(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】赤身魚肉の加工方法及び赤身魚肉
(51)【国際特許分類】
A23B 4/16 20060101AFI20231106BHJP
A23B 4/06 20060101ALI20231106BHJP
A23B 4/07 20060101ALI20231106BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20231106BHJP
【FI】
A23B4/16
A23B4/06 501A
A23B4/06 501E
A23B4/07 H
A23L17/00 A
A23L17/00 B
(21)【出願番号】P 2021177294
(22)【出願日】2021-10-29
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】521107518
【氏名又は名称】澤野 裕
(73)【特許権者】
【識別番号】521475808
【氏名又は名称】山城 信行
(73)【特許権者】
【識別番号】521475819
【氏名又は名称】澤野 輝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100103805
【氏名又は名称】白崎 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100126516
【氏名又は名称】阿部 綽勝
(74)【代理人】
【識別番号】100132104
【氏名又は名称】勝木 俊晴
(74)【代理人】
【識別番号】100211753
【氏名又は名称】岡崎 紳吾
(72)【発明者】
【氏名】澤野 裕
(72)【発明者】
【氏名】山城 信行
(72)【発明者】
【氏名】澤野 輝夫
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-058214(JP,A)
【文献】特開平05-336878(JP,A)
【文献】特開平07-123912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を順次行う赤身魚肉の加工方法であって、
冷凍された前記赤身魚肉を切断しサク状の魚肉とするサク状化工程と、
前記サク状の魚肉を第1袋体に収容し、真空状態に密封して真空密封袋体状の魚肉とする真空化工程と、
前記真空密封袋体状の魚肉を解凍する解凍化工程と、
前記真空密封袋体状の魚肉を酸素雰囲気状態の第2袋体に収容し、酸素密封袋体状の魚肉とする酸素雰囲気化工程と、
前記酸素密封袋体状の魚肉を冷蔵し冷蔵状態の魚肉とする冷蔵化工程と、を有する赤身魚肉の加工方法。
【請求項2】
前記冷蔵状態の魚肉を第3袋体に収容し、真空状態に密封して再真空密封袋体状の魚肉とする再真空化工程と、
前記再真空密封袋体状の魚肉を冷凍して完成魚肉とする冷凍化工程と、
をさらに有する請求項1記載の赤身魚肉の加工方法。
【請求項3】
前記解凍化工程が、氷水に密封された前記真空密封袋体状の魚肉を浸漬することにより行われる請求項1又は2記載の赤身魚肉の加工方法。
【請求項4】
前記冷蔵化工程が、前記真空密封袋体状の魚肉を3~4℃の温度下に冷蔵することにより行われる請求項1~3いずれか1項に記載の赤身魚肉の加工方法。
【請求項5】
前記冷凍化工程が、
-23℃~-16℃の温度下で前記再真空密封袋体状の魚肉を冷凍する緩慢冷凍工程と、
その後、-50℃以下の温度下で前記再真空密封袋体状の魚肉を冷凍する急速冷凍工程と、を経る請求項
2記載の赤身魚肉の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤身魚肉の加工方法に関し、更に詳しくは、赤身魚肉の赤色を維持することが可能な赤身魚肉の加工方法、及び当該加工方法により加工された赤身魚肉に関する。
【背景技術】
【0002】
マグロをはじめとする赤身魚肉は、食用として人気があり広く利用されている。この赤身魚肉は、流通上、保存及び輸送のため、いわゆる冷凍加工されることが一般的である。
【0003】
このため、より長期間保存するためや、エネルギー効率の良い冷凍のため、種々のマグロの冷凍方法が開発されている。
