(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】SSEA4に結合するキメラ抗原受容体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20231106BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231106BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231106BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20231106BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20231106BHJP
C07K 16/32 20060101ALI20231106BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231106BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231106BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231106BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C12N15/86 Z
C07K14/705
C07K16/32
C07K19/00
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020520005
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 US2019022861
(87)【国際公開番号】W WO2019183025
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-14
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520372537
【氏名又は名称】チョウ ファーマ ユーエスエー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ラン ボ
【審査官】飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525361(JP,A)
【文献】国際公開第2017/172990(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/023121(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/039274(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 14/705
C07K 16/00
C07K 19/00
C12N 5/10
A61K 35/17
A61P 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、単離された核酸。
【請求項2】
前記ヌクレオチド配列は、配列番号1である、請求項1に記載の単離された核酸。
【請求項3】
配列番号2のポリペプチドを発現する、請求項2に記載の単離された核酸を含む組み換え細胞。
【請求項4】
前記細胞はT細胞である、請求項3に記載の組み換え細胞。
【請求項5】
ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項1に記載の単離された核酸を含むウイルスベクター。
【請求項6】
前記ヌクレオチド配列は配列番号1である、請求項5に記載のウイルスベクター。
【請求項7】
ステージ特異的胎児性抗原4に特異的に結合する、配列番号3の配列を含む単離されたポリペプチド。
【請求項8】
ステージ特異的胎児性抗原4に特異的に結合する一本鎖Fv(scFv)と、CD3ζ又はFcεRIγ由来の第1のエンドドメインとを含み、前記scFvが配列番号3の配列を有する、キメラ抗原受容体。
【請求項9】
CD28、CD137、CD4、OX40又はICOS由来の第2のエンドドメインを更に含み、前記scFvは、前記第2のエンドドメインに融合され、前記第2のエンドドメインは、前記第1のエンドドメインに融合される、請求項8に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項10】
前記キメラ抗原受容体は、配列番号4の配列を有する、請求項9に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項11】
被験体における腫瘍を治療する
ためのT細胞を含む組成物であって、
前記T細胞が腫瘍を有する被験体か
ら取得
されたT細胞であり、
前記T細胞がステージ特異的胎児性抗原4(SSEA4)を特異的に認識するscFvを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含
