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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】ジアミノビフェニル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/54 20060101AFI20231106BHJP
   C07C 211/50 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C07C209/54
C07C211/50
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020184837
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2021104991
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019237065
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515087514
【氏名又は名称】セイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】巽 宇彦
(72)【発明者】
【氏名】竹田 元則
(72)【発明者】
【氏名】西山 和秀
(72)【発明者】
【氏名】北原 慎一
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-246427(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109232273(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105384648(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/54
C07C 211/50
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジアミノビフェニル化合物の製造方法において
【化1】
(上記式(1)において、X及びXは、互いに独立に、トリフルオロメチル基、及び、任意的にフッ素化されていてもよい、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、及びネオペンチル基から選ばれる基である)、
下記式(2)で表されるジフェニルヒドラジン化合物
【化2】
(上記式(2)においてX及びXは上記の通りである)
有機溶媒無機酸、並びに反応混合物の固化を防止する添加剤及び/又は反応混合物の流動性を向上させる添加剤を-70℃以上且つ-11℃以下の範囲にある温度下で攪拌することにより、前記ジフェニルヒドラジン化合物をベンジジン転位反応させて上記式(1)で表されるジアミノビフェニル化合物を得る工程を含み、ただし当該ベンジジン転位反応において酸を滴下する工程及び超音波照射する工程を含まない、前記製造方法。
【請求項2】
上記ベンジジン転位反応が-60℃以上且つ-20℃以下の範囲にある温度で行われる、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記式(1)及び(2)において、X及びXがトリフルオロメチル基である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
上記ベンジジン転位反応が、上記添加剤の存在下、上記請求項1又は2記載の温度で、反応時間1分~1時間で行われる、請求項1~3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
上記ベンジジン転位反応が、上記添加剤の存在下、-70℃以上且つ-45℃以下の範囲にある温度にて行われる、請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
上記ベンジジン転位反応が-55℃以上且つ-50℃以下の範囲にある温度で行われる、請求項記載の製造方法。
【請求項7】
上記添加剤が、界面活性剤、一価アルコール、二価アルコール、三価アルコール、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、カルボン酸系溶剤、窒素系溶剤、硫黄系溶剤、及びフッ素系溶剤から選ばれる少なくとも1である、請求項のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
上記添加剤が、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1である、請求項記載の製造方法。
【請求項9】
上記添加剤がノニオン系界面活性剤である、請求項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ位に嵩高い置換基を有するヒドラゾベンゼンのベンジジン転位反応によりジアミノビフェニル化合物を高収率且つ効率的に製造する方法に関する。特に好ましい態様としては、メタ位にトリフルオロメチル基を有する3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼンをベンジジン転位反応させて2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルを高収率且つ効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記式(d)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニル(以下、TFMBということがある)は、ヒドラゾベンゼンをベンジジン転位反応して製造されることが知られている。例えば、下記式(a)で示されるm-ニトロベンゾトリフルオリドを原料として還元反応を行い下記式(b)で表される3,3’-ビス(トリフルオロメチル)アゾベンゼン(以下、アゾ体という)を製造し、該アゾ体を還元して下記式(c)で表される3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン(以下、ヒドラゾ体という)を製造し、該ヒドラゾ体をベンジジン転位反応して下記式(d)で表されるTFMBを製造する方法が知られている(非特許文献1及び2)。
【化1】
【0003】
