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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】固体電解質及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20231106BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231106BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231106BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20231106BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01B1/06 A
H01G11/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019066159
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167025
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智志
(72)【発明者】
【氏名】白石 晏義
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正博
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/193630(WO,A1)
【文献】特表2022-518443(JP,A)
【文献】特開2017-218589(JP,A)
【文献】特開2014-056822(JP,A)
【文献】特表2014-504788(JP,A)
【文献】特開2017-091813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01B 1/00- 1/24
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔粘性結晶と未架橋のポリマーと電解質とを含み、
前記ポリマーは、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエステル、ポリエチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネートの誘導体、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、及びポリトリメチレンカーボネートとポリカーボネートの共重合体のうちの1種類又は2種類以上であり、前記柔粘性結晶に対して3wt%以上50wt%以下の割合で含まれ、
前記柔粘性結晶は、NHアニオンの2つの水素原子がパーフルオロアルキルスルホニル基、フルオロスルホニル基又はこれらの両方で置換された各種アミドアニオン、及び(パーフルオロアルキルスルホニル)フルオロアセトアミドアニオン、及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニドアニオン、及びヘキサフルオロホスフェートアニオン、及びヘキサフルオロホスフェートアニオンの一部のフッ素原子がフルオロアルキル基で置換された各種パーフルオロアルキルホスフェートアニオン、及びテトラフルオロボレートアニオン、及びテトラフルオロボレートアニオンの一部のフッ素原子がフルオロアルキル基で置換された各種パーフルオロアルキルボレートアニオンの群から選ばれるアニオンを含むこと、
を特徴とする固体電解質。
【請求項2】
前記各種アミドアニオンは、下記化学式(A)で表される各種ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、及び各種N-(フルオロスルホニル)-N-(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン、下記化学式(B)で表されるN,N-ヘキサフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドアニオン、並びに下記化学式(C)で表されるN,N-ペンタフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドの群から選ばれるアニオンであり、
前記各種パーフルオロアルキルホスフェートアニオンは、下記化学式(D)で表されるトリス(フルオロアルキル)トリフルオロホスフェートアニオンであり、
前記各種パーフルオロアルキルボレートアニオンは、下記化学式(E)で表されるモノ(フルオロアルキル)トリフルオロボレートアニオン、及びビス(フルオロアルキル)フルオロボレートアニオンの群から選ばれるアニオンであること、
を特徴とする請求項1記載の固体電解質。
【化1】
[式中、n及びmは0以上の整数]
【化2】
【化3】
【化4】
[式中、qは1以上の整数]
【化5】
[式中、2つのC 2s+1 基のうち、一方の基のsが0であり、他方の基のsが1以上の整数であるか、または両方の基のsが同一又は異なる1以上の整数
【請求項3】
電気二重層キャパシタに用いられる固体電解質であって、
前記電解質は、リチウムイオンを有するイオン性塩を除く、前記柔粘性結晶にドープされたイオン性塩であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の固体電解質。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の固体電解質と、
前記固体電解質を挟んで対向する両電極と、
を備えること、
を特徴とする蓄電デバイス。
【請求項5】
前記両電極の一方又は両方は、多孔質材料により成る活物質層と集電体を有する分極性電極であり、
前記分極性電極と前記固体電解質との境界面に電気二重層が形成されること、
を特徴とする請求項4記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔粘性結晶を含む固体電解質及びこの固体電解質を用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池、電気二重層キャパシタ、燃料電池、太陽電池その他の蓄電デバイスは、電解質層を挟んで正負の電極を対向させて概略構成される。リチウムイオン二次電池は、ファラデー反応電極を有し、電解質層中のリチウムイオンを電極に可逆的に挿入及び脱離させることにより電気エネルギーを充電及び放電する。電気二重層キャパシタは、電極の一方又は両方が分極性電極であり、分極性電極と電解質層との界面に形成される電気二重層の蓄電作用を利用して充電及び放電する。
