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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】FRPのリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20231106BHJP
   B29B 17/00 20060101ALI20231106BHJP
   C08J 11/04 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C08J7/00 302
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
B29B17/00
C08J11/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019194036
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021066828
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】510138741
【氏名又は名称】フェニックス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】郷田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松田 健嗣
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0024689(US,A1)
【文献】特開2019-111580(JP,A)
【文献】特開2015-77790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00
B29B 17/00
C08J 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光線をFRPの表面に照射して照射位置における前記FRPの厚さ方向に完全に熱硬化性樹脂を除去することにより、
前記FRPに含まれる残った繊維材を回収することを特徴とするFRPのリサイクル方法。
【請求項2】
複数の前記レーザー光線の各照射位置が、それぞれ所定の間隔をあけて少なくとも1列に並ぶようにして前記レーザー光線を照射し、
複数の前記レーザー光線の各照射位置の列に直交する方向に複数の前記レーザー光線を移動させることを特徴とする請求項1に記載のリサイクル方法。
【請求項3】
前記レーザー光線が照射される前記FRPの表面におけるひとつの照射位置には、複数の前記レーザー光線が重畳して照射されることを特徴とする請求項1または2に記載のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化プラスチック)の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP、とりわけCFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、強化材として炭素繊維を用いたプラスチック材であり、航空機や自動車、また、近年では建築物や橋梁等にも広く使用されている材料である。
【0003】
このように広く使用されているCFRPが経年によって劣化したり、あるいは、表面に傷が入ったりすることにより、当該CFRPを修復する必要が生じている。
【0004】
例えば、特許文献1には、CFRPの外部から損傷部分に修復剤を注入することによって当該CFRPを修復する、CFRPの修復装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-169409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたCFRPの修復方法は汎用性が低く、かつ、複雑で高コストという問題があった。
【0007】
また、使用用途の広がりに伴い、使用済みFRPの廃棄が社会問題となっていることから、上述した修復に加えて、FRPのリサイクル手法の確立が求められている。
【0008】
例えば、CFRPのリサイクルについては、現在、大型の炉内でCFRPを加熱し、プラスチック(熱硬化性樹脂)を燃焼させることによって、残った炭素繊維を回収するのが一般的である。
【0009】
しかし、この方法は大量の廃棄CFRPを処理することができる点では有効であるものの、大がかりな設備が必要になるという問題があった。
【0010】
一般に、FRPの修復やリサイクルを目的とする場合、強化材である繊維材だけを残して、プラスチック(熱硬化性樹脂)を除去することがポイントである。熱硬化性樹脂だけを除去できれば、後は、熱硬化性樹脂を再度充填することでFRPの修復となり、すべての熱硬化性樹脂を除去して繊維材だけにすれば、繊維材をリサイクルできる。
【0011】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便な方法でFRPの熱硬化性樹脂を除去する、FRPの加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一局面によれば、
