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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-02
(45)【発行日】2023-11-13
(54)【発明の名称】粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 7/06 20060101AFI20231106BHJP
   H05H 7/08 20060101ALI20231106BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20231106BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20231106BHJP
   H01J 49/20 20060101ALI20231106BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20231106BHJP
【FI】
H05H7/06
H05H7/08
G21K5/04 A
H01J37/147 D
H01J49/20
H01J37/244
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020047850
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021150125
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】戸内 豊
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/097904(WO,A1)
【文献】特開2019-139943(JP,A)
【文献】特開2014-154250(JP,A)
【文献】特開2014-207131(JP,A)
【文献】米国特許第6774378(US,B1)
【文献】特開2018-073639(JP,A)
【文献】特開2015-084886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00 - 15/00
G21K 1/00 - 3/00
5/00 - 7/00
H01J 27/00 - 27/26
37/00 - 37/36
H01J 49/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにイオン種が異なる複数のイオン源からのそれぞれのイオンビームが導入可能であり、前記イオンビームのうちの一つを磁場強度の切替えによって選択的に下流側の装置に出射可能な電磁石を備え、
前記電磁石は、
前記下流側の装置に出射すべき前記イオンビームを前記下流側の装置に向けて偏向する偏向機能と、当該イオンビームに混入している異種のビームの前記下流側の装置への出射を低減する分析機能と、を有し、
記イオンビームのうちの一つが入射され当該イオンビームのビーム電流を測定可能な電流測定装置を備え、
前記下流側の装置に向かう前記イオンビームとは別の方向に向けて前記電磁石によって偏向された前記イオンビームの一つは、前記電流測定装置に入射される、粒子線装置。
【請求項2】
互いにイオン種が異なる複数のイオン源からのそれぞれのイオンビームが導入可能であり、前記イオンビームのうちの一つを磁場強度の切替えによって選択的に下流側の装置に出射可能な電磁石を備え、
前記電磁石は、
前記下流側の装置に出射すべき前記イオンビームを前記下流側の装置に向けて偏向する偏向機能と、当該イオンビームに混入している異種のビームの前記下流側の装置への出射を低減する分析機能と、を有し、
前記電磁石に導入された前記イオンビームのうちの一つが入射され当該イオンビームのビーム電流を測定可能な電流測定装置を備え、
前記下流側の装置に向かう前記イオンビームとは別の前記イオンビームの一つは、前記電流測定装置に入射され、
前記電流測定装置は前記電磁石の内部に設置されている、粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の粒子線装置として、例えば下記特許文献1に記載のものが知られている。この粒子線装置はビーム加速装置に2種類のイオンビームを供給可能とすべく、2つのイオン源を備えている。各イオン源からの2つのビーム搬送路が電磁石で合流しており、当該電磁石から更に下流側にビーム輸送路が延び、当該ビーム輸送路の下流端にビーム加速装置が配置されている。各イオン源と電磁石との間にはビーム輸送路上にそれぞれ偏向電磁石が存在しており、イオン源からのイオンビームはこの偏向電磁石によって約90°偏向されて、合流部の電磁石に輸送されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】G.Balbinot et al., BEAM DIAGNOSTICSIN THE CNAO INJECTION LINES COMMISSIONING, Proceedings of DIPAC09, Basel,Switzerland, p119-121.
【文献】Tim Winkelmann et al., LONG-TERMOPERATION EXPERIENCE WITH TWO ECRION SOURCES AND PLANNED EXTENSIONS AT HIT, Proceedingsof ECRIS2010, Grenoble, France, p153-155.
