(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】hERG1およびhERG1/インテグリンβ1に結合する単一特異性および二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231106BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231106BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20231106BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231106BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231106BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231106BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231106BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231106BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231106BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231106BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/46
C07K16/30
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020524672
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2018067641
(87)【国際公開番号】W WO2019015936
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】102017000083637
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】505303934
【氏名又は名称】ユニヴァーシタ’デグリ ステュディ ディ フィレンツェ
(73)【特許権者】
【識別番号】520023558
【氏名又は名称】ディ.ヴィ.エー.エル. トスカーナ エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】アルカンゲリ アンナローザ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥランティ クラウディア
(72)【発明者】
【氏名】カッラレシ ローラ
(72)【発明者】
【氏名】クレスチオーリ シルヴィア
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/020483(WO,A1)
【文献】特表2017-501185(JP,A)
【文献】β1integrin/hERG1 complex as a novel molecular target for antineoplastic therapy,ABCD CONGRESS 2011 RAVENNA,2011年09月08日,p. 58, P1.51
【文献】The Journal of Biological Chemistry,1994年02月25日,Vol. 269, No. 8,pp. 6124-6132
【文献】The complex between the beta1 integrin and hERG1 potassium channels as a new molecular target in antineoplastic therapy,European Journal of Cancer Supplements,Vol. 8, No. 5,p. 59, 225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-16/46
C12P 21/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗hERg1及び抗β1インテグリン二重特異性抗体(Ab)であって、hERG1の細胞外S5-Pドメインに結合する抗hERG1 Abの重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインと、β1インテグリンの細胞外ドメインに結合する抗β1インテグリンAbの重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインとを含み、前記抗hERG1 Abの重鎖可変(VH)ドメインは、95位の残基がCysである配列番号8を有し、前記抗hERG1 Abの軽鎖可変(VL)ドメインは、配列番号4を有し、前記抗β1インテグリンAbの重鎖可変(VH)ドメインは、配列番号26または配列番号46を有し、抗β1インテグリンAbの軽鎖可変(VL)ドメインは、配列番号24または配列番号48を有する二重特異性抗体(Ab)。
【請求項2】
タンデムscFv、ダイアボディフォーマット、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)および二重親和性再標的化分子(DART)からなる群において選択されるフォーマットを有する請求項1に記載の二重特異性Ab。
【請求項3】
95位の残基がCysである配列番号8を有する第1の重鎖可変(VH)ドメイン、配列番号4を有する第1のVLドメイン、配列番号26を有する第2のVHドメイン、および配列番号24を有する第2のVLドメインを含む請求項2に記載の二重特異性Ab。
【請求項4】
ドメインが、抗hERG1-Cys VLドメインに第3のリンカーによって連結されている抗β1-インテグリンVHドメインに第2のリンカーによって連結されている抗β1-インテグリンVLドメインに第1のリンカーによって連結されている抗hERG1-Cys VHドメインの順序で組み立てられている請求項3に記載の二重特異性Ab。
【請求項5】
95位の残基がCysである配列番号8を有する重鎖可変(VH)ドメインと、配列番号4を有する軽鎖可変(VL)ドメインとを含み、細胞外S5-P hERG1ドメインに対して特異性を有する抗hERG1抗体(Ab)分子。
【請求項6】
完全にヒト化された組換えAb、scFv、Fab、ダイアボディ、トリアボディ、バイスペシフィック、ミニボディまたはファージディスプレイ抗体である請求項5に記載の抗hERG1抗体(Ab)分子。
【請求項7】
VHおよびVLがペプチドリンカーによって連結されている請求項6に記載の抗hERG1抗体(Ab)分子。
【請求項8】
リンカーが(Gly4Ser)3モチーフである請求項4に記載の二重特異性Abまたは請求項7に記載の抗hERG1抗体(Ab)分子。
【請求項9】
配列番号10を有する請求項5から請求項8のいずれか一項に記載の抗hERG1抗体(Ab)分子。
【請求項10】
フルオロフォアまたは放射性核種で標識されている請求項5から請求項9のいずれか一項に記載の抗hERG1抗体(Ab)分子。
【請求項11】
医薬として、または治療のツールとして使用するための請求項1から請求項4及び請求項8のいずれか一項に記載の二重特異性Abまたは請求項5から請求項10のいずれか一項に記載の抗体(Ab)分子。
【請求項12】
hERG1タンパク質の過剰発現または誤発現によって特徴づけられる全ての病理の治療または診断において使用するための請求項11に記載の使用のための二重特異性AbまたはAb分子。
【請求項13】
hERG1タンパク質の過剰発現または誤発現によって特徴づけられる前記病理が腫瘍、神経疾患、内分泌疾患及び神経内分泌疾患よりなる群から選択される、請求項12に記載の二重特異性AbまたはAb分子。
【請求項14】
請求項1から請求項4及び請求項8のいずれか一項に記載の二重特異性Abまたは請求項5から請求項10のいずれか一項に記載の抗hERG1抗体(Ab)分子と、少なくとも別の薬学的に許容される成分とを含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項1から請求項4及び請求項8のいずれか一項に記載の二重特異性Abまたは請求項5から請求項10のいずれか一項に記載のAb分子をコードするヌクレオチド配列を有するヌクレオチド。
【請求項16】
請求項
15に記載のヌクレオチドの配列を含む発現ベクターまたはプラスミド。
【請求項17】
請求項
16に記載の発現ベクターまたはプラスミドを含む遺伝子改変微生物または細胞。
【請求項18】
同時、別々、または連続使用のための部品のインビトロ診断キットであって、
前記キットは、hERG1タンパク質の過剰発現または誤発現によって特徴づけられる病理の診断用であり、
請求項5から請求項10のいずれか一項に記載の抗hERG1-Cys Ab分子を含有する容器、または
請求項1から請求項4及び請求項8のいずれか一項に記載の二重特異性Abを含有する容器
を含むインビトロ診断キット。
【請求項19】
参照対照として、インタクトなモノクローナル抗hERG1 Abを含有する容器を更に含む請求項18に記載のインビトロ診断キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の分野、ならびに腫瘍学および医学の他の分野における診断および治療目的のためのそれらの適用に関する。特に、本発明は、hERG1およびβ1インテグリンの両方を標的とする二重特異性抗体を含む、抗hERG1分子およびそれらの操作された誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
過去20年間にわたり、抗体の製造技術は、抗体工学によって著しく改善されてきた。分子工学の分野における新しい技術の出現は、Fab型のフラグメント、単鎖(simple chain)のFv形態scFv、ダイアボディ、トリアボディ、バイスペシフィック(bispecific)、ミニボディ、ナノボディ、ファージ抗体のような多種多様な遺伝子工学的に操作された抗体の製造を導いた。実際に、Fc媒介効果の関連する毒性効果、およびそのFcが非ヒト供給源に由来する場合、抗体効力を中和することができる免疫反応を誘発するそれらの能力のため、Fc媒介効果が必要とされず、さらには望ましくない適用範囲が存在する。
【0003】
操作された抗体フラグメントの中で、一本鎖可変フラグメント(scFv)は、最も一般的であり、抗原結合活性機能を有し、免疫学的適用のために容易に管理可能である特性を有する最小の組換えフォーマットの1つである。
【0004】
scFvは、重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域からなり、これらは、VH-VL対合部位および抗原結合部位の忠実度を損なうことなく、可撓性ペプチドリンカーによって一緒に連結される。リンカーの選択は、scFvの溶解度、発現および正しいフォールディングに影響を及ぼすことができる。ペプチドリンカーは、10~25アミノ酸長で変化し得、そして典型的には、グリシン(G)およびセリン(S)等の親水性アミノ酸から構成される。親水性配列は、タンパク質フォールディング全体を通して、可変ドメイン内または可変ドメイン間のペプチドのインターカレーションを妨げる。使用される最も一般的なリンカーは、(Gly4Ser)3モチーフであり、これは、その柔軟性、中性電荷および溶解性のためである。診断および治療におけるscFvの使用は、特に固形腫瘍の治療において、抗体全体に勝るいくつかの利点を提供する。実際、完全な分子に対するフラグメントによる浸透の速度は、最も顕著な利点である。1988年に、IgGの完全な分子が固形腫瘍に1mm浸透するのに54時間かかったが、Fab断片は16時間で同じ距離を対処したことが明らかにされた。さらに、scFv、ならびに全ての他の抗体フラグメントフォーマットは、多価および多重特異性試薬に形作られ得るか、または放射性核種、毒素もしくはナノ粒子として治療ツールに容易に連結され得、そしてそれらの診断用効力および治療効力を改善するように操作され得る。
【0005】
これらの操作された分子は、細菌系または酵母系において容易に産生され、さらに、より効率的に溢出し、そして全長Igよりも高い組織浸透能力を有する。これらの分子の唯一の限界は、それらの小さいサイズのための短い半減期である。薬物動態を改善するために多くの戦略が開発されており、その例としては、トリアボディ(約90kDa)およびテトラボディ(約120kDa)を形成するためのscFvの多量体化(それらのリンカー配列を短縮する)、またはポリエチレングリコール(PEG)(Natarajanら、2005)またはヒト血清アルブミン(HSA)などの大分子への抗体の結合などがある。
【0006】
二重特異性抗体(bsAb)は、下記のいくつかの利点を提供するので、有望な癌治療剤として最近多くの注目を集めている。
- bsAbは特異的免疫細胞を腫瘍細胞に向け直すことができ、その結果、癌死滅を増進させることができる、
- bsAbは、病原性においてユニークな、または重複する機能を遂行する異なる経路で、2つの異なる標的を同時にブロックすることができる、