レーザー光線をFRPの表面に照射して照射位置における前記FRPの厚さ方向に完全に熱硬化性樹脂を除去することにより、
前記FRPに含まれる残った繊維材を回収することを特徴とするFRPのリサイクル方法が提供される。
【0014】
好適には、
複数の前記レーザー光線の各照射位置が、それぞれ所定の間隔をあけて少なくとも1列に並ぶようにして前記レーザー光線を照射し、
複数の前記レーザー光線の各照射位置の列に直交する方向に複数の前記レーザー光線を移動させることを特徴とする。
【0015】
好適には、
前記レーザー光線が照射される前記FRPの表面におけるひとつの照射位置には、複数の前記レーザー光線が重畳して照射されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のように、レーザー光線をFRPの表面に照射して照射位置の熱硬化性樹脂を除去してFRPに含まれる繊維材を露出させることにより、レーザー光源を用いた比較的小型で低額の装置を用いて、FRPの修復およびリサイクルを容易に実施できる。
【0017】
すなわち、レーザー光線による熱硬化性樹脂の除去を当該FRPの厚さ方向における所定の深さまで実施した場合、換言すれば、FRPの厚さ方向に完全に熱硬化性樹脂を除去してしまうのではなく、所定の厚さだけを残して当該熱硬化性樹脂を除去した場合、繊維材が露出した部分に新しい熱硬化性樹脂を塗布するなどしてFRPの修復を行うことができる。
【0018】
また、レーザー光線によってFRPの厚さ方向に完全に熱硬化性樹脂を除去した場合、残った繊維材のみを回収してFRPのリサイクルを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る方法を実施するために構成されたレーザー照射装置10を示す図である。
図2】加工の対象となるFRP材Sの例を示す断面図である。
図3】レーザー光線Lによる加工を行った後のFRP材Sの例を示す断面図である。
図4】FRP材Sの表面Tの修復の例を示す断面図である。
図5】立体(3D)形状のFRP材Sの一例を示す斜視図である。
図6】一例に係る立体(3D)形状のFRP材Sを形成するためFRP材S1およびS2を示す図である。
図7】変形例1に係るレーザー照射装置10を示す図である。
図8】変形例2に係るレーザー照射装置10を示す図である。
図9】変形例2に係るレーザー照射装置10を用いて加工中のFRP材Sにおける加工対象の面Bを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(レーザー照射装置10の構成)
以下、図面を用いて、本発明に係る方法を実施するために構成されたレーザー照射装置10の構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、レーザー照射装置10は、大略、レーザー光源12と、集光具14とを備えている。
【0022】
レーザー光源12は、所定の波長・波形のレーザー光線Lを発生する部材であり、本実施形態ではレーザーダイオード(半導体レーザー)が使用されている。もちろん、レーザー光源12はこれに限定されるものではなく、例えば、より高出力のレーザー光線Lを発生させることのできるレーザー加工機を使用してもよい。
【0023】
集光具14は、レーザー光源12からのレーザー光線Lを所定の焦点位置Fに集光するための部材であり、本実施形態では、1つのレーザー光源12に対して2つの凸レンズ16を組み合わせて構成されている。焦点位置Fは、加工の対象となるFRP(本実施形態ではCFRPである。以下、「FRP材S」という。)の表面Tに設定されている。ただし、加工の対象となるCFRPの母材を除去できる温度まで加熱可能であれば、焦点位置Fは必ずしも加工の対象となるFRP材Sの表面Tに設定する必要はない。集光具14も本実施形態のものに限定されず、例えば、リフレクターを使用したり、あるいは、レンズとリフレクターとを組み合わせたりして集光具14を構成してもよい。
【0024】
レーザー光源12から照射されたレーザー光線Lは、集光具14で屈折されて、焦点位置FであるFRP材Sの表面Tに集光される。
【0025】
(FRP材Sにおける熱硬化性樹脂の除去)
通常、FRP材Sは、図2に示すように、互いに略平行に引き揃えられた多数の炭素繊維Cで構成されたシートに熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)Pを予めなじませて構成された複数のプリプレグシートを積層させ、各プリプレグシートを圧着硬化させることによって形成されている。なお、FRP材Sの形成方法は、これに限られず、例えばインフュージョン工法やRTM工法であってもよい。
【0026】
上述したレーザー照射装置10から照射されたレーザー光線LをFRP材Sの表面Tに集光させると、当該レーザー光線Lのエネルギーによって照射位置(焦点位置F)がスポット的に高温になり、図3に示すように、炭素繊維Cよりも沸点が低い熱硬化性樹脂Pが炭素繊維Cを残して先に蒸発する。
【0027】
