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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】灌水チューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/02 20060101AFI20231106BHJP
   F16L 11/12 20060101ALI20231106BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20231106BHJP
   B23K 26/04 20140101ALI20231106BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
A01G25/02 601F
A01G25/02 602B
F16L11/12 K
B23K26/382
B23K26/04
B23K26/067
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019169328
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021045064
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】596005964
【氏名又は名称】住化農業資材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】村上 太一
(72)【発明者】
【氏名】都築 綾花
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-041698(JP,A)
【文献】特開2000-033704(JP,A)
【文献】特開平02-187291(JP,A)
【文献】特開2003-225786(JP,A)
【文献】特開2011-177777(JP,A)
【文献】特開2004-147564(JP,A)
【文献】特開平02-258187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/02
F16L 11/12
B23K 26/382
B23K 26/04
B23K 26/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の散水孔が形成された通水部を備え、前記複数の散水孔が、前記通水部に通水された状態で、噴出された水が衝突するように形成された隣り合う複数の散水孔を有する灌水チューブの製造方法であって、
前記通水部を形成するための樹脂製のシート部材に、その一面側及び他面側の少なくとも一方から前記シート部材の厚み方向に対して傾斜した方向にレーザー光を照射して穿孔することによって、前記複数の散水孔を形成する工程を備え、
前記シート部材として、第1のシート部材と、第2のシート部材とを用い、
前記複数の散水孔を形成する工程では、
シート部材を移動させながら
YAGレーザー光を発生させる一つの発振器から出射したYAGレーザー光を分岐させ、分岐後の各レーザー光の波長を等しくし、複数の光路で同時に照射することによって、前記複数の散水孔を形成し、
前記複数の散水孔が形成された前記第1のシート部材及び前記第2のシート部材の両側端縁部同士を接着することによって、前記通水部を形成する、灌水チューブの製造方法。
【請求項2】
カーボンブラックを添加した前記シート部材を用いる、請求項1に記載の灌水チューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌水チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農業の施設園芸等においては、いわゆるビニールハウス等の農業用ハウスを用いて野菜等の栽培が行われている。かかる野菜の栽培等には、灌水作業が必要であり、かかる灌水作業では、チューブに複数の散水孔が形成されてなる灌水チューブを用いて土壌に水が散布されている。
【0003】
この種の灌水チューブとして、内部に通水(水が供給)されることによって円筒状となるように形成されており、且つ、散水孔が形成された通水部を備えた種々の灌水チューブが提案されている。例えば、特許文献1には、散水孔がチューブ表面に対して傾斜させて形成された灌水チューブが記載されている。また、特許文献2には、複数の散水孔から噴出する水を互いに衝突させるように構成された灌水チューブが記載されている。複数の散水孔から噴出する水を互いに衝突させる灌水チューブは、通水部に複数の散水孔が形成され、該複数の散水孔は、通水部に通水された状態で、噴出された水が衝突するように形成された複数の散水孔を有している。斯かる灌水チューブによれば、衝突により、散水飛距離や水滴粒径が調整されたものとなる。