- bsAbは、1つではなく2つの異なる細胞表面抗原と相互作用することにより、潜在的に結合特異性を増加させることができる。
【0007】
二重特異性抗体(bsAb)の開発は、主に製造上の問題、不十分な収率、不安定性および免疫原性に起因して、多くの困難を経験している(Spiess C.ら、2015)。
【0008】
bsAbの製造方法について、bsAbは主に以下の3つの方法で作成されている。
- 2つの異なるハイブリドーマ細胞株の体細胞融合に基づくクアドローマ技術、
- 化学的架橋剤の使用による化学的結合、
- 組換えDNA技術を利用した遺伝子的アプローチ。
【0009】
二重特異性抗体は、免疫グロブリンG(IgG)様分子および非IgG様分子の2つの主要なサブグループに大別することができ、これまでに、臨床開発中の30を超えるbsAbが存在し、2つ、カツマキソマブおよびブリナツモマブ、が市場で既に承認されている。
【0010】
非IgG様には、主にscFvベースのbsAbおよびナノボディが含まれる。scFvは、リンカー長、抗体配列および他の因子に依存して、二量体、三量体、または四量体になり得ることが知られている(Le Gall F.ら、1999)。このようなフォーマットが好まれており、多くの可能な臨床応用がある。scFvベースのbsAbフォーマットの中には、以下のものがある。
- タンデムscFvは、タンデム配向のグリシン-セリン反復モチーフなどの柔軟なペプチドリンカーによって連結された2つのscFvからなる。有名な二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)技術は、このフォーマットに基づく(Chames P.ら、2009)。
- 2つの異なる抗体の可変ドメインが2つのリンカーによって連結されているダイアボディフォーマット。これらは、ダイアボディの安定性を増大させる機能を有する。
- 一本鎖ダイアボディ(scDb)。上記ダイアボディフォーマットは、鎖間に追加の連結リンカーを付加することによって一本鎖ダイアボディに変換することができる。
- タンデムダイアボディ(TandAb)は、単一のポリペプチド鎖に連結された二対のVLおよびVHドメインによって形成され、4価のTandAbを形成する。
- 二重親和性再標的化分子(DART)。DARTは、第2鎖上のVLに連結された第1可変領域のVHと、第1鎖上のVLに連結された第2可変領域のVHとの、VLA-VHB+VLB-VHA構成の会合によって作製される。それらの小さいサイズのために、DARTは排出される傾向がある(Moore P.A.ら、2011)。
【0011】
ダイアボディおよびscDbはまた、2つの異なる抗原に結合することができ、したがって細胞を架橋する(例えば、免疫系エフェクター細胞を再標的化する)、エフェクター分子(毒素、薬物、サイトカイン、放射性同位体、または補体系など)を補充する、キャリア系(遺伝子治療のためのウイルスベクターなど)を再標的化する(Kontermann 2005)、腫瘍進行に関与する高分子複合体を標的化および阻害するのに有用な、二重特異性抗体フラグメントを生成する最も有効な方法である。
【0012】
抗体工学はまた、結合力(例えば、抗体フラグメントの多量体化)、親和性(例えば、全Igまたは抗体フラグメントの可変領域における変異)、およびエフェクター機能(例えば、全Igの定常領域における変異、または組換えFc、毒素、薬物、サイトカイン、デスリガンド、放射性同位体、ナノ粒子または補体系分子との抗体フラグメントの結合)を増大させるための方法を提供した。
【0013】
過去30年間にわたり、ヒトether-a-go-go関連遺伝子1(hERG1)カリウムチャネル(ヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子1)は、腫瘍学および他のヒト疾患における標的となっている。しかし、治療目的のためのその利用は、それらの一次作用または副作用としてhERG1遮断を引き起こすほとんどの薬物が心毒性(心電
図QT間隔の延長および心室性不整脈の発症)を引き起こし得るという事実によって妨げられてきた。心臓において発現されるhERG1を癌細胞および他の疾患特徴細胞において発現されるhERG1と区別する生物物理学的および生体分子的特徴の探索において、hERG1は、癌細胞の原形質膜上で、他の原形質膜タンパク質、特にインテグリン受容体のβ1サブユニットと複合体を形成することが見出された。このような複合体は、心筋細胞においては生じない(Becchetti A.ら、Sci.Signaling,10(473).pii:eaaf3236.doi:10.1126/scisignal.aaf3236.PMID:28377405,2017)。したがって、hERG1/β1インテグリン複合体は、腫瘍中のhERG1を心臓で発現されるチャネルから識別するという事実により、発癌性ユニットとして形質転換細胞に特有のものを構成する。この発見は、hERG1/β1インテグリン複合体を標的とする任意の分子(小分子薬物、または低分子ではなくタンパク質)が、心毒性を欠く診断および治療目的のために使用され得ることを意味する。現在、hERG1/β1インテグリン複合体を標的とすることができる分子は知られていない。
【0014】
伊国特許第1367861号明細書には、hERG1のS5細孔細胞外部分に対して特異的な抗hERG1モノクローナル抗体(mAb)を分泌することができる、A7と命名されたハイブリドーマ細胞系クローンが記載されている。
【0015】
国際公開第2016020483(A1)号パンフレットは、mAb抗hERG1 VHおよびVLの単離後に得られる、インタクトなマウスモノクローナル抗hERG1分子の詳細な構造および対応する抗hERG1 scFv抗体の産生を記載する。このようなscFvは、対応する全抗体と同じ特異性を有し、したがって、腫瘍および他の疾患において異常に発現される同じ抗hERG1タンパク質を認識することができる。VH(配列番号2)およびVL(配列番号4)をそれぞれコードするヌクレオチド配列、配列番号1および配列番号3が、配列番号6を有するscFVをコードするヌクレオチド配列、配列番号5と共に開示された。
【0016】
当技術分野では、研究目的のために、例えば、抗β1インテグリンmAbが、とりわけ、TS2/16(Arroyoら、J.Cell Biol.1992,117(3),659-670)およびBV7(Martin-Paduraら、J.Biol.Chem.1994,269(8),6124-6132)が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】伊国特許第1367861号明細書
【文献】国際公開第2016020483(A1)号パンフレット
【非特許文献】
【0018】
【文献】Becchetti A.ら、Sci.Signaling,10(473).pii:eaaf3236.doi:10.1126/scisignal.aaf3236.PMID:28377405,2017
【文献】Arroyoら、J.Cell Biol.1992,117(3),659-670
【文献】Martin-Paduraら、J.Biol.Chem.1994,269(8),6124-6132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、癌細胞の原形質膜上に複合体化されたhERG1およびβ1インテグリンタンパク質の両方を同時に標的とする二重特異性抗体を提供することである。本発明のさらなる目的は、hERG1に対する改善された、または少なくとも代替の抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の主題は、hERG1の細胞外ドメインS5-Pに結合する抗hERG1 Abの重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインと、β1インテグリンの細胞外ドメインに結合する抗β1インテグリンAbの重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインとを含む二重特異性抗体(bsAb)である。
【0021】
驚くべきことに、本発明によるbsAbは、腫瘍細胞にのみ存在する複合体hERG1+β1-インテグリンに選択的に結合することができることが見出された。特に、本発明によるbsAbは、インビトロで、新生物細胞系のパネル上で細胞増殖および遊走性、転移促進活性を阻害する能力を示した。
【0022】
一態様では、本発明はまた、95位の残基がCysである配列番号8と少なくとも85%の同一性を有する重鎖可変(VH)ドメインと、配列番号4と少なくとも85%の同一性を有する軽鎖可変(VL)ドメインとを含む抗hERG1分子に関し、上記分子はhERG1 S5細孔細胞外部分に対して特異性を有する。
【0023】
驚くべきことに、本発明による抗hERG1分子(抗hERG1-Cys)であって、VHドメイン(配列番号8)の95位にCysを有する抗hERG1分子は、VHドメイン(配列番号2)の95位にPheを有する当技術分野で公知の分子と比較して、固定化抗原に対してより良好な親和性を示すことが見出された。特に、本発明によるscFv分子は、腫瘍性細胞系のパネル上で細胞増殖をインビトロで阻害する能力を示した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】scFv-hERG1構築物上で行われた突然変異誘発後の4つのコロニーのDNA配列決定から得られたエレクトロフェログラムであり、PheからCysへの適切な突然変異を示す。
【
図2】(A):scFv-hERG1の酵母発現。24時間、48時間および72時間でのscFv-hERG1-G3ピキア・パストリス(Pichia Pastoris)クローンの誘導から収集した上清上のスロットブロット。クローンC7、C12、D9、E8、G3、G7および非形質転換ピキア株GS115の陰性対照をすべて分析した。染色はDABクロモゲンを用いて行った。G3は、最良に発現するものであることが示されている。(B):6つのクローンの精製試料に対して行われたウェスタンブロット。G3は最も高い発現レベルを示したが、G7クローンではほとんど発現は検出されなかった。(C)scFv-hERG1-D8Cysピキア・パストリスクローンの誘導から24時間、48時間および72時間で回収した上清上のスロットブロット。クローンB11、C3、D8、D9、G4、G10および非形質転換ピキア株GS115の陰性対照をすべて分析した。染色はDABクロモゲンを用いて行った。D8は、最良に発現するものであることが示されている。(D):6つのクローンの精製試料に対して行われたウェスタンブロット。D8は、最も高い発現レベルを示したものであり、一方、より低い発現がC3クローンについて検出された。
【
図3】(A)精製されたscFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cys溶出分画(Fr)のSDS-PAGE、(B)Superdex 75 HR 10/30を用いた両方の精製された抗体のゲル濾過クロマトグラフィー。(C)scFv-hERG1-D8Cys抗体安定性試験。SDS-Page、続いてクーマシーブリリアントブルー染色を、異なる時点(タンパク質精製後0ヶ月、6ヶ月、12ヶ月および18ヶ月)で写真に報告する。
【
図4】(A)非標識scFv-hERG1-G3抗体(I.IF)および標識scFv-hERG1-G3抗体(D.IF)の両方を用いて、固定および生のHEK293MockおよびHEK293-hERG1細胞に対して行った免疫蛍光。20倍の倍率で撮影した代表的な画像であり、核染色を青色蛍光で表し、膜染色を緑色染色(Alexa488)で表す。(B)非標識scFv-hERG1-D8-Cys抗体(I.IF)および標識scFv-hERG1-D8-Cys抗体(D.IF)の両方を用いて、固定および生のHEK293-MockおよびHEK293-hERG1細胞に対して行った免疫蛍光法。20倍の倍率で撮影した代表的な画像であり、核染色は青色蛍光によって表され、膜染色は緑色染色(Alexa488)によって表される。(C)Image J Software(ImageJ 1.38、U.S.National Institutes of Health)を用いて計算したIF強度(A.U.)を示すグラフ。各画像について、3つの異なる領域の蛍光強度の平均を、青色チャネル値(核染色を指す)の減算後に計算した。全ての実験において、HEK293-hERG1についての結果は、HEK293-Mockについて得られた結果と比較して有意に高かった。Shapiro-Wilk検定を適用して、データの正常性およびホモスケダスチシティ(等分散性)の仮定を評価する統計分析を実施し、一方、分散をAnovaを通して分析した。対(ペアワイズ)有意性は、t検定またはBonferroni検定を適用して推定した(
* p<0.05)。
【
図5】
図5は、抗hERG1モノクローナル抗体(100μg/ml)およびscFv-hERG1-D8Cys(10;20μg/ml)を用いて、HCT-116、MDA MB-231、MIA PACA2、HEK293 HERG1、HEK-MOCK、FLG29.1、PANC-1、BxPC-3で行ったトリパンブルー生存率アッセイ。すべての実験を3回行った。
【
