΔCBG)を算定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の放射能評価方法。
【数1】
【請求項4】
前記有効性判定工程は、
下記の(8)式を満たすか否かに応じて、前記測定作業が有効であるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の放射能評価方法。
【数2】
【請求項5】
前記有効性が認められた前記測定作業により測定された前記第1のBG計数率(C
BG1)及び前記第2のBG計数率(C
BG2)の少なくとも一方と、当該測定作業により測定された前記グロス計数率(C
G)とに基づいて、前記正味計数率(C
n)を、前記放射能特性として算定する放射能特性算定工程(S7)をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の放射能評価方法。
【請求項6】
前記放射能特性算定工程は、
前記正味計数率(C
n)と、前記正味計数率(C
n)を前記放射能濃度(D)に変換する換算係数(CF)と、前記測定対象物の重量(W)とに基づいて、前記測定対象物の放射能濃度(D)を、前記放射能特性として算定する、
ことを特徴とする請求項5に記載の放射能評価方法。
【請求項7】
コンピュータに、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の放射能評価方法に含まれる各工程を実行させる、
ことを特徴とする放射能評価プログラム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の放射能評価方法に含まれる各工程を実行する放射能評価処理部を備える、
ことを特徴とする放射能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能評価方法、放射能評価プログラム及び放射能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物から放射される放射線の計数率を測定し、測定対象物の汚染度を評価することが行われている。例えば、特許文献1には、検査物から放射される放射線の計数率と、バックグラウンド計数率とを測定し、バックグラウンド計数率を基準として、検査物の計数率を表示する放射能スクリーニング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された放射能スクリーニング装置は、上述したように、バックグラウンド計数率を基準として、検査物の計数率を表示するものである。しかし、検査物の計数率を測定する測定作業中に、何らかの理由によりバックグラウンド計数率が大きく変動するような場合には、検査物の測定作業にも影響が生じる可能性があることから、放射能特性の評価の保守性を担保するには不十分であるものと認められる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、評価の保守性の観点から放射能特性を適切に評価することができる放射能評価方法、放射能評価プログラム及び放射能評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明の一実施形態に係る放射能評価方法は、
所定の作業環境に設置された放射線測定装置を用いた測定作業により測定されたBG計数率(CBG)及びグロス計数率(CG)に基づいて、測定対象物の放射能特性(例えば、正味計数率(Cn)、放射能濃度(D))を評価する放射能評価方法であって、
前記グロス計数率(CG)が測定される前の第1のBG計数率(CBG1)と、前記グロス計数率(CG)が測定された後の第2のBG計数率(CBG2)との差分であるBG計数率変動量(ΔCBG)を算定するBG変動量算定工程(S4)と、
前記第1のBG計数率(CBG1)及び前記第2のBG計数率(CBG2)の測定に含まれる複数の誤差要因に起因する複数のBG誤差を重畳することにより、前記BG計数率変動量(ΔCBG)の誤差(σΔCBG)を算定するBG変動誤差算定工程(S5)と、
前記BG計数率変動量(ΔCBG)の誤差(σΔCBG)に基づいて、前記BG計数率変動量(ΔCBG)として許容されるBG計数率許容変動量(ΔCBGL)を算定し、当該BG計数率許容変動量(ΔCBGL)を用いて前記BG計数率変動量(ΔCBG)を評価することにより、前記測定作業の有効性を判定する有効性判定工程(S6)とを含む、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の一実施形態に係る放射能評価プログラムは、
コンピュータに、上記放射能評価方法に含まれる各工程を実行させる、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一実施形態に係る放射能評価装置は、
