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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】車両用の座席高さ調節装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/16 20060101AFI20231106BHJP
   A47C 7/02 20060101ALI20231106BHJP
   A47C 3/36 20060101ALI20231106BHJP
   B60N 2/52 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
B60N2/16
A47C7/02 D
A47C3/36
B60N2/52
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019217892
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021088211
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596177630
【氏名又は名称】株式会社日本ロック
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 竜誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特許第6370262(JP,B2)
【文献】特開平04-027628(JP,A)
【文献】特開2019-001315(JP,A)
【文献】実開昭61-087737(JP,U)
【文献】国際公開第2019/207792(WO,A1)
【文献】米国特許第05346170(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-2/90
A47C 7/02
A47C 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の使用者が着座可能な座部を弾性的に支持するとともに圧縮エアが供給されているときには前記座部を上昇させ且つ前記圧縮エアが排出されているときには前記座部を下降させるように構成されたエアスプリングと、
前記車両に搭載された圧縮エア供給源から前記エアスプリングに圧縮エアを供給する給気状態と、前記エアスプリングから圧縮エアを排出させる排気状態と、前記エアスプリング内の圧縮エアを保持する保持状態と、の何れかの状態を選択的に実現可能に構成されたバルブ装置と、
前記バルブ装置を制御するコントローラと、
を有し、
前記コントローラは、
前記座部の高さが前記使用者により設定された前記座部の目標高さよりも低い位置に設定される下側閾値よりも低く、かつ、前記座部の高さと前記目標高さとの距離が所定値超である場合に前記座部を前記目標高さに向けて移動させるとき、前記座部の高さが前記下側閾値に達する第一時点まで前記バルブ装置を前記給気状態とし、前記座部の高さが前記目標高さよりも高い位置に設定される上側閾値よりも高く、かつ、前記座部の高さと前記目標高さとの距離が前記所定値超である場合に前記座部を前記目標高さに向けて移動させるとき、前記座部の高さが前記上側閾値に達する第二時点まで前記バルブ装置を前記排気状態とする第一の処理を実行し、
前記座部の高さが前記下側閾値よりも低く、かつ、前記座部の高さと前記目標高さとの距離が前記所定値以下である場合に前記座部を前記目標高さに向けて移動させるとき、または、前記座部の高さが前記上側閾値よりも高く、かつ、前記座部の高さと前記目標高さからの距離が前記所定値以下である場合に前記座部を前記目標高さに向けて移動させるとき、前記座部の高さから前記目標高さを減じた値に相当する偏差(e)の大きさを減少させるように機能する比例項(KP1・e、Kp1>0)と、前記偏差(e)の時間変化率(de/dt)の大きさが大きくなるほど前記偏差(e)の小さくなるように作用する速度補正項(-Kp2・de/dt、Kp>0)と、の和に基いて収束制御量(MV)を決定し、前記偏差(e)が正の値である場合、前記収束制御量(MV)に応じた時間に渡って前記バルブ装置を前記排気状態とし、前記偏差(e)が負の値である場合、前記収束制御量(MV)に応じた時間に渡って前記バルブ装置を前記給気状態とする第二の処理を実行する、ように構成された、
車両用の座席高さ調節装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用の座席高さ調節装置であって、
前記コントローラは、
前記第一の処理が終了してから第一の時間が経過した時点または前記第二の処理が終了してから第二の時間が経過した時点で、
前記座部の高さが前記下側閾値と前記上側閾値との間の範囲である目標範囲外にあり、かつ、前記偏差(e)が所定値超である場合には、再び前記第一の処理を実行し、
前記座部の高さが前記目標範囲外にあり、かつ、前記偏差(e)が前記所定値以下である場合には、再び前記第二の処理を実行するように構成された、
車両用の座席高さ調節装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用の座席高さ調節装置において、
前記コントローラは、
前記座部の高さが前記下側閾値よりも低く、かつ、前記座部の高さと前記目標高さとの距離が前記所定値超である場合に前記座部を前記目標高さに向けて移動させるとき、前記第一時点から第三の時間が経過するまでの間、前記バルブ装置を前記排気状態とし、前記座部の高さが前記上側閾値よりも高く、かつ、前記座部の高さと前記目標高さとの距離が前記所定値超である場合に前記座部を前記目標高さに向けて移動させるとき、前記第二時点から第四の時間が経過するまでの間、前記バルブ装置を前記給気状態とする逆駆動処理を実行するように構成された、
車両用の座席高さ調節装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両用の座席高さ調節装置であって、
前記コントローラは、前記比例項と、前記速度補正項と、前記偏差(e)が存在する状態が長くなるほど前記収束制御量(MV)の値を大きくするように作用する積分項(K×∫edt、K>0)との和に基づいて、前記収束制御量(MV)を決定するように構成される、
車両用の座席高さ調節装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の座席高さ調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、座席のフレームを弾性的に支持するエアスプリングと、このエアスプリングへの圧縮エアの導入と排出とを行うソレノイドバルブと、を有し、このエアスプリングへ圧縮エアを導入またはエアスプリングから圧縮エアを排出することで座席高さを調節することができる車両用座席のエアサスペンション装置が開示されている。そして、特許文献1に開示されている車両用座席のエアサスペンション装置は、コンプレッサーによるエアスプリングへの圧縮エアの導入とエアスプリングからの圧縮エアの排出を、リレー回路およびマイクロコンピューターなどを用いて自動的に制御するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6370262号
【発明の概要】
【0004】
ところで、エアスプリングによって座席の高さを調節する装置において、コンプレッサーにより供給される圧縮エアの流量の不均一、エアスプリングの応答性の不安定さ、および座席を上下移動可能に支持するフレームの摩擦係数(動摩擦係数と静摩擦係数)などからばらついたり、乗員の重量が相違したりすることで、高さ調節中の座席の移動速度に変動が生じることがある。このため、座席を目標高さで自動的に停止させようとしても、制御量が過多となって座席が目標高さを行き過ぎたり、制御量が不足して目標高さに到達しなかったりし、そのたびに座席の高さを微調節しなければならないため、座席を目標高さに停止させるまでに時間を要していた。
【0005】
なお、特許文献1には、座席の目標高さと現在の高さに応じてコンプレッサーのオンとオフを制御する構成が開示されているが、制御量の過多や不足が発生した場合に、座席を目標高さに微調節する方法は開示されていない。
【0006】
(発明が解決しようとする課題)
上記実情に鑑み、本発明は、エアサスペンションの特性や乗員の重量などの外的要因にばらつきがあった場合でも、座席を目標高さで停止させるために要する時間を短縮できる車両用の座席の高さ調節装置を提供することを目的とする。
【0007】
(課題を解決するための手段)