【0003】
蓄電デバイスの電解質層として固体電解質層が選択可能である。固体電解質層は水和劣化等の電極を化学反応させる領域が電極近傍のみに限定される。そのため、電解液と比べると漏れ電流が少なく、自己放電が抑制される。また電解液と比べると電極との化学反応に起因するガス発生量も少なくなり、開弁や液漏れの虞も低減される。
【0004】
固体電解質としては、LiS・P等の硫化物系の固体電解質、LiLaZr12等の酸化物系の固体電解質、例えばN-エチル-N-メチルピロリジニウム(P12)をカチオンとしてビス(フルオロスルホニル)アミド(FSA)をアニオンとする柔粘性結晶系の固体電解質、ポリエチレングリコール等のポリマー系の固体電解質が知られている。尚、二次電池は、選択した母相に電解質としてリチウムイオンが必要に応じてドープされ、電気二重層キャパシタは、選択した母相に電解質として例えばTEMABFが必要に応じてドープされる。
【0005】
柔粘性結晶は有機溶媒に可溶である。一方、硫化物系及び酸化物系は不溶性である。従って、柔粘性結晶を固体電解質又は固体電解質の母相に採用する場合、柔粘性結晶のアニオン成分とカチオン成分、またはこれらの塩を溶媒に溶かし、電極にキャストするという製造方法が採用可能となる。そのため、柔粘性結晶系の固体電解質には、硫化物系及び酸化物系と比べると、電極との密着性が向上し、また電極の活物質相が多孔質構造であれば、その構造内に入り込み易いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2014-504788号公報
【文献】特開2017-91813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、柔粘性結晶系の固体電解質に対しては、硫化物系及び酸化物系と比べると、2~3桁以上のイオン伝導度の低さが指摘されている。例えば、N,N―ジエチルピロリジニウムカチオンとビス(フルオロスルホニル)アミドアニオンによりなる柔粘性結晶を含む固体電解質は、25℃環境下において、1×10-5S/cmオーダーのイオン伝導度であるとの報告がある。また、N,N―ジメチルピロリジニウムカチオンとビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオンによりなる柔粘性結晶を含む固体電解質は、1×10-8S/cmオーダーのイオン伝導度であるとの報告がある。
【0008】
これに対し、例えばLiS・Pの固体電解質であると、イオン伝導度は1×10-2S/cmオーダーであると報告されている。また例えばLiLaZr12の固体電解質であると、イオン伝導度は1×10-3S/cmオーダーであると報告されている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、高いイオン伝導度を有する柔粘性結晶系の固体電解質と当該固体電解質を用いた蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らの鋭意研究の結果、柔粘性結晶に未架橋のポリマーを添加して固体電解質とすると、その固体電解質のイオン伝導度は向上するとの知見が得られた。柔粘性結晶を構成するカチオン及びアニオンは、柔粘性結晶を構成可能であれば、即ち使用所望温度範囲でイオン液体とならずに固体状態であれば、公知の何れであってもイオン伝導度が向上する。
【0011】
本発明は、この知見に基づきなされたものであり、上記課題を解決すべく、本発明に係る固体電解質は、柔粘性結晶と未架橋のポリマーと電解質とを含むこと、を特徴とする。
【0012】
前記ポリマーは、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエステル、ポリエチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネートの誘導体、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート又はポリトリメチレンカーボネートとポリカーボネートの共重合体のうちの1種類又は2種類以上であってもよい。
【0013】
前記柔粘性結晶は、NHアニオンの2つの水素原子がパーフルオロアルキルスルホニル基、フルオロスルホニル基又はこれらの両方で置換された各種アミドアニオン、及び(パーフルオロアルキルスルホニル)フルオロアセトアミドアニオン、及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニドアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオンの一部のフッ素原子がフルオロアルキル基で置換された各種パーフルオロアルキルホスフェートアニオン、及びテトラフルオロボレートアニオン、テトラフルオロボレートアニオンの一部のフッ素原子がフルオロアルキル基で置換された各種パーフルオロアルキルボレートアニオンの群から選ばれるアニオンを含むようにしてもよい。
【0014】
前記各種アミドアニオンは、下記化学式(A)で表される各種ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、及び各種N-(フルオロスルホニル)-N-(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン、下記化学式(B)で表されるN,N-ヘキサフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドアニオン、並びに下記化学式(C)で表されるN,N-ペンタフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドの群から選ばれるアニオンであり、前記各種パーフルオロアルキルホスフェートアニオンは、下記化学式(D)で表されるトリス(フルオロアルキル)トリフルオロホスフェートアニオンであり、前記各種パーフルオロアルキルボレートアニオンは、下記化学式(E)で表されるモノ(フルオロアルキル)トリフルオロボレートアニオン、及びビス(フルオロアルキル)フルオロボレートアニオンの群から選ばれるアニオンであるようにしてもよい。