図6】パネルA:HEK293 HERG1スフェロイド10、20および40μg/ml scFv-hERG1-D8Cysを試験した。20μg/mlおよび40μg/mlのscFv-hERG1-D8Cysで処理したスフェロイドの体積は、各時点において対照(実線)と比較して小さい(それぞれ点線および一点鎖線を参照)。代わりに、パネルBは、HEK-MOCK(hERG1を発現しない)スフェロイドの成長曲線を示し、対照と比較して、試験した3つの濃度のscFv-hERG1-D8Cysの全てにおいて、処理したスフェロイドについて差異は見出されなかった。パネルAおよびBはまた、72時間の培養後に出現した対照HEK293-hERG1およびHEK-MOCKスフェロイドの代表的な明視野画像をそれぞれ示す。パネルC。膵管腺癌スフェロイド。パネルCは、膵管腺癌Mia Paca2細胞に対して得られた効果を示す。20μg/mlおよび40μg/mlのscFv-hERG1-D8Cysで処理した細胞の両方について、スフェロイドの体積の減少が観察され、各時点で、対照と比較して試験した最高濃度(一点鎖線)でより顕著な効果が得られた。また、パネルの右側に報告される72時間後に撮られた写真は、対照(左画像を参照のこと)と比較して、40μg/mlのscFv-hERG1-D8Cys抗体で処理された細胞(右画像を参照のこと)についてのスフェロイド体積の実質的な減少を示す。パネルD:乳癌細胞、MDA-MB231スフェロイド:対照と比較して、試験したscFv-hERG1-D8Cysの3つの濃度(10、20、40μg/ml)の全てについて、体積減少の顕著な効果が観察される。体積減少は、図の右側に報告されたMDA-MB231スフェロイドの写真からも推測することができる。
【
図7】72時間後にスフェロイドについて行ったカルセインAM細胞生存率アッセイ。緑色染色は生細胞を表し、赤色染色は死細胞を表す。左側の画像(パネルA)は、各細胞株についての対照の画像であり、一方、右側の画像(パネルB)は、40μg/mlのscFv-hERG1-D8Cysで処理されたスフェロイドの写真である。画像から、上記抗体で処理されたスフェロイド、特にMia Paca2、MDA MB-231およびPANC-1スフェロイドについての体積減少、さらに、特にscFv-hERG1-D8Cysで処理されたMDA MB-231およびPANC-1スフェロイドについての死細胞数の増加に注目することが可能である。
【
図8A】抗b1-インテグリン(TS2/16)VLドメインおよびVHドメインのヌクレオチド配列(配列番号23および配列番号25)は、自動DNA配列決定サービス(PRIMM)によって得られた。斜体で下線を引いたものは、VL配列、斜体VH配列を示す。
【
図8B】抗b1-インテグリン(BV7)VLドメインおよびVHドメインのヌクレオチド配列(配列番号45および配列番号47)。単一ドメインを単離するために使用されるプライマーが太字で報告され、一方、未知であるが、正しいフレームのために必要となるVH配列の領域が灰色で強調されて報告されている。
【
図9】上部パネル:2つの一本鎖抗体、抗hERG1および抗TS2/16の概略構造。下のパネル:scDb-hERG1-β1の概略構造。
【
図10】VL-リンカー-VHの順序で、抗b1-インテグリンscFvアセンブリのSOE-PCR法を表すスキーム。
【
図11】パネルAは、抗hERG1-Phe-β1-scDb構築物での形質転換後に増殖させた6つのクローンの小スケール誘導に由来する精製上清のクーマシー染色を示す。1つのバンドは、約60KDaの分子量を有するクローンG5に対応して検出可能であり、予想されたものと一致する。パネルBは、G5クローンの高スケール発現に由来する上清の精製後に生成されたクロマトグラムを示す。1つの単一ピークが可視であり、青色領域の基礎となる溶出物が分析され、クーマシー染色がパネルCに報告され、試験したすべての溶出物において適切な分子量を有するバンドを示す。
【
図12】パネルA。異なる量の抗hERG1-Phe-β1-scDb二重特異性抗体を使用して、HEK293 HERG1細胞で行った細胞ELISAからの結果。
【
図13(1)】異なる基質、BSAおよびフィブロネクチン(FB)上に播種された細胞上で行われた間接IF。IFは、BSA上にコーティングされた細胞について得られたシグナルと比較して、FB上にコーティングされたHEK293 HERG1細胞についてより強いシグナルを示す。
【
図14(1)】HEK293 HERG1細胞(パネルAおよびB)で実施した間接IF。過剰のS5POROペプチドの投与後の細胞の染色をパネルDおよびEに示す。パネルCは、二次抗体のみで染色された対照細胞を報告する。
【
図15】scDb-hERG1-Cys-β1の発現および精製。パネルA。ピキア・パストリス上清の精製から得られたクロマトグラム。パネルB。クロマトグラムの青色ピークの基礎となるscDb-hERG1-Cys-β1精製からの溶出物の分析を示すクーマシー染色。
【
図16】scDb-hERG1-Cys-β1-Alexa488による直接IF。これらの特定の実験において、細胞を、Alexa488フルオロフォアと直接結合したscDb抗体と共にインキュベートした。Alexa488フルオロフォアで直接標識したscDb-hERG1-Cys-β1抗体と共にインキュベートしたGD25WT細胞(hERG1およびβ1インテグリン発現の両方について陰性)。シグナルは存在しない。パネルB。フィブロネクチン(FN)およびBSAに播種され、scDb-hERG1-Cys-β1-Alexa488で染色されたHEK293 HERG1細胞。棒グラフに示すように、シグナルは、BSAに播種した細胞(~10A.U.)と比較して、FNに播種した細胞ではより高い(~17A.U.)。パネルC。HEK293WT細胞をFNおよびBSAに播種し、scDb-hERG1-Cys-β1-Alexa488とインキュベートした細胞。シグナルは、FNに播種した細胞(~12A.U.)と比較して、BSAに播種した細胞(~7A.U.)でより低い。パネルBおよびCから推論され得るように、蛍光値は、FN上に播種されたHEK293WT細胞(~12A.U.)と比較して、FN上のHEK293 HERG1細胞(~17A.U.)についてより低い。
【
図17】MDA-MB231細胞およびPANC-1細胞のIC
50決定。細胞生存率に及ぼす影響は、PANC-1細胞では24μg/ml、MDA-MB231細胞では42μg/mlで明らかであった。
【
図18】HCT116細胞、MDA-MB231 HERG1細胞、MDA-MB231細胞およびPANC-1細胞に関する側方運動性実験。対照細胞と比較して、scDb-hERG1-Cys-β1で処理した細胞において、MI(運動性指数)の明らかな減少が示される。MDA-MB231 HERG1に関しては、MDA-MB231細胞と比較してより顕著な効果が報告されており、これは、細胞運動性に対するhERG1関連効果を示唆している。PANC-1細胞で行った側方運動性実験は、対照と比較して、処理細胞でより低いMIを示した。HCT116細胞で行われた側方運動性実験は、対照と比較して、処理細胞でより低いMIを示した。
【
図19】(A)静脈内投与によるマウスにおけるscFv-hERG1-D8Cysの薬物動態(n=2)。抗体濃度は、scFv注射の5分、15分、30分後および1時間、2時間、6時間、24時間および48時間後に採取したマウス血液試料の血漿濃度を投与して、ELISAによって決定した。t1/2=3.5時間の値は、2つの測定値の平均±標準偏差である。(B)ECG、心電図記録。ECG計測は、生理学的溶液、PBSを注射された対照マウスについて左パネルに報告され、QT間隔の調整値は86msである。右パネルは、scFv-hERG1-D8Cysの投与後に得られたECGグラフを示し、対照と比較して有意な変化を示さず、QT間隔の調整値は90msであった。(C)インビボ分析。各パネルは、PBS溶液で処理した対照マウスと比較して、Alexa750と結合したscFv-hERG1-D8Cys抗体で処理した代表的なマウスにおける蛍光シグナルを報告する。検出された最大シグナルは注射後10分にあり、静脈内投与から24時間後に蛍光シグナルは検出されなかった。(D)PDAのMIAPaCa-2-nu/nuマウスモデルにおけるscFv-hERG1-D8Cys-Alexa750の取り込みと保持。マウスは、6.5μgのscFv-hERG1-D8Cys-Alexa750抗体を尾静脈注射により投与された。標識抗体を静脈内注射したマウスの代表的な写真(左)を対照マウス(右)と比較した。腫瘍に近位の部位である腹部における蛍光強度を分析した。蛍光発光スペクトルは、Photon imager(Biospace Lab)を用いて測定し、画像は、異なる時点で、5分毎に、注射後5分から注射後60分まで取得した。
【
図20】(A)静脈内投与によるマウスにおけるscDb-hERG1-Cys-βの薬物動態(n=2)。抗体濃度は、scDb注射の5分、15分、30分後および1時間、2時間、6時間、24時間および48時間後に採取したマウス血液試料の血漿濃度を投与して、ELISAによって決定した。t1/2~12時間の値は、2つの測定値の平均値±標準偏差である。(B)ECG、心電図記録。scDb-hERG1-Cys-β1抗体の投与後に得られたECGグラフは、
図20Bに報告された対照グラフと比較して有意な変化を示さず、対照に匹敵する83msのQT間隔の調整値を有する。(C)scDb-hERG1-Cys-β1抗体で処置したおよび未処置のMIAPaCa-2-nu/nu腫瘍保有マウスの膵臓体積(mm
3)を示す表。転移性拡散、スライド中の壊死領域の%および血管数も報告する。(D)検死解剖後の膵臓の画像:1、未治療;2、3用量のscDb-hERG1-Cys-β1抗体で処理;3、6用量のscDb-hERG1-Cys-β1抗体で処理。
【発明を実施するための形態】
【0025】
好ましくは、本発明のbsAbは、抗hERG1 Abの重鎖可変(VH)ドメインが配列番号8または配列番号2と85%の同一性を有し、抗hERG1 Abの軽鎖可変(VL)ドメインが配列番号4と85%の同一性を有し、抗β1インテグリンAbの重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインがTS2/16(配列番号26および配列番号24)またはBV7(配列番号46および配列番号48)のVHおよびVLと少なくとも85%の同一性を有するものである。
【0026】
好ましくは、本発明のbsAbは、非IgG様bsAb、好ましくはscFvベースのbsAbである。本発明によれば、scFVベースのbsAbは、タンデムscFv、ダイアボディフォーマット、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)および二重親和性再標的化分子(DART)、好ましくはscDbからなる群において選択されるフォーマットを有する。
【0027】
好ましくは、抗β1インテグリンAbのVHドメインは、配列番号26または配列番号46、より好ましくは配列番号26と90%、95%、99%または100%の同一性を有する。
【0028】
好ましくは、抗β1インテグリンAbのVLドメインは、配列番号24または配列番号48、より好ましくは配列番号24と90%、95%、99%または100%の同一性を有する。
【0029】
好ましくは、抗hERG1 AbのVHドメインは、依然として95位にアミノ酸Cysを保持し、配列番号8と90%、95%、99%または100%の同一性を有する。
【0030】
好ましくは、抗hERG1 AbのVHドメインは、配列番号2と90%、95%、99%または100%の同一性を有する。
【0031】
好ましくは、抗hERG1 AbのVLドメインは、配列番号4と90%、95%、99%または100%の同一性を有する。
【0032】
本発明による抗hERG1-Cys AbのVHドメインは、好ましくは、配列番号7と少なくとも70%、80%、90%、95%、99%または100%の相同性を有するヌクレオチドの配列によってコードされ、ここで、残基283~285のトリプレットは、TGTまたはTGCであり得る。
【0033】
本発明による抗hERG1 AbのVHドメインは、好ましくは、配列番号1と少なくとも70%、80%、90%、95%、99%または100%の相同性を有するヌクレオチドの配列によってコードされる。
【0034】
本発明による抗hERG1 AbのVLドメインは、好ましくは、配列番号3と少なくとも70%、80%、90%、95%、99%または100%の相同性を有するヌクレオチドの配列によってコードされる。
【0035】
本発明による分子は、完全にヒト化された組換えAbであり得る。
【0036】
本発明による分子は、scFvまたは任意の他の操作された抗体、例えば、Fab、単鎖のFv形態scFv、ダイアボディ、トリアボディ、バイスペシフィック、ミニボディ、ファージ抗体であり得て、好ましいものはscFvおよびダイアボディ(scDb)である。
【0037】
好ましいリンカーは、(Gly4Ser)3モチーフである。
【0038】
VHおよびVLがペプチドリンカーによって連結されている抗hERG1-Cys scFvが特に好ましく、配列番号10を有する抗hERG1-Cys scFvがより好ましい。
【0039】
特に好ましいのは、抗hERG1-Cys scFvおよび抗β1-インテグリンscFvを含み、したがって腫瘍細胞にのみ存在する複合体hERG1+β1-インテグリンに対して選択的に作用する一本鎖ダイアボディ(scDb)であるbsAbである。
【0040】