例えば、特許文献1の魚体の凍結方法は、冷凍を行う際のエネルギー効率を向上させるため、魚体を網状体内に収納し、金属製の凍結パンに載置して凍結させるというものである。
【0004】
また、赤身魚肉は、その色合いが品質として評価されるところ、この色合いを改善するための凍結方法が開発されている(特許文献2)。
これは、冷凍された赤身魚肉を外周側から加温して当該赤身魚肉の表層を解凍する表層解凍化工程と、再度赤身魚肉を凍結させる再冷凍工程とを有するものである。
【0005】
さらに、赤身魚肉においては冷凍及び解凍の工程においてドリップ(水分)が流出し、ドリップ流出が品質の低下の原因となるところ、これを抑制する処理方法が開発されている(特許文献3)。
これは、魚肉表面を冷風により乾燥した後、当該魚肉を食塩水に浸漬することによって表面をゲル化する処理方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-120492号公報
【文献】特開2015-65831号公報
【文献】国際公開第2009/19960号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、赤身魚肉は冷凍して保存されることが一般的であり、食用に供する際には前もって解凍する必要がある。この解凍の際に、赤身魚肉の赤色の鮮明さが維持できずくすんだ色となってしまう場合があり、赤身魚肉の品質を低下させる。
赤身魚肉は赤色を呈するがこれは魚肉中の色素が酸素と結合することによるものである。赤身魚肉の解凍の際に変色してしまうのは、この酸素が色素細胞から分離してしまうことが原因である。
赤身魚肉の変色は、品質の低下を示すものである。
すなわち、赤身魚肉における赤色の鮮明さは、品質の良さを示すものであるといってよい。
【0008】
ところで、前述の特許文献1の凍結方法においては、赤身魚肉の変色やドリップの流出についての考慮はなされていない。
特許文献2の凍結方法においては、表層解凍化工程で赤身魚肉の表層に温風を吹き付けており、必然的に赤身魚肉が加温されることによって変質し、品質の低下が免れない。
特許文献3の魚肉処理方法においては、魚肉の表面を乾燥し、食塩水に浸漬することによりゲル化させるものであることから、必然的に魚肉の表面は変質してしまう。したがって、この場合も品質の低下は避けられない。
【0009】
冷凍された赤身魚肉の解凍方法として、冷蔵庫内での解凍、常温下での自然解凍、温水中又は冷水中での解凍がある。
これらは、いずれもスペースと時間を要し、赤身魚肉の品質を保ったまま解凍するには熟練が必要である。
また、解凍した赤身魚肉を保存のために再度冷凍すると、変色の原因となることが通常である。
【0010】
赤身魚肉は解凍された状態で小売される場合が多い。
しかしながら、赤身魚肉を解凍した状態に置いておくと、品質の低下が速くなる。
【0011】
本発明は、上述の課題を受けて開発されたものである。
すなわち、本発明は赤身魚肉の赤色の鮮明さを保ち、すなわち品質を維持することが可能である赤身魚肉の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は鋭意検討の結果、解凍された赤身魚肉を酸素雰囲気状態で冷蔵し、さらに真空状態で冷凍することにより、従来の問題点を解決することが可能であることを見出した。本発明はこの知見に基づく。
【0013】
本発明は(1)、以下の工程を順次行う赤身魚肉の加工方法Aであって、冷凍された赤身魚肉を切断しサク状の魚肉F1とするサク状化工程S1と、サク状の魚肉F1を第1袋体1に収容し、真空状態に密封して真空密封袋体状の魚肉F2とする真空化工程S2と、真空密封袋体状の魚肉F2を解凍する解凍化工程S3と、真空密封袋体状の魚肉F2を酸素雰囲気状態の第2袋体2に収容し、酸素密封袋体状の魚肉F3とする酸素雰囲気化工程S4と、酸素密封袋体状の魚肉F3を冷蔵し冷蔵状態の魚肉F4とする冷蔵化工程S5と、を有する赤身魚肉の加工方法Aに存する。
【0014】
本発明は(2)、冷蔵状態の魚肉F4を第3袋体3に収容し、真空状態に密封して再真空密封袋体状の魚肉F5とする再真空化工程S6と、再真空密封袋体状の魚肉F5を冷凍して完成魚肉F6とする冷凍化工程S7と、をさらに有する上記(1)記載の赤身魚肉の加工方法Aに存する。
