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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】殺ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/05 20060101AFI20231106BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231106BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20231106BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20231106BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231106BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20231106BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231106BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20231106BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20231106BHJP
   A23K 20/105 20160101ALI20231106BHJP
   A23L 17/40 20160101ALN20231106BHJP
【FI】
A61K36/05
A61P31/12
A61K31/7032
A61P31/16
A61P31/14
A61P31/02
A23L33/105
A23L33/10
A23K10/30
A23K20/105
A23L17/40 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020533472
(86)(22)【出願日】2019-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2019029296
(87)【国際公開番号】W WO2020026945
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2018143049
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22254
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 真菜
(72)【発明者】
【氏名】久野 斉
(72)【発明者】
【氏名】渥美 欣也
(72)【発明者】
【氏名】林 京子
(72)【発明者】
【氏名】河原 敏男
(72)【発明者】
【氏名】小松 さと子
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/192940(WO,A1)
【文献】特表2010-529012(JP,A)
【文献】特開2007-126383(JP,A)
【文献】特開2015-015918(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149858(WO,A1)
【文献】特表2001-505908(JP,A)
【文献】JANWITAYANUCHIT, W. et al.,Synthesis and anti-herpes simplex viral activity of monoglycosyl diglycerides,Phytochemistry,Vol.64, No.7,2003年,1253-1264
【文献】HERNANDEZ-CORONA, A. et al.,Antiviral activity of Spirulina maxima against herpes simplex virus type 2,Antiviral Research,2002年,Vol. 56, No. 3,279-285
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/05
A61P 31/12
A61K 31/7032
A61P 31/22
A61P 31/16
A61P 31/14
A61P 31/02
A23L 33/105
A23L 33/10
A23K 10/30
A23K 20/105
A23L 17/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コッコミクサsp. KJ
株又はその変異株由来のモノガラクトシルジアシルグリセロールの、殺インフルエンザウイルス剤又は殺ネコカリシウイルス剤の製造のための使用であって、
前記殺インフルエンザウイルス剤又は殺ネコカリシウイルス剤は、前記コッコミクサsp.KJ株又はその変異株のモノガラクトシルジアシルグリセロールを有効成分として含むことを特徴とする使用
【請求項2】
前記モノガラクトシルジアシルグリセロールは、以下の(1)~(6)からなる群より選択される、一以上のモノガラクトシルジアシルグリセロールである、請求項1に記載の使用
(1)構成脂肪酸がC16:3とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(2)構成脂肪酸がC16:2とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(3)構成脂肪酸がC18:3とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(4)構成脂肪酸がC16:2とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(5)構成脂肪酸がC18:3とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール;及び
(6)構成脂肪酸がC16:1とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール。
【請求項3】
前記殺インフルエンザウイルス剤又は殺ネコカリシウイルス剤は、不可逆的不活化作用により殺ウイルス活性を示す、請求項1又は2に記載の使用
【請求項4】
前記殺インフルエンザウイルス剤又は殺ネコカリシウイルス剤は、インフルエンザウイルス感染症又はネコカリシウイルス感染症に対する医薬である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用
【請求項5】
前記殺インフルエンザウイルス剤又は殺ネコカリシウイルス剤は、消毒剤又は殺菌洗浄剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用
【請求項6】
前記殺インフルエンザウイルス剤又は殺ネコカリシウイルス剤は、餌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は殺ウイルス剤に関する。詳細には、微細藻類の抽出物又はその成分を有効成分とした殺ウイルス剤及びその用途等に関する。本出願は、2018年7月31日に出願された日本国特許出願第2018-143049号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)やインフルエンザウイルスなどの病原性ウイルスによる疾患である。これまでのウイルス感染症対策としては、ワクチンと抗ウイルス薬の開発が中心であった。しかし、ワクチンが開発されている感染症は限定されており、ウイルス側に抗原変異が生じれば効力を失ってしまう。また、抗ウイルス薬については、対象感染症が限定されている上に、副作用や薬剤耐性ウイルスの出現、経済的負担の増大などの問題を抱えている。特に、薬剤耐性ウイルスの出現は、その薬剤の寿命を縮める深刻な問題である。耐性が生じる原因としては、ほとんどの抗ウイルス薬がウイルス酵素を標的としていることにある。つまり、細胞内でのウイルス増殖段階に阻害的に作用するのである。このことから、薬剤耐性を回避するには、細胞内でのウイルス増殖ではなく、細胞外に存在するウイルス粒子そのものを標的にすればよいと考えられる。このような作用はウイルス粒子の感染力を失わせることであり、殺ウイルス活性(virucidal effect)、或いは不活化効果(inactivation)等と呼ばれている。これまでに開発ないし提案された殺ウイルス剤の例を以下に示す(特許文献1~3)。また、モノガラクトシルジアシルグリセロールの抗ウイルス活性に関する論文も以下に示す(非特許文献1~3)。非特許文献1には、漢方薬(Clinacanthus)が含有するモノガラクトシルジアシルグリセロールが抗ヘルペス活性を発揮したことが示されている。一方、非特許文献2では海藻由来のモノガラクトシルジアシルグリセロールに抗HSV-1活性及び抗HSV-2活性があることが示されている。また、非特許文献3は、漢方薬(Clinacanthus)が含有するモノガラクトシルジアシルグリセロールの抗HSV-1活性及び抗HSV-2活性を報告する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-47196号公報
【文献】特開2014-55128号公報
【文献】国際公開第2014/115860号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【文献】Phytochemistry. 2003 Dec;64(7):1253-64.
【文献】Mar Drugs. 2012 Apr; 10(4): 918-931.