上記課題を解決するために本発明の車両用の座席の高さ調節装置は、車両の使用者が着座可能な座部(10)を弾性的に支持するとともに圧縮エアが供給されているとき座部(10)を上昇させ且つ圧縮エアが排出されているとき座部(10)を下降させるように構成されたエアスプリング(15)と、車両に搭載された圧縮エア供給源(19)からエアスプリング(15)に圧縮エアを供給する給気状態と、エアスプリング(15)から圧縮エアを排出させる排気状態と、前記エアスプリング(15)内の圧縮エアを保持する保持状態と、の何れかの状態を選択的に実現可能に構成されたバルブ装置(16)と、バルブ装置(16)を制御するコントローラ(20)と、を有し、コントローラ(20)は、座部(10)の高さが使用者により設定された座部(10)の目標高さ(Pter)よりも低い位置に設定される下側閾値(Th)よりも低く、かつ、座部(10)と目標高さ(Pter)との距離が所定値(δ)超である場合に座部(10)を目標高(Pter)さに向けて移動させるとき、座部(10)の高さ(P)が下側閾値(Th)に達する第一時点までバルブ装置(16)により給気状態を実現させ、座部(10)の高さが目標高さ(Pter)よりも高い位置に設定される上側閾値(Th)よりも高く、かつ、座部(10)と目標高さ(Pter)との距離が所定値(δ)超である場合に座部(10)を目標高さ(Pter)に向けて移動させるとき、座部(10)の高さ(P)が上側閾値(Th)に達する第二時点までバルブ装置(16)により排気状態を実現させる第一の処理を実行し、座部(10)の高さ(P)が下側閾値(Th)よりも低く、かつ、座部(10)の高さ(P)と目標高さ(Pter)との距離が所定値(δ)以下である場合に座部(10)を目標高さ(Pter)に向けて移動させるとき、または、座部(10)の高さ(P)が上側閾値(Th)よりも高く、かつ、座部(10)の高さ(P)と目標高さ(Pter)との距離が所定値(δ)以下である場合に座部(10)を目標高さ(Pter)に向けて移動させるとき、座部(10)の高さ(P)から目標高さ(Pter)を減じた値に相当する偏差(e)の大きさを減少させるように機能する比例項(KP1・e、Kp1>0)と、偏差(e)の時間変化率(de/dt)の大きさが大きくなるほど偏差(e)の大きさが小さくなるように作用する速度補正項(-Kp2・de/dt、Kp>0)と、の和に基いて収束制御量(MV)を決定し、偏差(e)が正の値ある場合、収束制御量(MV)に応じた時間に渡ってバルブ装置(16)により排気状態を実現させ、偏差(e)が負の値である場合、収束制御量(MV)に応じた時間に渡ってバルブ装置(16)により給気状態を実現させる第二の処理を実行する、ように構成される。
【0008】
このような構成によれば、座部(10)の高さ(P)が目標範囲(R)外にあり、かつ、座部(10)と目標高さ(Pter)との距離が所定値(δ)超である場合には、第一の処理が実行される。このためこの場合には、座部(10)を目標範囲(R)内に向けて速やかに移動させることができる。一方、座部(10)の高さ(P)が目標範囲(R)外にあり、かつ、座部(10)と目標高さ(Pter)との距離が所定値(δ)以下である場合には、第二の処理が実行される。このため、この場合には、オーバーシュートが抑制され、座部(10)を目標範囲(R)に収束させることができる。したがって、このような構成によれば、座部(10)を目標範囲(R)内で停止(移動を収束)させるのに要する時間を短くできる。
【0009】
また、コントローラ(20)は、第一の処理が終了してから第一の時間が経過した時点または第二の処理が終了してから第二の時間が経過した時点で、座部(10)の高さ(P)が目標範囲(R)外にあり、かつ、偏差(e)が所定値(δ)超である場合には、再び第一の処理を実行し、座部(10)の高さが目標範囲(R)外にあり、かつ、偏差(e)が所定値(δ)以下である場合には、再び第二の処理を実行するように構成されてもよい。
【0010】
このような構成によれば、座部(10)の高さ(P)が目標範囲(R)内に収束するまで、第一の処理または第二の処理が繰り返されるため、座部(10)を確実に目標範囲(R)内に収束させることができる。
【0011】
また、コントローラ(20)は、座部(10)の高さ(P)が使用者により設定された座部(10)の目標高さ(Pter)よりも低い位置に設定される下側閾値(Th)よりも低く、かつ、座部(10)の高さ(P)と目標高さ(Pter)との距離が所定値(δ)超である場合に座部(10)を目標高さ(Pter)に向けて移動させるとき、第一時点から第三の時間が経過するまでの間、バルブ装置(16)を排気状態に保持し、座部(10)の高さが目標高さ(Pter)よりも高い位置に設定される上側閾値(Th)よりも高く、かつ、座部(10)の高さ(P)と目標高さ(Pter)との距離が所定値(δ)超である場合に座部(10)を目標高さ(Pter)に向けて移動させるとき、第二時点から第四の時間が経過するまでの間、バルブ装置(16)を給気状態に保持する逆駆動処理を実行するように構成されてもよい。
【0012】
このような構成であれば、座部(10)が目標範囲(R)に達すると座部(10)の減速が開始される。このため、短時間で座部(10)を目標範囲(R)内に収束させることができる。
【0013】
また、コントローラ(20)は、比例項と、速度補正項と、偏差(e)が存在する状態が長くなるほど収束制御量(MV)の値を大きくするように作用する積分項(K×∫edt、K>0)との和に基づいて、前記収束制御量(MV)を決定するように構成されてもよい。
【0014】
このような積分項を加算することで、偏差(e)を小さくでき、座部(10)の高さ(P)の制御の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車両用の座席高さ調節装置、およびこの装置が適用された車両用の座席の構成例を示す側面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る車両用の座席高さ調節装置、およびこの装置が適用された車両用の座席の構成例を示すブロック図である。
図3図3は、座部の高さPの推移の例を模式的に示す図である。
図4図4は、第一の実施形態において、判断処理の例を示すフローチャートである。
図5図5は、第一の処理を実行するための処理の例を示すフローチャートである。
図6図6は、第二の処理を実行するための処理の例を示すフローチャートである。
図7図7は、第二の実施形態において、座部の高さの推移の例を模式的に示す図である。
図8図8は、第一の処理を実行するための処理の例を示すフローチャートである。
図9図9は、第一の処理を実行するための処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の各実施形態に係る車両用の座席高さ調節装置について、図面を参照して説明する。説明の便宜上、本発明の実施形態に係る車両用の座席高さ調節装置を、「本装置」と略して記すことがある。
【0017】
<第一の実施形態>
まず、第一の実施形態について説明する。第一の実施形態は、座部の高さを多段階に調節できる形態である。すなわち、本装置には、複数の互いに異なる高さがあらかじめ設定されている。そして、乗員等(車両の使用者)はあらかじめ設定されている複数の高さから任意の一つを選択できる。
【0018】
(本装置の構成)
図1は、本装置100および本装置100が適用された車両用の座席1の構成例を示す側面図である。図2は、本装置100および本装置100が適用された車両用の座席1の構成例を示すブロック図である。図1図2に示すように、車両用の座席1は、ベースフレーム12と、座部フレーム13と、Xリンク14と、座部10と、背もたれ部11とを有する。本装置100は、エアスプリング15と、高さ検出部17と、バルブ装置16と、バルブアクチュエータ162と、操作部18と、コントローラ20とを有する。
【0019】
ベースフレーム12は、図略の車体に取り付けられる。座部フレーム13はベースフレーム12の上方に配置されている。座部フレーム13の上側には、車両の使用者(乗員)が着座可能な座部10が取り付けられている。座部10には、背もたれ部11が相対的に回転可能に取り付けられている。ベースフレーム12と座部フレーム13とはXリンク14を介して連結されている。Xリンク14は、X字状に組付けられた一対のリンク部材141を有している。そして、座部フレーム13(座部10)は、ベースフレーム12(車体)に対して上下方向に相対移動可能である。なお、ベースフレーム12、座部フレーム13、座部10、背もたれ部11およびXリンク14の構成は特に限定されるものではなく、公知の各種構成が適用できる。要は、座部10(座部フレーム13)が車体(ベースフレーム12)に対して上下方向に相対移動可能に構成されていればよい。
【0020】
エアスプリング15は、ベースフレーム12と座部フレーム13との間に配置されており、圧縮エア供給源19から圧縮エアの供給を受けられるように構成されている。エアスプリング15の下端部はベースフレーム12に支持されており、エアスプリング15の上端部はXリンク14のリンク部材141に連結されている。このように、エアスプリング15は、Xリンク14および座部フレーム13を介して、座部10を弾性的に支持している。本実施形態では、エアスプリング15は、圧縮エアが供給されているときに座部10(座部フレーム13)を車体に対して上昇させ、圧縮エアが排出されているときに座部10を車体に対して下降させるように構成されている。なお、エアスプリング15の構成も特に限定されるものではなく、公知の各種エアスプリングが適用できる。
【0021】
圧縮エア供給源19は、エアスプリング15に圧縮エアを供給できるように構成されている。圧縮エア供給源19は、ベースフレーム12に配置される構成であってもよく、座席1の外部に配置される構成であってもよい。換言すると、本装置100が圧縮エア供給源19を有していてもよく、本装置100の外部の圧縮エア供給源19から圧縮エアの供給を受ける構成であってもよい。また、圧縮エア供給源19の構成も特に限定されるものではなく、公知の各種エアコンプレッサが適用できる。
