(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】粉砕処理方法
(51)【国際特許分類】
B02C 17/16 20060101AFI20231106BHJP
B02C 17/18 20060101ALI20231106BHJP
B02C 17/24 20060101ALI20231106BHJP
B02C 23/36 20060101ALI20231106BHJP
B01F 27/00 20220101ALI20231106BHJP
B01F 27/96 20220101ALI20231106BHJP
B01F 25/50 20220101ALI20231106BHJP
B01F 35/90 20220101ALI20231106BHJP
【FI】
B02C17/16 Z
B02C17/18 D
B02C17/24
B02C23/36
B01F27/00
B01F27/96
B01F25/50
B01F35/90
(21)【出願番号】P 2019169828
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000174965
【氏名又は名称】日本コークス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郡司 進
(72)【発明者】
【氏名】儀同 良光
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】岩本 玄徳
(72)【発明者】
【氏名】百田 憲市
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-192876(JP,A)
【文献】特開2009-125682(JP,A)
【文献】特開平04-166246(JP,A)
【文献】実開昭63-087438(JP,U)
【文献】特開平11-244679(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106391210(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 17/16
B02C 17/18
B02C 17/24
B02C 23/36
B01F 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の樹脂製の粉砕容器を有するメディア撹拌型の粉砕機と、循環ポンプを有する循環ラインを介して前記粉砕機に接続される処理物のホールディングタンクと、前記処理物を冷却するためにポンプを有する冷却ラインを介して前記ホールディングタンクに接続される冷却器とを備え、前記粉砕機には、前記粉砕容器の一端側壁を挿通して設けられる管状の回転軸に、前記処理物とメディアとを撹拌する撹拌部材と、前記処理物と前記メディアとを分離するセパレータとが取り付けられている粉砕処理システムの前記粉砕機を用いて
スラリー中の固体粒子を微細化する粉砕処理方法であって、
前記ホールディングタンクに投入された処理物と前記粉砕機に充填されたメディアとを、前記撹拌部材の外周速度が
20m/秒のときは前記粉砕容器における前記処理物の滞留時間を60秒以下とし、25m/秒のときは滞留時間を30秒以下とする高速回転
下で撹拌するステップと、
前記冷却ラインで送られた前記処理物を前記冷却器で冷却して前記ホールディングタンクに戻すステップとを繰り返すことを特徴とする粉砕処理方法。
【請求項2】
前記粉砕機における前記処理物の滞留時間を、前記撹拌部材の外周速度が20m/秒のときは40秒以下とし、25m/秒のときは20秒以下とすることを特徴とする請求項1に記載の粉砕処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心式のセパレータを備えるメディア撹拌型の粉砕機に関し、処理物スラリー中の固体粒子を微粒子とするための粉砕処理システム、粉砕機及び粉砕処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メディアを用いる湿式粉砕機は、プリンター用インク、塗料、重合トナー、カラーレジスト、セラミックス微粒子、酸化チタン、金属粉末、医薬品などの広い分野において用いられている。なお、本明細書では、凝集した粒子を解す分散処理を含めて「粉砕処理」と総称することにする。
【0003】
特許文献1には、処理物スラリーを微粉砕処理するメディア撹拌型の粉砕機が記載されている。この粉砕機では、円筒状の粉砕容器の一端側壁から管状の回転軸が挿通され、この回転軸には、粉砕容器の内部を撹拌する撹拌部材及び遠心式のセパレータが取り付けられている。さらに粉砕容器は、外周に冷却用のジャケットを備えており、ジャケット内に冷却媒体を流すことで粉砕容器内の処理物を冷却することができる。
