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  • 特許-ワンタッチ固定式ロックボルト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】ワンタッチ固定式ロックボルト
(51)【国際特許分類】
   E21D 20/00 20060101AFI20231106BHJP
【FI】
E21D20/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020046309
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147803
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】三河内 永康
(72)【発明者】
【氏名】末松 幸人
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-046100(JP,U)
【文献】特開昭64-006535(JP,A)
【文献】実開昭60-102743(JP,U)
【文献】特開2005-226751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 20/00
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル工事に用いられるワンタッチ固定式ロックボルトであって、
前記ワンタッチ固定式ロックボルトは、ロックボルト本体と、前記ロックボルト本体が挿通される筒状のロック部材とを備え、
前記ロック部材は、弾性材料からなり内部に収容空間を有して環状に延在しその中心に中心孔が貫通された筒状の弾性中空体と、前記収容空間に封入された磁性流体とを含んで構成され、
前記弾性中空体の直径方向の両側から前記弾性中空体を挟むように前記ロック部材に磁石を近づけると前記磁性流体が前記磁石の磁力によって前記弾性中空体の半径方向外側に広がり前記中心孔の内径が前記ロックボルト本体の外径よりも大きい寸法となり、かつ、前記弾性中空体の直径方向の両側から前記磁石を離すと前記弾性中空体は半径方向内側に縮まり前記中心孔の内径が前記ロックボルト本体の外径よりも小さい寸法となり、
前記中心孔の内径を前記ロックボルト本体の外径よりも大きい寸法にした状態で前記弾性中空体の前記中心孔に前記ロックボルト本体を挿通させ前記弾性中空体の直径方向の両側から前記磁石を離すと前記中心孔の内周面が前記ロックボルト本体の外周面に圧接される、
ことを特徴とするワンタッチ固定式ロックボルト。
【請求項2】
前記弾性中空体を構成する弾性材料はゴムである、
ことを特徴とする請求項記載のワンタッチ固定式ロックボルト。
【請求項3】
前記磁性流体は、磁性体微粒子を分散媒体に分散させたコロイド液で構成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載のワンタッチ固定式ロックボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル工事などに用いられて好適なワンタッチ固定式ロックボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、NATM工法で掘削される山岳トンネルでは、図4(A)に示すように、地山が掘削されることで形成された地山内面50にコンクリートC1が吹き付けられる。
その後、トンネルの周方向および長手方向に間隔をおいた複数箇所において、硬化状態のコンクリートC1の上から地山内面50に孔52が削孔され、各孔52にモルタルなどの定着材が注入される。
そして、各孔52にロックボルト54が挿入され、コンクリートC1から突出するロックボルト54の基部が、角型プレートや丸型プレートなどからなる鋼板製のベアリングプレート56の中心孔5602に挿通され、このベアリングプレート56をコンクリートC1の表面に当て付け、ロックボルト54の基部の雄ねじにナット58を螺合し、ナット58を締結してベアリングプレート56をコンクリートC1の表面に押し付けることで各ロックボルト54の設置作業が終了し、岩盤の固定作業がなされている。
その後、図4(B)に示すように、必要に応じて地山の水がトンネル内に侵入しないようにコンクリートC1の内面に防水シートが敷設され、この防水シートに対向させてコンクリート打設型枠が配置され、防水シートとコンクリート打設型枠の型枠面との間にコンクリートC2が打設されて覆工コンクリートが行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-167774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、支保工において、ロックボルト54の基部の雄ねじにナット58を螺合し、ナット58を回転させてベアリングプレート56をコンクリートC1の表面に押し付ける作業は、作業員が足場に乗って行なうことから無理な姿勢となる場合が多く、手間取る作業となっている。