み、
前記T細胞が前記CARを発現
し、
前記scFvは、配列番号3のアミノ酸配列を有し、前記腫瘍内の細胞は、SSEA4を発現し、
前記組成物が前記腫瘍を有する被験体へと
注入され、それにより、抗腫瘍T細胞応答が惹起される
、組成物。
【請求項12】
前記CARは、配列番号4のアミノ酸配列を有する、請求項11に記載の
組成物。
【請求項13】
前記腫瘍は、乳房腫瘍、結腸腫瘍、胃腸腫瘍、腎臓腫瘍、肺腫瘍、肝臓腫瘍、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、直腸腫瘍、胃腫瘍、精巣腫瘍、胸腺腫瘍、子宮頸部腫瘍、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、皮膚腫瘍、鼻咽頭腫瘍、食道腫瘍、口腔腫瘍、頭頸部腫瘍、骨腫瘍、軟骨腫瘍、筋肉腫瘍、リンパ節腫瘍、骨髄腫瘍又は脳腫瘍である、請求項1
2に記載の
組成物。
【請求項14】
前
記T細胞は、配列番号5のポリペプチドを更に発現し、それにより、前
記T細胞は、抗上皮成長因子受容体抗体によりin vivoで消失され得る、請求項11に記載の
組成物。
【請求項15】
前記CARは、配列番号4のアミノ酸配列を有する、請求項1
4に記載の
組成物。
【請求項16】
前記核酸は、配列番号1の配列を有する、請求項1
5に記載の
組成物。
【請求項17】
前記腫瘍は、乳房腫瘍、結腸腫瘍、胃腸腫瘍、腎臓腫瘍、肺腫瘍、肝臓腫瘍、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、直腸腫瘍、胃腫瘍、精巣腫瘍、胸腺腫瘍、子宮頸部腫瘍、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、皮膚腫瘍、鼻咽頭腫瘍、食道腫瘍、口腔腫瘍、頭頸部腫瘍、骨腫瘍、軟骨腫瘍、筋肉腫瘍、リンパ節腫瘍、骨髄腫瘍又は脳腫瘍である、請求項1
4に記載の
組成物。
【請求項18】
前記腫瘍は、乳房腫瘍、結腸腫瘍、胃腸腫瘍、腎臓腫瘍、肺腫瘍、肝臓腫瘍、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、直腸腫瘍、胃腫瘍、精巣腫瘍、胸腺腫瘍、子宮頸部腫瘍、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、皮膚腫瘍、鼻咽頭腫瘍、食道腫瘍、口腔腫瘍、頭頸部腫瘍、骨腫瘍、軟骨腫瘍、筋肉腫瘍、リンパ節腫瘍、骨髄腫瘍又は脳腫瘍である、請求項1
5に記載の
組成物。
【請求項19】
前記腫瘍は、乳房腫瘍、結腸腫瘍、胃腸腫瘍、腎臓腫瘍、肺腫瘍、肝臓腫瘍、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、直腸腫瘍、胃腫瘍、精巣腫瘍、胸腺腫瘍、子宮頸部腫瘍、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、皮膚腫瘍、鼻咽頭腫瘍、食道腫瘍、口腔腫瘍、頭頸部腫瘍、骨腫瘍、軟骨腫瘍、筋肉腫瘍、リンパ節腫瘍、骨髄腫瘍又は脳腫瘍である、請求項1
6に記載の
組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
標的を絞った癌免疫療法は、化学療法と比較して、短期的にも長期的にもより良い効力が期待されるだけでなく、副作用がより少ないことも期待される。
【0002】
例えば、腫瘍特異的糖質抗原、例えばGlobo H、ステージ特異的胎児性抗原3(「SSEA3」)及びステージ特異的胎児性抗原4(「SSEA4」)を標的とする抗癌ワクチンは患者の自己免疫系を刺激して、これらの抗原に対する抗体を発生させ、抗体依存性細胞障害作用、抗体依存性食作用、補体依存性細胞溶解並びに直接細胞静止作用及び/又は細胞傷害性作用を引き起こすように開発された。
【0003】
そのようなアプローチは、しばしば腫瘍における阻害環境の結果として、時間の経過とともに有効性を失う。阻害環境は、抗体、NK細胞、マクロファージ及び補体のいずれか又は全てが腫瘍に侵入するのを阻止する。
【0004】
最近、上述の不利点を回避するために、キメラ抗原受容体(「CAR」)が開発された。CARは、(i)腫瘍抗原に結合する細胞外ドメインと、(ii)T細胞に一次シグナル及び共刺激シグナルの両方を与える1つ以上の細胞内ドメインとを含む。選ばれた細胞外ドメインを有するCARを発現するように、T細胞がin vitroで操作され得る。
【0005】
CARのアプローチは有効であることが実証されているが、重篤な副作用を有しないわけではない。例えば、CARを発現する多数のT細胞の活性化はサイトカイン放出症候群を引き起こす。高熱、低血圧症及び低酸素症を特徴とするこの症候群は多臓器不全どころか、死さえ招くこともある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在使用されているものよりも安全かつ有効なCARベースの腫瘍療法を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の要求を満たすために、配列番号3のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸が開示される。配列番号3のポリペプチドは、ステージ特異的胎児性抗原4(SSEA4)に特異的に結合する。
