(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】体力向上作用及び抗疲労作用のうちの一以上の作用を有する組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20231106BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20231106BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20231106BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20231106BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20231106BHJP
【FI】
A23L33/135
C12N1/20 A
A61K35/74 A
A61P3/02
A23K10/16
(21)【出願番号】P 2019546635
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2018035295
(87)【国際公開番号】W WO2019069735
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017193132
(32)【優先日】2017-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02536
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02537
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】福田 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】狩野 智恵
(72)【発明者】
【氏名】森田 寛人
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-023875(JP,A)
【文献】特表2009-545314(JP,A)
【文献】the Journal of Strength and Conditioning Research,2015年02月,Vol.29, No.2,pp.552-558
【文献】Medical Journal of the Islamic Republic of Iran,2013年08月,Vol. 27, No. 3,pp.141-146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテロイデス・ユニフォルミ
スを含む、健常な対象における体力及び疲労耐性のうち一以上を向上するために使用される組成物。
【請求項2】
全身持久力、及び有酸素運動時の持久力のうち一以上を向上するために使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
バクテロイデス・ユニフォルミスが、JCM5828株、CP3585株
(受託番号NITE BP-02536)又はCP3586株
(受託番号NITE BP-02537)である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
健常な非ヒト動物に、バクテロイデス・ユニフォルミ
スを投与すること又は摂取させることを含む、健常な非ヒト動物における体力及び疲労耐性のうち一以上を向上するための方法。
【請求項6】
健常な非ヒト動物における全身持久力、及び有酸素運動時の持久力のうち一以上を向上するための、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
バクテロイデス・ユニフォルミスCP3585株
(受託番号NITE BP-02536)。
【請求項8】
バクテロイデス・ユニフォルミスCP3586株
(受託番号NITE BP-02537)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体力及び疲労耐性のうちの一以上を向上するためのバクテロイデス・ユニフォルミスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、労働や運動等の活動を行う場合には、少なくともこれらの活動に耐え得るだけの体力を要する。一方、これらの活動により身体には疲労が蓄積し、身体の機能は低下する。労働や運動等の活動を日常的に行うためには、体力の維持/向上や、疲労の予防/回復が不可欠であるといえる。
【0003】
労働や運動等の活動を行うための体力には、筋力、持久力、柔軟性等の行動の基礎となる身体的能力が含まれる。
【0004】
これまでに持久力を向上させ、かつ疲労の予防、軽減、回復に効果を有するとされるアミノ酸組成物が開発・報告されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、このようなアミノ酸組成物は、運動前や運動中に摂取され、その効果は一時的であり、摂取するタイミングによっては効果が期待できない場合もあった。摂取するタイミングに縛られることなく、持続的に効果を得ることが可能な手段が望まれている。