従って、好ましい態様について、本発明は、95位の残基がCysである配列番号8と少なくとも85%の同一性を有する第1の重鎖可変(VH)ドメインと、配列番号4と少なくとも85%の同一性を有する第1のVLドメインと、配列番号26または配列番号46と少なくとも85%の同一性を有する第2のVHドメインと、配列番号24または配列番号48と少なくとも85%の同一性を有する第2のVLドメインとを含むbsAb一本鎖ダイアボディ(scDb)に関し、この二重特異性Abは、hERG1 S5細孔細胞外部分およびβ1-インテグリンに対して特異性を有する。
【0041】
本発明によるbsAbまたは抗hERG1分子は、診断または治療のツールとして有用である。
【0042】
本発明による診断ツールは、インビトロhERG1検出(例えば、外科的サンプルまたは生検における)のためのものであり、標識されていないかまたはフルオロフォア、好ましくはフルオロフォアAlexa488に連結されている抗hERG1-Cys scFvおよび/または本発明による二重特異性Ab(好ましくはscDbとして)を含む。
【0043】
したがって、本発明の主題はまた、同時、別々、または連続使用のための部品のインビトロ診断(IVD)キットであり、このIVDキットは、
上記の抗hERG1-Cys scFvを含有する容器、および/または
上記の二重特異性Abを含有する容器
を含む。
【0044】
好ましくは、このIVDキットは、参照対照として、国際公開第2016020483号パンフレットに記載されるようなインタクトなモノクローナル抗体を含有する容器をさらに含む。
【0045】
上記IVDキットは、免疫組織化学技術(結果は2~3週間で入手可能)のための固定組織試料上、または免疫蛍光技術(結果は1日で入手可能)と共に使用される新しい生検組織(例えば、内視鏡検査または手術によって得られる)上のいずれかで使用され得る。
【0046】
上記の抗hERG1-Cys scFvは、フルオロフォア(例えば、および好ましくはAlex750)または放射性核種(例えば、および好ましくはTc
99)で標識されており、抗hERG1-Cys scFvによって表されるhERG1陽性癌のインビボ(ヒト)での早期診断に使用するための分子である。本発明による抗hERG1-Cys sc-FV抗体は、癌組織への迅速な浸透、hERG1バイオマーカーへの迅速な結合、および迅速な排出を可能にする特異的分子構造を有し、これにより、この抗hERG1-Cys sc-FV抗体は、放射性核種に連結される場合、hERG1陽性癌の早期のインビボ(ヒト)診断を得るための理想的な分子になる。1回の単回投与での使用、および8mg/kgで静脈内注射した場合に全身毒性がなく、ECGでの変化がない(
図19を参照のこと)この分子の速い半減期3.5時間は、心臓細胞との相互作用を有さないことを可能にする。最後に、抗hERG1-Cys scFvは、膵臓に異種移植膵臓癌を保有するマウスに1mg/kgで静脈内注射した場合、非常に良好な腫瘍/組織比を有することが判明した。
【0047】
治療ツール:治療目的のために癌hERG1/β1インテグリン分子複合体を阻害するように特に設計された、本発明による二重特異性抗体分子は、癌細胞上でβ1インテグリンと一緒に発現された場合に、心臓との相互作用なしに選択的にhERG1に結合することができる一本鎖二重特異性抗体(一本鎖ダイアボディ、scDb)である。本発明によるscDbは、化学療法、照射、標的療法、および免疫腫瘍学療法に加えられる、単剤ならびに併用療法剤の両方として、早期および進行/転移段階の両方で治療能力を有する、心臓安全性の懸念のない、hERG1陽性癌を有する患者における反復(慢性)投与のために使用される理想的な分子を表す。併用療法の理論的根拠は、hERG1/β1インテグリン分子複合体の過剰発現によって癌細胞において構成的に活性化される経路が、利用可能な薬物によって現在標的化されている経路と相補的かつ統合的であることである。さらに、hERG1/β1インテグリン癌経路は、現在利用可能な治療に関して腫瘍エスケープのメカニズムを表し得る。抗hERG1/β1インテグリンscDbは、約12時間の半減期を有し、8mg/kgで静脈内注射された場合、全身毒性を有さず、そしてECGで変化を有さないことが判明した(
図20を参照のこと)。最後に、抗hERG1/β1インテグリンscDbは、膵臓に異種移植膵臓癌を保有するマウスに週2回、1mg/Kgで6回注射した場合、非常に良好な治療効果を有することが判明した。
【0048】
本発明によるbsAbまたは分子を用いて診断または治療することができる病理は、hERG1タンパク質の過剰発現または誤発現によって特徴づけられる全ての病理である。この病理の中には、腫瘍、神経疾患、内分泌疾患および神経内分泌疾患を挙げることができる。
【0049】
本発明によるbsAbまたは分子、特に抗hERG1-Cys scFVまたはscDbはまた、医薬送達ベクターとして使用され得、したがって、例えば、それは、放射性核種、酵素、薬物または毒素に共有結合され得るか、または結合され得ない。
【0050】
したがって、本発明のさらなる主題はまた、本発明によるbsAbまたは分子と、少なくとも別の薬学的に許容される成分とを含む医薬組成物である。
【0051】
本発明のさらなる主題はまた、本発明による二重特異性Abまたは抗hERG1分子をコードするヌクレオチドの配列である。本発明による分子を得ることを可能にするコード配列との適切なグレードの相同性(例えば、少なくとも85%)が含まれることが意図される。
【0052】
本発明による分子は、好ましくは、それぞれVH(配列番号8)およびVL(配列番号4)をコードするヌクレオチド配列、配列番号7および配列番号2を使用することによって調製することができる。
【0053】
本発明によれば、本発明による抗hERG1-Cys scFvを調製するための方法であって、配列番号10を有する抗hERG1-Cys scFVをコードするヌクレオチド配列配列、配列番号9の使用を含む方法が特に好ましい。
【0054】
本発明によるscDb-hERG1-β1は、好ましくは、それぞれ抗hERG1-Cys VH(配列番号8)、抗hERG1-Cys VL(配列番号4)、抗β1-インテグリンVL(配列番号24または配列番号48)、および抗β1-インテグリンVH(配列番号26または配列番号46)をコードするヌクレオチド配列、配列番号7、配列番号2、配列番号23または配列番号47、および配列番号25または配列番号45を用いて調製される。好ましくは、上記ドメインは、以下の順序で組み立てられる:抗hERG1-Cys VH(配列番号8)、抗β1-インテグリンVL(配列番号24または配列番号48)、抗β1-インテグリンVH(配列番号26または配列番号46)および抗hERG1-Cys VL(配列番号4)。
【0055】
本発明によれば、本発明によるscDb-hERG1-β1を調製するための方法が特に好ましく、この方法は、配列番号30を有する抗hERG1-Cys scFVをコードする配列番号29のヌクレオチド配列の使用を含む。
【0056】
本発明による方法は、組換え技術を意味する。
【0057】
したがって、本発明の主題はまた、本発明による二重特異性Abまたは分子をコードするヌクレオチドの配列を含む、好ましくは配列番号7および配列番号2を含む発現ベクターまたはプラスミド、ならびに本発明による発現ベクターを含む遺伝子改変微生物または細胞である。上記の発現ベクターまたはプラスミドはまた、配列番号23または配列番号47および配列番号25または配列番号45を含み得る。
【0058】
本発明は、以下の実験の項に照らしてより良く理解され得る。
【実施例】
【0059】
実験項
1.scFv-hERG1突然変異誘発
国際公開第2016020483(A1)号パンフレットに記載されているscFv hERG1分子のアミノ酸配列は、VHドメインの95位にアミノ酸Pheを提示する。配列番号1のヌクレオチド配列は、VHドメインの283位におけるT(c283T)の存在を解明した。本発明によれば、VHドメインの283位のTの代わりにGの置換を導入し(c283T>G)、95位のPhe(TTT)をCys(TGT)で切り替えた。この突然変異は、フレームワーク3とCDR3との間の位置に1つのアミノ酸(Cys)の導入をもたらし、これは驚くべきことに、免疫グロブリン可変ドメインにおけるジスルフィド結合の形成の基礎をもたらした。Cysを元の構築物に導入し、突然変異誘発プロトコルを設定した(材料および方法を参照のこと)。4つの突然変異誘発scFv-hERG1コロニーから得られたcDNAを配列決定し、配列決定結果(
図1)は、c283T>Gの位置におけるTTTからTGTへの適切な突然変異を示し、PheからCysへの所望の突然変異を示した。
【0060】
2.発現およびタンパク質精製
いずれかのプラスミド、scFv-hERG1および突然変異誘発scFv-hERG1(したがってscFv-hERG1-Cysと命名)を、スフェロプラスティング技術を用いてGS115ピキア・パストリス宿主株に形質転換した。scFv-hERG1形質転換体中の6個のクローン(C7、C12、D9、E8、G3、G7)およびscFv-hERG1-Cysからの6個のクローン(B11、C3、D8、D9、G4、G10)を分析した。小スケール発現の結果を、scFv-hERG1については
図2のパネルAおよびパネルBに、scFv-hERG1-Cyについては
図2のパネルCおよびパネルDに示す。全てのクローンは、スロットブロットで示されるように、72時間の誘導後にタンパク質発現を明らかにした(上のパネル)。
【0061】
精製後、タンパク質の存在をウェスタンブロットによって評価した(パネルBおよびパネルD)。
【0062】
scFv-hERG1のG3(以下、scFv-hERG1-G3と命名)とscFv-hERG1-CysのD8(scFv-hERG1-D8-Cysと命名)という、上記2つの抗体についての2つの最良の発現クローンを選択した。
【0063】
より大スケールな発現分析を
図3に示す。タンパク質の存在をSDS-PAGEおよびクーマシーブリリアントブルー染色によって評価した。画分11、12、13(A、左パネル)はscFv-hERG1-G3に対応し、画分12、13、14(B、右パネル)はscFv-hERG1-D8Cysに対応する。両方の抗体の分子サイズ(約30KDa)に対応するバンドが見える。2つのタンパク質、scFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cysの収率を比較すると、有意差が見られた:scFv-hERG1-G3濃度は0.050μg/μlであり、scFv-hERG1-D8Cys濃度は0.444μg/μlである。
【0064】
【0065】
3.scFv-hERG1-G3とscFv-hERG1-D8Cysの抗原親和性の比較
図3(パネルB)に報告されるクロマトグラムは、ゲル濾過から得られた結果を示す。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行って、2つの抗体の結合能に影響を及ぼす可能性のある凝集体の存在を調べた。いくつかの凝集体は、scFv-hERG1-G3に言及するB(左パネル)で報告された分析から検出可能であり、代わりにscFv-hERG1-D8Cys(B、右パネル)は単量体形態で現れる。
【0066】
4.scFv-hERG1-D8Cys抗体安定性試験
scFv-hERG1-D8Cys抗体の安定性を、精製後の異なる時点(6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月)でのSDS-Pageクーマシーブリリアントブルー染色によってタンパク質を分析して直接評価した。
図3Cのデータは、全ての時点で1つの純粋な単一バンドのみが可視であることを示し、従って、このタンパク質は、分解の徴候を示さずにその安定性を維持することを示す。
【0067】
5.scFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cysの免疫反応性の評価
次に、固定細胞上でscFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cysを用いて免疫蛍光分析を行い、2つの抗体の免疫反応性を決定した。細胞モデルとして、hERG1 cDNAをトランスフェクトしたHEK293(HEK-hERG1)を、および対照として、hERG1タンパク質を発現しないHEK-MOCKを使用した。HEK-MOCK細胞は両方の抗体でシグナルを示さなかったか、または弱いシグナルを示したが、HEK293 hERG1はscFv-hERG1-G3で良好な標識を示し、scFv-hERG1-D8Cysでさらに良好であった(
図4、AおよびB)。ImageJ Softwareを用いて得られたデータ分析はパネルCに報告されているグラフに報告されている。scFv-hERG1-D8Cys染色から得られた値は、HEK-MOCK細胞で得られた対照の値と比較した場合、hERG1を過剰発現している細胞で有意に高い。
【0068】
蛍光分子Alexa488で直接標識した後の上記2つの抗体の免疫反応性も試験した。scFv-hERG1-G3-Alexa488およびscFv-hERG1-D8Cys-Alexa488抗体を固定細胞上でIFで試験したところ(
図4、AおよびB)、フルオロフォアとの結合後でさえも、天然のコンホメーションで抗原を認識する能力が維持されていることが示された。IF染色をImageJソフトウェアを用いて測定し、結果をパネルCに報告するグラフに報告する。HEK293 HERG1細胞で得られたシグナルは、scFv-hERG1-G3-Alexa488およびscFv-hERG1-D8Cys-Alexa488の両方について、対照HEK-MOCK細胞と比較してより強い。