非特許文献1に記載の方法は、上記ヒドラゾ体をエタノールに溶解し、0℃で濃塩酸のエタノール溶液を滴下することでベンジジン転位反応してTFMBを製造する方法であるが、該方法で得られるTFMBの収率はヒドラゾ体基準で17%である。また、非特許文献2に記載の方法は、ヒドラゾ体をアルコールに溶解して硫酸水中に滴下することによってベンジジン転位反応しTFMBを製造する方法であるが該方法で得られるTFMBの収率はヒドラゾ体基準で10%である。
【0004】
特許文献1には、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼンを、水と非混和性の有機溶媒に溶解した溶液を、無機酸中に滴下することにより転位させることを特徴とする2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)の製造方法が記載されている。該製造方法における反応温度は0~80℃であり、反応時間は2~10時間である。TFMBの収率はm-ニトロベンゾトリフルオリド基準で25.4~31.8%である。
【0005】
また特許文献2には、窒素雰囲気で、水と非混和性の有機溶媒、アルコール又はこれらの混合溶媒である有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下に、亜鉛をm-ニトロベンゾトリフルオリド1モルに対して3~8モル使用して還元を行い、直接3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼンを製造し、得られた3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼンを有機溶媒及び無機酸の存在下に滴下し、転位反応させて2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)を製造する方法が記載されている。該特許文献2記載の方法においてベンジジン転位反応の反応温度は-10~+80℃であり、反応時間は2~10時間である。TFMBの収率はm-ニトロベンゾトリフルオリド基準で24.6~32.1%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4738345号
【文献】特許第4901174号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry 37巻、937~957頁(1999年)
【文献】Journal of Chemical Society 1994~1998頁(1953年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1及び2に記載の製造方法においてTFMBの収率はm-ニトロベンゾトリフルオリド基準で24~32%程度であり十分ではない。ベンジジン転位反応においてベンゼンのメタ位にトリフルオロメチル基のような嵩高い置換基を有すると、転位反応の選択性が低下するため、従来の製造方法では高収率でTFMBを得ることは困難であった。またベンジジン転位反応は一般的に反応速度が速く反応熱が高い。選択性を上げる為には、特許文献1及び2に記載のように、除熱しながら滴下により時間をかけて反応させる方法が採られるため、2~10時間と長時間を要する。
【0009】
従って、本発明は、メタ位に嵩高い置換基を有するヒドラゾベンゼンのベンジジン転位反応においてより高収率且つ短時間でジアミノビフェニル化合物を製造することができる方法を提供すること目的とする。特には、メタ位にトリフルオロメチル基を有する3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼンをベンジジン転位反応させて、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニルを高収率且つ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、下記式(1)で表されるジアミノビフェニル化合物の製造方法において
【化2】
(上記式(1)において、X及びXは、互いに独立に、トリフルオロメチル基、及び、任意的にフッ素化されていてもよい、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、及びネオペンチル基から選ばれる基である)、
下記式(2)で表されるジフェニルヒドラジン化合物を
【化3】
(上記式(2)においてX及びXは上記の通りである)
有機溶媒及び無機酸の存在下、-70℃以上-11℃以下の範囲にある温度でベンジジン転位反応させて上記式(1)で表されるジアミノビフェニル化合物を得る工程を含む、前記製造方法を提供する。好ましくは、上記ベンジジン転位反応を-60℃~-20℃の範囲にある温度で行う前記製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として、上記ベンジジン転位反応が、反応混合物の固化を防止する及び/又は反応混合物の流動性を向上させる添加剤の存在下に行われる前記製造方法を提供する。より好ましい態様としては、上記ベンジジン転位反応が、上記添加剤の存在下-70℃以上-45℃以下の範囲にある温度、より好ましくは-55℃以上-50℃以下の範囲にある温度で行われる、前記製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、メタ位に嵩高い置換基を有するヒドラゾベンゼンのベンジジン転位反応により高収率でジアミノビフェニル化合物を得ることができる。特には、ベンジジン転位反応を後述する添加剤の存在下で行うことで反応時間1分~1時間という極めて短時間且つ高収率にて、メタ位に嵩高い置換基を有するジアミノビフェニル化合物、特には2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルを製造することができ、生産性がより向上するため好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の製造方法について、より詳細に説明する。
本発明は下記式(1)で表されるジアミノビフェニルの製造方法である。
【化4】
本発明の製造方法は、下記式(2)で表されるジフェニルヒドラジン化合物をベンジジン転位反応させて上記式(1)で表されるジアミノビフェニルを製造する工程において、該ベンジジン転位反応を-70℃以上-11℃以下の範囲にある温度で行うことを特徴とする。
【化5】
【0014】
