(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】スピルリナにおける標的化された突然変異誘発
(51)【国際特許分類】
C12N 15/90 20060101AFI20231106BHJP
C12N 1/13 20060101ALI20231106BHJP
C12N 15/64 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C12N15/90 100Z
C12N1/13 ZNA
C12N15/64 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019105177
(22)【出願日】2019-06-05
(62)【分割の表示】P 2017511896の分割
【原出願日】2015-09-09
【審査請求日】2019-06-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-07
(32)【優先日】2014-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517208285
【氏名又は名称】ルーメン バイオサイエンス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】武内 亮
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ロバーツ
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】加々美 一恵
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-253863(JP,A)
【文献】特開2004-24232(JP,A)
【文献】特表2017-526372(JP,A)
【文献】ALGAE AND THEIR BIOTECHNOLOGICAL POTENTIAL、2001、p263~269、URL、https://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-94-015-9835-4_20
【文献】Marine Biotechnology、2004年、6、p355-363
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然に存在しない安定な形質転換体スピルリナであって、
前記形質転換体スピルリナは、あらかじめ決定されたゲノム位置においてスピルリナゲノムの中に組み込まれた、少なくとも1つの導入され標的化されたヌクレオチド突然変異を含み、
前記形質転換体スピルリナは、
ポリエーテル浸透圧安定剤とスピルリナを接触させること;
前記あらかじめ決定されたゲノム位置に隣接する領域と相同なヌクレオチド配列を含む2つのヌクレオチドホモロジーアームと前記ヌクレオチドホモロジ-アーム間のヌクレオチド突然変異を有するヌクレオチド配列を有するベクターと、前記スピルリナを接触させること;および、
前記スピルリナにおいて、エレクトロポレーションにより人工的コンピテンスを誘導すること;を含む、相同組換え方法で製造され、
ここで、前記
少なくとも1つの導入され標的化されたヌクレオチド突然変異
は、相同組換えのために使用される
前記ベクター内に含まれる2つのヌクレオチドホモロジーアームと相同なヌクレオチドの領域に隣接し、
ここで、前記導入され標的化されたヌクレオチド突然変異が、少なくとも50世代の間安定である、形質転換体スピルリナ。
【請求項2】
前記スピルリナがArthrospira platensisまたはArthrospira maximaである、請求項1に記載のスピルリナ。
【請求項3】
前記スピルリナがArthrospira platensisのNIES-39またはArthrospira sp. PCC 8005である、請求項2に記載のスピルリナ。
【請求項4】
前記
少なくとも1つの導入され標的化された
ヌクレオチド突然変異が、遺伝子の少なくとも一部分の欠失または破壊を含む、請求項1に記載のスピルリナ。
【請求項5】
前記
少なくとも1つの導入され標的化された
ヌクレオチド突然変異が内在性遺伝子の追加コピーの追加または外来性遺伝子の追加を含む、請求項1に記載のスピルリナ。
【請求項6】
前記
少なくとも1つの導入され標的化された
ヌクレオチド突然変異が遺伝子調節エレメントの追加を含む、請求項1に記載のスピルリナ。
【請求項7】
前記遺伝子調節エレメントが、プロモーター、調節タンパク質結合部位、RNA結合部位、リボソーム結合部位、またはRNA安定性エレメントである、請求項6に記載のスピルリナ。
【請求項8】
前記
少なくとも1つの導入され標的化された
ヌクレオチド突然変異が外来性タンパク質ドメインの追加を含む、請求項1に記載のスピルリナ。
【請求項9】
前記外来性タンパク質ドメインが、リン酸化部位、安定性ドメイン、タンパク質標的化ドメイン、またはタンパク質-タンパク質相互作用ドメインである、請求項8に記載のスピルリナ。
【請求項10】
前記内在性遺伝子がフィコシアニンをコード
し、野生型スピルリナと比較して増加した量のフィコシアニンを産生
する、請求項5に記載のスピルリナ。
【請求項11】
前記
少なくとも1つの導入され標的化されたヌクレオチド突然変異が、ヌクレオチド配列を挿入または欠失する相同組換えのために使用される2つのヌクレオチド領域に隣接する、請求項1に記載の天然に存在しない安定な形質転換体スピルリナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2014年9月9日に出願された米国仮特許出願第62/047,811号の優先権を主張し、その全体は参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列リスト
本出願に関連する配列リストは、紙コピーの代わりにテキスト形式で提供され、参照により本明細書の中に援用される。配列リストを含有するテキストファイルの名称はM077-0017PCT_ST25.txtである。テキストファイルは約73KBであり、2015年9月9日に生成され、EFSウェブ経由で電子的に提出されている。
【背景技術】
【0003】
シアノバクテリア(藍藻類とも呼ばれる)は、クロロフィルA及び水を使用して、二酸化炭素を還元しエネルギー含有化合物を生成する光合成生物である。スピルリナは、種Arthrospira platensis及びArthrospira maximaを含む、浮遊性の糸状シアノバクテリアである。これらの2つの種は、以前はSpirulina属に分類されたが、現在、Arthrospira属に分類される。しかしながら、「スピルリナ」という用語の使用は残っている。
【0004】
シアノバクテリアは、一般的には遺伝子操作に適する。しかしながら、スピルリナのための遺伝子操作ツールは限定されている。遺伝子操作のための多くの技法は、細菌細胞の中へ外来性(異種)の遺伝物質を導入することに基づく。細胞は、周囲の環境から遺伝物質を取り込む「コンピテンス」の状態でなくてはならない。いくつかのタイプの細菌は、遺伝物質を天然で取り込むことができる。これらのタイプの細菌は「天然のコンピテンス」を有すると称される。より一般には、「人工的コンピテンス」は細胞を一時的に遺伝物質に対して透過性のあるようにすることによって誘導される。外側の細胞膜の透過性を増加させることによって人工的コンピテンスを導入するための技法には、化学溶液中でのインキュベーション、熱ショック、及び細胞を電場へさらすエレクトロポレーションが含まれる。外来性遺伝物質を取り込み、ゲノムの中への新しい遺伝物質を組み入れる、コンピテンスの状態である細胞は、「形質転換」を受ける予定であると言われる。
【0005】
スピルリナ染色体の中へのDNAのランダムな組み込みによって形質転換することが困難であると、スピルリナは長らく認識されており、本出願人は、特異的なあらかじめ決定された染色体位置の中へのDNAの標的化された導入によるスピルリナゲノムの改変を主張するいかなる報告も承知していない。クロラムフェニコール耐性についての遺伝子を導入するためにエレクトロポレーションを使用する試みは、特定のエレクトロポレーション条件下でクロラムフェニコール耐性をもたらしたが、形質転換は安定的ではなかった(すなわち、クロラムフェニコール耐性は持続的にならなかった)。強いプロモーターへカップルされたクロラムフェニコール耐性遺伝子でエレクトロポレーションの使用によってスピルリナを形質転換する、続いて行なわれた試みは、クロラムフェニコールの存在下において12か月間細胞の増殖を達成したが、この方法は、クロラムフェニコール耐性遺伝子がスピルリナ染色体中でランダムな(標的化されてない)位置に位置することのみを可能にし、外来性DNAのこのランダムな組み込みでさえも確定的に実証されなかった。近年、ランダム突然変異誘発は、大気圧常温プラズマ(ARTP)を使用して、S.platensis(A.platensis)中で達成された。しかしながら、ランダム突然変異誘発は外来性遺伝物質の導入を介してスピルリナ細胞を形質転換せず、むしろ、突然変異がゲノム中のランダムな部位で導入されてしまう。シアノバクテリア(特にスピルリナ)の中へ、あらかじめ決定された染色体位置で外来性DNAを安定的に導入するやり方についての理解の欠如から、他の生物体(E.coliまたは酵母等)と比較して、シアノバクテリアで作業することは難題であると認識される。ランダム突然変異誘発によりある程度のレベルの成功があったが、本研究は、外来性遺伝子の導入及び発現によってS.plantensisを突然変異させるための効果的なシステムが持続的に欠如していることにもハイライトを当てた。さらに、上記の技法のどれも、スピルリナゲノムの特異的な前もって決定された領域への標的化された突然変異の導入を試みていない。
【0006】
スピルリナにおいて安定的な形質転換体を効率的に生成する技法についての必要性は依然として存在する。さらに、スピルリナゲノム中への突然変異の標的化された導入を可能にする技法についての必要性もある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、スピルリナのゲノムへの安定的な標的化された突然変異の導入のための技法を記載する。本開示は、安定的な標的化された突然変異を含有するように改変されたスピルリナも記載する。加えて、本開示は、1つまたは複数の安定的な標的化された突然変異を含むように改変されたスピルリナを使用して対象となる製品を製造するための技法を記載した。
【0008】
本開示は、浸透圧安定剤とスピルリナを接触させること、ホモロジーアームを有するベクターとスピルリナを接触させること、及びスピルリナにおいて人工的コンピテンスを誘導することによって、スピルリナにおいて標的化された突然変異を生成する方法を記載する。一実施形態において、スピルリナは、Athrospiria platensisのNIES-39またはArthrospira sp. PCC 8005であり得る。浸透圧安定剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール、グリセロール、ブドウ糖、ショ糖、またはその任意の組み合わせであり得るが、これらに限定されない。ベクターは、DNAベクター、直線状ベクター、環状ベクター、単一鎖ポリヌクレオチド、または二本鎖ポリヌクレオチドであり得る。一実施形態において、ベクターは例えばpApl-pilA/aadAプラスミドであり得る。
【0009】
一実施形態において、ホモロジーアームは同じ長さであり得る。一実施形態において、ホモロジーアームは異なる長さであり得る。ホモロジーアームの1つまたは両方は、少なくとも約500bp、少なくとも約1000bp、少なくとも約1500bp、または少なくとも約2000bpであり得る。
【0010】
一実施形態において、人工的コンピテンスは、原核生物細胞において人工的コンピテンスを導入するための任意の公知の技法(二価陽イオンを含有する溶液中でのインキュベーション、エレクトロポレーション、及び超音波が含まれる)によっても誘導され得る。
【0011】
一実施形態において、本方法はpHバランサーとスピルリナを接触させることも含み得る。スピルリナは、ベクターとスピルリナを接触させる前または後にpHバランサーに接触させることができる。一実施形態において、pHバランサーとの接触後のスピルリナのpHは約7.0~約8.0である。
【0012】
本開示は、少なくとも1つの安定的な標的化された突然変異を含むスピルリナを記載する。一実施形態において、スピルリナは、Athrospiria platensis、Athrospiria platensisのNIES-39、またはArthrospira maximaである。一実施形態において、安定的な標的化された突然変異は、少なくとも5世代、少なくとも10世代、少なくとも20世代、少なくとも30世代、少なくとも40世代、または少なくとも50世代の間、遺伝的に継承される。突然変異は、任意のタイプのゲノムへの改変(遺伝子の少なくとも一部分の欠失若しくは破壊、内在性遺伝子の追加コピーの挿入、または外来性遺伝子の追加が含まれる)であり得る。一実施形態において、標的化された突然変異には、外来性のタンパク質ドメインの追加(翻訳後修飾部位、タンパク質安定化ドメイン、細胞局在シグナル、及びタンパク質-タンパク質相互作用ドメインが含まれる)が含まれ得る。一実施形態において、標的化された突然変異は、タンパク質へと翻訳されない核酸配列の追加を含み、それらには、非コーディングRNA分子、遺伝子調節エレメント、プロモーター、調節タンパク質結合部位、RNA結合部位、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、またはRNA安定化エレメントが含まれるが、これらに限定されない。
【0013】
本開示は、少なくとも1つのタンパク質の遺伝子座の少なくとも一部分と相同な配列及び改変を含む少なくとも1つのDNAコンストラクトによるスピルリナ細胞の形質転換ならびに前記遺伝子座での前記DNAコンストラクトの組み込みによって前記タンパク質の遺伝子座で前記改変を導入した結果として、少なくとも1つのタンパク質を欠くスピルリナ細胞であって、他の点ではその生来の様式で機能することが可能な該スピルリナ細胞も記載する。
本開示の特定の態様では、例えば以下の項目が提供される:
(項目1)
少なくとも1つの安定的な標的化された突然変異を含む、スピルリナ。
(項目2)
前記スピルリナがAthrospira platensisまたはArthrospira maximaである、項目1に記載のスピルリナ。
(項目3)
前記スピルリナがAthrospira platensisのNIES-39またはArthrospira sp. PCC 8005である、項目2に記載のスピルリナ。
(項目4)
前記安定的な標的化された突然変異が、少なくとも10世代の間遺伝的に継承される、項目1に記載のスピルリナ。
(項目5)
前記安定的な標的化された突然変異が、前記スピルリナの染色体の中へ組み込まれる、項目1に記載のスピルリナ。
(項目6)
前記標的化された突然変異が、遺伝子の少なくとも一部分の欠失または破壊を含む、項目1に記載のスピルリナ。
(項目7)
前記標的化された突然変異が内在性遺伝子の追加コピーの追加または外来性遺伝子の追加を含む、項目1に記載のスピルリナ。
(項目8)
前記標的化された突然変異が遺伝子調節エレメントの追加を含む、項目1に記載のスピルリナ。
(項目9)
前記遺伝子調節エレメントが、プロモーター、調節タンパク質結合部位、RNA結合部位、リボソーム結合部位、またはRNA安定性エレメントである、項目8に記載のスピルリナ。
(項目10)
前記標的化された突然変異が外来性タンパク質ドメインの追加を含む、項目1に記載のスピルリナ。
(項目11)
前記外来性タンパク質ドメインが、リン酸化部位、安定性ドメイン、タンパク質標的化ドメイン、またはタンパク質-タンパク質相互作用ドメインである、項目10に記載のスピルリナ。
(項目12)
