(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20231106BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2019192774
(22)【出願日】2019-10-23
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 耕
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-091644(JP,A)
【文献】特開2013-060596(JP,A)
【文献】特開2018-090664(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208644(WO,A1)
【文献】特開2019-173010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08G 73/00-73/26
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイマジアミンを全ジアミン成分に対し15モル%超、50モル%未満用いた
ポリアミック酸をイミド化したポリイミドからなり、
前記ポリアミック酸は、平均粒径が5nm以上、55nm以下のシリカを、ポリアミック酸とシリカとの合計質量に対し、10質量%以上、60質量%以下配合したものであることを特徴とする、線膨張係数(CTE)が30ppm/K以下であるポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性、寸法安定性、耐熱性、電気的特性等に優れた高周波基板等に用いられるポリイミド(PI)フィルムに関するものである。高周波基板は、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等に用いられる高周波基板用のフレキシブル銅張積層板(FCCL)においては、銅箔上に形成される絶縁層の誘電特性(誘電正接)を向上させることが有効である。このような高周波基板用FCCLとして、特許文献1には、ジアミン成分として、ダイマジアミン(以下、「DDA」と略記することがある)を1~15モル%用いた共重合PIフィルムが銅箔上に形成されたFCCLが提案されている。しかしながら、ここに開示された共重合PIフィルムは、高周波基板用FCCLの絶縁層として用いた際に、良好な誘電特性の確保が難しいという問題があった。 また、誘電特性を改善するために、ジアミン成分を増加させると線膨張経緯数が30ppm/Kを超えることがあり、良好な寸法安定性の確保が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するものであり、誘電特性が良好であり、寸法安定性に優れた高周波基板用FCCLに用いることができるPIフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ジアミン成分としてDDAを用いた特定のPIフィルムとすることで上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
本発明は、「DDAを全ジアミン成分に対し15モル%超、50モル%未満用いたポリアミック酸をイミド化したPIからなり、前記ポリアミック酸は、平均粒径が5nm以上、55nm以下のシリカを、ポリアミック酸とシリカとの合計質量に対し、10質量%以上、60質量%以下配合したものであることを特徴とする、線膨張係数が30ppm/K以下であるポリイミドフィルム」を主旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のPIフィルムは、誘電特性、寸法安定性に優れる。従い、プリント回路やアンテナ基板等に用いられる高周波基板用FCCLの絶縁層を構成するPIフィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のPIフィルムは、DDAを全ジアミン成分に対し15モル%超、50モル%未満用いたPIからなることが必要であり、16モル%以上、40モル%以下とすることが好ましい。
このPIは、熱可塑性であっても非熱可塑性であってもよい。
【0009】
本発明のPIフィルムは、例えば、以下のような方法で得ることができる。
すなわち、DDAを全ジアミン成分に対し15モル%超、50モル%未満用いたポリアミック酸溶液(以下、「PAA溶液」と略記することがある)を基材上に塗布、乾燥、熱硬化(イミド化)することにより得ることができる。ここで、DDAは、炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミンであり、「プリアミン1074、同1075」(クローダジャパン社製の商品名)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
【0010】
PAA溶液は、例えば、含窒素極性溶媒中、略等モルのテトラカルボン酸二無水物と、ジアミン(15モル%超、50モル%未満のDDAと、85モル%未満、50モル%超の「他のジアミン」とからなる混合物)とが略等モルになるように配合し、10~70℃で重合反応させ、光学的に均一な溶液として得ることができる。
含窒素極性溶媒としては、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。含窒素極性溶媒は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DMAcおよびNMPが好ましい。
【0011】
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)等のテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、BPDA、PMDA、6FDAが好ましい。
【0012】