【0006】
また、これまでに特定の微生物や、発酵組成物を摂取することにより、持久力の向上や抗疲労効果が得られることが報告されている。
【0007】
特許文献2には、納豆菌を米糠類及び大豆類を含む培地に接種して得られた発酵組成物(発酵液)を摂取することにより、乳酸産生抑制効果、血中乳酸蓄積抑制効果、持久力の向上及び抗疲労効果が得られることが示されている。特許文献3には、乳酸菌(ロイコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)ATCC 12291株)による豆乳発酵物を摂取することにより、疲労蓄積予防活性を通じて自発運動量を増加させる効果が得られることが示されている。これらはいずれも発酵組成物全体に由来する効果を示すものであり、当該菌体自体が上記の効果を奏することを示すものではない。
【0008】
特許文献4には、紅色非硫黄細菌(ロドバクター・アゾトフォルマンス(Rhodobacter azotoformans)BP0899株)の菌体粉末を摂取することにより、持久力向上や抗疲労効果が得られることが示されている。
【0009】
非特許文献1には、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)の単独定着マウスにおいて、無菌マウスと比較して持久力の向上が認められたことが記載されている。
【0010】
バクテロイデス・ユニフォルミス(Bacteroides uniformis)は、0.8×1.5μm程度の大きさを有し、芽胞を作らず、運動性を有さない嫌気性グラム陰性桿菌である。バクテロイデス・ユニフォルミスは、ヒトをはじめとする多くの哺乳動物の腸内に通常存在する真性細菌である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-255033号公報
【文献】特開2013-17445号公報
【文献】特開2008-179559号公報
【文献】WO2011/102035公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】J Strength Cond Res.2015 Feb;29(2):552-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、バクテロイデス・ユニフォルミスを摂取することにより、どのような効果が得られるか否か、これまで明らかにされてはいなかった。
【0014】
本発明は、任意のタイミングで摂取でき、持続的に体力向上作用及び抗疲労作用のうちの一以上の作用を奏することが可能な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外にも、バクテロイデス・ユニフォルミスを摂取することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] バクテロイデス・ユニフォルミス又はその処理物を含む、体力及び疲労耐性のうち一以上を向上するために使用される組成物。
[2] 全身持久力、及び有酸素運動時の持久力のうち一以上を向上するために使用される、[1]の組成物。
[3] バクテロイデス・ユニフォルミスが、JCM5828株、CP3585株又はCP3586株である、[1]又は[2]の組成物。
[4] 飲食品、医薬又は飼料もしくは飼料添加物である、[1]~[3]のいずれかの組成物。
[5] 非ヒト動物に、バクテロイデス・ユニフォルミス又はその処理物を投与すること又は摂取させることを含む、非ヒト動物における体力及び疲労耐性のうち一以上を向上するための方法。
[6] 全身持久力、及び有酸素運動時の持久力のうち一以上を向上するための、[5]の方法。
[7] バクテロイデス・ユニフォルミスCP3585株。
[8] バクテロイデス・ユニフォルミスCP3586株。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2017-193132号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、任意のタイミングで摂取でき、持続的に体力向上作用及び抗疲労作用のうちの一以上の作用を奏することが可能な手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、バクテロイデス・ユニフォルミスの投与開始前(A)と投与開始から3週間後(B)の限界遊泳試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、バクテロイデス・ユニフォルミス又はその処理物を含む、体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上を有する組成物に関する。
【0020】
