(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】下顎の動きを測定する装置および方法
(51)【国際特許分類】
A61C 19/04 20060101AFI20231106BHJP
A61C 19/045 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
A61C19/04 Z
A61C19/045
(21)【出願番号】P 2018545144
(86)(22)【出願日】2017-03-01
(86)【国際出願番号】 EP2017054762
(87)【国際公開番号】W WO2017149010
(87)【国際公開日】2017-09-08
【審査請求日】2020-02-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】102016103655.2
(32)【優先日】2016-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102017200515.7
(32)【優先日】2017-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518299747
【氏名又は名称】イグニデント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ペトラ イナ
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】井上 哲男
【審判官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-187708(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050543(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/198873(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/04-19/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対位置と相対運動の少なくとも一方を測定する装置(1)であって、
口外において前記上顎(OK)の側方または上方に配置可能であり、電磁測定場(5)を出射する送信器コイル(8)と、
前記電磁測定場(5)における位置と前記送信器コイル(8)に対する位置の少なくとも一方を特定する機能を少なくとも有するセンサとして構成されている少なくとも一つの下顎センサ(US1)と、
前記下顎センサ(US1)によって特定された位置に基づいて、前記相対位置と前記相対運動の少なくとも一方を特定する分析ユニット(3)と、
前記患者の総義歯の製造中における咬合平面の設定と顎運動記録のために前記下顎(UK)に配置される下顎咬合床と、
前記下顎咬合床に係留され、少なくとも一つの湾曲面領域を有し、
かつ前記下顎センサ(US1)を収容している少なくとも一つの下顎センサシューと、
を備えて
いる、
装置。
【請求項2】
前記電磁測定場(5)における位置と前記送信器コイル(8)に対する位置の少なくとも一方を特定する機能を少なくとも有するセンサとして構成されている少なくとも一つの上顎センサ(OS1)と、
前記総義歯の製造中における咬合平面の設定と顎運動記録のために前記上顎(OK)に配置される上顎咬合床と、
前記上顎咬合床に係留され、少なくとも一つの湾曲面領域を有し、
かつ前記上顎センサ(OS1)を収容している少なくとも一つの上顎センサシューと、
を備えて
いる、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記送信器コイルは、前記患者と当該患者が位置している測定空間の少なくとも一方に対して上方または斜め側方に配置されている、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記下顎センサ(US1)は、前記電磁測定場(5)と前記送信器コイル(8)の少なくとも一方に係る三つの並進自由度と二つまたは三つの回転自由度を特定する、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記上顎センサ(OS1)は、前記電磁測定場(5)と前記送信器コイル(8)の少なくとも一方に係る三つの並進自由度と二つまたは三つの回転自由度を特定する、
