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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20231106BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231106BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231106BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231106BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
C08L7/00
B60C1/00
C08K3/04
C08K3/36
C08L9/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017041748
(22)【出願日】2017-03-06
(65)【公開番号】P2018145293
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2020-01-22
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前川 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】本田 慎一郎
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】海老原 えい子
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/76048(WO,A1)
【文献】特開2015-124364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記試験条件で測定した破断時伸びが600%以上700%以下であるゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤ。
(試験条件)
引張速度:8.3m/秒
温度:75℃
試験片:ダンベル状3号形
【請求項2】
下記試験条件で測定した破断時伸びが625%以上700%以下であるゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤ。
(試験条件)
引張速度:8.3m/秒
温度:75℃
試験片:ダンベル状3号形
【請求項3】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積が90~220m/gのシリカを含有する請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積が110~190m/gのカーボンブラックを含有する請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物が、天然ゴムを含有する請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物が、スチレンブタジエンゴムを含有する請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム組成物が、ブタジエンゴムを含有する請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記シリカの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上である請求項のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上である請求項のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気入りタイヤの耐チッピング性を向上する手法が種々検討されており、例えば、特許文献1では、天然ゴム、シリカ及び環化ゴムを配合する手法が開示されている。しかしながら、近年では、耐チッピング性の更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-012768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、耐チッピング性に優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般的に、耐チッピング性は、JIS K 6251:2010に従って測定される破断時伸び(EB)に相関すると考えられている。
【0006】
上記JIS規格において、破断時伸びを測定する際の引張速度は、ダンベル状1号形、ダンベル状2号形、ダンベル状3号形、ダンベル状5号形及びダンベル状6号形の試験片では500±50mm/分、ダンベル状7号形及びダンベル状8号形の試験片では200±20mm/分と定められている。この引張速度について本発明者らが種々検討したところ、75℃において、8.3m/秒という極めて速い引張速度で測定した破断時伸び(以下、高速EBともいう)が、実車評価での耐チッピング性と強く相関していることを発見した。そして、本発明者らが更に検討を進めた結果、高速EBが特定の範囲内であれば、良好な耐チッピング性が確保されるという知見を見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明は、下記試験条件で測定した破断時伸びが540%以上であるゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
(試験条件)
引張速度:8.3m/秒
温度:75℃
試験片:ダンベル状3号形
【0007】
前記ゴム組成物が、高純度化され、かつpHが2~7に調整された改質天然ゴムを含有することが好ましい。