【0015】
【化1】
[式中、n及びmは0以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。]
【0016】
【化2】
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
[式中、qは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。]
【0019】
【化5】
[式中、sは0以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。]
【0020】
尚、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニドアニオンは、下記化学式(F)によって表される。
【化6】
【0021】
この固体電解質を用いた蓄電デバイスも本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、柔粘性結晶を用いた固体電解質のイオン伝導度が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施する形態について説明する。なお、本発明は、如何に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0024】
(固体電解質)
固体電解質は、蓄電デバイスの正負電極間に介在し、主として正負電極にイオンを伝導する。蓄電デバイスは、電気エネルギーを充放電する受動素子であり、例えばリチウムイオン二次電池及び電気二重層キャパシタ等である。リチウムイオン二次電池は、ファラデー反応電極を有し、固体電解質中のリチウムイオンを電極に可逆的に挿入及び脱離させることにより電気エネルギーを充電及び放電する。電気二重層キャパシタは、電極の一方又は両方が分極性電極であり、電極と固体電解質との界面に形成される電気二重層の蓄電作用を利用して充電及び放電する。
【0025】
この固体電解質は、イオン伝導媒体となる柔粘性結晶で母相が形成され、当該柔粘性結晶にドープされるイオン性塩を電解質として含む。また、固体電解質には、未架橋のポリマーも含まれる。柔粘性結晶は、プラスチッククリスタルとも称され、秩序配列と無秩序配向を有する。即ち、柔粘性結晶とは、アニオン及びカチオンが規則的に配列した三次元結晶格子構造を有する一方、これらアニオン及びカチオンが回転不規則性を有するものである。柔粘性結晶内では、電解質の解離により生じた陽イオン及び陰イオンがアニオン及びカチオンの回転によってホッピングされ、結晶格子中の空隙を移動する。
【0026】
柔粘性結晶を構成するアニオンは、蓄電デバイスを使用する目的温度範囲内でイオン液体でなく固体の状態となっていれば公知の何れでもよい。例えば、柔粘性結晶を構成するアニオンとしては、各種アミドアニオン、(パーフルオロアルキルスルホニル)フルオロアセトアミドアニオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニドアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PFアニオン)、PFの一部のフッ素原子がフルオロアルキル基で置換された各種パーフルオロアルキルホスフェートアニオン、テトラフルオロボレートアニオン(BFアニオン)、及びBFアニオンの一部のフッ素原子がフルオロアルキル基で置換された各種パーフルオロアルキルボレートアニオンが挙げられる。
【0027】
各種アミドアニオンは、NHアニオンの2つの水素原子がパーフルオロアルキルスルホニル基、フルオロスルホニル基又はこれらの両方で置換されている。この各種アミドアニオンは、例えば直鎖状が含まれ、下記化学式(A)で表される各種ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、及び各種N-(フルオロスルホニル)-N-(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンが含まれる。
【0028】
【化7】
化学式(A)の式中、n及びmは0以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0029】
化学式(A)の式中、n及びmが1以上であれば、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンである。ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンとしては、具体的には下記化学式(G)で表されるビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(TFSAアニオン)、下記化学式(H)で表されるビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)アミドアニオン(BETAアニオン)が挙げられる。
【0030】
【化8】
【0031】
【化9】
【0032】
化学式(A)の式中、炭素数が0の基は即ちフルオロスルホニル基であり、n及びmが0であれば、下記化学式(I)で表されるビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン(FSAアニオン)である。
【0033】
【化10】
【0034】
化学式(A)の式中、nが0であり、mが1以上であれば、下記化学式(J)で表されるN-(フルオロスルホニル)-N-(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオンである。
【0035】
【化11】
【0036】
また、各種アミドアニオンには、例えば五員環及び六員環のヘテロ環式が含まれ、下記化学式(B)で表されるN,N-ヘキサフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドアニオン(CFSAアニオン)、並びに下記化学式(C)で表されるN,N-ペンタフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドが含まれる。
【0037】
【化12】
【0038】
【化13】
【0039】
トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタニドアニオン(TFSMアニオン)は、下記化学式(F)によって表される。