スピルリナにおいて標的化された突然変異を生成する方法であって、浸透圧安定剤と前記スピルリナを接触させることと;ホモロジーアームを有するベクターと前記スピルリナを接触させることと;前記スピルリナにおいて人工的コンピテンスを誘導することとを含む、前記方法。
(項目13)
前記スピルリナがSpirulina platensisである、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記スピルリナがAthrospira platensisのNIES-39またはArthrospira sp. PCC 8005である、項目12に記載の方法。
(項目15)
前記浸透圧安定剤がポリエチレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、グルコース、またはショ糖のうちの少なくとも1つである、項目12に記載の方法。
(項目16)
前記ベクターが、DNAベクター、直線状ベクター、環状ベクター、一本鎖ポリヌクレオチド、または二本鎖ポリヌクレオチドである、項目12に記載の方法。
(項目17)
前記ベクターが、配列番号:1、配列番号:2または配列番号:4を有するベクターを含む、項目12に記載の方法。
(項目18)
前記ホモロジーアームのうちの少なくとも1つが少なくとも500bpである、項目12に記載の方法。
(項目19)
前記ホモロジーアームのうちの少なくとも1つが少なくとも1000bpである、項目12に記載の方法。
(項目20)
前記ホモロジーアームのうちの少なくとも1つが少なくとも2000bpである、項目12に記載の方法。
(項目21)
前記人工的コンピテンスがエレクトロポレーションによって誘導される、項目12に記載の方法。
(項目22)
pHバランサーと前記スピルリナを接触させることを更に含む、項目12に記載の方法。
(項目23)
前記pHバランサーと前記スピルリナを接触させることが、前記ベクターと前記スピルリナを接触させることの前である、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記スピルリナ及び前記pHバランサーを含有する培地のpHが、約7~約8である、項目22に記載の方法。
(項目25)
少なくとも1つのタンパク質の遺伝子座の少なくとも一部分と相同な配列及び改変を含む少なくとも1つのDNAコンストラクトによるスピルリナの形質転換ならびに前記遺伝子座での前記DNAコンストラクトの組み込みによって前記タンパク質の遺伝子座で前記改変を導入した結果として、前記少なくとも1つのタンパク質を欠くスピルリナであって、他の点ではその生来の様式で機能することが可能な前記スピルリナ。
(項目26)
標的化された遺伝子座の少なくとも一部分と相同な配列及びフィコシアニンをコードする外来性遺伝子を含む少なくとも1つのDNAコンストラクトによるスピルリナの形質転換ならびに前記遺伝子座でのDNAコンストラクトの組み込みによって前記標的化された遺伝子座で前記外来性遺伝子を導入した結果として、前記フィコシアニンをコードする外来性遺伝子を含むスピルリナであって、野生型スピルリナと比較して増加した量のフィコシアニンを産生し、複数の世代を通して形質転換を維持する前記スピルリナ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】A.platensisの株NIES-39においてpilA遺伝子座(NIES39_C03030)を標的化するようにデザインされた左ホモロジーアーム及び右ホモロジーアームを示す。
【
図2】A.platensisの株NIES-39における標的化された突然変異誘発のために使用されるpApl-pilA/aadAプラスミドを示す。
図2のプラスミドは配列番号:1のヌクレオチド配列を有する。
【
図3A-3C】
図3Aは、アミノグリコシドアデニルトランスフェラーゼ遺伝子(aadA)を含有する
図2のプラスミドによる、A.platensisの株NIES-39におけるpilA遺伝子座(NIES39_C03030)での相同組換えの概略図を示す。A、B、C、D、E、F及びGとラベルされた5つのPCRプライマー部位も示す。
図3Bは、野生型A.platensis及び
図2のプラスミドによる形質転換後のA.platensisの両方についての、プライマーC/E、A/D、及びB/CによるPCR増幅の結果を示す。
図3Cは、野生型A.platensisにおけるpilA遺伝子配列のプライマーF/GによるPCR増幅及びaadAを含有するベクターによる形質転換に後続するA.platensisにおける増幅の欠如の結果を示す。
【
図4】Arthrospira sp. PCC 8005における標的化された突然変異誘発のために使用されたpApl-pilA8005/aadAプラスミドを示す。
図4のプラスミドは配列番号:2のヌクレオチド配列を有する。
【
図5A】アミノグリコシドアデニルトランスフェラーゼ遺伝子(aadA)を含有する
図4のプラスミドによる、Arthrospira sp. PCC 8005中のpilA遺伝子座での相同組換えの概略図を示す。H、I及びJとラベルされた3つのPCRプライマー部位も示す。
【
図5B】野生型のArthrospira sp. PCC 8005及び
図4のプラスミドによる形質転換後のArthrospira sp. PCC 8005の両方についての、プライマーH/I及びH/JによるPCR増幅の結果を示す。
【
図6】A.platensisの株NIES-39における標的化された突然変異誘発によって、crtW及びcrtZの遺伝子を、A.platensisがアスタキサンチンを合成することを可能にするように導入する試みに使用されるpApl-NS1/Prs-crtW-crtZプラスミドを示す。
図6のプラスミドは配列番号:3のヌクレオチド配列を有する。
【
図7】A.platensisの株NIES-39における標的化された突然変異誘発によって、cpcA及びcpcBの遺伝子を、これらの2つの遺伝子の追加のコピーをAthrospiraへ追加するように導入するために使用されるpApl-NS1/aadA-cpcBAプラスミドを示す。これは、C-フィコシアニンを過剰産生するAthrospiraの株をもたらす。
図7のプラスミドは配列番号:4のヌクレオチド配列を有する。
【
図8A】
図7のプラスミドにより形質転換したA.platensisの株NIES-39におけるC-フィコシアニン生産の改善を、野生型A.platensisと比較して示す。
【
図8B】
図7のプラスミドにより形質転換したA.platensisの株NIES-39におけるC-フィコシアニン生産の改善を、野生型A.platensisと比較して示す。
【
図8C】
図7のプラスミドにより形質転換したA.platensisの株NIES-39におけるC-フィコシアニン生産の改善を、野生型A.platensisと比較して示す。
【
図8D】形質転換されたA.platensisが野生型A.platensisに類似する増殖率を有することを示す。
【
図9A】C-フィコシアニンを過剰産生するように形質転換されたA.platensisの株NIES-39からのタンパク質抽出物の濃い青色及び野生型A.platensisの株NIES-39からの薄い青色のタンパク質抽出物を示す。
【
図9B】形質転換されたA.platensisの株NIES-39及び野生型A.platensisの株NIES-39からのタンパク質抽出物の間の吸収差を示すグラフである。形質転換されたA.platensisの株NIES-39は、野生型株よりも高い620nmでの吸収を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
定義
特別に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践または試験において、本明細書において記述されたものに類似または同等の任意の方法及び材料を使用することができるが、例示的な方法及び材料が記述される。本発明の目的のために、下記の用語は以下に定義される。
【0016】
「a」及び「an」という冠詞は、本明細書において、1つまたは2つ以上(すなわち少なくとも1つ)の冠詞の文法的な対象物を指すように使用される。一例として、「要素(an element)」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0017】
本明細書の全体にわたって、文脈が特別に要求しない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含むこと(comprising)」という単語は、明示されたステップ若しくは要素またはステップ若しくは要素の群を包含するが、他のステップ若しくは要素またはステップ若しくは要素の群を排除しないことを示唆することが理解されるだろう。
【0018】
本明細書において使用される時、「有すること(having)」、「有する(has)」、「含む(contain)」、「含むこと(including)」、「含む(includes)」、「含む(include)」、及び「有する(have)」という用語は、上で提供される「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprise)」と同じ非制限的な意味を有する。
【0019】
「からなる(consisting of)」によって、「からなる(consisting of)」という語句に後続するものすべてを含み、それらに限定されることが意味される。したがって、「からなる(consisting of)」という語句は、リストされた要素が要求されるかまたは必須であり、他の要素が存在しなくてもよいことを指摘する。
【0020】
「から本質的になる(consisting essentially of)」によって、語句後にリストされた任意の要素を含み、リストされた要素についての本開示における規定された活性または作用を妨害しないかまたはそれに貢献する他の要素に限定されることが意味される。したがって、「から本質的になる(consisting essentially of)」という語句は、リストされた要素が要求されるかまたは必須であるが、その他の要素は随意であり、それらがリストされた要素の活性または作用に影響するかどうかに依存して存在または非存在であり得ることを指摘する。
【0021】
「約」によって、参照される分量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量、または長さに対して、30、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%ほどで変動する、分量、レベル、値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、サイズ、量、重量、または長さが意味される。
【0022】
本記載は、本発明に関する特定のパラメーターを定量化するために数値範囲を使用する。数値範囲が提供される場合、かかる範囲は、範囲の下限値のみを列挙する請求の限定に加えて、範囲の上限値のみを列挙する請求の限定について文字どおりの支持を提供するとして解釈されることを理解すべきである。例えば、10~100の開示された数値範囲は、「10を超えるもの」(上限なしで)を列挙する請求及び「100未満のもの」(下限なしで)を列挙する請求について文字どおりの支持を提供し、10及び100のエンドポイントについて文字どおりの支持を提供し、それらを含む。
【0023】
本記載は、具体的な数値が明示的に数値範囲の一部でない場合に、本発明に関する特定のパラメーターを定量化するために具体的な数値を使用する。本明細書において提供される各々の具体的な数値は、広い範囲、中間的な範囲、及び狭い範囲について文字どおりの支持を提供するとして解釈されることを理解すべきである。各々の具体的な数値と関連する広い範囲は、2桁の有効数字に丸めた、数値±数値の60パーセントである。各々の具体的な数値と関連する中間的な範囲は、2桁の有効数字に丸めた、数値±数値の30パーセントである。各々の具体的な数値と関連する狭い範囲は、2桁の有効数字に丸めた、数値±数値の15パーセントである。これらの広い数値範囲、中間の数値範囲及び狭い数値範囲は具体的な値に適用されるべきだけではなく、これらの具体的な値の間の差にも適用されるべきである。
【0024】
「遺伝子」によって、染色体上の特異的な遺伝子座を占め、転写及び/若しくは翻訳の調節配列ならびに/またはコーディング領域ならびに/または非翻訳配列(すなわちイントロン、5’及び3’非翻訳配列)からなり、かかる調節配列がコーディング配列及び/または転写配列に隣接するかどうかにかかわらない、遺伝的に継承される単位が意味される。したがって、遺伝子には、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列(リボソーム結合部位及び内部リボソーム侵入部位等)、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、バウンダリーエレメント、複製起点、マトリックス結合部位、及び遺伝子座制御領域が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0025】
「ポリヌクレオチド」または「核酸」の列挙は、本明細書において使用される時、mRNA、RNA、cRNA、rRNA、cDNA、またはDNAを指定する。この用語は、典型的には、少なくとも10ベースの長さのリボヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチドのいずれかまたはヌクレオチドのいずれかのタイプの改変形状の、ヌクレオチドのポリマー性形状を指す。この用語には、DNA及びRNAの一本鎖及び二本鎖の形状が含まれる。
【0026】
本明細書において使用される時、「DNA」という用語には、特定の種の全ゲノムDNAのない単離されたDNA分子が含まれる。したがって、ポリペプチドをコードするDNAセグメントは、1つまたは複数のコーディング配列を含有し、さらにDNAセグメントが得られる種の全ゲノムDNAからさらに実質的に単離されたか、またはそれなしに精製された、DNAセグメントを指す。「DNAセグメント」及び「ポリヌクレオチド」という用語内には、DNAセグメント及びかかるセグメントのより小さな断片、ならびにさらに組換えベクターが含まれ、それらには、例えばプラスミド、コスミド、ファージミド、ファージ、ウイルス、及び同種のものが含まれる。
【0027】
ポリヌクレオチドに関して、「外来性の」という用語は、野生型の細胞または生物体中に天然に存在しないが、典型的には分子生物学的技法によって細胞の中へ導入されるポリヌクレオチド配列を指す。外来性ポリヌクレオチドの例には、所望されるタンパク質をコードする、ベクター、プラスミド、及び/または人造の核酸コンストラクトが含まれる。ポリヌクレオチドに関して、「内在性の」または「生来の」という用語は、所与の野生型の細胞または生物体において見出され得る天然に存在するポリヌクレオチド配列を指す。非修飾ベクターなどのポリヌクレオチド配列と組み合わせて、内在性ポリヌクレオチド配列を含むベクター、プラスミド、または他の人造のコンストラクトは、全体として外来性ポリヌクレオチドであり、内在性ポリヌクレオチド配列を含む外来性ポリヌクレオチドと称され得る。また、第1の生物体から単離され、分子生物学的技法によって第2の生物体に移された特定のポリヌクレオチド配列は、第2の生物体に関して典型的には「外来性」ポリヌクレオチドと判断される。ポリヌクレオチドは生来の配列(例えば本明細書において記載されるタンパク質をコードする内在性配列)を含み得るか、またはバリアント若しくは断片、またはかかる配列の生物学的な機能的な等価物を含み得る。
【0028】
ポリヌクレオチドバリアントは、コードされたポリペプチドの酵素活性が非改変または参照のポリペプチドと比べて実質的に減少しないように、更に本明細書において記載されるような1つまたは複数の置換、追加、欠失及び/または挿入を好ましくは含有することができる。コードされたポリペプチドの酵素活性に関する効果は、一般的には本明細書において記載されるように査定され、当技術分野において公知であろう。