上記式(1)及び(2)において、X及びXは、互いに独立に、トリフルオロメチル基、及び任意的にフッ素化されていてもよい、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、及びネオペンチル基から選ばれる基である。これらの基を有するジフェニルヒドラジン化合物であれば、本発明の製造方法により高転化率で反応し、ジアミノビフェニル化合物を高収率で得ることができる。好ましくはX及びXはトリフルオロメチル基である。X及びXがトリフルオロメチル基である化合物は下記式で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルである。
【化6】
【0015】
本発明の製造方法は上記転位反応を-70℃以上-11℃以下の範囲にある温度下にて行うことを特徴とする。上限値は、好ましくは-18℃以下、より好ましくは-20℃以下、更に好ましくは-30℃以下、更に好ましくは-40℃以下、更に好ましくは-45℃以下、最も好ましくは-50℃以下である。反応温度の下限値は-70℃以上であり、好ましくは-60℃以上であり、より好ましくは-55℃以上である。好ましくは-60℃以上-20℃以下の範囲であり、最も好ましくは-55℃以上-50℃以下の範囲であり、特には-50℃である。従来、該ベンジジン転位反応は-10~+80℃、特には-10℃~0℃付近で行われていたところ本発明はベンジジン転位反応を上記低温条件下で行うことで、収率の向上を達成することを見出したものである。上記のように極めて低温にすることにより、転位反応時の除熱を効果的に行い、副反応を抑えて転位反応の選択性を向上させたものである。
【0016】
より好ましくは本発明の製造方法は、前記ベンジジン転位反応において、該反応中の、反応混合物の固化を防止する及び/又は反応混合物の流動性を向上させる添加剤を添加する。当該添加剤の存在下でベンジジン転位反応を行うことにより、上述した低温条件、特には-70℃以上-45℃以下、好ましくは-55℃以上-50℃以下の温度条件において、反応液の粘度が上昇して流動性が低下したり、反応液が固化して撹拌困難になるのを防ぐことができる。すなわち、上記添加剤の存在下でベンジジン転位反応させることにより、上述した極低温条件においても反応液の流動性を損なわず良好に撹拌できる。また、-70℃以上-45℃以下に限らず、-45℃超~-11℃の範囲においても、上記添加剤を使用することで、反応液の撹拌が良好になり接触効率が上がることにより極めて短時間、好ましくは1分から1時間でベンジジン転位反応を完結することができる。
【0017】
上記添加剤は、本発明の低温反応条件にて反応混合物の固化を防止する及び/又は流動性を向上し、反応混合物の撹拌を良好にするものであればよく、特に制限されるものでない。該添加剤としては例えば、界面活性剤、一価アルコール、二価アルコール(グリコール)、三価アルコール(グリセリン)、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、カルボン酸系溶剤、窒素系溶剤、硫黄系溶剤、及びフッ素系溶剤等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。好ましくは、界面活性剤、一価アルコール、二価アルコール、三価アルコール、エーテル系溶剤、及びグリコールエーテル系溶剤であり、より好ましくは界面活性剤、一価アルコール、及び二価アルコールであり、更に好ましくは界面活性剤である。
【0018】
界面活性剤としては、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤等が挙げられる。より詳細には、カチオン系界面活性剤としては第4級アンモニウム塩、及び脂肪酸アミドアミン等が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩、スルホン酸塩、スルホコハク酸塩、アルキル硫酸塩、及び、脂肪酸塩等が挙げられる。両性系界面活性剤としては、アルキルベタイン、脂肪酸アミドベタイン、及びアルキルアミンオキサイド等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル、及びショ糖誘導体等が挙げられる。中でもノニオン系界面活性剤が好ましく、より好ましくはポリオキシエチレン誘導体がよい。また、反応液の固化を防止する、あるいは流動性を向上できる界面活性剤であれば上記以外のその他の界面活性剤を使用することもできる。
【0019】
上記界面活性剤以外の添加剤としては、一価アルコール、二価アルコール(グリコール)、及び三価アルコール(グリセリン)、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、カルボン酸系溶剤、窒素系溶剤、硫黄系溶剤、及びフッ素系溶剤等が挙げられる。より詳細には、一価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、及びイソプロパノールが挙げられる。三価アルコール(グリセリン)としては、例えばグリセリンが挙げられる。二価アルコール(グリコール)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及びプロピレングリコールが挙げられる。エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフランが挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、及びブチルセロソルブ等が挙げられる。カルボン酸系溶剤としては、例えば、酢酸が挙げられる。窒素系溶剤としては、例えば、1、3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。硫黄系溶剤としては、例えば、スルホランが挙げられる。フッ素系溶剤としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸が挙げられる。中でも、メタノール及びエチレングリコールが好ましく、より好ましくはメタノールがよい。また、反応液の固化を防止する、あるいは流動性を向上できる溶剤であれば上記以外のその他の水溶性溶剤を使用することもできる。
【0020】
本発明のベンジジン転位反応において、界面活性剤及びアルコール等の添加剤の配合量は、ヒドラゾ体100質量部に対して、1~30質量部、好ましくは3~10質量部であるのがよい。当該範囲内で添加することにより、本発明の低温条件においても反応混合物の粘度上昇を効果的に抑えることができる。
【0021】