上記放射能評価方法に含まれる各工程を実行する放射能評価処理部を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係る放射能評価方法、放射能評価プログラム及び放射能評価装置によれば、BG変動量算定工程(S4)が、グロス計数率(CG)が測定される前の第1のBG計数率(CBG1)と、グロス計数率(CG)が測定された後の第2のBG計数率(CBG2)との差分であるBG計数率変動量(ΔCBG)を算定し、BG変動誤差算定工程(S5)が、第1のBG計数率(CBG1)及び第2のBG計数率(CBG2)の測定に含まれる複数の誤差要因に起因する複数のBG誤差を重畳することにより、BG計数率変動量(ΔCBG)の誤差(σΔCBG)を算定し、有効性判定工程(S6)が、BG計数率変動量(ΔCBG)の誤差(σΔCBG)に基づいて、BG計数率変動量(ΔCBG)として許容されるBG計数率許容変動量(ΔCBGL)を算定し、当該BG計数率許容変動量(ΔCBGL)を用いて前記BG計数率変動量(ΔCBG)を評価することにより、測定作業の有効性を判定する。
【0010】
したがって、グロス計数率(CG)が測定された前後のBG計数率変動量(ΔCBG)が、BG計数率変動量(ΔCBG)の誤差(σΔCBG)に基づく不確実性を考慮しながら評価されることにより、測定作業の有効性が判定されるので、評価の保守性の観点から放射能特性を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る放射能評価方法を適用した放射能評価システム1の一例を示す全体構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る放射能評価方法を適用した放射能評価システム1の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る放射能評価方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態に係る放射能評価方法が適用される測定作業の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る放射能評価方法を適用した放射能評価システム1の一例を示す全体構成図である。
図2は、本発明の実施形態に係る放射能評価方法を適用した放射能評価システム1の一例を示すブロック図である。
【0014】
放射能評価システム1は、測定対象物10から放射される放射線を計数率として測定する走査型の放射線測定装置2と、放射線測定装置2により測定された計数率に基づいて、測定対象物10の放射能特性を評価する放射能評価装置3とを備える。放射線測定装置2と放射能評価装置3との間は、有線又は無線のネットワーク4を介して接続されている。
【0015】
測定対象物10は、例えば、原子炉施設で使用された各種の構造材であり、タービン設備の湿分分離器及びドレンタンク、復水器設備の主復水器及び空気抽出器、給水系設備の給水加熱器及び復水脱塩装置等が挙げられる。なお、測定対象物10は、原子炉施設以外で使用されたものでもよく、上記の例に限られない。
【0016】
(放射線測定装置2の構成)
放射線測定装置2は、測定対象物10を載置可能なトレイ11を水平方向(走査方向S)に搬送する搬送コンベア20と、搬送コンベア20の中流部分に配置されて、トレイ11上に載置された測定対象物10が内部を通過する本体部21と、搬送コンベア20の上流側に配置されて、測定対象物10の重量及び高さをそれぞれ測定する重量測定器22及び形状測定器23と、本体部21の内部において測定対象物10から放射される放射線を測定する放射線測定部24と、放射線測定装置2の各部を制御する制御盤25と、タッチパネル、ボタン等により構成される操作表示盤26と、各種の外部機器やネットワーク4との通信インターフェースである通信部27とを備える。
【0017】
搬送コンベア20は、搬送モータにより搬送ローラを回転駆動させることで、トレイ11を所定の搬送速度(走査速度)で搬送する。本体部21は、カバーとして機能する箱状の筐体で構成されている。
【0018】
重量測定器22は、例えば、ロードセル等で構成されており、トレイ11上に載置された測定対象物10の重量を測定する。形状測定器23は、例えば、光学式センサやカメラ等で構成されており、測定対象物10の形状として、高さ、幅、奥行等を測定する。なお、形状測定器23は、測定対象物10の形状として、高さだけを測定するものでもよい。
【0019】
放射線測定部24は、搬送コンベア20の上側に配置された上側検出器群24Aと、搬送コンベア20の下側に配置された下側検出器群24Bとを備える。上側検出器群24A及び下側検出器群24Bの各々は、搬送コンベア20の搬送方向(走査方向S)に直交する方向に所定の間隔を空けるように並設された複数(本実施形態では、上下それぞれ「4つ」とする。)の検出器240を備える。