【0029】
当業者によって理解されるように、本開示のポリヌクレオチド配列には、ゲノム配列、ゲノム外のプラスミドにコードされた配列、ならびにタンパク質、ポリペプチド、ペプチド及び同種のものを発現するかまたは発現するように適合され得るより小さな操作された遺伝子セグメントが含まれ得る。かかるセグメントは、天然に単離されるか、または人手によって合成的に改変され得る。
【0030】
ポリヌクレオチドは、一本鎖(コーディングまたはアンチセンス)若しくは二本鎖であり得るか、またはDNA(ゲノム、cDNA、または合成)若しくはRNA分子であり得る。追加のコーディング配列または非コーディング配列は本発明のポリヌクレオチド内に存在してもよいが、必ずしも存在しなくてもよく、ポリヌクレオチドは他の分子及び/または支持材料へ連結されてもよいが、必ずしも連結されなくても良い。
【0031】
「コーディング配列」によって、遺伝子のポリペプチド産物についてのコードに寄与する任意の核酸配列が意味される。これとは対照的に、「非コーディング配列」という用語は、遺伝子のポリペプチド産物についてのコードに寄与しない任意の核酸配列を指す。
【0032】
「相補的な」及び「相補性」という用語は、塩基対合ルールによって関連づけられるポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)を指す。例えば、配列「A-G-T」は配列「T-C-A」に相補的である。相補性は「部分的」であり得、その場合核酸塩基のうちのいくつかのみが塩基対合ルールに従ってマッチする。または、核酸の間には「完全」または「全体」の相補性があり得る。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率及び強度に対する有意な効果を有する。
【0033】
2つの配列(核酸配列またはアミノ酸配列であるかにかかわらず)のパーセント同一性は、2つのアライメントさせた配列間の正確な一致の数を短いほうの配列の長さによって割り、100を掛けたものである。核酸配列のための近似アライメントはSmith-Watermanアルゴリズムによって提供される。Smith-Watermanアルゴリズムを、公知のスコアリングマトリックス(例えばDayhoffによって開発されたスコアリングマトリックス)の使用によってアミノ酸配列へ適用し、任意の周知の技法(Gribskov方法等)によって正規化することができる。配列のパーセント同一性を決定するこのアルゴリズムのうちの1つの実装は、「BestFit」ユーティリティアプリケーションにおいてGenetics Computer Group(Madison、Wis.)によって提供される。この方法のためのデフォルトパラメーターは、Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual、バージョン8(1995)(Genetics Computer Group、Madison、Wis.から入手可能)中で記載される。他の配列間のパーセント同一性または類似性を計算するために適切なプログラムは、一般的には当技術分野において公知であり、例えば、John F.Collins及びShane S.Sturrokによって開発され、University of Edinburghが著作権を所有し、IntelliGenetics,Inc.(Mountain View,Calif.)によって流通されるMPSRCHプログラムパッケージ、ならびにBLASTであり、デフォルトパラメーターと共に使用される。これらのプログラムの詳細は以下のインターネットアドレス:http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiで見出すことができる。
【0034】
「ポリペプチド」、「ポリペプチド断片」、「ペプチド」、及び「タンパク質」は、本明細書において、アミノ酸残基のポリマーならびにそのバリアント及び合成類似体を指すように互換的に使用される。したがって、これらの用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が合成の天然に存在しないアミノ酸(対応する天然に存在するアミノ酸の化学的類似体等)であるアミノ酸ポリマーに加えて、天然に存在するアミノ酸ポリマーに適用される。特定の態様において、ポリペプチドには、酵素的ポリペプチド、または「酵素」が含まれてもよく、それは典型的には様々な化学反応を触媒する(すなわち、その速さを増加させる)ものである。本出願のタンパク質及び酵素をコードする例示的なヌクレオチド配列は、全長の参照ポリヌクレオチドに加えて、これらの遺伝子の全長または実質的に全長のヌクレオチド配列のうちの一部分、またはそれらの転写物若しくはこれらの転写物のDNAコピーを包含する。ヌクレオチド配列の一部分は、参照ポリペプチドの生物学的な活性を保持するポリペプチドの一部分またはセグメントをコードし得る。
【0035】
「形質転換」は、宿主細胞ゲノムの中への外来性ヌクレオチドの取り込み及び組み入れからもたらされる細胞における安定的で遺伝可能な変更;またある生物体から別の生物体のゲノムの中への外来性遺伝子の移動を指す。外来性ヌクレオチドには、標的生物に対して異種の遺伝子、または野生型生物体中に存在するヌクレオチド配列の追加が含まれ得る。
【0036】
「標的化された突然変異」は、前もって決定された(指定された)ゲノム位置でのゲノムのDNA配列における変化を意味する。いくつかの事例において、標的化された突然変異には、前もって決定されたゲノム位置での前もって決定された(指定された)DNA配列変更の導入が含まれるだろう。他の事例において、標的化された突然変異には、前もって決定されたゲノム位置でのランダムなDNA配列変更の導入が含まれるだろう。
【0037】
「安定的な」は、形質転換によって引き起こされた遺伝子改変の結果を記載する場合、10以上世代、または改変された生物体についての平均世代時間の10倍以上の時間の長さにわたって、細胞の集団の少なくとも一部分において維持される遺伝子改変を指す。
【0038】
「コンピテント」は、細胞が周囲の環境から細胞外ヌクレオチドを取り込む能力を指す。細胞は、「天然にコンピテント」または「人工的にコンピテント」であり得る。天然にコンピテントな細胞は天然の条件下でそれらの周囲の環境からヌクレオチドを取り込むことができる。人工的にコンピテントな細胞は、通常は天然に起こらない条件(二価陽イオンの溶液中でのインキュベーション、熱ショック、エレクトロポレーション、及び超音波が含まれる)への細胞の暴露によって、細胞外ヌクレオチドに対して受動的に透過性のあるようにされる。
【0039】
「野生型」または「天然に存在する」という用語は、天然に存在する源から単離された場合の生物体、遺伝子または遺伝子産物(例えばポリペプチド)の特徴を有する、その生物体、遺伝子または遺伝子産物を指すように互換的に使用される。野生型の生物体、遺伝子または遺伝子産物は集団中で最も頻繁に観察され、したがって便宜的に「正常」または「野生型」の形状と表記されるものである。
【0040】
本明細書において使用される時、「スピルリナ」は「Arthrospira属」と同義である。Arthrospria属は57の種を含み、そのうちの22は現在のところ分類学的に認められている。したがって、更なる表記なしの「スピルリナ」または「Arthrospira属」への参照には、以下の種:A.amethystine、A.ardissonei、A.argentina、A.balkrishnanii、A.baryana、A.boryana、A.braunii、A.breviarticulata、A.brevis、A.curta、A.desikacharyiensis、A.funiformis、A.fusiformis、A.ghannae、A.gigantean、A.gomontiana、A.gomontiana var.crassa、A.indica、A.jenneri var.platensis、A.jenneri Stizenberger、A.jenneri f.purpurea、A.joshii、A.khannae、A.laxa、A.laxissima、A.laxissima、A.leopoliensis、A.major、A.margaritae、A.massartii、A.massartii var.indica、A.maxima、A.meneghiniana、A.miniata var.constricta、A.miniata、A.miniata f.acutissima、A.neapolitana、A.nordstedtii、A.oceanica、A.okensis、A.pellucida、A.platensis、A.platensis var.non-constricta、A.platensis f.granulate、A.platensis f.minor、A.platensis var.tenuis、A.santannae、A.setchellii、A.skujae、A.spirulinoides f.tenuis、A.spirulinoides、A.subsalsa、A.subtilissima、A.tenuis、A.tenuissima、及びA.versicolorのうちの任意のものへの参照が含まれる。
【0041】
本出願中で引用されるすべての文献及び類似の材料(特許、特許出願、論説、本、論文、及びインターネットウェブページが含まれる)は、任意の目的のためにそれらの全体が参照により明示的に援用される。援用された参照文献中の用語の定義が本出願中で提供される定義と異なるように思われる場合、本出願中で提供される定義が支配するものとする。
【0042】
スピルリナにおける標的化された突然変異
本発明の態様において、ホモロジーアームを有するベクターは、コンピテンスの状態のスピルリナ細胞によって取り込まれ、続いて細胞の1つまたは複数の染色体の中へ組み込まれる。ホモロジーアームの配列によって導かれる相同組換えは、ゲノムのもとの核酸配列とホモロジーアーム間のベクター領域の核酸配列との間の差に起因して細胞のゲノムを変化させる。
【0043】
本開示は、スピルリナにおけるコンピテンスの誘導について本発明者が精通する第1の技法を記載する。スピルリナは天然にコンピテントではなく、スピルリナの形質転換のための従来の技法が失敗した場合にも、本明細書において開示される技法は形質転換を達成する。スピルリナ中に存在する高レベルのエンドヌクレアーゼは形質転換を不可能にするとこれまで考えられていた。エレクトロポレーションは、エレクトロポレーションを行った場合に溶解するスピルリナ細胞の傾向に起因して、短期間の間のみでコンピテント細胞を生成することに限定されている。しかしながら、適切な浸透圧安定剤の存在下におけるエレクトロポレーションによる形質転換は、他の技法によって従来可能でなかった形質転換を達成する。
【0044】
形質転換の前に、スピルリナは培養され、浸透圧安定剤により洗浄され得る。スピルリナは、任意のシアノバクテリアの増殖のために適切な培地(SOT培地等)中で培養され得る。SOT培地は、1.68gのNaHCO3、50mgのK2HPO4、250mgのNaNO3、100mgのK2SO4、100mgのNaCl、20mgのMgSO4・7H2O、4mgのCaCl2・2H2O、1mgのFeSO4・7H2O、8mgのNa2EDTA・2H2O、0.1mLのA5溶液及び99.9mLの蒸留水を含む。A5溶液は、286mgのH3BO3、217mgのMnSO4・5H2O、22.2mgのZnSO4・7H2O、7.9mgのCuSO4・5H2O、2.1mgのNa2MoO4・2H2O及び100mLの蒸留水を含む。培養は、室温より高い温度(例えば25~37℃)で、及び連続的な照明(例えば20~2,000、50~500、または100~200μmol光子m-2秒-1)下で、振盪(例えば100~300rpm)しながら行うことができる。750nmでの光学的密度があらかじめ決定された閾値(例えばOD750が0.3~2.0、0.5~1.0または0.6~0.8)に到達する時に、増殖中の細胞を採取することができる。採取された細胞の体積を遠心分離によって濃縮し、次いでpHバランサー及び塩の溶液中で再懸濁することができる。pHバランサーは、pH6~9の間、pH6.5~8.5の間、またはpH7~8の間で培地のpHを維持しながらスピルリナの生存能力を維持する任意の適切なバッファーであり得る。適切なpHバランサーには、HEPES、HEPES-NaOH、リン酸ナトリウムバッファーまたはリン酸カリウムバッファー、及びTESが含まれる。塩溶液は、50mM~500mMの間、100mM~400mMの間、または200mM~300mMの間の濃度のNaClであり得る。一実施形態において、1~50mLの間の1~100mMのpHバランスを使用して、pHを中和することができる。
【0045】
遠心分離によって収集した細胞は、浸透圧安定剤及び随意に塩溶液(例えば1~50mLの0.1~100mMのNaCl)により洗浄することができる。任意の量の培養物を遠心分離によって濃縮することができる。一実施形態において、5~500mLの間の培養を遠心分離することができる。浸透圧安定剤は、エレクトロポレーションの間にスピルリナの細胞全体性を安定化する、任意のタイプの浸透圧バランサーであり得る。一実施形態において、浸透圧安定剤は、ブドウ糖またはショ糖等の糖(例えばw/vで0.1~25%)であり得る。一実施形態において、浸透圧安定剤は単純ポリオール(例えばv/vで1~25%)であり得、それらにはグリセリン(glycerine)、グリセリン(glycerin)、またはグリセロールが含まれる。一実施形態において、浸透圧安定剤はポリエーテル(例えばw/vで0.1~20%)であり得、それらにはポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(オキシエチレン)、またはポリ(エチレンオキシド)(PEO)が含まれる。PEGまたはPEOは、200~10,000、1000~6000、または2000~4000の任意の分子量を有し得る。一実施形態において、pHバランサーまたはバッファーは、浸透圧安定剤の代わりにまたは加えて使用することができる。
【0046】
本開示は、コンピテント細胞へのベクターの導入による相同組換えを介するスピルリナにおける標的化された突然変異の生成も記載する。人工的コンピテンシーは、スピルリナにおいてコンピテンシーを生成するための上記のエレクトロポレーション技法、または他の公知若しくは未来の技法によって生成され得る。スピルリナにおいて人工的コンピテンスを導入するための公知の技法には、エレクトロポレーション(浸透圧安定剤の有無及びpHバランサーの有無)、二価陽イオンを含有する溶液中でのインキュベーション及び超音波が含まれる。人工的コンピテンシーが誘導された時に、スピルリナ細胞をベクターに接触させる。例えば、ベクターをエレクトロポレーションの前にスピルリナ細胞の溶液と混合することができる。
【0047】
エレクトロポレーションは、0.6~10kV/cmの間、2.5~6.5kV/cmの間、または4.0~5.0kV/cmの間で;1~100μFの間、30~70μFの間、または45~55μFの間で;及び10~500mΩの間、50~250mΩの間、または90~110mΩの間で、0.1、0.2または0.4cmのエレクトロポレーションキュベット中で遂行することができる。一実施形態において、エレクトロポレーションは、4.5kV/cm、50μF及び100mΩで遂行することができる。
【0048】
エレクトロポレーションに後続して、細胞を1つまたは複数の抗生物質の存在下において増殖させ、プラスミドによる形質転換の成功を介して付与される耐性に基づいて選択することができる。エレクトロポレーション後の培養は、照明レベルを低減させて(例えば5~500、10~100、または30~60μmol光子m-2秒-1)で遂行することができる。培養は振盪(例えば100~300rpm)しながら遂行することもできる。培地中の抗生物質のレベルは5~100μg/mLであり得る。エレクトロポレーション後の培養は、1~5日またはそれ以上の間継続され得る。抗生物質耐性によって同定された成功した形質転換体は、0.1~2.0μgの適切な抗生物質を補足した、プレート上または5~100mLのSOT培地中で1週間~1か月間の時間経過にわたって選択することができる。