【0008】
前記ゴム組成物が、重量平均分子量が40万~100万のスチレンブタジエンゴムを含有することが好ましい。
【0009】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積が90~220m/gのシリカを含有することが好ましい。
【0010】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積が110~190m/gのカーボンブラックを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、高速EBが特定の範囲内であるゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤであるので、優れた耐チッピング性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】8.3m/秒の引張速度で測定した破断時伸びと、実車評価による耐チッピング性指数とを変数とする散布図である。
図2】500mm/分(8.3×10-3m/秒)の引張速度で測定した破断時伸びと、実車評価による耐チッピング性指数とを変数とする散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の空気入りタイヤは、下記試験条件で測定した破断時伸び(高速EB)が540%以上であるゴム組成物を用いて作製される。
(試験条件)
引張速度:8.3m/秒
温度:75℃
試験片:ダンベル状3号形
【0014】
高速EBが540%以上であるゴム組成物をトレッド等に適用することで、耐チッピング性に優れた空気入りタイヤが得られる。より良好な耐チッピング性が得られるという点から、高速EBは600%以上であることが好ましい。
なお、高速EBの上限は特に限定されないが、800%以下であることが好ましい。
【0015】
破断時伸びは、ゴム組成物に配合されるゴム成分、フィラーに強く影響される。よって、高速EBを特定の範囲に調整するためには、これらの成分の配合内容をどのように設定するかが重要となる。
以下、高速EBを540%以上とする場合に好適なゴム成分、フィラーについて説明する。
【0016】
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、NR、SBR、BRが好ましい。
【0017】
天然ゴムとしては、高純度化され、かつpHが2~7に調整された改質天然ゴムを用いることが好ましい。タンパク質、リン脂質などの非ゴム成分を除去して高純度化するとともに、ゴムのpHを適切な値にコントロールした前記改質天然ゴムは、シリカやカーボンブラックとの親和性が高いため、高速EBを顕著に向上できる。
【0018】
ここで、高純度化とは、天然ポリイソプレノイド成分以外のリン脂質、タンパク質等の不純物を取り除くことである。天然ゴムは、イソプレノイド成分が、上記不純物成分に被覆されているような構造となっており、上記成分を取り除くことにより、イソプレノイド成分の構造が変化して、配合剤との相互作用が変わってエネルギーロスが減ったり、耐久性が向上し、より良いゴム組成物を得ることができると推察される。
【0019】
高純度化され、かつpHが2~7に調整された改質天然ゴムとしては、非ゴム成分量を低減して高純度化され、かつゴムのpHが2~7の改質天然ゴムであれば特に限定されず、具体的には、(1)天然ゴムの非ゴム成分を除去した後、酸性化合物で処理して得られ、pHが2~7である改質天然ゴム、(2)ケン化天然ゴムラテックスを洗浄し、更に酸性化合物で処理して得られ、pHが2~7である改質天然ゴム、(3)脱蛋白天然ゴムラテックスを洗浄し、更に酸性化合物で処理して得られ、pHが2~7である改質天然ゴム、等が挙げられる。
【0020】
このように、前記改質天然ゴムは、ケン化天然ゴムラテックスや脱蛋白天然ゴムラテックスを、蒸留水などで水洗し、更に酸性化合物で処理する製法等により調製できるが、水洗に用いた蒸留水のpHに比べて、酸性化合物の処理により酸性側にシフトさせ、pHの値を下げることが重要である。通常、蒸留水のpHが7.00ということはなく、5~6程度であるが、この場合は、酸性化合物の処理によりpHの値を5~6よりも酸性側に低下させることが重要となる。具体的には、水洗に用いる水のpH値より、酸性化合物の処理でpH値を0.2~2低下させることが好ましい。
【0021】
前記改質天然ゴムのpHは2~7であり、好ましくは3~6、より好ましくは4~6である。
なお、改質天然ゴムのpHは、ゴムを各辺2mm角以内の大きさに切って蒸留水に浸漬し、マイクロ波を照射しながら90℃で15分間抽出し、浸漬水をpHメーターを用いて測定された値であり、具体的には後述の実施例に記載の方法で測定する。ここで、抽出については、超音波洗浄器などで1時間抽出してもゴム内部から完全に水溶性成分を抽出することはできないため、正確に内部のpHを知ることはできないが、本手法で抽出することでゴムの実体を知ることが可能になる。
【0022】
前記改質天然ゴムは、上記(1)~(3)等、各種方法により高純度化したものであり、例えば、該改質天然ゴム中のリン含有量は、好ましくは200ppm以下、より好ましくは150ppm以下である。
なお、リン含有量は、ICP発光分析等、従来の方法で測定できる。リンは、天然ゴムに含まれるリン脂質に由来するものと考えられる。
【0023】
前記改質天然ゴムは、人工の老化防止剤を含んでいる場合、アセトン中に室温(25℃)下で48時間浸漬した後の窒素含有量が0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。高純度化した天然ゴムは天然ゴムが元々有しているといわれる天然の老化防止剤成分が除去されているため、長期の保存で劣化するおそれがある。そのため、人工の老化防止剤が添加されることがある。上記窒素含有量は、アセトン抽出によりゴム中の人工の老化防止剤を除去した後の測定値である。窒素含有量は、ケルダール法、微量窒素量計等、従来の方法で測定できる。窒素は、タンパク質やアミノ酸に由来するものである。