【0008】
上記の単離された核酸を含む、配列番号2のポリペプチドを発現する組み換え細胞も開示される。
【0009】
さらに、上記単離された核酸を含むウイルスベクターは本発明の範囲内である。ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターである。
【0010】
さらに、単離されたポリペプチドは配列番号3の配列を含み、さらにまた、その単離されたポリペプチドはSSEA4に特異的に結合する。
【0011】
同様に、配列番号3の配列を有し、SSEA4に特異的に結合する一本鎖Fv(scFv)と、CD3ζ又はFcεRIγ由来の第1のエンドドメインとを含むキメラ抗原受容体(CAR)も提供される。
【0012】
最後に、被験体における腫瘍を治療する方法であって、(i)腫瘍を有する被験体からT細胞を取得する工程と、(ii)SSEA-4を特異的に認識するscFvを含むCARをコードする核酸を含むベクターでT細胞をin vitroで形質導入し、それにより、形質導入されたT細胞がCARを発現する工程と、(iii)形質導入されたT細胞をin vitroで増殖させる工程と、(iv)腫瘍を有する被験体へと増殖された形質導入されたT細胞を注入し、それにより、抗腫瘍T細胞応答が惹起される工程とを含む、方法が開示される。scFvは配列番号3のアミノ酸配列を有し、腫瘍内の細胞はSSEA4を発現する。
【0013】
1つ以上の本発明の実施形態の詳細が以下の説明及び図面に示されている。本発明の他の特徴、課題及び利点は、本明細書及び特許請求の範囲から明らかであろう。
【0014】
以下の説明は、添付の図面について言及する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】種々のエフェクター対標的の比率での、指摘されるエフェクターT細胞による標的細胞の溶解のパーセントの棒グラフである。
【
図2A】種々のエフェクター対標的の比率での、指摘されるエフェクターT細胞を標的MCF-7細胞と一緒に共培養した後のそのエフェクターT細胞により放出されたIL-2の量を示す棒グラフである。
【
図2B】種々のエフェクター対標的の比率での、指摘されるエフェクターT細胞を標的MCF-7細胞と一緒に共培養した後のそのエフェクターT細胞により放出されたIFN-γの量を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のように、CARベースの腫瘍療法を開発するという要求を満たすために、配列番号3のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸が提供される。配列番号3のポリペプチドは、SSEA4に特異的に結合するscFvである。具体的な例では、単離された核酸は、配列番号1のヌクレオチド配列を有する。
【0017】
配列番号1のヌクレオチド配列を有する単離された核酸を含む組み換え細胞も本発明の範囲内である。組み換え細胞は、配列番号2のポリペプチド、すなわち配列番号3のscFvを含むCARコンストラクトを発現する。組み換え細胞は、T細胞、例えばCD4+T細胞又はCD8+T細胞であり得る。使用することができる他の細胞には、NK、iNKT、単球、マクロファージ、ミクログリア、樹状細胞及び好中球が含まれる。
【0018】
配列番号3のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸、例えばCARコンストラクトがウイルスベクター内に含まれ得る。
【0019】
例示的なウイルスベクターには、レンチウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターが含まれる。レンチウイルス又はガンマレトロウイルスをベースとするウイルスベクターは、Dai et al. 2016, J. Natl. Cancer Inst. 108:1-14(「Dai et al.」)、Jin et al. 2016, EMBO Mol. Med. 8:702-711、Liechtenstein et al. 2013, Cancers 5:815-837、及びSchonfeld et al. 2015, Mol. Therapy 23:330-338に示されている。そのようなウイルスベクターは、CARの安定的発現をもたらすためにT細胞のゲノムDNA中にCARをコードする核酸を組み込むために使用される。
【0020】
具体的な例では、ウイルスベクターは、配列番号1のヌクレオチド配列を含むレンチウイルスベクターである。
【0021】
代替的には、CARコンストラクトは、CARをコードする核酸、例えば配列番号1のトランスポゾンに媒介されるT細胞へのゲノム組み込みを促す配列を含むベクター中に含まれ得る。これらの発現ベクターの例は、いわゆる「PiggyBac」発現ベクター及び「Sleeping Beauty」発現ベクターである。Nakazawa et al. 2011, Mol. Ther. 19:2133-2143及びMaiti et al. 2013, J. Immunotherapy 36:112-123を参照のこと。