【0049】
「ベクター」によって、例えばポリヌクレオチドが挿入またはクローン化され得るプラスミド、バクテリオファージ、酵母、またはウイルスに由来する、ポリヌクレオチド分子、好ましくはDNA分子が意味される。ベクターは1つまたは複数の合成ヌクレオチドまたは核酸類似体を含有することができる。ベクターは1つまたは複数のユニークな制限部位を含有することができる。ベクターは、宿主細胞の中へ導入された場合に、ゲノムの中へ組み込まれ、それが組み込まれた染色体(複数可)と一緒に複製されるものであり得る。かかるベクターは、宿主染色体の特定の所望される部位の中への組換えを可能にする1つまたは複数の特異的な配列を含むことができる。これらの特異的な配列は野生型ゲノム中に存在する配列に相同であり得る。ベクターシステムは、単一のベクターまたはプラスミド、2つ以上のベクターまたはプラスミドを含むことができ、そのうちのいくつかは、標的化された突然変異誘発の効率、または転位を増加させる。ベクターの選択は、典型的にはベクターが導入される予定の宿主細胞とベクターの適合性に依存するだろう。ベクターはレポーター遺伝子(緑色蛍光タンパク質(GFP)等)を含むことができ、それはコードされたポリペプチドのうちの1つ若しくは複数へのインフレームでの融合または分離した発現のいずれかを行うことができる。ベクターは、正の選択マーカー(適切な形質転換体の選択のために使用することができる抗生物質耐性遺伝子等)も含むことができる。ベクターは、負の選択マーカー(II型チオエステラーゼ(tesA)遺伝子またはBacillus subtilis構造遺伝子(sacB)等)も含むことができる。レポーターまたはマーカーの使用は、ベクターにより成功して形質転換された細胞の同定を可能にする。
【0050】
一実施形態において、ベクターは、標的化された遺伝子座に隣接するスピルリナゲノムのDNA配列に相同な1つまたは2つのホモロジーアームを含む。ホモロジーアームの配列は、ホモロジーアームが相補的であるスピルリナゲノムの領域に同一であるかまたは類似し得る。「相同性」または「相同な」には、本明細書において使用される時、相同で同一の配列及び相同で同一でない配列の両方が含まれる。相同で同一でない配列は、第2の配列とある程度の配列同一性を共有するが、その配列が第2の配列のそれに同一でない第1の配列を指す。例えば、突然変異遺伝子の野生型配列を含むポリヌクレオチドは、突然変異遺伝子の配列に相同で同一でない。本明細書において使用される時、2つの相同で同一でない配列の間の相同性の程度は、正常な細胞メカニズムを利用して、その間で相同組換えを可能にするのに十分である。2つの相同で同一でない配列は任意の長さであり得、それらの非相同性の程度は単一のヌクレオチド程の小ささ(例えば、標的化された相同組換えが導入されるゲノム点突然変異について)または10キロベース以上程の大きさ(例えば、染色体中のあらかじめ決定された遺伝子座での遺伝子の挿入について)であり得る。相同で同一でない配列を含む2つのポリヌクレオチドは同じ長さである必要がない。例えば、20~10,000の間のヌクレオチドまたはヌクレオチド対の外来性ポリヌクレオチド(すなわちベクターポリヌクレオチド)を使用することができる。
【0051】
相同で同一の配列または相同で同一でない配列としての2つの配列の特徴評価は、2つの配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)の間のパーセント同一性の比較によって決定され得る。相同で同一の配列は100%の配列同一性を有する。相同で同一でない配列は、80%を超える、85%を超える、90%を超える、91%を超える、92%を超える、93%を超える、94%を超える、95%を超える、96%を超える、97%を超える、98%を超える、または99%を超える配列同一性を有することができる。
【0052】
ホモロジーアームは部位特異的相同組換えを可能にする任意の長さであり得る。ホモロジーアームは、その間のすべての整数値を含む約2000bp~500bpの間の任意の長さであり得る。例えば、ホモロジーアームは、約2000bp、約1500bp、約1000bp、または約500bpであり得る。2つのホモロジーアームを有する実施形態において、ホモロジーアームは同じまたは異なる長さであり得る。したがって、2つのホモロジーアームの各々は、その間のすべての整数値を含む約2000bp~500bpの間の任意の長さであり得る。例えば、2つのホモロジーアームの各々は、約2000bp、約1500bp、約1000bp、または約500bpであり得る。
【0053】
1つのホモロジーアームまたは両方のホモロジーアーム(すなわちその間)に隣接するベクターの一部分は、相同組換えによってスピルリナゲノム中の標的化された遺伝子座を改変する。他の生物体における相同組換えのための技法は一般的には公知である(例えばKriegler,1990,Gene transfer and expression:a laboratory manual,Stockton Pressを参照)。改変は標的化された遺伝子座の長さを変化させることができ、それらにはヌクレオチドの欠失またはヌクレオチドの追加が含まれる。追加または欠失は任意の長さであり得る。改変は、長さを変化させずに、標的化された遺伝子座におけるヌクレオチドの配列を変化させることもできる。標的化された遺伝子座は、スピルリナゲノムの任意の一部分(コーディング領域、非コーディング領域、及び調節配列が含まれる)であり得る。一実施形態において、突然変異により遺伝子を欠失させ、それによってノックアウト生物体を生成することができる。一実施形態において、突然変異により、レポーターまたはマーカー(例えばGFPまたは抗生物質耐性)として機能する遺伝子を追加することができる。一実施形態において、突然変異により外来性遺伝子を追加することができる。一実施形態において、突然変異により、外来性プロモーター(例えば強いプロモーター及び誘導可能プロモーターなど)の制御下の内在性遺伝子を追加することができる。
【0054】
上記の標的化された突然変異誘発で使用されるベクターは、インサート配列とベクター骨格のアセンブルによって産生することができる。ベクターは、任意の公知のまたは後に開発される技法(制限酵素消化後のライゲーションまたはGibsonアセンブリーが含まれる)によって生成することができる。Gibsonアセンブリーは、ベクター骨格の一部分になるDNA配列をエキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ及びDNAリガーゼと組み合わせ、次いで50℃で1時間インキュベーションすることによって行うことができる。ベクター骨格は標的生物との適合性について選択され得る。スピルリナについて、適切なベクター骨格にはDNAプラスミドが含まれるが、これに限定されない。ベクター骨格は、適切な制限酵素による処理によって連続したループから直線状形状に転換することができる。ベクターが最初にインサートセグメントを組み入れずにDNAリガーゼ反応において連続的なループを再形成しないように、それによって形成された末端を、アルカリホスファターゼにより処理して5’リン酸末端基を除去する。
【0055】
インサート配列は、1つまたは2つのホモロジーアーム、及び、インサートのヌクレオチド配列とスピルリナの野生型ゲノム配列との間の差に起因して、スピルリナの遺伝子座を改変する1つのヌクレオチド配列を含む。インサート配列は、スピルリナゲノムの領域に相同なホモロジーアームに対応する、対象となる遺伝子座へ隣接する1つまたは2つのフランキング領域、及びスピルリナゲノムとは異なる一部分を含む。スピルリナの野生型ヌクレオチド配列とは異なるインサート配列の一部分は、それらの差に起因してスピルリナゲノムの改変をもたらす。改変には、点突然変異、遺伝子の追加、調節エレメントの追加、コーディング領域の追加、非コーディング領域の追加、遺伝子の欠失、遺伝子の一部分の欠失、または調節エレメントの欠失が含まれ得るが、これらに限定されない。一般的に、強いE.coliプロモーターがシアノバクテリア中で動作することは周知である。標的生物の配列が公知であるならば、公開された配列を使用してホモロジーアーム(複数可)を備えたインサート配列をデザインすることができる。スピルリナの複数の株(Athrospira plantensisのNIES-39等)はシーケンスされている。配列が公知でないならば、対象となる遺伝子座を含有するゲノムの一部分をPCR及び適切なプライマーを使用して増幅することができる。当業者に公知の技法を使用して、続いてこの領域をシーケンスすることができる。一実施形態において、増幅されたゲノム領域を使用してオーバーラップ伸長PCRの実行し、欠失を生成することができる。一実施形態において、ゲノムの増幅された領域は、1つの場所でヌクレオチド配列を切断する制限酵素により消化され、適合性のある末端を備えて調製されているインサートヌクレオチド配列へライゲーションすることができる。
【0056】
インサート配列を1つまたは複数の制限酵素により消化してベクター骨格の末端と適合性のある末端を生成する。あるいは、ベクター骨格の末端領域に同一の短い配列(例えば16~25bp)をインサート配列の末端に追加し、これらの2つの断片をGibsonアセンブリー法によって環状化する。インサート配列の長さは、対象となる遺伝子座への改変の長さ及びフランキング領域の長さであるだろう。例えば、改変された配列の長さが500bpであり、2つのホモロジーアームが各々2000bpで所望されれば、配列の全長は4500bpであるだろう。本発明においてベクターとして使用されるポリヌクレオチド配列は、コーディング配列それ自体の長さにかかわらず、他の配列(プロモーター、転写ターミネーター、追加の制限酵素部位、マルチプルクローニング部位、他のコーディングセグメント、及び同種のもの等)と組み合わせることができ、従ってそれらの全長は大幅に変動し得る。したがって、ほとんど任意の長さのポリヌクレオチド断片を用いることができ、全長は、好ましくは、意図される組換えヌクレオチド手順における調製及び使用の容易性によってのみ限定されることが企図される。
【0057】
例示的な適用
中性脂肪(ワックスエステル及びトリグリセリド)の産生
一実施形態において、スピルリナは、中性脂肪(ワックスエステル及び/またはトリグリセリドが含まれる)の産生を、同じ条件下で増殖された野生型スピルリナによって産生されるレベルを超えて増加させるように改変することができる。トリグリセリド及びワックスエステルは、バイオ燃料及び/または様々な特殊化学品の産生における原料として使用することができる。例えば、トリグリセリド油(植物油、動物脂、リサイクル油脂中に含有されるもの等)とアルコールを反応させるエステル交換反応を、トリグリセリドに行って、バイオディーゼル(脂肪酸アルキルエステル等)を産生することができる。かかる反応は副産物としてグリセリンも産生し、それは医薬品産業及び化粧品産業における使用のために精製することができる。トリグリセリドまたはトリアシルグリセロール(TAG)は主として3つの脂肪酸によりエステル化されたグリセロールからなり、炭水化物またはタンパク質のいずれかよりも酸化に際してより多くのエネルギーをもたらす。トリグリセリドは、大部分の真核生物のためのエネルギー貯蔵の重要なメカニズムを提供する。哺乳類において、TAGは合成されて複数の細胞タイプ(脂肪細胞及び肝細胞が含まれる)中で貯蔵される。真核生物とは対照的に、原核生物におけるトリグリセリド産生の観察は、特定の放線菌(Mycobacterium属、Nocardia属、Rhodococcus属、及びStreptomyces属のメンバー等)に加えて、Acinetobacter属の特定のメンバーに限定されている。
【0058】
特定の生物体は、バイオ燃料の産生における中性脂肪源として利用することができる。例えば、真核性藻類はエネルギー貯蔵分子としてトリグリセリドを天然に産生し、現在特定のバイオ燃料関連技術では、バイオ燃料のための原料として藻類の使用に注目する。藻類は光合成生物であり、トリグリセリド産生生物体(藻類等)の使用は、日光、水、CO2、主要栄養素、及び微量養素からバイオディーゼルを産生する能力を提供する。
【0059】
藻類のような、スピルリナが含まれるシアノバクテリアの種は、CO2の還元にクロロフィルA及び水を利用して、光合成からエネルギーを得ることができる。しかしながら、スピルリナは中性脂肪合成に関与する必須酵素を欠く。シアノバクテリアへの外来性遺伝子の追加は脂質産生を増加させる。上記の技法を使用して、標的化された相同組換えを介してスピルリナに遺伝子を追加することができる。したがって、本開示中で記載される技法は、シアノバクテリアにおけるトリグリセリド及びワックスエステルの産生を増加させることが公知である遺伝子(ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)、ホスファチジン酸ホスファターゼ、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACCase)、アルデヒド形成アシル-ACPレダクターゼ(AAR)、アルコール形成脂肪酸アシル-CoAレダクターゼ、及びアルコール形成脂肪酸アシル-ACPレダクターゼ(FAR)をコードする遺伝子等)を追加する手法を提供する。上記の技法を使用して、野生型のDGAT、ホスファチジン酸ホスファターゼ、及び/またはACCaseのポリヌクレオチド配列とは異なるが、DGAT酵素活性、ホスファチジン酸ホスファターゼ酵素活性、及び/またはACCase酵素活性を依然として有する、ポリペプチド配列をコードする遺伝子またはポリヌクレオチドの配列の一部分も追加することができる。
【0060】
アシル-ACPレダクターゼ(AAR)は、アシル-ACPを脂肪族アルデヒドとして公知のアシルアルデヒドへ還元することを触媒する。これらの酵素は脂肪酸アシルACPレダクターゼ(FAR)としても公知である。脂肪族アルデヒドは、FARまたは長鎖アルコール脱水素酵素(ADH)による脂肪族アルコールの生合成のための基質として供することができる。アシル-ACPレダクターゼの1つの例はS.elongatusからのPCC7942_orf1594である。シアノバクテリアにおけるAARの遺伝子のファミリー(またはFAR遺伝子)は、隠れマルコフモデルのタンパク質ファミリーパターンのTIGR045058(アルデヒド形成長鎖脂肪酸アシルACPレダクターゼ)及びTIGR04059(長鎖脂肪族アルデヒドデカルボニラーゼ)を使用して、TIGRRAMデータベースから同定された。
【0061】
非限定的な一説によれば、特定の実施形態において、AARをFARまたはADHと併用して使用して、脂肪族アルコールの合成を増加させることができ、次いで、それは主にDGATを発現する(したがってワックスエステルを産生する)本明細書において記載される光合成微生物によって、ワックスエステルの中へ組み入れることができる。したがって、AARは、本明細書において記載される実施形態の任意のもの(遊離脂肪族アルコールをワックスエステルに変えることが所望される場合に増加したレベルで遊離脂肪族アルコールを産生する等)において使用することができる。上で指摘されるように、次いで、これらの遊離脂肪族アルコールをDGATによって脂肪酸(アシル-ACPの形状で)へエステル化して、ワックスエステルを生成することができる。
【0062】
特定の実施形態は、過剰発現させたAARを使用して、脂肪族アルコールの合成を増加させ、それによってワックスエステルを産生する株(例えばDGATを発現する株)におけるワックスエステルの産生を増加させることに関する。例えば、特定の実施形態において、脂肪酸アシルレダクターゼ及びDGATと組み合わせてAARを利用することができる。次いで、これらの実施形態において、ACP、ACCase、若しくは両方、ならびに/または本明細書において記載されるグリコーゲンの産生及び貯蔵若しくはグリコーゲン分解への修飾のうちの任意のものを更に利用することができる。