【0004】
噴出された水が衝突するように形成された複数の散水孔を有する灌水チューブを製造する方法は、通水部を形成するためのシート部材に、所定の方向に水を噴出させる各散水孔の形成に応じた複数の発振器から出射したレーザー光を、厚み方向に対して傾斜した方向に照射して穿孔することによって、散水孔を形成する工程を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-176319号公報
【文献】特開2004-147564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されたような、性能の優れた灌水チューブを安定して製造することは困難である。具体的には、複数の発振器から出射した各レーザー光の出力のゆらぎにより、複数の散水孔の大きさにばらつきが生じ得る。このような灌水チューブは、各散水孔から噴出した水が衝突しても、水滴を十分に微粒化できず、安定した散水を行うことができるとはいい難い。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、従来よりも安定した散水を行うことが可能な灌水チューブを安定して製造することができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
複数の散水孔を形成する際、複数の発振器から出射される各レーザーの出力のゆらぎにより、複数の散水孔の大きさのバランスが崩れる場合が多くあるところ、本発明者らが、この知見に基づいて鋭意研究した結果、1つの発振器から出射したレーザー光を分岐させて複数の光路で同時にシート部材に照射すると、分岐させた各レーザー光の出力のゆらぎが生じても、形成される複数の散水孔の大きさのばらつきが小さくなることを見出した。
【0009】
上記知見をもとになされた本発明に係る灌水チューブの製造方法は、
複数の散水孔が形成された通水部を備え、前記複数の散水孔が、前記通水部に通水された状態で、噴出された水が衝突するように形成された隣り合う複数の散水孔を有する灌水チューブの製造方法であって、
前記通水部を形成するためのシート部材に、その一面側及び他面側の少なくとも一方から前記シート部材の厚み方向に対して傾斜した方向にレーザー光を照射して穿孔することによって、前記複数の散水孔を形成する工程を備え、
前記複数の散水孔を形成する工程では、
前記シート部材に、
一つの発振器から出射したレーザー光を分岐させて複数の光路で同時に照射することによって、前記複数の散水孔を形成する。
【0010】
斯かる構成によれば、レーザー光に出力のゆらぎが生じても、一つの発振器から出射したレーザー光を分岐させて複数の光路で同時に照射するため、複数の散水孔の大きさのバランス精度が高くなり得る。
従って、このように形成された複数の散水孔から噴出された水を衝突させて、水滴を十分に微粒化させることができるため、従来よりも安定して散水を行うことが可能な灌水チューブを安定して得ることができる。
【0011】
前記複数の散水孔を形成する工程では、
移動している前記シート部材に、前記複数の散水孔を形成してもよい。
【0012】
本発明者らは、シート部材を移動させながら、複数の発振器からレーザー光を出射して複数の散水孔を形成しようとすると、各発振器からレーザー光を出射するタイミングがずれ、このタイミングのずれによって、移動しているシート部材にレーザー光が照射されるタイミングがずれ、その結果、所望の位置に、すなわち所望の間隔で複数の散水孔が形成されないことを見出した。このため、生産性を向上させるために、シート部材を高速で移動させて散水孔を形成する場合には、このタイミングのずれが大きくなるため、シート部材を所定の位置で停止もしくは低速で移動させて散水孔を形成する必要があり、生産性を向上させることが困難になるという問題があった。
これに対して、上記構成によれば、シート部材が移動している場合であっても、一つの発振器から出射したレーザー光を分岐させて複数の光路で同時に照射すると、同じ発振器から出射された複数のレーザー光を、移動しているシート部材に同じタイミングで照射することができ、これによって、複数の散水孔が所望の位置に形成され、その結果、複数の散水孔から噴出する水を精度良く所望の位置で衝突させ得る灌水チューブを製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の通り、本発明によれば、従来よりも安定した散水を行うことが可能な灌水チューブを安定して製造することができる製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の灌水チューブの製造方法で製造された灌水チューブが農業用ハウスに設置された状態の一例を示す概略側面図