【文献】Asian Pac J Trop Biomed 2016; 6(3): 192-197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでにも殺ウイルス剤の報告はあるものの、活性ないし効果の点、或いは安全性の点などにおいて克服すべき課題や改善の余地があり、実用性に優れた殺ウイルス剤に対するニーズは依然として高い。また、特定のウイルスだけでなく、複数のウイルスに対して殺傷作用を示す殺ウイルス剤の開発に対するニーズは大きい。そこで本発明は、実用性に優れ、ヒトの感染症への適用も含め、広範な用途に使用可能な殺ウイルス剤を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み研究を進める中、コッコミクサ属(Coccomyxa)微細藻類のモノガラクトシルジアシルグリセロールを含有する抽出物が優れた殺ウイルス活性を示すことが判明した。特筆すべきことに、当該抽出物は特定のウイルスだけでなく、複数種類のウイルスに対して殺ウイルス活性を発揮した。一方、更なる検討によって、抽出物中の有効成分であるモノガラクトシルジアシルグリセロールの構造が明らかになった。また、当該抽出物の利用価値が極めて高いことを裏付ける更なる知見が得られた。
【0007】
一方、クロレラ・ブルガリス、ナンノクロロプシス・オキュラータ、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)及びユーグレナ・グラシリス由来のモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物にも、コッコミクサ属微細藻類由来のモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物と同様の効果を期待できることが明らかとなった。
主として上記の成果及び考察に基づき、以下の発明が提供される。
[1]単細胞藻類のモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物を有効成分として含む殺ウイルス剤。
[2]前記単細胞藻類がコッコミクサ属、クロレラ属、ナンノクロロプシス属、アルスロスピラ属又はミドリムシ属に属する微細藻類である、[1]に記載の殺ウイルス剤。
[3]前記単細胞藻類がコッコミクサ属に属する微細藻類である、[1]に記載の殺ウイルス剤。
[4]前記微細藻類がコッコミクサ sp. KJ株又はその変異株である、[3]に記載の殺ウイルス剤。
[5]主成分がモノガラクトシルジアシルグリセロールである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の殺ウイルス剤。
[6]前記モノガラクトシルジアシルグリセロールが、以下の(1)~(6)からなる群より選択される、一以上のモノガラクトシルジアシルグリセロールである、[5]に記載の記載の殺ウイルス剤:
(1)構成脂肪酸がC16:3とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(2)構成脂肪酸がC16:2とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(3)構成脂肪酸がC18:3とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(4)構成脂肪酸がC16:2とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(5)構成脂肪酸がC18:3とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール;及び
(6)構成脂肪酸がC16:1とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール。
[7]前記有効成分が、前記単細胞藻類のエタノール抽出物をクロマトグラフィー精製し、モノガラクトシルジアシルグリセロールの含有量を高めたものである、[1]~[6]のいずれか一項に記載の殺ウイルス剤。
[8]前記有効成分中のモノガラクトシルジアシルグリセロール含有量が70%(w/v)~99%(w/v)である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の殺ウイルス剤。
[9]以下の(1)~(6)からなる群より選択される、一以上のモノガラクトシルジアシルグリセロールが有効成分の殺ウイルス剤:
(1)構成脂肪酸がC16:3とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(2)構成脂肪酸がC16:2とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(3)構成脂肪酸がC18:3とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(4)構成脂肪酸がC16:2とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール;
(5)構成脂肪酸がC18:3とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール;及び
(6)構成脂肪酸がC16:1とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール。
[10]標的のウイルスが、エンベロープを持つウイルスである、ヘルペスウイルス又はインフルエンザウイルスである、[1]~[9]のいずれか一項に記載の殺ウイルス剤。
[11]標的のウイルスが、エンベロープを持たないウイルスである、ノロウイルス又はネコカリシウイルスである、[1]~[9]のいずれか一項に記載の殺ウイルス剤。
[12]不可逆的不活化作用により殺ウイルス活性を示す、[1]~[11]のいずれか一項に記載の殺ウイルス剤。
[13][1]~[12]のいずれか一項に記載の殺ウイルス剤を含む組成物。
[14]ウイルス感染症に対する医薬である、[13]に記載の組成物。
[15]消毒剤又は殺菌洗浄剤である、[13]に記載の組成物。
[16]食品又は餌である、[13]に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)を標的としたTime-of-addition実験の結果。MGDG調製物の濃度毎(10μg/ml、25μg/ml、50μg/ml)、左から順に試験区1~10のウイルス増殖率が示される。
図2】インフルエンザウイルス(IFV)を標的としたTime-of-addition実験の結果。MGDG調製物の濃度毎(10μg/ml、25μg/ml、50μg/ml)、左から順に試験区1~10のウイルス増殖率が示される。
図3】HSV-2を標的とした殺ウイルス活性試験の結果。0μg/ml(コントロール)、0.01μg/ml、0.025μg/ml、0.1μg/ml、0.25μg/ml、1μg/ml、2.5μg/ml、10μg/ml、25μg/ml、50μg/mlのMGDG調製物でウイルス液を0分~360分処理した。
図4】インフルエンザウイルス(IFV)を標的とした殺ウイルス活性試験の結果。0μg/ml(コントロール)、0.01μg/ml、0.025μg/ml、0.1μg/ml、0.25μg/ml、1μg/ml、2.5μg/ml、10μg/ml、25μg/ml、50μg/mlのMGDG調製物でウイルス液を0分~360分処理した。
図5】MGDG調製物の作用によってインフルエンザウイルス(IFV)のエンベロープが崩壊していることを示す透過電子顕微鏡(TEM)像。左はMGDG作用前(IFVを滅菌水で30分間、室温処理)、右はMGDG作用後(IFVをMGDG(50 μg/ml)で30分間、室温処理)。日立製透過型電子顕微鏡H-800を使用した(加速電圧200 kV)。
図6】ノロウイルスを標的とした殺ウイルス活性試験の結果。1μg/ml、10μg/ml、100μg/mlのMGDG調製物でウイルス液を0分~30分処理した。
図7】ネコカリシウイルス(FCV)を標的とした殺ウイルス活性試験の結果。10μg/ml、50μg/ml、200μg/mlのMGDG調製物でウイルス液を0分~60分処理した。
図8】殺ウイルス活性試験(in vivo実験)の結果(Lesion score)。10μg/ml、50μg/ml、250μg/mlのMGDG調製物でウイルス液を30分処理した後、マウスに接種した。
図9】殺ウイルス活性試験(in vivo実験)の結果(感染3日後のウイルス量)。*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001 vs. コントロール
図10】MGDG調製物の滴下によってヘルペスウイルスのエンベロープが崩壊していることを示す透過電子顕微鏡(TEM)像。
図11】クロレラ属微細藻類の培養に使用する培地の例(C培地)とナンノクロロプシス属微細藻類の培養に使用する培地の例(ESM培地)。
図12】アルスロスピラ属微細藻類の培養に使用する培地の例(MA培地)とミドリムシ属藻類の培養に使用する培地の例(HUT培地)。
図13】有機物存在下での殺ウイルス活性試験の結果。ノロウイルスの代替としてネコカリシウイルス(FCV)を使用した。
図14】口唇ヘルペスに対する効果(患者1:45歳女性)。MGDG調製物を配合したクリームを患部に毎日3回塗布し、経過を観察した。
図15】口唇ヘルペスに対する効果(患者2:25歳男性)。MGDG調製物を配合したクリームを患部に毎日塗布し、経過を観察した。
図16】MGDG調製物の含有成分(MGDG1)の分析結果(GC/FIDのクロマトグラム)。
図17】MGDG調製物の含有成分(MGDG2)の分析結果(GC/FIDのクロマトグラム)。
図18】MGDG調製物の含有成分(MGDG3)の分析結果(GC/FIDのクロマトグラム)。
図19】MGDG調製物の含有成分(MGDG4)の分析結果(GC/FIDのクロマトグラム)。
図20】MGDG調製物の含有成分(MGDG5)の分析結果(GC/FIDのクロマトグラム)。
図21】各MGDG画分(MGDG1~MGDG5)の殺ウイルス活性。インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス2型、ネコカリシウイルス及びポリオウイルスに対するMGDG1~MGDG5及びMGDG調製物(Mix品)の殺ウイルス活性を比較した。