【0063】
脂肪酸アシルレダクターゼ(FAR)は、アシル-ACPまたはアシル-COAを脂肪族アルコールとして公知のアシルアルコールへ2ステップで還元することを触媒する。第1のステップはアシルアルデヒド中間体経由で進み、次いで、それを第2のステップにおいて脂肪族アルコールへ転換する。これらの同じ酵素は脂肪族アルデヒドを脂肪族アルコールへ直接還元することもできる(すなわちステップ2のみ)。この事例において、それらは場合によっては脂肪族アルデヒドレダクターゼと称される。脂肪族アルコールは、DGATによるワックスエステルの生合成のための基質として供することができる。多くの脂肪酸アシルレダクターゼは3つの保存配列エレメントによって特徴づけられる。NADPH結合モチーフ、NADP利用酵素の触媒部位の特徴的なモチーフ、及び保存されたC末のドメイン(Male Sterile 2ドメインと称され、それは未知の機能である)がある。
【0064】
非限定的な一説によれば、特定の実施形態において、脂肪酸アシルレダクターゼを使用して、脂肪族アルコールの合成を増加させることができ、次いで、それは主にDGATを発現する(したがってワックスエステルを産生する)本明細書において記載される光合成微生物によって、ワックスエステルの中へ組み入れることができる。したがって、脂肪酸アシルレダクターゼは、本明細書において記載される実施形態の任意のもの(遊離脂肪族アルコールをワックスエステルに変えることが所望される場合に増加したレベルで遊離脂肪族アルコールを産生する等)において使用することができる。上で指摘されるように、次いで、これらの遊離脂肪族アルコールをDGATによって脂肪酸(アシル-ACPの形状で)へエステル化して、ワックスエステルを生成することができる。
【0065】
特定の実施形態は、過剰発現された脂肪酸アシルレダクターゼを使用して、脂肪族アルコールの合成を増加させ、それによってワックスエステルを産生する株(例えばDGATを発現する株)におけるワックスエステルの産生を増加させることに関する。例えば、特定の実施形態において、恐らくアシル-ACPレダクターゼ及びDGATと組み合わせて脂肪酸アシルレダクターゼを利用することできる。次いで、これらの実施形態において、ACP、ACCase、若しくは両方、ならびに/または本明細書において記載されるグリコーゲンの産生及び貯蔵若しくはグリコーゲン分解への修飾のうちの任意のものを更に利用することができる。
【0066】
ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(DGAT)はO-アシルトランスフェラーゼスーパーファミリーのメンバーであり、それはオレオイル-CoA依存的様式でステロールまたはジアシルグリセロールのいずれかをエステル化する。DGATは特にジアシルグリセロールをエステル化し、このエステル化は、植物、真菌、及び哺乳類におけるトリアシルグリセロールの産生の最終的な酵素ステップを表わす。具体的には、DGATは、アシル-補酵素Aから1,2-ジアシルグリセロール(DAG)のsn-3位へアシル基を転移して、トリアシルグリセロール(TAG)を形成することに関与する。DGATは、Acinetobacter bayliiのADP1ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(AtfA)、Streptomyces coelicolorのDGAT、Plesiomonas ShigelloidesのDGAT、またはAlcanivorax borkumensisのDGATであり得る。したがって、一実施形態において、DGATタンパク質は、配列番号:5、6、または7のうちの任意の1つで示される配列を含む。配列番号:5はAcinetobacter属のDGATの配列である。配列番号:6はStreptomyces coelicolorのDGATの配列である。配列番号:7はAlcanivorax borkumensisのDGATの配列である。植物及び真菌において、DGATは膜及び脂肪体の画分に結び付いている。TAGの触媒において、DGATは、エネルギー予備として使用される炭素の貯蔵に主に寄与する。動物において、しかしながら、DGATの役割はより複雑である。DGATは、リポタンパク質のアセンブリー及び血漿トリアシルグリセロール濃度の調節における役割を果たすだけでなく、ジアシルグリセロールレベルの調節においても同様に関与する(Biochemistry of Lipids,Lipoproteins and Membranes 171-203)。DGATタンパク質は、宿主細胞中で多様なアシル基質(脂肪酸アシル-CoA分子及び脂肪酸アシル-ACP分子が含まれる)を利用することができる。加えて、DGAT酵素が作用するアシル基質は炭素鎖の長さ及び飽和度の変動を有し得るが、DGATは特定の分子に向けた選択的活性を示し得る。
【0067】
「ホスファチジン酸ホスファターゼ」遺伝子には、本明細書において使用される時、任意の細胞源から得ることができ、ホスファチジン酸(PtdOH)の脱リン酸化を触媒し、酵素反応性の条件下でジアシルグリセロール(DAG)及び無機リン酸塩を得る能力を示す、アミノ酸(タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド等)をコードする任意のポリヌクレオチド配列が含まれ、かかる能力を有するホスファチジン酸ホスファターゼ配列の任意の天然に存在するかまたは天然に存在しないバリアントが更に含まれる。例示的なホスファチジン酸ホスファターゼ遺伝子には、Saccharomyces cerevisiaeのホスファチジン酸ホスファターゼ(yPah1)が含まれる酵母のホスファチジン酸ホスファターゼが含まれるが、これらに限定されない。Pah1にコードされたPAP1酵素は細胞の細胞質及び膜の画分において見出され、膜との結び付きは天然では周辺である。酵母から精製されたPAP1の複数の型から予想されるように、pah1Δ変異体は依然としてPAP1活性を含有し、追加の遺伝子またはPAP1活性を有する酵素をコードする遺伝子の存在が指摘される。一実施形態において、ホスファチジン酸ホスファターゼ遺伝子(Pah1)は、配列番号:8で示される配列を含む。
【0068】
本明細書において使用される時、「アセチルCoAカルボキシラーゼ」遺伝子には、任意の細胞源から得ることができ、アセチル-CoAのカルボキシル化を触媒して、酵素反応性の条件下でマロニル-CoAを産生する能力を示す、アミノ酸(タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド等)をコードする任意のポリヌクレオチド配列が含まれ、かかる能力を有するアセチル-CoAカルボキシラーゼ配列の任意の天然に存在するかまたは天然に存在しないバリアントが更に含まれる。アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACCase)は、アセチル-CoAの不可逆的カルボキシル化を触媒して、その2つの触媒活性(ビオチンカルボキシラーゼ(BC)及びカルボキシルトランスフェラーゼ(CT))を介してマロニルCoAを産生する、ビオチン依存性酵素である。ビオチンカルボキシラーゼ(BC)ドメインは、反応の第1のステップ:ビオチンカルボキシルキャリアータンパク質(BCCP)ドメインへ共有結合で連結されるビオチン補欠分子族のカルボキシル化、を触媒する。反応の第2のステップにおいて、カルボキシルトランスフェラーゼ(CT)ドメインは、(カルボキシ)ビオチンからアセチル-CoAへのカルボキシル基の転移を触媒する。マロニル-CoAは脂肪酸への前駆体として供されること以外に代謝の役割を有していないので、アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACCase)によるマロニル-CoAの形成は脂肪酸合成のためのコミットメントステップを表わす。この理由のために、アセチル-CoAカルボキシラーゼは脂肪酸の合成における極めて重要な酵素を表わす。ACCaseは、Saccharomyces cerevisiaeのアセチル-CoAカルボキシラーゼ(yACC1)、Triticum aestivumのACCase、またはSynechococcus sp. PCC 7002のACCAseであり得る。一実施形態において、ACCase遺伝子は、配列番号:9で示される配列を含む。
【0069】
具体的には、ホスファチジン酸ホスファターゼ酵素はジアシルグリセロール分子(トリグリセリドへの直接前駆体)の産生を触媒し、DGAT酵素は、ジアシルグリセロール前駆体をトリグリセリドへ転換することによってトリグリセリド合成の最終的なステップを触媒する。ACCase酵素は脂肪酸合成の「コミットメントステップ」を触媒するので、細胞内ACCase活性の増加は、脂肪酸の産生の増加に寄与する。具体的には、ACCaseは、脂肪酸合成前駆体分子(マロニル-CoA)の産生を触媒する。
【0070】
所望される酵素活性を備えたポリペプチドをコードする遺伝子またはヌクレオチドは、スピルリナゲノムの特異的な遺伝子座を標的化するホモロジーアームの間に、DGAT、ホスファチジン酸ホスファターゼ、ACCaseをコードするヌクレオチド配列、またはDGAT酵素活性、ホスファチジン酸ホスファターゼ酵素活性若しくはACCase酵素活性を有するポリヌクレオチド配列を備えたベクターによって、スピルリナゲノムへ導入することができる。ベクターは、スピルリナの形質転換のために適切な任意のベクター(上記のベクターが含まれる)であり得る。ベクターのポリヌクレオチドはスピルリナ中での発現のためにコドンを最適化することができる。ベクターは追加される遺伝子と関連するプロモーターを含むことができる。プロモーターは誘導可能プロモーターであり得る。当業者によって理解されるように、天然に存在しないコドンを保持する、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を生ずることは、いくつかの事例において有利かもしれない。例えば、特定の原核生物宿主または真核生物宿主に好ましいコドンは、タンパク質発現の率を増加させるように、または所望される特性(天然に存在する配列から生成された転写物よりも長い半減期等)を有する組換えRNA転写物を産生するように、選択することができる。かかるヌクレオチドは、典型的には「コドンが最適化された」と称される。
【0071】
一実施形態において、特異的な遺伝子座は、ベクターのヌクレオチド配列と置き換えられる遺伝子であり得る。調節エレメント(置き換えられる遺伝子と関連するプロモーター等)を使用して、ベクターからのヌクレオチド配列の転写を指令することができる。一実施形態において、特異的な遺伝子座はスピルリナゲノムの非コーディング領域であり得る。ホモロジーアームの間のベクターのヌクレオチド配列は、所望される酵素活性を備えたポリペプチドをコードする遺伝子またはヌクレオチドと一緒にスピルリナゲノムの中への導入される、調節エレメント(プロモーター等)を含むことができる。野生型スピルリナは典型的にはトリグリセリド合成のために必要な酵素をコードしないので、本開示において記載される技法は、脂質産生を増加させるために、DGAT活性、ホスファチジン酸ホスファターゼ活性、及び/またはACCase酵素活性を有する外来性遺伝子をスピルリナへ追加する手法を提供する。
【0072】
グリコーゲンの産生の低減
一実施形態において、スピルリナは、同じ条件下で増殖された野生型スピルリナと比較して、低減された量のグリコーゲンを蓄積するように改変され得る。産生されるグリコーゲンの量の低減によって、シアノバクテリアによって同化された炭素は、他の炭素ベースの産物(脂質及び/または脂肪酸等)の合成に向けられる。シアノバクテリアにおけるグリコーゲン生合成遺伝子の欠失はグリコーゲン蓄積を減少させる。
【0073】
シアノバクテリアにおける天然のグリコーゲンの合成及び貯蔵の経路を遮断、妨害、またはダウンレギュレートすることによって(例えば遺伝子の突然変異または欠失によって)、もたらされた光合成微生物株は他の生合成経路への炭素の流れを増加させる。他の生合成経路の例には、既存の経路(既存の脂質生合成経路等)または遺伝子操作を介して導入される経路(脂肪酸またはトリグリセリドの生合成経路等)が含まれる。グリコーゲン合成と関連する遺伝子を欠失する本改変を上記の改変と組み合わせて、トリグリセリド合成と関連する外来性遺伝子を追加することができる。上記の技法を使用して、スピルリナにおいてグリコーゲンの合成及び/または貯蔵の経路と関連する1つまたは複数の遺伝子(グルコース-1-ホスフェートアデニルトランスフェラーゼ(glgC)遺伝子、ホスホグルコムターゼ(pgm)遺伝子、またはグリコーゲンシンターゼ(glgA)遺伝子が含まれる)のすべてまたは一部分を欠失させることができる。グルコース-1-ホスフェートアデニルトランスフェラーゼ(glgC)遺伝子、ホスホグルコムターゼ(pgm)遺伝子、またはグリコーゲンシンターゼ(glgA)遺伝子の一部分を欠失させ、酵素活性のレベルの減少無しまたは有りでもたらされたポリペプチドを与えることも企図される。グリコーゲンの合成及び/または蓄積の減少は、ストレス条件(窒素の低減等)下で増殖するスピルリナにおいてより顕著であろう。
【0074】
グリコーゲンはブドウ糖の多糖であり、それは、大部分の細胞(動物細胞及び細菌細胞が含まれる)において、炭素及びエネルギーの貯蔵の手段として機能する。より具体的には、グリコーゲンは、約90%のα-1,4-グルコシド結合及び10%のα-1,6結合を含有する非常に大きな分岐したブドウ糖ホモポリマーである。特定の細菌について、α-1,4-ポリグルカンの形状のグリコーゲンの生合成及び貯蔵は、環境における一時的な飢餓条件と対処する重要な戦略を表わす。
【0075】
グリコーゲン生合成には複数の酵素の作用が関与する。例えば、細菌のグリコーゲン生合成は、一般的には以下の一般的なステップ:(1)ホスホグルコムターゼ(Pgm)によって触媒される、グルコース-1-ホスフェートの形成、続いて(2)グルコース-1-ホスフェートアデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)によって触媒される、ATP及びグルコース-1-ホスフェートからのADP-グルコースの合成、続いて(3)グリコーゲンシンターゼ(GlgA)によって触媒される、ADP-グルコースからの既存のα-1,4グルカンプライマーへのグルコシル部分の転移、を介して生じる。グリコーゲン合成のこの後者のステップは、典型的にはα-1,4-グルコシド鎖の伸長のためのグルコシル供与体としてのADP-グルコースの利用によって起こる。
【0076】
細菌において、グリコーゲン合成における主要な調節ステップは、ADP-グルコース合成のレベル、または上記のステップ(2)ADP-グルコースピロホスホリラーゼとしても公知のグルコース-1-ホスフェートアデニリルトランスフェラーゼ(GlgC)によって触媒される反応で、起こる。これとは対照的に、哺乳類のグリコーゲン合成における主要な調節ステップはグリコーゲンシンターゼのレベルで起こる。本明細書において示されるように、光合成微生物(シアノバクテリア等)のグリコーゲン合成経路における調節性の構成要素及び/または他の活性のある構成要素を改変し、それによってグリコーゲンの生合成及び貯蔵を低減することによって、そうでなければグリコーゲンとして貯蔵されていたであろう炭素は、他の炭素ベースの貯蔵分子(脂質、脂肪酸及びトリグリセリド等)を合成するために利用することができる。
【0077】