図2】本実施形態の灌水チューブの製造方法に用いられる穿孔装置を示す概略上面図
図3図2の穿孔装置を図2の側方から見た概略側面図
図4】本実施形態の灌水チューブの製造方法によって散水孔の形成が開始される状態を示す概略側面図
図5】本実施形態の灌水チューブの製造方法によって散水孔が形成されている状態を示す概略側面図
図6】本実施形態の灌水チューブの製造方法で製造された一例の灌水チューブを示す概略上面図
図7】本実施形態の灌水チューブの製造方法で製造された一例の灌水チューブを示す概略斜視図
図8】本実施形態の灌水チューブの製造方法で製造された一例の灌水チューブが通水された状態を示す概略斜視図
図9】本実施形態の灌水チューブの製造方法で製造された一例の灌水チューブの垂直断面を示す概略断面図
図10図9の散水孔の周辺を示す概略部分拡大断面図
図11図10の散水孔から水が噴出される状態を模式的に示す概略部分拡大断面図
図12】本実施形態の灌水チューブの製造方法で製造された一例の灌水チューブの散水孔の周辺を示す概略部分拡大断面図
図13図12の散水孔から水が噴出される状態を模式的に示す概略部分拡大断面図
図14】本実施形態の灌水チューブの製造方法で製造された一例の灌水チューブの散水孔の周辺を示す概略部分拡大断面図
図15図14の散水孔から水が噴出される状態を模式的に示す概略部分拡大断面図
図16】本実施形態の灌水チューブの製造方法で製造された一例の灌水チューブによって散水している状態を示す概略側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態の灌水チューブの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態で製造される灌水チューブ10は、図1に示すように、例えば、農業用ハウス1に設置される。なお、灌水チューブ10は、目的に応じて屋外および屋内で使用可能であるが、特に農業用ハウス1に使用することが好ましい。
灌水チューブ10の高さは、特に限定されるものではなく、農業用ハウス1の形状や大きさ等によって、適宜設定され得る。
なお、灌水チューブ10は、壁部5aや支柱7ではなく、棟3に設置されてもよい。例えば、棟3の壁部5a側(例えば、壁部5aの近傍)や、棟3の支柱7側(例えば、支柱7の近傍)、ハウス中央に吊下げて設置されてもよい。
また、灌水チューブ10は、地面に設置されてもよい。
【0017】
本実施形態では、図6図9に示すように、通水部11とフィン部21とを備え、通水部11に、それぞれ内周面15を有する複数の散水孔13が形成された灌水チューブ10の製造方法について説明する。
【0018】
本実施形態の灌水チューブ10の製造方法は、
複数の散水孔13が形成された通水部11を備え、前記複数の散水孔13が、前記通水部11に通水された状態で、噴出された水が衝突するように形成された隣り合う2つの散水孔13を有する灌水チューブ10の製造方法であって、
前記通水部11を形成するための平坦状のシート部材17に、その一面側及び他面側の少なくとも一方から前記シート部材17の厚み方向に対して傾斜した方向にレーザー光を照射して穿孔することによって、前記複数の散水孔13を形成する工程を備え、
前記複数の散水孔13を形成する工程では、
前記シート部材17に、
一つの発振器53から出射したレーザー光を分岐させて複数の光路で同時に照射することによって、前記複数の散水孔13を形成する方法である。
【0019】
本実施形態の灌水チューブ10の製造方法に用いる穿孔装置40について説明する。
図2及び図3に示されるように、本実施形態の穿孔装置40は、レーザー光を照射する一つの発振器(光源)53と、該発振器53から出射されたレーザー光の光路を変更する光路変更部55と、発振器53から出射され、光路変更部55で光路が変更されたレーザー光を分岐させる分岐部57と、分岐されて得られた複数のレーザー光を出射する複数の出射部65と、分岐部57で分岐された各レーザー光を受光する受光部61及び各受光部61で受光したレーザー光を各出射部65に送る光ケーブル63を有するレーザー光伝達部59とを備える。
【0020】
穿孔装置40内の支持部51は、これに発振器53、光路変更部55、分岐部57、及び、レーザー光伝達部59の受光部61が載置されて、これらを支持する。
【0021】
発振器53は、シート部材17を穿孔するためのレーザー光を発生させる。
発振器53は、既存の種々のタイプのレーザーを使用することが可能であるが、例えば、YAGレーザーの場合YAGレーザー光を発生させる。