【0022】
バルブ装置16は、バルブ161と、このバルブ161を駆動するバルブアクチュエータ162とを有している。バルブ装置16のバルブ161は、圧縮エア供給源19からエアスプリング15に圧縮エアを供給するための圧縮エアの経路上に設けられている。本実施形態では、バルブ装置16のバルブ161は、第一のポジションと第二のポジションと第三のポジションを有し、それらのうちの任意の一つの状態に切換可能に構成されている。第一のポジションは、圧縮エア供給源19とエアスプリング15とを空気が流通可能に連通するポジションであり、圧縮エア供給源19からエアスプリング15に圧縮エアを供給可能なポジションである。第二のポジションは、エアスプリング15と外部(外気)とを空気が流通可能に連通するポジションであり、エアスプリング15内の圧縮空気を排出可能なポジションである。第三のポジションは、エアスプリング15と圧縮エア供給源19および外部とを空気が流通不可能に遮断するポジション(エアスプリング15を気密状態に保つポジション)である。
【0023】
なお、本実施形態では、バルブ161は「開状態」と「閉状態」とが切り替えられる構成であればよく、開度を段階的または無段階(連続的)に調節できる構成でなくてもよい。また、バルブ161の構成は特に限定されるものではなく、公知の各種バルブが適用できる。要は、バルブ161は、前記のとおり、第一のポジションと第二のポジションと第三のポジションのうちの任意の一つのポジションに切替えることができる構成であればよい。
【0024】
また、バルブ装置16は、上記の3つのポジションに切り替え可能な一つのバルブ161を有する構成に限定されるものではなく、「開」状態と「閉」状態とに切り替え可能な2つのバルブ161を有する構成であってもよい。バルブ装置16が2つのバルブ161を有する場合には、一方のバルブ161が圧縮エア供給源19からエアスプリング15に圧縮エアを供給する圧縮エアの経路上に配置され、他方のバルブ161がエアスプリング15からの排気経路上に配置される構成が適用できる。そして、この場合、前記一方のバルブ161を「開」とし、前記他方のバルブ161を「閉」とすることで、圧縮エア供給源19からエアスプリング15に圧縮エアを供給できる(第一のポジション)。前記一方のバルブ161を「閉」とし、前記他方のバルブ161を「開」とすることで、エアスプリング15の圧縮エアを排出できる(第二のポジション)。両方のバルブ161を「閉」とすることで、エアスプリング15を気密に保つことができる(第三のポジション)。
【0025】
バルブ装置16のバルブアクチュエータ162は、後述するコントローラ20と電気的に接続されており、コントローラ20によって制御されてバルブ161を第一のポジションと第二のポジションと第三のポジションのうちの一つのポジションに切り替えることができる。なお、バルブアクチュエータ162の具体的な構成は特に限定されるものではない。バルブアクチュエータ162は、モータにより機械的にバルブ161を駆動する構成であってもよく、ソレノイドにより電磁的にバルブ161を駆動する構成であってもよい。
【0026】
バルブ装置16は、バルブアクチュエータ162がバルブ161を駆動することで、圧縮エア供給源19からエアスプリング15に圧縮エアを供給する給気状態にする制御と、エアスプリング15の圧縮空気を排出する排気状態にする制御と、エアスプリング15内の圧縮空気を保持する閉鎖状態とを、選択的に実現可能に構成されている。給気状態は、例えば、バルブ161を第一のポジションに保持する制御、バルブ161を周期的に第一のポジションと第三のポジションに切り替える制御などにより実現される。排気状態は、例えば、バルブ161を第二のポジションに保持する制御、バルブ161を周期的に第二のポジションと第三のポジションに切り替える制御などにより実現される。閉鎖状態は、バルブ161を第三のポジションに保持する制御により実現される。また、アクチュエータ162が作動していないときには、バルブ161は第三のポジションに保持される(閉鎖状態が実現する)ように構成されていてもよい。
【0027】
高さ検出部17は、現在の座部10の高さPを検出できるように構成されている。高さ検出部17には、例えば回転式のセンサ(角度センサ)や直動式のセンサが適用できる。高さ検出部17として回転式のセンサが適用される場合には、高さ検出部17はXリンク14の回転軸142の回転角度を検出できるように配置されている。また、高さ検出部17は、接触式と非接触式のいずれであってもよい。さらに、高さ検出部17の取り付け構造も特に限定されるものではない。要は、高さ検出部17は、接触式であるか非接触式であるか、直接的であるか間接的であるかを問わず、現在の座部10の高さPを検出できればよい。高さ検出部17は後述するコントローラ20と電気的に接続されている。そして、高さ検出部17は、座部10の高さPの検出結果をコントローラ20に送信できるように構成されている。
【0028】
操作部18は、乗員等が座部10の高さPを調節するために用いられる。操作部18は、座部10に座っている乗員が操作できる位置に設けられる。操作部18は、座部10に座っている乗員が操作可能な操作部材として、開始スイッチ181と高さ調節スイッチ182とを有する。開始スイッチ181は、本装置100を起動させるための操作部材である。高さ調節スイッチ182は、座部10の高さを調節するためのスイッチであり、第一の実施形態においては、あらかじめ設定されている複数の高さから任意の一つを選択できるように構成されている。操作部18は、後述するコントローラ20と電気的に接続されている。そして、操作部18は、開始スイッチ181の操作を検出すると、操作があったことを示す信号をコントローラ20に送信する。また、操作部18は、高さ調節スイッチ182により設定されている座部10の高さP(すなわち、目標高さPter)をコントローラ20に送信する。
【0029】
コントローラ20は、バルブ装置16のバルブアクチュエータ162を制御することで、バルブ161を駆動して座部10(座部フレーム13)を車体(ベースフレーム12)に対して昇降させることができる。コントローラ20は、CPUとROMとRAMとを有するコンピュータを有している。ROMには、バルブアクチュエータ162を制御するためのコンピュータプログラムがあらかじめ格納されている。そして、コンピュータのCPUは、ROMに格納されているコンピュータプログラムを読み出し、RAMに展開して実行する。これにより、後述の処理が実現する。なお、コントローラ20の配置位置は特に限定されるものではないが、例えば、ベースフレーム12、座部フレーム13、または座部10の内部などに配置される。
【0030】
(制御の概要)
次に、制御の概要について説明する。開始スイッチ181が操作される前の段階では、エアスプリング15に圧縮空気が供給されておらず、座部10は上下動可能な範囲の下端に位置している。開始スイッチ181が操作されると、コントローラ20が起動する。そして、コントローラ20は、起動すると、高さ調整スイッチ182により設定されている座部10の高さPを取得し、取得した座部10の高さPを目標高さPterに設定する。さらに、コントローラ20は、目標高さPterよりも低い位置に下側閾値Thを設定し、目標高さPterよりも高い位置に上側閾値Thを設定する。本実施形態では、この処理を「初期化処理」と記し、下側閾値Thと上側閾値Thとの間の範囲を「目標範囲R」と記す。
【0031】
そして、コントローラ20は、座部10の高さPが目標範囲R内に収まるように座部10を移動させる。また、コントローラ20は、起動後に高さ調節スイッチ182が操作されて座部10の高さPの設定が変更された場合には、変更後の座部10の高さを目標高さPterに設定し直すとともに目標範囲Rを設定し直し、座部10の高さPが設定し直した目標範囲R内に収まるように、座部10を移動させる。
【0032】
座部10を移動させる処理には、第一の処理と第二の処理が含まれる。
【0033】
第一の処理は、「座部10の高さPが目標範囲Rより低い位置から座部10を目標高さPterに移動させる(上昇させる)場合に、少なくとも座部10の高さPが下側閾値Thに達する時点(本発明の第一時点に対応する)までは、バルブ装置16を給気状態にする(給気状態を実現する)」という処理と、「座部10の高さPが目標範囲Rより高い位置から座部10を目標高さPterに移動させる(下降させる)場合に、少なくとも座部10の高さPが上側閾値Thに達する時点(本発明の第二時点に対応する)までは)、バルブ装置16を排気状態にする(給気状態を実現する)」という処理である。バルブ装置16が給気状態となるとエアスプリング15に圧縮エアが供給されて座部10が上昇する。また、バルブ装置16が排気状態となるとエアスプリング15の圧縮空気が排出されて座部10が下降する。
【0034】