一実施形態において、スピルリナは低減された量のホスホグルコムターゼ遺伝子を発現する。特定の実施形態において、ホスホグルコムターゼ遺伝子(その調節エレメント(例えばプロモーター、エンハンサー、転写因子、正の調節タンパク質または負の調節タンパク質など)のうちの任意のものが含まれる)は、突然変異または欠失を含むことができる。遺伝子pgmによってコードされたホスホグルコムターゼ(Pgm)は、典型的には、酵素結合中間体(グルコース1,6-ビホスフェート(biphosphate))経由で、グルコース1-ホスフェートのグルコース6-ホスフェートへの可逆的転換を触媒する。この反応は可逆的であるが、グルコース-6-ホスフェートの形成が著しく優遇される。
【0078】
一実施形態において、改変されたスピルリナは、低減された量のグルコース-1-ホスフェートアデニリルトランスフェラーゼ(glgC)遺伝子を発現する。ある特定の実施形態において、glgC遺伝子(その調節エレメントのうちの任意のものが含まれる)は、突然変異または欠失を含むことができる。glgC遺伝子によってコードされた酵素(例えばEC 2.7.7.27)は、一般的には、以下の化学反応(ATP+α-D-グルコース1-ホスフェート→二リン酸塩+ADP-グルコース)の触媒によって、デンプン、グリコーゲン及びショ糖の代謝に参加する。
【0079】
したがって、この酵素の2つの基質はATP及びα-D-グルコース1-ホスフェートであるが、その2つの産物は二リン酸塩及びADP-グルコースである。glgCにコードされた酵素は、植物のデンプン生合成及び細菌のグリコーゲン生合成において、最初の関与ステップ及び律速ステップを触媒する。植物及び細菌における貯蔵多糖の蓄積を調節するのは酵素部位であり、エネルギーの流れの代謝物質によってアロステリック的に活性化または阻害される。
【0080】
glgC遺伝子によってコードされた酵素は、トランスフェラーゼ、具体的にはリン含有ヌクレオチド基を転移するトランスフェラーゼ(すなわちヌクレオチジルトランスフェラーゼ)のファミリーに属している。この酵素クラスの系統名は典型的にはATP:α-D-グルコース-1-ホスフェートアデニリルトランスフェラーゼと称される。通常の使用における他の名称には、ADPグルコースピロホスホリラーゼ、グルコース1-ホスフェートアデニリルトランスフェラーゼ、アデノシン二リン酸グルコースピロホスホリラーゼ、アデノシンジホスホグルコースピロホスホリラーゼ、ADP-グルコースピロホスホリラーゼ、ADP-グルコースシンターゼ、ADP-グルコースシンセターゼ、ADPGピロホスホリラーゼ、及びADP:α-D-グルコース-1-ホスフェートアデニリルトランスフェラーゼが含まれる。
【0081】
一実施形態において、スピルリナは低減された量のグリコーゲンシンターゼ遺伝子を発現する。特定の実施形態において、グリコーゲンシンターゼ遺伝子遺伝子(その調節エレメントのうちの任意のものが含まれる)は、欠失または突然変異を含むことができる。UDP-グルコース-グリコーゲングルコシルトランスフェラーゼとして公知のグリコーゲンシンターゼ(GlgA)は、UDP-グルコース及び(1,4-α-D-グルコシル)nの反応を触媒してUDP及び(1,4-α-D-グルコシル)n+1をもたらす、グリコシルトランスフェラーゼ酵素である。グリコーゲンシンターゼは、ADP-グルコースを使用して成長するグリコーゲンポリマーの上へ追加のグルコースモノマーを組み入れる、α-保持型グルコシルトランスフェラーゼである。本質的に、GlgAは、グリコーゲンとして貯蔵するために過剰なグルコース残基をポリマー鎖に一つずつ転換する最終的なステップを触媒する。
【0082】
古典的には、グリコーゲンシンターゼまたはα-1,4-グルカンシンターゼは、配列、糖供与体特異性及び調節機構の差に従って、2つのファミリー(動物/真菌のグリコーゲンシンターゼ及び細菌/植物のスターチシンターゼ)へと分類されている。しかしながら、詳細な配列分析、予測される二次構造比較及びスレッディング分析から、これらの2つのファミリーが構造的に関連し、動物/真菌のシンターゼのうちのいくつかのドメインがそれらの細胞タイプの特定の調節要求性を満たすように獲得されたことが示される。
【0083】
結晶構造は特定の細菌性グリコーゲンシンターゼについて確立されている。これらの構造から、報告されたグリコーゲンシンターゼは、グリコーゲンホスホリラーゼ及びグリコシルトランスフェラーゼスーパーファミリーの他のグリコシルトランスフェラーゼでのように組織化された2つのRossmannフォールドドメインへと折り畳まれ、触媒中心を含む両ドメインの間の深い裂溝を備えていることが示される。このグリコーゲンシンターゼのN末のドメインのコアは、7つのα-ヘリックスが両側に隣接する、9つのストランドの平行が優位な中心β-シートからなる。C末のドメイン(残基271~456)は、6つのストランドの平行β-シート及び9つのα-ヘリックスを備えた同様のフォールドを示す。このドメインの最後のα-ヘリックスは位置457~460でねじれて、タンパク質の最後の17残基(461~477)はN末のドメインへ交差し、α-ヘリックスとして継続する(グリコシルトランスフェラーゼ酵素の典型的な特色)。
【0084】
これらの構造は、グリコーゲンシンターゼの全体的なフォールドおよび活性部位の構成は、グリコーゲンホスホリラーゼ(これは炭水化物予備の可動化において中心的な役割を果たす)のものに顕著に類似することも示し、、共通の触媒メカニズム及び匹敵する基質結合特性が指摘される。しかしながら、グリコーゲンホスホリラーゼとは対照的に、グリコーゲンシンターゼははるかに幅広い触媒クレフトを有し、それは触媒サイクルの最中に重要なドメイン間の「閉鎖」運動を行うと予測される。
【0085】
結晶構造は特定のGlgA酵素について確立されている。これらの試験から、GlgAのN末の触媒ドメインはジヌクレオチド結合Rossmannフォールドに類似し、C末のドメインは、協同的アロステリック調節及びユニークなオリゴマー化に関与する左巻き平行βヘリックスを取り入れることが示される。また、調節因子結合部位と活性部位との間の伝達は、酵素の複数の別個の領域(N末、グルコース-1-ホスフェート結合部位、及びATP結合部位が含まれる)が関与する。
【0086】
グルコース-1-ホスフェートアデニルトランスフェラーゼ(glgC)遺伝子、ホスホグルコムターゼ(pgm)遺伝子、および/またはグリコーゲンシンターゼ(glgA)遺伝子は、所与の遺伝子の上流および下流のフランキング領域を標的化しスピルリナゲノムと組換えるホモロジーアームを備えたベクターを使用して、全体または部分的に欠失させて、ホモロジーアームの間の領域におけるヌクレオチドを除去するか、またはヌクレオチドを異なる配列(レポーターまたはマーカー遺伝子等)と置き換えることができる。ベクター配列中のレポーターまたはマーカー(薬物選択可能マーカー等)の存在を考慮すると、遺伝子欠失を含有しているスピルリナ細胞は容易に単離、同定、及び特徴づけることができる。一例として、選択及び単離には、当技術分野において公知の抗生物質耐性マーカー(例えばカナマイシン、スペクチノマイシン及びストレプトマイシン)の使用が含まれ得る。かかる選択可能ベクターに基づく組換え方法は、上流及び下流のフランキング領域への標的化に限定される必要はないが、その遺伝子が「機能を持たない」ようにされる限り、所与の遺伝子内の内部配列へも標的化することもできる。グリコーゲン合成に参加する遺伝子のすべてまたは一部の欠失は、スピルリナの増殖を損なわないが、グリコーゲンの産生を低減する。
【0087】
カロチノイドの産生の改変
カロチノイドは、シアノバクテリア(スピルリナが含まれる)によって、脂肪及び他の基本的な有機代謝性ビルディングブロックから産生することができる。カロチノイドは、光合成において酸化ストレスから光合成系の他の構成要素を保護するように機能する。カロチノイドは様々な黄色から赤色の色合いの色素形成も提供することができる。シアノバクテリアにおけるカロチノイド生合成は、特定の遺伝子の発現を低減すること、特定の遺伝子の発現を増加させること、及び/または外来性遺伝子を導入することによって改変することができる。
【0088】
crtG(2,2’-β-カロチンヒドロキシラーゼ)の欠失を含有するシアノバクテリアは典型的な指数増殖率を維持しながら、ゼアキサンチンの合成及び蓄積の増加をもたらす。加えて、crtR(3,3’-β-カロチンヒドロキシラーゼ)またはcrtZ(カルトネノイド(cartonenoid)-3,3’-ヒドロキシラーゼ)の発現は、E.coli株において、β-カロチン合成に関与する1シリーズの遺伝子crtE、crtB、crtI及びcrtYが導入される場合、ゼアキサンチンの産生をもたらすことが実証された。一実施形態において、crtR遺伝子は、配列番号:10で示される配列を含む。一実施形態において、crtZ遺伝子はBrevundimonas sp. SD212からであり、配列番号:11で示される配列を含む。
【0089】
加えて、crtW(β-カロチンオキシゲナーゼ)及びcrtZ(カルトネノイド(cartonenoid)-3,3’-ヒドロキシラーゼ)の導入は、シアノバクテリアにおけるアスタキサンチン及びカンタキサンチンの合成及び蓄積をもたらす。一実施形態において、crtW遺伝子はBrevundimonas sp. SD212からであり、配列番号:12で示される配列を含む。
【0090】
本開示において記載される技法を使用して、crtGをノックアウトするか、または機能を持たないcrtGのスピルリナ遺伝子を与えることができる。加えて、本開示において記載される技法を使用して、生来のスピルリナプロモーターの制御下、または外来性プロモーター(強いプロモーター及び誘導可能/抑制可能なプロモーターが含まれる)の制御下で、スピルリナゲノムへ、crtR遺伝子、crtZ遺伝子及びcrtW遺伝子を追加することができる。一実施形態において、crtW遺伝子及びcrtZ遺伝子の発現を調節するプロモーターは、誘導の非存在下において外来性遺伝子の発現がないかまたは本質的にないように、厳密に調節されるプロモーターであり得る。
【0091】
例えば、カロチノイドを産生するために、改変されたスピルリナは、過剰発現されたカロチノイドヒドロキシラーゼ(例えばβ-カロチンヒドロキシラーゼ)を含有し得る。これら及び関連する実施形態において、カロチノイド産生は、ストレス条件(窒素枯渇等であるが、これらに限定されない)へ改変された光合成微生物をさらすことによって、更に増加させることができる。1つの例示的なカロチノイドヒドロキシラーゼはA.plantensisのNIES39_R00430のcrtRによってコードされる。別の例示的なカロチノイドヒドロキシラーゼはPantoea ananatisのcrtZによってコードされる。そのホモログまたはパラログ、その機能的な等価物、及びその断片またはバリアントも含まれる。機能的な等価物には、β-カロチンへヒドロキシル基を追加する能力を備えたカロチノイドヒドロキシラーゼが含まれる。これら及び関連する実施形態は、本明細書において記載される内在性グリコーゲン経路遺伝子(例えばA.plantensisにおけるglgC)の発現及び/または活性の低減と更に組み合わせて、炭素をグリコーゲン産生からカロチノイドへと切りかえることができる。
【0092】
フィコシアニン及び/またはフィコエリトリン産生の改変
一実施形態において、スピルリナは、フィコシアニン及び/またはフィコエリトリンの産生を、同じ条件下で増殖された野生型スピルリナによって産生されるレベルを超えて増加させるように改変することができる。ビリン発色団と結び付いたフィコシアニン及びフィコエリトリンはそれぞれ天然に存在する青色及び赤色の色素であり、それらは化粧品産業、食品産業、及び医療画像産業において使用される。これらの色素分子はシアノバクテリアから精製することができる。
【0093】
多くのシアノバクテリアの際立った1つの特色はフィコビリソームと呼ばれる大量の集光性構造である。フィコビリソーム(それはシアノバクテリアに色の多様性を与える)は、細胞のタンパク質の最大60%を占める。これらの大量のタンパク質構造は、エネルギーを光化学のための光合成反応中心へ直接転移する。
【0094】
光化学のために光を吸収するフィコビリソーム中の色素分子は、ビリンと呼ばれる直線状のテトラピロール分子である。すべてのビリンは、システイン-チオエーテル結合を介してフィコビリタンパク質へ共有結合される。フィコビリソームには3つの主要なクラスのフィコビリタンパク質;アロフィコシアニン(AP)、フィコシアニン(PC)及びフィコエリトリン(PE)がある。各々のクラスはヘテロダイマーを形成するαサブユニット及びβサブユニットを含有する。ヘテロダイマーのαサブユニット及びβサブユニットの両方は、ビリン色素のうちの1つまたは複数を結合することができる。
【0095】
フィコビリソームを含む主要な構造成分は、2つの群;「コア」サブストラクチャー及び「ロッド」サブストラクチャーへと細分することができる。Synechococcus sp.の株において、コアサブストラクチャーは、少数のタイプのフィコビリタンパク質及びコアリンカータンパク質から作られる2つのシリンダーからなる。ロッドサブストラクチャーはPCα及びPCβのヘテロダイマーのヘキサマーから構成される。これらのヘテロヘキサマーのうちの平均3つが、リンカータンパク質経由で接続され、コアサブストラクチャー上に積み重ねられる。
【0096】
上記の技法を使用して、標的化された相同組換えを介してスピルリナに遺伝子を追加することができる。本開示における記載される技法は、フィコシアニンまたはフィコエリトリンをコードすることが公知である遺伝子を追加する手法を提供する。上記の技法を使用して、野生型のフィコシアニンまたはフィコエリトリンとは異なるが、ビリン発色団と結び付く能力を依然として有する、ポリペプチド配列をコードする遺伝子またはポリヌクレオチド配列の一部分を追加することができる。
【実施例】
【0097】
本開示の特定の実施形態は、ここで以下の実施例によって例証されるだろう。しかしながら、本開示は様々な形態で実施され、本明細書において説明される実施形態に限定されるものとして解釈されるべきでなく、むしろ、本開示が充分且つ完全であるようにこれらの実施形態は提供され、本開示の範囲を当業者へ全て伝えるだろう。
【0098】
実施例1
National Institute for Environmental Studies(日本)のMicrobial Culture Collectionから得たAthrospira plantensisのNIES-39細胞を、連続的な照明下で振盪しながらSOT培地中で培養した。750nmでの光学的密度が0.6~0.8に到達したときに、細胞を、60mLの培養物から1,500×gで10分間採取し、30mLのpHバランサー及び塩溶液中で再懸濁した。細胞を同じ条件下の遠心分離によって収集し、ポリエーテル浸透圧安定剤により3回洗浄した。細胞懸濁物を浸透圧安定剤中で2倍に希釈し、次いで1,500×gで5分間遠心して沈殿させ、細胞懸濁物の全体積を2mLに調整した。
【0099】
図1はA.plantensisの標的化された遺伝子座を示す。遺伝子座はpilA遺伝子(線毛タンパク質をコードする)を含む。左ホモロジーアーム及び右のホモロジーアームに対応するA.plantensisゲノムの領域も示される。左ホモロジーアームは対象となる遺伝子座の「左」の末端(5’末端)に隣接し、右ホモロジーアームは対象となる遺伝子座の「右」の末端(3’末端)に隣接する。この実施例において、左ホモロジーアーム及び右ホモロジーアームは約2000bp長である。
【0100】
図2は、Gibsonのアセンブリー方法を使用して、ベクター骨格、左ホモロジーアーム、右ホモロジーアーム、及びアミノグリコシドアデンリイトランスフェラーゼ(adenlytransferase)遺伝子(aadA)を含有する4つのPCR断片のアセンブルによって生成された、pApl-pilA/aadAプラスミドを示す。次いでこのプラスミドを使用してA.plantensisを形質転換した。pApl-pilA/aadAプラスミドはホモロジーアームの間に配置されたaadAを含む。aadAは、スペクチノマイシン及びストレプトマイシンへの耐性を付与する。したがって、このプラスミドによる相同組換えは、pilA遺伝子をaadA遺伝子で置き換える。プラスミドは、AmpRプロモーターの制御下のAmpR遺伝子(アンピシリン耐性)及びE.coliにおける複製起点(ori)も含有する。2.5μgのこのプラスミドを200μLの細胞懸濁物と混合した。プラスミドとの混合の直後に、Gene Pulser Xcell(商標)Microbial System(Bio-Rad、米国)を使用して、細胞をエレクトロポレーションした。
