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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】鋼板の自動ガス切断システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/00 20060101AFI20231106BHJP
【FI】
B23K7/00 505C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019196539
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021070036
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000159618
【氏名又は名称】吉川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 恭典
(72)【発明者】
【氏名】鮎川 瞬
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-128270(JP,A)
【文献】特開平03-213244(JP,A)
【文献】特開昭62-229010(JP,A)
【文献】特開平09-192865(JP,A)
【文献】特開昭63-130293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/00 - 7/10
B23K 26/00 - 26/70
G05B 19/18 - 19/416、
19/42 - 19/46
B23Q 17/22、17/24
G01B 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切断鋼板の幅方向に沿うように被切断鋼板の上方に配置され、被切断鋼板の長手方向に沿う方向(以下「走行方向」という。)に移動可能な走行フレームと、
前記走行フレームに取り付けられ、当該走行フレームの長手方向に沿う方向(以下「横行方向」という。)に移動可能なガストーチと、
前記走行フレームに取り付けられ、横行方向に移動可能なカメラと、
制御部とを備え、
前記ガストーチが被切断鋼板の耳を走行方向に切断した後に、当該被切断鋼板を横行方向に少なくとも2箇所で横行切断する、鋼板の自動ガス切断システムにおいて、
前記制御部が以下の動作を実行することを特徴とする鋼板の自動ガス切断システム。
(1)予め記憶した第1の横行切断開始予定位置の近傍の被切断鋼板の第1の端面を前記カメラで撮影する。
(2)撮影された前記第1の端面を直線近似して第1の近似直線を求める。
(3)前記第1の横行切断開始予定位置を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第1の2次元XY座標系において、前記第1の近似直線のY切片座標Y1を求める。
(4)前記第1の横行切断開始予定位置と同じ端面側において予め記憶した第2の横行切断開始予定位置の近傍の被切断鋼板の第2の端面を前記カメラで撮影する。
(5)撮影された前記第2の端面を直線近似して第2の近似直線を求める。
(6)前記第2の横行切断開始予定位置を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第2の2次元XY座標系において、前記第2の近似直線のY切片座標Y2を求める。
(7)前記Y切片座標Y1、前記Y切片座標Y2、及び前記第1の横行切断開始予定位置と第2の横行切断開始予定位置との長手方向の間隔Lから、次式により被切断鋼板の回転角度θを求める。
θ=tan-1[(Y1-Y2)/L]
(8)前記Y切片座標Y1を第1の横行切断開始位置として、回転角度θ分シフトしながら第1の横行切断を行う。
(9)前記第1の横行切断開始位置を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第3の2次元XY座標系において、座標(Lcosθ,Lsinθ)を第2の横行切断開始位置として、回転角度θ分シフトしながら第2の横行切断を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の自動ガス切断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の自動ガス切断システムとして、3本のトーチを備えるものが特許文献1に開示されている。特許文献1では、3本のトーチのうち2本のトーチを用いて、被切断鋼板の長手方向の両端(被切断鋼板の両耳)を同時に切断する。ところが、この耳切断中、耳屑の反りにより被切断鋼板に位置ずれ(回転)が生じることから、耳切断後、製品を得るために当該被切断鋼板をその長手方向に直交する方向に切断(横行切断)する際に、火入れができなかったり、切断の寸法精度が低下したりする問題が生じる。