さらに第一の処理には、座部10を制動するための逆駆動処理が含まれてもよい。逆駆動処理は、「座部10の高さPが目標範囲R内に達すると、座部10がそれまでとは逆方向に移動するような状態を、所定の時間にわたってバルブ装置16に実現させる」という処理である。具体的には、逆駆動処理は、「バルブ装置16を給気状態にして座部10を上昇させている場合には、座部10の高さPが下側閾値Thに達した時点(本発明の第一時点に対応する)で、バルブ装置16を給気状態から排気状態に切り替え、その後所定の時間(本発明の「第三の時間」に対応する)、排気状態を継続する(排気状態を実現する)」という処理と、「バルブ装置16を排気状態にして座部10を下降させている場合には、座部10が上側閾値Thに達した時点(本発明の第二時点対応する)で、バルブ装置16を排気状態から給気状態に切り替え、その後所定の時間(本発明の「第四の時間」に対応する)、給気状態に保持する(給気状態を実現する)」という処理である。
【0035】
このような逆駆動処理により、座部10を制動する。これは、エアスプリング15への圧縮エアの供給を停止しても、エアの圧縮性(弾性)により座部10は直ちには停止せずに移動が継続するためである。上記のような逆駆動処理を実行することで、座部10を制動し、座部10が目標範囲R内で停止するようにする。なお、逆駆動処理の継続時間、すなわち、第三の時間と第四の時間の長さは特に限定されるものではなく、適宜設定可能である。また、第三の時間と第四の時間は同じであってもよく、互いに相違してもよい。コントローラ20は、バルブ装置16を閉鎖状態に切り替えることで逆駆動処理を終了し、その後、バルブ装置16を閉鎖状態に保持する。
【0036】
第二の処理は、現在の座部10の高さPと目標高さPterとの偏差e、偏差eの時間変化(時間微分値)に応じて、所定の時間、バルブ装置16を給気状態または排気状態に保持する処理である。具体的には、第二の処理は、「座部10の高さPが下側閾値Thよりも低く、かつ、座部10と目標高さPterとの距離(偏差e)が所定値δ以下である場合に座部10を目標高さPterに向けて移動させるとき、または、座部10の高さPが上側閾値Thよりも高く、かつ、座部10の高さPと目標高さPterの距離(偏差e)が所定値δ以下である場合に座部10を目標高さPterに向けて移動させるとき、現在の座部10の高さPから目標高さPterからを減じた値に相当する偏差eの大きさを減少させるように機能する比例項(KP1・e、Kp1>0)と、この偏差eの時間変化率(de/dt)の大きさが大きくなるほど偏差eの大きさが大きくなるように作用する速度補正項(-Kp2・de/dt、Kp2>0)と、の和に基いて収束制御量MVを決定し、偏差eが正の値である場合、収束制御量MVに応じた時間に渡ってバルブ装置16に排気状態を実現させ、偏差eが負の値である場合、収束制御量MVに応じた時間に渡ってバルブ装置16に給気状態を実現させる」という処理である。
【0037】
より具体的には、バルブ装置16を給気状態または排気状態を保持する時間は、下記の数式(1)により演算される収束制御量MVの絶対値である。そして、コントローラ20は、偏差eが正の値である場合には、バルブ装置16を排気状態にし、偏差eが負の値である場合には、バルブ装置16を給気状態にする。

MV=Kp1×e-Kp2×(de/dt)・・・数式(1)

なお、数式(1)において、
MV:操作量
Kp:正の値を有する第一の係数
e :現在の座部10の高さPと目標高さPterとの偏差(=P-Pter
Kp:正の値を有する第二の係数
de/dt:偏差eの時間微分
である。
偏差eは、座部10の高さPが目標高さPterより低い場合に負の値となり、座部10の高さPが目標高さPterよりも高い場合に正の値となる。また、第一の係数Kpと第二の係数Kpの具体的な値は限定されるものではなく、エアスプリング15の応答性などに応じて適宜設定される。
【0038】
なお、コントローラ20は、収束制御量MVを、前記の比例項と、前記の速度補正項と、偏差eが存在する状態が長くなるほど収束制御量MVの値を大きくするように作用する積分項(K×∫edt、K>0)との和に基づいて、収束制御量MVを決定してもよい。具体的には、収束制御量MVは、前記数式(1)に代えて、下記数式(2)により演算されてもよい。

MV=Kp1×e-Kp2×(de/dt)+K×∫edt・・数式(2)

数式(2)において、
MV:操作量
p1:正の値を有する第一の係数
e :現在の座部10の高さPと目標高さPterとの偏差(現在の座部10の高さPが目標高さPterより低い場合に負の値となり、現在の座部10の高さPが目標高さPterよりも高い場合に正の値となる)
p2:正の値を有する第二の係数
de/dt:偏差eの時間微分
:第三の係数
∫edt:偏差eの時間積分
である。
【0039】
数式(1)と数式(2)から明らかなように、第二の処理では、座部10の高さPと目標高さPterに基づくフィードバック制御を実行する。具体的には、座部10の高さPと目標高さPterとの偏差eの一次関数とする比例制御に、この偏差eの時間微分を組み合わせた制御を実行する。
【0040】
数式(1)と数式(2)に示すように、第二の処理では、比例項(数式(1)の右辺第一項)から速度補正項(数式(1)と数式(2)の右辺第二項)を減算することで、第二の処理の継続時間を演算する。なお、通常のPID制御においては、微分項は、追従性を向上させるため、偏差の時間変化が大きい場合には操作量が大きくなるよう、比例項に加算される(符号がプラスである)。これに対して、本実施形態では、座部10の移動を収束させるため、比例項から減算される(符号がマイナスである)。このように、本実施形態における速度補正項は、通常のPID制御における微分項と機能が異なる。これは、速やかに座部10の移動を収束させるためにはハンチングを抑制する必要があるものの、エアスプリング15はエアの圧縮性によりハンチングが生じやすいことから、速度補正項の符号をマイナスとすることで、座部10の移動速度が大きい場合に座部10を制動する力を大きくし、速やかに座部10の移動を収束させる(停止させる)。
【0041】
本実施形態においては、座部10の高さPが目標範囲R外であり、かつ、目標高さPterの偏差eが所定値δ超である場合には、第一の処理によって座部10を移動させる。一方、座部10の高さPが目標範囲R外であり、かつ、座部10の高さPと目標高さPterの偏差eが所定値δ以下である場合には、第二の処理によって座部10を移動させる。なお、この所定値δの具体的な値は特に限定されるものではない。この所定値δの値は、バルブ161の応答特性などによって適宜設定可能である。
【0042】
そして、コントローラ20は、第一の処理が終了してから所定の時間(本発明の「第一の時間」に対応する)または第二の処理が終了してから所定の時間(本発明の「第二の時間」に対応する)が経過した時点で座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを検出し、目標範囲R内にある場合には、座部10の移動が目標範囲R内において収束したものと判断し、座部10の高さを調節する制御を終了する。一方、第一の処理または第二の処理が終了してから所定の時間(第一の時間または第二の時間)が経過した時点で座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、コントローラ20は、偏差eの大きさに応じて、再度、第一の処理または第二の処理を実行する。本実施形態では、このような処理を繰り返すことで、座部10の移動を目標範囲R内において収束させ、停止時における座部10の高さPを目標範囲R内に収める。
【0043】
なお、第一の処理または第二の処理を終了して所定の時間(第一の時間または第二の時間)が経過してから座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを判断するのは、エアスプリング15の特性が理由である。すなわち、第一の処理(逆駆動処理)または第二の処理の終了時点では、エアスプリング15の応答性のため、座部10の移動は直ちには停止しないことがある。そこで、第一の処理(逆駆動処理)または第二の処理を終了してから所定の時間が経過した時点において座部10の高さPが目標範囲R内にある場合には、座部10の移動が目標範囲R内において収束したものとみなす。なお、この所定の時間、すなわち、第一の時間と第二の時間の具体的な長さは特に限定されるものではない。この所定の時間は、エアスプリング15の応答性などに応じて適宜設定可能である。また、第一の時間と第二の時間は同じであってもよく相違してもよい。
【0044】
次に、このような処理を実行した場合における座部10の高さPの推移の例について説明する。図3は、座部10の高さPの推移の例を模式的に示す図である。図3は、コントローラ20の起動後において、座部10の高さPが目標高さPterよりも低く、かつ、座部10の高さPと目標高さPterとの距離(偏差e)が所定値δ超である例を示す。
【0045】
タイミングtは、開始スイッチ181が操作されたタイミングを示す。開始スイッチ181が操作されると、コントローラ20は初期化処理を実行する。そして、コントローラ20は、初期化処理の終了後、第一の処理を実行し、座部10を上昇させる。
【0046】