請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記下顎(UK)のデジタル三次元モデルを作成するデジタル化ユニット(9、10)を備えており、
前記下顎センサシューと前記下顎センサ(US1)の少なくとも一方は、前記デジタル三次元モデル内にモデル化されている、
請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記上顎(OK)のデジタル三次元モデルを作成するデジタル化ユニット(9、10)を備えており、
前記上顎センサシューと前記上顎センサ(OS1)の少なくとも一方は、前記デジタル三次元モデル内にモデル化されている、
請求項2に記載の装置。
【請求項8】
前記デジタル化ユニット(9、10)は、口内スキャナ(9)または口内カメラとして構成されている、
請求項6または7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の下顎の上顎に対する相対位置と相対運動の少なくとも一方を測定する装置に関連する。当該装置は、電磁測定場を発生する送信器コイル、および少なくとも一つのセンサを備えている。当該センサは、少なくとも下顎に接続されている。当該装置は、分析ユニットをさらに備えている。当該分析ユニットは、センサ信号に基づいて、上顎に対する下顎の相対位置と相対運動の少なくとも一方を特定する。本発明は、当該装置を用いる方法にも関連する。本発明は、当該方法により測定された相対運動をシミュレートおよび転写する装置、および少なくとも一つの上顎センサと少なくとも一つの下顎センサの少なくとも一方を保持するユニットにも関連する。
【背景技術】
【0002】
患者の下顎および上顎のデジタル印象採得あるいはフィジカル印象採得は、歯科技術に係る非常に多様な目的に必要とされている。フィジカル印象採得の一典型例として、印象装置が使用される。印象装置(特に印象トレイ)においては、軟組織を含む上歯または軟組織を含む下歯の印象が印象材に押し付けられる。口腔内スキャナとデジタル画像処理により、上歯と下歯のデジタル印象を取得することも可能である。
【0003】
しかしながら、上顎または下顎の印象を作製するための両手法は、それぞれに制約を有している。咬合(特に咬頭嵌合)も上顎に対する下顎の動きも取得され得ない。他方、例えば義歯の製造時には、この上顎に対する下顎の動きも考慮する必要がある。そのため、下顎、上顎、および顎関節の間の関係が、顔弓などを用いて測定され、デジタル(仮想の)咬合器または現実の咬合器へ転写される。しかしながら、これらの手法は、動きの測定が間接的であるがゆえに比較的不正確である。よって、当該動きは、推定に基づいてのみシミュレートされうる。
【0004】
下顎に対する上顎の歯面の動きを三次元的に分析する方法と装置が、独国特許出願公開第10218435号明細書に記載されている。当該装置は、上顎センサを備えている。上顎センサは、顔弓状に配置されており、上顎に対して固定的に接続された咬合床の動きを記録する。当該装置は、下顎センサをさらに備えている。下顎センサは、アクセサリを介して下顎と機械的に接続固定されている。上顎に対する下顎の位置は(結果として運動も)、上顎と下顎に対する各センサのリファレンシングを通じて上顎センサと下顎センサの信号を分析することによって記録されうる。
【0005】
独国特許出願公開112005000700T5号明細書は、上顎に対する下顎の位置を測定する装置を開示している。当該装置においては、磁場センサと磁場発生器が患者の口内に配置されて位置を特定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上顎に対する下顎の相対位置と相対運動の少なくとも一方を、より高精度に測定する装置と方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1に記載された特徴を有する装置、請求項19に記載された特徴を有する方法、測定された相対運動をシミュレートおよび転写するための請求項22に記載された装置、および少なくとも一つの上顎センサ(OS1)と少なくとも一つの下顎センサ(US1)の少なくとも一方を保持するための請求項23に記載されたユニットによって達成される。本発明に係る好適あるいは有利な実施形態は、従属請求項、以降の説明、および添付の図面により示される。