【化14】
【0040】
各種パーフルオロアルキルホスフェートアニオンは、下記化学式(D)で表されるトリス(フルオロアルキル)トリフルオロホスフェートアニオンが挙げられる。
【化15】
化学式(D)の式中、qは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0041】
具体的には下記化学式(K)で表されるトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートアニオン(FAPアニオン)が挙げられる。
【化16】
【0042】
各種パーフルオロアルキルボレートアニオンは、下記化学式(E)で表されるモノ(フルオロアルキル)トリフルオロボレートアニオン、及びビス(フルオロアルキル)フルオロボレートアニオンが挙げられる。
【化17】
式中、sは0以上の整数、炭素数は何れでもよい。化学式(E)の式中、sが0であれば、テトラフルオロボレートアニオンである。
【0043】
(パーフルオロアルキルスルホニル)フルオロアセトアミドアニオンには、下記化学式(Y)によって表される。
【化18】
化学式(Y)中、nとmは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0044】
例えば、(パーフルオロアルキルスルホニル)フルオロアセトアミドアニオンとしては、化学式(Y)中、nが1、mが1であり、下記化学式(Z)で表される2,2,2-トリフルオロ-N-(トリフルオロメチルスルホニル)アセトアミドアニオンが挙げられる。
【化19】
【0045】
柔粘性結晶を構成するカチオンは、イオン液体とならずに蓄電デバイスの使用温度範囲で固体状態を維持して柔粘性結晶を構成できれば公知の何れでもよい。このカチオンは、柔粘性結晶を構成するアニオンの総計と等モルであることが望ましい。このカチオンとしては、典型的には第四級アンモニウムカチオン及び第四級ホスホニウムカチオンを挙げることができる。
【0046】
第四級アンモニウムカチオンとしては、下記化学式(N)で表され、炭素数を問わない直鎖アルキル基で置換された、トリエチルメチルアンモニウムカチオン(TEMAカチオン)等のテトラアルキルアンモニウムカチオン、下記化学式(P)で表され、メチル基、エチル基又はイソプロピル基が結合する五員環のピロリジニウムカチオン、下記化学式(Q)で表され、メチル基、エチル基又はイソプロピル基が結合する六員環のピペリジニウムカチオン、及び下記化学式(R)で表されるスピロ型ピロリジニウムカチオン(SBPカチオン)が挙げられる。
【0047】
【化20】
式中、a、b、c及びdは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0048】
【化21】
式中、R1及びR2は、メチル基、エチル基又はイソプロピル基。
【0049】
【化22】
式中、R3及びR4は、メチル基、エチル基又はイソプロピル基。
【0050】
【化23】
【0051】
上記化学式(P)で一般化されるピロリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、下記化学式(S)で表されるN-エチル-N-メチルピロリジニウムカチオン(P12カチオン)、下記化学式(T)で表されるN-イソプロピル-N-メチルピロリジニウムカチオン(P13isoカチオン)、下記化学式(U)で表されるN,N-ジエチルピロリジニウムカチオン(P22カチオン)が挙げられる。また、上記化学式(Q)で一般化されるピペリジニウムの具体例としては、例えば、下記化学式(V)で表されるN-エチル-N-メチルピペリジニウムカチオン(六員環P12カチオン)が挙げられる。
【0052】
【化24】
【0053】
【化25】
【0054】
【化26】
【0055】
【化27】
【0056】
また、第四級ホスホニウムカチオンとしては、下記化学式(W)で表され、炭素数を問わない直鎖アルキル基で置換された、テトラアルキルホスホニウムカチオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムカチオンとしては、例えばテトラエチルホスホニウムカチオン(TEPカチオン)が挙げられる。
【化28】
式中、e、f、g及びhは1以上の整数であり、炭素数は何れでもよい。
【0057】
ポリマーは、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド、ポリエステル、ポリエチレンカーボネート(PEC)、PECの誘導体、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、又はポリトリメチレンカーボネートとポリカーボネートの共重合体である。これらポリマーの1種を単独で用いてもよく、2種類以上が組み合わせられても良い。これらポリマーのうち、カーボネート系ポリマーは、例示であり、脂肪族ポリカーボネートであれば何れも使用可能である。また、2種以上を組み合わせて用いる場合、各種ポリマーが単重合の形態を採っていてもよく、2種以上のモノマーの共重合体として存在していてもよい。これらポリマーは固体電解質中では未架橋のまま存在する。即ち、架橋剤は添加されず、固体電解質は作製され、各ポリマーの直鎖状分子は他のポリマーと架橋剤を介して結合することなく固体電解質中に存在する。
【0058】
PECの誘導体として、例えば副鎖にポリエーテルを有するポリエチレンカーボネートが挙げられ、具体的には下記化学式(α1)~(α7)で表されるものが挙げられる。
【0059】
【化29】
【0060】
【化30】
【0061】
【化31】
【0062】
【化32】
【0063】
【化33】
【0064】
【化34】
【0065】
【化35】
【0066】
ポリトリメチレンカーボネートとポリカーボネートの共重合体としては、具体的には下記化学式(β1)~(β3)で表されるものが挙げられる。
【0067】
【化36】
【0068】
【化37】
【0069】
【化38】
【0070】