タイミングtは、座部10の高さPが目標範囲R内に入ったタイミングを示す。なお、タイミングtは、本発明の第一時点に対応する。コントローラ20は、第一の処理の実行中に、座部10の高さPが目標範囲R内に入ると、座部10を制動するための逆駆動処理を実行する。すなわち、図3に示す例のように、座部10を目標高さPterに下側から接近させる場合には、座部10の高さPが目標範囲R内に入ってから(下側閾値Thに達してから)所定の時間(第三の時間)が経過するまでの間、バルブ装置16を排気状態に保持する逆駆動処理を実行する。一方、座部10を目標高さPterに上側から接近させる場合には、座部10の高さPが目標範囲R内に入ってから(上側閾値Thに達してから)所定の時間(第四の時間)が経過するまでの間、バルブ装置16に給気状態に保持する。そして、コントローラ20は、逆駆動処理を開始してから所定の時間が経過すると、バルブ装置16を閉鎖状態に切り替えることで逆駆動処理を終了する。これにより、第一の処理が終了する。
【0047】
第一の処理(逆駆動処理)の終了時点(図3の例ではタイミングt)では、エアスプリング15の応答性のため、図3に示す例のように、座部10の移動が直ちには停止しないことがある。そこで、第一の処理(逆駆動処理)を終了してから所定の時間が経過した時点(図3においては、タイミングt)において座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを判断する。図3に示す例では、第一の処理(逆駆動処理)を終了してから所定の時間が経過した時点(タイミングt)において座部10の高さPが目標範囲R内にない。このため、第一の処理または第二の処理を実行する。なお、図3に示す例では、第一の処理(逆駆動処理)を終了(タイミングt)してから所定の時間が経過した時点(タイミングt)における偏差eが所定値δ超であるため、コントローラ20は第一の処理を実行する。図3に示す例では、タイミングt~tの間が、二回目の第一の処理(そのうち、タイミングt~tは逆駆動処理)が実行されている期間である。
【0048】
二回目の第一の処理が終了(タイミングt)して所定の時間が経過した時点(タイミングt)における座部10の高さPは目標範囲R外であり、偏差eは所定値δ以下である。このため、コントローラ20は、第二の処理を実行する。図3に示す例では、タイミングt~tの間が、第二の処理が実行されている期間である。第二の処理が終了(タイミングt)して所定の時間が経過した時点(タイミングt)における座部10の高さPは目標範囲R内にある。このため、コントローラ20は、第一の処理と第二の処理のいずれをも実行しない。このため、それ以降、バルブ161は第三のポジションに保持される。
【0049】
このように、座部10の高さPが目標範囲P内に位置するまで、コントローラ20は、第一の処理または第二の処理の実行と所定の時間の待機とを交互に繰り返す。
【0050】
そして、本実施形態においては、コントローラ20は、座部10の高さPと目標高さPterの距離(偏差e)が所定値δ超である場合には、第一の処理により座部10を目標高さPterに向けて移動させ、偏差eが所定値δ以下である場合には、第二の処理により座部10を目標高さPterに向けて移動させる。このため、距離(偏差e)の絶対値が大きい場合には、第一の処理により座部10を速やかに移動させることができる。
【0051】
そして、距離(偏差e)の絶対値が小さくなると、第二の処理により座部10の移動を収束させることができる。すなわち、数式(1)または数式(2)により演算される収束制御量MVの絶対値は、偏差eの時間変化が大きくなるほど大きくなる。したがって、偏差eの時間変化が大きくなるほど座部10を強力に制動できるから、座部10の移動の収束に要する時間を短くできる。したがって、座部10の移動の収束に要する時間を短くできる。
【0052】
また、コントローラ20は、第一の処理または第二の処理が終了してから所定の時間が経過した時点で、座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、偏差eの大きさに応じて、再び第一の処理または第二の処理を実行する。このような構成によれば、座部10の高さPが目標範囲R内に収束するまで、第一の処理または第二の処理が繰り返される。したがって、座部10を確実に目標範囲R内で停止させることができる。
【0053】
さらに、第一の処理に前記のような逆駆動処理が含まれると、座部10は目標範囲R内に達した時点で制動される。このため、いわゆるオーバーシュートが防止または抑制されるから、座部10の目標範囲R内への移動の収束に要する時間を短くできる。
【0054】
また、収束制御量MVの演算に、数式(1)に代えて数式(2)を使用すると、座部10の高さ制御の精度を高めることができる。すなわち、数式(2)の右辺第三項は偏差の積分項であり、偏差eを小さくするように作用する。このため、座部10の停止高さを目標高さPterに接近させることができる。
【0055】
(処理の内容)
次に、コントローラ20が実行する処理の内容について説明する。コントローラ20が実行する処理には、初期化処理と、判断処理と、第一の処理と、第二の処理とが含まれる。初期化処理は、目標高さPterを設定する処理である。判断処理は、第一の処理と第二の処理を実行するか否かを判断する処理である。第一の処理および第二の処理は、座部10を目標高さPter(目標範囲R内)に向けて移動させる処理である。なお、これらの処理を実行するためのコンピュータプログラムは、あらかじめコントローラ20のコンピュータのROMなどに格納されている。そして、コントローラ20のCPUは、ROMからこのコンピュータプログラムを読み出し、RAMに展開して実行する。これにより、前記各処理が実現する。
【0056】
(初期化処理)
コントローラ20は、操作部18から開始スイッチ181の操作があったことを示す信号を受信すると、初期化処理を開始する。多段階方式である場合には、コントローラ20は、高さ調節スイッチ182により設定されている高さを取得し、この高さを目標高さPterに設定する。さらに、コントローラ20は、目標高さPterよりも低い位置に下側閾値Thを設定し、目標高さPterよりも高い位置に上側閾値Thを設定する。そして、コントローラ20は、目標高さPterと下側閾値Thと上側閾値Th(目標範囲R)を設定すると、初期化処理を終了する。
【0057】
(判断処理)
図4は、判断処理の例を示すフローチャートである。コントローラ20は、初期化処理が終了後、図4に示す判断処理を、所定の周期で繰り返し実行する。
【0058】
コントローラ20は、判断処理を開始する(ステップS401)と、ステップS402において、高さ調節スイッチ182の操作があったか否かを判断する。操作があった場合には、ステップS403に進む。ステップS403において、コントローラ20は、目標高さPterを取得する。また、後述する第一の処理フラグと第二の処理フラグが成立中である場合には、それらの成立をすべて解除する。そしてステップS404に進む。このように、コントローラ20は、初期化処理の終了後は、高さ調節スイッチ182の操作があったか否かの判断を継続する。
【0059】
ステップS402において、高さ調節スイッチ182の操作が無い場合には、ステップS405に進む。ステップS405において、コントローラ20は、第一の処理フラグまたは第二の処理フラグが成立しているか否かを判断する。成立している場合には、ステップS404に進む。
【0060】
ステップS405において、第一の処理フラグまたは第二の処理フラグが成立中ではないと判断された場合には、ステップS406に進む。ステップS406において、コントローラ20は、高さ検出部17が検出した座部10の高さP(すなわち、現在の座部10の高さP)を取得する。ステップS407において、コントローラ20は、取得した座部10の高さPが目標範囲R内であるか否かを判断する。座部10の高さPが目標範囲R内である場合には、座部10を移動させる必要がないことから、ステップS404に進む。
【0061】
座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、ステップS408に進む。ステップS408において、コントローラ20は、偏差eが所定値δ以下であるか所定値δ超であるかを判断する。所定値δ超である場合には、ステップS409に進み、コントローラ20は第一の処理フラグを成立させる。所定値δ以下である場合には、ステップS410に進み、コントローラ20は第二の処理フラグを成立させる。そしてステップS404に進み、判断処理を終了する。
【0062】
(第一の処理)
図5は、第一の処理を実行するための処理の例を示すフローチャートである。コントローラ20は、初期化処理が終了すると、図5のフローチャートに示す処理を、所定の周期で繰り返し実行する。
【0063】
コントローラ20は、この処理を開始すると(ステップS501)、ステップS502において第一の処理フラグが成立中であるか否かを判断する。成立中でない場合にはステップS503に進む。成立中である場合には、ステップS504に進む。ステップS504において、コントローラ20は、第二の処理フラグが成立中であるか否かを判断する。第二の処理フラグが成立中である場合には、ステップS503に進む。第二の処理フラグが成立中でない場合には、ステップS505に進む。
【0064】
ステップS505において、コントローラ20は、高さ検出部17が検出した現在の座部10の高さPを取得する。