【0003】
このような被切断鋼板の位置ずれ量(回転角度)を補正して切断する技術として、特許文献2に、架台上の被切断鋼板の端面を検出する端面検出器により、当該被切断鋼板と架台との相対的な座標系の軸回転角度を計測し、当該軸回転角度分だけ座標変換をしながら切断する技術が開示されている。
特許文献2には、端面検出器として、圧縮空気を垂直に下方に吹き出し、吹き出し口の先の板の有無による背圧の変化をとらえる「空気背圧センサー」が例示されている。しかし、この空気背圧センサーでは被切断鋼板の端面を正確に検出することはできない。特に、被切断鋼板の耳をガス切断した後の端面には図5に示すように、ガス切断に伴うノロやバリがあり、その端面は直線ではない。空気背圧センサーでは、このような直線でない端面を正確に検出することはできず、結果として、軸回転角度、すなわち被切断鋼板の位置ずれ量(回転角度)を正確に把握することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-231175号公報
【文献】特開昭58-128270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、耳切断後の被切断鋼板の位置ずれ量(回転角度)を正確に把握し、その位置ずれ量(回転角度)を補正して当該被切断鋼板を正確に切断することのできる鋼板の自動ガス切断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、次の鋼板の自動ガス切断システムが提供される。
被切断鋼板の幅方向に沿うように被切断鋼板の上方に配置され、被切断鋼板の長手方向に沿う方向(以下「走行方向」という。)に移動可能な走行フレームと、
前記走行フレームに取り付けられ、当該走行フレームの長手方向に沿う方向(以下「横行方向」という。)に移動可能なガストーチと、
前記走行フレームに取り付けられ、横行方向に移動可能なカメラと、
制御部とを備え、
前記ガストーチが被切断鋼板の耳を走行方向に切断した後に、当該被切断鋼板を横行方向に少なくとも2箇所で横行切断する、鋼板の自動ガス切断システムにおいて、
前記制御部が以下の動作を実行することを特徴とする鋼板の自動ガス切断システム。
(1)予め記憶した第1の横行切断開始予定位置の近傍の被切断鋼板の第1の端面を前記カメラで撮影する。
(2)撮影された前記第1の端面を直線近似して第1の近似直線を求める。
(3)前記第1の横行切断開始予定位置を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第1の2次元XY座標系において、前記第1の近似直線のY切片座標Y1を求める。
(4)前記第1の横行切断開始予定位置と同じ端面側において予め記憶した第2の横行切断開始予定位置の近傍の被切断鋼板の第2の端面を前記カメラで撮影する。
(5)撮影された前記第2の端面を直線近似して第2の近似直線を求める。
(6)前記第2の横行切断開始予定位置を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第2の2次元XY座標系において、前記第2の近似直線のY切片座標Y2を求める。
(7)前記Y切片座標Y1、前記Y切片座標Y2、及び前記第1の横行切断開始予定位置と第2の横行切断開始予定位置との長手方向の間隔Lから、次式により被切断鋼板の回転角度θを求める。
θ=tan-1[(Y1-Y2)/L]
(8)前記Y切片座標Y1を第1の横行切断開始位置として、回転角度θ分シフトしながら第1の横行切断を行う。
(9)前記第1の横行切断開始位置を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第3の2次元XY座標系において、座標(Lcosθ,Lsinθ)を第2の横行切断開始位置として、回転角度θ分シフトしながら第2の横行切断を行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耳切断後の被切断鋼板の第1の端面及び第2の端面をカメラで撮影して直線近似することから、被切断鋼板の端面を正確に検出することができる。これにより、耳切断後の被切断鋼板の位置ずれ量(回転角度)を正確に把握でき、その位置ずれ量(回転角度)を補正して当該被切断鋼板を正確に切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態である、鋼板の自動ガス切断システムの概略平面図(耳切断後の状態)。