【0020】
検出器240の各々は、例えば、プラスチックシンチレーション式の検出器で構成されており、搬送コンベア20によりトレイ11が所定の走査速度で本体部21の内部に搬送された状態において当該トレイ11上の測定対象物10から放射される放射線量(γ線)を、グロス計数率として測定する。また、検出器240は、本体部21の内部に測定対象物10が存在しない状態において、放射線測定装置2が設置された作業環境における雰囲気放射線量を、バックグラウンド計数率(以下、「BG計数率」という。)として測定する。
【0021】
制御盤25は、操作表示盤26を介して操作者の操作を受け付けるとともに、当該操作に応じて放射線測定装置2の各部に対して動作指令を送る。また、制御盤25は、測定対象物10の測定結果として、例えば、重量測定器22により測定された測定対象物10の重量、形状測定器23により測定された測定対象物10の高さ、及び、放射線測定部24により測定された測定対象物10のグロス計数率等を取得する。
【0022】
(放射能評価装置3の構成)
放射能評価装置3は、放射線測定装置2による測定対象物10の測定結果に基づいて、測定対象物10の放射能特性として、正味計数率(後述の(10)式で算定される。)や放射能濃度(後述の(11)式で算定される。)を評価する装置である。放射能評価装置3は、例えば、汎用のコンピュータで構成されており、入力画面を介して各種の入力を受け付けるとともに、表示画面や音声を介して各種の情報(例えば、放射線測定装置2による測定結果や、後述する放射能評価方法に基づく各種の評価結果等)を出力する。
【0023】
なお、本実施形態では、放射能評価装置3は、放射線測定装置2と別体の装置であるものとして説明するが、放射能評価装置3は、放射線測定装置2と一体の装置として構成されており、例えば、制御盤25の一部として組み込まれていてもよい。
【0024】
放射能評価装置3は、
図2に示すように、キーボード、タッチパネル等により構成される入力部30と、HDD、メモリ等により構成される記憶部31と、CPU等のプロセッサにより構成される制御部32と、各種の外部機器やネットワーク4との通信インターフェースである通信部33と、ディスプレイ、スピーカ等により構成される出力部34とを備える。
【0025】
記憶部31には、放射線測定装置2による測定対象物10の測定結果(グロス計数率、重量、高さ等)を示す測定対象物測定データ310と、放射線測定装置2による環境の測定結果(BG計数率)を示すBG測定データ311と、測定対象物測定データ310及びBG測定データ311から放射能濃度を算定するために必要な各種の係数、条件、算定式等を含む評価用パラメータ312と、放射能評価装置3の動作を制御する放射能評価プログラム313とが記憶されている。
【0026】
制御部32は、放射能評価プログラム313を実行することにより、本発明の実施形態に係る放射能評価方法に含まれる各工程(
図3に示すフローチャートの各ステップ参照。詳細は後述する。)に従って動作する放射能評価処理部320として機能する。
【0027】
(放射能評価方法)
図3は、本発明の実施形態に係る放射能評価方法の一例を示すフローチャートである。放射能評価装置3の放射能評価処理部320は、
図3に示すフローチャートの各工程(ステップ)に従って動作することにより、放射能評価方法に基づいて測定対象物10の放射能濃度を評価する。
【0028】
(1)第1のBG測定工程(ステップS1)について
第1のBG測定工程(ステップS1)では、測定対象物10が本体部21の内部に存在しない状態において、放射線測定装置2が、第1のBG計数率CBG1を測定する。そして、放射能評価処理部320は、その測定結果である第1のBG計数率CBG1をBG測定データ311に記憶する。
【0029】
(2)測定対象物測定工程(ステップS2)について
次に、測定対象物測定工程(ステップS2)では、測定対象物10がトレイ11上に載置された状態において、放射線測定装置2が、トレイ11上の測定対象物10の重量W及び高さH等を測定する。また、放射線測定装置2が、搬送コンベア20によりトレイ11を所定の走査速度で搬送しながら、上側検出器群24A及び下側検出器群24Bによりトレイ11上の測定対象物10を走査することにより、測定対象物10のグロス計数率CGを測定する。そして、放射能評価処理部320は、それらの測定結果を測定対象物測定データ310として記憶する。
【0030】
(3)第2のBG測定工程(ステップS3)について
次に、第2のBG測定工程(ステップS3)では、測定対象物10がトレイ11から取り出され、測定対象物10が本体部21の内部に存在しない状態において、放射線測定装置2が、第2のBG計数率CBG2を測定する。そして、放射能評価処理部320は、その測定結果である第2のBG計数率CBG2をBG測定データ311に記憶する。