【文献】T.Winkelmann et al., INTEGRATION OFA THIRD ION SOURCE FOR HEAVY ION RADIOTHERAPY AT HIT, Proceedings of ECRIS2012,Sydney, Australia, p46-48.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の粒子線装置が設置される施設においては、設置スペースに制約がある場合も多いため、粒子線装置の小型化が望まれていた。また、この種の粒子線装置の低コスト化も望まれていた。本発明は、小型化及び低コスト化を図ることができる粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の粒子線装置は、互いにイオン種が異なる複数のイオン源からのそれぞれのイオンビームが導入可能であり、イオンビームのうちの一つを磁場強度の切替えによって選択的に下流側の装置に出射可能な電磁石を備え、電磁石は、下流側の装置に出射すべきイオンビームを下流側の装置に向けて偏向する偏向機能と、当該イオンビームに混入している異種のビームの下流側の装置への出射を低減する分析機能と、を有する。
【0006】
本発明の粒子線装置は、電磁石に導入されたイオンビームのうちの一つが入射され当該イオンビームのビーム電流を測定可能な電流測定装置を備え、下流側の装置に向かうイオンビームとは別のイオンビームの一つは、電流測定装置に入射されることとしてもよい。また、電流測定装置は電磁石の内部に設置されていてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小型化及び低コスト化を図ることができる粒子線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】粒子線装置を示す平面図である。
図2】(a)は、第1状態における偏向電磁石近傍を模式的に示す図であり、(b)は、第2状態における偏向電磁石近傍を模式的に示す図である。
図3】変形例に係る粒子線装置の偏向電磁石近傍を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明に係る粒子線装置1について詳細に説明する。以下では、各図に示すようにXYZ直交座標系を設定し、X,Y,Zを各部の位置関係の説明に用いる場合がある。
【0010】
図1に示される粒子線装置1は、例えば粒子線治療装置に用いられ、粒子線治療装置のビーム加速装置3に対してイオンビームを供給する装置である。ビーム加速装置3は、例えばRFQ(radio-frequency quadrupole)等の直線加速器である。粒子線装置1から供給されビーム加速装置3で加速された上記イオンビームが粒子線治療装置の本体部(図示せず)に輸送される。本体部においては上記イオンビームが治療対象の患者に照射されることで粒子線治療が実行される。粒子線装置1は、第1イオン源11と第2イオン源12といった2つのイオン源と、偏向電磁石15と、ビーム診断装置17(電流測定装置)と、ビーム輸送系(LEBT:Law Energy Beam Transport)19と、を備えている。
【0011】
第1イオン源11及び第2イオン源12は、イオンを生成する装置であり、例えばECRイオン源である。第1イオン源11と第2イオン源12とは、互いに異なるイオンを発生させる。本実施形態においては、第1イオン源11が発生するイオンと第2イオン源12が発生するイオンとの電荷の正負は同じであるものとする。本実施形態では、第1イオン源11がC4+を発生させ、第2イオン源12がHe2+(α粒子)を発生させる場合を例として説明する。
【0012】
図1に示されるように、第1イオン源11、偏向電磁石15、及び第2イオン源12は、この順でY方向に配列されており、すなわち、偏向電磁石15は、第1イオン源11と第2イオン源12との間にY方向に挟まれて配置されている。第1イオン源11と第2イオン源12とは互いに対向する方向にそれぞれイオンビームを出射し、各イオンビームは偏向電磁石15に導入される。具体的には、第1イオン源11は+Y方向に向けてイオンビームB1(以下「第1イオンビームB1」という)を出射し、当該第1イオンビームB1は偏向電磁石15に入射する。また、第2イオン源12は-Y方向に向けてイオンビームB2(以下「第2イオンビームB2」という)を出射し、当該第2イオンビームB2は偏向電磁石15に入射する。ここでは、第1イオン源11と第2イオン源12とが同時に運転され、第1イオンビームB1と第2イオンビームB2とが両方とも同時に偏向電磁石15に入射している。
【0013】