【0024】
前記改質天然ゴムは、JIS K 6300:2001-1に準拠して測定したムーニー粘度ML(1+4)130℃が75以下であることが好ましく、より好ましくは40~75、更に好ましくは45~75、特に好ましくは50~70、最も好ましくは55~65である。75以下であることにより、ゴム混練前に通常必要な素練りが不要となる。従って、素練りする工程を経ずに作製された前記改質天然ゴムをゴム組成物の配合材料として好適に使用できる。一方、75を超えると、使用前に素練りが必要となり、設備の専有、電気や熱エネルギーロス、等が発生する傾向がある。
【0025】
前記改質天然ゴムは、上記ムーニー粘度ML(1+4)130℃について、下記式で表される耐熱老化性指数が75~120%のゴムであることが好ましい。
【数1】
【0026】
上記式で示される耐熱老化性指数は、より好ましくは80~115%、更に好ましくは85~110%である。ゴムの耐熱老化性の評価として種々の方法が報告されているが、上記ムーニー粘度ML(1+4)130℃の80℃で18時間熱処理した前後の変化率で評価する方法を用いることで、タイヤ製造時やタイヤ使用時などの耐熱老化性を正確に評価できる。ここで、上記範囲内であれば優れた耐熱老化性が得られ、また、高速EBが顕著に向上する。
【0027】
上記(1)~(3)などの高純度化され、かつpHが2~7に調整された前記改質天然ゴムは、(製法1)天然ゴムラテックスをケン化処理する工程1-1と、ケン化天然ゴムラテックスを洗浄する工程1-2と、酸性化合物で処理する工程1-3とを含む製造方法、(製法2)天然ゴムラテックスを脱蛋白処理する工程2-1と、脱蛋白天然ゴムラテックスを洗浄する工程2-2と、酸性化合物で処理する工程2-3とを含む製造方法、等により調製できる。
【0028】
<製法1>
(工程1-1)
工程1-1では、天然ゴムラテックスをケン化処理する。これにより、ゴム中のリン脂質やタンパク質が分解され、非ゴム成分が低減されたケン化天然ゴムラテックスが調製される。
【0029】
天然ゴムラテックスはヘベア樹などの天然ゴムの樹木の樹液として採取され、ゴム分のほか水、タンパク質、脂質、無機塩類などを含み、ゴム中のゲル分は種々の不純物の複合的な存在に基づくものと考えられている。本発明では、天然ゴムラテックスとして、ヘベア樹をタッピングして出てくる生ラテックス(フィールドラテックス)、あるいは遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮ラテックス(精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTMTDとアンモニアによって安定化させたLATZラテックスなど)を使用できる。
【0030】
ケン化処理の方法としては、例えば、特開2010-138359号公報、特開2010-174169号公報に記載の方法により好適に行うことができ、具体的には下記方法などで実施できる。
【0031】
ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することで実施でき、必要に応じて撹拌などを行っても良い。
【0032】
ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好ましいが、これらに限定されない。界面活性剤としては特に限定されず、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などの公知のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられるが、ゴムを凝固させず良好にケン化できるという点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などのアニオン系界面活性剤が好適である。ケン化処理において、アルカリ及び界面活性剤の添加量、ケン化処理の温度及び時間は、適宜設定すればよい。
【0033】
(工程1-2)
工程1-2では、上記工程1-1で得られたケン化天然ゴムラテックスを洗浄する。該洗浄により、タンパク質などの非ゴム成分を除去する。
【0034】
工程1-2は、例えば、上記工程1-1で得られたケン化天然ゴムラテックスを凝集させて凝集ゴムを作製した後、得られた凝集ゴムを塩基性化合物で処理し、更に洗浄することにより実施できる。具体的には、凝集ゴムの作製後に、水で希釈して水溶性成分を水層に移して、水を除去することで非ゴム成分を除去でき、更に凝集後に塩基性化合物で処理することで凝集時にゴム内に閉じ込められた非ゴム成分を再溶解させることができる。これにより、凝集ゴム中に強く付着したタンパク質などの非ゴム成分を除去できる。
【0035】
凝集方法としては、ギ酸、酢酸、硫酸などの酸を添加してpHを調整し、必要に応じて更に高分子凝集剤を添加する方法などが挙げられる。これにより、大きな凝集塊ではなく、直径数mm~1mm以下から、20mm程度の粒状ゴムが形成され、塩基性化合物処理によりタンパク質などが充分に除去される。上記pHは、好ましくは3.0~5.0、より好ましくは3.5~4.5の範囲に調整される。
【0036】
高分子凝集剤としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩の重合体などのカチオン性高分子凝集剤、アクリル酸塩の重合体などのアニオン系高分子凝集剤、アクリルアミド重合体などのノニオン性高分子凝集剤、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩-アクリル酸塩の共重合体などの両性高分子凝集剤などが挙げられる。高分子凝集剤の添加量は、適宜選択できる。
【0037】