この場合には、発振器53は、ネオジウムを封入したイットリウム(Y)及びアルミニウム(Al)のガーネット(G)構造を有する結晶によって形成されたYAGロッドと、該YAGロッドに光を照射する照射部とを備え、照射部から照射された光によってYAGロッドを共振させて、YAGを励起、発振、発動させ、これによって束状のレーザー光を発生させ、出射する。
レーザー光は光ケーブルを通り、各出射部65から前記シート部材17に照射する。各出射部65の焦点やレンズ倍率を変更したり、光源内のレーザー出力波形(出力vs時間)、レーザーパワーを調整したりすることによって、散水孔13の孔径、及び、その内周面の傾き(内周面の形状)を調整し得る。
【0022】
光路変更部55は、発振器53から出射されたレーザー光の光路を、該レーザー光が出射部65に向かうように変更する。
光路変更部55は、レーザー光を反射させる光路変更用ミラー55aを有している。
光路変更用ミラー55aは、レーザー光を全反射させる。
かかる光路変更用ミラー55aの数量は、特に限定されない。
【0023】
光路変更部55で光路が変更されたレーザー光は、分岐部57に向かう。
【0024】
分岐部57は、分岐用ミラー57aを有する。
分岐用ミラー57aは、必要な数のレーザー光の分だけ配されればよい。
すなわち、2つのレーザー光に分岐させる場合には、2つの分岐用ミラー57a、3つのレーザー光に分岐させる場合には、3つの分岐用ミラー57a、図6に示すように4つのレーザー光に分岐させる場合には、4つの分岐用ミラー57aが配されればよい。
【0025】
レーザー光は、互いに波長が同じで、出射エネルギーが同じになるように調整分岐され得る。これにより、分岐されたレーザー光によって散水孔13を形成する際、同じ形状の散水孔13が形成され得る。
一方、レーザー光は、互いに波長が同じであるが、出射エネルギーが異なるように分岐されてもよい。これにより、分岐されたレーザー光によって散水孔13を形成する際、異なる形状の散水孔13が形成され得る。
【0026】
これら分岐用ミラー57aは、順にレーザー光が到達するように並べられる。
レーザー光が最初に到達する1番目の分岐用ミラー57aでは、1つのレーザー光を2つのレーザー光に分岐する。すなわち、1番目の分岐用ミラー57aは、送られたレーザー光のうち、一部を反射し、残りを透過させる。
【0027】
1番目の分岐用ミラー57aを通過したレーザー光は、2つに分岐する場合には、2番目の分岐用ミラー57aによって全反射される。
【0028】
さらに多く分岐する場合には、2番目の分岐用ミラー57aによって、レーザー光の一部を反射させ、残りを透過させる。
2番目の分岐用ミラー57aを通過したレーザー光は、3つに分岐する場合には、3番目の分岐用ミラー57aによって全反射される。
【0029】
さらに多く分岐する場合には、3番目の分岐用ミラー57aによって、レーザー光の一部を反射させ、残りを透過させる。
3番目の分岐用ミラー57aを通過したレーザー光は、4つに分岐する場合には、4番目の分岐用ミラー57aによって全反射される。
【0030】
さらに多く分岐する場合には、4番目の分岐用ミラー57aによって、レーザー光の一部を反射させ、残りを透過させる。
【0031】
このようにして、必要とするレーザー光の数量をn(2以上の整数)とすると、分岐用ミラー57aをn個配置し、1番目からn-1番目までの分岐用ミラー57aでは、レーザー光の一部を反射し、残りを透過させ、n番目の分岐用ミラー57aでは、レーザー光を全反射させる。
【0032】
全ての分岐用ミラー57aによって、同じレーザー光に分岐する場合には、例えば、以下のようにし得る。
【0033】
1番目の分岐用ミラー57aによって、到達したレーザー光の量を分岐させる数量(n)で割った量(1/n量)を反射し、残りの量を透過させる。
【0034】
2番目の分岐用ミラー57aによって、1番目の分岐用ミラー57aを透過したレーザー光について、その量を(n-1)で割った量を反射し、残りの量を透過させる。すなわち、元のレーザー光の量の1/n量を反射し、残りの量を透過させる。
【0035】
3番目の分岐用ミラー57aによって、2番目の分岐用ミラー57aを透過したレーザー光について、その量を(n-2)で割った量を反射し、残りの量を透過させる。すなわち、元のレーザー光の量の1/n量を反射し、残りの量を透過させる。
【0036】
4番目の分岐用ミラー57aによって、通常、3番目の分岐用ミラー57aを透過したレーザー光について、その量を(n-3)で割った量を反射し、残りの量を透過させる。すなわち、元のレーザー光の量の1/n量を反射し、残りの量を透過させる。
【0037】
これらが繰り返され、n番目の分岐用ミラー57aによって、到達したレーザー光(すなわち、元のレーザー光の1/n量)を全反射させる。
【0038】