図22】各種生物(コッコミクサ sp. KJ株、クロレラ・ブルガリス、ナンノクロロプシス・オキュラータ、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ))のMGDG調製物のHPLCクロマトグラム。MGDG-1からMGDG-5はKJ株MGDG調製物由来のピークであり、これらと同構造と推定されるピークを*で示す。
図23】各種生物(コッコミクサ sp. KJ株、ユーグレナ・グラシリス(いのちのユーグレナ、バイオザイム)、ホウレンソウ)のMGDG調製物のHPLCクロマトグラム。MGDG-1からMGDG-5はKJ株MGDG調製物由来のピークであり、これらと同構造と推定されるピークを*で示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.用語、作用
殺ウイルス剤とは、標的のウイルスに対して殺ウイルス活性を示す剤である。殺ウイルス活性はウイルスに対する直接的な不活化作用であり、感染予防/感染拡大の阻止、感染症の治療等に優れた効果を発揮する。不活化作用は、可逆的不活化と不可逆的不活化に大別される。後者、即ち不可逆的不活化は、回復不可能な状態にウイルスを不活化するものであり、その効果、意義等は前者と決定的に相違する。
【0010】
本発明の殺ウイルス剤によれば、ウイルス粒子の破壊による不可逆的不活化作用を期待できる(後述の実施例を参照)。作用メカニズムがウイルス粒子の破壊であれば標的特異性が低い(即ち標的が特定のウイルスに限定されない)と考えられる。事実、本発明の殺ウイルス剤の有効成分がエンベロープ(外被)を持たないRNAウイルスのノロウイルス、エンベロープを持つDNAウイルスの単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、及びエンベロープを持つRNAウイルスのインフルエンザウイルスに対して殺ウイルス活性を示した事実は、本発明の殺ウイルス剤の汎用性の高さを裏付ける。一方、「ウイルス粒子の破壊」という作用によれば、増殖サイクルにないウイルスを殺傷することができ、極めて効果的であることはもとより、ウイルスの薬剤耐性化の阻止にも有効である。
【0011】
2.殺ウイルス剤の有効成分
本発明の殺ウイルス剤は、単細胞藻類のモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物を有効成分とする。そのモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物に殺ウイルス活性が認められる限り、単細胞藻類(トレボウクシア藻綱、真正眼点藻綱、藍藻綱、ユーグレナ藻綱等)は特に限定されない。好ましい単細胞藻類として、コッコミクサ属(Coccomyxa)微細藻類(具体例はコッコミクサ sp.KJ株)、クロレラ属(Chlorella)微細藻類(具体例はクロレラ・ブルガリス)、ナンノクロロプシス属(Nannochloropsis)微細藻類(具体例はナンノクロロプシス・オキュラータ)、アルスロスピラ属(Arthrospira)微細藻類(具体例はアルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ))又はミドリムシ属(Euglena)微細藻類(具体例はユーグレナ・グラシリス)を挙げることができる。この中でも、コッコミクサ属微細藻類は特に好ましい。換言すれば、本発明の特に好ましい一態様では、コッコミクサ属微細藻類のモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物を有効成分とする。そのモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物に殺ウイルス活性が認められる限り、コッコミクサ属微細藻類は特に限定されないが、好ましい例として、コッコミクサ sp. KJ株又はその変異株を挙げることができる。コッコミクサ sp. KJ株(KJデンソー)は、2013年6月4日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-22254として寄託され、2015年6月2日付でプタベスト条約の規定下で受託番号FERM BP-22254として国際寄託に移管されている。尚、以前のシュードココミクサ属(Pseudococcomyxa)は、最新の分類ではコッコミクサ属に含まれることになった(参考文献:PLoS One. 2015 Jun 16;10(6):e0127838. doi: 10.1371/journal.pone.0127838. eCollection 2015.)。
【0012】
コッコミクサ sp. KJ株の変異株は、紫外線、X線、γ線などの照射、変異原処理、重ビーム照射、遺伝子操作(外来遺伝子の導入、遺伝子破壊、ゲノム編集による遺伝子改変等)等によって得ることができる。殺ウイルス活性を示すモノガラクトシルジアシルグリセロールを産生する変異株が得られる限りにおいて、変異株の取得方法、特性等は特に限定されない。
【0013】
コッコミクサ属微細藻類の培養方法は特に限定されない。コッコミクサ属微細藻類を培養するための培地としては、微細藻類の培養に通常使用されているものでよく、例えば、各種栄養塩、微量金属塩、ビタミン等を含む公知の淡水産微細藻類用の培地、海産微細藻類用の培地のいずれも使用可能である。培地としては、例えば、AF6培地が挙げられる。AF6培地の組成(100mlあたり)は以下のとおりである。
NaNO3 14mg
NH4NO3 2.2mg
MgSO4・7H2O 3mg
KH2PO4 1mg
K2HPO4 0.5mg
CaCl2・2H2O 1mg
CaCO3 1mg
Fe-citrate 0.2mg
Citric acid 0.2mg
Biotin 0.2μg
Thiamine HCl 1μg
Vitamin B6 0.1μg
Vitamin B12 0.1μg
Trace metals 0.5ml
Distilled water 99.5ml
【0014】
栄養塩としては、例えば、NaNO3、KNO3、NH4Cl、尿素などの窒素源、K2HPO4、KH2PO4、グリセロリン酸ナトリウムなどのリン源が挙げられる。また、微量金属としては、鉄、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛等が挙げられ、ビタミンとしてはビタミンB1、ビタミンB12等が挙げられる。
【0015】
培養方法は、通気条件で二酸化炭素の供給とともに攪拌を行えばよい。その際、蛍光灯で12時間の光照射、12時間の暗条件などの明暗サイクルをつけた光照射、又は、連続光照射して培養する。培養条件も、コッコミクサ属微細藻類の増殖に悪影響を与えない範囲内であれば特に制限はされないが、例えば培養液のpHは3~9とし、培養温度は10~35℃にする。
【0016】
尚、コッコミクサ sp. KJ株の培養方法に関しては、特開2015-15918、WO 2015/190116 A1、Satoh, A. et al., Characterization of the Lipid Accumulation in a New Microalgal Species, Pseudochoricystis ellipsoidea (Trebouxiophyceae) J. Jpn. Inst. Energy (2010) 89:909-913.等が参考になる。
【0017】
コッコミクサ属微細藻類以外の単細胞藻類についても常法で培養することができる。各藻類の培養に使用する培地は特に限定されない。例えば、クロレラ属(Chlorella)微細藻類の培養には、淡水産藻類の培養に一般的な培地、又は塩水産藻類の培養に一般的な培地を使用することができ、好適な培地の一例はC培地(図11)である。同様に、ナンノクロロプシス属微細藻類の培養には、海産藻類の培養に一般的な培地、又は汽水産藻類の培養に一般的な培地を使用することができ、好適な培地の一例はESM培地(図11)である。アルスロスピラ属微細藻類の培養についても同様であり、淡水産藻類の培養に一般的な培地、又は塩水産藻類の培養に一般的な培地を使用することができ、好適な培地の一例はMA培地(図12)である。ミドリムシ属藻類の培養についても同様であり、淡水産藻類の培養に一般的な培地、又は塩水産藻類の培養に一般的な培地を使用することができ、好適な培地の一例はHUT培地(図12)である。
【0018】
本発明の殺ウイルス剤の有効成分、即ち、「単細胞藻類(特に好ましくはコッコミクサ属に属する微細藻類)のモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物」の抽出方法は、モノガラクトシルジアシルグリセロールを含有する抽出物が得られる限り、特に限定されない。抽出方法として例えばエタノール抽出を採用することができる。好ましくは、エタノール抽出後に精製し、モノガラクトシルジアシルグリセロールの含有量を高めたものを「単細胞藻類(特に好ましくはコッコミクサ属に属する微細藻類)のモノガラクトシルジアシルグリセロール含有抽出物」として用いる。精製方法の例として、シリカゲル、アルミナ等の充填剤を用いたカラムクロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、濃縮等を例示することができる。
【0019】
抽出に先立ち、回収した藻体を乾燥処理及び又は破砕処理に供してもよい。言い換えれば、乾燥した藻体、乾燥且つ破砕された藻体(典型的には乾燥粉末)、又は破砕された藻体を調製し、これを用いて抽出操作を行うことにしてもよい。単細胞藻類が予め加工処理されたもの(例えば、乾燥した藻体、その粉末/粉体、或いは錠剤(賦形剤等が含まれていても良い)等)を入手し、抽出操作に供することにしてもよい。例えば、クロレラ・ブルガリス、ナンノクロロプシス・オキュラータ、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)、ユーグレナ・グラシリス等についてはその加工品が市販されている。
【0020】