推測であり、このメカニズムに限られないが、これらポリマーの存在は、柔粘性結晶に欠陥が導入されたこととなり、即ち、ポリマーが入ることで柔粘性結晶のカチオンとアニオンのイオン対の配列規則性が崩れることとなり、その欠陥が柔粘性結晶中の結晶性を低下させ、イオン伝導度が向上すると推測される。これらポリマーは、柔粘性結晶に対して3wt%以上50wt%以下の範囲で、固体電解質中に存在させることが好ましい。3wt%未満であると、柔粘性結晶の欠陥が少なく、イオン伝導度の向上がみられない。50wt%超であると、低イオン伝導度のポリマーが柔粘性結晶のイオン導電パスに介在してしまい、イオン伝導度が減少してしまう。一方、この範囲内であれば、十分な欠陥が現われ、但しポリマーがイオン導電パスに入り込み難く、イオン伝導度が向上する。また、これらポリマーの分子量は、10万以上250万以下の範囲が好ましい。ポリマーの分子量が低いと、柔粘性結晶とポリマーの界面が途切れてしまい、イオン伝導度が向上し難く、ポリマーの分子量が高すぎると、ポリマーが柔粘性結晶のイオン導電パスに入り込む確率が高くなり、イオン伝導度が減少しまう。
【0071】
イオン性塩は、蓄電デバイスの種類に応じればよく、柔粘性結晶の合計に対して0.1以上50mol%以下の割合で固体電解質に含有していることが好ましい。この範囲であると塩濃度が適切となって、イオン伝導度が向上する。リチウムイオン二次電池に対するイオン性塩としては、Li(CFSON(通称:LiTFSA)、Li(FSON(通称:LiFSA)、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiAsF、LiTaF、LiClO、LiCFSO等が挙げられ、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。電気二重層キャパシタに対するイオン性塩としては、有機酸の塩、無機酸の塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物の塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0072】
有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸等のカルボン酸、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、テトラフルオロボレート等を含むホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0073】
これら有機酸の塩、無機酸の塩、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩としては、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウム等が挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン等、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0074】
このような柔粘性結晶を含む固体電解質の製造方法の例としては次の通りである。柔粘性結晶を構成するアニオンのアルカリ金属塩及びハロゲン化したカチオンを各々溶媒に溶解させる。アルカリ金属としては、Na、K、Li、Csが挙げられる。ハロゲンとしてはF、Cl、Br、Iが挙げられる。溶媒としては水が好ましい。ハロゲン化したカチオンの溶液に対してアニオンの金属塩の溶液を少しずつ滴下してイオン交換反応を行っていく。ハロゲン化したカチオンの溶液に対してアニオンの金属塩の溶液を等モル量添加し、攪拌する。
【0075】
このとき、イオン交換により、アニオンを含む柔粘性結晶が生成されると共に、ハロゲン化アルカリ金属が生成される。柔粘性結晶は疎水性であり、ハロゲン化アルカリ金属は親水性であるため、柔粘性結晶は水溶液中で固体の状態で存在し、ハロゲン化アルカリ金属は水溶液に溶解している。この柔粘性結晶が固体の状態で存在する水溶液にジクロロメタン等の有機溶媒を混合する。ジクロロメタン等の有機溶媒を混合し、静置すると、混合液は水層と有機溶媒の層に分かれる。
【0076】
分液から水層を取り除くことで、ハロゲン化アルカリ金属は除去される。この操作は5回等の複数回繰り返せばよい。これにより、ハロゲン化アルカリ金属を除去した後、ジクロロメタン等の有機溶媒を蒸発させ、アニオンを含む柔粘性結晶を得る。尚、ジクロロメタン等の有機溶媒を混合せずに静置すると、第1種類目のアニオンを含む柔粘性結晶の沈殿物が得られるので、この沈殿物をろ過回収し、水で洗浄後に真空乾燥を行うようにしてもよい。
【0077】
作製された柔粘性結晶をバイアル瓶に加え、更にこのバイアル瓶に電解質となるイオン性塩を添加する。イオン性塩は柔粘性結晶に対して0.1以上50mol%以下加えることが好ましい。更に、バイアル瓶には、未架橋のポリマーを加える。未架橋のポリマーは、柔粘性結晶に対して3wt%以上50wt%以下加えることが好ましい。
【0078】
バイアル瓶に加える未架橋のポリマーは、当該ポリマーを構成するモノマー又はオリゴマーと重合開始剤とを溶媒に添加し、加熱により重合反応を促進させて作製すればよい。重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2'-アゾビス(N-ブチルー2-メチルプロピオンアミド)、2、2´-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロパンアミド]、2,2‘-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ベンゾイルぎ酸メチル、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドが挙げられる。溶媒としてはペンタン等の炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ギ酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類、メタノール等のアルコール類、アセトニトリル等の窒素化合物等の揮発性溶媒が挙げられる。
【0079】
更に、アセニトン又はアセトニトリル等の有機溶媒を更にバイアル瓶に加えて、柔粘性結晶と電解質と未架橋のポリマーを溶解させた有機溶媒溶液を調製する。そして、固体電解質を付着させる電極の活物質層、セパレータ又は両方といった対象物にこの有機溶媒溶液をキャストする。キャストした後、80℃等の有機溶媒が揮発する温度環境下で放置して乾燥により溶媒を揮散させ、更に150℃等の温度環境下で残った水分等を揮散させる。これにより、対象物上に固体電解質は形成される。
【0080】
(蓄電デバイス)