このようにすることによって、各分岐用ミラー57aによって同じ量のレーザー光に分岐できる。
【0039】
このように等しく分岐された各レーザー光は、波長及び出射エネルギーが同じであるため、これらを同じシート部材に照射することによって、同じ条件で穿孔することが可能となる。
【0040】
一方、2つの散水孔13を異なる形状にする場合には、各分岐用ミラー57aでのレーザー光の反射量及び透過量を調整することによって、分岐毎に異なる出射エネルギーのレーザー光を、各出射部65から出射させ得る。
【0041】
分岐用ミラー57aの材質としては、一般的に、合成石英やBK7などが挙げられる。分岐用ミラー57aがレーザー光を反射させる量と透過させる量との比率は、分岐用ミラー57aの設置角度、設置位置、設置高さなどで調整可能である。また、受光部61直前にレーザー光の透過率を変えるための特殊コーティングガラスを挿入することでも調整可能である。
【0042】
発振器53から出射されたレーザー光は、光路変更部55を通って分岐部57の各分岐用ミラー57aに到達し、各分岐用ミラー57aによって複数のレーザー光に分岐され、得られた複数のレーザー光は、レーザー光伝達部59を通って各出射部65に到達し、該各出射部65から出射される。
各出射部65から出射されたレーザー光は、シート部材17に照射され、この照射によって穿孔されることによって、シート部材17に各レーザー光に対応した散水孔13が形成される。
このとき、出射エネルギーにゆらぎがあった場合でも、均等に分割され出射されるため、2つの孔の大きさのバランスは均等になる。また、各出射部65から同じタイミングでレーザー光が出射され、各レーザー光に対応した散水孔13が、同じタイミングで形成される。
【0043】
各出射部65は、シート部材17に対して所望の散水孔13を形成できる角度で各レーザー光を出射できるような位置及び形状に形成されている。
分岐の数量は、2つ以上であればよく、特に限定されない。2つの場合には、同時に2つの散水孔13(1セット)が形成され、これが繰り返される。
4つ以上の場合には、2つの散水孔13が、複数セット形成される。
なお、最終的に穿孔装置40から出射されるレーザー光の数量は、出射部65の数量によって決定されるため、出射部65の数量よりも多くのレーザー光を分岐させておき、そのうちの一部のレーザー光の出射部65を遮蔽し、残りのレーザー光を出射部65から散水孔穿孔のために出射してもよい。
【0044】
本実施形態では、かかる穿孔装置40を用いて、シート部材17に散水孔13を形成する。
図4及び図5に示すように、以下では、通水部11を形成するための平坦な長片状の2つのシート部材17の少なくとも一方に穿孔して散水孔13を形成し、各シート部材17を積層し、各シート部材17の両側端部同士をヒートシールにより接着して、通水部11とフィン部21とを形成する態様を示す。
すなわち、本実施形態の灌水チューブ10の製造方法は、複数の散水孔13が形成された2つのシート部材17を、環状になるように接着して通水部11を形成する工程を備える。
【0045】
なお、シート部材17として、2つのシート部材の両側端部同士がヒートシールにより接着され、内部に通水されるように予め環状に形成された積層体17を用いてもよい。また、シート部材17として、樹脂を円形ダイスを用いた押出加工によって円筒状に成形することによってヒートシールなどの接着が施されていないシート部材17を用いてもよい。
また、本実施形態では、シート部材17の一面側から他面側に向かってレーザー光を照射する態様を示すが、上記他面側から上記一面側に向かってレーザー光を照射する態様を採用しても、これら双方の態様を採用してもよい。
【0046】
各出射部65から同時にレーザー光を照射するには、例えば、各出射部65から出射されるレーザー光を同時に遮蔽するシャッター部材が備えられ、該シャッター部材が各出射部65を遮蔽しているときには、レーザー光が出射されず、シャッター部材が各出射部65の遮蔽を解除したときに、各出射部65から同時にレーザー光を出射するような構成が採用され得る。
【0047】
シート部材17の材質は、特に限定されるものではない。これらの材質として、例えば、樹脂、ゴム、金属等が挙げられる。これらのうち、低コストで容易にシート部材17に散水孔13の形成、及び、ヒートシールによるフィン部21の形成を行うことができ、灌水チューブ10が軽量となり、使用時の巻取性が優れるものとなるような材質が好ましい。かかる観点から、上記材質は、樹脂が好ましい。このような樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレレート等のポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらのうち、ポリエチレンが好ましく、該ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンが挙げられ、これらの組み合わせが好ましい。また、樹脂製のシート部材17に穿孔する場合には、かかる樹脂にカーボンブラックを添加することが好ましく、これにより、シート部材17がレーザー光のエネルギーを吸収し易くなるため、穿孔が容易となる。