【0008】
本発明は、患者の上顎に対する下顎の相対位置と相対運動の少なくとも一方を測定するのに適した装置と測定するように構成された装置の少なくとも一方を対象とする。下顎は、無歯であることが好ましいが、一本だけ歯を備えていてもよいし、複数の歯を備えていてもよいし、全ての歯を備えていてもよい。これに加えてあるいは代えて、上顎は、無歯でもよいし、一本だけ歯を備えていてもよいが、複数の歯(特に全ての歯)を備えていることが好ましい。当該装置は、患者の上顎に対する下顎の相対位置を特定する目的に使用される。そのような相対位置が時系列で複数記録されると、当該装置は、患者の上顎に対する下顎の相対運動を特定する目的にも使用されうる。
【0009】
上記の装置は、電磁測定原理に基づいている。よって、上記の装置は、単一あるいは少なくとも一つの送信器コイルを備えている。送信器コイルは、電磁測定場を出射あるいは生成するように構成されている。送信器コイルは、電磁測定場が患者の頭(特に下顎と上顎の領域)に重なるように、あるいは重なることが可能なように配置されることが好ましい。
【0010】
上記の装置は、単一あるいは少なくとも一つの下顎センサを備えている。下顎センサは、口内(すなわち口腔内)に配置される。具体的には、下顎センサは、全体が患者の口腔内に配置される。下顎センサは、下歯と下顎アクセサリのいずれかに配置されうる。下顎アクセサリは、特に下歯が存在しない場合、所望の位置にインプラントされる。
【0011】
上記の装置は、単一あるいは少なくとも一つの上顎センサを備えている。上顎センサは、口内(すなわち口腔内)に配置される。具体的には、下顎センサは、全体が患者の口腔内に配置される。下顎センサと同様に、上顎センサは、上歯と上顎アクセサリのいずれかに配置されうる。上顎アクセサリは、特に上歯が存在しない場合、所望の位置にインプラントされる。
【0012】
下顎は動くので、メトロジー的に重要である。よって、下顎センサは、相対運動を記録する。上顎センサは、下顎センサに対する基準センサを形成することが好ましい。加えて、上顎センサは、コンピュータプログラムを通じた演算により、頭の動きを排除しうる。センサを不在にもできるので、下顎センサは、上顎に基準センサがなくても相対運動を記録できる。
【0013】
上顎センサと下顎センサ(以降まとめてセンサとも称される)は、それぞれ測定場における位置と送信器コイルに対する位置の少なくとも一方(特に絶対位置)を特定する位置センサとして構成される。具体的には、センサは、少なくとも三つの並進自由度を特定するように構成される。
【0014】
電磁測定場(特に変動測定場)における位置を特定できるそのような位置センサは、例えば国際公開第97/36192号明細書や欧州特許第1303771号明細書によって公知である。それらの開示内容は、本出願の一部を構成するものとして援用される。
【0015】
さらに、上記の装置は、分析ユニットを備えている。具体的には、分析ユニットは、デジタルデータ処理ユニット(例えばコンピュータ、マイクロコントローラなど)として構成されることが好ましい。分析ユニットは、センサによって特定された位置に基づいて、相対位置と相対運動の少なくとも一方を特定する。センサがそれぞれ上顎または下顎に固定接続された後、分析ユニットによって位置が取得されうる。当該位置(具体的には上顎と下顎の間の相対位置と相対運動の少なくとも一方)は、提供されたデータから容易に特定可能である。センサの位置は、別のセンサユニット(プローブ)によって定められることが好ましい。これにより、センサの位置が分析ユニットによって参照可能になる。
【0016】
この場合、センサが口内に配置されており、測定結果を改悪しうる付属物や他の装置を必要としないので有利である。上記の位置は、最も正確であるセンサの場所(すなわち下歯または上歯)において直接的に記録される。歯が存在しない場合、上記の位置は、隣接配置されているアクセサリを介して記録される。一方では、特に磁場センサとして構成されたセンサに係るメトロジーが設定されているので、大きな測定誤差が生じないことも期待される。
【0017】