なお、第1イオン源11から偏向電磁石15までの間には、第1イオンビームB1を磁場によって収束するビーム収束装置を設ける必要はない。従って、第1イオン源11のビーム出射ノズル11aが偏向電磁石15の筐体15hに直接接続されている。同様に、第2イオン源12から偏向電磁石15までの間には、第2イオンビームB2を磁場によって収束するビーム収束装置を設ける必要はなく、第2イオン源12のビーム出射ノズル12aが偏向電磁石15の筐体15hに直接接続されている。
【0014】
偏向電磁石15は、Z方向に間隔を空けて対面する一対の磁極15a,15bと、磁極15a,15bを収容し内部が真空引きされる筐体15hと、を備えている。偏向電磁石15では、磁極15aのコイル(図示せず)と磁極15bのコイル(図示せず)とに電流が供給されることで、磁極15aと磁極15bとの間隙に磁場が形成される。第1イオンビームB1及び第2イオンビームB2は、磁極15aと磁極15bとの間隙に導入され、上記の磁場を通過することで偏向される。このような偏向電磁石15の磁場強度(磁極15aと磁極15bとの間の磁場強度)が適切に調整されることで、第1イオンビームB1又は第2イオンビームB2のうちの一方は下流側の装置であるビーム輸送系19に向けて偏向され、他方はビーム診断装置17に向けて偏向される状態となる(図2(a),(b)参照)。
【0015】
図2(a),(b)に示されるように、偏向電磁石15の磁極15aと磁極15bとは、同一形状でZ方向に重なっている。磁極15a,15bは、Z方向から見て6角形をなしており、当該6角形の6辺のうちの4辺に対応するエッジ16p,16q,16r,16sを有している。第1イオンビームB1はエッジ16pを横切って偏向電磁石15に導入され、第2イオンビームB2はエッジ16qを横切って偏向電磁石15に導入される。また、第1イオンビームB1又は第2イオンビームB2のうちのビーム輸送系19に向けて偏向された一方は、エッジ16rを横切って偏向電磁石15から出射され、ビーム診断装置17に向けて偏向された他方はエッジ16sを横切って偏向電磁石15から出射される。エッジ16r,16sは、Y方向に延びるエッジである。エッジ16pはX方向に対して傾斜しており、偏向電磁石15に導入される第1イオンビームB1はエッジ16pを斜めに横切る。同様にエッジ16qもX方向に対して傾斜しており、偏向電磁石15に導入される第2イオンビームB2はエッジ16qを斜めに横切る。このように第1イオンビームB1及び第2イオンビームB2が偏向電磁石15のエッジ16p,16qを斜めに横切ることにより、第1イオンビームB1及び第2イオンビームB2が収束される。
【0016】
図1に示されるように、ビーム診断装置17、偏向電磁石15、及びビーム輸送系19は、この順でX方向に配列されており、すなわち、偏向電磁石15は、ビーム診断装置17とビーム輸送系19との間にX方向に挟まれて配置されている。ビーム輸送系19は、偏向電磁石15から+X方向に出射されたイオンビーム(第1イオンビームB1又は第2イオンビームB2の一方)をビーム加速装置3まで輸送する。ビーム輸送系19は、イオンビームを収束させる静電四極電磁石19aを3つ含んで構成されている。
【0017】
ビーム診断装置17には、偏向電磁石15から-X方向に出射されたイオンビーム(第1イオンビームB1又は第2イオンビームB2の他方)が入射され、当該イオンビームのビーム電流がビーム診断装置17によって測定される。なお、ビーム診断装置17は、上記イオンビームのビームプロファイルを更に測定可能であってもよい。
【0018】
上記の構成の粒子線装置1では、第1イオンビームB1又は第2イオンビームB2の何れか所望の一方を選択的にビーム加速装置3に供給し、粒子線治療に使用することができる。このように、ビーム加速装置3に対して、第1イオンビームB1を供給する粒子線装置1の状態(以下、「第1状態」という)と、第2イオンビームB2を供給する粒子線装置1の状態(以下「第2状態」という)と切替えるための仕組みについて、以下説明する。図2(a)は、粒子線装置1の第1状態における偏向電磁石15近傍を模式的に示す図であり、図2(b)は、粒子線装置1の第2状態における偏向電磁石15近傍を模式的に示す図である。
【0019】
(第1状態)
図2(a)に示されるように、第1状態においては、第1イオンビームB1は、第1イオン源11のビーム出射ノズル11aから+Y方向に出射され、偏向電磁石15に導入される。そして、第1イオンビームB1は、偏向電磁石15の磁場により進行方向に直交する方向のローレンツ力を受けて曲がり、最終的には、偏向電磁石15から+X方向に出射されビーム輸送系19に出射される(偏向電磁石15の偏向機能)。
【0020】
上記のような第1イオンビームB1が曲がる方向や曲率は、偏向電磁石15の磁場強度(磁極15aと磁極15bとの間の磁場強度)に依存するので、偏向電磁石15の磁場強度を適切に設定することにより、第1イオンビームB1がビーム輸送系19に出射されるようにすることができる。すなわち、第1イオンビームB1(C4+ビーム)が偏向電磁石15においてビーム輸送系19側に90°偏向されるように、磁場強度が設定されればよい。なお、ビーム輸送系19に入射した第1イオンビームB1は、前述したようにビーム加速装置3を通過して粒子線治療に供される。