このようなレーザー光線Lの照射を所定の方向に順に実施していくことにより、表面Tに最も近い位置にある炭素繊維Cの一群の周りにあった熱硬化性樹脂Pがなくなり、これら炭素繊維Cが露出する。
【0028】
FRP材Sの厚さ方向のより深い位置まで炭素繊維Cを露出される場合は、先に露出した炭素繊維Cを取り除いた後、再度、レーザー光線Lの照射を表面Tに照射していくことになる。なお、取り除いた炭素繊維Cの層が多くなるほど、レーザー光線Lの照射を受ける表面Tの位置がFRP材Sの厚さ方向のより深い位置になる。
【0029】
FRP材Sの修復を目的とする場合であれば、上述したレーザー光線Lによる熱硬化性樹脂Pの除去を当該FRP材Sの厚さ方向における所定の深さまで実施し、当該FRP材Sの厚さ方向に完全に熱硬化性樹脂Pを除去してしまうのではなく、所定の厚さだけを残して当該熱硬化性樹脂Pを除去することにより、図4に示すように、炭素繊維Cが露出した部分に新しい熱硬化性樹脂Pを塗布・硬化してFRP材Sの修復を行うことができる。
【0030】
さらに言えば、図5に示すような立体(3D)形状のFRP材Sを形成する際に本発明に係るFRPの加工方法を適用することができる。
【0031】
具体的に説明すると、最初に、図6に示すような2つのFRP材S1およびS2を用意しておく。次に、両FRP材S1およびS2における互いに接する面Bに対して本発明に係るFRPの加工方法を適用し、所定の深さまで炭素繊維Cを露出させておく。
【0032】
然る後、両FRP材S1およびS2の面Bにそれぞれ熱硬化性樹脂Pや接着剤を塗布して、両FRP材S1およびS2を接着させる。以上により、図5に示す様な立体(3D)形状のFRP材Sを形成することができる。
【0033】
FRP材Sのリサイクルを目的とする場合であれば、上述したレーザー光線LによってFRP材Sの厚さ方向に完全に熱硬化性樹脂Pを除去することで、残った炭素繊維Cのみを回収してFRP材Sのリサイクルを行うことができる。
【0034】
このように、レーザー光線LをFRP材Sの表面に照射して照射位置(焦点位置F)の熱硬化性樹脂Pを除去してFRP材Sに含まれる炭素繊維Cを露出させることにより、レーザー光源12を用いた比較的小型で低額の装置を用いて、FRP材Sの修復およびリサイクルを容易に実施できる。
【0035】
(変形例1)
上述した実施形態では、1組のレーザー光源12と集光具14とでレーザー照射装置10を構成していたが、複数のレーザー光源12と集光具14とを組み合わせて、各レーザー光源12からの複数のレーザー光線LをFRP材Sの表面Tにおけるひとつの照射位置(焦点位置F)に重畳して照射するようにレーザー照射装置10を構成してもよい。
【0036】
この変形例1に係るレーザー照射装置10は、図7に示すように、例えば3組のレーザー光源12と集光具14とを組み合わせて構成されている。
【0037】
(変形例2)
また、図8に示すように、複数のレーザー光源12と集光具14とを組み合わせて、各レーザー光源12からFRP材Sに向けて照射されるレーザー光線Lの照射位置(焦点位置F)を、それぞれ所定の間隔をあけて、かつ、各照射位置(焦点位置F)が1列に並ぶように設定してレーザー照射装置10を構成してもよい。
【0038】
もちろん、ひとつの照射位置(焦点位置F)を照射するレーザー光線Lの数はひとつでもよいし、変形例1で説明した構成を組み合わせて、複数のレーザー光線Lをひとつの照射位置(焦点位置F)に重畳して照射させてもよい。さらに言えば、レーザー光線Lの各照射位置(焦点位置F)が並列に2列以上に並ぶようにしてもよい。
【0039】
複数のレーザー光線Lの照射位置(焦点位置F)が並んだ列に直交する方向に各レーザー光線Lを移動させていくと、図9に示すように、各照射位置(焦点位置F)同士の間隔やレーザー光線Lの強度を調整することにより、FRP材Sにおける加工対象の面Bを一度に加工することができる。なお、図9では、各レーザー光線Lの軌跡を点線で表している。
【0040】
(変形例3)
加工するFRP材Sにおけるレーザー光線Lを照射する面Bとは反対側の面を加熱源(例えばホットプレート)で加熱してもよい。これにより、加熱源からの熱でFRP材Sが加熱され、より小出力のレーザー光線LでFRP材Sの加工を実施できる。
【0041】
(その他の変形例)
加えて、今回は炭素繊維Cの方向が一方向に引き揃えられたFRP材Sを使用したが、炭素繊維Cが垂直方向に平織り状、もしくは綾織り状に編み込まれたFRP材Sを使用した場合においても、本発明に係る加工方法で処理することができる。
【0042】
また、上記実施形態で例示した炭素以外の繊維材、例えばガラス繊維やセラミック繊維、アラミド繊維やアルミニウム繊維、セルロースナノ繊維などの繊維材を使用したFRP材Sについても同様の加工を施すことができる。
【0043】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0044】
10…レーザー照射装置、12…レーザー光源、14…集光具
L…レーザー光線、F…焦点位置、S…FRP材、T…(FRP材Sの)表面、C…炭素繊維、P…熱硬化性樹脂、B…面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9