ここで、処理物スラリーは、粉砕容器の一端側壁から供給され、容器内で粉砕処理を受けた後にメディアと分離されて、回転軸の管内から排出される。
【0004】
メディア撹拌型の粉砕機では、粉砕処理後の固体粒子の粒度が、使用されるメディアの直径によって決まるという性質がある。すなわち、要求される製品粒度が小さくなると、使用されるメディアの粒径も小さくなる。特許文献1では、直径が0.03~0.1mmのメディアを使用してナノオーダーの微粒子に処理している。
【0005】
しかし、このような粉砕機には、粉砕比をあまり大きくすることができないという問題があった。粉砕比とは、原料粒子と製品粒子の粒径の比である。
粒度分布については後述するが、理想的な粉砕処理が行われた場合には、製品粒子は鋭いピークを備えるシャープな粒度分布になる。逆に、不適切な粉砕処理が行われた場合には、2つのピークを備えるブロードな粒度分布の製品粒子となってしまう。
【0006】
粉砕処理後の粒度分布が2つのピークを備えるということは、1回の粉砕処理では充分な製品粒子にすることができず、2段処理が必要であることを示している。
すなわち、1段目で直径の大きなメディアを使用して粉砕処理を行い、その処理で得られたスラリーを、2段目で直径の小さなメディアを使用して再び粉砕処理を行うという2段処理になる。
【0007】
図10に、2段処理を行う粉砕処理システム200の概略構成を示した。
粉砕処理システム200は、2台のメディア撹拌型の粉砕機111,112を備えるとともに、2台のポンプ181,182とホールディングタンク160とを備えている。
粉砕機111,112は、撹拌による発熱を除去するために、粉砕容器111a,112aの外側に冷却用のジャケットを備え、冷却媒体を流すためのライン196,197,198,199が接続されている。
【0008】
そして、撹拌機161を備えるホールディングタンク160には原料スラリーが投入され、一方の粉砕機111には大きなメディア(例えば、直径が0.5mm)が充填され、他方の粉砕機112には小さなメディア(例えば、直径が0.1mm)が充填される。
1段目の粉砕処理は、粉砕機111、ポンプ181及びホールディングタンク160を用いて行われ、この処理が完了した後に2段目の粉砕処理が行われる。
2段目の粉砕処理は、粉砕機112、ポンプ182及びホールディングタンク160を用いて行われる。
【0009】
一方、特許文献2には、循環ライン中に冷却器のような機器を置いた場合に、スラリー中の固体粒子が機器の中で沈降・付着する問題や圧力損失が上昇する問題を解決した粉砕処理システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-229686号公報
【文献】特開2017-192876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したような2段処理を行う粉砕処理システム200では、2台の粉砕機111,112を使用するために設備が高価になる。また、同様の粉砕処理を2回行うために、粉砕処理に要する時間が長くなり、処理の準備に要する時間、清掃やメンテナンスに要する時間も長くなる。
【0012】
そこで、本発明は、1段の処理で大きな粉砕比を得ることができる安価な粉砕処理システム、粉砕機及び粉砕処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の粉砕処理システムは、スラリー中の固体粒子をメディア撹拌型の粉砕機を用いて微細化する粉砕処理システムであって、円筒状の樹脂製の粉砕容器を有するメディア撹拌型の粉砕機と、循環ポンプを有する循環ラインを介して前記粉砕機に接続される処理物のホールディングタンクと、前記処理物を冷却するためにポンプを有する冷却ラインを介して前記ホールディングタンクに接続される冷却器とを備え、前記粉砕機には、前記粉砕容器の一端側壁を挿通して設けられる管状の回転軸に、前記処理物とメディアとを撹拌する撹拌部材と、前記固体粒子と前記メディアとを分離するセパレータとが取り付けられていて、前記撹拌部材の外周速度は20m/秒を超える速度に設定可能であることを特徴とする。
【0014】
また、粉砕機の発明は、スラリー中の固体粒子を微細化するメディア撹拌型の粉砕機であって、円筒状の粉砕容器と、前記粉砕容器の一端側壁を挿通して設けられる管状の回転軸と、前記回転軸に取り付けられる処理物とメディアとを撹拌する撹拌部材及び前記固体粒子と前記メディアとを分離するセパレータとを備え、前記粉砕容器が樹脂製であることを特徴とする。