したがって、上記の装置は、上顎に対する下顎の相対位置と相対運動の少なくとも一方が非常に高い正確性と低い構成コストで記録されうる測定システムを実現する。
【0018】
上顎センサ(OS1)は、口内において上歯(O1~O8)または上顎(OK)の上顎アクセサリに配置されているか配置可能であることが好ましい。
【0019】
無歯顎の場合、上顎(OK)の上顎アクセサリと下顎(UK)の下顎アクセサリは、それぞれ垂直位置(顆位置)を設定するための咬合床として構成されることが好ましい。
【0020】
この場合、咬合床は、上顎と下顎の少なくとも一方に配置可能である。咬合床は、U字形状であることが好ましい。
【0021】
咬合床は、中央に配置された少なくとも一本のピンを備えていることが好ましい。少なくとも一本のピンは、ねじ穴を有するボールを備えており、少なくとも上下方向に調節可能に配置されている。
【0022】
ボールは、顎によって前記咬合床上に保持され、関節のように可動である。
【0023】
この場合、ボールは、板材に内蔵されたフットに対して固定的に接続される。上下方向の高さは、文献で知られている平均値に基づいて歯科技工士によって設定される。例えば、上顎OKは18~20mmであり、下顎UKは16~18mmである。
【0024】
ボールは、咬合床を上顎における鼻聴道線と瞳孔線上に設置可能にする。続いて、六角レンチを用いて下顎咬合床がロックされる。この場合、下顎内のボールは、患者が位置を見つけるまで自由可動状態が維持される。その後、下顎咬合床のねじが締められる。
【0025】
最後に、シリコンを用いて、二つの咬合床が咬合状態で相互に固定される。
【0026】
本発明の範囲において、送信器コイルが口外に(特に患者の頭の隣または上方に)配置されることが提案される。よって、測定場は患者の頭を通過する。具体的には、送信器コイルは、不動に配置される。これに加えてあるいは代えて、送信器コイルは、患者から独立して配置される。このように送信器コイルを患者から独立して不動に配置することにより、測定中に送信コイルが動かず非常に正確な基準を形成できるという利点がある。
【0027】
本発明は、患者の口腔内に収容される必要がなく、配置に係る空間的制約がほとんどない口腔外に配置可能な送信器コイルによって生成された磁場は、より均一に印加されるという考察に基づいている。また、配置に係る空間的制約なしに、測定場のパワーを自由に、あるいはほぼ自由に選択できる。これらの利点は、より安定した測定場を結果としてもたらすことになり、ひいてはより正確な測定結果をもたらす。送信器コイルは、交流電流またはパルス状の直流電流を介して測定場を生成できる。
【0028】
本発明の好適な一実施形態においては、送信器コイルは、患者と当該患者が位置している測定空間の少なくとも一方に対して上方または斜め側方に配置される。具体的には、送信器コイルから放射された測定場は、患者の頬を通過する。この配置は、測定場が通過するのを患者の組織部分のみにできる利点がある。
【0029】
本発明の好適な一実施形態においては、センサは、測定場における少なくとも二つの回転自由度(好ましくは三つの回転自由度の全て)または六つの自由度(三つの並進自由度と三つの回転自由度)を特定するように構成される。具体的には、センサは、五自由度センサとして、あるいは六自由度センサとして構成される。五自由度センサとして構成される場合、三つの並進自由度の全てと二つの回転自由度が取得されうる。六自由度センサとして構成される場合、三つの並進自由度の全てと三つの回転自由度の全てが取得されうる。回転自由度が取得されることにより、改善された測定が行なわれ、装置の測定精度がさらに向上されうる。一実施形態例においては、センサは、二つの五自由度センサにより構成される(一つの六自由度センサに相当する)。したがって、下顎の二つの測定点と上顎の二つの測定点(すなわち四つの測定点)がx、y、z方向について記録可能であり、これらに基づいて相対運動が特定される。
【0030】
本発明の好適かつ具体的な実施形態においては、二つの五自由度センサまたは一つの六自由度センサが、それぞれ上顎と下顎に配置される。例えば、一つの六自由度センサが上顎に配置され、一つの六自由度センサが下顎に配置される。
【0031】