また、ナット58を回転させる作業であるため時間が掛り、コンクリートC1が吹き付けられた岩盤付近に長時間いなければならないため、危険性を伴う作業となっている。
特に、トンネル断面が大きく、トンネルの長さが大きくなると、ロックボルト54の本数は数千、数万本の単位となり、ナット58の締結作業に多くの時間を要し、危険性も増大し、トンネル工事の施工期間を短縮化し、コストダウンを図る観点から何らかの改善が望まれていた。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、ナットの締結作業を省略し、ワンタッチでベアリングプレートをコンクリートの表面に押し付けることができ、危険性を減少する上で有利となり、トンネル工事の施工期間を短縮し、コストダウンを図る上で有利で、トンネル工事などに用いられて好適なワンタッチ固定式ロックボルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明は、ワンタッチ固定式ロックボルトであって、前記ワンタッチ固定式ロックボルトは、ロックボルト本体と、前記ロックボルト本体が挿通される筒状のロック部材とを備え、前記ロック部材は、弾性材料からなり内部に収容空間を有して環状に延在する中空状の弾性中空体と、前記収容空間に封入された磁性流体とを含んで構成され、前記ロック部材に磁石を近づけると前記磁性流体が前記磁石の磁力によって前記弾性中空体の半径方向外側に広がり前記中空体の内周面の内径が前記ロックボルト本体の外径よりも大きい寸法となり、かつ、前記磁石を離すと前記弾性中空体は半径方向内側に縮まり前記中空体の内周面の内径が前記ロックボルト本体の外径よりも小さい寸法となり前記内周面が前記ロックボルト本体の外周面に圧接されることを特徴とする。
また、本発明は、前記ロック部材から前記磁石を離した状態で、前記弾性中空体の軸心方向に沿った長さは前記弾性中空体の外径よりも大きい寸法で形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記弾性中空体を構成する弾性材料はゴムであることを特徴とする。
また、本発明は、前記磁性流体は磁性体微粒子を分散媒体に分散させたコロイド液で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のワンタッチ固定式ロックボルトによれば、例えば、磁石を指の部分に縫い付けた手袋を用意し、手袋によりロック部材を掴むと磁石の磁力によって磁性流体が引き寄せられることで弾性中空体の内周面が拡がる。そして、手袋でロック部材を掴んだままロックボルト本体をロック部材の内周面に挿通させ、ロック部材から手袋を離す。ロック部材から手袋を離すと、磁性流体に磁力が作用しなくなるので、弾性中空体は半径方向内側に縮まり、弾性中空体の内周面がロックボルト本体の外周面に圧接される。
したがって、トンネル支保工のうちロックボルト工では、従来のナットを回転していく手間取る作業を省略でき、ボルト本体に沿ってロック部材を移動させベアリングプレートに押し付けて離すというワンタッチ作業で済むため、ロックボルトの設置作業の効率化を図る上で有利となる。
また、ロックボルトの設置作業を短時間で行なうことができることから、トンネルの支保工工事では、コンクリートが吹き付けられた岩盤付近に短時間いれば足り、危険性を減少する上で有利となる。
また、短時間で地山を支保できるため、地山を早期に安定させる上で有利となる。
特に、本発明のワンタッチ固定式ロックボルトによれば、トンネル断面が大きく、トンネルの長さが大きくなり、ロックボルトの本数が数千、数万本の単位となった場合でも、ロックボルトの設置作業に要する時間を大幅に短縮でき、トンネル工事の施工期間を短縮化し、コストダウンを図る上で有利となる。
また、ロックボルトに、その外周部に凹凸形状が設けられた異形鉄筋などを用いた場合であっても、ロック部材は弾性変形可能な弾性材料からなる弾性中空体を含んで構成されているので、ロック部材は異形鉄筋などの表面の凹凸形状に追従して変形し、外周部に確実に圧接されるため、ロック部材をロックボルト本体の長手方向に移動不能に確実に取着する上で有利となる。
また、中心孔の縮径によりロック部材がロックボルト本体に取り付けられるため、従来のようにロックボルト本体に雄ねじを形成する必要がなくなり、鉄筋などをそのまま使用でき、トンネル工事などのコストダウンを図る上で有利となる。