次いで、得られた凝集ゴムに対して、塩基性化合物による処理が施される。ここで、塩基性化合物としては特に限定されないが、タンパク質などの除去性能の点から、塩基性無機化合物が好適である。
【0038】
塩基性無機化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などの金属水酸化物;アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩などの金属炭酸塩;アルカリ金属炭酸水素塩などの金属炭酸水素塩;アルカリ金属リン酸塩などの金属リン酸塩;アルカリ金属酢酸塩などの金属酢酸塩;アルカリ金属水素化物などの金属水素化物;アンモニアなどが挙げられる。
【0039】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ金属酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属水素化物としては、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどが挙げられる。
【0040】
なかでも、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩、アンモニアが好ましく、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アンモニアがより好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが更に好ましい。上記塩基性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
凝集ゴムを塩基性化合物で処理する方法は、凝集ゴムを上記塩基性化合物に接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムを塩基性化合物の水溶液に浸漬する方法、凝集ゴムに塩基性化合物の水溶液を噴霧する方法などが挙げられる。塩基性化合物の水溶液は、各塩基性化合物を水で希釈、溶解することで調製できる。
【0042】
上記水溶液100質量%中の塩基性化合物の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。0.1質量%未満では、タンパク質を充分に除去できないおそれがある。該含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。10質量%を超えると、多量の塩基性化合物が必要なわりにタンパク質分解量が増えるわけではなく、効率が悪い傾向がある。
【0043】
上記塩基性化合物の水溶液のpHとしては、9~13が好ましく、処理効率の点から、10~12がより好ましい。
【0044】
上記処理温度は適宜選択すればよいが、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~35℃である。また、処理時間は、通常、1分以上であり、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上である。1分未満であると、本発明の効果が良好に得られないおそれがある。上限に制限はないが、生産性の点から、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下、更に好ましくは16時間以下である。
【0045】
塩基性化合物の処理後、洗浄処理が行われる。該洗浄処理により、凝集時にゴム内に閉じ込められたタンパク質などの非ゴム成分を充分除去すると同時に、凝集ゴムの表面だけでなく、内部に存在する塩基性化合物も充分に除去することが可能となる。特に、当該洗浄工程でゴム全体に残存する塩基性化合物を除去することにより、後述の酸性化合物による処理をゴム全体に充分に施すことが可能となり、ゴムの表面だけでなく、内部のpHも2~7に調整できる。
【0046】
洗浄方法としては、ゴム全体に含まれる非ゴム成分、塩基性化合物を充分に除去可能な手段を好適に用いることができ、例えば、ゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離する方法、静置してゴムを浮かせ、水相のみを排出してゴム分を取り出す方法が挙げられる。洗浄回数は、タンパク質などの非ゴム成分、塩基性化合物を所望量に低減することが可能な任意の回数を採用できるが、乾燥ゴム300gに対して水1000mLを加えて撹拌した後に脱水するという洗浄サイクルを繰り返す手法なら、3回(3サイクル)以上が好ましく、5回(5サイクル)以上がより好ましく、7回(7サイクル)以上が更に好ましい。
【0047】
洗浄処理は、ゴム中のリン含有量が200ppm以下及び/又は窒素含有量が0.15質量%以下になるまで洗浄するものであることが好ましい。洗浄処理でリン脂質やタンパク質が充分に除去されることで、高速EBが顕著に向上する。
【0048】
(工程1-3)
工程1-3では、工程1-2で得られた洗浄後のゴムに酸性化合物による処理が施される。上記のとおり、当該処理を施すことでゴム全体のpHが2~7に調整され、良好な高速EBが得られる改質天然ゴムを提供できる。
なお、塩基性化合物の処理などに起因して耐熱老化性が低下する傾向があるが、更に酸性化合物で処理することで、そのような問題を防止し、良好な耐熱老化性が得られる。
【0049】