蓄電デバイスは、固体電解質を挟んで正負の電極を対向させて成る。正負の電極の接触を防止し、また固体電解質の形態保持のために正負の電極の間にはセパレータが配される。但し、固体電解質が正負の電極の接触を防止可能な程度の厚みを有し、また単独で形態保持可能な硬度を備えるようにすれば、所謂セパレータレスであってもよい。
【0081】
電気二重層キャパシタの正負の電極は、集電体に活物質層を形成させて成る。集電体は、アルミニウム箔、白金、金、ニッケル、チタン、鋼、およびカーボンなどの弁作用を有する金属を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。また集電体の表面はエッチング処理などによる凹凸面を形成してもよく、またプレーン面であってもよい。さらには、表面処理を行い、リンを集電体の表面に付着させてもよい。
【0082】
正極又は負極の少なくとも一方は分極性電極である。分極性電極の活物質層は、電気二重層容量を有する多孔質構造の炭素材料を含む。多孔質構造の活物質層を有する電気二重層キャパシタには、この柔粘性結晶を用いた固体電解質は特に好適である。柔粘性結晶は可溶であるために、多孔質構造に容易に入り込み、活物質層への充填率が高まる。一方、硫化物系及び酸化物系の固体電解質は多孔質構造への充填性が低い。そのため、この柔粘性結晶を適用した電気二重層キャパシタは、多孔質構造への良好な充填性と高いイオン伝導度を兼ね合わせることができ、高容量及び高出力となる。尚、正極又は負極の何れか他方は、ファラデー反応を生じる金属化合物粒子や炭素材料を含む活物質層が形成されるようにしてもよい。
【0083】
分極性電極における炭素材料は、導電助剤とバインダーと混合されて集電体にドクターブレード法等によって塗工される。炭素材料と導電助剤とバインダーの混合物をシート状に成型し、集電体に圧着するようにしてもよい。ここで、多孔質構造は、炭素材料が粒子形状を有する場合には一次粒子間及び二次粒子間に生じる隙間によって成り立ち、炭素材料が繊維質の場合には繊維間に生じる隙間によって成り立つ。
【0084】
分極性電極における活物質層の炭素材料は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバなどを挙げられる。この炭素材料は、水蒸気賦活、アルカリ賦活、塩化亜鉛賦活又は電界賦活等の賦活処理並びに開口処理によって比表面積を向上させてもよい。
【0085】
バインダーとしては、例えばフッ素系ゴム、ジエン系ゴム、スチレン系ゴム等のゴム類、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース、その他、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。これらのバインダーは、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0086】
導電助剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、天然/人造黒鉛、繊維状炭素等を用いることができ、繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ(以下、CNF)などの繊維状炭素を挙げることができる。カーボンナノチューブは、グラフェンシートが1層である単層カーボンナノチューブ(SWCNT)でも、2層以上のグラフェンシートが同軸状に丸まり、チューブ壁が多層をなす多層カーボンナノチューブ(MWCNT)でもよく、それらが混合されていてもよい。
【0087】
集電体と活物質層の間には、黒鉛等の導電剤を含むカーボンコート層を設けてもよい。集電体の表面に黒鉛等の導電剤、バインダー等を含むスラリーを塗布、乾燥することで、カーボンコート層を形成することができる。
【0088】
リチウムイオン二次電池の正負の電極は、集電体に活物質層を形成させて成る。集電体としては、アルミニウム箔、白金、金、ニッケル、チタン、及び鋼などの金属、カーボン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、及びポリオキサジアゾールなどの導電性高分子材料、また非導電性高分子材料に導電性フィラーを充填した樹脂を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。
【0089】
活物質は、バインダーと混合されて集電体にドクターブレード法等によって塗工される。炭素材料とバインダーの混合物をシート状に成型し、集電体に圧着するようにしてもよい。活物質層には、導電助剤となるカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトなどの導電性カーボンが添加されてもよく、活物質とバインダーに加えて混練されて集電体に塗布又は圧着されればよい。
【0090】
正極の活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な金属化合物粒子が挙げられ、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO-LiMO固溶体、及びスピネル型LiM(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)が挙げられる。これらの具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiNi4/5Co1/5、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn1/2、LiFeO、LiMnO、LiMnO-LiCoO、LiMnO-LiNiO、LiMnO-LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO-LiNi1/2Mn1/2、LiMnO-LiNi1/2Mn1/2-LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、LiMn3/2Ni1/2が挙げられる。また、金属化合物粒子は、イオウ及びLiS、TiS、MoS、FeS、VS、Cr1/21/2などの硫化物、NbSe、VSe、NbSeなどのセレン化物、Cr、Cr、VO、V、V、V13などの酸化物の他、LiNi0.8Co0.15l0.05、LiVOPO、LiV、LiV、MoV、LiFeSiO、LiMnSiO、LiFePO、LiFe1/2Mn1/2PO、LiMnPO、Li(POなどの複合酸化物が挙げられる。