【0069】
分子ツールとしてのscFv-hERG1-G3-Alexa488およびscFv-hERG1-D8Cys-Alexa488のインビボでの使用可能性を評価および比較するために、両方の抗体を生細胞でのIFで使用した(
図4Aおよび
図4B)。
【0070】
実験は、固定細胞上での染色で得られた結果を確認した。HEK293 hERG1細胞は、陰性対照HEK293 MOCK細胞と比較した場合、より強いシグナルを有するようである。HEK293 hERG1細胞は、より特異的な定斑点状細胞標識を有するようであり、一方、HEK-MOCK細胞は、非特異的な拡散したバックグラウンドを有する。このため、同一セクションの明視野画像が報告されている。
【0071】
6.scFv-hERG1-D8Cys抗体生存率阻害およびスフェロイド試験
この段階で、新生物細胞系のパネル上での細胞増殖を阻害するscFv-hERG1-D8Cysの潜在的能力をさらに探索した。
図5に報告されているように、HCT-116、MDA-MB231、Mia Paca-2、HEK293 HERG1、PANC-1およびBxPc3について、細胞増殖の有意な用量依存的阻害が観察された。細胞を、抗hERG1モノクローナル抗体(100μg/ml)およびscFv-hERG1-D8Cys(10;20μg/ml)を用いて処理した。予想どおり、hERG1を発現しないHEK-MOCK細胞においては、細胞生存能力の有意な低下は見られなかった。
【0072】
3D細胞モデルに対するscFv-hERG1-D8Cysの効果を調べるために、本発明者らは、スフェロイドに対するscFv-hERG1-D8Cysの3つの異なる濃度(10μg/ml;20μg/ml;40μg/ml)を試験した。
【0073】
図6は、スフェロイドの体積(mm
3)をY軸上に報告するグラフを示し、一方、X軸上には、様々な時点(24時間、48時間および72時間)を報告する。
【0074】
図6では、パネルAは、HEK293-hERG1から生成されたスフェロイドについて得られたグラフを報告する。20μg/mlおよび40μg/mlのscFv-hERG1-D8Cysで処理したスフェロイドの体積は、各時点で対照と比較して小さい。代わりに、パネルBはHEK-MOCKスフェロイドの成長曲線を示し、そこでは対照と比較して、試験した3つの濃度のscFv-hERG1-D8Cysのすべてにおいて処理されたスフェロイドに差異が見られなかった。パネルAおよびBはまた、72時間の培養後に出現した対照HEK293-hERG1およびHEK-MOCKスフェロイドの代表的な明視野画像をそれぞれ示す。
【0075】
パネルCは、膵管腺癌Mia Paca2細胞に対して得られた効果を示す。20μg/mlおよび40μg/mlのscFv-hERG1-D8Cysで処理した細胞の両方について、スフェロイドの体積の減少が観察され、各時点で、対照と比較して試験した最高濃度でより顕著な効果が得られた。図の右側に報告される72時間で撮影された画像は、4倍の倍率で撮影されたMia Paca2の対照スフェロイドの画像を示し、一方、右側の画像は、10倍の倍率で撮影された40μg/mlのscFv-hERG1-D8Cysで処理されたMia Paca2スフェロイドの画像を示す。実際、体積が拡大されすぎて適切な焦点合わせができなかったため、72時間後に10倍の倍率で対照Mia Paca2スフェロイドの画像を取得することは不可能であった。一方、scFv-hERG1-D8Cysで処理した72時間後のMia Paca2スフェロイドは、対照と比較して、それらの体積が大きく減少したため、10倍の倍率を用いて可視化することができる。
【0076】
パネルDは、MDA-MB231スフェロイドを示す。対照と比較して、試験したscFv-hERG1-D8Cysの3つの濃度(10μg/ml、20μg/ml、40μg/ml)すべてについて、体積減少の顕著な効果が観察される。体積減少は、図の右側に報告されたMDA-MB231スフェロイドの画像からも推測することができる。
【0077】
図7は、72時間後にスフェロイドに対して行われたカルセインAM細胞生存率アッセイから得られた結果を示す。緑色染色は生細胞を表し、赤色染色は死細胞を表す。左側の画像(パネルA)は、各細胞株についての対照の画像であり、一方、右側の画像(パネルB)は、40μg/mlのscFv-hERG1-D8Cysで処理されたスフェロイドの画像である。画像から、抗体で処理されたスフェロイド、特にMia Paca2、MDA MB-231およびPANC-1スフェロイドについての体積減少、さらに、特にscFv-hERG1-D8Cysで処理されたMDA MB-231およびPANC-1スフェロイドについての死細胞数の増加に注目することが可能である。
【0078】
7.scDb-hERG1-β1
β1-インテグリンに対する一本鎖抗体(scFv-TS2/16)およびscFv-hERG1-CysまたはscFv-hERG1(上記)を含む二重特異性抗体(bsAb)が開発された。
【0079】
TS2/16のVLドメインをコードするヌクレオチド配列は配列番号23であり、TS2/16のVHドメインをコードするヌクレオチド配列は配列番号25であり(
図8参照)、TS2/16のVLアミノ酸配列は配列番号24であり、TS2/16のVHアミノ酸配列は配列番号26である。
【0080】
二重特異性抗体フォーマットは、
図9に示すように、ペプチドリンカーによって連結された2つの抗体の可変ドメイン(VHおよびVL)を含む一本鎖ダイアボディ(scDb)である。図の上のパネルは、2つの一本鎖抗体、抗hERG1 scFvおよび抗β1-インテグリンTS2/16、scFv抗体を報告する。
【0081】
下のパネルは、以下の順序で2つの抗体の可変ドメインを使用して組み立てられた二重特異性抗体抗hERG1-β1-インテグリンの最終構造を図式化する:VH scFv-hERG1抗体(配列番号8または配列番号2)、VL scFv-TS2/16抗体(配列番号24)、VH scFv-TS2/16抗体(配列番号26)、VL scFv-hERG1抗体(配列番号4)。
【0082】
VL scFv-TS2/16抗体(配列番号24)およびVH scFv-TS2/16抗体(配列番号26)は、ペプチドリンカーによって連結される。
【0083】
VH scFv-hERG1抗体(配列番号2または配列番号8)およびVL scFv-TS2/16抗体(配列番号24)は、ペプチドリンカーによって連結される。
【0084】
VH scFv-TS2/16抗体(配列番号26)およびVL scFv-hERG1抗体(配列番号4)は、ペプチドリンカーによって連結される。
【0085】
5’および3’末端にFspIおよびAvrII制限部位を挿入した(下記で下線を引いて報告)。
【0086】
VLFspI:
AAAATGCGCAGACTACAAAGATATTGTGATGACACAGAC(配列番号27)
VHAvrII:
GGGGCCTAGGATAGACAGATGGGGGTGTCGCGACACCCCCATCTGTCTAT(配列番号28)。
【0087】
以下の配列(配列番号29)は、scDb-hERG1-β1(配列番号30)をコードする完全なヌクレオチド配列である。scFv-hERG1-Cys VH配列は灰色で強調して報告され、scFv-TS2/16のVL配列は下線の斜体で報告され、A、M、Bリンカー配列は太字で報告され、scFv-TS2/16抗体のVH配列は下線の太字の斜体で報告され、scFv-hERG1-CysのVL配列は下線付きで灰色で強調されて報告される。
【0088】
Mycタグは斜体の太字で、Hisタグは下線の太字で報告される。制限部位を下線で報告する。
【0089】
【0090】
上記の制限部位を用いて、配列を市販のベクターpPIC9K(Life Technologies)にクローニングした。
【0091】
8.scDb-hERG1-Phe-β1:発現と特徴づけ
抗hERG1-Phe-β1-scDb抗体を発現する構築物を、ピキア・パストリス酵母細胞における発現に適したベクターであるpPIC9K発現ベクターにクローニングした。
【0092】
GS115ピキア・パストリス株を、スフェロプラスティングプロトコルに従って形質転換し、そして96のクローンを、選択のためにG418を含むYPD寒天プレート上でスクリーニングした。次いで、6つのクローンを小スケールで誘導し、pPIC9Kベクターで導入したヒスチジンタグを利用して、Sepharose Niビーズ(GE Healthcare)を用いて精製した。クーマシー染色を
図11のパネルAに報告し、それは、クローンG5に対応する、抗hERG1-Phe-β1-scDb抗体について予想されるものと一致する分子量(約60KDa)を有する、矢印によって強調された1つのバンドを示す。
【0093】
次いで、G5抗hERG1-Phe-β1-scDbクローンの大スケール発現を開始し、より大きな培養体積に誘導プロトコルを適合させた。
【0094】
1Lのピキア・パストリス細胞培養物から得られた上清を、AKTA Pure(GE Healthcare)を用いて精製した。結果を
図11に報告し、この図には、抗体精製から得られたクロマトグラム(パネルB)、および青色領域の基礎となる溶出物を分析したクーマシー染色(パネルC)の両方が示されている。予想されたものと一致して、精製された抗hERG1-Phe-β1-scDbに対応する単一のバンドが、各溶出物について検出された。
【0095】
抗HERG1-β1-scDb分画8、9、10、11、12、13、14、15、16、18、20をまとめ、PBS 1Xに対して透析した。このようにして、抗体の詳細な特徴づけを開始した。
【0096】
重要なステップの1つは、抗hERG1-Phe-β1-scDb抗体を試験するための適切なモデルの選択であった。以下の表は、特徴づけ実験のために選択された、細胞株のhERG1およびβ1インテグリンに関連する発現プロファイルを要約する。
【0097】
【0098】
最初に、hERG1およびβ1抗原の両方を発現するHEK293 hERG1細胞上でbsAbを分析した。細胞ELISAを実施し、結果を
図12に報告するが、細胞ELISAは、予想通り、hERG1およびβ1抗原の両方を発現する細胞について、より高いOD
450で、天然抗原との結合について特定の用量依存的比例性を示した。
【0099】
さらに、抗hERG1-β1-scDb二重特異性抗体は、細胞によって内因的に発現される抗原についてのように、天然条件において抗原に結合する能力を示した。抗hERG1-Phe-β1-scDb二重特異性抗体の結合特異性はまた、同量(0.5μg)の抗hERG1-Phe-β1-scDbと、上記二重特異性抗体を形成する2つの一本鎖抗体の1つである抗scFv-hERG1-Pheとの間の比較によって確証される。実際、抗hERG1-Phe-β1-scDbとインキュベートした後に得られるシグナルは、抗scFv-hERG1-Pheを用いて得られるシグナルよりも高い。このような結果は、抗hERG1-Phe-β1-scDbで得られるシグナルは、両方の抗原、hERG1およびβ1への結合から生じるが、scFv-hERG1を用いて得られるシグナルは、hERG1抗原のみへの結合から生じるので、予想されたものと一致する。
【0100】
また、BSA基質(
図13、パネルAおよびB)およびフィブロネクチン(FN)基質(
図13、パネルCおよびD)上で増殖させた細胞に対する、IFによる抗hERG1-Phe-β1-scDb抗体の免疫反応性を評価した。実際、β1複合体形成は、FN依存的なインテグリン活性化によって増強されることが示されている。
図13から分かるように、パネルCおよびDは、厳密な複合体形成のために、フィブロネクチン上に播種された細胞HEK293-hERG1において強力な膜シグナルを示す。シグナルをImageJソフトウェアを用いて分析し、結果をグラフに報告する。
【0101】
これまでの実験から得られた証拠をさらに確認するために、抗体インキュベーションの前に、scFv-hERG1抗体が向けられるペプチドである過剰のペプチドS5POROを投与して、HEK293-hERG1細胞に対する抗hERG1-Phe-β1-scDbの結合を評価した。
図14、パネルAおよびBから推測され得るように、抗hERG1-Phe-β1-scDbと共にインキュベートされたHEK293-hERG1細胞上のシグナルが、hERG1およびβ1インテグリンの両方への結合に起因して、確認される。パネルCは陰性対照を示し、パネルDおよびEは、S5POROペプチドとのインキュベーション後に得られた結果を示す。シグナルの減少があることが明らかに目に見え、これは予想されるものと一致する。実際、両方の抗原に対して陽性であるHEK293-hERG1細胞は、上記ペプチドとのインキュベーション後、おそらくhERG1抗原結合部位の飽和に起因して、染色強度の減少を示す。したがって、可視のシグナルは、β1抗原への結合のみに由来するものである。このような結果は、ImageJ蛍光強度定量から得られたグラフに要約されている。
【0102】
9.scDb-hERG1-Cys-β1:発現と特徴づけ
ピキア・パストリス酵母細胞における発現に適したベクターであるpPIC9K発現ベクターにクローニングされたscDb-hERG1-Cys-β1抗体を発現する構築物を、GS115酵母細胞に形質転換した。