酸性化合物としては特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ほう酸、ボロン酸、スルファニル酸、スルファミン酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、グルタル酸、グルコン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、イタコン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、スチレンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、バルビツール酸、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸、4-ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸、ナフタレンジスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、トルエンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸、α-レゾルシン酸、β-レゾルシン酸、γ-レゾルシン酸、没食子酸、フロログリシン、スルホサリチル酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、ビスフェノール酸などの有機酸などが挙げられる。なかでも、酢酸、硫酸、ギ酸などが好ましい。上記酸性化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
凝集ゴムを酸で処理する方法は、凝集ゴムを上記酸性化合物に接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムを酸性化合物の水溶液に浸漬する方法、凝集ゴムに酸性化合物の水溶液を噴霧する方法などが挙げられる。酸性化合物の水溶液は、各酸性化合物を水で希釈、溶解することで調製できる。
【0051】
上記水溶液100質量%中の酸性化合物の含有量は特に限定されないが、下限は好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、上限は好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。該含有量が上記範囲内であると、良好な耐熱老化性が得られる。
【0052】
上記処理温度は適宜選択すればよいが、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~35℃である。また、処理時間は、通常、好ましくは3秒以上であり、より好ましくは10秒以上、更に好ましくは30秒以上である。3秒未満であると、充分に中和できず、本発明の効果が良好に得られないおそれがある。上限に制限はないが、生産性の点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
【0053】
酸性化合物の水溶液への浸漬などの処理では、pHを6以下に調整することが好ましい。このような中和により、優れた耐熱老化性が得られる。該pHの上限は、より好ましくは5以下、更に好ましくは4.5以下である。下限は特に限定されず、浸漬時間にもよるが、酸が強すぎるとゴムが劣化したり、廃水処理が面倒になるため、好ましくは1以上、より好ましくは2以上である。
なお、浸漬処理は、酸性化合物の水溶液中に凝集ゴムを放置しておくこと等で実施できる。
【0054】
処理後に、酸性化合物の処理に使用した該化合物を除去した後、処理後の凝集ゴムの洗浄処理を適宜実施してもよい。洗浄処理としては、上記と同様の方法が挙げられ、例えば、洗浄を繰り返すことで非ゴム成分を更に低減し、所望の含有量に調整すればよい。また、酸性化合物の処理後の凝集ゴムをロール式の絞り機等で絞ってシート状などにしてもよい。凝集ゴムを絞る工程を追加することで、凝集ゴムの表面と内部のpHを均一にすることができ、所望の性能を持つゴムが得られる。必要に応じて、洗浄や絞り工程を実施した後、クレーパーに通して裁断し、乾燥することにより、前記改質天然ゴムが得られる。
なお、乾燥は特に限定されず、例えば、TSRを乾燥させるために使用されるトロリー式ドライヤー、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の通常の乾燥機を用いて実施できる。
【0055】
<製法2>
(工程2-1)
工程2-1では、天然ゴムラテックスを脱蛋白処理する。これにより、タンパク質などの非ゴム成分が除去された脱蛋白天然ゴムラテックスが調製できる。工程2-1で使用する天然ゴムラテックスとしては、上記と同様のものが挙げられる。
【0056】
脱蛋白処理の方法としては、タンパク質の除去が可能な公知の方法を特に制限なく採用でき、例えば、天然ゴムラテックスに蛋白質分解酵素を添加して蛋白質を分解させる方法などが挙げられる。
【0057】
脱蛋白処理に使用される蛋白質分解酵素としては特に限定されず、細菌由来のもの、糸状菌由来のもの、酵母由来のもののいずれでも構わない。具体的には、プロテアーゼ、ペプチターゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、エステラーゼ、アミラーゼ等を単独又は組み合わせて使用できる。
【0058】
蛋白質分解酵素の添加量は、天然ゴムラテックス中の固形分100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上である。下限未満では、蛋白質の分解反応が不十分になるおそれがある。
【0059】
なお、脱蛋白処理において、蛋白質分解酵素と共に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0060】
(工程2-2)
工程2-2では、上記工程2-1で得られた脱蛋白天然ゴムラテックスを洗浄する。該洗浄により、タンパク質などの非ゴム成分を除去する。
【0061】
工程2-2は、例えば、上記工程2-1で得られた脱蛋白天然ゴムラテックスを凝集させて凝集ゴムを作製した後、得られた凝集ゴムを洗浄することにより実施できる。これにより、凝集ゴム中に強く付着したタンパク質などの非ゴム成分を除去できる。
【0062】