【0091】
負極の活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な金属化合物粒子が挙げられ、例えばFeO、Fe、Fe、MnO、MnO、Mn、Mn、CoO、Co、NiO、Ni、TiO、TiO、TiO(B)、CuO、NiO、SnO、SnO、SiO、RuO、WO、WO、WO3、MoO、ZnO等の酸化物、Sn、Si、Al、Zn等の金属、LiVO、LiVO、LiTi12、ScTiO、FeTiOなどの複合酸化物、Li2.6Co0.4N、Ge、Zn、CuNなどの窒化物、YTi、MoSである。
【0092】
蓄電デバイスにセパレータを用いる場合、セパレータとしては、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【0093】
このような蓄電デバイスにおいては、柔粘性結晶とイオン性塩と未架橋のポリマーを例えばアセニトン等の溶媒に溶解させ、活物質層及びセパレータにキャストする。キャストした後、80℃等の温度環境下で放置して乾燥により溶媒を揮散させ、セパレータを介して正負極の活物質層を対向させた後、更に150℃等の温度環境下で残った水分等を揮散させる。そして、正負電極の集電体にリード電極端子を接続し、外装ケースで封止することで、蓄電デバイスは作製される。
【実施例
【0094】
(実施例1)
柔粘性結晶と未架橋のポリマーと電解質となるイオン性塩を用いて、実施例1の電気二重層キャパシタ用の固体電解質を作製し、イオン伝導度を測定した。実施例1の固体電解質には、柔粘性結晶を構成するアニオンとしてN,N-ヘキサフルオロ-1,3-ジスルホニルアミドアニオン(CFSAアニオン)が用いられた。柔粘性結晶を構成するカチオンはN-エチル-N-メチルピロリジニウムカチオン(P12カチオン)とした。未架橋のポリマーは、分子量150万のポリエチレンオキサイド(PEO)とした。イオン性塩はトリエチルメチルアンモニウム-テトラフルオロボレート(TEMABF)とした。
【0095】
具体的には、CFSAアニオンとP12カチオンにより構成される柔粘性結晶であるP12CFSAをバイアル瓶に加えた。尚、本実施例においては、P12CFSA柔粘性結晶はイオン交換により合成したものを用いた。
【0096】
バイアル瓶には、柔粘性結晶の合計に対して15mol%となるようにTEMABF(富山薬品工業製)を加え、また柔粘性結晶の合計に対して20wt%となるように未架橋のPEOを加えた。このバイアル瓶に、柔粘性結晶と未架橋のポリマーと電解質の総計の固形分濃度が10wt%となるようにアセトニトリル(和光純薬製)を加えた。
【0097】
このアセトニトリル溶液をガラスセパレータに滴下し、80℃で乾燥させることでアセトニトリルを蒸発させた。この蒸発操作は3回繰り返した。この蒸発操作により固体電解質が含浸したガラスセパレータを80℃の真空環境下で12時間乾燥させ、更に120℃の真空環境下で3時間乾燥させ、更に150℃の真空環境下で2時間乾燥させ、これにより水分を取り除き、実施例1の固体電解質を得た。
【0098】
また、この実施例1の固体電解質と比較対照となる比較例1及び比較例2の固体電解質を作製した。比較例1の固体電解質は、柔粘性結晶と電解質となるイオン性塩を含む固体電解質である点につき実施例1と共通するが、ポリマーが未添加である点が異なる。比較例1の固体電解質は、このポリマーが未添加である点を除いて実施例1の固体電解質と同一条件で作製された。比較例2の固体電解質は、柔粘性結晶とイオン性塩とポリマーを含む固体電解質である点につき実施例1と共通するが、ポリマーが架橋されている点で異なる。比較例2において、未架橋の側鎖を有する分子量250万のPEOポリマーに過酸化ベンゾイル系の重合開始剤のナイパーBMT-K4(日本油脂株式会社)を0.2wt%添加し、100℃で3時間加熱することで架橋反応させることで、架橋されたPEOを作製した。
【0099】
そして、実施例1、比較例1及び比較例2のイオン伝導度を測定した。即ち、固体電解質を含浸したガラスセパレータを2枚の白金電極で挟み込み、電極押さえで対向させることで、2極式密閉セル(東洋システム製)を組み立て、インピーダンス測定を行った。インピーダンスの測定結果および固体電解質を含浸したガラスセパレータの厚さから、イオン伝導度を算出した。このイオン伝導度の測定結果を下表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示すように、固体電解質に柔粘性結晶の他、更に未架橋のポリマーを含む実施例1の固体電解質は、未架橋のポリマーが未添加である比較例1の固体電解質に比べて、イオン伝導度が1000倍程度向上していることが確認できる。一方、原因は不明であるが、比較例2のように、固体電解質に柔粘性結晶の他にポリマーを含むようにしたが、そのポリマーが架橋された場合には、ポリマーが未添加である比較例1の固体電解質よりもイオン伝導度が若干低下していることが確認できる。これにより、柔粘性結晶と未架橋のポリマーと電解質とを含む固体電解質はイオン伝導度が向上することが確認された。
【0102】
(実施例2)
実施例1の固体電解質を基準に、未架橋ではあるがポリマーの種類を変更した実施例2の電気二重層キャパシタ用の固体電解質を作製し、イオン伝導度を測定した。実施例2では、分子量が5万から20万の範囲に分布する未架橋のポリエチレンカーボネートを用いた。未架橋のポリマーが異なる点を除き、実施例2の固体電解質は実施例1と同一条件で作製された。
【0103】
また、実施例1及び実施例2の固体電解質と比較対照となる比較例3乃至6の固体電解質を作製した。比較例3乃至6の固体電解質は、未架橋のポリマーを含む点につき実施例1及び2と共通するが、ポリマーの種類が異なる。比較例2は、未架橋のポリマーとして分子量36万のポリビニルピロリドン(PVP)(和光純薬製)を固体電解質に含有させた。比較例3は、未架橋のポリマーとしてアセチルセルロース(ダイセル製)を固体電解質に含有させた。比較例4は、未架橋のポリマーとして分子量12万のポリメチルメタクリレート(PMMA)(シグマアルドリッチ製)を固体電解質に含有させた。比較例5は、未架橋のポリマーとして分子量5千のポリアクリロニトリル(PAN)(シグマアルドリッチ製)を固体電解質に含有させた。
【0104】