【0015】
本発明は(3)、解凍化工程S3が、氷水に密封された真空密封袋体状の魚肉F2を浸漬することにより行われる上記(1)又は(2)記載の赤身魚肉の加工方法Aに存する。
【0016】
本発明は(4)、冷蔵化工程S5が、真空密封袋体状の魚肉F2を3~4℃の温度下に冷蔵することにより行われる上記(1)~(3)いずれか1つに記載の赤身魚肉の加工方法Aに存する。
【0017】
本発明は(5)、冷凍化工程S7が、-23℃~-16℃の温度下で再真空密封袋体状の魚肉F5を冷凍する緩慢冷凍工程S7aと、その後、-50℃以下の温度下で再真空密封袋体状の魚肉F5を冷凍する急速冷凍工程S7bと、を経る上記(2)記載の赤身魚肉の加工方法Aに存する。
【発明の効果】
【0019】
赤身魚肉の加工方法Aにおいては、真空密封袋体状の魚肉F2を酸素雰囲気状態の第2袋体2に収容し、酸素密封袋体状の魚肉F3とする酸素雰囲気化工程S4を有することにより、赤身魚肉の細胞中の水分が排出され、かつ赤身魚肉内の細胞内の色素が酸素と結合する。
このため、赤身魚肉の赤色の鮮明さを維持することが可能となる。また、冷凍して解凍したとしても赤身魚肉の変色を抑えることが可能となる。
【0020】
赤身魚肉の加工方法においては、再真空化工程S6と、冷凍化工程S7とをさらに有することにより、食用時の解凍方法によらずに、赤身魚肉の赤色の鮮明さを維持することが可能となる。
また、解凍後に再度冷凍しても赤身魚肉の変色を抑えることが可能となる。
【0021】
赤身魚肉の加工方法Aにおいては、解凍化工程S3が、氷水に密封された赤身魚肉を浸漬することにより行われることで、赤身魚肉の細胞中で酸素の移動が起こらず、赤身魚肉の色合いを維持することが可能となる。
【0022】
赤身魚肉の加工方法Aにおいては、冷蔵化工程S5が、真空密封袋体状の魚肉F2を収容した第2袋体2に酸素を注入し、第2袋体2を3~4℃の温度下に冷蔵することにより行われる。
これにより、赤身魚肉の細胞内の水分が排出され、細胞内の色素が酸素と結合する。したがって、赤身魚肉の赤色の鮮明さを保ち、品質を維持することが可能となる。
【0023】
本発明の加工方法においては、緩慢冷凍工程S7aと急速冷凍工程S7bと、を経ることにより、赤身魚肉の品質維持と、長期保存とを同時に実現することが可能となる。
緩慢冷凍工程S7aにおいては、-23℃~-16℃の温度下で再真空密封袋体状の魚肉F5を冷凍することにより、氷の結晶が鋭利な形状で急速に成長することを抑制することができる。
したがって、赤身魚肉の細胞が氷の結晶によって傷つくことを防止することができ、品質を維持することができる。
また、急速冷凍工程S7bにおいては、-50℃以下の温度下で再真空密封袋体状の魚肉F5を冷凍することにより、赤身魚肉を長期にわたって品質を維持したまま保存することが可能となる。
【0024】
本発明の加工方法Aにより加工された完成魚肉F6(赤身魚肉)は、食用時の解凍方法によらず、赤身魚肉の赤色の鮮明さを維持することが可能となる。
また、解凍後に再度冷凍しても赤身魚肉の変色を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、赤身魚肉の加工方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、真空化工程を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、赤身魚肉の細胞内の色素と酸素との関係を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、赤身魚肉の細胞内の水分が氷となる状態を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、冷蔵化工程を説明する模式図である。
【
図6】
図6は、追加工程を有する赤身魚肉の加工方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、再真空化工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0027】