【0065】
ステップS506は、処理分岐条件の判断を行うステップである。第一の処理に含まれる逆駆動処理の開始前である場合にはステップS507に進み、逆駆動処理の実行中である場合にはステップS510に進み、逆駆動処理の終了後である場合にはステップS513に進む。
【0066】
逆駆動処理の開始前である場合には、ステップS507において、コントローラ20は、第一の処理に含まれる処理として、バルブ装置16を制御し座部10を目標高さPterに向けて移動させる処理を実行する。具体的には、コントローラ20は、座部10の高さPが目標高さPterより下側である場合には、バルブ装置16に給気状態にして座部10を上昇させる。一方、座部10の高さPが目標高さPterより上側である場合には、バルブ装置16を排気状態に保持して座部10を下降させる。
【0067】
ステップS508において、座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを判断する。座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、ステップS503に進む。このため、座部10の高さPが目標範囲R内に到達するまで(座部10が下側から目標高さPterに向けて移動する場合には、座部10の高さPが下側閾値Thに達するまで)、座部10の目標高さPterに向けての移動が継続する。
【0068】
ステップS508において座部10の高さPが目標範囲R内に達したと判断された場合には、ステップS509に進み、逆駆動処理を開始する。逆駆動処理の内容は前記のとおりである。そして、ステップS503に進む。
【0069】
逆駆動処理が開始されると、ステップS501、S502、S504、S505、S506を経てステップS510に進む。ステップS510において、コントローラ20は逆駆動処理を継続する。ステップS511において、コントローラ20は、逆駆動処理の終了条件が成立したか否かを判断する。本実施形態では、逆駆動処理を開始してから所定の時間が継続した場合に、逆駆動処理の終了条件が成立する。逆駆動処理の終了条件が成立していない場合には、ステップS503に進む。このため、逆駆動処理の開始後、逆駆動処理の終了条件が成立するまでは、ステップS501、S502、S504、S505、S506、S510、S511、S503のステップが繰り返されることになり、逆駆動処理が継続する。
【0070】
ステップS511において逆駆動処理の終了条件が成立したと判断した場合には、ステップS512に進む。ステップS512において、コントローラ20は逆駆動処理を終了する。具体的には、コントローラ20は、バルブ装置16を閉鎖状態に切り替える(バルブ161を第三のポジションに切り替える)。そしてステップS503に進む。
【0071】
逆駆動処理の終了後は、S501、S502、S504、S505、S506を経てステップS513に進む。ステップS513において、コントローラ20は、逆駆動処理が終了してから所定の時間が経過したか否かを判断する。所定の時間が経過していない場合には、ステップS503に進む。このため、逆駆動処理が終了してから所定の時間が経過していない間は、S501、S502、S504、S505、S506、S513、S503の処理を繰り返す。したがってこの間は、バルブ161は第三のポジション(エアスプリング15と圧縮エア供給源19および外部との間で空気が流通不可能な状態)に保持される。
【0072】
ステップS513において所定の時間が経過したと判断された場合には、ステップS514に進み、コントローラ20は第一の処理フラグの成立を解除する(不成立にする)。そしてステップS515に進む。
【0073】
ステップS515において、コントローラ20は、現在の座部10の高さP(すなわち、周期的に繰り返し実行されるステップS505のうち、最後に実行されたステップS505において取得された座部10の高さP)が目標範囲R内にあるか否かを判断する。目標範囲R内にある場合には、ステップS503に進む。目標範囲R内にない場合には、ステップS516に進む。
【0074】
ステップS516において、コントローラ20は、偏差eが所定値δ以下であるか否かを判断する。所定値δ超である場合には、ステップS517に進み、コントローラ20は第一の処理フラグを成立させる。所定値δ以下である場合には、ステップS518に進み、コントローラ20は第二の処理フラグを成立させる。そしてステップS503に進む。
【0075】
(第二の処理)
次いで、第二の処理について説明する。図6は、第二の処理を実行するための処理の例を示すフローチャートである。コントローラ20は、初期化処理が終了すると、この図6に示す一連の処理を所定の周期で繰り返し実行する。
【0076】
コントローラ20は、ステップS601においてこの処理を開始すると、ステップS602において第二の処理フラグが成立中であるか否かを判断する。第二の処理フラグが成立中でない場合には、ステップS603に進む。このため、第二の処理フラグが成立中でない場合には、第二の処理は新たに開始されない。
【0077】
ステップS602において第二の処理フラグが成立中であると判断された場合には、ステップS604に進む。ステップS604において、コントローラ20は、高さ検出部17が検出した座部10の高さPを取得する。
【0078】
ステップS605は、処理分岐条件の判断のステップであり、第二の処理の開始前である場合にはステップS606に進み、第二の処理の実行中である場合にはステップS608に進み、第二の処理の終了後である場合にはステップS612に進む。
【0079】
コントローラ20は、第二の処理の開始前である場合には、ステップS606において、収束制御量MVを演算する。そして、ステップS607において、コントローラ20は、演算した収束制御量MVを使用して第二の処理を開始する。第二の処理の内容は前記のとおりである。そしてステップS603に進む。
【0080】
第二の処理の開始後は、ステップS601、S602、S604、S605を経て、ステップS608に進む。ステップS608において、コントローラ20は第二の処理を継続する。そして、ステップS609において、コントローラ20は、第二の処理の終了条件が成立したか否かを判断する。本実施形態では、第二の処理を開始してから数式(1)または数式(2)で演算される時間(すなわち、収束制御量MVの絶対値)が経過した場合に、第二の処理の終了条件が成立したと判断する。第二の処理の終了条件が成立していない場合には、ステップS603に進む。このため、第二の処理の開始後、第二の処理の終了条件が成立するまでの間は、ステップS601、S602、S604、S605、S608、S609のステップが繰り返されることになり、第二の処理が継続する。
【0081】
ステップS609において、第二の処理の終了条件が成立したと判断された場合には、ステップS610に進む。S610において、コントローラ20は、座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを判断する。座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、ステップS603に進む。目標範囲R内にある場合には、ステップS611に進む。ステップS611において、コントローラ20は第二の処理を終了する。すなわち、コントローラ20は、バルブ装置16を閉鎖状態に切り替える。そして、ステップS603に進む。
【0082】
第二の処理の終了後は、ステップS601、S602、S604、S605を経て、ステップS605からステップS612に進む。ステップS612において、コントローラ20は、第二の処理が終了してから所定の時間が経過したか否かを判断する。経過していない場合には、ステップS603に進む。このため、第二の処理が終了してから所定の時間が経過するまでの間は、ステップS601、S602、S604、S605、ステップS612、ステップS603のステップが繰り返されることになり、バルブ161は第三のポジションに保持される。
【0083】
ステップS612において、第二の処理が終了してから所定の時間が経過したと判断された場合には、ステップS613に進む。ステップS613において、コントローラ20は第二の処理のフラグの成立を解除する。ステップS614において、第二の処理が終了してから所定の時間が経過した時点における座部10の高さP(最後に実行されたステップS604において取得された座部10の高さP)が目標範囲R内にあるか否かを判断する。目標範囲R内にある場合には、ステップS603に進む。この場合、ステップS613において第二の処理のフラグの成立が解除されたため、これ以降、ステップS602からステップS603に進む。したがって、第二の処理が終了してから所定の時間が経過した時点における座部10の高さPが目標範囲R内にあると判断された場合には、バルブ161は第三のポジションに保持される。
【0084】