有効成分中のモノガラクトシルジアシルグリセロールの含有量は、抽出物が殺ウイルス活性を示す限り特に限定されず、例えば70%(w/v)~99%(w/v)、好ましくは80%(w/v)~99%(w/v)、更に好ましくは90%(w/v)~99%(w/v)より一層好ましくは95%(w/v)~99%(w/v)(具体例として96%(w/v)、97%(w/v)、98%(w/v))である。原則、モノガラクトシルジアシルグリセロールの含有量が高い程、強い殺ウイルス活性を期待できる。「モノガラクトシルジアシルグリセロール」とは、グリセロ糖脂質の一つであり、植物の葉緑体チラコイド膜の構成成分として知られる。モノガラクトシルジアシルグリセロールはガラクトースがグリセロールにβ結合した骨格を有する。
【0021】
好ましくは、本発明の殺ウイルス剤ではモノガラクトシルジアシルグリセロールが主成分となる。本発明の殺ウイルス剤が含有し得るモノガラクトシルジアシルグリセロールの例を挙げると、(1)構成脂肪酸がC16:3とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール、(2)構成脂肪酸がC16:2とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール、(3)構成脂肪酸がC18:3とC18:3のモノガラクトシルジアシルグリセロール、(4)構成脂肪酸がC16:2とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール、(5)構成脂肪酸がC18:3とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール及び(6)構成脂肪酸がC16:1とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロールである。これらのモノガラクトシルジアシルグリセロールは、殺ウイルス活性を示すコッコミクサ属微細藻類抽出物が含有するものとして同定された(詳細は後述の実施例の欄に示した「11.MGDG調製物中の成分の同定2」)。後述の実施例の欄に示した「10.MGDG調製物中の成分の同定1」の解析結果も考慮すれば、上記の(1)の構成脂肪酸C18:3は好ましくはC18:3(n-3)であり、上記(3)の構成脂肪酸C18:3の少なくとも片方は好ましくはC18:3(n-3)であり、上記(4)の構成脂肪酸C18:2は好ましくはC18:2(n-6)であり、上記(5)の構成脂肪酸C18:3は好ましくはC18:3(n-3)、同C18:2は好ましくはC18:2(n-6)である。特定のモノガラクトシルジアシルグリセロールを単独で含有することを除外するものではないが、通常、本発明の殺ウイルス剤には、構造の異なる2種類以上のモノガラクトシルジアシルグリセロールが含有され、その場合の組合せ、含有比率などは特に限定されない。本発明の殺ウイルス剤は、好ましくは上記(1)~(6)の中の二つ以上、更に好ましくは上記(1)~(6)の中の三つ以上、更に更に好ましくは上記(1)~(6)の中の四つ以上、一層好ましくは上記(1)~(6)の中の五つ以上、より一層好ましくは上記(1)~(6)の全て、を含有する。後述の実施例に示す通り、(5)のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG5)には特に高い殺ウイルス活性が認められた。そこで、特に好ましい態様の殺ウイルス剤には、(5)のモノガラクトシルジアシルグリセロールが単独又は(1)、(2)~(4)及び(6)の中の一つ以上との組合せで含有されることになる。
【0022】
殺ウイルス活性を示すコッコミクサ属微細藻類抽出物の主要な含有成分として同定されたモノガラクトシルジアシルグリセロールはそれ自体に殺ウイルス活性を期待できる。そこで本発明の一態様では、上記(1)~(6)からなる群より選択される、一以上のモノガラクトシルジアシルグリセロールが有効成分の殺ウイルス剤が提供される。2種類以上のモノガラクトシルジアシルグリセロールを有効成分とする場合の組合せ、含有比率等は特に限定されない。この態様においても、好ましくは上記(1)~(6)の中の二つ以上、更に好ましくは上記(1)~(6)の中の三つ以上、更に更に好ましくは上記(1)~(6)の中の四つ以上、一層好ましくは上記(1)~(6)の中の五つ以上、より一層好ましくは上記(1)~(6)の全て、を含有する。上記の通り、(5)のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG5)には特に高い殺ウイルス活性が認められた。そこで、特に好ましい態様では、(5)のモノガラクトシルジアシルグリセロールが有効成分の少なくとも一つとなる。
【0023】
ここで、各種脂肪酸(脂肪酸の例を以下に示す)を構成脂肪酸として含むモノガラクトシルジアシルグリセロールが存在する。本発明の教示を考慮すれば、公知のモノガラクトシルジアシルグリセロールを含め、モノガラクトシルジアシルグリセロールが一般に殺ウイルス活性を発揮し得ることを合理的に期待できる。
<脂肪酸の例>
C12:0, C13:0, C14:0, C14:1, C14:2, C15:0, C15:1, C16:0, C16:1, C16:4, C17:0, C17:1, C18:0, C18:1, C18:4, C19:0, C19:1, C20:0, C20:1, C20:2, C20:3, C20:4, C20:5, C22:0, C22:5, C24:0
【0024】
3.標的のウイルス
上でも言及したように、本発明の殺ウイルス剤の作用メカニズム、並びに本発明の殺ウイルス剤の有効成分がノロウイルス、ネコカリシウイルス(FCV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)及びインフルエンザウイルス(IFV)に対して殺ウイルス活性を示した事実は、本発明の殺ウイルス剤の汎用性の高さを裏付ける。本発明の殺ウイルス剤が特に有効である標的ウイルスとして、ノロウイルス、ネコカリシウイルス、ヘルペスウイルス及びインフルエンザウイルスを例示することができる。ノロウイルスは外被(エンベロープ)を持たないRNAウイルスであり、ウイルス分類上はカリシウイルス科に属する。ノロウイルスは界面活性剤やアルコール等に対して高い抵抗性を示す。ネコカリシウイルスはカリシウイルス科のウイルスであり、ネコの感染症であるネコカリシウイルス感染症の病原体として知られている。外被(エンベロープ)を持たないRNAウイルスであり、ノロウイルスと類似した特性を示す。そのため、ノロウイルスの代替として実験に用いられている。
【0025】
ヘルペスウイルスは二本鎖DNAをゲノムとしてもつウイルスである。ヘルペスウイルスは、3種類のヘルペスウイルス亜科(αヘルペスウイルス亜科、βヘルペスウイルス亜科、γヘルペスウイルス亜科)に分類される。αヘルペスウイルス亜科には単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が属し、βヘルペスウイルス亜科にはサイトメガロウイルス(CMV)、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)が属し、γヘルペスウイルス亜科にはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス8(HHV-8、別名:カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV))が属する。
【0026】
インフルエンザウイルスは一本鎖RNAウイルスであり、ウイルス粒子を構成するタンパク質、抗原性、形態などが異なる、3つの属、即ち、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス及びC型インフルエンザウイルスに大別される。A型インフルエンザウイルスはヒト、鳥類、ウマ、ブタなどを宿主とし、一般にその感染による症状(病態)は他の型の場合よりも重篤である。A型インフルエンザは毎年、大流行(エピデミック)を引き起こす。また、世界的大流行(パンデミック)が懸念されており、その対策が急務となっている。A型インフルエンザウイルスはHA分子の型によって二つのグループ、即ち、H2、H5、H1、H6(以上、H1クラスター;H1a)、H13、H16及びH11(以上、H1クラスター;H1b)からなるグループ1と、H8、H12、H9(以上、H9クラスター)、H4、H14、H3(以上、H3クラスター)、H15、H7及びH10(以上、H7クラスター)からなるグループ2に大別される。A型インフルエンザウイルスの種類として、H1N1型、H1N2型、H2N2型、H3N2型、H5N1型、H5N2型、H6N1型、H7N2型、H7N3型、H7N7型、H7N9型、H9N2型及びH9N1型を例示することができる。
【0027】
上記の各ウイルスの他、エンベロープを持つ各種DNAウイルス(例えば天然痘ウイルス)、エンベロープを持つ各種RNAウイルス(例えば麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ムンプスウイルス、コロナウイルス)、エンベロープを持たない各種DNAウイルス(例えばアデノウイルス、パピローマウイルス)、エンベロープを持たない各種RNAウイルス(例えばポリオウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス)等も、本発明の殺ウイルス剤の標的となり得る。
【0028】
4.殺ウイルス剤の用途・使用方法
本発明の殺ウイルス剤はそれを含む組成物として各種用途に用いることができる。ここでの組成物の例は医薬(治療薬又は予防薬)、消毒剤、殺菌洗浄剤、食品、餌である。その用途を考慮しつつ、本発明の組成物に、アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、ビタラビン、ホスカルネット、トリフルリジン、オセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル)、ザナミビル水和物(商品名リレンザ)、ペラミビル水和物(商品名ラピアクタ)、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名イナビル)、バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ)等の抗ウイルス剤、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン等の抗菌ないし除菌成分等を含有させてもよい。