【0022】
更に別の代替態様では、CARコンストラクトを含むベクターはまた、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)に媒介されるCARコンストラクトのT細胞のゲノムへの挿入を可能にするCARコンストラクトに隣接するゲノム核酸配列を含む。CARをゲノムへと挿入するためのCRISPRコンストラクトの例は、例えばMiura et al. 2018, Nature Protocols 13:195-215及びHe et al. 2016, Nucl. Acids Res. 44:1-14に見出すことができる。
【0023】
さらに、配列番号3の配列を含む単離されたポリペプチドが開示される。単離されたポリペプチド、つまりscFvはSSEA-4に特異的に結合する。
【0024】
さらに、ステージ特異的胎児性抗原4に特異的に結合するscFvを含むCARが提供される。scFvは配列番号3の配列を有し得る。CARはCD3ζ又はFcεRIγ由来の第1のエンドドメインを更に含む。例示的なCARでは、第1のエンドドメインはCD3ζ由来である。
【0025】
CARはまた、第2のエンドドメインを含み得る。第2のエンドドメインは、限定されるものではないが、CD28、CD137、CD4、OX40及びICOS由来のエンドドメインであり得る。CARに第2のエンドドメインが存在する場合に、scFvは第2のエンドドメインに融合され、第2のエンドドメインは第1のエンドドメインに融合される。CARの特定の例は、CD137由来の第2のエンドドメインを有する。別の具体的な例では、CARは、配列番号4のアミノ酸配列を有する。
【0026】
上述のように、とりわけ、腫瘍を有する被験体からT細胞を取得する工程と、SSEA4を特異的に認識するscFvを含むCARをコードする核酸を含むベクターでT細胞をin vitroで形質導入する工程とを含む腫瘍治療方法が提供される。
【0027】
T細胞を取得する手順は当該技術分野において知られている。例えば、Kaiser et al. 2015, Cancer Gene Therapy 22:72-78(「Kaiser et al.」)を参照のこと。T細胞は、CD4+細胞、CD8+細胞又はNK細胞であり得る。例示的な方法では、CD8+細胞は被験体から取得される。
【0028】
T細胞は、in vitroで上記のCARベクターにより形質導入される。T細胞の形質導入は、使用されるCARベクターの種類に応じて、エレクトロポレーション、リポフェクション、レンチウイルス感染、ガンマレトロウイルス感染又はアデノ随伴ウイルス感染により行うことができる。
【0029】
より具体的には、CARベクターがPiggyBac、Sleeping Beauty又はCRISPRベースの発現ベクターである場合に、その発現ベクターは、エレクトロポレーション又はリポフェクションを介してT細胞へと形質導入され得る。CRISPRベースの発現ベクターは、T細胞における目的のゲノム挿入部位のプロトスペーサー隣接モチーフに隣接する配列に相補的なガイドRNAを発現するベクターと一緒に同時トランスフェクションされる。
【0030】
CARベクターがウイルスベースである場合には、ウイルス粒子が調製され、T細胞の感染に使用される。
【0031】
腫瘍治療方法はまた、形質導入されたT細胞をin vitroで増殖させる工程と、腫瘍を有する被験体へと増殖された形質導入されたT細胞を注入する工程とを含む。
【0032】
形質導入されたT細胞は、当該技術分野において知られる方法を使用してin vitroで増殖される。Kaiser et al.を参照のこと。次いで、増殖されたT細胞は、腫瘍を有する被験体へと1バッチで又は2バッチ以上で注入される。
【0033】
腫瘍治療方法の具体的な代替形態では、この方法は、今しがた言及した注入工程の前に行われるプレコンディショニング工程を更に含む。プレコンディショニング工程は、リンパ枯渇を誘発する薬物で被験体を処理することにより行われる。これらの薬物の例には、シクロホスファミド及びフルダラビンが含まれる。追加の薬物の例は、Dai et al.及びHan et al. 2013, J. Hematol. Oncol. 6:47-53に見出すことができる。
【0034】
腫瘍治療方法では、形質導入されたT細胞は、CARに加えて、配列番号5のポリペプチド、すなわち上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor t)ドメインIII-IV(EGFRt)を更に発現し得る。こうして、注入された増殖されたT細胞は、EGFRtに結合する抗上皮成長因子受容体抗体によりin vivoで消失され得る。例えば、注入されたT細胞をin vivoで死滅させるために、被験体にセツキシマブが投与される。EGFRtと一緒にCARをコードする例示的な核酸は、配列番号1の核酸配列を有する。