本発明の好適な一実施形態においては、一つのセンサ(具体的には六自由度センサ)が下顎と上顎の各々の小臼歯部において斜めに対向するように配置される。下顎センサが右側に配置されると、上顎センサは左側に配置される。下顎センサが左側に配置されると、上顎センサは右側に配置される。この配置により、特に側方に配置された送信器コイルとの協働により、測定精度はさらに改善される。
【0032】
本発明の好適な一実施形態においては、センサと歯の間の最小距離は、0.5cm未満であることが好ましく、特に0.3cm未満であることが好ましい。センサが歯の付近に配置されることにより、両者が離間していることに起因する測定エラーが回避される。
【0033】
本発明の好適な一実施形態においては、上記の装置は、各顎について一つの保持ユニットを備えている。保持ユニットは、下顎と上顎の少なくとも一方に係留されてセンサを収容する。つまり、保持ユニットは、歯とセンサの間の機械的接続を形成する。あるいは、センサは、顎と当該顎の歯の少なくとも一方に接合する材料によってのみ係留されてもよい。上顎(OK)と下顎(UK)の少なくとも一方における保持ユニットは、歯に接着されたセンサシューとして形成されることが特に好ましい。
【0034】
本発明に係る保持ユニットは、少なくとも一つの上顎センサ(OS1)と少なくとも一つの下顎センサ(UK1)の少なくとも一方のためのものであり、特に患者の上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対位置と相対運動の少なくとも一方を測定する上記の装置に使用されるためのものであり、上顎(OK)と下顎(UK)の少なくとも一方に係留可能である。
【0035】
保持ユニットは、センサシューとして構成されることが好ましい。センサシューは、歯、下顎アクセサリ、下顎(UK)の咬合床、上顎アクセサリ、または上顎(OK)の咬合床に接着されうる。
【0036】
センサシューは、少なくとも一つの湾曲面領域と少なくとも一つの位置マーキングの少なくとも一方を有している。
【0037】
位置マーキングは、歯とは反対側に面している湾曲面領域に窪みまたは凹部として形成されることが好ましい。
【0038】
より好ましくは、位置マーキングは、円錐形状の凹部として形成される。円錐形状の頂点は、上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対位置と相対運動の少なくとも一方とセンサの関係についてのゼロ点を定める。
【0039】
この場合、位置マーキングの頂点は、センサシューの凹部の周りの平坦面領域に対して直接的な関係を持ち、上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対位置と相対運動の少なくとも一方に対してセンサ位置が定められる。
【0040】
位置マーキングは、センサシューの中央に配置されることが好ましい。
【0041】
センサシューは、少なくとも一本の歯に面する少なくとも一つの湾曲面領域を有し、上顎センサ(OS1)と下顎センサ(US1)の少なくとも一方を連結収容するように構成される。
【0042】
好適な一実施形態においては、上記の装置は、上顎(OK)と下顎(UK)の少なくとも一方のデジタル三次元モデルを作成するデジタル化ユニットを備えている。保持ユニット、上顎センサ(OS1)、および下顎センサ(US1)の少なくとも一つは、デジタル三次元モデル内にモデル化されている。例えば、デジタル化ユニットは、口内スキャナまとして構成されうる。本発明の別実施形態においては、患者の上顎と下顎もまた、機械的あるいはフィジカルに印象採得され、続いて3Dスキャナによりデジタル化される。しかしながら、両実施形態において、保持ユニットとセンサの少なくとも一方について印象採得とデジタル化の少なくとも一方がなされるので、センサと保持ユニットの少なくとも一方、上顎、および下顎の間の相対位置が疑いなく特定される。あるいは、別のセンサユニット(プローブ)が使用される。この場合、口内のセンサの位置が特定され、デジタル化ユニットへ転送されうる。具体的には、センサユニットは、センサチップである。センサチップは、少なくとも三つの再現可能な点の各々において記録される位置確認点を用いる。これらの点は、センサの基準となる。対応するソフトウェアは、接着されたセンサの位置を演算する。
【0043】
このようにして、後続するデータ処理の間、上顎に対する下顎の動きとしてのセンサ同士の相対位置および相対運動を特定できるだけでなく、上歯と下歯の輪郭同士のモデル化もできる。