凝集方法は、上記工程1-2と同様の方法で実施できる。さらに、必要に応じて、前述したような塩基性化合物で処理しても良い。凝集ゴムの作製後、洗浄処理が行われる。該洗浄処理は、上記工程1-2と同様の方法で実施でき、これにより、タンパク質などの非ゴム成分、塩基性化合物を除去できる。
なお、洗浄処理は、上記と同様の理由により、ゴム中のリン含有量が200ppm以下及び/又は窒素含有量が0.15質量%以下になるまで洗浄するものであることが好ましい。
【0063】
(工程2-3)
工程2-3では、工程2-2で得られた洗浄後のゴムに酸性化合物による処理が施される。塩基性化合物での処理はもちろん、酸凝集においても酸量が少ない場合、最終的に得られたゴムを水で抽出した際、アルカリ性~中性になることに起因して耐熱老化性が低下する傾向がある。一般的に、好適に脱蛋白できるという理由から、蛋白質分解酵素として、アルカリ領域に至適pHを有する酵素が使用されており、当該酵素反応は、至適pHに合わせてアルカリ条件下で行われることが多く、最終的なゴムのpHを2~7に調整するために、工程2-1における天然ゴムラテックスの脱蛋白処理は、pH8~11で実施することが好ましく、pH8.5~11がより好ましい。その後、凝集の時に酸性下で凝固されるが、そのゴムを水洗しただけでは、後述する抽出でpHが抽出液よりも上がり、この場合に特に耐熱老化性の低下が大きかった。これに対して、凝固後、必要に応じて塩基性化合物で処理後に、酸性化合物で処理することで、そのような問題を防止し、良好な耐熱老化性が得られる。さらに、良好な高速EBも得られる。
【0064】
酸性化合物としては、上記工程1-3と同様のものが挙げられる。また、凝集ゴムを酸で処理する方法は、凝集ゴムを上記酸性化合物に接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムを酸性化合物の水溶液に浸漬する方法、凝集ゴムに酸性化合物の水溶液を噴霧する方法などが挙げられる。酸性化合物の水溶液は、各酸性化合物を水で希釈、溶解することで調製できる。
【0065】
上記水溶液100質量%中の酸性化合物の含有量は特に限定されないが、下限は好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上であり、上限は好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。該含有量が上記範囲内であると、良好な耐熱老化性、高速EBが得られる。
【0066】
上記処理温度、処理時間は適宜選択すればよく、上記工程1-3と同様の温度を採用すればよい。また、酸性化合物の水溶液への浸漬などの処理では、pHを上記工程1-3と同様の値に調整することが好ましい。
【0067】
処理後に、酸性化合物の処理に使用した該化合物を除去した後、処理後の凝集ゴムの洗浄処理を適宜実施しても良い。洗浄処理としては、上記と同様の方法が挙げられ、例えば、洗浄を繰り返すことで非ゴム成分を更に低減し、所望の含有量に調整すればよい。洗浄処理終了後、乾燥することにより、前記改質天然ゴムが得られる。なお、乾燥は特に限定されず、前述の手法などを採用できる。
【0068】
ゴム成分100質量%中の前記改質天然ゴムの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0069】
SBRとしては特に限定されず、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0070】
SBRの重量平均分子量は、好ましくは40万以上、より好ましくは80万以上であり、また、好ましくは100万以下、より好ましくは90万以下である。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0071】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0072】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0073】
フィラーとしては、カーボンブラック、シリカを用いることが好ましい。
【0074】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは110m/g以上、より好ましくは140m/g以上であり、また、好ましくは190m/g以下、より好ましくは180m/g以下である。NSAが上記範囲内のカーボンブラックは、補強性に優れるため、高速EBを顕著に向上できる。また、少量でも優れた補強性を発揮するため、減量しても、耐チッピング性を良好な水準に維持することができる。これにより、良好な耐チッピング性を維持しながら、低燃費性を改善することが可能となる。
なお、本発明において、カーボンブラックのNSAは、ASTM D4820-93に従って測定される値である。
【0075】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは45質量部以上であり、また、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。
【0076】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは90m/g以上、より好ましくは150m/g以上であり、また、好ましくは220m/g以下、より好ましくは200m/g以下である。NSAが上記範囲内のシリカは、補強性に優れるため、高速EBを顕著に向上できる。また、少量でも優れた補強性を発揮するため、減量しても、耐チッピング性を良好な水準に維持することができる。これにより、良好な耐チッピング性を維持しながら、低燃費性を改善することが可能となる。
なお、シリカのNSAは、ASTM D1993-03に準じて測定される値である。