図2】耳切断の概要を示す平面図。
図3】横行切断の概要を示す平面図。
図4】被切断鋼板の端面を直線近似する概要を示す図。
図5】被切断鋼板の耳をガス切断した後の端面の一例を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、本発明の一実施形態である、鋼板の自動ガス切断システム(以下、単に「自動切断システム」という。)100を示している。なお、図1は、被切断鋼板Sの両耳を切断した後の状態を示している。
【0010】
この自動切断システム100は、耳切断前の被切断鋼板Sの幅方向に沿うように被切断鋼板Sの上方に配置され、耳切断前の被切断鋼板Sの長手方向に沿う方向、すなわち走行方向に移動可能な走行フレームとして、門型フレーム10を備えている。具体的にはこの門型フレーム10は、被切断鋼板Sの幅方向を跨ぐ(架設する)ように配置され、レール11,11上を走行方向に移動可能である。なお、門型フレーム10を走行させるための駆動機構(モータ等)は図示を省略している。
【0011】
門型フレーム10には2つの横行ブロック20が取り付けられている。具体的には、2つの横行ブロック20はそれぞれ、門型フレーム10の長手方向に沿う方向、すなわち横行方向に移動可能に取り付けられている。なお、この横行方向とは耳切断前の被切断鋼板Sの幅方向に沿う方向でもある。
【0012】
2つの横行ブロック20にはそれぞれ、移動ブロック30及び昇降軸40を介してガストーチ50が取り付けられている。具体的には、ガストーチ50は昇降軸40に固定的に取り付けられ、この昇降軸40が移動ブロック30に固定的に取り付けられ、この移動ブロック30が横行ブロック20に走行方向に移動可能に取り付けられている。
【0013】
このようにガストーチ50は昇降軸40に固定的に取り付けられているから、昇降軸40の昇降動作に伴い昇降する。
また、ガストーチ50は移動ブロック30を介して横行ブロック20に取り付けられているから、移動ブロック30を走行方向に移動させることにより、ガストーチ50の走行方向の位置を調整可能である。
【0014】
この自動切断システム100は、走行フレーム10に取り付けられ、横行方向に移動可能なカメラ60を更に備えている。具体的には、カメラ60は一方の横行ブロック20に固定的に取り付けられている。
【0015】
更にこの自動切断システム100は、図示を省略しているが制御部を備えている。この制御部は、自動切断システム全体(門型フレーム10、横行ブロック20、移動ブロック30、昇降軸40、ガストーチ50及びカメラ60)の動作を制御すると共に、カメラ60で撮影した画像を処理して各種演算をする機能を有する。また、自動切断システム全体の動作を制御するために、被切断鋼板Sの切断に関する、切断寸法や切断開始位置等の各種データを予め記憶している。
【0016】
次に、本実施形態の自動切断システム100による被切断鋼板Sの切断動作について説明する。なお、この切断動作は、後述する耳屑切断を除き、制御部の指令に基づき実行される。
【0017】
まず、被切断鋼板Sの耳を切断する。図2に、耳切断の概要を示している。
耳切断を開始するにあたり、ガストーチ50を耳切断開始位置S1に移動させる。この耳切断用トーチ51の耳切断開始位置S1への移動(位置合わせ)は、門型フレーム10の走行及び横行ブロック20の横行によって行うことができる。なお、被切断鋼板Sの端面は直線でないことが多く、両側の耳切断開始位置S1,S1には走行方向に位置ずれがある。このように両側の耳切断開始位置S1,S1に走行方向の位置ずれがある場合は、門型フレーム10の走行及び横行ブロック20の横行によってガストーチ50の耳切断開始位置S1への大まかな位置合わせを行ったうえで、移動ブロック30を走行方向に移動させることにより、ガストーチ50を耳切断開始位置S1に正確に位置合わせすることができる。
なお、耳切断を開始するにあたり、両側のガストーチ50は必ずしも耳切断開始位置S1に正確に位置合わせする必要はなく、走行方向の多少の位置ずれは許容される。走行方向に多少の位置ずれがあったとしても、両側のガストーチ50の火入れのタイミングを調整する(ずらす)ことで、耳切断を開始することができる。したがって、本実施形態の自動切断システム100において、移動ブロック30は省略可能である。
【0018】
耳切断開始位置S1にて火入れを行った後、門型フレーム10を走行させることで耳を切断する。その耳切断速度(門型フレーム10の走行速度)は被切断鋼板Sの板厚に応じて設定する。
【0019】
耳切断により生じた耳屑が所定の長さ(例えば約4.5m)になったら、耳屑切断を行う。この耳屑切断は、作業者が別途手作業で行う。
【0020】