本発明において「体力」とは、労働や運動等の活動を行うことを可能とする行動の基礎となる身体的能力に関し、特に、労働や運動等の活動に耐えることを可能とし、継続してそれらを行うことを可能とする身体の力を意味する。より好ましくは、「体力」とは、全身持久力、及び有酸素運動を継続して行うことを可能とする有酸素運動時の持久力のうちの一以上を意味する。「全身持久力」とは、一般的にスタミナとも呼ばれる、長時間身体を動かすことを可能とする能力をいう。
【0021】
本発明において「体力向上」とは、体力の向上及び回復を促進することのうちの一以上を意味し、特に、労働や運動等の活動に耐え、継続してそれらを行うことを可能とする身体の力を向上すること、及び当該身体の力の回復を促進することのうちの一以上を意味し、より好ましくは、全身持久力及び有酸素運動時の持久力のうちの一以上を向上すること、ならびに全身持久力及び有酸素運動時の持久力のうちの一以上の回復を促進することからなる群から選択される一以上を意味する。
【0022】
本発明において「疲労」とは、労働や運動等の活動が継続して行われた結果として、身体の機能が低下することを意味する。
【0023】
本発明において「抗疲労」及び「疲労耐性を向上する」とは、疲労を軽減すること、疲労の回復を促進すること、及び疲労を予防することのうちの一以上を意味し、好ましくは、労働や運動等の活動が継続して行われた結果として生じる身体機能の低下を軽減すること、当該身体機能の低下の回復を促進すること、又は当該身体機能の低下を予防して当該身体機能の低下が生じにくい状態とすることを意味する。
【0024】
「バクテロイデス・ユニフォルミス」は公知であり、バージーズ・マニュアル・オブ・バクテリオロジーVol.4(1989)等に記載される公知の菌学的性質に基づいて特徴付けることができる。
【0025】
本発明において「バクテロイデス・ユニフォルミス」は、哺乳動物(例えばヒト、サル、チンパンジー、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)、好ましくはヒトの腸内より単離されたものを用いることができる。
【0026】
バクテロイデス・ユニフォルミスは公知の手法に準じて単離することができる(Paola Gauffin Cano et al,PLoS One.July 2012,Volume 7,Issue 7,e41079)。すなわち、哺乳動物の糞便、糞便物、便を適当な溶媒中に希釈して、プレート培地に播種し、嫌気条件下にて培養を行い、培地に出現したコロニーより釣菌する。培地は下記に詳述するものを利用することができるが、単離の効率性からバクテロイデスを鑑別・選別することが可能な選択分離培地を用いることが好ましい(Jap.J.vet.Sci.,36,93-98(1974))。得られた菌について、グラム染色と検鏡によりグラム陰性桿菌であることを確認した後、選択された菌について、16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく分析を行うことにより、バクテロイデス・ユニフォルミスを同定・クローニングすることができる。バクテロイデス・ユニフォルミスの16S rRNA遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、GenBank等の公知のデータベースに開示されており、NR_040866、AB050110、AB510711、L16486として登録されている。16S rRNA遺伝子の分析に際しては、これらの配列情報を利用することができる。16S rRNA遺伝子の分析・同定は、定量的PCR法、DGGE/TGGE法、FISH法、16S rDNAクローニングライブラリー法、T-RFLP法、FISH-FCM法、塩基配列決定法等の公知の手法に基づいて行うことができる(生化学.第80巻.第5号.421-425.2008年;J Nutr.2004 Feb;134(2):465-72.;Appl.Environ.Microbiol.64.3336-3345.1998;Appl.Environ.Microbiol.,65,4799-4807,1999;Appl.Environ.Microbiol.,62,2273-2278,1996;Appl.Environ.Microbiol.,64,3854-3859,1998)。例えば、定量的PCR法によれば、バクテロイデス・ユニフォルミスの16S rRNA遺伝子の公知の塩基配列情報に基づいて、当該菌に特異的なプライマーを作製する。選択された菌より抽出されたDNAを鋳型として、当該プライマーを用いてPCR反応を行い、意図されたサイズのPCR増幅産物の有無に基づいて当該菌がバクテロイデス・ユニフォルミスであるか否かを判断することができる。特異的なプライマーの設計やPCR条件の決定は、定法に従って行うことができる(バイオ実験イラストレイテッド3 本当にふえるPCR:細胞工学別紙 目で見る実験ノートシリーズ;中山広樹著 株式会社秀潤社)。
【0027】