【0044】
本発明は、前述の装置を用いて患者の上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対位置と相対運動の少なくとも一方を特定する方法も対象とする。当該方法においては、センサが下顎と上顎に配置され、当該センサのセンサ信号が記録される。続く工程においては、センサ信号に基づいて、上顎(OK)と下顎(UK)の相対位置と相対運動の少なくとも一方の特定がなされる。
【0045】
上記の方法は、保持ユニットとセンサの少なくとも一方がモデル化されるように上顎(OK)と下顎(UK)のデジタル三次元モデルを作成するステップを含みうる。続くステップにおいて、具体的には分析ユニットにおいて、センサのデータが上顎および下顎のモデルと統合される。これにより、上顎と下顎のモデルが、互いの様々な相対位置と相対運動の少なくとも一方において形成される。具体的には、モデルは、運動シーケンスを含む。運動シーケンスは、開口、閉口、咀嚼などの複数の複雑かつ独立した運動シーケンスを含む。このようにして上顎に対する下顎の移動経路が特定されうる。
【0046】
上記の方法で測定された患者の上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対運動のシミュレーションと転写を行なう本発明に係る装置は、上顎(OK)と下顎(UK)の少なくとも一方のデジタル三次元モデルを受信する受信器を備えている。保持ユニット、センサシュー、およびデータ受信センサの少なくとも一つが、デジタル三次元モデル内に配置される。
【0047】
本発明に係る別の特徴、利点、および効果は、本発明の好適な実施形態例に係る以下の説明と添付の図面により示される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図2】本発明の一実施形態例に係る患者の上顎に対する下顎の相対位置と相対運動の少なくとも一方を測定する装置のブロック図である。
【
図4】上顎または下顎用のU字状咬合床を示す斜視図である。
【
図5】上顎または下顎用のU字状咬合床を示す斜視図である。
【
図6】上顎または下顎用のU字状咬合床を示す斜視図である。
【
図7】上顎または下顎用のU字状咬合床を示す斜視図である。
【
図8】上顎または下顎用のU字状咬合床を示す斜視図である。
【
図9】本発明に係るセンサシューを模式的に示す側面図である。
【
図10】本発明に係るセンサシューを模式的に示す上面図である。
【
図11】本発明に係るセンサシューを模式的に示す斜視図である。
【
図13】運動シミュレータを備えた転写テーブルを示している。
【
図14】運動シミュレータを備えた転写テーブルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1aと
図1bは、それぞれ上顎OK(
図1a)と下顎UK(
図1b)を非常に模式的に平面視で示している。各顎には、16個の歯が示されている。上顎OKの歯は、門歯O1、O2から小臼歯O4、O5を経由して親知らずO8に至るまで、連番が付されている。下顎UKの歯も同様にして、門歯U1から小臼歯を経由して親知らずU8に至るまで連番が付されている。
【0050】
センサOS1は、上顎OKに配置されている。別のセンサが設けられてもよい。上顎センサOS1は、小臼歯O4と小臼歯O5の少なくとも一方に固定される。同様に、下顎センサUS1は、下顎UKに配置されている。下顎センサUS1は、小臼歯U4と小臼歯U5の少なくとも一方に固定される。別のセンサが上顎と下顎の少なくとも一方に設けられてもよい。
【0051】
平面図から判るように、センサOS1またはセンサUS1は、それぞれ歯O4または歯U4上に直接的に配置されている。センサと歯の間の距離は、それぞれ0.5cm未満である。具体的には、センサは、歯と隣接するように位置決めされる。センサOS1、US1は、ともに口内(すなわち患者の口腔内)に配置される。各センサは、各歯に固定接続されるので、各歯に対する(ひいては上顎OKまたは下顎UKに対する)位置基準を形成する。
【0052】
二つのセンサは、顎UK、OKの反対側に位置する半分領域にそれぞれ配置される。すなわち、一方のセンサは顎UK、OKの左側領域に配置され、他方のセンサは、右側領域に配置される。
【0053】