ここで、前記撹拌部材及び前記セパレータも樹脂製とすることができる。
【0015】
さらに、粉砕処理方法の発明は、スラリー中の固体粒子を上記の粉砕処理システムの前記粉砕機を用いて微細化する粉砕処理方法であって、前記ホールディングタンクに投入された処理物と前記粉砕機に充填されたメディアとを、前記撹拌部材の外周速度が20m/秒を超える速度で高速回転させて撹拌するステップと、前記冷却ラインで送られた前記処理物を前記冷却器で冷却して前記ホールディングタンクに戻すステップとを繰り返すことを特徴とする。
ここで、前記粉砕機における前記処理物の平均滞留時間を、60秒以下として処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明の粉砕処理システムは、円筒状の樹脂製の粉砕容器を有するメディア撹拌型の粉砕機を備え、粉砕容器内を撹拌する撹拌部材の外周速度を20m/秒を超える速度に設定することができる。また、処理物を冷却するための冷却器が、ポンプを有する冷却ラインを介してホールディングタンクに接続されている。
【0017】
このように冷却ラインを介して接続される冷却器を備えていれば、撹拌部材を高速回転させて熱が発生しても効率的に除去することが可能で、1段の処理で大きな粉砕比を得ることができるようになる。また、1段の処理でシステムを簡略化したことにより、設備費及び運転費を大きく低減することが可能になる。さらに、樹脂製の粉砕容器であれば、安価に製作することができる。
【0018】
また、粉砕機の発明は、熱伝導率の低い樹脂材料によって粉砕容器が形成されているので、粉砕容器の外周に冷却手段を備えない構成になって構造が簡略化されるとともに、大幅に軽量化することができる。このため製作費が安価になるうえに、作業性に優れた構成とすることができる。
【0019】
さらに、粉砕処理方法の発明では、粉砕機で処理物とメディアとを撹拌して処理する際に、撹拌部材の外周速度が20m/秒を超える速度で高速回転させたことによって発生する熱を、冷却ラインで接続された冷却器によって効率的に冷却することができる。また、粉砕機における処理物の平均滞留時間を60秒以下とすることで、処理物の温度上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態の粉砕処理システムの概略フローを示す流れ図である。
【
図2】粉砕機の構成を説明する図であって、(a)は全体の概略断面図、(b)は粉砕容器の大きさの説明図、(c)は撹拌部材の大きさの説明図である。
【
図3】
図2(a)のA-A矢視方向で見た概略断面図である。
【
図4】実施例1における粒度分布を説明する図であって、(a)は原料の粒度分布図、(b)は60分処理後の粒度分布図、(c)は120分処理後の粒度分布図である。
【
図5】実施例1の粉砕処理における粒径の経時変化を示すグラフである。
【
図6】比較例1における粒度分布を説明する図であって、(a)は原料の粒度分布図、(b)は120分処理後の粒度分布図、(c)は240分処理後の粒度分布図である。
【
図7】比較例1の粉砕処理における粒径の経時変化を示すグラフである。
【
図8】比較例2における粒度分布を説明する図であって、(a)は原料の粒度分布図、(b)は60分処理後の粒度分布図、(c)は120分処理後の粒度分布図である。
【
図9】比較例2の粉砕処理における粒径の経時変化を示すグラフである。
【
図10】従来の2段処理を行う粉砕処理システムの概略フローを示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1により、本発明の実施の形態の粉砕処理システム100について説明する。
本実施の形態の粉砕処理システム100は、メディア撹拌型の粉砕機10と、処理物のホールディングタンク60と、処理物の冷却器70とを備えている。
固体粒子を含有するスラリーである処理物スラリーは、ホールディングタンク60に1バッチ分が投入され、撹拌機61によって撹拌されて均一な濃度に保持されている。
【0022】
処理物スラリーは、ホールディングタンク60の底部からライン90により抜き出され、その一部が循環ポンプ81によって循環ラインを構成するライン91から粉砕機10に送られて、ここで粉砕処理を受けた後に、ライン92によってホールディングタンク60に戻される。このように処理物が循環している状態の中で、所定の時間、粉砕処理が行われる。
【0023】
粉砕機10は、円筒状の粉砕容器20内で処理物スラリーとメディアとを撹拌することで粉砕処理を行う。粉砕機10は、撹拌部材40を高速回転させるために、比較的大きな電動機11を備えている。また、固体粒子とメディアとの分離を確実に行うために、回転軸30(