【0029】
本発明の殺ウイルス剤の用途の具体例の一つとして、ノロウイルスに汚染された牡蠣の浄化を挙げることができる(後述の実施例を参照)。当該用途では、典型的には、殺ウイルス剤の溶液を用意し、ノロウイルスに汚染された牡蠣(または、汚染の可能性がある牡蠣)を浸漬する(例えば、数時間から数日程度、飼育するとよい)。
【0030】
(1)医薬
本発明の医薬はウイルス感染症の治療又は予防に用いられる。本発明の医薬はウイルス感染症に対して治療的効果又は予防的効果(これら二つの効果をまとめて「医薬効果」と呼ぶ)を発揮し得る。ここでの医薬効果には、(1)ウイルス感染の阻止、(2)ウイルス感染症の発症の阻止、抑制又は遅延、(3)ウイルス感染症に特徴的な症状又は随伴症状の緩和(軽症化)、(4)ウイルス感染症に特徴的な症状又は随伴症状の悪化の阻止、抑制又は遅延、等が含まれる。尚、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であることから、明確に区別して捉えることは困難な場合があり、またそうすることの実益は少ない。
【0031】
医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0032】
製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤(軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、液剤、ゲル剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、エアゾール剤等)、及び座剤である。医薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(患部への局所注入、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。また、全身的な投与と局所的な投与も対象により適応される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。
【0033】
本発明の医薬には、期待される効果を得るために必要な量(即ち治療又は予防上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%~約99重量%の範囲内で設定する。
【0034】
本発明の医薬の投与量は、期待される効果が得られるように設定される。治療又は予防上有効な投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、及び体重などが考慮される。当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与量の例を示すと、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が1 mg~20 mg、好ましくは5 mg~10 mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の状態や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【0035】
本発明の医薬による治療又は予防に並行して他の医薬(例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル、ビタラビン、ホスカルネット、トリフルリジン、オセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル)、ザナミビル水和物(商品名リレンザ)、ペラミビル水和物(商品名ラピアクタ)、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名イナビル)、バロキサビル マルボキシル(商品名ゾフルーザ)等の抗ウイルス剤)による処置を施すことにしてもよい。本発明の有効成分と作用機序の異なる薬剤を併用すれば、複合的な作用/効果が得られ、例えばウイルス感染症の治療に適用した場合には治療効果の増大を図ることができる。
【0036】
以上の記述から明らかな通り本願は、ウイルス感染症に罹患した対象又は罹患するおそれのある対象に対して、本発明の殺ウイルス剤を含む医薬を、治療又は予防上有効量投与することを特徴とする、各種ウイルス感染症を治療又は予防する方法も提供する。治療又は予防の対象は典型的にはヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物(例えばサル、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、等)、鳥類(ニワトリ、ウズラ、七面鳥、ガチョウ、アヒル、ダチョウ、カモ、インコ、文鳥等)等に適用することにしてもよい。
【0037】
(2)消毒剤、殺菌洗浄剤
本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤は、例えば、居室(病室を含む)、調理室、トイレ、洗面所、浴室等の消毒又は殺菌洗浄、食器、カトラリー(ナイフ、フォーク、スプーン等)、調理器具(包丁、ナイフ、鍋、ミキサー、電子レンジ、オーブン等)、医療器具・装置等の消毒又は殺菌洗浄、手、指先や口腔等の消毒又は殺菌洗浄に用いられる。本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤は、例えば、液状(例えばスプレー剤、ローション)、ゲル状、固形状(例えば粉末)に構成され、塗布、噴霧、散布等によって適用される。天然繊維や合成繊維等からなる担体(例えばシート状)に本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤を担持ないし付着させ、拭き取り用途等に使用される製品や感染予防用マスク等としてもよい。
【0038】
塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン等の抗菌ないし除菌成分、pH調整剤、界面活性剤、吸着剤、担体等を本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤に添加することにしてもよい。
【0039】
本発明の消毒剤又は殺菌洗浄剤には、消毒又は殺菌洗浄効果が期待できる量の有効成分が含有される。添加量は、その用途や形態等を考慮して定めることができる。
【0040】
(3)食品、餌
本発明の食品の例として一般食品(穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子・デザート類、牛乳、清涼飲料水、果汁飲料、珈琲飲料、野菜汁飲料、アルコール飲料等)、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、食品添加物、愛玩動物用食品、愛玩動物用栄養補助食品を挙げることができる。栄養補助食品又は食品添加物の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供することができる。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の有効成分を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。
【0041】
本発明の餌の例は、飼料(例えば家畜、家禽などの餌)、ペットフードである。
【0042】
本発明の食品又は餌には、治療的又は予防的効果が期待できる量の有効成分が含有される。添加量は、それが使用される対象となる者の状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【実施例
【0043】
1.微細藻類コッコミクサ sp. KJ株の抽出物の調製、及び抽出物の精製
既報の方法に準じてコッコミクサ sp. KJ株を培養した。具体的には、AF6培地にコッコミクサ sp. KJ株を植藻した後、2%CO2(v/v)を通気し、光(300μmol/m2/s)を照射しながら室温(25℃)で48時間培養した。培養液から遠心分離により藻体を回収した。回収した藻体をドラムドライヤで乾燥させるとともに微粉砕機で粉砕し、粉末状とした(藻体の乾燥粉末)。次に、100gの乾燥粉末に対して1 lのエタノールを添加して分散させ、暗所で3日間静置した。静置後、ろ過して、1次ろ液と残渣とに分離した。この残渣に上記と同様に1 lのエタノールを添加して分散させ、3日間静置した後、再度ろ過して2次ろ液と残渣とに分離した。このろ過操作をもう一度繰り返し、3次ろ液と残渣とを得た。
【0044】
1次ろ液、2次ろ液、及び3次ろ液を混合し、エバポレーターでエタノールを留去し、減圧乾燥してエタノール抽出物DEとした。次に、DEをDIAION HP-20(三菱化学(株)製、3.5 x 57 cm)カラムクロマトグラフィーに供した。H2O、50%エタノール (EtOH)、EtOH及びアセトンで順次溶出し、各溶出フラクションを室温で減圧乾燥した(DE1, 400.9 mg; DE2, 310.3 mg; DE3, 2.25 g; DE4, 4.86 g)。アセトンフラクション(DE4)をシリカゲルカラム(3 x 42 cm)クロマトグラフィーに供した。ヘキサン、ヘキサン-酢酸エチル (AcOEt) (1:1)、AcOHt、AcOHt-アセトン (1:1)、アセトン及びメタノール (MeOH)で順次溶出し、各溶出フラクション、DE4A (55.4 mg)、DE4B (2.0 g)、DE4C (89.0 mg)、DE4D (1.01 g)、DE4E (95.5 mg)及びDE4F (177.1 mg)を得た。次に、DE4Dを、AcOEt-アセトンを溶媒系としたシリカゲルカラム(1.5 x 35 cm)クロマトグラフィーに供し、3フラクション、DE4D1 (49.9 mg)、DE4D2 (705.1 mg)及びDE4D3 (16.2 mg)を得た。続いて、DE4D2をシリカゲルカラム(1.5 x 35 cm)クロマトグラフィーに供し、CHCl3-MeOH-H20 (10:1:0.1)で溶出することでDE4D2A (15.6 mg)とDE4D2B (686.5 mg)を得た。この内、DE4D2Bを、クロロホルム (CHCl3)-MeOH (3:1)を溶媒系としたLH-20カラム(シグマアルドリッチ社製)クロマトグラフィーに供し、DE4D2Bl (11.6 mg)とDE4D2B2 (652.3 mg)を得た。DE4D2B2をシリカゲルカラム(2 x 50 cm)クロマトグラフィーに供し、CHCl3、CHCl3-MeOH (20:1)及びCHCl3-MeOH-H20(10:3:1)で溶出することで4フラクション、DE4D2B2A (4.8 mg)、DE4D2B2B (3.5 mg)、DE4D2B2C (25.1 mg)及びDE4D2B2D (620.5 mg)を得た。最後に、CHCl3-MeOH-酢酸 (AcOH)-H20 (80:9:12:2)で展開した分取液体クロマトグラフィー(PLC)でDE4D2B2Dを精製し、MGDG調製物 (578.9 mg)とした。