本発明においては、バクテロイデス・ユニフォルミスに分類される任意の菌株、又は体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上を有する限りその変異株もしくは育種株を利用することができる。本発明において利用可能なバクテロイデス・ユニフォルミス株としては、ATCC8492株、CCUG4942株、CIP103695株、DSM6597株、NCTC13054株、JCM5828株、CP3585株及びCP3586株等が挙げられる。好ましくは、JCM5828株、CP3585株及びCP3586株である。JCM5828株は、理化学研究所 バイオリソースセンター微生物材料開発室(〒305-0074 茨城県つくば市高野台3-1-1)に登録・保存されている基準株である。CP3585株及びCP3586株は、2017年8月25日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託番号NITE BP-02536及びNITE BP-02537として国際寄託されている。
【0028】
本発明で利用可能なバクテロイデス・ユニフォルミスは、当該菌を培養することができる通常の培養培地及び培養条件を用いて培養し、回収することができる。
【0029】
培養培地はバクテロイデス・ユニフォルミスを培養可能であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、炭素源として、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、セロビオース、スクロース、ラムノース、アミグダリン、エスクリン、サリシン、メリビオース、トレハロース、L-アラビノース、リボース、D-キシロース、イヌリン、ラフィノース、スターチ、糖蜜等、窒素源として、硫安、硝安等の無機アンモニウム塩、尿素、アミノ酸、肉エキス、酵母エキス、ポリペプトン、タンパク質分解物等の有機窒素含有物等、ならびに無機塩類として、硫酸マグネシウム、リン酸2水素カリウム、酒石酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸銅、塩化カルシウム、塩化鉄、塩化マンガン等を含めることができる。バクテロイデス・ユニフォルミスの培養に好適な公知の培養培地(例えば、NBGT培地、BL培地、GAM培地等)を利用することができる。培養培地は液体培地が好ましいが、必要に応じて、寒天やゼラチンを加えて、固体培地又は半流動培地として用いてもよい。
【0030】
培養は、20℃~50℃、好ましくは25℃~45℃、より好ましくは35℃~37℃の温度にて、嫌気条件下で行うことができる。「嫌気条件」とは、バクテロイデス・ユニフォルミスが増殖可能な程度に低酸素環境であればよく、例えば、嫌気チャンバー、嫌気ボックス、脱酸素剤を入れた密閉容器もしくは培養容器等を用いて、嫌気条件とすることができる。
【0031】
培養は、静置培養、振とう培養、タンク培養等の任意の形式で行うことが可能であり、また、培養時間は、特に制限されないが、例えば3時間~7日間とすることができる。
【0032】
培養後、得られた培養物をそのまま使用してもよいし、あるいは培養物よりバクテロイデス・ユニフォルミスを精製又は粗精製して使用してもよい。培養物からの菌体の精製又は粗精製は任意の手段を用いて行うことができ、例えば、遠心分離や濾過等を用いて行うことができる。
【0033】
本発明において使用するバクテロイデス・ユニフォルミスは、生菌体であっても又は死菌体であってもよいし、湿潤菌体であっても又は乾燥菌体であってもよい。
【0034】
本発明においては、バクテロイデス・ユニフォルミスの処理物も利用することができる。本発明において「処理物」としては、バクテロイデス・ユニフォルミスの菌体破砕物や菌体抽出物が挙げられる。
【0035】
菌体破砕物は、菌体を物理的処理、化学的処理、酵素処理、自己融解等の公知の処理により得ることができ、体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上を有する限りその形態は限定されない。例えば、菌体破砕物は、菌体をホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、ダイノミル、遊星ミル、ジェットミル、フレンチプレス、細胞破砕機、フィルター濾過等の手段に付すことにより得ることができる。物理的破砕処理は、湿式(菌体懸濁液の状態で処理)で行ってもよいし、又は乾式(菌体粉末の状態で処理)で行ってもよい。
【0036】
菌体抽出物は、菌体又は菌体の破砕物から抽出溶媒を用いて抽出操作を行い、体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上を有する画分を回収することによって得ることができる。抽出溶媒としては、例えば、水、アルコール(エタノール、メタノール等)、アセトン、アセトニトリル、ジオキサン、DMSO、DMF、ジエチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルム等、又はそれらの混合溶媒を利用することができる。得られた菌体抽出物は、必要に応じてさらに、エバポレーター等の蒸発器に供され濃縮されてもよいし、あるいは、菌体抽出物より、体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上を有する画分をさらに精製又は粗精製してもよい。当該さらなる精製又は粗精製には、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせて用いることができる。