【0101】
エレクトロポレーションに後続して、細胞を、照明を低減して振盪せずに48時間SOT培地中で増殖させ、次いでストレプトマイシンを補足したSOT培地へ移した。培地中のストレプトマイシンの存在は形質転換された細胞のために選択された。ストレプトマイシンを含む培地を数日毎に交換して、抗生物質の有効性を維持した。ストレプトマイシン培地中で増殖させた後に、細胞を、ストレプトマイシン及びスペクチノマイシンを含有するSOT培地中で培養した。
【0102】
図3Aは、pApl-pilA/aadAプラスミド中に含有されるアミノグリコシドアデニリルトランスフェラーゼ(aadA)遺伝子による、A.plantensisにおけるpilA遺伝子のオープンリーディングフレームの置換の概略図である。相同組換えの成功に後続して、pilA遺伝子はaadA遺伝子により置き換えられた。ホモロジーアームは概略図中で太線として示される。A.plantensisのゲノムへ結合する3つのプライマーA、B及びCが同定され、プラスミド中のaadA遺伝子へ結合する2つのプライマーD及びEが同定された。プライマーA及びCは、aadA含有プラスミド上に存在するホモロジーアームの外でDNAポリメラーゼによってDNA合成を開始するようにデザインされた。したがって、プライマーA及びCは、形質転換後に不変のままであるA.plantensisゲノムの領域へ結合する。プライマーAは配列番号:13を有する。プライマーCは配列番号:14を有する。プライマーBはpilA遺伝子の上流のホモロジーアームへ結合する。プライマーBは配列番号:15を有する。プライマーD及びEは、aadA遺伝子の上流及び下流の端部へそれぞれ結合する。プライマーDは配列番号:16を有する。プライマーEは配列番号:17を有する。
【0103】
図3Bは、野生型A.plantensis(WT)及び上記のようにpApl-pilA/aadAプラスミドにより形質転換した後のA.plantensis(ΔpilA)を比較する異なるプライマーペアの組み合わせにより行った、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の結果を示す。ストレプトマイシン及びスペクチノマイシン中で増殖させた後に採取した細菌を煮沸したものの上清を、PCR鋳型として使用した。PCRは以下の条件下で行った。プライマーB及びCを含有する反応混合について、98℃で1分間の初期変性、ならびに98℃で30秒の変性、71℃で15秒のアニーリング(1サイクルあたり-0.1℃)、及び72℃で1.5分間の伸長を35サイクル、続いて72℃で2分間の最終的な伸長、次いで4℃への冷却;残りのプライマーを含有する反応混合について、98℃で1分間の初期変性、続いて98℃で30秒の変性、66℃で15秒のアニーリング、及び72℃で1分間の伸長を35サイクル、続いて72℃で2分間の最終的な伸長及び4℃への冷却。標的化された遺伝子座の中へのaadAの組み込みは、2つのペアのプライマー(C/E及びA/D)を使用して確認した。ゲル上で泳動されたラダーは、5kb、1.5kb及び500bpで顕著なバンドを有する。C/Eプライマーペアを使用する増幅は野生型で検出されなかったが、ΔpilAで2.2kbの強いバンドをもたらした。A/Dプライマーペアによる同様の増幅は野生型で検出されなかったが、ΔpilAで2.1kbの強いバンドをもたらした。プライマーB及びCの使用は、pilAまたはaadAのいずれかにわたるゲノム配列のPCR増幅を可能にする。野生型サンプル(pilAを含有する)の増幅は、形質転換されたサンプルΔpilA(aadAを含有する)の約3.4kbの増幅よりもわずかに短い、約3.1kbのPCR産物を生成した。aadA配列がpilA配列よりも約300bp長いので、このことから予想が確認される。PCRの結果は、内在性pilA遺伝子がaadA遺伝子により置き換えられたことを実証する。
【0104】
図3Cは、pilA遺伝子に相補的なプライマーF及びGによるPCRが、ストレプトマイシン及びスペクチノマイシンを補足したSOT培地中で増殖させた形質転換された細胞からの任意のDNAの増幅に失敗したことを示し、抗生物質の存在下において増殖させた培養物中でpilA遺伝子のすべてのコピーが置き換えられたことを指摘する。しかしながら、プライマーF及びGによる増幅は、抗生物質なしにSOT培地中で増殖させた野生型から340bpの配列を増幅し、プライマーF及びGがpilA遺伝子の増幅で効果的であることを確認した。プライマーFは配列番号:18を有する。プライマーGは配列番号:19を有する。このゲル上で泳動されたラダーは、5kb、1.5kb及び500bpで顕著なバンドを有する。
【0105】
実施例2
Arthrospira sp. PCC 8005細胞は、Pasteur Institut(Paris)のLaboratory Collection of Cyanobacteria中で維持されたシアノバクテリアのPasture Culture Collection(PCC)から得られ、連続的な照明下で振盪しながらSOT培地中で3日間培養された。細胞を、3日の期間の間に新鮮なSOT培地中で3倍または4倍に希釈した。750nmの光学的密度が所望されるレベルに到達するまで、細胞を上記の条件下で維持した。次いで細胞を培養物から3,200×gで10分間採取した。上清を除去し、細胞をpHバランサー及び塩溶液中で懸濁してpHを中和した。同じ条件下での遠心分離後に、細胞を0.1~100mMのNaCL及び1~50mLの浸透圧安定剤により3回洗浄し、次いで2つの1.5mLポリプロピレン微量遠心機用チューブ(例えばEppendorf(登録商標)チューブ)の中へ移した。1.5mL微量遠心機用チューブを3,200×gで室温で5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞懸濁物を3,200×gで5分間再び遠心分離し、次いでNaCL及び浸透圧調節物質溶液中で2倍に希釈した。上清を除去し、細胞懸濁物の全体積を450μlへ調整した。
【0106】
図4は、Gibsonのアセンブリー方法を使用することによって、ベクター骨格、左ホモロジーアーム、右ホモロジーアーム、及びアミノグリコシドアデンリイトランスフェラーゼ(adenlytransferase)をコードするaadAを含有する4つのPCR断片を繋いで生成された、pApl-pilA8005/aadAプラスミド(配列番号:2)を示す。pApl-pilA8005/aadAプラスミドにおいて、aadAは、Arthrospira sp. PCC 8005においてpilAオープンリーディングフレームの上流及び下流に見出されるゲノム配列に同一の配列を含有する右ホモロジーアームと左ホモロジーアームとの間に位置する。左ホモロジーアームは2.0kbであり、右ホモロジーアームは1.0kbである。aadAは、スペクチノマイシン及びストレプトマイシンへの耐性を付与する。したがって、Arthrospira sp. PCC 8005とこのプラスミドとの間の相同組換えは、Arthrospira sp. PCC 8005のpilA遺伝子をaadA遺伝子で置き換える。pApl-pilA8005/aadAプラスミドは、AmpRプロモーターの制御下でアンピシリン耐性を付与するβ-ラクタマーゼをコードするオペロン(AmpR)及びE.coliからの複製起点(ori)も含有する。
【0107】
400μLの懸濁細胞を0.1~20μgのpApl-pilA8005/aadAプラスミドと混合し、エレクトロポレーションキュベットの中へ移した。混合の直後に、Gene Pulser Xcell(商標)Microbial System(Bio-Rad、米国)エレクトロポレーションシステムを使用して、エレクトロポレーションを遂行した。
【0108】
エレクトロポレーションに後続して、1mLのSOT培地をキュベットの中へ添加し、次いで、細胞及びSOT培地を、9mLのSOT培地を含有する50mLポリプロピレン円錐管遠心分離チューブ(例えばファルコン(登録商標)チューブ)の中へ移した。細胞を30℃で照明を低減してインキュベーションした。抗生物質耐性によって同定された成功した形質転換体を、ストレプトマイシン及びスペクチノマイシンの存在下において選択した。
【0109】
図5Aは、pApl-pilA8005/aadAプラスミド中に含有されるアミノグリコシドアデニリルトランスフェラーゼ(aadA)遺伝子による、Arthrospira sp. PCC 8005におけるpilA遺伝子のオープンリーディングフレームの置換の概略図である。相同組換えの成功に後続して、pilA遺伝子はaadA遺伝子により置き換えられた。ホモロジーアームは概略図において網掛けのボックスとして示される。Arthrospira sp. PCC 8005のゲノムへ結合する2つのプライマーH及びIが同定され、プラスミド中のaadA遺伝子へ結合する1つのプライマーJが同定された。プライマーHは、pApl-pilA8005/aadAプラスミド上に存在するホモロジーアームの外でDNAポリメラーゼによってDNA合成を開始する。したがって、プライマーHは、形質転換後に不変のままであるArthrospira sp. PCC 8005のゲノムの領域へ結合する。プライマーHは配列番号:20を有する。プライマーIはpilA遺伝子の上流のホモロジーアームへ結合する。プライマーIは配列番号:21を有する。プライマーJは配列番号:22を有する。
【0110】
図5Bは、抗生物質の存在下において培養した細胞から抽出されたDNAで行われたPCRの結果を示す。野生型Arthrospira sp. PCC 8005(WT)及びpilAの欠失をもたらすpApl-pilA8005/aadAプラスミドによる形質転換後のArthrospira sp. PCC 8005(ΔpilA)で、プライマーペアH/I及びH/JによりPCRを遂行した。PCRは実施例1において上で記載された条件下で行われた。野生型Arthrospira sp. PCC 8005においてプライマーJのためのアニーリング部位がないので、H/Jプライマーペアは、形質転換した細胞から抽出されたDNAを含有する反応混合物においてのみ増幅をもたらし、Arthrospira sp. PCC 8005のpilAがaadAにより置き換えられたことを指摘する。標的化された遺伝子座の中へのaadAの組み込みは、2つのペアのプライマー(H/I及びH/J)を使用し、1%w/vアガロースゲル上のPCR産物の泳動によって結果を比較して確認した。
【0111】
プライマーペアH/Iによる野生型Arthrospira sp. のPCC 8005から抽出されたDNAの増幅は2.5kbと3kbとの間にバンドを示し、pilA遺伝子の存在を指摘する。予想されるように、aadAは形質転換なしではArthrospira sp. PCC 8005のゲノム中に存在しないので、H/Jプライマーペアによる野生型Arthrospira sp. PCC 8005の増幅は、任意のバンドをもたらさない。H/IプライマーペアまたはH/Jプライマーペアのいずれかにより増幅された場合に、形質転換された細胞から抽出されたDNAはPCR産物をもたらした。形質転換された細胞からのDNAでH/Iプライマーを使用する場合、野生型Arthrospira sp. PCC 8005のH/Iプライマーペアによる増幅からもたらされるバンドよりもわずかに大きいおよそ3kbに、バンドが存在する。これは、aadAがpilAよりもおよそ300bp長いので、aadAを含有する染色体が完全に分離されたことを実証する。形質転換された細胞は野生型細胞とは異なりH/Jプライマーペアでも増幅され、2kbのわずかに上のバンドをもたらした。PCR結果から、内在性pilA遺伝子がaadA遺伝子により置き換えられ、aadA遺伝子がすべての染色体コピー上で複製されたことが実証される。
【0112】
実施例3
Athrospira plantensisのNIES-39を実施例2からの手順を使用して改変して、内在性のNIES39_Q01220遺伝子座の中へβ-カロチン3,3’-水酸化酵素(CrtZ)及びβ-カロチン4,4’-ケトラーゼ(CrtW)をコードする外来性遺伝子を導入した。A.plantentisはアスタキサンチンを天然に合成しないが、crtZ及びcrtWの導入は、この有益なカロチノイドの合成を可能にする生合成経路を提供する。crtZ遺伝子はPantoea ananatis(配列番号:23)から得られ、crtW遺伝子はBrevundimonas sp. SD212(配列番号:24)から得られた。両方の遺伝子はSynechococcus elongatusのPCC7942において機能することが確認されており、シアノバクテリアにおける発現のためにコドンを最適化した。
【0113】
pApl-NS1/Prs-crtW-crtZプラスミドはA.plantentisの中へcrtZ及びcrtWを導入するように生成した。このプラスミドは、aadA遺伝子ならびにリボスイッチへ接続された誘導可能なtrcプロモーターの下流にcrtZ遺伝子及びcrtW遺伝子を含む。
図6は、pApl-NS1/Prs-crtW-crtZプラスミド(配列番号:3)のデザインを示す。このプラスミドは実施例1中で記載されるものと同じ技法によって生成した。
【0114】
エレクトロポレーション及び培養の技法を最初は実施例1中で記載されるように遂行したが、実施例1からのpApl-pilA/aadAプラスミドの代わりにpApl-NS1/Prs-crtW-crtZプラスミドを使用した。この変化の後に、形質転換は成功しなかった。理論により束縛されるものではないが、シアノバクテリアにおけるCrtW及びCrtZの発現は光化学系を中断し、それは細胞増殖を阻害し得ると考えられる。選択されたプロモーターが、誘導なしで、crtZ及びcrtWの遺伝子の発現を十分に抑制しなかったのではないかという理論を立てられる。したがって、CrtW及びCrtZのタンパク質の存在は、任意の形質転換された細胞が増殖することを阻止し得る。増殖を阻害し得る遺伝子による形質転換は、遺伝子発現を非常に厳密に調節するプロモーターデザインに依存し得る。プロモーター間の相互作用、挿入される遺伝子、及び形質転換成功は、更なる研究領域である。
【0115】
実施例4
Athrospira plantensisのNIES-39は、C-フィコシアニンのαサブユニット及びβサブユニットをコードするcpcA遺伝子及びcpcB遺伝子の追加コピーの追加によって改変される。野生型Athrospira plantensisのNIES-39は、これらの遺伝子の単一のセットをのみ有する。これらの内在性遺伝子のコピー数の増加は青色のC-フィコシアニンの合成を増加させる。cpcA遺伝子(配列番号:25)及びcpcB遺伝子(配列番号:26)を野生型Athrospira plantensisのNIES-39から得た。
【0116】
A.plantentisの中へcpcB及びcpcAを導入するために使用されるプラスミドは、実施例1中で記載される技法によって生成した。
図7は、pApl-NS1/aadA-cpcBAプラスミド(配列番号:4)の概略図を示す。このプラスミドは、低コピーp15A複製起点、遺伝子座NIES39_Q01220の中央にpilAプロモーター(pilAオープンリーディングフレームの上流の168bpの配列)、aadA、及びcpcBの上流の278bpからcpcAの3’末端までの範囲のゲノム配列(配列番号:27)を含有する。挿入部位の1.5kbのフランキング領域は、標的化された遺伝子座の中へ外来性遺伝子オペロンを組み込む左ホモロジーアーム及び右ホモロジーアーム(すなわちNIES39_Q01220)である。
【0117】
Athrospira plantensisのNIES-39を、実施例3中で記載される手順を使用して、pApl-NS1/aadA-cpcBAプラスミドで形質転換した。