一方、ステップS614において座部10の高さPが目標範囲R内にないと判断された場合には、ステップS615に進む。ステップS615において、コントローラ20は、偏差eが所定値δ以下であるか否かを判断する。所定値δ超である場合には、ステップS616に進み、コントローラ20は第一の処理フラグを成立させる。このため、第二の処理が終了してから所定の時間が経過した時点における座部10の高さPが目標範囲R外にあり、かつ、偏差eが所定値δ超である場合には、第一の処理が実行されることになる。一方、偏差eが所定値δ以下である場合には、ステップS617に進み、第二の処理フラグを成立させる。このため、第二の処理が終了してから所定の時間が経過した時点における座部10の高さPが目標範囲R外にあり、かつ、偏差eが所定値δ以下である場合には、再度、第二の処理が実行されることになる。
【0085】
なお、図4に示すように、高さ調整スイッチ182が操作されると、第一の処理フラグと第二の処理フラグの成立は解除される(ステップS402、S403)。このため、高さ調整スイッチ182が操作されると、コントローラ20は、高さ調整スイッチ182の操作に応じて目標高さPterを変更し、変更した目標高さPterを使用して、第一の処理または第二の処理を実行する。
【0086】
<第二の実施形態>
次いで、本発明の第二の実施形態について説明する。第二の実施形態は、座部10の高さPを無段階に調節できる形態である。なお、第一の実施形態と同じ構成については同じ符号を付して示し、説明を省略することがある。
【0087】
第二の実施形態に係る本装置100は、操作部18の高さ調節スイッチ182を除いて第一実施形態と同じ構成が適用できる。
【0088】
操作部18の高さ調節スイッチ182は、座部10の高さPを調節するためのスイッチであり、座部10を上昇させるための上昇操作と下降させるための下降操作を行えるように構成されている。そして、コントローラ20は、高さ調節スイッチ182の上昇操作が行われている間は、バルブ装置16を給気状態に保持して座部10の上昇を継続する。一方、コントローラ20は、高さ調節スイッチ182の下降操作が行われている間は、バルブ装置16を排気状態に保持して座部10の下降を継続させる。また、コントローラ20は、高さ調節スイッチ182に上昇操作と下降操作のいずれも行われていない間は、バルブ161を第三のポジションに保持し、座部10を昇降させない。
【0089】
(制御の概要)
次に、制御の概要について説明する。コントローラ20は、起動すると、前回シャットダウンした時点における座部10の高さPを、起動時における目標高さPterに設定する。また、コントローラ20は、起動後に高さ調節スイッチ182が操作されてその後操作が終了した場合には、操作が終了した時点における高さ検出部17による座部10の高さPの検出結果(例えば、高さ検出部17にポジションセンサが適用される場合には、ポジションセンサによる検出結果(検出値)に基づいて演算される座部10の高さP)又は計算上の座部10の高さ(高さ調節スイッチ182の操作時間と、座部10の設計上の移動速度から計算される座部10の高さ)を目標高さPterに設定する。
さらに、コントローラ20は、設定した目標高さPterよりも低い位置に下側閾値Thを、高い位置に上側閾値Thを設定する。そして、コントローラ20は、座部10が下側閾値と上側閾値との間の目標範囲R内に位置するように座部10を移動させる。
【0090】
図7は、座部10の高さPの推移の例を模式的に示す図である。タイミングtは、開始スイッチ181が操作されたタイミングを示す。開始スイッチ181の操作前におけるエアスプリング15の状態、および開始スイッチ181の操作された場合に実行する初期化処理は、前回シャットダウンした時点における座部10の高さPを起動時における目標高さPterに設定する点を除き、第一の実施形態と同じでよい。
【0091】
コントローラ20は、初期化処理後であって、高さ調節スイッチ182が操作されている間は、上昇操作であるか下降操作であるかに応じてバルブ装置16を給気状態または排気状態を保持し、座部10の上昇または下降を継続させる。なお、図7は、タイミングtからタイミングtの間において高さ調節スイッチ182の上昇操作が継続した例を示す。
【0092】
コントローラ20は、高さ調節スイッチ182に対する操作が終了したタイミング(タイミングt)において座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、所定の時間、逆駆動処理を継続し、所定の時間が経過後、バルブ装置16を閉鎖状態に切り替える。図7においては、タイミングt~tが逆駆動処理を継続している時間を示す。なお、逆駆動処理の内容は、第一の実施形態と同じでよい。
【0093】
コントローラ20は、逆駆動処理が終了(タイミングt)してから所定の時間(第一の時間または第二の時間)が経過した時点(図7においてはタイミングt)において、座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを判断する。そして、座部10の高さPが目標範囲R内にある場合には、コントローラ20は、そのままバルブ装置16のバルブ161を第三のポジションに保持する。一方、座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、偏差eが所定値δ超であるか所定値δ以下であるかに応じて、座部10を目標範囲R内に移動させる第一の処理または第二の処理を実行する。
【0094】
すなわち、座部10の高さPが目標範囲R外であり、かつ、偏差eが所定値δ超であれば、コントローラ20は第一の処理を実行する。一方、座部10の高さPが目標範囲R外であり、かつ、偏差eが所定値δ以下であれば、コントローラ20は第二の処理を実行する。なお、第一の処理と第二の処理の内容も、第一の実施形態と同じでよい。図7では、タイミングtにおける座部10の高さPが目標範囲R外であり、かつ、偏差eが所定値δ超である例を示す。この場合には、タイミングtにおいて第一の処理が開始される。
【0095】
コントローラ20は、第一の処理または第二の処理を開始してから所定の時間が経過すると、バルブ161を第三のポジションに切り替えて第一の処理または第二の処理を終了する。そして、コントローラ20は、第一の処理または第二の処理を終了してから所定の時間が経過した時点における座部10の高さPが、目標範囲R内にあるか否かを判断する。座部10の高さPが目標範囲R内にある場合には、バルブ161を第三のポジションに保持する。座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、偏差eが所定値δ以下であるか所定値δ超であるかに応じて、再度、第一の処理または第二の処理を実行する。
【0096】
図7では、第一の処理が終了してから所定の時間が経過した時点(タイミングt)において、座部10の高さPが目標範囲R外であり、偏差eが所定値δ以下である例を示す。この場合には、コントローラ20は、タイミングtにおいて第二の処理を開始する。図7中のタイミングtは、第二の処理の終了のタイミングを示す。そして、コントローラ20は、第二の処理が終了してから所定の時間が経過した時点(タイミングt)における座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを判断し、目標範囲R内にある場合には、第一の処理または第二の処理を実行せず、バルブ装置16を閉鎖状態に保持する。目標範囲R内にない場合には、偏差eが所定値δ以下であるか所定値δ超であるかに応じて第一の処理または第二の処理を実行する。
【0097】
このように、座部10の高さPが目標範囲R内に収束するまで、コントローラ20は、第一の処理または第二の処理の実行と所定時間の待機とを交互に繰り返す。
【0098】
このような構成によれば、座部10の高さを無段階に調節する場合であっても、第一の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0099】
(処理の内容)
次に、コントローラ20が実行する処理の内容について説明する。コントローラ20が実行する処理には、初期化処理と、第一の処理と、第二の処理と、第三の処理とが含まれる。第三の処理は、高さ調節スイッチ182が操作された場合に、その操作に応じてバルブ装置16を制御するとともに、操作が終了した後に第一の処理と第二の処理を実行するか否かの判断を行う処理である。なお、初期化処理と第一の処理と第二の処理は、第一実施形態と同じ処理が適用できるため説明を省略する。
【0100】
(第三の処理)
図8図9は、第三の処理を実行するための処理の例を示すフローチャートである。コントローラ20は、初期化処理が終了後、図8図9に示す一連の処理を、所定の周期で繰り返し実行する。
【0101】
コントローラ20は、この一連の処理を開始すると(ステップS801)、ステップS802において、高さ調節スイッチ182の操作があるか否かを判断する判断する。高さ調節スイッチ182の操作がない場合にはステップS803に進み、高さ調節スイッチ182の操作がある場合にはステップS901(図9参照)に進む。
【0102】
高さ調節スイッチ182の操作がない場合、ステップS803において、コントローラ20は、後述する操作フラグが成立中であるか否かを判断する。操作フラグが成立中でない場合にはステップS804に進む。ステップS804において、コントローラ20は、第一の処理フラグまたは第二の処理フラグが成立中であるか否かを判断する。第一の処理フラグと第二の処理フラグのいずれも成立中でない場合には、ステップS805に進む。
【0103】