【0037】
本発明において使用するバクテロイデス・ユニフォルミス又はその処理物は、乾燥物、凍結物、水分散物、乳化物等の任意の形態で用いることができる。乾燥物は、例えば、噴霧乾燥、ドラム乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の任意の乾燥手段を用いて得ることができ、粉状、粒状等の形態とすることができる。
【0038】
本発明の組成物には、バクテロイデス・ユニフォルミス又はその処理物と共に、医薬や飲食品の製造において通常用いられている、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等の添加剤を含めることができ、企図される投与経路や摂取方法に適した剤型又は形態として製造することができる。
【0039】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、ブドウ糖、コーンスターチ、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0040】
滑沢剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルなどのシュガーエステル類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリルアルコール、粉末植物油脂などの硬化油、サラシミツロウなどのロウ類、タルク、ケイ酸、ケイ素等が挙げられる。
【0041】
結合剤としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0042】
崩壊剤としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0043】
また、本発明の組成物に利用可能な、医薬や飲食品の製造において通常用いられている添加剤の例としては、各種油脂(例えば、大豆油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油などの植物油、牛脂、イワシ油などの動物油脂)、生薬(例えばロイヤルゼリー、人参など)、アミノ酸(例えばグルタミン、システイン、ロイシン、アルギニンなど)、多価アルコール(例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、糖アルコール、例としてソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、マンニトールなど)、天然高分子(例えばアラビアガム、寒天、水溶性コーンファイバー、ゼラチン、キサンタンガム、カゼイン、グルテン又はグルテン加水分解物、レシチン、澱粉、デキストリンなど)、ビタミン(例えばビタミンC、ビタミンB群など)、ミネラル(例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄など)、食物繊維(例えばマンナン、ペクチン、ヘミセルロースなど)、界面活性剤(例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなど)、精製水、希釈剤、安定化剤、等張化剤、pH調製剤、緩衝剤、湿潤剤、溶解補助剤、懸濁化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、香料、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、酸味料等が挙げられる。
【0044】
また、本発明の組成物には、体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上を有することが公知である他の成分を含めることができる。このような他の成分としては、タウリン、グルタチオン、カルニチン、クレアチン、コエンザイムQ10、グルクロン酸、グルクロノラクトン、ガラナエキス、テアニン、γ-アミノ酪酸(GABA)、カプサイシン、カプシエイト、アリシン、ビタミン類(ビタミンB1、B2、B6、B12、C、E等)、各種有機酸(クエン酸等)、フラボノイド類、ポリフェノール類、カテキン類、カフェイン等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0045】
本発明の組成物の剤型又は形態は、特に制限されない。医薬としては例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤、吸入剤、坐剤等の剤型とすることができるが、好ましくは、経口剤である。液剤、懸濁剤などの液体製剤は、凍結乾燥化し保存し得る状態で提供され、用時、水や生埋的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用されるものであってもよい。また錠剤等の固形の剤形を有するものは、必要に応じてコーティングを施されていてもよいし(例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠等)、公知の技術を使用して、徐放性製剤、遅延放出製剤又は即時放出製剤などの放出が制御された製剤としてもよい。