【0103】
scDb-hERG1-Cys-β1形質転換に由来するクローンを、scDb-hERG1-Phe-β1抗体について以前に記載されたプロトコルに従ってスクリーニングした。
【0104】
1Lのピキア・パストリス細胞培養物から得られた上清を、AKTA Pure(GE Healthcare)を用いて精製した。結果を
図15に報告し、抗体精製から得られたクロマトグラム(パネルA)およびクーマシー染色(パネルB)の両方を示す。青色領域の基礎となる溶出物を分析し、予想通りに、精製scDb-hERG1-Cys-β1に対応する約60KDaの分子量を有する単一バンドを各溶出物について検出した。
【0105】
タンパク質精製が成功した後、抗体をAlexa488との直接結合後に直接免疫蛍光(IF)で試験した。結果を、GD25WT、HEK293およびHEK293-hERG1細胞について
図16に報告する。画像は、GD25WT細胞、パネルA(hERG1およびβ1インテグリンの発現の両方について陰性)が、scDb-hERG1-Cys-β1抗体とのインキュベーション後に有意な染色を示さないことを示し、一方、パネルBは、対照として使用されるBSA上に播種された細胞(~10A.U.)と比較して、より高い蛍光シグナル値(~17A.U.)で、hERG1-β1複合体形成を増強する作用を有するフィブロネクチン(FN)上に播種されたHEK293-hERG1細胞(両方の抗原を発現する)についての明確な膜染色を示す。パネルCは、HEK293WT細胞(β1インテグリンのみを発現する)上で得られた蛍光染色を示し、BSA上に播種された細胞(~7A.U.)と比較して、FN上に播種された細胞(~12A.U.)についてより高い蛍光シグナル値を示す。IC
50は、
図17のパネルAおよびBに示されるように、両方の細胞株について決定された。細胞生存率に対する効果は、PANC-1細胞については24μg/mlで、MDA-MB231細胞については42μg/mlで明らかであった。そのような発見は、MDA-MB231細胞と比較してPANC-1細胞で圧倒的に発現されるhERG1発現のパターンと整合的である。
【0106】
このように、側方運動性アッセイによる癌細胞遊走挙動に対するscDb-hERG1-Cys-β1の効果を試験した。実験は、MDA-MB231細胞、MDA-MB231-hERG1細胞、PANC-1細胞およびHCT116細胞について行った。結果を
図18のグラフに報告する。対照と比較して、処理細胞における運動指数(MI)の明らかな減少がある。このような効果は、MDA-MB231細胞と比較して、MDA MB231-hERG1に対してより顕著であり、細胞遊走に対する抗体のhERG1依存的効果を示唆する。
【0107】
PANC-1細胞およびHCT116細胞についても有望な結果が得られており、対照と比較して処理細胞における運動性挙動が減少している。
【0108】
材料および方法
10.hERG1抗体の重鎖および軽鎖のクローニング。
hERG1に対するモノクローナル抗体(hERG1-mAb)の重鎖および軽鎖を、hERG1-mAbを分泌するハイブリドーマから精製したmRNAから得たcDNAから単離した。VH領域およびVL領域の増幅のために、各鎖の可変ドメインのフレームワーク1(FR1)にアニールする5’プライマー(順方向プライマー)および各鎖の可変ドメイン付近の定常領域にアニールするプライマー(逆方向プライマー)を選択した。VLについては、カッパ軽鎖にアニールする縮重プライマーが設計されたが、それは、これがマウスにおいてより発現される免疫グロブリン表現型であるからである(HonjoおよびAlt、1995)。抗体の重鎖(VH)を、以下のプライマーのセット:degVH順方向、5’GAGGTCCARCTGCAACARTC 3’(配列番号11)およびIgG2逆方向、5’AGGGGCCAGTGGATAGACTGATGG 3’(配列番号12)(Wang、2000)を使用するPCRによって増幅した。以下のプライマーのセットを用いて、抗体の軽鎖(VL)をPCR増幅した:degVL(K)、5’ GAYATTGTGMTSACMCARWCTMCA 3’(配列番号13)およびK逆方向、5’GGATACAGTTGGTGCAGCATC 3’(配列番号14)(Wang、2000)。cDNAを、Phusion(登録商標)High-Fidelity DNA Polymerase(Finnzymes Reagents)を使用して増幅した。サイクル条件は、94℃で2分間の初期融解、続いて3工程プログラム(94℃、30秒;56℃(VH);48℃(VL)、1分間;および72℃、1分間)の25サイクルであった。次いで、反応物を72℃で10分間保持し、4℃に冷却した。
【0109】
アガロースゲル電気泳動から単離された抗体フラグメント(VHおよびVL)を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を使用して精製し、次いで、製造業者の説明書に従ってpCR(商標)-Bluntベクター(Invitrogen)に挿入した。組換えプラスミドを、自動化DNA配列決定サービス(PRIMM)を通して配列決定した。
【0110】
次いで、VHおよびVLフラグメントを、2つの異なるクローニング部位の間にリンカー配列(Gly4Ser)3を含むpHENIX発現ベクターにクローニングした。抗体断片をpHenIXベクターにクローニングするための適切な制限部位を有するプライマーを設計した。VLプライマー:順方向VL-ApaLI、5’acgcgtgcactgGATATTGTGCTGACACAATCTCCA 3’(配列番号15);逆方向VL-NotI、5’ataagaatgcggccgcGGATACAGTTGGTGCAGCATC 3’(配列番号16)。VHプライマー:順方向VH-Salk、5’acgcgtcgacGAGGTCCAACTGCAACAGTC 3’(配列番号17);逆方向VH-XhoI、5’ccgctcgagccAGGGGCCAGTGGATAGACTGATGG 3’(配列番号18)。PCR産物を、ApaLIおよびNotI(VHのための)またはSalIおよびXhoI(VLのための)制限酵素(New England BioLabs)で消化し、適合性クローニング部位においてpHENIXベクターに連結した。消化は37℃で2時間行った。適合性末端の再連結を避けるために、仔牛小腸由来ホスファターゼ(CIP)を使用して、以下のプロトコル:pHENIXベクター(50ng/μl)、Buffer 3(New England BioLabs)1XおよびCIP(0.5u/μgのベクター)に従って、ベクターの5’末端から5’リン酸基を除去した。脱リン酸化反応を37℃で1時間インキュベートした。リン酸化ベクターをQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)で精製した。
【0111】
scFv-hERG1フラグメントとpHENIXとの間の連結を、Buffer 2(New England BioLabs)とT4リガーゼとの混合物中で行った。1:3および1:10のベクター:scFv比をライゲーション混合物中に設定し、インキュベーションを25℃で15分間行った。
【0112】
2μlの連結混合物を大腸菌TOP10F’およびHB2151細胞にエレクトロポレーションした(2500mVパルス)。エレクトロポレーションした細胞を、450μLのSOC培地(1mM MgSO4、1mM MgCl2を補充したSOB培地)で回収し、振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。細菌を、抗生物質を含有する予備加温LB-寒天プレートに播種し、蓋側を下にして37℃で一晩インキュベートした。
【0113】
11.pPIC9K発現ベクターにおけるscFv-hERG1-G3のクローニング
scFv-hERG1発現カセットを、6xHisタグを含む形質転換されたpPIC9Kベクター(親切にも、Prof.Ermanno Gherardi、University of Paviaから贈られたもの)にクローニングした。scFv構築物を、配列の3’および5’末端でそれぞれFspIおよびAvrII制限部位の付加を可能にするプライマー(順方向VH-FspI、AAAATGCGCAGAGGTCCAACTGCAACAGTC(配列番号19);逆方向VL-AvrII、GGGGCCTAGGGGATACAGTTGGTGCAGCATC(配列番号20))を用いるPCRによってpHENIXベクターから単離および増幅した。
【0114】
ベクターpPIC9は、AOX1プロモーター、3’AOX1転写ターミネーター(TT)、および外来遺伝子が挿入されるマルチクローニングサイトから構成される。
【0115】
発現カセットをFspIおよびAvrIIで切断し、Eco53KIおよびAvrII制限酵素(New England BioLabs)で切断したpPIC9Kにクローニングした。
【0116】
12.scFv-hERG1突然変異誘発
QuikChange(登録商標)XL Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene、Agilent Technologies)を使用して、pPIC9KにクローニングされたscFv-hERG1発現カセット上で突然変異誘発を行った。Cysアミノ酸の導入に適したプライマーは、製造業者の説明書に従って設計され、Primm Biotech、レフトプライマー:GGATTCTGCAGTCTATTACTGTGCAACAGGTTGGGGACCTG(配列番号21);ライトプライマー:CAGGTCCCCAACCTGTTGCACAGTAATAGACTGCAGAATCC(配列番号22)によって設計された。
【0117】
試料反応液は以下のように調製した:5μlの10X反応緩衝液;1μlのscFv-hERG1 dsDNAテンプレート(13ng/μl);1.84μl(125ng)レフトプライマー;1.84μl(125ng)ライトプライマー;1μlのdNTP混合物;3μlのQuickSolution;36.32μlのddH2O。次いで1μlのPfuTurbo DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)を添加した。サイクル条件を調整した:初期融解を95℃で1分間行い、続いて3工程プログラム(95℃、50秒;60℃、50秒および68℃、4分)を18サイクル行った。次いで、反応物を68℃で7分間保持し、4℃に冷却した。
【0118】
増幅反応後、1μlのDnpI制限酵素(10U/μl)を反応混合物に直接添加し、これを、直後から37℃で1時間インキュベートして親を消化した。
【0119】
この時点で、細菌DH5α超コンピテント細胞はヒートショックを通して形質転換された。細胞を氷上で穏やかに解凍し、2μlのDpI処理DNAを、200μlの超コンピテント細胞の別個のアリコートに移した。反応物を氷上で30分間インキュベートした。次いで、チューブを乾燥浴中42℃で45秒間加熱パルスした。チューブを氷上で2分間インキュベートした。細胞を450μlのSOC培地(1mM MgSO4、1mM MgCl2を補充したSOB培地)で回収し、振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。細菌を、アンピシリン抗生物質(50μg/ml)を含有する予備加温LB-寒天プレートに播種し、蓋側を下にして37℃で一晩インキュベートした。
【0120】
翌日、いくつかのコロニーを増殖させ、それらのいくつかを採取し、DNAを抽出し、配列決定して、所望の突然変異の存在を確認した。得られた構築物をscFv-hERG1-Cysと標識した。
【0121】
13.ピキア・パストリスにおけるscFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cysの発現
直鎖化したscFv-hERG1およびscFv-hERG1-Cysの両方をSalIで消化し、スフェロプラスティングによってピキア・パストリス株GS115に形質転換し、Mut+形質転換体を作製した。形質転換については、Pichia Expression Kit(Invitrogen)の指示を参照した。
【0122】
形質転換から5日後、単一のコロニーが肉眼で見え、92個のクローニングおよび4個の陰性対照を採取し、異なる濃度のG418:G418なし、5mg/ml、15mg/mlの3つの異なる96ウェルプレートに移した。pPIC9KがピキアにおいてGeneticin(登録商標)に対する耐性を付与する細菌カナマイシン遺伝子を含有するという特徴を利用して、G418選択を行った。Geneticin(登録商標)耐性のレベルは、組み込まれたカナマイシン遺伝子の数にほぼ依存する。ピキアゲノムに組み込まれたpPIC9Kの単一コピーは、Geneticin(登録商標)に対する耐性を約0.25mg/mlのレベルに付与する。pPIC9Kの複数の組み込まれたコピーは、Geneticin(登録商標)耐性レベルを0.5mg/ml(1~2コピー)から4mg/ml(7~12コピー)まで増加させることができる。カナマイシン遺伝子と発現カセット(両方ともPOAX1プロモーター下)との間の遺伝的連鎖のために、Geneticin(登録商標)耐性クローンが、目的の遺伝子の複数のコピーを含むと推測することができる。この同じ理由のために、分泌タンパク質発現は、遺伝子投薬効果のために増加し得る。したがって、pPIC9Kの存在をツールとして用いて、目的の遺伝子scFv-hERG1およびscFv-hERG1-Cysの複数のコピーを有するpPIC9K形質転換体を明らかにした。