【0031】
上記の一連の測定工程(ステップS1~S3)による測定作業は、測定対象物10を測定する度に行われる。したがって、測定対象物測定工程(ステップS2)にて、測定対象物10のグロス計数率CGが測定されるとともに、そのグロス計数率CGが測定される前(測定作業開始時)に、第1のBG計数率CBG1が測定され(ステップS1)、そのグロス計数率CGが測定された後(測定作業終了時)に、第2のBG計数率CBG2が測定される(ステップS3)。
【0032】
図4は、本発明の実施形態に係る放射能評価方法が適用される測定作業の一例を示すタイムチャートである。
【0033】
図4(a)に示す第1の例では、2つの測定対象物10A、10Bに対して測定作業が2回行われるものであり、2回の測定作業の間に所定の休止期間を挟むことにより、BG計数率は合計で4回測定される。すなわち、1回目の測定作業では、第1のBG計数率C
BG1、第1の測定対象物10Aのグロス計数率C
G、及び、第2のBG計数率C
BG2が順に測定され、所定の休止期間が設けられた後、2回目の測定作業では、第1のBG計数率C
BG1、第2の測定対象物10Bのグロス計数率C
G、及び、第2のBG計数率C
BG2が順に測定される。
【0034】
また、
図4(b)に示す第2の例では、2つの測定対象物10A、10Bに対して測定作業が2回行われるものであるが、所定の休止期間を挟むことなく2回の測定作業を連続して行うことにより、BG計数率は合計で3回測定する。すなわち、第1の測定対象物10Aのグロス計数率C
Gと、第2の測定対象物10Bのグロス計数率C
Gとの間に測定されたBG計数率を、第1の測定対象物10Aに対しては第2のBG計数率C
BG2として測定されたものとし、第2の測定対象物10Bに対しては第1のBG計数率C
BG1として測定されたものとして扱うようにしたものである。
【0035】
さらに、第1の測定対象物10Aのグロス計数率CGと、第2の測定対象物10Bのグロス計数率CGとの間におけるBG計数率の測定を省略してもよく、第1のBG計数率CBG1と、第2のBG計数率CBG2との間において、複数の測定対象物のグロス計数率を連続して測定するようにしてもよい。その場合には、第1のBG計数率CBG1及び第2のBG計数率CBG2が、複数の測定対象物に対して共通に測定されたものとして扱えばよい。
【0036】
なお、BG計数率CBGの測定は、測定対象物10の測定が行われるグロス計数率の測定作業の前後だけでなく、測定対象物10の測定が行われない場合においても定期的(例えば、8時間毎、1日毎、1週間毎等)に実行される。そして、その測定結果についても、測定時刻と関連付けるようにしてBG計数率CBGとしてBG測定データ311に記憶される。これにより、放射線測定装置2が設置された作業環境における雰囲気放射線量を示すBG計数率CBGが、BG測定データ311に随時蓄積される。
【0037】
上記のようにして測定対象物10の測定作業が行われることで測定された測定結果に基づいて、後述するステップS4~S7に示す各工程を行うことにより測定対象物10の放射能特性が評価される。その際、1つの測定対象物10の測定作業が行われる度に下記の各工程(ステップS4~S7)を行うことにより、その測定対象物10の放射能特性を評価してもよいし、複数の測定対象物10の測定作業が行われた後に下記の各工程(ステップS4~S7)を繰り返し行うことにより、それら複数の測定対象物10の各々に対して放射能特性を評価してもよい。以下では、1つの測定対象物10の測定作業(ステップS1~S3)が行われることで測定された測定結果に基づいて、その測定対象物10の放射能特性を評価する場合について、再び
図3を参照して説明する。
【0038】
(4)BG変動量算定工程(ステップS4)について
BG変動量算定工程(ステップS4)では、測定作業開始時、すなわち、グロス計数率CGが測定される前の第1のBG計数率CBG1と、測定作業終了時、すなわち、グロス計数率CGが測定された後の第2のBG計数率CBG2との差分であるBG計数率変動量ΔCBGを、下記の(1)式により算定する。
【0039】
【0040】
(5)BG変動誤差算定工程(ステップS5)について
次に、BG変動誤差算定工程(ステップS5)では、第1のBG計数率CBG1及び第2のBG計数率CBG2の測定に含まれる複数の誤差要因に起因する複数のBG誤差を重畳することにより、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGを算定する。以下に、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGの算定方法について説明する。
【0041】