【0077】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上であり、また、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0078】
本発明に係るゴム組成物には、上記成分以外にも、タイヤ工業において一般的に用いられている配合剤、例えば、シランカップリング剤、ワックス、酸化亜鉛、ステアリン酸、離型剤、老化防止剤、加硫促進剤、硫黄等の材料を適宜配合してもよい。
【0079】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッド等の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【実施例
【0080】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0081】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
改質天然ゴム(高純度天然ゴム)A~D:下記製造例1~4
NR:TSR20
SBR1:下記製造例5(Mw:58万)
SBR2:下記製造例6(Mw:50万)
SBR3:旭化成(株)製のT3830(Mw:100万)
BR:宇部興産(株)製のBR360B
カーボンブラック1:キャボットジャパン(株)製のN220(NSA:114m/g)
カーボンブラック2:三菱化学(株)製のカーボンブラック(NSA:181m/g)
シリカ1:Evonik社製のVN3(NSA:167m/g)
シリカ2:Evonik社製の9100Gr(NSA:212m/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン)(6PPD)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
加硫促進剤2:住友化学工業(株)製のソクシノールD
【0082】
以下、製造例1~4で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
フィールドラテックス:ムヒバラテックス社から入手したフィールドラテックス
エマールE-27C(界面活性剤):花王(株)製のエマールE-27C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効成分27質量%)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
Wingstay L(老化防止剤):ELIOKEM社製のWingstay L(ρ-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物)
エマルビンW(界面活性剤):LANXESS社製のエマルビンW(芳香族ポリグリコールエーテル)
タモールNN9104(界面活性剤):BASF社製のタモールNN9104(ナフタレンスルホン酸/ホルムアルデヒドのナトリウム塩)
Van gel B(界面活性剤):Vanderbilt社製のVan gel B(マグネシウムアルミニウムシリケートの水和物)
【0083】
<改質天然ゴムの製造>
(製造例1)
水 462.5gにエマルビンW 12.5g、タモールNN9104 12.5g、Van gel B 12.5g、Wingstay L 500g(合計1000g)をボールミルで16時間混合し、老化防止剤分散体を調製した。
【0084】
フィールドラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、該ラテックス1000gに、10%エマールE-27C水溶液25gと25%NaOH水溶液60gを加え、室温で24時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。次いで、老化防止剤分散体6gを添加し、2時間撹拌した後、更に水を添加してゴム濃度15%(w/v)となるまで希釈した。次いで、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0に調整した後、カチオン系高分子凝集剤を添加し、2分間撹拌し、凝集させた。これにより得られた凝集物(凝集ゴム)の直径は0.5~5mm程度であった。得られた凝集物を取り出し、2質量%の炭酸ナトリウム水溶液1000mlに、常温で4時間浸漬した後、ゴムを取出した。これに、水2000mlを加えて2分間撹拌し、極力水を取り除く作業を7回繰り返した。その後、水500mlを添加し、pH4になるまで2質量%ギ酸を添加し、15分間放置した。更に、水を極力取り除き、再度水を添加して2分間撹拌する作業を3回繰返した後、水しぼりロールで水を絞ってシート状にした後、90℃で4時間乾燥して固形ゴム(高純度天然ゴムA)を得た。
【0085】
(製造例2)
製造例1においてpH1になるまで2質量%のギ酸を添加したほかは、同様の手順で固形ゴム(高純度天然ゴムB)を得た。
【0086】
(製造例3)
市販のハイアンモニアラテックス〔マレイシアのムヒバラテックス社製、固形ゴム分62.0%〕を、0.12%のナフテン酸ソーダ水溶液で希釈して、固形ゴム分を10%にし、更に燐酸二水素ナトリウムを添加してpHを9.2に調整した。そしてゴム分10gに対して、蛋白質分解酵素(アルカラーゼ2.0M)を0.87gの割合で添加し、更にpHを9.2に再調整した後、37℃で24時間維持した。
次に、酵素処理を完了したラテックスに、ノニオン系界面活性剤〔花王社製の商品名エマルゲン810〕の1%水溶液を加えてゴム分濃度を8%に調整し、11,000r.p.m.の回転速度で30分間遠心分離した。次に、遠心分離により生じたクリーム状留分を、上記エマルゲン810の1%水溶液に分散して、ゴム分濃度が8%になるように調整した後、再度、11,000r.p.m.の回転速度で30分間遠心分離した。この操作を2回繰り返した後、得られたクリーム状留分を蒸留水に分散して、固形ゴム分60%の脱蛋白ゴムラテックスを調製した。