図2は、上顎OKに対する下顎UKの相対位置と相対運動の少なくとも一方を測定する装置1を模式的に示すブロック図である。相対位置と相対運動の少なくとも一方は人の自然な顎の運動について測定される。例えば、咀嚼中の顎の運動、開口中の顎の運動、閉口中の顎の運動、左側方への顎の運動、右側方への顎の運動、下顎を突出させる運動、下顎を後退させる運動が記録される。センサOS1を備えた上顎OKとセンサUKを備えた下顎UKが、図の左側において非常に模式的に(ここでは正面視で)例示されている。各センサは、ケーブルユニット2を介して分析ユニット3に接続されている。センサ信号は、各センサからケーブルユニット2を介して分析ユニット3へ供給される。
【0054】
装置1は、送信器コイル8を備えている。送信器コイル8は、患者の頭4(四角形で非常に模式的に示されている)に隣接するように配置される。送信器コイル8は、電磁測定場5を発生する。電磁測定場5は、患者の頭4を通過してセンサOS1、US1によって検知される。
【0055】
各センサは、磁場センサとして構成され、電磁測定場5における少なくとも一つの絶対位置の取得を可能にする。送信器コイル8に対するセンサの絶対位置は、センサ信号に基づいて判断されうる。絶対位置は、例えば送信器コイル8に固定されたXYZ座標からなる座標系Kに基づいて出力されうる。各センサは、絶対位置(すなわち三つの並進自由度)に加えて、別の自由度(具体的には回転自由度)を取得してもよい。本実施形態例におけるセンサUS1、OS1の各々は、6DOFセンサとして、すなわち三つの並進自由度と三つの回転自由度で電磁測定場を記録できる磁場センサとして構成される。センサ信号は、ケーブルユニット2を介して分析ユニット3へ中継され、更なる処理に供される。分析ユニット3は、例えばコンピュータなどのデジタルデータ処理ユニットとして構成される。
【0056】
分析ユニット3は、記憶ユニット6を有している。記憶ユニット6には、上顎OKと下顎UKの3Dモデルが記憶されている。センサOS1、US1は、それぞれ当該3Dモデル内に取り込まれてモデル化されている。送信器コイル8に対する位置がセンサを通じて検知されると、上顎OKと下顎UKの3Dモデルは、互いに正しい位置へ仮想的に配置されうる。下顎UKと上顎OKの3Dモデルが相互に正しい位置に配置された全体モデルがこうして形成されると、互いの相対位置が特定される。上顎OKと下顎UKの相対運動もまた、当該全体モデルによって可視化されうる。当該全体モデルは、インターフェース7を介して出力されうる。当該全体モデルは、例えば仮想咬合器やCADシステムにおいてさらなる使用に供されうる。特に、装置1は、運動シーケンスの出力と可視化(映画のように)を可能にする。運動シーケンスは、複数の複雑かつ独立した運動シーケンス(開口、閉口、咀嚼など)を含む。こうして、上顎に対する下顎の運動経路が特定されうる。
【0057】
上顎と下顎の各3Dモデルは、例えば口内スキャナ9を通じて提供されうる。口内スキャナ9は、センサを用いて上顎OKと下顎UKを記録する。あるいは、上顎OKと下顎UKの印象とセンサの印象が、3Dスキャナ10を通じてデジタル化されることにより、3Dモデルが取得される。
【0058】
測定構成が
図3に非常に模式的に示されている。送信器コイル8は、患者の頭4の外側(一方の側方)に配置されている。したがって、測定場5は、側方から頭4を照射する。送信器コイル8は、患者に固定されてもよいし、患者から離れて配置されてもよい。測定体積は30cm
3から50cm
3である。
【0059】
無歯患者の上顎または下顎用のU字状の咬合床の様々な斜視図が
図4から
図7に示されている。加えて、
図8は、咬合床を有するディスタンシングユニットが詳細に示されている。ディスタンシングユニットは、上顎と下顎の少なくとも一方の総義歯の製造中における咬合平面の設定と顎運動記録のために使用される。
【0060】
ディスタンシングユニットは、複数の咬合床を備えている。当該咬合床の一つは下顎に配置され、当該咬合床の別の一つは上顎に配置される。
【0061】
ボール付きのピンで上下方向および傾きを設定することにより、ディスタンシングユニットは、両顎の正しい相対位置と傾きを特定し、義歯製作用の咬合平面の測定を容易にできる。
【0062】
あるいは、ディスタンシングユニットは、複数のピンを備えうる。複数のピンは、咬合床の後方と側方の少なくとも一方に配置され、ボールジョイントを備えていない。