【0035】
上記の方法は、SSEA4を発現する細胞を含む腫瘍を治療するために使用することができる。治療することができる腫瘍には、限定されるものではないが、乳房腫瘍、結腸腫瘍、胃腸腫瘍、腎臓腫瘍、肺腫瘍、肝臓腫瘍、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、直腸腫瘍、胃腫瘍、精巣腫瘍、胸腺腫瘍、子宮頸部腫瘍、前立腺腫瘍、膀胱腫瘍、皮膚腫瘍、鼻咽頭腫瘍、食道腫瘍、口腔腫瘍、頭頸部腫瘍、骨腫瘍、軟骨腫瘍、筋肉腫瘍、リンパ節腫瘍、骨髄腫瘍及び脳腫瘍が含まれる。
【0036】
更に詳述することなしに、当業者であれば、本明細書の開示に基づき、本開示を最大限に利用することができると考えられる。したがって、以下の具体的な実施例は、単に説明的なものであって、決して本開示の残りの部分を限定するものではないと解釈されるべきである。本明細書で引用される全ての出版物及び特許文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【実施例】
【0037】
実施例1:抗SSEA4 CARコンストラクトを含むレンチウイルスの産生
抗SSEA4 CARをコードするレンチウイルスベクターの構築
レンチウイルスコンストラクトを、大腸菌において標準的な組み換えDNA技術を使用して調製し、DNAシーケンシングにより検証した。より具体的には、配列番号3の配列を有するscFvをコードする核酸を、レンチウイルスプラスミドベクター中にEF-1αプロモーター及びシグナルペプチドをコードする配列の下流でCD8ヒンジをコードする配列の上流にクローニングして、CARカセットを作製した。そのCARカセットはまた、CD8膜貫通ドメインと、CD137細胞内シグナル伝達ドメインと、CD3ζエンドドメインと、トセア・アシグナ(Thosea asigna)の自己開裂性ペプチドT2Aと、EGFRtドメインIII-IVとをコードする。このCARカセットは、配列番号1の核酸配列を有する。レンチウイルスプラスミドベクターは、レンチウイルス粒子の産生を促す追加の配列を含む。
【0038】
レンチウイルスのパッケージング及び産生
レンチウイルスのパッケージング及び産生は、確立された技術を使用して実施した。パッケージング用細胞、すなわち293T細胞を、10cm培養皿中で10mLの完全培養培地において5×106個の細胞で播種した。それらの細胞を5%のCO2中、37℃で一晩インキュベートした。PBS中でトランスフェクション試薬と、上記レンチウイルスベクターと、パッケージングベクターと、エンベロープベクターとを混ぜ合わせることにより、トランスフェクション複合体を調製した。そのトランスフェクション複合体を、パッケージング用細胞を含む培養皿に加え、細胞を5%のCO2中、37℃で6時間~8時間インキュベートした。培地を取り替え、細胞を24時間インキュベートした。培養培地を収集し、新鮮な培地と置き換えた。この24時間のインキュベート及び培地収集を2回繰り返した。全ての収集された培地を一緒にして、0.45μmフィルターに通した。濾液を50000×gで2時間遠心分離することで、レンチウイルス粒子をペレット化した。レンチウイルスストックをPBS中で懸濁し、-80℃で貯蔵した。
【0039】
レンチウイルス力価測定
感染された細胞のゲノム中に組み込まれたレンチウイルスDNAの量を測定することにより、レンチウイルス力価を決定した。293T細胞を24ウェルプレートにおいて1ウェル当たり50000個の細胞の密度で播種し、一晩インキュベートした。高濃度のレンチウイルスストックをポリブレンと一緒に各ウェルに加えて6μg/mLの濃度にした。そのプレートを軽く遠心分離した後に、5%のCO2を有する37℃のインキュベーター中に72時間置いた。レンチウイルスで形質導入された細胞からゲノムDNAを市販のキットで抽出した。
【0040】
リアルタイム定量PCR(RT-QPCR)を使用して、抽出されたゲノムDNA中に存在するレンチウイルスDNAのコピー数を決定した。結果の正規化のために、アルブミン遺伝子も測定した。RT-QPCRのために使用されたプライマー及びプローブを以下の表1に示す。
【0041】
【0042】
上記のRT-QPCRプライマーを使用してアルブミン遺伝子配列又はLTR遺伝子配列を有する既知量のプラスミドDNAを増幅することにより、標準曲線を作成した。ゲノムDNA中のレンチウイルスDNAのコピー数は、LTR配列の量をアルブミン配列の量で割った比率として計算された。
【0043】
次いで、レンチウイルス力価を、以下の式:
レンチウイルス力価=播種された細胞数×1細胞当たりのレンチウイルスのコピー数/加えられたレンチウイルスストックの容量
を使用して計算した。
【0044】
例示的なレンチウイルス調製物は、1mL当たり2.6×108個の形質導入単位を含んでいた。
【0045】
実施例2:抗SSEA4 CAR T細胞の調製
確立された技術を使用して抗SSEA4 CARを発現するT細胞を作製した。まず、全血から標準的な血液分離管を用いて末梢血単核細胞(PBMC)を分離し、それらの細胞を完全培養培地中に再懸濁した。PBMCから標準的な磁気ビーズ分離技術を使用してT細胞を分離した。