そして、実施例1、実施例2、並びに比較例3乃至6のイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の測定条件は実施例1と同じである。このイオン伝導度の測定結果を下表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2に示すように、ポリエチレンオキサイドとポリエチレンカーボネートを未架橋のポリマーとして選択した実施例1及び2の固体電解質は、未架橋のポリマーが未添加である比較例1の固体電解質に比べて、イオン伝導度が向上していることが確認できる。一方、原因は不明であるが、未架橋であっても、PVP、アセチルセルロース、PMMA、PANを未架橋のポリマーとして選択した比較例2乃至5の固体電解質は、ポリマーを添加していない比較例1の固体電解質よりもイオン伝導度が低下してしまった。これにより、ポリエチレンオキサイドとポリエチレンカーボネートを含む特定のポリマーに限って、且つそれらポリマーが未架橋であれば、イオン伝導度が向上することが確認された。
【0107】
(実施例3)
実施例1の固体電解質を基準に、柔粘性結晶の種類を変更した実施例3の電気二重層キャパシタ用の固体電解質を作製し、イオン伝導度を測定した。即ち、バイアル瓶には、FSAアニオンとP12カチオンにより構成されるP12FSAを柔粘性結晶として加えた。TEMABFは、この柔粘性結晶に対して15mol%となるように加えられ、分子量150万の未架橋のPEOは、この柔粘性結晶に対して20wt%となるように加えられた。
【0108】
また、この実施例3の固体電解質と比較対照となる比較例7の固体電解質を作製した。比較例7の固体電解質は、実施例3と比べてポリマーが未添加である点が異なるが、その他は作製条件を含めて実施例3と同じである。そして、実施例3及び比較例7のイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の測定条件は実施例1と同じである。このイオン伝導度の測定結果を下表4に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
表3に示すように、柔粘性結晶の種類を問わず、柔粘性結晶と未架橋のポリマーと電解質とを含む固体電解質はイオン伝導度が向上することが確認された。
【0111】
(実施例4乃至6)
実施例3の固体電解質を基準に、未架橋ではあるがポリマーの種類を変更した実施例4乃至6の電気二重層キャパシタ用の固体電解質を作製し、イオン伝導度を測定した。実施例4では、未架橋のポリエチレンカーボネートを用いた。実施例5では、未架橋のポリトリメチレンカーボネートを用いた。実施例6では、未架橋のポリエチレンカーボネートとポリトリメチレンカーボネートの混合を用いた。ポリエチレンカーボネートとポリトリメチレンカーボネートの混合比は、重量比で1:1である。このように、未架橋のポリマーが異なる点を除き、実施例4乃至6の固体電解質は実施例3と同一条件で作製された。
【0112】
そして、実施例4乃至6及び比較例7のイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の測定条件は実施例1と同じである。このイオン伝導度の測定結果を下表4に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
表4に示すように、ポリエチレンオキサイドの他、ポリエチレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、又はこれらの混合を未架橋のポリマーとして選択しても、イオン伝導度が向上していることが確認された。
【0115】
(実施例7乃至10)
実施例7乃至10の固体電解質を作製し、イオン伝導度を測定した。実施例7乃至10の固体電解質は、CFSAアニオンとP12カチオンにより構成される柔粘性結晶を含み、電解質となるイオン性塩としてTEMABFを含む点で共通する。但し、実施例7乃至10の固体電解質は、添加された未架橋のポリマーの種類は分子量150万のPEOであり共通であるが、その未架橋のポリマーの添加量が異なる。
【0116】
実施例7乃至10において、バイアル瓶には、柔粘性結晶の合計に対して15mol%となるようにTEMABFを加えた。未架橋のPEOについては、実施例7では柔粘性結晶に対して20wt%添加し、実施例8では柔粘性結晶に対して30wt%添加し、実施例9では柔粘性結晶に対して40wt%添加し、実施例10では柔粘性結晶に対して50wt%添加した。その他の作製条件は実施例1と同一である。
【0117】
また、これら実施例7乃至10の固体電解質と比較対照となる比較例8の固体電解質を作製した。比較例8の固体電解質は、実施例7乃至10と比べてポリマーが未添加である点が異なるが、その他は作製条件を含めて実施例7乃至10と同じである。そして、実施例7乃至10及び比較例8のイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の測定条件は実施例1と同じである。このイオン伝導度の測定結果を下表5に示す。
【0118】
【表5】
【0119】
表5に示すように、未架橋のポリマーの添加量に関わらず、柔粘性結晶と未架橋のポリマーと電解質を含む固体電解質はイオン伝導度が向上することが確認された。
【0120】
(実施例11乃至13)
実施例11乃至13の固体電解質を作製し、イオン伝導度を測定した。実施例11乃至13の固体電解質の各々は、未架橋のPEOの分子量が異なる。実施例11の固体電解質は、分子量80万の未架橋のPEOを柔粘性結晶に対して20wt%の割合で含まれる。実施例12の固体電解質は、分子量150万の未架橋のPEOを柔粘性結晶に対して20wt%の割合で含まれる。実施例13の固体電解質は、分子量250万の未架橋のPEOを柔粘性結晶に対して20wt%の割合で含まれる。その他、実施例11乃至13の固体電解質は実施例7の固体電解質と同一の作製条件で作製された。
【0121】
そして、これら実施例11乃至13の固体電解質のイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の測定条件は実施例1と同じである。このイオン伝導度の測定結果を下表6に示す。尚、表6には、未架橋のポリマーが含有されていない固体電解質である比較例8の固体電解質のイオン電導度も掲載した。
【0122】
【表6】
【0123】
表6に示すように、未架橋のポリマーの分子量に関わらず、柔粘性結晶と未架橋のポリマーと電解質を含む固体電解質はイオン伝導度が向上することが確認された。