図2(a)参照)を垂直にして粉砕処理を行う。なお、メンテナンスを容易にするためには回転軸30を水平方向にできることが好ましく、支柱12に対して全体が90°回動できるようになっている。
【0024】
粉砕処理システム100では、粉砕機10において処理物及びメディアを高速撹拌するために発熱量が非常に大きくなるが、粉砕機10を通過する処理物スラリーの通過速度を速くすることによって、粉砕機10における処理物の温度上昇を小さく抑えることができる。すなわち、粉砕機10における処理物の平均滞留時間を短時間とすることによって、処理物の温度上昇を抑える。このような通過速度(平均滞留時間)の制御は、循環ポンプ81を設定又は操作することによって行われる。
【0025】
一方、ライン90により抜き出された処理物スラリーの他部は、ポンプ82によって冷却ラインを構成するライン95から冷却器70へ送られ、ここで冷却された後に、ライン96によってホールディングタンク60に戻される。冷却器70には、冷却媒体を流すためのライン98,99が接続されている。
【0026】
冷却器70は、粒子の沈降・付着を避けるために、処理物スラリーが滞留しない構造とすることが好ましい。このため、断面積が一定のパイプ内に処理物スラリーを流すとともに、パイプの外側を冷却媒体で冷却する構造が好ましい。また、パイプの内部の点検や洗浄を確実に行うことが可能な形態とすることが好ましい。
【0027】
循環ポンプ81やポンプ82の型式は、処理物スラリーの性状などによって自由に選択することが可能であるが、一定流量が安定して得られるために、また、簡単に流量設定を行うことが可能であることから、定量ポンプを用いることが好ましい。
【0028】
続いて、
図2及び
図3を参照しながら、本実施の形態の粉砕処理システム100で使用する粉砕機10について説明する。
図2(a)は回転軸30の軸心を通る面で示した概略断面図であり、
図2(b),(c)は粉砕容器20と撹拌部材40の寸法関係を説明するための図である。
図3は、
図2(a)のA-A矢視方向で見た断面図である。
【0029】
粉砕機10には、円筒状の粉砕容器20の一端側壁を挿通して管状の回転軸30が設けられ、回転軸30には、処理物とメディアを撹拌する撹拌部材40と、処理物(固体粒子)とメディアとを分離するセパレータ50とが取り付けられる。この粉砕容器20は、後述するように、ジャケットなどの冷却手段を備えていない樹脂製とする。
【0030】
粉砕容器20は、容器本体25と蓋部材26が、フランジ部でボルト29により一体に結合されている。容器本体25には、撹拌部材40及びセパレータ50が配置されて粉砕室が形成されている。蓋部材26には、回転軸30が挿通されて軸シール35によって軸封されている。また、蓋部材26には、処理物スラリーの供給口21が設けられている。
【0031】
撹拌部材40は、円筒状の部材に、内外を貫通する複数の流通路41が形成され、これによって複数のブレード42が形成されている。このため、撹拌部材40を
図3の矢印方向に回転させると、処理物スラリーとメディアとが流通路41の内側から外側に向かって激しく流れるとともに、下端部を通って外側から内側に戻るという撹拌循環流が形成される。
粉砕機10は、撹拌部材40の外周速度を20m/秒を超える速度にすることによって、破壊力の強い粉砕エネルギーを有する撹拌循環流を形成することができるようになる。
【0032】
セパレータ50は、撹拌部材40の内側に位置して、撹拌部材40とともに回転する。
セパレータ50も、円筒状の部材に内外を貫通する複数の流通路51が形成されるとともに、複数のブレード52が形成されている。しかしながら底部が底板55(
図2(a))によって閉塞されているために、回転しても循環流は発生しない。
【0033】
セパレータ50の内側空間53には、管状の回転軸30の下端部が位置しており、管壁には開孔33が設けられているので、内側空間53と回転軸30の管内32とが連通している。このため、撹拌循環流を形成している処理物スラリーは、セパレータ50を経由して回転軸30の管内32に入り、排出口31から排出される。
【0034】
処理物スラリーは、流通路51を外側から内側に向かって流れるので、ブレード52の回転による遠心力を受ける。このため、微粉砕された固体粒子は管内32へ進むことができるが、メディア及び大きな固体粒子は遠心力によって撹拌循環流の中に押し戻される。
この結果、メディアと分離された処理物スラリーのみが排出口31へと進むことが可能になり、メディアは、そのまま粉砕容器20の中に留まる。これがセパレータ50の分離機能であり、遠心式と称している。
【0035】
続いて、粉砕機10の特徴を説明する。
まず、