【0123】
30℃で2日間増殖させた後、15mg/ml G418プレートから6つの最良に増殖したクローンを採取し、Pichia Expression Kitプロトコル(Invitrogen)に従って、小スケール液体培養物を設定して、目的のタンパク質を発現する能力について評価した。
【0124】
各クローンの培養物からの試料を、異なる時点:24時間、48時間、72時間で収集した。0.5%最終濃度の100%メタノールで3日間誘導した後、上清を収集し、スロットブロットを通して試験した。
【0125】
14.スロットブロット分析
酵母上清を収集し、そしてスロットブロットを通してタンパク質発現について試験した。200μlの各上清を、3MMワットマン(Whatman)紙の2つの正方形の間のスロットブロットデバイス中で組み立てられたPVDF膜(Amersham)に適用した。試料を15分間インキュベートした後、真空度を適用して試料を乾燥させた。膜を回収し、T-PBSで洗浄した。ブロッキングを、T-PBS 5%BSAを用いて45分間行い、次いで、T-PBSで10分間洗浄した。膜を、15mlのT-PBS 5%BSA中で1:2000に希釈した抗6xHis-HRP結合抗体(Sigma)と共に1時間インキュベートした。
【0126】
15.Niセファロース精製
酵母形質転換後のクローンのスクリーニングから得られた上清を、製造業者の説明書に従って、Ni Sepharose 6 Fast Flow(Ge Healthcare)を用いてローリング中で一晩インキュベートした。その後、500μlの洗浄緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH7.3)を用いて2回の洗浄工程を行い、250μlの溶出緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、500mMイミダゾール、pH7.3)を用いて溶出を行った。
【0127】
16.AKTA精製
それぞれscFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cysの1リットル酵母上清の精製を、HisTrap HP 1mLカラムを備えたAKTA Protein Purification System(Ge Healthcare Life Sciences)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって行った。洗浄工程および平衡化は、製造業者の説明書に従って、洗浄緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、pH7.3)を使用して実施した。溶出は、溶出緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、500mM NaCl、500mMイミダゾール、pH7.3)の直線勾配を使用して実施した。分析は、UNICORN 7.0ソフトウェアを用いて行った。
【0128】
17.ゲル濾過
両方の抗体の精製から得られた試料を、Superdex 75 HR 10/30(Ge Healthcare Life Sciences)を用いてゲル濾過した。洗浄緩衝液組成物(20mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、pH7.3)を、プロトコル条件を最適化するように調整した。溶出物はSDS-Pageを通して分析した。
【0129】
18.ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
それぞれの試料を同量の15μlでスタッキングゲル(400μlのアクリルアミド(40%)-ビスアクリルアミド(0.8%)、1mlの0.5M Tris-HCl、pH6.8、40μlの10%SDS、20μlの10%過硫酸アンモニウム、4μlのTEMED、2.54mlのH2O)に適用した。スタッキングゲルを分割ゲル(2.6mlのアクリルアミド(40%)-ビスアクリルアミド(0.8%)、1.75mlの1.5M Tris-HCl、pH8.8、70μlの10%SDS、35μlの10%過硫酸アンモニウム、3.5μlのTEMED、2.55mlのH2O)に添加した。150 Vで電気泳動を行った。ゲルをクーマシーブリリアントブルーで染色するか、またはタンパク質(約30KDa)の存在を評価するためにウェスタンブロット分析のためにPVDF膜に移した。
【0130】
19.ウェスタンブロット法
SDS-PAGE後、ゲルを、移送緩衝液(14.4g、3.03gのTris HCl、200mlのメタノール、800mlのH2O)中、100Vで1時間、PVDF膜(Amersham)に移した。膜をT-PBS(PBS 0.1%Tween)中で洗浄し、次いでT-PBS 5%BSAで一晩ブロックした。膜を、T-PBS 5%BSA中に希釈したペルオキシダーゼ結合一次抗体(Sigma)に室温で1時間暴露した。膜を10分間3回洗浄した後、ECL試薬(Amersham)を用いてシグナルを可視化した。
【0131】
WBは、以下の抗体:抗myc(1:1000)および抗6xHis-HRP結合抗体(Sigma)を用いて行った。
【0132】
20.scFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cys定量、ELISAアッセイおよびBiacore分析
scFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cysを一緒に収集し、Slide-A-Lyzer(商標)Dialysis Cassettes(Thermo Fisher)を用いてPBS 1Xに対して透析した。280nmでのタンパク質吸光度を測定し、Lambert-Beerの式を適用した。
【0133】
2つの操作された抗体、scFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cysが、抗原に結合する能力を依然として有するかどうかを評価するために、そしてその後、2つの抗体の異なる親和性を調べるために、S5細孔ペプチド(配列:EQPHMDSRIGWLHN)でコーティングされたプレートを用いてELISAアッセイを実施し、それに向けて抗体を方向付けた。このペプチドは、本発明者らが抗hERG1 A7抗体をスクリーニングするために使用したものと同じである。
【0134】
21.Alexa488による抗体標識
scFv-hERG1-G3およびscFv-hERG1-D8Cysを、プロトコル指示に従って、Alexa Fluor(登録商標)488 Microscale Protein Labeling Kit(Thermo Fisher Scientific)と結合させた。
【0135】
22.固定細胞の免疫蛍光
HEK293 hERG1(pcDNA3.1-hERG1 cDNA構築物で安定にトランスフェクトされたHEK293)およびHEK-MOCK(pcDNA3.1 cDNAで安定にトランスフェクトされたHEK293)を、5%CO2の37℃インキュベーター中で10%FBS EU血清を含むDMEM培地中で成長させた。細胞をガラスカバースリップ上に一晩播種し、次いでPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで20分間室温で固定した。ブロッキングは、10%BSAを用いて室温で2時間行った。抗体インキュベーションは、scFv-hERG1-G3、scFv-hERG1-D8Cysを用いて行い、ブロッキング溶液中で1:20に希釈し、2時間半インキュベートし、続いてブロッキング溶液中で抗His(1:250;Abcam)と一晩インキュベーションを行った。翌日、細胞をPBSで3回洗浄し、抗マウスAlexa488抗体(Invitrogen)と共に1時間インキュベートした。
【0136】
一方、ブロッキング溶液で1:20に希釈したscFv-hERG1-G3-Alexa488およびscFv-hERG1-D8Cys-Alexa488を、4℃で一晩インキュベートした。
【0137】
顕色のために、細胞をHoechst(1:1000)と共に30分間インキュベートし、次いで没食子酸プロピルでマウントした。細胞を共焦点顕微鏡(Nikon、C1)で可視化した。
【0138】
ImageJソフトウェアを用いて免疫蛍光定量を行った。各画像について、3つの異なる領域の測定を行い、平均を計算した。
【0139】
23.生細胞の免疫蛍光
細胞を単離し、インキュベーションに必要な試薬の容量を最小限にするために、アガロース(15g/L)リングを使用して、60mmプレート(Sarstedt)上で細胞を一晩成長させた。細胞を、5%CO2を含む37℃インキュベーター中の完全培養培地中で1:20に希釈したscFv-hERG1-G3-Alexa488およびscFv-hERG1-D8Cys-Alexa488と共に4時間インキュベートした。上に記載したように、Hoechstを用いて顕色を行った。細胞を倒立光学顕微鏡(Nikon、Eclipse TE300)で可視化した。
【0140】
24.細胞生存率
トリパンブルーアッセイを実施し、細胞生存率を評価した。簡潔には、HCT-116細胞、MDA-MB231細胞、MIA PACA2細胞、HEK293 hERG1細胞、HEK-MOCK細胞、FLG29.1細胞、PANC-1、BXPC3細胞を5×103細胞/ウェルの密度で、96ウェルプレートに播種した。24時間後、培地を、異なる濃度のscFv-hERG1-D8Cys抗体(10μg/mlおよび20μg/ml)を含有する100μlの新鮮な培地と交換した。完全免疫グロブリン、抗hERG1モノクローナル抗体を100μg/mlの濃度で試験した。細胞を、37℃および5%CO2の加湿インキュベーター中で24時間培養した。処理後、細胞を分離し、生存細胞を計数した。実験は3回実施した。
【0141】
25.スフェロイド3D培養およびスフェロイドに対するscFv-hERG1試験
HEK-293 hERG1、HEK-MOCK、MDA-MB231、MIA PACA2およびPANC-1を、1.5%アガロースベース層上の各ウェルについて103細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。新しい培地100μLを各ウェルに添加し、細胞を5%CO2の37℃のインキュベーター中で72時間増殖させた。72時間後、スフェロイドを可視化し、培地を、異なる濃度のscFv-hERG1-D8Cys抗体(10μg/mlおよび20μg/mlおよび40μg/ml)を含有する新しい培地100μlで置き換えた。
【0142】
写真を、Nikon、Eclipse TE300を用いて、カルセインAM細胞生存率アッセイを行った72時間まで24時間毎に撮った。
【0143】
MATLAB Softwareを用いて、24時間、48時間、72時間に撮影した写真を分析して、スフェロイドの体積を評価した。
【0144】
実験は3回行った。
【0145】
26.β1インテグリンmAb:RNA逆転写
oligo(dT)プライマー(Invitrogen)およびSuperScript(登録商標)II Reverse Transcriptase(Invitrogen)を製造業者の指示に従って使用して、40μlの総容量で、TS2/16およびBV7 RNAをcDNAに逆転写した。
【0146】
【0147】
混合物をサーモサイクラー中で65℃で5分間インキュベートし、次いで氷上で迅速に冷却し、以下の成分を添加した。
【0148】
【0149】
次いで、混合物を42℃で2分間加熱し、次いで酵素を添加した。
【0150】
【0151】
次いで、混合物(40μl)を42℃で50分間インキュベートし、次いで反応物を70℃で15分間不活化した。
【0152】
27.β1インテグリンmAb:ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による可変ドメインの単離
抗体可変ドメイン(VLおよびVH)を単離するために、Wangら(2000)に報告されたプライマーを用いて、変形例を用いてPCRを行った(表2)。
【0153】
【0154】
軽鎖には2つのクラス、κおよびλ、があるが、マウス抗体の95%がκ軽鎖を有するので(HonjoおよびAlt,1995)、λ型を無視してκ軽鎖に特異的なプライマーを選択した。順方向プライマーは、各鎖可変領域のフレームワーク1(FRW1)のタンパク質配列アラインメントを用いて設計した。各鎖(κ軽鎖またはIgG1重鎖)の可変ドメインの末端に隣接する定常領域(CH1)に対して逆方向プライマーを設計した。κ軽鎖については1つのプライマー対のみを使用し、一方、重鎖については、5つのフォワードプライマーと組み合わせてIgG1revによって構成される5つのプライマー対を使用した。
【0155】
TS2/16およびBV7の両方のVH単離のために、IgG1rev-degH4dirプライマー対を選択した。
【0156】
DNAポリメラーゼによる突然変異を防止するために、プルーフリーディング活性を有する高忠実度DNAポリメラーゼを使用した:KOD Hot Start DNA Polymerase(Novagen)を、以下のプロトコルを使用して使用した。
【0157】
【0158】