【0021】
その一方、この第1状態において、第2イオンビームB2は、第2イオン源12のビーム出射ノズル12aから-Y方向に出射され、偏向電磁石15に導入される。そして、第2イオンビームB2は、偏向電磁石15の磁場により進行方向に直交する方向のローレンツ力を受けて曲がり、最終的には、偏向電磁石15から-X方向に出射されビーム診断装置17に出射される。ビーム診断装置17では、第2イオンビームB2のビーム電流が測定される。
【0022】
(第2状態)
図2(b)に示されるように、第2状態においては、第1イオンビームB1及び第2イオンビームB2に対して第1状態とは逆のローレンツ力が作用し、第2イオンビームB2がビーム輸送系19に出射され、第1イオンビームB1がビーム診断装置17に出射される。ビーム輸送系19に入射した第2イオンビームB2は、前述したようにビーム加速装置3を通過して粒子線治療に供され、ビーム診断装置17では、第1イオンビームB1のビーム電流が測定される。このような第2状態を実現するためには、第2イオンビームB2(He2+ビーム)が偏向電磁石15においてビーム輸送系19側に90°偏向されるように、偏向電磁石15の磁場強度が設定されればよい。
【0023】
(第1状態と第2状態との切替え)
上記のような第1状態と第2状態との切替えは、偏向電磁石15の磁場強度の切替えによって実行することができる。この磁場強度の切替えには、磁極15aと磁極15bとの極性の反転も含まれる。このような偏向電磁石15の磁場強度の切替えは、具体的には、磁極15aのコイル(図示せず)と磁極15bのコイル(図示せず)への供給電流の切替えによって実現される。
【0024】
(偏向電磁石15の分析機能)
偏向電磁石15は、前述のような偏向機能に加えて、分析機能を有する。分析機能とは、ビーム輸送系19に送出すべきイオンビームに混入している異種のビームのビーム輸送系19への出射を低減する機能である。例えば、第1イオン源11では、必要とされるC4+ビームの他に、C2+ビーム、C3+ビーム、C5+ビーム、窒素イオンビーム、酸素イオンビーム、水素イオンビーム等の異種のビームも一緒に発生し、これらがC4+ビームと一緒に偏向電磁石15に導入される。
【0025】
第1状態においては、前述のとおり、C4+ビームがビーム輸送系19側に90°偏向されるように偏向電磁石15の磁場強度が設定されている。この磁場強度においては、上記のような異種のビームは、質量や電荷の相違に起因してC4+ビームとは異なる曲率で曲がるので、偏向電磁石15の筐体15h等に衝突するなどして、ビーム輸送系19にはほとんど出射されない。このような分析機能を偏向電磁石15が発揮することにより、ビーム加速装置3に送出される異種のビームが低減される。また、分析機能を偏向電磁石15が発揮することにより、第1イオン源11と偏向電磁石15との間に分析機能をもつ装置(例えば、別の偏向電磁石)を別途設置する必要がなく、第1イオン源11と偏向電磁石15とを直接接続することができる。
【0026】
ここでは、第1状態で発揮される分析機能を例として説明したが、第2状態で発揮される分析機能も同様である。すなわち、第2イオン源12では、必要とされるHe2+ビームの他に、窒素イオンビーム、酸素イオンビーム、水素イオンビーム等の異種のビームも一緒に発生し、第2状態では、これらの異種のビームがHe2+ビームと一緒に偏向電磁石15に導入されるところ、上記と同様に偏向電磁石15の分析機能が発揮され、ビーム加速装置3に送出される異種のビームが低減される。
【0027】
また、第1状態においては、偏向電磁石15の磁場強度が第1イオンビームB1(C4+ビーム)を90°偏向させるものであるので、この磁場強度では、第2イオンビームB2(He2+ビーム)の偏向は90°とは異なる。従って、第1状態においては、第2イオンビームB2が完全に-X方向でビーム診断装置17の中央位置に入射しない。同様の理由で、第2状態においては、第1イオンビームB1が完全に-X方向でビーム診断装置17の中央位置に入射しない。。すなわち、第1状態の第2イオンビームB2と第2状態の第1イオンビームB1とのビーム診断装置17への入射位置がY方向に異なる。従って、第1状態の第2イオンビームB2と第2状態の第1イオンビームB1とが両方ともビーム診断装置17に入射するように、ビーム診断装置17のビーム入射口のY方向寸法が設定されている。
【0028】