図2(b),(c)に示すように、撹拌部材40の外容積Vrは、粉砕容器20の内容積Vに対して非常に大きいという特徴がある。撹拌部材40の外容積Vrは、粉砕容器20の内容積Vの50%以上であり、好ましくは60~70%である。
【0036】
このことは、粉砕機10において発生する処理物スラリーとメディアの撹拌循環流が、粉砕容器20の全体に亘る循環流であることを示している。すなわち、粉砕容器20の全体に亘って処理物スラリーとメディアとが激しく撹拌され、粉砕容器20の全体で粉砕処理が行われることを意味している。そして、粉砕容器20の内部は、完全混合状態となる。
【0037】
また、粉砕容器20の直径Dが、軸方向の長さLよりも大きくなっていることも特徴である。すなわち、L/Dが1よりも小さく、好ましくは1/3程度である。このために撹拌部材40もまた、直径Drが軸方向の長さLrよりも大きくなっている。これらの寸法関係によって、限られた空間の中で、撹拌部材40が処理物とメディアに最大の運動エネルギーを与えると考えられる。
このようにL/Dを小さくすることによって、分散力が高くなってメディアの偏りが生じにくくなるとともに、流量を多くすることができるようになるので、粉砕容器20内での温度上昇を抑えることが可能になる。
【0038】
さらに、粉砕機10におけるセパレータ50には、優れた特徴がある。
すなわち、粉砕機10に供給する処理物スラリーの量を大幅に増加させても、セパレータ50は、安定した分離性能を示すことができる。また、撹拌部材40を高速回転にして激しい撹拌循環流が形成された場合にも、セパレータ50は、撹拌部材40と一体に高速回転するために、安定した分離性能を示すことができる。
【0039】
本実施の形態の粉砕処理システム100は、撹拌部材40の外周速度を、20m/秒を超える速度として処理することを特徴としている。高速撹拌を行うことによって、通常は粉砕機10における発熱量は非常に大きくなる。これに対して、粉砕機10のセパレータ50の優れた分離性能によって、処理物スラリーの供給量を大幅に増やすことが可能になり、これによって、処理物の温度上昇を抑制して安定した粉砕処理を継続させることができる。
【0040】
ここで、発熱量について説明する。
例えば、粉砕容器20が、所定量のメディアと約3リットルの処理物スラリーとで満たされているとき、撹拌部材40の外周速度が20m/秒ならば消費電力は約6.6KWであるが、25m/秒になると約13.4KWと急激に増加する。以下、説明を簡単にするために、数値を概略値で示す。
6.6KWの電力は、3リットルの処理物の温度を1秒間に0.5℃上昇させる熱量であり、13.4KWの電力は1秒間に1℃上昇させる熱量である。
【0041】
粉砕機10における温度上昇は、少なくとも30℃以下にすることによって粉砕処理が可能となり、20℃以下とすることによって安定した粉砕処理を行うことができる。
このため、撹拌部材40の外周速度が20m/秒のときは、粉砕容器20における処理物の滞留時間は、長くても60秒以下とすることが好ましく、40秒以下とすることがより好ましい。
また、撹拌部材40の外周速度が25m/秒のときは、粉砕容器20における処理物の滞留時間は、長くても30秒以下とすることが好ましく、20秒以下とすることがより好ましい。
【0042】
このように粉砕機10における温度上昇を抑制するために、粉砕機10における処理物の滞留時間を短くすることは、従来の粉砕技術では全く考えられていなかったことである。
高速回転させたことによるこのような大きな発熱量に対しては、粉砕機10の粉砕容器20の外周を覆うように冷却用のジャケットを設けたとしても、安定した温度状態を維持することは困難である。このため、本実施の形態の粉砕処理システム100では、粉砕機10自体には冷却手段をまったく設けていない。すなわち処理物の冷却は、すべて冷却ラインを介して接続された冷却器70による外部冷却で行う。
【0043】
この冷却ラインは、循環ラインの循環ポンプ81とは別に独自のポンプ82を備えているので、冷却器70内に沈降や付着が起きないような充分に速い流速で冷却を行わせることができる。さらに、ポンプ82によって冷却器70に供給する処理物スラリーの流量を安定させることができるので、冷却器70による安定した温度制御が可能になり、温度の異常上昇を防ぐことができる。
【0044】
このように粉砕容器20にジャケットなどを設けないことによって、粉砕容器20の構造を非常に単純化することができるようになる。
また一般的に、ジャケットを設ける場合には、必ず熱伝導率の高い金属類を用いる必要があったが、熱伝導を考慮しなければ比重の軽い樹脂材料を用いることができるようになる。そこで、本実施の形態の粉砕機10の粉砕容器20の主要部材となる周壁や底面部には、樹脂材料を使用する。