本発明の加工方法に用いられる赤身魚肉は、主に海洋漁業により得られた魚を用いる。 赤身魚肉の原料となる魚は、釣り上げられると船上で一度血抜きされ、魚形状を保ったまま内蔵及びエラ等を取り除かれた状態で冷凍されることが一般的であり、冷凍されたままの状態で陸揚げされる。
本発明の加工方法は、このような冷凍された赤身魚肉に対して行うものである。
【0028】
船上における魚の冷凍は、通常、約-60℃で行われ、およそ72時間かけて魚体の中心部が当該温度まで冷却される。
この場合、中心部を含めた魚体がより短時間で低温度となることで、赤身魚肉の品質の劣化を防止し、鮮明な赤色を保つことが可能となる。
【0029】
図1は、赤身魚肉の加工方法Aを示すフローチャートである。
本発明の赤身魚肉の加工方法Aは、順次、サク状化工程S1、真空化工程S2、解凍化工程S3、酸素雰囲気化工程S4、冷蔵化工程S5を経ることで達成される。
【0030】
サク状化工程S1においては、出発材料である冷凍された魚形状の赤身魚肉を、例えば16cm×5~7cm×2~2.2cmの厚板状(いわゆる「サク」)のサク状の魚肉F1となるように切断する。
この場合、サク状の魚肉F1の重さは、約190~200g程度となる。
ちなみに、赤身魚肉の切断には、バンドソー等の切断工具を好適に用いることが可能である。
【0031】
図2は、真空化工程S2を説明する模式図である。
真空化工程S2においては、サク状化工程S1においてサク状に加工されたサク状の魚肉F1を真空状態に密封し、真空密封袋体状の魚肉F2とする。
この真空化工程S2においては、サク状の魚肉F1の表面の汚れを水洗等により落として第1袋体1に収容し、その後、当該第1袋体1の内部を真空状態にする。
これにより、サク状の魚肉F1が、真空密封袋体状の魚肉F2となる。
真空化工程S2には、公知の真空包装機を好適に利用することができる。
なお、サク状の魚肉F1および真空密封袋体状の魚肉F2は、いずれも冷凍状態である。
第1袋体1には、合成樹脂フィルム製の袋を好適に利用することができる。
【0032】
解凍化工程S3においては、冷凍され、かつ真空状態に密封された真空密封袋体状の魚肉F2を解凍する。
この解凍化工程S3においては、第1袋体1に密封された真空密封袋体状の魚肉F2を、密封状態のまま-1℃~0℃の氷水に一定時間浸漬することで、真空密封袋体状の魚肉F2の内部まで完全に解凍することができる。
解凍化工程S3において、氷水に浸漬することにより真空密封袋体状の魚肉F2を解凍することにより、魚肉の細胞内の結晶化した水分が緩慢に液状となり、細胞を傷つけることを抑制することができる。
また、魚肉を真空に密封した状態で解凍するため、魚肉の細胞に外部から水分が侵入することを防止することが可能となる。
【0033】
図3は、赤身魚肉の細胞S内の色素Cと酸素Oを説明する模式図である。
ここで、赤身魚肉の冷凍及び解凍において、赤身魚肉が変色し、赤色の鮮明さが失われる機構について述べる。
赤身魚肉は、赤身魚肉の細胞Sの中に存在する色素Cが、酸素Oと結合することにより赤色を呈している。
この酸素Oが失われることが、赤身魚肉が変色する原因である。
赤身魚肉の色素Cは、酸素Oが少ない環境下においては酸素Oを外部に放出する。
したがって、酸素Oが多い環境下にして、赤身魚肉の細胞S内に十分に酸素Oを供給することで色素Cが酸素Oを失うことがない。
そのため赤身魚肉の変色を抑え赤色の鮮明さを保つことが可能となる。
すなわち、赤身魚肉の品質を保つことが可能となる。
【0034】
図4は、赤身魚肉の細胞Sの中の水分が氷Iとなる状態を説明する模式図である。
赤身魚肉を構成する細胞Sの中には水分が含まれているところ、赤身魚肉を冷凍すると当該水分が氷Iとなり、結晶化する。氷Iの結晶は鋭利な構造をしているため、赤身魚肉の細胞Sを傷つけ、品質低下の原因となる。
【0035】
また、魚類は哺乳類等と比較して、排泄機能が発達していないことから、細胞S内に多くの老廃物Dが残存している。
当該老廃物Dは、雑味等の原因となる。
さらに、かかる老廃物Dは酸素Oと結合するため、赤身魚肉の色素Cから酸素Oを奪い、変色の原因となる。