【0118】
形質転換に後続して、cpcB及びcpcAの第2のコピーを保有する株を、その親株(すなわちArthrospira platensisのNIES-39)と同じ条件下で160mLのSOT培地中で増殖させた。12mLの各々の培養物から細胞を1日おきに採取して、C-フィコシアニン及びアロフィコシアニンの量を定量化した。収集された細胞を、5mLの100mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)中に再懸濁し、3,200×gで室温で5分間遠心分離した。ペレットを、2.5mLの100mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)中で懸濁し;700μlの懸濁細胞をあらかじめ計ったPVDF(ポリフッ化ビニリデンまたはポリ二フッ化ビニリデン)膜上に移した。細胞を膜上で水(15~20mL×2)により広く洗浄し、乾燥バイオマスの重量を計算するためにオーブン中で一晩乾燥した。100mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)中で懸濁した残りの細胞を、-80℃で貯蔵し、同じ100mMのリン酸ナトリウムバッファー中でバッファー1mLあたり2.0mgの乾燥細胞重量へ希釈した。細胞を30℃で一晩温和な撹拌によって溶解し、16,000×gで4℃で30分間遠心分離した。上清を新しいチューブの中へ移し、同じ条件下で再び遠心分離した。上清を100mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)中で希釈し、光学的密度を5nmの間隔で450nm~750nmの間で測定してクロロフィル及びカロチノイドが除かれたことを確認した。C-フィコシアニン(Cpc)及びアロフィコシアニン(Apc)の含有量を、620nm及び650nmでの清澄細胞溶解物の光学的密度を使用して計算した。C-フィコシアニン及びアロフィコシアニンの濃度は、等式ODλ=CCpc×Eλ,Cpc+CApc×Eλ,Apc(式中、λ=620nmまたは650nmであり、CCpcはC-フィコシアニンの濃度(mg/mL)であり、Eλ,CpcはC-フィコシアニンの消光係数であり、CApcはアロフィコシアニンの濃度(mg/mL)であり、Eλ,Apcはアロフィコシアニンの消光係数であり、OD(光学的密度)は吸収である)を使用して計算した。この等式の使用はYoshikawa and Belay(2008)J.AOAC Int.中で記載される。
【0119】
図8A~Dは、cpcA及びcpcBの各々の合計2つのコピーを含むように形質転換されたArthrospira platensisのNIES-39(点線)ならびに野生型Arthrospira platensisのNIES-39(実線)のフィコシアニン産生及び増殖を比較するグラフである。すべてのグラフについてのエラーバーは、3つの独立した実験からの標準偏差を示す。細胞を1日おきに(すなわち2、4及び6日目に)上記のように培養から採取した。すべての
図8A~Dについてのデータは同じ条件下で増殖させた細胞から収集した。
【0120】
図8Aは、乾燥バイオマスのパーセントとして測定されたCpc及びApcの産生を示す。形質転換された株(点線)は、Cpcとしてのバイオマスを、野生型株(実線)よりもおよそ3~5%多く有していた。両方の株について、Cpcのパーセンテージは4日目にピークに達し、次いで減少した。Apcのレベルは野生型株よりも形質転換された株において約1%低かった。
【0121】
表1は、純粋フィコシアニン及び粗製フィコシアニンとして更に分析された乾燥バイオマスのパーセンテージとしてのフィコシアニンレベルを示す。
【表1】
【0122】
純粋フィコシアニンは等式:
【数1】
を使用して計算した。
粗製フィコシアニンはすべてのフィコビリタンパク質色素を表わし、等式:
【数2】
を使用して計算した。
【0123】
図8Bは、全可溶性タンパク質のパーセントとして測定されたCpc及びApcの産生を示す。野生型株(実線)及び形質転換された株(点線)の両方について、Cpcのパーセントは時間と共に増加した。形質転換された株は、Cpcとしての全可溶性タンパク質を、野生型株よりもおよそ5%多く有していた。両方の株についてApcのレベルはより低く、比較的安定的であり、形質転換された株は、Apcとしての全可溶性タンパク質を、野生型株よりも約1%少なく有していた。
【0124】
図8Cは、1リットルの細胞培養物あたりのフィコシアニンのグラムでの、全Cpc及びApcの産生を示す。形質転換された株(点線)の全Cpc産生はすべてのタイムポイントで野生型株(実線)よりも多く、差は時間と共に増加した。Apcレベルも時間と共に増加したが、野生型株は形質転換された株よりも高いレベルのApcを産生した。Cpc及びApcの含有量は増殖相に依存して変動したが、すべてのタイムポイントで及びすべての条件下で、形質転換された株は野生型株よりも50~100%高い量のCpc及びより少ないApcを蓄積した。
【0125】
図8Dは、野生型株及び形質転換された株の増殖を比較する。形質転換された株(点線)は、野生型株(実線)と同じ率で0~4日目に増殖し、6日目にわずかに遅れた。
【0126】
実施例5
野生型Arthrospira platensisのNIES-39及び上記の形質転換された株からの抽出物を分析するために、両方の株をSOT培地の50Lのフォトバイオリアクター中で培養してタンパク質抽出のために十分なバイオマスを得た。フィルターカートリッジを使用して培養物を濃縮し、次いで細胞を3,000×gで10分間の遠心分離によって採取した。次いで濃縮された細胞を凍結乾燥した。2つの株の各々からの2グラムの乾燥バイオマスを20mLの水中で懸濁し、3,200×gで5分間遠心分離して膨潤バイオマスを収集した。上清を除去し、ペレットを20mLの水中で懸濁した。同じ条件下での遠心分離後に、次いでペレットを、反復ピペッティングによって80mLの20mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)中で懸濁し、室温で30分間穏やかに撹拌した。超音波処理は、QsonicaソニケーターQ700を使用して、最大振幅の50%で室温で30秒間2回遂行した。超音波処理に後続して、懸濁細胞を室温で一晩継続的に撹拌した。細胞溶解物から水可溶性抽出物を回収するために、サンプルを、10,000×gで1回、次いで16,000×gで2回4℃で30分間遠心分離した。各々の細胞溶解物からの72ミリリットルの上清をガラスビーカーの中へ移し、20mMのリン酸ナトリウム(pH6.5)中の45mLの100%飽和硫酸アンモニウムをビーカーの中へ徐々に滴下し、そこで清澄にした細胞抽出物を4℃で穏やかに撹拌した。細胞溶解物及び硫酸アンモニウムの混合物を1時間撹拌し、沈殿させたタンパク質を16,000×gで4℃で30分間の遠心分離によって回収した。ペレットを20mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)により懸濁して全体積を50mlへ調整し、Slide-A-Lyzerカセットを使用して2Lの20mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)に対して4℃で透析した。外側のバッファーを、3回(3時間、一晩、次いで4時間)交換した。サンプルを16,000×gで4℃で30分間遠心分離し、回収された上清を同じ条件下で再び遠心分離した。
【0127】
図9Aは、2つの株の最終的な遠心分離から回収された上清が異なる強度の青色を有することを示す写真である。野生型Arthrospira platensisのNIES-39を含有するチューブ900はより薄い青色を有し;pApl-NS1/aadA-cpcBAプラスミドにより形質転換された株を含有するチューブ902はより濃い青色を有する。C-フィコシアニンは、620nmの付近で単一の可視光吸収最大値を備えた強い青色を有する。したがって、C-フィコシアニン過剰産生する株の上清からより濃い青色が予想された。
【0128】
図9Bは、形質転換された株(実線)と野生型株(点線)との間の吸収差を示すグラフである。両方の株は620nmの付近で吸収ピークを示した。形質転換された株についてのピーク吸収はおよそ0.60cm
-1であり、野生型株についてのピークはおよそ0.35cm
-1であった。これは、
図9A中で示される定性的な色の差を定量的に確認するものである。C-フィコシアニン抽出物の質は、620nmでの光学的密度(OD
620)対280nmでの光学的密度(OD
280)の比によって決定することができる。より高い比はC-フィコシアニンのより高い収率及び純度を指摘し、それは、低価格の使用(食品用色素等)ではなく高価格の使用(化粧品等)のために適切であり得る。
図9B中のグラフは、形質転換された株についてのOD
620/OD
280比が2.5であり、比較として野生型株については1.8であることを示す。これは、形質転換された株の回収された上清からのC-フィコシアニンが40%高い濃度であることを指摘する。
【0129】
例示的な実施形態
実施形態1は、少なくとも1つの安定的な標的化された突然変異を含む、スピルリナである。
【0130】
実施形態2は、前記スピルリナがAthrospiria platensisまたはArthrospira maximaである、実施形態1、4~11、または25のいずれか1つに記載のスピルリナである。
【0131】
実施形態3は、前記スピルリナがAthrospiria platensisのNIES-39またはArthrospira sp. PCC 8005である、実施形態1、2、4~11、または25のいずれか1つに記載のスピルリナである。
【0132】
実施形態4は、前記安定的な標的化された突然変異が、少なくとも10世代の間遺伝的に継承される、実施形態1~3、5~11、または25のいずれか1つに記載のスピルリナである。
【0133】
実施形態5は、前記安定的な標的化された突然変異が、前記スピルリナの染色体の中へ組み込まれる、実施形態1~4、6~11、または25のいずれか1つに記載のスピルリナである。
【0134】
実施形態6は、前記標的化された突然変異が、遺伝子の少なくとも一部分の欠失または破壊を含む、実施形態1~5、7~11、または25のいずれか1つに記載のスピルリナである。
【0135】
実施形態7は、前記標的化された突然変異が内在性遺伝子の追加コピーの追加または外来性遺伝子の追加を含む、実施形態1~6または8~11のいずれか1つに記載のスピルリナである。
【0136】
実施形態8は、前記標的化された突然変異が遺伝子調節エレメントの追加を含む、実施形態1~7、10、または11のいずれか1つに記載のスピルリナである。
【0137】
実施形態9は、前記遺伝子調節エレメントが、プロモーター、調節タンパク質結合部位、RNA結合部位、リボソーム結合部位、またはRNA安定性エレメントである、実施形態8に記載のスピルリナである。
【0138】
実施形態10は、前記標的化された突然変異が外来性または内因性のタンパク質ドメインの追加を含む、実施形態1~9または11のいずれか1つに記載のスピルリナである。
【0139】
実施形態11は、前記外来性タンパク質ドメインが、リン酸化部位、安定性ドメイン、タンパク質標的化ドメイン、またはタンパク質-タンパク質相互作用ドメインである、実施形態10に記載のスピルリナである。
【0140】
実施形態12は、スピルリナにおいて標的化された突然変異を生成する方法であって、浸透圧安定剤と前記スピルリナを接触させることと;ホモロジーアームを有するベクターと前記スピルリナを接触させることと;前記スピルリナにおいて人工的コンピテンスを誘導することとを含む、前記方法。
【0141】
実施形態13は、前記スピルリナがSpirulina platensisである、実施形態12または15~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0142】
実施形態14は、前記スピルリナがAthrospiria platensisのNIES-39またはArthrospira sp. PCC 8005である、実施形態12または15~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0143】
実施形態15は、前記浸透圧安定剤が、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、グルコース、またはショ糖のうちの少なくとも1つである、実施形態12~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0144】
実施形態16は、前記ベクターが、DNAベクター、直線状ベクター、環状ベクター、一本鎖ポリヌクレオチド、または二本鎖ポリヌクレオチドである、実施形態12~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0145】
実施形態17は、前記ベクターが、配列番号:1、配列番号:2、または配列番号:4を有するベクターを含む、実施形態12~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0146】
実施形態18は、前記ホモロジーアームのうちの少なくとも1つが少なくとも500bpである、実施形態12~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0147】
実施形態19は、前記ホモロジーアームのうちの少なくとも1つが少なくとも1000bpである、実施形態12~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0148】
実施形態20は、前記ホモロジーアームのうちの少なくとも1つが少なくとも2000bpである、実施形態12~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0149】
実施形態21は、前記人工的コンピテンスが、二価陽イオンを含有する溶液中でのインキュベーションによって、エレクトロポレーションによって、または超音波によって誘導される、実施形態12~20及び22~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0150】
実施形態22は、pHバランサーと前記スピルリナを接触させることを更に含む、実施形態12~24のいずれか1つに記載の方法である。
【0151】
実施形態23は、前記pHバランサーと前記スピルリナを接触させることが、前記ベクターと前記スピルリナを接触させることの前である、実施形態22または24のいずれか1つに記載の方法である。
【0152】
実施形態24は、前記スピルリナ及び前記pHバランサーを含有する培地のpHが、約7~約8である、実施形態22または23のいずれか1つに記載の方法である。
【0153】
実施形態25は、少なくとも1つのタンパク質の遺伝子座の少なくとも一部分と相同な配列及び改変を含む少なくとも1つのDNAコンストラクトによるスピルリナの形質転換ならびに前記遺伝子座での前記DNAコンストラクトの組み込みによって前記タンパク質の遺伝子座で前記改変を導入した結果として、前記少なくとも1つのタンパク質を欠くスピルリナであって、他の点ではその生来の様式で機能することが可能な前記スピルリナである。
【0154】
実施形態26は、標的化された遺伝子座の少なくとも一部分と相同な配列及びフィコシアニンをコードする外来性遺伝子を含む少なくとも1つのDNAコンストラクトによるスピルリナの形質転換ならびに前記遺伝子座でのDNAコンストラクトの組み込みによって前記標的化された遺伝子座で前記外来性遺伝子を導入した結果として、前記フィコシアニンをコードする外来性遺伝子を含むスピルリナであって、野生型スピルリナと比較して増加した量のフィコシアニンを産生し、複数の世代を通して形質転換を維持する前記スピルリナである。
【配列表】