また、本発明のワンタッチ固定式ロックボルトでは、弾性中空体の軸心方向に沿った長さを弾性中空体の外径よりも大きい寸法で形成しておくと、ロック部材を掴み易くなり、ロック部材の操作性を向上し、ロックボルトの設置作業をより簡単に行なう上で有利となる。
また、本発明のワンタッチ固定式ロックボルトでは、弾性中空体を構成する弾性材料としてゴムを用いると、ゴムはロックボルト本体に対する摩擦係数が大きいので、ロックボルト本体にその長手方向に移動不能にロック部材を確実に取り付ける上で有利となる。
また、本発明のワンタッチ固定式ロックボルトでは、弾性中空体の収容空間に封入される磁性流体を構成する磁性体微粒子としてマグネタイトを用いると、簡単に安価で入手できることからロック部材を簡単に製造でき、ロックボルトのコストダウンを図る上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(A)は磁力が作用していない状態のロック部材の正面図、(B)は同断面側面図、(C)は磁力が作用している状態のロック部材の正面図、(D)は同断面側面図である。
図2】(A)はロック部材にロックボルト本体を挿通させた状態を示す図、(B)はロック部材がロックボルト本体に移動不能に取着された状態を示す図である。
図3】本実施の形態のワンタッチ固定式ロックボルトを用いた支保工の説明図である。
図4】従来工法の説明図で(A)は支保工の説明図、(B)は覆工コンクリートの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
なお、従来の箇所、部材に同一の符号を付し、その説明を省略する。
図3に示すように、ワンタッチ固定式ロックボルト10は、コンクリートC1の上から地山内面50に削孔された孔52に挿入されるロックボルト本体14と、コンクリートC1からトンネル内に突出するロックボルト本体14の基部1402に結合されるロック部材16とを備えている。
なお、ロックボルト本体14の長手方向の一方の端部を先部1401と呼び、他方の端部を基部1402と呼ぶ。
ロックボルト本体14は鋼材製で、ロックボルト本体14には異形鉄筋や丸棒鉄筋が用いられ、本実施の形態では異径鉄筋が用いられている。
【0009】
図2に示すように、ロック部材16は、弾性中空体18と磁性流体20とを含んで構成されている。
弾性中空体18は、弾性材料からなり内部に収容空間1802を有して環状に延在し、その中心に中心孔1804が貫通した中空の筒状を呈している。
図1(B)に示すように、弾性中空体18の軸心方向に沿った長さLは、弾性中空体18の外径Dよりも大きい寸法で形成されている。
このような弾性材料として従来公知の様々な材料が採用可能であるが、ゴムを用いるとロックボルト本体14に対する摩擦係数が大きいので、ロックボルト本体14にその長手方向に移動不能に確実に取り付ける上で有利となる。
【0010】
磁性流体20は、収容空間1802に封入されている。
磁性流体20は、磁性を帯びた液体であり、磁石を近づけるとその磁力により磁石に吸い寄せられる性質を有している。
磁性流体20は、粒径が100~200オングストローム程度の磁性体微粒子を水や鉱油などの分散媒体に安定的に分散させたコロイド液で構成されている。このような磁性体微粒子としてマグネタイト、マンガン亜鉛フェライトなど従来公知の磁性体微粒子を用いることができる。
マグネタイトを用いると入手性、コストの点で有利となる。
ロック部材16は、本実施の形態では、磁性流体20に磁力を作用させない状態で、図1(A)、(B)に示すように、中心孔1804の内径がロックボルト本体14の外径よりも小さい寸法となり、中心孔1804の内周面がロックボルト本体14の外周面に圧接されるように形成されている。
また、図1(C)、(D)に示すように磁性流体20に磁力を作用させると、磁性流体20が磁力によって引き寄せられることで弾性中空体18の半径方向外側に広がり中心孔1804の内径がロックボルト本体14の外径よりも大きい寸法となるように形成されている。
【0011】
次に、本実施の形態のワンタッチ固定式ロックボルト10を用いたトンネル工事について説明する。
まず、本実施の形態のワンタッチ固定式ロックボルト10を使用するに際して、図2(A)、図3に示すように、指先に薄肉の板状の磁石32が縫い込まれた手袋34を用意する。
従来と同様に図3に示すように、地山が掘削されることで形成された地山内面50にコンクリートC1が吹き付けられることでトンネル支保工が行なわれ、トンネルの周方向および長手方向に間隔をおいた複数箇所において、半硬化状態のコンクリートC1の上から地山に孔52が削孔され、各孔52にモルタルなどの定着材が注入される。