【0063】
咬合床は、解剖的に正確な顆頭位置を(それが既に失われていたとしても)患者ごとに見つけることを可能にするので、特に有利である。
【0064】
さらに、マーカを装着するユニットを使用して無歯患者の下顎記録が作成されうる。
【0065】
各咬合床は、中央に配置された少なくとも一つのピンを備えている。少なくとも一つのピンは、ねじ穴が形成されたボールを備えている。ピンは、少なくとも上下方向に調節が可能に構成される(
図8参照)。咬合床は、メタルフット、ピン、ボールヘッド、およびプラスチック板から構成される。プラスチック板は、六角ソケットを用いてボールヘッドにねじ止めされうる。ピンボールベースは、メタルフットを介して上顎と下顎それぞれのトレイ材料(プラスチック)内の模型に固定される。この場合、二つの咬合床は、上顎と下顎の平均垂直高さにセットされ、患者の口内で互いに自由に動く。まず上顎床が患者の口内で鼻聴道線と瞳孔線に揃えられ、ねじでロックされる。続いて当該患者が咬合すると、下顎床は、歯科医の助けなしに自身で向きを変える。その後、歯科医は、咬合床同士をエンクリプトできる。
【0066】
図9から
図11は、センサシューを模式的に側面視、平面視、および斜視で示している。センサシューは、各歯、下顎(UK)のアクセサリ、または上顎(OK)のアクセサリに係止可能である。センサシューの形状は、僅かに湾曲したソールを有するように選ばれる。これにより、歯に対して容易に接着可能であり、空間的に制限のある条件下でも使用されうる。
【0067】
位置マーキングは、センサシューの湾曲面領域に窪みや凹部として形成される。当該領域は、歯と反対側に面している。具体的には、位置マーキングは、円錐形状の凹部として形成される。よって、その頂点は、上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対位置と相対運動の少なくとも一方とセンサの関係についてのゼロ点を定める。位置マーキングの頂点は、センサシューの凹部の周りの平坦面領域に対して直接的な関係を持つ。すなわち、上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対位置と相対運動の少なくとも一方に対してセンサ位置が定められる。
【0068】
図12は、適当な転写テーブルを示している。
図13と
図14は、運動シミュレータとしての咬合器を示している。咬合器は、先に測定された患者の上顎(OK)に対する下顎(UK)の相対運動の転写およびシミュレーションに使用される。
【0069】
磁場発生器とセンサシューまたはマーカは、対応するソフトウェアによって口内の位置を転写テーブルへ転写するために使用される。磁場発生器は、ワークテーブル上に配置される。転写テーブルにおけるセンサシューまたはマーカの位置は、当該ソフトウェアを介して患者の口内位置と比較される。転写テーブルにおける石膏模型の正しい位置は、当該ソフトウェアを介して関連付けられたセンサシューまたはマーカによって示される。
【0070】
咬合器あるいは運動シミュレータは、口内で記録された運動をシミュレートする。患者あるいは総義歯装着者の治療位置を設定可能にするために、マーカは、運動シミュレータに装着されてもよい。この場合、当該マーカは、ソフトウェアを通じて操作される。
【0071】
マイクロメータねじを介して、x軸、y軸、およびz軸が調節されうる。これにより、治療位置がソフトウェア上で定義・設定されうる。コンダイル間の距離は人それぞれで異なるので、コンダイルボックスとコンダイル軸も調節可能である。
【0072】
運動シーケンスは、運動シミュレータによって完全に再現されるので、運動経路は、義歯分類に基づいて取得された下顎運動と比較される。
【0073】
患者の煩わしさが完全に回避され、初めての下顎運動記録中において咀嚼を含む自由な運動が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1:装置、2:ケーブル接続、3:分析ユニット、4:頭、5:電磁測定場、6:記憶ユニット、7:インターフェース、8:送信器コイル、9:口内スキャナ、10:3Dスキャナ、D:三角形、K:座標系、O1~O8:歯、OD:三角形、OE:平面、OK:上顎、OS1:上顎センサ、U1~U8:歯、UK:下顎、US1:下顎センサ