第一の処理フラグと第二の処理フラグのいずれかが成立中である場合にはステップS806に進む。ステップS806において、コントローラ20は、高さ検出部17が検出した座部10の高さP(すなわち、現在の座部10の高さP)を取得する。ステップS807において、コントローラ20は、座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを判断する。目標範囲R内にある場合には、ステップS805に進む。目標範囲R内にない場合には、ステップS808に進む。
【0104】
ステップS808において、コントローラ20は、偏差eが所定値δ以下であるか否かを判断する。偏差eが所定値δ超である場合にはステップS809に進み、コントローラ20は第一の処理フラグを成立させる。偏差eが所定値δ以下である場合にはステップS810に進み、コントローラ20は第二の処理フラグを成立させる。このような処理によれば、高さ調節スイッチ182が操作されていない状態で、座部10の高さPが目標範囲R内にない場合には、偏差eの大きさに応じて第一の処理または第二の処理が開始される。
【0105】
ステップS802において高さ調節スイッチ182の操作があると判断された場合には、ステップS811に進む。ステップS8111においては、コントローラ20は、ステップS802において高さ調節スイッチ812の操作があると判断された時点でバルブ装置16を駆動している(第一の状態または第二の状態にしている)場合には、バルブ装置16の駆動を終了する。また、コントローラ20は、第一の処理フラグまたは第二の処理フラグが成立中である場合には、成立を解除する(すなわち、第一の処理フラグと第二の処理フラグのいずれもが成立していない状態にする)とともに、高さ調節スイッチ182の操作があったことを示す操作フラグを成立させる。さらに、高さ検出部17が検出した座部10の高さPを取得する。
【0106】
ステップS812においては、コントローラ20は、高さ調節スイッチ182の操作に応じてバルブ装置16を制御し、座部10を移動させる。すなわち、コントローラ20は、高さ調節スイッチ182が上昇操作されている場合には、バルブ装置16を給気状態とし、高さ調節スイッチ182が下降操作されている場合には、バルブ装置16を排気状態とする。そして、ステップS805に進む。このため、高さ調節スイッチ182の操作中である場合には、ステップS801、S802、S811、S812、S805のステップが繰り返されることになり、高さ調節スイッチ182の操作に応じた座部10の移動が継続する。
【0107】
ステップS802において高さ調節スイッチ182の操作がないと判断され、ステップS803において操作フラグが成立中であると判断れた場合には、ステップS901に進む。すなわち、高さ調節スイッチ182が操作され、その後その操作が終了した場合には、ステップS901に進む。
【0108】
ステップS901は、処理分岐条件の判断を行うステップである。逆駆動処理の開始前である場合にはステップS902に進み、逆駆動処理の実行中である場合にはステップS904に進み、逆駆動処理の終了後である場合にはステップS907に進む。
【0109】
ステップS902において、コントローラ20は目標高さPterを取得する。この場合の目標高さPterは、高さ検出17による座部10の高さ(例えば、高さ検出部17にポジションセンサが適用される場合には、ポジションセンサによる検出結果(検出値)に基づいて演算される座部10の高さP)又は高さ調節スイッチ182の操作の継続時間と座部10の移動速度の設計値に基づいて演算される高さである。ステップS903において、コントローラ20は逆駆動処理を開始する。このように、高さ調節スイッチ182の操作が終了すると、コントローラ20は逆駆動処理を開始する。そして、ステップS805に進む。逆駆動処理の開始後は、S801、S802、S803、S901を経て、ステップS904に進む。
【0110】
ステップS904においては、コントローラ20は、逆駆動処理を継続する。ステップS905においては、コントローラ20は、逆駆動処理の終了条件が成立したか否かを判断する。コントローラ20は、逆駆動処理を開始してから所定の時間が経過した場合に、逆駆動処理の終了条件が成立したと判断する。逆駆動処理の終了条件が成立していない場合には、ステップS805に進む。このため、逆駆動処理を開始してからから逆駆動処理の終了条件が成立するまでの間は、ステップS801、S802、S803、S901、S904、S905のステップが繰り返されることになり、逆駆動処理が継続する。
【0111】
ステップS905において逆駆動処理の終了条件が成立したと判断された場合には、ステップS906に進み、コントローラ20は、バルブ装置16に閉鎖状態に切り替えて逆駆動処理を終了する。そして、ステップS805に進む。
【0112】
逆駆動処理の終了後は、ステップS801、S802、S803、S901を経てステップS907に進む。ステップS907において、コントローラ20は、逆駆動処理が終了してから所定の時間が経過したかを判断する。所定の時間が経過していない場合には、ステップS805に進む。このため、逆駆動処理が終了してから所定の時間が経過するまでは、バルブ161は第三のポジションに保持される。所定の時間が経過した場合には、ステップS908に進み、コントローラ20は、操作フラグの成立を解除する。そして、ステップS909に進む。
【0113】
ステップS909においては、コントローラ20は、座部10の高さPが目標範囲R内にあるか否かを判断する。座部10の高さPが目標範囲R内にある場合には、ステップS805に進む。この場合には、その後第一の処理または第二の処理が実行されるか、高さ調節スイッチ182が操作されるまでは、バルブ161は第三のポジションに保持される。
【0114】
ステップ908において、座部10の高さPが目標範囲R内にないと判断された場合には、ステップS910に進む。ステップS910においては、コントローラ20は、偏差eが所定値δ以下であるか否かを判断する。偏差eが所定値δ超である場合には、ステップS911に進み、コントローラ20は第一の処理フラグを成立させる。偏差eが所定値δ以下である場合には、ステップS912に進み、コントローラ20は第二の処理フラグを成立させる。そしてステップS805に進む。
【0115】
このように、高さ調節スイッチ182が操作されていない場合には、座部10の高さPに応じて、第一の処理または第二の処理が実行されるか、いずれも実行されない。高さ調節スイッチ182が操作された場合には、高さ調節スイッチ182の操作に応じて座部10の昇降が行われるとともに、操作が終了すると逆駆動処理が実行される。また、ステップS811、S812に示すように、高さ調節スイッチ182が操作された場合には、高さ調節スイッチ182の操作に応じたバルブ装置16の駆動が優先される。
【0116】
以上、本発明の実施形態および変形例について説明したが、本発明は前記実施形態や変形例に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変が可能であり、それらも本発明の範囲に含まれる。
【0117】
例えば、前記実施形態では、座部10がXリンク14によって車体に連結される構成を示したが、座部10と車体の連結構造はXリンク14に限定されるものではない。要は、座部10が車体に対して上下方向に相対移動可能に連結されていればよい。
【0118】
また、前記各実施形態では、エアスプリング15がベースフレーム12とXリンク14のリンク部材141にまたがるように配置される構成を示したが、エアスプリング15の配置構造もこのような構成に限定されるものではない。また、エアスプリング15が座部10を直接的に支持するか間接的に支持するかは限定されるものではない。エアスプリング15は、直接的にまたは間接的に座部10を弾性的に支持する構成であればよく、いずれの部材に連結や固定されるかは限定されるものではない。
【0119】
また、前記各実施形態では、車両用の座席の高さ調節装置100がコントローラ20を有する構成を示したが、このような構成に限定されるものではない。車両が有する他のECUが本発明のコントローラ20の機能を有してもよい。また、コントローラ20がバルブ装置16に含まれていてもよい。
【0120】
また、前記各実施形態では、座部10の高さPが目標範囲R外にあり、かつ、偏差eが所定値δ超である場合に第一の処理を実行し、偏差eが所定値δ以下である場合に第二の処理を実行する構成を示すが、偏差eが所定値δ以上である場合に第一の処理を実行し、偏差eが所定値δ未満である場合に第二の処理を実行する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0121】
100…車両用の座席の高さ調節装置、1…座席、10…座部、11…背もたれ部、12…ベースフレーム、13…座部フレーム、14…Xリンク、141…リンク部材、142…回転軸、15…エアスプリング、16…バルブ装置、161…バルブ、162…バルブアクチュエータ、17…高さ検出部、18…操作部、181…開始スイッチ、182…高さ調節スイッチ、19…圧縮エア供給源、20…コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9