したがって、老廃物Dを除くことで赤身魚肉の変色を抑え、品質を向上させることができる。
老廃物Dは細胞S内の水分中に存在しているため、細胞S内の水分を排出することで赤身魚肉の品質を向上させることが可能となる。
【0036】
図5は、酸素雰囲気化工程S4を説明する模式図である。
酸素雰囲気化工程S4においては、解凍された真空密封袋体状の魚肉F2を酸素雰囲気下で加圧し、酸素密封袋体状の魚肉F3とする。
すなわち解凍した真空密封袋体状の魚肉F2を第1袋体1から取り出し、吸水シート4を敷いたチャック付きの第2袋体2に収容する。
そして、当該第2袋体2内へ酸素を供給することで、第2袋体内2の気圧が1気圧よりも大きくなるように加圧する。
このとき、色素Cと酸素Oの結合の観点から、酸素分圧が1.5気圧より大きいことが好ましく、1.9気圧よりも大きいことがより好ましい。
そして、2.0気圧よりも大きいことが更に好ましい。
酸素を供給した後、第2袋体2のチャックを閉じて密封する。
酸素密封袋体状の魚肉F3(赤身魚肉)が加圧されることで、赤身魚肉の細胞内の水分が排出される。
このとき、細胞内の水分を、少なくとも体積比で10%程度排出することが好ましい。
このとき、水分中に含まれる老廃物も同時に外部へ排出される。赤身魚肉から排出された水分及びこれに含まれる老廃物は、吸水シート4へ吸収され、再度赤身魚肉に吸収されることを防止することができる。
第2袋体2には、合成樹脂フィルム製の袋を好適に利用することができる。
【0037】
十分な酸素を供給することで、赤身魚肉中に含まれる色素が酸素と結合し、赤身魚肉がより鮮やかな赤色を呈することとなる。
また、圧力を加えて酸素密封袋体状の魚肉F3(赤身魚肉)の細胞中から水分を排出することで、氷の結晶の生成が抑制され、赤身魚肉の品質を維持することが可能となる。
さらに、水分と同時に老廃物を排出することで、赤身魚肉の品質を向上させることが可能となる。
また、後に冷凍された場合には水が氷となることで体積が増加することから、細胞中の水分が氷となることで細胞の破壊が起きる。
赤身魚肉の細胞中から水分を除くことにより、このような現象を極力抑制することができる。
【0038】
冷蔵化工程S5においては、酸素密封袋体状の魚肉F3を冷蔵し、冷蔵状態の魚肉F4とする。
酸素雰囲気状態で加圧された第2袋体2は、細胞からの水分の排出、及び色素と酸素との結合が十分に促進されるよう、例えば、3~4℃の温度下で、7~8時間程度冷蔵する。
【0039】
上記の各工程を経て出発材料である赤身魚肉を冷蔵状態の魚肉F4とすることで、赤身魚肉の赤色の鮮明さを維持することが可能となる。
また、この方法により得られた冷蔵状態の魚肉F4(赤身魚肉)は、冷凍して解凍したとしても変色を抑え、赤色の鮮明さを保つことが可能となる。
また、冷蔵状態の魚肉F4は、冷蔵状態を維持することで10~20日程度、赤色の鮮明さを維持したまま保存することが可能となる。
【0040】
次に述べる赤身魚肉の加工方法Aは、冷蔵化工程S5の後に、更に順次、追加工程である再真空化工程S6、及び冷凍化工程S7を経るものである。
図6は追加工程を有する赤身魚肉の加工方法Aを示すフローチャートである。
【0041】
図7は、再真空化工程S6を説明する模式図である。
再真空化工程S6においては、冷蔵化工程S5を経た赤身魚肉を別の第3袋体3に入れ替えて収容し、再度真空状態に密封して再真空密封袋体状の魚肉F5とする。
再真空化工程S6においては、先述した真空化工程S2と同様の器具、手法を用いることができる。
また、第3袋体3には第1袋体1と同様の、合成樹脂フィルム製の袋を好適に用いることができる。
このとき、再真空密封袋体状の魚肉F5の細胞内には十分に酸素が存在するため、真空状態に密封されても再真空密封袋体状の魚肉F5は鮮やかな赤色を呈したままの状態となる。
【0042】
次の冷凍化工程S7においては、再真空化工程S6により密封された再真空密封袋体状の魚肉F5を内部まで冷凍し、完成魚肉F6とする。
この冷凍化工程S7は、緩慢冷凍工程S7aと、その後に行われる急速冷凍工程S7bとよりなる。
緩慢冷凍工程S7aにおいては、真空状態に密封された再真空密封袋体状の魚肉F5を-23℃~-16℃の温度下で冷凍し、約18~22時間程度をかけて、赤身魚肉を中心部まで凍結させる。