前記「他のジアミン」の具体例としては、p-フェニレンジアミン(PDA)、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(PFMB)、2,2′-ジメチル‐4,4′-ジアミノビフェニル(DMDB)、3,3′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、3(4),8(9)-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4′-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4′-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、1,4-ジアミノブタン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,7-ジアミノヘプタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,5-ジアミノペンタン、1,8-ジアミノオクタン、1,3-ジアミノプロパン、1,11-ジアミノウンデカン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン等のジアミンを挙げることができる。 これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PDA、DMDBが好ましい。
【0013】
本発明のPIフィルムを得るには、前記のようにして得られたPAA溶液にフィラを配合することが好ましい。
フィラとしては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、誘電特性に優れたシリカを用いることが好ましい。
【0014】
シリカの平均粒径は、好ましくは5nm以上、100nm以下であることが好ましく、5nm以上、55nm以下であることがより好ましく、5nm以上、30nm以下であることがさらに好ましい。シリカの平均粒径が100nm超であると、PIフィルム中へのシリカの均一な分散が困難になる場合がある。ここで、平均粒径とは、窒素吸着法により測定された平均粒径値をいう。
このような平均粒径を有するシリカとしてコロイダルシリカを用いることができる。
コロイダルシリカとしては、シリカゾルを用いることが好ましい。シリカゾルとしては、ケイ酸ナトリウム水溶液を原料として公知の方法により製造される水性シリカゾルおよび該水性シリカゾルの分散媒である水を有機溶媒に置換して得られるオルガノシリカゾルを使用することができる。 また、メチルシリケートやエチルシリケート等のアルコキシシランを、アルコール等の有機溶媒中で触媒(例えば、アンモニア、有機アミン化合物、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒)の存在下において加水分解し、縮合して得られるシリカゾル、または、そのシリカゾルを他の有機溶媒に溶媒置換したオルガノシリカゾルも用いることができる。この置換は、蒸留法、限外濾過法等による通常の方法により行うことができる。
これらの中でも分散媒が前記含窒素極性溶媒であるオルガノシリカゾルを用いることが好ましい。
このようなオルガノシリカゾルの市販品の例としては、例えば、商品名DMAC-ST(DMAc分散シリカゾル、日産化学工業社製)、商品名NMP-ST(NMP分散シリカゾル、日産化学工業社製)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0015】
フィラの配合量としては、PAAとフィラとの合計質量に対し、5質量%以上、60質量%以下とすることが好ましく、10質量%以上、50質量%以下とすることがより好ましい。このようにすることにより、フィラを5質量%超含有したPIフィルムとすることができ、PIフィルムの良好な寸法安定性(低CTE)を確保することができる。
【0016】
本発明のPIフィルムは、前記したフィラ含有のPAA溶液を用いて、以下のような方法で得ることができる。
すなわち、フィラを配合したPAA溶液を基材上に塗布、100~200℃で乾燥後、形成されたPAA塗膜を、200℃以上の温度で熱硬化(熱イミド化)することにより得ることができる。基材上に形成されたPIフィルは、基材から剥離することにより、PIフィルムとすることができる。また、基材から剥離することなく積層体として用いることができる。PIフィルムの厚みに制限はないが、1μm以上、150μm以下とすることが好ましい。
【0017】
PIフィルムのCTEとしては、30ppm/K以下とすることが必要であり、25ppm/以下とすることが好ましい。
【0018】
PIフィルムの誘電特性としては、10GHzでの誘電正接(Df)を0.004以下とすることが好ましく、0.003以下とすることがより好ましい。このようにすることにより良好な誘電特性を確保することができる。
【0019】
前記PAAを塗布する際に用いる基材に制限はなく、ガラス板、銅箔等公知の基材を用いることができる。基材として銅箔を用いた場合は、本発明のPIフィルム層(絶縁層)が形成されたFCCLの片面板とすることができる。また、絶縁層の両方の表面に銅箔が配置されたFCCLの両面板とすることもできる。 この場合は、片面板同士を、PI等の接着剤を用いて熱圧着すればよい。この接着剤としては、低誘電率の熱可塑性PIを用いることが好ましい。銅箔の厚みに制限はないが、5μm以上、20μm以下のものが好ましい。銅箔は、化学的あるいは物理的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、ニッケルメッキ、銅-亜鉛合金メッキ等のメッキ処理、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等の表面処理剤による処理等が挙げられ、中でも、シランカップリング剤による表面処理が好ましい。シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤が好適に用いられる。一方、物理的な表面処理としては、粗面化処理等を挙げることができる。