【0045】
2.ヘルペスウイルス及びインフルエンザウイルスを標的とした殺ウイルス活性
MGDG調製物の殺ウイルス活性を評価するため、Time-of-addition実験と殺ウイルス活性試験を実施した。標的ウイルスはHSV-2及びA型インフルエンザウイルスとした。
【0046】
2-1.Time-of-addition実験
<方法>
(1)48ウェルプレートに細胞(Vero細胞又はMDCK細胞)を単層状に培養する。
(2)MGDG調製物(10μg/ml、25μg/ml又は50μg/ml)を以下の添加時間で培地へ添加する。
試験区1:ウイルス感染前の3時間
試験区2:ウイルス感染前の1時間
試験区3:ウイルス感染中(室温で1時間)のみ
試験区4:ウイルス感染3時間前から24時間後まで
試験区5:ウイルス感染1時間前から24時間後まで
試験区6:ウイルス感染中から24時間後まで
試験区7:ウイルス感染直後から24時間後まで
試験区8:ウイルス感染1時間後から24時間後まで
試験区9:ウイルス感染3時間後から24時間後まで
試験区10:ウイルス感染6時間後から24時間後まで
(3)感染24時間後に培養物を収穫し、別に35 mm培養皿に準備した細胞を用いてプラークアッセイを行う。
(4)MGDG調製物の代わりに溶媒(MEM培地)を加えたコントロールのプラーク数を基準(100%)とし、各試験区のウイルス増殖率を算出する。
【0047】
<結果・考察>
試験結果(2回の測定値の平均)を図1(HSV-2が標的)及び図2(インフルエンザウイルスが標的)に示す。MGDG調製物の濃度依存的にHSV-2増殖は阻害された(図1)。いずれの濃度においても、試験区3(ウイルス感染中のみサンプルが存在する)の効果が強いようであった。これは、ウイルスの宿主細胞への吸着・侵入段階をMGDG調製物が阻害しているかのようであるが、同時期にサンプルが存在する他の試験区(試験区4、5、6)においては、同様の結果が得られなかったことから、この段階をMGDG調製物の作用標的とみなすことはできない。また、ウイルスのタンパクや遺伝子の合成が細胞内で行なわれている時期(試験区8、9、10)において顕著な阻害効果がみられなかったことから、MGDG調製物は宿主細胞内でのウイルス増殖段階に選択的に作用するとは考えにくい。
【0048】
一方、インフルエンザウイルス(IFV)を標的とした場合は、HSV-2に比べて、MGDG調製物の濃度依存的なウイルス増殖阻害効果は顕著ではなかった(図2)。他の点では、HSV-2の場合に似た傾向が認められた。
【0049】
2-2.殺ウイルス活性試験
上記のTime-of-addition実験からは直接的に評価できないウイルス不活化作用(殺ウイルス活性)を検討した。
<方法>
(1)ウイルス液(2 x 105 PFU/ml)0.1 mlと2倍濃度のサンプル液(混合後の濃度を0.01~50μg/mlとしたMGDG調製物)0.1 mlを1.5 ml チューブに加えて混合し、37℃に置く。
(2)0~6時間後に、各チューブから10μlずつ採取して氷上に移し、PBS 990μlを加えて100倍希釈する。
(3)直ちに、この希釈液0.1 mlを、別に準備した宿主細胞(35 mm培養皿)に感染させる(室温、1時間)。
(4)プラークアッセイ用培地を重層する。
(5)2日後にプラークの出現を確認し、クリスタルバイオレット液で細胞を固定・染色する。
(6)プラーク数を測定する。
(7)ウイルス液と希釈液(PBS)とを混合した直後(0分)のプラーク数を基準(100%)とし、各試験区の相対プラーク数(%)を算出する。
【0050】
<結果・考察>
試験結果(2回の測定値の平均)を図3(HSV-2が標的)及び図4(インフルエンザウイルスが標的)に示す。HSV-2を標的とした場合(図3)、コントロール(MGDG調製物濃度0μg/ml)は、6時間の処理時間中に感染力を約40%にまで徐々に低下させた。MGDG調製物は、濃度依存的にコントロールよりもウイルスを死滅させた。特に、10μg/ml以上の濃度で殺ウイルス活性が極めて強く、50μg/mlの濃度ではウイルスと混合した時点で感染力を半減させた。0.01μg/ml (10 ng/ml)の極めて低濃度でも、MGDG調製物はコントロールに比べて高いウイルス不活化効果を示した。
【0051】
一方、MGDG調製物はインフルエンザウイルス(IFV)に対しても、濃度依存的にコントロールよりもウイルスを死滅させた(図4)。HSV-2の場合と同様に、MGDG調製物は10μg/ml以上の濃度で強い殺ウイルス活性を示した。但し、HSV-2に比べて、ウイルス不活化には時間を要した。
【0052】
以上の二つの試験結果から、MGDG調製物は2種類のウイルス(HSV-2、IFV)のいずれに対しても殺ウイルス活性をもたらすことが明らかになった。
【0053】
図5に示す通り、インフルエンザウイルス(IFV)をMGDG調製物(50μg/ml)で処理(30分間、室温)し、形態観察した結果、ウイルスエンベロープの崩壊が認められ、MGDG調製物が不可逆的な不活性作用を示したことが明らかとなった。
【0054】
3.ノロウイルスを標的とした殺ウイルス活性
エンベロープを持たないウイルスに対してもMGDG調製物が殺ウイルス活性を示すか否かを評価した。MGDG調製物について、マウスノロウイルス(MNV)に対する不活化作用を評価した。
<方法>
(1)ウイルス(MNV)のストックをPBS (リン酸緩衝生理食塩水)で希釈して2×105 PFU/mlに調製する。
(2)1.5 mlマイクロチューブにサンプル(所定濃度のMGDG調製物)0.5mlとウイルス液0.5 mlを入れて混合する。尚、コントロールは、サンプルの代わりにPBSを加える。
(3)サンプルとウイルス液の混合液を室温に置き、0分後、1分後、10分後及び30分後に10μlずつ採取して990μlのPBSと混合する(100倍希釈)。尚、この希釈は、以下で行う残存ウイルス量の測定時にサンプルの影響が出る事を防止するためである。
(4)100倍希釈液100μlを、前もって単層状に培養しておいた宿主細胞(マウスマクロファージ様細胞であるRAW264.7細胞)に加え、室温で1時間感染させる。
(5)プラークアッセイ用培地を重層し、37℃で2~3日間培養する。
(6)プラークの出現を確認後、ニュートラルレッド液で細胞を固定・染色し、顕微鏡下でプラーク数を測定する。
(7)0時間のプラーク数を基準(100%)とし、各処理時間後の残存ウイルス量(相対プラーク数)を算出する。
【0055】
<結果・考察>
MGDG調製物(1~100μg/ml)は、濃度依存的・時間依存的にMNVに対して殺ウイルス活性を示した(図6)。
【0056】
4.ネコカリシウイルスを標的とした殺ウイルス活性
ノロウイルスの代替として用いられるネコカリシウイルス(FCV)に対してもMGDG調製物が殺ウイルス活性を示すか否かを評価した。
<方法>
(1)ウイルス(FCV)のストックをPBS (リン酸緩衝生理食塩水)で希釈して2×105 PFU/mlに調製する。
(2)1.5 mlマイクロチューブにサンプル(所定濃度のMGDG調製物)0.5mlとウイルス液0.5 mlを入れて混合する。尚、コントロールは、サンプルの代わりにPBSを加える。
(3)サンプルとウイルス液の混合液を室温に置き、0分後、1分後、10分後、30分後及び60分後に10μlずつ採取して990μlのPBSと混合する(100倍希釈)。尚、この希釈は、以下で行う残存ウイルス量の測定時にサンプルの影響が出る事を防止するためである。
(4)100倍希釈液100μlを、前もって単層状に培養しておいた宿主細胞(ネコ腎由来のCRFK細胞)に加え、室温で1時間感染させる。
(5)プラークアッセイ用培地を重層し、37℃で2~3日間培養する。
(6)プラークの出現を確認後、ニュートラルレッド液で細胞を固定・染色し、顕微鏡下でプラーク数を測定する。
(7)0時間のプラーク数を基準(100%)とし、各処理時間後の残存ウイルス量(相対プラーク数)を算出する。
【0057】
<結果・考察>
MGDG調製物(10~200μg/ml)は、濃度依存的・時間依存的にFCVに対して殺ウイルス(不活化)活性を示した(図7)。
【0058】
5.ヘルペスウイルスを標的とした殺ウイルス活性の不可逆性の検討(実験動物を用いたin vivo実験)
上記の通り、MGDG調製物がHSV-2を不活化することを、培養細胞を用いたin vitroアッセイで確認した。この不活化が、生体内で不可逆的に維持されて、ウイルス感染症(性器ヘルペス)を抑制できるのかを評価した。具体的には、MGDG調製物で処理したウイルスを性器に接種し、感染3日後のウイルス量、ヘルペス症状の程度(lesion scores)、死亡率を検討した。
<方法>
(1)BALB/cマウス(6週齢、雌)に、ウイルス接種6日前及び1日前に、medroxyprogesterone (3 mg/0.1 ml/mouse)を皮下注射する。
(2)0日目に、下記のように処理したウイルス液(20μl/mouse)を、マウスの性器に接種する。
コントロール: 溶媒(PBS)を同量のウイルス液(HSV-2(UW268株)、4 x 104 PFU/20 μl)(最終ウイルス量 2 x 104 PFU/20μl/mouse)と混合して、30分間、室温で処理する。