より詳細には、本発明におけるベンジジン転位反応の一例としては、上記式(2)で表されるヒドラゾベンゼン化合物と、有機溶媒及び無機酸とを撹拌機を備えたフラスコに仕込み、上記した範囲の反応温度下で1時間~5時間程度撹拌して転位反応させる。反応温度は上述した通りであるが、当該添加剤を用いない態様においては、反応温度は-50℃超であるのがよく、好ましくは-50℃超-11℃以下であり、更に好ましくは-45℃超-18℃以下、更に好ましくは-40℃以上-20℃以下の範囲にある温度がよい。反応時間はベンジジン転位反応が完結するまでの時間であればよく適宜調整される。
【0022】
また本発明の別の態様の例としては、例えば、上記式(2)で表されるヒドラゾベンゼン化合物と、有機溶媒、無機酸、及び界面活性剤又はアルコール等の添加剤とを撹拌機を備えたフラスコに仕込み、上記した範囲の反応温度下で1分~1時間程度撹拌して転位反応させる。反応温度は上述した通りであるが、当該添加剤を用いる態様において、反応温度は-70℃以上-20℃以下の範囲にある温度であればよく、好ましくは-70℃以上-45℃以下であり、より好ましくは-60℃以上-48℃以下であり、更に好ましくは-55℃以上-50℃以下である。当該添加剤を使用する態様では極めて短時間で反応を完結できる。すなわち反応時間は1分~1時間であればよく、好ましくは3~10分であり、特には4~6分の範囲であればよい。
【0023】
有機溶媒は特に制限されず、従来のベンジジン転移反応に従えばよい。好ましくは本発明の反応温度範囲-75℃以上-11℃以下で固化しないような融点を有するものが好ましく、より好ましくは融点が-25℃以下であり、さらに好ましくは-75℃以下である溶媒がよい。また、好ましくは水と非混和性の有機溶媒であり、上述した添加剤である水溶性溶剤とは異なるものである。中でも、トルエン、オルト-キシレン、メタ-キシレン、クロロベンゼン、及びオルト-クロロトルエン等が好ましく、より好ましくはトルエンである。有機溶媒の量は、ヒドラゾ体の濃度が15~30重量%となる量であればよく、好ましくは18~27重量%、より好ましくは20~25重量%であればよい。無機酸としては硫酸、濃塩酸等を使用することが好ましく、特に、55~65重量%、好ましくは60重量%の濃度の硫酸水溶液を使用するのがよい。無機酸の添加量は、ヒドラゾ体1モルに対し10~20モル、好ましくは13~17モル、より好ましくは15モルとなる量がよい。
【0024】
転位反応後に反応液を調製する方法としては、従来公知の方法に従えばよい。例えば、反応後、反応混合物に水を加えて昇温しトルエン層を除去する。濾過して単離した硫酸塩を、水酸化ナトリウム水溶液で中和して、生成物を単離することにより、上記式(1)で表される目的化合物を得られる。
【0025】
尚、上記式(2)で表されるメタ位に置換基(X及びX)を有するヒドラゾベンゼン化合物、より好ましくは、X及びXが-CFである3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼンの製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の方法で製造されたものであればよい。
【0026】
本発明の製造方法によれば、メタ位に嵩高い置換基を有するジアミノビフェニル化合物、特に好ましくは2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルを収率35%以上、好ましくは38%~55%、特には40%~50%という高収率にて得ることができる。当該収率は、従来公知の製造方法で得られる収率10%~30%程度に比較して高い収率であり、温度を-11℃から-70℃の範囲、好ましくは-20℃から-50℃の範囲で低温にすればするほど、高収率が得られる。尚、本発明において、ジアミノビフェニル化合物の収率はヒドラゾ体を基準とするものである。更には、本発明の製造方法によれば、従来の製造方法と比較して反応時間を大幅に短縮してジアミノビフェニル化合物を製造することができる。
【0027】
本発明の特に好ましい態様は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルの製造方法を提供することである。当該化合物は、例えばポリイミド樹脂、及びポリアミド樹脂の原料として有用である。
【実施例
【0028】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものでない。
【0029】
参考例1]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン134g及び55%硫酸140g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6g、-20℃で5時間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し生成物9.0gを得た。生成物はH-NMR分析により下記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は38%、転化率97%、選択率59%であった。
【化7】
【0030】
参考例2]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン134g及び55%硫酸140g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6gを仕込み、-40℃で5時間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し、生成物7.6gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は46%、転化率97%、選択率71%であった。
【0031】
[実施例3]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン134g及び55%硫酸140g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6g、ポリオキシエチレン誘導体であるノニオン系界面活性剤1.2gを仕込み、-20℃で5分間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し生成物9.0gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は40%、転化率97%、選択率62%であった。
【0032】