【0048】
シート部材17の厚みは、通水部11の厚みとなる。
シート部材17の厚みは、0.1~10mmが好ましく、0.15~5mmがより好ましく、0.15~3mmがさらに好ましい。
シート部材17の厚みが0.1mm未満であると、通水部11の内部に注水し、加圧したときに、通水部11の変形や破裂を起こすおそれがある。これに対し、シート部材17の厚みが0.1mm以上であることによって、このような変形や破裂を抑制し得る。
シート部材17の厚みが10mmを超えていると、シート部材17の剛性や重量が増加し過ぎることになり、通水部11の巻き取りや、シート部材17に散水孔を形成するための穿孔が困難となるおそれがある。これに対し、シート部材17の厚みが10mm以下であることによって、剛性や重量が増加し過ぎることを抑制することができ、これにより、形成された通水部11(すなわち、シート部材17)の巻き取りや穿孔が困難となることを抑制し得る。
【0049】
上記したような樹脂を原料として形成された2つの長尺の原反シート部材(シート部材)17を用い、図4及び図5に示すように、その一面側(図の上側)から他面側(図の下側)に向かってシート部材17の厚み方向に対して傾斜した方向にレーザー光を照射して穿孔することによって、2つの散水孔13を形成する工程を行う。
【0050】
本実施形態では、レーザー光を4つに分岐し、2つの散水孔13を、1セットとして、2つずつ4つの散水孔13(2セット)を形成する。すなわち、一度に4つの散水孔13を同じタイミングで形成する。
また、連続搬送されるシート部材17(すなわち、移動しているシート部材17)に対して、各出射部65から同時にレーザー光を出射することによって、4つのレーザー光が全て同じタイミングで照射されて、4つの散水孔13が形成される。
2つのシート部材17にそれぞれ散水孔13を形成する場合には、もう1つのシート部材17を用いて、同様に、該シート部材17に散水孔13を形成する。
【0051】
次いで、散水孔13が形成されたシート部材17を積層し、通水時に環状になるよう、各シート部材17の両側端部同士をヒートシールにより接着して、図6図8に示すような通水部11を形成する工程を行う。この工程では、積層されたシート部材17の両側端部同士をヒートシールにより接着することによって、幅方向中央部に通水部11が形成され、幅方向両側端部にフィン部21が形成される。
形成された通水部11に通水されると、図8に示すように、通水部11が断面円形状に膨らむ。
【0052】
上記散水孔13を形成する工程においては、図4及び図5に示すように、一面側(図4及び図5の上側)から他面側(図4及び図5の下側)に向かって穿孔することによって、上記一面側の開口の方が、上記他面側の開口よりも大きくなるように散水孔13を形成する。
【0053】
このように散水孔13が形成された2つのシート部材17を、上記他面側(図4及び図5の下側)の開口が内側に位置するように上記2つのシート部材17を積層し、各シート部材17の両側端部同士をヒートシールにより接着する工程を行うことによって、通水部11に通水された状態で、図9図11に示すような散水孔13を有する通水部11と、フィン部21とを備えた灌水チューブ10を製造し得る。
【0054】
このように形成された2つの散水孔13は、図11に示すように散水孔13から噴出された水が通水部11の外側で衝突し、且つ、図8及び図9に示すように通水部11の内部に通水されている状態で、散水孔13の内周面15が前記通水部11の外側(表側)から内側(裏側)に向かう程先細りになるように形成されている。
【0055】
図9に示すように、各散水孔13の外側開口の中心S1を通り、且つ、通水部11の垂直断面の中心Oを通る仮想直線を、第1の仮想直線L1とする。
図10に示すように、2つの散水孔13の各中心S1、S2を通る2つの仮想直線を第2の仮想直線L2とする。
このとき、第2の仮想直線L2は、第1の仮想直線L1に対して傾斜しており、第2の仮想直線L2同士は、通水部11の外側において互いに交差するように配されている。かかる2つの散水孔13を、これらから噴出された水がX状となることから、X孔と称する。
【0056】
このように、通水部11には、通水部11の内部に通水されている状態で、2つの散水孔13の内周面15が通水部11の外側から内側に向かう程(水の通過方向の下流側から上流側に向かう程)先細りとなるように形成されてもよい。