試験区(MGDG調製物): 2倍濃度(20μg/ml、100μg/ml、500μg/ml)のMGDG調製物を同量のウイルス液(HSV-2(UW268株)、4 x 104 PFU/20μl)(最終ウイルス量 2 x 104 PFU/20 μl/mouse)と混合して、30分間、室温で処理する。
(3)感染3日後に、性器をPBS(100μl/mouse)で洗浄し、洗浄液中のウイルスをプラークアッセイで定量する。
(4)感染14日後まで、発症の程度を観察し、0~5の6段階のlesion scoresで評価する。
(5)感染14日後まで、マウスの生死を記録する。
【0059】
<結果・考察>
(1)発症の時間的経過及び死亡例(図8、表1)
コントロール群は、感染10日後までに全例(5匹中5匹)が死亡した。これに対して、250μg/ml及び50μg/mlのMGDG濃度でウイルスを前処理した場合には、全てのマウスでヘルペス症状はみられず、全例生存した。10μg/mlでの処理時には、5匹中3匹に発症が認められて死亡し、2匹は無症状で経過して生存した。
【表1】
【0060】
(2)感染3日後のウイルス量(図9
250μg/ml及び50μg/mlの濃度でウイルスを前処理した場合には、全てのマウスでウイルスは検出されなかった(***p<0.001)。10μg/mlの濃度では、5匹中4匹にウイルスが検出され、その平均値は、コントロール群に比べて有意に(*p<0.05)低かった。
【0061】
以上の結果とin vitroでの殺ウイルス活性試験の結果(上記の項目2.)とを考え合わせると、MGDG調製物はHSV-2に対して不可逆的な不活化作用を及ぼすことが明らかになった。この結果は、形態的観察によってウイルスのエンベロープが破壊されていると推察された結果(図10)と矛盾しない。
【0062】
in vitroとin vivoでのMGDG調製物の殺ウイルス活性の評価結果を以下の表2にまとめて示す。
【表2】
【0063】
6.クロレラ・ブルガリス、ナンノクロロプシス・オキュラータ、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)及びユーグレナ・グラシリスのMGDGの調製
クロレラ・ブルガリス、ナンノクロロプシス・オキュラータ、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)及びユーグレナ・グラシリスからMGDGを抽出する。各藻類の培養は、各々に適した培地(例えば、クロレラ・ブルガリスであれば、図11に示すC培地、ナンノクロロプシス・オキュラータであれば、図11に示すESM培地、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)であれば、図12に示すMA培地、ユーグレナ・グラシリスであれば、図12に示すHUT培地)を用い、常法で行えばよい(上記コッコミクサ sp. KJ株と同様の培養条件を採用してもよい)。培養液から遠心分離により回収した藻体をドラムドライヤで乾燥させるとともに微粉砕機で粉砕することにより、各藻体の乾燥粉末を得ることができる。乾燥粉末からコッコミクサ sp. KJ株の場合と同様の抽出操作によって、各藻類のMGDG調製物を得ることができる。但し、今回の検討では、各藻類の加工品(クロレラ・ブルガリスは「クロレラ・ブルガリス乾燥粉末」(株式会社葵製茶)、ナンノクロロプシス・オキュラータは「ナンノクロロプシス・オキュラータ凍結品」(マリンテック株式会社)、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)は「スピルリナパウダー」(DICライフテック株式会社)、ユーグレナ・グラシリスは「いのちのユーグレナ極み」(シックスセンスラボ株式会社)とバイオザイム(ユーグレナ)を購入し、MGDGの抽出に供した(抽出操作はコッコミクサ sp. KJ株の場合と同様)。得られた各MGDG調製物を以下の検討に用いる。市販のホウレンソウ(Spinacia oleracea)からも、凍結乾燥後に微粉砕機で粉砕し、MGDGを抽出することによってMGDG調製物を得た。
【0064】
7.牡蠣に濃縮されたノロウイルスを標的とした殺ウイルス活性(ノロウイルスに汚染された牡蠣の浄化試験)
(1)汚染牡蠣の作出
活牡蠣を購入し、水道水流水下、ブラシを使って殻の表面をよく洗浄した後、クリーンベンチ内に静置して紫外線下で殻表面を殺菌する。次に、ろ過(穴径0.2μm;ミリポア社製)滅菌した海水(水温10℃)に殻の表面を紫外線処理した牡蠣を入れ、通気しながら1昼夜絶食飼育する。次いで、あらかじめ調製しておいたマウスノロウイルスのストックを、このろ過滅菌海水に終濃度で2×105 PFU/mlになるように投入する。そして、さらに1昼夜飼育し、マウスノロウイルスに汚染された牡蠣を作出する。
【0065】
(2)MGDG調製海水の作製
MGDG調製物(コッコミクサ sp. KJ株MGDG調製物、クロレラ・ブルガリスMGDG調製物、ナンノクロロプシス・オキュラータMGDG調製物、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)MGDG調製物、ユーグレナ・グラシリスMGDG調製物、ホウレンソウMGDG調製物)又はそれを精製したMGDGにDMSOを添加して均質に懸濁する(MGDG懸濁液)。ついで、ろ過(穴径0.2μm;ミリポア社製)滅菌海水10Lに対してMGDGの終濃度が100ppmになるようにMGDG懸濁液を添加し、白濁したMGDG調製滅菌海水を得る。
【0066】
(3)浄化試験
MGDG処理区は汚染牡蠣を各種MGDG 100ppmのろ過滅菌海水1L入りのビーカーに1個ずつ収容する。対照区(MGDG処理なし)ではMGDG未添加のろ過滅菌海水1L入りビーカーに1個収容して比較とする。海水温を10℃に設定し通気しながら48時間飼育する。48時間経過後、牡蠣を海水から取りあげ、殻から身を取り出し、ろ紙に乗せ、水分をよくふき取る。そして、ビニール袋に入れて-80℃で冷凍保存する。この操作により、牡蠣に蓄積するマウスノロウイルスが流出することなく保存される。尚、実験数は、比較による有意差を見出すに十分な数を設定する。
【0067】
(4)残存マウスノロウイルスの評価
牡蠣の消化管中でマウスノロウイルスは増殖しないので、基本的には、添加したマウスノロウイルスはすべて牡蠣に取り込まれ消化管に蓄積するものと考えられる。(3)で凍結した牡蠣を解凍し、牡蠣から消化管を摘出し、この消化管内を一定量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、その洗浄液をPBSで100倍に希釈する。この100倍希釈液100μlを、前もって単層状に培養しておいた宿主細胞(マウスマクロファージ様細胞であるRAW264.7細胞)に添加し、室温で1時間感染させる。そして、プラークアッセイ用培地を重層し、37℃で2~3日間培養する。プラークの出現を確認後、ニュートラルレッド液で細胞を固定・染色し、顕微鏡下でプラーク数を測定する。初期のマウスノロウイルスの濃度2×105 PFU/mlを基準(100%)とし、48時間後の牡蠣消化管中の生存ウイルス量(相対プラーク数)を算出する。
【0068】
MGDG処理区では、牡蠣汚染したマウスノロウイルスは、取り込まれたMGDGとの接触により感染能力が失われ、宿主細胞からはほとんどプラークが発生しないとの結果が得られる。
【0069】
8.有機物存在下における殺ウイルス効果
ノロウイルス感染者の吐しゃ物や糞便中にはノロウイルスが含まれ、これらによる二次感染が問題となる。また、ノロウイルスは一般に用いられるアルコール系消毒剤では殺ウイルス効果が低いとされ、主に塩素系の消毒剤が使用される。しかし、塩素は吐しゃ物や糞便等に含まれる有機物により分解されることから、塩素系消毒剤では殺ウイルス効果が減衰してしまう。そこで、MGDG調製物が有機物存在下でも殺ウイルス効果を発揮するか検討することにした。
【0070】
<使用したウイルス・試薬等>
ウイルス:ノロウイルスの代替としてネコカリシウイルス(FCV)を使用
使用薬剤と濃度:次亜塩素酸ナトリウム又はコッコミクサ sp. KJ株MGDG調製物 各1,000μg/ml
有機物:BSA(アルブミン) 5%を使用
<方法>
(1)ネコカリシウイルス(FCV)を2×105 PFU/mlに調製する。
(2)MGDG調製物または次亜塩素酸ナトリウムを、最終検定濃度(1,000μg/ml)の4倍濃度に調製する。
(3)有機物としてウシ血清アルブミン(BSA)を最終濃度(5%)の4倍濃度に調製する。
(4)ウイルス液:MGDG調製物または次亜塩素酸ナトリウム:BSA=2:1:1で混合する。MGDG調製物または次亜塩素酸ナトリウムの代わりにPBSを加えたサンプルをコントロールとした。
(5)室温にて1分、10分、60分間放置後、PBSで100倍希釈する。35mm培養皿に単層状に培養したCRFK細胞へ100μl/培養皿の量を加えて、室温で1時間、感染処理する。
(6)1% SeaPlaque Agarose添加MEM培地を重層する。
(7)2日後に、出現したプラークをクリスタルバイオレット液で固定・染色する。
(8)顕微鏡下でプラーク数を計算する。
【0071】
<結果>
図13示す通り、次亜塩素酸ナトリウムは有機物(BSA)が存在しない場合、1分間でウイルスを100%不活化した。しかし、5%の有機物存在下では不活化効果が著しく減弱した。一方で、MGDGの不活化効果は有機物存在下でもほとんど変化がなく、次亜塩素酸ナトリウムと比較して高い不活化効果を示した。
【0072】
9.口唇ヘルペスに対する効果
MGDG調製物の口唇ヘルペスに対する効果を検証した。
<方法>
(1)ハンドクリーム(moina、デンソー製) 30gを準備する。
(2)オリーブ油((株)J-オイルミルズ社製)0.610gにコッコミクサ sp. KJ株MGDG調製物を0.165g加え、混練し溶解させる(MGDG溶解物)。
(3)(1)で用意したハンドクリームに対し、均一になるよう混錬しながらMGDG溶解物を少量ずつ加え、全てを加え終えたものを塗布用サンプルとする。
(4)口唇ヘルペス発症した患者(以下の2名の患者を被験者とした)の患部に対し、毎日(1~3回)適量を塗り込み、患部の様子を経時的に観察する。