【0046】
分離されたT細胞を組織培養プレートへと分注し、200IU/mLのIL2、10ng/mLのIL7、5ng/mLのIL15及び5ng/mLのIL21を補充した増殖培地を、細胞密度が1mL当たり0.5×106個~1×106個の細胞になるまで加えた。そのプレートを5%のCO2中、37℃で3日間インキュベートした。実施例1で上記のように産生されたレンチウイルス調製物をT細胞に加え、ポリブレンも加えることで、6μg/mlの最終濃度にした。プレートを室温で800×gで1時間遠心分離した後に、5%のCO2中、37℃で5日間インキュベートした。5日間インキュベートしている間に、T細胞を1mL当たり0.5×106個の細胞の細胞密度に維持した。抗SSEA4 CARを発現するT細胞のパーセンテージを、EGFRのドメインIII-IVに対する抗体を使用して蛍光活性化セルソーティングにより決定した。
【0047】
例示的な調製物では、T細胞の45.7%が抗SSEA4 CARを発現した。
【0048】
実施例3:抗SSEA4 CAR Tエフェクター細胞によるMCF-7標的細胞の溶解
抗SSEA4 CAR T細胞が標的細胞を溶解する能力を共培養アッセイにより評価した。SSEA-4を発現するMCF-7乳癌細胞を標的細胞として使用した。1mL当たり5×105個の細胞の100μLのMCF-7標的細胞を96ウェルプレートの各ウェルへと移し、5%のCO2中、37℃で一晩培養した。エフェクター細胞、すなわち抗SSEA4 CAR T細胞、形質導入されていないT細胞及びネガティブコントロールレンチウイルスで形質導入されたT細胞をそれぞれ無血清RPMI1640培地中で懸濁した。96ウェルプレートから培養培地を取り出し、標的細胞をPBSで1回洗浄した。T細胞を1:1、2:1、5:1及び10:1のエフェクター対標的(E/T)の比率で別個のウェルへと加えた。各ウェル中の培地の最終容量を、RPMI1640を使用して100μL/ウェルに調節した。共培養物を5%のCO2中、37℃で6時間インキュベートした。
【0049】
市販のキット(CytoTox 96(商標)非放射性細胞傷害性アッセイ;Promega社、米国、ウィスコンシン州)を使用して、溶解時にこれらの細胞から放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)のレベルを決定することにより、標的MCF-7細胞の溶解を測定した。共培養後に、96ウェルプレートを室温で1200×gで5分間遠心分離し、各ウェルから50μLの上清を新たな96ウェルプレートに移した。各上清中のLDHレベルを製造業者の指示に従って決定した。標的細胞のみを含む或る特定のウェルを遠心分離工程の前に溶解バッファーで処理した。これらのウェルからの上清を使用して、MCF-7細胞により放出されたLDHの最大量を決定した。それらの結果は、
図1に示されている。
【0050】
データは、抗SSEA4 CAR-T細胞が、形質導入されていないT細胞及び空のレンチウイルスで形質導入されたT細胞と比較して、有意により多くの標的MCF-7細胞を、全てのE/T比率で溶解したことを示している。
【0051】
実施例4:抗SSEA4 CAR-T細胞によるサイトカイン放出
上記のCAR-T細胞を、96ウェルプレートにおいて種々のE/T比率で、10%のFBSを補充したRPMI1640培地中で5%のCO
2、37℃で標的細胞系統MCF7と一緒に24時間共培養した。培養培地を採取して、CAR-T細胞によるサイトカイン放出を測定した。簡潔には、96ウェルプレートを室温で1200×gで5分間遠心分離し、その後に各ウェルからの50μLの上清を新たな96ウェルプレートへと移した。市販のELISAキットを使用して製造業者の使用説明書に従って、サイトカインIL-2及びIFN-γの濃度を決定した。それらの結果は、
図2A及び
図2Bに示されている。データは、SSEA4特異的CAR-T細胞が、標的腫瘍細胞に結合した後にIL-2及びIFN-γの両方を頑健に分泌し、この分泌レベルが、形質導入されていないT細胞又はCARコンストラクトを有しないレンチウイルスで形質導入されたT細胞のどちらよりも有意に大きかったことを示している。
【0052】
その他の実施形態
本明細書に開示されるあらゆる特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示されるそれぞれの特徴は、同じ目的、同等の目的又は同様の目的を担う代替的な特徴により置き換えることができる。特段の定めがない限り、開示されるそれぞれの特徴は、包括的な一連の同等の特徴又は同様の特徴の1つの例であるにすぎない。
【0053】
上記説明から、当業者は本発明の必須の特性を容易に把握することができ、その趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変化及び変更を加えることで、本発明を様々な用途及び条件に適合させることができる。したがって、その他の実施形態も添付の特許請求の範囲の範囲内である。
【配列表】