測定作業前後におけるBG計数率変動量ΔCBGは、上記の(1)式で示すように、第1のBG計数率CBG1と、第2のBG計数率CBG2との差分として算定されるものである。そのため、測定作業開始時に測定された第1のBG計数率CBG1の計数誤差σBG1と、測定作業終了時に測定された第2のBG計数率CBG2の計数誤差σBG2という2つの計数誤差の伝播を踏まえて、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGは、下記の(2)式で算定される。
【0042】
【0043】
ここで、放射線測定装置2が設置された作業環境における雰囲気放射線量に変動(ばらつき)が存在する場合、作業環境の雰囲気放射線量の測定結果であるBG計数率CBGに一定の影響が生じるため、正味計数率Cnもその影響を受ける。したがって、BG計数率CBGの相対誤差σ’は、BG誤差として、少なくとも、放射線測定装置2が設置された作業環境における雰囲気放射線量の変動に起因するBG計数率CBGの相対誤差σ’EBGを含み、その他のBG誤差として、例えば、放射線測定装置2(特に検出器240)に起因するBG計数率CBGの相対計数誤差σ’CBGをさらに含むものである。そのため、BG計数率CBGの相対誤差σ’は、これらの合成誤差であると捉えることができ、下記の(3)式のように、複数のBG誤差を重畳することにより算定される。
【0044】
【0045】
上記の(3)式に含まれる、作業環境における雰囲気放射線量の変動に起因するBG計数率CBGの相対誤差σ’EBGは、例えば、所定の期間(例えば、1年間)を通して定期的に測定されて、BG測定データ311として蓄積されたBG計数率CBGの統計値(例えば、平均値)として求められる。
【0046】
また、上記の(3)式に含まれる、検出器240に起因するBG計数率CBGの相対計数誤差σ’CBGは、下記の(4)式で算定される。
【0047】
【0048】
したがって、上記の(3)式、(4)式を考慮すると、上記の(2)式は、下記(5)式に展開されるため、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGは、下記の(5)式で算定される。
【0049】
【0050】
(6)有効性判定工程(ステップS6)について
有効性判定工程(ステップS6)では、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGに基づいて、BG計数率変動量ΔCBGとして許容されるBG計数率許容変動量ΔCBGLを算定し、当該BG計数率許容変動量ΔCBGLを用いてBG計数率変動量ΔCBGを評価することにより、測定作業の有効性を判定する。以下に、測定作業の有効性の判定方法について説明する。
【0051】
まず、BG計数率許容変動量算定工程(ステップS61)では、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGに基づく不確定性を考慮して、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGに対して所定の許容係数k(例えば、k=3の場合、3σに相当する。)を乗算することにより、下記の(6)式のように、BG計数率許容変動量ΔCBGLを算定する。
【0052】
【0053】
次に、BG計数率許容変動量判定工程(ステップS62)では、下記の(7)式により、BG計数率変動量ΔCBGがBG計数率許容変動量ΔCBGL以下であるか否かに応じて、測定対象物10に対する測定作業の有効性を判定する。
【0054】
【0055】
上記の(6)式を踏まえると、上記の(7)式は、下記の(8)式に再整理される。
【0056】
【0057】
さらに、上記の(5)式を踏まえると、上記の(8)式は、下記の(9)式に再整理される。
【0058】
【0059】
したがって、BG計数率変動量ΔCBGが、上記の(9)式を満たす場合、測定作業の前後においてBG計数率CBGには有意な変動がなかったものとして、測定対象物10に対する測定作業は有効であると判定する(ステップS63)。一方、BG計数率変動量ΔCBGが、上記の(9)式を満たさない場合、測定対象物10に対する測定作業は無効であると判定する(ステップS64)。
【0060】
(7)放射能特性算出工程(ステップS7)について
放射能特性算出工程(ステップS7)では、測定作業の有効性が認められた場合、すなわち、測定作業が有効であると判定された場合(ステップS63)、当該測定作業により測定されたBG測定データ311(第1のBG計数率CBG1及び第2のBG計数率CBG2)と、測定対象物測定データ310(グロス計数率CG、測定重量W、測定高さH)とに基づいて、測定対象物10の放射能特性(正味計数率Cn、放射能濃度D)を算定する。
【0061】