次に、コンクリートC1の上から各孔52にロックボルト本体14が挿入され、次に、ロックボルト本体14の基部1402をベアリングプレート56の中心孔5602に挿通させ、ベアリングプレート56をワンタッチ固定式ロックボルト10の基部1402に配置する。
【0012】
ベアリングプレート56が配置されたならば、手袋34によりロック部材16を掴む。
手袋34によりロック部材16を掴むと、図2(A)に示すように、磁性流体20に磁石32の磁力が作用し、磁性流体20は弾性中空体18の半径方向外側に広がり中心孔1804の内径がロックボルト本体14の外径よりも大きい寸法となる。
そして、手袋34によりロック部材16を掴んだ状態で、中心孔1804にロックボルト本体14の基部1402を挿通させ、ロック部材16をロックボルトの先部1401側に移動させ、ロック部材16をベアリングプレート56に押し付け、ロック部材16を介してベアリングプレート56をコンクリートC1に押し付けたならば、ロック部材16から手袋34を離す。
ロック部材16から手袋34を離すと、磁性流体20に磁力が作用しない状態となり、図2(B)に示すように、中心孔1804の内径がロックボルト本体14の外径よりも小さい寸法となり、中心孔1804の内周面がロックボルト本体14の外周面に圧接され、ロック部材16は、ベアリングプレート56をコンクリートC1に押し付けた状態で、ロックボルト本体14の基部に移動不能に取着される。
【0013】
したがって、本実施の形態のワンタッチ固定式ロックボルト10によれば、単にロック部材16を基部1402に沿ってロックボルト本体14の先部1401に向けて移動させベアリングプレート56に押し付けて離すというワンタッチ作業で済むため、従来のロックボルト54の基部の雄ねじにナット58を螺合し、ナット58を回転していく手間取る作業に比べて短時間でベアリングプレート56をコンクリートC1の表面に押し付ける作業を行なえ、ロックボルトの設置作業の効率化を図る上で有利となる。
また、ロックボルトの設置作業を短時間で行なうことができることから、コンクリートC1が吹き付けられた岩盤付近に短時間いれば足り、危険性を減少する上で有利となる。
また、短時間で地山を支保できるため、地山を早期に安定させる上で有利となる。
特に、本実施の形態のワンタッチ固定式ロックボルト10によれば、トンネル断面が大きく、トンネルの長さが大きくなり、ロックボルトの本数が数千、数万本の単位となった場合でも、ロックボルトの設置作業に要する時間を大幅に短縮でき、トンネル工事の施工期間を短縮化し、コストダウンを図る上で有利となる。
また、ロックボルト本体14に、その外周部に凹凸形状が設けられた異形鉄筋などを用いた場合であっても、ロック部材16は弾性変形可能な弾性材料からなる弾性中空体18を含んで構成されているので、ロック部材16は異形鉄筋などの表面の凹凸形状に追従して変形し、外周部に確実に圧接されるため、ロック部材16をロックボルト本体14の長手方向に移動不能に確実に取着する上で有利となる。
また、中心孔1804の縮径によりロック部材16がロックボルト本体14に取り付けられるため、従来のようにロックボルト本体14に雄ねじを形成する必要がなくなり、鉄筋や鋼棒などをそのまま使用でき、トンネル工事のコストダウンを図る上で有利となる。
【0014】
また、本実施の形態のワンタッチ固定式ロックボルト10によれば、弾性中空体18の軸心方向に沿った長さLが弾性中空体18の外径Dよりも大きい寸法で形成されているので、ロック部材16を掴み易くなり、ロック部材16の操作性を向上し、ロックボルトの設置作業をより簡単に行なう上で有利となる。
また、弾性中空体18を構成する弾性材料としてゴムを用いると、ゴムはロックボルト本体14に対する摩擦係数が大きいので、ロックボルト本体14にその長手方向に移動不能にロック部材16を確実に取り付ける上で有利となる。
また、弾性中空体18の収容空間1802に封入される磁性流体20を構成する磁性体微粒子としてマグネタイトを用いると、簡単に安価で入手できることからロック部材16を簡単に製造でき、ワンタッチ固定式ロックボルト10のコストダウンを図る上で有利となる。
【0015】
なお、本実施の形態では、ワンタッチ固定式ロックボルト10がトンネル工事に用いられる場合について説明したが、ワンタッチ固定式ロックボルト10の用途はトンネル工事に限定されず、従来公知の様々な用途に適用される。
【符号の説明】
【0016】
10 ワンタッチ固定式ロックボルト
14 ロックボルト本体
1401 先部
1402 基部
16 ロック部材
18 弾性中空体
1802 収容空間
1804 中心孔
20 磁性流体
32 磁石
34 手袋
50 地山内面
52 孔
54 ロックボルト
56 ベアリングプレート
5602 中心孔
58 ナット
図1
図2
図3
図4