急速冷凍工程S7bにおいては、緩慢冷凍工程S7aにおいて冷凍された再真空密封袋体状の魚肉F5を-50℃以下の温度下で冷凍することで完成魚肉F6とする。
なお、このとき約20時間で、赤身魚肉の中心部まで-50℃以下となる。
【0043】
緩慢冷凍工程S7aにおいては、赤身魚肉内の水分が氷の結晶となる。
なお、酸素雰囲気化工程S4において、赤身魚肉内からは水分が排出されているが、完全に排出されるものではなく、赤身魚肉の細胞Sにはなお一定量の水分が留まっている。
これを-23℃~-16℃の温度下で行うことにより、氷の結晶が鋭利な形状で急速に成長することを抑制することができる。
したがって、赤身魚肉の細胞が氷の結晶によって傷つくことを防止することができ、品質を維持することができる。
より好ましくは、―20℃の温度下で20時間程掛けて冷凍することで、より氷の結晶の成長を抑えながら、魚肉の中心部まで完全に冷凍することが可能となる。
また、急速冷凍工程S7bにおいては、赤身魚肉を中心部まで-50℃とすることにより、赤身魚肉を長期にわたって品質を維持したまま保存することが可能となる。
このとき、緩慢冷凍工程S7aにおいて氷の結晶が鋭利な形状となることが抑制されているため、細胞が傷つくことがない。
以上の通り、冷凍化工程S7が、緩慢冷凍工程S7aと急速冷凍工程S7bとからなることにより、完成魚肉F6(赤身魚肉)の品質維持と、長期保存とを同時に実現することが可能となる。
また、追加工程により完成魚肉F6は冷凍状態となっており、冷蔵状態に比してより長期間の保存が可能となる。
また、完成魚肉F6は、より上の温度での冷凍状態、例えば飲食店等の業務用冷凍庫で一般的に用いられるー20℃程度の冷凍状態で、赤色の鮮明さを維持したまま20~30日程保存することが可能となる。
【0044】
図8は、完成魚肉F6を説明する模式図である。
以上の方法により加工された完成魚肉F6(赤身魚肉)は、解凍して食用とすることができる。
このとき、冷蔵庫内での解凍、温水又は冷水に浸漬することによる解凍、又は常温下での解凍等、解凍の方法によらず赤身魚肉の色合いの鮮明さを維持することが可能であり、消費者が冷凍状態で購入した後、食用時に容易に家庭で解凍することができる。
また、冷蔵化工程S5により赤身魚肉内の水分及び老廃物が排出されている状態であり、かつ赤身魚肉内の色素が酸素と強固に結合している状態であるため、再度冷凍したとしても、赤身魚肉の色合いを維持することが可能となる。
したがって、赤身魚肉の一部を利用し、残りを再度冷凍保存するといった利用方法に用いることができる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0046】
冷蔵化工程S5においては、酸素に加えて不活性化ガス等、赤身魚肉の品質維持・向上のための各種の食品添加用ガスを加えることが可能である。
【0047】
第1袋体1、第2袋体2、及び第3袋体3は、同一の袋体を利用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の赤身魚肉の加工方法Aは、解凍方法によらず、赤身魚肉の赤色を維持することが可能であり、かつ、解凍後に再度冷凍しても赤身魚肉の変色を抑えることが可能であることから、マグロをはじめ種々の食用の魚肉に対して適用可能である。
また、本発明の加工方法Aにより加工された赤身魚肉は、家庭及び産業向けの食用として、広く供することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
A・・・赤身魚肉の加工方法
S1・・・サク状化工程
S2・・・真空化工程
S3・・・解凍化工程
S4・・・酸素雰囲気化工程
S5・・・冷蔵化工程
S6・・・再真空化工程
S7・・・冷凍化工程
S7a・・・緩慢冷凍工程
S7b・・・急速冷凍工程
1・・・第1袋体
2・・・第2袋体
3・・・第3袋体
4・・・吸水シート
F・・・赤身魚肉
F1・・・サク状の魚肉
F2・・・真空密封袋体状の魚肉
F3・・・酸素密封袋体状の魚肉
F4・・・冷蔵状態の魚肉
F5・・・再真空密封袋体状の魚肉
F6・・・完成魚肉
S・・・細胞
C・・・色素
O・・・酸素
I・・・氷
D・・・老廃物