混合物を、以下のプロトコルでサーモサイクラー中でインキュベートした。
【0159】
【0160】
ステップ2~4を30回繰り返した。
【0161】
28.β1インテグリンmAb:制限酵素を使用しない可変ドメインのクローニング
VHおよびVL可変ドメインを配列決定するために、DNA配列決定に適したベクター中に制限酵素を使用せずにクローニングした。メーカーの説明書に従い、TA-Cloning KitまたはZero-Blunt Cloning Kit(invitrogen)を使用した。
【0162】
DNA電気泳動およびアガロースゲルからの精製
DNA電気泳動は、電場を使用して、アガロースゲルマトリックスを通して、負に荷電したDNAを正電極に向かって移動させる。PCR産物および制限酵素消化DNAを、異なるサイズのフラグメントを分離するために、2log DNAラダー(NEB)と一緒に、臭化エチジウムで染色したアガロースゲル(TAE(Tris、酢酸、EDTA)緩衝液中1.5%アガロース)上で泳動した。電気泳動は100Vで行った。従って、目的のバンドを、清潔なメスを用いてゲルから切り出し、そしてQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を使用して、製造者の説明書に従って精製した。精製したDNAを30μlのPCR等級のH2Oで溶出した。
【0163】
オーバーラップエクステンションPCR(Overlap Extension PCR:SOE-PCR)によるスプライシング
ScFv構築物は、(Wangら、2000)に記載されたプライマーを変更して用いて、オーバーラップエクステンションPCR(SOE-PCR)により、VL-リンカー-VHという順序でスプライシングによって組立てられた(表3)。可変ドメインを連結するポリペプチドリンカーを、4つのGGGGS反復として設計した。
【0164】
【0165】
プロトコルは、
図10に示す2つのステップからなる。最初のステップでは、VLの3’末端にリンカーの最初の3つのGGGGS反復配列をコードする配列を付加し、VHの5’末端にリンカーの最後の2つのGGGGS反復配列をコードする配列を付加することができる。このステップの間、VLの5’末端およびVHの3’末端に、発現ベクターにおけるVL-リンカー-VH構築物のクローニングに使用される制限部位も取り付けられる。第2のステップは、VLの3’末端およびVHの5’末端での重複配列(15bp)によって、2つのPCR産物を結合することを可能にする。
【0166】
第1のステップでは、2つの平行なPCRを行った。一方はVLFORSFI-VLREVSOEプライマー対およびpCRII-VLテンプレートを用い、他方はVHFORSOE-VHREVNOTプライマー対およびpCRII-VHテンプレートを用いた。KOD DNA Polymeraseを使用するPCRプロトコルを、これまでに記載されたように行った。
【0167】
第2のステップでは、第1のステップで実施した各PCR反応物1μlとVLFORSFI-VHREVNOTプライマー対を鋳型として使用して、以下のプロトコルに従ってSOE-PCRを行った。
【0168】
【0169】
混合物(50μl)を、以下のプロトコルに従ってサーモサイクラー中でインキュベートした。
【0170】
【0171】
ステップ2~4を30回繰り返した。
【0172】
29.抗hERG1-β1一本鎖ダイアボディ(scDb)-scDb-hERG1-β1抗体の産生と特徴づけ
構築物hERG1-β1-scDbを、これまでに記載されたスフェロプラスティング技術に従ってGS115ピキア・パストリス株に形質転換し、タンパク質を、scFv-hERG1およびscFv-hERG1-Cys抗体についてこれまでに記載された発現および精製プロトコルを適用して発現および精製した。
【0173】
細胞ELISA
生細胞に対する細胞ELISAを、Setteら(2013)に従って行った。HEK293WT(hERG1-/β1+)およびHEK293-hERG1(hERG1+/β1+)細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を加えたDMEM中で96ウェルプレートに半密集状態で播種し、37℃および5%CO2で一晩インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、抗hERG1-β1-scDbを異なる濃度で培養培地に希釈し、室温で2時間細胞に添加した。以下のステップは上記と同様である。
【0174】
免疫蛍光(IF)
IFは、これまでに記載されたプロトコルに従って行った。カバースリップをBSAおよびフィブロネクチンで2時間コーティングした。IFは、HEK293WT(hERG1-/β1+)、HEK293-hERG1(hERG1+/β1+)およびGD25WT細胞(hERG1-/β1-)で行った。
【0175】
30.抗hERG1-β1一本鎖ダイアボディ(scDb)-scDb-hERG1-Cys-β1抗体の産生と予備的特性化
scDb-hERG1-β1突然変異誘発
QuikChange(登録商標)XL Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene、Agilent Technologies)を用いて、pPIC9KにクローニングしたscDb-hERG1-β1発現カセット上で突然変異誘発を行った。Cysアミノ酸の導入に適したプライマーは、製造業者の説明書に従って設計され、Primm Biotech、レフトプライマー:GGATTCTGCAGTCTATTACTGTGCAACAGGTTGGGGACCTG(配列番号21);ライトプライマー:CAGGTCCCCAACCTGTTGCACAGTAATAGACTGCAGAATCC(配列番号22))によって設計された。
【0176】
試料反応液は以下のように調製した。5μlの10X反応緩衝液、1μlのscFv-hERG1 dsDNAテンプレート(13ng/μl)、1.84μl(125ng)レフトプライマー、1.84μl(125ng)ライトプライマー、1μlのdNTP混合物、3μlのQuickSolution、36.32μlのddH2O。次いで1μlのPfuTurbo DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)を添加した。サイクル条件を次のように調整した。初期融解を95℃で1分間行い、続いて3工程プログラム(95℃、50秒、60℃、50秒および68℃、4分)を18サイクル行った。次いで、反応物を68℃で7分間保持し、4℃に冷却した。
【0177】
増幅反応後、1μlのDnpI制限酵素(10U/μl)を反応混合物に直接添加し、直後に37℃で1時間インキュベートして親を消化した。この時点で、細菌DH5α超コンピテント細胞はヒートショックを通して形質転換された。細胞を氷上で穏やかに解凍し、2μlのDpI処理DNAを、200μlの超コンピテント細胞の別個のアリコートに移した。反応物を氷上で30分間インキュベートした。次いで、チューブを乾燥浴中42℃で45秒間加熱パルスした。チューブを氷上で2分間インキュベートした。細胞を450μlのSOC培地(1mM MgSO4、1mM MgCl2を補充したSOB培地)で回収し、振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。細菌を、アンピシリン抗生物質(50μg/ml)を含有する予備加温LB-寒天プレートに播種し、蓋側を下にして37℃で一晩インキュベートした。
【0178】
翌日、いくつかのコロニーを増殖させ、それらのいくつかを採取し、DNAを抽出し、配列決定して、所望の突然変異の存在を確認した。得られた構築物をscDb-hERG1-Cys-β1と標識した。
【0179】
scDb-hERG1-Cys-β1抗体の発現および精製
scDb-hERG1-Cys-β1を、これまでに記載されたスフェロプラスティング技術に従ってGS115ピキア・パストリス酵母株において形質転換し、タンパク質を、AKTA Pure(Ge Healthcare)を用いて、scFv-hERG1およびscFv-hERG1-Cys抗体についてこれまでに記載された発現および精製プロトコルを適用して発現および精製した。クロマトグラムは、Unicorn 7.0 Softwareを用いて分析した。
【0180】
免疫蛍光(IF)
IFは、これまでに記載したプロトコルに従って行った。カバースリップをBSAおよびフィブロネクチンで2時間コーティングした。IFは、GD25WT細胞(hERG1-/β1-)、HEK293WT(hERG1-/β1+)、HEK293-hERG1(hERG1+/β1+)に対して、先に記載したプロトコルに従って行った。IFは、Alexa488フルオロフォアと結合したscDb-hERG1-Cys-β1を用いて行った。
【0181】
生存率アッセイ
96ウェルプレートでPANC-1(膵管腺癌)細胞およびMDA-MB231(乳癌)細胞を5×105で播種し、一晩成長させた。翌日、細胞を異なる希釈(0μg/ml、10μg/ml、20μg/ml、40μg/ml、100μg/ml)でscDb-hERG1-Cys-β1で処理し、抗体と共に24時間インキュベートした。各条件を3連で行った。
【0182】
インキュベーション後、細胞を分離し、計数し、IC50の決定のために、Origin Softwareを適用した。
【0183】
3Dスフェロイド培養
103のPANC-1およびMDA-MB231細胞を96ウェルプレートのアガロース基層(1.5g/l)上に播種し、37℃および5%CO2の加湿インキュベーター中で72時間増殖させた。次いで、scDb-hERG1-Cys-β1を投与し(40μg/ml)、培養培地で希釈し、一方、抗体を含まない新鮮な培地を、陰性対照として処理した細胞を含むウェルに添加した。Nikon、Eclipse TE300顕微鏡を用いて細胞増殖をモニターするために、24時間で写真を撮った。
【0184】
側方運動性アッセイ
細胞を最初の濃度5×105で35mmペトリ皿にプレートし、24時間静置した。
【0185】
側方運動性(lateral motility)は、単層創傷アッセイ(Sillettiら、1995;PeckおよびIsacke、1996)によって評価した。その後直ちに(0時間)、創傷の幅を、45の固定点で創傷の幅を測定することによって決定した。
【0186】
細胞運動性を、以下のように定義される「運動性指数」(MI)として定量した。
MI=1-(Wt/Wo)
MI=0は細胞の移動がないことを示し、MI=1の値は完全な創傷閉鎖を示した。
【0187】
scFv-hERG1-D8CysおよびscDb-hERG1-Cys-β1抗体の生体内分布
160μgの各抗体を2匹のBalb/cマウスに静脈内注射した。血液試料を、静脈内投与後の異なる時点、注射後5分、10分、30分、1時間、2時間、6時間、24時間、で各マウスから採取した。血液試料を処理し、血漿を単離した。血漿試料についてのELISA試験は、このセクションにおいてこれまでに記載されたプロトコルに従って行った。Precise PK Pharmacokinetic Softwareを適用してt1/2を算出した。
【0188】
ECG測定
ECG測定は、抗体投与の前、および抗体の静脈内注射の15分後に連続的に行った。
【0189】
インビボ実験
インビボ分析
Alexa750によるscFv-hERG1-D8Cysの標識:PBS溶液中2mg/mlの濃度の150μgのscFv-hERG1-D8Cysおよび0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.3)を、12μlのAlexa Fluor(登録商標)750 NHS Ester(スクシンイミジルエステル)(Thermo Fisher Scientific)と撹拌しながら22℃で1時間インキュベートし、10mg/mlでDMSOに再懸濁した。反応物を氷中で5分間ブロックし、標識タンパク質を、PBSで平衡化したSephadex G25(Sigma)カラム上でのサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。
【0190】
インビボイメージング。3匹の6週齢の雌性免疫不全無胸腺ヌードFoxn1 nu/nuマウスに、フルオロフォアAlexa750で標識したscFv-hERG1-D8Cys50μl(1nm色素/マウス)を静脈内注射し、抗体注射の5分、10分、60分および24時間後に蛍光を測定した。1匹の対照マウスを無菌PBS溶液で処理した。全ての蛍光発光スペクトルは、Photon imager(Biospace Lab)を用いて測定した。このイメージャーは、蛍光励起のためのレーザー源(λ=679nm)、蛍光検出のための発光フィルター(λ=702nm)、およびデータ分析のためのコンピューターを有した。
【0191】
マウスモデル:MIAPaCa-2細胞株を、Lastraioliら、2015に記載されるように、腫瘍細胞移植のために使用した。細胞を、L-グルタミン(4mM)、10%ウシ胎児血清およびGeneticin(G418)(2.4mg/ml)(Gibco)を補充したDMEM中、37℃で、5%CO2の加湿雰囲気中で培養した。MIAPaCa-2-luc細胞をnu/nuマウスの膵臓に注射し、この動物を細胞接種後([17]に記載されるように)および45日目にモニターし、マウスにscFv-hERG1-D8Cys-Alexa750抗体を投与した。
【配列表】