【0046】
飲食品としては例えば、錠菓、錠剤、チュアブル錠、粉剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤等の形態を有する健康飲食品(サプリメント、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品等)、清涼飲料、茶飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、野菜飲料、果汁飲料、醗酵野菜飲料、醗酵果汁飲料、発酵乳飲料(ヨーグルトなど)、乳酸菌飲料、乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、菓子(例えば、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、チューインガム、タブレット)、ゼリー等の形態とすることができる(これらに限定はされない)。
【0047】
飲食品は、体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上を有する成分を含有する、保健機能食品(特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)、栄養機能食品、機能性表示食品や、健康食品、美容食品等とすることができる。
【0048】
また、本発明の組成物は、ヒト用の飲食品だけでなく、家畜、競走馬、ペット等の飼料又は飼料添加物の形態とすることもできる。
【0049】
本発明の組成物に含まれるバクテロイデス・ユニフォルミス又はその処理物の量は、当該組成物の剤型や形態に応じて変化し得るが、通常、組成物に対して0.0001~99質量%、好ましくは0.001~80質量%、より好ましくは0.001~75質量%の範囲より選択される量とすることができる。例えば、本発明の組成物に含まれるバクテロイデス・ユニフォルミス又はその処理物の量は、菌体の数にして、組成物1kgあたり、1×105個~1×1017個、好ましくは1×106個~1×1016個、より好ましくは1×107個~1×1015個から選択される量とすることができる。
【0050】
本発明の組成物を投与又は摂取する対象(被験体)は、体力向上及び抗疲労の効果のうち一以上を必要とする哺乳動物(例えばヒト、霊長類(サル、チンパンジー等)、家畜(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ等)、ペット(イヌ、ネコ等)、実験動物(マウス、ラット等))、鳥類、爬虫類等が挙げられるが、好ましくは哺乳動物であり、特に好ましくはヒトである。
【0051】
本発明の組成物の投与量又は摂取量は、対象の年齢及び体重、投与経路、投与・摂取回数、体力や疲労のうち一以上の程度等の要因に応じて変化し得、任意の投与量又は摂取量を採用し得る。例えば、経口的に投与又は摂取する場合には、バクテロイデス・ユニフォルミス又はその処理物を菌体の数にして、1日当たり1×105個/kg~1×1015個/kg、好ましくは1日当たり1×106個/kg~1×1014個/kg、より好ましくは1日当たり1×108個/kg~1×1013個/kgから選択される量を1回又は複数回(例えば、2~5回、好ましくは2~3回)に分けて投与又は摂取することができる。
【0052】
本発明の組成物は、微量かつ短期間で効果を奏することができるが、長期間にわたって投与又は摂取することができる。例えば、本発明の組成物を、上記用法用量にしたがい、1か月以上、2か月以上、6ヶ月以上、1年以上、又はそれ以上の期間にわたって継続して投与又は摂取することができる。
【0053】
本発明の組成物は、体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上を有する。具体的には、本発明の組成物は、投与又は摂取された対象において、投与又は摂取されない場合と比べて、体力を向上及び回復することのうちの一以上、特に労働や運動に耐え、継続してそれらを行うことを可能とする身体の力を向上すること、及び当該身体の力の回復を促進することのうちの一以上、より好ましくは、全身持久力や有酸素運動時の持久力のうちの一以上を向上すること、全身持久力及び有酸素運動時の持久力のうちの一以上の回復を促進すること、ならびに、疲労を軽減すること、疲労の回復を促進すること、及び疲労を予防することのうちの一以上、好ましくは労働や運動等の活動が継続して行われた結果として生じる身体機能の低下を軽減すること、当該身体機能の低下の回復を促進すること、及び当該身体機能の低下を予防して当該身体機能の低下が生じにくい状態とすることのうちの一以上の作用をもたらすことができる。これらの作用に基づいて、本発明の組成物は、滋養強壮、虚弱体質、肉体疲労等の場合における栄養補給等に効能・効果を有する。