患者1:45歳女性;口唇ヘルペスの発症経験(複数回)あり。普段はビダラビンを有効成分とする市販薬アラセナS(佐藤製薬株式会社)を使用して治療し、治癒までに2~3週間を要する。
患者2:25歳男性;口唇ヘルペスの発症経験(複数回)あり。普段は薬を使用せず(自然に治癒するのを待つ)、2~3週後には目立たない程度に回復する。
【0073】
<結果・考察>
観察結果を図14(患者1)と図15(患者2)に示す。患者1では塗布3日目には明らかな改善を認め、塗布5日目には完治に近い状態になった(図14)。また、患者2の場合、塗布2日目から治療効果が認められ、塗布8日目にはほぼ完治した。このように、口唇ヘルペスに対してMGDG調製物は優れた治療効果を発揮した。特筆すべきは、市販薬を凌駕するともいえる驚くべき治療効果が示されたこと(患者1)である。
【0074】
10.MGDG調製物中の成分の同定1
HPLC分析により、コッコミクサ sp. KJ株MGDG調製物には5種類のMGDG(MGDG1、MGDG2、MGDG3、MGDG4、MGDG5と呼称する)が含まれていると推定された。これらのMGDGの構造を明らかにすべく、ガスクロマトグラフィー(GC/FID)を利用して脂肪酸組成を分析した。分析にはBPX90カラム(長さ100m×内径0.25mm、膜厚0.25μm)を使用し、水素をキャリアガスとした。同定用標準試料にはFAME Standard(F.A.M.E. Mix, C4-C24, SUPELCO社製)とMGDG(MGDG plant, Avanti社製)を用いた。
【0075】
各サンプル(MGDG1、MGDG2、MGDG3、MGDG4、MGDG5)のクロマトグラムを図16~20に示す。ここで、C6:0については、一般的な脂質の脂肪酸組成は近接した炭素数(偶数)の脂肪酸も合わせて含まれていることが通常であるところ、今回の分析ではそれらがほとんど検出されなかったため、同ピークは脂肪酸ではない可能性が高いと考えられた。また、Unknown1とUnknown2は、これらのピークの保持時間に検出される脂肪酸は一般的な脂質では想定し難いため、脂肪酸以外の成分である可能性が高いと考えられた。一方、保持時間から、Unknown3及びUnknown4はそれぞれC16:2及びC18:2(n-6以外)と推定された。
【0076】
分析の結果を以下の表3、表4に示す。表3は、各サンプルの脂肪酸組成比を面積百分率法で示したものである。表4はC6:0と不明成分1、2(Unknown1, 2)を除外して算出した結果をまとめたものである。尚、MGDG3については、二つの成分の面積比が3:1と極端に偏っている。これは、脂肪酸残基の組み合わせが、(C18:2(n-6以外)とC18:2(n-6以外))と(C18:2(n-6以外)とC18:3 n3)である2種のMGDGがおよそ1:1の割合で混合していると解釈できる。
【表3】
「-」は不検出を表す。
【表4】
「-」は不検出を表す。
【0077】
以上の通り、MGDG調製物には、(1)構成脂肪酸がC16:3とC18:3(n-3)のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG1)、(2)構成脂肪酸がC16:2とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG2)、(3)構成脂肪酸がC18:2とC18:3(n-3)のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG3)、(4)構成脂肪酸がC18:2とC18:2のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG3)、(5)構成脂肪酸がC16:2とC18:2(n-6)のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG4)、及び(6)構成脂肪酸がC18:2(n-6)とC18:3(n-3)のモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG5)が含有されていることが明らかとなった。
【0078】
11.MGDG調製物中の成分の同定2
トリプル四重極LC/MSシステムを用い、コッコミクサ sp. KJ株MGDG調製物に含まれるMGDGの構造を更に詳細に調べた。
<解析条件>
装置名:トリプル四重極LC/MSシステム
LCカラム:YMC Triant C-18(長さ100mm×内径2.1mm、粒子径1.9μm)
移動相:メタノール、アセトニトリル、水、酢酸アンモニウム
イオン源:ESI
測定モード:MS2 scan、Product ion scan
【0079】
<結果>
分取液体クロマトグラフィー(PLC)で検出した5種のMGDGに加え(10.MGDG調製物中の成分の同定1の欄を参照))、トリプル四重極LC/MS解析により、新たに6個目のMGDGを検出した。これらのMGDG(6個のピーク)について、MS scanとProduct ion scanの結果から、各MGDG(ピーク1:MGDG1、ピーク2:MGDG2、ピーク3:MGDG3、ピーク4:MGDG4、ピーク5:MGDG5、ピーク6:MGDG6)を構成する2つの脂肪酸側鎖を同定することができた。各MGDGの脂肪酸側鎖を以下の表に示す。
【表5】
【0080】
12.各MGDG画分の殺ウイルス活性
MGDG調製物を構成する各MGDG(MGDG1~MGDG5)の殺ウイルス活性を比較した。
<方法>
(1)コッコミクサ sp. KJ株由来のMGDG調製物をHPLCに供し、各ピークを分取することで5種のMGDG精製物(MGDG1、MGDG2、MGDG3、MGDG4、MGDG5)を得た。また、分取前のMGDG調製物(MGDG1~MGDG5を含有する)をMix品として準備した。
(2)各ウイルス液(2×105 PFU/ml)に対し、終濃度50μg/mlとなるように各サンプルを混合し、37℃にて60分間静置した。使用したウイルス及び宿主細胞を表6に示す。
【表6】
(3)(2)の混合液をウシ胎児血清不含MEM培地で希釈後、プラークアッセイ用培地を重層し、37℃で2~3日間培養した。
(4)プラークの出現を確認後、ニュートラルレッド液で細胞を固定・染色し、顕微鏡下でプラーク数を測定した。サンプルを添加しなかった場合のウイルスの出現数を基準(100%)とし、各サンプルのウイルス残存率を算出した。ウイルス残存率から各サンプルの殺ウイルス性能を評価した。
【0081】
<結果・考察>
標的のウイルスによって活性の違いはあるものの、MGDG調製物(Mix品)及びMGDG1~MGDG5の全てについて殺ウイルス(不活化)活性が認められた(図21)。インフルエンザウイルスと単純ヘルペスウイルス2型に対して、MGDG5はMGDG調製物(Mix品)と比較した有意な不活化効果を示した。エンベロープを持たないネコカリシウイルス及びポリオウイルスでは他のサンプルよりも有意に高い活性を示すものはなかった。以上の結果は、MGDG調製物及びそれを構成する各MGDGに殺ウイルス活性があることを裏付けるとともに、MGDG5がインフルエンザウイルスや単純ヘルペスウイルス2型等、エンベロープを持つウイルスに対して特に高い殺ウイルス活性を発揮することを示す。
【0082】
13.各種MGDG調製物の成分比較
コッコミクサ sp. KJ株MGDG調製物、クロレラ・ブルガリスMGDG調製物、ナンノクロロプシス・オキュラータMGDG調製物、アルスロスピラ・プラテンシス(スピルリナ)MGDG調製物、ユーグレナ・グラシリスMGDG調製物及びホウレンソウMGDG調製物を逆相HPLCで分析し、含有成分(MGDG)を比較した。
<HPLC分析条件>
装置名:Alliance2695
カラム:YMC-Actus Triart C18
移動相:メタノール、水、アセトニトリル混合溶液
検出波長:205nm
【0083】
HPLCの測定結果(クロマトグラム)を図22及び図23に示す。クロマトグラムの縦軸は、各サンプルにおけるピーク最大値が1となるように規格化している。
・KJ株のMGDG調製物には、少なくとも5本のピークが検出された。一方、KJ株以外の各生物のMGDG調製物にも、KJ株のMGDG調製物と保持時間が一致するか、または非常に近いピークが少なくとも1本検出された。保持時間が一致するピークについてはKJ株由来のMGDGと同じ化学構造を有すると推定される。
・KJ株MGDG調製物由来の5本のピークにはHSV-2、IFV及びFCVに対する殺ウイルス活性が認められている(12.の実験、図21)。上記の通り、KJ株以外の各生物のMGDG調製物には、KJ株MGDG調製物由来の5本のピークに対応するピークが少なくとも1本認められるため、同様に殺ウイルス活性を有すると推察される。即ち、これらのMGDG調製物にもKJ株MGDG調製物と同様の効果を期待できる。尚、KJ株MGDG調製物の5番目のピークはHSV-2、IFVに対し、高い殺ウイルス活性を持つことがわかっている(図21)。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の殺ウイルス剤は、ウイルス粒子の破壊による不可逆的不活化作用を期待できるものであり、特定のウイルスだけでなく、複数のウイルスに対して殺傷作用を示す。本発明の殺ウイルス剤には、広範な用途(例えばノロウイルス、単純ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス等の感染症の予防や治療)への利用が期待される。一方、本発明の殺ウイルス剤には、その有効成分が単細胞藻類(好ましくは微細藻類)由来の物質であるが故に高い安全性も期待できる。
【0085】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図1
図2
図3
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図5
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図10
図11
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