このように適宜、耳屑切断を行ったとしても、やはり耳切断中に耳屑の反りにより被切断鋼板Sに位置ずれ(回転)が生じ、耳切断後には例えば図1に示すように位置ずれ(回転)が生じる。そこで本実施形態では、カメラ60で被切断鋼板の端面を撮影し、その撮影画像に基づいて、耳切断後の被切断鋼板Sの位置ずれ量(回転角度)を把握し、その位置ずれ量(回転角度)を補正して、被切断鋼板Sを横行方向に少なくとも2箇所で横行切断する。以下、その動作を説明する。なお、以下の動作は全て制御部が実行する。ここで、「制御部が動作を実行する」とは、制御部が自らその動作を実行することと、制御部が他の構成にその動作を実行させることとを含む概念である。
【0021】
<動作(1)>
図3(a)に示すように、予め記憶した第1の横行切断開始予定位置P1の近傍の被切断鋼板Sの第1の端面E1をカメラ60で撮影する。具体的には、カメラ60を第1の横行切断開始予定位置P1の真上に移動させ、被切断鋼板Sの第1の端面E1が含まれる領域R1を撮影する。
【0022】
<動作(2)>
撮影された第1の端面E1を直線近似して第1の近似直線を求める。被切断鋼板の耳をガス切断した後の端面には図5に示すように、ガス切断に伴うノロやバリがあり、その端面は直線ではない。そこで本実施形態では、図4に模式的に示すようにノロやバリを含む第1の端面E1の輪郭を直線近似して第1の近似直線A1を求める。直線近似の方法は特に限定されず、一般的な最小二乗法でもよいし、ノロやバリの形状等に応じて重みを付ける重み付き最小二乗法でもよい。
【0023】
<動作(3)>
図3(a)に示すように、第1の横行切断開始予定位置P1を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第1の2次元XY座標系において、第1の近似直線A1のY切片座標Y1を求める。
【0024】
<動作(4)>
図3(b)に示すように、第1の横行切断開始予定位置P1と同じ端面側において、予め記憶した第2の横行切断開始予定位置P2の近傍の被切断鋼板の第2の端面E2をカメラ60で撮影する。具体的には、カメラ60を第2の横行切断開始予定位置P2の真上に移動させ、被切断鋼板Sの第2の端面E2が含まれる領域R2を撮影する。
【0025】
<動作(5)>
撮影された第2の端面E2を直線近似して第2の近似直線A2を求める。具体的には、上述の動作(2)と同様に、ノロやバリを含む第2の端面E2の輪郭を直線近似して第2の近似直線A2を求める。
【0026】
<動作(6)>
図3(b)に示すように、第2の横行切断開始予定位置P2を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第2の2次元XY座標系において、第2の近似直線A2のY切片座標Y2を求める。
【0027】
<動作(7)>
Y切片座標Y1、Y切片座標Y2、及び第1の横行切断開始予定位置P1と第2の横行切断開始予定位置P2との長手方向の間隔(切断間隔=製品の長手方向の寸法)Lから、次式により被切断鋼板の回転角度θを求める。
θ=tan-1[(Y1-Y2)/L]
【0028】
<動作(8)>
図1及び図3(a)に示すように、Y切片座標Y1を第1の横行切断開始位置P1として火入れを行い、回転角度θ分シフトしながら第1の横行切断を行う。
【0029】
<動作(9)>
図1及び図3(b)に示すように、第1の横行切断開始位置P1-1を原点とし、走行方向をX軸、横行方向をY軸とする第3の2次元XY座標系において、座標(Lcosθ,Lsinθ)を第2の横行切断開始位置P2-1として火入れを行い、回転角度θ分シフトしながら第2の横行切断を行う。
【0030】
以上のとおり、本実施形態の自動切断システム100によれば、耳切断後の被切断鋼板Sの第1の端面E1及び第2の端面E2をカメラ60で撮影して直線近似することから、被切断鋼板Sの端面を正確に検出することができる。これにより、耳切断後の被切断鋼板Sの位置ずれ量(回転角度θ)を正確に把握でき、その位置ずれ量(回転角度θ)を補正して当該被切断鋼板Sを正確に横行切断することができる。
【0031】
なお、上述の動作(1)~(9)は必ずしもこの順に実行する必要はなく、例えば、動作(3)及び(6)は動作(7)の直前に同時並行で実行することもできる。
また、本実施形態では、門型フレーム10に2つの横行ブロック20(ガストーチ50)を設けたが、横行ブロック20(ガストーチ50)の数は1つであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
100 自動切断システム
10 門型フレーム(走行フレーム)
11 レール
20 横行ブロック
30 移動ブロック
40 昇降軸
50 ガストーチ
60 カメラ
S 被切断鋼板
図1
図2
図3
図4
図5