[実施例4]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン80g及び60%硫酸176g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6g、ポリオキシエチレン誘導体であるノニオン系界面活性剤1.2gを仕込み、-50℃で5分間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し生成物11.8gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は50%、転化率97%、選択率77%であった。
【0033】
[実施例5]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン80g及び60%硫酸176g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6g、第4級アンモニウム塩であるカチオン系界面活性剤1.2gを仕込み、-50℃で5分間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し生成物10.8gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は46%、転化率90%、選択率76%であった。
【0034】
[実施例6]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン80g及び60%硫酸176g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6g、スルホン酸塩であるアニオン系界面活性剤1.2gを仕込み、-50℃で5分間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し生成物10.5gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は45%、転化率90%、選択率74%であった。
【0035】
[実施例7]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン80g及び60%硫酸176g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6g、アルキルベタインである両性系界面活性剤1.2gを仕込み、-50℃で5分間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し生成物10.8gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は46%、転化率92%、選択率74%であった。
【0036】
[実施例8]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン80g及び60%硫酸176g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6g、メタノール1.2gを仕込み、-50℃で5分間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し生成物10.6gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は45%、転化率92%、選択率73%であった。
【0037】
[実施例9]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン80g及び60%硫酸176g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6g、エチレングリコール1.2gを仕込み、-50℃で5分間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し生成物10.5gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は44%、転化率92%、選択率72%であった。
【0038】
[比較例1]
玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、トルエン134g及び55%硫酸140g、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ヒドラゾベンゼン23.6gを仕込み、0℃で5時間反応させた。反応後、水を加えて70℃まで加熱しトルエン層を除去した。硫酸層を冷却し晶析させ、ろ過して硫酸塩ケーキを得た。玉入り冷却管と温度計、撹拌機を備えた300mLフラスコに、上記硫酸塩ケーキ及び水を入れ、80℃を保ちながらNaOH水を添加し中和した。スラリーを50℃まで冷却し、ろ過してケーキを取り出した。ケーキを70℃で一夜減圧乾燥し、生成物7.6gを得た。生成物はH-NMR分析により上記式(I)で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルであった。収率は32%、転化率97%、選択率49%であった。
【0039】
上記実施例1~9及び比較例1について、添加剤、反応温度、反応時間、硫酸濃度、及び収率を下記表1にまとめる。
【0040】
【表1】
【0041】
上記の通り、反応温度が0℃である比較例1の製造方法では収率32%、選択率49%であるのに対し、反応温度が-20℃である参考例1の製造方法では収率38%、選択率59%であり、反応温度が-40℃である参考例2の製造方法では収率46%、選択率71%であり、反応温度が-50℃である実施例4の製造方法では収率50%、選択率77%であった。当該結果に示す通り、反応温度を-20℃から-50℃へと低温にすればするほど選択率が上がり、収率の大幅な向上が可能になる。また、実施例3~9に示す通り、界面活性剤、メタノール、又はエチレングリコールを添加することで反応時間が5分程度と極めて短時間で反応を完了することができる。これは界面活性剤など特定の本願添加剤を添加することで反応液の流動性が向上して撹拌しやすくなり、転位反応の接触効率が向上する為である。
【0042】
本発明の製造方法によれば、上記ジアミノビフェニル化合物、特に好ましくは2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’ジアミノビフェニルを高収率で製造でき、且つ反応時間の短縮が可能となるため、生産性を大きく向上することができ有用である。