【0045】
樹脂材料としては、ナイロン樹脂などのポリアミド系樹脂を使用することができる。また、耐薬品性が要求される場合には、フッ素樹脂などを使用することができる。これらの材料は軽量であるために、処理操作において作業性が向上し、安全性の高い設備とすることができるようになる。また、樹脂製の粉砕容器20であれば、安価に製作することができる。
さらに、撹拌部材40及びセパレータ50も、同様に樹脂材料によって形成することができる。
【0046】
続いて、高速撹拌による粉砕処理について説明する。
撹拌部材40の外周速度を20m/秒を超える速度とすることにより、従来では得られなかった大きな粉砕エネルギーが得られるようになり、ミクロンオーダーの固体粒子をナノオーダーの微粒子に粉砕することができるようになる。ここで、粉砕容器20に充填するメディアとしては、直径が0.1mm以下のメディアを使用することが好ましい。
【0047】
撹拌部材40により高速撹拌を行うと、一度粉砕された微粒子が再凝集すると言われることがあったが、直径が0.1mm以下のメディアを使用することによって、再凝集を起こさせることなく微粉砕処理を行うことができるようになる。
また、このような高速撹拌を行うと、粉砕容器20や撹拌部材40の摩耗が激しくなると言われていたが、直径が0.1mm以下のメディアを使用した場合には、実用上問題となるような摩耗をほとんど起こさない。さらに、処理物にもよるが、後工程で焼成するような原料であれば、樹脂材料の微粉末は焼き切られてしまって残ることがない。
【0048】
このように粉砕容器20の部材として熱伝導率の低い樹脂材料を使用することは、冷却用のジャケットを用いる場合には考えられなかったことである。しかしながら本実施の形態の粉砕処理システム100では、冷却ラインを介して冷却器70を接続する構成としているため、粉砕容器20に熱伝導率の低い樹脂材料を使用することができる。さらに、熱伝導率の低い樹脂製の粉砕容器20にすることによって、外気の影響を受けにくくなり、処理物の温度の制御が容易となって、安定した粉砕処理を行うことができる。
【0049】
以上に説明したように構成された本実施の形態の粉砕処理システム100であれば、処理物スラリー中の固体粒子をナノオーダーとする微粉砕処理において、粉砕比を大きくすることができる。すなわち、1回の粉砕処理によって短時間に処理を終えることが可能になり、製品粒子の粒度分布がシャープなピークを備えるようにするとともに、中央径及び最大径で比較したときに、大きな粉砕比とすることができるようになる。
【0050】
また、1回の粉砕処理で、ミクロンオーダーの原料スラリーをナノオーダーの製品スラリーとするに際して、粉砕比が100程度となるような粉砕処理を行うことが可能になる。このように1段での処理を可能としたことにより、粉砕処理システム100のシステム構成を簡略化でき、設備費及び運転費を大きく低減することが可能となる。
【0051】
さらに、本実施の形態の粉砕処理方法は、スラリー中の固体粒子を粉砕処理システム100の粉砕機10を用いて微細化する粉砕処理方法である。そして、ホールディングタンク60に投入された処理物と粉砕機10に充填されたメディアとを、撹拌部材40の外周速度が20m/秒を超える速度で高速回転させて撹拌するステップと、冷却ラインで送られた処理物を冷却器70で冷却してホールディングタンク60に戻すステップとの循環が、所定の時間、繰り返される。
【0052】
このようにして粉砕機10で処理物スラリーとメディアとを撹拌して処理する際に、撹拌部材40を高速回転させたことによって発生する熱を、冷却ラインで接続された冷却器70によって効率的に冷却することができる。また、粉砕機10における処理物の平均滞留時間を60秒以下とすることで、処理物の温度上昇を抑えることができる。
【実施例1】
【0053】
以下、前記実施の形態で説明した粉砕処理システム100の性能を確認した実験について、
図4から
図9を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0054】
本実施例1では、粉砕処理システム100を用いて、下記の条件で炭酸カルシウムの粉砕処理を行った。粉砕機10を起動した後、所定の時間ごとにライン92からサンプルを採取して、その粒度分布を測定した。
粉砕機10 :粉砕容器20の全容積 約6.5リットル
処理物とメディアが入る容積 約4.5リットル
撹拌部材40:外周速度 25m/秒
メディア :材質 ジルコニア
形状 直径0.1mm
使用量 1.36リットル
処理物 :炭酸カルシウム
使用量 3kg
溶媒 水
スラリー濃度 10wt%
ライン91の流量 8リットル/分
粉砕機10における滞留時間 24秒