このラテックスに2質量%ギ酸をpH4になるまで添加し、更にカチオン系高分子凝集剤を添加して0.5~5mmのゴム粒を得た。これの水を極力取り除き、水をゴム分10gに対して50g添加の上、2質量%ギ酸をpH3になるまで添加した。30分後ゴムを引き上げ、クレーパーでシート化した後、90℃で4時間乾燥し、固形ゴム(高純度天然ゴムC)を得た。
【0087】
(製造例4)
製造例3において2質量%ギ酸をpH1になるまで添加したほかは、同様の手順で固形ゴム(高純度天然ゴムD)を得た。
【0088】
得られた固形ゴムについて、下記により評価し、結果を表1に示した。表1では、TSR20の評価結果も併記した。
【0089】
<ゴムのpHの測定>
得られたゴム5gを3辺の合計が5mm以下(約1~2×約1~2×約1~2(mm))に切断して100mlビーカーに入れ、常温の蒸留水50mlを加えて2分間で90℃に昇温し、その後90℃に保つように調整しながらマイクロ波(300W)を13分(合計15分)照射した。次いで、浸漬水をアイスバスで冷却して25℃とした後、pHメーターを用いて、浸漬水のpHを測定した。
【0090】
<窒素含有量の測定>
(アセトン抽出(試験片の作製))
各固形ゴムを1mm角に細断したサンプルを約0.5g用意した。サンプルをアセトン50g中に浸漬して、室温(25℃)で48時間後にゴムを取出し、乾燥させ、各試験片(老化防止剤抽出済み)を得た。
(測定)
得られた試験片の窒素含有量を以下の方法で測定した。
窒素含有量は、微量窒素炭素測定装置「SUMIGRAPH NC95A((株)住化分析センター製)」を用いて、上記で得られたアセトン抽出処理済みの各試験片を分解、ガス化し、そのガスをガスクロマトグラフ「GC-8A((株)島津製作所製)」で分析して窒素含有量を定量した。
【0091】
<リン含有量の測定>
ICP発光分析装置(P-4010、(株)日立製作所製)を使用してリン含有量を求めた。
【0092】
<ゲル含有率の測定>
1mm×1mmに切断した生ゴムのサンプル約70mgを正確に計り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(質量%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0093】
<耐熱老化性>
80℃で18時間処理した前後の固形ゴムのムーニー粘度ML(1+4)130℃をJIS K 6300:2001-1に準拠して測定し、上記式により耐熱老化性指数を算出した。
【0094】
【表1】
【0095】
<SBRの製造>
(製造例5)
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、ヘキサン、1,3-ブタジエン、スチレン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルを投入した。次に、n-ブチルリチウムをn-ヘキサン溶液として投入し、重合を開始した。撹拌速度を130rpm、反応器内温度を65℃とし、単量体を反応器内に連続的に供給しながら、1,3-ブタジエンとスチレンの共重合を3時間行った。重合反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥してSBR1を得た。
【0096】
(製造例6)
薬品の使用量を変更した点以外は製造例5と同様の手順により、SBR2を得た。
【0097】
<実施例及び比較例>
表2に示す配合処方に従って各成分を混練し、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を160℃の条件下で20分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に押出し成形し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、160℃の条件下で20分間加硫し、試験用タイヤを得た。
【0098】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0099】
<発熱性>
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定した。結果は、比較例の配合10を100として指数表示した。指数が大きいほど、発熱しにくく、低燃費性に優れることを示す。
【0100】
<耐チッピング性>
(高速EB)
加硫ゴム組成物からなるダンベル状3号形の試験片を用いて、JIS K 6251:2010に準じて、75℃、引張速度8.3m/秒の条件で引張試験を実施し、高速EB(%)を測定した。
(低速EB)
加硫ゴム組成物からなるダンベル状3号形の試験片を用いて、JIS K 6251:2010に準じて、75℃、引張速度500mm/分(8.3×10-3m/秒)の条件で引張試験を実施し、低速EB(%)を測定した。
(実車評価)
上記試験用タイヤを国産FF車に装着し、8000km走行した後のタイヤトレッド部のチッピング発生箇所をカウントした。結果は、比較例の配合10を100として指数表示した。指数が大きいほど、チッピング発生箇所が少なく、耐チッピング性に優れることを示す。
【0101】
<相関性>
上記で測定した高速EB、低速EBのそれぞれと、実車評価の指数とを変数とする散布図を作成した。そして、該散布図に近似曲線を追加し、得られた寄与率(R)に基づいて相関性を評価した(図1、2)。Rが0.7~1.0の範囲内であれば、2つの変数の相関性が高いことを意味する。
【0102】
【表2】
【0103】
表2より、高速EBが540%以上である実施例では、良好な耐チッピング性が得られた。また、低燃費性も良好であった。
【0104】
図1、2から、高速EBは、低速EBよりもRが高く、耐チッピング性と強く相関していることが分かる。
図1
図2