【0057】
上記とは逆に、上記した図4及び図5のように散水孔13が形成された2つのシート部材17を、上記一面側(図4及び図5の上側)の開口が内側に位置するように上記2つのシート部材17を積層し、各シート部材17の両側端部同士をヒートシールにより接着する工程を行うことによって、通水部11に通水された状態で、図12及び図13に示すような散水孔13を有する通水部11と、フィン部21とを備えた灌水チューブ10を製造してもよい。この場合、通水部11には、通水部11の内部に通水されている状態で、2つの散水孔13の内周面15が通水部11の内側から外側に向かう程(水の通過方向の上流側から下流側に向かう程)先細りとなるように形成される。
【0058】
上記の他、上記散水孔13を形成する工程においては、図14に示すように、上記一面側の開口と、上記他面側の開口とが同じ大きさになるように散水孔13を形成してもよい。すなわち、上記一面側から上記他面側まで同じ孔径を有するように散水孔13を形成してもよい。
【0059】
上記した図10図12及び図14の2つの散水孔13においては、通水部11を折り畳んで平面状態としたとき、
通水部11の厚みをD(mm)とし、
隣り合う2つの散水孔13の各表側開口(上記一面側の開口)の中心S1、各裏側開口(上記他面側の開口)の中心S2を通る2つの仮想直線(2つの第2の仮想直線L2)が交わる交点Rの通水部11からの距離(通水部11の外面からの高さ)をH(mm)とすると、
D及びHが、式
0.5×D<H<D+50
を満たしていることが好ましい。
なお、上記式を満たす場合、隣り合う2つの散水孔は、接するように形成された形態、及び、互いに一部が重なり合うように形成された形態を含むこととなる。言い換えれば、本明細書では、隣り合う2つの散水孔は、隣接する2つの散水孔、及び、互いに一部が重なり合う2つの散水孔を含み得る。
【0060】
上記関係式が満たされることによって、2つの散水孔13から噴出される水が衝突する位置が通水部11の表面から遠過ぎず、且つ、近過ぎないため、より適切に、且つ、より効率的に、より細かな液滴の水をより遠くに噴出させることが可能となる。
【0061】
上記のようにして製造された灌水チューブ10は、内部に水が通水されるように形成され、且つ、該内部の水を外部に噴出させる、上記のような複数の散水孔13が形成された通水部11と、灌水チューブ10が設置されて通水部11の内部に通水されている状態で、通水部11から突出するフィン部21を備える。ここでは、フィン部21は、2つ備えられ、これらは、通水部11における互いに最も離れた両端部からそれぞれ突出している。
なお、フィン部21が1つだけ備えられていてもよい。
【0062】
通水部11は、内部に水が通水され、複数の散水孔から水を噴出するものである。
通水部11の内部には、不図示の給水装置から水が供給される(通水される)ようになっている。なお、通水されていない場合には、灌水チューブ10は、図6及び図7のような状態となっている。
本実施形態では、通水部11は、内部に通水された状態で円筒状であるように形成されている。
【0063】
通水されている状態での通水部11の内径(直径)は、5~200mmが好ましく、5~150mmがより好ましく、5~100mmがさらに好ましい。
内径が5mmより小さいと、灌水状態におけるチューブの長手方向の圧損が大きくなり、注水口から離れるとすぐに散水距離が短くなる不具合が生じる。一方、内径が200mmより大きくなると、同じ水圧で注水しても、比較的小さい内径のチューブに比べて強度的に破壊しやすくなり好ましくない。
【0064】
散水孔13は、通水部11から水が供給され、該通水部11内の水圧によって、水を外部に噴出させるものである。
本実施形態では、例えば、図11図13図15に示すように、通水部11の周方向及び長手方向に所望のパターンで2つの散水孔13が繰り返し形成される。
【0065】
灌水チューブ10は、フィン部21を備えることによって、通水部11が長手方向において撓み難くなるため、灌水チューブ10によって、より適切に散水することが可能となる。
【0066】
上記平面状態での散水孔13の外側開口の孔径(直径)は、例えば、通水部11の内部に通水されている状態で、0.05~3.0mmの範囲となるように適宜設定され得る。
散水孔13の外側開口の孔径が3.0mmを超えると、散水孔に流入する水の流量が増加し、チューブ長手方向の散水量の減衰が大きくなり、長尺性が悪くなるという不具合が生じるおそれがある。
散水孔13の外側開口の孔径が0.05mm未満であると、散水孔内部に異物が挟まり、目詰まりを起こしやすいという不具合が生じるおそれがある。
これに対し、散水孔13の外側開口の孔径が0.05~3.0mmであることによって、上記の不具合が抑制される。