ライン95の流量 35リットル/分
【0055】
図4に、実施例1における粒度分布を示す。
図4(a)は、最初にホールディングタンク60に投入した処理物スラリーの原料の粒度分布であり、
図4(b)は60分間粉砕処理して採取したサンプルの粒度分布であり、
図4(c)は120分間粉砕処理して採取したサンプルの粒度分布である。
粒度分布は、横軸に粒径(μm)を対数目盛で示し、縦軸に頻度(%)を示している。グラフの左端が最小粒径を、右端が最大粒径を示す。そして、左側から順に頻度(%)を累積したときの累積値が50%となる粒径を中央径、100%となる粒径を最大径として粒径を比較する。
【0056】
実施例1において、原料の中央径は6.674μm、最大径は52.33μmであった(
図4(a))。この原料を60分間粉砕処理した後には、鋭いピークを備えるシャープな粒度分布となった(
図4(b))。このときの中央径は0.187μmとなり、最大径は0.818μmとなった。ここまでの結果で粉砕比を算出すると、中央径では35.7となり、最大径では64.0となる。また、120分間粉砕処理後には、中央径は0.159μmとなり、最大径は0.486μmとなった(
図4(c))。この結果、粉砕比は、中央径では42.0となり、最大径で107.7となる。
【0057】
図5は、横軸に粉砕処理時間(Hr)を示し、縦軸に中央径(累積50%)及び最大径(累積100%)における粒径を示して、時間に対する粒径の変化を示している。中央径は20分の粉砕処理によって1μm以下となり、最大径も1時間の粉砕処理で1μm以下となっている。
【0058】
<比較例1>
続いて比較例1として、撹拌部材40の外周速度を16m/秒とし、その他は実施例1と全く同じ条件で粉砕処理を行った。
図6は、比較例1における粒度分布を示す。
図6(a)は、最初にホールディングタンク60に投入した処理物スラリーの原料の粒度分布であり、実施例1の粒度分布(
図4(a))と同じである。
図6(b)は120分間粉砕処理して採取したサンプルの粒度分布であり、
図6(c)は240分間粉砕処理して採取したサンプルの粒度分布である。
図6(b),(c)を見ると、共に2つのピークを備えており、ブロードな粒度分布になっていることを示している。
【0059】
そして
図7は、比較例1における中央径及び最大径の粒径変化を、実施例1の
図5と同様のグラフで示している。中央径は90分の粉砕処理によって1μm以下となるが、最大径は4時間の粉砕処理を行っても30μmとほとんど微細化が進んでいない。
【0060】
<比較例2>
比較例2では、撹拌部材40の外周速度を20m/秒とし、その他は実施例1と全く同じ条件で粉砕処理を行った。
図8は、比較例2における粒度分布を示す。
図8(a)は、最初にホールディングタンク60に投入した処理物スラリーの原料の粒度分布であり、実施例1の粒度分布(
図4(a))と同じである。
図8(b)は60分間粉砕処理して採取したサンプルの粒度分布であり、
図8(c)は120分間粉砕処理して採取したサンプルの粒度分布である。比較例2においては、60分間粉砕処理後の
図8(b)ではブロードな粒度分布であったが、120分間粉砕処理後の
図8(c)ではシャープな粒度分布に変わった。
【0061】
図9は、比較例2における中央径及び最大径の粒径変化を、実施例1の
図5と同様のグラフで示している。中央径は30分の粉砕処理によって1μm以下となり、最大径は粉砕処理60分から急激に下がり90分で1μm以下となっている。これは、ブロードな粒度分布(
図8(b))の右側が、その後の30分の粉砕処理で消滅したことを示している。
【0062】
以上の結果から、撹拌部材40の外周速度は、比較例2の20m/秒付近に境界があり、これ以下の速度(比較例1)では2段処理が必要になり、20m/秒を超える速度に設定することで1段で処理できるようになると言える。
【0063】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述したが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計変更は、本発明に含まれる。
例えば、処理物スラリーの流れは、粉砕機10を循環する流れ(循環ライン)と、冷却器70を循環する流れ(冷却ライン)があれば良く、その他の粉砕処理システム100の構成は前記実施の形態の説明に限定されない。
【符号の説明】
【0064】
100 :粉砕処理システム
10 :粉砕機
20 :粉砕容器
30 :回転軸
40 :撹拌部材
50 :セパレータ
60 :ホールディングタンク
70 :冷却器
81 :循環ポンプ
82 :ポンプ
91 :ライン(循環ライン)
95 :ライン(冷却ライン)