【0054】
本発明の組成物を、上記対象に投与又は摂取させることにより、投与又は摂取されない場合と比べて、当該対象における体力及び疲労耐性のうち一以上を向上することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
実施例1.バクテロイデス・ユニフォルミスの釣菌
ヒト由来の糞便を希釈して、選択培地(NBGT寒天培地)に播種し、48時間嫌気状態で培養した。
【0057】
次いで、得られたコロニーを1つずつ拾ってPBSに懸濁し、懸濁液の一部をBL寒天培地に播種して48時間嫌気状態で培養した。また、残りの懸濁液を使ってDNAを抽出し、このDNAを鋳型として用いて定量PCR法ならびに16S rRNA遺伝子配列の決定を行い、バクテロイデス・ユニフォルミスである菌株を同定した。
【0058】
同定された菌株をそれぞれ、BL寒天培地より回収し、GAM軟寒天培地に植菌・培養した。
【0059】
実施例2.バクテロイデス・ユニフォルミス懸濁液の調製
実施例1で得られたバクテロイデス・ユニフォルミスのうち2株をBL寒天培地に塗布し、48時間培養を行った。次いで、各株について得られたコロニーを1つずつGAM液体培地に拾って、さらに16時間培養を行った。培養はすべて嫌気条件下にて行った。得られた菌株をそれぞれ、「CP3585株」及び「CP3586株」とした。
【0060】
培養終了後、遠心分離して上清を除去し、回収された菌体を-80℃にて凍結して、投与まで保存した。
【0061】
投与に際しては、菌体を1×109CFU/mlになるようPBSにて希釈して、各菌体の懸濁液を調製した。
【0062】
さらに、バクテロイデス・ユニフォルミスの基準株であるJCM5828株を用いて同様に、懸濁液を調製した。
【0063】
実施例3.体力及び疲労のうち一以上に対する効果
(1)動物
雄のC57BL/6マウス(5週齢)を用いた。
各個体の運動能力に差があるため、投与前に限界遊泳試験を1回実施し、各群の限界遊泳時間の平均値が、おおよそ同じになるように、マウスを対照群、JCM5828株投与群、CP3585株投与群、及びCP3586株投与群に振り分けた(各n=8)。
各マウスは、Specific-pathogen free(SPF)環境下で飼育した。
【0064】
(2)菌体の投与
JCM5828株、CP3585株及びCP3586株のいずれかの懸濁液を2×108CFU/日の量で毎日、実験期間(4週間)にわたって強制経口投与した。
対照群には、同量のPBSを投与した。
【0065】
(3)評価方法
菌体の投与による、体力及び疲労のうち一以上に対する効果は、限界遊泳試験により評価した(日本栄養・食糧学会誌 第62巻 第4号 165-170(2009))。すなわち、長さ90cm、幅45cmで38cmの深さまで湯を満たしたアクリル水槽にポンプを接続して水槽表面に流れを発生させることにより、マウス用流水プールを作成した(京大松元式運動量測定流水槽)。流水プールにマウスを入れると、マウスは流れに逆らって遊泳し、疲労困憊すると水槽後部で水没した。遊泳開始から水没するまでの遊泳時間を測定した。限界遊泳試験は、実験期間(4週間)にわたって毎週1回実施した。
【0066】
(4)結果
投与開始前(各群への振り分けのための限界遊泳試験)と投与開始から3週目の限界遊泳試験の結果を
図1に示す。なお、
図1は、バクテロイデス・ユニフォルミスの投与開始前(A)と投与開始から3週間後(B)の限界遊泳試験の結果を示すグラフ図である。対照群を「対照」、投与群を「JCM5828株」、「CP3585株」及び「CP3586株」とそれぞれ示す。各群n=8。**:p<0.05、*:p<0.1(vs対照、Student T検定)
【0067】
投与開始前の結果(
図1(A))においては、対照群とJCM5828株、CP3585株及びCP3586株の各投与群との間において、遊泳時間に有意な差は認められなかった。一方、投与開始から3週目の結果(
図1(B))においては、対照群と比較して、JCM5828株、CP3585株及びCP3586株の各投与群において遊泳時間の延長が認められた。
【0068】
また、投与開始前の結果(
図1(A))と比べて、3週目の結果(
図1(B))においては、対照群の遊泳時間が短くなっていることが確認された。これは長期の実験期間にわたる疲労の蓄積によるものであると考えられる。一方、JCM5828株、CP3585株及びCP3586株の各投与群においてはそのような短縮は認められなかった。これは、投与した菌体による体力向上作用及び抗疲労作用のうち一以上の作用である。
【0069】
以上の結果より、バクテロイデス・ユニフォルミスの投与により、遊泳(運動)の継続時間を延長することができ、体力の向上や体力の改善もしくは回復を促進する効果が得られることが明らかとなった。また、バクテロイデス・ユニフォルミスの投与により、継続的な活動に由来する身体の機能の低下(疲労)を抑制することができ、疲労の軽減や予防、疲労の改善もしくは回復を促進する効果が得られることが明らかとなった。
【0070】
なお、実験期間にわたって、対照群と各菌体の投与群において体重変動に有意な差異は認められなかった。