【0067】
なお、上記孔径とは、また、各開口の形状が真円でない場合には、各開口の面積と同じ面積を有する真円の直径に換算した値を意味する。
【0068】
本実施形態の灌水チューブ10を用いることによって、灌水を行うことができる。
すなわち、本実施形態の灌水方法は、本実施形態の灌水チューブ10を用いて灌水を行う方法である。
【0069】
具体的には、上述の通り、灌水チューブ10が設置された農業用ハウス1において、不図示の給水部から灌水チューブ10に水を供給することによって、灌水チューブ10の垂直散水孔13及び非垂直散水孔13から水を噴出させて、灌水を行う。
【0070】
灌水チューブ10の通水部11に通水されている状態での通水部11内の水の圧力は、0.05MPa~1.0MPaが好ましく、0.1MPa~0.6MPaがより好ましい。
【0071】
上記の通り、本実施形態の灌水チューブ10の製造方法は、
複数の散水孔13が形成された通水部11を備え、前記複数の散水孔13が、前記通水部11に通水された状態で、噴出された水が衝突するように形成された隣り合う複数の散水孔13を有する灌水チューブ10の製造方法であって、
前記通水部11を形成するためのシート部材17に、その一面側及び他面側の少なくとも一方から前記シート部材17の厚み方向に対して傾斜した方向にレーザー光を照射して穿孔することによって、前記2つの散水孔13を形成する工程を備え、
前記複数の散水孔13を形成する工程では、
前記シート部材17に、
一つの発振器53から出射したレーザー光を分岐させて複数の光路で同時に照射することによって、前記複数の散水孔13を形成する方法である。
【0072】
本実施形態の灌水チューブ10の製造方法によれば、レーザー光に出力のゆらぎが生じても、一つの発振器53から出射したレーザー光を分岐させて複数の光路で同時に照射するため、2つの散水孔13の大きさのバランス精度が高くなり得る。
従って、このように形成された2つの散水孔13から噴出された水を衝突させて、水滴を十分に微粒化させることができるため、従来よりも安定して散水を行うことが可能な灌水チューブ10を安定して得ることができる。
【0073】
本実施形態の灌水チューブ10の製造方法においては、
前記複数の散水孔13を形成する工程では、
移動している前記シート部材17に、前記複数の散水孔13を形成してもよい。
【0074】
本実施形態の灌水チューブ10の製造方法によれば、シート部材17が移動している場合であっても、一つの発振器53から出射したレーザー光を分岐させて複数の光路で同時に照射すると、同じ発振器53から出射された2つのレーザー光を、移動しているシート部材17に同じタイミングで照射することができ、これによって、複数の散水孔13が所望の位置に形成され、その結果、複数の散水孔13から噴出する水を精度良く所望の位置で衝突させ得る灌水チューブ10を製造することができる。
【0075】
以上の通り、本実施形態によれば、従来よりも安定した散水を行うことが可能な灌水チューブを安定して製造することができる製造方法が提供される。
【0076】
本実施形態の灌水チューブは、上記の通りであるが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の意図する範囲内において適宜設計変更されることが可能である。
【0077】
例えば、ヒートシールにより接着される2つのシート部材17の一方に上記2つの散水孔13を形成しても、双方に散水孔を形成してもよい。
【0078】
例えば、シート部材17を移動させながら各出射部65からレーザー光を照射して散水孔13を形成しても、シート部材17を移動させずに静止させた状態で各出射部65からレーザー光を照射して上記2つの散水孔13を形成し、形成した後、シート部材17を移動させ、再び静止させ、次の上記2つの散水孔13を形成してもよい。
【0079】
例えば、シート部材17には、上記2つの散水孔13に加えて、種々の散水孔が形成されてもよい。
【0080】
例えば、上記実施形態では、3種類の2つの散水孔13を形成したが、散水孔13の形状は、上記実施形態に特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0081】
1:農業用ハウス、3:棟、5a、5b:壁部、7:支柱、9:固定部材、10:灌水チューブ、11:通水部、13:散水孔、15:内周面、17:シート部材、21:フィン部、40:穿孔装置、51:支持部、53:発振器、55:光路変更部、57:分岐部、57a:分岐用ミラー、59:レーザー光伝達部、61:受光部、63:光ケーブル、65:出射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16