まず、正味計数率算定工程(ステップS71)では、第1のBG計数率CBG1及び第2のBG計数率CBG2の少なくとも一方と、グロス計数率CGとに基づいて、測定対象物10の正味計数率Cnを算定する。第1のBG計数率CBG1を用いる場合には、正味計数率Cnは、下記の(10)式により算定されるが、第1のBG計数率CBG1に代えて第2のBG計数率CBG2を用いてもよいし、第1のBG計数率CBG1及び第2のBG計数率CBG2の平均値を用いてもよい。また、第1のBG計数率CBG1は、測定対象物10の測定重量W、測定高さHに基づいて補正されてもよい。
【0062】
【0063】
次に、放射能濃度算定工程(ステップS72)では、測定対象物10の正味計数率Cnと、正味計数率Cnを放射能濃度Dに変換する換算係数CFと、測定対象物10の測定重量Wとに基づいて、単位重量当たりの放射能濃度Dを、下記の(11)式により算定する。
【0064】
【0065】
(8)放射能特性評価工程(ステップS8)について
次に、放射能特性評価工程(ステップS8)では、放射能濃度Dに安全率Fsを乗算することで放射能濃度の評価値DLを算定し、下記の(12)式に示すように、当該評価値DLが、所定の評価基準値L以下であるか否かを判定する。そして、下記の(12)式が成立する場合、測定対象物10の放射能濃度Dは、評価基準値Lをクリアしていると判定する。
【0066】
【0067】
以上のように、本実施形態に係る放射能評価方法、放射能評価プログラム及び放射能評価装置によれば、BG変動量算定工程(ステップS4)が、グロス計数率CGが測定される前の第1のBG計数率CBG1と、グロス計数率CGを測定された後の第2のBG計数率CBG2との差分であるBG計数率変動量ΔCBGを算定し、BG変動誤差算定工程(ステップS5)が、第1のBG計数率CBG1及び第2のBG計数率CBG2の測定に含まれる複数の誤差要因に起因する複数のBG誤差を重畳することにより、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGを算定し、有効性判定工程(ステップS6)が、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGに基づいて、BG計数率変動量ΔCBGとして許容されるBG計数率許容変動量ΔCBGLを算定し、当該BG計数率許容変動量ΔCBGLを用いてBG計数率変動量ΔCBGを評価することにより、測定作業の有効性を判定する。
【0068】
したがって、グロス計数率CGが測定された前後のBG計数率変動量ΔCBGが、BG計数率変動量ΔCBGの誤差σΔCBGに基づく不確実性を考慮しながら評価されることにより、測定作業の有効性が判定されるので、評価の保守性の観点から放射能特性を適切に評価することができる。
【0069】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0070】
なお、本実施形態に係る放射能評価方法は、評価に係る目的や用途が特に限られるものでなく、例えば、上記の(12)式において評価基準値Lをクリアランス基準値Cとすることで、原子炉施設で使用された構造材のクリアランス評価に適用することができる。その際、原子炉施設の型式は、任意の種類でよく、例えば、減速材に重水、冷却材に軽水を用いた重水減速沸騰軽水冷却型の原子炉でもよいし、減速材及び冷却材に軽水を用いた軽水炉(加圧水型(PWR)、沸騰水型(BWR)、改良型沸騰水型炉(ABWR))でもよい。
【0071】
また、上記実施形態に係る放射能評価方法は、走査型の放射線測定装置2を対象とした場合について説明したが、他の型式の放射線測定装置を対象としてもよく、例えば、定置型の放射線測定装置を対象としてもよい。
【0072】
また、上記実施形態に係る放射能評価方法に含まれる各工程(
図3参照)を実行する順番は可能な範囲で適宜変更されてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、放射能評価プログラム313は、記憶部31に記憶されたものとして説明したが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、放射能評価プログラム313は、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…放射能評価システム、2…放射線測定装置、3…放射能評価装置、
4…ネットワーク、10…測定対象物、11…トレイ、
20…搬送コンベア、21…本体部、22…重量測定器、23…形状測定器、
24…放射線測定部、24A…上側検出器群、24B…下側検出器群、
25…制御盤、26…操作表示盤、27…通信部、
30…入力部、31…記憶部、32…制御部、33…通信部、34…出力部、
240…検出器、310…測定対象物測定データ、311…BG測定データ、
312…評価用パラメータ、313…放射能評価プログラム、
320…放射能評価処理部