なお、第1状態の第2イオンビームB2と第2状態の第1イオンビームB1とを両方ともビーム診断装置17に入射させるための他の構成としては、図3に示されるように、ビーム診断装置17が偏向電磁石15の内部に設置されてもよい。この場合のビーム診断装置17は、磁極15aと磁極15bとの間にZ方向に挟まれて位置する。この場合、図2の構成に比較して、ビーム診断装置17のビーム入射口のY方向寸法を小さくすることができる。
【0029】
続いて、粒子線装置1による作用効果について説明する。
【0030】
粒子線装置1では、偏向電磁石15には、複数のイオン源(第1イオン源11及び第2イオン源12)からそれぞれのイオンビーム(第1イオンビームB1及び第2イオンビームB2)が導入可能である。そして、偏向電磁石15の磁場密度の切替えによって、複数のイオンビーム(第1イオン源11又は第2イオン源12)の何れかが選択的にビーム輸送系19に出射される。このとき、偏向電磁石15は、ビーム輸送系19に出射すべきイオンビームを当該ビーム輸送系19に向けて偏向する偏向機能を発揮する。また、偏向電磁石15は、ビーム輸送系19に出射すべきイオンビームに混入している異種のビームのビーム輸送系19への出射を低減する分析機能を発揮する。
【0031】
偏向電磁石15の磁場密度の切替えによってイオン種が異なる複数のイオンビームを切替えてビーム輸送系19に送出することができるので、ビーム輸送系19からビーム下流側の部品を共通化し、複数種類のイオンビームを選択的に切替えながら粒子線治療に供することができる。また、上記のようなイオンビームの切替えを、偏向電磁石15の磁場密度の切替えによって短時間で実行することができる。また、偏向電磁石15が分析機能を発揮するので、ビーム輸送系19を通じて下流側に送出される異種のビームが低減される。また、分析機能を偏向電磁石15が発揮することにより、第1イオン源11と偏向電磁石15との間、及び第2イオン源12と偏向電磁石15との間に分析機能をもつ装置(例えば、別の偏向電磁石)を別途設置する必要がない。そして、第1イオン源11と偏向電磁石15とを直接接続し、第2イオン源12と偏向電磁石15とを直接接続することにより、粒子線装置1を小型化することができる。また、第1イオン源11と偏向電磁石15との間、及び第2イオン源12と偏向電磁石15との間の装置が省略され粒子線装置1の低コスト化が図られる。
【0032】
また、イオン源(第1イオン源11及び第2イオン源12)と偏向電磁石15とが直接接続され、イオン源から偏向電磁石15までのビーム輸送ルートが短くなる。そうすると、イオン源から偏向電磁石15までにおけるイオンビーム(第1イオンビームB1及び第2イオンビームB2)の拡散が小さくなるので、当該ビーム輸送ルート上に設置が必要なビーム収束マグネットが削減可能であり、粒子線装置1の低コスト化が図られる。
【0033】
また、粒子線治療に供されるイオンビームとは別のイオンビームがビーム診断装置17に入射し、当該イオンビームのビーム電流等の情報を得ることができる。このように、イオンビームが、粒子線治療に使用されないときにビーム電流等を測定することができる。そして、ビーム電流等の情報を得るために、例えば、イオンビームの軌道上にビーム診断装置を挿入・抜去する機械駆動機構等を構築してもよいが、この機械駆動機構等を省略することにより粒子線装置1の低コスト化が図られてもよい。
【0034】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、実施例の変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0035】
例えば、粒子線装置がビーム診断装置17を備えることは必須ではなく、例えば、ビーム診断装置17に代えてビームストッパが設置されてもよい。また、実施形態では、偏向電磁石15への、第1イオンビームB1の入射方向と第2イオンビームB2の入射方向とが、互いに対向しているが、これらの入射方向は所定の角度で交差するものであってもよい。また、実施形態では、第1イオン源11と第2イオン源12とが同時に運転されているが、一方のイオン源が粒子線治療に供されるときに、他方のイオン源の運転は停止されていてもよい。
【0036】
また、実施形態では、偏向電磁石15にイオンビームを導入するイオン源が2つ(第1イオン源11及び第2イオン源12)存在するが、このようなイオン源が3つ以上存在してもよい。また、実施形態では粒子線装置1で取扱われる第1イオンビームB1及び第2イオンビームB2が、C4+ビーム及びHe2+ビームである例を説明したが、これには限定されず、例えば、第1イオンビームB1又は第2イオンビームB2は、H,H ,He2+,C4+等であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…粒子線装置、11…第1イオン源、12…第2イオン源、15…偏向電磁石、17…ビーム診断装置(電流測定装置)、19…ビーム輸送系(下流側の装置)、B1…第1イオンビーム、B2…第2イオンビーム。
図1
図2
図3