【0020】
基材としては、「カプトン」(東レ・デュポン社製の商品名)、「ユーピレックス」(宇部興産社製の商品名)等として市販されているPIフィルムを用いることもできる。これらのPIフィルムは、非熱可塑性PIからなるものである。これらのPIフィルムを用いる場合は、PIフィルム上に、前記PAA溶液を塗布、乾燥後、熱硬化して、PIフィルム上に本発明のPIフィルムを形成させればよい。
これらのPIフィルムは、PIフィルムとの接着性を向上させるため、化学的あるいは物理的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、シランカップリング剤、アルミニウムアルコラート等による表面処理を挙げることができる。 一方、物理的な表面処理としては、粗面化処理、プラズマ処理等を挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、特性値の測定方法は、次のとおりである。
【0022】
<誘電特性>
充分に乾燥させたフィルムを試料とし、片面に円盤共振器を作成し、ネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製)を用い、10GHzで、誘電正接(Df)を測定した。測定は同じ試料に対して3回行い、その平均値をもって測定値とした。
【0023】
<CTE>
充分に乾燥させたフィルムを試料とし、熱機械特性分析装置(TMA、TAインスツルメント社製TMA2940)を用い、5℃/minの定速昇温、30mNの引張りモードにて窒素中20℃から昇温させ、100℃~250℃の間での寸法変化量を測定することにより算出した。
【0024】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分として、PDA:0.42モル、DDA(クローダジャパン株式会社製「プリアミン1075」、分子量:549):0.18モル、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA:0.6モル、溶媒としてDMAcを仕込み、攪拌下、60℃で3時間反応させることにより、固形分濃度が18質量%の均一なPAA溶液を得た。
このPAA溶液100gに、シリカゾルであるDMAC-ST(平均粒子径11nm、シリカ微粒子の含有量20質量%、N,N-ジメチルアセトアミド溶液:日産化学工業社製)を40g添加し、2時間攪拌混合して、フィラ配合PAA溶液を得た。ガラス板上に、硬化後のPIフィルムの厚みが20μmになるようにPAA溶液を塗布後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、PAA塗膜を形成した。
このPAA被膜を、窒素ガス雰囲気下、徐々に昇温後、330℃で60分処理して、熱硬化することにより、PAA被膜をPIフィルムに転換した。しかる後、PIフィルムをガラス板から剥離することにより、PIフィルム(A-1)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を前記した方法に従って測定し、その結果を表1に示した。
【0025】
<実施例2>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.48モル、DDA:0.12モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-2)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0026】
<実施例3>
シリカゾルの配合量を、50gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-3)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0027】
<実施例4>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.48モル、DDA:0.12モルとし、シリカゾルの配合量を、50gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-4)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0028】
<比較例1>
シリカゾルを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-5)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0029】
<比較例2>
PAA溶液におけるジアミン組成を、PDA:0.54モル、DDA:0.06モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして、PIフィルム(A-6)を得た。得られたPIフィルムの諸特性を表1に示した。
【0030】
【0031】
表1に示すように、実施例で得られた本発明によるPIフィルムA-1~A-4は、良好な誘電特性が確保され、かつCTEが30ppm/K以下であり、良好な寸法安定性が確保されていることが判る。これに対し、比較例1で得られたPIフィルムA-5は、誘電特性は良好であってもCTEが大きく、寸法安定性が不足していることが判る。また、比較例2で得られたPIフィルムA-6は、寸法安定性は良好であってもDfが大きく、誘電特性が劣っていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のPIフィルムは、誘電特性、寸法安定性に優れる。従い、プリント回路やアンテナ基板等に用いられる高周波基板用FCCLの絶縁層を構成するPIフィルムとして好適に用いることができる。